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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1387206
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-06 
確定日 2022-06-27 
事件の表示 特願2019−514469「電波通信装置、電波受信装置、及び電波通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月 1日国際公開、WO2018/198987〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成30年4年20日(優先権主張 平成29年4月27日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 2年12月17日付け 拒絶理由通知
令和 3年 2月19日 意見書、手続補正書の提出
令和 3年 6月30日付け 拒絶査定
令和 3年10月 6日 審判請求書の提出


第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年2月19日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
200MHzから5000MHzまでの範囲の電波周波数を用いて対流圏による散乱又は回折を利用した見通し外通信を行うためのダイポール型の送信アンテナと、
信号をデジタル信号処理して前記送信アンテナに出力する信号処理部と、
を備える電波通信装置。」


第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先権主張の日の前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1〜2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.国際公開第2016/094392号
引用文献2.米国特許第8570227号明細書


第4 文献の記載事項、及び、引用発明

1.引用文献1(国際公開第2016/094392号)について

原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2016/094392号(以下、「引用文献1」という。下線は、当審において付与した。)には、次の事項が記載されている(なお、当審訳として、引用文献1に対応する特表2018−511252号公報を参照し、当審訳の末尾の隅付き括弧は、特表2018−511252号公報の段落番号を表す。)。

(1)「FIG. 8 illustrates one example of additional aspects of a communication node 800 which is like communication nodes 112 and 116. Communication node 800 can include a processor 804 for controlling various aspects of communication node 800. The processor may be coupled to a memory 816 useful for storing rules or command data 820. Devices for accepting user input and providing output (I/O) to a user (824) may also be included. These devices may include a keyboard or keypad, a mouse, a display such as a flat panel monitor and the like, a printer, plotter, or 3D printer, a camera, or a microphone. Any suitable devices for user I/O may be included. Node 800 may also include a network interface 832 responsive to the processor 804 and coupled to a communication network 836. A security module 828 may be included as well and may be used to reduce or eliminate the opportunity for third-parties to intercept, jam, or change data as it passes between communications nodes 800. In one example, communication node 800 is implemented as a computer executing software to control the interaction of the various aspects of node 800.
Network interface 836 may be configured to send and receive data such as command data 820, or triggering data which may be passed from a triggering system 840. Communication network 836 may be coupled to a network such as the internet and configured to send and receive data without the use of skywave propagation. For example, communication network 836 may transmit and receive data over optical fibers or other transmission lines running along the earth similar to transmission lines 144 illustrated in previous figures.
Node 800 may include a second network interface 808 responsive to processor 804 and coupled to a radio-frequency communication interface 812. This second network interface 808 may be used to transfer data such as command data 820 or triggering data passed from triggering system 840. Network interface 808 may be coupled to an antenna like antenna 128 which may include multiple antennas or antenna elements. The radio-frequency communication interface 808 may be configured to send and receive data such as triggering data using electromagnetic waves transmitted and/or received via antenna 128. As discussed above, antenna 128 may be configured to send and receive the electromagnetic waves via skywave propagation.
Node 800 may include additional aspects illustrated in FIG. 9. Radio- frequency communication interface 812 may include a transmitter 904 configured to transmit electromagnetic energy using antenna 128. Receiver 908 may optionally be included as well and configured to receive electromagnetic waves from antenna 128. Transmitter 904 and receiver 908 may also be coupled to a modem 912 configured to modulate signals received by interface 812 to encode information or data from a digital stream for transmission by transmitter 904. Modem 912 may also be configured to demodulate signals received by receiver 908 from antenna 128 to decode the transmitted signal into a digital data stream usable by processor 804 or that may be stored in memory 816.」(10ページ17行〜11ページ27行)
(当審訳:図8は、通信ノード112および116のような通信ノード800のさらなる態様の1つの例を示す。通信ノード800は、通信ノード800の様々な態様を制御するためにプロセッサ804を含むことができる。プロセッサは、ルールまたはコマンドデータ820を格納するのに役立つメモリ816に結合されてもよい。また、ユーザ入力を受け入れ、ユーザに出力をもたらす(I/O)ためのデバイス(824)が含まれてもよい。これらのデバイスは、キーボードもしくはキーパッド、マウス、フラットパネルモニタ等などの表示装置、プリンタ、プロッタ、もしくは3Dプリンタ、カメラ、またはマイクロフォンを含んでもよい。ユーザI/Oのための任意の適切なデバイスが、含まれてもよい。また、ノード800は、プロセッサ804に応答し、通信ネットワーク836に結合されたネットワークインターフェース832を含んでもよい。セキュリティモジュール828が、同様に含まれてもよく、通信ノード800の間を通過する際に、第三者がデータを傍受、閉塞、または変更する機会を低減または除去するために使用されてもよい。1つの例では、通信ノード800は、ノード800の様々な態様の相互作用を制御するためのソフトウェアを実行するコンピュータとして実装される。
ネットワークインターフェース836は、コマンドデータ820、または、トリガシステム840から受け渡され得るトリガデータなどのデータを送り、受信するように構成されてもよい。通信ネットワーク836は、インターネットなどのネットワークに結合され、空間波伝搬を使用せずにデータを送り、受信するように構成されてもよい。例えば、通信ネットワーク836は、光ファイバ、または、前図に示された伝送回線144と同様の、地球に沿って走る他の伝送回線でデータを送信し、受信してもよい。
ノード800は、プロセッサ804に応答し、無線周波数通信インターフェース812に結合された第2のネットワークインターフェース808を含んでもよい。この第2のネットワークインターフェース808は、コマンドデータ820、または、トリガシステム840から受け渡されるトリガデータなどのデータを伝送するために使用されてもよい。ネットワークインターフェース808は、複数のアンテナまたはアンテナ素子を含み得るアンテナ128のようなアンテナに結合されてもよい。無線周波数通信インターフェース808は、アンテナ128を介して送信され、および/または受信された電磁波を使用してトリガデータなどのデータを送り、受信するように構成されてもよい。上記で論じられたように、アンテナ128は、空間波伝搬を介して電磁波を送り、受信するように構成されてもよい。
ノード800は、図9に示されたさらなる態様を含むことができる。無線周波数通信インターフェース812は、アンテナ128を使用して電磁エネルギーを送信するように構成された送信機904を含んでもよい。受信機908は、同様にオプションとして含まれ、アンテナ128から電磁波を受信するように構成されてもよい。また、送信機904および受信機908は、送信機904によって送信するために、デジタルストリームからの情報またはデータを符号化するためにインターフェース812によって受信された信号を変調するように構成されたモデム912に結合されてもよい。また、モデム912は、プロセッサ804によって使用でき、または、メモリ816に格納され得るデジタルデータのストリームに、送信された信号を復号するためにアンテナ128から受信機908によって受信された信号を復調するように構成されてもよい。(【0022】〜【0025】))

(2)「1. A method, comprising:
transmitting command data from a transmission station via a first communication link, wherein the command data defines one or more commands;
transmitting triggering data from the transmission station via a second communication link, wherein the triggering data includes an identifier identifying at least one of the one or more commands;
wherein the second communication link transmits the triggering data using electromagnetic waves transmitted via skywave propagation; and
wherein the first communication link has greater latency than the second communication link.」(45ページ2〜11行)
(当審訳:第1の通信リンクを介して送信局からコマンドデータを送信するステップであって、前記コマンドデータが、1つまたは複数のコマンドを定義する、ステップと、
第2の通信リンクを介して前記送信局からトリガデータを送信するステップであって、前記トリガデータが、前記1つまたは複数のコマンドのうちの少なくとも1つを識別する識別子を含む、ステップと
を含む方法であって、
前記第2の通信リンクが、空間波伝搬(skywave propagation)を介して送信された電磁波を使用して前記トリガデータを送信し、
前記第1の通信リンクが、前記第2の通信リンクより大きいレイテンシ(latency)を有する
方法。(【請求項1】))

(3)「37. The method of any preceding claim, wherein the sky-wave propagation includes utilizing tropospheric scatter.」(50ページ4〜5行)
(当審訳:前記空間波伝搬が、対流圏散乱(tropospheric scatter)を利用するステップを含む、請求項1から36のいずれかに記載の方法。(【請求項37】))

(4)図8

図8によれば、「通信ノード800」は、「無線周波数通信インターフェース812」を含むと認められる。

(5)図9

図9によれば、「無線周波数通信インターフェース812」は、「モデム912」及び「送信機904」を含むと認められる。

上記(1)〜(5)の記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「通信ノード800は、無線周波数通信インターフェース812を含み(前記(4))、
無線周波数通信インターフェース812は、モデム912及び送信機904を含み(前記(5))、
アンテナ128は、空間波伝搬を介して電磁波を送り、受信するように構成されてもよく(前記(1))、
ここで、空間波伝搬が、対流圏散乱を利用し(前記(3))、
無線周波数通信インターフェース812は、アンテナ128を使用して電磁エネルギーを送信するように構成された送信機904を含んでもよく、送信機904は、送信機904によって送信するために、デジタルストリームからの情報またはデータを符号化するためにインターフェース812によって受信された信号を変調するように構成されたモデム912に結合されてもよい(前記(1))、
通信ノード800。」


2.周知文献1の記載事項

周知な事項を示すために当審決で新たに引用する、2017年3月5日にアーカイブされた「<見通し外伝搬>」([令和4年4月12日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20170305170604/https://2nd.geocities.jp/takestudy/file/mitoosigai.html>)(以下、「周知文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「見通し外伝搬は、OH通信(over the horizon transmission)、beyond the horizon などの名称で呼ばれ、電波の見通し線を越える領域における伝搬を意味している。 [補足]

大気中に屈折率の不規則なかたまりがあると、これによって散乱して見通し外にも伝搬する。
この現象を利用した通信が対流圏散乱通信である。」

(2)「対流圏は、高さが 10 [km] までであるので、地球の湾曲を考えると、対流圏散乱伝搬で利用できる距離は約 400 [km] 以下で、適当な周波数は、約 200〜3,000 [MHz] である。」


3.周知文献2の記載事項

周知な事項を示すために当審決で新たに引用する、1998年7月10日に出版された「新アンテナ工学」(第2版、著者 新井宏之、発行所 総合電子出版社)(以下、「周知文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

「本章ではアンテナの中でも基本的なアンテナとしてよく用いられる。ダイポールアンテナ,モノポールアンテナ,ループアンテナ,スロットアンテナ,マイクロストリップアンテナの5つを取り上げ,それらの動作原理と特性について説明する。

2.1 ダイポールアンテナ

実用的なアンテナの中で,最も基本的なダイポールアンテナの動作原理を1.8.1で説明した。」(37ページ)

なお、上記記載の「本章ではアンテナの中でも基本的なアンテナとしてよく用いられる。ダイポールアンテナ,・・・」は、「本章ではアンテナの中でも基本的なアンテナとしてよく用いられる,ダイポールアンテナ,・・・」の誤記と認める。


第5 対比

1.本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)本願発明の『200MHzから5000MHzまでの範囲の電波周波数を用いて対流圏による散乱又は回折を利用した見通し外通信を行うためのダイポール型の送信アンテナと、』について

ア 引用発明の「アンテナ128」は、空間波伝搬を介して電磁波を送るように構成される。
また、引用発明の「空間波伝搬」は、「対流圏散乱」を利用する。

イ 上記アによれば、引用発明の「アンテナ128」は、空間波伝搬を介して電磁波を送るものであるから、『送信アンテナ』であるといえる。

ウ 上記アによれば、引用発明の「アンテナ128」は、「対流圏散乱」を利用することを含む「空間波伝搬」を介して電磁波を送り、受信するように構成されるから、『対流圏による散乱又は回折を利用した』『通信を行うための』ものであるといえる。

エ 上記ア〜ウで言及した事項を踏まえると、引用発明の「アンテナ128」は、『対流圏による散乱又は回折を利用した』『通信を行うための』『送信アンテナ』であるといえる。

オ 上記エで言及した事項を踏まえると、本願発明と引用発明とは、『対流圏による散乱又は回折を利用した通信を行うための送信アンテナ』を備える点で共通する。


(2)本願発明の『信号をデジタル信号処理して前記送信アンテナに出力する信号処理部と、』について

ア 引用発明の「モデム912」は、デジタルストリームからの情報またはデータを符号化するために、無線周波数通信インターフェース812によって受信された信号を変調するように構成されたものであるから、『信号をデジタル信号処理』している。
また、「送信機904」は、アンテナ128を使用して電磁エネルギーを送信するように構成されたものであるから、『信号』をアンテナ128に『出力』しているといえる。
そして、「無線周波数通信インターフェース812」は、「モデム912」及び「送信機904」を含むものである。

イ 上記アによれば、引用発明の「無線周波数通信インターフェース812」は、『信号をデジタル信号処理』し、アンテナ128に『出力』するものであるから、上記(1)のイで言及した事項も踏まえると、『信号をデジタル信号処理して送信アンテナに出力する信号処理部』であるといえる。

ウ 上記イで言及した事項を踏まえると、本願発明と引用発明とは、『信号をデジタル信号処理して送信アンテナに出力する信号処理部』を備える点で共通する。


(3)本願発明の『を備える電波通信装置。』について

ア 引用発明の「通信ノード800」は、『通信』するノードであって、モデム912及び送信機904といった『装置』を含むものであるから、『通信装置』であるといえる。


2.一致点及び相違点

上記(1)〜(3)で言及した事項を踏まえると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
「対流圏による散乱又は回折を利用した通信を行うための送信アンテナと、
信号をデジタル信号処理して前記送信アンテナに出力する信号処理部と、
を備える通信装置。」

そして、本願発明と引用発明とは、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明では、『200MHzから5000MHzまでの範囲の電波周波数を用いて対流圏による散乱又は回折を利用した見通し外通信』を行うのに対し、引用発明では、対流圏による散乱又は回折を利用した通信が、『見通し外』通信であるのか否か、及び、『200MHzから5000MHzまでの範囲の電波周波数』を用いているのか否か、について明らかでない点。
上記に付随して、本願発明は、『電波』通信装置であるのに対し、引用発明では、通信ノード800が、電磁波を使用して通信する装置であるものの、電磁波のうち、どの周波数帯域を使用するのかが特定されておらず、『電波』を使用して通信するのか否かが明らかでない点。

<相違点2>
本願発明では、送信アンテナが、『ダイポール型』であるのに対し、引用発明では、送信アンテナが、どのようなアンテナであるのかが特定されておらず、『ダイポール型』であるのか否かが明らかでない点。


第6 判断

1.相違点1について

周知文献1によれば、対流圏による散乱を利用した通信が、『見通し外』通信であること、及び、『200MHzから5000MHzまでの範囲の電波周波数』を用いることは、いずれも周知な事項であると認められる。
そうすると、引用発明における、対流圏による散乱を利用した通信は、『見通し外』通信であるといえる。
また、引用発明において、対流圏による散乱を利用した通信を行う際に、『200MHzから5000MHzまでの範囲の電波周波数』を用いることは、当業者が容易になし得ることである。
上記に伴い、引用発明の「通信ノード800」は、『電波』を使用して通信するから、『電波通信装置』であるといえる。
また、これによる効果も当業者が予測できる範囲のものである。

2.相違点2について

周知文献2によれば、『ダイポール型』のアンテナが、アンテナの中でも基本的なアンテナとしてよく用いられることは、周知な事項であると認められる。
そして、引用文献1には、対流圏による散乱を利用した通信を行うための「アンテナ128」として、特定のアンテナに限定する旨の記載や特定のアンテナを除外する旨の記載がないことに鑑みると、引用発明において、送信アンテナとして『ダイポール型』のアンテナを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、これによる効果も当業者が予測できる範囲のものである。


3.小括

したがって、本願発明は、引用発明、及び、周知な事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


4.審判請求書における主張について

請求人は、審判請求書において、本願発明と引用発明との相違点について、
(1)「つまり、引用文献1のアンテナが取り扱う周波数は、3Hz〜300GHzという非常に広範な帯域となります。」、及び、
(2)「更に引用文献1は、当該対流圏散乱送信で用いられるアンテナとして、無指向性アンテナでも指向性アンテナでも良いと教示しております(原文:Antennas can be designed to transmit and receive radio waves substantially equally in all horizontal directions (omnidirectional antennas), or preferentially in a particular direction (directional or high gain antennas).)。即ち、引用文献1は、本願発明による対流圏散乱通信に適した送信側アンテナがダイポールアンテナであることを示唆も開示もしていません。
更に引用文献1は、対流圏散乱送信について、散乱する電磁波の量は少ないことを教示しております(原文:"Tropospheric scatter transmission" generally refers to a form of sky-wave propagation in which one or more electromagnetic waves, such as radio waves, are aimed at the troposphere. While not certain as to its cause, a small amount of energy of the waves is scattered forwards to a receiving antenna.)。即ち、引用文献1に記載されているような従来の対流圏散乱通信では、送受信アンテナとして、本願発明に係るダイポール型のアンテナのような無指向性ではなく、例えばパラボリックアンテナのような高指向性で高利得を得られるアンテナが用いられることが示唆されています。即ち、引用文献1は、請求項1に係る発明の「ダイポール型の送信アンテナ」を開示も示唆もしておりません。」、並びに、「即ち、引用文献2は、2MHzから30MHzまでの範囲の周波数を用いた上空波伝播又は海上表面波伝播によるダイポール型の送信アンテナについて説明しています。引用文献2に記載の電波周波数帯は、本願発明が見通し外通信に用いる電波の周波数、つまり対流圏により散乱又は回折される200MHz〜5000MHzの周波数帯(段落[0038])と異なります。」
と主張する。

しかしながら、上記(1)については、上記「1.相違点1について」で述べたとおり、対流圏による散乱を利用した見通し外通信を行う際に、『200MHzから5000MHzまでの範囲の電波周波数』を用いることは、よく知られた事項であり、上記(2)についても、上記「2.相違点2について」で述べたとおり、引用文献2の記載如何に関わらず、「ダイポールアンテナ」自体が、実用的なアンテナの中でも、基本的なアンテナとしてよく知られたものであるから、請求人の主張は採用できない。
なお、上記(2)に関して、引用文献1の「"Tropospheric scatter transmission" generally refers to a form of sky-wave propagation in which one or more electromagnetic waves, such as radio waves, are aimed at the troposphere. While not certain as to its cause, a small amount of energy of the waves is scattered forwards to a receiving antenna. Due to severe fading problems, diversity reception techniques (e.g., space, frequency, and/or angle diversity) are typically used.」(43ページ25〜30行)という記載は、対流圏散乱送信が、一般に、電波などの1つまたは複数の電磁波が対流圏に向けられる空間波伝搬の形式のことを言い、その原因について確かではないが、少量の波のエネルギーは、受信アンテナの方に進んで散乱され、極度の減衰問題のために、ダイバーシティ受信技法(例えば、宇宙、周波数、および/または、角度ダイバーシティ)が、典型的には使用されるというものであって、請求人が主張するような、引用文献1に記載されているような従来の対流圏散乱通信では、送受信アンテナとして、本願発明に係るダイポール型のアンテナのような無指向性ではなく、例えばパラボリックアンテナのような高指向性で高利得を得られるアンテナが用いられることが示唆されるものではない。


第7 むすび

前記第6のとおりであるから、本願発明は、引用発明、及び、周知な事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-04-27 
結審通知日 2022-04-28 
審決日 2022-05-11 
出願番号 P2019-514469
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 伊藤 隆夫
特許庁審判官 福田 正悟
丸山 高政
発明の名称 電波通信装置、電波受信装置、及び電波通信システム  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  

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