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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) B60N
管理番号 1387221
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-13 
確定日 2022-07-19 
事件の表示 特願2019−548007号「ヘッドレストウイングの調節装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月 3日国際公開、WO2019/189999号、令和 2年 5月21日国内公表、特表2020−514172号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)6月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年3月27日、韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、令和2年9月28日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年1月5日付けで意見書の提出とともに手続補正がされ、令和3年6月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、令和3年10月13日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1〜2に係る発明は、以下の引用文献1〜3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献>
1 特開2008−272270号公報
2 実願昭63−154400号(実開平2−74618号)のマイクロフィルム
3 特開平8−164036号公報


第3 本願発明
本願請求項1〜2に係る発明(以下「本願発明1」〜「本願発明2」という。)は、令和3年10月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
両終端がヘッドレストウイングとヘッドレストボディーのうちいずれか一方に連結される回転ロッドと、
前記回転ロッドを取り囲み、前記ヘッドレストウイングと前記ヘッドレストボディーのうち他方に連結されたケースと、を含み、
前記ケースは、内部に固定溝を含み、
前記回転ロッドに時計方向と反時計方向のうちいずれか一つの方向に巻かれ、前記ケース内に位置する複数のワイヤーを含み、
組立前に、前記ワイヤーの内径は、前記回転ロッドの外径より小さく、
前記ワイヤーは、前記ロッドに巻かれる巻き取り部と、前記巻き取り部の一端に連結される固定部と、前記巻き取り部の他端に連結される自由端部とを含み、
前記巻き取り部は、前記回転ロッドに一回り以上、二回り未満で巻かれ、
前記固定部は、前記固定溝に挿入され、
前記自由端部は、自由端で形成され、
荷重が前記固定部に巻き取り方向に付与されれば、摩擦力が増加して、前記ヘッドレストウイングの作動力が増加し、
荷重が前記固定部に巻き出し方向に付与されれば、摩擦力が減少して、前記ヘッドレストウイングの作動力が減少し、
前記複数のワイヤーのうち前記回転ロッドに時計方向に巻かれる複数のワイヤーと反時計方向に巻かれる複数のワイヤーが前記回転ロッドに沿って配置されるヘッドレストウイングの調節装置。
【請求項2】
前記ケースの一面に設置されるキャップをさらに含む、請求項1に記載のヘッドレスト ウイングの調節装置。」


第4 引用文献
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付与したものである。以下同じ。)
(1)明細書
「【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1はヘッドレストの分解図、図2は組立状態図であるが、本発明に係るヘッドレスト8は、自動車のシートバック1の上端に差し込まれた左右二本の支柱2と一体に取り付けられた固定板4に左右に向けて(水平に)固着される取付軸3と、取付軸3に対して回動可能に嵌合される頭部受部材7の芯材を構成する基板6と、取付軸3に巻回するコイルバネ5とからなり、コイルバネ5は一端を自由端5bとし、他端は基板6に固定させた固定端5aとして基板6と共に回動する構成にしたものである。このときのコイルバネの巻径の内径と取付軸3の外径との寸法差は、基板6の回動の規制や許容に大きく影響し、寸歩差が小さいほど、規制力は強く働くが、操作力も大きな力が必要とされ、反対に大きいほど、これとは逆になる。一般に、この種のヘッドレスト8では、コイルバネ5の巻径の内径を取付軸3の外径よりも2?4%程度小さくしておくのが適する。
【0015】
以上の構成によるヘッドレスト8の作用について説明すると、頭部受部材7を構成する基板6を前方に回動させて角度調整を行うときには、コイルバネ5を弛む方向に回動させることになるから、比較的軽い力で調整ができる。一方、頭部の押付け等による後方への回動については、コイルバネ5を締める方向に回動させるので、回動が規制される。なお、ここでの回動が規制されるとは、絶対的に動かないというのではなく、少々の力に対しては耐力が派生して動かないという意味である。角度調整には後方回動も必要とするから、ある程度大きい力を出せば、後方への角度調整もできるのである。この点で、コイルバネ5の巻径の内径と取付軸3の外径の寸法差が上記の関係にあれば、これが可能になるのである。」
「【0035】
図14はヘッドレスト8を構成する頭部受部材7に縦方向に設定された副固定軸(図示省略)で枢着された側面部31を有するものであり、側面部31を前方又は後方に回動させて角度調整を行うもの(所謂バタフライ式)の斜視図である。本例では、頭部受部材7は傾動動作ができない固定型のものを示しているが、これによると、シートバック1を倒して搭乗者が横になったようなとき、側面部31の角度を調整して頭部の姿勢を安定させることができる。
【0036】
このようなものの副固定軸に上記のコイルバネ式トルクリミタをを組み込めば、後方(下方)への回動は阻止され、かつ最適角度への角度調整も容易にできる。なお、副固定軸を斜め方向に設定することも可能である。さらに、これにおいて、頭部受部材7とシートバック1にもコイルバネ式トルクリミタを組み込んで頭部受部材7を前後傾動式にし、側面部31と共に都合二種類の調整操作ができるようにしてもよい。」
(2)図面
ア 図2



イ 図14



(3)認定事項
図2から、固定板4に取付軸3の両終端が固着される構成、基板6が固定軸3を取り囲む構成、固定端5aと自由端5bの間を巻き部としている構成、コイルバネが取付軸3に一方向に巻回する構成がそれぞれ看取できる。
そして、【0035】〜【0036】に記載のとおり、頭部受部材7に縦方向に設定された副固定軸(図示省略)で枢着された側面部31を有するバタフライ式のヘッドレストにおいて、図2に記載のコイルバネ式トルクリミタを組み込んだものが記載されているといえる。
(4)引用文献1に記載された発明
上記(1)〜(3)を踏まえると、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「側面部を前方又は後方に回動させて角度調整を行うバタフライ式のヘッドレストの角度調節装置において、
ヘッドレストに取り付けられた固定板と、固定板に両終端が固着される副固定軸と、
副固定軸を取り囲み、副固定軸に対して回動可能に嵌合され、側面部の芯材を構成する基板と、
副固定軸に一方向に巻回するコイルバネとからなり、
コイルバネは、一端を自由端とし、他端は基板に固定させた固定端とし、固定端と自由端の間を巻き部として基板と共に回動する構成にしたものであり、
コイルバネの巻径の内径と副固定軸の外径との寸法差は、基板の回動の規制や許容に影響し、寸歩差が小さいほど、規制力は強く働くが、操作力も大きな力が必要とされ、反対に大きいほど、これとは逆になり、
コイルバネを弛む方向に回動させと、比較的軽い力で調整ができ、コイルバネを締める方向に回動させると、回動が規制される、
ヘッドレストの角度調節装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)明細書
ア 3ページ下から3行〜4ページ5行
「まず第2図では、本体と一体成形されたケーシング2と前記ケーシング2とネジ止めで固定されたキャップ4によって、フリクション軸1は両端を支持されている。この状態で第3図に示す様、フリクション軸1の軸に巻回されたコイルバネ3は先端3aが軸の半径方向に伸びており、上記ケーシング2に設けられた溝部2aに挟み込まれている。」
イ 4ページ10行〜5ページ6行
「次に取付動作を説明すると、第2図においてケーシング2内にフリクション軸1を着脱方向Bから挿入していき、フリクション軸1の片端をケーシング2と勘合させる。このとき、フリクション軸に巻回されているコイルバネ3は先端が軸の半径方向に伸びており、ケーシング2内に設けられた溝内を通って中に入って行くが、溝2aがテーパ状に形成されている為にある時点でコイル線形と溝巾が一致し、それ以上の軸の挿入を行うことによって両者を締まりばめの関係とする。このことは、コイルバネと溝との隙間を無くすばかりでなく、量産における部品寸法のバラツキに対しても対応可能である。また、その後キャップ4をフリクション軸1の他端に勘合する様にして、ケーシング2にネジ止めすることによって軸が不要な動きをすることがなくなると同時にフリクション軸の抜けを防止する訳である。」

(2)図面
ア 第2図



イ 第3図



3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3は、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)明細書
「【0016】しかして、第2実施例では、横軸部5に一対のコイルバネ16を設けたので、左右側を強固に支持する。また、第3実施例では、一対のコイルバネ16を設けるが、同一のコイルバネ16を使用し、巻き方向が反対になるので、前方回動させるときも、回動に抵抗を与えるので、確実に調節でき、コストも一層低くする。第4実施例では、前方回動抵抗を与えるコイルバネ16の弾力を弱くしているので、前方への調節を一層容易にする。」
「【図面の簡単な説明】
【図1】 斜視図。
【図2】 一部切断正面図。
【図3】 縦断側面図。
【図4】 コイルバネおよびピラーの斜視図。
【図5】 作用状態断面図。
【図6】 第2実施例図。
【図7】 第3実施例図。
【図8】 第4実施例図。」
(2)図面
ア 図2



イ 図4



ウ 図8




第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比するに、後者の「ヘッドレストの角度調節装置」は、バタフライ式のヘッドレストの側面部を回動させて角度を調節するものであるから、その機能と構造からみて、前者の「ヘッドレストウイングの調節装置」に相当する。
引用発明の「側面部」は、その機能と構造からみて、本願発明1の「ヘッドレストウイング」に、「ヘッドレスト」は「ヘッドレストボディ」に、「基板」は「ケース」に、「副固定軸」は「回転ロッド」に、「コイルバネ」は「ワイヤー」に、「自由端」は「自由端部」、「自由端」に、「固定端」は「固定部」に、「巻き部」は「巻き取り部」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「ヘッドレストに取り付けられた固定板と、固定板に両終端が固着される副固定軸」は、副固定軸はその両終端がヘッドレストに固定板を介して連結されるものであるから、本願発明1の「両終端がヘッドレストウイングとヘッドレストボディーのうちいずれか一方に連結される回転ロッド」に相当する。
引用発明の「副固定軸を取り囲み、副固定軸に対して回動可能に嵌合され、側面部の芯材を構成する基板」は、基板は副回転軸を取り囲み、側面部に連結されたものであることから、本願発明1の「前記回転ロッドを取り囲み、前記ヘッドレストウイングと前記ヘッドレストボディーのうち他方に連結されたケース」に相当する。
引用発明の「副固定軸に一方向に巻回するコイルバネ」は、一方向とは時計回り又は反時計回りのいずれかであるということができ、コイルバネが巻回する副固定軸は基板に取り囲まれたものであり基板内に位置しているといえるので、本願発明1の「前記回転ロッドに時計方向と反時計方向のうちいずれか一つの方向に巻かれ、前記ケース内に位置する複数のワイヤー」とは、「前記回転ロッドに時計方向と反時計方向のうちいずれか一つの方向に巻かれ、前記ケース内に位置するワイヤー」である点で共通する。
引用発明の「コイルバネは、一端を自由端とし、他端は基板に固定させた固定端とし、固定端と自由端の間を巻き部として基板と共に回動する構成にしたもの」という構成は、本願発明1の「前記ワイヤーは、前記ロッドに巻かれる巻き取り部と、前記巻き取り部の一端に連結される固定部と、前記巻き取り部の他端に連結される自由端部とを含」む構成に相当する。
引用発明の「コイルバネの巻径の内径と副固定軸の外径との寸法差」を有する構成は、本願発明1の「組立前に、前記ワイヤーの内径は、前記回転ロッドの外径より小さ」い構成に相当する。
引用発明の「基板の回動の規制や許容に影響し、寸歩差が小さいほど、規制力は強く働くが、操作力も大きな力が必要とされ、反対に大きいほど、これとは逆になり、/コイルバネを弛む方向に回動させと、比較的軽い力で調整ができ、コイルバネ5を締める方向に回動させると、回動が規制される」構成は、本願発明1の「荷重が前記固定部に巻き取り方向に付与されれば、摩擦力が増加して、前記ヘッドレストウイングの作動力が増加し、/荷重が前記固定部に巻き出し方向に付与されれば、摩擦力が減少して、前記ヘッドレストウイングの作動力が減少」する構成に相当する。(「/」は改行を示す。)
そうすると、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
[一致点]
「両終端がヘッドレストウイングとヘッドレストボディーのうちいずれか一方に連結される回転ロッドと、
前記回転ロッドを取り囲み、前記ヘッドレストウイングと前記ヘッドレストボディーのうち他方に連結されたケースと、を含み、
前記回転ロッドに時計方向と反時計方向のうちいずれか一つの方向に巻かれ、前記ケース内に位置するワイヤーを含み、
組立前に、前記ワイヤーの内径は、前記回転ロッドの外径より小さく、
前記ワイヤーは、前記ロッドに巻かれる巻き取り部と、前記巻き取り部の一端に連結される固定部と、前記巻き取り部の他端に連結される自由端部とを含み、
前記自由端部は、自由端で形成され、
荷重が前記固定部に巻き取り方向に付与されれば、摩擦力が増加して、前記ヘッドレストウイングの作動力が増加し、
荷重が前記固定部に巻き出し方向に付与されれば、摩擦力が減少して、前記ヘッドレストウイングの作動力が減少する、
ヘッドレストウイングの調節装置。」
[相違点1]
ケースについて、本願発明1では、ケースは、内部に固定溝を含むのに対して、引用発明では、そのような特定がない点。
[相違点2]
ワイヤーについて、本願発明1では、複数であり、巻き取り部は回転ロッドに一回り以上、二回り未満で巻かれ、固定部は固定溝に挿入され、複数のワイヤーのうち回転ロッドに時計方向に巻かれる複数のワイヤーと反時計方向に巻かれる複数のワイヤーが回転ロッドに沿って配置されるのに対して、引用発明では、そのような特定がない点。
(2)検討
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
引用文献2には、コイルバネ3が1本のものしか記載されていない。
引用文献3には、コイルバネ16が2本、つまり、巻き方向が正方向と反対方向のコイルバネ16はそれぞれ1本ずつが記載されるだけにとどまり、さらに、このそれぞれを複数本とすることについてまでは記載がない。
そうすると、相違点2に係る本願発明1の構成、特に、複数のワイヤーのうち回転ロッドに時計方向に巻かれる複数のワイヤーと反時計方向に巻かれる複数のワイヤーが回転ロッドに沿って配置されるという構成は、いずれの引用文献にも記載も示唆もされていない。
そして、本願発明1は、相違点2に係る本願発明1の構成を有することによって、本願明細書の【0121】〜【0123】に記載されたとおり、時計方向に巻かれたワイヤー及び反時計方向に巻かれたワイヤーの本数を変更することで作動力を変更するという格別な作用効果を奏するものであるといえる。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2、3に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2も、上記相違点2に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、引用発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-07-06 
出願番号 P2019-548007
審決分類 P 1 8・ 121- WYF (B60N)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 芦原 康裕
出口 昌哉
発明の名称 ヘッドレストウイングの調節装置  
代理人 伊東 忠重  
代理人 流 良広  
代理人 廣田 浩一  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 伊東 忠彦  

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