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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1387354
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-12-02 
確定日 2022-07-28 
事件の表示 特願2018− 45343「偏心揺動型減速装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月19日出願公開、特開2019−157998、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月13日の出願であって、令和3年6月2日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月2日に意見書が提出されたが、同年9月1日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。
これに対し、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和3年9月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1〜4に係る発明(以下、「本願発明1」〜「本願発明4」という。)は、以下の引用文献1〜2に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2014−9808号公報
2.特開平10−88269号公報

第3 本願発明
本願発明1〜本願発明4は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される、以下のとおりである。

「【請求項1】
外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、
前記外歯歯車を揺動させる偏心体と、を備える偏心揺動型減速装置であって、
前記内歯歯車は、ピン溝が設けられた内歯歯車本体と、前記ピン溝に回転自在に配置されたピン部材と、を有し、
前記内歯歯車本体は、Siの含有量が6.0重量%以上のアルミニウム合金により構成される偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、Siの含有量が7.0重量%以上である請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、Siの含有量が24.0重量%以下である請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記ピン部材は、鉄系素材により構成される請求項1から3のいずれかに記載の偏心揺動型減速装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである(以下同様。)。

(1)「【0013】
以下、本発明の実施形態に係る偏心揺動型歯車装置について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態の偏心揺動型歯車装置(以下、歯車装置と称する)1は、例えばロボットの旋回胴や腕関節等の旋回部、各種工作機械の旋回部等に減速機として適用されるものである。この歯車装置1は、例えば、80rpm〜200rpmの回転数で使用される。
【0014】
本実施形態に係る歯車装置1は、入力軸8を回転させることによってクランク軸10を回転させ、クランク軸10の偏心部10a,10bに連動して揺動歯車14,16を揺動回転させることにより、入力回転から減速した出力回転を得るように構成されている。
【0015】
図1及び2に示すように、歯車装置1は、第1筒部の一例である外筒2と、第2筒部の一例であるキャリア4と、入力軸8と、複数(例えば3つ)のクランク軸10と、第1揺動歯車14と、第2揺動歯車16と、複数(例えば3つ)の伝達歯車20とを備えている。
【0016】
外筒2は、歯車装置1の外面を構成するものであり、略円筒形状を有している。外筒2の内周面には、多数のピン溝2bが形成されている。各ピン溝2bは、外筒2の軸方向に延びるように配置され、軸方向に直交する断面において半円形の断面形状を有している。これらのピン溝2bは、外筒2の内周面に周方向に等間隔で並んでいる。
【0017】
外筒2は、多数の内歯ピン3を有している。各内歯ピン3は、ピン溝2bにそれぞれ取り付けられている。具体的に、各内歯ピン3は、対応するピン溝2bにそれぞれ嵌め込まれており、外筒2の軸方向に延びる姿勢で配置されている。これにより、多数の内歯ピン3は、外筒2の周方向に沿って等間隔で並んでいる。これらの内歯ピン3には、第1揺動歯車14の第1外歯14a及び第2揺動歯車16の第2外歯16aが噛み合う。」

(2)「【0036】
外筒2は、第1揺動歯車14及び第2揺動歯車16の材質よりも線膨張係数の大きな材質で構成されている。具体的には、外筒2は、アルミニウム合金製であり、外筒2を構成する素材の線膨張係数は、20.0〜23.5μ/Kとなっている。これに対し、揺動歯車14,16は、鉄系材料で構成されている。例えば、揺動歯車14,16は、炭素含有量が0.7〜1.0%の鋼製(高炭素鋼製)、あるいは炭素含有量が0.2%以下の鋼製(低炭素鋼製)としてもよく、この場合、揺動歯車14,16を構成する素材の線膨張係数は、10.8〜11.0μ/K、あるいは11.6〜11.7μ/Kとなる。さらに、これらの鉄系素材を焼入れ硬化させると、炭素含有量0.2%以下の場合に、線膨張係数は13.6μ/Kとなり、また炭素含有量0.7〜1.0%の場合に、線膨張係数は12.0〜12.5μ/Kとなる。なお、内歯ピン3についても、揺動歯車14,16と同じ素材で形成されていてもよい。」

(3)「【図1】



(4)「【図2】



上記(1)〜(4)の記載によれば、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「減速機として適用される偏心揺動型歯車装置1であって、
外筒2と、クランク軸10と、第1揺動歯車14と、第2揺動歯車16とを備え、
クランク軸10の偏心部10a,10bは、揺動歯車14,16を揺動回転させ、
外筒2の内周面には、多数のピン溝2bが形成され、
多数の内歯ピン3が、ピン溝2bにそれぞれ取り付けられ、
これらの内歯ピン3には、第1揺動歯車14の第1外歯14a及び第2揺動歯車16の第2外歯16aが噛み合い、
外筒2は、アルミニウム合金製である、
偏心揺動型歯車装置1。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。

(1)「【0002】
【従来の技術】自動車の差動装置は、車両がカーブを走行する際の左右駆動輪の回転差、または四輪駆動車における前後駆動輪の回転差を許容する装置であり、構造的には出力軸に連結された一対のベベルギヤの間にピニオンギヤを介在させ、ピニオンギヤのシャフトの外側から回転力を加えると、差動時にはピニオンギヤが自転して各出力軸の回転差が許容されるように構成されたものが一般的である。そして、ベベルギヤおよびピニオンギヤを収納するデフケ―スは、エンジンからプロペラシャフトを経由してハイポイドベベルギヤに伝達される駆動力を、デフケースのフランジ面に取り付けたリングギヤに伝達、左右の駆動輪を回転させる働きを受け持つ。このようにデフケ―スは、運転時に常時大きな応力が作用するため、引張強さ、耐力、伸びなどの機械的特性が要求される。また、デフケースには前述のとおり、ベベルギヤやピニオンギヤの収納、リングギヤの取り付け、ギヤキャリア内に収納し、かつテーパコロ軸受を外嵌するボス部など複雑構造を形成するため、従来から球状黒鉛鋳鉄材からなる鋳物が用いられている。」

(2)「【0011】詳しくは、第1発明のデフケ―スは、質量比で、Si:4.0〜8.0%、Mg1.0%以下、Fe:1.0%以下、または更にCu:6%以下、残部実質的にAlおよび不可避的不純物を含有する組成のアルミニウム合金からなり、基地組織の平均粒径が30〜100μmで円形度が0.6以上である。また、第1発明のデフケ―スは、機械的性質の強度指数[3×引張強さ(MPa)+40×伸び(%)]の値が、前記デフケ―スの主要部で1250以上有する。」

(3)「【0015】本第1発明および第2発明での数値限定(化学組成の%は質量%を示す)ほかの理由は、以下のとおりである。(1)基地組織が実質的に粒状化、好ましくは平均粒径が30〜100μmで円形度が0.6以上質量比で、Si:4.0〜8.0%、Mg1.0%以下、Fe:1.0%以下、残部実質的にAlおよび不可避的不純物を含有する組成のアルミ合金からなる組成で、基地組織が実質的に粒状化、好ましくは平均粒径が30〜100μmで円形度が0.6以上とすることにより、引張強さ、耐力、伸びなどの機械的性質が向上する。
【0016】(2)Si:4.0〜8.0%、好ましくはSi:6.0〜7.0%
Siは、伸び、衝撃値などの靱性、および湯流れ性など鋳造性等に影響を及ぼす。Siが4.0%未満では湯流れ性が悪くなり、8.0%を越えると、伸び、衝撃値などの靱性を低下させる。従ってSi:4.0〜8.0%とする。好ましくはSi:6.0〜7.0%とする。」

上記(1)〜(3)の記載によれば、上記引用文献2には、以下の事項が記載されていると認められる。

「引張強さ、耐力、伸びなどの機械的特性が要求されるデフケースであって、
伸び、衝撃値などの靱性に影響を及ぼすSiを、質量比で4.0〜8.0%、好ましくは6.0〜7.0%含有する組成のアルミ合金からなるものとすることで、引張強さ、耐力、伸びなどの機械的性質を向上させた、
デフケース。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明の「減速機として適用される偏心揺動型歯車装置1」は、本願発明1の「偏心揺動型減速装置」に相当する。
引用発明の「偏心部10a,10b」は、本願発明1の「偏心体」に相当する。
引用発明の「ピン溝2b」、「外筒2」及び「内歯ピン3」は、各々本願発明1の「ピン溝」、「内歯歯車本体」及び「ピン部材」に相当する。
引用発明において、「外筒2」は、内周面に取り付けられた「内歯ピン3」を介して「第1揺動歯車14の第1外歯14a及び第2揺動歯車16の第2外歯16a」と噛み合っているから、引用発明の「第1揺動歯車14」及び「第2揺動歯車16」は、本願発明1の「外歯歯車」に相当し、引用発明の「外筒2」及び「内歯ピン3」は、本願発明1の「前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車」に相当する。
引用発明の「外筒2は、アルミニウム合金製である」ことは、「アルミニウム合金により構成され」ている限りにおいて、本願発明1の「前記内歯歯車本体は、Siの含有量が6.0重量%以上のアルミニウム合金により構成される」ことと一致する。

以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

【一致点】
「外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、
前記外歯歯車を揺動させる偏心体と、を備える偏心揺動型減速装置であって、
前記内歯歯車は、ピン溝が設けられた内歯歯車本体と、前記ピン溝に回転自在に配置されたピン部材と、を有し、
前記内歯歯車本体は、アルミニウム合金により構成される偏心揺動型減速装置。」

【相違点】
「アルミニウム合金」について、本願発明1は、「Siの含有量が6.0重量%以上」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

引用文献2には、デフケースがアルミ合金からなること、及び、当該アルミ合金のSiの含有量が質量比で4.0〜8.0%、好ましくは6.0〜7.0%であることが記載されており、「Siの含有量が6.0重量%以上」となるような組成のアルミニウム合金が開示されていると認められる。

しかしながら、引用発明の「内歯歯車本体」と、引用文献2の「デフケース」とは、同一の技術分野に属するものではなく、各々に要求される機械的性質が異なることは明らかである。
してみれば、引用発明の「内歯歯車本体」の機械的性質を向上させることが技術常識であったとしても、引用発明の「内歯歯車本体」の機械的性質を向上させる目的で引用文献2の「デフケース」の組成を採用することの動機付けはない。

なお、Siの含有量が6質量%以上になるような耐摩耗性に優れたアルミニウム合金は、A4032のように4000系アルミニウム合金としてJISに規定された成分規格であり、本願出願時における技術常識である。
しかし、引用発明の「アルミニウム合金」として、「内歯歯車本体」の耐摩耗性を向上させる目的で、4000系アルミニウム合金を採用することの動機付けはない。

よって、本願発明1は、本願出願時の技術常識を考慮したとしても、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2〜4について
本願発明2〜4も、本願発明1の「前記内歯歯車本体は、Siの含有量が6.0重量%以上のアルミニウム合金により構成される」という構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、本願出願時の技術常識を考慮したとしても、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1〜4は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1及び2に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-07-11 
出願番号 P2018-045343
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 保田 亨介
平瀬 知明
発明の名称 偏心揺動型減速装置  
代理人 小島 誠  

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