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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1387379
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-12-21 
確定日 2022-07-26 
事件の表示 特願2017− 50846「キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日出願公開、特開2018−155827、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017−50846号(以下「本件出願」という。)は、平成29年3月16日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 9月15日提出:刊行物提出書
令和2年10月27日付け:拒絶理由通知書
令和2年12月22日提出:意見書
令和2年12月22日提出:手続補正書
令和3年 3月 5日提出:刊行物提出書
令和3年 5月18日付け:拒絶理由通知書
令和3年11月 9日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年12月21日提出:審判請求書
令和4年 4月 2日提出:刊行物提出書


第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。
理由1(新規性)及び理由2(進歩性
本件出願の(令和2年12月22日にした手続補正後の)請求項1〜5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるか、もしくは、当該発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2016−200669号公報
引用文献2:特開昭60−146252号公報
引用文献3:特開昭60−263955号公報
引用文献4:特開昭61−7850号公報
引用文献5:特許第5828569号公報
引用文献6:特開2013−103869号公報
引用文献7:特開2012−194307号公報
引用文献8:特許第5726360号公報
参考文献A:特開2016−80991号公報
(引用文献1〜8はそれぞれが主引例である。参考文献Aは周知慣用技術を示す参考文献である。)

理由3(明確性
本件出願は、(令和2年12月22日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1〜5の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。


第3 本件発明
本件出願の請求項1〜5に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、令和2年12月4日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1〜5の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表されるフェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が21個数%以上60個数%以下含まれ、
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で、
磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である
ことを特徴とするキャリア芯材。
【請求項2】
体積平均粒径が25μm以上50μm未満である請求項1記載のキャリア芯材。
【請求項3】
前記結合粒子以外の通常粒子の表面の最大山谷深さRzが1.2μm以上2.2μm以下である請求項1又は2に記載のキャリア芯材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のキャリア芯材の表面が樹脂で被覆されていることを特徴とする電子写真現像用キャリア。
【請求項5】
請求項4記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤。」


第4 引用文献の記載及び引用文献に記載された発明
1 引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1(特開2016−200669号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。(なお、下線は当審において付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。以下、同様である。)
ア 「【請求項1】
組成式MXFe3−XO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Sr,Cu,Zn,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される材料を主成分とするキャリア芯材であって、
下記式から算出される包絡係数Eの平均値が5.0〜7.0の範囲であることを特徴とするキャリア芯材。
E=(L1−L2)/L2×100 ・・・・・・(1)
(式中、L1:キャリア芯材投影像の周囲長,L2:キャリア芯材投影像の包絡線の長さ)
【請求項2】
前記包絡係数Eが7.0以上である粒子が20個数%以上含まれる請求項1記載のキャリア芯材。」

イ 「【発明を実施するための形態】
・・・中略・・・
【0039】
次に、前記の造粒物を所定温度に加熱した炉に投入して、第1焼成物としてのフェライト粒子を合成するための一般的な手法で第1焼成を行いフェライト粒子を生成させる。焼成温度としては700℃〜1300℃の範囲が好ましい。焼成温度が700℃未満であると、粒子の強度が十分に得られず以降の金属化合物粉との混合工程において粒子の割れが発生し、粒子形状が悪化してしまう不具合が生じる。また、焼成温度が1300℃を超えると、過剰焼結により以降の解粒工程において粒子の割れ欠けが発生し粒子形状が悪化してしまう不具合が生じる。また、第1焼成工程における焼成炉内の雰囲気については特に指定はない。コストの面からは大気雰囲気下で行うことが好ましいが、窒素雰囲気下など還元雰囲気下で実施してもよい。
・・・中略・・・
【実施例】
【0066】
実施例1
原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)21.5kg、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)10.0kg、SrCO3(平均粒径:0.6μm)0.28kgを純水10.43kg中に分散し、還元剤としてカーボンブラックを126g、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を190g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し1175℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1175℃で3時間保持することにより第一の焼成を行った。その後10時間かけて室温まで冷却した。昇温及び保持時、冷却時の電気炉内の雰囲気は大気下で焼成を行った。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動ふるいを用いて分級することにより平均粒径35.0μmの第1焼成物を得た。また、ふるい分けより得られた粗粒粉と微粒粉を振動ボールミル(メディア径5mm)を用いて300分間粉砕処理を行い、平均粒径3μmの混合用金属化合物粉を得た。
その後、第1焼成物10kgと混合用金属化合物粉2kgをV型混合機を用いて300分間混合処理を行った。得られた混合物を、電気炉に投入し1200℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1200℃で3時間保持することにより第2焼成を行った。その後10時間かけて室温まで冷却した。昇温及び保持時、冷却時の電気炉内の雰囲気は酸素濃度1.5%雰囲気下で第2焼成を行った。得られた第2焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動ふるいを用いて分級することにより平均粒径34.6μmの第2焼成物であるキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の組成、物性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表2に示す。また、図2に、実施例1のキャリア芯材のSEM写真を示す。
・・・中略・・・
【0082】
(磁気特性)
室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製「VSM−P7」)を用いて、外部磁場を0〜79.58×104A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して、飽和磁化、残留磁化、保磁力及び79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1k(Am2/kg)をそれぞれ測定した。
・・・中略・・・
【0089】
【表2】



(2)引用文献1に記載された発明
ア 引用発明1−1
引用文献1の【0066】に記載された実施例1は、【請求項1】に記載された「キャリア芯材」を具現化した態様であるところ、【0038】の記載を鑑みるに、【請求項1】のキャリア芯材はフェライト粒子からなるものであることは明らかである。また、【0089】【表2】に記載された実施例1のキャリア芯材の磁化「σ1k」は、【0082】の測定方法により測定されたものである。
以上の点をふまえ、引用文献1には、実施例1として、以下の「キャリア芯材」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「組成式MXFe3−XO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Sr,Cu,Zn,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される材料を主成分とするフェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
下記式(1)から算出される包絡係数Eが7.0以上である粒子が20個数%以上含まれ、
79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1k(Am2/kg)が58.7Am2/kgである。キャリア芯材。
E=(L1−L2)/L2×100 ・・・・・・(1)
(式中、L1:キャリア芯材投影像の周囲長,L2:キャリア芯材投影像の包絡線の長さ)」

イ 引用発明1−2〜引用発明1−7
上記引用発明1−1と同様に、引用文献1の実施例2〜7に記載された態様から理解される「キャリア芯材」の発明を、以下それぞれ「引用発明1−2」〜「引用発明1−7」という。

2 引用文献2の記載及び引用文献2に記載された発明
(1)引用文献2の記載
引用文献2(特開昭60−146252号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「特許請求の範囲
1.電気抵抗が102Ω・cm以上で飽和磁化が10emu/g以上の特性を有し、平均粒径が5〜1000μmの軟磁性を示す金属酸化物からなるキャリアにおいて、大粒子と小粒子を固着した異形キャリアまたは繭状等の偏平キャリアを含む電子写真用現像剤。」
・・・中略・・・
3.特許請求の範囲第1項または第2項記載のものにおいて、上記異形キャリアまたは偏平キャリアがフェライトキャリアであることを特徴とする電子写真用現像剤。」(第1頁左下欄)

イ 「発明の詳細な説明
・・・中略・・・
実施例1
モル比でBaO20%、ZnO15%、NiO5%、Fe2O360%となるように秤量し、ボールミルで混合した。混合粉は900℃で2時間仮焼した。仮焼した試料は再びボールミルで粉砕し、粒子径を1μmとした。つぎに粘結剤を用い大小の球状粒子を適当に含む条件で造粒後1300℃で2時間空気中で焼結した。
・・・中略・・・
表から明らかなように本発明のフェライトキャリア現像剤は、大小球状の固着した異形キャリアを10重量%以上加えることにより、画像濃度は急激に増大し、その後配合量を増しても画像濃度はほとんど低下しない。また、現像剤寿命は大小球状フェライト粒子と固着した異形フェライトキャリアを配合することにより長寿命となり、本発明の効果が顕著であることがわかる。
また、より詳細な検討を行った結果、本発明において、フェライトキャリア現像剤としての良質な画像と高寿命を得るための大小球状の固着異形キャリアの配合範囲は5〜60重量%が望ましいことが秋か(当合議体注:「明らか」の誤記と考えられる。)にされた。」(第1頁右下欄〜第3頁右上欄。)

(2)引用文献2に記載された発明
引用文献2には、特許請求の範囲の1.を引用する3.の記載及び上記イの実施例の態様から理解される「キャリア」の発明(以下「引用発明2」という。)として、以下の発明が記載されていると認める。
「電気抵抗が102Ω・cm以上で飽和磁化が10emu/g以上の特性を有し、平均粒径が5〜1000μmの軟磁性を示す金属酸化物からなるキャリアにおいて、
大粒子と小粒子を固着した異形キャリアまたは繭状等の偏平キャリアがフェライトキャリアであり、
大小球状フェライト粒子と固着した異形フェライトキャリアを配合したものである、キャリア。」

3 引用文献3の記載及び引用文献3に記載された発明
(1)引用文献3の記載
引用文献3(特開昭60−263955号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「特許請求の範囲
1.軟磁性を示すフェライト粉末を造粒後焼結して得られた粒子からなる静電荷像現像剤用キャリアにおいて、前記フェライト粉末を中央部付近がくびれた長形状に造粒後焼結して得られた粒子からなる静電荷像現像剤用キャリア。」(第1頁左下欄)

イ 「構成
・・・中略・・・
一般に、上述した種々の組成を有するキャリアは次のような各工程を経て製造される。・・・中略・・・次にこの粉砕粉を、必要に応じて粘結剤(例えばPVA)を加えて加熱雰囲気中で雰霧乾燥(当合議体注:「噴霧乾燥」の誤記と考えられる。)して球状粒子を得る。そして得られた球状粒子を1000〜1300℃の温度で焼結してから分級して所定の粒度分布を有する球状フェライトキャリアが得られる。
・・・中略・・・
異形粒子からなるキャリアを使用すると磁気ブラシの直線性が柔らげられる。そのため、現像剤の混合能力が増ししかも磁気ブラシの山の部分の現像電極効果が大きくなるので現像性が向上し、従って高い画像濃度が得られる。
・・・中略・・・
実施例1
モル比でBaO15%、ZnO25%、NiO10%、Fe2O360%となるように各原料を秤量し、高速攪拌型混合機で乾式混合した。得られた混合粉を900℃の温度で2h仮焼し、ついで仮焼粉を湿式ボールミルに投入して粒径1μm以下の粒子に粉砕した。得られた粉砕スラリーに粘結剤(PVA)を加えて第2図に示す装置にて造粒した。ついで1300℃の温度で2h、空気中で焼結し、しかる後分級して粒径63〜125μmのフェライトキャリア(No1:σs=60emu/g、抵抗率=3×109Ω・cm)を得た。」(第2頁左下欄〜第4頁右上欄)

(2)引用文献3に記載された発明
引用文献3には、特許請求の範囲1.の記載及び上記イの「構成」の態様から理解される「静電荷像現像剤用キャリア」の発明(以下「引用発明3」という。)として、以下の発明が記載されていると認める。
「軟磁性を示すフェライト粉末を造粒後焼結して得られた粒子からなる静電荷像現像剤用キャリアにおいて、前記フェライト粉末を中央部付近がくびれた長形状に造粒後焼結して得られた粒子からなる静電荷像現像剤用キャリアであって、
上記キャリアは、所定の粒度分布を有する球状フェライトキャリアである、静電荷像現像剤用キャリア。」

4 引用文献4の記載及び引用文献4に記載された発明
(1)引用文献4の記載
引用文献4(特開昭61−7850号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「特許請求の範囲
1. 軟磁性を示すフェライト粉末を造粒および焼結して得られた粒子からなる静電荷像現像剤用キャリアにおいて、前記焼結粉に低融点ガラス粉末を添加して熱処理を行い、球状粒子が複数個集合した粒子からなることを特徴とする静電荷像現像剤用キャリア。」(第1頁左下欄)

イ 「発明の構成
・・・中略・・・
異形粒子からなるキャリアを使用すると磁気ブラシの直線性が柔らげられる。そのため、現像剤の混合能力が増し、しかも磁気ブラシの山の部分の現像電極効果が大きくなるので現像性が向上し、よって高い画像濃度が得られる。
・・・中略・・・
実施例1
モル比でBaO15%、ZnO25%、HiO(当合議体注:「NiO」の誤記と考えられる。)10%、Fe2O360%となるように各原料を秤量し、高速攪拌型混合機で乾式混合した。得られた混合粉を900℃の温度で2h仮焼し、ついで仮焼粉を湿式ボールミルに投入して粒径1μm以下の粒子に粉砕した。得られた粉砕スラリーに粘結剤(PVA)を加えて350℃の温度にて噴霧乾燥して、造粒粉を得た。該造粒粉を1300℃の温度で2時間空気中で焼結し、ついで解砕及び分級を行い、粒径149μm以下のキャリア材を得た。このキャリア材100重量部に対し、Na2OとB2O3とSiO2からなる低融点のフリット剤粉末1重量部を加え、700℃に設定された外熱式ロータリーキルンで熱処理を行い、ガラスボンドされたフェライトキャリア(No1)を得た。」(第2頁左下欄〜第4頁右上欄)

(2)引用文献4に記載された発明
引用文献4の特許請求の範囲には、その具体的な態様としての実施例1に係る、以下の「静電荷像現像剤用キャリア」の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認める。
「軟磁性を示すフェライト粉末を造粒および焼結して得られた粒子からなる静電荷像現像剤用キャリアにおいて、前記焼結粉に低融点ガラス粉末を添加して熱処理を行い、球状粒子が複数個集合した粒子からなることを特徴とする静電荷像現像剤用キャリア。」

5 引用文献5の記載及び引用文献5に記載された発明
(1)引用文献5の記載
引用文献5(特許第5828569号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
球形粒子が2個〜5個の結合した結合粒子が5個数%〜20個数%含まれ、
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で、
前記結合粒子は、粒径の最も大きい母粒子と、前記母粒子よりも粒径の小さい1個〜4個の子粒子とが結合した粒子であり、
前記子粒子の粒径はすべて、前記母粒子の粒径の1/2以下であることを特徴とするフェライト粒子からなるキャリア芯材。」

イ 「【発明を実施するための形態】
・・・中略・・・
【0060】
実施例3
Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.6kg、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)1.1kg、MgO(平均粒径:0.8μm)1.3kgを純水5.0kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を30g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜100μmの乾燥造粒物を得た。得られた造粒粉の一部を目開き67μmのステンレス篩を用いて分級処理を行った。このとき篩上に排出された造粒物を焼成用主原料とした。この焼成用原料の粒径は82μmであった。次に、造粒粉の残りを目開き48μmのステンレス網を使用して分級処理を行った。このとき篩下に通過した造粒物を焼成用副原料とした。この焼成用副原料の粒径は30μmであった。
次に焼成用主原料100重量部に対して5重量部の焼成用副原料を加え、V型混合機にて30分間混合処理を行った。このようにして得られた混合粉末を焼成用原料とした。
上記焼成用原料を、電気炉に投入し1150℃まで6時間かけて昇温した。その後、1150℃で3時間保持することにより焼成を行った。その後8時間かけて室温まで冷却した。この間、電気炉内の酸素濃度は15000ppmとなるよう、酸素と窒素とを混合したガスを炉内に供給した。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動ふるいを用いて分級した。このとき、目開き54μmのステンレス篩を使用して小粒径の粒子を除去して、キャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性、粒子形状、現像剤特性を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。また、図3に、実施例3のキャリア芯材のSEM写真を示す。
【0061】
実施例4
実施例3において焼成時の温度を1250℃とする以外は同様にしてキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性、粒子形状、現像剤特性を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。また、図4に、実施例4のキャリア芯材のSEM写真を示す。
・・・中略・・・
【0064】
実施例5
Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.6kg、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)1.1kg、MgO(平均粒径:0.8μm)1.3kgを純水5.0kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を30g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜100μmの乾燥造粒物を得た。得られた造粒粉の一部を目開き33μmのステンレス篩を用いて分級処理を行った。このとき篩上に排出された造粒物を焼成用主原料とした。この焼成用原料の粒径は42μmであった。次に、造粒粉の残りを目開き25μmのステンレス網を使用して分級処理を行った。このとき篩下に通過した造粒物を焼成用副原料とした。この焼成用副原料の粒径は16μmであった。
次に焼成用主原料100重量部に対して5重量部の焼成用副原料を加え、V型混合機にて30分間混合処理を行った。このようにして得られた混合粉末を焼成用原料とした。
上記焼成用原料を、電気炉に投入し1120℃まで6時間かけて昇温した。その後、1150℃で3時間保持することにより焼成を行った。その後8時間かけて室温まで冷却した。この間、電気炉内の酸素濃度は10000ppmとなるよう、酸素と窒素とを混合したガスを炉内に供給した。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動ふるいを用いて分級した。このとき、目開き25μmのステンレス篩を使用して小粒径の粒子を除去して、キャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性、粒子形状、現像剤特性を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。また、図5に、実施例5のキャリア芯材のSEM写真を示す。
【0065】
実施例6
実施例5において焼成用主原料100重量部に対する焼成用副原料を10重量部とする以外は同様にしてキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性、粒子形状、現像剤特性を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。また、図6に、実施例6のキャリア芯材のSEM写真を示す。
・・・中略・・・
【0072】
(磁気特性)
室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製「VSM−P7」)を用いて、外部磁場を0〜79.58×104A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して、飽和磁化、残留磁化、保磁力及び79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1k(Am2/kg)をそれぞれ測定した。
・・・中略・・・
【0076】
【表1】



(2)引用文献5に記載された発明
ア 引用発明5−3
引用文献5の【0060】及び【0076】【表1】に記載された実施例3は、【請求項1】に係る「キャリア芯材」を具現化した態様である。また、実施例3における結合粒子の含有率及び磁化の測定は、それぞれ【0067】及び【0072】に記載の手段により測定されたものである。
以上の点をふまえ、引用文献5には、実施例3として、以下の「キャリア芯材」の発明(以下「引用発明5−3」という。)が記載されていると認める。
「フェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個〜5個の結合した結合粒子が8.0個数%含まれ、
前記結合粒子以外の通常粒子は球形であり、
焼成用主原料(母粒子)の粒径が82μmであり、焼成用副原料(子粒子)の粒径が30μmであり、焼成用主原料100重量部に対して5重量部の焼成用副原料の割合で焼成して得られたものであり、
前記結合粒子は、粒径の最も大きい母粒子と、前記母粒子よりも粒径の小さい1個〜4個の子粒子とが結合した粒子であり、
前記子粒子の粒径はすべて、前記母粒子の粒径の1/2以下であり、
79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1k(Am2/kg)が58.5Am2/kgである、キャリア芯材。」

イ 引用発明5−4〜引用発明5−6
上記引用発明5−3と同様に、引用文献5の実施例4〜6の態様から理解される「キャリア芯材」の発明を、以下それぞれ「引用発明5−4」〜「引用発明5−6」という。

6 引用文献6の記載及び引用文献6に記載された発明
(1)引用文献6の記載
引用文献6(特開2013−103869号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
組成式MXFe3−XO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素、0≦X≦1)で表される材料を主成分とし、内部に空孔を有するフェライト粒子であって、
粒子断面積における空孔総面積率が5%以上で20%未満で、且つ、最大空孔面積の空孔総面積に占める割合が50%以上であり、
粒径から算出される比表面積値に対する、実測したBET比表面積値の割合が7倍以下であることを特徴とするフェライト粒子。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト粒子並びにそれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤等に関するものである。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記提案のキャリアコア粒子では、粒子内に形成される空孔が大きく、画像形成速度の速い装置に用いた場合、キャリアコア粒子が割れや欠けが発生するおそれがある。また、空孔の体積が大きいため相対的に磁性相の体積が減少し、磁気ブラシの拘束力が低下することによりキャリア飛散などの画質異常が生じやすくなる。更に、粒子内の空孔が外部と繋がっている場合には、キャリアコア粒子を樹脂で被覆する際、被覆樹脂が粒子内に浸み込む量が多くなり経済性が悪くなる。また、キャリアコア粒子の製造工程において高抵抗化を目的として表面酸化処理をする場合、粒子内部まで酸化されてしまい磁気特性が低下する。
【0008】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子写真方式画像形成装置のキャリアとして用いた場合に、画像形成速度が速くなっても割れや欠けが生じることがなく、また回転トルクが大きくならず、さらに高抵抗・高磁力を有するフェライト粒子及びその製造方法を提供することにある。」

ウ 「【0054】
実施例1
Mnフェライト粒子を下記方法で作製した。出発原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.0kgと、MnCO3(平均粒径:5.0μm)0.4kgと、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)2.6kgとを純水3.0kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を60g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
【0055】
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜100μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から、粒径100μmを超える粗粒は篩網を用いて除去した。
【0056】
この造粒物を、電気炉に投入し1100℃まで2時間かけて昇温し、その後1100℃で3時間保持し焼成を行った。このとき、電気炉内の酸素濃度は5000ppmとなるよう、酸素と窒素とを混合したガスを電気炉内に供給した。
【0057】
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動ふるいを用いて分級した。そして、さらに大気雰囲気下において温度450℃で1時間高抵抗化処理を行い平均粒径34.7μmのフェライト粒子を得た。
【0058】
得られたフェライト粒子の粒子断面における空孔の総面積率P1、最大空孔の面積率P2、最大空孔面積の空孔総面積に占める割合P2/P1、粒径から算出される理論比表面積S1、BET比表面積S2、見掛け密度、磁気特性、電気抵抗を下記に示す方法でそれぞれ測定した。表2に測定結果をまとめて示す。また、図1に粒子断面のSEM写真を示す。
・・・中略・・・
【0063】
(磁気特性)
室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製「VSM−P7」)を用いて、外部磁場を0〜79.58×104A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して、79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1000(Am2/kg)及び保磁力Hcをそれぞれ測定した。
・・・中略・・・
【0065】
実施例2〜10,比較例1〜6
表1に示す出発原料及び配合量、焼成温度で実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製した。そして、実施例1と同様にして各物性を測定した。表2に測定結果をまとめて示す。また、図2及び図3に実施例2及び実施例3のフェライト粒子の断面SEM写真を示す。さらに、図4に比較例1のフェライト粒子の断面SEM写真を示す。また、図5に、実施例1〜5及び比較例1〜4のフェライト粒子における見掛け密度と磁化σ1000との関係を示すグラフを、図6に、実施例6〜10及び比較例5,6のフェライト粒子における見掛け密度と磁化σ1000との関係を示すグラフをそれぞれ示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】



(2)引用文献6に記載された発明
ア 引用発明6−6
引用文献6の【0007】の記載から、【請求項1】の「フェライト粒子」は「キャリアコア粒子」として用いるものであることは明らかである。そして、引用文献6の【0065】、【0066】【表1】及び【0067】【表2】に記載の実施例6は、【請求項1】に係る「フェライト粒子」を具現化した態様であり、その組成から、【請求項1】のXの範囲が0<X<1の態様であることも明らかである。また、実施例6における「磁化σ1000」は【0063】の測定方法で測定したものである。
以上の点をふまえ、引用文献6には、実施例6として、以下の「電子写真現像用キャリア」の発明(以下「引用発明6−6」という。)が記載されていると認める。
「組成式MXFe3−XO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素、0<X<1)で表される材料を主成分とし、内部に空孔を有するフェライト粒子を用いたキャリアコア粒子であって、
79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1000(Am2/kg)が58.1Am2/kgである、キャリアコア粒子。」

イ 引用発明6−7〜引用発明6−10
上記引用発明6−6と同様に、引用文献6の実施例7〜10の態様から理解される「電子写真現像用キャリア」の発明を、以下それぞれ「引用発明6−7」〜「引用発明6−10」という。

7 引用文献7の記載及び引用文献7に記載された発明
(1)引用文献7の記載
引用文献7(特開2012−194307号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
一般式:MxFe3−xO4(0≦x≦1、ただし、Mは、Mg、Mn、Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
体積粒径分布における中心粒径の値が、30μm以上40μm以下の範囲にあり、 体積粒径分布における粒径の値が22μm以下のものの割合が、1.0%以上2.0%以下であり、
個数粒径分布における粒径の値が22μm以下のものの割合が、10%以下であり、
外部磁場が1000Oeである場合における磁化の値が、50emu/g以上75emu/g以下である、電子写真現像剤用キャリア芯材。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材について説明する。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材については、その外形形状が、略球形状である。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の粒径および粒度分布については、後述する。キャリア芯材の表面には、主に後述する焼成工程で形成される微小の凹凸が形成されている。
・・・中略・・・
【0038】
その後、造粒した造粒物について、焼成を行なう(図1(D))。具体的には、得られた造粒粉を、900〜1500℃程度に加熱した炉に投入し、1〜24時間保持して焼成し、目的とする焼成物を生成させる。このとき、焼成炉内の酸素濃度は、フェライト化の反応が進む条件であればよく、具体的には、1200℃の場合、10−7%以上3%以下となるよう導入ガスの酸素濃度を調整し、フロー状態下で焼成を行う。
・・・中略・・・
【実施例】
【0054】
Fe2O3(平均粒径:1μm)13.7kg、Mn3O4(平均粒径:1μm)6.5kgを水7.5kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を135g、還元剤としてカーボンブラックを68g添加して混合物とした。このときの固形分濃度を測定した結果、75重量%であった。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
【0055】
このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、乾燥造粒粉を得た。なお、このとき、目的の粒度分布以外の造粒粉は、ふるいにより除去した。この造粒粉を、電気炉に投入し、1130℃で3時間焼成した。このとき、電気炉内は酸素濃度が0.8%となるよう、雰囲気を調整した電気炉にフローした。得られた焼成物を解粒後にふるいを用いて分級し、平均粒径35μmとした。さらに、得られたキャリア芯材に対して、470℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施した。そして、振動篩等を用いて中心粒径等を調整し、実施例1に係るキャリア芯材を得た。なお、実施例2〜8、および比較例1〜4については、調整工程までは同様の工程であり、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表1に示す。
・・・中略・・・
【0058】
また、表1中の磁気的特性を示す磁化の測定については、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて、磁化率を測定した。ここで、表中、「σ1000」とは、外部磁場79.58×103(A/m)(1k(1000)Oe)である場合における磁化である。
・・・中略・・・
【0062】
このキャリアと粒径5μm程度のトナーとを、ポットミルを用いて所定時間混合し、実施例1に係る二成分系の電子写真現像剤を得た。この二成分系の電子写真現像剤を用い、デジタル反転現像方式を採用する60枚機を評価機として使用し、キャリア飛散および画質について評価した。実施例2〜8、比較例1〜4についても同様の手法で、実施例2等に係るキャリア、および実施例2等に係る電子写真現像剤を得た。
・・・中略・・・
【0071】
【表1】



(2)引用文献7に記載された発明
ア 引用発明7−6
引用文献7の【0054】、【0062】及び【0071】【表1】に記載の実施例6には、【請求項1】の「キャリア芯材」の組成において、0<x<1である態様が記載されている。また、当該態様に係る磁化は、【0058】の測定によるものである。
以上の点をふまえ、引用文献7には、実施例6として、以下の「電子写真現像剤用キャリア芯材」の発明(以下「引用発明7−6」という。)が記載されていると認める。
「一般式:MxFe3−xO4(0<x<1、ただし、Mは、Mg、Mn、Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
外部磁場79.58×103(A/m)(1k(1000)Oe)である場合における磁化であるσ1000が61.9Am2/kgである、電子写真現像剤用キャリア芯材。」

イ 引用発明7−8
上記引用発明7−6と同様に、引用文献7の実施例8の態様から理解される「キャリア芯材」の発明を、以下「引用発明7−8」という。

8 引用文献8の記載及び引用文献8に記載された発明
(1)引用文献8の記載
引用文献8(特許第5726360号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
球形粒子が2個〜5個の結合した結合粒子が5個数%〜20個数%含まれ、
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で、
前記結合粒子は、粒径の最も大きい母粒子と、前記母粒子よりも粒径の小さい1個〜4個の子粒子とが結合した粒子であり、
前記子粒子の少なくとも1つの子粒子の粒径は、前記母粒子の粒径の1/2よりも大きいことを特徴とするフェライト粒子からなるキャリア芯材。」

イ 「【発明を実施するための形態】
・・・中略・・・
【0026】
本発明のキャリア芯材を構成するフェライト粒子の組成に特に限定はなく、組成式MXFe3−XO4(但し、Mは、Mg,Mn,Ca,Ti,Sr,Cu,Zn,Niからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素、0≦X≦1)で表されるものが例示される。これらの中でも、一般式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zで表され、x,y,zがそれぞれ45mol%〜55mol%,0〜20mol%,30mol%〜50mol%であり、MnO及び/又はMgOの一部をSrOで0.15mol%〜1.0mol%置換したものが好ましい。
・・・中略・・・
【0054】
実施例1
Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.985kg、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)3.814kg、SrCO3(平均粒径:0.6μm)0.112kgを純水5.58kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を30g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径50μmを超える粗粒は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し1170℃まで4.5時間かけて昇温した。その後、1170℃で10時間保持することにより焼成を行った。その後8時間かけて室温まで冷却した。この間、電気炉内の酸素濃度は15000ppmとなるよう、酸素と窒素とを混合したガスを炉内に供給した。
得られた焼成物をハンマーミル(三庄インダストリー社製「ハンマークラッシャーNH−34S」,スクリーン目開き:0.3mm)で1回解粒した後、パルベライザー(DOWAテクノエンジ社製)でさらに2回解粒し、平均粒径34.0μmのキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、物性、最大山谷深さRz、結合粒子の直径比、結合粒子割合、現像剤特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表2に示す。また、図1に、実施例1のキャリア芯材のSEM写真を示す。
【0055】
実施例2
実施例1において焼成温度1170℃での保持時間を8時間とし、パルベライザーによる解粒処理を1回とした以外は、実施例1と同様にして平均粒径35.0μmのキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、物性、最大山谷深さRz、結合粒子の直径比、結合粒子割合、現像剤特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表2に示す。また、図2に、実施例2のキャリア芯材のSEM写真を示す。
【0056】
実施例3
実施例1において焼成温度1170℃での保持時間を8時間とし、パルベライザーによる解粒処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして平均粒径34.9μmのキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、物性、最大山谷深さRz、結合粒子の直径比、結合粒子割合、現像剤特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表2に示す。また、図3に、実施例3のキャリア芯材のSEM写真を示す。
・・・中略・・・
【0059】
実施例4
Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.985kg、MgO(平均粒径:0.8μm)0.183kg、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)2.773kg、SrCO3(平均粒径:0.6μm)0.013kgを純水5.58kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を30g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径50μmを超える粗粒は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し1300℃まで4.5時間かけて昇温した。その後、1300℃で6時間保持することにより焼成を行った。その後8時間かけて室温まで冷却した。この間、電気炉内の酸素濃度は15000ppmとなるよう、酸素と窒素とを混合したガスを炉内に供給した。
得られた焼成物をハンマーミル(スクリーン目開き:0.3mm)で1回解粒した後、パルベライザーで1回解粒し、平均粒径33.5μmのキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、物性、最大山谷深さRz、結合粒子の直径比、結合粒子割合、現像剤特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表2に示す。また、図6に、実施例4のキャリア芯材のSEM写真を示す。
【0060】
実施例5
原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.985kg、MgO(平均粒径:0.8μm)0.403kg、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)3.051kg、SrCO3(平均粒径:0.6μm)0.097kgを用い、焼成温度1300℃での保持時間を8時間とし、パルベライザーによる解粒処理を行わなかった以外は、実施例4と同様にして平均粒径36.5μmのキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、物性、最大山谷深さRz、結合粒子の直径比、結合粒子割合、現像剤特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表2に示す。また、図7に、実施例5のキャリア芯材のSEM写真を示す。
【0061】
実施例6
原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.985kg、MgO(平均粒径:0.8μm)0.605kg、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)2.669kg、SrCO3(平均粒径:0.6μm)0.067kgを用い、焼成温度1300℃での保持時間を8時間とした以外は、実施例4と同様にして平均粒径36.3μmのキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、物性、最大山谷深さRz、結合粒子の直径比、結合粒子割合、現像剤特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表2に示す。また、図8に、実施例6のキャリア芯材のSEM写真を示す。
・・・中略・・・
【0064】
(結合粒子の含有率及び粒径)
キャリア芯材の形状を走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM−6510LA)を用いて倍率250倍で撮影した。撮影した画像より任意の400粒子を選択し、その中で結合粒子の数をカウントし、上記400粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子含有率とした。
なお、結合粒子は、粒径の最も大きい母粒子と、前記母粒子よりも粒径の小さい1個〜4個の子粒子とが結合した粒子であり、前記子粒子の少なくとも1つの子粒子の粒径は、前記母粒子の粒径の1/2よりも大きいものとした。そして、結合粒子では母粒子と子粒子とが結合部分を共有した形態で存在しているので、母粒子及び子粒子の粒径は、キャリア芯材の形状を走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM−6510LA)を用いて倍率250倍で撮影した画像において、結合粒子の結合部分を除いた領域から粒子を球形近似することによりそれぞれ算出した。
・・・中略・・・
【0068】
(磁気特性)
室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製「VSM−P7」)を用いて、外部磁場を0〜79.58×104A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して、飽和磁化、残留磁化、保磁力及び79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1k(Am2/kg)をそれぞれ測定した。
・・・中略・・・
【0075】
【表2】



(2)引用文献8に記載された発明
ア 引用発明8−1
引用文献8の【0054】及び【0075】【表2】に記載された実施例1は、【請求項1】に係るキャリア芯材を具現化した態様である。また、実施例1における結合粒子の含有率及び磁化の測定は、それぞれ【0064】及び【0068】に記載の手段により測定されたものである。さらに、引用文献8の実施例1の態様のフェライト粒子は、【0054】の原材料の記載から、【0026】に記載された組成において、0<X<1の組成比で表されることは明らかである。
以上の点をふまえ、引用文献8には、実施例1として、以下の「キャリア芯材」の発明(以下「引用発明8−1」という。)が記載されていると認める。
「組成式MXFe3−XO4(但し、Mは、Mg,Mn,Ca,Ti,Sr,Cu,Zn,Niからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素、0≦X≦1)で表されるフェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個〜5個の結合した結合粒子が5.7個数%含まれ、
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で、
粒径10μm〜75μmの乾燥造粒物から粒径50μmを超える粗粒は篩を用いて除去して焼成を行って得られたものであり、
前記結合粒子は、粒径の最も大きい母粒子と、前記母粒子よりも粒径の小さい1個〜4個の子粒子とが結合した粒子であり、
前記子粒子の少なくとも1つの子粒子の粒径は、前記母粒子の粒径の1/2よりも大きく、
79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1k(Am2/kg)が59.5Am2/kgである、キャリア芯材。」

イ 引用発明8−2〜8−6
上記引用発明8−1と同様に、引用文献8の実施例2〜6の態様から理解される「キャリア芯材」の発明を、以下それぞれ「引用発明8−2」〜「引用発明8−6」という。


第5 当合議体の判断(理由1(新規性)及び理由2(進歩性
1 引用文献1を主引例とした場合
(1)本件発明1と引用発明1−1とを対比する。
ア フェライト粒子
引用発明1−1の「フェライト粒子」は、「組成式MXFe3−XO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Sr,Cu,Zn,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される材料を主成分とする」であるから、本件発明1のフェライト粒子の、「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される」という要件を満たすものである。

イ 磁化σ1k
引用発明1−1の「磁化σ1k」は、その定義からみて、本件発明1の「磁化σ1k」と同義であり、引用発明1−1の「磁化σ1k」は「58.7Am2/kg」であるから、本件発明1の「磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である」という要件を満たす。

(2)引用発明1−1に基づく一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明1−1とは、以下の点で一致する。
「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表されるフェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である、キャリア芯材。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明1−1とは、以下の点で相違する。
(相違点1−1)
本件発明1が「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が21個数%以上60個数%以下含まれ」るのに対して、引用発明1−1は、そのような態様であるか不明である点。

(相違点1−2)
本件発明1が「結合粒子以外の通常粒子は球形で」あるのに対して、引用発明1−1は、そのような態様であるか不明である点。

(3)引用発明1−1に基づく判断
ア 相違点1−2について
事案に鑑み、まず、相違点1−2について検討する。
引用文献1には、「結合粒子」に関する記載はない。そして、キャリア芯材の形状について、
「E=(L1−L2)/L2×100 ・・・・・・(1)
(式中、L1:キャリア芯材投影像の周囲長,L2:キャリア芯材投影像の包絡線の長さ)」から算出される「包絡係数Eが7.0以上である粒子が20個数%以上」含まれていることを特定するにとどまる。
ここで、引用発明1−1において「粒子が2個以上の結合した結合粒子」が全く含まれないことは想像し難く、上記式(1)の定義から、粒子が2個以上の結合した結合粒子は「包絡係数E」が大きくなることは理解できるとしても、「包絡係数Eが7.0以上である粒子」が、上記相違点1−1に係る「粒子が2個以上結合した結合粒子」であると直ちに判断することはできない。
したがって、引用発明1−1が上記相違点1−1に係る構成を具備する蓋然性が高いということはできない。
また、引用文献1には、引用発明1−1において、当業者が、上記相違点1−1に係る構成を採用する動機となり得る記載ないし示唆を見出すこともできない。

イ 小括
上記アのとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が引用発明1−1であるということはできないし、また、本件発明1が引用発明1−1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)本件発明2〜5について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜5は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明1−1であるということはできないし、引用発明1−1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(5)引用発明1−2〜引用発明1−7に基づく場合
引用発明1−2〜引用発明1−7のいずれに基づいても、上記(1)〜(4)と同様である。

2 引用文献2を主引例とした場合
(1)本件発明1と引用発明2とを対比する。
ア フェライト粒子及びキャリア芯材
引用発明2の「フェライトキャリア」は、その文言からみて、フェライト粒子からなるキャリア芯材を用いたキャリアであることは明らかである。
そうすると、引用発明2の「フェライトキャリア」は、本件発明1の「キャリア芯材」に相当する芯材を有し、「フェライト粒子からなる」という要件を満たす。

イ 通常粒子と結合粒子
引用発明2に含まれる「大粒子と小粒子を固着した異形キャリアまたは繭状等の偏平キャリア」の具体的な態様は「大小球状を固着した異形キャリア」(実施例1)であり、それ以外のものは「大小の球状粒子」(実施例1)である。
そうすると、引用発明2に含まれる「大粒子と小粒子を固着した異形キャリアまたは繭状等の偏平キャリア」が、本件発明1の「結合粒子」に相当し、「球形粒子が2個以上の結合した」ものであるという要件を満たす。また、引用発明2に含まれる上記「大粒子と小粒子を固着した異形キャリアまたは繭状等の偏平キャリア」以外のものが、本件発明1の「通常粒子」に相当し、「結合粒子以外の通常粒子は球形で」あるという要件を満たす。

(2)引用発明2に基づく一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明2とは、以下の点で一致する。
「フェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が含まれ
前記結合粒子以外の通常粒子は球形である、キャリア芯材。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明2とは、以下の点で相違する。
(相違点2−1)
本件発明1が「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子」の含有率が「21個数%以上60個数%以下」であるのに対して、引用発明2は「大小球状の固着異形キャリア」の配合がそのように特定されていない点。

(相違点2−2)
本件発明1が「磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である」のに対して、引用発明2はフェライトキャリアの磁化をそのように特定していない点。

(相違点2−3)
本件発明1のフェライト粒子が「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される」のに対して、引用発明2の「フェライトキャリア」はそのように組成式が特定されていない点。

(3)引用発明2に基づく判断
ア 相違点2−1について
引用文献2には、「本発明において、フェライトキャリア現像剤としての良質な画像と高寿命を得るための大小球状の固着異形キャリアの配合範囲は5〜60重量%が望ましいこと」が記載されているものの、当該配合範囲が本件発明1の「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子」の含有率である「21個数%以上60個数%以下」と完全に合致しないことは自然に理解できる。例えば、異形キャリアの配合量「5重量%」を、個数%に換算すれば「21個数%」よりも小さいことは明らかである。
そして、引用文献2には、引用発明2の「大小球状の固着異形キャリアの配合範囲」を個数%に換算して「21個数%以上60個数%以下」に調整する動機となり得る記載ないし示唆を見出すことはできない。

イ 小括
上記アのとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が引用発明2であるということはできないし、また、本件発明1が引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)本件発明2〜5について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜5は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明2であるということはできないし、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

3 引用文献3を主引例とした場合
(1)本件発明1と引用発明3とを対比する。
ア フェライト粒子及びキャリア芯材
引用発明3の「フェライトキャリア」は、その構成からみて、フェライト粒子からなるキャリア芯材を用いたキャリアであることは明らかである。
そうすると、引用発明3の「フェライトキャリア」は、本件発明1の「キャリア芯材」に相当する芯材を有し、「フェライト粒子からなる」という要件を満たす。

イ 通常粒子と結合粒子
引用発明3の「フェライトキャリア」は、「球状フェライトキャリア」が結合して、「中央部付近がくびれた長形状の粒子からなる」ものであるから、球形粒子が2個以上の結合した結合粒子であることは明らかである。また、全ての「球状フェライトキャリア」が結合して存在しているとは理解し難く、結合した粒子以外にも「球状フェライトキャリア」が存在すると解するのが自然である。
そうすると、引用発明3の「長形状の粒子」は、本件発明1の「結合粒子」に相当し、「球形粒子が2個以上の結合した」ものであるという要件を満たす。そして、引用発明3において結合せずに残っている「球状フェライトキャリア」が、本件発明1の「通常粒子」に相当し、「結合粒子以外の通常粒子は球形」であるという要件を満たす。

(2)引用発明3に基づく一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明3とは、以下の点で一致する。
「フェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が含まれ
前記結合粒子以外の通常粒子は球形である、キャリア芯材。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明3とは、以下の点で相違する。
(相違点3−1)
本件発明1が「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子」の含有率が「21個数%以上60個数%以下」であるのに対して、引用発明3は「長形状の粒子」の含有率が特定されていない点。

(相違点3−2)
本件発明1が「磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である」のに対して、引用発明3はフェライトキャリアの磁化をそのように特定していない点。

(相違点3−3)
本件発明1のフェライト粒子が「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される」のに対して、引用発明3の「フェライトキャリア」はそのように組成式が特定されていない点。

(3)引用発明3に基づく判断
ア 相違点3−1及び相違点3−2について
技術的関連性に鑑みて、上記相違点をまとめて検討する。
引用文献3には、「異形粒子からなるキャリアを使用すると磁気ブラシの直線性が柔らげられる。そのため、現像剤の混合能力が増ししかも磁気ブラシの山の部分の現像電極効果が大きくなるので現像性が向上し、従って高い画像濃度が得られる。」(第3頁左上欄)との記載があるものの、具体的な評価は行われていないため、それらが本件発明1と同等のものであると認識することはできない。
そうすると、引用発明3が上記相違点3−1及び相違点3−2に係る構成を具備している蓋然性が高いということはできない。
また、引用文献3には、引用発明3において、当業者が、上記相違点3−1及び相違点3−2に係る構成を採用する動機となり得る記載ないし示唆を見出すこともできない。

イ 小括
上記アのとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が引用発明3であるということはできないし、また、本件発明1が引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)本件発明2〜5について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜5は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明3であるということはできないし、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

4 引用文献4を主引例とした場合
(1)本件発明1と引用発明1とを対比する。
ア フェライト粒子及びキャリア芯材
引用発明4の「静電荷像現像剤用キャリア」は、「軟磁性を示すフェライト粉末を造粒および焼結して得られた粒子」を用いたキャリアであり、当該粒子がキャリア芯材であること及びフェライト粒子からなることは明らかである。
そうすると、引用発明4の上記粒子は、本件発明1の「キャリア芯材」に相当し、「フェライト粒子からなる」という要件を満たす。

イ 通常粒子と結合粒子
引用発明4の「球状粒子が複数粉集合した粒子」は、その構成からみて、本件発明1の「結合粒子」に相当し、「球形粒子が2個以上の結合した」という要件を満たす。
また、全ての「球状粒子」が結合粒子として存在しているとは理解し難く、結合粒子以外にも「球状粒子」が存在すると解するのが自然であり、当該「球状粒子」が、本件発明1の「通常粒子」に相当し、「結合粒子以外の通常粒子は球形」であるという要件を満たす。

(2)引用発明4に基づく一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明4とは、以下の点で一致する。
「フェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が含まれ
前記結合粒子以外の通常粒子は球形である、キャリア芯材。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明4とは、以下の点で相違する。
(相違点4−1)
本件発明1が「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子」の含有率が「21個数%以上60個数%以下」であるのに対して、引用発明4は「球状粒子が複数粉集合した粒子」の含有率が特定されていない点。

(相違点4−2)
本件発明1が「磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である」のに対して、引用発明4はフェライトキャリアの磁化をそのように特定していない点。

(相違点4−3)
本件発明1のフェライト粒子が「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される」のに対して、引用発明4の「静電荷像現像剤用キャリア」を形成する「フェライト粉末」はそのように組成式が特定されていない点。

(3)引用発明4に基づく判断
ア 相違点4−1及び相違点4−2について
技術的関連性に鑑みて、上記相違点をまとめて検討する。
引用文献4には、「異形粒子からなるキャリアを使用すると磁気ブラシの直線性が柔らげられる。そのため、現像剤の混合能力が増し、しかも磁気ブラシの山の部分の現像電極効果が大きくなるので現像性が向上し、よって高い画像濃度が得られる。」(第3頁左上欄〜第3頁右上欄)との記載があるものの、具体的な評価は行われていないため、それらが本件発明1と同等のものであると認識することはできない。
そうすると、引用発明4が上記相違点4−1及び相違点4−2に係る構成を具備している蓋然性が高いということはできない。
また、引用文献4には、引用発明4において、当業者が、上記相違点4−1及び相違点4−2に係る構成を採用する動機となり得る記載ないし示唆を見出すこともできない。

イ 小括
上記アのとおりであるから、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1が引用発明4であるということはできないし、また、本件発明1が引用発明4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)本件発明2〜5について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜5は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明4であるということはできないし、引用発明4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

5 引用文献5を主引例とした場合
(1)本件発明1と引用発明5−3とを対比する。
ア フェライト粒子及びキャリア芯材
引用発明5−3の「フェライト粒子」及び「キャリア芯材」は、その文言が示すとおり、本件発明1の「フェライト粒子」及び「キャリア芯材」に相当し、「キャリア芯材」が「フェライト粒子からなる」という要件を満たす。

イ 通常粒子と結合粒子
引用発明5−3の「結合粒子」は、「球形粒子が2個〜5個の結合した」ものであるから、本件発明1の「結合粒子」に相当し、「球形粒子が2個以上の結合した」ものであるという要件を満たす。
また、引用発明5−3は、「結合粒子以外の通常粒子は球形で」あることから、引用発明5−3の「通常粒子」は、本件発明1の「通常粒子」に相当し、「結合粒子以外の通常粒子は球形で」あるという要件を満たす。

ウ 磁化σ1k
引用発明5−3の「磁化σ1k」は、その定義からみて、本件発明1の「磁化σ1k」と同義であって、引用発明5−3の「磁化σ1k」は「58.5Am2/kg」であるから、本件発明1の「磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である」という要件を満たす。

(2)引用発明5−3に基づく一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明5−3とは、以下の点で一致する。
「フェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個以上結合した結合粒子が含まれ、
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で、
磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である、キャリア芯材。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明5−3とは、以下の点で相違する。
(相違点5−1)
本件発明1は、「結合粒子」が「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が21個数%以上60個数%以下含まれ」ているのに対して、引用発明5−3は、「結合粒子」が「球形粒子が2個〜5個の結合した結合粒子が8.0個数%含まれ」ている点。

(相違点5−2)
本件発明1のフェライト粒子が「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される」のに対して、引用発明5−3の「フェライト粒子」はそのように組成式が特定されていない点。

(3)引用発明5−3に基づく判断
ア 相違点5−1について
引用発明5−3の「結合粒子」は、「結合粒子は、粒径の最も大きい母粒子と、前記母粒子よりも粒径の小さい1個〜4個の子粒子とが結合した粒子であり、前記子粒子の粒径はすべて、前記母粒子の粒径の1/2以下であ」るところ、その含有率は、球形粒子が6個以上結合した結合粒子や、母粒子と母粒子の粒径の1/2より大きい子粒子による結合粒子等を含まないものと解される。
しかしながら、引用発明5−3における焼成用主原料(母粒子)と焼成用副原料(子粒子)の粒径や含有率等の構成から、「結合粒子」として含まれるものは、引用発明5−3において特定される構成のものが、その大半を占めていると理解できる。
そうすると、仮に球形粒子が6個以上結合した結合粒子や、母粒子と母粒子の粒径の1/2より大きい子粒子による結合粒子等の存在を考慮したとしても、引用発明5−3が相違点5−1に係る構成を備えている蓋然性が高いということはできない。
また、引用文献5には、引用発明5−3において、当業者が、上記相違点5−1に係る構成を採用する動機となり得る記載ないし示唆を見出すこともできない。

イ 小括
上記アのとおりであるから、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1が引用発明5−3であるということはできないし、また、本件発明1が引用発明5−3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)本件発明2〜5について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜5は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明5−3であるということはできないし、引用発明5−3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(5)引用発明5−4〜引用発明5−6に基づく場合
上記(1)〜(4)と同様である。

6 引用文献6を主引例とした場合
(1)本件発明1と引用発明6−6とを対比する。
ア フェライト粒子及びャリア芯材
引用発明6−6の「フェライト粒子」は、「組成式MXFe3−XO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素、0<X<1)で表される材料を主成分」とするものであるから、本件発明1のフェライト粒子の、「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される」という要件を満たすものであり、引用発明6−6の「フライト粒子を用いたキャリアコア粒子」は、本件発明1の「フェライト粒子からなるキャリア芯材」に相当する。

イ 磁化σ1k
引用発明6−6の「磁化σ1000(Am2/kg)」は、その定義からみて、本件発明1の「磁化σ1k」と同義であって、引用発明6−6の「磁化σ1000」は「58.1Am2/kg」であるから、本件発明1の「磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である」という要件を満たす。

(2)引用発明6−6に基づく一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明6−6とは、以下の点で一致する。
「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表されるフェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である、キャリア芯材。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明6−6は、以下の点で相違する。
(相違点6−1)
本件発明1が「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が21個数%以上60個数%以下含まれ」るのに対して、引用発明6−6は、そのような態様であるか不明である点。

(相違点6−2)
本件発明1が「結合粒子以外の通常粒子が球形で」あるのに対して、引用発明6−6はそのような態様であるか不明である点。

(3)引用発明6−6に基づく判断
ア 相違点6−1について
引用文献6には、「結合粒子」についての記載はない。そして、引用文献6の実施例6(【0054】〜【0057】及び【0065】)に記載されたフェライト粒子の製造方法は、各原料の割合、造粒物の分級の有無、焼成温度、酸素濃度等、フェライト粒子の構造に大きく影響すると考えられる製造条件が、本件出願の製造条件(【0066】等)とは異なっているところ、引用発明6−6が相違点6−1に係る「結合粒子」の構成を具備している蓋然性が高いということはできない。
また、引用文献6には、引用発明6−6において、当業者が、上記相違点6−1に係る構成を採用する動機となり得る記載ないし示唆を見出すこともできない。

イ 小括
上記アのとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が引用発明6−6であるということはできなし、また、本件発明1が引用発明6−6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)本件発明2〜5について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜5は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明6−6であるということはできないし、引用発明6−6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(5)引用発明6−7〜引用発明6−10に基づく場合
引用発明6−7〜引用発明6−10のいずれに基づいても、上記(1)〜(4)と同様である。

7 引用文献7を主引例とした場合
(1)本件発明1と引用発明7−6とを対比する。
ア フェライト粒子及びャリア芯材
引用発明7−6の「一般式:MxFe3−xO4(0<x<1、ただし、Mは、Mg、Mn、Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする」粒子は、「フェライト粒子」であることは明らかである。
そうすると、引用発明7−6の当該粒子が、本件発明1の「フェライト粒子」に相当するとともに、「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される」という要件を満たす。
すると、引用発明7−6の「電子写真現像剤用キャリア芯材」は、本件発明1の「フェライト粒子からなるキャリア芯材」に相当る。

イ 磁化σ1k
引用発明7−6の「σ1000」は、その定義からみて、本件発明1の「磁化σ1k」と同義であって、引用発明7−6の磁化「σ1000」は「53.1Am2/kg」であるから、本件発明1の「磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である」という要件を満たす。

(2)引用発明7−6に基づく一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明7−6とは、以下の点で一致する。
「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表されるフェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である、キャリア芯材。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明7−6とは、以下の点で相違する。
(相違点7−1)
本件発明1が「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が21個数%以上60個数%以下含まれ」るのに対して、引用発明7−6は、そのような態様であるか不明である点。

(相違点7−2)
本件発明1が「結合粒子以外の通常粒子は球形で」あるのに対して、引用発明7−6はそのような態様であるか不明である点。

(3)引用発明7−6に基づく判断
ア 相違点7−1について
引用文献7には、「結合粒子」に関する記載はない。そして、引用文献7の実施例6(【0054】〜【0055】)の記載を参照しても、各原料の割合、造粒物の分級の有無、焼成温度、酸素濃度等、キャリア芯材の構造に大きく影響すると考えられる製造条件が、本件出願の製造条件(【0066】等)とは異なっているところ、引用発明7−6が相違点7−1に係る「結合粒子」の構成を具備している蓋然性が高いということはできない。
また、引用文献7には、引用発明7−6において、当業者が、上記相違点7−1に係る構成を採用する動機となり得る記載ないし示唆を見出すこともできない。

イ 小括
上記アのとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が引用発明7−6であるということはできないし、また、本件発明1が引用発明7−6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)本件発明2〜5について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜5は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明7−6であるということはできないし、引用発明7−6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(5)引用発明7−8に基づく場合
引用発明7−8に基づいても、上記(1)〜(4)と同様である。

8 引用文献8を主引例とした場合
(1)本件発明1と引用発明8とを対比する。
ア フェライト粒子
引用発明8−1の「フェライト粒子」は、「組成式MXFe3−XO4(但し、Mは、Mg,Mn,Ca,Ti,Sr,Cu,Zn,Niからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素、0≦X≦1)で表される」ものであるから、本件発明1のフェライト粒子における、「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表される」という要件を満たす。

イ 通常粒子と結合粒子
引用発明8−1の「結合粒子」は、「球形粒子が2個〜5個の結合した」ものであるから、本件発明1の「結合粒子」に相当し、「球形粒子が2個以上の結合した」ものであるという要件を満たす。
また、引用発明8−1は、「結合粒子以外の通常粒子は球形で」あることから、引用発明8−1の「通常粒子」は、本件発明1の「通常粒子」に相当し、「結合粒子以外の通常粒子は球形で」あるという要件を満たす。

ウ 磁化σ1k
引用発明8−1の「磁化σ1k」は、その定義からみて、本件発明1の「磁化σ1k」と同義であって、引用発明8−1の「磁化σ1k」は「59.5Am2/kg」であるから、本件発明1の「磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である」という要件を満たす。

(2)引用発明8−1に基づく一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明8−1とは、以下の点で一致する。
「組成式MxFe3−xO4(但し、MはMg,Mn,Ca,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属,0<X<1)で表されるフェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個以上結合した結合粒子が含まれ、
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で、
磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが40Am2/kg以上63Am2/kg以下である、キャリア芯材。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明8−1とは、以下の点で相違する。
(相違点8−1)
本件発明1は、「結合粒子」が「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子が21個数%以上60個数%以下含まれ」ているのに対して、引用発明8−1は、「結合粒子」が「球形粒子が2個〜5個の結合した結合粒子が5.7個数%含まれ」ている点。

(3)引用発明8−1に基づく判断
ア 相違点8−1について
引用発明8−1の「結合粒子」は、「粒径の最も大きい母粒子と、前記母粒子よりも粒径の小さい1個〜4個の子粒子とが結合した粒子であり、前記子粒子の少なくとも1つの子粒子の粒径は、前記母粒子の粒径の1/2よりも大き」いものである。
そして、引用発明8−1の構成から、母粒子と子粒子の粒径は概ね揃っているところ、引用発明8−1に含まれる「結合粒子」は、引用発明8−1において特定される上記構成のものが、その大半を占めていると理解できる。
そうすると、仮に上記構成以外の結合粒子の存在を考慮したとしても、引用発明8−1が相違点8−1に係る構成を備えている蓋然性が高いということはできない。
また、引用文献8には、引用発明8−1において、当業者が、上記相違点8−1に係る構成を採用する動機となり得る記載ないし示唆を見出すこともできない。

イ 小括
上記アのとおりであるから、本件発明1が引用発明8−1であるということはできないし、また、本件発明1が引用発明8−1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)本件発明2〜5について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜5は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明8−1であるということはできないし、引用発明8−1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(5)引用発明8−2〜引用発明8−6に基づく場合
上記(1)〜(4)と同様である。


第6 原査定について
1 理由1及び理由2(新規性及び進歩性)について
上記「第5」のとおりであるから、上記「第2」で述べた原査定の拒絶の理由である理由1及び理由2によっては、本件出願を拒絶することはできない。

2 理由3(明確性)について
本件発明1〜5は、請求項1〜5の記載から見て、明確であると判断するところであるが、特に原査定で争点となった点について、以下、言及する。

ア 結合粒子の判別について
本件出願の明細書には、「画像は、粒子が単分散しているものを用い、粒子が重なり、結合粒子であるか判別できない場合は、同一粒子を拡大、または視角を変更し、確認することが望ましい。」(【0064】)が記載されている。
当該記載に基づけば、表側からでは「粒子が重なり、結合粒子であるか判別できない場合」でも「視角を変更」して「結合粒子であるか判別」することができると当業者は理解するから、「結合粒子」の判別について実質的に明確ではないとはいえない。

イ 結合粒子の態様について
本件発明1の「結合粒子」は「球形粒子が2個以上の結合した結合粒子」であると特定されているから、「結合粒子」の定義は明確である。原査定では「他の非球形粒子が更に結合している」態様についての指摘があるが、「球形粒子が2個以上結合」している点を特定事項とする以上、当業者にとって明確である。また、本件発明1の「キャリア芯材」は、「球形粒子が結合した結合粒子」と「結合粒子以外の通常粒子は球形で」あるところ、原査定で指摘するような「非球形粒子」は通常の粒子として存在する粒子ではなく、仮に存在していたとしても(割れや欠け等によって生じた)微少なものであると考えられるところ、そのような通常の態様として含まれていない態様まで全て明確に記載されていないことをもって、特許請求の範囲の記載が明確でないということはできない。
さらに、本件出願の明細書の記載からは、「粒径(最大長さ)が3μm以下の微小粒子は、粒子としてカウントはしない。」(【0064】)ことから、「3μmを超える球形粒子が1つあり、その他は微小の粒子が結合した粒子」は「結合粒子」としてカウントされないことが明確に理解できる上、「粒径(最大長さ)が3μm以下の微小粒子」は「不純物」(【0064】)程度の含有率であり、微少量であると、当業者は理解できる。
以上を総合してみれば、特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を与えるほどに明確でないということはできない。

ウ 測定方法について
本件出願の明細書の【0064】には、SEM画像の測定における試料調製方法である「JIS R 1633:1998 ファインセラミックス及びファインセラミックス粉体用の走査電子顕微鏡(SEM)観察のための試料調製方法」が明記されていないとしても、JIS規格に従って測定等を行うことは、当業者が通常想定し得ることであるところ、明記がないことを理由に直ちに測定方法が明確でないとまではいえない。

エ 小括
以上ア〜ウのとおりであるから、上記「第2」で述べた原査定の拒絶の理由である理由3によっては、本件出願を拒絶することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本件出願は原査定の理由によって拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-07-13 
出願番号 P2017-050846
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03G)
P 1 8・ 537- WY (G03G)
P 1 8・ 113- WY (G03G)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 小濱 健太
植前 充司
発明の名称 キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤  
代理人 山田 茂樹  
代理人 山田 茂樹  

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