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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1387341
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-26 
確定日 2022-07-07 
事件の表示 特願2020−141925「遠隔保守支援方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 3月 9日出願公開、特開2022− 37675〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和2年8月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 2月 9日付け:拒絶理由通知書
令和3年 4月16日 :期間延長請求書の提出
令和3年 8月24日付け:拒絶査定
令和3年11月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年 2月 3日付け:拒絶理由通知書(当審)
令和4年 4月11日 :意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、令和3年11月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「 保守支援者が操作する保守支援者側端末と、前記保守支援者側端末に対して遠隔に配置され、保守作業者が操作する保守作業者側端末と、前記保守支援者側端末及び前記保守作業者側端末に電気通信回線を通じて電気的に接続されたサーバと、を用いて、前記保守作業者が行う保守対象の保守作業を支援する遠隔保守支援方法であって、
前記保守支援者又は前記保守作業者が、前記保守対象となり得る複数の保守対象候補を前記サーバに予め記憶させる第1ステップと、
前記保守支援者又は前記サーバが、前記第1ステップで記憶された前記複数の保守対象候補のうち、前記保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定する第2ステップと、
前記保守支援者が、前記サーバを介した前記保守作業者側端末と前記保守支援者側端末との双方向のデータ通信を行うか否かを判断する第3ステップと、
前記第3ステップで前記双方向のデータ通信を行うと判断した場合に、前記保守作業者側端末が取得した、前記第2ステップで特定した前記保守対象を含む撮像画像を構成する画素領域のうち、前記保守対象以外の画素領域であるマスク画素領域を不可視にした加工画像を前記保守作業者側端末が生成する第4ステップと、
前記第4ステップで生成された前記加工画像を前記保守作業者側端末から前記保守支援者側端末に送信し、前記送信された前記加工画像を前記保守支援者が目視して、前記保守作業者側端末と前記保守支援者側端末との双方向のデータ通信によって、前記保守支援者が、前記保守作業者が行う前記保守対象の保守作業を支援する第5ステップと、を含む、
ことを特徴とする遠隔保守支援方法。」

第3 当審において通知した拒絶理由
当審が通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。
この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2018−036812号公報
引用文献2:特開2017−211766号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2019−012971号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1、引用発明
(1)当審が通知した拒絶理由において引用した引用文献1には、以下のとおりの記載がある。下線は、注目箇所に当審が付した。
「【0003】
しかし、新規の障害への対応や通常時に想定していなかった臨時の作業等の運用作業については、現地作業者だけでは対応できない場合がある。その場合、現地作業者から、遠隔地にいる専門技術者等の作業者(以下、「遠隔作業者」と記載する場合がある)に連絡して状況等を説明する。そして、遠隔作業者から現地作業者へ連絡で作業指示等を与え、現地作業者は、その作業指示等を受けて対応作業を行う。また、その際、文章や口頭による遠隔の作業指示では伝達や対応が困難である場合には、遠隔作業者が現地のITシステムの所へ駆けつけて対応作業を行う。」

「【0005】
映像マスキング技術に関する先行技術例としては、特許第5269033号公報(特許文献2)が挙げられる。特許文献2には、映像のプライバシーマスキング方法等として以下の旨が記載されている。その方法は、映像からプライバシー領域を検出する段階と、映像にマスキングを遂行する段階と、マスキングされた映像からマスキングされたプライバシー領域を検出する段階と、映像にアンマスキングを遂行する段階と、を含む。」

「【0011】
本発明の目的は、ITシステムの運用作業の支援技術に関して、セキュリティを確保しつつ、効率的な遠隔連携作業を実現できる技術を提供することである。」

「【0018】
[遠隔作業支援システム]
図1は、実施の形態のIT運用作業遠隔支援システムの構成を示す。実施の形態のIT運用作業遠隔支援システムは、現地のITシステム1及び現地作業者であるユーザU1の携帯端末10と、遠隔地2のシステムの遠隔作業者であるユーザU2の携帯端末20と、支援システム3のサーバ30とを有する。それらは通信網4を介して接続されている。
【0019】
現地のITシステム1は、運用対象機器である複数の機器11を有する。機器11は、サーバ、ストレージ、通信機器、それらに接続される保守端末、等がある。機器11には、予め、ID媒体12が貼り付けられている。ID媒体12は、制御用の特有のID(識別情報)が記載された媒体である。
【0020】
現地作業者であるユーザU1は、ITシステム1の機器11を対象に運用作業を行う。ユーザU1は、作業用の携帯端末10を所持している。携帯端末10は、例えばスマートフォン、タブレット端末、ノートPC等の各種の電子機器が適用可能である。携帯端末10は、撮影部10A、映像送受信部10Bを有する。
【0021】
撮影部10Aは、例えば携帯端末10に内蔵されているカメラであり、レンズ、撮像素子、駆動回路等を含む。ユーザU1は、運用作業の際、携帯端末10のカメラを用いて、操作に基づいて、対象の機器11等を撮影する。その際、撮影部10Aは、レンズを介した入射光を撮像素子で撮像信号に変換し、撮影映像を得る。撮影映像は、動画または静止画として得られる。撮影部10Aは、撮影映像データをメモリ等に格納する。撮影部10Aは、携帯端末10に内蔵されているカメラに限らず、携帯端末10に外部接続されるカメラとしてもよい。撮影部10Aは、ユーザの頭部等に装着されるウェアラブルカメラや、ユーザの両眼に装着されるスマートグラスに備えているカメラ等を用いてもよい。スマートグラスを用いる場合、スマートグラスに備えている表示画面に、撮影映像やマスキング映像を表示するようにしてもよい。
【0022】
映像送受信部10B及び映像送受信部20Bは、映像共有システムを構成する要素である。携帯端末10の映像送受信部10Bは、遠隔地2のユーザU2の携帯端末20の映像送受信部20Bとの間で、撮影映像データを含む映像、音声、及び文字等のデータを、送信及び受信する機能を有する。同様に、携帯端末20の映像送受信部20Bは、携帯端末10の映像送受信部10Bとの間で、映像、音声、及び文字等のデータを、送信及び受信する機能を有する。即ち、この映像共有システムでは、双方向で、映像等のデータを授受可能である。
【0023】
遠隔地2の遠隔作業者であるユーザU2は、現地作業者のユーザU1と遠隔で連携して運用作業を行う。即ち、ユーザU1とユーザU2は遠隔連携作業を行う。ユーザU2は、ユーザU1の運用作業を遠隔から支援する。また、ユーザU2は、遠隔から直接的に運用作業を行うことができる。ユーザU2は、作業用の携帯端末20を所持している。携帯端末20は、同様にスマートフォン等の各種の電子機器が適用可能である。携帯端末20は、映像送受信部20Bを有する。
【0024】
支援システム3は、IT運用作業遠隔支援システムの主な機能を実現する、事業者のシステムであり、サーバ30を含む。サーバ30は、ソフトウェアプログラム処理により実現される処理部として、設定部31、認証部32、映像マスキング部33を有する。サーバ30は、データや情報として、設定情報51やマスキング映像データ52等を、図示しないDBやメモリに記憶する。サーバ30は、管理者により保守管理される。
【0025】
設定部31は、管理者の操作に基づいて、設定情報51を設定する処理を行う。設定情報51には、後述するが、IDと機器11との関連付け情報や、各作業者のユーザID等のユーザ情報や、IDで示す機器11に対するユーザの参照権限等の情報が設定されている。事業者や顧客組織のセキュリティポリシー等に応じて、予め、設定情報51が設定される。
【0026】
認証部32は、設定情報51のユーザID等に基づいて、各作業者であるユーザについてのユーザ認証処理を行う。ユーザ認証は、遠隔連携作業を行う正当な作業者であることの確認及び把握のために行われる。
【0027】
映像マスキング部33は、設定情報51に基づいて、携帯端末10の撮影映像からIDを検出する処理や、IDで示す機器11に対するユーザの参照権限等を確認、判断する処理を行う。そして、映像マスキング部33は、撮影映像データに対するマスキング処理を行ってマスキング映像データ52を生成し、携帯端末10へ送信する。」

「【0030】
また、サーバ30の機能の一部または全部は、ユーザU1の携帯端末10に、アプリケーションソフトウェア等によって、併合されて実装されていてもよい。例えば、撮影映像からIDを検出する機能が、ユーザU1の携帯端末10に実装されていてもよい。例えば、マスキング処理を行う機能が、ユーザU1の携帯端末10に実装されていてもよい。」

「【0036】
[概要]
本システムである実施の形態のIT運用作業遠隔支援システムの機能や動作の概要は以下である。本システムは、映像共有及び映像マスキングを用いて、ITシステム1の運用作業に関するユーザU1及びユーザU2の遠隔連携作業を含む作業を支援するシステムである。遠隔連携作業は、現地のITシステム1の所にいる現地作業者であるユーザU1と遠隔地2にいる遠隔作業者であるユーザU2との両者間で遠隔で連携して運用作業を行うこと等を指す。遠隔連携作業は、遠隔作業者が現地作業者を遠隔で支援すること、遠隔作業者が直接的に遠隔で運用作業を行うこと等を含む。」

「【0053】
[処理シーケンス]
図3は、図1の本システムにおいてユーザ間で映像共有を伴う遠隔連携作業を行う場合における装置間の処理シーケンスを示す。図3のシーケンスはステップS101〜S118を有する。左側は現地のITシステム1のユーザU1の携帯端末10のステップ、中央は遠隔地2のユーザU2の携帯端末20のステップ、右側は支援システム3のサーバ30のステップを示す。以下、ステップの順に説明する。
【0054】
(1)現地のITシステム1において、現地作業者であるユーザU1は、運用作業の際、遠隔作業者であるユーザU2との映像共有による遠隔連携作業が必要となった場合、以下の手順を行う。例えば、ユーザU1が障害状態の機器11B(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等を要求する場合とする。ユーザU1は、ユーザU2に、映像共有による遠隔連携作業を行う旨を、任意の手段で連絡する(S101)。この連絡の手段は、電話やメールでもよいし、本システムの一部の機能として連絡機能を設け、それを利用してもよい。連絡により、ユーザU1はユーザU2が対応可能であることを確認する。
【0055】
本システムでは、機器11の参照が許可されるユーザ範囲を特定するために、映像共有しようとする二人のユーザであるユーザU1及びユーザU2に関するユーザ認証を行う。実施の形態では、ユーザ認証は、ユーザID及びパスワードを用いた基本認証を用いる。
【0056】
ユーザU1は、自分の携帯端末10から、支援システム3のサーバ30に接続してサービスにログインする(S102)。サーバ30では、ログインするユーザU1に関するユーザ認証が行われる(S103)。同様に、ユーザU2は、ユーザU1からの連絡に基づいて、対応を行う場合、自分の携帯端末20からサーバ30のサービスにログインする(S104)。サーバ30では、ログインするユーザU2に関するユーザ認証が行われる(S105)。サーバ30は、S103及びS105のユーザ認証を成功したユーザU1及びユーザU2を、遠隔連携作業を行う二人のユーザとして把握する。
【0057】
なお、変形例として、上記ユーザU1及びユーザU2のログイン及びユーザ認証は、併用する映像共有システムへのログイン及びユーザ認証としてもよい。即ち、サーバ30は、映像共有システムでのユーザ認証の結果を用いて、同様に制御を行えばよい。ユーザ認証は、基本認証に限らず、他の認証方式を適用してもよい。また、ユーザ認証を行うことにより高いセキュリティが確保されるが、ユーザ認証を省略して機器11のIDを用いた認証及びマスキング制御を行うのみとしても、相応の効果が得られる。特に、本システムとは別に、現地及び遠隔地の作業者に関する既存の認証手段が存在し、その認証手段を用いて正当な作業者の認証がされる場合には、本システムのユーザ認証を省略可能である。その認証手段としては、例えばデータセンタ等の建物のエリアに人が入退する際に認証を行う入退管理システムが挙げられる。あるいは、作業者が用いる携帯端末の認証が挙げられる。
【0058】
(2)ユーザU1は、携帯端末10のカメラを用いて、作業対象の機器11のID媒体12を含む範囲を対象に撮影する(S106)。撮影対象は、例えば、ユーザU1がユーザU2に見せたい機器11の筐体の正面の状態等である。その際、携帯端末10の撮影部10Aは、撮影映像データである動画を得ると共に、表示画面に、撮影中のモニタ映像を表示する。携帯端末10は、その撮影映像データを、サーバ30へ送信する。
【0059】
撮影映像データの動画は、時系列の複数の撮影映像フレームから成る。なお、撮影映像データは、動画に限らず、静止画も可能である。静止画を用いる場合、ユーザU1が任意のタイミング及び操作で静止画を撮像し、その静止画がサーバ30へ送信される。また、動画を用いる場合、時系列の複数のフレームのうち、一定時間間隔毎のフレームのみを用いてもよい。
【0060】
サーバ30は、携帯端末10からの撮影映像データ等を受信する。サーバ30の映像マスキング部33は、受信した撮影映像データ等、及び設定情報51に基づいて、ID検出処理、及びマスキングに関する判断処理を行う(S107)。
【0061】
まず、サーバ30の映像マスキング部33は、撮影映像フレームから、画像処理に基づいて、IDを検出する。サーバ30は、検出したIDが、設定情報51に設定されているIDに該当するかを確認し、IDに関連付けられた機器11を把握する。
【0062】
なお、変形例として、S106で、サーバ30ではなく携帯端末10が、撮影映像データから画像処理に基づいてIDを検出してもよい。その場合、携帯端末10は、撮影映像データと共にIDを含む情報を、サーバ30へ送信する。
【0063】
サーバ30の映像マスキング部33は、ユーザ認証で把握した二人のユーザ、及び認識したIDで示す機器11について、設定情報51に基づいて、判断処理を行う。この判断処理では、映像共有の際に、そのIDで示す機器11の画像部分を、ユーザU2に参照を許可するどうかの判断を含む。サーバ30は、少なくとも、ユーザU2にその機器11に関する参照権限が有ること、即ち参照が許可されることを確認する。実施の形態では、特に、サーバ30は、この判断処理で、ユーザU1及びユーザU2の二人の参照権限の有無を確認し、二人共にその機器11の参照権限が有ることを確認する。
【0064】
サーバ30の映像マスキング部33は、判断に基づいて、次のS108のマスキング処理の内容を決定する。即ち、サーバ30は、撮影映像フレームのうち、どの部分をマスク領域とし、どの部分を非マスク領域とするか、後述のマスクフレームを決定する。サーバ30は、そのIDで示す機器11に関して、ユーザU2を含め二人共に参照権限が有る場合には、撮影映像フレームのその機器11の画像部分を、非マスク領域にする。サーバ30は、それ以外の場合、即ちそのIDで示す機器11に関して二人の一方または両方に参照権限が無い場合には、その機器11の画像部分を、マスク領域にする。
【0065】
サーバ30の映像マスキング部33は、マスキング処理(S108)では、S108で決定したマスクフレームを用いて、撮影映像フレームに対するマスキング処理を施してマスキング映像フレームを生成し、メモリに一時的に保持する。サーバ30は、生成したマスキング映像フレームによるマスキング映像データ52を、携帯端末10に送信する。
【0066】
携帯端末10は、サーバ30からのマスキング映像データ52のフレームを受信し、表示画面にマスキング映像を表示する(S109)。携帯端末10は、後述の図7に示すように、モニタ映像表示と共に、マスキング映像を並列で表示する。
【0067】
携帯端末10は、そのマスキング映像データ52を、映像共有システムの映像送受信部10Bによって、携帯端末20へ送信する(S110)。携帯端末20は、そのマスキング映像データ52を受信して、後述の図7に示すように、表示画面にマスキング映像を表示する(S111)。」

「【0072】
(3)ユーザU2は、携帯端末20の表示画面に表示されたマスキング映像における非マスク領域の機器11等の画像部分を見て、作業対象の機器11や状況等を把握する。ユーザU2は、ユーザU1への作業指示等を、任意の手段を用いてユーザU1へ与える(S112)。作業指示は、例えば障害対応のための確認手順や復旧手順等の指示である。作業指示を与える際、手段としては、既存の電話やメール等の手段を併用することもできるが、特に、本システムの映像共有システムの機能を用いることができる。その際、後述の図7に示すように、携帯端末20の表示画面でのマスキング映像に対し、ユーザU2は、作業指示等に係わる映像、音声、文字等の情報を重畳または並列で入力し、その情報を携帯端末10へ送信することができる。携帯端末10は、その携帯端末20からの映像、音声、文字等のデータを受信し、表示画面のマスキング映像に対し、重畳または並列で出力する。
【0073】
ユーザU1は、携帯端末10の表示画面のマスキング映像、及びユーザU2からの作業指示等に従い、対象の機器11に関する対応作業を行う(S113)。以降同様に、ユーザU1とユーザU2との間で、必要に応じて、マスキング映像の共有や情報授受が繰り返して行われる。」

「【0104】
実施の形態では、上記のように、参照権限に関する設定として、参照権限表のIDとユーザIDとの関連付けとした。即ち、機器11の単位でマスキングが制御可能である。これに限らず、区画等の場所単位や顧客組織の単位で、ユーザの参照権限を柔軟に詳細に設定可能である。設定情報51にユーザ毎の参照権限を細かく設定する場合には、マスキングの領域を細かくして、セキュリティをより高めることができる。ユーザ毎の参照権限をおおまかな単位で設定する場合には、設定作業の手間を少なくし、マスキングの領域をおおまかにして処理を軽くすることができる。」

「【図1】



「【図3】



(2)上記(1)の記載から以下のことが言える。
ア 【0036】、【0053】の記載によると、引用文献1には、「IT運用作業遠隔支援システム」において「ユーザ間で映像共有を伴う遠隔連携作業を行う場合における装置間の処理シーケンス」が記載されている。
イ 【0018】、【0019】、図1には、「IT運用作業遠隔支援システム」は「現地のITシステム1及び現地作業者であるユーザU1の携帯端末10と、遠隔地2のシステムの遠隔作業者であるユーザU2の携帯端末20と、支援システム3のサーバ30とを有」し、「それらは通信網4を介して接続されている」ことや、「現地のITシステム1は、運用対象機器である複数の機器11を有」し、これらの「機器11には、予め、」「制御用の特有のID(識別情報)が記載された媒体」である、「ID媒体12が貼り付けられている」ことが記載されている。
ウ 【0020】〜【0023】には、「携帯端末10は、例えばスマートフォン、タブレット端末、ノートPC等の各種の電子機器」であり、「撮影部10A、映像送受信部10Bを有する」こと、また、「撮影部10A」として、「スマートグラスに備えているカメラ等を用い」、「スマートグラスに備えている表示画面に、撮影映像やマスキング映像を表示してもよい」ことや、「携帯端末20」は、「スマートフォン等の各種の電子機器」であり、「映像送受信部20Bを有する」ことが記載されている。
エ 【0024】、【0025】には、「支援システム3」は、「サーバ30」を含み、「サーバ30」の「設定部31は、管理者の操作に基づいて、設定情報51を設定する処理を行う」ものであり、「設定情報51」には、「IDと機器11との関連付け情報や、各作業者のユーザID等のユーザ情報や、IDで示す機器11に対するユーザの参照権限等の情報が設定」されており、当該、「設定情報51」は「事業者や顧客組織のセキュリティポリシー等に応じて、予め」設定され「DB」等に「記憶」されることが記載されている。
オ 【0027】の「映像マスキング部33は、設定情報51に基づいて、携帯端末10の撮影映像からIDを検出する処理や、IDで示す機器11に対するユーザの参照権限等を確認、判断する処理を行う。そして、映像マスキング部33は、撮影映像データに対するマスキング処理を行ってマスキング映像データ52を生成し、携帯端末10へ送信する。」との記載、【0030】の「サーバ30の機能の一部または全部は、ユーザU1の携帯端末10に、アプリケーションソフトウェア等によって、併合されて実装されていてもよい。例えば、撮影映像からIDを検出する機能が、ユーザU1の携帯端末10に実装されていてもよい。例えば、マスキング処理を行う機能が、ユーザU1の携帯端末10に実装されていてもよい。」との記載、【0062】の「なお、変形例として、S106で、サーバ30ではなく携帯端末10が、撮影映像データから画像処理に基づいてIDを検出してもよい。その場合、携帯端末10は、撮影映像データと共にIDを含む情報を、サーバ30へ送信する。(下線は当審が付した)との記載からすると、引用文献1には、「撮影映像からIDを検出し、サーバに送信する機能」や、「マスキング処理を行う機能」を「ユーザU1の携帯端末10に実装」する実施形態が記載されている。
カ 【0053】、【0054】、図3には、「本システムにおいてユーザ間で映像共有を伴う遠隔連携作業を行う場合の処理シーケンス」として、まず、「現地のITシステム1において、現地作業者であるユーザU1は、運用作業の際、遠隔作業者であるユーザU2との映像共有による遠隔連携作業が必要となった場合」、「例えば、ユーザU1が障害状態の機器11B(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等を要求する場合」、「ユーザU1は、ユーザU2に、映像共有による遠隔連携作業を行う旨を、」「電話やメールでもよいし、本システムの一部の機能」といった「任意の手段で連絡」し、「ユーザU1はユーザU2が対応可能であることを確認する」ことが記載されている。
キ 【0026】、【0055】、【0056】、図3には、「ユーザU1は、自分の携帯端末10から、支援システム3のサーバ30に接続してサービスにログイン」し、「同様に、ユーザU2は、ユーザU1からの連絡に基づいて、対応を行う場合、自分の携帯端末20からサーバ30のサービスにログイン」し、「サーバ30」の「認証部32」により、「映像共有しようとする二人のユーザであるユーザU1及びユーザU2に関するユーザ認証を行」うことが記載されている。
ク 【0058】、【0060】、図3の記載、上記オの「撮影映像からIDを検出し、サーバに送信する機能」を「ユーザU1の携帯端末10に実装」する実施形態から、「ユーザU1は、携帯端末10のカメラを用いて、作業対象の機器11のID媒体12を含む範囲を対象に撮影」して、「携帯端末10」は「撮影映像からIDを検出し、サーバにIDを送信」する。
ケ 【0027】、【0063】〜【0065】、【0104】、図3の記載、上記クの携帯端末10が撮影映像からIDを検出し、サーバにIDを送信すること、上記オの「マスキング処理を行う機能」を「ユーザU1の携帯端末10に実装」する実施形態から、「サーバ30」は、「ユーザ認証で把握した二人のユーザ、及び送信されたIDで示す機器11について、設定情報51に基づいて、」「映像共有の際に、そのIDで示す機器11の画像部分を、ユーザU2に参照を許可するどうかの判断を含む」判断処理を行い、「携帯端末10」は、当該判断に基づいて、「撮影映像データに対するマスキング処理を行ってマスキング映像データ52を生成」する。
コ 【0067】、【0072】、図3には、「携帯端末10は、そのマスキング映像データ52を、映像共有システムの映像送受信部10Bによって、携帯端末20へ送信」し、「ユーザU2は、携帯端末20の表示画面に表示されたマスキング映像における非マスク領域の機器11等の画像部分を見て、作業対象の機器11や状況等を把握」して、「ユーザU1への」「障害対応のための確認手順や復旧手順等の指示」といった「作業指示」を、「本システムの映像共有システムの機能」等を用いて行うことが記載されている。

(3)上記(2)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、(あ)〜(き)は当審が付した。
IT運用作業遠隔支援システムにおいてユーザ間で映像共有を伴う遠隔連携作業を行う場合における装置間の処理シーケンスであって、
IT運用作業遠隔支援システムは、現地のITシステム及び現地作業者であるユーザU1の携帯端末10と、遠隔地のシステムの遠隔作業者であるユーザU2の携帯端末20と、支援システムのサーバとを有し、それらは通信網を介して接続されており(上記(2)のア)、
現地のITシステムは、運用対象機器である複数の機器を有し、これらの機器には、予め、制御用の特有のID(識別情報)が記載された媒体である、ID媒体が貼り付けられており(上記(2)のイ)、
携帯端末10は、例えばスマートフォン、タブレット端末、ノートPC等の各種の電子機器であり、撮影部、映像送受信部を有し、撮影部として、スマートグラスに備えているカメラ等を用い、スマートグラスに備えている表示画面に、撮影映像やマスキング映像を表示してもよく(上記(2)のウ)、
携帯端末20は、スマートフォン等の各種の電子機器であり、映像送受信部を有し(上記(2)のウ)、
支援システムは、サーバを含み、サーバの設定部は、管理者の操作に基づいて、設定情報を設定する処理を行うものであり、設定情報には、IDと機器との関連付け情報や、各作業者のユーザID等のユーザ情報や、IDで示す機器に対するユーザの参照権限等の情報が設定されているとともに、当該、設定情報は事業者や顧客組織のセキュリティポリシー等に応じて、予め設定され、DB等に記憶されており(上記(2)のエ)、
(あ)現地のITシステムにおいて、現地作業者であるユーザU1は、運用作業の際、遠隔作業者であるユーザU2との映像共有による遠隔連携作業が必要となった場合、例えば、ユーザU1が障害状態の機器(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等を要求する場合、ユーザU1は、ユーザU2に、映像共有による遠隔連携作業を行う旨を、電話やメールでもよいし、本システムの一部の機能といった任意の手段で連絡し、ユーザU1はユーザU2が対応可能であることを確認し(上記(2)のカ)、
(い)その後、ユーザU1は、自分の携帯端末10から、支援システムのサーバに接続してサービスにログインし、同様に、ユーザU2は、ユーザU1からの連絡に基づいて、対応を行う場合、自分の携帯端末20からサーバのサービスにログインし、サーバの認証部により、映像共有しようとする二人のユーザであるユーザU1及びユーザU2に関するユーザ認証を行い(上記(2)のキ)、
(う)ユーザU1は、携帯端末10のカメラを用いて、作業対象の機器のID媒体を含む範囲を対象に撮影して携帯端末10は撮影映像からIDを検出し、サーバにIDを送信し(上記(2)のク)、
(え)サーバは、ユーザ認証で把握した二人のユーザ、及び送信されたIDで示す機器について、設定情報に基づいて、映像共有の際に、そのIDで示す機器の画像部分を、ユーザU2に参照を許可するどうかの判断を含む判断処理を行い(上記(2)のケ)、
(お)携帯端末10は、当該判断に基づいて、撮影映像データに対するマスキング処理を行ってマスキング映像データを生成し(上記(2)のケ)、
(か)携帯端末10は、そのマスキング映像データを、映像共有システムの映像送受信部によって、携帯端末20へ送信し(上記(2)のコ)、
(き)ユーザU2は、携帯端末20の表示画面に表示されたマスキング映像における非マスク領域の機器等の画像部分を見て、作業対象の機器や状況等を把握して、ユーザU1への障害対応のための確認手順や復旧手順等の指示といった作業指示を、本システムの映像共有システムの機能等を用いて行う(上記(2)のコ)、
IT運用作業遠隔支援システムにおいてユーザ間で映像共有を伴う遠隔連携作業を行う場合における装置間の処理シーケンス。

2 引用文献2
当審が通知した拒絶理由において引用した引用文献2には、次のとおりの記載がある。なお、下線は当審が付した。
「【0002】
例えば、工場などの現場で作業者がメンテナンス作業を行う場合に、遠隔にいる指示者がメンテナンス作業の手順を作業者に指示する場合がある。」

「【0004】
そこで、作業者が現場を撮影して得た画像を指示者に送り、指示者がその画像を基に現場の状況を把握する場合がある。しかしながら、この場合、現場における機密情報が画像に含まれる虞がある。また、このような機密情報が含まれないように作業者が注意深く現場を撮影する場合、作業者の負担が増加する。」

「【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、撮影者の負担を軽減しつつ情報漏洩のリスクを低減する技術を提供することを目的とする。」

「【0027】
<1 実施形態の一例>
<1.1 画像処理システムの概略構成>
図1は、画像処理システム1の構成の一例を概略的に示す図である。
【0028】
画像処理システム1は、ある領域を撮影する撮影者とその撮影結果の少なくとも一部を閲覧する閲覧者との間で利用されるシステムである。以下では、一例として、画像処理システム1が、印刷装置300が設置されている現場の印刷所でその印刷装置300のメンテナンス作業を行う作業者10(撮影者)と、メンテナンス作業の手順を印刷所の外部の遠隔地から作業者10に指示する指示者20(閲覧者)と、の間で利用される場合について説明する。
【0029】
本実施形態の画像処理システム1は、作業者10が現場の状況を撮影する際に用いる第1端末装置としてのウェアラブルツール100と、ウェアラブルツール100と双方向に通信可能であり且つ指示者20が利用する第2端末装置としてのPC(Personal Computer)200と、を備える。
【0030】
画像処理システム1では、作業者10がウェアラブルツール100によって現場の様子を動画形式で撮影する。そして、ウェアラブルツール100が、この撮影により得られた元画像から処理済み画像を生成し、この処理済み画像をPC200に送信する。指示者20は、PC200を用いて処理済み画像を確認し、通話やPC200からの入力により作業者10にメンテナンス作業の詳細を指示する。
【0031】
ここで、処理済み画像とは、元画像のうちメンテナンス作業に関わる第1画像部分を含み、且つ残りの第2画像部分(例えば、現場における機密情報など指示者20に与えるべきでない画像部分)を加工した画像である。ウェアラブルツール100における画像処理の詳細については後述する。」

「【0044】
表示部130は、表示パネル131及び表示画面132を備えている。表示パネル131は、例えば、液晶パネルあるいは有機ELパネルである。表示パネル131は、制御部110に制御されることによって、文字、記号、図形などの各種情報を視覚的に出力することが可能である。表示パネル131が視覚的に出力する各種情報は、表示画面132に表示される。また、PC200側にも表示パネルおよび表示画面232が設けられており、該表示パネルが視覚的に出力する各種情報は、該表示画面232に表示される。後述するビデオ通話の際には、2つの表示画面132、232において同一の画像(例えば、処理済み画像)が共有される場合がある。」

「【0083】
図13は、処理済み画像の一例として、変形例にかかる処理済み画像174Aを示す図である。処理済み画像174Aは、元画像171aの第1画像部分をそのまま含み、元画像171aの第2画像部分に対して黒塗りレイヤーを重畳させた画像である。その結果、処理済み画像174Aでは、第2領域を視覚的に認識不能となるようにしている。第2領域は識別子30によって規定された第1領域(機密情報が含まれておらず指示者20と共有すべき領域)以外の領域であり、機密情報が含まれる可能性のある領域である。よって、本変形例では、情報漏洩のリスクが低減される。」

「【図5】


「【図8】


「【図13】



3 引用文献3の記載
当審が通知した拒絶理由において引用した引用文献3には、次のとおりの記載がある。なお、下線は当審が付した。
「【0004】
例えば、画像形成装置内で用紙詰まり(ジャム)が発生した場合、そのジャム処理のやり方が判らず、ユーザがコールセンターにサポートを求めるケースが考えられる。コールセンターのオペレータは画像処理装置の状況を遠隔から確認し、更に、ユーザから音声による状況の説明を受けてジャム発生箇所を特定する。そして、そのジャムを解除する手順を説明するマニュアルの画像をコールセンターから画像形成装置に送信し、画像形成装置のUI画面に表示させることによってジャム処理のサポートを行うことができる。
しかしながら、ユーザは送られてきたマニュアル画像と、実際の装置を照らし合わせながらメンテナンス処理をしなくてはならず、わかり易いとは言えない場合もあった。」

「【0018】
図7は、携帯端末108のディスプレイ262に表示される画像の例を示す図である。携帯端末108のカメラ263で撮影した画像(図6(A))に、オペレータ端末103から送信された案内画像(図6(B))が重なって表示されている。以上説明したように、本実施形態によれば、携帯端末108で撮影した画像形成装置101の画像に、コールセンターから送信された案内画像が重ね合わせて表示される。したがって、ユーザ106はオペレータ107から指示された作業を直感的に把握することができる。」

「【0022】
<実施形態3>
ユーザ106が画像形成装置101を撮影する際、画像形成装置101周辺にある画像形成装置101以外のものも一緒に映ってしまい、それをそのままコールセンターに送ってしまうのはセキュリティ上好ましくない場合がある。実施形態3は、この問題に対応したものであり、実施形態1又は実施形態2の構成に加えて、画像形成装置101からオペレータ端末103に画像を送信する際に、画像形成装置101以外の領域の画像を送らないようにしたものである。
【0023】
図10は、画像形成装置101でジャムが発生し、その解除をコールセンターからサポートする場合の実施形態3のシーケンスを示す図である。実施形態1と同様に、S401からS412までの処理によって画像形成装置101と携帯端末108とは無線接続され、画像形成装置101とオペレータ端末103とは中継サーバ102を介して接続されている。S501からS509までの各ステップの処理は実施形態1で説明したものと同じであるため、説明を省略する。S1001において、画像形成装置101は、携帯端末108から送信された画像の中から、画像形成装置101以外の領域をマスクする処理を行う。より具体的には、画像形成装置101は、画像形成装置101の特徴データから画像形成装置101の領域を特定する。特徴データは画像形成装置101の各部の位置、形状、サイズ、色、等の情報であり、画像形成装置101のHDD205に予め記憶されている。画像形成装置101は、携帯端末108で撮影された画像形成装置101の画像中に映っているマーカの相互の位置関係から、携帯端末108の撮影位置及び撮影方向を特定する。そして、画像形成装置101は、特徴データの情報を用いて、携帯端末108から受信した画像を画像形成装置101の領域と、それ以外の領域と、に分離する。そして、画像形成装置101は、画像形成装置101以外の領域をマスクした画像を生成し、中継サーバ102を経由してオペレータ端末103に送信する。
図10では、実施形態1に記載したシーケンスを基に本実施形態の説明をしたが、実施形態2に記載したシーケンスに対して、S1001の処理を追加してもよい。」

「【図7】


「【図10】



第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「現地作業者であるユーザU1」は、「遠隔地のシステムの遠隔作業者であるユーザU2」から、障害状態の機器(機器X)の復旧等の対応作業のために作業指示等を受けるから、引用発明の「現地作業者であるユーザU1」、「遠隔作業者であるユーザU2」は、それぞれ、本願発明の「保守作業者」、「保守支援者」に相当する。
また、引用発明の「ユーザU1の携帯端末10」と「ユーザU2の携帯端末20」とは、お互いに遠隔に配置されているといえるから、引用発明の「ユーザU1の携帯端末10」、「ユーザU2の携帯端末20」は、それぞれ本願発明の「保守作業者が操作する保守作業者側端末」、「保守支援者が操作する保守支援者側端末」に相当する。
さらに、引用発明の「サーバ」は、携帯端末10、携帯端末20と、通信網を介して接続されているから、本願発明の「サーバ」に相当する。
2 引用発明では、IT運用作業遠隔支援システムを用いて、「ユーザ間で映像共有を伴う遠隔連携作業を行う場合における装置間の処理シーケンス」を実施することで、現地作業者ユーザU1は「障害状態の機器」の「復旧等の対応作業」のための「作業指示等」の支援を受けることができるものであるから、引用発明の「障害状態の機器」、「復旧等の対応作業」、「作業指示等」の支援は、それぞれ本願発明の「保守対象」、「保守作業」、「支援」に相当する。そして、一般に、「処理シーケンス」とは、「あらかじめ決められた順序で処理を行うこと」を意味する点で、処理方法であるといえることから、引用発明の、当該「支援」を実現するための「ユーザ間で映像共有を伴う遠隔連携作業を行う場合における装置間の処理シーケンス」は、後述する相違点は別にして、本願発明の「保守作業者が行う保守対象の保守作業を支援する遠隔保守支援方法」に相当する。
3 引用発明の「現地のITシステム」は、「運用対象機器である複数の機器」を有しており、いずれの機器も障害発生のおそれがあることから、引用発明の「運用対象機器である複数の機器」は、本願発明の「保守対象となり得る複数の保守対象候補」に相当する。
また、引用発明の「IDと機器との関連付け情報」は、設定情報に含まれる情報であり、設定情報は、管理者がサーバの設定部を操作することで事業者や顧客組織のセキュリティポリシー等に応じて、予め設定されDB等に記憶されるものであるから、設定情報に含まれる「IDと機器との関連付け情報」についても、管理者がサーバの設定部を操作することで、サーバのDB等に予め記憶されるものである。
よって、引用発明の、管理者がサーバの設定部を操作することで「運用対象機器である複数の機器」について「IDと機器との関連付け情報」をサーバのDB等に予め記憶する処理は、後述する相違点は別にして、本願発明の「保守対象となり得る複数の保守対象候補を前記サーバに予め記憶させる第1ステップ」の処理に相当する。
4 引用発明の「処理シーケンス」では、「ユーザU1が障害状態の機器(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等を要求」することで、「作業指示等」をユーザU2から受けるものであり、ユーザU1がユーザU2に報告する状況等には、復旧対象の障害状態の機器(機器X)の情報を含むと考えるのが自然であるから、ユーザU2がユーザU1から状況等の報告を受けた時点で「障害状態の機器(機器X)」を「特定」していることは明らかである。
また、引用発明では、「現地のITシステムは、運用対象機器である複数の機器を有し、これらの機器には、予め、制御用の特有のID(識別情報)が記載された媒体である、ID媒体が貼り付けられて」いることから、引用発明の(あ)における復旧等の対応作業の対象となる機器、すなわち、保守対象候補となる機器は、上記3のサーバに予め記憶されたものである。
よって、引用発明において、サーバに予め記憶された対象となる機器「ユーザU1が障害状態の機器(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等を要求」することにより、ユーザU2が「障害状態の機器(機器X)」を「特定」することは、本願発明の「第2ステップ」において、択一的に記載された「前記保守支援者又は前記サーバ」の一方の「保守支援者」が「前記第1ステップで記憶された前記複数の保守対象候補のうち、保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定する」処理に相当する。
5 引用発明の「映像共有による遠隔連携作業」は、携帯端末10から携帯端末20への「マスキング映像データ」の送信や、携帯端末20から携帯端末10への「作業指示」が行えるものであるから、本願発明の「双方向のデータ通信」に相当する。
引用発明の処理シーケンスにおける(あ)では、「ユーザU1が障害状態の機器(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等を要求する場合、ユーザU1は、ユーザU2に、映像共有による遠隔連携作業を行う旨を、電話やメールでもよいし、本システムの一部の機能といった任意の手段で連絡し、ユーザU1はユーザU2が対応可能であることを確認」しており、ユーザU2への連絡にあたって、ユーザU1が「映像共有による遠隔作業」を行うか否かの判断を行っているものといえる。
よって、引用発明の処理シーケンスにおける(あ)の「映像共有による遠隔連携作業」を行うか否かの判断を行うことは、下記の相違点を除いて、本願発明の「前記サーバを介した前記保守作業者側端末と前記保守支援者側端末との双方向のデータ通信を行うか否かを判断する第3ステップ」の処理に相当する。
6 引用発明の処理シーケンスにおける(う)〜(お)は、いずれも、引用発明の処理シーケンスにおける(あ)の「映像共有による遠隔作業」を行うか否かの判断を行う処理後に行われるものである。
よって、引用発明の処理シーケンスにおける(う)の「ユーザU1は、携帯端末10のカメラを用いて、作業対象の機器のID媒体を含む範囲を対象に撮影」を行い、(え)「撮影映像データに対するマスキング処理を行ってマスキング映像データを生成」する処理は、「映像共有による遠隔連携作業」を行うと判断した場合に行われる処理であり、マスキング映像データを携帯端末10が生成するものであるから、引用発明の「映像共有による遠隔連携作業」を行うと判断した場合に、(う)「ユーザU1は、携帯端末10のカメラを用いて、作業対象の機器のID媒体を含む範囲を対象に撮影」を行い、(え)「撮影映像データに対するマスキング処理を行ってマスキング映像データを生成」する処理は、本願発明の「第4ステップ」における「前記第3ステップで前記双方向のデータ通信を行うと判断した場合に、前記保守作業者側端末が取得した」、「前記保守対象を含む撮像画像を構成する画素領域のうち」、「マスク画素領域を不可視にした加工画像を前記保守作業者側端末が生成する」処理に相当する。
7 引用発明の処理シーケンスにおける(か)の「携帯端末10は、そのマスキング映像データを、映像共有システムの映像送受信部によって、携帯端末20へ送信」する処理は、携帯端末10において「撮影映像データに対するマスキング処理を行ってマスキング映像データを生成」した後に行われる処理であるから、生成された「マスキング映像データ」に関する下記の相違点を除き、本願発明の「第5ステップ」における「前記第4ステップで生成された前記加工画像を前記保守作業者側端末から前記保守支援者側端末に送信」する処理に相当する。
また、引用発明の処理シーケンスにおける(き)の「ユーザU2は、携帯端末20の表示画面に表示されたマスキング映像における非マスク領域の機器等の画像部分を見て、作業対象の機器や状況等を把握して、ユーザU1への障害対応のための確認手順や復旧手順等の指示といった作業指示を、本システムの映像共有システムの機能等を用いて行う」処理は、ユーザU2による目視して、映像共有システムによって、作業指示といった障害対応の支援を行うものであるから、生成された「マスキング映像データ」に関する下記の相違点を除き、本願発明の「第5ステップ」における「前記送信された前記加工画像を前記保守支援者が目視して、前記保守作業者側端末と前記保守支援者側端末との双方向のデータ通信によって、前記保守支援者が、前記保守作業者が行う前記保守対象の保守作業を支援する」処理に相当する。
8 以上、1〜7によると、本願発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「 保守支援者が操作する保守支援者側端末と、前記保守支援者側端末に対して遠隔に配置され、保守作業者が操作する保守作業者側端末と、前記保守支援者側端末及び前記保守作業者側端末に電気通信回線を通じて電気的に接続されたサーバと、を用いて、前記保守作業者が行う保守対象の保守作業を支援する遠隔保守支援方法であって、
前記保守対象となり得る複数の保守対象候補を前記サーバに予め記憶させる第1ステップと、
前記保守支援者が、前記第1ステップで記憶された前記複数の保守対象候補のうち、前記保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定する第2ステップと、
前記サーバを介した前記保守作業者側端末と前記保守支援者側端末との双方向のデータ通信を行うか否かを判断する第3ステップと、
前記第3ステップで前記双方向のデータ通信を行うと判断した場合に、前記保守作業者側端末が取得した、前記保守対象を含む撮像画像を構成する画素領域のうち、マスク画素領域を不可視にした加工画像を前記保守作業者側端末が生成する第4ステップと、
前記第4ステップで生成された前記加工画像を前記保守作業者側端末から前記保守支援者側端末に送信し、前記送信された前記加工画像を前記保守支援者が目視して、前記保守作業者側端末と前記保守支援者側端末との双方向のデータ通信によって、前記保守支援者が、前記保守作業者が行う前記保守対象の保守作業を支援する第5ステップと、を含む、
ことを特徴とする遠隔保守支援方法。」
[相違点]
(相違点1)
「前記保守対象となり得る複数の保守対象候補を前記サーバに予め記憶させる」処理を行うのが、本願発明では「前記保守支援者又は前記保守作業者」であるのに対し、引用発明では「管理者」である点。
(相違点2)
「前記第1ステップで記憶された前記複数の保守対象候補のうち、前記保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定する第2ステップ」を、本願発明では「前記保守支援者又はサーバ」が行うのに対し、引用発明では「サーバ」が行う点について特定されていない点。
(相違点3)
「前記第1ステップで記憶された前記複数の保守対象候補のうち、前記保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定する第2ステップ」が、本願発明では第3ステップの前に行われているのに対し、引用発明ではその点について特定されていない点。
(相違点4)
「前記サーバを介した前記保守作業者側端末と前記保守支援者側端末との双方向のデータ通信を行うか否かを判断する第3ステップ」を、本願発明では「保守支援者」が行うのに対し、引用発明では「保守作業者」が行う点。
(相違点5)
「第4ステップ」で「保守作業者側端末が生成する」「マスク画素領域」の対象が、本願発明では「前記保守対象以外の画素領域」であるのに対し、引用発明では「映像共有の際に、そのIDで示す機器の画像部分を、ユーザU2に参照を許可するどうかの判断を含む判断処理」によって決定されるものである点。

第6 当審の判断
1 [相違点]について
上記相違点について検討する。
(1)(相違点1)について
引用発明のIT運用作業遠隔支援システムにおける遠隔連携作業保守サービスにおいて、管理者、現地作業者であるユーザU1、遠隔作業者であるユーザU2は、いずれも、ITシステムの保守サービスを行う担当の者であり、管理者、ユーザU1、ユーザU2のうち、どの者が、「IDと機器との関連付け情報」をサーバのDB等に記憶する担当なのかは、保守サービスを行う担当の者のうちから役割を決めて決定する設計事項であるから、引用発明において、「IDと機器との関連付け情報」をサーバのDB等に記憶するにあたり、ユーザU1やユーザU2の依頼のもと、管理者が記憶するようにすることや、ユーザU1やユーザU2が直接記憶するようにすることは、当業者が適宜なし得た事項である。
(2)(相違点2)について
「前記第1ステップで記憶された前記複数の保守対象候補のうち、前記保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定する」処理を、本願発明では、「保守支援者又はサーバ」と択一的に記載され、引用発明において、「保守支援者」が当該処理を行う点で一致しているから、サーバで行うことが特定されていないことは相違点とはならない。そして、サーバで行うことが相違点であったとしても、サーバによる遠隔監視によって障害が発生した保守対象機器を特定することや、サーバによる保守点検スケジュールに基づいた保守対象機器の抽出は広く一般的に行われていることであるから、当該処理を単にサーバによって行うようにすることは当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことである。
(3)(相違点3)(相違点4)について
(相違点3)は、引用発明においては第2ステップが第3ステップの前か特定されていないというものであり、要するに、本願発明では、第2ステップにおいて「保守支援者」が保守対象を特定したことに応じて、第3ステップにおいて「保守支援者」が双方向のデータ通信を行うか否かを判断するのに対し、引用発明では特定されていないということであるため、(相違点3)及び(相違点4)は関連する相違点であるから、合わせて判断する。
上記「第5 4」のとおり、引用発明の「処理シーケンス」では、「ユーザU1が障害状態の機器(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等を要求」することで、「作業指示等」をユーザU2から受けるものであり、ユーザU1がユーザU2に報告する状況等には、復旧対象の障害状態の機器(機器X)の情報を含むと考えるのが自然であるから、ユーザU2が自らの判断で特定するかは別として、ユーザU2がユーザU1から状況等の報告を受けた時点で「障害状態の機器(機器X)」を「特定」していることは明らかである。
そして、引用発明のIT運用作業遠隔支援システムにおける遠隔連携作業保守サービスにおいて、現地作業者であるユーザU1と遠隔作業者であるユーザU2とのどちらが、双方向のデータ通信を行うか否かを判断するかは、ユーザU1とユーザU2との上司部下との関係、いずれが、保守対象の障害状態の機器に関するより詳細な知識を有するかなどによって決定する設計事項であり、引用文献1の【0003】には「現地作業者から、遠隔地にいる専門技術者等の作業者(以下、「遠隔作業者」と記載する場合がある)に連絡して状況等を説明する。そして、遠隔作業者から現地作業者へ連絡で作業指示等を与え、現地作業者は、その作業指示等を受けて対応作業を行う。また、その際、文書や口頭による遠隔の作業指示では伝達や対応が困難である場合には、遠隔作業者が現地のITシステムの所へ駆けつけて対応作業を行う。」と記載されているように、引用文献1の出願当時の技術常識を考慮すると、引用発明の従来技術においても電話やメールでの連絡によって復旧等の対応作業が完了する場合があることがあることは明らかであるから、実際に映像共有による遠隔連携作業をするか否かの判断を、(あ)の「電話やメールでの連絡」に伴うやりとりの状況を踏まえて遠隔作業者であるユーザU2が行うようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
よって、相違点3及び相違点4に係る構成は当業者が容易に想到し得た事項である。
(4)(相違点5)について
引用発明は、ユーザ間で映像共有を伴う遠隔連携作業というものであるから、保守対象となる機器の映像はユーザU1とユーザU2とで共有し、セキュリティポリシーに基づいて参照権限のない機器をマスキング処理により不可視とするものである。
ここで、機器の遠隔支援のために現場の撮影画像を遠隔地の支援者と共有するにあたり、支援対象以外の画像領域全てを不可視とする技術は周知であり(上記「第4 2」引用文献2の【0030】、【0031】の記載や、上記「第4 3」引用文献3の【0022】、【0023】の記載を参照されたい)、引用発明と周知技術は、遠隔連携作業の映像共有に関して、セキュリティを確保するという共通の課題を有していることから、引用発明において、「マスク画素領域」の対象を、ユーザU2の参照権限に基づいてユーザU2に参照を許可するどうかの判断によって行うことに代えて、上記周知技術のように、単に、支援対象機器以外の画像領域を全てとすることは当業者であれば容易になし得たことである。

2 作用効果について
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の作用効果に関する記載として、「本発明によれば、保守作業者に対して情報漏洩に関する安心感を与えつつ、効率的に保守作業者を支援することが可能である。」(段落【0016】)との記載があり、より具体的には、段落【0038】に、「第4ステップS4において、保守対象T1以外の画素領域であるマスク画素領域を不可視にした加工画像を、サーバ3ではなく保守作業者側端末2が生成するため、保守作業者に対して情報漏洩に関する安心感を与えることができる。」(以下、「作用効果1」とする)、「第3ステップS3において、双方向のデータ通信を行うか否かを判断し、第5ステップS5において、必要な場合に保守対象T1が写っている加工画像を保守支援者が目視できるため、保守対象T1のトラブルの状況を把握し易く、効率的に保守作業者を支援することができる。」(以下、「作用効果2」とする)との記載がある。
以下、上記作用効果1、作用効果2について検討する。
(1)作用効果1について
作用効果1の「保守作業者に対して情報漏洩に関する安心感を与えることができる」との効果は、「加工画像を、サーバ3ではなく保守作業者側端末2が生成する」ことによって生じるものであると認められるものの、当該効果は、上記「第4 1(2)オ ケ」、「第4 1(3)」に示した、引用発明の(お)の「携帯端末10」が「撮影映像データに対するマスキング処理を行ってマスキング映像データを生成」する処理、すなわち、「加工画像」をサーバではなく「保守作業者側端末」が生成する処理から、当然に導き出される作用効果であるから、作用効果1は、引用発明から当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。
(2)作用効果2について
作用効果2の、「双方向のデータ通信を行うか否かを判断」する点については、上記「第5 5」で検討したように、引用発明では、現地作業者であるユーザU1が「映像共有による遠隔作業」を行うか否かの判断を行っているから、引用発明においても行われている処理である。
また、作用効果2の「保守対象T1が写っている加工画像を保守支援者が目視できる」点に関しては、本願発明の「双方向のデータ通信を行うか否かを判断」に加えて、「第5ステップ」によって生じる効果であると認められるものの、上記「第4 1(3)」に示したように、引用発明においても「ユーザU2は、携帯端末20の表示画面に表示されたマスキング映像における非マスク領域の機器等の画像部分を見て、作業対象の機器や状況等を把握」できるから、「保守対象が写っている加工画像を保守支援者が目視できる」との作用効果は、引用発明においても奏されるものである。
よって、本願発明が有する作用効果2の「保守対象T1のトラブルの状況を把握し易く、効率的に保守作業者を支援することができる」との効果は、引用発明から当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。

上記のとおり、本願発明の作用効果は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が予測可能なものであり、格別なものではない。

3 請求人の主張について
請求人は、本願発明に関し、令和4年4月11日提出の意見書の「1.(1)(c)」において、上記(相違点2)に対して、「引用文献1」には、「ユーザU1が障害状態の機器11B(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等を要求する」(段落0054)としか記載されておらず、「ユーザU1からユーザU2に障害状態の機器11Bの状況等を報告しているのであれば、保守対象(障害状態の機器11B)を特定しているのはあくまでもユーザU1(保守作業者)であり、ユーザU2(保守支援者)はユーザU1によって特定された保守対象に対する作業指示等を行っているに過ぎないと考えるのが妥当である」から、「「保守作業者」が保守対象を特定することしか開示されていない引用文献1に接した当業者が、本願の請求項1に係る発明のように、「保守支援者又はサーバ」が保守対象を特定することに想到する動機付けが無い」との主張(以下、「主張1」という)をするとともに、上記(相違点5)に対して、「1.(1)(e)」において、「引用文献1」では「保守対象がITシステムであるが故に、ユーザU1が取得した撮像画像の中に、不可視にすべきマスク画素領域(参照権限の無い機器11Bに対応する画素領域)が存在し易い環境」であるから「検出したIDで示す機器に関するユーザU2の参照権限の有無を確認し、参照権限が無い機器の画素領域をマスク画素領域とすることを必須要件」としており、「引用文献1に記載の発明の上記必須要件に代えて、引用文献2、3に記載の技術を適用することは、引用文献1に記載の発明が解決しようとするITシステム特有の課題に反することになり、阻害要因がある」との主張(以下、「主張2」という)をしているから、これらの主張について検討する。
(1)主張1について
「保守作業者」による「保守対象」の「特定」について、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0029】
[第2ステップS2]
第2ステップS2では、第1ステップS1で記憶された複数の保守対象候補Tのうち、保守作業者が保守作業を行う保守対象を特定する。例えば、保守対象候補T1〜T3のうち、保守対象候補T1が保守作業を行う保守対象として特定される(以下、適宜、「保守対象候補T1」を「保守対象T1」という)。
【0030】
具体的には、第2ステップS2では、保守作業者が、電話等(遠隔保守支援システム100を構成する保守支援者側端末1、保守作業者側端末2及びサーバ3以外のツール)を用いて、保守対象T1の識別子(装置番号等)や、保守対象T1のトラブルの状況等を保守支援者に連絡する(図2のS21)。
保守支援者は、保守作業者からの連絡を受信し(図2のS22)、連絡の内容(電話での会話の内容等)に基づき、保守対象T1を特定する(図2のS23)。そして、特定した保守対象T1の識別子を、例えば、保守支援者が保守支援者側端末1を通じてサーバ3に送信し、サーバ3がこれを記憶する(図2のS24)。ただし、必ずしもこれに限られるものではなく、特定した保守対象Tの識別子を保守作業者が保守作業者側端末2を通じてサーバ3に送信して記憶させることも可能である。」

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、「保守支援者」は、「保守作業者」が「保守対象T1の識別子(装置番号等)や、保守対象T1のトラブルの状況等を保守支援者に連絡」することで「保守対象T1」を「特定」することが記載されており、本願発明における「保守支援者」が「前記保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定」する処理は、「保守作業者」から「保守対象T1」の「保守対象」の「識別子」や保守対象T1のトラブルの状況等についての連絡を受信することによって、連絡の内容(電話での会話の内容等)に基づき、「保守対象T1」を特定することを意味するものである。
そうすると、本願発明の第2ステップにおける「保守支援者が、・・保守対象を特定する」ことが、「保守支援者」自らが、どの機器が保守対象となる機器であるかを判断することに限定されるものでなく、保守作業者が主体的に判断をして「保守対象T1」を特定し、その連絡の内容(電話での会話の内容等)に基づいて、「保守支援者」が「保守対象T1」を特定することを含むものである。引用発明においても「現地作業者であるユーザU1は、運用作業の際、遠隔作業者であるユーザU2との映像共有による遠隔連携作業が必要となった場合」として、遠隔連携作業が必要か否かを判断するにためには、ユーザU1とユーザU2との間で、対象機器の状態に基づく遠隔連携作業の要否の検討は普通に行われることであるから、「ユーザU1が障害状態の機器(機器X)の復旧等の対応作業のために、ユーザU2に状況等を報告して作業指示等」をユーザU2(保守支援者)から受ける際、ユーザU1が特定した「障害状態の機器(機器X)」を、「状況等を報告」する中でユーザU1(保守作業者)から伝えられることも普通に行われることである。そして、このようにユーザU1が特定した「障害状態の機器(機器X)」を、「状況等を報告」する中でユーザU1(保守作業者)からユーザU2(保守支援者)に伝えられることを前提とすれば、引用発明において、上記「第5 4」のとおり、ユーザU2(保守支援者)が「障害状態の機器(機器X)」を「特定」していることは明らかである。
よって、「保守対象(障害状態の機器11B)を特定しているのはあくまでもユーザU1(保守作業者)」であるかどうかに関わらず、引用発明は、ユーザU2が「前記保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定」するものであるから、「「保守作業者」が保守対象を特定することしか開示されていない引用文献1に接した当業者が、本願の請求項1に係る発明のように、「保守支援者又はサーバ」が保守対象を特定することに想到する動機が無い」との請求人の上記主張は採用することができない。
また、「サーバ」が、保守対象を特定する点については、上記「第6 1(2)」のとおり、引用発明に基づき、相違点2の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項であるから、請求人の上記主張1は、結論に影響しない。

なお、本願発明の「前記保守作業者が保守作業を行う前記保守対象を特定」する処理が、発明の詳細な説明の段落【0030】における「連絡の内容(電話での会話の内容等)に基づき、保守対象T1を特定する(図2のS23)。」との処理だけでなく、「特定した保守対象T1の識別子を、例えば、保守支援者が保守支援者側端末1を通じてサーバ3に送信し、サーバ3がこれを記憶する(図2のS24)。」との処理をも含むものであるとしても、引用発明において、特定した作業対象の機器のIDをサーバへ記憶する作業を、どのユーザが行うかは、セキュリティや利便性、各者の技術レベルを考慮して決定すべき設計事項にすぎない。

(2)主張2について
引用文献1の段落【0005】に先行技術例として記載されているように、プライバシー領域を対象とした映像へのマスキングは、従来技術として一般的に行われていることであり、引用発明も、プライバシー領域へのマスキングを行う従来技術を前提としているものといえる。
そして、マスキングの対象となるプライバシー領域は、事業者及び顧客組織のセキュリティポリシー等に応じて適宜設定されるものであって、その目的は、セキュリティ確保の観点から設定されるものである点で、引用発明におけるマスキング処理は、本願発明の、「前記保守対象以外の画素領域であるマスク画素領域を不可視にした加工画像を前記保守作業者側端末が生成する」ことと技術的意味おける相違はなく、引用文献1の段落【0057】に記載された変形例である、「また、ユーザ認証を行うことにより高いセキュリティが確保されるが、ユーザ認証を省略して機器11のIDを用いた認証及びマスキング制御を行うのみとしても、相応の効果が得られる。」との記載を考慮すると、引用発明において、処理の簡略化を図るべくユーザ(ユーザU1及びユーザU2)の参照権限の判断処理を行うことなく、単に、支援対象機器以外の画像領域を全てマスキング対象とすることは技術的に自然な設計変更であり、阻害要因があるとは認められない。
よって、上記「第6 1(4)(相違点5)について」で検討したとおり、引用発明において、「マスク画素領域」の対象を、ユーザU2に参照を許可するどうかの判断によって行うことに代えて、処理の簡便化を図るべく周知技術のように設計変更し、支援対象機器以外の画像領域を全て対象とすることは当業者であれば容易になし得たことであるから、引用文献1に記載の発明を、引用文献2、3に記載の技術を適用することに阻害要因があるとする請求人の主張は採用することができない。

4 小括
したがって、本願発明は、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-05-06 
結審通知日 2022-05-10 
審決日 2022-05-24 
出願番号 P2020-141925
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 関口 明紀
松田 直也
発明の名称 遠隔保守支援方法  
代理人 特許業務法人まこと国際特許事務所  

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