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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1387312
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-16 
確定日 2022-08-02 
事件の表示 特願2019− 81318「固体撮像素子および撮像システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月15日出願公開、特開2019−135789、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願(特願2019−081318号)は、平成26年7月31日(以下「本願原出願日」という。)に出願された特許出願(特願2014−156790号)の一部を平成31年4月22日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 8月 9日 :手続補正書の提出
令和2年 4月17日付け:拒絶理由通知書
令和2年 6月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年11月30日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和3年 2月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 8月13日付け:補正却下の決定、拒絶査定
令和3年11月16日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出
令和4年 1月27日付け:前置報告書

第2 原査定の概要
1 補正却下の決定
令和3年8月13日付け補正却下の決定の理由は、令和3年2月3日提出の手続補正書でした特許請求の範囲についての補正は、限定的減縮を目的としたものであるが、補正後の請求項1−15に係る発明は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないというものである。
請求項1について下記引用文献7〜8、請求項2について下記引用文献7〜9、請求項1〜2、14について下記引用文献7〜9、請求項3〜5,8〜9、12〜13について下記引用文献2〜3、7〜9、請求項6〜7について引用文献2〜4、7〜9、請求項10〜11について下記引用文献1〜5、7〜9、請求項15について下記引用文献1〜9が引用された。
<引用文献等一覧>
1 特開2009−088511号公報
2 特開2010−067827号公報
3 特開2013−030820号公報
4 特開2013−258168号公報
5 特開昭63−164270号公報
6 特開2014−116472号公報
7 特開2014−067948号公報
8 特開2011−103335号公報
9 国際公開第2014/098143号

2 拒絶査定
令和3年8月13日付け拒絶査定の理由(令和2年11月30日付け拒絶理由通知(最後))の要旨は、次のとおりのものである。
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
上記1の引用文献等一覧に示される引用文献1〜9が引用され、請求項1について引用文献7〜8、請求項2について引用文献7〜9が引用された。また、請求項1〜2、14について引用文献7〜9、請求項3〜5、8〜9、12〜13について引用文献2〜3、7〜9、請求項6〜7について引用文献2〜4、7〜9、請求項10〜11、請求項15について引用文献1〜9が引用された。

第3 審判請求時の補正について
令和3年11月16日に審判請求と同時に提出された手続補正書により補正された請求項1についての補正事項は、令和2年6月26日に提出された手続補正書により補正された補正前の請求項1の第1の画素画素が有する第1の電極と第2の画素が有する第1の電極との位置関係、及び、第2の画素が有する第1の電極同士の位置関係を限定するものであり、補正前後の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり、特許請求の範囲を減縮するものといえるから、限定的減縮を目的とするものといえ、かつ、新規事項を追加するものとはいえない。
また、請求項2についての補正事項は、補正前の請求項2の第1の画素画素が有する第1の電極と第2の画素が有する第1の電極との位置関係を限定するものであるから、同様に限定的減縮を目的とするものといえ、かつ、新規事項を追加するものとはいえない。
加えて、下記第5、第6で検討して、その判断を示すとおり、これらの補正事項は独立特許要件を満たすものである。
したがって、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものではない。

第4 本願発明
本願の請求項1〜15に係る発明は、令和3年11月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、本願請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
「 【請求項1】
二次元状に配列された複数の画素を有する光電変換素子であって、
前記複数の画素のそれぞれは、
第1の電極と、前記第1の電極の上に設けられた光電変換層と、前記光電変換層を前記第1の電極とで挟むように設けられた第2の電極とを含む光電変換部と、前記光電変換部の上に配置されたマイクロレンズと、前記光電変換部の上に配置されたカラーフィルタと、を備え、
前記複数の画素は、複数の第1の画素と、複数の第2の画素を含み、
平面視において、前記複数の第2の画素が有する前記第1の電極は、前記複数の第1の画素が有する前記第1の電極よりも小さく、
前記複数の第1の画素が有する前記第1の電極と、前記複数の第2の画素が有する前記第1の電極は、同じ高さの配線層に設けられており、
前記複数の第2の画素のうち、一方の前記第2の画素が有する前記第1の電極は、平面視において、前記一方の前記第2の画素の中心に対して、第1の方向に偏在し、かつ、前記複数の第2の画素のうち、他方の前記第2の画素が有する前記第1の電極は、平面視において、前記他方の前記第2の画素の中心に対して、前記第1の方向とは逆の方向である第2の方向に偏在することにより、前記一方の前記第2の画素と前記他方の前記第2の画素は位相差検出用の画素として構成され、
前記複数の第2の画素に設けられている前記カラーフィルタは、緑色または透明フィルタであることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
二次元状に配列された複数の画素を有する光電変換素子であって、
前記複数の画素のそれぞれは、
第1の電極と、前記第1の電極の上に設けられた光電変換層と、前記光電変換層を前記第1の電極とで挟むように設けられた第2の電極とを含む光電変換部と、前記光電変換部の上に配置されたマイクロレンズと、前記光電変換部の上に配置されたカラーフィルタと、を備え、
前記複数の画素は、複数の第1の画素と、複数の第2の画素を含み、
平面視において、前記複数の第2の画素が有する前記第1の電極は、前記複数の第1の画素が有する前記第1の電極よりも小さく、
前記複数の第1の画素が有する前記第1の電極と、前記複数の第2の画素が有する前記第1の電極は、同じ高さの配線層に設けられており、
前記複数の第2の画素のうち、一方の前記第2の画素が有する前記第1の電極は、平面視において、前記一方の前記第2の画素の中心に対して、第1の方向に偏在し、かつ、前記複数の第2の画素のうち、他方の前記第2の画素が有する前記第1の電極は、平面視において、前記他方の前記第2の画素の中心に対して、前記第1の方向とは逆の方向である第2の方向に偏在することにより、前記一方の前記第2の画素と前記他方の前記第2の画素は位相差検出用の画素として構成され、
前記一方の前記第2の画素と、前記他方の前記第2の画素は、平面視において、前記第1の方向および前記第2の方向と交差する第3の方向において、隣り合って配されていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項3】
前記複数の画素のそれぞれは、増幅トランジスタと、容量と、を備え、前記容量の一方のノードは、前記増幅トランジスタの制御ノードと電気的に接続されており、前記容量の他方のノードは、所定の電圧が印加されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記複数の画素のうちの隣接する2個の画素の前記光電変換層を分離する光電変換層分離部が設けられたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記光電変換層分離部は、絶縁部材および遮光部材の少なくとも一方を含んでなることを特徴とする請求項4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記複数の第2の画素の各々の光電変換層は、前記第1の画素の光電変換層よりも小さいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第2の画素の光電変換層と、前記第2の画素に隣接する画素の光電変換層との間に、遮光部材が設けられたことを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記複数の画素間に設けられた遮光膜を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記遮光膜は、前記第2の電極と前記カラーフィルタとの間に設けられることを特徴とする請求項8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記光電変換層は、イントリンシックな水素化アモルファスシリコン、化合物半導体および有機半導体のいずれかからなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項11】
前記複数の画素の各々は、信号読み出し回路をさらに有し、
前記信号読み出し回路は、画素内アンプを備え、
前記第1の電極が前記画素内アンプの入力部に接続されたことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項12】
平面視において、前記遮光膜は、前記複数の第2の画素の前記第1の電極と重複しないことを特徴とする請求項8または9に記載の光電変換装置。
【請求項13】
平面視において、前記遮光膜は、前記第1の画素の前記第1の電極と重複しないことを特徴とする請求項8または9、あるいは、請求項12のいずれかに記載の光電変換装置。
【請求項14】
前記一方の前記第2の画素が有する前記カラーフィルタと、前記他方の前記第2の画素が有する前記カラーフィルタは、緑色フィルタであることを特徴とする請求項2に記載の光電変換装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の光電変換素子と、
前記複数の画素に像を形成する光学系と、
前記光電変換素子から出力された信号を処理して画像データを生成する映像信号処理部と、を備えたことを特徴とする撮像システム。」

第5 請求項1に係る発明について
1 主引用例(引用文献7)の記載と引用発明
(1) 引用文献7の記載
引用文献7には図面とともに次の記載がある。(下線は引用箇所を示すために当審が付加した。以下同じ。)
「【0003】
近年、有機材料を用いた、受光した光に応じて電荷を生成する有機光電変換層を備えた光電変換部を有する有機固体撮像素子が検討されている(特許文献1、2等)。
【0004】
有機固体撮像素子は、信号読出し回路が形成された半導体基板上に形成された画素電極と、画素電極上に形成された有機光電変換層と、有機光電変換層上に形成された対向電極(上部電極)と、この対向電極上に形成され、この対向電極を保護する保護膜と、カラーフィルタ等とで構成される。
【0005】
このような固体撮像素子においては、画素電極と対向電極との間にバイアス電圧を印加することで、有機光電変換層内で発生した励起子が電子と正孔に解離して、バイアス電圧に従って画素電極に移動した電子又は正孔の電荷に応じた信号が、CCD型やCMOS型の信号読出し回路で取得される。
【0006】
さて、一方、デジタルカメラ等の撮像装置において焦点検出機能を備えることが提案されており、焦点検出機能の1つとして、瞳分割位相差検出方式が知られている(例えば、特許文献3)。
特許文献3に記載の瞳分割位相差検出方式では、撮像用画素の配列の一部が焦点検出用に割り当てられており、撮像レンズの通過光束を瞳分割して一対の分割像を形成し、これらの分割像のパターンずれを検出することにより、撮像レンズのデフォーカス量を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−177632号公報
【特許文献2】特開2007−012796号公報
【特許文献3】特開2009−99817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3は、Si基板中に形成されたSiフォトダイオードを備えた撮像素子に関するものであり、有機光電変換素子を備えた撮像素子構成については検討されていない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機光電変換素子を備えた固体撮像素子であって、焦点位置検出機能を備えた固体撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の固体撮像素子は、基板上に二次元状に配列された複数の画素からなる撮像領域を有する固体撮像素子であって、
複数の画素のそれぞれは、基板上に形成された画素電極と、複数の画素に共通して設けられた有機光電変換層と、有機光電変換層上に複数の画素に共通して設けられた対向電極層とを含む有機光電変換素子およびその有機光電変換素子の光入射側に配置されたマイクロレンズを備え、
複数の画素のうち少なくとも1対の画素が、有機光電変換素子とマイクロレンズとの間に、入射光線の互いに対称な一部を遮る遮光膜を備えた位相差検出用画素であることを特徴とするものである。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0019】
本発明の固体撮像素子は、基板上に二次元状に配列された複数の画素が有機光電変換素子を備え、複数の画素の一部に、有機光電変換素子とマイクロレンズとの間に、入射光線の互いに対称な一部を遮る遮光膜を備えた一対の位相差検出用画素を備えているので、焦点位置を検出することができる。
・・・(中略)・・・
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
図1は本実施形態の固体撮像素子1の撮像領域2を模式的に示す平面図である。
本実施形態の固体撮像素子1は、図1に示すように複数の画素5が二次元状に配列されてなる撮像領域2を備えており、その撮像領域2の中央に一対の位相差検出用画素5A、5Bが配置されている。一対の位相差検出用画素5A、5Bは、撮像領域2中に複数配置されていてもよい。
【0023】
図2は、固体撮像素子1の撮像領域2の一部の概略構成を示す断面模式図である。
図2に示すように、固体撮像素子1の撮像領域2は、半導体基板10と、半導体基板10上に層間絶縁層9およびその絶縁層9中に配された配線層11を介して、二次元状に配置された複数の画素電極(下部電極)12と、複数の画素電極12上に共通して形成された有機材料からなる有機光電変換層14と、有機光電変換層14上に形成された複数の画素電極に対向する対向電極層16とを備えている。また、対向電極層16の上には透明な保護膜18が積層されており、この保護膜18上に、互いに異なる複数色(本実施形態においてはR(赤)、G(緑)、B(青)、W(白)のカラーフィルタ21を備えたカラーフィルタ層CFが設けられており、さら各カラーフィルタ上にはマイクロレンズ22が備えられている。
【0024】
1つの画素電極12と該画素電極12上の有機光電変換層14および対向電極層16により1つの光電変換素子17が構成されている。
【0025】
半導体基板10の表層には、各光電変換素子17において発生した電荷を蓄積する蓄積部および該蓄積部の信号電荷に応じた電圧を出力する出力回路を含む信号読出回路部8が備えられており、1つの画素5は、1つの光電変換素子17、その下方の基板表層部に形成された信号読出回路部8、光電変換素子17上に配置された保護膜18、各色フィルタ21およびマイクロレンズ22を含んでなる。
【0026】
そして、撮像領域2の中心に配置された1対の位相差(焦点位置)検出用画素5A、5Bは、光電変換素子17とマイクロレンズ22との間、特に本実施形態では、保護膜18とマイクロレンズ22との間に入射光線の一部を遮光する遮光膜19を備えている。遮光膜19は、一方の位相差検出用画素5Aと他方の位相差検出画素5Bとで対称配置となるようにそれぞれ設けられている。
・・・(中略)・・・
【0032】
基板10は、例えば、ガラス基板またはSi等の半導体基板が用いられる。基板10上には公知の絶縁材料からなる絶縁層9が形成されている。絶縁層9には、表面に複数の画素電極12が2次元状に配列形成されている。
【0033】
画素電極12は、光電変換素子17毎に区分された薄膜電極であり、たとえばITOやアルミニウムや窒化チタンなどのような透明または不透明な導電性材料から形成されるものである。画素電極12は、光電変換層14において発生した電荷を光電変換素子17毎に捕集するものである。各光電変換素子17の画素電極12は、絶縁層9を貫通するように形成された導電性材料からなる接続部13を介して信号読出回路部8に電気的に接続されている。
・・・(中略)・・・
【0052】
カラーフィルタ21は、保護膜18上の各画素電極12と対向する位置に形成されている。カラーフィルタ層CFは、例えば、フォトリソグラフィ法を用いて形成される。カラーフィルタ21には、有機固体撮像素子に用いられる公知のものが用いられる。本実施形態では、R、G,B,Wの4色のカラーフィルタが所定のパターンで配置されており、位相差検出用画素5A,5BはいずれもWフィルタを備えている(図1参照)。
カラーフィルタ層CFとしては、R,G,Bの3色のカラーフィルタから構成されているものを用いてもよい。その場合には、位相差検出用画素は、Gフィルタを備えたものとするのが好ましい。
【0053】
以上のように本実施形態の固体撮像素子は、有機光電変換層を備えた撮像素子において、撮像領域2内に少なくとも1組の位相差検出用画素5A、5Bを備えたものであり、この位相差検出用画素5A、5Bを備えたことにより、焦点位置を検出することができる。」
「【図1】



「【図2】



(2) 引用発明
上記(1)の段落0010、0022〜0026、0032、0052の記載、及び、図2において、位相差検出用画素5A,5Bと、それ以外の画素5の画素電極(下部電極)12が、同じ高さの配線層に設けられていることが見てとれることによると、引用文献7には次の引用発明が記載されているといえる。
「基板10上に二次元状に配列された複数の画素5,5A,5Bからなる撮像領域2を有する固体撮像素子1であって、
複数の画素5,5A,5Bのそれぞれは、基板上に形成された画素電極(下部電極)12と、複数の画素に共通して設けられた有機光電変換層14と、有機光電変換層14上に複数の画素5,5A,5Bに共通して設けられた対向電極層16とを含む有機光電変換素子17、およびその有機光電変換素子17の光入射側に配置されたマイクロレンズ22を備え、
複数の画素5,5A,5Bのうち少なくとも1対の画素が、有機光電変換素子17とマイクロレンズ22との間に、入射光線の互いに対称な一部を遮る遮光膜19を備えた位相差検出用画素5A,5Bであって(段落0010、及び段落0022〜0026)、
1つの画素5は、1つの光電変換素子17、その下方の基板表層部に形成された信号読出回路部8、光電変換素子17上に配置された保護膜18、各色フィルタ21およびマイクロレンズ22を含んでなり(段落0025)、
位相差検出用画素5A,5Bの画素電極(下部電極)12と、それ以外の画素5の画素電極(下部電極)12は、同じ高さの配線層に設けられ(図2)、
R、G,B,Wの4色のカラーフィルタが所定のパターンで配置されている実施形態では、位相差検出用画素5A,5BはいずれもWフィルタを備え、R,G,Bの3色のカラーフィルタから構成されているものを用いる場合には、位相差検出用画素5A,5Bは、Gフィルタを備えたものとするのが好ましい(段落0052)、
固体撮像素子1。」

2 副引用発明
(1) 引用文献8
ア 引用文献8の記載
引用文献8には図面とともに次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等の撮像装置において、オートフォーカス(AF)を行う方式として、コントラスト検出方式と瞳分割型位相差検出方式とが知られている。
【0003】
コントラスト方式は、記録画像用の撮像素子を活用できるが、焦点をずらして複数枚撮像する必要があるため、AFスピードが遅いという欠点がある。
【0004】
一方で、瞳分割型位相差検出方式は、記録画像用のセンサとは別途に位相差検出用のセンサを設けるため、AFスピードを高速化することができるが、装置の大型化や高コストの点で不利となる。
【0005】
特許文献1は、撮像面に配置された複数の画素のうち一部、マイクロレンズに対するフォトダイオードの位置を偏らせることで位相差センサとして機能させるものである。
【0006】
特許文献2は、半導体基板の表面に配列された複数の光電変換素子と、半導体基板の上方に赤外波長に感度を有する光電変換層と、光電変換層の上方に設けられたカラーフィルタ層とを備える撮像素子に関する。この撮像素子は、1回の撮像によってカラー画像データと赤外画像データとを得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−156823号公報
【特許文献2】特開2008−85160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、撮像面の一部の領域を位相差を検出するための領域として用いる場合には、別途、位相差センサを設ける必要がない。しかし、この場合には、記録画像の画角の一部でしかAFを行うことができない。また、この領域に相当する画素では記録画像としては適さないため、記録画像の画質が劣化することが考えられる。
特許文献2は、上方の光電変換層が赤外光に感度を有し、半導体基板に設けられた光電変換素子は、赤外光とは異なる波長の光を光電変換するものである。
従来、入射光のうち同一の波長の光を用いて、記録画像用の信号電荷と位相差AF用の信号電荷を生成するものはなかった。
【0009】
本発明は、記録画像の撮像と位相差の検出を同時に行うことができ、記録画像の全体に対してAFを行うことができ、記録画像の劣化を防止できる撮像素子及び撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、2次元状に配置された複数の画素を有し、各画素が入射光を光電変換して信号電荷を生成する撮像素子であって、
前記画素が、前記入射光を集光するマイクロレンズと、前記マイクロレンズと該マイクロレンズの焦点との間に設けられた第1の光電変換部と、前記マイクロレンズの焦点と重なる位置に設けられ、かつ、前記マイクロレンズの光軸に対して偏った方向に光電変換領域を有する第2の光電変換部と、前記信号電荷を読み出す信号読出部と、を有し、
前記複数の画素は、前記第2の光電変換部の光電変換領域が前記光軸に対して所定の方向に偏る第1画素群と、前記第2の光電変換部の光電変換領域が前記光軸に対して前記第1画素群の反対側に偏る第2画素群とを含む撮像素子である。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、記録画像の撮像と位相差の検出を同時に行うことができ、記録画像の全体に対してAFを行うことができ、記録画像の劣化を防止できる撮像素子及び撮像装置を提供できる。
・・・(中略)・・・
【0067】
図9は、撮像素子の他の例を示す断面図である。この撮像素子の構成は、図8の撮像素子の構成と基本的に同じである。
各画素は、2つの画素電極31a,31bを有している。画素電極31a,31b上には、単一の層である光電変換膜32と対向電極34とがこの順に設けられている。対向電極34の上には絶縁膜6が形成されている。なお、絶縁膜6に設けられる画素電極11や、絶縁膜6上に設けられる光電変換膜12、対向電極14、保護層16、カラーフィルタ18、マイクロレンズ24の構成は、上述した撮像素子の構成と同じである。絶縁膜6内に設けられる遮光膜7は、画素電極31a,31bそれぞれの上方に対応する位置が開口するように形成されている。
【0068】
光電変換膜32は、対向電極34と画素電極31aとの間と、対向電極34と画素電極31bとの間のそれぞれに光電変換領域(それぞれS21,S22とする。)が形成される。絶縁膜6内に設けられる遮光膜7は、これら光電変換領域を除く領域を覆うように設けられている。
【0069】
半導体基板のpウェル層2には、画素電極11とコンタクト部8によって電気的に接続された不純物拡散領域4と、信号読出部5とが設けられている。また、pウェル層2には、画素電極31aとコンタクト部38aによって電気的に接続された不純物拡散領域33aと、画素電極31bとコンタクト部38bによって電気的に接続された不純物拡散領域33bと、が形成されている。信号読出部5は、不純物拡散領域4、33a、33bに対して1つずつ設けられている。
【0070】
光電変換膜32における、画素電極31a上の光電変換領域と画素電極31b上の光電変換領域の位置関係は、図7に示すフォトダイオード3a,3bの各光電変換領域S21,22と同様である。すなわち、それぞれの光電変換領域の大きさはほぼ等しく、マイクロレンズ24の光軸Cに対称となるようにそれぞれ異なる方向に偏っている。複数の画素は、それぞれの光電変換領域が光軸Cに対称となるように、それぞれ水平方向x又は垂直方向yに偏って配置されている。
【0071】
複数の画素間で、光電変換膜32のそれぞれの光電変換領域が光軸中心に対称となるように偏る配置とすれば、より正確に位相差のAF検出を行うことができる。このような配置は、画素のサイズが大きく、各画素で一つのマイクロレンズに対して複数の光電変換領域を形成できる場合に適している。」
「【図9】


イ 引用文献8記載の発明(引用発明8)
上記アの段落0008,0010,0015,0057、0070の記載によると、引用文献8には次の発明(以下「引用発明8」という。)が記載されているといえる。
「撮像面の一部の領域を位相差を検出するための領域として用いる場合に、記録画像の画角の一部でしかAFを行うことができず、また、この領域に相当する画素では記録画像としては適さないため、記録画像の画質が劣化する(段落0008)との課題について、記録画像の全体に対してAFを行うことができ、記録画像の劣化を防止できる撮像素子及び撮像装置を提供できる(段落0015)との効果を得る発明であり、
2次元状に配置された複数の画素を有し、各画素が入射光を光電変換して信号電荷を生成する撮像素子であって、
前記画素が、前記入射光を集光するマイクロレンズと、前記マイクロレンズと該マイクロレンズの焦点との間に設けられた第1の光電変換部と、前記マイクロレンズの焦点と重なる位置に設けられ、かつ、前記マイクロレンズの光軸に対して偏った方向に光電変換領域を有する第2の光電変換部と、前記信号電荷を読み出す信号読出部と、を有し、
前記複数の画素は、前記第2の光電変換部の光電変換領域が前記光軸に対して所定の方向に偏る第1画素群と、前記第2の光電変換部の光電変換領域が前記光軸に対して前記第1画素群の反対側に偏る第2画素群とを含む撮像素子(段落0010)であって、
各画素は、2つの画素電極31a,31bを有し(段落0057)、
光電変換膜32における、画素電極31a上の光電変換領域と画素電極31b上の光電変換領域の位置関係は、それぞれの光電変換領域の大きさはほぼ等しく、マイクロレンズ24の光軸Cに対称となるようにそれぞれ異なる方向に偏っている(段落0070)
撮像素子。」

(2) 引用文献10
ア 引用文献10の記載
令和4年1月27日付け前置報告書で引用文献10として引用された特開2013−145292号公報には図面とともに次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像装置および電子カメラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子カメラで高速AF(オートフォーカス)を実現する技術として位相差AF方式が知られている。位相差AF方式は専用の焦点検出用画素を必要とし、例えば1つの撮像素子の撮像用画素の一部に焦点検出用画素を配置する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、画像用撮像素子とは別に配置された専用の焦点検出用撮像素子を用いる技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。一方、2つの光電変換素子を積層配置する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−282109号公報
【特許文献2】特開2007−011070号公報
【特許文献3】特開2009−130239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、撮像素子の画像用画素の一部に焦点検出用画素を配置する場合、縦スジや横スジの偽信号が発生しやすくなり、高度な画素補間処理が必要になるという問題があった。また、専用の焦点検出用撮像素子を用いる場合、入射光を画像用撮像素子と焦点検出用撮像素子とに分割するための複雑な光学系が必要になるという問題があった。さらに、積層配置する技術では画像撮影に特化したもので、焦点検出や効率的な色配列などについては考えられていなかった。
【0005】
本発明の目的は、高度な画素補間処理や複雑な光学系を用いることなく、位相差AF方式を実現できる固体撮像装置および電子カメラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る固体撮像装置は、特定光を透過する有機光電膜で構成される第1撮像素子と、前記第1撮像素子と同一の半導体基板上に積層配置され、前記第1撮像素子を透過した特定光を受光する第2撮像素子とを有し、前記第1撮像素子または前記第2撮像素子に焦点検出用画素を設けたことを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る固体撮像装置および電子カメラは、高度な画素補間処理や複雑な光学系を用いることなく、位相差AF方式を実現できる。
・・・(中略)・・・
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る固体撮像装置および電子カメラの実施形態について図面を用いて詳しく説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る固体撮像素子101の概要を示す図である。図1において、固体撮像素子101は、通常の固体撮像素子と同様にフォトダイオードにより光電変換を行う第一撮像素子102と、第一撮像素子102の入射光側の同一光路上に配置された第二撮像素子103とを有する。第二撮像素子103は、特定光を透過し、非透過光を光電変換する有機光電膜により構成され、第二撮像素子103を透過した特定光は第一撮像素子102で受光される。ここで、第一撮像素子102と第二撮像素子103は同一の半導体基板上に形成され、各画素位置は一対一に対応する。例えば第一撮像素子102の1行1列目の画素は、第二撮像素子103の1行1列目の画素に対応する。
【0017】
図2(a)は、第二撮像素子103の画素配列の一例を示す図である。図2(a)において、水平方向をx軸、垂直方向をy軸とし、画素Pの座標をP(x,y)と表記する。図2(a)の第二撮像素子103の例では、奇数行の各画素にMg(マジェンタ)とYe(イエロー)の光を光電変換する有機光電膜を交互に配置し、偶数行の各画素にCy(シアン)とMg(マジェンタ)の光を光電変換する有機光電膜を交互に配置している。そして、各画素で受光されない光は透過される。例えば画素P(1,1)はMgの光を光電変換してMgの補色(G:グリーン)の光を透過する。同様に、画素P(2,1)はYeの光を光電変換してYeの補色(B:ブルー)の光を透過し、画素P(1,2)はCyの光を光電変換してCyの補色(R:レッド)の光を透過する。尚、後で詳しく説明するが、第二撮像素子103の各画素は、位相差AF方式に対応するペアとなる焦点検出用画素で構成される。
・・・(中略)・・・
【0021】
また、本実施形態に係る固体撮像素子101では、第一撮像素子102に画像用画素を配置し、第二撮像素子103に焦点検出用画素を全面に均等に配置しているので、画像用画素の一部に焦点検出用画素を配置する従来技術のように複雑な画素補間処理を行う必要がなく、第二撮像素子103からは焦点検出用信号、第一撮像素子102からはカラー画像信号をそれぞれ独立して得ることができる。
・・・(中略)・・・
【0030】
図7(a)は、固体撮像素子101の半導体レイアウトの一例である。尚、図7(a)は、先に説明した図2および図4の各画素P(1,1)から画素P(2,2)に対応する。
【0031】
図7(b)は、図7(a)の画素P(1,1)および画素(2,1)を水平方向に切断線A−Bで切断したときの断面図である。また、図8(a)は、切断線A−Bの画素位置がわかり易いように描いた図で、図4の受光部PC_A(1,1)および受光部P_A(2,1)の部分を切断する。図8(b)は、図7(b)を拡大した図で、第一撮像素子102および第二撮像素子103の同じ位置の画素P(1,1)は、同一のマイクロレンズML(1,1)から入射する被写体光を受光する。ここで、図8(b)において、配線層301は3層構造になっているが2層構造であってもよい。そして、第二撮像素子103の出力信号は、配線層301を介して信号出力端302から取り出される。尚、信号出力端302の両側は分離層303,304が配置されている。また、分離層303,304を隔ててフォトダイオードPD(1,1)およびPD(2,1)が配置されている。
【0032】
図7(c)は、図7(a)の画素P(2,1)および画素(2,2)を垂直方向に切断線C−Dで切断したときの断面図である。また、図9(a)は、切断線C−Dの画素位置がわかり易いように描いた図で、図4の受光部PC_A(2,1),PC_B(2,1),PC_A(2,2)およびPC_B(2,2)の部分を切断する。図9(b)は、図7(c)を拡大した図で、第一撮像素子102および第二撮像素子103の同じ位置の画素P(2,1)および画素P(2,2)は、同一のマイクロレンズML(2,1)およびML(2,2)から入射する被写体光をそれぞれ受光する。ここで、図8(b)と異なる部分は、第二撮像素子103の画素P(2,1)は、受光部PC_A(2,1)と受光部PC_B(2,1)とに分割され、画素P(2,2)は、受光部PC_A(2,2)と受光部PC_B(2,2)とに分割されていることである。そして、受光部PC_A(2,1)と受光部PC_B(2,1)はペアとなる光学系の瞳位置の像をそれぞれ受光し、位相差AF方式による焦点検出を行うことができる。同様に、受光部PC_A(2,2)と受光部PC_B(2,2)はペアとなる光学系の瞳位置の像をそれぞれ受光する。尚、位相差AF方式については周知の技術なので詳細な説明は省略する。
【0033】
ここで、図9(b)において、図8(b)の配線層301は、配線層301Aと配線層301Bとを有し、配線層301Aは有機光電膜の受光部PC_A(2,1)の信号を信号出力端305Aに出力し、配線層301Bは有機光電膜の受光部PC_B(2,1)の信号を信号出力端305Bに出力する。図8(b)の配線層301では、配線層301Aと配線層301Bとが重なっているため1つしか見えていない。同様に、画素P(2,2)の有機光電膜の受光部PC_A(2,2)の信号は信号出力端306Aに出力され、受光部PC_B(2,2)の信号は信号出力端306Bに出力される。そして、読み出し回路307には、出力トランジスタ、選択トランジスタ、リセットトランジスタなどの読み出し回路が配置され、固体撮像素子101から外部に各画素の信号が出力される。
・・・(中略)・・・
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る固体撮像素子101は、従来のフォトダイオードによる光電変換を行う第一撮像素子102と、有機光電膜による光電変換を行う第二撮像素子103とを有し、第一撮像素子102から画像用信号を取得し、第二撮像素子103から位相差AF方式に対応する焦点検出用信号を取得することができる。
【0037】
これにより、固体撮像素子101は、従来のように画像用画素の一部に焦点検出用画素を配置する必要がなく、縦スジや横スジの偽信号による画質の劣化や高度な画素補間処理が不要になる。また、画像用の第一撮像素子102と焦点検出用の第二撮像素子103とを同じマイクロレンズの入射光を用いるように積層して配置するので、従来のように入射光を画像用撮像素子と焦点検出用撮像素子とに分割するための複雑な光学系が不要になる。特に、本実施形態に係る固体撮像素子101は、第一撮像素子102と第二撮像素子103の2つの撮像素子を用いながら、プリズムやミラーなどの光学装置を必要としないため、カメラを構成する場合の光学系の配置や設計が容易である。また、プリズムやミラー等を用いる2板式撮像装置では、2枚の撮像素子までの光路長の調整などが必須であったが、本実施形態に係る固体撮像素子101では光路が1つであるため、調整が不要である。
【0038】
さらに、第二撮像素子103と第一撮像素子102とは互いに補色関係にある色成分を検出し、第二撮像素子103の有機光電膜を第一撮像素子102のカラーフィルタとして兼用することができ、入射光を無駄にすることなく効率良く活用することができる。
【0039】
このように、本実施形態に係る固体撮像素子101は、高度な画素補間処理や複雑な光学系を用いることなく、高速動作が可能な位相差AF方式を実現できる。
【0040】
尚、上記の例では、図11(a)に示すように、位相差AF方式に対応するペアとなる受光部PC_A(x,y)およびPC_B(x,y)を第二撮像素子103の各画素P(x,y)に配置するようにしたが、別の方法として図11(b)に示すように、受光部PC_A(x,y)または受光部PC_B(x,y)を片側だけを1つの画素P(x,y)に配置するようにしてもよい。或いは、図11(c)に示すように、瞳分割方向が縦方向、横方向、斜め方向など様々な方向の焦点検出用画素が混在するようにしてもよい。いずれの場合であっても、本実施形態に係る固体撮像素子101は、画像用信号を第一撮像素子102で撮像し、焦点検出用信号を第二撮像素子103で取得するので、撮影画像の画質に影響することなく、撮影画面内のどの位置でも高速な位相差AFによるフォーカス検出を行うことができる。」
「【図9】


「【図11】


イ 引用文献10記載の発明
上記アの段落0006、0013、0037、0039、0040の記載、及び、段落0032、0033を踏まえた図9において、第二撮像素子103の有機光電膜に、配線層301A及び配線層301Bにそれぞれ接続される2つ電極を設けることにより、一つの画素P(2,1)を、ペアとなる光学系の瞳位置の像をそれぞれ受光し、位相差AF方式による焦点検出を行う受光部PC_A(2,1)と受光部PC_B(2,1)とに分割する事項が見てとれることによると引用文献10には次の発明(以下「引用発明10」という。)が記載されているといえる。
「撮像素子の画像用画素の一部に焦点検出用画素を配置する場合、縦スジや横スジの偽信号が発生しやすくなり、高度な画素補間処理が必要になり、また、専用の焦点検出用撮像素子を用いる場合、入射光を画像用撮像素子と焦点検出用撮像素子とに分割するための複雑な光学系が必要になるという課題(段落0004)に対して、従来のように画像用画素の一部に焦点検出用画素を配置する必要がなく、縦スジや横スジの偽信号による画質の劣化や高度な画素補間処理を不要とし、高度な画素補間処理や複雑な光学系を用いることなく、高速動作が可能な位相差AF方式を実現できる(段落0037,0039)発明であり、
特定光を透過する有機光電膜で構成される第1撮像素子と、前記第1撮像素子と同一の半導体基板上に積層配置され、前記第1撮像素子を透過した特定光を受光する第2撮像素子とを有し、前記第1撮像素子または前記第2撮像素子に焦点検出用画素を設けた固体撮像装置(段落0006)であって、
第二撮像素子103の有機光電膜に、配線層301A及び配線層301Bにそれぞれ接続される2つ電極を設けることにより、一つの画素P(2,1)を、ペアとなる光学系の瞳位置の像をそれぞれ受光し、位相差AF方式による焦点検出を行う受光部PC_A(2,1)と受光部PC_B(2,1)とに分割し、
図11(b)に示すように、受光部PC_A(x,y)または受光部PC_B(x,y)を片側だけを1つの画素P(x,y)に配置する固体撮像装置(段落0040)。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 「基板10上に二次元状に配列された複数の画素5,5A,5Bからなる撮像領域2を有する固体撮像素子1」の発明である引用発明は、「二次元状に配列された複数の画素を有する光電変換素子」に係る発明といえる点で本願発明と共通する。
(2) 引用発明の有機光電変換素子17が含む「基板上に形成された画素電極(下部電極)12」「複数の画素に共通して設けられた有機光電変換層14」「有機光電変換層上に複数の画素5,5A,5Bに共通して設けられた対向電極層16」は、本願発明の光電変換部が含む「第1の電極」「前記第1の電極の上に設けられた光電変換層」「前記光電変換層を前記第1の電極とで挟むように設けられた第2の電極」にそれぞれ相当する。
そうすると、「複数の画素5,5A,5Bのそれぞれは、基板上に形成された画素電極(下部電極)12と、複数の画素に共通して設けられた有機光電変換層14と、有機光電変換層14上に複数の画素5,5A,5Bに共通して設けられた対向電極層16とを含む有機光電変換素子17・・・を備え」る引用発明は、「前記複数の画素のそれぞれは、第1の電極と、前記第1の電極の上に設けられた光電変換層と、前記光電変換層を前記第1の電極とで挟むように設けられた第2の電極とを含む光電変換部」を備えるといえる点で本願発明と一致する。
(3) 「複数の画素5,5A,5Bのそれぞれは、・・・有機光電変換素子17の光入射側に配置されたマイクロレンズ22を備え」る引用発明は、「前記複数の画素のそれぞれは、 ・・・前記光電変換部の上に配置されたマイクロレンズ」を備えるといえる点で本願発明と一致する。
(4) 「1つの画素5は、1つの光電変換素子17、・・・光電変換素子17上に配置された・・・各色フィルタ21・・・を含んでな」り、また、「R、G,B,Wの4色のカラーフィルタが所定のパターンで配置されている実施形態では、位相差検出用画素5A,5BはいずれもWフィルタを備え、R,G,Bの3色のカラーフィルタから構成されているものを用いる場合には、位相差検出用画素5A,5Bは、Gフィルタを備えたものとするのが好ましい」引用発明は、「前記複数の画素のそれぞれは、・・・前記光電変換部の上に配置されたカラーフィルタ」を備えるといえる点で本願発明と一致する。
(5) 「複数の画素5,5A,5Bのうち少なくとも1対の画素が、・・・位相差検出用画素5A、5Bであ」る引用発明は、「前記複数の画素は、複数の第1の画素と、複数の第2の画素を含み」といえ、かつ「前記第2の画素は位相差検出用の画素として構成され」るといえる点で本願発明と一致する。
(6) 「位相差検出用画素5A,5Bの画素電極(下部電極)12と、それ以外の画素5の画素電極(下部電極)12は、同じ高さの配線層に設けられ」る引用発明は、「前記複数の第1の画素が有する前記第1の電極と、前記複数の第2の画素が有する前記第1の電極は、同じ高さの配線層に設けられており、」といえる点で本願発明と一致する。
(7) 撮像素子におけるWのカラーフィルタが透明フィルタといえることを踏まえると、「R、G,B,Wの4色のカラーフィルタが所定のパターンで配置されている実施形態では、位相差検出用画素5A,5BはいずれもWフィルタを備え、R,G,Bの3色のカラーフィルタから構成されているものを用いる場合には、位相差検出用画素5A,5Bは、Gフィルタを備えたものとするのが好ましい」引用発明は、「前記複数の第2の画素に設けられている前記カラーフィルタは、緑色または透明フィルタである」といえる点で本願発明と一致する。

4 一致点及び相違点
上記3を踏まえると、本願発明と引用発明とは次の点で一致し、相違する。
(1) 一致点
「二次元状に配列された複数の画素を有する光電変換素子であって、
前記複数の画素のそれぞれは、
第1の電極と、前記第1の電極の上に設けられた光電変換層と、前記光電変換層を前記第1の電極とで挟むように設けられた第2の電極とを含む光電変換部と、前記光電変換部の上に配置されたマイクロレンズと、前記光電変換部の上に配置されたカラーフィルタと、を備え、
前記複数の画素は、複数の第1の画素と、複数の第2の画素を含み、
前記複数の第1の画素が有する前記第1の電極と、前記複数の第2の画素が有する前記第1の電極は、同じ高さの配線層に設けられており、
前記第2の画素は位相差検出用の画素として構成され、
前記複数の第2の画素に設けられている前記カラーフィルタは、緑色または透明フィルタである光電変換素子。」
(2) 相違点
本願発明が、「平面視において、前記複数の第2の画素が有する前記第1の電極は、前記複数の第1の画素が有する前記第1の電極よりも小さく、」かつ「前記複数の第2の画素のうち、一方の前記第2の画素が有する前記第1の電極は、平面視において、前記一方の前記第2の画素の中心に対して、第1の方向に偏在し、かつ、前記複数の第2の画素のうち、他方の前記第2の画素が有する前記第1の電極は、平面視において、前記他方の前記第2の画素の中心に対して、前記第1の方向とは逆の方向である第2の方向に偏在することにより、前記一方の前記第2の画素と前記他方の前記第2の画素は位相差検出用の画素として構成され」る点を特定しているのに対して、引用発明では、位相差検出用画素5A,5Bの画素電極(下部電極)12と、それ以外の画素5の画素電極(下部電極)12の平面視における大小関係が特定されておらず、かつ、平面視において、位相差検出用画素5A,5Bの画素電極(下部電極)12が互いに逆の方向に偏在することが特定されていない点。

5 相違点の容易想到性の検討
(1) 引用発明8を副引用発明とした場合
引用発明8は、引用発明と同じ「撮像面の一部の領域を位相差を検出するための領域として用い」た瞳分割型位相差検出方式によりオートフォーカス(AF)を行う場合の課題を解決する発明であるから、技術分野や作用機能が共通する引用発明に引用発明8を適用する動機付けはあるといえる。
ア しかしながら、引用発明8は、撮像面の一部の領域を位相差を検出するための領域として用いる場合の課題について、記録画像の全体に対してAFを行うことにより解決するものであるから、引用発明に引用発明8を適用した場合、一致点であった、二次元状に配列された複数の画素が、複数の第1の画素と、複数の第2の画素を含み、前記第2の画素は位相差検出用の画素として構成される点が新たな相違点となる。
そして、この新たな相違点が容易想到といえる根拠はない。
イ また、本願原出願日において、当業者は、引用発明の遮光膜19を含めた位相差検出用画素5A、5Bの構成自体に起因する課題を認識していたとはいえないから、引用発明8の「各画素は、2つの画素電極31a,31bを有し、光電変換膜32における、画素電極31a上の光電変換領域と画素電極31b上の光電変換領域の位置関係は、それぞれの光電変換領域の大きさはほぼ等しく、マイクロレンズ24の光軸Cに対称となるようにそれぞれ異なる方向に偏っている」という第2の光電変換部の各画素の構成のみを抽出して引用発明の位相差検出用画素5A、5Bの画素電極(下部電極)12の構成として採用する動機付けがあったとはいえない。
ウ 以上のとおり、本願発明は、引用文献7及び引用文献8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
加えて、原査定の理由として引用した他の引用文献に記載された事項に基づいても相違点に係る構成は容易想到とはいえない。

(2) 引用発明10を副引用発明とした場合
令和4年1月27日付け前置報告書で引用された引用文献10を副引用例とした場合を検討する。
上記(1)と同様に、引用発明10は、引用発明と同じ「撮像素子の画像用画素の一部に焦点検出用画素を配置」した位相差AF方式の課題を解決する発明であるから、技術分野や作用機能が共通する引用発明に引用発明10を適用する動機付けはあるといえる。
ア しかしながら、引用発明10は、撮像素子の画像用画素の一部に焦点検出用画素を配置する場合の課題を、「画像用画素の一部に焦点検出用画素を配置する必要」なく解決する発明であり、「特定光を透過する有機光電膜で構成される第1撮像素子と、前記第1撮像素子と同一の半導体基板上に積層配置され、前記第1撮像素子を透過した特定光を受光する第2撮像素子とを有し、前記第1撮像素子または前記第2撮像素子に焦点検出用画素を設けた固体撮像装置」において、第1撮像素子と第2撮像素子とは同じ二次元平面上に配置されないから、引用発明に引用発明10を適用した場合、上記(1)アと同様に、一致点であった、二次元状に配列された複数の画素が、複数の第1の画素と、複数の第2の画素を含み、前記第2の画素は位相差検出用の画素として構成される点が新たな相違点となる。
そして、当該新たな相違点が容易想到といえる根拠はない。
イ また、上記(1)イと同様に、本願原出願日において、当業者は、引用発明の遮光膜19を含めた位相差検出用画素5A、5Bの構成自体に起因する課題を認識していたとはいえないから、引用発明10の「第二撮像素子103の有機光電膜に、配線層301A及び配線層301Bにそれぞれ接続される2つ電極を設けることにより、一つの画素P(2,1)を、ペアとなる光学系の瞳位置の像をそれぞれ受光し、位相差AF方式による焦点検出を行う受光部PC_A(2,1)と受光部PC_B(2,1)とに分割する」焦点検出用画素の構成のみを抽出し、引用発明の位相差検出用画素5A、5Bの画素電極(下部電極)12の構成として採用する動機付けがあったとはいえない。
ウ 以上のとおり、本願発明は、引用文献7及び引用文献10に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
加えて、他に相違点に係る構成が容易想到といえる根拠もない。

(3) 小括
上記(1)のとおり、本願発明は、原査定の理由で引用された引用文献1〜9に記載された発明に基づいて容易想到とはいえないから、請求項1に係る発明についての原査定の理由を維持することはできない。
また、上記(2)のとおり、本願発明は、引用文献7及び引用文献10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 請求項2に係る発明、及び従属項(請求項3〜15)に係る発明について
1 請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、本願発明と引用発明との相違点に対応する構成をすべて含む。
そして、上記第5の5(1)のとおり、相違点は、原査定の理由で引用された引用文献1〜9に記載された発明に基づいて容易想到とはいえないから、請求項2に係る発明についての原査定の理由を維持することはできない。
また、請求項2に係る発明は、引用文献7及び引用文献10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 従属項(請求項3〜15)に係る発明について
請求項1又は請求項2を引用する請求項3〜15に係る発明も、本願発明と引用発明との相違点に対応する構成をすべて含む。
そして、上記第5の5(1)のとおり、相違点は、原査定の理由で引用された引用文献1〜9に記載された発明に基づいて容易想到とはいえないから、請求項3〜15に係る発明についての原査定の理由を維持することはできない。
また、請求項3〜15に係る発明は、引用文献7及び引用文献10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-07-20 
出願番号 P2019-081318
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 松永 稔
小田 浩
発明の名称 固体撮像素子および撮像システム  
代理人 黒岩 創吾  
代理人 阿部 琢磨  

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