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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1386990
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-16 
確定日 2022-07-13 
事件の表示 特願2019−555805「有機EL装置及びその電極」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月21日国際公開、WO2019/033794、令和 2年 6月11日国内公表、特表2020−517066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2019−555805号(以下「本件出願」という。)は、2018年(平成30年)4月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年8月16日 中国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 元年10月11日提出:手続補正書
令和 2年 9月17日付け:拒絶理由通知書
令和 2年12月25日提出:意見書
令和 2年12月25日提出:手続補正書
令和 3年 2月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 6月16日提出:審判請求書
令和 3年 6月16日提出:手続補正書


第2 令和3年6月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
令和3年6月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和2年12月25日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 基板上に順次に積層設置されている第1電極と有機機能層と第2電極とを含む有機EL装置であって、
前記第1電極は、反対となる第1側と第2側とを有し、前記第1側は前記第1電極が前記基板に対し反対側である第1導電層と、前記第1導電層の前記第1側に積層設置されており透明導電層である第2導電層と、を含み、
前記第2電極は前記第2導電層に隣接する反射電極であり、前記第2電極と前記第1電極とでマイクロキャビティ構造が形成されることを特徴とする有機EL装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付与したものであり、補正箇所を示す。
「 基板上に順次に積層設置されている第1電極と有機機能層と第2電極とを含む有機EL装置であって、
前記第1電極は、反対となる第1側と第2側とを有し、前記第1側は前記第1電極が前記基板に対し反対側である第1導電層と、前記第1導電層の前記第1側に積層設置されており透明導電層である第2導電層と、を含み、
前記第1導電層は、厚さは500nm〜600nmであり、かつ前記第1導電層の反射率と光透過率とが等しく、
前記第2電極は前記第2導電層に隣接する反射電極であり、前記第2電極と前記第1電極とでマイクロキャビティ構造が形成され、
前記第1電極は、前記第1導電層の前記第2側に積層設置されており透明導電層である第3導電層をさらに含み、
前記第3導電層の厚さは、青色光の前記第3導電層内での波長の4分の1に等しく、さらに、前記第3導電層の裏面からの反射光と前記第3導電層13の前面からの反射光との光路差は半波長であることを特徴とする有機EL装置。」

2 補正の適否について
本件補正でした補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1導電層」について、本件出願の翻訳文等(184条の12第2項)の【0044】等の記載に基づき、「第1導電層は、厚さは500nm〜600nmであり、かつ前記第1導電層の反射率と透過率とが等しく」と限定するとともに、「第1導電層」について、本件出願の翻訳文等(184条の12第2項)の【請求項2】等の記載に基づき、「前記第1電極は、前記第1導電層の前記第2側に積層設置されており透明導電層である第3導電層をさらに含み」を挿入し、「第3導電層」について、本件出願の翻訳文等(184条の12第2項)の【0046】等の記載に基づき、「前記第3導電層の厚さは、青色光の前記第3導電層内での波長の4分の1に等しく、さらに、前記第3導電層の裏面からの反射光と前記第3導電層13の前面からの反射光との光路差は半波長であること」に限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される技術分野(【0001】)及び解決しようとする課題(【0006】)が同一である。
したがって、本件補正のうち請求項1についてした補正は、特許法17条の2第3項の規定する要件を満たしているとともに、同条5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、パリ条約による優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された特表2007−529868号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付与したものである。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、金属電極を使用する上側及び下側発光型有機発光ダイオード(OLED)であって、長期使用時に安定な動作電圧を示す、駆動電圧の安定性が改善された有機発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(OLED)としても知られる有機エレクトロルミネッセント(OEL)デバイスは、フラット・パネル・ディスプレイ用途において有用である。この発光デバイスは魅力的である。なぜならば、これは赤色、緑色及び青色を高輝度効率で生成するように構成することができ、また、数ボルト・オーダーの低い駆動電圧で動作可能であり、そして斜角からはっきり見ることができるからである。この独自の属性は、アノードとカソードとの間にサンドイッチされた小分子有機材料の薄膜から成る多層スタックから構成された基本的なOLED構造から導き出される。同一譲受人によるTang他の米国特許第4,769,292号明細書及び同第4,885,211号明細書には、このような構造が開示されている。一般的なエレクトロルミネッセント(EL)媒体は、典型的には各層が数10ナノメートル厚オーダーの正孔輸送層(HTL)と電子輸送層(ETL)との二層構造から成っている。電位差が電極に印加されると、注入されたキャリヤ(アノードにおける正孔及びカソードにおける電子)が、EL媒体を通って互いに向かって移動し、これらのうちの一部が、発光層(EML)、つまりHTL/ETL界面に近接する領域で再結合することにより、光を放出する。エレクトロルミネッセンスの強度は、EL媒体、駆動電圧、及び電極の電荷注入特性に依存する。デバイスの外側で見ることができる光は、さらに、有機スタックの構成、並びに基板、アノード及びカソードの光学特性に依存する。
・・・省略・・・
【0007】
上側又は下側発光型のいずれのデバイス構成も、できる限り高い効率を達成することを目的とするべきである。しかし、導波モードの影響をもはや受けない光を取り戻すことにより高い効率を実現することは、極めて困難な場合がある。導波モードの影響をもはや受けない光の一部でさえ、これを回収するためには、デバイス・アーキテクチャは極めて複雑になるおそれがある。
このような複雑さを導入することなしに効率を高めるためのアプローチは、反射性電極を含むデバイスの構造にマイクロキャビティの構成を施すことである。
・・・省略・・・
【0008】
高反射性電極を採用することによって、発生した光のアウト・カップリングを顕著に増大させることが可能である。マイクロキャビティ・デバイスの場合、キャビティから放出される光はキャビティの構成に依存する。マイクロキャビティの共振波長は、
2 Σ(nidi)/λ - (Φ1 + Φ2)/360° = m
によって表され、上記式中、m = 0, 1, 2,..., λは、厚さdi及び屈折率niの層から成るキャビティから出現する光のピーク波長であり、そしてΦ1及びΦ2は、2つの反射性電極から反射したときの、光の位相シフト度である。量nidiは材料中の「光路長」と従来呼ばれ、従ってΣ(nidi)は、マイクロキャビティ内の総光路長である。マイクロキャビティの光路長が一定である場合、この発光の強度(及びさほどの程度ではないがその波長)も、キャビティ内部の発光ゾーンの位置によって影響される。カソードとHTL/ETL界面との間に妥当な距離が選択されている場合には、HTL厚を変化させることにより、マイクロキャビティの光路長を変化させることができる。最大輝度はHTL厚に対応して発生するので、マイクロキャビティの共振波長は、特定のドーパント-ホスト材料の固有の発光スペクトル内のピークと良好に整合される。最初の最大値は、m=0に相当するHTL厚で発生し、そして後続の最大値は、m=1, 2などに相当するHTL厚で発生する。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って本発明の目的は、長期使用時に安定な駆動電圧で動作可能な上側及び下側発光型マイクロキャビティOLEDを提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、寿命の点で妥協することなしに、又はデバイスの効率に著しい影響を及ぼすことなしに、前記目的を達成することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、プロセスに著しい複雑さを導入することなしに、又はデバイス構造に大きい変化を加えることなしに、前記目的を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの目的は、OLEDデバイスであって、
(a)金属もしくは合金又はその両方を含む反射性且つ導電性の二層アノードと、
(b)該反射性且つ導電性の二層アノード上に形成された正孔注入構造体と、
(c)該正孔注入構造体上に形成された1つ以上の有機層とを含み、
(d)該反射性且つ導電性の二層アノードが、駆動電圧の安定性を改善するように構成されていること
を特徴とするOLEDデバイスにおいて達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ベース層とスキン層とを含む二層アノード構造が、安定な駆動電圧を示すOLEDをもたらすことが判った。単層金属アノードを含む従来技術のOLEDとは対照的に、本発明のOLEDは、駆動電圧のこのような調節をほとんど又は全く必要とせず、これに対して、動作寿命全体を通して駆動電流を維持するために、従来技術のデバイスは駆動電圧の単調な上昇を必要とする。高反射能金属ベース層と薄い半透明のスキン合金層とをアノード構造内で選択することにより、上側又は下側発光の高い効率を達成できることがさらに見極められた。」

(イ)【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次の説明全体を通して、有機発光デバイスの種々異なる有機層及び動作特性を指定するために、頭字語を使用する。参考のためにこれらを表1に挙げる:
【0020】
【表1】

・・・省略・・・
【0025】
ここで図6に目を転じると、OLED 600は、従来技術の下側発光型OLEDであり、このOLEDは、透明の基板601、反射性、半透明且つ導電性のアノード602、低吸収性正孔注入層(HIL)603、正孔輸送層(HTL)604、発光層(EML)605、電子輸送層(ETL)606、及び反射性、不透明且つ導電性のカソード607を含む。カソード607は、約4 eV未満の仕事関数を有する金属を含む。動作中、アノード602とカソード607とは電圧源に接続され、電流が有機層を通過させられ、その結果、発光層605内に光が発生し、発生した光の一部が、矢印によって示される方向で、アノード602及び基板601を通して放出される。発生した光の強度は、OLED 600を通過させられた電流の規模に依存する。電流の規模は、有機層のルミネセンス・電気特性、並びにアノード602、正孔注入層603、及びカソード607の電荷注入性に依存する。見ることができる発光は、基板601、アノード602、及び正孔注入層603の透過率、及びカソード607の反射率、並びにOLED 600の層構造に依存する。
【0026】
図7には、本発明の下側発光型OLED 700が示されている。アノード構造はベース層7021を含む。ベース層7021上には薄層7022が形成されている。その他の点では、OLED 700(図7)はOLED 600(図6)と同一である。ベース層7021は導電性であり、例えばAg、Au、Cu、Al、Mg、Zn、Rh、RuもしくはIr又はこれらの合金を含む高反射性金属を含む。ベース層7021の厚さは、層が半透明又は弱吸収性であるように選択される。弱吸収性とは、ガラス上のフィルムの吸収率が可視波長全体にわたって30%以下であることを意味する。このような層の反射率は約30%以上であることが可能である。選択された金属又は合金に応じて、ベース層7021(図7及び8)の厚さは、約4 nmを上回るが、しかし約40 nm未満であることが可能である。薄層7022は、ベース層金属の合金を含み、そして極めて薄く、典型的には1〜20 nmであり、以後スキン層と呼ぶ。スキン層は半透明且つ導電性であり、そしてその層も半透明でありその組成がベース層の組成とは異なるように選択される。スキン層内の合金用金属は、Ag、Au、Cu、Al、Mg、Zn、Rh、Ru、Ir、Pd、Ni、Cr、Pt、Co、TeもしくはMo、又はこれらの組み合わせを含むことができる。
【0027】
図8は、本発明の別の下側発光型OLEDである。この実施態様のOLED 800の場合、透明な基板601と、反射性、半透明且つ導電性のアノード・ベース層7021との間に、透過増強層(TEL)801が堆積されている。その他の点では、OLED 800はOLED 700と同一である。本発明によれば、上記アノード構造が、安定な駆動電圧を示すOLEDをもたらすことが判った。」

(ウ)「【0028】
OLEDデバイスを構成する種々の層の組成及び機能を以下に説明する。
【0029】
基板301(図3〜5)は、ガラス、セラミック、金属、合金、プラスチック又は半導体を含む不透明、半透明又は透明の任意の基板を含んでよい。それというのも、光が基板とは反対側の表面を通して放出されるからである。基板601(図6〜8)はできる限り透明であるべきである。それというのも、これらの事例において光は基板601を通して放出されるからである。
・・・省略・・・
【0030】
アノード(図3〜5)又は602(図6〜8)は、カソード307(図3〜5)又はカソード607(図6〜8)に対する正電位が印加されると、有機層内に正孔を注入する機能を提供する。アノードの組成及び層構造は上に記載されている。アノード層は、スパッタリング又は蒸発を含む任意の堆積によって製作することができ、また、OLED 300〜800のための製造法と適合性を有してもよい。これらのアノード302又は602は、上側の正孔注入層303(図3〜5)又は603(図6〜8)を必要としてもしなくてもよい。
【0031】
正孔注入層303(図3〜5)又は603(図6〜8)は、アノード302(図3〜5)からの、又はアノード602(図6〜8)からの正孔注入の効率を高める機能を提供する。
・・・省略・・・
【0032】
正孔輸送層304(図3〜5)又は604(図6〜8)は、発光層305(図3〜5)又は605(図6〜8)に正孔を輸送する機能を提供する。正孔輸送材料は、同一譲受人による米国特許第4,720,432号明細書に開示された種々のクラスの芳香族アミンを含む。好ましいクラスの正孔輸送材料は、式(I)のテトラアリールジアミンを含む。
・・・省略・・・
【0035】
HTLの厚さは、輝度を最大化するように選択され、そしてその選択はデバイスを含む光学スタックに依存する。本発明のデバイスは、マイクロキャビティOLEDであり、従って2つの反射性電極(アノード及びカソード)間の光路長は、上に図1及び図2を参考にして説明したマイクロキャビティ構造から発光に関して選択された様式に従って選ぶことができる。
【0036】
発光層305(図3〜5)又は605(図6〜8)は、この層内の正孔と電子との再結合の結果として生み出される光放出の機能を提供する。発光層の好ましい実施態様は、1種又は2種以上の蛍光色素でドープされるホスト材料を含む。このホスト-ドーパント組成物を使用して、高効率OLEDデバイスを構成することができる。同時に、共通のホスト材料中に種々異なる発光波長の蛍光色素を使用することによって、ELデバイスの色を調整することができる。
・・・省略・・・
【0039】
電子輸送層306(図3〜5)又は606(図6〜8)は、カソードから注入された電子を発光層305(図3〜5)又は605(図6〜8)に供給する機能を提供する。有用な材料は、同一譲受人によるShi他の米国特許第5,645,948号明細書に開示されているような、Alq、ベンザゾールを含む。
【0040】
カソードは、典型的には、ETL 306(図2〜4)内に電子を効率的に注入することができる導電性、半透明、反射性且つ弱吸収性の薄膜であり、また、約4.0 eV以下であるように選択された仕事関数を有する合金を含む材料から成る。Mg及びLiを含有する合金が一般に使用される。なぜならばこれらは低い仕事関数を有し、そしてAlq ETLに対して効率的な電子注入コンタクトを形成するからである。<4.0 eVの仕事関数を有する他の材料、例えばMnを電子注入体として使用することもできる。カソード307(図3〜5)又は607(図6〜8)は典型的には、電子輸送層306(図3〜5)又は606(図6〜8)内に電子を効率的に注入することができる反射性且つ導電性のフィルムであり、そして4.0 eVの仕事関数を有する金属材料を含む。Mg及びLiを含有する合金が一般に使用される。なぜならばこれらは低い仕事関数を有し、そしてAlq電子輸送層306(図3〜5)又は606(図6〜8)に対して効率的な電子注入コンタクトを形成するからである。その他の低仕事関数の金属材料を使用することもできる。これらの材料は、金属、或いは、Ag又はAl又は他の高反射能金属と、Mg、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はMnのような金属との合金を含む合金を含む。或いは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属又はこれらの組み合わせから成る極薄層を堆積することにより、又は電子注入ドーパント及びアクチベーター金属、例えばAl、Mgなどの化合物を堆積することにより、効果的に透明な電子注入層をETL 306又は606上に形成することができる。この表面は、所望の改善された特性を有するカソードを産出するために、仕事関数とは無関係に、事実上いかなる金属、合金、又はその他の導体の使用をも可能にする。カソード307(図3〜5)は、上側電極であり、この上側電極を通って、光が上側発光型OLED 300〜500から出てゆく。カソード307は、半透明且つ弱吸収性である。弱吸収性とは、ガラス上のフィルムの吸収率が可視波長全体にわたって30%以下であることを意味する。このような層の反射能は約30%以上であることが可能である。選択された金属又は合金に応じて、カソード307(図3〜5)の厚さは、約4 nmを上回るが、しかし約40 nm未満であることが可能である。カソード607(図6〜8)は典型的には、高反射性、不透明且つ導電性のフィルムである。高反射性とは、ガラス基板上の金属層の反射率が40%以上であることを意味する。不透明という用語は、ガラス上のフィルムの透過率が10%未満であることを意味する。金属に応じて、層の厚さは50 nmを上回るべきである。
・・・省略・・・
【0041】
OLED 500(図5)の透過増強層(TEL)501、又はOLED 800(図8)のTEL 801は、観察強度を高めるために光取り出し機能を提供する、高透過率適合フィルムである。TELは、導電性又は非導電性の、無機又は有機材料を含み、これらの材料の一例としては:ITO、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化スズ(TO)、アンチモン・ドープ型酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ型酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(IO)、酸化亜鉛(ZO)、スズ酸カドミウム(CTO)、酸化カドミウム、リン・ドープ型TO、Alドープ型ZO、MgO、MoOx、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2、SiN、AlN、TiN、ZrN、SiC、Al4C3、AlqもしくはNPB、又はこれらの混合物が挙げられる。材料の光学指数に応じて、TEL 501又は801の厚さは20 nm〜150 nmであることが可能である。TEL 501は、OLED 500(図5)のカソード307上に配置される。TEL 801は、OLED 800(図8)の透明の基板601と反射性、半透明且つ導電性のベース層7021との間に配置される。
【0042】
大抵のOLEDデバイスは、湿分又は酸素又はその両方に対して鋭敏なので、これらは一般には、乾燥剤、アルミナ、ボーキサイト、硫酸カルシウム、粘土、シリカゲル、ゼオライト、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、又は金属ハロゲン化物及び過塩素酸塩とともに、不活性雰囲気、例えば窒素又はアルゴン中でシールされる。カプセル封入法及び乾燥法の一例としては、米国特許第6,226,890号明細書に記載されたものが挙げられる。加えて、バリア層、例えばSiOx、テフロン(登録商標)、及び交互の無機/高分子層がカプセル封入の当業者に知られている。
【0043】
本発明のOLEDデバイスは、種々のよく知られた光学効果を採用して、所望の場合にこれらの特性を増強することができる。このような増強は、最大の光透過をもたらすように層厚を最適化すること、反射性電極を光吸収電極と置き換えてコントラストを増強すること、ディスプレイ上に眩光防止又は反射防止コーティングを設けること、ディスプレイ上に偏光媒体を設けること、又はディスプレイ上に色フィルター、減光フィルター、又は色変換フィルターを設けることを含む。カバー上に又はカバー部分として、フィルター、偏光子、及び眩光防止又は反射防止コーティングを具体的に設けることができる。」

(エ)図6


(オ)図7


(カ)図8


イ 上記アにより、引用文献1には、透過増強層として【0041】に記載された観察強度を高めるために光取り出し機能を提供する、高透過率適合フィルムで導電性であるものを用いた、本発明の別の下側発光型OLEDとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、アノード構造をアノードに、薄層をスキン層に、それぞれ、用語を統一した。

「透明の基板、反射性、半透明且つ導電性のアノード、低吸収性正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び反射性、不透明且つ導電性のカソードを含む下側発光型OLEDであって、
アノードはベース層を含み、ベース層上にはスキン層が形成され、ベース層は導電性であり、高反射性金属を含み、ベース層の厚さは、層が半透明又は弱吸収性であるように選択され、
スキン層は、ベース層金属の合金を含み、そして極めて薄く、スキン層は半透明且つ導電性であり、そしてその層も半透明でありその組成がベース層の組成とは異なるように選択され、
透明な基板と、反射性、半透明且つ導電性のベース層との間に、透過増強層が堆積され、
透過増強層は、観察強度を高めるために光取り出し機能を提供する、高透過率適合フィルムで導電性である、
下側発光型OLED。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。

ア 基板、有機機能層
引用発明の「下側発光型OLED」は、「透明の基板、反射性、半透明且つ導電性のアノード、低吸収性正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び反射性、不透明且つ導電性のカソードを含む」。
上記構成からみて、引用発明の「透明の基板」は、本件補正後発明の「基板」に相当する。
また、引用発明の「低吸収性正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層」は、技術的にみて、本件補正後発明の「有機機能層」に相当する。

イ 第1電極、第1導電層、第2導電層、第3導電層
引用発明の「アノード」は、「ベース層を含み、ベース層上にはスキン層が形成され、ベース層は導電性であり、高反射性金属を含み、ベース層の厚さは、層が半透明又は弱吸収性であるように選択され、」、「スキン層は、ベース層金属の合金を含み、そして極めて薄く、スキン層は半透明且つ導電性であり、そしてその層も半透明でありその組成がベース層の組成とは異なるように選択され」、「透明な基板と、反射性、半透明且つ導電性のベース層との間に、透過増強層が堆積され、透過増強層は、観察強度を高めるために光取り出し機能を提供する、高透過率適合フィルムで導電性である」。
上記ア及びイの構成からみて、引用発明の「ベース層」は、反対となる2つの側を有し、一方の側は、「アノード」が透明の基板に対し反対側であるといえる。また、引用発明の「スキン層」は、「ベース層」の一方の側に積層設置されているといえる。さらに、引用発明の「透過増強層」は、「ベース層」の基板側に積層設置されているといえる。ここで、本件補正後発明の「第1導電層」について、基板に対し反対側を第1側とし、基板側を第2側としている。
そうしてみると、引用発明の「アノード」と「透過増強層」は、本件補正後発明の「第1電極」に相当する。また、引用発明の「ベース層」、「スキン層」及び「透過増強層」は、それぞれ、本件補正後発明の「第1導電層」、「第2導電層」及び「第3導電層」に相当する。
また、引用発明の「アノード」は、本件補正後発明の「第1電極」の「反対側となる第1側と第2側とを有し、前記第1側は前記第1電極が前記基板に対し反対側である第1導電層と、前記第1導電層の前記第1側に積層設置されており」「導電層である第2導電層と、を含み」及び「前記第1導電層の前記第2側に積層設置されており透明導電層である第3導電層をさらに含み」との要件を満たす。

ウ 第2電極
上記ア及びイの構成並びに技術常識からみて、引用発明の「カソード」は、スキン層に隣接する反射性の電極といえる。
そうしてみると、引用発明の「カソード」は、本件補正後発明の「第2電極」に相当する。また、引用発明の「カソード」は、本件補正後発明の「第2電極」の「前記第2導電層に隣接する反射電極であり」との要件を満たす。
(当合議体注:引用発明の「カソード」は、「低吸収性正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層」を介して「アノード」の「スキン層」に隣接しているが、本件補正後発明の「第2電極」も、「有機機能層」を介して「第2導電層」に隣接している。)

エ 有機EL装置
上記ア〜ウを総合すると、引用発明の「下側発光型OLED」は、本件補正後発明の「有機EL装置」に相当する。
また、上記ア〜ウの構成及び技術常識からみて、引用発明の「下側発光型OLED」は、透明の基板上に順次に積層設置されている、反射性、半透明且つ導電性のアノード、低吸収性正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び反射性、不透明且つ導電性のカソードとを含むといえる(当合議体注:このことは、引用文献1の図8からも確認できる。)。
そうしてみると、引用発明の「下側発光型OLED」は、本件補正後発明の「有機EL装置」の「基板上に順次に積層設置されている第1電極と有機機能層と第2電極とを含む」との要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「 基板上に順次に積層設置されている第1電極と有機機能層と第2電極とを含む有機EL装置であって、
前記第1電極は、反対となる第1側と第2側とを有し、前記第1側は前記第1電極が前記基板に対し反対側である第1導電層と、前記第1導電層の前記第1側に積層設置されており導電層である第2導電層と、を含み、
前記第2電極は前記第2導電層に隣接する反射電極であり、
前記第1電極は、前記第1導電層の前記第2側に積層設置されており透明導電層である第3導電層をさらに含む、有機EL装置。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違するか、一応相違する。

(相違点1)「第2導電層」が、本件補正後発明は、「透明」であるのに対して、引用発明の「スキン層」は、「半透明」である点。

(相違点2)「第1導電層」が、本件補正後発明は、「厚さは500nm〜600nmであり、かつ前記第1導電層の反射率と光透過率とが等し」いのに対して、引用発明の「ベース層」は、「高反射性金属を含み、ベース層の厚さは、層が半透明又は弱吸収性であるように選択され」ることにとどまり、反射率及び透過率は明らかでない点。

(相違点3)本件補正後発明は、「前記第2電極と前記第1電極とでマイクロキャビティ構造が形成され」るのに対して、引用発明の「カソード」と「アノード」は、この点が一応明らかでない点。

(相違点4)「第3導電層」が、本件補正後発明は、「厚さは、青色光の前記第3導電層内での波長の4分の1に等しく、さらに、前記第3導電層の裏面からの反射光と前記第3導電層13の前面からの反射光との光路差は半波長である」のに対して、引用発明の「透過増強層」は、「観察強度を高めるために光取り出し機能を提供する、高透過率適合フィルムで導電性である」ことにとどまり、厚さは明らかではなく、このように特定されていない点。

(5)判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
引用発明は、「下側発光型OLED」であるから、引用発明の「スキン層」は、半透明であっても光を透過する機能を有している。そして、本件補正後発明の「第2導電層」は、透明であることにとどまり、透過率等が特定されていない。
そうしてみると、引用発明の「スキン層」と本件補正後発明の「第2導電層」とにおいて、半透明であるか透明であるかということは、表現上の差異でしかない。
したがって、上記相違点1は、実質的な差異ではない。あるいは、引用発明において、「スキン層」を透明とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
まず、引用発明の「ベース層の厚さ」は、「層が半透明又は弱吸収性であるように選択され」る。ここで、引用文献1の【0026】には、「弱吸収性とは、ガラス上のフィルムの吸収率が可視波長全体にわたって30%以下であることを意味する。このような層の反射率は約30%以上であることが可能である。」と記載されている。仮に、ベース層の吸収率が30%で反射率が30%であるならば、ベース層の透過率は40%となる。上記記載より、吸収率は30%以下、反射率は30%以上であり、反射率をさらに大きくし、透過率をさらに小さくすることが可能であることから、引用発明の「ベース層」の透過率と反射率はほぼ等しくすることは、当業者が当然想起することである。本件明細書の【0044】においても、第1導電層の反射率は53%であり、透過率は42%であると記載されている。
次に、引用発明の「ベース層」の材料及び厚さについて、引用文献1の【0026】には、「ベース層7021は導電性であり、例えばAg、Au、Cu、Al、Mg、Zn、Rh、RuもしくはIr又はこれらの合金を含む高反射性金属を含む。」及び「選択された金属又は合金に応じて、ベース層7021(図7及び8)の厚さは、約4 nmを上回るが、しかし約40 nm未満であることが可能である。」と記載されている。引用文献1の「ベース層」の厚さが40nm未満と薄いのは、金等の透過率の低い高反射性金属を用いているからである。透過率の高く反射率の低い材料を用いるのであれば、ベース層の膜厚を厚くすればよいことは、当業者にとって自明のことである。
そして、透過率の高く反射率の低い導電性材料は周知のものであるから、引用発明の「ベース層」として、透過率と反射率とを等しくするように、金等の透過率の低い高反射性金属に換えて透過率の高く反射率の低い導電性材料を用いることは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。また、引用発明の「ベース層」の透過率と反射率とを等しくするように、ベース層の厚さを調整することは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。
また、下記「ウ 相違点3について」で示すとおり、引用発明もマイクロキャビティ構造を形成した有機EL装置といえるものであるところ、マイクロキャビティ構造を構成する金属層について、その透過率と反射率とを等しくすることは設計的事項である。例えば、特開2011−76799号公報(【0066】)、国際公開第2011/114576号([0006]、[0016])などを参照されたい。
そうしてみると、引用発明の「ベース層」を上記相違点2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
有機EL装置において、第1の電極と第2の電極とでマイクロキャビティを奏するように構成することは、慣用手段であるところ、引用文献1の【0014】には、「本発明の目的は、長期使用時に安定な駆動電圧で動作可能な上側及び下側発光型マイクロキャビティOLEDを提供することである。」と記載されている。ここで、マイクロキャビティ構造が慣用手段であることは、上記イで示したとおりである。
そうしてみると、引用発明においても、「アノード」と「カソード」とでマイクロキャビティ構造を構成しているといえる。
したがって、上記相違点3は、実質的な差異ではない。仮に、相違するとしても、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。

エ 相違点4について
引用発明の「透過増強層」は、「観察強度を高めるために光取り出し機能を提供する、高透過率適合フィルムで導電性である」。この「透過増強層」について、引用文献1の【0041】には、「導電性又は非導電性の、無機又は有機材料を含み、これらの材料の一例としては:ITO、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化スズ(TO)、アンチモン・ドープ型酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ型酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(IO)、酸化亜鉛(ZO)、スズ酸カドミウム(CTO)、酸化カドミウム、リン・ドープ型TO、Alドープ型ZO、MgO、MoOx、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2、SiN、AlN、TiN、ZrN、SiC、Al4C3、AlqもしくはNPB、又はこれらの混合物が挙げられる。材料の光学指数に応じて、TEL 501又は801の厚さは20 nm〜150 nmであることが可能である。」と記載されている。

ここで、観察強度を高めるために光取り出し機能を提供する層は「キャッピング層」等とも呼称される周知技術である。そして、そのような層の厚さに関して、例えば、特開2013−8669号公報には「光学的厚さをそのOLEDの発光波長の約4分の1に設定することが好ましい」(【0096】)こと、具体的には「第一のキャッピング層は、複数の青色OLEDに対して最適化された厚さを有することが好ましい」(【0095】)、「第一のキャッピング層は、概ね1〜2.5の範囲にある屈折率を有」し(【0097】)、「概略90〜130nmの範囲にある光学的厚さを有」する(【0100】)ことが記載されており、また、特開2011−82139号公報にも「第3キャッピングレイヤ413」が「60nm〜90nm範囲内の厚さ」を有し、「TiO2、ZrO2」を含んで作られることが記載されているように(【0045】〜【0053】)、その厚さを、青色光の層内での波長の4分の1に等しくすること、すなわち、裏面からの反射光と前面からの反射光との光路長差を半波長とすることは、慣用手段である。
上記慣用手段を心得た当業者であれば、観察強度を高めるために光取り出し機能を提供する、引用発明の「透過増強層」の厚さを、青色光の同層内での波長の4分の1に等しくすること、すなわち、裏面からの反射光と前面からの反射光との光路長差を半波長とすることは、当然想起する設計事項にすぎない。
そうしてみると、引用文献1の【0041】に記載された透過増強層の厚さである20nm〜150nmの範囲から選択して、引用発明の「透過増強層」の厚さを青色光の同層内での波長の4分の1程度とすることによって、裏面からの反射光と前面からの反射光との光路長差を半波長とすることは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。
したがって、引用発明の「透過増強層」の厚さを上記相違点4に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(6)効果について
本件補正後発明に関して、本件明細書の【0025】〜【0029】には、
「【0025】
1.本発明の実施例による電極は、第1導電層と、前記第1導電層の第1側に積層設置されており透明導電層である第2導電層と、を含む。当該電極は第1導電層と、第1導電層の第1側に積層設置されている第2導電層とを含むが、即ち、本発明では、第1導電層の第1側に積層設置されている透明導電層により、光は当該電極の内部で複数回反射されて、マイクロキャビティ効果及び相殺的干渉効果が生じ、光取り出し効率は向上できる。
【0026】
2.本発明の実施例による電極では、第1導電層は半透過・半反射型導電層である。当該半透過・半反射型導電層は、半反射半透過の特性を有し、反射電極とともにマイクロキャビティ構造を形成することができる。これにより、光の結合による増強で光取り出し効率は向上する。
【0027】
3.本発明の実施例による電極では、第3導電層の厚さは50nm〜80nmである。当該第3導電層の厚さは光の第3導電層内での波長の4分の1に等しい。光は空気から電極に入射する際に、第3導電層の二つの面からの反射光はいずれも半波長損失が発生し、第3導電層の裏面からの反射光と第3導電層の前面からの反射光との間の光路差はちょうど半波長であるため、この場合、反射光と入射光とが相殺的に干渉することでなく、第3導電層の前面からの反射光と裏面からの反射光とが相殺的に干渉する。これにより、透過光のエネルギーが増え、ひいては光取り出し効率は向上する。
【0028】
4.本発明の実施例による有機ELデバイスは、基板上に積層設置されている第1電極、有機機能層及び第2電極を含む。前記第1電極は、第1導電層と、前記第1導電層の第1側に積層設置されており透明導電層である第2導電層とを含む。本発明では、第1導電層と第1導電層の第1側に積層設置された透明導電層とを含み積層設置された第1電極により、光が当該電極の内部で複数回反射され、マイクロキャビティ効果及び相殺的干渉効果が生じ、光取り出し効率は向上できる。
【0029】
5.本発明による有機ELデバイスでは、第2電極は反射電極である。当該反射電極と半反射半透過の特性を有する第1導電層とでマイクロキャビティ構造が形成されることにより、光のカップリングによる増強に寄与する。」
と記載されている。
しかしながら、上記マイクロキャビティ効果や相殺的干渉効果は、引用発明も奏する効果であるか、または、引用発明から予測できる範囲内のものである。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年6月16日提出の審判請求書において、「引用文献1では、図7及び段落0026の記載によれば、アノード構造は、ベース層7021及びベース層7021上に形成された薄層7022を含む。ベース層は、半透明又は弱吸収性であり、薄層は半透明且つ導電性である。デバイスもマイクロキャビティOLEDであるが、その薄層7022は半透明である。よって、引用文献1に記載の構成は、本願請求項1に係る第2電極に隣接する第2導電層が透明導電層であるという構造とは異なる。」、「ベース層7021の厚さについては、引用文献1に「厚さは約4nm以上、40nm以下であってもよい」と記載されており、本願請求項1に係る「第1導電層は、厚さは500nm〜600nmである」という構成と異なる。拒絶査定では、引用文献1における「透過増強層(TEL)801」が本願請求項1に係る「第3導電層」に相当すると認定されたが、引用文献1の段落0041において透過増強層(TEL)801の厚さは20〜150nmとしか開示されておらず、本願請求項1に係る第3導電層の厚さを限定から、引用文献1の透過増強層(TEL)801は本願請求項1に係る「第3導電層」に相当するものではない。」、「本願請求項1に係る有機EL装置によれば、光は当該電極の内部で複数回反射されて、従来技術よりも優れたマイクロキャビティ効果及び相殺的干渉効果が生じ、光取り出し効率は向上できるという技術的な効果を奏する。当該技術的効果は、引用文献1及び引用文献2から予想できたものではない。」と主張している。
しかしながら、上記(5)及び(6)で述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

(8)小括
したがって、本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記「第2 令和3年6月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定」[結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由2は、概略、本件出願の請求項1〜9に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特表2007−529868号公報
引用文献2:特開2005−108644号公報
(当合議体注:引用文献1及び2は、いずれも主引例である。)

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、上記第2[理由]1の補正事項に係る事項を取り除いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定した本件補正後発明も、上記第2[理由]2に記載したとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 榎本 吉孝
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-02-07 
結審通知日 2022-02-08 
審決日 2022-02-25 
出願番号 P2019-555805
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 井口 猶二
関根 洋之
発明の名称 有機EL装置及びその電極  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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