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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62C |
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管理番号 | 1387168 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-09-10 |
確定日 | 2022-08-01 |
事件の表示 | 特願2017−171932号「消防用ホースカー」拒絶査定不服審判事件〔平成31年3月22日出願公開、特開2019−42426号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年9月7日の出願であって、令和3年2月4日付けで拒絶理由が通知され、令和3年4月16日に手続補正書と意見書が提出されたが、令和3年6月3日付けで拒絶査定がされた。これに対し、令和3年9月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明について 1 本願発明 特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1及び2」という。)は、令和3年4月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。 「【請求項1】 消防用ホースを積載する荷台、電動モーターの電源であるバッテリーが収納されているバッテリーボックス及び電動モーターを制御する制御基板が収納されているコントロールボックスを有するほぼ直方体状の本体と、該本体の正面に設けられている引き手と、当該本体の左右両側に設けられている左右一対の車輪と、該一対の車輪のそれぞれに組み込まれている各電動モーターとで構成されており、人力のみによる通常走行と人力及び電動モーターの駆動力の共同によるアシスト走行との切換えができ、かつ、アシスト走行時に電動モーターの駆動力が調整できる消防用ホースカーにおいて、前記引き手を構成する軸の後端部には摺動軸が固着されており、接触形直線変位センサーを該摺動軸の後端部と該センサー先端部とを接触させて設置すると共に、当該軸と摺動軸は当該センサーの有効ストローク距離以内の距離だけ前・後方向に移動可能であり、かつ、回転動作が規制されており、アシスト走行時に引き手に加わる引張力によって当該軸と摺動軸が移動する距離の変化量を当該センサーにより検出・出力させ該出力データをもって前記電動モーターの駆動力が調整できるように構成されている引張力検出部を具備していることを特徴とする電動アシスト駆動力を備えた消防用ホースカー。 【請求項2】 前記引張力検出部が、引き手を構成する軸の後端部に溶接により固着されていてアシスト走行時に引き手に加わる引張力によって引張方向(前方)へ摺動して前記変位センサーの先端部の伸縮を制御する摺動軸と、該摺動軸の摺動をガイドする摺動軸ホルダと、該ホルダの周囲に取付けられて当該摺動軸の摺動を規制する圧縮コイルバネと、摺動軸の後端部に取付けられて当該摺動軸が抜けるのを防止すると共に当該コイルバネが当該ホルダから抜けるのを防止するセットカラーと、引き手全体を支持すると共に変位センサーを収納している引き手ベース部と、該ベース部と当該ホルダとを固定すると共に当該コイルバネをカバーしているシリンダと、当該摺動軸が当該ホルダ内で回転するのを防止する軸回動規制具とで構成されている請求項1記載の電動アシスト駆動力を備えた消防用ホースカー。」 2 拒絶査定の理由について 令和3年6月3日付けの拒絶査定の理由は、概略以下のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1 ・引用文献等 1−2 ・請求項 2 ・引用文献等 1−3 <引用文献等一覧> 1.特公昭48−23614号公報 2.特開2015−128484号公報 3.特開平11−318005号公報 3 当審の判断 (1)本願発明1について ア 引用文献1 引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 (ア)「本発明は主としてバッテリーを電力源(例外的にバッテリーによらず配電線から電力を受ける場合もある。)とし、電動機を駆動動力源として荷物あるいは人員などを運搬する電動運搬車いわゆるバッテリーカート類(以下カートという)の速度制御の機構に関するものである。」(第1欄17〜22行) (イ)「第2図はカートと運搬者が柔結合部分をもつ剛体で連結される場合の構造の1例を示す。1はカート本体、9は運搬者が引くかし棒、10はかじとり車輪に取り付けられたフォークで、かじ棒9との間は第3図に示すように嵌合結合となっている。11はばねで、このばね11はかじ棒9をフォーク10に引き寄せる方向に力を働せている。12はかじとり車輪、13はその車軸である。14はかじとり車輪12をカート本体1に取り付けるための車輪ささえ金具で、カート本体1とは回転自在になっている。15はアクセルペダルで、運搬者8がカートに乗った場合、このペダル15を踏んで速度を調節できる。そしてその機構は以下の第3図で説明する通りである。16はブレーキレバーで従来公知の機構によるブレーキである。 第3図は柔結合部分の断面図であり、3,4′は第1図で説明した速度指示抵抗および可変抵抗端子4を動かすための突起である。そしてかじ棒9が突起4′を押す押圧が高い程、駆動電動機の速度は低くなり、運搬者がかじ棒9から手を放すと、ばね11の力で押されることになるが、その時電動機は停止するようにしてある。なお、図に示すように抵抗3は足踏みペダル15に取り付けられている。なお16はペダル15の支点、17はペダル15を引くばねである。そしてかじ棒9とフオーク10は嵌合しており、ばね11の力で柔結合されているが、運搬者がかじ棒9から手を放したいわゆるフリーの状態ではかじ棒9のフランジ部分がフォーク10に当るまで、ばね11で引かれているものである。 第3図はその時の状態を示している。したがって運搬者がカートに乗つて運転する場合、足踏みペダル15を踏むと、抵抗3の突起4′に加わる押圧は減少して電動機は増進する。 以上のように本発明の速度制御装置は、運搬者がカートを引くにも荷物の重さを感ずることなく好みの速度で引くことができ、また時にはカートに乗車して運転することができるなどの特長を有するものである。 なお、上記の説明では電動機の速度制御を押圧し、可変抵抗を変化して速度を連続的に変える方式を説明したが、簡単な場合にはこれをマイクロスイッチにしてON、OFF制御にしてもよい。」(第2欄13行〜第4欄1行) (ウ)「特許請求の範囲 1 主としてバッテリー電源で駆動される運搬車を操作する運搬者が前記運搬車を操作するかじ棒を運搬車本体に備え、前記かじ棒は前記運搬車本体あるいはそのかじとり車輪と可撓性部材で柔結合されているか、あるいは剛体部材で間接接合されており、かつ運搬者と運搬車本体との間の速度差によって前記柔結合あるいは間接結合部分に生じるストロークあるいは押圧の変化を抵抗値変化あるいはスイッチの開閉で検出して駆動電動機の速度を運搬者と一致させるように構成したことを特徴とする電動運搬車の速度制御装置。」(第4欄5〜末行) (エ)「 」 (オ)第3図を参照すると、かじ棒9を構成する軸の後端のフォーク10内を摺動する部分は、摺動軸であり、第3図から、摺動軸の後端部と速度指示抵抗および可変抵抗端子4を動かすための突起3,4′とを接触させて配置することが、看取できる。 イ 引用発明 上記記載を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「バッテリー電源、カート本体1、運搬者が引くかじ棒9、かじ棒9に嵌合結合し、かじ力とり車輪に取り付けられたフォーク10、ばね11で、かじ棒9をフォーク10に引き寄せる方向に力を働せているばね11、かじとり車輪12、その車軸13、かじとり車輪12をカート本体1に取り付けるための車輪ささえ金具14、駆動電動機を含むカートにおいて、 かじ棒9を構成する軸の後端のフォーク10内を摺動する摺動軸の後端部と速度指示抵抗および可変抵抗端子4を動かすための突起3,4′とを接触させて配置し、運搬者と運搬車本体との間の速度差によって前記柔結合あるいは間接結合部分に生じるストロークあるいは押圧の変化を抵抗値変化で検出して駆動電動機の速度を運搬者と一致させるカート。」 ウ 本願発明1と引用発明の対比・判断 (ア)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ・引用発明の「カート本体1」は、その機能、作用から、本願発明1の「本体」に相当し、引用発明の「速度指示抵抗および可変抵抗端子4」と「突起3,4′」とからなるセンサーは、本願発明1の「接触形直線変位センサー」に相当する。 ・引用発明の「カート」と、本願発明1の「消防用ホースカー」とは、「カート」の限りで一致する。 ・引用発明の「カート」は、荷物を運搬するものであるから、荷台を有することは明らかである。 ・引用発明の「バッテリー電源」は、「駆動電動機」の電源であるから、本願発明1の「電動モーターの電源であるバッテリー」に相当する。 ・引用発明の「運搬者が引くかじ棒9」は、図2を参照するとカート本体1の正面に設けられているから、本願発明1の「該本体の正面に設けられている引き手」に相当する。 ・引用発明の「カート」は、カート本体1の左右両側に設けられている左右一対の車輪を有することは明らかである。 ・引用発明の「駆動電動機の速度を運搬者と一致させる」時は、「アシスト走行時」に相当する。 そして、引用発明の「運搬者と運搬車本体との間の速度差によって前記柔結合あるいは間接結合部分に生じるストロークあるいは押圧の変化を抵抗値変化で検出して駆動電動機の速度を運搬者と一致させる」ことは、駆動電動機の速度を運搬者と一致させる時に駆動電動機の駆動力が調整できることであるから、本願発明1の「アシスト走行時に電動モーターの駆動力が調整できる」ことに相当する。 ・引用発明の「かじ棒9を構成する軸の後端のフォーク10内を摺動する摺動軸の後端部と速度指示抵抗および可変抵抗端子4を動かすための突起3,4′とを接触させて配置」することは、かじ棒9を構成する軸の後端部に摺動軸が固着されており、速度指示抵抗および可変抵抗端子4と突起3,4′とからなるセンサーを摺動軸の後端部と突起3,4′の先端部とを接触させて配置することであるから、本願発明1の「前記引き手を構成する軸の後端部には摺動軸が固着されており、接触形直線変位センサーを該摺動軸の後端部と該センサー先端部とを接触させて設置する」ことに相当する。 ・引用発明の「駆動電動機の速度を運搬者と一致させる」時は、「アシスト走行時」に相当する。 そして、引用発明の「運搬者と運搬車本体との間の速度差によって前記柔結合あるいは間接結合部分に生じるストロークあるいは押圧の変化を抵抗値変化で検出して駆動電動機の速度を運搬者と一致させる」ことは、駆動電動機の速度を運搬者と一致させる時にかじ棒9に加わる引張力によってかじ棒9を構成する軸と摺動軸が移動するストロークの変化量を速度指示抵抗および可変抵抗端子4と突起3,4′とからなるセンサーにより検出・出力させ該出力データをもって駆動電動機の速度を調整する引張力検出部を具備していることと表現できるから、本願発明1の「アシスト走行時に引き手に加わる引張力によって当該軸と摺動軸が移動する距離の変化量を当該センサーにより検出・出力させ該出力データをもって前記電動モーターの駆動力が調整できるように構成されている引張力検出部を具備していること」及び「電動アシスト駆動力を備えた」ことに相当する。 したがって、本願発明1と引用発明とは、 <一致点> 「荷台、及び電動モーターの電源であるバッテリーを有する本体と、該本体の正面に設けられている引き手と、電動モーターとで構成されており、アシスト走行時に電動モーターの駆動力が調整できるカートにおいて、前記引き手を構成する軸の後端部には摺動軸が固着されており、接触形直線変位センサーを該摺動軸の後端部と該センサー先端部とを接触させて設置し、アシスト走行時に引き手に加わる引張力によって当該軸と摺動軸が移動する距離の変化量を当該センサーにより検出・出力させ該出力データをもって前記電動モーターの駆動力が調整できるように構成されている引張力検出部を具備している電動アシスト駆動力を備えたカート。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> カートについて、本願発明1は、「消防用ホースカー」であって、「消防用ホースを積載する荷台」を有するのに対して、引用発明は、カートであって、荷台を有することが明らかである点。 <相違点2> 本願発明1は、「バッテリーが収納されているバッテリーボックス」を有するのに対して、引用発明は、バッテリー電源がボックスに収納されているか不明である点。 <相違点3> 本願発明1は、「電動モーターを制御する制御基板が収納されているコントロールボックスを有する」のに対して、引用発明は、制御基板を有するかどうか不明である点。 <相違点4> 本体について、本願発明1は、「ほぼ直方体状」であるのに対して、引用発明は、カート本体1の形状が不明である点。 <相違点5> 電動モータについて、本願発明1は、「該一対の車輪のそれぞれに組み込まれている各電動モーターとで構成されて」いるのに対して、引用発明は、駆動電動機がそのように特定されていない点。 <相違点6> 本願発明1は、「人力のみによる通常走行と人力及び電動モーターの駆動力の共同によるアシスト走行との切換えができ」るのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。 <相違点7> 本願発明1は、「当該軸と摺動軸は当該センサーの有効ストローク距離以内の距離だけ前・後方向に移動可能であり、かつ、回転動作が規制されて」いるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。 (イ)当審の判断 事案に鑑みて、まず相違点7について検討する。 引用発明は、第3図を参照すると、フォーク10内を摺動する摺動軸が、フォーク10に対して回転動作が規制されているとはいえない。 また、引用発明において、フォーク10内を摺動する摺動軸を、フォーク10内で回転しないように規制する動機もない。 さらに、引用文献3(特に【0014】〜【0018】、【図3】、【図4】参照。)には、操作杆13と筒状体12とが接続棒18を有することが記載されており、接続棒18を有することで回転動作が規制されているといえる。 しかし、引用文献3の可変抵抗器16は、接続棒18と接続している可動軸16Bが前後進することで、可動軸16Bの導通片16Bbと抵抗体16Cとの接触位置が変化してモータ4に供給する電力を変化するものである。 そうすると、引用発明において、引用文献3記載の技術的事項を適用した場合、可変抵抗器16に係る構造も適用されるから、本願発明1の「接触形直線変位センサーを該摺動軸の後端部と該センサー先端部とを接触させて設置し」たものとはならない。 また、他に、引用発明において、フォーク10内を摺動する摺動軸を、フォーク10内で回転しないように規制することを当業者が容易に想到し得たとする証拠はない。 したがって、引用発明において、上記相違点7に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (ウ)小括 ゆえに、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)本願発明2について 本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て有し、さらに限定を加えた発明であるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、本願発明2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第3 まとめ 以上のとおり、拒絶査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。 また他に拒絶の理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-07-07 |
出願番号 | P2017-171932 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A62C)
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最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
山本 信平 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 沼生 泰伸 |
発明の名称 | 消防用ホースカー |
代理人 | 前川 真貴子 |
代理人 | 前川 真貴子 |
代理人 | 安藤 順一 |
代理人 | 安藤 順一 |