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審決分類 審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1386998
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-21 
確定日 2022-06-07 
事件の表示 特願2020−553670「電波吸収部材、電波吸収構造、及び検査装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年12月10日国際公開、WO2020/246608、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)6月5日(優先権主張 令和元年6月7日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年11月25日 :手続補正書の提出
令和 2年11月20日付け:拒絶理由通知
令和 3年 1月14日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 3月24日付け:拒絶査定
令和 3年 6月21日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和3年3月24日付け拒絶査定)の概要は、本願の請求項1及び4ないし7に係る発明は、本願の優先日前の特許出願であって、本願の優先日後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされたとみなされる下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が本願の優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない、
というものである。

<引用文献一覧>
1. 特願2019−57849号(特開2020−167412号)

第3 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、令和3年1月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
抵抗層と、電波を反射する反射層と、前記反射層の厚み方向において前記抵抗層と前記反射層との間に配置された誘電体層とを含む電波吸収体と、
前記電波吸収体を支持する板状の支持体と、を備え、
前記支持体は、母材樹脂と、難燃剤とを含有しており、
前記支持体は、前記抵抗層の厚み方向において、前記抵抗層よりも前記反射層に近い位置に配置されている、
電波吸収部材。」
なお、本願発明2ないし6は、本願発明1を減縮した発明である。
また、本願発明7は、本願発明1ないし6の「電波吸収部材」を備えた「電波吸収構造」であり、本願発明8は本願発明1ないし6の「電波吸収部材」を備えた「検査装置」である。

第4 先願及び先願発明
1 先願の地位について
(1)特願2019−57849号(以下、「先願1」という。)は、積水化学工業株式会社により本願の優先日前である平成31年3月26日に出願されたものである。その後、令和2年3月26日に先願1に基づく優先権主張を伴う特願2020−56711号(以下「優先権主張出願」という。)が出願され、優先権主張出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲は本願の優先日後である令和2年10月8日に出願公開(特開2020−167412号)がされた。

(2)本願の願書に記載された発明者は、宇井丈裕、古曾将嗣、福家一浩、松▲崎▼悠也、臼井将貴であり、先願1の願書に記載された発明者は、澤田石哲朗、中尾幸子、武藤勝紀であるから、本願発明1ないし8の発明者と先願1の願書に記載された発明の発明者とは同一でない。

(3)本願の出願時の出願人は、日東電工株式会社であり、先願1の出願人は積水化学工業株式会社であるから、本願の出願時における両出願の出願人は同一でない。

(4)先願1の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下、「先願明細書等」という。)の段落【0001】ないし段落【0097】に記載された事項は、優先権主張出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0001】ないし段落【0128】に記載されており、優先権主張出願の出願公開により公開された。

(5)したがって、特許法第41条第3項の規定により、先願明細書等に記載された発明については、優先権主張出願の出願公開がされた時に出願公開がされたものとみなされる。

2 先願明細書等に記載された事項、先願発明
(1)先願明細書等には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下、同様である。)。
「【0019】<2.構成>
・・・(中略)・・・一実施形態において、本発明のλ/4型電波吸収体は、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する、という構成を備える。本発明の好ましい一態様においては、UL94VTM−0に定められた燃焼性評価試験において、難燃材料としての基準を満たす支持体、抵抗膜、厚みが150〜800μmの誘電体層、及び反射層を含むことにより、上記した本発明の特性を備えながらも良好な電波吸収特性を発揮することができる。・・・(中略)・・・
【0020】<2−1.支持体>
支持体により、抵抗膜を保護することができ、電波吸収体としての耐久性を高めることが可能である。支持体は、シート状のものである限り、特に制限されない。支持体としては、特に制限されないが、例えば樹脂基材が挙げられる。
【0021】
樹脂基材は、樹脂を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。樹脂基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。樹脂基材中の樹脂の合計量は、例えば50質量%以上、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0022】
樹脂としては、特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0023】
これらの中でも、生産性や強度の観点から、好ましくはポリエステル系樹脂、より好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0024】
樹脂以外の成分としては、例えば難燃性を付与する観点から難燃剤、比誘電率を調整する観点から酸化チタン等を配合することができる。難燃性に関する本発明の特性の観点から、支持体は、難燃剤を含有することが好ましく、同様の観点から、Si、P、及びSからなる群(好ましくは、P及びSからなる群)より選択される少なくとも1種の元素を含有することが好ましい。
【0025】
難燃剤としては、例えば硫黄系難燃剤、リン系難燃剤(例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、1,3−フェニレンビスジキシレニルフォスフェート、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム等)、シリコーン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤(ハロゲン化芳香族化合物)、窒素系難燃剤(グアニジン、トリアジン、メラミン、及びこれらの誘導体等)、無機系難燃剤(金属水酸化物等)、臭素系難燃剤、ホウ素系難燃剤(例えばホウ酸亜鉛)、赤リン系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは硫黄系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等が挙げられる。」

「【0046】<2−2−2.バリア層>
耐久性の観点から、抵抗膜はバリア層を含むことが好ましい。バリア層は、抵抗層の少なくとも一方の表面上に配置される。バリア層は、抵抗層の支持体側の表面上に配置されることが好ましい。このような構成であれば、支持体に難燃剤が含まれる場合に、スパッタ等で抵抗層を形成する際に発生する支持体由来のアウトガスによる抵抗層の抵抗値変化をより抑えることができる。バリア層について以下に詳述する。」

「【0069】<2−4.反射層>
反射層は、電波吸収体において電波の反射層として機能し得るものである限り、特に制限されない。反射層としては、特に制限されないが、例えば金属膜が挙げられる。」

「【0074】<2−5.層構成>
本発明のλ/4型電波吸収体が抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する場合、各層は、電波吸収性能を発揮することができる順に配置される。一例として、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。
【0075】
さらに、本発明のλ/4型電波吸収体が支持体を有する場合、一例として、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。
【0076】
本発明のλ/4型電波吸収体においては、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層以外に、他の層を含むものであってもよい。他の層は、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層それぞれの層の、どちらか一方の表面上に配置され得る。
【0077】<3.製造方法>
本発明のλ/4型電波吸収体は、その構成に応じて、様々な方法、例えば公知の製造方法に従って又は準じて得ることができる。例えば、本発明のλ/4型電波吸収体が抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する場合であれば、支持体上に抵抗膜、誘電体層、及び反射層を順に積層させる工程を含む方法により、得ることができる。」

(2)上記「(1)」より、先願明細書等には次の技術事項が記載されていると認められる。
ア 段落【0019】には「本発明のλ/4型電波吸収体は、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する」と記載され、段落【0075】には「本発明のλ/4型電波吸収体が支持体を有する場合、」「支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される」と記載されている。
また、段落【0077】には「本発明のλ/4型電波吸収体が抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する場合であれば、支持体上に抵抗膜、誘電体層、及び反射層を順に積層させる工程を含む方法により、得ることができる」と記載されており、「支持体」、「抵抗膜、誘電体層、及び反射層」は「順に積層」されたものといえる。
以上のことより、先願明細書等には、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順に積層されたλ/4型電波吸収体が記載されている。

イ 段落【0020】には「支持体は、シート状のものである」及び「支持体としては」「樹脂基材が挙げられる」と記載され、段落【0021】には「樹脂基材は、樹脂を素材として含む基材であ」ること、「樹脂基材は」「樹脂以外の成分が含まれていてもよい」こと、「樹脂基材中の樹脂の合計量は」「好ましくは65質量%以上であり、通常100質量%未満である。」ことが記載されている。
よって、支持体はシート状の樹脂基材であり、樹脂基材は樹脂を素材として含む基材であり、樹脂以外の成分が含まれ、樹脂基材中の樹脂の合計量は65質量%以上100質量%未満である。

ウ 段落【0022】には「樹脂としては」「ポリエチレンテレフタレート」「が挙げられる」と記載されている。

エ 段落【0024】には「樹脂以外の成分としては」「難燃剤」「を配合することができる」と記載され、段落【0025】には「難燃剤としては」「リン系難燃剤」、「無機系難燃剤」、「臭素系難燃剤」「が挙げられる」と記載されている。
よって、樹脂以外の成分として難燃剤が配合され、難燃剤はリン系難燃剤、無機系難燃剤又は臭素系難燃剤である。

オ 段落【0069】には「反射層は」「電波の反射層として機能し得るものである」と記載されている。

カ 段落【0074】には「本発明のλ/4型電波吸収体が抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する場合、各層は、電波吸収性能を発揮することができる順に配置される。一例として、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。」と記載されており、「抵抗膜、誘電体層、及び反射層」が「電波吸収性能を発揮することができる順」の一例として、「抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される」ことが記載されている。
よって、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置されて電波吸収性能を発揮する。

(3)上記「(2)」より、先願明細書等には次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順に積層されたλ/4型電波吸収体であって、
反射層は、電波の反射層として機能し、
抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置されて電波吸収性能を発揮し、
支持体はシート状の樹脂基材であり、樹脂基材は樹脂を素材として含む基材であり、樹脂以外の成分が含まれ、樹脂基材中の樹脂の合計量は65質量%以上100質量%未満であり、
樹脂は、ポリエチレンテレフタレートであり、
樹脂以外の成分として難燃剤が配合され、難燃剤はリン系難燃剤、無機系難燃剤又は臭素系難燃剤である、
λ/4型電波吸収体。」

第5 対比、判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と先願発明とを対比する。
ア 先願発明の「抵抗膜」は、本願発明1の「抵抗層」に相当する。

イ 先願発明の「反射層」は、「電波の反射層として機能」するものであるから、本願発明1の「電波を反射する反射層」に相当する。

ウ 先願発明において「抵抗膜、誘電体層、及び反射層」は「この順に配置された」ものであるから、先願発明の「誘電体層」は、「反射層」の厚み方向において「抵抗膜」と「反射層」との間に配置されるといえ、本願発明1の「前記反射層の厚み方向において前記抵抗層と前記反射層との間に配置された誘電体層」に相当する。
そして、先願発明において「抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置されて電波吸収性能を発揮」するから、先願発明の「抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順に積層された」構造は、本願発明1の「抵抗層と、電波を反射する反射層と、前記反射層の厚み方向において前記抵抗層と前記反射層との間に配置された誘電体層とを含む電波吸収体」に相当する。

エ 先願発明の「支持体」は、「シート状の樹脂基材」であるから、本願発明1の「板状の支持体」に相当する。

オ 先願発明において、「支持体」である「樹脂基材中の樹脂の合計量は65質量%以上100質量%未満であ」るから、「樹脂」は「支持体」の母材であるといえる。
よって、先願発明の「樹脂」は本願発明1の「母材樹脂」に相当する。

カ 先願明細書の段落【0023】には、段落【0022】に記載された「樹脂」について「これらの中でも」「強度の観点から」「好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる」と記載されている。よって、先願発明において「支持体」は、「樹脂基材」が「ポリエチレンテレフタレート」を素材として含むことにより、強度を持つものである。そして、先願発明において「支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順に積層さ」れるから、「支持体」は「抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順に積層された」構造を支持するといえる。
よって、上記「ウ」を踏まえると、先願発明の「支持体」は、「抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順に積層された」構造を支持する点で、本願発明1の「前記電波吸収体を支持する板状の支持体」に一致する。
しかし、本願発明1は「前記支持体は、前記抵抗層の厚み方向において、前記抵抗層よりも前記反射層に近い位置に配置されている」のに対し、先願発明は「支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順に積層され」ている点で相違する。

キ 本願明細書の段落【0025】には「難燃剤20pとしては」「臭素系難燃剤、リン系難燃剤、及び無機系難燃剤を使用できる」と記載されており、本願発明1の「難燃剤」は「臭素系難燃剤」、「リン系難燃剤」又は「無機系難燃剤」を含むといえる。
そして、先願発明の「難燃剤」は、「リン系難燃剤、無機系難燃剤又は臭素系難燃剤である」から、本願発明1の「難燃剤」に相当する。
また、上記「オ」を踏まえると、先願発明の「支持体はシート状の樹脂基材であり、樹脂基材は樹脂を素材として含む基材であり、樹脂以外の成分が含まれ、樹脂基材中の樹脂の合計量は65質量%以上100質量%未満であり、」「樹脂以外の成分として難燃剤が配合され、難燃剤はリン系難燃剤、無機系難燃剤又は臭素系難燃剤である」ことは、本願発明1の「前記支持体は、母材樹脂と、難燃剤とを含有」することに相当する。

ク 先願発明の「λ/4型電波吸収体」は、「抵抗膜」、「反射層」、「誘電体層」及び「支持体」を備える点で、本願発明1の「抵抗層」、「反射層」、「誘電体層」及び「支持体」を備える「電波吸収部材」に一致する。

上記「ア」ないし「ク」によれば、本願発明1と先願発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「抵抗層と、電波を反射する反射層と、前記反射層の厚み方向において前記抵抗層と前記反射層との間に配置された誘電体層とを含む電波吸収体と、
前記電波吸収体を支持する板状の支持体と、を備え、
前記支持体は、母材樹脂と、難燃剤とを含有している、
電波吸収部材。」

(相違点)
本願発明1は「前記支持体は、前記抵抗層の厚み方向において、前記抵抗層よりも前記反射層に近い位置に配置されている」のに対し、先願発明は「支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順に積層され」ている点。

(2)上記相違点について検討する。
ア 先願明細書等には、段落【0074】に「<2−5.層構成>」として「一例として、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。」と記載され、段落【0075】に「一例として、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。」と記載され、段落【0076】に「他の層は、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層それぞれの層の、どちらか一方の表面上に配置され得る。」と記載されており、「支持体」が「抵抗膜」よりも「反射層」に近い位置に配置されることは記載されていない。
また、先願明細書等の段落【0020】には「支持体により、抵抗膜を保護することができ、電波吸収体としての耐久性を高めることが可能である。」と記載されており、「支持体」により「抵抗膜」を保護することが記載されている。
さらに、先願明細書等の段落【0046】には、「抵抗膜はバリア層を含むことが好ましい。バリア層は、抵抗層の少なくとも一方の表面上に配置される。バリア層は、抵抗層の支持体側の表面上に配置されることが好ましい。このような構成であれば、支持体に難燃剤が含まれる場合に、スパッタ等で抵抗層を形成する際に発生する支持体由来のアウトガスによる抵抗層の抵抗値変化をより抑えることができる。」と記載されており、「抵抗膜」に含まれる「バリア層」は「抵抗膜」「の表面上に配置され」ると共に、「支持体」の表面上に配置されるから、「抵抗膜」は「支持体」の表面上に配置されるといえる。
してみると、当初明細書等には「λ/4型電波吸収体」の「層構成」について「支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される」ことが実質的に記載されており、他の配置は記載されていない。

イ 本願明細書の段落【0015】には「難燃剤20pは、支持体20に含有されているので、特に抵抗層12と接触する可能性が低い。このため、難燃剤20pが抵抗層12に接触して抵抗層12に望ましくない影響を及ぼす可能性は低く、電波吸収体10の電波吸収性能が長期間保たれやすい。」と記載され、段落【0016】には「支持体20は、典型的には、抵抗層12よりも反射層14に近い位置に配置されている。支持体20は、反射層14の厚み方向において、反射層14に接触していてもよいし、反射層14から離れていいてもよい。」と記載されており、「支持体20は、典型的には、抵抗層12よりも反射層14に近い位置に配置されている」ことにより、「難燃剤20pが抵抗層12に接触して抵抗層12に望ましくない影響を及ぼす可能性」を低くし、「電波吸収体10の電波吸収性能が長期間保たれやすい」という新たな効果を奏するといえる。
よって、本願発明1は、上記相違点に係る構成によって新たな効果を奏するから、上記相違点に係る本願発明1の構成が、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえず、本願発明1が先願発明と実質的に同一であるとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本願発明1は先願発明と実質的に同一であるとはいえない。

2 本願発明4ないし7について
本願発明4ないし7は、本願発明1を引用することによって、本願発明1の特定事項の全てを備えるから、本願発明1について上記「1」で検討した事項と同様の理由により、先願発明と実質的に同一であるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1、4ないし7に係る発明は先願発明と同一であるとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-05-25 
出願番号 P2020-553670
審決分類 P 1 8・ 161- WY (H05K)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 棚田 一也
小田 浩
発明の名称 電波吸収部材、電波吸収構造、及び検査装置  
代理人 鎌田 耕一  

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