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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1387197
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-01 
確定日 2022-07-22 
事件の表示 特願2018−522661「扱いにくい試料タイプのための試料調製」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月11日国際公開、WO2017/079167、平成31年 1月24日国内公表、特表2019−502098、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)11月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年11月2日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、令和元年7月2日に特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書が提出され、同年10月30日に手続補正書が提出され、令和2年8月21日付けで拒絶理由が通知され、令和3年1月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月25日付けで拒絶査定がなされ、同年10月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされると 同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和3年5月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1、7−8、11、13−16に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項1、4、7−9、11、13−16に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項2−3、12に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された事項、または、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項、に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項4、9に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項5−6、10に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献4に記載された事項、または、引用文献2に記載された発明及び引用文献4に記載された事項、に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2004−245831号公報
2.特表2014−533176号公報
3.米国特許出願公開第2011/0217694号明細書
4.特表2014−503068号公報

第3 本願発明
本願の請求項1−14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明14」という。)は、令和3年10月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1−14に記載された事項により特定される発明であり、そのうち本願発明1は以下のとおりである。

「【請求項1】
生物学的物質または環境物質を含む試料を捕集し、捕集された試料を提供するステップと、
スワブを使用して、前記捕集された試料と接触するステップと、
捕集された前記試料を有する前記スワブを、試料緩衝液に入れ、これにより前記捕集された試料の少なくとも一部を前記試料緩衝液に移動し、捕集された試料を含む試料緩衝液を提供するステップと、
前記捕集された試料を含む試料緩衝液をフィルタに通し、試料濾過液を提供するステップと
を含み、
前記試料濾過液を提供するステップの前に2分を超えて継続する前処理ステップがなく、
前記試料緩衝液が、前記試料緩衝液の体積で少なくとも10%の量の界面活性剤を含み、
前記捕集するステップが、スワブによる捕集ステップではなく、
前記捕集するステップが、気管支肺胞洗浄液(BAL)、ミニBAL(mini−BAL)、気管支洗浄液、気管内吸引液(ETA)または痰から試料を得て、捕集された試料を提供するステップを含む、試料捕集方法 。」

なお、本願発明2−14は、本願発明1の構成をすべて有する発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審によって付与した。以下同様。)。


「【技術分野】
【0001】
本発明は、検体試料中の被測定物を測定するための簡易メンブレンアッセイに関する。」


「【0010】
すなわち、本発明は、被測定物を含む検体試料を濾過フィルターを用いて濾過した後に、被測定物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置上に滴下する過程を含む、検体試料中の被測定物の存在を検出または定量するためのメンブレンアッセイ法であって、濾過フィルターで濾過する前に検体試料を振とう処理することを特徴とする方法を提供する。」


「【0019】
振とう処理
上記の通り、本発明の方法では、濾過フィルターで濾過する前に検体試料を振とう処理する。ここで、振とう処理は、例えば、検体試料を収容する容器を手で振とうすることによって、又は容器をボルテックスミキサーで振とうすること等により行うことができる。手で振とうする場合、振幅(振動の中心から端までの距離)5 cm〜30 cm程度で、周期(振とうの1往復に要する時間)0.2〜0.5秒程度の振とうを2秒以上、好ましくは2秒〜10秒間程度行うことが好ましい 。・・・」


「【0020】
検体試料
本発明の検査方法により分析するための検体試料は、咽頭あるいは鼻腔拭い物を適当な緩衝液中に浮遊させた溶液、鼻腔吸引液、咽頭あるいは鼻腔洗浄液、便懸濁液、血漿、血清、尿、唾液、羊水、髄液、膿、臓器抽出液、各種組織抽出液等の生体試料、食品抽出液、培養上清、上水、下水、湖水、河川水、海水、土壌抽出液、汚泥抽出液及びそれらを適当な緩衝液で希釈した溶液を用いることができるがこれらに限定されない。
【0021】
検体は、例えば患者の咽頭・鼻腔等から滅菌綿棒等の検体採取器具を使用して採取するか、または鼻腔吸引液等を用いることができるが、このようにして得られた検体は、通常検体浮遊液に浮遊させてアッセイを行う。検体浮遊液としては、免疫拡散法、酵素免疫測定法、凝集法等の免疫学的手法による試料検出または定量法において通常使用されるバッファー類等を使用することができる。」


「【0025】
被測定物
本明細書にいう被測定物は、何ら限定されず、検出又は定量しようとするいかなる物質であってもよい。例として、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、HAV、HBc、HCV、HIV、EBV、ノーウォーク様ウイルス等のウイルス抗原、クラミジア・トラコマティス、溶連菌、百日咳菌、ヘリコバクター・ピロリ、レプトスピラ、トレポネーマ・パリダム、トキソプラズマ・ゴンディ、ボレリア、炭疽菌、MRSA等の細菌抗原、マイコプラズマ脂質抗原、ヒト繊毛製ゴナドトロピン等のペプチドホルモン、ステロイドホルモン等のステロイド、エピネフリンやモルヒネ等の生理活性アミン類、ビタミンB類等のビタミン類、プロスタングランジン類、テトラサイクリン等の抗生物質、細菌等が産生する毒素、各種腫瘍マーカー、農薬、抗大腸菌抗体、抗サルモネラ抗体、抗ブドウ球菌抗体、抗カンピロバクター抗体、抗ウェルシュ菌抗体、抗腸炎ビブリオ菌抗体、抗ベロトキシン抗体、抗ヒトトランスフェリン抗体、抗ヒトアルブミン抗体、抗ヒト免疫グロブリン抗体、抗マイクログロブリン抗体、抗CRP抗体、抗トロポニン抗体、抗HCG抗体、抗クラミジア・トラコマティス抗体、抗ストレプトリジンO抗体、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体、抗β-グルカン抗体、抗HBe抗体、抗HBs抗体、抗アデノウイルス抗体、抗HIV抗体、抗ロタウイルス抗体、抗インフルエンザウイルス抗体、抗パルボウイルス抗体、抗RSウイルス抗体、抗RF抗体、病原微生物に由来する核酸成分に相補的なヌクレオチド等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0026】
濾過フィルター
本発明の方法において、検体試料は、上記振とう処理後、濾過フィルターを用いて濾過される。濾過フィルターの孔径(直径)または保留粒子径は通常、0.1〜10μm、好ましくは0.2〜2.0μm、より好ましくは0.2〜0.6μmである。」


「【0029】
検体試料収容容器
上記振とう処理を行う際に検体試料を収容する容器としては、チューブが好ましく、上記濾過フィルターは、該チューブの一端に取り付けて使用されることが好ましい。一端に濾過フィルターが取り付けられたチューブを本明細書において「濾過チューブ」という。濾過チューブ中に検体試料をいれて、一端に取り付けた濾過フィルターを通して濾過し、濾液をメンブレンアッセイ装置中のメンブレンに滴下する方法が簡便であり、好ましい。この濾過チューブの具体例の模式図を図3及び図4に示す。濾過チューブは例えば図3に記載されるように先端部dと本体部eからなる形状であり、先端部の内部に図4に示されるように濾過フィルターfが備えつけられている。本体部eに検体試料を入れ、本体部eに濾過フィルターfを備えた先端部dを取り付ける。濾過フィルターfを通して検体試料を濾過し、濾液をメンブレンアッセイ装置に滴下する。本体部eがポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフレキシブルな材質からなると、濾過フィルターを取り付けた状態で、手などにより内部に圧力を加えることで、容易に検体試料を濾過し滴下することができるため、好ましい。」


「【0030】
アッセイ装置
メンブレンを備えたアッセイ装置(メンブレンアッセイ装置ともいう)は、被測定物に特異的に結合する捕捉物質が固相化されたメンブレンを含む装置である。このようなアッセイ装置としては、フロースルー式メンブレンアッセイ法またはラテラルフロー式メンブレンアッセイ法を利用する装置であることが好ましい。フロースルー式メンブレンアッセイ法を利用するアッセイ装置の具体例は、例えば図1及び2に示されるような装置である。
【0031】
図1は装置の平面図であり、図2は、図1のI−I'切断端面図である。図1及び2において、aは、調製した検体試料を滴下する開口部を有し、底面部に試料が通過するための穴(Aホール及びBホール)を備えたアダプターである。bは被測定物に特異的に結合する捕捉物質が結合したメンブレンであり、cは液体を吸収する部材である。」


「【0054】
4.インフルエンザウイルスの検出
(1)メンブレンアッセイ法による検出
臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者140人の鼻腔より滅菌綿棒を用いて拭い液を採取し、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX−100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液1.0mL中に浮遊し、試験用試料を作製した。直ちに、ふたつの検体試料用濾過チューブに500μLずつ等分し、それぞれのチューブの先端に2枚の孔径(保留粒子径)0.67μmのガラス繊維の間に孔径0.45μmのニトロセルロースメンブレンを挟んだフィルターを装填した。
【0055】
二等分した一方の検体試料が入った試料チューブを手で10回(10往復)激しく振とうした(振幅10cm、周期0.4秒)(実施例1)。振とう後、直ちにノズルを通過させて濾過した後、3.で作製したメンブレンアッセイ装置のAホールとBホールにそれぞれ150μLずつ滴下し、ニトロセルロースメンブレンの株に備えられた液体吸収部材に試料が完全に吸収されるまで放置した。・・・」


【図3】



【図4】



図3及び図4より、先端部dは、本体部eに取り付けられる部分とは反対側の部分が先細りの形状である点が看取されること、また、先端部dは、濾過フィルターfを通して液体を通過させる部材であること、そして、先細りの形状で液体を通過させる部材として、ノズルが一般的に用いられているものであることから、段落【0055】に記載された、検体試料を通過させて濾過する「ノズル」は、「濾過フィルターfが備えつけられている」「先端部d」を指しているものであることが読み取れる。

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「検体試料を調製する方法であって、
臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者の鼻腔より滅菌綿棒を用いて採取した拭い液を、
50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX−100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液1.0mL中に浮遊させた 溶液である検体試料を作製し、直ちに、
濾過フィルターfが備えつけられている先端部dと本体部eからなる濾過チューブに500μL入れ、
検体試料が入った試料チューブを手で10回(10往復)激しく振とうし(振幅10cm、周期(振とうの1往復に要する時間)0.4秒)、
振とう後、直ちに、濾過フィルターfが備えつけられている先端部dを通過させて濾過する、
方法。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【0007】
さらに別の実施形態では、流体系を充填するための方法が提供され、方法は、カニューレ状バイアルを用意するステップであって、カニューレ状バイアルが、外部環境から封止された、圧力下で供給される流体およびある量のガスを含む内側容積部を有するバイアル本体と、バイアル本体の底面から延在するとともに、第1の端部および第2の端部を有するカニューレであって、第1の端部が内側容積部と流体連通しており、第2の端部が外部環境から封止された、カニューレとを備える、ステップ、カニューレの第2の端部を開封し、それによってバイアル本体内の圧力が流体をカニューレに流し込むステップ、第2の端部を流体系に入れ、それによって流体を真空下に置くステップ、ならびに真空によって流体をカニューレ状バイアルから引き出すことを可能にし、流体がカニューレを通して駆動され、バイアル本体内のガスの膨張によって流体系に追い込まれるステップを含む。」


「【実施例4】
【0125】
パウチ装填
図16は装填ステーション600を示す。図示されるように、図12のパウチ510は、パウチ510の付属部品590のみが見えるようにして、装填ステーション600のスロット610に装填される。図示されるように、装填ステーション600は、サンプルバイアル650を保持するサンプルバイアルレセプタクル602と、水和バイアル670を保持する水和バイアルレセプタクル604とを備える。・・・」


「【0126】
サンプルは、ピペッティングまたは別の方法でサンプルバイアル650に装填される。より詳細に後述するように、ワークフローに応じて、サンプルバイアル650は、生物学的サンプルを受け入れるため、緩衝液または他の流体652をすでに含有していてもよく、または、オペレータは、適切な緩衝液中の生物学的サンプルをサンプルバイアル650に添加してもよい。・・・」


「【0127】
実例となる付属部品590は、例えば付属部品590の第2の表面595付近に形成される、注入ポート541を含む。図示されるように、注入ポート541は、カニューレ状シリンジなど、付属部品590の第1の表面594を通してカニューレ状移送容器を受け入れるように構成されている、サンプル注入開口部563に配置される。この実例となる構成では、注入ポート541は、偶発的な穴開けから保護され、カニューレ状移送容器がサンプル注入開口部563に入れられるまで開放されない。・・・」


「【0129】
試験すべきサンプルの種類に応じて、サンプルバイアル650は、例えばバイアル本体654の底面686またはその付近に配置される、フィルタ646を備えてもよい。図示されるように、フィルタ646はOリング644によって適所で保持される。しかし、当該分野において知られているように、接着剤によって、溶接によって、適所にプレス嵌めすることによって、または他の手段によって、フィルタ646が適所で保持されてもよいことが理解される。カニューレ655がサンプル注入開口部653に挿入され、サンプルがパウチ510に引き込まれると、サンプル材料は、フィルタ646を通ってカニューレ655に引き入れられるにつれて濾過される。・・・」


「【0130】
図示されるように、底部キャップ664は、六角形のサンプルバイアルレセプタクル602に適合するように構成された六角形部分666を備える。実施形態では、部分666およびサンプルバイアルレセプタクルは六角形であるが、他の形状が使用されてもよく、オペレータが底部キャップ664を除去するのを支援するため、六角形もしくは他の噛合または連動する形状が提供されてもよいことが理解される。あるいは、オペレータは、両手を使用して底部キャップ664を捻ってバイアル本体654から外すなど、他の手段によって底部キャップ664を除去してもよい。底部キャップ654は、バイアル本体654に対してプレス嵌めされるか、ねじ留めされるか、または別の方法で固着されてもよい。
【0131】
実施形態では、底部キャップ664は弁座648を備え、それによってカニューレ655の下端部659は弁座648内へと延在する。例えば、カニューレ655の下端部659は弁座648にしっかり嵌合するので、弁座648がカニューレ655の開いた下端部659の周りに気密封止を提供する。・・・」


「【0134】
例えば、パウチ510を装填するため、オペレータは、装填ステーション600上で、サンプルバイアル650をサンプルバイアルレセプタクル602に、水和バイアル670を水和バイアルレセプタクル604に入れる。パウチ510もスロット610に入れられるであろう。オペレータは、指示に応じて、シール656を除去し、サンプルをバイアル本体654内のサンプル緩衝液に入れる。サンプルは、スワブの挿入、流体サンプルのピペッティング、患者から直接バイアル本体内への血液の滴下、および便などの固体または半固体のサンプルをバイアル本体に入れること、また任意に、当該分野において標準的であるような、ボルテックス形成または他の混合を含む、サンプルの種類に適した任意の方法でサンプル緩衝液に入れられる。サンプルの種類および所望の標的核酸に応じて、サンプル緩衝液は、プロテアーゼ、RNAアーゼ、RNAアーゼ阻害剤など、1つもしくは複数の添加剤または安定剤を含有してもよい。それに加えて、または別の方法として、これらの添加剤はパウチ510に供給されてもよい。好ましくは、ボルテックス形成または混合の前に、オペレータは、キャップ658の舌660を開口部657に入れることによって、サンプルバイアル650を閉止するであろう。舌660を挿入することによって、バイアル本体654内に含まれる空気が加圧される。例えば、舌660は、カニューレ655の容積以上の容積を有する。例えば、底部キャップ664が除去されると、カニューレ655の弁座648の下端部659の間の気密封止が壊れ、ほぼすべての空気がカニューレ655から押し出される。舌660の容積がカニューレ655の容積よりも大きい場合、そのことが、最大量の空気がカニューレ655から変位させられることを担保する助けとなるであろう。カニューレ655に流し込まれる、また潜在的にそこを通る流体の量における任意のオーバーフローを、底部キャップ664に捕捉し、ワイパー663によってカニューレ655の底部から除去することができる。カニューレ655を完全に、または本質的に完全に充填することによって、パウチを装填する際のパウチ510内の泡の量が最小限に抑えられる。・・・」


「【0135】
底部キャップ664は、六角形のサンプルバイアルレセプタクル602に適合するように構成された六角形部分666を備えるので、オペレータは、底部キャップがレセプタクル602を係合している状態で底部キャップ654を簡単に捻り取り、それによってカニューレ655を露出させることができる。次に、カニューレ655は、サンプル注入開口部563に挿入され、押し込まれて、注入ポート541を開放する。パウチ590内部の真空(または、気圧もしくはパウチ外部の圧力に対するパウチ内部の低い圧力)によって、例えば、バイアル本体からの圧力を用いて、または用いずに、サンプルがフィルタ(存在する場合)を通され、後に続く溶解チャンバ522内への移動のため、サンプルをパウチ510に、例えば付属部品590内のチャンバ592aに引き込むのに使用されてもよい。カニューレ655がほぼ流体652で充填されていることを保証することによって、サンプルバイアル650からパウチ510内へと移動させられる空気または他のガスの量が最小限に抑えられ、それによって泡のサイズおよび量が最小限に抑えられる。さらに、プランジャを備えた従来技術のシリンジが使用され、パウチ590内部の真空が流体を引き込むとき、プランジャはシリンジの下方に引き下ろされ、それによってシリンジ内部の圧力が均衡する。図16?17の実施形態では、バイアル本体それぞれの頂部にある開口部が封止されているので、パウチ590内部からの真空によって流体がバイアルから引き出されると、バイアルは陰圧も経験し、サンプルを脱ガスし、ある程度の残った気泡をパウチ590から引き出してもよい。・・・」


「【0137】
上述のサンプルバイアル650の実施形態では、舌660は、カニューレ655の容積以上の容積を有する。パウチが1mlの充填容積を有する例示的な一実施形態では、バイアル本体654に、1.5mlのサンプル流体652と、サンプル流体の上に1mlの空気645とが供給されてもよい。したがって、空気はバイアル本体の容積の40%である。しかし、10%、20%、30%、50%、60%、70%、80%、およびその間の量を含む、空気の他の割合が使用されてもよいことが理解される。舌660が開口部657を通して挿入されると、サンプル流体の上の空気は、例えば約50%圧縮されるが、40〜60%、30〜70%、20〜80%、および10〜90%の範囲の圧縮はすべて可能である。空気およびサンプル流体の体積の選択は、サンプルのサイズ、カニューレの直径、流体反応を実行するのに先立ってバイアルを除去するのが望ましいか否か、および他の多数の要因に応じて決まることが理解される。例えば、採取するかまたはかき出したサンプルは、流体系の充填容積にかかわらず、大幅により多量のサンプル流体を必要とすることがある。」


【図16】



【図17】

(2) 引用文献2に記載された発明
上記(1)から、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「パウチ内部からの真空によって流体をカニューレ状バイアルから引き出しパウチに引き込む方法であって、前記方法は、
前記カニューレ状バイアルが、外部環境から封止された、圧力下で供給される流体およびある量のガスを含む内側容積部を有するバイアル本体と、バイアル本体の底面から延在するとともに、第1の端部および第2の端部を有するカニューレであって、第1の端部が内側容積部と流体連通しており、第2の端部が外部環境から封止された、カニューレとを備え、
前記カニューレ状バイアルは、サンプルバイアル650であり、
サンプルバイアル650は、バイアル本体654の底面686またはその付近に配置される、フィルタ646を備え、
底部キャップ664は弁座648を備え、それによってカニューレ655の下端部659は弁座648内へと延在し、弁座648がカニューレ655の開いた下端部659の周りに気密封止を提供し、
装填ステーション600上で、サンプルバイアル650をサンプルバイアルレセプタクル602に入れ、パウチ510は、パウチ510の付属部品590のみが見えるようにして、装填ステーション600のスロット610に装填され、
採取するかまたはかき出した生物学的サンプルは、スワブの挿入、流体サンプルのピペッティング、患者から直接バイアル本体内への血液の滴下、および便などの固体または半固体のサンプルをバイアル本体に入れること、また任意に、当該分野において標準的であるような、ボルテックス形成または他の混合を含む、サンプルの種類に適した任意の方法でバイアル本体654内のサンプル緩衝液に入れられ、
ボルテックス形成または混合の前に、キャップ658の舌660を開口部657に入れることによって、サンプルバイアル650を閉止し、舌660を挿入することによって、バイアル本体654内に含まれる空気が加圧され、
底部キャップがレセプタクル602を係合している状態で底部キャップを捻り取り、それによってカニューレ655を露出させ、底部キャップ664が除去されると、カニューレ655の弁座648の下端部659の間の気密封止が壊れ、ほぼすべての空気がカニューレ655から押し出され、
それによって、バイアル本体内の圧力が流体をカニューレに流し込み、
カニューレ655は、付属部品590の第1の表面594を通してカニューレ状移送容器を受け入れるように構成されている、サンプル注入開口部563に挿入され、押し込まれて、付属部品590の第2の表面595付近に形成される、注入ポート541を開放し、
パウチ590内部の真空によって、サンプルがフィルタを通され、サンプルをパウチ510に引き込み、サンプルがパウチ510に引き込まれると、サンプル材料は、フィルタ646を通ってカニューレ655に引き入れられるにつれて濾過される、方法。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。


「[0057]
Swab Kits. In various embodiments, a swab kit may be used to collect target microbes from a sample for flow cytometric analysis.・・・」
(当審訳)「スワブキット。種々の実施形態において、スワブキットは、フローサイトメトリー分析のためにサンプルから目的の微生物を収集するために使用することができる。・・・」


「[0058]
FIGS. 1A and 1B present illustrative schematics of swab kits that may be used to collect target bacterial samples. Referring to FIG. 1A, swab kit 10 is shown as a first illustrative example of a swab kit suitable for use in the present disclosure. As shown, swab kit 10 generally includes housing 12, swab 14, filter 18, collection unit 20, and container 24. In this non-limiting example, housing 12 is a cylindrical and transparent structure with a distal end and a proximal end. Likewise, swab 14 in this example is a pen-like structure with rod 15 and tip 16. Tip 16 can acquire target microbes and then release them after exposure to a liquid or liquids.・・・」
(当審訳)「図1A及び図1Bは、標的細菌サンプルを収集するために使用することができるスワブキットの概略説明を提示する。図1Aを参照すると、スワブキット10は、本開示における使用に適したスワブキットの第1の例示的な例として示されている。図示されるように、スワブキット10は、一般に、ハウジング12、スワブ14、フィルタ18、収集ユニット20、及び容器24を含む。この非限定的な例では、ハウジング12は、遠位端および近位端を有する円筒状の透明な構造体である。同様に、この例では、スワブ14は、ロッド15および先端部16を有するペン状の構造である。先端部16は、標的微生物を取得することができ、その後、液体又は液体に曝した後でそれらを放出することができる。・・・」


「[0061]Swab kit 10 may further include container 24. In the example shown in FIG. 1A, container 24 can include indented part 25 with breakable rod 26. In some embodiments, container 24 may be positioned above axis line A at the proximal end of housing 10. In further embodiments, container 24 may contain a buffer. Therefore, the breakage of rod 26 allows the buffer to flow into housing 12.・・・」
(当審訳)「スワブキット10はさらに、容器24を含むことができる。図1Aに示す例では、容器24は、破壊可能なロッド26を備えた凹部25を含むことができる。いくつかの実施形態では、容器24は、ハウジング10の近位端において、軸線Aより上方に配置することができる。さらなる実施形態では、容器24は、緩衝液を含むことができる。そのため、ロッド26の破損は、緩衝液がハウジング12に流れ込むことを可能にする。・・・」


「[0063]The swab kits of the present disclosure may be used in various methods. For instance, in one example, swab 14 may be removed from housing 12 and pressed against a sample to be analyzed such that at least some of the sample adheres to tip 16. Thereafter, swab 14 may be placed back into housing 12. Container 24 may then be re-positioned at the proximal end of housing 12. Next, rod 26 may be pressed by an operator such that it breaks and releases any buffer in the container into housing 12. ・・・」
(当審訳)「本開示のスワブキットは、様々な方法で使用することができる。例えば、一例では、スワブ14は、ハウジング12から取り外され、サンプルの少なくとも一部が先端部16に付着するように、分析されるサンプルに押し付けられてもよい。その後、スワブ14はハウジング12に戻される。容器24は、その後ハウジング12の近位端に再び配置されてもよい。次に、ロッド26は、それが破損して容器内の緩衝液をハウジング12内に放出するように、オペレータによって押されてもよい。・・・」


FIGURE1(当審訳)図1


(2)引用文献3に記載された技術的事項
上記記載から、引用文献3には、「フローサイトメトリー分析のためにサンプルから目的の微生物を収集するために使用されるスワブキットの使用方法において、
スワブキット10は、ハウジング12、スワブ14、フィルタ18、収集ユニット20、及び容器24を含み、スワブ14は、ロッド15および先端部16を有し、先端部16は、標的微生物を取得することができ、その後、液体に曝した後でそれらを放出するものであり、容器24は、破壊可能なロッド26を備えた凹部25を含むものであって、かつ、緩衝液を含むことができ、ロッド26の破損は、緩衝液がハウジング12に流れ込むことを可能にするものであって、
スワブ14は、ハウジング12から取り外され、サンプルの少なくとも一部が先端部16に付着するように、分析されるサンプルに押し付けられ、その後、スワブ14はハウジング12に戻され、容器24は、その後ハウジング12の近位端に再び配置され、次に、ロッド26は、それが破損して容器内の緩衝液をハウジング12内に放出するように、オペレータによって押される」という技術的事項(以下「引用文献3技術1」という 。)が記載されているといえる。

上記引用文献3技術1から 、引用文献3には、「サンプルの少なくとも一部が、スワブ14が有する先端部16に付着するように、スワブ14を、分析されるサンプルに押し付け、先端部16は標的微生物を取得し、その後、スワブ14をハウジング12に入れ、緩衝液をハウジング12内に放出し、先端部16は緩衝液に曝した後で標的微生物を放出する」という技術的事項(以下「引用文献3技術2」という 。)が記載されているといえる。

4 引用文献4について
(1)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【0012】
添付の図面の図を参照すると、1は、分子生物学用の試料を採取して移動させるための装置の全体を示す。装置1は、細長い構造及び/又は実質的に棒状の構造を有することができる支持本体2を備える。支持本体2は、その長手方向の延びに沿った可変の部分を含む、任意の部分を有してもよい。支持本体には、試料のための採取部3を構成(define)する第1の部分2a(例えば端部部分)、実質的に棒形状である中央の第2の部分2b、及び端部の第3の部分2cが設けられ、その端部の第3の部分2cにおいて、支持本体を操作者が手で把持でき、又は支持本体を試験管などのためのキャップ5などのさらなる把持要素4に接続できる。
【0013】
試料のための採取部3は綿球(swab)のような形態をとってもよい。採取部3はフロック加工され、本体の第1の端部2a上で複数の繊維6をフロック加工することにより実現される。・・・本発明において、試料の採取の使用前、及び例えば装置1の製造段階の間に、繊維6は界面活性剤を用いて前処理される。界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、非イオン性又は両性であってもよい。本発明において、界面活性剤は好ましくはカチオン性である。・・・採取装置1は、内部閉じ込め収容部10及びアクセス開口11を有する、試料の輸送のための容器7をさらに備えてもよい。容器7は生体物質又は生物起源の試料を輸送するための試験管であってもよい。採取装置1は、容器7を選択的に閉鎖するためにアクセス開口に着脱可能に取り付けることができる閉鎖キャップ5をさらに備えてもよい。・・・本発明はさらに、上記の種類の装置1によって分子生物学用の試料を採取して移動 させるための方法に関する。方法は、採取装置1の少なくとも1つのフロック加工された採取部3に分子生物学用の試料を採取するステップであって、上記の種類のカチオン性界面活性剤を用いて複数の繊維6が前処理される、ステップを少なくとも備える。・・・」


「【0014】
方法は、試料を含有する採取部3を例えば試験管などの容器7中に挿入するステップ、キャップ5若しくは閉鎖カバーを用いて容器7を閉鎖するステップ、及び採取部3を有する容器7を移動させるステップ、及び/又は液化することを目的とする所定量の物質8を容器7に事前に用意するステップ、及び/又は試料を保存するステップ、及び/又は試料を有する採取部3を含む容器7を、試料を液化する目的の所定の速度で、揺り動かすステップ、振るステップ若しくは回転するステップをさらに備えてもよい。方法は、試料に対する分子生物学操作を可能にするために、採取部から分子生物学用の試料をリリースするステップをさらに備えてもよい。方法は、試料に対する更なる操作の実施を可能にするために、液状媒質又は希釈緩衝材中での希釈により、採取された分子生物学用の試料の少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%の量をリリースするステップを特に備えてもよい。・・・」


【図1】



【図3】


(2)引用文献4に記載された技術的事項
上記記載から、引用文献4には、「装置1によって分子生物学用の試料を採取して移動させるための方法であって、
装置1は、実質的に棒状の構造を有することができる支持本体2を備え、支持本体には、試料のための採取部3を構成(define)する第1の部分2a(例えば端部部分)、実質的に棒形状である中央の第2の部分2b、及び端部の第3の部分2cが設けられ、その端部の第3の部分2cにおいて、支持本体を試験管などのためのキャップ5などのさらなる把持要素4に接続でき、試料のための採取部3は綿球(swab)のような形態をとり、採取部3はフロック加工され、本体の第1の端部2a上で複数の繊維6をフロック加工することにより実現され、試料の採取の使用前、及び装置1の製造段階の間に、繊維6は界面活性剤を用いて前処理され、採取装置1は、内部閉じ込め収容部10及びアクセス開口11を有する、試料の輸送のための容器7をさらに備え、容器7は生体物質又は生物起源の試料を輸送するための試験管であり、採取装置1は、容器7を選択的に閉鎖するためにアクセス開口に着脱可能に取り付けることができる閉鎖キャップ5をさらに備え、
前記方法は、採取装置1の少なくとも1つのフロック加工された採取部3に分子生物学用の試料を採取するステップ、試料を含有する採取部3を容器7中に挿入するステップ、キャップ5を用いて容器7を閉鎖するステップ、及び採取部3を有する容器7を移動させるステップ、及び液化することを目的とする所定量の物質8を容器7に事前に用意するステップ、及び試料を保存するステップ、及び試料を有する採取部3を含む容器7を、試料を液化する目的の所定の速度で、揺り動かすステップ、振るステップ若しくは回転するステップを備え、試料に対する分子生物学操作を可能にするために、採取部から分子生物学用の試料をリリースするステップであって、希釈緩衝材中での希釈により、採取された分子生物学用の試料の少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%の量をリリースするステップ、を備える」という技術的事項(以下「引用文献4技術1」という。 )が記載されているといえる。

上記記載から、引用文献4には、「フロック加工され、綿球(swab)のような形態をとる採取部3に、分子生物学用の試料を採取し、希釈緩衝材中での希釈により、採取部から、採取された分子生物学用の試料をリリースする」という技術的事項(以下「引用文献4技術2」という 。)が記載されているといえる。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1とを対比する 。

ア 引用発明1の「インフルエンザウイルス」と本願発明1の「生物学的物質または環境物質」とは、「生物学的物質」である点で一致する。そして、引用発明1の「臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者の鼻腔より滅菌綿棒を用いて採取した拭い液」には、「インフルエンザウイルス」が含まれているから、引用発明1の「臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者の鼻腔より滅菌綿棒を用いて採取した拭い液」は、本願発明1の「生物学的物質または環境物質を含む試料」に相当する。

イ 引用発明1の「50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX−100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液」は、本願発明1の「試料緩衝液」に相当する。
そして、引用発明1は、臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者の鼻腔内に存在する液、すなわち、鼻腔から採取される前の液に滅菌綿棒を接触させて採取した、インフルエンザウイルスを含む試料を、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX−100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液1.0mLに入れて、インフルエンザウイルスを含む試料を含んだ溶液を作製している。
そうすると、引用発明1の、「臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者の鼻腔より滅菌綿棒を用いて採取した拭い液を、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX−100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液1.0mL中に浮遊させた溶液である検体試料を作製」する工程と、本願発明1の「生物学的物質または環境物質を含む試料を捕集し、」「前記捕集するステップが、スワブによる捕集ステップではなく、前記捕集するステップが、気管支肺胞洗浄液(BAL)、ミニBAL(mini−BAL)、気管支洗浄液、気管内吸引液(ETA)または痰から試料を得て、捕集された試料を提供するステップ」と、「スワブを使用して、前記捕集された試料と接触するステップと、捕集された前記試料を有する前記スワブを、試料緩衝液に入れ、これにより前記捕集された試料の少なくとも一部を前記試料緩衝液に移動し、捕集された試料を含む試料緩衝液を提供するステップ」とは、「生物学的物質または環境物質を含む試料」を、「試料緩衝液に入れ、」「生物学的物質または環境物質を含む試料」「を含む試料緩衝液を提供するステップ」である点で共通する。

ウ 引用発明1の「濾過フィルターf」は、本願発明1の「フィルタ」に相当する。
そして、引用発明1の、「検体試料」を「濾過フィルターfが備えつけられている先端部dを通過させて濾過する」工程は、「検体試料」を「濾過フィルターf」に通し、「濾過」した液を作製する工程であるから、本願発明1の「前記捕集された試料を含む試料緩衝液をフィルタに通し、試料濾過液を提供するステップ」と、生物学的物質または環境物質を含む「試料を含む試料緩衝液をフィルタに通し、試料濾過液を提供するステップ」である点で共通する。

エ 引用発明1の「検体試料が入った試料チューブを手で10回(10往復)激しく振とう」「(振幅10cm、周期(振とうの1往復に要する時間)0.4秒)」する処理は、4秒程度継続する処理であって、2分を超えて継続する処理ではない。
さらに、引用発明1は、「検体試料が入った試料チューブを手で10回(10往復)激しく振とう」「(振幅10cm、周期0.4秒)」する処理の後、「検体試料」を「直ちに、濾過フィルターfが備えつけられている先端部dを通過させて濾過する」ものであり、「直ちに」という副詞が、通常、少しも時間を置かずすぐに、という意味で用いられる言葉であることを考慮すると、「検体試料」を「濾過フィルターfが備えつけられている先端部dを通過させて濾過する」工程の前に、「検体試料が入った試料チューブを手で10回(10往復)激しく振とう」「(振幅10cm、周期(振とうの1往復に要する時間)0.4秒)」する処理以外に、2分を超えて継続する処理を行っていないものと解される。
そうすると、引用発明1の「検体試料が入った試料チューブを手で10回(10往復)激しく振とうし(振幅10cm、周期(振とうの1往復に要する時間)0.4秒)、振とう後、直ちに、濾過フィルターfが備えつけられている先端部dを通過させて濾過する」ことと、本願発明1の「前記試料濾過液を提供するステップの前に2分を超えて継続する前処理ステップがな」いこととは、生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液をフィルタに通し、「試料濾過液を提供するステップの前に2分を超えて継続する前処理ステップがない」点で共通している。

オ 引用発明1の「50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX−100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液1.0mL」は、「1(W/V)%TritonX−100」を有するものであるから、引用発明1と本願発明1とは、「前記試料緩衝液が、」「界面活性剤を含」む点で共通する。

カ 引用発明1の「検体試料を調製する方法」は、「臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者の鼻腔より」「採取した拭い液を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX−100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液1.0mL中に浮遊させた溶液である検体試料」から、インフルエンザウイルスを含む試料を、取り出して集める方法であるから、本願発明1の「試料捕集方法」と「試料捕集方法」である点で一致する 。

したがって、本願発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「生物学的物質または環境物質を含む試料を、試料緩衝液に入れ、生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液を提供するステップと、
生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液をフィルタに通し、試料濾過液を提供するステップと、
を含み、
前記試料濾過液を提供するステップの前に2分を超えて継続する前処理ステップがなく、
前記試料緩衝液が、界面活性剤を含む、
試料捕集方法。」

(相違点1−1)
生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液を得る方法が、
本願発明1は、「生物学的物質または環境物質を含む試料を捕集し、」「前記捕集するステップが、スワブによる捕集ステップではなく、」「前記捕集するステップが、気管支肺胞洗浄液(BAL)、ミニBAL(mini−BAL)、気管支洗浄液、気管内吸引液(ETA)または痰から試料を得て、捕集された試料を提供するステップと、」「スワブを使用して、前記捕集された試料と接触するステップと、捕集された前記試料を有する前記スワブを、試料緩衝液に入れ、これにより前記捕集された試料の少なくとも一部を前記試料緩衝液に移動し、捕集された試料を含む試料緩衝液を提供するステップと、」を含むのに対し、
引用発明1は、「臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者の鼻腔より滅菌綿棒を用いて採取した拭い液を、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX−100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液1.0mL中に浮遊させた溶液である検体試料を作製」する工程を含む点。

(相違点1−2)
試料緩衝液に含まれる界面活性剤の量が、
本願発明1は、「前記試料緩衝液の体積で少なくとも10%の量」であるのに対し、
引用発明1は、どのような量であるのか特定されていない点。

(2) 判断
ア 上記相違点1−1について検討する。
引用文献1の段落【0020】には、「検体試料」として、生体における鼻腔以外の部分から取得される試料「を適当な緩衝液で希釈した溶液を用いることができる」旨が記載されていることから、引用発明1において、「検体試料」として、生体における鼻腔以外の部分から取得した試料を緩衝液に入れた溶液を用いることは当業者ならば容易に想到しうることであるといえる。
そして、その際、生体における鼻腔以外のどの部分からどのような方法で試料を取得するかは、検査対象や検査目的に応じて定められるものであるから、「スワブによる」方法以外の方法で「気管支肺胞洗浄液(BAL)、ミニBAL(mini−BAL)、気管支洗浄液、気管内吸引液(ETA)または痰から試料」を取得することは、当業者ならば適宜設計しうる事項であるといえる。
しかしながら、引用文献1には、生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液を得る方法に関し、「スワブによる」方法以外の方法で試料を取得し、「スワブを使用して、」該取得された試料「と接触」し、該試料「を有する」「スワブを、試料緩衝液に入れ」、該試料の少なくとも一部を前記試料緩衝液に移動し、取得された試料を含む試料緩衝液を提供する方法について何ら記載されていない。
また、そのような方法が周知であるということもできない。
そうすると、当業者であっても、引用発明1から上記相違点1−1に係る本願発明1の発明特定事項を導き出すことはできない。

イ さらに、引用発明2、引用文献3技術2、及び引用文献4技術2にも、上記相違点1−1に係る本願発明1の発明特定事項は記載されていないから、当業者であっても、引用発明1、引用発明2、引用文献3技術2、及び引用文献4技術2から、上記相違点1−1に係る本願発明1の発明特定事項を導き出すことはできない。

ウ したがって、上記相違点1−2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1、または、引用発明1、引用発明2、引用文献3技術2、及び引用文献4技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 本願発明1と引用発明2とを対比する。

ア 引用発明2の生物学に関する物質を含む「生物学的サンプル」と、本願発明1の「生物学的物質または環境物質を含む試料」とは、生物学的物質を含む試料である点で一致する。

イ 引用発明2の「サンプル緩衝液」は本願発明1の「試料緩衝液」に相当する。そして、引用発明2の「採取するかまたはかき出した生物学的サンプル」が、どのような方法で採取しまたはかき出した、どのような種類の生物学的サンプルであるのかは特定されていない。
そうすると、引用発明2の「採取するかまたはかき出した生物学的サンプル」を「サンプルの種類に適した任意の方法でバイアル本体654内のサンプル緩衝液に入れ」る工程と、本願発明1の「生物学的物質または環境物質を含む試料を捕集し、」「前記捕集するステップが、スワブによる捕集ステップではなく、前記捕集するステップが、気管支肺胞洗浄液(BAL)、ミニBAL(mini−BAL)、気管支洗浄液、気管内吸引液(ETA)または痰から試料を得て、捕集された試料を提供するステップ」と、「スワブを使用して、前記捕集された試料と接触するステップと、捕集された前記試料を有する前記スワブを、試料緩衝液に入れ、これにより前記捕集された試料の少なくとも一部を前記試料緩衝液に移動し、捕集された試料を含む試料緩衝液を提供するステップ」とは、「生物学的物質または環境物質を含む試料を」、「試料緩衝液に入れ、」「生物学的物質または環境物質を含む試料」「を含む試料緩衝液を提供するステップ」である点で共通する。

ウ 引用発明2の「フィルタ646」は本願発明1の「フィルタ」に相当する。そして、引用発明2の「パウチ590内部の真空によって、サンプルがフィルタを通され」る工程は、「採取するかまたはかき出した生物学的サンプル」を入れた「サンプル緩衝液」を、「フィルタ646」に通し、濾過した液を作製する工程であるから、本願発明1の「前記捕集された試料を含む試料緩衝液をフィルタに通し、試料濾過液を提供するステップ」と、「生物学的物質または環境物質を含む試料」「を含む試料緩衝液をフィルタに通し、試料濾過液を提供するステップ」である点で共通する。

エ 引用発明2の「パウチ内部からの真空によって流体をカニューレ状バイアルから引き出しパウチに引き込む方法」は、「採取するかまたはかき出した生物学的サンプル」を含む「サンプル緩衝液」を、パウチ内部の真空によって、「カニューレ状バイアル」が備える「フィルタ646」に通し、「パウチ」に、特定の物質を有する試料を取り出して集める方法であるから、本願発明1の「試料捕集方法」と、「試料捕集方法」である点で一致する 。

したがって、本願発明1と引用発明2とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「生物学的物質または環境物質を含む試料を、試料緩衝液に入れ、生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液を提供するステップと、
生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液をフィルタに通し、試料濾過液を提供するステップとを含む、
試料捕集方法。」

(相違点2−1)
生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液を得る方法が、
本願発明1は、「生物学的物質または環境物質を含む試料を捕集し、」「前記捕集するステップが、スワブによる捕集ステップではなく、」「前記捕集するステップが、気管支肺胞洗浄液(BAL)、ミニBAL(mini−BAL)、気管支洗浄液、気管内吸引液(ETA)または痰から試料を得て、捕集された試料を提供するステップと、」「スワブを使用して、前記捕集された試料と接触するステップと、捕集された前記試料を有する前記スワブを、試料緩衝液に入れ、これにより前記捕集された試料の少なくとも一部を前記試料緩衝液に移動し、捕集された試料を含む試料緩衝液を提供するステップと、」を含むのに対し、
引用発明2は、「採取するかまたはかき出した生物学的サンプル」を、「サンプルの種類に適した任意の方法でバイアル本体654内のサンプル緩衝液に入れ」る工程を含む点。

(相違点2−2)
本願発明1では、「前記試料濾過液を提供するステップの前に2分を超えて継続する前処理ステップがな」いのに対し、
引用発明2では、「パウチ590内部の真空によって、サンプルがフィルタを通され、サンプルをパウチ510に引き込」む前に「ボルテックス形成または混合」が行われる点。

(相違点2−3)
試料緩衝液が、
本願発明1では、「前記試料緩衝液の体積で少なくとも10%の量の界面活性剤を含」むのに対し、
引用発明2では、どのようなものを含むのか特定されていない点。

(4) 判断
ア 上記相違点2−1について検討する。
引用発明2は、「採取するかまたはかき出した生物学的サンプル」が、どのような方法で取得した、どのような種類の試料であるのか特定していない。
そして、どのような方法でどのような種類の試料を取得するかは、検査対象や検査目的に応じて定められるものであるから、引用発明2において、「スワブによる」方法以外の方法で「気管支肺胞洗浄液(BAL)、ミニBAL(mini−BAL)、気管支洗浄液、気管内吸引液(ETA)または痰から試料」を取得することは、当業者ならば適宜設計しうる事項であるといえる。
しかしながら、引用文献2には、生物学的物質または環境物質を含む試料を含む試料緩衝液を得る方法に関し、「スワブによる」方法以外の方法で試料を取得し、「スワブを使用して、」該取得された試料「と接触」し、該試料「を有する」「スワブを、試料緩衝液に入れ」、該試料の少なくとも一部を前記試料緩衝液に移動し、取得された試料を含む試料緩衝液を提供する方法については何ら記載されていない。
また、そのような方法が周知であるということもできない。
そうすると、当業者であっても、引用発明2から上記相違点2−1に係る本願発明1の発明特定事項を導き出すことはできない。

イ さらに、引用発明1、引用文献3技術2、及び引用文献4技術2にも、上記相違点2−1に係る本願発明1の発明特定事項は記載されていないから、当業者であっても、引用発明2、引用発明1、引用文献3技術2、及び引用文献4技術2から、上記相違点2−1に係る本願発明1の発明特定事項を導き出すことはできない。

ウ したがって、上記相違点2−2及び2−3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明2、または、引用発明2、引用発明1、引用文献3技術2、及び引用文献4技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2−14について
本願発明2−14も、本願発明1の上記相違点1−1及び相違点2−1に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1または引用発明2または引用発明1、引用発明2、引用文献3技術2、及び引用文献4技術2に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1−14は、当業者であっても、引用発明1、引用発明2、および引用発明1ないし4に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-07-11 
出願番号 P2018-522661
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 幸仙
井上 香緒梨
発明の名称 扱いにくい試料タイプのための試料調製  
代理人 奥山 尚一  
代理人 森本 聡二  
代理人 中村 綾子  

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