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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02J 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H02J |
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管理番号 | 1387228 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-10-15 |
確定日 | 2022-07-26 |
事件の表示 | 特願2018− 12973「蓄電池管理装置、蓄電池管理方法および蓄電池管理プログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月 8日出願公開、特開2019−134522、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成30年1月29日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 令和 2年12月25日付け 拒絶理由通知書 令和 3年 3月 8日 意見書・手続補正書 7月12日付け 拒絶査定 10月15日 審判請求書・手続補正書 12月 3日 前置報告書 以下では、令和3年7月12日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年10月15日の手続補正書による補正を「本件補正」という。 第2 原査定の概要 原査定の概要は、以下のとおりである。 この出願の請求項1−4、6及び7に係る発明は、引用文献1に記載の発明との間に構成上の差異は認められないため、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない。 また、この出願の請求項1−4、6及び7に係る発明は、引用文献1に記載の発明に基づいて当業者であれば容易に想到し得るものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1.特開2015−186290号公報 第3 本件補正について 本件補正は、特許法第17条の2第3項から第5項までの要件に違反しているものとはいえない。 そして、以下の第4〜第6に示すように、本件補正後の請求項1〜7に係る発明は、同条第6項において準用する同法第126条第7項(独立特許要件)を満たすものである。 第4 本願発明 本願の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明7」といい、これらを総称して「本願発明」という。)は、本件補正によって補正された特許請求の範囲に記載される以下のとおりのものであると認める。 「【請求項1】 複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する予測部と、 所定の時間帯の複数の前記需要家の受電電力量の合計値を予測された前記需要電力量の合計値よりもデマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量である第1の電力量以上削減するという第1の制約条件と、予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという第2の制約条件の両方を必須条件として満たし、前記需要家のそれぞれが有する蓄電池の前記時間単位ごとの充電量および放電量を規定する、第1の充放電計画を作成する作成部と、 を備える蓄電池管理装置。 【請求項2】 前記作成部は、さらに、前記第1の制約条件と前記第2の制約条件の両方を満たす前記充電量および前記放電量が複数存在する場合に、他の前記充電量および前記放電量を規定した場合よりも複数の前記需要家の従量電気料金の合計値が小さくなるように前記充電量および前記放電量を規定した前記第1の充放電計画を作成する、 請求項1に記載の蓄電池管理装置。 【請求項3】 前記第1の充放電計画に従って、前記蓄電池の充放電を制御する制御部をさらに備える、 請求項1または2に記載の蓄電池管理装置。 【請求項4】 前記作成部は、前記デマンドレスポンスによる削減の要請の有無に関わらず、前記第1の充放電計画と、前記所定の時間帯より前の時刻における前記第1の充放電計画の蓄電残量、充電電力量および放電電力量に基づく前記所定の時間帯に前記受電電力量の削減を行わない第2の充放電計画との両方を、前記第1の充放電計画および前記第2の充放電計画の対象となる日の前に予め作成し、 前記第2の充放電計画は、前記所定の時間帯より前の時刻においては、前記第1の充放電計画と等しい、 請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄電池管理装置。 【請求項5】 前記作成部は、さらに、前記蓄電池の蓄電残量が閾値以上となるように前記蓄電池の前記時間単位ごとの前記充電量および前記放電量を規定する前記第1の充放電計画を作成し、 前記閾値は、前記蓄電池のBCP(Business Continuity Planning、事業継続計画)容量である、 請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄電池管理装置。 【請求項6】 複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する予測ステップと、 所定の時間帯の複数の前記需要家の受電電力量の合計値を予測された前記需要電力量の合計値よりもデマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量である第1の電力量以上削減するという第1の制約条件と、予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという第2の制約条件の両方を必須条件として満たし、前記需要家のそれぞれが有する蓄電池の前記時間単位ごとの充電量および放電量を規定する、第1の充放電計画を作成する作成ステップと、 を含む蓄電池管理方法。 【請求項7】 複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する予測ステップと、 所定の時間帯の複数の前記需要家の受電電力量の合計値を予測された前記需要電力量の合計値よりもデマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量である第1の電力量以上削減するという第1の制約条件と、予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという第2の制約条件の両方を必須条件として満たし、前記需要家のそれぞれが有する蓄電池の前記時間単位ごとの充電量および放電量を規定する、第1の充放電計画を作成する作成ステップと、 をコンピュータに実行させる蓄電池管理プログラム。」 第5 引用文献 1 引用文献の記載事項 原査定で引用された特開2015−186290号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は強調のため当審で付した。以下同様。 (1)「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 これまでのところ、それぞれが蓄電池を利用したピークカットの仕組みとデマンドレスポンスの仕組みとを組み合わせ、蓄電池の充電残量から、ピークカットのための放電電力量とデマンドレスポンスのための放電電力量を決定する方法は検討されていない。 そこで、本発明は、それぞれが蓄電池を利用したピークカットの仕組みとデマンドレスポンスの仕組みとを組み合わせた場合に、ピークカットのための放電電力量とデマンドレスポンスのための放電電力量とを適切に決定する電力管理方法を提供することを目的とする。」 (2)「【0016】 図2に示される電力管理システム1は、蓄電池システム10と、負荷群15と、電力メータ20と、電力管理装置100とを含む。電力管理システム1において、商用電源から蓄電池システム10及び負荷群15に電力が供給される。 蓄電池システム10は、制御部11と蓄電池12を備え、商用電源から供給される電力を充電し、充電した電力を負荷群15へ供給する。 【0017】 制御部11は、電力管理装置100から提供された充放電テーブルに従って、蓄電池12の充放電を制御する機能を有する。 電力メータ20は、蓄電池システム10の上流の配電網に接続され、商用電源から需要家に供給される電力量、即ち商用電源の電力使用量を計測し、その計測結果を電力管理装置100に定期的に提供する機能を有する。 【0018】 電力管理装置100は、電力データ取得部110と、電力需要予測部120と、節電要請受付部130と、充放電計画部140と、データベース150とを備え、蓄電池システム10の充放電を管理する。 電力データ取得部110は、電力メータ20の計測結果(以下、電力データと言う。)を定期的に取得し、電力需要予測部120に出力する機能を有する。 【0019】 電力需要予測部120は、電力データ取得部110から出力された電力データの履歴情報と、蓄電池システム10の充放電の履歴情報とに基づいて、負荷群15の電力需要を予測して取得する機能を有する。 負荷群15の電力需要の予測は、例えば、電力データ取得部110から出力された電力データの履歴情報と、蓄電池システム10の充放電の履歴情報とに基づいて、負荷群15の電力使用量の履歴情報を算出し、算出した負荷群15の電力使用量の履歴情報を解析することで行われる。」 (3)「【0024】 <1−2.動作> 図3は、電力管理装置の基本動作を示すフローチャートである。 電力データ取得部110は、電力メータ20から定期的に電力データを取得し、取得した電力データを電力需要予測部120に出力する(ステップS101)。 続いて、電力需要予測部120は、電力データ取得部110から取得した電力データと、データベース150に記憶されている電力データの履歴情報と、蓄電池システム10の充放電の履歴情報とに基づいて、負荷群15の所定期間の電力需要を予測する。そして、電力需要予測部120は、電力需要の予測結果を充放電計画部140に出力し、電力需要の予測に用いた電力データをデータベース150に出力して記憶させる(ステップS102)。 【0025】 続いて、充放電計画部140は、電力需要予測部120から出力された電力需要の予測結果に基づいて、蓄電池12の所定期間の充放電を計画して充放電テーブルを作成する(ステップS103)。この充放電テーブルを作成する詳細な処理については、図4及び図5を用いて後述する。 続いて、充放電計画部140は、ステップS103で作成した充放電テーブルを蓄電池システム10に提供するとともに、作成した充放電テーブルと、充放電テーブルの作成に用いた電力需要の予測結果とをデータベース150に出力する。データベース150は、充放電計画部140から出力された充放電テーブルと電力需要の予測結果とを記憶する(ステップS104)。」 【0026】 蓄電池システム10の制御部11は、ステップS104で充放電計画部140から充放電テーブルの提供を受けると、その充放電テーブルに従って、蓄電池12の充放電を制御する。 ここで、図4及び図5を用いて、ステップS103の充放電テーブルを作成する処理について説明する。 【0027】 図4は、ステップS103の具体的な処理を示すフローチャートである。図5(a)は、電力需要予測部120による電力需要の予測結果の一例を示す図であり、縦軸は電力需要を表し、横軸は時間を表す。また、図5(b)は充放電計画部140において作成された充放電テーブルの一例を示す図であり、図5(a)と対応する。 先ず、充放電計画部140は、電力需要の予測結果において閾値を超えている時間帯があるか否かを判断する(ステップS111)。 【0028】 ここで閾値は、需要家が電力事業者に支払う電気料金の基本料金に基づいて設定されるものであり、閾値を超えると基本料金が値上がりするものとする。 ステップS111において、閾値を超えている時間帯がある場合は(ステップS111:YES)、その時間帯をピークカットのための放電時間帯と特定する(ステップS112)。一方、ステップS111において、閾値を超えている時間帯がない場合は(ステップS111:NO)、ステップS114の処理へ進む。 【0029】 例えば、図5(a)に示される電力需要の予測結果では、時刻16:00から18:00までの時間帯で電力需要が閾値を超えている。よって、充放電計画部140はこの時間帯をピークカットのための放電時間帯と特定する。 ステップS112の後、充放電計画部140は、ステップS112で特定した放電時間帯で放電させる放電電力量、即ちピークカットのための放電電力量を、電力需要と閾値との差分より大きい電力量α(kWh)と決定する(ステップS113)。 【0030】 なお、ピークカットのための放電電力量α(kWh)は、電力需要が閾値を十分下回るように決定されることが望ましい。 ステップS113の後、充放電計画部140は、蓄電池12の充電時間帯を決定する(ステップS114)。具体的には、電力需要の予測結果に蓄電池12の充電電力量を加算しても、ステップS111の判断で用いた閾値を十分下回る時間帯を、蓄電池12の充電時間帯と決定する。 【0031】 例えば、図5(a)に示される電力需要の予測結果において、特に時刻2:00から4:00までの時間帯において電力需要が低く、蓄電池12の充電電力量を加算しても閾値を十分下回る。そこで、充放電計画部140は、例えばこの時間帯を、蓄電池12を充電させる充電時間帯と決定する。 図6は、節電要請を受け付けた場合の電力管理装置100の動作を示すフローチャートである。 【0032】 節電要請受付部130は、電力事業者からの節電要請を受け付けると、その節電要請の内容を充放電計画部140に出力する(ステップS201:YES)。 充放電計画部140は、節電要請受付部130からの節電要請の出力を受けて、データベース150から充放電テーブルを取得する(ステップS202)。 続いて、充放電計画部140は、節電要請の内容と、蓄電池12の充電残量とに基づいて、ステップS202で取得した充放電テーブルを更新する(ステップS203)。この充放電テーブルを更新する詳細な処理については、図7〜図9を用いて後述する。 【0033】 続いて、充放電計画部140は、ステップS203で更新した充放電テーブルを蓄電池システム10に提供するとともに、データベース150に出力する。データベース150は、その更新された充放電テーブルを記憶する(ステップS204)。 蓄電池システム10の制御部11は、ステップS204で充放電計画部140から更新された充放電テーブルの提供を受けると、その更新された充放電テーブルに従って、蓄電池12の充放電を制御する。 【0034】 ここで、図7〜9を用いて、ステップS203において充放電テーブルを更新する処理について説明する。 図7は、ステップS203の具体的な処理を示すフローチャートである。また、図8(a)、図9(a)及び図10(a)は、電力需要予測部120による電力需要の予測結果の一例を示す図であり、縦軸は電力需要を表し、横軸は時間を表す。また、図8(b)、図9(b)及び図10(b)は充放電計画部140において作成された充放電テーブルの一例を示す図であり、図8(a)、図9(a)及び図10(a)とそれぞれ対応する。また、ステップS202において、図4(b)に示した充放電テーブルが取得されたものとする。 【0035】 先ず、充放電計画部140は、節電要請受付部130からの出力された節電要請の内容から、デマンドレスポンスのための放電時間帯を特定する(ステップS211)。 続いて、充放電計画部140は、取得した充放電テーブルを参照し、デマンドレスポンスのための放電時間帯と、ピークカットのための放電時間帯との間の時間帯(以下、隙間時間と言う。)があるか否かを判断する(ステップS212)。 【0036】 ステップS212において、隙間時間がない場合は(ステップS212:NO)、充放電計画部140は、ピークカットのための放電時間帯とデマンドレスポンスのための放電時間帯の内、時間的に前の放電時間帯の開始時刻での蓄電池の充電残量を推定する(ステップS213)。 この充電残量の推定は、例えば以下の方法で行う。先ず、充放電計画部140は、ステップS213の処理時点における蓄電池12の充電残量を、蓄電池システム10に問い合わせることで取得する。また、ステップS213の処理時点から、上述した時間的に前の放電時間帯の開始時刻までの蓄電池12の充電残量の増減をステップS202で取得した充放電テーブルに基づいて推定する。そして、ステップS213の処理時点における蓄電池12の充電残量と、推定した蓄電池12の充電残量の増減とから、目的の充電残量を推定する。 【0037】 ステップS213の後、充放電計画部140は、ピークカットのための放電電力量が不足することがないように、デマンドレスポンスのための放電電力量(kWh)を(ステップS213で推定した充電残量−α)と決定する(ステップS214)。 例えば、図8の具体例において、電力管理装置100はステップS201で、時刻14:00から16:00の時間帯に商用電源の電力使用量を削減するよう節電要請があったとする。このとき、充放電計画部140は、時刻14:00から16:00の時間帯をデマンドレスポンスのための放電時間帯と特定する(ステップS211)。そして、隙間時間はないため(ステップS212:NO)、デマンドレスポンスのための放電時間帯の開始時刻である時刻14:00時点の蓄電池12の充電残量を推定する(ステップS213)。そして、デマンドレスポンスのための放電電力量を((時刻14:00時点の蓄電池12の充電残量)−α)と決定する(ステップS214)。 【0038】 なお、図9の具体例に示すように、デマンドレスポンスのための放電時間帯とピークカットのための放電時間帯とが一部重なる場合も想定される。蓄電池12の最大出力は、蓄電池システム10に設けられるパワーコンディショナーの性能なのによって決まっている。そのため、節電要請の時間帯とピークカットの時間帯とが重なる時刻16:00から17:00の間において、デマンドレスポンスのための放電電力量を十分確保できない可能性がある。このような場合は、節電要請の時間帯の内、時刻15:00から16:00の時間帯の放電電力量と、時刻16:00から17:00の時間帯の放電電力量とを、それぞれ異ならせ、節電要請の時間帯全体の放電電力量を、((時刻15:00時点の蓄電池12の充電残量)−α)となる又は近づくように決定してもよい。 【0039】 図7に戻って説明を続ける。 ステップS212において、充放電計画部140は、隙間時間がある場合は(ステップS212:YES)、隙間時間の時間帯の内の少なくとも一部において隙間充電が可能であるか否かを判断する(ステップS215)。 具体的には、隙間時間の内、予測した電力需要に蓄電池12の充電電力量を加算しても、ピークカットで用いた閾値(図4:ステップS111)を超えない時間帯がある場合は、その時間帯で隙間充電が可能と判断する。一方、閾値を超えない時間帯がない場合は、隙間充電は可能でないと判断する。 【0040】 なお、充放電テーブルを作成するステップS103の処理に含まれるステップS114の処理(図4)において、予測した電力需要に蓄電池12の充電電力量を加算しても、ステップS111の判断で用いた閾値を十分下回る時間帯を、蓄電池12の充電時間帯と決定すると説明した。このステップS114の処理と、ステップS215の処理とを比較したとき、予測した電力需要に蓄電池12の充電電力量を加算した場合の閾値を下回る度合いは、ステップS215の処理の方が小さくてもよい。ステップS215の処理において、閾値を下回る度合いを小さくすることで隙間充電が行われやすくなり、節電要請のためにより多くの電力量を蓄電池に放電させることが可能となる。 【0041】 ステップS215において、充放電計画部140は、隙間充電が可能であれば(ステップS215:YES)、可能と判断した時間に隙間充電を行うことを決定する(ステップS216)。一方、隙間充電が可能でなければ(ステップS215:NO)、ステップS213の処理へ進む。 ステップS216の後、充放電計画部140は、ステップS216で決定した隙間充電により充電される充電電力量を推定する(ステップS217)。 【0042】 この隙間充電の充電電力量は、例えば、蓄電池の単位時間当たりの充電電力量と、隙間充電を行う時間とに基づいて推定される。 続いて、充放電計画部140は、ピークカットのための放電時間帯とデマンドレスポンスのための放電時間帯の内、時間的に前の放電時間帯の開始時刻での蓄電池の充電残量を推定する(ステップS218)。この充電残量を推定する方法は、ステップS213と同様である。 【0043】 続いて、充放電計画部140は、ステップS217で推定した隙間充電により充電される充電電力量と、ステップS218で推定した充電残量と、ピークカットのための放電電力量と基づいて、デマンドレスポンスのための放電電力量を決定する。具体的には、ピークカットの放電電力量が不足することがないように、デマンドレスポンスのための放電電力量(kWh)を((ステップS217で推定した隙間充電により充電される充電電力量+ステップS218で推定した充電残量)−α)と決定する(ステップS219)。なお、(ステップS217で推定した隙間充電により充電される充電電力量+ステップS218で推定した充電残量)は、ピークカットのための放電時間帯とデマンドレスポンスのための放電時間帯の内、時間的に後の放電時間帯の開始時刻での蓄電池の充電残量の推定値である。 【0044】 例えば、図10の具体例において、電力管理装置100はステップS201で、時刻11:00から13:00の時間帯に商用電源の電力使用量を削減するよう節電要請があったとする。 このとき、充放電計画部140は、時刻15:00から17:00の時間帯をデマンドレスポンスのための放電時間帯と特定する(ステップS211)。そして、隙間時間があるため(ステップS212:YES)、隙間充電が可能か否か判断する(ステップS215)。本具体例において、時刻13:00から14:00の時間帯の電力需要は低く、蓄電池12の充電電力量を加算しても閾値を大きく下回るため、隙間充電が可能と判断されたとする(ステップS215:YES)。このとき、充放電計画部140は、時刻13:00から14:00の時間帯で隙間充電を行うことを決定し(ステップS216)、隙間充電により充電される充電電力量を推定し(ステップS217)、節電要請の時間帯の開始時刻である時刻11:00時点の蓄電池の充電残量を推定する(ステップS218)。そして、デマンドレスポンスのための放電電力量を、((時刻13:00から14:00の時間帯に行われる隙間充電により充電される電力量)+(時刻11:00時点の蓄電池の充電残量))−αと決定する。 【0045】 なお、図8〜10では、節電要請の時間帯の後にピークカットの時間帯がある場合を例に挙げたが、ピークカットの時間帯の後に節電要請の時間帯がある場合も同様の方法で、蓄電池12の充放電テーブルを更新できる。 本実施の形態の電力管理方法によれば、ピークカットの放電電力量は確保しつつ、デマンドレスポンスのためにより多くの電力量を蓄電池から放電させて、商用電源から需要家に供給される電力量をより多く削減することが可能となる。また、需要家は、負荷群の消費電力を蓄電池の電力で賄いつつ、商用電源から供給される電力量を削減に応じたインセンティブを得ることが可能となる。 【0046】 <1−3.補足> 上記実施の形態1において、ピークカットのための放電電力量を確保した上で、デマンドレスポンスのための放電電力量を決定したが、本実施の形態1の電力管理方法はこれに限定されない。デマンドレスポンスのための放電電力量を確保した上で、ピークカットのための放電電力量を決定してもよい。 【0047】 具体的には、図7のステップS213で、デマンドレスポンスのための放電電力量を、節電要請で依頼された電力削減を満たすようにβ(kWh)と決定する。そして、ピークカットのための放電電力量をα(kWh)から(充電残量−β)へ変更すればよい。図7のステップS216においても同様に、デマンドレスポンスのための放電電力量をβ(kWh)と決定し、ピークカットのための放電電力量をα(kWh)から((充電残量+隙間充電による充電電力量)−β)へ変更すればよい。 【0048】 なお、上記実施の形態において、電力事業者は、節電要請として節電を依頼する時間帯の通知により行う例を挙げたが、時間帯の通知だけでなく具体的な電力削減目標や蓄電池の放電電力量が通知することが想定される。このような場合、電力削減目標や蓄電池の放電電力量を満たすように、デマンドレスポンスのための放電電力量β(kWh)を決定すればよい。 【0049】 ピークカットに対する蓄電池の放電電力量を優先的に先に決定するか、節電要請に対する蓄電池の放電電力量を優先的に先に決定するかは、需要家が得られる利益に応じて決定すればよい。つまり、ピークカットを行うことで得られる利益(例えば、基本料金の値上がりの抑制など)と、節電要請を行うことで得られる利益(例えば、電力事業者から得られるインセンティブなど)とで、需要家が得られる利益が多い方を優先すればよい。 【0050】 <1−4.変形例> 上記実施の形態1において、電力管理装置100は1つの蓄電池システム10の充放電を計画するとしたが、電力管理装置100が複数の蓄電池システム10の充放電を計画するとしてもよい。 図11は、上記実施の形態に係る電力管理装置が複数の蓄電池の充放電を計画する場合の電力管理システム1Aの概要図である。 【0051】 図11に示される電力管理システム1Aは、蓄電池システム10−1…10−Nと、負荷群15−1…15−Nと、電力メータ20−1…20−Nと、電力管理装置100Aとを含む。なお、Nは2以上の任意の数とする。 電力管理装置100Aは、上記実施の形態の電力管理装置100と同様の構成を備え動作する。但し、電力管理装置100Aは、蓄電池システム10−1…10−Nについて、対応する電力メータ20−1…20−Nそれぞれから電力データを取得し、負荷群15−1…15−Nそれぞれの電力需要を予測し、蓄電池システム10−1…10−Nそれぞれの蓄電池の充放電テーブルを作成する。そして、電力管理装置100Aは、蓄電池システム10−1…10−Nそれぞれに対応する節電要請を電力事業者から受け付けて、節電要請に応じて作成した充放電テーブルそれぞれを更新する。 【0052】 図12は、電力事業者が電力管理装置100Aに対して通知する節電要請の一例を示す図である。 図12に示される一例では、地域Aから地域Cのそれぞれについて、節電を要請する時間帯が示されている。このような節電要請を電力管理装置100Aが受ける場合、電力管理装置100Aは、予め蓄電池それぞれが設けられる地域を示す情報であって、図12の地域情報と紐づけられる情報を保持しておく。そして、電力管理装置100Aは、地域情報により節電要請と対応する蓄電池システムを特定し、節電要請時間情報により放電時間を特定する。」 (4)「【0100】 ≪4.実施の形態4≫ 上記実施の形態1の電力管理方法では、蓄電池システムの限られた充電残量を、ピークカットのための放電電力量と節電要請に対する応答のための放電電力量とに分配した。そのため、例えば、ピークカットのための放電電力量を優先させると、デマンドレスポンスのための放電電力量が不足し、デマンドレスポンスのための放電電力量を優先させると、ピークカットのための放電電力量が不足してしまうといったことが起こる恐れがある。 【0101】 また、上記実施の形態1の電力管理方法では、電力需要を予測してピークカットのための放電を計画したが、予測に反して実際の電力需要が高くなり、ピークカットが実現できない可能性がある。 以上を鑑み、本実施の形態4の電力管理方法では、放電電力量が不足する場合に、商用電源から需要家へ供給される電力量の削減を試みる。そして更に、商用電源から供給される電力量を監視し、予測に反して高い電力量が計測された場合にも、商用電源から需要家へ供給される電力量の削減を試みる。」 (5)図2 (6)図3 (7)図4 (8)図5(a) 図5(a)及び【0027】によれば、電力需要予測部120による電力需要の予測結果は、30分ごとの電力需要が示されている。 (9)図5(b) 図5(b)、【0026】及び【0027】によれば、充放電テーブルは、2時間ごとに、充電/放電のいずれを実行するのか、及び、放電電力量を制御する。 (10)図6 (11)図7 (12)図11 図11によれば、負荷群15−1は需要家1であり、負荷群15−Nは需要家Nであることが示されている。すなわち、各負荷群は、それぞれ需要家である。 (13)図12 2 引用発明 前記1によれば、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。なお、後の参照での便宜のため、引用発明をA〜Mに分説し、それぞれ「構成A」〜「構成M」として参照する。 「A 電力管理装置100と同様の構成を備え動作する電力管理装置100Aであって(【0051】)、 B 電力管理装置100Aは、蓄電池システム10−1…10−Nについて、対応する電力メータ20−1…20−Nそれぞれから電力データを取得し、負荷群15−1…15−Nそれぞれの電力需要を予測し、蓄電池システム10−1…10−Nそれぞれの蓄電池の充放電テーブルを作成し(【0051】)、 C 電力管理装置100Aは、蓄電池システム10−1…10−Nそれぞれに対応する節電要請を電力事業者から受け付けて、節電要請に応じて作成した充放電テーブルそれぞれを更新し(【0051】)、 D 節電要請の一例では、地域Aから地域Cのそれぞれについて、節電を要請する時間帯が示されており(【0052】)、 E 各負荷群は、それぞれ需要家であり(図11)、 F 電力管理装置100は、電力データ取得部110と、電力需要予測部120と、節電要請受付部130と、充放電計画部140と、データベース150とを備え、蓄電池システム10の充放電を管理し(【0018】)、 G1 電力需要予測部120は、負荷群15の所定期間の電力需要を予測し、電力需要の予測結果を充放電計画部140に出力し(ステップS102)(【0024】)、 G2 充放電計画部140は、電力需要予測部120から出力された電力需要の予測結果に基づいて、蓄電池12の所定期間の充放電を計画して充放電テーブルを作成し(ステップS103)(【0025】)、 G3 充放電計画部140は、充放電テーブルを蓄電池システム10に提供するとともに、作成した充放電テーブルと電力需要の予測結果とをデータベース150に出力し、データベース150は、充放電テーブルと電力需要の予測結果とを記憶し(ステップS104)(【0025】)、 G4 蓄電池システム10の制御部11は、その充放電テーブルに従って、蓄電池12の充放電を制御し(【0026】)、 H1 節電要請受付部130は、電力事業者からの節電要請を受け付けると、その節電要請の内容を充放電計画部140に出力し(ステップS201:YES)(【0032】)、 H2 充放電計画部140は、節電要請の出力を受けて、データベース150から充放電テーブルを取得し(ステップS202)(【0032】)、 H3 充放電計画部140は、充放電テーブルを更新し(ステップS203)(【0032】)、 H4 充放電計画部140は、更新した充放電テーブルを蓄電池システム10に提供するとともに、データベース150に出力し、データベース150は、その更新された充放電テーブルを記憶し(ステップS204)(【0033】)、 I 電力需要予測部120による電力需要の予測結果は、30分ごとの電力需要が示されており(図5(a))、 J 充放電テーブルは、2時間ごとに、充電/放電のいずれを実行するのか、及び、放電電力量を制御し(図5(b))、 K ステップS103は、ステップS111〜S114からなり(【0027】、図4)、 K1 ステップS103は、充放電計画部140が、電力需要の予測結果において閾値を超えている時間帯があるか否かを判断し(ステップS111)(【0027】)、閾値は、電気料金の基本料金に基づいて設定されるものであり、閾値を超えると基本料金が値上がりし(【0028】)、 K2 閾値を超えている時間帯がある場合は、その時間帯をピークカットのための放電時間帯と特定し(ステップS112)(【0028】)、 K3 充放電計画部140は、放電時間帯で放電させる放電電力量、即ちピークカットのための放電電力量を、電力需要と閾値との差分より大きい電力量α(kWh)と決定し(ステップS113)(【0029】)、 K4 充放電計画部140は、蓄電池12の充電時間帯を決定し(ステップS114)(【0030】)、 L ステップS203は、ステップS211〜S219からなり(【0034】、図7)、 L1 節電要請の内容から、デマンドレスポンスのための放電時間帯を特定し(ステップS211)(【0035】)、 L2 充放電テーブルを参照し、デマンドレスポンスのための放電時間帯と、ピークカットのための放電時間帯との間の時間帯(以下、隙間時間と言う。)があるか否かを判断し(ステップS212)(【0035】)、 L3 隙間時間がない場合は、充放電計画部140は、ピークカットのための放電時間帯とデマンドレスポンスのための放電時間帯の内、時間的に前の放電時間帯の開始時刻での蓄電池の充電残量を推定し(ステップS213)(【0036】)、ピークカットのための放電電力量が不足することがないように、デマンドレスポンスのための放電電力量(kWh)を(ステップS213で推定した充電残量−α)と決定し(ステップS214)(【0037】)、 L4 隙間時間がある場合は、隙間時間の時間帯の内の少なくとも一部において隙間充電が可能であるか否かを判断し(ステップS215)(【0039】)、隙間充電が可能であれば、可能と判断した時間に隙間充電を行うことを決定し(ステップS216)、隙間充電が可能でなければ、ステップS213の処理へ進み(【0041】)、 L5 ステップS216の後、充放電計画部140は、隙間充電により充電される充電電力量を推定し(ステップS217)(【0041】)、 L6 充放電計画部140は、ピークカットのための放電時間帯とデマンドレスポンスのための放電時間帯の内、時間的に前の放電時間帯の開始時刻での蓄電池の充電残量を推定し(ステップS218)(【0042】)、 L7 ピークカットの放電電力量が不足することがないように、デマンドレスポンスのための放電電力量(kWh)を((隙間充電により充電される充電電力量+充電残量)−α)と決定する(ステップS219)(【0043】)、 M 電力管理装置100A。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「電力需要予測部120」は、「負荷群15の所定期間の電力需要を予測」するものである(構成G1)。 そして、負荷群15は需要家である(構成E)から、引用発明の「電力需要予測部120」は「需要家」の「電力需要を予測する」ものである。 また、引用発明の「電力管理装置100A」は負荷群15−1…15−Nの複数の負荷群の電力需要を予測する(構成B)ものであり、「電力管理装置100A」は「電力管理装置100」と同様の構成を備える(構成A)ものであるから、「電力管理装置100A」が備える「電力需要予測部120」は、複数の負荷群に対応する「複数の需要家それぞれ」の電力需要を予測するものである。 加えて、「電力需要予測部120」による予測結果は、30分ごとの電力需要を示すものである(構成I)から、当該予測結果は、30分単位での電力量の需要を示しているといえる。 よって、引用発明の「電力管理装置100A」が備える「電力需要予測部120」は、本願発明1の「複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する予測部」に相当する。 イ 引用発明の「閾値」は、「閾値は、電気料金の基本料金に基づいて設定されるものであり、閾値を超えると基本料金が値上がり」するものである(構成K1)から、本願発明の「予め定められたピークカットの目標値」に相当する。 引用発明は、「ピークカットのための放電電力量を、電力需要と閾値との差分より大きい電力量α(kWh)と決定」するものであり(構成K3)、引用発明の「電力需要」は前記アのとおり複数の需要家それぞれの30分単位での電力量の需要を示すものであるから、本願発明1と引用発明とは、「予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという条件」を「必須条件として満たす」ものである点で共通する。 ウ 引用発明の「充放電テーブル」は、「2時間ごとに、充電/放電のいずれを実行するのか、及び、放電電力量を制御」するものである(構成J)から、本願発明1の「蓄電池の前記時間単位ごとの充電量および放電量を規定する、第1の充放電計画」に対応するが、引用発明の「充放電テーブル」は「充電量」を規定していない点で相違する。 また、引用発明の「充放電計画部140」は、「充放電テーブル」を作成する(構成G2)から、本願発明1の「作成部」に相当する。 そして、引用発明の「電力管理装置100A」が備える「充放電計画部140」が作成する「充放電テーブル」は、「蓄電池システム10−1…10−Nについて」作成される(構成B及びC)と認められ、「蓄電池システム10−1…10−N」はそれぞれ「需要家1」…「需要家N」に対応する(図11)と認められる。 そうすると、本願発明1と引用発明とは「前記需要家のそれぞれが有する蓄電池の前記時間単位ごとの充電および放電を規定する、第1の充放電計画を作成する作成部」を備える点で共通する。 エ 引用発明の「電力管理装置100A」は、「充放電テーブル」を作成する(構成G2)ことによって「蓄電池12の充放電を制御」する(構成G4)から、「蓄電池管理装置」である。 そうすると、本願発明1と引用発明とは「蓄電池管理装置」である点で一致する。 オ 前記ア〜エによれば、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 〈一致点〉 「複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する予測部と、 予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという条件を必須条件として満たし、前記需要家のそれぞれが有する蓄電池の前記時間単位ごとの充電および放電を規定する、第1の充放電計画を作成する作成部と、 を備える蓄電池管理装置」である点。 〈相違点1〉 本願発明1は、「第1の制約条件」と「第2の制約条件」の「両方」を「必須条件として満たし」ており、「第1の制約条件」が「所定の時間帯の複数の前記需要家の受電電力量の合計値を予測された前記需要電力量の合計値よりもデマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量である第1の電力量以上削減する」という「制約条件」であり、「第2の制約条件」が「予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になる」という「制約条件」であるのに対し、 引用発明は、本願発明1の「第2の制約条件」に対応する条件(以下、「ピークカット条件」という。)を必須条件としているものの、該条件が「制約」条件であるとは特定されておらず、加えて、本願発明1の「第1の制約条件」に関しては、引用発明は、節電要請の内容からデマンドレスポンスのための放電電力量を決定しているものの、「予め決められた削減量である第1の電力量以上削減する」という条件は特定されておらず、これに付随して、ピークカット条件のみを必須条件としている点。 〈相違点2〉 本願発明1の「第1の充放電計画」は、「蓄電池の前記時間単位ごとの充電量および放電量を規定する」のに対し、引用発明の「充放電テーブル」は、蓄電池の「充電量」を規定していない点。 (2)判断 前記(1)オに示した相違点がある以上、本願発明1と引用発明とは同一ではない。 以下、前記(1)オに示した相違点1についての容易想到性を検討する。 ア(ア)本願発明1の「制約条件」について、本願の発明の詳細な説明を参照すると、以下の記載がある。 「【0027】 次に、作成部18は、予測部17によって予測された需要電力量と、需要家3それぞれの蓄電池4に関する情報とに基づいて、翌日の第1の充放電計画を作成する(S2)。より詳細には、作成部18は、式(2)〜(9)に示される制約条件下で、式(1)の目的関数を最小化する最適化モデル(最適化問題)の最適解を算出することによって、各需要家3の蓄電池4の時間単位ごとの充放電量を求める。式(1)〜(9)の最適化問題は、線形計画問題と呼ばれる問題である。作成部18は、例えば、単体法や内点法等の手法によって(1)の目的関数を最小化する最適解を算出する。 【0028】 【数1】 」 上記記載によれば、本願発明1の「制約条件」は式(2)〜(9)に示される条件のことであり、特に、本願発明1の「第1の制約条件」及び「第2の制約条件」はそれぞれ式(2)及び式(5)により表される制約条件のことであって、目的関数(式(1))の最小値を求める上で、必ず満たすべき条件であると理解される。 換言すれば、本願発明1の「制約条件」は、数理計画法(与えられた制約条件のもとで、目的とする量や関数の最大値または最小値を求める数学的方法。線形計画法・非線形計画法・動的計画法など。(広辞苑))における制約条件であると解するべきである。 (イ)引用発明は、「ピークカットのための放電電力量とデマンドレスポンスのための放電電力量とを適切に決定する電力管理方法を提供することを目的」(【0006】)としているが、該目的を達成するために前記(ア)に示したような数理計画法の手法は用いていない。 詳述すると、引用発明における本願発明1の「第2の制約条件」に対応する構成は「ピークカットのための放電電力量を、電力需要と閾値との差分より大きい電力量α(kWh)と決定」する(構成K3)ことであるが、構成K3は電力需要と閾値との差分を求めることによって放電電力量を直接計算しているに過ぎず、数理計画法の手法とは本質的に異なる。 加えて、引用発明のデマンドレスポンスのための放電電力量は、(隙間充電による充電電力量)+(充電残量)−α(ピークカットのための放電電力量)により計算される(構成L7:構成L3の式は隙間充電ができない場合の式であり、構成L7の式の第1項を0としたものとして構成L7の式に一般化できる)。これは、蓄電池に充電されている余剰電力をデマンドレスポンスのために放出するに過ぎず、このような放電電力量を決定するに際して何の条件も課されていない。 (ウ)引用文献のその他の記載を参照しても、充放電の電力量を数理計画法によって計算することについては、記載も示唆もない。 よって、当業者といえども、引用発明に数理計画法を適用して本願発明1のような「制約条件」を導入することは、容易に想到し得ることではない。 イ(ア)引用文献には、節電要請として具体的な電力削減目標が通知されることを想定し、その電力削減目標を満たすように、デマンドレスポンスのための放電電力量β(kWh)を決定すること(【0048】)が記載されており、この場合、ピークカットのための放電電力量は、(充電残量)+(隙間充電による充電電力量)−βとなる(【0047】)。 (イ)前記(ア)のようにデマンドレスポンスの放電電力量βを電力削減目標が達成できるように決定すると、ピークカットのための放電には蓄電池に充電されている余剰電力を回すだけにとどまり、電力需要を閾値(電気料金の基本料金に基づいて設定されるもの)以下に抑えることが保障されない。 すなわち、引用文献に開示された技術は、「ピークカットに対する蓄電池の放電電力量を優先的に先に決定するか、節電要請に対する蓄電池の放電電力量を優先的に先に決定するかは、需要家が得られる利益に応じて決定」するもの(【0049】)であって、優先されなかった方の目標は必ずしも達成されないものである。 これに対して、本願発明1は、「制約条件」としてデマンドレスポンスの制約条件(第1の制約条件:式(2))及びピークカットの制約条件(第2の制約条件:式(5))の双方を規定し、2つの制約条件の下での式(1)の最小値を求めるものである点で引用文献の開示技術と前提が異なるから、本願発明1と引用文献の開示技術とはその前提となる技術思想自体が異なっており、当業者といえども、引用発明及び引用文献の記載事項からは、2つの条件の両方を必須条件として満たすという本願発明1の構成には想到し得ない。 (ウ)引用文献には、「ピークカットのための放電電力量を優先させると、デマンドレスポンスのための放電電力量が不足し、デマンドレスポンスのための放電電力量を優先させると、ピークカットのための放電電力量が不足してしまうといったことが起こる恐れ」(【0100】)を解決するために、「放電電力量が不足する場合に、商用電源から需要家へ供給される電力量の削減を試みる」こと(【0101】)が示唆されている。 需要家へ供給される電力量を削減すれば、ピークカットとデマンドレスポンスの双方において目標を達成することは可能となり得るが、これは、需要家への電力供給の削減を前提としない本願発明1とは前提となる技術思想が異なる。 よって、当業者といえども、引用発明及び引用文献の上記記載事項からは、需要家への電力供給の削減を前提とせずに2つの条件の両方を必須条件として満たすという本願発明1の構成には想到し得ない。 ウ 前記ア及びイのとおりであるから、当業者といえども、引用発明から前記(1)オに示した相違点1に係る構成は想到し得ない。 よって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 2 本願発明2〜5について 本願発明2〜5は、請求項1を引用して記載された発明であるから、前記1(1)オに示した相違点を含む。 したがって、前記1(2)のとおりであるから、本願発明2〜5は、引用発明と同一ではなく、かつ、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 3 本願発明6及び7について 本願発明6は本願発明1を方法の発明としたものであり、本願発明7は本願発明1をプログラムの発明としたものであるから、前記1(1)オに示した相違点と同様の相違点を含む。 したがって、前記1(2)のとおりであるから、本願発明6及び7は、引用発明と同一ではなく、かつ、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 第7 むすび 前記第6のとおり、本願発明は、引用発明と同一ではなく、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-07-13 |
出願番号 | P2018-012973 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H02J)
P 1 8・ 121- WY (H02J) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
土居 仁士 |
特許庁審判官 |
丸山 高政 寺谷 大亮 |
発明の名称 | 蓄電池管理装置、蓄電池管理方法および蓄電池管理プログラム |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |