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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01J
管理番号 1387027
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-01 
確定日 2022-07-21 
事件の表示 特願2016−228075「照明環境計測システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月31日出願公開、特開2018− 84508、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年11月24日の出願であって、令和2年8月31日付けで拒絶理由が通知され、同年11月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和3年4月1日付けで拒絶査定(原査定)がされたところ、これに対し、同年7月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和3年4月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1ないし3に記載された各発明並びに引用文献4及び5に記載された各周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1 滝野天嶺,「自律型SLAMを用いた小型UAVによる照度分布測定システム」,第155回月例発表会,知的システムデザイン研究室,2014年7月,p.1−2
2 国際公開第2015/163012号
3 阪口忠雄,「照明施設の照度測定方法」,照明学会雑誌,昭和40年,第49巻,第1号,p.31−37
4 特開2004−016182号公報
5 特開2007−047136号公報

第3 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和3年7月1日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
3次元の空間を移動する機体を有する移動体と前記移動体との無線通信が可能な制御装置とを有する照明環境計測システムであって、
前記移動体は、
前記制御装置から送信される計測位置を示す3次元の位置情報を受信する受信部と、
前記機体に搭載された照明環境を計測するセンサと、
前記機体を前記計測位置へ移動させた後に前記計測位置で待機させる推進部と、
前記計測位置において照明環境を計測する方向を確認し、確認した方向を基準に前記計測位置において前記機体を静止させた状態で前記センサを用いて照明環境として当該計測位置における鉛直面照度もしくは下向きの水平面照度を計測する制御部と、を有する、
照明環境計測システム。」

なお、本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審において付加した。引用文献の記載において以下同様。)。
(引1−ア)「1 はじめに
近年,航空分野において小型無人航空機(小型UAV),特にクァッドローター(Quadrotor)は垂直離着陸,ホバリングや超低速飛行が可能な点から注目されている機種のひとつである.一方,ロボットの知能化,コンピュータビジョンの分野において,SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)も近年盛んな研究テーマの一つである?) .SLAMとは,カメラを用いて自己位置と周囲環境を示す地図の推定を同時に行うことを言う.なお,SLAMの本質的な意味合いはループが閉じていることである.言い換えれば,SLAMを行うと一度来た場所を同じ座標として認識することができるため,矛盾がないように地図を描くことができる.SLAMを行うロボットとしては,iRobot社のルンバ,LGエレクトロニクス社製掃除機のHOM-BOT,およびNeato社製のXV11が知られている.現在では,その機動性からUAVのSLAMへの適用が注目を浴びている.UAVによるSLAMは,安定性や自己位置推定の精度の問題はあるが,飛行しているために障害物や段差に強く,より詳細な地図を得られることが期待される.
他方,近年,オフィスなどの執務空間において快適性や知的生産性を向上させる環境に関する研究が盛んに行われている?) .なかでも光環境にその大きな要因があり,照度分布を正確に求めることで光環境を改善することを目指し,照度分布の計測に関する研究が行われている?) .本研究では環境センシングの一種として,上記のSLAMを用いた小型UAVによる新たな照度分布の計測方法について考察する.照度分布の計測における代表的な手法には,多数の照度センサを用いた計測手法?) や計算機シミュレーションによって求める手法?) などがある.多数の照度センサによる多点計測手法では,季節や天候により変化する外光の影響や,短時間で変化する直射日光の影響を計測できるため有用性の高い照度値を求めることができる.ただし,計測空間全体に照度センサを配置する必要があるため,計測環境の構築が容易でない.また,計算機シミュレーションでの計測では,照明器具毎に異なる劣化や汚れを考慮するためには様々なパラメータが必要となり,正確な照度分布を得ることは容易でない.
さらに,UAVによるSLAMの中でも特に,人間による操作を必要とせず自ら意思決定を行う自律型SLAMを実現することは,将来的に,空間移動型の照度センサを用いた知的照明環境を実現する上での研究開発においても重要であると考える.
2 自律型SLAMを用いた照度分布計測システム
提案システムには,ワイヤレス照度センサ,データを受信するワイヤレス照度センサ用親機,親機で受信したデータを蓄積するPC,および照度分布計測領域を移動するUAVを用いる.UAVにはParrot社製のラジコンヘリコプター(以下,AR.Drone)を使用する.本研究で用いるラジコンヘリコプターの仕様をTable1 に示す.

本研究の測定環境はオフィスを想定している.そのため,照明器具の間隔とサンプリング定理から,50cm間隔で照度データが観測される場合に限り照度分布計測が可能であるとする.これは参考文献?) を参考されたい.よって,UAVの移動領域を50cmグリッド領域に分割する.そして,領域内に存在するグリッド内を少なくとも1回は被覆する移動アルゴリズムをUAVは持っているものとする.取得した照度データには位置情報が含まれていない.そこで本研究では,取得した照度データの位置を把握するため,UAVに内蔵されたHDカメラを用いる.カメラを用いた位置推定については次節で述べる.
3 自己位置推定および環境地図作成
3.1 PTAMによる自己位置推定および環境地図作製
本研究では自己位置推定および環境地図作成をPTAM(Parallel Tracking and Mapping for Small AR Workspaces)によって実現する.PTAMとはマーカーなどの目印不要のARの手法なので初めて映す場所でも実行できる.また,最初の場所から少し移動してもトラッキングし続けることができるため常にマップを更新でき,マップの更新とトラッキングを別スレッドに分けて処理をしている机上などの狭い作業空間を想定している他の手法と比べても高速,正確かつ安定している.
PTAMでは,AR.Droneに内蔵されているカメラによりエッジを特徴量として高次元ベクトルで表現し,それを元に3次元空間上に環境地図を作成する.同時に自己位置推定を行うが,まずカメラ画像からはフレームごとの姿勢変化を元に粗い姿勢推定Eを得る.次にEを補正する並進回転変換を対数写像を用いて得られる6次元ベクトルでexp()と表す.なお環境地図中の特徴点は,これらの合成変換exp()Eとカメラ投影モデルを用いてカメラの2次元画像中へ投影される.そしてこの補正値を変化させた時に,カメラ画像中の特徴点と,投影された環境中の特徴点の誤差の総和が最も小さくなるようなμを求める.こうして得られた合成変換E' = exp(μ')Eがトラッキングの出力であり,そのフレームでの位置情報として利用する.この環境地図作成および自己位置推定を以下のFig.1に示すSLAMのフローチャートに従って繰り返し行う.
4 照度測定
提案手法の有用性を検証するため,本手法を用いて照度分布計測実験を行う.計測領域は3m×3mで,飛行時間が最大12分であることから計測時間を10分とし,照度差をつけるために蛍光ランプを2つ用いて検証を行う.実験環境をFig.2 に示す.
本研究で用いるAR.Drone は以下の項目1〜5の動作を行う.最初の90秒は項目1〜3の動作をし,以降は項目4,5を繰り返す.なお,AR.Droneの初期位置は測定領域の中心とする.
1. 初期位置から回転半径500mmになるようにアルキメデスの螺旋を描き移動する
2. 60秒後,その位置から壁に接触するまで直進する
3. 30秒間,壁に沿って移動する
4. 直進する
5. 壁に接触した場合,0〜359度の間でランダムに回転を行う
項目1〜5を基にシミュレータを作成する.第2章で前述したように,50cmグリッドを全て満たせば照度分布計測が可能であるため,全体のグリッド数に対して照度データが含まれていないグリッド(未取得領域)と時間の関係を求める.各点100回程度試行を行い,その割合の平均値をプロットして照度分布図を作成する.
5 まとめ
本稿では照度分布計測手法の新たな方法として,自律型SLAMを用いた計測手法を提案した.今後は本稿の通り自律型SLAMの移動アルゴリズムを検討し,測定領域と被覆率の関係から照度分布を作成した上で,シミュレーターを用いてラジコンヘリコプターの最適な動きの推定および定式化,最適な飛行時間の検討,および知的照明への応用を行う.」

(引1−イ)Fig.1




(引1−ウ)Fig.2




(2)ア 上記(引1−ウ)のFig.2の記載から、UAVがワイヤレス照度センサを備えていることが見て取れる。

イ 上記アを踏まえると、上記(引1−ア)ないし(引1−ウ)の記載から、引用文献1には、
「 カメラを用いて自己位置と周囲環境を示す地図の推定を同時に行い、人間による操作を必要とせず自ら意思決定を行う自律型SLAMを用いた照度分布計測システムであって、
ワイヤレス照度センサを備え照度分布計測領域を移動するUAV、データを受信するワイヤレス照度センサ用親機、親機で受信したデータを蓄積するPCを備え、
光環境を改善するための測定環境はオフィスであり、照明器具の間隔とサンプリング定理から、50cm間隔で照度データが観測される場合に限り照度分布計測が可能であるとし、そのためUAVの移動領域を50cmグリッド領域に分割し、
UAVは、領域内に存在するグリッド内を少なくとも1回は被覆する移動アルゴリズムを持っている、
照度分布計測システム。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の記載がある。
(引2−ア)「[0001] 無線で操縦可能な飛行体にカメラを取り付けて、そのカメラで撮像するという写真の撮像方法に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。飛行体にカメラを取り付けることで、上空からや、三脚が立てられない場所からの写真を撮像することが可能になる。また飛行体にカメラを取り付けて撮像することで、本物の飛行機やヘリコプターを使用した場合よりもコストを抑えることができる、安全に撮像ができる、低空や狭い場所でも撮像ができる、目標に接近して撮像ができる等の様々な利点がもたらされる。」

(引2−イ)「[0005] 例えば、 飛行体を制御する技術は高い技術を要するものであり、かつ、撮影に特化したものではない。ユーザは飛行体の飛行操作とカメラの撮影操作とを行う必要があるため、一般的なカメラユーザには操作の難易度が高く、被写体やロケーションに応じた効果的な撮影を行うことは困難であった。」

(引2−ウ)「[0007] 本開示によれば、飛行体の飛行ルートを示す飛行ルート情報のテンプレートを提示し、ユーザの操作に基づいて、選択されたテンプレートの飛行ルート情報と飛行体の飛行範囲とを対応させ、飛行体の飛行ルート情報を生成する飛行ルート生成部を備える、情報処理装置が提供される。」

(引2−エ)「[0017] 本実施形態に係る撮像システムは、図1に示すように、情報処理端末10と飛行デバイス(飛行体)20とからなり、互いに通信可能に構成されている。情報処理端末10は、例えばスマートフォンやタブレット端末等の機器であり、本実施形態に係る撮像システムにおいて、飛行デバイス20の飛行ルート情報を作成するための機器として用いられる。情報処理端末10は、通信機能を備えていることで、作成した飛行ルート情報を飛行デバイス20へ送信することができる。
[0018] 一方、飛行デバイス20は、飛行ルート情報に基づいて飛行するデバイスである。本実施形態に係る飛行デバイス20には、撮像装置22が設けられている。飛行デバイス20は、飛行ルート情報に基づき飛行しながら、飛行ルート情報とともに設定されたカメラアングルやフレーミングに基づき撮像装置22による撮影を行う。」

(引2−オ)「[0046] サーバ30のテンプレート記憶部310に記憶されている各テンプレートは、飛行ルート情報として、飛行デバイス20の飛行ルートと、飛行デバイス20の撮像装置22の撮像設定情報とを有している。例えば、テンプレートは、デジタルデータとして、予め定められた飛行デバイス20が飛行すべき複数の地点の3次元的な位置情報と、各地点への移動の順序を示す情報とを含む。」

(2)上記(引2−ア)ないし(引2−オ)の記載から、引用文献2には、
「 互いに通信可能に構成されている情報処理端末10と飛行デバイス20とからなる撮像システムであって、
情報処理端末10は、飛行デバイス20の飛行ルート情報を作成するための機器であり、飛行デバイス20の飛行ルートを示す飛行ルート情報のテンプレートを提示し、ユーザの操作に基づいて、選択されたテンプレートの飛行ルート情報と飛行デバイス20の飛行範囲とを対応させ、飛行デバイス20の飛行ルート情報を生成する飛行ルート生成部を備え、作成した飛行ルート情報を飛行デバイス20へ送信し、
飛行ルート情報のテンプレートは、予め定められた飛行デバイス20が飛行すべき複数の地点の3次元的な位置情報と、各地点への移動の順序を示す情報とを含み、
飛行デバイス20には、撮像装置22が設けられており、飛行ルート情報に基づき飛行しながら、飛行ルート情報とともに設定されたカメラアングルやフレーミングに基づき撮像装置22による撮影を行う、
撮像システム。」
という技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

3 引用文献3について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、以下の記載がある。
(引3−ア)「1.まえがき
この基準は,一般の照明施設について,その施設の照度を測定する場合の一般的方法について述べたものである.」(第31頁右欄5〜8行)

(引3−イ)「3.測定点の設定
測定点(受光面の置かれる位置)の高さは,特に指定されなければ次を標準とする.
屋内
(a)事務所・工場 床上 85cm
・・・
なお測定点の平面的配置,測定方向は,個々の場合の条件を考慮して決定すること.」(第31頁右欄下から2行〜第32頁左欄10行)

(引3−ウ)「8.測定条件の記録
測定の目的に応じて,測定値に影響を与えるような項目について,適宜記録しておく,一般的にあげると次のような項目がある.
・・・
(2)測定方法
測定器,測定点,測定方向,電源電圧,電源周波数」(第37頁右欄5〜13行)

(2)上記(引3−ア)ないし(引3−ウ)の記載から、引用文献3には、
「 一般の照明施設の照度を測定する場合、測定点の平面的配置,測定方向は,個々の場合の条件を考慮して決定し、事務所における測定点の高さの標準は床上85cmであり、測定値に影響を与えるような測定点、測定方向などの項目について、適宜記録しておくこと。」
という技術事項(以下「引用文献3技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

4 引用文献4について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、以下の記載がある。
(引4−ア)「【0025】
図1を参照して、本実施の形態における栽培ロボットシステムは、1つもしくは複数の栽培ロボット102と、栽培ロボット102が取得したデータを処理する栽培管理ユニット105と、外部情報を入手して、栽培管理ユニット105に伝達する外部環境モニタリングユニット106とを備え、温室100に栽培される栽培作物101の成長度合いを管理するシステムである。
【0026】
栽培ロボット102は、飛行機能、あるいはホバリング機能を備える小型の羽ばたきロボットであって、その構造の詳細については後に述べる。
【0027】
栽培管理ユニット105は、一般的なパーソナルコンピュータ等のコンピュータによって構築することができる。そのため、ここでの詳細な構成の説明は行なわない。栽培管理ユニット105は、温湿度センサや風力センサ、照度センサを備える栽培ロボット102から、移動して検知した温室100内の温度や湿度、気流、照度の分布等のデータを受信する。」

(引4−イ)「【0033】
このように、栽培ロボット102が、温湿度センサ、風力センサ、および照度センサ等を備え、また、温室100内をくまなく移動できる飛行機能あるいはホバリング機能を備えることで、温室100や部屋の内部の温度、湿度、気流、照度などのばらつきを3次元的に測定できる。このため、本実施の形態における栽培ロボットシステムでは、個々の作物100の生育環境を正確に把握できる。また、作物101の成長に合わせて、重要な測定ポイントを連続的に変えることもできる。」

(2)上記(引4−ア)及び(引4−イ)の記載から、引用文献4には、
「 1つもしくは複数の栽培ロボット102と、栽培ロボット102が取得したデータを処理する栽培管理ユニット105と、外部情報を入手して、栽培管理ユニット105に伝達する外部環境モニタリングユニット106とを備え、温室100に栽培される栽培作物101の成長度合いを管理する栽培ロボットシステムであって、
栽培ロボット102は、照度センサ等を備え、温室100内をくまなく移動できる飛行機能あるいはホバリング機能を備えることで、温室100や部屋の内部の照度などのばらつきを3次元的に測定できる、
栽培ロボットシステム。」
という技術事項(以下「引用文献4技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

5 引用文献5について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、以下の記載がある。
(引5−ア)「【0001】
本発明は、ヘリコプターによる地表の観測・撮影並びに解析に関するもので、特にラジコンヘリコプターを用いて、無線操縦により地表若しくは地中に存在する物質を詳細に同定する技術に関するものである。」

(引5−イ)「【0008】
上記課題解決の目的を達成するために、本願発明者は、有用な機材を搭載したラジコンヘリコプターを採用し、当該ラジコンヘリコプターから得られる情報とコンピュータに予めデータとして保有している地表からの光反射スペクトル並びにレーダー反射エコーとを照合し、当該地点の位置を把握すると同時に、地上若しくは地中の状況を詳細に且つ迅速に把握できる手段を提供するものである。
【0009】
上記手段を提供する具体的なシステムと操作は
(1)ラジコンヘリコプターにGPS、無線受信機及び無線発信機を搭載し、
(2)さらに、上下並びに円周方向に可動する架台を当該ラジコンヘリコプターに取付、
(3)当該架台に、デジタルカメラ、赤外線カメラ、CCDカメラ及び光反射スペクトル測定装置を装着し、
(4)若しくは、当該架台にレーダー発信機を装着し、
(5)以て、当該ラジコンヘリコプターを遠隔操作で飛行並びに空中で静止せしめ、空中より被測定箇所に前記した、デジタルカメラ、赤外線カメラ、CCDカメラ及び光反射スペクトル測定装置若しくはレーダー発信機を操作して、必要な情報を入手し、
(6)当該情報を無線で、遠隔地に送信してこれを受信し、
(7)遠隔地で受信した当該データをコンピュータに取り込み、
(8)予め、当該コンピュータに蓄積してあるデータと照合して解析し、
(9)前記した測定箇所の位置と概観・形状を把握し、
(10)さらに、当該測定箇所に存在する物質の性状を同定する。」

(2)上記(引5−ア)及び(引5−イ)の記載から、引用文献5には、
「 ラジコンヘリコプターにGPS、無線受信機及び無線発信機を搭載し、
当該ラジコンヘリコプターに取り付けた架台に、デジタルカメラ、赤外線カメラ、CCDカメラ及び光反射スペクトル測定装置を装着し、
当該ラジコンヘリコプターを遠隔操作で飛行及び空中で静止せしめ、空中より被測定箇所に前記した、デジタルカメラ、赤外線カメラ、CCDカメラ及び光反射スペクトル測定装置を操作して、必要な情報を入手し、コンピュータに蓄積してあるデータと照合して解析し、当該測定箇所に存在する物質の性状を同定する、技術。」
という技術事項(以下「引用文献5技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「UAV」は無人航空機であるから、引用発明の「照度分布計測領域を移動するUAV」は、本願発明1の「3次元の空間を移動する機体を有する移動体」に相当する。

イ 引用発明の「データを受信するワイヤレス照度センサ用親機」は、「UAV」に備えられている「ワイヤレス照度センサ」からデータをワイヤレスで受信するものであるから、引用発明の「データを受信するワイヤレス照度センサ用親機」と、本願発明1の「前記移動体との無線通信が可能な制御装置」とは、「前記移動体との無線通信が可能な通信装置」で共通する。

ウ 引用発明の「照度分布計測システム」は、「オフィス」の「光環境を改善するため」のものであり、「照明器具の間隔とサンプリング定理から、50cm間隔で照度データが観測される場合に限り照度分布計測が可能であると」することから、「オフィス」の照明環境を計測するものといえる。
すると、引用発明の「照度分布計測システム」は、本願発明1の「照明環境計測システム」に相当する。

エ 引用発明の「UAV」に備えられた「ワイヤレス照度センサ」は、本願発明1の「前記機体に搭載された照明環境を計測するセンサ」に相当する。

オ 引用発明は、「50cm間隔で照度データが観測される場合に限り照度分布計測が可能であると」することから、引用発明の各「50cmグリッド領域」は、計測位置であるといえる。
すると、引用発明の「領域内に存在するグリッド内を少なくとも1回は被覆する移動アルゴリズムを持っている」、「照度分布計測領域を移動するUAV」は、本願発明1の「前記機体を前記計測位置へ移動させた後に前記計測位置で待機させる推進部」と、「前記機体を前記計測位置へ移動させる推進部」で共通する構成を備えているといえる。

カ 引用発明は、「50cm間隔で照度データが観測される場合に限り照度分布計測が可能であると」することから、引用発明は、各「50cmグリッド領域」で照度計測を行うものである。
すると、引用発明の「領域内に存在するグリッド内を少なくとも1回は被覆する移動アルゴリズムを持っている」、「ワイヤレス照度センサを備え照度分布計測領域を移動するUAV」は、本願発明1の「前記計測位置において照明環境を計測する方向を確認し、確認した方向を基準に前記計測位置において前記機体を静止させた状態で前記センサを用いて照明環境として当該計測位置における鉛直面照度もしくは下向きの水平面照度を計測する制御部」と、「前記計測位置において前記センサを用いて照明環境として当該計測位置における照度を計測する制御部」で共通する構成を備えているといえる。

(2)そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「 3次元の空間を移動する機体を有する移動体と前記移動体との無線通信が可能な通信装置とを有する照明環境計測システムであって、
前記移動体は、
前記機体に搭載された照明環境を計測するセンサと、
前記機体を前記計測位置へ移動させる推進部と、
前記計測位置において前記センサを用いて照明環境として当該計測位置における照度を計測する制御部と、を有する、
照明環境計測システム。」
の発明の点で一致し、以下の3点において相違する。

(相違点1)
移動体を計測位置へ移動させる方式について、本願発明1においては、「通信装置」が「制御装置」であり、移動体が「前記制御装置から送信される計測位置を示す3次元の位置情報を受信する受信部」を備え、推進部が「前記機体を前記計測位置へ移動させ」るのに対し、引用発明においては、「通信装置」が「データを受信するワイヤレス照度センサ用親機」であって、計測位置を示す3次元の位置情報をUAVへ送信するものではなく、「UAV」は自身が持っている「領域内に存在するグリッド内を少なくとも1回は被覆する移動アルゴリズム」により移動する点。

(相違点2)
計測位置での照度の計測の仕方について、本願発明1においては、「推進部」が「前記機体を」「前記計測位置で待機させる」ことができ、「制御部」が「前記計測位置において照明環境を計測する方向を確認し、確認した方向を基準に前記計測位置において前記機体を静止させた状態で」「計測する」のに対し、引用発明においては、そのような特定はされていない点。

(相違点3)
計測位置において計測する照度が、本願発明1においては、「鉛直面照度もしくは下向きの水平面照度」であるのに対し、引用発明においては、そのような特定はされていない点。

(3)判断
ア 事案に鑑み、最初に上記相違点3について検討する。
(ア)引用文献1には、照度の測定方向について明記はないが、一般的なオフィスにおける照明は天井から床面に向けて行うことから、上向きの水平面照度を計測することを想定しているものと解される。

(イ)引用文献3技術事項は、オフィスにおける照度の計測方向を明示するものではないが、事務所における照度の測定点の高さの標準が床上85cmであることを開示している。
ここで、床上85cmという高さは、一般的な事務机の高さと同程度であることから、引用文献3技術事項が床上85cmを事務所における照度測定点の高さの標準としている理由は、机上における上向きの水平面照度を計測することを想定していることによるものと解される。

(ウ)引用文献2技術事項は、撮像システムに係るものであって、オフィスにおける照度の計測方向を開示するものではない。

(エ)引用文献4技術事項は、栽培ロボット102が照度センサ等を備え、温室100内をくまなく移動できる飛行機能あるいはホバリング機能を備えることで、温室100や部屋の内部の照度などのばらつきを3次元的に測定できることを開示するが、オフィスにおける照度の計測方向を開示するものではない。

(オ)引用文献5技術事項は、測定箇所に存在する物質の性状を同定する技術に係るものであって、オフィスにおける照度の計測方向を開示するものではない。

(カ)そして、本願出願時において、オフィスにおける照度測定として、鉛直面照度又は下向きの水平面照度を計測することが技術常識であったとも認められない。

(キ)そうすると、光環境を改善するための測定環境をオフィスとする引用発明において、鉛直面照度又は下向きの水平面照度を計測することを動機付ける事情があるとはいえない。

(ク)したがって、引用文献1ないし5に接した当業者といえども、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。

イ 以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2技術事項ないし引用文献5技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2も、本願発明1の「計測位置における鉛直面照度もしくは下向きの水平面照度を計測する」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2技術事項ないし引用文献5技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定について
令和3年7月1日にされた手続補正により、本願発明1及び2は、「計測位置における鉛直面照度もしくは下向きの水平面照度を計測する」という構成を有するものとなっており、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1ないし5に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の拒絶の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-07-05 
出願番号 P2016-228075
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01J)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 石井 哲
特許庁審判官 渡戸 正義
伊藤 幸仙
発明の名称 照明環境計測システム  
代理人 河野 仁志  
代理人 熊谷 昌俊  

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