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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1387074
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-20 
確定日 2022-03-29 
事件の表示 特願2020−500580「ユーザ装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月22日国際公開、WO2019/160083、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)2月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2018年2月15日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年 8月 7日 :手続補正書の提出
令和2年11月12日付け:拒絶理由通知書
令和3年 1月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 4月15日付け:拒絶査定
令和3年 7月20日 :拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和3年4月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1、5及び6に対して、引用例1、2、5
・請求項2ないし4に対して、引用例1ないし4

引用文献等一覧
1.国際公開第2016/190254号(以下、「引用例1」という。)
2.国際公開第2014/157074号(以下、「引用例2」という。)
3.CMCC, Nokia, Xiaomi, OPPO,New WID: Bluetooth/WLAN measurement collection in MDT,3GPP TSG RAN #78 RP-172820,2017年12月21日(以下、「引用例3」という。)
4.特開2015−142171号公報(以下、「引用例4」という。)
5.特表2015−526986号公報(以下、「引用例5」という。)

第3 本願発明
本願請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和3年7月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
セルラ通信システムのユーザ装置であって、
WLAN及び/又はブルートゥースによる無線通信を行う通信部と、
前記セルラ通信システムのネットワークから送信され、前記セルラ通信システムを測定対象とするMDT測定を設定する設定メッセージを受信するセルラ受信部と、
前記設定メッセージに基づいて前記セルラ通信システムに対する無線測定を行う制御部と、
送信部と、を備え、
前記制御部は、前記セルラ通信システムに対する測定結果を含むMDT測定情報を記録し、
前記制御部は、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含め、
前記送信部は、前記セルラ通信システムに対する測定結果が前記MDT測定情報に含まれることを示す第1可用性インジケータを前記ネットワークに送信し、
前記送信部は、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含める場合に、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果が前記MDT測定情報にさらに含まれることも示す第2可用性インジケータを前記ネットワークに送信し、
前記送信部は、前記WLANに対する測定結果として、前記WLANの無線信号の送信元識別子と、前記無線信号のRSSIと、Round trip timeとの組み合わせを前記ネットワークに報告し、
前記制御部は、前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含めるユーザ装置。
【請求項2】
GNSS位置情報を取得するためのGNSS受信部をさらに備え、
前記制御部は、前記GNSS位置情報を取得不能であり、かつ、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含める、請求項1に記載のユーザ装置。
【請求項3】
前記セルラ受信部は、前記ネットワークのセルにおいてブロードキャストされ、識別子リストを含むシステム情報ブロックをさらに受信し、
前記識別子リストは、1又は複数のWLAN識別子及び/又は1又は複数のブルートゥース識別子を含み、
前記制御部は、前記識別子リスト中の識別子に限定して前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する無線測定を行う、請求項1に記載のユーザ装置。
【請求項4】
セルラ通信システムのユーザ装置を制御するプロセッサであって、
前記セルラ通信システムのネットワークから送信され、前記セルラ通信システムを測定対象とするMDT測定を設定する設定メッセージを受信する処理と、
前記設定メッセージに基づいて前記セルラ通信システムに対する無線測定を行う処理と、
前記セルラ通信システムに対する測定結果を含むMDT測定情報を記録する処理と、
WLAN及び/又はブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含める処理と、
前記セルラ通信システムに対する測定結果が前記MDT測定情報に含まれることを示す第1可用性インジケータを前記ネットワークに送信する処理と、
前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含める場合に、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果が前記MDT測定情報にさらに含まれることも示す第2可用性インジケータを前記ネットワークに送信する処理と、
前記WLANに対する測定結果として、前記WLANの無線信号の送信元識別子と、前記無線信号のRSSIと、Round trip timeとの組み合わせを前記ネットワークに報告する処理と、
前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める処理と、を実行する
プロセッサ。
【請求項5】
セルラ通信システムのユーザ装置において実行される方法であって、
前記セルラ通信システムのネットワークから送信され、前記セルラ通信システムを測定対象とするMDT測定を設定する設定メッセージを受信するステップと、
前記設定メッセージに基づいて前記セルラ通信システムに対する無線測定を行うステップと、
前記セルラ通信システムに対する測定結果を含むMDT測定情報を記録するステップと、
WLAN及び/又はブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含めるステップと、
前記セルラ通信システムに対する測定結果が前記MDT測定情報に含まれることを示す第1可用性インジケータを前記ネットワークに送信するステップと、
前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含める場合に、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果が前記MDT測定情報にさらに含まれることも示す第2可用性インジケータを前記ネットワークに送信するステップと、
前記WLANに対する測定結果として、前記WLANの無線信号の送信元識別子と、前記無線信号のRSSIと、Round trip timeとの組み合わせを前記ネットワークに報告するステップと、
前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含めるステップと、を有する
方法。」

第4 引用例の記載及び引用発明
1 原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開第2016/190254号(引用例1)には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

(1) 「[0070] (端末主導型の切り替え制御の基本動作)
3GPPのリリース12以降において、セルラ・WLAN無線インターワーキング技術がサポートされている。このような技術では、RRCコネクティッド状態又はRRCアイドル状態のUE100は、E−UTRAN10とWLAN30との間で双方向のトラフィック切り替え(ネットワークセレクション及びトラフィック・ステアリング)を行う。」

(2) 「[0090] (無線端末)
以下において、実施形態に係る無線端末について説明する。図2は、実施形態に係るUE100を示すブロック図である。
[0091] 図2に示すように、UE100は、LTE無線通信部110と、WLAN無線通信部120と、制御部130とを有する。」

(3) 「[0125] ステップS140において、UE100は、AP300に関する報告をeNB200に送信する。eNB200は、AP300に関する報告を受信する。
(略)
[0127] UE100は、AP300に関する報告として、AP300の識別子(WLAN識別子)をeNB200に送信する。AP300の識別子は、例えば、SSID、BSSID(Basic Service Set Identifier)、HESSID(Homogenous Extended Service Set Identifier)等である。また、UE100は、AP300からの無線信号の受信時間及びAP300からの無線信号の信号強度の少なくともいずれかの情報をeNB200に送信してもよい。」

(4) 「[0137] (他の実施形態)
次に、第1実施形態に関連する他の実施形態について、図6を用いて説明する。図6は、その他の実施形態に係る動作を説明するための図である。実施形態と同様の部分は、説明を適宜省略する。
[0138] 図6に示すように、ステップS210において、eNB200−1は、MDT(Minimization of Drive Test)に関する設定情報をUE100に送信する。例えば、設定情報は、記憶型MDT(Logged MDT)に関する設定情報である。
[0139] なお、Logged MDTでは、RRCアイドル状態のUE100が、ネットワーク(eNB200−1)から設定された測定パラメータに従って無線環境の測定を行い、該測定の結果を位置情報及び時間情報と共に測定データとして記憶する。UE100は、RRCコネクティッド状態に移行した後、測定データをネットワークに報告する。
[0140] 設定情報は、AP300に関する報告の対象となるAP300を特定するための制御情報を含む。
[0141] UE100は、設定情報に基づいて、測定を行い、測定データを記憶する。
[0142] ステップS220及びS230は、ステップS120及びS130に対応する。
[0143] ステップS240において、UE100は、RRCコネクティッド状態(RRCコネクティッドモード)に移行する。
[0144] ステップS250において、UE100は、eNB200−1とRRC接続との接続が完了したことを示すメッセージ(RRC connection establishment complete)をeNB200−1に送信する。当該メッセージは、UE100が測定データを有することを示すインジケータを含む。
[0145] ステップS260において、メッセージを受信したeNB200−1は、インジケータに基づいて、測定データを要求するためのUE情報要求(UE information request)をUE100に送信する。
[0146] ステップS270において、UE情報要求を受信したUE100は、UE情報報告(UE information report)をeNB200に送信する。UE情報報告は、測定結果を含む。
[0147] ここで、測定結果は、AP300の無線信号に関する測定結果を含む。従って、UE情報報告は、上述のステップS140におけるAP300に関する報告(の内容)を含む。」

(5) 「[図6]




上記記載及び当業者の技術常識を考慮すると、次のことがいえる。

ア 上記「(1)」の段落70に「UE100は、E−UTRAN10とWLAN30との間で双方向のトラフィック切り替え(ネットワークセレクション及びトラフィック・ステアリング)を行う。」と記載されていることから、UEは、E−UTRANとWLANとの間で双方向のトラフィック切り替えを行うUEといえる。

イ 上記「(2)」の段落91に「UE100は、LTE無線通信部110と、WLAN無線通信部120と、制御部130とを有する。」と記載されていることから、UEは、WLAN無線通信部と、LTE無線通信部と、制御部を備えている。

ウ 上記「(4)」の段落138に「ステップS210において、eNB200−1は、MDT(Minimization of Drive Test)に関する設定情報をUE100に送信する。例えば、設定情報は、記憶型MDT(Logged MDT)に関する設定情報である。」と記載され、段落140に「設定情報は、AP300に関する報告の対象となるAP300を特定するための制御情報を含む。」及び、段落141に「UE100は、設定情報に基づいて、測定を行い、測定データを記憶する。」と記載されていることから、UEは、eNBから送信され、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含むMDTに関する設定情報を受信するといえる。

エ 上記「(4)」の段落138に「ステップS210において、eNB200−1は、MDT(Minimization of Drive Test)に関する設定情報をUE100に送信する。例えば、設定情報は、記憶型MDT(Logged MDT)に関する設定情報である。」と記載され、及び、段落141に「UE100は、設定情報に基づいて、測定を行い、測定データを記憶する。」と記載されていることから、UEは、MDTに関する設定情報に基づいて、測定を行い、測定データを記憶するといえる。

オ 上記「(4)」の段落146に「ステップS270において、UE情報要求を受信したUE100は、UE情報報告(UE information report)をeNB200に送信する。UE情報報告は、測定結果を含む。」、及び、段落147に「ここで、測定結果は、AP300の無線信号に関する測定結果を含む。」と記載されていることから、UE情報報告はAPの無線信号に関する測定結果を含む。

カ 上記「(4)」の段落144に「ステップS250において、UE100は、eNB200−1とRRC接続との接続が完了したことを示すメッセージ(RRC connection establishment complete)をeNB200−1に送信する。当該メッセージは、UE100が測定データを有することを示すインジケータを含む。」と記載されていることから、UEは測定データを有することを示すインジケータを含むメッセージをeNBに送信するといえる。

キ 上記「(4)」の段落147に「UE情報報告は、上述のステップS140におけるAP300に関する報告(の内容)を含む。」と記載されており、ステップS140については、上記「(3)」の段落125に「ステップS140において、UE100は、AP300に関する報告をeNB200に送信する。」、及び、段落127に「UE100は、AP300に関する報告として、AP300の識別子(WLAN識別子)をeNB200に送信する。・・・UE100は、・・・AP300からの無線信号の信号強度・・・の情報をeNB200に送信してもよい。」と記載されていることから、UEは、UE情報報告としてWLAN識別子とAPからの無線信号の信号強度の情報をeNBへ送信するといえる。

したがって、以上を総合すると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 E−UTRANとWLANとの間で双方向のトラフィック切り替えを行うUEであって、
WLAN無線通信部と、LTE無線通信部と、制御部を備え、
eNBから送信され、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含むMDTに関する設定情報を受信し、
MDTに関する設定情報に基づいて、測定を行い、測定データを記憶し、
UE情報報告はAPの無線信号に関する測定結果を含み、
測定データを有することを示すインジケータを含むメッセージをeNBに送信し、
UE情報報告としてWLAN識別子とAPからの無線信号の信号強度の情報をeNBへ送信する
UE。」

2 原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開第2014/157074号(引用例2)には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

(1)「[0001] 本発明は、MDTをサポートする移動通信システムにおいて用いられる通信制御方法、ユーザ端末、ネットワーク装置、及び基地局に関する。」

(2)「[0077] 図10に示すように、ステップS221において、UE100は、Availabilityインジケータと共に、RAT Aを示すRAT識別子及びRAT Bを示すRAT識別子を基地局200−1に送信する。」

したがって、引用例2には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「MDTをサポートする移動通信システムにおいて、UE100は、Availabilityインジケータと共に、RAT Aを示すRAT識別子及びRAT Bを示すRAT識別子を基地局200−1に送信する。」

3 原査定の拒絶の理由に引用された、CMCC, Nokia, Xiaomi, OPPO,New WID: Bluetooth/WLAN measurement collection in MDT(当審訳:新WID:MDTにおけるBluetooth/WLANの計測収集),3GPP TSG RAN #78 RP-172820,2017年12月21日(引用例3)には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「3 Justification
(略)
Furthermore, the WLAN/Bluetooth measurements can also be used as location information through Bluetooth/WLAN based RF fingerprint. This kind of location information is valuable and important for MDT itself especially for the indoor scenario where GNSS is not available.」(2ページ第7行ないし第19行)
(当審訳:
3 正当化
(略)
さらに、WLAN/Bluetooth測定値は、Bluetooth/WLANベースのRFフィンガープリントを介した位置情報としても使用できる。この種の位置情報は、MDT自体にとって、特にGNSSが利用できない屋内シナリオにとって価値があり重要である。)

したがって、引用例3には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「WLAN/Bluetooth測定値は、位置情報として使用でき、MDT自体にとって、特にGNSSが利用できない屋内シナリオにとって価値があり重要である。」

4 原査定の拒絶の理由に引用された、特開2015−142171号公報(引用例4)には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0039】
第2の取得部32は、GPS位置情報が取得可能な状態でない場合(ステップS39否定)、WLAN位置情報が取得可能な状態であるか否かを判定する(ステップS43)。尚、WLAN位置情報が取得可能な状態であるか否かを判定する処理は、WLAN無線部12でSSID及び電波強度を取得でき、かつ、サーバ5からWLAN位置情報を取得できる環境下にあるか否かで判定する。第2の取得部32は、WLAN位置情報が取得可能な状態の場合(ステップS43肯定)、WLAN位置情報及び電波強度を取得する(ステップS44)。第2の制御部35は、第2の取得部32で取得したWLAN位置情報を位置要求の要求発信元に提供する(ステップS45)。更に、第2の制御部35は、第2の取得部32で取得したWLAN位置情報及び電波強度を現在のSSIDに対応付けて位置テーブル20内に登録し(ステップS46)、図6に示す処理動作を終了する。」

したがって、引用例4には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「GPS位置情報が取得可能な状態でない場合、かつ、WLAN位置情報が取得可能な状態の場合、WLAN位置情報を取得する。」

5 原査定の拒絶の理由に引用された、特表2015−526986号公報(引用例5)には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0086】
いくつかの実施形態では、クライアント(たとえば、図2のクライアント210)と無線AP(たとえば、図2の無線AP 220)との間の通信に関係する1ホップ性能メトリックが、測定される。これらの実施形態のいくつかでは、無線APまたは測定サーバによって収集される1ホップ性能に関する測定される性能メトリックは、小パケットのラウンド・トリップ時間(RTT)、大パケットのRTT、アップリンク・スループット、またはダウンリンク・スループットを含む。1ホップ性能測定は、受動的測定または能動的測定を含むことができる。」

したがって、引用例5には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「測定される性能メトリックはラウンド・トリップ時間(RTT)を含む。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。
ア 引用発明のUEは、LTE無線通信部を備え、E−UTRANと通信するものであり、LTE及びE−UTRANがセルラ通信システムであることは技術常識であるから、引用発明のUEはセルラ通信システムのUEといえる。そして、UEはユーザ装置といえることから、引用発明の「LTE無線通信部」を備える「UE」は、本願発明1の「セルラ通信システムのユーザ装置」に相当する。

イ 引用発明の「WLAN無線通信部」は、WLANによる無線通信を行う通信部であるから、本願発明1の「WLAN及び/又はブルートゥースによる無線通信を行う通信部」に含まれる。

ウ 引用発明のUEは、「LTE無線通信部」を備え、「eNBから送信され、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含むMDTに関する設定情報を受信」するものであるから、引用発明のUEの「LTE無線通信部」は「eNBから送信され、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含むMDTに関する設定情報を受信」する「LTE無線通信部」といえる。
ここで、eNBはセルラ通信システムのネットワークの一部であることは技術常識である。そして、引用発明のMDTの測定はE−UTRANとWLANとの間で双方向のトラフィック切り替えのために行われていることから、引用発明のMDTの測定はセルラ通信システムを測定対象として含むことは明らかである。よって、引用発明の「MDTに関する設定情報」は、本願発明1と同様に、セルラ通信システムを測定対象とするMDT測定を設定する設定情報といえる。また、設定情報は設定メッセージの一種といえる。そして、引用発明の「LTE無線通信部」は、本願発明1と同様に、セルラ受信部といえる。
したがって、引用発明のUEの「eNBから送信され、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含むMDTに関する設定情報を受信」する「LTE無線通信部」は、本願発明1の「セルラ通信システムのネットワークから送信され、前記セルラ通信システムを測定対象とするMDT測定を設定する設定メッセージを受信するセルラ受信部」に相当する。
また、引用発明のUEの「LTE無線通信部」はLTEのeNBへの送信部も備えていることは明らかであるから、引用発明のUEの「LTE無線通信部」は、本願発明1の「送信部」に含まれる。

エ 引用発明のUEは、「制御部」を備え、「eNBから送信され、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含むMDTに関する設定情報を受信し、MDTに関する設定情報に基づいて、測定を行」うことから、引用発明のUEの「制御部」は「設定情報に基づいて測定を行」う「制御部」といえる。
ここで、上記「ウ」で説示したように、引用発明の測定対象にはセルラ通信システムが含まれることから、引用発明の測定にはセルラ通信システムに対する無線測定が含まれる。そして、上記「ウ」で説示したように、設定情報は設定メッセージの一種といえる。
よって、引用発明の「設定情報に基づいて測定を行」う「制御部」は、本願発明1の「設定メッセージに基づいてセルラ通信システムに対する無線測定を行う制御部」に相当する。

オ 引用発明のUEは、「制御部」を備え、「MDTに関する設定情報に基づいて、測定を行い、測定データを記憶」することから、引用発明のUEの「制御部」は「MDTに関する設定情報に基づいて、測定を行い、測定データを記憶」するといえる。
ここで、上記「ウ」で説示したように、引用発明の測定対象にはセルラ通信システムが含まれることから、引用発明の「測定データ」はセルラ通信システムに対する測定結果を含んでいる。また、引用発明の「測定データ」はMDTに関する設定情報に基づいて測定していることから、MDT測定情報といえる。よって、引用発明の「測定データ」は、本願発明1と同様に、セルラ通信システムに対する測定結果を含むMDT測定情報といえる。
よって、引用発明の「制御部」は「MDTに関する設定情報に基づいて、測定を行い、測定データを記憶」することは、本願発明1の「制御部は、セルラ通信システムに対する測定結果を含むMDT測定情報を記録」することに相当する。

カ 引用発明のUEは、「制御部」を備え、「UE情報報告はAPの無線信号に関する測定結果を含」むことから、引用発明のUEの「制御部」は「APの無線信号に関する測定結果」を「UE情報報告」に含めるといえる。
ここで、引用発明の「APの無線信号に関する測定結果」は、WLANに対する測定結果であることは明らかであるから、本願発明1の「WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果」に含まれる。また、引用発明の「UE情報報告」は、MDTに関する設定情報に基づいて行われた測定の情報であるから、本願発明1と同様に、MDT測定情報といえる。
よって、引用発明のUEの「制御部」は「APの無線信号に関する測定結果」を「UE情報報告」に含めることは、本願発明1の「制御部は、WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果をMDT測定情報に含め」ることに含まれる。

キ 引用発明のUEは、「LTE無線通信部」を備え、「測定データを有することを示すインジケータを含むメッセージをeNBに送信」することから、引用発明のUEの「LTE無線通信部」は「測定データを有することを示すインジケータを含むメッセージをeNBに送信」するといえる。
ここで、上記「ウ」で説示したように、引用発明のUEの「LTE無線通信部」は、本願発明1の「送信部」に含まれる。また、上記「ウ」で説示したように、引用発明のMDTの測定はセルラ通信システムを測定対象として含まれることは明らかであるから、引用発明の「測定データ」にはセルラ通信システムに対する測定結果が含まれる。よって、引用発明の「インジケータ」はセルラ通信システムに対する測定結果がUE情報報告に含まれることを示しているといえる。更に、上記「カ」で説示したように、引用発明の「UE情報報告」は、MDTに関する設定情報に基づいて行われた測定の情報であるから、本願発明1と同様に、MDT測定情報といえる。そして、引用発明の「インジケータ」は本願発明1の「第1可用性インジケータ」に相当する。そして、上記「ウ」で説示したように、eNBはセルラ通信システムのネットワークの一部であることは技術常識である。
よって、引用発明のUEの「LTE無線通信部」は「測定データを有することを示すインジケータを含むメッセージをeNBに送信」することは、本願発明1の「送信部は、セルラ通信システムに対する測定結果がMDT測定情報に含まれることを示す第1可用性インジケータをネットワークに送信」することに含まれる。

ク 引用発明のUEは、「LTE無線通信部」を備え、「UE情報報告としてWLAN識別子とAPからの無線信号の信号強度の情報をeNBへ送信する」ことから、引用発明のUEの「LTE無線通信部」は「UE情報報告としてWLAN識別子とAPからの無線信号の信号強度の情報をeNBへ送信する」といえる。
ここで、引用発明の「APからの無線信号の信号強度の情報」はWLANに対する測定結果といえることは明らかであるから、「APからの無線信号の信号強度の情報」を含む「UE情報報告」はWLANに対する測定結果といえる。また、引用発明の「WLAN識別子」は、本願発明1の「WLANの無線信号の送信元識別子」に相当し、引用発明の「APからの無線信号の信号強度の情報」は、本願発明1の「無線信号のRSSI」に相当する。よって、引用発明の「WLAN識別子とAPからの無線信号の信号強度の情報」は本願発明1の「WLANの無線信号の送信元識別子と、前記無線信号のRSSIとの組み合わせ」に相当する。そして、上記「ウ」で説示したように、eNBはセルラ通信システムのネットワークの一部であることは技術常識である。
したがって、引用発明のUEの「LTE無線通信部」は「UE情報報告としてWLAN識別子とAPからの無線信号の信号強度の情報をeNBへ送信する」ことは、本願発明1の「送信部は、WLANに対する測定結果として、前記WLANの無線信号の送信元識別子と、前記無線信号のRSSIとの組み合わせをネットワークに報告」することに相当する。

以上を総合すると、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
「 セルラ通信システムのユーザ装置であって、
WLAN及び/又はブルートゥースによる無線通信を行う通信部と、
前記セルラ通信システムのネットワークから送信され、前記セルラ通信システムを測定対象とするMDT測定を設定する設定メッセージを受信するセルラ受信部と、
前記設定メッセージに基づいて前記セルラ通信システムに対する無線測定を行う制御部と、
送信部と、を備え、
前記制御部は、前記セルラ通信システムに対する測定結果を含むMDT測定情報を記録し、
前記制御部は、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含め、
前記送信部は、前記セルラ通信システムに対する測定結果が前記MDT測定情報に含まれることを示す第1可用性インジケータを前記ネットワークに送信し、
前記送信部は、前記WLANに対する測定結果として、前記WLANの無線信号の送信元識別子と、前記無線信号のRSSIとの組み合わせを前記ネットワークに報告し、
ユーザ装置。」

(相違点1)
本願発明1においては、「前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含め」ているのに対し、引用発明においては、「UE情報報告はAPの無線信号に関する測定結果を含」めているが、当該発明特定事項が特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1においては、「前記送信部は、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を前記MDT測定情報に含める場合に、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果が前記MDT測定情報にさらに含まれることも示す第2可用性インジケータを前記ネットワークに送信」するのに対し、引用発明においては、当該発明特定事項が特定されていない点。

(相違点3)
本願発明1においては、「前記送信部は、前記WLANに対する測定結果として、前記WLANの無線信号の送信元識別子と、前記無線信号のRSSIと、Round trip timeとの組み合わせを前記ネットワークに報告」するのに対し、引用発明においては、「UE情報報告としてWLAN識別子とAPからの無線信号の信号強度の情報をeNBへ送信」しているが、Round trip timeとの組み合わせをネットワークに報告することが特定されていない点。

(相違点4)
本願発明1においては、「前記制御部は、前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める」するのに対し、引用発明においては、「eNBから送信され、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含むMDTに関する設定情報を受信」しているが、当該発明特定事項が特定されていない点。

(2)判断
次に、上記相違点1ないし4について検討する上で、事案に鑑みて、まず上記相違点4について検討する。
相違点4に係る本願発明1の「前記制御部は、前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める」という発明特定事項には「前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合」があることが特定されている。
一方、引用発明ではE−UTRANとWLANとの間で双方向のトラフィック切り替えを行うUEであるから、切り替え対象であるWLANを測定対象としなければならず、測定対象としてWLANを設定しないとトラフィック切り替えを行うか否か検討できないこととなる。よって、WLANを測定対象とすることは必須であり、引用発明では、eNBから送信され、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含むMDTに関する設定情報を受信しており、APに関する報告の対象となるAPを特定するための制御情報を含まないMDTに関する設定情報の受信は想定されていない。
したがって、引用発明において「前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合」を採用する動機付けが見いだせない。仮に、引用発明において「前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合」を採用しても、その際に、「前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める」という発明特定事項を採用する動機付けが見いだせない。
以上のことから、相違点4に係る本願発明1の「前記制御部は、前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める」という発明特定事項は、引用例1には記載も示唆もされていない。また、引用例2ないし5にも記載されておらず、当該技術分野において周知技術であるともいえない。
よって、引用発明において、上記相違点4に係る本願発明1の「前記制御部は、前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める」ことは、当業者といえども、容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点1ないし3について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用例2ないし5に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願発明1の発明特定事項を全て含むから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2ないし5に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明4について
本願発明4は、本願発明1に対応するプロセッサの発明であり、本願発明1の上記相違点4に対応する「前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める処理」を含むことから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2ないし5に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本願発明5について
本願発明5は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の上記相違点4に係る「前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含めるステップ」を含むことから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2ないし5に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定についての判断
令和3年7月20日にされた手続補正により、本願発明1ないし本願発明3のいずれも、少なくとも「前記制御部は、前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める」という発明特定事項を備えるものとなっている。また、本願発明4は少なくとも「前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含める処理」という発明特定事項を備えるものとなっている。そして、本願発明5は少なくとも「前記設定メッセージが前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースを測定対象として設定しない場合であっても、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を利用可能である場合には、前記WLAN及び/又は前記ブルートゥースに対する測定結果を自律的に前記MDT測定情報に含めるステップ」という発明特定事項を備えるものとなっている。
してみれば、上記「第5」のとおり、本願発明1ないし5は、当業者であっても、原査定において引用された引用発明及び引用例2ないし5に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。




 
審決日 2022-03-09 
出願番号 P2020-500580
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04W)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 本郷 彰
中木 努
発明の名称 ユーザ装置  
代理人 キュリーズ特許業務法人  

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