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審決分類 審判 全部申し立て 4号2号請求項の限定的減縮  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1387454
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-17 
確定日 2022-05-25 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6624480号発明「粘着テープ及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6624480号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 特許第6624480号の請求項1、3〜4、6及び8〜9に係る特許を取り消す。 特許第6624480号の請求項2、5及び7に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6624480号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願は、
2017年12月7日〔優先権主張 平成28年12月20日(JP)日本国〕を国際出願日とする出願であって、令和元年12月6日に特許権の設定登録がされ、令和元年12月25日に特許掲載公報が発行され、その請求項1〜9に係る発明の特許に対し、令和2年6月17日に秋山満(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 9月16日付け 取消理由通知
同年11月20日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年12月 1日付け 訂正請求があった旨の通知
令和3年 1月 6日 意見書(特許異議申立人)
同年 2月 3日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 4月 7日 面接
同年 4月 9日付け 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 4月14日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 4月27日付け 通知書
同年 5月26日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年11月20日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、
令和3年4月9日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6624480号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜9からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)側から前記粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、略円形状、略四角形状または略六角形状であり、
前記粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、前記粘着部(B)が10個〜50000個存在し、
前記粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が−30℃〜20℃であり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)の面積に占める、前記粘着部(B)を有する領域の割合が10%〜99%であることを特徴とする粘着テープ。」との記載を、
訂正後の請求項1の「発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)側から前記粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、略円形状、略四角形状または略六角形状であり、
前記粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、前記粘着部(B)が10個〜50000個存在し、
2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離が0.05mm〜0.15mmであり、
前記粘着部(B)の厚さが1〜6μmであり、
前記粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が−25℃〜5℃であり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)の面積に占める、前記粘着部(B)を有する領域の割合が10%〜99%であることを特徴とする粘着テープ。」との記載に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3の「請求項1または2に記載の」との記載部分を「請求項1に記載の」との記載に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4の「請求項1〜3のいずれか1項に記載の」との記載部分を「請求項1又は3に記載の」との記載に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項6の「請求項1〜5のいずれか1項に記載の」との記載部分を「請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の」との記載に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
訂正前の請求項8の「請求項1〜7に記載の」との記載部分を「請求項1、3、4又は6に記載の」との記載に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の請求項9の「請求項1〜7に記載の」との記載部分を「請求項1、3、4、6又は8に記載の」との記載に訂正する。

2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の段落0030の「前記2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離は、…好ましくは0.05mm〜0.2μmであり、より好ましくは0.06mm〜0.15mmであり」等の記載に基づき、訂正前の請求項1の記載に「2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離が0.05mm〜0.15mmであり、」という特定事項を追加し、同段落0042の「前記粘着部(B)としては、厚さ1μm〜6μmのものを使用する」等の記載に基づき、訂正前の請求項1の記載に「前記粘着部(B)の厚さが1〜6μmであり、」という特定事項を追加し、同段落0036の「前記粘着部(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、…−10〜5℃である」との記載、及び同段落0123の「tanδのピーク温度は−25℃であり」等の記載に基づき、訂正前の請求項1の「−30℃〜20℃」との記載部分を「−25℃〜5℃」との記載に改めるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項1は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2〜8について
訂正事項2、5及び7は、訂正前の請求項2、5及び7をそれぞれ削除するものであり、訂正事項3〜4、6及び8は、訂正前の請求項3〜4、6及び8が引用する請求項のうち、訂正事項2、5及び7によって削除された請求項2、5及び7を引用するものを削除するものであるから、訂正事項2〜8は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項2〜8は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2〜8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項9
訂正事項9は、訂正前の請求項9の「請求項1〜7に記載の粘着テープ」との記載部分を「請求項1、3、4、6又は8に記載の粘着テープ」との記載に改めるものであるところ、令和3年4月9日付けの訂正請求書の『7(3)イ(エ)a』では「訂正事項4は、請求項7を削除するものである。請求項7を引用する請求項8乃至9も同様である。」と説明されていることから、訂正後の「請求項1、3、4、6又は8・・・」は「請求項1、3、4又は6・・・」の誤記であることは明白であり、訂正事項9は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当するものと善解できる。
そして、訂正事項9は、実質的に「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであると善解できるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正事項1〜9に係る訂正前の請求項1〜9について、その請求項2〜9はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1〜9に対応する訂正後の請求項1、3〜4、6及び8〜9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1〜9による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1〜9による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜9に係る発明(以下「本1発明」などともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)側から前記粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、略円形状、略四角形状または略六角形状であり、
前記粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、前記粘着部(B)が10個〜50000個存在し、
2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離が0.05mm〜0.15mmであり、
前記粘着部(B)の厚さが1〜6μmであり、
前記粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が−25℃〜5℃であり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)の面積に占める、前記粘着部(B)を有する領域の割合が10%〜99%であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】前記樹脂フィルム層(C)の厚みが1〜25μmである請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項4】前記粘着部(B)と接する面に剥離ライナー(D)を有する請求項1又は3に記載の粘着テープ
【請求項5】 (削除)
【請求項6】前記発泡体層(A)が、ポリウレタン系発泡体層またはアクリル系発泡体層である請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項7】 (削除)
【請求項8】樹脂フィルム層(C)と粘着部(B)と剥離ライナー(D)が一体となったものの樹脂フィルム層(C)上に、発泡層(A)を塗工して形成する請求項1、3、4又は6に記載の粘着テープの製造方法。
【請求項9】請求項1、3、4、6又は8に記載の粘着テープをディスプレイの非表示面側に設けたことを特徴とするディスプレイ機器。」

第4 取消理由通知の概要
令和3年2月3日付けの取消理由通知(決定の予告)では、次の理由1及び2を含む取消理由が通知されている。

〔理由1〕本件特許の請求項1〜9に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:特開2015−214134号公報
甲第2号証:特開2016−151006号公報
甲第3号証:国際公開第2016/111208号
甲第4号証:特開平11−291434号公報
甲第5号証:特開平8−80688号公報
甲第6号証:特開2009−242602号公報
甲第7号証:特開2013−181054号公報
甲第8号証:特開2010−59240号公報
甲第9号証:特開2009−57394号公報
甲第10号証:特開平7−278502号公報
参考文献A:特開2003−253226号公報
参考文献B:特開2004−309699号公報
参考文献C:国際公開第2016/159094号
よって、本件特許の請求項1〜9に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
『本件特許の請求項1に記載の「損失正接のピーク温度が−30℃〜20℃」という変数が示す範囲内にあれば、所望の効果が得られると当業者において認識できるとはいえないので、本件特許の請求項1に記載の広範な数値範囲のもの全てが課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。』
よって、本件特許の請求項1〜9に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由1(進歩性)について
(1)引用刊行物の記載事項
ア 甲第1号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1〜2及び11
「【請求項1】接着性表面を有する長尺状の積層シートであって、
前記接着性表面を構成する感圧接着剤層と、該感圧接着剤層を支持する非通気性のシート状基材と、を備えており、
前記シート状基材の表面は、前記感圧接着剤層が部分的に配置されることによって、感圧接着剤配置部と、感圧接着剤非配置部と、を有しており、
前記感圧接着剤非配置部は、少なくとも1つの帯状部分を有しており、
前記帯状部分は、前記積層シートの幅方向端辺に交差する角度で延びている、積層シート。
【請求項2】前記感圧接着剤配置部は、前記シート状基材の表面において、分離して配置された2以上の部分を有しており、
前記感圧接着剤非配置部の帯状部分は、前記感圧接着剤配置部の2以上の部分のうち隣りあう2つの部分のあいだに位置している、請求項1に記載の積層シート。…
【請求項11】前記シート状基材は発泡体層を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層シート。」

摘記1b:段落0005、0024、0030〜0031、0035及び0039
「【0005】本発明は、上記の事情に鑑みて創出されたものであり、貼り付け後の外観品質の低下を高度に防止し、かつ良好な接着特性を維持することが可能な積層シートを提供することを目的とする。…
【0024】感圧接着剤非配置部16は、長手方向に連続して延びる複数の帯状部分18a,18b,18c,18dから構成されている。これら帯状部分18a,18b,18c,18dはそれぞれ、感圧接着剤配置部15に挟まれた状態で、積層シート1の幅方向に一定の間隔をおいて配置されている。これによって、感圧接着剤非配置部16は、シート状基材表面10Aにおいて全体としてストライプ状のパターンを呈している。なお、この実施形態では、帯状部分18a,18b,18c,18dはいずれも、積層シート1の端部に到達している。…
【0030】感圧接着剤非配置部16の各帯状部分18a,18b,18c,18d(溝26a,26b,26c,26d)の幅は、所望の空気等抜け性と接着力とが得られるよう設定すればよく特に限定されないが、凡そ0.1〜5mm(好ましくは0.3〜3mm、より好ましくは0.5〜2mm)の範囲内とすることが適当である。…
【0031】感圧接着部25a,25b,…,25eの幅(各帯状部分17a,17b,…,17eの幅でもあり得る。)は、所望の空気等抜け性と接着力とが得られるよう設定すればよく特に限定されないが、1〜100mm(好ましくは2〜50mm、例えば3〜30mm)の範囲内とすることが適当である。…
【0035】ここに開示される技術は、上記実施形態のように、感圧接着剤非配置部の帯状部分がシート状基材の表面において規則的に繰返し折れ曲がりながら曲線状に延びる形状(典型的には波状)を有し、複数の帯状部分が波状のストライプパターンを呈する態様で好ましく実施され得る。上記の形状、パターンを有することによって、積層シート端辺近傍における端部剥がれ等の発生が好適に防止され、なめらかで均一な貼り付け性が好適に得られる。波状の例としては、サインウェーブや疑似サインウェーブ、円弧波等の曲線状のものや、ジグザグ状、三角波等の非曲線状のものが挙げられる。波状パターンは、同形または異形の2種以上の波をそれらの位相をずらした状態で、あるいは形状やパターンを反転させる等して、重ねて形成されたものであってもよい。感圧接着剤非配置部の帯状部分の形状は、上記波状のほか、例えば、弧状、円状、楕円状、直線状であってもよい。直線状の場合は、積層シートの長手方向に交差(例えば直交や斜交)する方向に延びるものであり得る。…
【0039】好ましい一態様では、シート状基材は、発泡体シートを備える基材(発泡体含有基材)である。これによって、積層シートに衝撃吸収機能が付与される。」

摘記1c:段落0071、0088〜0089、0095〜0096及び0100〜0101
「【0071】ここに開示される感圧接着剤層は、典型的には、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料(感圧接着剤)から構成された層をいう。…
【0088】ここに開示される感圧接着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常は、乾燥効率等の生産性や接着特性等の観点から、0.5〜200μm程度とすることが適当であり、2〜200μm(例えば5〜100μm、典型的には10〜50μm)程度とすることが好ましい。感圧接着剤層の厚さを制限することは、積層シートの薄膜化、小型化、軽量化、省資源化等の点で有利である。また、ここに開示される技術によると、厚さが制限された感圧接着剤層を有する構成においても、溝の深さは該感圧接着剤層の厚さと同等であるので、良好な空気等抜け性が得られる。ここに開示される技術が、基材の両面に感圧接着剤層を備える両面接着性シートの形態で実施される場合、各感圧接着剤層の厚さは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0089】…このように、ここに開示される積層シートは、良好な空気等抜け性を維持しつつ、所定以上の接着力を発揮することができる。上記180度剥離強度は5N/20mm以上(例えば8N/20mm以上、典型的に10N/20mm以上)であることが好ましい。…
【0095】なお、本明細書における積層シートの概念には、積層構造を有する感圧接着シート、感圧接着テープ、感圧接着ラベル、感圧接着フィルム等と称され得るものが包含される。…
【0096】…感圧接着剤非配置部の帯状部分は、例えば長手方向に対して斜行する直線や、弧状など、積層シートの幅方向端辺に交差する角度で延びていればよい。これにより、接着性表面において該感圧接着剤非配置部の帯状部分上に形成された溝から、接着面に留まろうとする空気等は抜け得るので、上記接着面における空気だまり等の発生は防止される。また、積層シートの幅方向端辺近傍における感圧接着剤非配置部の偏在を原因とする端部剥がれ等の発生は防止され、積層シートの接着性表面全体にわたって均一な接着特性が実現され得る。…
【0100】また、ここに開示される積層シートは、薄厚に構成した場合であっても、貼り付け後の外観品質の低下を防ぎつつ、良好な接着特性を維持することが可能である。したがって、薄厚化や軽量化が求められており、かつ省資源化が望ましい用途(例えば携帯電子機器用途)に好ましく適用され得る。具体的には、携帯電子機器(例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノートパソコン等)の表面保護シート、上記携帯電子機器の液晶表示装置における接合固定用途、上記携帯電子機器の表示部を保護する保護パネル(レンズ)固定用途、携帯電話のキーモジュール部材固定用途等に好ましく適用され得る。…
【0101】以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。」

摘記1d:段落0108〜0112及び0117
「【0108】…発泡体シートの50%圧縮荷重(硬さ)は、JIS K 6767:1999に準拠して測定した。具体的には、上記で得た発泡体シートA,Bをそれぞれ100mm×100mmに切り抜き、総厚さが2mm以上になるように積層し、これを測定サンプルとした。室温条件にて、圧縮試験機を用いて上記測定サンプルに対して10mm/分の速度で圧縮を行い、圧縮率が50%に達したところ(初期厚さに対して厚さが50%まで圧縮された時点)で、10秒保持した後の値(反発応力:N/cm2)を50%圧縮荷重として記録した。その他の条件(例えば治具や計算方法等)については、JIS K 6767:1999に準じた。結果を表1に示す。
【0109】【表1】…発泡体シートA…アクリル系…50%圧縮荷重[N/cm2]…2.3…
【0110】…(例1〜3)…市販の剥離ライナーを用意し、上記剥離ライナーの剥離面に上記感圧接着剤組成物を、乾燥後の厚さが2μmとなるように塗付し、櫛状の掻き取り具を用いた掻取法を採用して感圧接着剤層に対して波状ストライプの部分的除去を行い、100℃で2分間乾燥させた。
厚さ2μmのPETフィルム基材(商品名「ルミラー」、東レ社製)を用意し、このPET基材のコロナ放電処理面に、剥離ライナー上に形成された感圧接着剤層を貼り合わせた。上記剥離ライナーは、そのまま感圧接着剤層上に残し、該感圧接着剤層の表面の保護に使用した。…このようにして、図1,2に示すような波状ストライプの感圧接着剤非配置部(溝)パターンがPET基材の表面に形成された各例に係る積層シートを得た。…
【0112】(例7)片面が剥離処理されたPETフィルム(厚さ38μm)に代えて例5で使用したPETフィルム(厚さ100μm)を用いた他は上記製造例1と同様の方法を採用して、該PETフィルム上にアクリル系発泡体層(厚さ100μm)を形成し、PET層と発泡体層との積層シート状基材を作製した。このシート状基材のPET層側表面にコロナ放電処理を施し、当該コロナ放電処理面に、例5と同様にして感圧接着剤層を貼り合わせ、本例に係る積層シートを得た。…
【0117】【表2】



摘記1e:図1




イ 甲第2号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記2a:請求項2
「【請求項5】前記粘着剤層(b)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が、−30℃〜20℃の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着シート。」

摘記2b:段落0043及び0129
「【0043】前記粘着剤層(b)を含む粘着剤層(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、特に限定されるものではないが、−30℃〜20℃であることが好ましく、−20℃〜10℃であることがより好ましく、−10℃〜5℃であることが、前記粘着剤層(b)の中心線平均表面粗さRa等で表される表面形状が保持されやすいため表面粗さ等の経時的な変化を防止しやすく、被着体と粘着剤層(b)との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。…
【0129】前記粘着剤Aを用いて得られた粘着剤層のtanδのピーク温度は0℃であり、そのゲル分率は40質量%であった。」

ウ 甲第3号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記3a:請求項1
「【請求項1】基材の両面に粘着剤層を有する粘着テープであって、前記粘着剤層のうち少なくとも片面の粘着剤層は粘着剤が存在する粘着剤部分と粘着剤が存在しない非粘着剤部分とが混在してなり、前記粘着剤層における粘着剤部分の面積の割合が40〜95%である、放熱シート又は磁性シートと被着体の間の貼り付けに使用される粘着テープ。」

摘記3b:段落0012〜0014及び0016〜0017
「【0012】粘着剤部分2aは、図2〜図7に示すような島状又は筋状が好ましい。ただし、粘着剤部分2aは規則正しく配列したパターンに限定されず、ランダムに混在させたものでも構わない。四角状以外の形状としては、例えば三角状、多角形状が挙げられるが、四角状が粘着剤部分2aの面積を一番効率的に確保でき、かつ筋状の粘着剤部分と比較して縦横の等方性の点からも好ましい。筋状の形状は直線的に配列されるものに限定されず、例えば波線状でも折れ線状でも良い。
【0013】粘着剤層2における粘着剤部分2aの面積の割合は40〜95%であり、好ましくは50〜95%である。…
【0014】なお、粘着テープの貼り付けの際に混入する気泡が原因で部分的なふくらみが発生することがあるが、本発明の粘着テープは、非粘着剤部分2bから気泡を逃すこともできる。したがって本発明は、貼り合わせ時に混入する気泡を追い出し、均一に貼り合わせる事ができるという効果も奏する。…
【0016】隣り合う粘着剤部分2aの隙間(すなわち非粘着剤部分2bの幅)は特に限定されないが、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.01〜0.3mmである。…
【0017】粘着剤層1及び2の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.5〜7μmである。特に、放熱シート又は磁性シートと被着体の間の貼り付けに使用される粘着テープの粘着剤層は、このような薄い層であることが好ましい。また一般に粘着剤部分2aが薄い場合はしわが発生し易い傾向にあるので、本発明はこのような薄い粘着剤層を有する粘着テープにおいて特に有用である。また粘着剤部分2aが薄い場合は、テープの運搬時や各種シートの抜き加工時、貼り合わせ時に部分的にテープに圧力をかけても非粘着剤部分2bはつぶれにくいため、取り扱い性に優れ、安定して粘着剤の特性を活かす事ができる。さらに、非粘着剤部分2bも薄ければそこに空気が存在するにもかかわらず、放熱シートの熱伝導性を悪化させない。」

摘記3c:段落0021、0025及び0027
「【0021】本発明の粘着テープは、放熱シート又は磁性シートと被着体との貼り付けに使用される。被着体の具体例としては、携帯電話、スマートフォン等の電子機器の筐体、並びに電子機器内部で熱や電磁波を発生する部材(例えば液晶ユニット、有機EL素子、CPU、集積回路、電池など)やその近辺の部材が挙げられる。…
【0025】<実施例1>…
【0027】次いで、40℃で3日間養生して総厚5μmの両面粘着テープを得た。粘着剤層2の四角い島状の粘着剤部分2aの一辺の長さは0.5mm、非粘着剤部分の幅は0.17mm、粘着剤部分の面積の割合は56%とした。」

摘記3d:図2




エ 甲第4号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記4a:段落0020〜0022
「【0020】以下にこの粘着剤付きウレタンフォーム10の製造方法について説明する。図3に示すように剥離ライナー14の一方の面に粘着剤13aを供給するとともに薄く延ばし、乾燥させることによって粘着剤層13を形成する。また、粘着剤層13の上にプラスチックフィルム12を積層することにより、剥離ライナー14で保護された片面粘着テープ15を作製する。…
【0021】次に、図4に示すように前記片面粘着テープ15の剥離ライナー14を下に向けた姿勢で、プラスチックフィルム12の他面側に塗工装置20によってポリウレタン原液11aを所定の厚さに塗布する。…
【0022】ウレタン原液11aを塗工後、室温ないし90℃で発泡を完了し、室温ないし高温のオーブンにて前記温度(120℃以下)でキュアーを行なう。」

オ 甲第5号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記5a:段落0017及び0029
「【0017】…本発明は、従来の技術の有するそのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フレキソ版を版胴、キャリアシートまたはスリーブに貼り込むときに、空気溜りを生じることがなく均一な厚みを保持している。…
【0029】…粘着剤層の凸凹構造は、凸部と凹部とが交互にある、図10に示すような縞状構造、図11に示すような格子状構造、または図12に示すような斑点状構造等で、凹部が継続的になっている。」

カ 甲第6号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記6a:段落0007及び0036
「【0007】そこで、本発明は係る従来の課題に鑑み、貼付時に入り込んだ空気がふくれを形成することがないと共に、経時変化も抑制できる粘着シートを提供することを目的とする。…
【0036】
なお、上記実施形態における中央粘着層の形状は正方形としたが、正方形に限定される矩形、三角形、円形、楕円形等あらゆる形状を適用することができる。」

キ 甲第7号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記7a:段落0031及び0079
「【0031】上記点状粘着剤の形状は、特に限定されないが、例えば、円形状(例えば真円形状、楕円形状、半円形状、半楕円形状、1/4円形状、1/4楕円形状、扇形状など)、多角形状(例えば、三角形状、四角形状、五角形状、正方形状、長方形状、台形状、菱形状など)、舟形状、線形状、星形状、くさび形状、矢印状、櫛形状、蝶形状、不定形状などが挙げられる。なお、図1の粘着製品1の点状粘着剤12の形状は、円形状である。…
【0079】本発明の粘着製品は、基材上に層状の粘着剤ではなく、点状の粘着剤を有するので、被着体への貼付時に粘着製品と被着体との間に空気が閉じ込められることを抑制でき、気泡による粘着製品の浮きや剥がれ、しわが生じることを抑制できる。」

ク 甲第8号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記8a:段落0007、0034及び0056
「【0007】本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、複雑な表面形状加工を施すことなく、被着体への貼付の際の空気の抱き込みを大幅に抑えて粘着シートの粘着剤層と被着体との接触面積を増大させ、さらに、大面積の被着体へ貼付する際にも空気の抱き込みが少ない粘着シートを提供することにある。…
【0034】ガラス転移点については、後述する方法で測定して得られた値を採用する。上記の本発明の効果の発現にかかわる物性は温度の影響を受ける。そのため、実際に使用する常温環境において、本発明の効果が発現されるように調整しなければならない。ガラス転移点が高過ぎると、常温での柔軟性が失われ、粘着剤層の表面タックが低下する傾向にあり、粘着剤層がわれてしまう傾向にあり、ガラス転移点が低すぎると物性のバランスが悪くなり、特に柔軟性が低下する傾向にある。特に好ましいガラス転移点の範囲は、他の物性の影響も受けて変動するが、およそ−50℃から5℃である。…
【0056】…貯蔵弾性率、tanδ点は、レオメトリックス社製、固体粘弾性アナライザーRSA−IIを用い、圧縮モードにて測定周波数1Hz、測定温度を−50℃〜150℃、昇温速度5℃/minで測定した値を元にして求めた。また、ガラス転移はtanδの最大値から求めた。」

ケ 甲第9号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記9a:段落0027〜0028
「【0027】本発明の再剥離用粘着シートを構成する粘着剤層は、周波数1Hzでの−50℃〜150℃の範囲における損失正接が、−20℃以下の低温域で上に凸状のピークを有し、低温域から中温域にかけて減少し、10〜40℃の中温域で下に凸のピークを有し中温域から高温域にかけて上昇し、70℃で特定の範囲内の値をとる。
【0028】損失正接を上記各範囲とすることで、粘着剤に適度な流動性が付与される。…さらに、粘着シートを熱可塑性樹脂に貼着した場合において、熱可塑性樹脂からアウトガスが発生しても、粘着シートと熱可塑性樹脂との間に気泡溜まりが発生し難くなる。」

コ 甲第10号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記10a:段落0015及び0018
「【0015】粘着テ−プのタックが小さいので、被着材と粘着テ−プの間に巻き込んだ空気は圧着することにより容易に追い出すことができる。…
【0018】…粘着剤のガラス転移点温度が−10℃から5℃の範囲に調節できるモノマーは使用可能である。」

サ 参考文献Aには、次の記載がある。
摘記A1:段落0014及び0030
「【0014】図3は、本発明の粘着シート1の撥液性パターン部3aの形状、特に上記したような連続したパターンのものを例示する平面図である。撥液性パターン3aは図3(a)中、黒色の幅広の線で示すように、間隔を置いて並べられた平行な直線群であり得る。あるいは、撥液性パターン部3aは、図3(b)に示すような平行な直線群が互いに直交した格子であり得る。撥液性パターン部3aは、図3(c)に示すように、狭い間隔で密に並べられた正六角形どうしの境界線であってもよい。さらに図3(d)に示すように、撥液性パターン部3aは、狭い間隔で密に並べられた楕円どうしの境界部であってもよい。なお、撥液性パターン部3aの形状は、以上のような、あるいはそのほかの幾何学的な線や形状に基づくものであってもよいし、基づかないものであってもよい。…
【0030】(実施例)…塗布された粘着剤が格子パターンの線の部分の上ではじかれ、9mm×9mmの正方形状の粘着剤パターンが1mm間隔で縦横に配列した粘着剤層が形成された。…このようにして得られた粘着シートをセパレートフィルムを剥がしてガラス板上に貼り付けたところ、気泡の抱き込みがなく貼り付けることができた。」

摘記A2:図3




シ 参考文献Bには、次の記載がある。
摘記B1:段落0003〜0004及び0012
「【0003】図5は、従来の液晶表示装置の構成を示す。ここでは、携帯電話
機の液晶表示装置について説明する。
表示駆動回路(図示せず)等により駆動される液晶表示器101はホルダ102に搭載され、このホルダ102はプリント基板103の近傍に配置される。プリント基板103には、液晶表示器101を駆動するための電子回路及び電子部品(図示せず)が実装されている。液晶表示器101は、LCD本体と、図示しないバックライト用のLED(発光ダイオード)と、このLEDからの光を液晶表示器101の背面に一様に付与するための透光性樹脂による導光部材(図示せず)を一体化したユニットになっている。
【0004】ホルダ102は硬質の樹脂材による成形で作られており、液晶表示器101の外形相当の内寸法の凹部を有している。この凹部内には、液晶表示器101が両面接着テープ104等を用いて固定される。プリント基板103は、シャーシー(図示せず)等に取り付けられる。…
【0012】この構成によれば、ホルダが軟質な材料によるクッション部と硬質な材料による台座部とが二色成形により一体化されているため、クッション部に表示器を搭載すれば、ホルダに衝撃等の外力が加わっても、衝撃等はクッション部で吸収され、表示器に伝わり難くなるので、表示器の破損等を招きにくい液晶表示装置が得られる。」

摘記B2:図5




ス 参考文献Cには、次の記載がある。
摘記C1:段落0004及び0016
「[0004]近年、スマートフォン等の携帯機器の表示装置としては、タッチパネル式のものが多く採用されるようになってきている。タッチパネル式の液晶パネルは、その操作時の押圧が強くなると液晶の滲み(プーリング)が発生することがある。また、スマートフォンは、携帯ゲームの普及等により、表示装置が高速で繰り返し強い力で押圧されることがあるが、そのような場合、プーリングが目立つことがあり、プーリングを抑制する要求が高まりつつある。そのため、表示装置に使用される発泡シートは、高い衝撃吸収性のみならず、プーリングを早期に消失できる特性(すなわち、耐プーリング性)が求められるようになってきている。…
[0016]…発泡シートは、携帯装置の小型化及び薄型化を達成しやすくし、かつ衝撃吸収性能及び耐プーリング性をより良好にしやすくするためには、厚さが0.06〜0.30mmであることが好ましい。」

(2)甲第1号証に記載された発明
摘記1aの「感圧接着剤配置部と、感圧接着剤非配置部と、を有しており、…
前記感圧接着剤配置部は、前記シート状基材の表面において、分離して配置された2以上の部分を有しており、前記感圧接着剤非配置部の帯状部分は、前記感圧接着剤配置部の2以上の部分のうち隣りあう2つの部分のあいだに位置している、…前記シート状基材は発泡体層を含む、…積層シート。」との記載、
摘記1bの「感圧接着剤非配置部16は、長手方向に連続して延びる複数の帯状部分18a,18b,18c,18dから構成されている。これら帯状部分…はいずれも、積層シート1の端部に到達している。…波状パターンは、…パターンを反転させる等して、重ねて形成されたものであってもよい。」との記載、
摘記1cの「感圧接着剤層は…室温付近の温度域において…粘弾性体…の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する…本明細書における積層シートの概念には…感圧接着テープ…と称され得るものが包含される。…ここに開示される積層シートは、…携帯電子機器(例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノートパソコン等)の表面保護シート、上記携帯電子機器の液晶表示装置における接合固定用途、上記携帯電子機器の表示部を保護する保護パネル(レンズ)固定用途、携帯電話のキーモジュール部材固定用途等に好ましく適用され得る。」との記載、並びに
摘記1dの「例7…PETフィルム上にアクリル系発泡体層(厚さ100μm)を形成し、PET層と発泡体層との積層シート状基材を作製し…PET層側表面に…感圧接着剤層を貼り合わせ、本例に係る積層シートを得た。」との記載、及び「表2」の「例7」の「感圧接着剤層…厚さ[μm]…20…シート状基材…PETフィルム/アクリル発泡体…パターン…溝の幅[mm]…1.0…溝の間隔[mm]…40…剥離強度[N/25mm]…5.0…気泡抜け性…○」との記載からみて、甲第1号証の刊行物には、
『アクリル系発泡体層を含むシート状基材(PETフィルム/アクリル発泡体)のPET層側表面において、分離して配置された2以上の部分を有する感圧接着剤配置部(幅40mm)と、前記感圧接着剤配置部のあいだに位置している感圧接着剤非配置部(幅1.0mm)とを有し、前記感圧接着剤非配置部の帯状部分は積層シートの端部に到達している波状パターンであり、剥離強度が5.0N/25mmで、気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層を有する、携帯電子機器(スマートフォン等)の液晶表示装置における接合固定用途等に好ましく適用され得る、その概念に感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「アクリル系発泡体層」と「PET層」の各々は、本1発明の「発泡体層(A)」と「樹脂フィルム層(C)」の各々に相当する。
甲1発明の「PET層側表面」の「分離して配置された2以上の部分を有する感圧接着剤配置部(幅40mm)」は、本1発明の「樹脂フィルム(C)側」の「2以上の粘着部(B)」に相当する。
甲1発明の「前記感圧接着剤配置部のあいだに位置している感圧接着剤非配置部(幅1.0mm)とを有し、前記感圧接着剤非配置部の帯状部分は積層シートの端部に到達している」は、本1発明の「前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであり」に相当する。
甲1発明の「配置部(幅40mm)」と「非配置部(幅1.0mm)」の合計面積に占める「配置部(幅40mm)」の割合は、40÷(40+1.0)×100=97.6%となることから、本1発明の「前記発泡体層(A)の一方の面(a)の面積に占める、前記粘着部(B)を有する領域の割合が10%〜99%である」に相当する。
甲1発明の「その概念に感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」は、刊行物1の段落0071(摘記1c)の「感圧接着剤層は、典型的には、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料(感圧接着剤)から構成された層をいう。」との記載にあるように、用語「感圧接着」は「粘弾性」の状態で「圧力により簡単に被着体に接着」すること(粘着すること)を典型的に意味するので、本1発明の「粘着テープ」に相当する。

してみると、本1発明と甲1発明は『発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであり、前記発泡体層(A)の一方の面(a)の面積に占める、前記粘着部(B)を有する領域の割合が10%〜99%である、粘着テープ。』という点において一致し、次の(α)〜(ε)の5つの点において一応相違する。

(α)発泡体層(A)の一方の面(a)側から粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、本1発明においては「略円形状、略四角形状または略六角形状」であるのに対して、甲1発明においては「波状パターン」である点。

(β)粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、本1発明においては「粘着部(B)が10個〜50000個存在」するのに対して、甲1発明においては個数が不明な点。

(γ)粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が、本1発明においては「−25℃〜5℃」であるのに対して、甲1発明においては損失正接のピーク温度が不明な点。

(δ)2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離が、本1発明においては「0.05mm〜0.15mm」であるのに対して、甲1発明においては「感圧接着剤非配置部」の幅が「1.0mm」である点。

(ε)粘着部(B)の厚さが、本1発明においては「1〜6μm」であるのに対して、甲1発明においては、甲第1号証の段落0118の「表2…例7…感圧接着剤層…厚さ[μm]…20」との記載にあるように、具体的には「20μm」である点。

(4)判断
ア.上記(α)の相違点について
甲第1号証の段落0035(摘記1b)には「波状の例としては…三角波等…が挙げられる。波状パターンは…パターンを反転させる等して、重ねて形成されたものであってもよい。…円状、…直線状であってもよい。」との記載があるところ、
当該「直線状」の場合の形状は、本件特許明細書の段落0166の『表中の…「略四角形(斜線)」は図4に示す形状の粘着部を指す。』との記載にある「略四角形」に該当するものであり(本件特許明細書の「実施例22」を参照。)、
当該『三角波、円状、直線状のパターンを反転させて重ねて形成』した場合のパターンは「菱形」や「円形」の形状になる〔必要ならば、参考文献Aの段落0014(摘記A1)の「図3(b)に示すような平行な直線群が互いに直行した格子であり得る。」との記載を参照されたい。〕から、
甲1発明の「パターン」を「略四角形状」や「略円形状」にすることは、甲第1号証の刊行物に記載があり、当業者にとって容易想到である。

さらに、甲1発明は「気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層」を有する「その概念に感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」に関する発明であるところ、
甲第3号証の段落0012及び0014(摘記3b)には「粘着剤部分2a」を「四角状」やそれ以外の「多角形状」にすることで「貼り合わせ時に混入する気泡を追い出し、均一に貼り合わせる事ができる」ことが記載され、
甲第5号証の段落0017及び0029(摘記5a)には「空気溜りを生じることがなく均一な厚みを保持」できるように「粘着剤層の凸凹構造」を「格子状構造」や「斑点状構造」にすることが記載され、
甲第6号証の段落0007及び0036(摘記6a)には「貼付時に入り込んだ空気がふくれを形成すること」がない「粘着シートを提供」するために「粘着層の形状」を「矩形、三角形、円形、楕円形等」にすることが記載され、
甲第7号証の段落0031及び0079(摘記7a)には「点状粘着剤の形状」を「円形状」や「多角形状」にすることで「気泡による粘着製品の浮きや剥がれ、しわが生じることを抑制できる」ことが記載され、
参考文献Aの段落0014及び0030(摘記A1)には「格子」や「正六角形」や「楕円」の「粘着剤パターン」を形成したものが「気泡の抱き込み」の問題を生じないことが記載されている。
してみると、甲1発明は「気泡抜け性」を良好なものとすることを課題とした「感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」の技術分野に属するものであるところ、このような課題と技術分野に属する甲第3及び5〜7号証の刊行物並びに参考文献Aには、上記のとおり「粘着部の形状」を「円形」、「四角形状」、「六角形状」にすることが好ましいことが記載されているので、甲1発明の「感圧接着剤配置部」のパターンを「略円形状」、「略四角形状」、「略六角形状」にすることは、当業者にとって容易想到である。

イ.上記(β)の相違点について
甲第1号証の段落0030〜0031(摘記1b)の「感圧接着剤非配置部…の幅は…好ましくは0.3〜3mm、…感圧接着部…の幅は…好ましくは2〜50mm…の範囲内とすることが適当である。」との記載にある、感圧接着剤非配置部が0.3mmの幅で、感圧接着部が2mmの幅である場合の「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」に存在する感圧接着部の個数は、50÷(0.3+2)=21.7個となることから、甲1発明の「2以上の部分を有する感圧接着剤配置部」の「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」当たりの個数を「10個〜50000個」とすることは、当業者にとって容易想到である。

また、甲第3号証の段落0025及び0027(摘記3c)の「実施例1…粘着剤層2の四角い島状の粘着剤部分2aの一辺の長さは0.5mm、…粘着剤部分の面積の割合は56%とした。」との記載からみて、甲第3号証の「実施例1」のものの「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」に存在する感圧接着部の個数は、50mm×50mm×0.56÷(0.5mm×0.5mm)=5600個となることから、甲1発明の「2以上の部分を有する感圧接着剤配置部」の「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」当たりの個数を「10個〜50000個」とすることは、当業者にとって容易想到である。

ウ.上記(γ)の相違点について
甲第1号証の段落0071(摘記1c)の「ここに開示される感圧接着剤層は、典型的には、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料(感圧接着剤)から構成された層をいう。」との記載にあるように、甲1発明の「感圧接着剤層」は「室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈」することが求められる材料から構成された層を意味するものである。
そして、甲第8号証の段落0034及び0056(摘記8a)には「ガラス転移点が高過ぎると、常温での柔軟性が失われ」るため「測定周波数1Hz」で測定した「tanδの最大値」から求めた「ガラス転移点」を「−50℃から5℃」にすることが記載されているところ、
常温付近の温度域において「粘弾性体」の状態を呈することが必須の甲1発明の「感圧接着剤配置部」の「周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」が、本1発明の「−25℃〜5℃」という範囲から逸脱した範囲にあるとは解せない。

加えて、甲1発明は「気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層」を有する「その概念に感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」に関する発明であるところ、
甲第2号証の段落0043及び0129(摘記2b)の「粘着剤層(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、…−30℃〜20℃であることが好ましく、…被着体と粘着剤層(b)との界面から気泡を容易に除去することができ…好ましい。」との記載、
甲第8号証の段落0007、0034及び0056(摘記8a)の「空気の抱き込みが少ない粘着シート」の提供のために「測定周波数1Hz」で測定した「tanδの最大値」から求めた「ガラス転移点の範囲」が「−50℃から5℃」であることが好ましい旨の記載、
甲第9号証の段落0027〜0028(摘記9a)の「粘着剤層は、周波数1Hzでの−50℃〜150℃の範囲における損失正接が、−20℃以下の低温域で上に凸状のピーク」を有することで「気泡溜まりが発生し難くなる」との記載、
甲第10号証の段落0015及び0018(摘記10a)の「被着材と粘着テ−プの間に巻き込んだ空気」を「容易に追い出す」ために「粘着剤のガラス転移点温度」は「−10℃から5℃の範囲に調節」するのが好ましい旨の記載からみて、
甲1発明の「気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層」の「周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」が、本1発明の「−25℃〜5℃」という範囲から逸脱した範囲にあるとは解せない。

また、仮に甲1発明の「感圧接着剤層」の「周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」が、本1発明の「−25℃〜5℃」という範囲から逸脱した範囲にあるとしても、甲1発明は「気泡抜け性」を良好なものとすることを課題とした「感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」の技術分野に属するものであるところ、このような課題と技術分野に属する甲第2及び8〜10号証の刊行物には、上記のとおり「周波数1Hz」で測定される「損失正接のピーク温度」を「−25℃〜5℃」程度にすることが好ましいことが記載されているので、甲1発明の「感圧接着剤層」の「周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」を「−25℃〜5℃」程度に設定することは、当業者にとって容易想到である。

エ.上記(δ)の相違点について
甲第1号証の段落0030(摘記1b)には「感圧接着剤非配置部16の…溝26a…の幅は…凡そ0.1〜5mm…の範囲内とすることが適当である」との記載があり、同段落0117(摘記1d)には「表2…例1…溝の幅[μm]…0.1」との記載があり、
甲第3号証の段落0016(摘記3b)には「隣り合う粘着剤部分2aの隙間(すなわち非粘着剤部分2bの幅)は特に限定されないが、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.01〜0.3mmである。」との記載がある。
そして、甲1発明は、甲第1号証の段落0005(摘記1b)の記載にあるように「貼り付け後の外観品質の低下を高度に防止」することを課題とするものであるところ、感圧接着剤非配置部の溝の幅が狭ければ狭いほど、溝が目立たず、外観品質の低下を防止できることは明らかなので、甲1発明の溝の幅を狭くすることに阻害事由があるとはいえない。
してみると、甲1発明の「感圧接着剤非配置部」の幅を「0.1μm」程度にすることは甲第1号証の刊行物に記載があり、甲第3号証の刊行物にも「非粘着剤部分」の幅を「0.01〜1mm」程度にすることが記載されているので、甲1発明の「感圧接着剤非配置部」の幅を「0.05mm〜0.15mm」程度にすることは、当業者にとって容易想到である。

オ.上記(ε)の相違点について
甲第1号証の段落0088(摘記1c)には「感圧接着剤層の厚さは….5〜200μm程度とすることが適当であり、2〜200μm…感圧接着剤層の厚さを制限することは、積層シートの薄膜化、小型化、軽量化、省資源化等の点で有利である。」との記載があり、同段落0117(摘記1d)には「表2…例1…感圧接着剤層…厚さ[μm]…2」との記載があり、
甲第3号証の段落0017(摘記3b)には「粘着剤層1及び2の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.5〜7μmである。」との記載がある。
そして、甲1発明は、甲第1号証の段落0005(摘記1b)の記載にあるように「貼り付け後の外観品質の低下を高度に防止」することを課題とするものであるところ、感圧接着剤層の厚さが薄ければ薄いほど、感圧接着剤層の存在が目立たず、外観品質の低下を防止できることは明らかなので、甲1発明の感圧接着剤層の厚さを薄くすることに阻害事由があるとはいえない。
してみると、甲1発明の「感圧接着剤層」の厚さを「2μm」にすることは甲第1号証の刊行物に記載があり、甲第3号証の刊行物にも「粘着剤層」の厚さを「0.5〜7μm」程度にすることが記載されているので、甲1発明の「感圧接着剤層」の厚さを「1〜6μm」程度にすることは、当業者にとって容易想到である。

カ.本1発明の効果について
本件特許明細書の段落0008の「本発明の粘着テープは、被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記界面に気泡が残存しにくく、かつ、薄型でありながらクッション性と接着力に優れる。」との記載、及び同段落0167の「比較例の粘着テープでは粘着層が島状でなく全面に設けられているため、気泡の抜け道がなく、基本の抜けやすさが著しく悪い。」との記載、並びに、比較例1〔接着力(貼付後1時間)=12.5N/20mm;保持力(テープのずれ距離)=0.0mm〕に比して実施例16〔接着力=7.2N/25mm;保持力=0.2mm〕の結果が劣っていることからみて、本1発明の効果は「気泡の抜けやすさに優れる」という点にあるものと認められる。
これに対して、甲1発明は「気泡抜け性の評価」が“○”であって、甲第1号証の段落0039(摘記1b)の「発泡体シートを備える基材…によって、積層シートに衝撃吸収機能が付与される」との記載、及び同段落0089(摘記1c)の「積層シートは、良好な空気等抜け性を維持しつつ、所定以上の接着力を発揮することができ…180度剥離強度は…典型的に10N/20mm以上…である」との記載にあるように「衝撃吸収機能」や「空気等抜け性」や「所定以上の接着力」に優れるという効果を奏するものであるから、本1発明に格別予想外の効果があるとは認められない。

キ.令和3年4月9日付けの意見書の第3頁において、特許権者は『甲第1号証(特開2015−214134号公報)に記載の引用発明は、本件特許発明のようにディスプレイの背面の貼付用途に極めて適した粘着テープを想定していません。即ち、甲第1号証…でいう「外観品質」は、上述の本件特許発明におけるような、ディスプレイの背面の貼付用途の場合にディスプレイの画像ムラを招来するような「外観」とは全く異なるものであります。』と主張する。
しかしながら、本1発明は、「ディスプレイ非表示面接着用粘着テープ」に限定されるものではないので、上記意見書の主張は採用できない。
よしんば、本1発明の「粘着テープ」が「ディスプレイの背面の貼付用途」のもののみを意図しているとしても、甲第1号証の段落0100(摘記1c)の「携帯電子機器の液晶表示装置における接合固定用途…等に好ましく適用され得る。」との記載からみて、甲1発明が「ディスプレイの背面の貼付用途」を想定していることは明らかなので、上記意見書の主張は採用できない。
そして、参考文献Bの段落0012(摘記B1)の「クッション部に表示器を搭載すれば、ホルダに衝撃等の外力が加わっても、衝撃等はクッション部で吸収され、表示器に伝わり難くなるので、表示器の破損等を招きにくい液晶表示装置が得られる」との記載、及び参考文献Cの段落0004(摘記C1)の「スマートフォン等の携帯機器の表示装置としては、タッチパネル式のものが多く採用され…その操作時の押圧が強くなると液晶の滲み(プーリング)が発生…プーリングを抑制する要求が高まりつつある。」との記載からみて、仮に「ディスプレイの背面の貼付用途」に限定された場合の効果が当業者にとって予想外の効果であるともいえない。

ク.本1発明の進歩性のまとめ
以上のとおりであるから、本1発明は、甲第1〜3及び5〜10号証の刊行物に記載された発明、並びに参考文献A〜Cに記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)本件特許の請求項3〜4、6及び8〜9に係る発明について
ア.本件特許の請求項3に係る発明
本件特許の請求項3に係る発明は、本1発明において「前記樹脂フィルム層(C)の厚みが1〜25μmである」ことを更に特徴としたものであるところ、甲第1号証の段落0110(摘記1d)の「厚さ2μmのPETフィルム基材」との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。

イ.本件特許の請求項4に係る発明
本件特許の請求項4に係る発明は、本1発明又は本件特許の請求項3に係る発明において「前記粘着部(B)と接する面に剥離ライナー(D)を有する」ことを更に特徴とするものであるところ、甲第1号証の段落0110(摘記1d)の「上記剥離ライナーの剥離面に上記感圧接着剤組成物を、乾燥後の厚さが2μmとなるように塗付」との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。

ウ.本件特許の請求項6に係る発明
本件特許の請求項6に係る発明は、本1発明又は本件特許の請求項3〜4に係る発明において「前記発泡体層(A)が、ポリウレタン系発泡体層またはアクリル系発泡体層である」ことを更に特徴とするものであるところ、甲第1号証の段落0112(摘記1d)の「アクリル系発泡体層」との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。

エ.本件特許の請求項8に係る発明
本件特許の請求項8に係る発明は「樹脂フィルム層(C)と粘着部(B)と剥離ライナー(D)が一体となったものの樹脂フィルム層(C)上に、発泡層(A)を塗工して形成する請求項1、3、4又は6に記載の粘着テープの製造方法。」に関するものであるところ、甲第1号証の段落0110及び0112(摘記1d)の「剥離ライナーの剥離面に上記感圧接着剤組成物を…塗付し、…PET基材のコロナ放電処理面に、剥離ライナー上に形成された感圧接着剤層を貼り合わせた。…PETフィルム上にアクリル系発泡体層(厚さ100μm)を形成し、PET層と発泡体層との積層シート状基材を作製した。このシート状基材のPET層側表面に…例5と同様にして感圧接着剤層を貼り合わせ、本例に係る積層シートを得た。」との記載、及び甲第4号証の段落0020〜0021(摘記4a)の「剥離ライナー14の一方の面に粘着剤13aを供給するとともに…粘着剤層13の上にプラスチックフィルム12を積層することにより、剥離ライナー14で保護された片面粘着テープ15を作製する。…プラスチックフィルム12の他面側に…ポリウレタン原液11aを所定の厚さに塗布する。との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。

オ.本件特許の請求項9に係る発明
本件特許の請求項9に係る発明は「請求項1、3、4、6又は8に記載の粘着テープをディスプレイの非表示面側に設けたことを特徴とするディスプレイ機器。」に関するものであるところ、甲1発明は「携帯電子機器(スマートフォン等)の液晶表示装置における接合固定用途等に好ましく適用され得る」ものであるから、当該請求項に係る発明に進歩性はない。

カ.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項3〜4、6及び8〜9に係る発明は、甲第1〜10号証の刊行物に記載された発明、及び参考文献A〜Cに記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.理由2(サポート要件)について
(1)一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該変数が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である(知財高裁平成17年11月11日判決,平成17年(行ケ)第10042号,判例時報1911号48頁参照)。』とされている〔平成28年(行ケ)第10147号判決参照。〕。

(2)また、本件特許明細書の段落0006の記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載から見て、本件特許の請求項1、3〜4、6及び8〜9に係る発明の解決しようとする課題は『被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記系面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、低コストで薄型の粘着テープの提供』にあるものと認められる。

(3)ここで、本件特許の請求項1に記載された「前記粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が−25℃〜5℃であり」との記載にある「損失正接のピーク温度が−25℃〜5℃」という広範な数値範囲について、その「−25℃〜5℃」という変数が示す範囲と、得られる効果(課題解決の可否や有用性の有無など)との関係の技術的な意味については、本件特許明細書の段落0036の「−10℃〜5℃であることが、被着体との界面から起泡が抜けやすく(エア抜け性)、かつ、良好な接着力を保持でき、その結果、前記粘着テープの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性(放熱性)や耐熱性が接着力等の性能低下をより効果的に防止できる」との記載を考慮しても、どのようなメカニズム(作用機序)によって、tanδのピーク温度の値が「エア抜け性」などの物性に影響するのか、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されているとはいえない。
そして、例えば、本件特許明細書の段落0165の表7の「比較例1」のものは、同段落0108の記載にある「tanδのピーク温度は0℃」の「粘着剤a」を用いているにも関わらず、上記『被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記系面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、低コストで薄型の粘着テープの提供』という課題を解決できると認識できる「試験結果」になっていないので、当該「−25℃〜5℃」という変数が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載されているともいえない。
してみると、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、本件特許の請求項1に記載の「損失正接のピーク温度が−25℃〜5℃」という変数が示す範囲内にあれば、所望の効果が得られると当業者において認識できるとはいえないので、本件特許の請求項1に記載の広範な数値範囲のもの全てが、上記『被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記系面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、低コストで薄型の粘着テープの提供』という課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。

(4)この点に関して、令和3年4月9日付けの意見書の第5頁において、特許権者は『前記tanδのピーク温度の数値範囲における下限値が「−25℃」であれば本件特許発明の課題を解決できることは、前記tanδのピーク温度が「−25℃」である「粘着剤f」(段落〔0121〕参照)が用いた実施例18の結果から当業者は理解します。一方、前記tanδのピーク温度の数値範囲における上限値が「5℃」であれば本件特許発明の課題を解決できることは、…本件特許明細書の段落〔0036〕の「…」との記載を考慮すれば当業者は理解します。』と主張する。
しかしながら、令和3年2月3日付けの取消理由通知(決定の予告)の第6 1.(3)の『本件特許明細書の段落0036の「−10〜5℃で…効果的に防止できる」との記載を考慮しても、どのようなメカニズム(作用機序)によって、tanδの値が「エア抜け性」などの物性に影響するのか、…理解できる程度に記載されているとはいえず』との指摘に対する特許権者の主張・立証によっては、依然として「tanδ」のピーク温度の値が、どのような「作用機序」に基づいて「エア抜け性」などの物性に影響するのか、当業者といえども理解できない。

(5)したがって、本願請求項1及びその従属項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1、3〜4、6及び8〜9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第7 むすび
以上のとおり、理由1に関して、本件特許の請求項1、3〜4、6及び8〜9に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたことに該当するから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
また、理由2に関して、本件特許の請求項1、3〜4、6及び8〜9に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない特許出願に対してされたことに該当するから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
そして、訂正前の請求項2、5及び7は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項2、5及び7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)側から前記粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、略円形状、略四角形状または略六角形状であり、
前記粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、前記粘着部(B)が10個〜50000個存在し、
2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離が0.05mm〜0.15mmであり、
前記粘着部(B)の厚さが1〜6μmであり、
前記粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が−25℃〜5℃であり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)の面積に占める、前記粘着部(B)を有する領域の割合が10%〜99%であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記樹脂フィルム層(C)の厚みが1〜25μmである請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記粘着部(B)と接する面に剥離ライナー(D)を有する請求項1又は3に記載の粘着テープ。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記発泡体層(A)が、ポリウレタン系発泡体層またはアクリル系発泡体層である請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
樹脂フィルム層(C)と粘着部(B)と剥離ライナー(D)が一体となったものの樹脂フィルム層(C)上に、発泡層(A)を塗工して形成する請求項1、3、4又は6に記載の粘着テープの製造方法。
【請求項9】
請求項1、3、4、6又は8に記載の粘着テープをディスプレイの非表示面側に設けたことを特徴とするディスプレイ機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-29 
出願番号 P2018-557664
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (C09J)
P 1 651・ 572- ZAA (C09J)
P 1 651・ 537- ZAA (C09J)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 門前 浩一
木村 敏康
登録日 2019-12-06 
登録番号 6624480
権利者 DIC株式会社
発明の名称 粘着テープ及びその製造方法  
代理人 大野 孝幸  
代理人 流 良広  
代理人 流 良広  
代理人 大野 孝幸  
代理人 岩本 明洋  
代理人 岩本 明洋  
代理人 小川 眞治  
代理人 廣田 浩一  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 小川 眞治  
代理人 廣田 浩一  

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