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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1386982
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-14 
確定日 2022-07-21 
事件の表示 特願2016− 31028「蓄電デバイス用外装材、及び当該外装材を用いた蓄電デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日出願公開、特開2017−152092〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年2月22日の出願であって、令和1年12月26日付け拒絶理由通知に対する応答時、令和2年3月3日に手続補正がなされ、同年8月27日付け最後の拒絶理由通知に対する応答時、同年10月23日に手続補正がなされたが、当該手続補正について令和3年3月19日付けで補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して、同年6月14日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

第2 令和3年6月14日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
令和3年6月14日の手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
令和3年6月14日の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前には、
「【請求項1】
少なくとも基材層、金属箔層、接着樹脂層及び熱融着樹脂層をこの順序で備えた蓄電デバイス用外装材であって、
前記金属箔層の引張試験(JIS Z2241 引張速度25mm/分、試料JIS Z2201 13B)による引張強さが300MPa以上800MPa以下であり、
前記接着樹脂層の厚さと前記熱融着樹脂層の厚さの和が20μm以上80μm以下であり、
前記熱融着樹脂層と前記金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さが15N/15mm以上30N/15mm以下であり、
前記金属箔層が厚さ10〜40μmのアルミニウム箔である外装材。」

とあったものが、

「【請求項1】
少なくとも基材層、金属箔層、接着樹脂層及び熱融着樹脂層をこの順序で備えた蓄電デバイス用外装材であって、
前記金属箔層の引張試験(JIS Z2241 引張速度25mm/分、試料JIS Z2201 13B)による引張強さが300MPa以上800MPa以下であり、
前記接着樹脂層の厚さと前記熱融着樹脂層の厚さの和が20μm以上45μm以下であり、
前記熱融着樹脂層と前記金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さが18N/15mm以上25N/15mm以下であり、
前記金属箔層が厚さ10〜40μmであり且つ前記熱融着樹脂層側の表面に腐食防止機能を有する厚さ5nm以上200nm以下の被膜が形成されているアルミニウム箔である外装材。」
と補正された(下線部は補正箇所を示す。)。

2.補正の適否
上記補正は、
(a)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「接着樹脂層の厚さと熱融着樹脂層の厚さの和」の範囲について、上限値を「80μm」から「45μm」に補正してより狭い範囲に限定し、
(b)同じく補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「熱融着樹脂層と金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さ」の範囲について、下限値を「15N/15mm」から「18N/15mm」に補正するとともに、上限値を「30N/15mm」から「25N/15mm」に補正してより狭い範囲に限定し、
(c)同じく補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「アルミニウム箔」について、「熱融着樹脂層側の表面に腐食防止機能を有する厚さ5nm以上200nm以下の被膜が形成されている」ことの限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、上記補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下に検討する。

(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2015−165476号公報(以下、「引用例」という。)には、「電池用包装材料」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
ア.「【0003】
一方、近年、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、パソコン、カメラ、携帯電話等の高性能化に伴い、電池には、多様な形状が要求されると共に、薄型化や軽量化が求められている。しかしながら、従来多用されていた金属製の電池用包装材料では、形状の多様化に追従することが困難であり、しかも軽量化にも限界があるという欠点がある。
【0004】
そこで、近年、多様な形状に加工が容易で、薄型化や軽量化を実現し得る電池用包装材料として、基材/金属層/シーラント層が順次積層されたフィルム状の積層体が提案されている。しかしながら、このようなフィルム状の包装材料は、金属製の包装材料に比べて薄く、成形時にピンホールやクラックが生じ易いという欠点がある。電池用包装材料にピンホールやクラックが生じた場合には、電解液が金属層にまで浸透して金属析出物を形成し、その結果、短絡を生じさせることになりかねないため、フィルム状の電池用包装材料には、成形時にピンホールが生じ難い特性、即ち優れた成形性を備えさせることは不可欠となっている。」

イ.「【0015】
1.電池用包装材料の積層構造
電池用包装材料は、図1に示すように、少なくとも、基材層1、金属層3、及びシーラント層4が順次積層された積層体からなる。本発明の電池用包装材料において、基材層1が最外層になり、シーラント層4は最内層になる。即ち、電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置するシーラント層4同士が熱溶着して電池素子を密封することにより、電池素子が封止される。
【0016】
本発明の電池用包装材料は、図1に示すように、基材層1と金属層3との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着層2が設けられていてもよい。また、図2に示すように、金属層3とシーラント層4との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着層5が設けられていてもよい。」

ウ.「【0032】
金属層3を構成する金属としては、具体的には、アルミニウム、ステンレス鋼、チタンなどが挙げられ、好ましくはアルミニウム及びステンレス鋼が挙げられる。
・・・・(中 略)・・・・
【0037】
また、金属層3は、接着の安定化、溶解や腐食の防止などのために、少なくとも一方の面、好ましくは両面が化成処理されていることが好ましい。ここで、化成処理とは、金属層の表面に耐酸性皮膜を形成する処理をいう。化成処理としては、例えば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロムなどのクロム酸化合物を用いたクロム酸クロメート処理;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸などのリン酸化合物を用いたリン酸クロメート処理;下記一般式(1)〜(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体を用いたクロメート処理などが挙げられる。
・・・・(中 略)・・・・
【0043】
また、金属層3に耐食性を付与する化成処理方法として、リン酸中に、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズなどの金属酸化物や硫酸バリウムの微粒子を分散させたものをコーティングし、150℃以上で焼付け処理を行うことにより、金属層3の表面に耐食処理層を形成する方法が挙げられる。・・・・(以下、略)」

エ.「【0055】
また、シーラント層4の厚さとしては、適宜選定することができるが、10〜100μm程度、好ましくは15〜50μm程度が挙げられる。
・・・・(中 略)・・・・
【0058】
接着層5の厚さについては、例えば、2〜50μm、好ましくは20〜30μmが挙げられる。」

オ.「【0067】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0068】
<電池用包装材料の製造>
基材層1/接着層2/金属層3が順に積層された積層体に対して、サーマルラミネート法で接着層5及びシーラント層4を積層させることにより、基材層1/接着層2/金属層3/接着層5/シーラント層4が順に積層された積層体からなる電池用包装材料を製造した。電池用包装材料の具体的な製造条件は、以下に示す通りである。
【0069】
実施例1−6及び比較例1,2においては、基材層1を構成する樹脂フィルム(厚み25μm)及び金属層2(40μm)として、後述のものを用いた。なお、アルミニウム箔は、フェノール樹脂、フッ化クロム化合物(三価)、及びリン酸からなる処理液をロールコート法により金属層の両面に、厚さ35μm塗布し、皮膜温度が180℃以上となる条件で20秒間焼付けすることにより化成処理した。
【0070】
まず、基材層1/接着層2/金属層3が順に積層された積層体を作製した。具体的には、基材層1の一方面(コロナ処理面)に、ポリエステル系の主剤とイソシア系硬化剤の2液型ウレタン接着剤からなる接着層2を3μmとなるように形成し、金属層3の化成処理面と加圧加熱貼合し基材層1/接着層2/金属層3が順に積層された積層体を作製した。
【0071】
また、別途、接着層5を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂〔不飽和カルボン酸でグラフト変性した不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン(以下、PPaと呼称する)と、シーラント層4を構成するポリプロピレン〔ランダムコポリマー(以下、PPと呼称する)〕を共押出しすることにより、厚さ23μmの接着層5と厚さ23μmのシーラント層4からなる2層共押出しフィルムを作製した。
【0072】
次いで、前記で作製した基材層1/接着層2/金属層3からなる積層体の金属層に、前記で作製した2層共押出しフィルムの接着層5が接するように重ねあわせ、金属層3が120℃となるように加熱してサーマルラミネーションを行うことにより、基材層1/接着層2/金属層3/接着層5/シーラント層4が順に積層された積層体を得た。得られた積層体を一旦冷却した後に、180℃になるまで加熱し、1分間その温度を保持して熱処理を施すことにより、実施例1−6及び比較例1,2の電池用包装材料を得た。
・・・・(中 略)・・・・
【0075】
<実施例2>
基材層1…2軸延伸ナイロン樹脂
金属層3…アルミニウム箔(r値=0.94、東洋アルミニウム株式会社製、A3004)、アルミニウム箔に含まれるAl以外の成分:Si含有量0.30質量%、Fe含有量0.70質量%、Cu含有量0.25質量%、Mn含有量1.0−1.5質量%、Mg含有量0.8−1.3質量%、Zn含有量0.25質量%」

カ.「【図2】



上記「ア.」ないし「カ.」から以下のことがいえる。
・上記引用例に記載の「電池用包装材料」は、上記「イ.」、「オ.」の記載、及び「カ.」(図2)によれば、基材層1/接着層2/金属層3/接着層5/シーラント層4がこの順に積層された積層体からなる電池用包装材料に関するものである。
・上記「イ.」の記載によれば、電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置するシーラント層4同士が熱融着して電池素子を密封するようにしてなるものである。
・上記「ウ.」、「オ.」の記載によれば、金属層3を構成する金属としては、好ましくはアルミニウムが挙げられ、実施例1−6では、厚さ40μmのアルミニウム箔が用いられ、特に実施例2ではアルミニウム箔(A3004)が用いられてなるものである。また、金属層3の両面には、接着の安定化、溶解や腐食の防止のために化成処理がなされ、その表面に耐酸性皮膜が形成されてなるものである。
・上記「エ.」、「オ.」の記載によれば、接着層5としては、厚さが好ましくは20〜30μmであり、実施例1−6では、厚さ23μmの酸変性ポリプロピレン樹脂が用いられてなるものである。また、シーラント層4としては、厚さが好ましくは15〜50μm程度であり、実施例1−6では、厚さ23μmのポリプロピレンが用いられてなるものである。

以上のことから、特に実施例2に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「基材層/接着層/金属層/接着層/シーラント層がこの順に積層された積層体からなり、電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置する前記シーラント層同士が熱融着して電池素子を密封するようにしてなる、電池用包装材料であって、
前記接着層は、厚さ23μmの酸変性ポリプロピレン樹脂が用いられ、また、前記シーラント層は、厚さ23μmのポリプロピレンが用いられてなり、
前記金属層は、厚さ40μmのアルミニウム箔(A3004)が用いられ、その両面には、接着の安定化、溶解や腐食の防止のために化成処理がなされて耐酸性皮膜が形成されてなる、電池用包装材料。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア.蓄電デバイス用外装材の各層等について
引用発明の積層体における「基材層」は、本願補正発明でいう「基材層」に相当する。
引用発明の積層体における「金属層」は、アルミニウム箔が用いられることから、本願補正発明でいう「金属箔層」に相当する。
引用発明の積層体における「接着層」は、酸変性ポリプロピレン樹脂が用いられることから、本願補正発明でいう「接着樹脂層」に相当する。
引用発明の積層体における「シーラント層」は、樹脂であるポリプロピレンが用いられ、当該シーラント層同士の熱融着により電池素子を密封するようにしてなるものであることから、本願補正発明でいう「熱融着樹脂層」に相当する。
そして、引用発明における「電池用包装材料」は、基材層、金属層、接着層、シーラント層がこの順に積層された積層体からなることから、本願補正発明でいう「蓄電デバイス用外装材」に相当するものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「少なくとも基材層、金属箔層、接着樹脂層及び熱融着樹脂層をこの順序で備えた蓄電デバイス用外装材」である点で一致する。

イ.金属箔層の引張強さについて
引用発明における「金属層」は、アルミニウム箔(A3004)が用いられてなるところ、かかる「アルミニウム箔(A3004)」のJIS規格で定められた所定の引張試験による引張強さは、本願明細書に記載された実施例1で用いられている金属箔C−1の「アルミニウム箔3003材」の引張強さ(310MPa)よりも大きい(ただし、800MPaを超えるような大きさではない)ことはJIS規格のデータからも明らかであり、本願補正発明で特定する「300MPa以上800MPa以下」に含まれるものと認められる。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記金属箔層の引張試験(JIS Z2241 引張速度25mm/分、試料JIS Z2201 13B)による引張強さが300MPa以上800MPa以下」である点で一致するといえる。

ウ.接着樹脂層の厚さと熱融着樹脂層の厚さの和について
本願補正発明では「前記接着樹脂層の厚さと前記熱融着樹脂層の厚さの和が20μm以上45μm以下」であることを特定するのに対し、引用発明では接着層の厚さが23μm、シーラント層の厚さが23μmであり、その和が46μmである点で相違する。

エ.熱融着樹脂層と金属箔層との間の剥離接着強さについて
本願補正発明では「前記熱融着樹脂層と前記金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さが18N/15mm以上25N/15mm以下」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような剥離接着強さの値についての特定がない点で相違する。

オ.金属箔層の厚さ、金属の種類等について
引用発明における「金属層」は、厚さ40μmであるから、本願補正発明で特定する「10〜40μm」に含まれる。
また、引用発明における「金属層」は、アルミニウム箔が用いられ、その両面には、腐食の防止等のために化成処理がなされて耐酸性皮膜が形成されてなるものであり、このうちのシーラント層側の表面に形成された「耐酸性皮膜」が、本願補正発明でいう熱融着樹脂層側の表面に形成された「腐食防止機能を有する」「被膜」に相当するといえる。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記金属箔層が厚さ10〜40μmであり且つ前記熱融着樹脂層側の表面に腐食防止機能を有する被膜が形成されているアルミニウム箔」である点で共通する。
ただし、腐食防止機能を有する被膜の厚さについて、本願補正発明では「5nm以上200nm以下」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点で相違する。

よって上記「ア.」ないし「オ.」によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「少なくとも基材層、金属箔層、接着樹脂層及び熱融着樹脂層をこの順序で備えた蓄電デバイス用外装材であって、
前記金属箔層の引張試験(JIS Z2241 引張速度25mm/分、試料JIS Z2201 13B)による引張強さが300MPa以上800MPa以下であり、
前記金属箔層が厚さ10〜40μmであり且つ前記熱融着樹脂層側の表面に腐食防止機能を有する被膜が形成されているアルミニウム箔である外装材。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明では「前記接着樹脂層の厚さと前記熱融着樹脂層の厚さの和が20μm以上45μm以下」であることを特定するのに対し、引用発明では接着層の厚さが23μm、シーラント層の厚さが23μmであり、その和が46μmである点。

[相違点2]
腐食防止機能を有する被膜の厚さについて、本願補正発明では「5nm以上200nm以下」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有しておらず、さらに、本願補正発明では「前記熱融着樹脂層と前記金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さが18N/15mm以上25N/15mm以下」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような剥離接着強さの値についての特定がない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用例には、段落【0055】に「シーラント層4の厚さとしては、適宜選定することができるが、10〜100μm程度、好ましくは15〜50μm程度が挙げられる。」と記載され、段落【0058】に「接着層5の厚さについては、例えば、2〜50μm、好ましくは20〜30μmが挙げられる。」と記載されており(前記「(1)ウ.」を参照)、これによれば、好ましいとされる接着層の厚さとシーラント層の厚さの和は「35〜80μm」である。そして、引用発明にあっても、電池用包装材料の薄型化や軽量化は当然望まれる事項であることから(例えば引用例の段落【0003】〜【0004】(上記「(1)ア.」)を参照)、成型時にクラックやピンホールが生じたりすることのない範囲で接着層の厚さとシーラント層の厚さの和を46μmよりも小さく、上記の好ましいとされる範囲の下限である35μm以上の範囲の値、例えば35〜45μmの範囲の値を選択し、相違点1で特定される「20μm以上45μm以下」の範囲内の値とすることも当業者であれば適宜なし得たことである。

[相違点2]について
まず、腐食防止機能を有する被膜の厚さについて検討する。
引用発明における「耐酸性皮膜」は、腐食の防止だけではなく、接着の安定化にも寄与するものであるところ、金属箔層のシーラント層側に形成される腐食防止処理層(化成処理層)として、例えば特開2011−60501号公報の段落【0022】に「化成処理層14の厚さは、腐蝕防止機能とアンカーとしての機能の点から、10nm〜5μmが好ましく、20nm〜500nmがより好ましい。」とあり、段落【0042】に実施例でも「0.1〜0.2μm」(100〜200nm)であったことが記載され、また、特開2013−222555号公報の段落【0024】にも「腐食防止処理層14の厚さは、腐食防止機能とアンカーとしての機能の点から、5nm〜1μmが好ましく、10nm〜200nmがより好ましい。」と記載されているように、腐食防止機能とアンカーとしての機能の点から例えば10nm〜200nmの範囲の厚さとすることは周知といえる技術事項であり、引用発明においても、耐酸性皮膜の厚さを10nm〜200nmの範囲に選択し、相違点2で特定される「5nm以上200nm以下」の範囲に含まれるものとすることは当業者であれば適宜なし得たことである。
次に、熱融着樹脂層と金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さについて検討する。
引用発明では、シーラント層と金属層との間に位置する接着層として「酸変性ポリプロピレン樹脂」が用いられ、これは本願明細書に記載された実施例(実施例1)で用いられている接着樹脂E−1と同様のものである。また、シーラント層は「ポリプロピレン」が用いられ、これは本願明細書に記載された実施例(実施例1)で用いられている熱融着樹脂F−1と同様のものである。そして上述のように、金属層のシーラント層側に形成される耐酸性皮膜を腐食防止機能とアンカーとしての機能の点から10nm〜200nmの範囲の厚さとした際には、引用発明のシーラント層、接着層、耐酸性皮膜、及び金属層は、本願明細書に記載された実施例(実施例1)の熱融着樹脂層、接着樹脂層、腐食防止処理層、及び金属箔層と同様のものとなるから、剥離接着強さは相違点2で特定される「18N/15mm以上25N/15mm以下」の範囲に含まれる蓋然性が高いといえる。また仮に、本願明細書に記載された実施例(実施例1)では腐食処理防止層が厚さ100nmの酸化セリウムからなる処理層であり、上述のように単に金属層のシーラント層側に形成される耐酸性皮膜を10nm〜200nmの範囲の厚さとしただけでは、剥離接着強さが相違点2で特定される「18N/15mm以上25N/15mm以下」の範囲に含まれるとまでは必ずしも言えないとしても、引用発明において、引用例の段落【0043】に記載のように、金属層の表面の化成処理方法として、リン酸中に酸化セリウムなどの金属酸化物を分散させたものをコーティングして焼き付ける処理を採用し、それによって形成される処理層の厚さを、上記の10nm〜200nmの範囲の中でも100nm程度に選択することは当業者が容易になし得たことである。そして、そのようにして得られたものは、剥離接着強さが相違点2で特定される「18N/15mm以上25N/15mm以下」の範囲に含まれるものと認められる。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
令和3年6月14日の手続補正は上記のとおり却下され、令和2年10月23日の手続補正についても令和3年3月19日付けで補正却下の決定がなされているので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年3月3日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基材層、金属箔層、接着樹脂層及び熱融着樹脂層をこの順序で備えた蓄電デバイス用外装材であって、
前記金属箔層の引張試験(JIS Z2241 引張速度25mm/分、試料JIS Z2201 13B)による引張強さが300MPa以上800MPa以下であり、
前記接着樹脂層の厚さと前記熱融着樹脂層の厚さの和が20μm以上80μm以下であり、
前記熱融着樹脂層と前記金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さが15N/15mm以上30N/15mm以下であり、
前記金属箔層が厚さ10〜40μmのアルミニウム箔である外装材。」

2.原査定の概要
原査定(令和3年3月19日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
理由1(新規性
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

・請求項1ないし6に対して引用文献1
理由2(進歩性
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1ないし6に対して引用文献1
・請求項7、8に対して引用文献1、2
・請求項9に対して引用文献1ないし3
(引用文献一覧)
引用文献1:特開2015−165476号公報
引用文献2:特開2014−63587合公報
引用文献3:国際公開第2015/141772号公報

3.引用例、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例(引用文献1)、及び引用発明は、前記「第2 2.(1)」に記載したとおりである。

4.対比・判断
(1)接着樹脂層の厚さと熱融着樹脂層の厚さの和について
引用発明では接着層の厚さが23μm、シーラント層の厚さが23μmであり、その和が46μmであるから、本願発明で特定する「20μm以上80μm以下」に含まれる。
よって、本願発明と引用発明とは、「前記接着樹脂層の厚さと前記熱融着樹脂層の厚さの和が20μm以上80μm以下」である点で一致する。

(2)熱融着樹脂層と金属箔層との間の剥離接着強さについて
本願発明では「前記熱融着樹脂層と前記金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さが15N/15mm以上30N/15mm以下」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような剥離接着強さの値についての特定がない点で相違する。

(3)金属箔層の厚さ、金属の種類について
引用発明における「金属層」は、アルミニウム箔が用いられ、その厚さは40μmであるから、本願発明で特定する「10〜40μm」に含まれる。
よって、本願発明と引用発明とは、「前記金属箔層が厚さ10〜40μmのアルミニウム箔」である点で一致する。

(4)その他の構成については、前記「第2 2.(2)」の「ア.」及び「イ.」に記載したとおりである。

よって、上記(1)ないし(4)によれば、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致するといえる。
[相違点]
本願発明では「前記熱融着樹脂層と前記金属箔層との間のJIS K6854−3による剥離接着強さが15N/15mm以上30N/15mm以下」であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような剥離接着強さの値についての特定がない点。

そこで、上記相違点について検討する。
引用発明では、シーラント層として「ポリプロピレン」が用いられ、これは本願明細書に記載された実施例(実施例1)で用いられている熱融着樹脂F−1と同様のものであり、また、金属層はアルミニウム箔が用いられ、これは本願明細書に記載された実施例(実施例1)で用いられているものと同様であり、さらにシーラント層と金属層との間に位置する接着層としては「酸変性ポリプロピレン樹脂」が用いられ、これは本願明細書に記載された実施例(実施例1)で用いられている接着樹脂E−1と同様のものであることからすると、剥離接着強さは相違点で特定される「15N/15mm以上30N/15mm以下」の範囲に含まれる蓋然性が高いといえる。よって、上記相違点は実質的な相違ではない。
また仮に、本願明細書に記載された実施例(実施例1)では金属箔層の熱融着樹脂層側に表面に厚さ100nmの腐食処理防止層(酸化セリウムからなる処理層)が設けられていることから、たとえ引用発明におけるシーラント層、接着層及び金属層が、それぞれ本願明細書に記載された実施例(実施例1)の熱融着接着層、接着樹脂層及び金属箔層と同様の材料構成であっても、剥離接着強さが相違点で特定される「15N/15mm以上30N/15mm以下」の範囲に含まれるとまでは必ずしも言えないとしても、引用発明においてもアルミニウム箔からなる金属層のシーラント層の表面に、腐食の防止だけではなく、接着の安定化にも寄与する「耐酸性皮膜」が化成処理によって形成されてなるものである。そして、化成処理方法として、特に引用例の段落【0043】に記載されたリン酸中に酸化セリウムなどの金属酸化物を分散させたものをコーティングして焼き付ける処理を採用し、それによって形成される処理層の厚さを適宜調節するなどして剥離接着強さが相違点で特定される「15N/15mm以上30N/15mm以下」の範囲に含まれるものとすることも当業者であれば容易になし得たことである。

よって、本願発明は、引用例に記載された発明であるか、または引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-05-17 
結審通知日 2022-05-24 
審決日 2022-06-09 
出願番号 P2016-031028
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 113- Z (H01M)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 井上 信一
畑中 博幸
発明の名称 蓄電デバイス用外装材、及び当該外装材を用いた蓄電デバイス  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 阿部 寛  
代理人 吉住 和之  
代理人 黒木 義樹  
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