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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G08C
管理番号 1387240
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-21 
確定日 2022-07-14 
事件の表示 特願2016−115154号「センサ装置、センサシステムおよび測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日出願公開、特開2017−220081号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月9日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和 2年 5月29日付け:拒絶理由通知書
同年 8月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月30日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 1月20日 :意見書、手続補正書の提出
同年 4月13日付け:拒絶理由通知書
同年 5月28日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月24日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月31日 :原査定の謄本の送達)
同年10月21日 :審判請求書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1〜21に係る発明は、令和3年5月28日に提出された手続補正書により補正された請求項1〜21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1及び請求項2の記載は次のとおりである。
以下、請求項1及び請求項2に係る発明をそれぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。
なお、符号1A、2A等は、本願発明1、2の各構成を分説するため、当審において付与したものである。
「【請求項1】
1A 対象物の物理量を測定するセンサ部と、
1B 外部の装置と通信する通信部と、
1C 時刻を計時する計時部と、
1D 前記センサ部、および前記計時部を制御する制御部と、
1E 環境エネルギーを用いた発電により蓄電される電源と、
を備え、
前記制御部は、
1D−1 時刻同期期間において、前記通信部を通信可能な電力状態として外部の装置から時刻情報を受信させて、当該時刻情報に基づいて前記計時部の時刻を合わせ、
1D−2 観測期間において、前記センサ部を測定可能な電力状態として前記対象物の物理量を測定させ、
1D−3 省電力期間において、前記通信部および前記センサ部を省電力状態とし、
1B−1 前記通信部は、前記センサ部が測定した物理量の少なくとも一部を、前記電源の蓄電量が基準量以上となってから送信し、
1B−2 基準量は、前記通信部が前記少なくとも一部の物理量を送信するのに必要な蓄電量と、前記計時部を同期するのに必要な蓄電量および前記センサ部が物理量を測定するのに必要な蓄電量の少なくとも1つと、に基づいて設定される
1F センサ装置。
【請求項2】
2F センサ装置であって、
2A 対象物の物理量を測定するセンサ部と、
2B 外部の装置と通信する通信部と、
2C 時刻を計時する計時部と、
2D 前記センサ部、および前記計時部を制御する制御部と、
2E 環境エネルギーを用いた発電により蓄電される電源と、
を備え、
前記制御部は、
2D−1 時刻同期期間において、前記通信部を通信可能な電力状態として外部の装置から時刻情報を受信させて、当該時刻情報に基づいて前記計時部の時刻を合わせ、
2D−2 観測期間において、前記センサ部を測定可能な電力状態として前記対象物の物理量を測定させ、
2D−3 省電力期間において、前記通信部および前記センサ部を省電力状態とし、
2B−1 前記通信部は、前記センサ部が測定した物理量の少なくとも一部を、前記電源の蓄電量が基準量以上となってから送信し、
2B−3 前記基準量は、当該センサ装置が一日間の動作をするのに必要な蓄電量であり、
2B−4 前記一日間の動作は、前記通信部によって前記少なくとも一部の物理量を送信する動作を含む
2F センサ装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、請求項1に係る理由2及び本願発明1、2に係る理由3の概要は、次のとおりである。
理由2(委任省令要件)
本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1の「前記通信部は、前記センサ部が測定した物理量の少なくとも一部を、前記電源の蓄電量が基準量以上となってから送信し、基準量は、前記計時部を同期するのに必要な蓄電量と、前記センサ部が物理量を測定するのに必要な蓄電量の少なくとも1つに基づいて設定される」という記載に関し、発明の詳細な説明の段落【0067】〜【0069】の記載をみても、基準量を、「前記計時部を同期するのに必要な蓄電量」や「前記センサ部が物理量を測定するのに必要な蓄電量」に基づいて設定することの技術上の意義は明らかではない。
よって、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1について、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

理由3(進歩性
本願発明1、2は、下記の引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開2009−245109号公報
引用文献2:特開2016−11909号公報

第4 当審の判断
進歩性欠如
(1) 引用文献等
ア 引用文献1
(ア) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用した引用文献1(特開2009−245109号公報)には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。以下同様である。)。
「【0013】
[無線通信を用いた設備監視システム]
図1は、本発明の無線通信を用いた設備監視システムの構成図を示したものである。図1において、1はデータ収録装置、2は本発明における計測システム、3は所定の物理量を測定する計測装置、4は所定の物理量を測定するのに適したセンサ、Aは本発明の無線通信を用いた設備監視システムである。
同図に示したように、本実施形態での無線設備監視システムAは、データ収録装置1と計測システム2から構成され、さらに計測システム2は、複数の計測装置3と該計測装置3の各々に対応して接続されるセンサ4(図中では亀裂変位計を図示)から構成されている。
物理量の計測は、各センサ4からの電気的信号を該各センサ4に対応して接続された計測装置3に取り込んでデータ処理することで行う。
【0014】
前記の各計測装置3からのデータ送信方法は、該各計測装置3がデータ収録装置1の通信範囲にあるか否かによって異なる。すなわち、前記の各計測装置3がデータ収録装置1の通信範囲内にある場合には、両者間で直接無線通信してデータ送信する。
前記の各計測装置3がデータ収録装置1の通信範囲外にある場合には、隣接する別の計測装置3を介して、リレー無線通信により、データ収録装置1へデータを転送する。
無線周波数帯は、2.45GH帯の特定小電力無線を用いる。各計測装置3の間の通信距離は200mまで可能である。次に計測装置3の構成を図2示す。図2において、(a)はセンサを接続する接続部が1つの場合、図2(b)は接続部が複数の場合(この場合は2つ)の計測装置3の構成図を表したものである。
【0015】
計測装置3は、図2(a)に示すとおり、一定間隔で信号を発信する計時部11と、電力を出力する電源部12と、物理量の計測および無線送受信を制御する制御部13と、物理量の計測結果を記憶する記憶部14と、外部と無線で信号およびデータを送受信する無線送受信部15と、センサからの検出信号を増幅するとともにデジタル信号へと変換する変換部16と、所定の物理量を検出するセンサと接続する接続部17とから構成されている。
【0016】
前記計時部11は、一定間隔で信号を発信し、定期計測等のタイミングを制御部に知らせる機能を有している。いわゆる、コンピュータシステムで用いられている多種なリアルタイムクロック(Real Time Clock、以下RTCと称す)の中から適宜選択して用いることができる。RTCの精度と消費電力は反比例の関係にあるが、一般に土木計測用途であれば、RTCの精度を多少犠牲にしても、消費電力を抑制する方が計測装置全体の消費電力抑制のために適している。
【0017】
前記電源部12は、計測装置3およびセンサ4(図1参照)が稼動するための電源を供給する。確保すべき電源寿命は、土木計測用として要求仕様から決定されるが、一般に1〜3年と設定される。電源電圧は、計測装置3の構成部品との関係から設定すればよく、一般的には3.0V〜6.0Vと設定される。電源は、市販の電池の中から適宜選択して構成することができるが、土木計測用としては、電源寿命、電圧安定性の観点からリチウム電池(塩化チオニルリチウム電池、二酸化マンガンリチウム電池など)が最も適している。
【0018】
前記接続部17は、センサ4との接続口である。該接続部17を介して、センサ4へ起動や計測の指令を送信するとともに電源を供給し、さらにセンサ4からの計測結果を変換部16へ送信する。該接続部17では、市販センサとの接続性を考慮して、接続できるセンサ方式を設定すればよい。土木計測用センサの8割が歪み変換式センサであることから、歪み変換式センサに対応できるように設定するのが適している。また、図2(b)に示すように、前記接続部17を複数(図示は2個)設けても良い。こうすることで、例えば同一地点の温度と物理量が同時計測でき、物理量の温度補正も容易となり、計測精度を向上させることができる。
【0019】
前記変換部16では、センサ4からの連続信号(アナログ信号)を制御部13で処理可能なデジタル信号へ変換する処理(一般にA/D変換とよばれる)を行う。変換部16で行うA/D変換処理は一般的な処理であり、市販の部品を適宜選択して用いることができる。A/D変換の分解能は8bitから用いることができるが、微小なひび割れ幅などの計測など、実用的なデータ精度を確保するためには、16bit以上であることが好ましい。
前記無線送受信部15は、無線にて、計測装置3からデータや信号を送信したり、外部からデータや信号を受信する機能を有している。無線送受信部15にはアンテナ部(図示なし)を有しており、無線の発送信はアンテナ部を介して行われる。
【0020】
前記計測装置3は、アンテナ部を除いては防水構造の容器内に設置される。アンテナ部は完全防水構造であり、容器の外部に設置される。防水構造の容器は、降雨時にも水の浸入がないことを保証する必要があり、一般に、JIS保護等級としてはJIS IPX5(防噴流型)以上の仕様が選択される。さらに、JIS IPX6(防水型)以上であることが好ましい。
【0021】
[計測方法]
次に、本発明における計測システムについて、図3に示した計測フロー図を用いて説明する。
図3(a)は、本発明における計測システムの全体フロー図である。本発明における計測システムは、前記各計測装置3への指令が何もなければ通常、待機モードS1の状態となっている。該待機モードS1からは、3つのフロー(時刻同期・通信経路確認フローS2,定期計測・定期データ送信フローS3,臨時計測・臨時データ送信フローS4)に移行することができ、それぞれのフローが完了すると、再度待機モードS1に戻ることになる。
【0022】
次に、前記の時刻同期・通信経路確認フローS2について説明する。本発明における時刻同期とは、定期計測等のタイミングをあわせるために、計時部の時刻を各計測装置3およびデータ収録装置1で同期させることである。又、本発明における通信経路確認とは、全ての計測装置3が直接あるいはリレー無線通信によりデータ収録装置1と通信可能な状態にあるか否かを確認することである。
【0023】
図3(b)は、図3(a)に記載している時刻同期・通信経路確認フローS2の詳細を示したものである。各計測装置3は、一定間隔で外部トリガ受信モードS5へと移行する。その際に、データ収録装置1から時刻同期、通信経路確認の開始トリガが送信されているか否かを確認する(S21)。計測装置3がデータ収録装置1の通信範囲外にある場合は、他の残部の計測装置3を介して、リレー無線通信にて当該トリガを受信することになる。当該トリガを受信した計測装置3は、送受信モードへS7と移行し、時刻同期、通信経路の確認を行う(S22)。それぞれが異常ないことを確認し(S23)、異常があるときには調整を行い(S24)、異常がなくなった段階で完了となり、再度待機モードS1へ移行する。
【0024】
時刻同期の異常時には時刻の調整を行い、通信経路の異常時(障害物等により一部の通信経路が遮断されている場合等)には回避通信経路にて通信可能か再確認する。なお、通信経路の異常時には、計測装置3同士で通信させて、自立的に回避通信経路を確立させることが技術的に可能である。しかし、土木計測では構造物に沿って計画的に計測装置3を配置するため、予め異常時の回避通信経路を定めおくことが可能であり、そうすることで異常時の通信回数を削減し、電源寿命を延伸することができる。
【0025】
図4は、図3(a)に示した定期計測・定期データ送信フローS3の詳細を示したものである。この場合には、計時部11からのトリガにより間欠的に制御部13(図2参照)が稼働し、トリガの種類を判別する(S8)。定期計測指定時刻に係わるトリガであれば(S31)、計測モードS6に移行し、計測S32、データ記憶S33を行う。また、定期データ送信に係わるトリガであれば(S34)、送受信モードS7に移行し、データ送信を行う(S35)。全ての処理が完了した場合に、再度待機モードS1へ移行する。
定期計測や定期データ送信の頻度は、電源寿命や計測データ確認頻度などから、適宜設定することができる。また、その設定は、データ収録装置からの指令により変更することもできる。土木計測においては、定期計測は一日に数回の頻度とされ、定期データ送信は一年に数回の頻度とされるのが一般的である。
【0026】
図5は、図3(a)に示した臨時計測・臨時データ送信フローS4の詳細を示したものである。臨時計測や臨時データ送信は、自然災害時などの突発事象に対して、臨時にデータを計測したい場合に用いられる。外部トリガ受信モードに移行した際に(S5)、臨時計測トリガもしくは臨時データ送信トリガを受信した場合には、それぞれのトリガ種別を判別する。臨時計測に係わるトリガであれば(S41)、計測モードS6に移行し、計測S42、データ記憶S43を行う。また、臨時データ送信に係わるトリガであれば(S44)、送受信モードS7に移行し、データ送信を行う(S45)。全ての処理が完了した場合に、再度待機モードS1へ移行する。
【0027】
[モード変換と計測フロー]
次に本発明の計測装置におけるモード変換と計測フローについて説明する。
図6は、本発明の計測装置3のモード変換と、図3に示した計測フローとの関係を示したものである。
同図に示すように、計測装置3は何も処理がない場合には待機モードS1になっている。待機モードS1は、動作電流として計時部11を稼働させる電流のみが必要であり、最も消費電力を抑えた状態である。一般に最大使用電流は10μA以下である。
【0028】
前記計測装置3は、一定間隔で極短時間の間(数ミリ秒間)、外部トリガ受信モードS5へと移行する。その際は、外部信号の受信動作を行うため、最大使用電流は50mAを超えることもある。
【0029】
外部信号を受信すると、信号種類により計測モードS6へと移行する。計測動作(S32,S42)では、まず、センサへの電源投入を行い、数十秒間センサへ通電した後、数秒間の計測処理を行う。その後、センサ電源を切断する。なお、計測データの測定間隔が一定値以下(例えば10分以下)の場合には、センサ電源のオンオフによる電源消費量の方が多くなるので、センサ電源は常に投入された状態とする。データ記憶動作(S33,S43)では、計測されたデータを記憶部に書き込む動作を行う。最大使用電流は10mAを超えるのが一般的である。
外部信号により送受信モードS7へも移行する。その際、データ収録装置と送受信して、保存データの転送、計測制御方法などの動作設定の変更などを行う。保存データの送信を行うため、最大使用電流は100mAを超えることもある。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の無線通信を用いた設備監視システムを地すべり監視へ適用した例を示す。
一般に、対象構造物は鉄筋コンクリート製のオープントレンチである。このトレンチでは、平面的に数百メートルの大きさの地すべりブロックが存在しており、この地すべりブロックを横切ってオープントレンチが存在していることから、地すべりによってコンクリートにはひび割れ等の変状が生じている。
【0031】
図7は、本発明の無線通信を用いた設備監視システムを地すべり監視へ適用した際の構成を示すもので、点検者は、データ収録装置および制御用パソコンを現場に持ち込み、各計測データを無線通信により、遠隔自動収集を行うことができる。
次に、当該地点における計測項目と使用センサの例を図9に示す。同表に示すように、無線通信の経路1では、伸縮計、一軸亀裂変位計、温度計を用いて、地すべり変位、コンクリートひび割れ幅、気温、コンクリート温度の計測を行っている。経路2では、傾斜計、二軸亀裂変位計、温度計を用いて、傾斜角度、コンクリートひび割れ幅、気温、コンクリート温度の計測を行っている。
【0032】
以上の構成態様で、ある1日の計測装置No.1の亀裂変位と計測装置No.2のコンクリート温度の関係をデータ収集した結果を図8に示す。図8のデータは15分間隔での計測結果である。計測期間が短いことから、亀裂変位の経時的な変化を評価するまでには至っていないが、コンクリート温度1℃の変化に対し、亀裂変位は-0.01mm程度の変化量であることが分かる。A/D変換の分解能は16bitであるが、ひび割れ幅と温度の関係に明確な直線性を確認でき、計測精度が十分であることが確認できた。」
「【図1】


「【図2】


「【図3】


「【図4】


「【図5】


「【図6】


「【図7】



(イ) 引用発明の認定
上記(ア)において摘記した事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「鉄筋コンクリート製のオープントレンチを対象構造物として微小なひび割れ幅などを計測して、地すべりによってコンクリートにひび割れ等の変状が生じているかについて監視する、地すべり監視用の無線通信を用いた設備監視システムにおいて、(【0030】、【0019】)
無線設備監視システムAは、データ収録装置1と計測システム2から構成され、計測システム2は、複数の計測装置3と該計測装置3の各々に対応して接続されるセンサ4(亀裂変位計)から構成されており、(【0013】)
物理量の計測は、各センサ4からの電気的信号を該各センサ4に対応して接続された計測装置3に取り込んでデータ処理することで行われ、(【0013】)
各計測装置3からのデータ送信方法は、各計測装置3がデータ収録装置1の通信範囲内にある場合には、両者間で直接無線通信してデータ送信し、各計測装置3がデータ収録装置1の通信範囲外にある場合には、隣接する別の計測装置3を介して、リレー無線通信により、データ収録装置1へデータを転送するものであり、(【0014】)
計測装置3は、一定間隔で信号を発信する計時部11と、電力を出力する電源部12と、物理量の計測および無線送受信を制御する制御部13と、物理量の計測結果を記憶する記憶部14と、外部と無線で信号およびデータを送受信する無線送受信部15と、センサからの検出信号を増幅するとともにデジタル信号へと変換する変換部16と、所定の物理量を検出するセンサと接続する接続部17とから構成されており、(【0015】)
前記計時部11は、一定間隔で信号を発信し、定期計測等のタイミングを制御部に知らせる機能を有しており、コンピュータシステムで用いられている多種なリアルタイムクロックの中から適宜選択して用いられ、(【0016】)
前記電源部12は、計測装置3およびセンサ4が稼動するための電源を供給するものであり、土木計測用としてはリチウム電池が最も適しており、(【0017】)
前記無線送受信部15は、無線にて、計測装置3からデータや信号を送信したり、外部からデータや信号を受信する機能を有しており、(【0019】)
計測システムは、前記各計測装置3への指令が何もなければ通常、待機モードS1の状態となっており、該待機モードS1から、3つのフロー(時刻同期・通信経路確認フローS2,定期計測・定期データ送信フローS3,臨時計測・臨時データ送信フローS4)に移行することができ、それぞれのフローが完了すると、再度待機モードS1に戻るようになっており、(【0021】)
時刻同期・通信経路確認フローS2において、各計測装置3は、一定間隔で外部トリガ受信モードS5へと移行し、データ収録装置1から時刻同期(定期計測等のタイミングをあわせるために、計時部の時刻を各計測装置3およびデータ収録装置1で同期させること)、通信経路確認(全ての計測装置3が直接あるいはリレー無線通信によりデータ収録装置1と通信可能な状態にあるか否かを確認すること)の開始トリガが送信されているか否かを確認し(S21)、当該トリガを受信した計測装置3は、送受信モードS7へ移行し、時刻同期、通信経路の確認を行い(S22)、それぞれが異常ないことを確認し(S23)、異常があるときには調整を行い(S24)、時刻同期の異常時には時刻の調整を行い、通信経路の異常時(障害物等により一部の通信経路が遮断されている場合等)には回避通信経路にて通信可能か再確認して、異常がなくなった段階で完了となり、再度待機モードS1へ移行し、(【0022】〜【0024】)
定期計測・定期データ送信フローS3において、計時部11からのトリガにより間欠的に制御部13が稼働し、トリガの種類を判別し(S8)、定期計測指定時刻に係わるトリガであれば(S31)、計測モードS6に移行し、計測S32、データ記憶S33を行い、定期データ送信に係わるトリガであれば(S34)、送受信モードS7に移行し、データ送信を行い(S35)、全ての処理が完了した場合に、再度待機モードS1へ移行し、(【0025】)
定期計測や定期データ送信の頻度は、電源寿命や計測データ確認頻度などから適宜設定することができ、土木計測においては、定期計測は一日に数回の頻度とされ、定期データ送信は一年に数回の頻度とされるのが一般的であり、(【0025】)
臨時計測・臨時データ送信フローS4において、臨時計測や臨時データ送信は、自然災害時などの突発事象に対して、臨時にデータを計測したい場合に用いられ、外部トリガ受信モードに移行した際に(S5)、臨時計測トリガもしくは臨時データ送信トリガを受信した場合には、それぞれのトリガ種別を判別し、臨時計測に係わるトリガであれば(S41)、計測モードS6に移行し計測S42、データ記憶S43を行い、臨時データ送信に係わるトリガであれば(S44)、送受信モードS7に移行しデータ送信を行い(S45)、全ての処理が完了した場合に、再度待機モードS1へ移行し、(【0026】)
待機モードS1は、動作電流として計時部11を稼働させる電流のみが必要であり、最も消費電力を抑えた状態であって一般に最大使用電流は10μA以下であり、(【0027】)
前記計測装置3が、一定間隔で極短時間の間(数ミリ秒間)、外部トリガ受信モードS5へと移行した際は、外部信号の受信動作を行うため、最大使用電流は50mAを超えることもあり、(【0028】)
外部信号を受信すると、信号種類により計測モードS6へと移行し、計測動作(S32,S42)では、まず、センサへの電源投入を行い、数十秒間センサへ通電した後、数秒間の計測処理を行い、その後、センサ電源を切断し、データ記憶動作(S33,S43)では、計測されたデータを記憶部に書き込む動作を行い、最大使用電流は10mAを超えるのが一般的であり、外部信号により送受信モードS7へ移行した際、保存データの送信を行うため、最大使用電流は100mAを超えることもある、(【0029】)
地すべり監視用の無線通信を用いた設備監視システム。」

イ 引用文献2
(ア) 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用した引用文献2(特開2016−11909号公報)には、以下の記載がある。
「【0039】
次に、本実施の形態1における振動発電無線センサ20の構成、動作について、具体的に説明する。図13Aは、本発明の実施の形態1における振動発電無線センサの構成、および入出力信号を示す図である。図13Aに示す振動発電無線センサ20は、電源回路21、無線回路22、およびアンテナ23とともに、先の図2で説明した振動発電機10を備えて構成されている。なお、電源回路21と無線回路22は、制御回路部として1つにまとめて構成することも可能である。
【0040】
ここで、振動発電無線センサ20内の電源回路21は、雨量計(30、40)と風速計50から、回収電力を取得する。また、振動発電無線センサ20内の無線回路22は、雨量計(30、40)と風速計50から測定結果を取得する一方で、雨量計(30、40)と風速計50に制御信号を出力する。さらに、無線回路22は、温湿度センサ60から温湿度データを取得できる構成となっている。
【0041】
図13Bは、本発明の実施の形態1における図13Aに示した振動発電無線センサ20の回路構成図である。電源回路21は、コイル12で発生した電圧を、ダイオードブリッジ21aで全波整流し、昇圧回路21bで昇圧する。さらに、電源回路21は、昇圧回路21bで昇圧された電力と、雨量計(30、40)と風速計50から回収された回収電力とを、電力合成回路21cで合成し、無線回路22に電源供給を行う。
【0042】
一方、無線回路22は、マイクロコンピュータ22a(以下、マイコン22aと称す)および無線通信部22bを備えて構成されている。マイコン22aは、電源回路21から供給される電力を使用して、あらかじめ設定された時間間隔で起動状態とスリープ状態を繰り返すように動作する。
【0043】
そして、マイコン22aは、起動状態において、温湿度センサ60から温湿度データを読み取り、雨量計(30、40)から雨量データを読み取り、風速計50から風速データを読み取ることで、気象データの収集を行う。さらに、マイコン22aは、気象データの収集を行った後に、各測定器(30、40、50)内の検出回路(32、43、53)に対して制御信号を出力する。
【0044】
この結果、制御信号を受信した各検出回路(32、43、53)内の昇圧回路(32d、43d、53d)は、コンデンサ(32b、43b、53b)に蓄えられた電圧を放電するとともに、回収し、さらに、回収した回収電力を、振動発電無線センサ20内の電源回路21に送る。」
「【0046】
マイコン22aは、起動状態において、図14中のステップS1〜ステップS6の処理を行うこととなる。まず、ステップS1において、マイコン22aは、温湿度センサ60から温湿度データを取得し、この結果、振動発電による蓄電電圧が消費される。」
「【0049】
最後に、ステップS6において、マイコン22aは、振動発電による蓄電電圧として、無線センサによる送信動作が可能な蓄電量を確保できていると判断した場合には、ステップS1、ステップS2、ステップS4で収集した気象データを、無線送信し、この結果、振動発電による蓄電電圧が消費される。以上のような一連動作が、マイコンが起動状態となるタイミングで繰り返し実行されることで、気象データの観測が可能となる。
【0050】
次に、フローチャートに基づいて、一連動作の流れを説明する。図15は、本発明の実施の形態1における振動発電無線センサの一連動作を説明するためのフローチャートである。まず始めに、ステップS101において、振動発電の電力により、マイコン22aが起動される。そして、ステップS102において、マイコン22aは、あらかじめ設定されたN分間、マイコン22aをスリープ状態とし、消費電力を抑制する。
【0051】
次に、ステップS103において、マイコン22aは、あらかじめ規定された時間間隔であるN分が経過した後に起動状態となり、温湿度センサ60を介して温湿度データを測定する。さらに、ステップS104において、マイコン22aは、温湿度データの測定結果を保存する。
【0052】
次に、ステップS105において、マイコン22aは、風速計50の検出回路53を介して取得した電圧値を風速データに変換する。また、ステップS106において、マイコン22aは、風速データの測定結果を保存する。さらに、ステップS107において、マイコン22aは、風速計50の検出回路53に対して制御信号を出力し、蓄電電圧のリセットおよび電力回収を行う。
【0053】
次に、ステップS108において、マイコン22aは、雨量計(30、40)の検出回路(32、43)を介して取得した電圧値を雨量データに変換する。また、ステップS109において、マイコン22aは、雨量データの測定結果を保存する。さらに、ステップS110において、マイコン22aは、雨量計(30、40)の検出回路(32、43)に対して制御信号を出力し、蓄電電圧のリセットおよび電力回収を行う。
【0054】
次に、ステップS111において、マイコン22aは、無線センサによる気象データの送信動作が可能な蓄電量として、振動発電による蓄電電圧が確保できているか否かを判断する。そして、ステップS111において、確保できていないと判断した場合には、マイコン22aは、今回は気象データの無線送信を行わずに、ステップS102の処理に戻り、それ以降の動作を繰り返す。
【0055】
一方、ステップS111において、確保できていると判断した場合には、ステップS112に進み、マイコン22aは、無線回路22内の無線通信部22bを起動する。そして、ステップS113において、マイコン22aは、無線通信部22bおよびアンテナ23を介して、温湿度データ、風速データ、雨量データからなる気象データを、無線送信する。さらに、ステップS114において、マイコン22aは、無線通信部22bをスリープ状態とした後、ステップS102の処理に戻り、それ以降の動作を繰り返す。
【0056】
以上のように、実施の形態1によれば、道路に設置されている構造物に振動発電機を設置することで、通過車両により得られる振動エネルギーから電気エネルギーを生成し、振動発電無線センサに必要な電力を得ることができる構成を備えている。そして、あらかじめ規定された時間間隔でマイコンを起動状態として、気象データの収集を行い。さらに、無線送信を行うのに十分な蓄電量が確保できている場合には、収集した気象データを無線送信する機能を有している。」
「【図13A】


「【図13B】


「【図14】


「【図15】



(イ) 引用文献2技術事項の認定
上記(ア)に摘記された事項を総合すると、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
[引用文献2技術事項]
「電源回路21、無線回路22、およびアンテナ23とともに、振動発電機10を備えており、道路に設置されている構造物に振動発電機10を設置することで、通過車両により得られる振動エネルギーから電気エネルギーを生成し必要な電力を得ることができるように構成した振動発電無線センサ20において、(【0039】、【0056】)
電源回路21は、コイル12で発生した電圧をダイオードブリッジ21aで全波整流し、昇圧回路21bで昇圧し、昇圧された電力と、雨量計(30、40)と風速計50から回収された回収電力とを、電力合成回路21cで合成し、無線回路22に電源供給を行うものであり、(【0041】)
無線回路22は、マイクロコンピュータ22a(以下「マイコン22a」という。)および無線通信部22bを備えており、マイコン22aは、電源回路21から供給される電力を使用して、あらかじめ設定された時間間隔で起動状態とスリープ状態を繰り返すように動作するものであり、(【0042】)
マイコン22aは、起動状態において、温湿度センサ60から温湿度データを読み取り、雨量計(30、40)から雨量データを読み取り、風速計50から風速データを読み取ることで、気象データの収集を行い、(【0043】)
マイコン22aは、起動状態において、温湿度センサ60から温湿度データを取得し、この結果、振動発電による蓄電電圧が消費され、(【0046】)
マイコン22aは、無線センサによる気象データの送信動作が可能な蓄電量として振動発電による蓄電電圧が確保できているか否かを判断し、確保できていないと判断した場合には、今回は気象データの無線送信を行わず、確保できていると判断した場合には、無線回路22内の無線通信部22bを起動し、無線通信部22bおよびアンテナ23を介して、温湿度データ、風速データ、雨量データからなる気象データを無線送信し、この結果、振動発電による蓄電電圧が消費されること。(【0049】、【0054】、【0055】)」

ウ 引用文献9
(ア) 引用文献9の記載事項
当審において、技術常識及び周知技術を示す文献として新たに引用する特開2014−7486号公報(以下「引用文献9」という。)には、以下の記載がある。
「【0010】
本実施例では、センサによりデータ収集を行って、他の機器と通信する通信モジュール1の例を説明する。
図1は、センサシステム100の構成図の例である。センサシステム100は通信モジュール1、制御機器2を含む。通信モジュール1は制御機器2と通信する。
図2は、通信モジュール1の構成図の例である。通信モジュール1は発電装置11、センサ通信装置12、制御装置13、メインセンサ14、記憶部15を含む。発電装置11は、太陽光や振動などの微小エネルギーを電気エネルギーに変換、充電し、充電量を制御装置13に伝え、通信モジュール1の内の電気回路に電源を供給する。制御装置13は発電装置11の充電量の情報を取得し、メインセンサ14より温度や湿度などのセンサ情報を取得し、これらの情報を記憶部15に記憶し、センサ通信装置12を制御して通信モジュール1の外部と通信を行う。
【0011】
図3は、制御機器2の構成図の例である。制御機器2は外部電源21と制御機器通信装置22と制御対象23を含む。制御機器通信装置22によって通信モジュール1からのデータを受信し、その受信データに基づき制御対象23を制御する。また外部電源21は制御機器2の内部に電源を供給する。
図4は、発電装置11の構成図の例である。発電装置11は発電機35、充電センサ36、蓄電器37を含む。発電機35は太陽光や振動などの微小エネルギーを電気エネルギーに変換し、蓄電器37を充電する。充電センサ36は蓄電器37に蓄えられている充電量を測定する。
【0012】
以下、図5から図9を用いて、通信モジュール1の動作を説明する。
図5は、通信モジュール1内のメインセンサ14の制御動作における全体の流れを示す。制御装置13はメインセンサ14を動作開始させると(S11)、メインセンサ制御フローに入る(S12)。その後、制御装置13は次のメインセンサ制御フローの起動まで一定期間待ち(S13)、再度メインセンサ制御フローに戻る。この動作を繰り返すことでメインセンサ14の制御は行われる。
図6は、メインセンサ制御(S12)のフローの例を示す。メインセンサ制御フローでは、制御装置13は現在の充電量が予め設定された閾値Aより大きいか比較する(S21)。もし充電量が閾値A未満であるならば制御装置13は処理を終了し、充電量が閾値Aより大きい場合、制御装置13は電源オフあるいは低消費電力状態で待機するメインセンサ14をオンする(S22)。制御装置13はメインセンサ14により取得された日時とデータをセンサデータとして取得し、記憶部15に空きが有れば記憶し、無ければ古いデータを新しいデータで上書き記憶する(S23)。その後、制御装置13はメインセンサ14の電源オフ、あるいは低消費電力状態にして(S24)、処理を終了する。
【0013】
図7は、通信モジュール1内のセンサ通信装置12の制御動作における全体の流れを示す。制御装置13はセンサ通信装置12を動作開始させると(S31)、センサ通信装置制御フローに入る(S32)。その後、制御装置13は次のセンサ通信装置制御フローの起動まで一定時間待ち(S33)、再度センサ通信装置制御フローに戻る。この動作を繰り返すことでセンサ通信装置12の制御は行われる。
図8は、センサ通信装置制御(S32)のフローの例を示す。センサ通信装置制御フローでは、制御装置13は現在の充電量が予め設定された閾値Bより大きいか比較する(S41)。もし充電量が閾値B未満であるならば制御装置13は処理を終了し、充電量が閾値Bより大きい場合、制御装置13は電源オフあるいは低消費電力状態で待機するセンサ通信装置12をオンする(S42)。次に、記憶部15の内部にあるセンサデータを制御機器2に送信する(S43)。その後、制御装置13はセンサ通信装置12の電源オフ、あるいは低消費電力状態にして(S44)、処理を終了する。
【0014】
閾値Aをメインセンサ制御フロー(S12)における最大消費電力量に基づいて設定しておけば、制御装置13はメインセンサ制御を確実に行うことが可能となる。センサ通信装置制御はメインセンサ制御と同時に行う可能性があることから、閾値Bは閾値Aに対して、センサ通信装置制御フロー(S32)における最大消費電力量を加えた値以上に設定することにより、データ取得と通信処理を同時かつ確実に行うことが可能となる。また、(S23)における記憶部15が不揮発性メモリの場合は、電源がオフあるいは、発電装置11からの発電出力が無くなった場合でも、センサデータの記憶を保持することが出来る。また、通信処理フローS43において、送信済みのセンサデータの上書き可否の制御が可能な場合、送信済みデータは上書き可に変更しても良い。上書きされたセンサデータのみ送信を行うようにすれば、送信データ量が削減でき、低消費電力化に繋がる。
【0015】
図9は、通信モジュール1の動作のタイミングチャートを示す。時刻t0〜t3までの期間は充電量が閾値Aを上回っているため、充電量はメインセンサ制御に十分な電力があると判断して、制御装置13はメインセンサ状態を一定時間(wt0)毎にオンとする。一方、時刻t3以降は充電量が閾値A未満のため、制御装置13はメインセンサ14をオフとする。また、時刻t2において、充電量は閾値B以上であるため、制御装置13はセンサ通信装置12を起動し、記憶部15に記憶されたセンサデータを送信し、送信済みのセンサデータを削除する。本実施例では1回の送信で記憶部15の全データが送信可能とする。時刻t2から一定時間後(wt1)の充電量は閾値B未満であるため、センサ通信装置12はオフの状態となる。
【0016】
以上、本実施例の形態によれば、必要な充電量が充電されるまでメインセンサ14およびセンサ通信装置12がオンされることが無いため、確実に充電量が増える。充電がランダムに行われるような太陽電池などを発電装置として搭載した通信モジュールにおいて、閾値を超えた際にメインセンサ14、あるいはセンサ通信装置12が起動するので、閾値を超えた場合には正常にセンサデータの取得、あるいはセンサデータの送信を行うことが可能となる。また、メインセンサ14およびセンサ通信装置12の必要電力を鑑みて、メインセンサ14およびセンサ通信装置12など、必要消費電力が異なる各制御シーケンスを起動するための閾値を別々に設けることで、メインセンサ14およびセンサ通信装置12の起動に必要な充電量を必要最小限に設定することが可能となる。その結果、必要な充電量を超えた場合のみメインセンサ14あるいはセンサ通信装置12がオンするため、無駄な電力の消費を無くすことが可能となる。一方、制御機器2に関しては、制御機器通信装置22を一定時間wt0毎に起動し、受信できた信号により制御対象の制御を行えば低消費電力化が可能となる。」
「【図1】


「【図2】


「【図4】


「【図6】


「【図8】


「【図9】



(イ) 技術常識及び周知技術の認定
a 技術常識1
引用文献9の段落【0010】〜【0011】の記載から、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という。)。
[技術常識1]
「センサによりデータ収集を行って、他の機器と通信する通信モジュールであって、発電装置、センサ通信装置、制御装置、メインセンサ、記憶部を含み、外部の制御機器と通信する通信モジュールにおいて、発電装置の発電機は、太陽光や振動などの微小エネルギーを電気エネルギーに変換して発電装置の蓄電器を充電し、通信モジュールの内の電気回路に電源供給すること。」

b 周知技術1
引用文献9の段落【0010】、【0012】〜【0014】の記載から、次の技術事項は当業者にとって周知の技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。)。
[周知技術1]
「センサによりデータ収集を行って、他の機器と通信する通信モジュールであって、発電装置、センサ通信装置、制御装置、メインセンサ、記憶部を含み、外部の制御機器と通信する通信モジュールにおいて、現在の充電量が、予め設定された閾値Aより大きい場合に、メインセンサをオンにしてセンサデータを取得し、予め設定された閾値Bより大きい場合に、センサ通信装置をオンにして記憶部の内部にあるセンサデータを外部の制御機器に送信するように制御し、閾値Aはメインセンサ制御フローにおける最大消費電力量に基づいて設定され、閾値Bは閾値Aに対して、センサ通信装置制御フローにおける最大消費電力量を加えた値以上に設定されることにより、データ取得と通信処理を同時かつ確実に行うことを可能としたこと。」

(2) 本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明を対比する。
(ア) 引用発明の「対象構造物」である「鉄筋コンクリート製のオープントレンチ」は、本願発明1の「対象物」に相当し、引用発明の「微小なひび割れ幅」は、本願発明1の「物理量」に相当する。
また、引用発明の「センサ4(亀裂変位計)」は、本願発明1の「センサ部」に相当する。
よって、本願発明1と引用発明は、「対象物の物理量を測定するセンサ部」(構成1A)を備える点で一致する。

(イ) 引用発明の「計測装置3」の「無線送受信部15」は、「無線にて、計測装置3からデータや信号を送信したり、外部からデータや信号を受信する機能を有して」いるから、本願発明1の「外部の装置と通信する通信部」(構成1B)に相当する。

(ウ) 引用発明の「計測装置3」の「一定間隔で信号を発信する計時部11」は、「一定間隔で信号を発信し、定期計測等のタイミングを制御部に知らせる機能を有しており、コンピュータシステムで用いられている多種なリアルタイムクロックの中から適宜選択して用いられ」るものであって、後記(エ)に示すとおり、「時刻同期」の制御対象であるから、本願発明1の「時刻を計時する計時部」(構成1C)に相当する。

(エ) 引用発明の「計測装置3」の「制御部13」は「物理量の計測」「を制御する」ものである。また「計測装置3」は「送受信モードS7」における「時刻同期(定期計測等のタイミングをあわせるために、計時部の時刻を各計測装置3およびデータ収録装置1で同期させること)」において時刻の調整を行うものであるから、計時部を制御する制御部を有することは明らかといえる。したがって、引用発明の「計測装置3」は、本願発明1の「前記センサ部、および前記計時部を制御する制御部」(構成1D)に相当する構成を有するものである。

(オ) 引用発明の「計測装置3」の「電力を出力する電源部12」は、「計測装置3およびセンサ4が稼動するための電源を供給するものであり」、本願発明1の「電源」に相当する。

(カ) 引用発明の「時刻同期・通信経路確認フローS2」では、各計測装置3は、一定間隔で外部トリガ受信モードS5へと移行し、データ収録装置1から時刻同期の開始トリガが送信されているか否かを確認し(S21)、当該トリガを受信した計測装置3は、送受信モードへS7と移行し、時刻同期を行い(S22)、異常ないことを確認し(S23)、異常があるときには時刻の調整を行っている(S24)。
よって、引用発明の「時刻同期」を行うことは、本願発明1の「前記計時部の時刻を合わせ」ることに相当し、「時刻同期」が行われる期間は、本願発明1の「時刻同期期間」に相当する。また、引用発明は「データ収録装置1から」送信される「時刻同期の開始トリガ」を受信し、「時刻同期の異常時には時刻の調整」することにより「時刻同期」が行われるものであって、計時部11の時刻の調整において、外部からの時刻情報の受信が必須であることを考慮すれば、引用発明が本願発明1の「前記通信部を通信可能な電力状態として外部の装置から時刻情報を受信」することに相当する構成を備えることは明らかといえる。
そして、上記(エ)において説示したとおり、引用発明の「計測装置3」が、計時部を制御する制御部を有することを踏まえると、本願発明1と引用発明は、「制御部」が「時刻同期期間において、前記通信部を通信可能な電力状態として外部の装置から時刻情報を受信させて、当該時刻情報に基づいて前記計時部の時刻を合わせ」る点(構成1D−1)で一致する。

(キ) 引用発明の「定期計測・定期データ送信フローS3」では、「計時部11からのトリガにより間欠的に制御部13が稼働し、トリガの種類を判別し(S8)、定期計測指定時刻に係わるトリガであれば(S31)、計測モードS6に移行し」、「臨時計測・臨時データ送信フローS4」では、「外部トリガ受信モードに移行した際に(S5)、臨時計測トリガもしくは臨時データ送信トリガを受信した場合には、それぞれのトリガ種別を判別し、臨時計測に係わるトリガであれば(S41)、計測モードS6に移行」するから、引用発明の「定期計測」又は「臨時計測」の「計測モード」の期間は、本願発明1の「観測期間」に相当する。
そして、引用発明の「定期計測」又は「臨時計測」の「計測モード」の期間では、計測、データ記憶が行われるから、センサ4を測定可能な電力状態として対象物の物理量を測定させているといえる。
よって、本願発明1と引用発明は、「制御部」が「観測期間において、前記センサ部を測定可能な電力状態として前記対象物の物理量を測定させ」る点(構成1D−2)で一致する。

(ク) 引用発明の「計測システム」は、「各計測装置3への指令が何もなければ通常、待機モードS1の状態となっており」、この「待機モードS1の状態」にある期間は、本願発明1の「省電力期間」に相当する。
そして、引用発明の「待機モードS1」では、「動作電流として計時部11を稼働させる電流のみが必要であり、最も消費電力を抑えた状態」であるから、無線送受信部15及びセンサ4は省電力状態にあるといえる。
よって、本願発明1と引用発明は、「制御部」が「省電力期間において、前記通信部および前記センサ部を省電力状態」とする点(構成1D−3)で一致する。

(ケ) 引用発明の「計測システム2」における「計測装置3」と当該「計測装置3」に「対応して接続されるセンサ4(亀裂変位計)」の組み合わせは、本願発明1の「センサ装置」(構成1F)に相当する。

上記(ア)〜(ケ)の対比結果をまとめると、本願発明1と引用発明は、以下の一致点1において一致し、以下の相違点1において相違する。
[一致点1]
「対象物の物理量を測定するセンサ部と、
外部の装置と通信する通信部と、
時刻を計時する計時部と、
前記センサ部、および前記計時部を制御する制御部と、
電源と、
を備え、
前記制御部は、
時刻同期期間において、前記通信部を通信可能な電力状態として外部の装置から時刻情報を受信させて、当該時刻情報に基づいて前記計時部の時刻を合わせ、
観測期間において、前記センサ部を測定可能な電力状態として前記対象物の物理量を測定させ、
省電力期間において、前記通信部および前記センサ部を省電力状態とする、
センサ装置。」

[相違点1]
本願発明1では、
電源が「環境エネルギーを用いた発電により蓄電される電源」(構成1E)であり、
「前記通信部は、前記センサ部が測定した物理量の少なくとも一部を、前記電源の蓄電量が基準量以上となってから送信し」(構成1B−1)、
「基準量は、前記通信部が前記少なくとも一部の物理量を送信するのに必要な蓄電量と、前記計時部を同期するのに必要な蓄電量および前記センサ部が物理量を測定するのに必要な蓄電量の少なくとも1つと、に基づいて設定される」(構成1B−2)のに対して、
引用発明では、電源部として「リチウム電池」が最も適しているとされており、またデータ送信動作実行を電源の状態に係らしめていない点。

イ 判断
上記相違点1について以下検討する。
(ア) 本願発明1の構成1B−2について
a 本願発明1の「基準量は、前記通信部が前記少なくとも一部の物理量を送信するのに必要な蓄電量と、前記計時部を同期するのに必要な蓄電量および前記センサ部が物理量を測定するのに必要な蓄電量の少なくとも1つと、に基づいて設定される」(構成1B−2)は、令和3年5月28日付け手続補正により補正された事項を含むものであり(下線が補正箇所である。)、請求人は、同日付け意見書において、本願の当初明細書の段落【0067】が当該補正の根拠記載である旨主張している(上記意見書の「2.補正の内容」を参照。)。
「【0067】
次に、制御部25は、電源28の蓄電量が基準量以上であるか否かを判定する(S105)。蓄電量についての基準量は、例えば、メモリ20内の物理量データを通信部26が送信するのに必要な蓄電量と、計時部22を同期するのに必要な蓄電量と、センサ部24が物理量データを測定するのに必要な蓄電量などの少なくとも1つに基づいて設定されてよい。一例として、この蓄電量は、センサ装置2がS100〜S105の処理と、後述のS106〜S113、S204の処理とを1日繰り返して実行する場合に必要な蓄電量であってよい。」

b 上記【0067】には、送信動作実行のための基準量を次の3つの蓄電量(以下「送信蓄電量」、「同期蓄電量」、「測定蓄電量」という。)の少なくとも1つに基づいて設定することが開示されており、これらの3つの蓄電量は選択肢として同列に扱われ、そのうち「少なくとも1つ」とされているから、送信蓄電量に基づいて基準量が設定される場合の他に、例えば、同期蓄電量や測定蓄電量のみに基づいて基準量を設定する場合も想定しているといえる。
<送信蓄電量>
メモリ20内の物理量データを通信部26が送信するのに必要な蓄電量
<同期蓄電量>
計時部22を同期するのに必要な蓄電量
<測定蓄電量>
センサ部24が物理量データを測定するのに必要な蓄電量

c そうすると、本願発明1の構成1B−2は、基準量が、送信蓄電量、同期蓄電量、測定蓄電量の少なくとも1つに基づいて設定されることを規定したものであると解するのが相当であり、基準量の設定において送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて同期蓄電量及び/又は測定蓄電量を追加的に考慮することは、【0067】に記載された事項であるとはいえない。
なお、【0067】の「一例として、この蓄電量は、センサ装置2がS100〜S105の処理と、後述のS106〜S113、S204の処理とを1日繰り返して実行する場合に必要な蓄電量であってよい。」という記載は、「S100〜S105の処理」が測定動作、「S106〜S113の処理」が送信動作と測定動作、「S204の処理」が同期動作に関する処理を意味するから(図3及び図4を参照。)、基準量の設定において送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて同期蓄電量及び/又は測定蓄電量を追加的に考慮することに対応する記載ではない。

d もっとも、以下に示す段落【0071】に「以上のS105〜S108により、電源28の蓄電量が基準量未満である場合(S105;No)には物理量データの送信が行われず、蓄電量が基準量以上である場合(S105;Yes)に物理量データの送信が行われる。これにより、センサ部24が夜間に測定した物理量の少なくとも一部は、ソーラーパネル280による発電の蓄電量が基準量以上となってから通信部26によって送信される。よって、夜間の通信で電源28を過度に消費して物理量が測定できなくなってしまうのを防止することができる。なお、夜間とは、日没から日の出までの間であってもよいし、ソーラーパネル280による発電量が基準発電量以下になる時間帯であってもよい。」と記載されており、ソーラーパネル280による発電量が十分得られない夜間の通信で電源28を過度に消費して物理量の測定ができなくなってしまうのを防止することができるように基準量の設定が行われることが開示されているから、そのような夜間の送信動作や測定動作を行うためには、送信蓄電量だけでなく測定蓄電量も同時に考慮して基準量の設定がされると解する余地がある。

e しかしながら、【0071】は、「夜間」において送信動作と測定動作を実行する場合の基準量の設定に関する記述であって、ソーラーパネル280による発電量が十分得られる「日中」の基準量の設定については、具体的にどのように設定すべきかについて何ら開示していない。

f そうすると、基準量の設定に関し、夜間の場合と日中の場合を区別して規定していない本願発明1の構成1B−2について、段落【0071】の記載を根拠として、夜間か日中かを問わず、基準量の設定において送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて同期蓄電量及び/又は測定蓄電量を追加的に考慮することを規定したものであると解するのは適当ではない。

g 仮に構成1B−2が、夜間か日中かを問わず、基準量の設定において送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて同期蓄電量及び/又は測定蓄電量を追加的に考慮することを規定したものであると解すると、日中は送信動作後に発電による蓄電量の回復が直ちに可能であり回復後に同期動作や測定動作を実行すれば足りるにも関わらず、あえて送信蓄電量だけでなく同期蓄電量や測定蓄電量までも同時に考慮して送信動作実行のための基準量を高く設定することになるから、そのように日中の基準量を必要とされる水準よりも高く設定することは、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入することになるのは明らかである。よって、このような解釈を採用する合理的理由はない。

h 以上の検討内容を踏まえると、本願発明1の構成1B−2については、前記cにおいて説示したとおり、基準量が、送信蓄電量、同期蓄電量、測定蓄電量の少なくとも1つに基づいて設定されることを規定したものであると解するのが相当であり、以下の(イ)では、この解釈を前提にした判断を示す。

(イ) 基準量が、送信蓄電量、同期蓄電量、測定蓄電量のうちの少なくとも1つに基づいて設定されると解した場合の判断について
a 引用文献2技術事項には、「電源回路21、無線回路22、およびアンテナ23とともに、振動発電機10を備えており、道路に設置されている構造物に振動発電機を設置することで、通過車両により得られる振動エネルギーから電気エネルギーを生成し必要な電力を得ることができるように構成した振動発電無線センサ20」において、「無線回路22」の「マイコン22aは、無線センサによる気象データの送信動作が可能な蓄電量として振動発電による蓄電電圧が確保できているか否かを判断し、確保できていないと判断した場合には、今回は気象データの無線送信を行わず、確保できていると判断した場合には、無線回路22内の無線通信部22bを起動し、無線通信部22bおよびアンテナ23を介して、温湿度データ、風速データ、雨量データからなる気象データを無線送信」することが開示されている。

b ここで、引用文献2技術事項における「無線センサによる気象データの送信動作が可能な蓄電量」は、本願発明1の「前記通信部が前記少なくとも一部の物理量を送信するのに必要な蓄電量」(送信蓄電量)に対応する。また、「振動発電による蓄電電圧が確保できているか否かを判断」するためには、「蓄電電圧」を所定の閾値と比較することが行われていると考えられるから、かかる所定の閾値は、本願発明1の「基準量」に対応する。

c そうすると、引用文献2技術事項においても、無線回路22(通信部)は、気象データ(センサ部が測定した物理量の少なくとも一部)を、電源回路21の蓄電量が気象データを送信するのに必要な蓄電量(送信蓄電量)に基づいて設定された基準量以上となってから送信しているといえる。

d また、「センサによりデータ収集を行って、他の機器と通信する通信モジュールであって、発電装置、センサ通信装置、制御装置、メインセンサ、記憶部を含み、外部の制御機器と通信する通信モジュールにおいて、発電装置の発電機は、太陽光や振動などの微小エネルギーを電気エネルギーに変換して発電装置の蓄電器を充電し、通信モジュールの内の電気回路に電源供給すること。」は、当業者にとって技術常識であるから(技術常識1を参照)、外部機器と通信可能なセンサ装置の内部において、太陽光エネルギーや振動エネルギー等の環境エネルギーを電気エネルギーに変換して発電・蓄電可能なものとすることは、ごくありふれた電源形式である。

e そして、引用発明と引用文献2技術事項は、いずれもセンサで測定されたデータを無線により外部機器に送信する装置であるという点で共通しているから、引用発明において、引用文献2技術事項に開示された蓄電池の蓄電量に基づくデータ送信動作の実行判断手順を適用するにあたり、引用発明の「リチウム電池」の電源に代えて、上記dにおいて述べたようなごくありふれた電源形式である「環境エネルギーを用いた発電により蓄電される電源」を採用することにより、上記相違点1に係る本願発明1の構成1E、1B−1及び1B−2とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

f なお、引用発明においては、「外部信号の受信動作を行うため、最大使用電流は50mAを超えることもあり」、「データ記憶動作(S33,S43)では、計測されたデータを記憶部に書き込む動作を行い、最大使用電流は10mAを超えるのが一般的であり、外部信号により送受信モードS7へ移行した際、保存データの送信を行うため、最大使用電流は100mAを超えることもある」としていることからも明らかなように、受信動作、測定動作及び送信動作の実行に係る最大消費電力は、定格消費電力として概ね知られているから、当該動作のうち特に送信動作の実行判断基準(「基準量」)を、当該送信動作の定格消費電力に見合った蓄電量(送信蓄電量)という観点に基づいて設定するのではなく、送信動作以外の受信動作や測定動作の定格消費電力に見合った蓄電量(同期蓄電量や測定蓄電量)という観点に基づいて設定することも、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎないというべきである。

g そして、本願発明1の奏する効果は、引用発明、引用文献2技術事項及び技術常識1から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。

h したがって、本願発明1は、引用発明、引用文献2技術事項及び技術常識1に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(ウ) 基準量が、送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて同期蓄電量及び/又は測定蓄電量を追加的に考慮して設定されると解した場合の判断について
a 前記(ア)において説示したとおり、本願発明1の構成1B−2が、送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて同期蓄電量及び/又は測定蓄電量を追加的に考慮して基準量が設定されることを規定したものであると解することは適当ではないものの、請求人は審判請求書においてこのような解釈を前提とした主張をしているから(審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」を参照)、前記(ア)の説示内容は措くとして、請求人の前提とする解釈に沿って、前記相違点1について念のため検討する。

b まず、本願発明1の構成1E、1B−1については、前記(イ)において説示した理由が同様に当てはまるから、当業者が容易に想到し得たことである。

c 次に、本願発明1の構成1B−2について検討すると、「外部の制御機器と通信し、発電装置、センサ通信装置、制御装置、メインセンサ、記憶部を含む通信モジュールにおいて、現在の充電量が、予め設定された閾値Aより大きい場合に、メインセンサをオンにしてセンサデータを取得し、予め設定された閾値Bより大きい場合に、センサ通信装置をオンにして記憶部の内部にあるセンサデータを外部の制御機器に送信するように制御し、閾値Aはメインセンサ制御フローにおける最大消費電力量に基づいて設定され、閾値Bは閾値Aに対して、センサ通信装置制御フローにおける最大消費電力量を加えた値以上に設定されることにより、データ取得と通信処理を同時かつ確実に行うことを可能としたこと。」は周知技術であり(周知技術1を参照)、周知技術1においては、センサデータの送信動作の実行判断基準(「基準量」)を、データ送信動作の最大消費電力量に見合った充電量(送信蓄電量)だけでなく、メインセンサ動作の最大消費電力量(測定蓄電量)も勘案して、両者を加えた充電量に基づいて設定している。
すなわち、送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて測定蓄電量を追加的に考慮して基準量が設定されるように構成することは、周知の技術であって、引用発明に上記周知技術1を適用することにより、相違点1に係る本願発明1の構成1B−2とすることは、当業者にとって格別の困難性はない。

d そして、本願発明1の奏する効果は引用発明、引用文献2技術事項、技術常識1及び周知技術1から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。

e したがって、本願発明1は、引用発明、引用文献2技術事項、技術常識1及び周知技術1に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(3) 本願発明2について
ア 対比
本願発明2の構成から構成2B−3、2B−4を除いたものは、本願発明1の構成から構成1B−2を除いたものと実質的に同じであるから、その部分については、本願発明1と引用発明の対比結果が本願発明2についても同様に当てはまる。
その点を踏まえて、本願発明2と引用発明を対比すると、本願発明2と引用発明は、以下の一致点2において一致し、以下の相違点2において相違する。
[一致点2]
「センサ装置であって、
対象物の物理量を測定するセンサ部と、
外部の装置と通信する通信部と、
時刻を計時する計時部と、
前記センサ部、および前記計時部を制御する制御部と、
電源と、
を備え、
前記制御部は、
時刻同期期間において、前記通信部を通信可能な電力状態として外部の装置から時刻情報を受信させて、当該時刻情報に基づいて前記計時部の時刻を合わせ、
観測期間において、前記センサ部を測定可能な電力状態として前記対象物の物理量を測定させ、
省電力期間において、前記通信部および前記センサ部を省電力状態とする、
センサ装置。」

[相違点2]
本願発明2では、
電源が「環境エネルギーを用いた発電により蓄電される電源」(構成2E)であり、
「前記通信部は、前記センサ部が測定した物理量の少なくとも一部を、前記電源の蓄電量が基準量以上となってから送信し」(構成2B−1)、
「前記基準量は、当該センサ装置が一日間の動作をするのに必要な蓄電量であり」(構成2B−3)、
「前記一日間の動作は、前記通信部によって前記少なくとも一部の物理量を送信する動作を含む」(構成2B−4)のに対して、
引用発明では、電源部として「リチウム電池」が最も適しているとされており、またデータ送信動作実行を電源の状態に係らしめていない点。

イ 判断
上記相違点2について以下検討する。
(ア) 本願発明2の構成2B−3、2B−4について
a 本願発明2の「前記一日間の動作は、前記通信部によって前記少なくとも一部の物理量を送信する動作を含む」(構成2B−4)は、令和3年5月28日付け手続補正により補正された事項であり、請求人は、同日付け意見書において、本願の当初明細書の段落【0067】が当該補正の根拠記載である旨主張している(上記意見書の「2.補正の内容」を参照)。
「【0067】
次に、制御部25は、電源28の蓄電量が基準量以上であるか否かを判定する(S105)。蓄電量についての基準量は、例えば、メモリ20内の物理量データを通信部26が送信するのに必要な蓄電量と、計時部22を同期するのに必要な蓄電量と、センサ部24が物理量データを測定するのに必要な蓄電量などの少なくとも1つに基づいて設定されてよい。一例として、この蓄電量は、センサ装置2がS100〜S105の処理と、後述のS106〜S113、S204の処理とを1日繰り返して実行する場合に必要な蓄電量であってよい。」

b 上記【0067】から、構成2B−3、2B−4の「一日間の動作」には、送信動作(S108)の他に、同期動作(S204)や測定動作(S102、S110)が含まれることが読み取れるものの、これらは「一例として」述べたものにすぎないから、構成2B−3、2B−4の「一日間の動作」には、送信動作のみである場合も含まれるといえる。

(イ) 「一日間の動作」が送信動作のみであると解した場合の判断
a 構成2B−3、2B−4の「一日間の動作」が送信動作のみであると解した場合には、構成2B−3及び2B−4は、結局のところ、「前記基準量は、当該センサ装置が前記通信部によって前記少なくとも一部の物理量を送信する動作をするのに必要な蓄電量である」ということにまとめることができるから、基準量が送信蓄電量に基づいて設定されることを意味する。

b そうすると、「(2) 本願発明1について」「イ 判断」(イ)において説示した理由が同様に当てはまるから、上記相違点2に係る本願発明2の構成2E、2B−1、2B−3及び2B−4とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

c そして、本願発明2の奏する効果は、引用発明、引用文献2技術事項及び技術常識1から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。

d したがって、本願発明2は、引用発明、引用文献2技術事項及び技術常識1に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(ウ) 「一日間の動作」が送信動作の他に同期動作や測定動作が含まれると解した場合の判断
a 構成2B−3、2B−4の「一日間の動作」が送信動作の他に同期動作や測定動作が含まれると解した場合には、基準量が、送信蓄電量、同期蓄電量及び測定蓄電量のすべてを考慮して設定されることになる。

b しかしながら、「(2) 本願発明1について」「イ 判断」(ウ)cにおいて説示したとおり、送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて測定蓄電量を追加的に考慮して基準量が設定されるように構成することは、周知の技術であり、また、一日間の動作に同期動作も含まれる場合に、さらに同期蓄電量も追加的に考慮して基準量を設定することは、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎないというべきである。
よって、本願発明2の構成2E、2B−1、2B−3及び2B−4とすることは、当業者にとって格別の困難性はない。

c そして、本願発明2の奏する効果は引用発明、引用文献2技術事項、技術常識1及び周知技術1から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。

d したがって、本願発明2は、引用発明、引用文献2技術事項、技術常識1及び周知技術1に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(4) 請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要
請求人は、本願発明1、2に係る進歩性欠如の拒絶理由に対して、審判請求書において概略次のような主張をしている。
本願発明1の構成1B−1及び1B−2、本願発明2の構成2B−1、2B−3及び2B−4が、いずれの引用文献にも記載されていないのに対して、本願発明1、2は、上記の構成を有するので、データ送信を行うことで時刻同期や測定ができなくなってしまうのを防止することができる(段落【0067】、【0071】)。
よって、本願発明1、2は、引用発明に対して構成上の相違を有し、且つ、当該構成上の相違により、引用発明から予測することのできない顕著な効果を奏する。

イ 請求人の主張の検討
上記主張について検討すると、本願発明1の構成1B−1及び1B−2、本願発明2の構成2B−1、2B−3及び2B−4については、相違点1及び2についての判断において説示したとおり、当業者ならば容易に想到し得たものである(前記(2)イ、(3)イを参照)。
また、効果の予測性についても、当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。
よって、上記請求人の主張を採用することはできない。

(5) 小括
以上検討のとおりであるから、本願発明1及び本願発明2は当業者が容易に発明することができたものである。

2 委任省令要件違反
(1) 「基準値」の設定について
ア 請求項1には、「前記通信部は、前記センサ部が測定した物理量の少なくとも一部を、前記電源の蓄電量が基準量以上となってから送信し、
基準量は、前記通信部が前記少なくとも一部の物理量を送信するのに必要な蓄電量と、前記計時部を同期するのに必要な蓄電量および前記センサ部が物理量を測定するのに必要な蓄電量の少なくとも1つと、に基づいて設定される」と記載されている。

イ 上記記載に関し、本願明細書の段落【0067】には次の記載がある。
「次に、制御部25は、電源28の蓄電量が基準量以上であるか否かを判定する(S105)。蓄電量についての基準量は、例えば、メモリ20内の物理量データを通信部26が送信するのに必要な蓄電量と、計時部22を同期するのに必要な蓄電量と、センサ部24が物理量データを測定するのに必要な蓄電量などの少なくとも1つに基づいて設定されてよい。一例として、この蓄電量は、センサ装置2がS100〜S105の処理と、後述のS106〜S113、S204の処理とを1日繰り返して実行する場合に必要な蓄電量であってよい。」

ウ 上記【0067】の記載は、基準量を送信蓄電量、同期蓄電量、測定蓄電量の少なくとも1つに基づいて設定することを開示しており、これらの3つの蓄電量は選択肢として同列に扱われ、そのうち「少なくとも1つ」とされているから、送信蓄電量に基づいて基準量が設定される場合の他に、例えば、同期蓄電量や測定蓄電量のみに基づいて基準量を設定する場合を想定しているといえる。

エ しかしながら、同期動作や測定動作の消費電力量は、送信動作の消費電力量よりも小さいことは明らかであり、同期蓄電量や測定蓄電量のみに基づいて基準量を設定しても、送信蓄電量に達していないことがあり得るから、基準量を同期蓄電量や測定蓄電量のみに基づいて設定することにどのような技術的意義があるのか不明である。

(2) 請求人の主張について
ア 請求人は、概略次のとおり主張している。
請求項1の該当部分の記載は、「基準量は、送信蓄電量と、同期蓄電量および測定蓄電量の少なくとも1つと、に基づいて設定される」となるところ、「と」は並立助詞であり、対等の関係にある語のそれぞれに付いて、並列、累加、選択などの意味で接続するものであり、ここでは並列の意味で使用されているから、請求項1の基準量は以下の何れかで設定されるものである。
・送信蓄電量と、同期蓄電量と、に基づいて設定。
・送信蓄電量と、測定蓄電量と、に基づいて設定。
・送信蓄電量と、同期蓄電量及び測定蓄電量と、に基づいて設定。
すなわち、基準量は少なくとも送信蓄電量に基づいて設定される(送信蓄電量を必須の考慮要素とし、それに加えて同期蓄電量及び/又は測定蓄電量を追加的に考慮して基準量を設定する)のであるから、送信を行っても時刻同期や測定に必要な蓄電量が確保される。したがって、請求項1に係る発明によれば、送信を行うことで時刻同期や送信(当審注:文脈から、この「送信」は「測定」の誤記と思われる。)ができなくなってしまうのを防止することができる。このように、蓄電量を基準量と比較することの技術的な意義は明らかであり、請求項1に係る発明は経済産業省令で定めるところにより記載されるものである。

イ 上記主張について検討すると、まず、基準量の設定について、本願明細書の段落【0067】に記載されているのは、請求人の主張するような送信蓄電量を必須の考慮要素として設定されるということではなく、「基準量は、送信蓄電量、同期蓄電量、測定蓄電量のうちの少なくとも一つに基づいて設定される」ということであって、請求人が示した上記三つの場合以外の設定の方法も含まれるから、請求人の主張は、本願明細書の記載に忠実なものではない。

ウ また、請求人が示した上記三つの場合のようにして基準量を設定することにより送信を行うことで時刻同期や測定ができなくなってしまうのを防止することができるという効果は、そもそも本願の明細書に記載されたものではないから、基準量が少なくとも送信蓄電量に基づいて設定されるという請求人の主張により、基準量の設定に係る技術的意義を認めることはできない。
(「1 進歩性欠如」「(2) 本願発明1について」「イ 判断」(ア)e〜gにおいて説示した事項も参照)

(3) 小括
以上検討のとおり、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1について、経済産業省令(特許法施行規則24条の2)で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1及び本願発明2は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-05-12 
結審通知日 2022-05-17 
審決日 2022-05-30 
出願番号 P2016-115154
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G08C)
P 1 8・ 121- Z (G08C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱野 隆
居島 一仁
発明の名称 センサ装置、センサシステムおよび測定方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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