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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1387171
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-13 
確定日 2022-07-07 
事件の表示 特願2019−221812「セシウムの吸着装置及び吸着方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月 2日出願公開、特開2020− 52057〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年2月14日に出願した特願2014−26986号(以下「原出願」という。)の一部を平成30年7月2日に新たな特許出願(特願2018−125993号)とし、さらに、その一部を令和元年12月9日に新たな特許出願としたもので、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 2年11月13日付け:拒絶理由(特許法第50条の2の通知を伴
う拒絶理由)通知書
令和 3年 1月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 5月 7日付け:令和3年1月22日の手続補正についての
補正の却下の決定、拒絶査定
令和 3年 9月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 4年 1月 6日 :上申書の提出

第2 令和3年9月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年9月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

「【請求項1】
水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタと、前記フィルタを収納するネットからなる長尺状の吸着ユニットと、
浮き部材とを備え、
複数の前記吸着ユニットは、前記吸着ユニットの長手方向が水面と垂直になるように前記浮き部材に連結されていることを特徴とするセシウムの吸着装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和元年12月9日の出願時の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタを含む吸着ユニットと、
浮き部材とを備え、
複数の前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されていることを特徴とするセシウムの吸着装置。」

2 補正の適否
本件補正のうち請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「吸着ユニット」について、水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタ「と、前記フィルタを収納するネットからなる長尺状の」と限定するとともに、「前記吸着ユニットの長手方向が水面と垂直になるように」前記浮き部材に連結されていると限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献2
原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012−180733号公報(以下「引用文献2」という。令和3年1月22日の手続補正についての補正の却下の決定で引用された主引用文献)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「【請求項1】
フロート部材、水浄化部材、水流量調節部材、及びこれらを接続する接続手段を含む水域浄化フェンスであって、該水浄化部材と該水流量調節部材が共に、略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)として形成され、所定数の水浄化部材ユニットと所定数の水流量調節部材ユニットが、略平面を呈するように接続され、該略平面に、一又は複数の前記フロート部材が接続されていることを特徴とする前記水域浄化フェンス。」

「【0029】
本明細書中、「水浄化部材」とは、主に、水を浄化する機能を有する材料、例えば、塩類、窒素、リン、重金属、有機溶剤、放射性物質等の吸着剤、例えば、天然又は合成ゼオライト、有機物を分解する微生物の担体、例えば、活性炭、炭素繊維等を提供する部材である。」

「【0035】
図2に示すように、水浄化部材20は、複数の鳩目を含む孔22を配した略四角形の補強枠21に固定した網からなる外袋23の中に、より目の細かい網からなる単数又は複数の内袋24の中に吸着剤等を収容したものを、さらに収容した二重構造の袋体構造を有する。
【0036】
ここで、水浄化部材20の孔22と補強枠21の構造、基材33への固定方法、大きさは、前記した水流量調節部材10と同様である。但し、水浄化部材20においては、前記した不織布13等に代えて、微生物を吸着する機能を有する吸着剤等25、例えば、多孔質の合成樹脂よりなる複数の接触ろ材、牡蠣殻を再利用したもの、微生物を付着させた炭素繊維、猿頬貝の殻を再利用したもの、窒素、リン、重金属、有機溶剤、放射性物質等を吸着し、また微生物をも担持するゼオライト、活性炭、油吸着剤等を、こぼれないように充填した目の細かい網からなる単数又は複数の内袋24を収容したより目が粗く、かつ、より強度の高い線材からなる網からなる外袋23が、補強枠21に固定されている。ゼオライトは、窒素吸着後に回収して肥料にすることができるため、好ましい吸着剤である。ここで、留意すべきは、単数又は複数の内袋24の中に収容される材料は、浄化の状況に応じて、適宜交換されることができるということである。すなわち、「水浄化部材」という名称であっても、内袋内の材料の有無、種類によっては、水流量調節部材と同様の機能を発揮することができる場合がある。」

「【0042】
本発明に係る水域浄化フェンスは、前記したように、また、図6に示すように、水面に対し略直交する方向に展張して設置することができる。この際、図7に示すように、アンカー等を用いることにより、該水域浄化フェンスを水底に固定することもできる。図7の態様においては、フロートが水面下、水中に位置するため、船舶の通行を妨げることがなく好都合である。」

図2、4、6は、以下のとおりである。
図2、図4から、補強枠21の複数の孔22に接続手段(紐)43を通していること、複数の水浄化部材ユニット20が、フロート材41に接続手段(紐)43で接続されていることが、見て取れる。



イ したがって、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる(以下、引用発明2の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付した。)。
「フロート部材、水浄化部材、水流量調節部材、及びこれらを接続する接続手段を含む水域浄化フェンスであって、
該水浄化部材と該水流量調節部材が共に、略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)として形成され、所定数の水浄化部材ユニットと所定数の水流量調節部材ユニットが、略平面を呈するように接続され、(請求項1)
水浄化部材ユニットは、放射性物質を吸着する吸着剤を、こぼれないように充填した目の細かい網からなる単数又は複数の内袋を収容したより目が粗く、かつ、より強度の高い線材からなる網からなる外袋が、補強枠に固定され、(【0029】、【0036】)
補強枠の複数の孔に接続手段(紐)を通し、複数の水浄化部材ユニットが、フロート材に接続手段(紐)で接続され、(図2、図4)
水域浄化フェンスは、水面に対し略直交する方向に展張して設置することができる(【0042】)
前記水域浄化フェンス。(請求項1)」

(3)対比
本件補正発明と引用発明2とを対比する。
ア 本件補正発明の「水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタと、前記フィルタを収納するネットからなる長尺状の吸着ユニット」との構成について
引用発明2の「放射性物質を吸着する吸着剤を、こぼれないように充填した目の細かい網からなる単数又は複数の内袋」と、本件補正発明の「水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタ」とは、「フィルタ」である点で一致する。
そして、引用発明2の「単数又は複数の内袋を収容したより目が粗く、かつ、より強度の高い線材からなる網からなる外袋」は、本件補正発明の「前記フィルタを収納するネット」に相当する。
また、引用発明2の「水浄化部材ユニット」は、本件補正発明の「吸着ユニット」に相当する。
そうすると、引用発明2の「放射性物質を吸着する吸着剤を、こぼれないように充填した目の細かい網からなる単数又は複数の内袋を収容したより目が粗く、かつ、より強度の高い線材からなる網からなる外袋が、補強枠に固定され」た「水浄化部材ユニット」と、本件補正発明の「水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタと、前記フィルタを収納するネットからなる長尺状の吸着ユニット」とは、「フィルタと、前記フィルタを収納するネットを有する吸着ユニット」である点で一致する。

イ 引用発明2の「フロート部材」は、本件補正発明の「浮き部材」に相当する。

ウ 引用発明2の「複数の水浄化部材ユニットが、フロート材に接続手段(紐)で接続され」と本件補正発明の「複数の前記吸着ユニットは、前記吸着ユニットの長手方向が水面と垂直になるように前記浮き部材に連結されている」とは、「複数の前記吸着ユニットは、前記浮き部材に連結されている」点で一致する。

エ 引用発明2の「放射性物質を吸着する吸着剤を、こぼれないように充填した目の細かい網からなる単数又は複数の内袋」を有する「水域浄化フェンス」と、本件補正発明の「セシウムの吸着装置」とは、「吸着装置」である点で一致する。

オ 以上のことから、本件補正発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「フィルタと、前記フィルタを収納するネットを有する吸着ユニットと、
浮き部材とを備え、
複数の前記吸着ユニットは、前記浮き部材に連結されている吸着装置。」

【相違点1】
本件補正発明では、フィルタが、「水に溶解しているセシウムを吸着する」ものであり、「セシウムの」吸着装置であるのに対し、引用発明2では、単数又は複数の内袋に充填された吸着剤が「放射性物質を吸着する」ものであり、「水域浄化フェンス」である点。

【相違点2】
吸着ユニットにつき、本件補正発明が、フィルタと、フィルタを収納するネットからなる、としたのに対し、引用発明2は、「放射性物質を吸着する吸着剤を、こぼれないように充填した目の細かい網からなる単数又は複数の内袋」、「単数又は複数の内袋を収容したより目が粗く、かつ、より強度の高い線材からなる網からなる外袋」、及び「補強枠」とした点。

【相違点3】
吸着ユニットが、本件補正発明では「長尺状」であるのに対し、引用発明2では「略四角形の平面パネル状」である点。

【相違点4】
複数の吸着ユニットの浮き部材への連結について、本件補正発明では「吸着ユニットの長手方向が水面と垂直になるように」連結するのに対し、引用発明2では「水浄化部材ユニット」が「略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)として形成され」、長尺状か明らかでないことに伴って、そのような連結についても明らかでない点。

(4)判断
以下、上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用発明2の「水浄化部材ユニット」は「放射性物質の吸着剤」を含んでいるのであるから、引用発明2に接した当業者は、当該「放射性物質の吸着剤」として具体的にどのようなものを用いるのかについて検討する動機がある。

(イ)また、放射性物質として、放射性セシウムは一般的に知られており、また、放射性セシウムを吸着除去することも、一般的に知られている(必要ならば、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2013−113659号公報)の【0023】等を参照されたい。)。

(ウ)ここで、引用発明2は、「水浄化部材ユニット」と特定され、水を浄化するものなので、引用発明2の「吸着剤」が「吸着する」「放射性物質」は、水に溶解しているものといえる。

(エ)そうすると、引用発明2において、単数又は複数の内袋に充填された、放射性物質を吸着する吸着剤として、水に溶解している放射性セシウムを吸着する吸着剤とすることは、すなわち、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

イ 相違点2について
(ア)一般に、可能であれば、複数の部材を同一の材料で一体的に形成して、構成や製造を簡素化することは、周知・慣用技術であり、引用発明2の「より強度の高い線材からなる網からなる外袋」と「補強枠」とを同一材料で一体的に形成することは、当業者が適宜なし得たことである。そして、そのようにして一体的に形成された「より強度の高い線材からなる網からなる外袋」と「補強枠」とは、本件補正発明の「フィルタを収納するネット」に相当するといえ、そうすると相違点2は実質的な相違ではない。

(イ)仮にそこまではいえないとしても、引用文献2の請求項1に記載された発明は、「フロート部材、水浄化部材、水流量調節部材、及びこれらを接続する接続手段を含む水域浄化フェンスであって、該水浄化部材と該水流量調節部材が共に、略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)として形成され、所定数の水浄化部材ユニットと所定数の水流量調節部材ユニットが、略平面を呈するように接続され、該略平面に、一又は複数の前記フロート部材が接続されていることを特徴とする前記水域浄化フェンス。」の発明であって、「補強枠」を必ず備えなければならない発明ではない。そうすると、引用発明2においても、「補強枠」を省略した構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(ウ)吸着ユニットは浮き部材に連結されるための連結部分を備えているとした場合についての予備的判断1
a 本件補正発明の「複数の前記吸着ユニットは、」「前記浮き部材に連結されている」と特定されていることから、吸着ユニットは浮き部材に連結されるための連結部分を備えているともいえる。そして、本件補正発明の「吸着ユニットは、」「フィルタと、前記フィルタを収納するネットからなる」と特定されていることから、当該ネットが浮き部材に連結されるための連結部分を備えているともいえる。
なお、本願の明細書及び図面を参酌しても、そのようにも解釈できる。本願の明細書には「ネット状の容器」、「ネット状容器」及び「ネット部分」との用語はあるものの「ネット」との用語はなく、「ネット」との用語は本件補正により初めて記載されたものであるが、本願の明細書の【0029】の「ネット状容器4のネット部分に使用する糸」との記載からして、本件補正発明の「ネット」は「ネット部分」を含んだ「ネット状容器」に対応するものとも考えられる。そして、本願の明細書の【0032】の「複数の吸着ユニット5の一端Aが浮き部材6に連結」、図4及び図5からして、ネット状容器4は、フィルタを収納する部分以外に、浮き部材6に連結するための部分(複数の吸着ユニット5の一端A)も備えていることが把握できる。

b そして、引用発明2においては、「複数の内袋を収容したより目が粗く、かつ、より強度の高い線材からなる網からなる外袋」に「補強枠」及び「接続手段(紐)」を設けてフロート材に接続している。そうすると、引用発明2における「補強枠」及び「接続手段(紐)」は、本件補正発明の(ネットの一部分の)「浮き部材」を連結するための連結部分(複数の吸着ユニット5の一端A)」に相当するといえるから、相違点2は実質的な相違ではない。

(エ)セシウムの吸着装置が吸着ユニットと浮き部材以外の他の部材も備えているとした場合についての予備的判断2
上述したように、引用発明2の「水浄化部材ユニット」は、本件補正発明の「吸着ユニット」に相当すると考えるのが自然ではあるが、引用発明2の「放射性物質を吸着する吸着剤を、こぼれないように充填した目の細かい網からなる単数又は複数の内袋を収容したより目が粗く、かつ、より強度の高い線材からなる網からなる外袋」が、本件補正発明の「吸着ユニット」に相当するものであるとみなすことも可能であり、そのようにみなせば、吸着ユニットに関する相違点である相違点2は、相違点とはいえない。
なお、本件補正発明は、セシウムの吸着装置が吸着ユニットと浮き部材のみからなるとは特定されておらず、他の部材(例えば、吸着ユニットを浮き部材に連結するための連結部材等)を含みうるものと解され、引用発明2の「補強枠」は、上記他の部材に対応するものといえる。

ウ 相違点3及び4について
引用発明2の「水浄化部材ユニット」は「略四角形の平面パネル状」と特定されており、略四角形の一つとして、長方形のものは一般に知られている。
また、引用発明2は、「水域浄化フェンスは、水面に対し略直交する方向に展張して設置することができる水浄化部材ユニット」と特定されていることから、水浄化部材ユニットも、水面に対し略直交する方向に展張して設置することも、想定されている。
そうすると、引用発明2の「水浄化部材ユニット」として長尺状のものを選択すること、「水浄化部材ユニット」の長手方向が、「水面に対し略直交する方向」に対応して「フロート材」に接続するようになすことは、設計事項にすぎない。
したがって、引用発明2において、相違点3及び4に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

エ そして、相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)審判請求人の主張について
ア 本件審判請求人は、令和3年9月13日付けで提出された審判請求書において、
(ア)「これらの記載によれば、引用文献2の発明では課題解決の上で、交換し易い平面パネル状の単位構成要素を形成することが必須であり、その具体的な実現手段として引用文献2には補強枠を用いることしか記載されていませんから、当業者が引用文献2の発明において補強枠を省略して、敢えて形状が変化し易いネットとフィルタからなる吸着ユニットを採用することについて阻害要因があると思料致します。」、
(イ)「引用文献2の図2等には、吸着剤25を袋に詰めた水浄化部材ユニット20が開示されていますが、鋭利なものが袋に刺さった場合には吸着剤25が流出する可能性があります。一方、本願発明1の吸着ユニットはセシウムを吸着するフィルタとネットからなるものであるため、このような吸着剤の流出を回避することができます。」、
(ウ)「本願発明1の複数の吸着ユニットは、それぞれフィルタとネットからなるものであるため、海流等の水流を利用して各吸着ユニットの表面のネットどうし互いに摺り合わせることも可能であり、これにより段落0032に記載の通り、ネットへの藻類・貝類等の付着を低減し、フィルタ内への水の流量低下による吸着能力低下を回避し易くすることができます。」、
(エ)「本願発明1の吸着ユニットは長尺状であり、その長手方向が水面と垂直になるように配置されるものであるため、各吸着ユニットの接触面積を大きくすることができ、ネットへの藻類・貝類等の付着に伴う吸着能力低下をより一層回避し易くすることができます。」
旨主張している。

イ 上記主張について、以下検討する。
(ア)上記(ア)の主張については、前記(4)イで説示したとおりである。
(イ)本件補正発明は、「フィルタ」の具体的構成について特定されていなく、吸着剤の流出を回避することができることの特定もないことから、上記(イ)における、本件補正発明の作用効果に関する主張は、本件補正発明の構成に基づかないものである。
(ウ)「複数の吸着ユニットは、それぞれフィルタとネットからなるものである」ことからは、複数の吸着ユニットは、浮き部材に互いに離して連結されている構成も想定され、必ず「各吸着ユニットの表面のネットどうし互いに摺り合わせることも可能」とはいえず、また、「吸着ユニットは長尺状であり、その長手方向が水面と垂直になるように配置されるものである」ことから、必ず「各吸着ユニットの接触面積を大きくする」とはいえない。
さらに、「各吸着ユニットの表面のネットどうし互いに摺り合わせることも可能」、「各吸着ユニットの接触面積を大きくすること」は、本件補正発明に特定されていないことから、上記(ウ)及び(エ)における、本件補正発明の作用効果に関する主張は、本件補正発明の構成に基づかないものである。

以上から、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年9月13日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年12月9日の出願時の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の請求項1に係る発明の拒絶の理由の概略は、この出願の請求項1に係る発明は、原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



引用文献1.特開2013−113659号公報
引用文献2.特開2012−180733号公報

3 引用文献
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、図面とともに、次の記載がある。

「【請求項1】
浮力材又は気体を封入可能な袋体からなる浮体部と、前記浮体に取り付けられたカーテン部とからなる拡散防止膜であって、前記カーテン部に、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブを含有することを特徴とする拡散防止膜。
【請求項2】
浮力材又は気体を封入可能な袋体からなる浮体部と、前記浮体に取り付けられたカーテン部とからなる拡散防止膜であって、前記カーテン部に、フェロシアン化金属化合物及び/又はフェリシアン化金属化合物を含有することを特徴とする拡散防止膜。」

「【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、浮体部とカーテン部とからなる拡散防止膜のカーテン部に、放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の吸着剤として、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブ、フェロシアン化金属化合物及び/又はフェリシアン化金属化合物、チタン及びリン酸を含有する塩等の材料又は化合物を含有させることにより、海、湖、河川等の水域に流出した前記放射性金属又はそれらを含む放射性物質が広域に拡散してしまうのを効率よく防止できることを見出し、本発明に想到した。」

図1の記載から、カーテン部3は、線で区切られ、縦4か所、横3か所の12か所の部分で構成されていることが、見て取れる。

(イ)したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「浮力材又は気体を封入可能な袋体からなる浮体部と、前記浮体に取り付けられたカーテン部とからなる拡散防止膜であって、前記カーテン部に、海、湖、河川等の水域に流出した放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の吸着剤として、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブ、フェロシアン化金属化合物及び/又はフェリシアン化金属化合物を含有する拡散防止膜。」

イ 引用文献2
引用文献2の記載と引用発明2の認定は、上記第2[理由]2(2)を参照されたい。

4 対比
本願発明と引用発明1を対比する。
(1)引用発明1の「『海、湖、河川等の水域に流出した放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の吸着剤として、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブ、フェロシアン化金属化合物及び/又はフェリシアン化金属化合物を含有する』『カーテン部』」は、本願発明の「水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタを含む吸着ユニット」に、
引用発明1の「浮力材又は気体を封入可能な袋体からなる浮体部」は、本願発明の「浮き部材」に、
引用発明1の「『カーテン部』は、『前記浮体に取り付けられた』」は、本願発明の「前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されている」に、
引用発明1の「『放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の吸着剤』『を含有する拡散防止膜』」は、本願発明の「セシウムの吸着装置」に、
それぞれ相当する。

(2)以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタを含む吸着ユニットと、
浮き部材とを備え、
前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されているセシウムの吸着装置。」

【相違点1】
吸着ユニットが、本願発明は「複数」であるのに対し、引用発明1はそのようなものか明らかでない点。

5 判断
以下、上記相違点1について検討する。
(1)引用発明2には、「複数の水浄化部材ユニットが、フロート材に接続手段(紐)で接続され」る「水域浄化フェンス。」が特定されている。

(2)そして、引用文献1、2は、共に、水域に設けるフェンスに関する技術であり、技術分野が共通する。また、引用文献1の図1の記載から、カーテン部3は、線で区切られ、縦4か所、横3か所の12か所の部分で構成されていることが、見て取れることから、引用文献1には、カーテン部が複数であることが示唆されている。

(3)そうすると、引用文献1、2は技術分野が共通すること、引用文献1の上記示唆を考慮すると、引用発明1において、引用発明2を採用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

6 効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

7 まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明することができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-04-28 
結審通知日 2022-05-10 
審決日 2022-05-23 
出願番号 P2019-221812
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G21F)
P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 野村 伸雄
松川 直樹
発明の名称 セシウムの吸着装置及び吸着方法  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
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