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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
管理番号 1387458
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-27 
確定日 2022-05-24 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6705710号発明「酸化カルシウム粉末の製造方法及び酸化カルシウム粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6705710号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。 特許第6705710号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6705710号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成28年7月8日に出願され、令和2年5月18日にその特許権の設定登録がされ、同年6月3日に特許掲載公報の発行がされた。
その後、その請求項1、2に係る特許に対して、令和2年11月27日に特許異議申立人横川将也(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立てがされた。その後の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和3年 2月16日付け 取消理由通知
同年 4月19日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 5月12日 特許権者による上申書の提出
同年 5月18日付け 申立人に対する訂正請求があった旨の通知
同年 6月21日 申立人による意見書の提出
同年 7月 6日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 9月13日 特許権者による意見書の提出
同年11月10日 特許権者との面接
同年12月 9日 特許権者による上申書の提出
同年12月20日 特許権者による上申書の提出
令和4年 1月 4日付け 申立人に対する審尋
同年 2月 3日 申立人による回答書の提出

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和3年4月19日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第3項の規定に従い、請求項2を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「BET比表面積が13〜60m2/gの範囲内であり、」、「塩基度が25〜100μmol/m2の範囲内であり、」及び「水蒸気吸着量が200ml/g以上5000ml/g以下である」と記載されているのを、それぞれ「BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内であり、」、「塩基度が30〜60μmol/m2の範囲内であり、」及び「水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下である」に訂正する。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
・訂正事項1について
訂正事項1は、願書に添付された明細書の段落【0040】、【0042】及び【0043】の記載に基づき、訂正前の請求項2に記載された「BET比表面積」、「塩基度」及び「水蒸気吸着量」の数値範囲を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に併せて「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
平均粒子径が100μm以下の水酸化カルシウム粉末を、筒状の回転炉の内周面で転動させつつ、520℃以上で焼成して酸化カルシウム粉末を生成し、焼成した前記酸化カルシウム粉末を粉砕及び/又は分級して、メジアン径(D50)を10μm以下に規定することを特徴とする酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項2】
BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内であり、昇温式脱離吸着過程測定法により測定して、式(1gあたりの二酸化炭素吸着量(μmol/g)/比表面積(m2/g))で換算される塩基度が30〜60μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下であることを特徴とする酸化カルシウム粉末。」

第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和3年2月16日付けの取消理由、及び、同年7月6日付けの取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1の酸化カルシウムの製造方法は記載されているものの、酸化カルシウムのBET比表面積、塩基度、及び、水蒸気吸着量の調整方法が明らかでなく、設定登録時の請求項2に係る発明のうち、実施例1以外の酸化カルシウムの製造方法を当業者が理解できないから、発明の詳細な説明は、当該請求項2に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないし、また、出願時の技術常識に照らしても、当該請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
したがって、設定登録時の請求項2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2
設定登録時及び本件訂正後の請求項2に記載された「塩基度」及び「水蒸気吸着量」は、どのような吸着条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着温度、吸着時間)に基づく数値であるのかが明らかでないため、当該請求項2に係る発明は明確でないし、また、当該請求項2に記載された「塩基度」及び「水蒸気吸着量」の各値は一義的に定まらず、当該請求項2に係る発明を満たしていることを確認できないため、当業者が当該請求項2に係る発明の物を製造することができないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当該請求項2に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
したがって、設定登録時及び本件訂正後の請求項2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由1について
ア 取消理由1についての検討
特許権者の主張をふまえて、取消理由1について再度検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0054】には、実施例1として、平均粒子径6.1μm、BET比表面積12.0m2/gの水酸化カルシウム微粉末(CH−2N 宇部マテリアルズ株式会社製)を外熱式回転炉で550℃、滞留時間4分、回転数25rpmで焼成することで、BET比表面積が38.2m2/g、塩基度が45μmol/m2、水蒸気圧500Paの水蒸気吸着量が326ml/gである酸化カルシウム粉末が得られることが具体的に記載されている。
加えて、発明の詳細な説明には、水酸化カルシウム粉末原料のBET比表面積が酸化カルシウムの水分吸着性に影響すること(段落【0021】)、焼成温度や焼成時間が酸化カルシウムの結晶性に影響すること(段落【0031】、【0032】)、酸化カルシウムの結晶性が、水分や酸性ガスの吸着性に影響すること(段落【0030】、【0031】)、焼成雰囲気が酸化カルシウムの塩基度や酸性ガスの吸着性に影響すること(段落【0033】)、酸化カルシウムのBET比表面積が水分の吸着性に影響すること(段落【0034】)、焼成温度、焼成時間、焼成雰囲気が酸化カルシウムのBET比表面積に影響すること(実施例11〜18、比較例11〜14)、及び、粉砕工程により酸化カルシウムの粒子径を小さく、BET比表面積を高くできること(段落【0035】)が記載されている。
そうしてみると、これら記載や出願時の技術常識を併せ考えれば、当業者であれば、上記実施例1の具体的な製造方法を参考にしつつ、水酸化カルシウム粉末原料のBET比表面積、焼成工程における焼成温度などの焼成条件、及び、粉砕工程における粉砕条件を調整することによって、本件発明2の酸化カルシウムを製造することを理解できるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
さらに、当業者が、発明の詳細な説明や出願時の技術常識に基づき、本件発明2の酸化カルシウムを製造することを理解できることからして、発明の詳細な説明に開示された内容を本件発明2の範囲まで拡張ないし一般化できることも理解できる。
イ 申立人の主張についての検討
申立人は、(i)本件特許明細書の段落【0021】、【0030】〜【0034】の記載は具体的に立証されたものでないこと、及び、(ii)酸化カルシウムから水酸化カルシウムに変化する際の水分量と水酸化カルシウムの水分吸着量の合計量が最大586ml/gであることを論拠にして、水蒸気吸着量を200〜1000ml/gの範囲とすることができることが依然として不明である旨を主張している(令和3年6月21日提出の意見書第2頁(1−3)の項目〜第3頁(2)の項目、令和4年2月3日提出の回答書第3頁(2−2)の項目参照)。
そこで、これらの点について検討すると、本件特許明細書の上記記載箇所には、本件発明2に係る諸物性の影響因子について説明されており、当該説明により、おおよその諸物性の調整が可能であることは、前記アのとおりであり、当該記載が技術常識に反していることを示す証拠もないし、また、本件発明2の酸化カルシウムの水蒸気吸着量が、申立人の前提とするような吸着経路で進むことを示す証拠もないため、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 取消理由1についての結論
以上のとおりであるから、取消理由1に理由はない。
(2)取消理由2について
ア 取消理由2についての検討
(ア)「塩基度」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、塩基度の測定方法について、次のとおりに記載されている。
「【0051】
[塩基度の測定方法]
二酸化炭素の吸着量は昇温式脱離吸着過程測定(CO2−TPD)法を測定して1gあたりの二酸化炭素吸着量を算出し、下記の式により、塩基度を換算した。二酸化炭素の昇温式脱離吸着過程測定(CO2−TPD)は、BELCAT−B(日本ベル株式会社製)を用いて測定した。
塩基度(μmol/m2)= 1gあたりの二酸化炭素吸着量(μmol/g)/比表面積(m2/g) ・・・式」
そこで、BELCAT−B(日本ベル株式会社製)を用いた二酸化炭素の昇温式脱離吸着過程測定(CO2−TPD)法における吸着条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着温度、吸着時間)について検討すると、多和田尚吾、「昇温脱離・反応スペクトル分析」、Journal of the Japan Society of Colour Material、2013年、第86巻、第1号、第20〜25頁(以下、「参考文献」という。)には、次の事項が記載されている。
「4.2 二酸化炭素TPD
・・・
代表的測定条件はアンモニアTPDに近く,50mgの試料をセットし,50cm3/min[S.T.P]のヘリウム流通下10℃/minで500℃まで昇温する。そのまま60min維持し,100℃まで冷却する。30min二酸化炭素を流通させて飽和吸着させた後,ヘリウムを15min流通し,そこから10℃/minで600℃まで昇温して脱離する二酸化炭素を測定する。試料によって前処理温度や昇温測定の目標温度を変更する必要がある。」(第23頁右欄)
前記参考文献は、日本ベル株式会社所属の多和田による論文であることをふまえると、日本ベル株式会社製測定装置を用いたCO2−TPD法では、吸着温度を100℃とし、100℃で二酸化炭素が飽和吸着できるような条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着時間)で実施することが一般的な測定条件であるといえる。
そうしてみると、本件発明2の「塩基度」は、BELCAT−B(日本ベル株式会社製)を用いたCO2−TPD法により、吸着温度を100℃とし、100℃で二酸化炭素が飽和吸着できるような条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着時間)で測定された二酸化炭素吸着量から算出された値であると解することが自然である。
(イ)「水蒸気吸着量」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、水蒸気吸着量の測定方法について、次のとおりに記載されている。
「【0052】
[水蒸気吸着量の測定方法]
水蒸気吸着量は、高精度全自動ガス吸着装置 BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いて水蒸気吸着等温線を測定し、水蒸気圧500Paでの酸化カルシウム1gあたりの水分吸着量(ml/g)を測定した。水分吸着量は、標準状態(0℃、1気圧)における気体の体積に換算した値である。」
そこで、BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いた水蒸気吸着量測定の吸着条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着温度、吸着時間)について検討すると、例えば、特開平11−116236号公報の段落【0014】の記載、特開2004−168885号公報の段落【0051】の記載、さらには、申立人が令和4年2月3日提出の回答書に添付して提出した甲第19号証(「ガス/蒸気吸着測定のための試料前処理」、Technical Sheet、大阪産業技術研究所、2020年2月13日、No.19−13)の第2頁右欄第9〜10行の記載からみて、水蒸気吸着量は、25℃における値を示すことが一般的であるし、前記(ア)での検討と同様に、その他の測定条件については、当該温度で水蒸気が飽和吸着できるような条件で実施することが一般的であるといえる。
そうしてみると、本件発明2の「水蒸気吸着量」は、BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いて、水蒸気圧500Pa、吸着温度25℃とし、水蒸気が飽和吸着できるような条件で測定された値であると解するのが自然である。
(ウ)小括
前記(ア)及び(イ)で検討したとおり、本件発明2の「塩基度」及び「水蒸気吸着量」の値は一義的に決まるものであるから、本件発明2は明確であるし、また、製造された酸化カルシウムが本件発明2を満たすかどうかを確認できるから、前記(1)アで検討したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
イ 申立人の主張についての検討
申立人は、(i)CO2−TPD法における目標温度(昇温温度)が明らかでないこと、及び(ii)水蒸気吸着量測定における前処理条件が明らかでないことを論拠にして、本件発明2の「塩基度」及び「水蒸気吸着量」の値が明確でない旨を主張している(令和3年6月21日提出の意見書第6頁(3−4)の項目〜第9頁の(3−5)の項目、令和4年2月3日提出の回答書第4頁(2−3)の項目参照)。
そこで、これらの点について検討すると、CO2−TPD法は二酸化炭素吸着量を測定するものであることからして、酸化カルシウムに吸着した全ての二酸化炭素が脱離できる温度まで昇温していることは明らかであるし、また、水蒸気吸着量を測定することからして、当該水蒸気の吸着に影響のある分子の全てをあらかじめ除去できるように前処理していることも明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 取消理由2についての結論
以上のとおりであるから、取消理由2に理由はない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第4の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2014−76908号公報
甲第2号証:特開2014−147927号公報
甲第3号証:特開昭55−167126号公報
甲第4号証:石灰製造技術ハンドブック(改訂版)、日本石灰協会、昭和
54年10月25日、第277頁
甲第5号証:特開平11−292576号公報
甲第6号証:特開2004−161513号公報
甲第7号証:特開2006−21945号公報
甲第8号証:株式会社MCエバテック、分析報告書、2020年11月9

甲第9号証:特許第3417490号公報
甲第10号証:松田応作他、「消石灰の炭酸化について」、Gypsum & Lim
e、1968年、第97号、第245〜252頁
甲第11号証:山添昇他、「酸化カルシウム−アルミナ系触媒の塩基性お
よびガス吸着特性」、石油学会誌 Journal of the Japan
Petroleum Institute、1980年、第23巻、第6号、
第397〜402頁
甲第12号証:国際公開第2017/150426号
甲第13号証:(有)坂本石灰工業所「キングドライ」ウエブページ、[
2020年11月24日検索]、インターネット、<URL:
https://sakamoto-lime.com/new/archives/product/%E3%8
2%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4>
、及び、「製品安全データシート」、[2020年11月
24日検索]、インターネット、<URL:https://sakamoto
-lime.com/new/wp-content/uploads/2017/07/%E4%B9%BE%E
7%87%A5%E5%89%A4IC-MSDS.pdf>
甲第14号証:「ガス流通下における吸着特性評価」、Technical Sheet
、大阪産業技術研究所、2021年4月12日、No.2
1−01
甲第15号証:特許第6530690号公報
甲第16号証:特開2020−55701号公報
甲第17号証:守安弘周他、「各種の石灰製品から得たCaO触媒の大豆
油エステル交換活性」、Journal of the Japan Institute
of Energy、2012年、第91巻、第34〜40頁
甲第18号証:株式会社UBE科学分析センター「アルミナビーズの水蒸
気吸着等温線測定」ウエブページ、インターネット、<UR
L:https://www.ube-ind.co.jp/usal/documents/i138_145.
htm>
甲第19号証:「ガス/蒸気吸着測定のための試料前処理」、Technical
Sheet、大阪産業技術研究所、2020年2月13日、N
o.19−13
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証〜甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、設定登録時の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明あって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲第6号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項2に係る発明は、甲第6号証に記載された発明あって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲第7号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項2に係る発明は、甲第7号証に記載された発明あって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項2に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が後記3(4)アの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)申立理由5(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1及び2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(5)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項(下線は当審が付した。以下同様である。)
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰を主成分とする大きさが5mm以下の処理物を焼成して得られる生石灰含有焼成物において、
上記処理物として、石灰石、消石灰、副産石灰のうち何れか一つ以上の石灰質原料と、必要に応じて配合される副原料とで構成し、
該処理物を加熱する炉芯管と、該炉芯管内に設けられ該炉芯管の中心軸の方向に沿って複数列設されるとともに該炉芯管の回転によって該炉芯管の内周面を転動して上記処理物に衝撃を付与するビータ部材とを備えた熱処理装置により、上記処理物を400℃〜1200℃の範囲で焼成し、
CaOを60〜99重量%、炭酸塩(CO2換算値)を0.1〜5重量%含有するとともに、水和活性を0.5〜60秒、BET比表面積を3m2/g以上にしたことを特徴とする生石灰含有焼成物。
・・・
【請求項7】
上記請求項1乃至4何れかに記載の生石灰含有焼成物を製造する生石灰含有焼成物の製造方法において、
上記熱処理装置として、上流側で処理物を受け入れ略水平方向に延びる中心軸を中心に回転させられて該処理物を上流側から下流側に移動させ下流側に設けた排出口から処理物を排出する炉芯管と、該炉芯管内に該炉芯管の中心軸の方向に沿って複数列設されるとともに該炉芯管の回転によって該炉芯管の内周面を転動して上記処理物に衝撃を付与するビータ部材と、上記炉芯管の上記排出口より上流側の所定区間を外部から加熱する炉芯管加熱部とを備えたものを用い、
上記炉芯管内に上流側から下流側へ向かう空気を流し、上記炉芯管加熱部での加熱による処理物の焼成温度範囲を800℃〜1200℃に設定するとともに、該炉芯管加熱部で加熱された処理物を上記排出口に至るまで上記焼成温度範囲内の800℃〜1200℃に保持したことを特徴とする生石灰含有焼成物の製造方法。」
イ 「【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、石灰を主成分とする大きさが5mm以下の微粒・微細な処理物を直接に熱処理装置により焼成し、炉への付着を回避しつつ、未反応石灰質の含有量が少なく、且つ、高い水和活性と比表面積を備えた高品質の優れた生石灰含有焼成物,その消化物である高い反応性と比表面積を備えた高品質の消石灰及び生石灰含有焼成物の製造方法を提供することを目的とする。」
ウ 「【0017】
焼成温度は、投入する石灰質原料の性状に応じて適宜設定する。即ち、石灰質原料の石灰質が水酸化カルシウムのみの場合、焼成温度は400〜800℃が推奨される。・・・」
エ 「【0054】
また、実施の形態においては、向流型の熱処理装置(図示せず)を用いることができる。これは、上記の並流型の熱処理装置Sにおいて、炉芯管10の壁部に設けた排出口7,温度保持手段K,中間覆部48及び螺旋57を廃止し、排出口を、炉芯管10の下流端(排気口10b)で構成し、更に、空気供給部50が、下流端覆部52の排気出口53(空気供給口として構成される)に接続され、空気を下流側から上流側に送り、上流端覆部51の空気供給口56(排気出口として構成される)から排出するように構成される。」
オ 「【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
処理物として、図4に示す石灰質原料(A〜G)を用意した。
実施例1〜10に係り、熱処理装置(「ラジアル炉」ともいう)としては、上記の熱処理装置と同様の「並流」型の実験炉、及び、上記と同様の「向流」型の実験炉(排出口を炉芯管の下流端で構成)を作成した。各実験炉は、内径200mm、全長4,000mm、有効長(加熱部の長さ)2,500mmの炉芯管で内蔵する電気ヒーター式のものである。
・・・
【0063】
A.実施例1〜7、及び、比較例1〜8
実施例1〜7は、上記の熱処理装置により、図4に示す石灰質原料を焼成した。
また、比較例1〜8として、内熱式回転炉及び外熱式回転炉によって実施例と同様に図4の石灰質原料を焼成した。
焼成条件(原料送入量、焼成温度、焼成時間)、被焼成物の炉内付着の状況、焼成物の回収率、焼成物の性状(CaO含有量、Al2O3含有量、SiO2含有量、CO2含有量、水和活性、BET比表面積)を図5に示す。
・・・
【0067】
実施例4では、石灰質原料として、微粉の消石灰を用いた。炉内付着はほとんど見られなかったが、炉内通風によって被焼成物の炉外飛散が増大し、実施例1〜3に比較すると焼成物の回収率は若干低下した。しかしながら、得られた生石灰含有焼成物の比表面積は極めて高いものであった。これに対して、同じ原料を内熱式回転炉で焼成すると(比較例4)、燃焼ガスの影響によって被焼成物のほとんどは炉外に飛散してしまい、焼成物の回収率は極めてわずかであった。また、外熱式回転炉では(比較例5)、焼成直後から被焼成物の炉内付着が始まり、短時間で炉内が閉塞し、焼成不可と判断された。」
カ 「【図4】

【図5】


(2)甲第6号証の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カルシウム粉粒体を、アルミニウム化合物を含有する液体と混合した後、水和して水酸化カルシウムを生成させ、引き続き熱処理して酸化カルシウムを生成させることを特徴とする、酸化アルミニウム成分を含有する酸化カルシウム粉粒体の製造方法。
・・・
【請求項4】
酸化アルミニウム成分を0.1〜5質量%含有し、かつ比表面積が20m2/g以上である、酸化アルミニウム成分を含有する酸化カルシウム粉粒体。」
イ 「【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、酸性ガス、例えば、都市ごみの焼却時に発生する塩化水素や硫黄酸化物を効率的に除去できる酸化カルシウム粉粒体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。また、当該酸化カルシウム粉粒体からなる酸性ガス吸収剤を提供することを目的とするものである。」
ウ 「【0027】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1
出発原料として、平均粒径4μmの炭酸カルシウム粉体(純度99.99%)を用い、アルミニウム化合物としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド(ALCH)を用いた。炭酸カルシウム粉体を1200℃で4時間、大気中で焼成して酸化カルシウム(試料名:「CaO」)を作製した。この酸化カルシウム粉体の平均粒径は3μmであった。
・・・
【0030】
得られた試料(「CaO」、「Ca(OH)2」、「H−CaO」及び「HA−CaO」)につき、比表面積とHCl(塩化水素)吸収率を測定した。比表面積は、ユアサアイオニクス株式会社製比表面積計「モノソーブ」を使用し、窒素吸着のBET1点法により測定した。このとき、150℃、30分の測定前処理を施してから測定した。
・・・
【0033】
実施例2
原料の酸化カルシウム粉体は実施例1と同様にして製造したものを使用した。また、アルミニウム化合物として、多木化学株式会社製塩基性乳酸アルミニウム「タキセラムM−160P」及び日産化学工業株式会社製アルミナゾル「アルミナゾル−200」を用いた。
【0034】
この酸化カルシウム粉体50gに対して水20gと塩基性乳酸アルミニウムの混合溶液を、酸化アルミニウム成分の含有量が0.5質量%になるように加え、断熱容器内で1時間混合して水酸化カルシウム粉体を得た。これを窒素中600℃で30分間加熱し、酸化アルミニウム成分を含有する高活性酸化カルシウム粉体(試料名:「塩基性乳酸Al−A」)を得た。また、酸化カルシウム50gに対して水20gとアルミナゾルの混合溶液を、酸化アルミニウム成分の含有量が0.1、0.3、0.5、1及び2質量%になるように加え、断熱容器内で1時間混合して水酸化カルシウム粉体を得た。これを大気中150℃で乾燥処理した後、窒素中500、600及び700℃で30分間加熱し、酸化アルミニウム成分を含有する高活性酸化カルシウム粉体(試料名:「アルミナゾル」)を得た。
・・・
【0036】
得られた試料(「アルミナなし」、「塩基性乳酸Al−A」、「アルミナゾル」及び「HA−CaO」)につき、実施例1と同様にして、比表面積とHCl(塩化水素)吸収率を測定した。このとき、「アルミナゾル」については、熱処理温度を変化させた複数の試料と、酸化アルミニウム成分の含有量を変化させた複数の試料について、HCl(塩化水素)吸収率を測定した。
【0037】
図3に実施例2で得られた各粉末の比表面積を示す。各粉末の熱処理温度は600℃であり、「アルミナなし」を除く試料の酸化アルミニウム成分の含有量は0.5質量%である。「アルミナなし」の比表面積が18m2/gであるのに対し、「塩基性乳酸Al−A」は23m2/gとなり、「アルミナゾル」では29m2/gとなった。また、「塩基性乳酸Al−B」は19m2/gとなり、「塩基性乳酸Al−A」よりも低い比表面積となった。このように酸化アルミニウム成分を含有させることによって比表面積は高くなり、酸化アルミニウム成分を含有させる方法によっても違いがみられた。
【0038】
図4に実施例2で得られた各粉末のHCl吸収率を示す。各粉末の熱処理温度は600℃であり、「アルミナなし」を除く試料の酸化アルミニウム成分の含有量は0.5質量%である。「アルミナなし」のHCl吸収率が54%であるのに対し、「塩基性乳酸Al−A」は61%となり、「アルミナゾル」では66%となった。また、「塩基性乳酸Al−B」は58%となり、「塩基性乳酸Al−A」よりも低いHCl吸収率となった。このように酸化アルミニウム成分を含有させることによってHCl吸収率は向上し、酸化アルミニウム成分を含有させる方法によっても違いがみられた。」
(3)甲第7号証の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
消石灰を焼成して脱水することからなる生石灰の製造方法において、下式により定義されるプロセス関数Fの値が、1〜90の範囲となるように条件を選択して実施することを特徴とする高反応性の生石灰を製造する方法。
F=(B/30)(T・t/P)
ここで、B:原料消石灰のBET比表面積(m2/g)
T:焼成温度(K)
t:焼成時間(hr)
P:雰囲気圧力(Pa)
・・・
【請求項3】
請求項1に記載の方法により製造した、下記の条件を満たす高反応性の生石灰。
強熱減量:10重量%以下
BET比表面積:30m2/g以上
総細孔容積:1.0×10−4dm3/g以上
平均粒径:5μm以上」
イ 「【0007】
本発明の目的は、上記した発明者らが得た新しい知見を利用し、既知の高反応性生石灰を超える高い反応性や吸湿性を発揮する生石灰と、それを安定的に製造する方法を提供することにある。」
ウ 「【実施例】
【0018】
BET比表面積が40m2/gまたは15m2/gの消石灰を原料として使用し、高反応性の生石灰を製造した。比表面積40m2/gの消石灰は、水和遅延剤を利用することにより製造したものである。脱炭酸反応のための加熱条件と、それぞれの場合のプロセス関数を、下記の表に示す。対比のため、前記した特許文献1の実施例について推定した反応条件の加熱(参考例1)と、従来の常圧雰囲気における加熱の場合(参考例2)とを、比表面積が40m2/gの原料を対象に、あわせて実施した。
【0019】
得られたサンプルについて、強熱減量、BET比表面積、総細孔容積、平均粒径およびASTM活性度(t45、すなわちサンプル投入から温度が45℃に到達するまでの時間)を測定した。それらの結果を、あわせて表に示す。・・・
【0021】
【表1】


3 申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、前記2(1)アのとおり、「生石灰含有焼成物」及び「生石灰含有焼成物の製造方法」が記載され、前記2(1)エ〜カによれば、その具体例として実施例1〜7が記載されていることから、これら記載を実施例4の「生石灰含有焼成物の製造方法」及び「生石灰含有焼成物」に注目して整理すると、甲第1号証には、以下の「生石灰含有焼成物の製造方法」の発明(以下、「甲1発明1」という。)及び「生石灰含有焼成物」の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
・甲1発明1
「上流側で処理物を受け入れ略水平方向に延びる中心軸を中心に回転させられて該処理物を上流側から下流側に移動させ下流側に設けた排出口から処理物を排出する炉芯管と、該炉芯管内に該炉芯管の中心軸の方向に沿って複数列設されるとともに該炉芯管の回転によって該炉芯管の内周面を転動して上記処理物に衝撃を付与するビータ部材と、上記炉芯管の上記排出口より上流側の所定区間を外部から加熱する炉芯管加熱部とを備えた熱処理装置を用い、上記炉芯管内に下流側から上流側へ向かう空気を流し、該炉芯管加熱部での焼成温度を500℃として、平均粒径が0.02μmの消石灰からなる石灰質原料(処理物)を焼成する、生石灰含有焼成物の製造方法。」
・甲1発明2
「水和活性が1秒、BET比表面積が35.0m2/g、CaO含有量が98重量%である、生石灰含有焼成物。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明1との対比
甲1発明1の「平均粒径が0.02μmの消石灰からなる石灰質原料(処理物)」、「生石灰含有焼成物」は、それぞれ、本件発明1の「平均粒子径が100μm以下の水酸化カルシウム粉末」、「酸化カルシウム粉末」に相当する。
また、甲1発明1の「炉心管」は、「中心軸を中心に回転」していることから、本件発明1の「筒状の回転炉」に相当する。
さらに、甲1発明1の「上流側で処理物を受け入れ略水平方向に延びる中心軸を中心に回転させられて該処理物を上流側から下流側に移動させ下流側に設けた排出口から処理物を排出する炉芯管と、該炉芯管内に該炉芯管の中心軸の方向に沿って複数列設されるとともに該炉芯管の回転によって該炉芯管の内周面を転動して上記処理物に衝撃を付与するビータ部材と、上記炉芯管の上記排出口より上流側の所定区間を外部から加熱する炉芯管加熱部とを備えた熱処理装置を用い」て「焼成する」ことは、炉心管の上流側で処理物を受け入れ、該炉芯管の内周面を転動して処理物に衝撃を付与しながら移動させていることからして、本件発明1の「回転炉の内周面で転動させつつ」、「焼成」することに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明1との一致点と相違点は、次のとおりであるといえる。
・一致点
「平均粒子径が100μm以下の水酸化カルシウム粉末を、筒状の回転炉の内周面で転動させつつ、焼成して酸化カルシウム粉末を生成する酸化カルシウム粉末の製造方法。」
・相違点1
本件発明1では、520℃以上で焼成しているのに対して、甲1発明1では、500℃で焼成している点。
・相違点2
本件発明1では、生成した酸化カルシウム粉末を粉砕及び/又は分級して、メジアン径(D50)を10μm以下にしているのに対して、甲1発明1では、その点が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
まず、相違点1について検討すると、甲第1号証には、前記2(1)ウに摘示したとおり、「石灰質原料の石灰質が水酸化カルシウムのみの場合、焼成温度は400〜800℃が推奨される」ことが記載されているものの、当該焼成温度は、大きさが5mm以下の処理物(前記2(1)ア参照)を対象したときの温度範囲であるから、甲1発明1のように平均粒径が0.02μmの消石灰に対する焼成温度を520℃以上に変更する動機付けにならないし、甲第1号証にその他の動機付けとなるような記載はない。加えて、甲第2号証〜甲第5号証にも、平均粒径が0.02μmの消石灰を520℃以上で焼成することは記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明1において、焼成温度を520℃以上とすることは、当業者にとって容易想到な事項であるといえない。
(ウ)小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証〜甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲1発明2との対比
甲1発明2の「BET比表面積が35.0m2/g」、「CaO含有量が98重量%である、生石灰含有焼成物」は、それぞれ、本件発明2の「BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内であ」ること、「酸化カルシウム粉末」に相当する。
したがって、本件発明2と甲1発明2との一致点と相違点は、次のとおりであるといえる。
・一致点
「BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内である、酸化カルシウム粉末。」
・相違点3
本件発明2では、「昇温式脱離吸着過程測定法により測定して、式(1gあたりの二酸化炭素吸着量(μmol/g)/比表面積(m2/g))で換算される塩基度が30〜60μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下である」のに対して、甲1発明2では、その点が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
まず、相違点3が実質的なものであるかを検討すると、甲1発明2の「生石灰含有焼成物」が、30〜60μmol/m2の塩基度、及び、200ml/g以上1000ml/g以下の水蒸気吸着量を有していることを示す証拠はないから、相違点3は実質的なものであるといえる。
次に、相違点3に係る本件発明2の構成の容易想到性について検討すると、甲第1号証には、高い水和活性と比表面積を備えた高品質の優れた生石灰含有焼成物を提供することを目的(前記2(1)イ)とし、「生石灰含有焼成物」の水和活性や比表面積を特定することは記載されているもの、塩基度及び水蒸気吸着量を特定することについての記載も示唆もないから、甲1発明2において、塩基度を30〜60μmol/m2の範囲内とし、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量を200ml/g以上1000ml/g以下とすることは、当業者にとって容易想到な事項であるといえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、甲1発明2が、本件発明1と同じ方法で得られていることを論拠にして、上記相違点3は実質的な相違点にならない旨を主張している(特許異議申立書第28頁(3−2−1)の項目参照)。
そこで、この点について検討すると、甲1発明2の「生石灰含有焼成物」の製造方法は、甲1発明1であるといえるところ、前記イで検討したとおり、本件発明1と甲1発明1とは相違しているから、甲1発明2が、本件発明1と同じ方法で得られているといえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)小括
したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2)申立理由2(甲第6号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)について
ア 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、前記2(2)アのとおり、「酸化カルシウム粉粒体」が記載されて、前記2(1)ウによれば、その具体例として実施例1〜4が記載されていることから、これら記載を実施例2の「塩基性乳酸Al−A」で示される「高活性酸化カルシウム粉体」に注目して整理すると、甲第6号証には、以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
・甲6発明
「BET比表面積が23m2/g、HCl吸収率が61%である、酸化アルミニウム成分を含有する高活性酸化カルシウム粉体。」
イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲6発明との対比
甲6発明の「BET比表面積が23m2/g」、「高活性酸化カルシウム粉体」は、それぞれ、本件発明2の「BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内」、「酸化カルシウム粉末」に相当する。
したがって、本件発明2と甲6発明との一致点と相違点は、次のとおりであるといえる。
・一致点
「BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内である、酸化カルシウム粉末。」
・相違点4
本件発明2では、「昇温式脱離吸着過程測定法により測定して、式(1gあたりの二酸化炭素吸着量(μmol/g)/比表面積(m2/g))で換算される塩基度が30〜60μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下である」のに対して、甲6発明では、その点が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
まず、相違点4が実質的なものであるかを検討すると、甲6発明の「高活性酸化カルシウム粉体」が、30〜60μmol/m2の塩基度、及び、200ml/g以上1000ml/g以下の水蒸気吸着量を有していることを示す証拠はないから、相違点4は実質的なものであるといえる。
次に、相違点4に係る本件発明2の構成の容易想到性について検討すると、甲第6号証には、酸性ガスを効率的に除去できる酸化カルシウム粉粒体を提供することを目的(前記2(2)イ)とし、「高活性酸化カルシウム粉体」の比表面積及びHCl吸収率を特定することは記載されているもの、塩基度及び水蒸気吸着量を特定することについての記載も示唆もないから、甲6発明において、塩基度を30〜60μmol/m2の範囲内とし、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量を200ml/g以上1000ml/g以下とすることは、当業者にとって容易想到な事項であるといえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、甲6発明が、水酸化カルシウムから窒素中600℃の加熱を経て製造されており(前記2(2)ウの段落【0034】参照)、本件発明1の焼成温度が520℃以上であるとの条件や本件特許明細書段落【0033】に記載の窒素中で焼成するとの条件を満たしていることを論拠にして、上記相違点4は実質的な相違点にならない旨を主張している(特許異議申立書第30頁(3−2−2)の項目参照)。
そこで、この点について検討すると、前記第4の2(1)アで検討したとおり、酸化カルシウムの塩基度や水蒸気吸着量は、焼成温度や焼成雰囲気以外の焼成条件によっても影響を受けるから、甲6発明が、水酸化カルシウムから窒素中600℃の加熱を経て製造されているからといって、本件発明2の塩基度や水蒸気吸着量を満足するとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)小括
したがって、本件発明2は、甲第6号証に記載された発明であるといえないし、甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3)申立理由3(甲第7号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)について
ア 甲第7号証に記載された発明
甲第7号証には、前記2(3)アのとおり、「高反応性の生石灰」が記載されて、前記2(1)ウによれば、その具体例として実施例1が記載されていることから、これら記載を実施例1の「高反応性の生石灰」に注目して整理すると、甲第7号証には、以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
・甲7発明
「強熱減量が0.82重量%、BET比表面積が35.0m2/g、総細孔容積が0.31×10−4dm3/g、平均粒径が6.4μmである高反応性の生石灰。」
イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲7発明との対比
甲7発明の「BET比表面積が35.0m2/g」、「高反応性の生石灰」は、それぞれ、本件発明2の「BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内」、「酸化カルシウム粉末」に相当する。
したがって、本件発明2と甲7発明との一致点と相違点は、次のとおりであるといえる。
・一致点
「BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内である、酸化カルシウム粉末。」
・相違点5
本件発明2では、「昇温式脱離吸着過程測定法により測定して、式(1gあたりの二酸化炭素吸着量(μmol/g)/比表面積(m2/g))で換算される塩基度が30〜60μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下である」のに対して、甲7発明では、その点が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
まず、相違点5が実質的なものであるかを検討すると、甲7発明の「高反応性の生石灰」が、30〜60μmol/m2の塩基度、及び、200ml/g以上1000ml/g以下の水蒸気吸着量を有していることを示す証拠はないから、相違点5は実質的なものであるといえる。
次に、相違点5に係る本件発明2の構成の容易想到性について検討すると、甲第7号証には、高い反応性や吸湿性を発揮する生石灰を提供することを目的(前記2(3)イ)とし、「高反応性の生石灰」の強熱減量、BET比表面積、総細孔容積及び平均粒径を特定することは記載されているものの、塩基度及び水蒸気吸着量を特定することについての記載も示唆もないから、甲7発明において、塩基度を30〜60μmol/m2の範囲内とし、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量を200ml/g以上1000ml/g以下とすることは、当業者にとって容易想到な事項であるといえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、甲7発明が、消石灰から973K(600℃)の反応条件で製造されており(前記2(3)ウの【0018】及び【表1】参照)、本件発明1の焼成温度が520℃以上との条件を満たしていることを論拠にして、上記相違点5は実質的な相違点にならない旨を主張している(特許異議申立書第31頁(3−2−3)の項目参照)。
そこで、この点について検討すると、前記第4の2(1)アで検討したとおり、酸化カルシウムの塩基度や水蒸気吸着量は、焼成温度以外の焼成条件によっても影響を受けるから、甲7発明が、消石灰から973K(600℃)の反応条件で製造されているからといって、本件発明2の塩基度や水蒸気吸着量を満足するとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)小括
したがって、本件発明2は、甲第7号証に記載された発明であるといえないし、甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
(4)申立理由4(実施可能要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由4は、要するに、(i)本件特許明細書には、酸性ガスの吸着性の評価方法や酸性ガスの種類が記載されていないため、塩基度が25〜100μmol/m2の範囲内で酸性ガスの吸着性が優れることを確認できないこと、及び、(ii)市販されている粒状生石灰(ライスガード、宇部マテリアルズ株式会社製)に対する塩基度について、本件特許明細書の比較例2と甲第12号証の比較例3の結果が異なっているため、当該塩基度の測定方法が理解できないことを論拠にして、発明の詳細な説明は、設定登録時の請求項2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえない、というものである(特許異議申立書第42頁(3−3−5)の項目、第43頁(3−3−9)の項目参照)。
イ 申立理由4についての検討
(ア)前記(i)について
「塩基度」は、二酸化炭素を酸性ガスとする、酸性ガスの吸着性能を示す指標であることから、当該数値範囲によって、酸性ガスの吸着性の優劣は確認できる。
(イ)前記(ii)について
前記第4の2(2)アで検討したとおり、本件発明2の「塩基度」の測定方法は明確であり、本件特許明細書の実施例1に基づき、当業者が本件発明2を実施できることは明らかであるから、比較例2の記載に関わらず、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満足しているといえる。
ウ 申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4に理由はない。
(5)申立理由5(サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由5は、要するに、(i)本件特許の審査段階手続きにおいて、令和1年6月28日に提出された意見書での特許権者の主張に基づき、焼成温度が520℃以上570℃未満の範囲は本件特許明細書の発明の詳細な説明にサポートされていないこと、(ii)発明の詳細な説明には、酸性ガスの吸着性についての具体的なデータがないこと、及び、(iii)発明の詳細な説明の実施例1(塩基度が45μmol/m2、水蒸気吸着量が326ml/g)から、塩基度が25μmol/m2付近又は100μmol/m2付近、あるいは、水蒸気吸着量が200ml/g付近又は5000ml/g付近においても、酸性ガス及び水分の吸着性が優れるかどうかは不明であることを論拠にして、設定登録時の請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない、というものである(特許異議申立書第42頁(3−3−5)の項目〜第43頁(3−3−8)の項目参照)。
イ 申立理由5についての検討
(ア)前記(i)について
令和1年6月28日提出の意見書には、「本願発明は、焼成後にCa(OH)2が存在しないような、570℃以上という温度で原料の水酸化カルシウム粉末を焼成することによって、水分の吸着性に優れた微細な酸化カルシウム粉末を短時間で製造することを可能としたものです。焼成後の生石灰含有焼成物中に存在するCa(OH)2について何ら考慮されていない引用文献1に基づいたところで、原料を570℃以上の温度で焼成する本願請求項1の酸化マグネシウム粉末の製造方法を想到することは、たとえ当業者であっても不可能です。
従いまして、補正後の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないと確信します。請求項1を引用する請求項2〜5に係る発明も同様に、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもないと思料されます。」(「(5)本願発明と引用文献と比較」の項目参照)と記載されており、当該記載は、当該意見書と同日に提出された手続補正書によって補正された請求項1〜5に係る発明の進歩性に対する主張であるところ、当該請求項1〜5に係る発明は、令和3年12月19日提出の手続補正書により削除され、本件特許には存在しない発明である。
そうしてみると、本件特許に存在しない発明の進歩性に対する主張を根拠にして、本件発明1及び2のサポート要件を主張することは失当といわざるを得ない。
(イ)前記(ii)及び(iii)について
前記(4)イ(ア)で検討したとおり、「塩基度」は、二酸化炭素を酸性ガスとする、酸性ガスの吸着性能を示す指標であって、当該数値範囲によって、酸性ガスの吸着性の優劣は確認できるし、また、「水蒸気吸着量」は、水分の吸着性能を示す指標であって、当該数値範囲によって、水分の吸着性の優劣は確認できるから、「塩基度が30〜60μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下」であることを特定する本件発明2は、酸性ガス及び水分の吸着性が優れることは明らかであって、当業者において、「水分の吸着性に優れた酸化カルシウム粉末を提供する」(本件特許明細書段落【0018】)という課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
ウ 申立理由5についての結論
以上のとおりであるから、申立理由5に理由はない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、並びに、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が100μm以下の水酸化カルシウム粉末を、筒状の回転炉の内周面で転動させつつ、520℃以上で焼成して酸化カルシウム粉末を生成し、焼成した前記酸化カルシウム粉末を粉砕及び/又は分級して、メジアン径(D50)を10μm以下に規定することを特徴とする酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項2】
BET比表面積が15〜50m2/gの範囲内であり、昇温式脱離吸着過程測定法により測定して、式(1gあたりの二酸化炭素吸着量(μmol/g)/比表面積(m2/g))で換算される塩基度が30〜60μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧500Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下であることを特徴とする酸化カルシウム粉末。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-12 
出願番号 P2016-136348
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C01F)
P 1 651・ 113- YAA (C01F)
P 1 651・ 536- YAA (C01F)
P 1 651・ 121- YAA (C01F)
P 1 651・ 537- YAA (C01F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
後藤 政博
登録日 2020-05-18 
登録番号 6705710
権利者 宇部マテリアルズ株式会社
発明の名称 酸化カルシウム粉末の製造方法及び酸化カルシウム粉末  
代理人 弁理士法人きさらぎ国際特許事務所  
代理人 弁理士法人きさらぎ国際特許事務所  
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