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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01M
管理番号 1387183
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-22 
確定日 2022-08-02 
事件の表示 特願2017− 49417「分析装置、分析システム、分析方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月27日出願公開、特開2018−151343、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」と記す。)は、平成29年(2017年)3月15日の出願であって、令和2年12月9日付けで拒絶理由が通知され、これに対し令和3年2月5日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月15日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対し同年5月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月8日付けで同年5月14日提出の手続補正書による手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し同年9月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、当審より令和4年3月23日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対し同年5月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和3年6月8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし10に係る発明は、下記の引用文献1,2,3及び5に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2014/046122号
2.特開2012−107966号公報(周知技術を示す文献)
3.特開昭58−208636号公報(周知技術を示す文献)
5. 特開2015−190825号公報

第3 当審拒絶理由(令和4年3月23日付け拒絶理由)の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1:(進歩性)本件出願の請求項1ないし10に係る発明は、下記の引用文献1,4及び5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.国際公開第2014/046122号
4.特表2008−544260号公報
5.特開2015−190825号公報

第4 本願発明
本願請求項1ないし9に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、令和4年5月26日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし9は以下のとおりである(下線は、請求人が付与したものであり、補正箇所を表している。)。
「【請求項1】
2つ以上のセンサにおいてそれぞれ定められた時間帯に検知された物理量を用いて、前記2つ以上のセンサのうち2つのセンサの組合せの各々について、前記組合せに含まれる2つのセンサにおいて検知された前記物理量の相互相関に基づいて、配管の劣化の程度の分析が必要であるかを判定する判定手段と、
前記組合せのいずれかの前記物理量の相互相関に基づいて前記分析が必要と判定された場合に、前記分析が必要と判定された前記組合せに含まれるセンサの時刻同期を行うよう制御する時刻同期手段と、
時刻同期が行われた前記センサにおいて検知された前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度の変化量に基づいて前記配管の劣化の程度を分析する分析手段と、
を備え、
前記配管の劣化は、腐食によって配管が脆くなっている状態、又は、配管を接続する部位の接続状態が緩くなっている状態である
分析装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記2つ以上のセンサの各々で異なる複数の時間帯に検知された前記物理量に対してそれぞれ求められた前記相互相関に基づいて、前記分析が必要であるかを判定する、
請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記相互相関の大きさが所定の条件を満たす場合に前記分析が必要であると判定する、請求項1又は2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記組合せに含まれる2つのセンサにおいて検出された前記物理量に対して求められた前記相互相関の大きさが所定の条件を満たす場合に前記分析が必要であると判定する、請求項2又は3に記載の分析装置。
【請求項5】
前記分析手段は、前記物理量を用いて得られる前記配管の共振周波数に基づいて前記配管の劣化の程度を分析する、請求項1から4のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項6】
前記物理量は、前記配管を伝搬する振動である、請求項1から5のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項7】
前記物理量を検知する複数のセンサユニットと、
前記複数のセンサユニットの各々において検知された前記物理量に基づいて前記判定及び前記分析を行う請求項1から6のいずれか一項に記載の分析装置と
を備える分析システム。
【請求項8】
2つ以上のセンサにおいてそれぞれ定められた時間帯に検知された物理量を用いて、前記2つ以上のセンサのうち2つのセンサの組合せの各々について、前記組合せに含まれる2つのセンサにおいて検知された前記物理量の相互相関に基づいて、配管の劣化の程度の分析が必要であるかを判定し、
前記組合せのいずれかの前記物理量の相互相関に基づいて前記分析が必要と判定された場合に、前記分析が必要と判定された前記組合せに含まれるセンサの時刻同期を行うよう制御し、
時刻同期が行われた前記センサにおいて検知された前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度の変化量に基づいて前記配管の劣化の程度を分析し、
前記配管の劣化は、腐食によって配管が脆くなっている状態、又は、配管を接続する部位の接続状態が緩くなっている状態である
分析方法。
【請求項9】
コンピュータに、
2つ以上のセンサにおいてそれぞれ定められた時間帯に検知された物理量を用いて、前記2つ以上のセンサのうち2つのセンサの組合せの各々について、前記組合せに含まれる2つのセンサにおいて検知された前記物理量の相互相関に基づいて、配管の劣化の程度の分析が必要であるかを判定する処理と、
前記組合せのいずれかの前記物理量の相互相関に基づいて前記分析が必要と判定された場合に、前記分析が必要と判定された前記組合せに含まれるセンサの時刻同期を行うよう制御する時刻同期処理と、
時刻同期が行われた前記センサにおいて検知された前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度の変化量に基づいて前記配管の劣化の程度を分析する処理と、
を実行させ、
前記配管の劣化は、腐食によって配管が脆くなっている状態、又は、配管を接続する部位の接続状態が緩くなっている状態である
プログラム。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由に引用された上記引用文献1には、次の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同じ。)
(1)「[0001] 本発明は、漏洩解析システム、測定端末、漏洩解析装置、及び漏洩検出方法に関する。」

(2)「[0009] そこで、本発明は上記課題に鑑みて発明されたものであって、その目的は、漏洩の検出にかかるコストや、労力、時間を軽減することができる漏洩解析システム、測定端末、漏洩解析装置、及び漏洩検出方法を提供することにある。」

(3)「[0016] <第1の実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係る漏洩位置解析システムの構成を示す模式図である。
[0017] 漏洩位置解析システムは、少なくとも二台以上の測定端末1と解析システム2とを備えている。なお、本実施の形態では、漏洩検出の測定する位置をそれぞれ位置Aおよび位置Bとし、それぞれの位置に設置される機器を添え字AおよびBを付して表記する。例えば、位置Aに設置される測定端末1を測定端末1A、位置Bに設置される測定端末1を測定端末1Bと表記する。また、配管3の漏洩している位置を位置Pとする。尚、以下の説明では、水道管の漏水を例にして説明するが、本発明はこれに限られることなく、石油ガスなど流体配管における漏洩検知にも用いることができる。
[0018] 測定端末1を説明する。図2は測定端末1のブロック図である。
[0019] 測定端末1は、振動センサ10と、測定位置情報取得部11と、測定時刻情報取得部12と、データ収集部13、制御部14と、無線通信部15と、出力(表示)部16とを有する。
[0020] 振動センサ10は、配管3の配管振動を測定するものである。また、振動センサ10は、測定した配管振動を示す波形振動データを測定データ収集部13に送出する。
[0021] 測定位置情報取得部11は、測定位置を取得するものであり、例えば、GPS(Global Posisioning System)等である。また、測定位置情報取得部11は、取得した測定位置情報を測定データ収集部13に送出する。
[0022] 測定時刻情報取得部12は測定時刻を取得するものである。例えば、GPS等である。測定時刻情報取得部12は、後述する漏洩解析の精度を高めるため、測定端末1間で時刻が一致していることが好ましい。測定時刻を一致させるために測定端末1Aと1Bの間で通信をしてもよい。測定時刻情報取得部12は、取得した測定時刻情報を測定データ収集部13に送出する。
[0023] 測定データ収集部13は、収集した測定データ(波形振動データ、測定位置情報及び測定時刻情報)を、制御部14に送出する。
[0024] 制御部14は、測定データ収集部13からの測定データを、無線通信部15を介して、解析システム2に送信する。また、制御部14は、後述するように、解析システム2から受信した解析結果(漏洩位置マップ)を出力部(表示部)16に出力する。
[0025] 出力部(表示部)16は、ディスプレイ等である。
[0026] 尚、測定端末1は専用端末でも良いが、例えば、既存のスマートフォンなどの端末を用い、上述した機能を実現するアプリケーションをスマートフォンに導入することによっても実現することができる。
[0027] 次に、解析システム2を説明する。図3は解析システム2のブロック図である。
[0028] 解析システム2は、配管設置データベース20と、漏洩位置解析部21と、無線通信部22とを有する。
[0029] 配管設置データベース20は、配管の設置図(各配管が設置されている地理的位置の情報等)や、配管振動の伝播速度Cの値などのデータが記憶されている。また、配管の設置図に対応して、配管に通じるマンホールや、配管に設置されている水道メータの位置情報や、道路や建物等の情報を含む地図情報も格納されている。
[0030] 漏洩位置解析部21は、測定端末1Aが測定した振動データYA(t)と、測定端末1Bが測定した振動データYB(t)とから、漏洩位置Pを求め、その位置を測定端末1に送信するものである。[0031] 具体的には、漏洩位置解析部21は、測定端末1Aが測定した振動データYA(t)と、測定端末1Bが測定した振動データYB(t)とから、下式(1)により相互相関関数ΦAB(τ)を求める。

次に、位置Aおよび位置Bの間の測定区間に対応する相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、測定区間内に漏洩が生じたと判定し、設定値Tより小さい場合には漏洩は生じていないと判定する。漏洩の有無の判定は相互相関関数を用いない方法で行っても良い。相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、相互相関関数ΦAB(τ)の最大値を求め、この最大値の時間Δτを求める。そして、この時間Δτが振動データYA(t)と振動データYB(t)との時間差Δτとなる。
[0032] 次に、解析部21は、配管設置データベース20の配管の設置図から、位置Aと位置Bとの間の距離LABの値と配管振動の伝播速度Cの値とを読み出す。尚、漏洩を検出する測定区間の配管3はかならずしも直線的に設置されているわけではなく、測定区間によって、例えば、図4に示される如く、L字型に配管が設置されている場合もある。この場合、距離LABは、測定位置Aから配管3のL字部までの直線距離である距離LAと、測定位置Bから配管3のL字部までの直線距離である距離LBとを合計した距離とする。
[0033] 続いて、算出された時間差Δτの値を式(2)に代入して、測定端末1Aが設置された測定位置Aから漏洩位置Pまでの距離LAPを算出する。
[0034] LAP=(LAB−C・Δτ)/2 ・・・(2) 尚、上述したように、測定区間がL字型に配管が設置されている場合、図5に示すように、距離LAPは、単純に配管の長さとする。」

(4)上記引用文献1の記載事項を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「水道管の漏水の検出にかかるコストや、労力、時間を軽減することができる漏洩解析システム、測定端末、漏洩解析装置、漏洩検出方法及びプログラムにおいて、
位置Aに設置される測定端末1を測定端末1A、位置Bに設置される測定端末1を測定端末1Bとした二台以上の測定端末1と解析システム2とを備え、
測定端末1は、振動センサ10と、測定位置情報取得部11と、測定時刻情報取得部12と、データ収集部13、制御部14と、無線通信部15と、出力(表示)部16とを有し、
振動センサ10は、配管3の配管振動を測定するものであり、測定した配管振動を示す波形振動データを測定データ収集部13に送出し、
測定時刻情報取得部12は測定時刻を取得するものであり、測定時刻を一致させるために測定端末1Aと1Bの間で通信をし、取得した測定時刻情報を測定データ収集部13に送出し、
測定データ収集部13は、収集した測定データ(波形振動データ、測定位置情報及び測定時刻情報)を、制御部14に送出し、
制御部14は、測定データ収集部13からの測定データを、無線通信部15を介して、解析システム2に送信し、解析システム2から受信した解析結果(漏洩位置マップ)を出力部(表示部)16に出力し、
解析システム2は、配管設置データベース20と、漏洩位置解析部21と、無線通信部22とを有し、
漏洩位置解析部21は、測定端末1Aが測定した振動データYA(t)と、測定端末1Bが測定した振動データYB(t)とから、漏洩位置Pを求め、その位置を測定端末1に送信するものであり、測定端末1Aが測定した振動データYA(t)と、測定端末1Bが測定した振動データYB(t)とから、下式(1)により相互相関関数ΦAB(τ)を求め、

位置Aおよび位置Bの間の測定区間に対応する相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、測定区間内に漏洩が生じたと判定し、設定値Tより小さい場合には漏洩は生じていないと判定し、相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、相互相関関数ΦAB(τ)の最大値を求め、この最大値の時間Δτを求め、この時間Δτが振動データYA(t)と振動データYB(t)との時間差Δτとなり、
解析部21は、配管設置データベース20の配管の設置図から、位置Aと位置Bとの間の距離LABの値と配管振動の伝播速度Cの値とを読み出し、算出された時間差Δτの値を式(2)に代入して、測定端末1Aが設置された測定位置Aから漏洩位置Pまでの距離LAPを算出する、
LAP=(LAB−C・Δτ)/2 ・・・(2)
漏洩解析システム、測定端末、漏洩解析装置、漏洩検出方法及びプログラム。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の技術事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、流路管又は容器におけるガスの流れの有無又は流量又はガス漏れを検出するためのガス微流動検出方法、ガス漏れ検査方法、ガス漏れ検査装置及び超音波流量計に関する。」

(2)「【0063】
基準推移データは、例えば、第1のガスと第2のガスを一定の温度にして実測により求められたものであって、第1のガスの流量を0(真値)にして計測管路22内に第2のガスを自然拡散させた場合の超音波の伝搬速度(基準伝搬速度)と、第2のガスを計測管路22内に滞留させてからの経過時間とを対応させて記憶したデータである(例えば、図4の破線グラフ)。なお、基準推移データは、第1のガスと第2のガスを一定の温度にして演算により求めてもよい。
【0064】
ガス管90にガス漏れ箇所が有る場合と無い場合とでは、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う超音波の伝搬速度Cの推移に、以下のような違いが生じる。即ち、ガス管90にガス漏れが無い場合、計測管路22内の気流は比較的穏やかなので、第2のガスは比較的ゆっくりと計測管路22の外部(ガス管90)へと自然拡散する。従って、計測管路22内における第2のガスの濃度変化(濃度低下)が比較的緩慢で、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う伝搬速度Cの推移(単位時間当たりの変化量)が比較的緩やかになる(例えば、図4の破線で示したグラフを参照)。
【0065】
これに対し、ガス管90にガス漏れがある場合には、計測管路22内にガス漏れ箇所へと向かうガスの流れが生じるので、第2のガスが比較的速やかに計測管路22の外部(ガス管90)へと拡散する。従って、計測管路22内における第2のガスの濃度変化(濃度低下)が比較的速く、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う伝搬速度Cの推移(単位時間当たりの変化量)が比較的大きくなる(例えば、図4の実線で示したグラフを参照)。
【0066】
そして、データ比較部49は、第2のガスを滞留させてから(第2のガス注入後から)の経過時間が同じ条件で基準推移データと実測推移データとを比較し、その差分(図4における「ΔC1」)が予め定められた許容差より大きくなった場合、或いは、単位時間当たりの伝搬速度の変化量(図4における「ΔC2/Δt」)が、予め定められた許容変化量より大きくなった場合には、ガス漏れ有りと判定する。ガス漏れ有りと判定した場合には、超音波流量計10又は超音波流量計10とは別に設けた警告器13を作動させたり、緊急遮断弁14を閉じて第1のガスの供給を遮断する等の対処動作を行うようにしてもよい。」

(3)「【図4】



(4)上記「(2)及び(3)」より、「基準推移データと実測推移データの同時刻での伝搬速度Cの差分ΔC1が予め定められた許容差より大きくなった場合、或いは実測推移データの単位時間当たりの伝搬速度の変化量ΔC2/Δtが、予め定められた許容変化量より大きくなった場合には、ガス漏れ有りと判定する」ことが読み取れる。

(5)上記引用文献2の記載事項を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術(以下「引用文献2開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「流路管におけるガス漏れを検出するために、第1のガスと第2のガスを一定の温度にして実測により求められたものであって、第1のガスの流量を0(真値)にして計測管路22内に第2のガスを自然拡散させた場合の超音波の伝搬速度(基準伝搬速度)と、第2のガスを計測管路22内に滞留させてからの経過時間とを対応させて記憶したデータである基準推移データと、実測推移データとを比較し、基準推移データと実測推移データの同時刻での伝搬速度Cの差分ΔC1が予め定められた許容差より大きくなった場合、或いは実測推移データの単位時間当たりの伝搬速度の変化量ΔC2/Δtが、予め定められた許容変化量より大きくなった場合には、ガス漏れ有りと判定する技術。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の技術事項が記載されている。
(1)「3.発明の詳細な説明
本発明は、水その他油、カス等が配管の特定位置から漏れている個所を、相関方式を利用して感知し検出する漏水等配管からの漏れ位置検出装置に関するものである。
・・・
これらの困難さを改良すべく相関関数の理論に基づく例えば漏水点の位置計測が行われるようになった。しかし現在使用されている装置は、漏水音の管内伝播速度および管路長が正確に分っているものに対して正確な漏水位置計測が可能であり、配管図不備による管路長の不明確、管の腐蝕劣化による伝播速度の経年変化等が考えられる場合は測定位置の誤差が大きくなる欠点があった。また相関関数を計測した後相関値のピーク点を目で読取り、電卓等による手計算で漏水位置の結果を得ていたため、現場での計測が煩雑で間違った結果を算出する欠点があった。」(第1頁右下欄第14行−第2頁左上欄第19行)

(2)上記引用文献3の記載事項を総合勘案すると、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3開示事項」という。)が記載されていると認められる。
「管の腐蝕劣化により伝播速度が変化すること」

4.引用文献4について
当審拒絶理由において引用された上記引用文献4には、以下の技術事項が記載されている。
(1)「【請求項20】
流体を運ぶパイプの非破壊検査のための装置であり、:
a) 前記パイプの縦に分かれた2地点を通過する音響外乱伝播の検知のための一番目と二番目のセンサー、および
b) 前記一番目と二番目のセンサーから入力を受け、
(i) 前記音響外乱の伝播速度の実測値の決定;
(ii) 既知の円周方向肉厚プロファイルで有限肉厚を有すると仮定したパイプ中の伝播音波の理論モデルを用いて、そのパイプの少なくとも一つの肉厚プロファイルパラメーターの関数として、対応する伝播速度の予測値の計算;および
(iii) その予測値と、実測値を照合させる事によるその肉厚パラメーターの計算、
を行うようにプログラムされたプロセッサー、
から成る装置。」

(2)「【請求項21】
前記パイプは水配管であり、前記センサーは、そのパイプにつながれている消火栓、そのパイプに取り付けられているコントロールバルブ、及びマンホールか土の掘られた小さいキーホールからのパイプ壁へのアクセスからなるグループから選択された支持要素に取り付けられている、請求項20に記載の装置。」

(3)上記引用文献4の記載事項を総合勘案すると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「流体を運ぶパイプの非破壊検査のための装置において、
前記パイプの縦に分かれた2地点を通過する音響外乱伝播の検知のための一番目と二番目のセンサー、および前記一番目と二番目のセンサーから入力を受け、前記音響外乱の伝播速度の実測値の決定と、 既知の円周方向肉厚プロファイルで有限肉厚を有すると仮定したパイプ中の伝播音波の理論モデルを用いて、そのパイプの少なくとも一つの肉厚プロファイルパラメーターの関数として、対応する伝播速度の予測値の計算と、その予測値と、実測値を照合させる事によるその肉厚パラメーターの計算と、を行うようにプログラムされたプロセッサー、
から成る装置であり、
前記パイプは水配管である、装置。」

5.引用文献5について
原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由に引用された上記引用文献5には、以下の技術事項が記載されている。
(1)「【0007】
本発明の分析装置は、配管に設けられた開閉装置の状態を検知する開閉検知部が検知した開閉情報に基づいて開閉装置の開閉状態を判定する開閉判定部と、開閉状態に応じて、配管の振動を検知する振動検知部が検知した振動情報に基づいて配管の状態を分析する状態分析部とを有するものである。」

(2)「【0013】
図1に示すとおり、本発明の第1の実施形態における分析装置100は、配管500に設けられた開閉装置501の状態を検知する開閉検知部が検知した開閉情報に基づいて開閉装置501の開閉状態を判定する開閉判定部101と、開閉判定部101が判断した開閉装置501の開閉状態に応じて、配管500の振動を検知する振動検知部が検知した振動情報に基づいて配管500の状態を分析する状態分析部102とを有するものである。」

(3)「【0038】
状態分析部102は、特に配管500の薄肉化による劣化の診断の一つの例として、振動検知部110の検知した振動情報から、配管500に固有の共振周波数f又は共振先鋭度Qに基づいて分析を行う。この場合において、共振先鋭度Qは以下の式(1)のように定義される。
【0039】
Q=f/Δf (1)
Δf:ピーク値の半値となる周波数幅
状態分析部102は、例えば、上述した共振周波数f又は共振先鋭度Qが所定の閾値を超えている場合に劣化が生じていると判断する。この場合において、閾値は、配管500の材質や径などの情報から、薄肉化などの劣化が生じていると判断される共振周波数や共振先鋭度を予め求めておくことができる。」

(4)上記引用文献5の記載事項を総合勘案すると、引用文献5には、次の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。
「配管500の振動を検知する振動検知部が検知した振動情報に基づいて配管500の状態を分析する状態分析部102を有する分析装置100において、
状態分析部102は、特に配管500の薄肉化による劣化の診断の一つの例として、振動検知部110の検知した振動情報から、配管500に固有の共振周波数fが所定の閾値を超えている場合に劣化が生じていると判断し、
閾値は、配管500の材質や径などの情報から、薄肉化などの劣化が生じていると判断される共振周波数を予め求めておく、
分析装置100。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1を引用発明1と対比する。
ア 引用発明1の「位置Aに設置される測定端末1を測定端末1A、位置Bに設置される測定端末1を測定端末1Bとした二台以上の測定端末1」は、それぞれ「振動センサ10」を備えていることから、「測定端末1A」の「振動センサ10」と「測定端末1B」の「振動センサ10」は、本願発明1の「2つ」「のセンサ」に相当する。
イ 引用発明1の「測定端末1Aが測定した振動データYA(t)と、測定端末1Bが測定した振動データYB(t)」は、本願発明1の「2つ」「のセンサにおいてそれぞれ定められた時間帯に検知された物理量」に相当する。
ウ 引用発明1の「測定端末1Aが測定した振動データYA(t)と、測定端末1Bが測定した振動データYB(t)とから」求められる「相互相関関数ΦAB(τ)」は、本願発明1の「2つ」「のセンサにおいてそれぞれ定められた時間帯に検知された物理量」「の相互相関」に相当する。
エ 引用発明1の「測定時刻を一致させるために測定端末1Aと1Bの間で通信を」する「測定時刻情報取得部12」は、本願発明1の「センサの時刻同期を行うように制御する時刻同期手段」に相当し、引用発明1の「測定端末1Aと1B」は、本願発明1の「時刻同期が行われた」「2つの」「センサ」に相当する。
オ 引用発明1の「配管振動の伝播速度Cの値」は、本願発明1の「配管を伝搬する振動の伝搬速度」に相当する。
カ 引用発明1の「位置Aおよび位置Bの間の測定区間に対応する相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、測定区間内に漏洩が生じたと判定し、設定値Tより小さい場合には漏洩は生じていないと判定し、相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、相互相関関数ΦAB(τ)の最大値を求め、この最大値の時間Δτを求め、この時間Δτが振動データYA(t)と振動データYB(t)との時間差Δτとなり、解析部21は、配管設置データベース20の配管の設置図から、位置Aと位置Bとの間の距離LABの値と配管振動の伝播速度Cの値とを読み出し、算出された時間差Δτの値を式(2)に代入して、測定端末1Aが設置された測定位置Aから漏洩位置Pまでの距離LAPを算出する」ことは、本願発明1の「物理量である」「配管を伝搬する振動の伝搬速度」「に基づいて前記配管の劣化」「を分析する」ことに相当する。
キ 引用発明1では「相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、」「測定端末1Aが設置された測定位置Aから漏洩位置Pまでの距離LAPを算出」していることから、引用発明1と本願発明1とは「物理量の相互相関に基づいて配管の劣化の」「分析が必要であるかを判定する」点で共通する。
ク 引用発明1は「漏洩位置解析部21」が「位置Aおよび位置Bの間の測定区間に対応する相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、測定区間内に漏洩が生じたと判定し、設定値Tより小さい場合には漏洩は生じていないと判定し、相互相関関数ΦAB(τ)が予め設定された設定値T以上の場合には、相互相関関数ΦAB(τ)の最大値を求め、この最大値の時間Δτを求め、この時間Δτが振動データYA(t)と振動データYB(t)との時間差Δτとなり、解析部21は、配管設置データベース20の配管の設置図から、位置Aと位置Bとの間の距離LABの値と配管振動の伝播速度Cの値とを読み出し、算出された時間差Δτの値を式(2)に代入して、測定端末1Aが設置された測定位置Aから漏洩位置Pまでの距離LAPを算出する」ことから、引用発明1の「漏洩位置解析部21」は、本願発明1の「2つ」「のセンサにおいてそれぞれ定められた時間帯に検知された物理量」「の相互相関に基づいて、配管の劣化の」「分析が必要であるかを判定する判定手段と、前記分析が必要と判定された場合に、」「前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度」「に基づいて前記配管の劣化」「を分析する分析手段」に相当する。

すると、本願発明1と引用発明1とは、
「2つのセンサにおいてそれぞれ定められた時間帯に検知された物理量の相互相関に基づいて、配管の劣化の分析が必要であるかを判定する判定手段と、
前記2つのセンサの時刻同期を行うように制御する時刻同期手段と、
前記分析が必要と判定された場合に、時刻同期が行われた前記センサにおいて検知された前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度に基づいて前記配管の劣化を分析する分析手段と、
を備え、た
分析装置。」
の点で一致し、以下の相違点1及び2で相違する。
<相違点1>
配管の劣化を分析する分析手段が、本願発明1は「腐食によって配管が脆くなっている状態、又は、配管を接続する部位の接続状態が緩くなっている状態」「の程度」を「前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度の変化量に基づいて」「分析」するのに対し、引用発明1は、「配管振動の伝播速度」に基づいて「配管の漏洩位置を算出する」点。
<相違点2>
本願発明1は、センサが2つ以上あり、前記2つ以上のセンサのうち2つのセンサの組合せの各々について、前記組合せに含まれる2つのセンサにおいて検知された前記物理量の相互相関に基づいて、配管の劣化の程度の分析が必要であると判定された前記組合せに含まれるセンサの時刻同期を行うよう制御する時刻同期手段を備え、分析手段では時刻同期が行われた前記センサにおいて検知された前記物理量を用いるのに対し、引用発明1は、センサが測定端末1Aと測定端末1Bの2台しかなく、センサの組み合わせも1組であり、測定時刻を一致させるために測定端末1Aと1Bの間で通信をし、漏洩位置解析部21では測定端末1Aが測定した振動データYA(t)と、測定端末1Bが測定した振動データYB(t)を用いる点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、前記相違点2について先に検討すると、前記相違点2に係る本願発明1の「2つ以上のセンサのうち2つのセンサの組合せ」「のいずれかの前記物理量の相互相関に基づいて前記分析が必要と判定された場合に、前記分析が必要と判定された前記組合せに含まれるセンサの時刻同期を行うよう制御する時刻同期手段」という構成は、上記引用文献1ないし5には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1、4及び5と引用文献2開示技術と引用文献3開示事項とに基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7は、本願発明1を引用する発明であり、本願発明1の上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記「1.」で検討したとおり、当業者であっても、引用発明1、4及び5と引用文献2開示技術と引用文献3開示事項とに基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.本願発明8について
本願発明8は、本願発明1の分析装置のカテゴリーを分析方法に変更したものであり、本願発明1の上記相違点2に係る発明特定事項に対応する構成を備えるものであるから、上記「1.」で検討した本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1、4及び5と引用文献2開示技術と引用文献3開示事項とに基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4.本願発明9について
本願発明9は、本願発明1の分析装置のカテゴリーをコンピュータに処理を実行させるプログラムに変更したものであり、本願発明1の上記相違点2に係る発明特定事項に対応する構成を備えるものであるから、上記「1.」で検討した本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1、4及び5と引用文献2開示技術と引用文献3開示事項とに基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定についての判断
令和4年5月26日受付の手続補正書による手続補正により、補正後の請求項1ないし7は、「前記組合せのいずれかの前記物理量の相互相関に基づいて前記分析が必要と判定された場合に、前記分析が必要と判定された前記組合せに含まれるセンサの時刻同期を行うよう制御する時刻同期手段と、時刻同期が行われた前記センサにおいて検知された前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度の変化量に基づいて前記配管の劣化の程度を分析する分析手段」という技術的事項を、補正後の請求項8は、「前記組合せのいずれかの前記物理量の相互相関に基づいて前記分析が必要と判定された場合に、前記分析が必要と判定された前記組合せに含まれるセンサの時刻同期を行うよう制御し、時刻同期が行われた前記センサにおいて検知された前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度の変化量に基づいて前記配管の劣化の程度を分析し、」という技術的事項を、補正後の請求項9は「前記組合せのいずれかの前記物理量の相互相関に基づいて前記分析が必要と判定された場合に、前記分析が必要と判定された前記組合せに含まれるセンサの時刻同期を行うよう制御する時刻同期処理と、時刻同期が行われた前記センサにおいて検知された前記物理量である前記配管を伝搬する振動の伝搬速度の変化量に基づいて前記配管の劣化の程度を分析する処理」「を実行させ」という技術的事項を、それぞれ有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献1,2,3及び5には記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1ないし9は、当業者であっても、原査定における引用文献1,2,3及び5に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-07-19 
出願番号 P2017-049417
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01M)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 幸仙
渡戸 正義
発明の名称 分析装置、分析システム、分析方法及びプログラム  
代理人 北嶋 啓至  
代理人 机 昌彦  

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