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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1387462
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-29 
確定日 2022-06-09 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6730101号発明「グラフィックシート及び建築構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6730101号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5、7〜11〕及び〔6、12〜13〕について訂正することを認める。 特許第6730101号の請求項4〜6及び10〜13に係る特許を維持する。 特許第6730101号の請求項1〜3及び7〜9に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6730101号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜11に係る特許についての出願は、
平成28年6月10日に出願され、令和2年7月6日に特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その請求項1〜11に係る発明の特許に対し、令和3年1月29日に鹿川明香(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和3年 4月13日付け 取消理由通知
同年 7月15日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 8月25日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 9月27日 意見書(特許異議申立人)
同年11月25日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和4年 2月25日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 3月 3日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 4月 7日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和4年2月25日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6730101号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし13について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜10からなるものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4の「前記接着層が連続気泡アクリル系フォームを含み、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する、請求項1に記載のグラフィックシート。」との記載を独立形式による記載に改め、
その「を含み、」との記載の後に「前記基材が、プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174であり、」との記載を追加した後、
その「前記接着層の石膏ボード又はポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で8N/25mm以下であり」との記載を「前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり、前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下であり」との記載に改めるとともに、
その「前記接着層が連続気泡アクリル系フォームを含み、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する」との記載を「前記接着層が連続気泡アクリル系フォームで形成され、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有し、前記連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である」に改める訂正をする。
(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5、10及び11も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
訂正前の請求項5の「前記接着層がアクリル系織布又はアクリル系不織布を含み、前記接着層が複数の繊維から構成された微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する、請求項1に記載のグラフィックシート。」との記載を独立形式による記載に改め、
その「を含み、」との記載の後に「前記基材が、プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174であり、」との記載を追加した後、
その「前記接着層の石膏ボード又はポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で8N/25mm以下であり」との記載を「前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり、前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下であり」との記載に改めるとともに、
その「前記接着層がアクリル系織布又はアクリル系不織布を含み」との記載を「前記接着層が、接着性を示す材料で作られるアクリル系織布又はアクリル系不織布で形成され」に改める訂正をする。
(請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項10及び11も同様に訂正する。)

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(9)訂正事項9
訂正前の請求項10の「基材と、前記基材の表面に配置された請求項1〜9のいずれか一項に記載のグラフィックシートとを含む建築構造物。」との記載のうち、
請求項4又は5を引用するものについて「基材と、前記基材の表面に配置された請求項4又は5のいずれかに記載のグラフィックシートとを含む建築構造物。」に改めるとともに、
請求項6を引用するものについて「基材と、前記基材の表面に配置された請求項6に記載のグラフィックシートとを含む建築構造物。」に改めて、新たな請求項12とする訂正をする。

(10)訂正事項10
訂正前の請求項11の「前記基材が、石膏ボード、又はポリ塩化ビニルシートである請求項10に記載の建築構造物。」との記載のうち、
請求項6を引用する請求項10を引用するものについて「前記基材が、石膏ボード、又はポリ塩化ビニルシートである請求項12に記載の建築構造物。」に改めて、新たな請求項13とする訂正をする。

2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1〜3及び6〜8について
訂正事項1〜3は訂正前の請求項1〜3を削除するものであり、訂正事項6〜8は訂正前の請求項7〜9を削除するものである。
したがって、訂正事項1〜3及び6〜8は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」ともいう。)に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項1を引用する請求項4の記載を独立形式での記載に改めるとともに、
本件特許明細書等の段落0108の「プライマーDP−900N3(…)で処理された石膏ボードGB−R(…)と、表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルム(…ME−1174(…))を基材として準備し」との記載に基づき、その「基材」の種類を「前記基材が、プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」に限定し、
同段落0023の「基材がプライマー処理された石膏ボードの場合は、接着層の初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であってもよい。基材がポリ塩化ビニルシートである場合は、接着層の初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下であってもよい。」との記載に基づき、その「初期接着力」及び「状態接着力」の数値範囲を「前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり、前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下」に基材の種類ごとに限定し、
同段落0052の「別の実施態様では、接着層を連続気泡フォームで形成することにより、微細構造化表面に開口が形成された接着層を得ることができる。例えば、図2に示す実施態様では、接着層24は連続気泡フォームで形成されており、気泡が微細構造化表面の開口又は接着層内部の空洞を構成する。」との記載、及び図2の「

」との記載に基づき、その「前記接着層が連続気泡アクリル系フォームを含み」との記載にある「を含み」を「で形成され」に限定し、
同段落0057の「連続気泡フォームの密度は、一般に…約0.5g/cm3以上、…約0.7g/cm3以下とすることができる。」との記載に基づき、その「連続気泡アクリル系フォーム」を「密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である」ものに限定したものである。

してみると、訂正事項4は、本件特許明細書等の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」と「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
そして、特許請求の範囲の減縮と独立形式での記載に改める訂正によって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項1を引用する請求項6の記載を独立形式での記載に改めるとともに、
本件特許明細書等の段落0108の「プライマーDP−900N3(…)で処理された石膏ボードGB−R(…)と、表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルム(…ME−1174(…))を基材として準備し」との記載に基づき、その「基材」の種類を「前記基材が、プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」に限定し、
同段落0023の「基材がプライマー処理された石膏ボードの場合は、接着層の初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であってもよい。基材がポリ塩化ビニルシートである場合は、接着層の初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下であってもよい。」との記載に基づき、その「初期接着力」及び「状態接着力」の数値範囲を「前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり、前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下」に基材の種類ごとに限定し、
同段落0072の「さらに別の実施態様では、接着層を織布又は不織布で形成することにより、織布又は不織布に含まれる複数の繊維から構成された微細構造化表面を有する接着層を得ることができる。例えば、図3に示す実施態様では、接着層34は不織布で形成されており、不織布に含まれる繊維の間の空隙が微細構造化表面の開口又は接着層内部の空洞を画定する。」との記載、同段落0075の「接着層を形成する織布及び不織布は接着性を示す材料で作られる。」との記載、及び図3の「

」との記載に基づき、その「前記接着層がアクリル系織布又はアクリル系不織布を含み」との記載にある「を含み」を「で形成され」に限定し、その「アクリル系織布又はアクリル系不織布」を「接着性を示す材料で作られる」ものに限定したものである。

してみると、訂正事項5は、本件特許明細書等の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」と「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
そして、特許請求の範囲の減縮と独立形式での記載に改める訂正によって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項10に記載の「請求項1〜9のいずれか一項に記載のグラフィックシート」について、訂正事項1〜3及び6〜8によって、訂正前の請求項1〜3及び6〜8が削除されたことにともない、訂正前の請求項1〜3及び6〜8を引用する場合のものを削除して「特許請求の範囲の減縮」を行うとともに、訂正事項4及び5によって、訂正前の請求項4及び6が独立形式での記載に改められたことにともない、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4又は5を引用する請求項10のものを、訂正後の請求項4又は5を引用する請求項10に整理し、訂正前の請求項1を引用する請求項6を引用する請求項10のものを、訂正後の請求項6を引用する新たな請求項12に整理して「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」と「明瞭でない記載の釈明」を行うものである。
してみると、訂正事項9は、本件特許明細書等の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」並びに「明瞭でない記載の釈明」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
そして、特許請求の範囲の減縮と独立形式での記載に改めることに伴う明瞭でない記載の釈明のための訂正よって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項10について
訂正事項10は、訂正事項4及び5によって、訂正前の請求項4及び6が独立形式での記載に改められたことにともない、訂正前の請求項1を引用する請求項4又は6を直接又は間接的に引用する請求項11のものを、訂正後の請求項4を引用する請求項10を引用する請求項11と、訂正後の請求項6を引用する新たな請求項13とに分離して整理することで「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」と「明瞭でない記載の釈明」を行うものである。
してみると、訂正事項10は、本件特許明細書等の範囲内において「明瞭でない記載の釈明」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
そして、独立形式での記載に改めることに伴う明瞭でない記載の釈明のための訂正よって、特許請求の範囲の拡張ないし変更が実質的に生じないことも明らかであるから、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)一群の請求項について
訂正事項1〜10に係る訂正前の請求項1〜11について、その請求項2〜11はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1〜11に対応する訂正後の請求項1〜13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1〜10による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
そして、訂正後の請求項6及び12〜13については、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることが求められている。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1〜10による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜5、7〜11〕及び〔6、12〜13〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜13に係る発明(以下「本1発明」〜「本13発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
基材に対して貼り剥がしが可能なグラフィックシートであって、
第1面及び前記第1面に対向する第2面を有するベースフィルム層と、
前記ベースフィルム層の第2面上に配置された接着層と
を含み、
前記基材が、プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174であり、
前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり、前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下であり、前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり、前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり、
前記接着層が連続気泡アクリル系フォームで形成され、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有し、前記連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である、グラフィックシート。
【請求項5】
前記連続気泡アクリル系フォームが、複数の球状セルと、隣接し合う球状セル間の貫通孔とを有する連続気泡構造を有する、請求項4に記載のグラフィックシート。
【請求項6】
基材に対して貼り剥がしが可能なグラフィックシートであって、
第1面及び前記第1面に対向する第2面を有するベースフィルム層と、
前記ベースフィルム層の第2面上に配置された接着層と
を含み、
前記基材が、プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174であり、
前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり、前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下であり、前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり、前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり、
前記接着層が、接着性を示す材料で作られるアクリル系織布又はアクリル系不織布で形成され、前記接着層が複数の繊維から構成された微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する、グラフィックシート。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】
基材と、前記基材の表面に配置された請求項4又は5のいずれかに記載のグラフィックシートとを含む建築構造物。
【請求項11】
前記基材が、石膏ボード、又はポリ塩化ビニルシートである請求項10に記載の建築構造物。
【請求項12】
基材と、前記基材の表面に配置された請求項6に記載のグラフィックシートとを含む建築構造物。
【請求項13】
前記基材が、石膏ボード、又はポリ塩化ビニルシートである請求項12に記載の建築構造物。」

第4 取消理由通知の概要
令和3年11月25日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由は、次の理由2からなるものである。

〔理由2〕本件特許の請求項4〜5及び10〜11に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1:特開2016−69854号公報(甲第2号証)
引用例2:特開2011−74693号公報(甲第1号証)
引用例3:株式会社イノアックコーポレーション,“PureCell”,[online],2015年3月6日,[令和3年11月18日検索],インターネット<https://www.inoac.co.jp/purecell/>及び<https://www.inoac.co.jp/purecell/about/>(甲第15号証の1〜2)
よって、本件特許の請求項4〜5及び10〜11に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由2(進歩性)について
(1)引用例1〜3の記載事項
ア 引用例1(甲第2号証)の記載事項
引用例1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】フリース紙を基材とし、該基材の一方の表面に、粘着層又は吸着層を設け、前記基材における他方の表面に装飾層を設ける壁紙であり、
前記壁紙の剥離強度が0.1〜1.0kg/3cmであることを特徴とする簡易施工壁紙。」

摘記1b:段落0006及び0011
「【0006】本発明は上記問題点を解決し、誰でも容易に施工が行え、下地を損なうことなく繰返し貼り付け及び再剥離ができ、更には下地の種類に拘らず、例えば既存の壁紙上であっても綺麗に貼り付けることが可能な壁紙を提供することを目的とする。…
【0011】…前記本発明の壁紙は、石膏ボードに対する剥離強度が0.1〜 1.0kg/3cmであり、より好ましくは0.15〜0.8kg/3cmである。剥離強度を前記範囲とすることで、繰返し貼り付けと剥離ができ、誰でも容易に施工が可能であり、壁紙の自重による自然剥離が起こらない。また、既存の壁紙上から貼り付けることもでき、剥がす際にも下地を損傷することなく剥離することができる。」

摘記1c:段落0017
「【0017】次に本発明における粘着層又は吸着層2は、前記フリース紙1の片面に積層され、その層構造は特に限定されず、均一やドット状、ストライプ状等とすることもできる。
ここで、前記粘着層とは粘着性を有する層であり、アクリル系やウレタン系、ゴム系等からなる粘着剤から形成することができる。
また、前記吸着層において、吸着とは、表面に多数の微細な孔を有し(発泡状態)、対象物に接して圧力を加えることにより孔内部の空気が外部へ押し出され、孔の内部の気圧が外部と比較し低くなり、この結果吸盤効果が生じて対象物へ貼り付くことである。該吸着層は、前記粘着層を発泡させることにより形成することができる。
また、吸着層を用いると、より良好なクッション性が生じ、壁紙等表面に多少の凹凸を有する素材を下地とした場合であっても、該凹凸形状を吸収し、上から貼り付ける本発明の壁紙の意匠性への影響を小さくするため好ましい。」

摘記1d:段落0021
「【0021】次に本発明における装飾層A1,A2,A3,A4は、前記フリース紙1における粘着層又は吸着層2とは反対の面に壁紙へ意匠性を付与するために形成され、印刷インク3及び/又は発泡合成樹脂4,5a,5b等から形成することができる。」

摘記1e:段落0026〜0028及び0033
「【0026】実施例及び比較例では、以下の内容を検討した。
[剥離強度]
幅3cm、剥離長さ15cmの試験片を、石膏ボードへ貼り、(I)1時間後、及び(II)3週間後にそれぞれPushPull計(株式会社コラム製作所製S−1K型)のPullモードで測定した。…
[施工性](貼り直し性)
製造した壁紙を石膏ボードに貼り付け、施工一時間後に剥がし、再度貼り付け、その様子を観察し、以下の基準で判断した。
○:容易に、且つ浮きやシワの発生がなく、綺麗に貼り直しができた。…
[施工性](外観)
製造した壁紙を石膏ボードに貼り付け、1週間後の状態を確認し、以下の基準で判断した。
○:空気溜りやシワが無く、綺麗な状態だった。…
[剥離後の状態]
製造した壁紙を石膏ボード又は一般塩化ビニルクロス上に貼り付け、30日後に剥離し、下地への影響を観察し、以下の基準で判断した。
○:影響はなかった。…
【0027】使用素材
[基材]
A:重量が147g/m2、引張強度が5.4kgf/1.5cm、水中伸度が0%、通気度が338μm/(Pa・s)のフリース紙…
[粘着層又は吸着層]
a:アクリル系粘着剤からなり、0.5kg/3cmの剥離強度を有する吸着層…
[装飾層]
α:水性インクからなる印刷インク…
【0028】<実施例1>
表1に示すように、基材としてフリース紙Aを使用し、該基材表面に装飾層を印刷インクαにて形成し、裏面に吸着層aを塗布・発泡して形成した。…
【0033】【表1】



イ 引用例2(甲第1号証)の記載事項
引用例2には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1及び9
「【請求項1】少なくとも基材と壁面接着剤とを有し、該基材のJAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.1:2000 A法により測定した値が20以上であり、該壁面接着層が基材の一方の面にヒドロキシプロピルセルロースを含む壁紙用接着剤組成物により形成されてなる接着壁紙。…
【請求項9】壁面接着層のJIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した、石膏ボードに対する剥離強度が、1〜7N/25mmである請求項1〜8のいずれかに記載の接着壁紙。」

摘記2b:段落0005
「【0005】本発明は、このような状況の下で、施工する際に、優れた接着力を有し、安定した施工かつ容易な貼りなおしを可能とする接着壁紙、壁紙用接着剤組成物及び壁紙の施工方法を提供することを目的とする。」

摘記2c:段落0027
「【0027】本発明の接着壁紙の好ましい態様の一例について、図1〜3を用いて説明する。図1〜3は本発明の好ましい層構成を有する接着壁紙1の一例の断面を示す模式図である。図1に示す例では、本発明の接着壁紙1は、基材2上に、樹脂層3(図1の場合は、発泡樹脂層32からなり、図2の場合は、接着樹脂層31、発泡樹脂層32、及び非発泡樹脂層33からなる)が順次積層され、基材2の裏面に壁面接着層4が積層されたものである。また、図3の場合は、基材2上に、樹脂層3(接着樹脂層31、発泡樹脂層32、及び非発泡樹脂層33からなる)、絵柄層5、接着剤層6、フィルム層7及び表面保護層8が順次積層され、基材2の裏面に壁面接着層4が積層されたものである。」

摘記2d:段落0032
「【0032】[壁面接着層4]
壁面接着層4は、本発明の壁紙に接着性を付与し、壁紙の施工を容易にするための層であり、本発明の壁紙用接着剤組成物により形成されるものである。壁面接着層4のJIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した、石膏ボードに対する剥離強度(接着力)は、1〜7N/25mmであることが好ましく、1.5〜7N/25mmがより好ましく、3〜6N/25mmがさらに好ましい。接着力が上記範囲内にあれば、壁紙施工時の貼りなおしが容易となるので好ましく、基材の紙間強度(ワックスピッキング法により測定した値)との組み合わせにより、特にこの効果を得ることができる。また、本発明における接着力は、接着壁紙を貼り付けて48時間後に、上記方法により測定した接着力のことである。」

摘記2e:段落0072
「【0072】次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。…
(1)壁紙用接着組成物の評価
(1)−1,接着力の測定
各調整例で得られた接着剤組成物及びでん粉系接着剤(「ルーアマイルド(商品名):ヤヨイ化学工業株式会社製」)を60g/m2(wet)、120g/m2(wet)、200g/mr(wet)の塗布量で壁面にローラーで塗工した、JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボード(吉野石膏(株)製、商品名:不燃タイガーボード)と製造例1及び2で得られた壁紙1及び壁紙2とを貼り合わせて、すぐにテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した値(N/25mm)を接着力とした。この剥離は、5cm/分、及び50cm/分の剥離速度で行った。測定結果を第1表に示す。…
(2)接着壁紙の評価(接着力及び貼りなおし容易性(リフォーム時)の評価) 各実施例及び比較例で得られた接着壁紙を、JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボード(吉野石膏(株)製、商品名:不燃タイガーボード)に貼り合わせて、48時間後にテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した値(N/25mm)を接着力とした。この剥離は、5cm/分、及び50cm/分の剥離速度で行った。測定結果を第2表に示す。
また、上記と同様に接着壁紙と石膏ボードとを貼り合わせて、48時間後に上隅より静かに壁紙を引き剥がした。引き剥がした後の壁面の様子を下記の基準で評価し、貼りなおし容易性(リフォーム時)の評価とした。評価結果を第2表に示す。」

摘記2f:段落0073、0076〜0078及び0080〜0081
「【0073】製造例1(壁紙1の製造)
基材として、秤量75g/m2の不織布(アールストローム社製、「8241(品番)」,ワックスピッキング:26)を用いる。下記組成の接着樹脂組成物、発泡樹脂組成物、及び非発泡樹脂組成物を、Tダイによる押出し機を用いて同時に製膜し、各々10μm、100μm、15μmの厚さとなるように接着樹脂層、発泡樹脂層及び非発泡樹脂層を形成し、接着樹脂層の面に基材を積層した。このときの押出し条件は、接着樹脂層はシリンダー温度100℃とし、発泡樹脂層はシリンダー温度120℃とし、非発泡樹脂層はシリンダー温度160℃とし、いずれもダイス温度は120℃とした。その上にアクリル系樹脂をバインダーとし、カーボンブラックと弁柄を着色剤とするインキを用いて、塗工量3g/m2のグラビア印刷にて施して絵柄層を形成した。
上記とは別に、フィルム層としてあらかじめ接着剤が塗工されたエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂((株)クラレ製、エバールフィルムHF−ME(厚み:12μm)、エチレン含有量44mol%)を準備し、これを表面保護シートとした。
上記の絵柄層を施し、接着脂組成物、発泡樹脂組成物及び非接着樹脂層を積層した基材を、加熱発泡炉を用いて230℃、30秒で発泡樹脂組成物を発泡倍率5倍となるように発泡させて発泡樹脂層を形成させた基材を得た後、上記で得られた表面保護シートと同時にエンボス型が形成された冷却ロールと加圧ロールの間を通し、エンボス賦型をしながら熱圧着させることにより、表面に凹凸模様を有する壁紙を得た。…
【0076】調製例1〜3
水を溶媒とし、ヒドロキシプロピルセルロース(重量平均分子量:60万,ヒドロキシプロピキシル基置換量:67〜73%)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(重量平均分子量:30万,ヒドロキシプロピキシル基置換量:4〜12%)、及び防腐剤(ピリジン・イソチアゾリン混合系防腐剤,「サンアイゾール920D(品番)」:三愛石油株式会社製)を、第1表に示される配合組成で含む壁紙用接着剤組成物を調製し、壁紙用接着剤組成物1〜3を得た。
【0077】実施例1〜4及び比較例1
調製例1〜3で得られた壁紙用接着剤組成物1〜3について、上記の評価を行った。評価は第1表に示す。
【0078】【表1】

…【0080】実施例5〜7ならびに比較例2及び3
製造例1及び2で得られた壁紙1及び2に、調製例1〜3で得られた壁紙用接着剤組成物1〜3を、塗布量が60、120及び200g/m2(wet)となるようにバーコート法で塗布して、接着壁紙を得た。得られた接着壁紙について、上記の評価を行った。評価を第2表に示す。
【0081】【表2】



ウ 引用例3(甲第15号証の1〜2)の記載事項
引用例3には、次の記載がある。
摘記3a:<https://www.inoac.co.jp/purecell/>
「・2015/03/06 ウェブサイトをオープン致しました。」

摘記3b:<https://www.inoac.co.jp/purecell/about/>








(2)引用例1に記載された発明
摘記1aの「フリース紙を基材とし、該基材の一方の表面に、粘着層又は吸着層を設け、前記基材における他方の表面に装飾層を設ける壁紙であり、前記壁紙の剥離強度が0.1〜1.0kg/3cmであることを特徴とする簡易施工壁紙。」の具体的な態様である実施例1について、
摘記1eの「[剥離強度]幅3cm、剥離長さ15cmの試験片を、石膏ボードへ貼り、(I)1時間後、及び(II)3週間後にそれぞれPushPull計(株式会社コラム製作所製S−1K型)のPullモードで測定した。…製造した壁紙を石膏ボード又は一般塩化ビニルクロス上に貼り付け、30日後に剥離し、下地への影響を観察し、以下の基準で判断した。…[粘着層又は吸着層]a:アクリル系粘着剤からなり、0.5kg/3cmの剥離強度を有する吸着層…<実施例1>表1に示すように、基材としてフリース紙Aを使用し、該基材表面に装飾層を印刷インクαにて形成し、裏面に吸着層aを塗布・発泡して形成した。…【表1】…実施例1…装飾層…α…○…基材層…A…○…吸・粘着層…a…○…剥離強度(kg/3cm)…(I)…0.16…(II)…0.68…施工性(貼り直し性)…○…施工性(外観)…○…剥離後の状態(貼り付け対象)…石膏ボード…○…壁紙…○」との記載からみて、引用例1には、
『基材を使用し、該基材表面に装飾層を形成し、裏面にアクリル系粘着剤からなる吸着層を塗布・発泡して形成した簡易施工壁紙であって、
幅3cm、剥離長さ15cmの試験片を、石膏ボードへ貼り、(I)1時間後に測定した剥離強度が0.16kg/3cmであり、(II)3週間後に測定した剥離強度が0.68kg/3cmであり、
製造した壁紙を石膏ボード又は一般塩化ビニルクロス上に貼り付け、30日後に剥離し、下地への影響を観察した剥離後の状態が○の簡易施工壁紙。』についての発明(以下「引1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本4発明と引1発明とを対比する。
引1発明の「基材」は、その「表面」及び「裏面」の各々が本4発明の「第1面」及び「第2面」の各々に対応するところ、本4発明の「第1面及び前記第1面に対向する第2面を有するベースフィルム層」に相当する。
引1発明の「裏面」に形成した「吸着層」は、本4発明の「前記ベースフィルム層の第2面上に配置された接着層」に相当する。
引1発明の「該基材表面に装飾層を形成」した「簡易施工壁紙」であって「製造した壁紙を石膏ボード又は一般塩化ビニルクロス上に貼り付け、30日後に剥離し、下地への影響を観察した剥離後の状態が○の簡易施工壁紙」は、本4発明の「基材に対して貼り剥がしが可能なグラフィックシート」に相当する。
引1発明の「幅3cm、剥離長さ15cmの試験片を、石膏ボードへ貼り、(I)1時間後に測定した剥離強度が0.16kg/3cmであり、(II)3週間後に測定した剥離強度が0.68kg/3cmであり」は、
0.16×9.80665×(25/30)=1.307N/25mm
0.68×9.80665×(25/30)=5.557N/25mm
と計算され、その「1時間後」の剥離強度が本1発明の「初期接着力」に対応し、その「3週間後」の剥離強度が本4発明の「常態接着力」に対応することから、
本4発明の「前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり」に相当する。

してみると、本4発明と引1発明は、
『基材に対して貼り剥がしが可能なグラフィックシートであって、
第1面及び前記第1面に対向する第2面を有するベースフィルム層と、
前記ベースフィルム層の第2面上に配置された接着層と
を含み、
前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下である、グラフィックシート。』という点において一致し、次の(1α)〜(1δ)の点において相違する。

(1α)グラフィックシートが貼られる基材の種類が、本4発明は「プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」であるのに対して、引1発明は、単なる「石膏ボード又は一般塩化ビニルクロス」であって、その製品名などの詳細が不明である点。

(1β)初期接着力の値が、本4発明は「前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値」であるのに対して、引1発明は「幅3cm、剥離長さ15cmの試験片を、石膏ボードへ貼り、(I)1時間後に測定した剥離強度」の値である点。

(1γ)常態接着力の値が、本4発明は「前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値」であるのに対して、引1発明は「幅3cm、剥離長さ15cmの試験片を、石膏ボードへ貼り、…(II)3週間後に測定した剥離強度」の値である点。

(1δ)接着層が、本4発明は「連続気泡アクリル系フォームで形成され、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有し、前記連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である」であるのに対して、引1発明は「アクリル系粘着剤からなる吸着層を塗布・発泡して形成した」である点。

(4)判断
ア 相違点(1δ)について
事案に鑑み、まず相違点(1δ)について検討する。引用例3(甲第15号証の2)の「一般物性」には、AS(アクリルフォーム)の「250PR」の密度が250kg/m3=0.25g/cm3であることが示されているところ、引用例1〜3には、本4発明の「密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3」という構成について示唆を含めて記載がなく、本件特許明細書の段落0057に記載の「密度を上記範囲とすることにより、連続気泡フォームに必要な接着力と強度を付与することができる。」という作用効果についても示唆を含めて記載がない。
してみると、相違点(1δ)に関する構成を具備させることが、当業者にとって容易に想到し得るとは認められない。

この点に関して、令和4年4月7日付けの意見書の第11頁において、特許異議申立人は『乙第5号証において、(甲第15号証の2に掲載されている)密度0.25g/cm3である「(PureCell(登録商標)AS−250PR)」を含めた「PureCell(登録商標)」のシリーズが現に市場で売られていたことを示されており、また、商品名や品番が同じである以上、同様の機能・用途で販売されていたと考えるのが合理的と言えます。』との主張をしている。
しかしながら、引用例3(甲第15号証の1〜2)に掲載されている「PureCell(登録商標)」としては、高強度、無黄変タイプの「UC(ウレタンフォーム)」や、耐熱、セルフタックタイプの「AS(アクリルフォーム)」などの様々なタイプがあり、本4発明の「連続気泡アクリル系フォーム」に対応するAS(アクリルフォーム)の「一般物性」について、品番「250PR」の密度が250kg/m3であり、品番「200PR」の密度が200kg/m3であることが記載され、その「使用用途」として「タックスポンジ」や「デザイン印刷対応」などの用途が例示されているものの、引用例3に記載の各種「PureCell」の物性は、本件特許明細書の段落0101等に記載の「密度500kg/m3」等と異なる密度を有するものであり、本件特許明細書に記載の物性を満たすアクリル系フォームの市販品を、グラッフィックシートの接着層に用いることについては、これが公知ないし周知であったことを裏付ける刊行物等の存在は見当たらない。
すなわち、本件特許明細書の段落0101に記載の「密度500kg/m3」の「PureCell」という市販品の「連続気泡アクリル系フォーム」を、グラフィックシートの接着層に用いることを動機付ける公知の刊行物等の存在や技術常識の存在は見当たらないので、特許異議申立人の『市販品である本件特許明細書の段落〔0101〕の「連続気泡構造のアクリルフォームシート(PureCell(登録商標)…)」を用いることは当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲という他なく、進歩性違反の取消理由が解消されていない』との主張は採用できない。

また、同意見書の第12〜13頁において、特許異議申立人は、甲第16号証(フリー百科事典「ウィキペディア」の「アクリル樹脂」の頁)、甲第17号証(特開2010−198044号公報)、及び甲第18号証(特開2002−363330号公報)を提示して、引用文献1(甲第2号証)等において、接着性、再剥離性、糊残り性などの見地から、1.5倍〜3倍(密度換算で0.39〜0.79cm3となります)程度とすることは、当業者が極めて容易になし得たことという他ありません、という旨の主張をしている。
しかしながら、甲第18号証の段落0016には「発泡倍率が2倍未満であると…物品への吸着性が低下する傾向にある。一方、発泡倍率6倍を超えると、吸着性は何ら問題ないが、フォームシートの強度が低下し、着脱時に破断することがある。尚、発泡倍率は、フォームシートの体積を、使用したエマルジョンに配合した原料すべての組成物の体積で除した値である。」との記載があり、甲第17号証の段落0026には「発泡倍率を、1.5〜2.0倍にすると、…微細な凹状陥没穴6が感圧吸着力を発揮し、…どんなものでも良く感圧吸着する。」との記載があり、甲第16号証には「アクリル樹脂…密度1.18g/cm3」との記載があるところ、甲第18号証(後段の下線部の記載)の「発泡倍率」の定義に照らして、甲第16号証の密度を根拠に、甲第17号証の発泡倍率1.5〜2.0倍が0.59〜0.79g/cm3となり、甲第18号証の発泡倍率2〜3倍が0.39〜0.59g/cm3になるといえないことは明らかなので、上記意見書の主張は採用できない。
加えて、甲第18号証(前段の下線部の記載)では「発泡倍率が2倍未満であると吸着性が低下する傾向」があるとされ、甲第17号証(下線部の記載)では「発泡倍率を1.5〜2.0倍にすると感圧吸着力を発揮」するとされている点は、相互に矛盾するという点において技術的に意味不明である。
このため、甲第16〜18号証に記載の技術事項を参酌しても、相違点(1δ)の構成を想到することが、当業者にとって容易であるとは認められない。

イ 本4発明の効果について
令和4年4月7日付けの意見書の第13頁において、特許異議申立人は「乙第5号証は、そもそも後出しの実験データであり、本件明細書に記載されたものではないため、その本件訂正発明の顕著な作用効果の裏付けとなり得るものではありません。」と主張する。
しかしながら、一般に『当初明細書に,「発明の効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべき』とされているところ〔平成21年(行ケ)10238号判決参照。〕、
本件においては、本件特許明細書の段落0101〜0104及び0109〜0110において、密度500〜550kg/m3のアクリルフォームシート「PureCell(登録商標)」を用いた例2−1〜例2−4のもの(単位換算するに密度0.5〜0.55g/cm3のもの)が、基材破壊を起こさずに良好な接着安定性を示すことが具体的な試験結果とともに示されており、同段落0057の「連続気泡フォームの密度は…約0.5g/cm3以上、…約0.7g/cm3以下…とすることにより、連続気泡フォームに必要な接着力と強度を付与することができる。」との記載をも参酌すれば、本4発明において、連続気泡アクリル系フォームの密度を好適化することにより、再剥離性と接着安定性をより一層向上させる効果を有する発明であると認識できる場合であるといえるから、進歩性の判断の前提として、出願の後に補充した実験結果等(乙第5号証等)を参酌したとしても、出願人と第三者との公平を害する場合であるということはできない。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。また、本4発明は、本件特許明細書(及び乙第5号証の実験結果)に裏付けられるとおりの格別の効果を有することが明らかである。

ウ 本4発明の進歩性のまとめ
以上とおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本4発明は、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

(5)本件特許の請求項5及び10〜11に係る発明について
本件特許の請求項5及び10〜11に係る発明は、本4発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものである。
してみると、本4発明の進歩性が引用例1〜3によって否定できない以上、本件特許の請求項5及び10〜11に係る発明が、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(明確性要件違反)について
特許異議申立人が主張する申立理由1(明確性要件違反)は、本件発明1乃至11はいずれも、特許請求の範囲の記載により、特許を受けようとする発明が明確ではない。よって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものであり(特許法第113条第4号)、
その不備として『本件明細書では、「グラフィックシート」の例示を記載しているのみでその定義の記載はなく、また、技術常識からもその明確な定義はないのであるから、その外延が明らかとは到底認められない。』との点を主張している(申立書の第22〜25頁)。
この点に関して、令和3年7月15日付けの意見書の第6〜7頁において、特許権者は『「グラフィックシート」とは、写真、絵画、図柄、文字、色などを用いて観察者に対して視覚的効果をもたらすシートを意味します。』と釈明し、乙第1号証(特許第4217811号公報)の段落0037に「グラフィックシート3は、…広告や誘導サイン等のデザインが…印刷されている。」との記載があり、乙第2号証(特許第6143807号公報)の段落0036に「前後グラフィック54,55は、キャラクターに限られず、文字、図形、記号等でもよい。」との記載があり、グラフィックシートは「写真・絵画」が印刷された「シート」のみに限られるものではありません、という旨の主張をしている。
してみると、一般に『法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。』とされているところ〔平成21年(行ケ)第10434号判決参照。〕、
本件特許の独立形式で記載された請求項4及び6に記載された「グラフィックシート」という用語の明確性について、当該「グラフィックシート」という用語は、上記乙第1〜2号証の特許請求の範囲の記載においても用いられているように、普通一般の用語であって、特殊な用語であるとはいえないものであり、特許権者の上記釈明にあるとおりの内容を意味するものとして普通に解せるので、本件特許の請求項4及び6並びにその従属項で用いられている「グラフィックシート」という発明特定事項の用語が「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である」とはいえない。
したがって、特許異議申立人が主張する「不備」によっては、本件特許の請求項4及び6並びにその従属項の記載が、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえないので、本件特許の請求項4〜6及び10〜13の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないとはいえず、申立理由1(明確性要件違反)に理由があるとはいえない。

(2)申立理由2(実施可能要件違反)について
特許異議申立人が主張する申立理由2(実施可能要件違反)は、本件発明1乃至11はいずれも、これらの発明を実施することができる程度に、明細書に必要な事項を記載しているとは認められない。よって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり(特許法第113条第4号)、
その不備として「構成要件D,Eとして、初期接着力及び24時間後の常態接着力の数値範囲が規定されているだけで、具体的にどのような構成としどのような接着剤組成物を用いれば、構成要件D,Eに規定されているような初期接着力及び常態接着力が得られるのかその具体的手段が不明と言わざるを得ない。」との点を主張している(申立書の第25頁)。
しかしながら、本件特許の請求項4及び6に記載された「前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり」及び「前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり」という「初期接着力」に関する構成要件D、
並びに同「前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり」及び「前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり」という「常態接着力」に関する構成要件Eについて、
第2訂正後の請求項4に記載の「グラフィックシート」は、基材が「プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」に限定され、接着層が「連続気泡アクリル系フォームで形成され、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有し、前記連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である」ものに限定され、
第2訂正後の請求項6に記載の「グラフィックシート」は、基材が「プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」に限定され、接着層が「接着性を示す材料で作られるアクリル系織布又はアクリル系不織布で形成され、前記接着層が複数の繊維から構成された微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する」ものに限定されている。
してみると、構成要件D及びEの「機能・特性等によって物を特定しようとする記載」について、第2訂正により、基材と接着層の各々が特定のものに限定されたことから、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある場合に該当しないことは明らかである。

この点に関して、令和4年4月7日付けの意見書の第7頁において、特許異議申立人は『乙第3号証では「例2−1の連続気泡構造のアクリルフォームシート(PureCell(登録商標))」とあるのみで、…甲第15号証の2…では、ホーム用品のアクリルフォームの密度は0.25g/cm3及び0.20g/cm3…とあるのみで、本件明細書に記載された密度(例2−1:0.5g/cm3…)のものは掲載されていないため、…具体的にどの商品を用いることで例2−1〜例2−4のグラフィックシートを製造できるのか把握できない』という旨の主張をしている。
しかしながら、甲第15号証の2の「※上記データは代表値であり、規格値ではありません。」との記載(摘記3b)からみて、本件特許明細書の例2−1(及び乙第3号証の実験成績証明書)で用いられた「PureCell(登録商標)」の密度が「0.5g/cm3」であることと、甲第15号証の2に記載の各種の「PureCell(登録商標)」の密度の値が異なることとに、特段の矛盾があるとはいえないので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
そして、本件特許明細書の段落0101に記載の「株式会社イノアックコーポレーション」製の商品名の「連続気泡構造のアクリルフォームシート」が、市販品であるのか、特注品であるのかは不明であるが、仮に特注品であったとしても、当該製造業者に密度が「0.5g/cm3」の「連続気泡構造のアクリルフォームシート」を発注すれば、そのような密度のものを容易に入手できるものと自然には解されるし、そのような密度の設定が当業者にとって過度の試行錯誤を要するとは認められない。
したがって、特許異議申立人が主張する「不備」によっては、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件特許の請求項4及び6並びにその従属項に係る発明の実施を当業者がすることできる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえず、申立理由2(実施可能要件違反)に理由があるとはいえない。

(3)申立理由3(サポート要件違反)について
特許異議申立人が主張する申立理由3(サポート要件違反)は、本件発明1乃至11はいずれも、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載したものではない。よって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり(特許法第113条第4号)、
その不備として『(4−4−2)基材の種類について…プライマーに関する規定のない「石膏ボード」という規定は、本件明細書に示されている実施例と比較して著しく広範な規定をするものであり、本件発明1並びにこれを直接的ないし間接的に引用する本件発明2乃至11がいずれもサポート要件を充足しないことは明らかである。…(4−4−3)本件発明の各パラメータの技術的意義が見いだせないことについて…本件発明のグラフィックシートは、単に初期接着力及び24時間後の常態接着力を規定するのみで、…実際に該グラフィックシートを剥がすことが必要とされる時期には、強く接着され過ぎて…貼り剥がしの施工を容易にできる、という技術的課題を解決できない…「初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上」及び「常態接着力が20℃で8N/25mm以下」という範囲にまで、その効果を一般化・抽象化できるとは認められない。』との点を主張している(申立書の第26〜38頁)。
しかしながら、上記(4−4−2)の不備に関して、第2訂正後の請求項4及び6に記載の「基材」は「プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」に限定されたので、この点についてサポート要件を満たさないとはいえない。
また、上記(4−4−3)の不備に関して、第2訂正により、訂正前の「常態接着力が20℃で8N/25mm以下」という要件は、基材が石膏ボードの場合に「常態接着力が20℃で7N/25mm以下」に、基材がポリ塩化ビニルシートの場合に「常態接着力が20℃で5N/25mm以下」に、それぞれ減縮されているところ、本件特許明細書の段落0109〜0110の表1及び表2には、次のような試験結果が示されている。
「【0109】【表1】

【0110】【表2】


してみると、例1〜3の試験結果において、常態接着力の「20℃24時間」での接着力の値に対して、これよりも長期間経過後の場合に相当する「65℃24時間」での接着力の値は、等しいか、若干の上昇がみられているにすぎないので、実際上の使用期間内において、基材破壊を引き起こす程度の接着力の上昇が起きるとは、合理的には解せない。このため、上記「剥がすことが必要とされる時期には、強く接着され過ぎて…貼り剥がしの施工を容易」にできなくなるという問題が生じ得ると、普通には解し得ない。
また、例1〜3の試験結果において、基材の種類によらず「初期接着力が20℃で1N/25mm」の下限値で、基材が石膏ボードの場合に「常態接着力が20℃で6N/25mm」の上限値で、基材がポリ塩化ビニルシートの場合に「常態接着力が20℃で4N/25mm」の上限値で、本件特許明細書の段落0009の記載から把握される『石膏ボード、壁紙、ポスター等の比較的脆い基材の上に貼る場合も、下地である基材を痛めずに張り替えが可能であり、施工に熟練する者でなくても、貼り剥がしの施工を容易にできるグラフィックシートの提供』と課題を解決できることが、具体的に裏付けられているので、第2訂正による訂正後の請求項4及び6に記載される「初期接着力」及び「常態接着力」の数値範囲が、発明の詳細な説明における開示に比して、不当に広すぎるとまではいえない。
したがって、特許異議申立人が主張する「不備」によっては、本件特許の請求項4及び6並びにその従属項の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないので、本件特許の請求項4〜6及び10〜13の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえず、申立理由3(サポート要件違反)に理由があるとはいえない。

(4)申立理由4−1,2(甲第1号証を主引用例とする新規性進歩性違反)、及び申立理由5−1,2(甲第2号証を主引用例とする新規性進歩性違反)
新規性進歩性に係る申立理由の概要
特許異議申立人が主張する申立理由4−1,2(甲第1号証を主引用例とする新規性進歩性違反)は、本件発明1乃至11はいずれも甲第1号証に記載された発明と同一か、少なくとも他の証拠を適宜参酌することにより容易に相当し得る発明であるから、本件特許には新規性または進歩性の取消理由が存在するというものであり、証拠として下記の甲第1〜14号証を提示するものである(申立書の第38〜58頁)。
また、特許異議申立人が主張する申立理由5−1,2(甲第2号証を主引用例とする新規性進歩性違反)は、本件発明1乃至11はいずれも甲第2号証に記載された発明と同一か、少なくとも他の証拠を適宜参酌することにより容易に相当し得る発明であるから、本件特許には新規性または進歩性の取消理由が存在するというものであり、証拠として下記の甲第1〜14号証を提示するものである(申立書の第58〜76頁)。

イ 甲第1〜14号証及びその記載事項
甲第1号証:特開2011−74693号公報
甲第2号証:特開2016−69854号公報
甲第3号証:「グラフィック」(広辞苑第7版)
甲第4号証:トマト工業株式会社のホームページ上のブログ、「失われた技術・プライマーとシーラーの違い」
甲第5号証:特開2002−129108号公報
甲第6号証:特開2008−274550号公報
甲第7号証:JIS Z 0237:2000
甲第8号証:協和界面科学株式会社ホームページ、「粘着・剥離とは?〜引張試験/万能試験〜」
甲第9号証:特開2001−89732号公報
甲第10号証の1:株式会社島津製作所ホームページ、「粘着テープの90°剥離試験【規格番号 ISO29862:2007(JIS Z0237:2009)】
甲第10号証の2:株式会社島津製作所ホームページ、「粘着テープの180°剥離試験【規格番号 ISO29862:2007(JIS Z0237:2009)】
甲第11号証:特開2004−75844号公報
甲第12号証:特開2005−113085号公報
甲第13号証:特開平11−323270号公報
甲第14号証:特開平2−292451号公報

(ア)甲第1号証(引用例2)〜甲第2号証(引用例1)には、上記1.(2)イの摘記2a〜2f、及び同アの摘記1a〜1eに示したとおりの記載がなされている。

(イ)甲第3号証には、次の記載がある。
摘記3a:グラフィックの項
「グラフィック【graphic】写真・絵画などを用いて視覚に訴えること。」

(ウ)甲第4号証には、次の記載がある。
摘記4a:2012年9月3日の項
「平たく言えばシーラーは含浸する物。プライマーは造膜する物。と言えると思います。」

(エ)甲第5号証には、次の記載がある。
摘記5a:段落0011
「このように、プライマー層を形成することにより、基材が非多孔質材料相互の接着においても、再剥離性を備えた積層板を与えることができる。」

(オ)甲第6号証には、次の記載がある。
摘記6a:段落0012
「本発明は、裏面に糊付けされた2枚の壁紙を、相対する端縁に貼り付けた下敷きテープと養生テープが重なるように、前記下敷きテープを下地側にして貼り付けて重ね切りする際に、前記壁紙に糊付け後、吸水による壁紙の最大伸び量に対して、60〜80%の伸び量となるまで養生してから、該壁紙を前記下地に貼ることとした。」

(カ)甲第7号証には、次の記載がある。
摘記7a:第5頁
「10.1 試験片 試験片は,テープの場合,ロールから約300mm/sの早さで巻き戻し,約300mmの間隔を開けて長さ約250mmの試験片を3枚採る。」

(キ)甲第8号証には、次の記載がある。
摘記8a:粘着・剥離試験とは?の項
「粘着テープの剥離強度測定法としては JIS Z0237:2009(粘着テープ・粘着シート試験方法)が定められ180度剥離試験法および90度剥離試験法が試験・評価の主流となっています。」

(ク)甲第9号証には、次の記載がある。
摘記9a:段落0018
「ここで、剥離力の測定方法を90°剥離力としたのは、手でテープを剥がす際の剥離角度が、JIS−Z0237で規定されている180°剥離力よりも実用に近く、テープの支持体の影響を受けないようにするためである。」

(ケ)甲第10号証の1及び2には、次の記載がある。
摘記10a:甲第10号証の1
「粘着テープの90°剥離試験…[Table1試験結果]…0.238N/mm」

摘記10b:甲第10号証の2
「粘着テープの180°剥離試験…[Table1試験結果]…0.217N/mm」

(コ)甲第11号証には、次の記載がある。
摘記11a:段落0023
「上述した如き表面凹凸形状を、粘着剤層に持たせることで、…空気抜き作業も容易となる。」

(サ)甲第12号証には、次の記載がある。
摘記12a:段落0015
「ここで、上記発明(請求項7)における気泡は、粘着剤層を厚さ方向に貫通する連続気泡であってもよいし、…粘着剤層を厚さ方向に貫通し得るものであってもよい。」

(シ)甲第13号証には、次の記載がある。
摘記13a:段落0036
「通気性粘着剤層は、粘着剤が含浸された布帛からなる層が好適である。これにより、コンクリートやモルタル等多孔質材料の粗面に対する接着力を効果的に高めることができる。なお、布帛とは、通常、不織布、織布または編物である。」

(ス)甲第14号証には、次の記載がある。
摘記14a:第2頁左上欄〜右上欄
「本発明によれば、…工場において予めシーラー塗布と目止め材塗布を施し…た石膏ボードを使用したので、…建築の工期を大幅に短縮することができる。」

ウ 甲1発明及び甲2発明
(ア)甲1発明
甲第1号証の段落0080(摘記2f)の「実施例5〜7…製造例1及び2で得られた壁紙1及び2に、調製例1〜3で得られた壁紙用接着剤組成物1〜3を、塗布量が60、120及び200g/m2(wet)となるようにバーコート法で塗布して、接着壁紙を得た。」との記載、及び同段落0081(摘記2f)の表2の記載からみて、甲第1号証の刊行物には、実施例5の具体例として、
『製造例1で得られた壁紙1に、調製例1で得られた壁紙用接着剤組成物1を、塗布量が60g/m2(wet)となるように塗布して得られた接着壁紙。』についての発明(実施例5)が記載されているといえるところ、
当該「実施例5」で用いられた「製造例1で得られた壁紙1」は、同段落0073(摘記1f)の「製造例1…基材として、秤量75g/m2の不織布(…)を用いる。…塗工量3g/m2のグラビア印刷にて施して絵柄層を形成した。…上記の絵柄層を施し、接着脂組成物、発泡樹脂組成物及び非接着樹脂層を積層した基材を、加熱発泡炉を用いて…発泡樹脂層を形成させた基材を得た後、上記で得られた表面保護シートと…熱圧着させることにより、表面に凹凸模様を有する壁紙を得た。」との記載にあるとおりの『基材(不織布)上に、絵柄層を形成した壁紙』であり、
その「実施例5」で用いられた「調製例1で得られた壁紙用接着剤組成物1」は、同段落0077(摘記2f)に「調製例1〜3で得られた壁紙用接着剤組成物1〜3について、上記の評価を行った。評価は第1表に示す。」と記載され、
同段落0072(摘記2e)に「(1)壁紙用接着組成物の評価…各調整例で得られた接着剤組成物…を60g/m2(wet)…の塗布量で壁面にローラーで塗工した、JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボード…と製造例1…で得られた壁紙1…とを貼り合わせて、すぐにテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した値(N/25mm)を接着力とした。この剥離は、5cm/分、及び50cm/分の剥離速度で行った。測定結果を第1表に示す。…(2)接着壁紙の評価…各実施例及び比較例で得られた接着壁紙を、JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボード(…に貼り合わせて、48時間後にテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した値(N/25mm)を接着力とした。この剥離は、5cm/分、及び50cm/分の剥離速度で行った。測定結果を第2表に示す。また、…接着壁紙と石膏ボードとを貼り合わせて、48時間後に上隅より静かに壁紙を引き剥がした。引き剥がした後の壁面の様子を下記の基準で評価し、貼りなおし容易性(リフォーム時)の評価とした。評価結果を第2表に示す。」と記載され、
同段落0078(摘記2f)の第1表で「壁紙1」と「接着剤組成物1」を用いた実施例1において「接着力(N/25mm,剥離速度:50cm/min)」の「接着剤塗布量:60g/m2」の値が「0.6」であるとされ、
同段落0081(摘記1f)の第2表で「壁紙1」と「接着剤組成物1」を用いた実施例5において「接着力(N/25mm,剥離速度:50cm/min)」の「接着剤塗布量:60g/m2」の値が「3.8」であるとされ、その「貼りなおし容易性(作業時)の評価」が「○」とされている。

してみると、甲第1号証には、実施例5の具体例として、
『基材(不織布)2上に絵柄層5を形成した壁紙1の裏面に、壁紙用接着剤組成物1を塗布量が60g/m2(wet)となるように塗布して得られた壁面接着層4が積層された接着壁紙であって、
JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボードと貼り合わせて、すぐにテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した接着力(剥離速度:50cm/min)の値が0.6N/25mmであり、
JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボードと貼り合わせて、48時間後にテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した接着力(剥離速度:50cm/min)の値が3.8N/25mmであり、
接着壁紙と石膏ボードとを貼り合わせて48時間後に引き剥がした後の壁面の様子を評価した貼りなおし容易性(リフォーム時)の評価が○の接着壁紙。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)引1発明
甲第2号証(引用例1)には、上記1.(2)に示したとおりの「引1発明」が記載されているといえる。

エ 甲第1号証を主引用例とする新規性進歩性について
(ア)本4発明と甲1発明との対比・判断
a.対比
甲1発明の「絵柄層5を形成した…接着壁紙」は、本4発明の「グラフィックシート」に相当し、
甲1発明の「接着壁紙と石膏ボードとを貼り合わせて48時間後に引き剥がした後の壁面の様子を評価した貼りなおし容易性(リフォーム時)の評価が○の接着壁紙」は、本4発明の「基材に対して貼り剥がしが可能なグラフィックシート」に相当する。
甲1発明の「基材(不織布)2上に絵柄層5を形成した壁紙1の裏面に、壁紙用接着剤組成物1を塗布量が60g/m2(wet)となるように塗布して得られた壁面接着層4が積層された接着壁紙」の「基材(不織布)2上」及び「壁紙1の裏面に、壁紙用接着剤組成物1を…塗布して得られた壁面接着層4が積層された接着壁紙」の各々は、本4発明の「第1面及び前記第1面に対向する第2面を有するベースフィルム層」及び「前記ベースフィルム層の第2面上に配置された接着層」の各々に相当する。
甲1発明の「JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボードと貼り合わせて、すぐにテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した接着力(剥離速度:50cm/min)の値が0.6N/25mmであり」は、本4発明の「前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が…0.5N/25mm以上であり」に相当する。
甲1発明の「JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボードと貼り合わせて、48時間後にテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した接着力(剥離速度:50cm/min)の値が3.8N/25mmであり」は、本4発明の「前記接着層の石膏ボードに対する…常態接着力が…7N/25mm以下であり」に相当する。

してみると、本4発明と甲1発明は、
『基材に対して貼り剥がしが可能なグラフィックシートであって、
第1面及び前記第1面に対向する第2面を有するベースフィルム層と、
前記ベースフィルム層の第2面上に配置された接着層と
を含み、
前記接着層の石膏ボードに対する初期接着力が0.5N/25mm以上であり、常態接着力が7N/25mm以下である、グラフィックシート。』という点において一致し、次の(2α)〜(2δ)の点において相違する。

(2α)グラフィックシートが貼られる基材の種類が、本4発明は「プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」であるのに対して、甲1発明は「JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)」であって、プライマーDP−900N3で処理されたものではない点。

(2β)初期接着力の値が、本4発明は「前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値」であるのに対して、甲1発明は「JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボードと貼り合わせて、すぐにテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した接着力(剥離速度:50cm/min)の値」である点。

(2γ)常態接着力の値が、本4発明は「前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値」であるのに対して、甲1発明は「JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボードと貼り合わせて、48時間後にテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した接着力(剥離速度:50cm/min)の値」である点。

(2δ)接着層が、本4発明は「連続気泡アクリル系フォームで形成され、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有し、前記連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である」であるのに対して、引1発明は「基材(不織布)2…の裏面に、壁紙用接着剤組成物1を…塗布して得られた壁面接着層4」である点。

b.判断
(a)相違点(2δ)について
事案に鑑み、まず相違点(2δ)について検討する。甲第1号証には、連続気泡アクリル系フォーム(又は発泡樹脂層)を壁面接着層とすることについて、示唆を含めて記載がなく、本4発明の「連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3」という数値範囲の連続気泡アクリル系フォームを用いることについても示唆を含めて記載がない。また、甲第2〜14号証の記載を精査しても、相違点(2δ)の構成に関する記載は、示唆を含めて記載がない。このため、甲第1号証の記載によっては、相違点(2δ)の構成を想到することが、当業者にとって容易であるとは認められない。
なお、令和4年4月7日付けの意見書(特許異議申立人)の主張を精査しても、本4発明が、甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすべき理由は見当たらない。

(b)本4発明の効果について
本件特許明細書の段落0101〜0104及び0109〜0110には、密度500〜550kg/m3のアクリルフォームシート「PureCell(登録商標)」を用いた例2−1〜例2−4のものが、基材破壊を起こさずに良好な接着安定性を示すという試験結果が示されており、同段落0057には「連続気泡フォームの密度は…約0.5g/cm3以上、…約0.7g/cm3以下…とすることにより、連続気泡フォームに必要な接着力と強度を付与することができる。」との記載があるので、本4発明は、格別の効果を有するものと認められる。

(c)本4発明と甲1発明の対比・判断のまとめ
先ず、本4発明と甲1発明とは、相違点(2δ)の点で実質的に相違するから、本4発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
次に、本4発明は、甲第2〜14号証を適宜参酌したとしても、少なくとも相違点(2δ)の点において容易想到とはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本4発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

(イ)本5発明及び本10〜本11発明について
本5発明及び本10〜本11発明は、本4発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものである。
してみると、本4発明の新規性進歩性が甲第1号証によって否定できない以上、本5発明及び本10〜本11発明が、甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するともいえない。

(ウ)本6発明と甲1発明との対比・判断
本6発明は、本4発明の「前記接着層が連続気泡アクリル系フォームで形成され、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有し、前記連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である、グラフィックシート。」という構成を「前記接着層が、接着性を示す材料で作られるアクリル系織布又はアクリル系不織布で形成され、前記接着層が複数の繊維から構成された微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する、グラフィックシート。」という構成に置き換えた以外は、本4発明に一致する構成を有するものである。
してみると、上記ウ(ア)の対比に示した理由と同様の理由により、本6発明と甲1発明とは、少なくとも次の(3α)〜(3δ)の点において相違する。

(3α)グラフィックシートが貼られる基材の種類が、本6発明は「プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」であるのに対して、甲1発明は「JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)」であって、プライマー(DP−900N3という特定の商品名のプライマー)で処理されたものではない点。

(3β)初期接着力の値が、本6発明は「前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値」であるのに対して、甲1発明は「JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボードと貼り合わせて、すぐにテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した接着力(剥離速度:50cm/min)の値」である点。

(3γ)常態接着力の値が、本6発明は「前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値」であるのに対して、甲1発明は「JIS A6901に規定される石膏ボード(GB−R)に準拠した石膏ボードと貼り合わせて、48時間後にテンシロン引張試験機を用いてJIS Z 0237:2000に準拠して測定した接着力(剥離速度:50cm/min)の値」である点。

(3δ)接着層が、本6発明は「接着性を示す材料で作られるアクリル系織布又はアクリル系不織布で形成され、前記接着層が複数の繊維から構成された微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する」であるのに対して、引1発明は「基材(不織布)2…の裏面に、壁紙用接着剤組成物1を…塗布して得られた壁面接着層4」である点。

そして、相違点(3δ)について、甲第13号証の段落0036(摘記13a)には「通気性粘着層は、粘着剤が含浸された布帛からなる層が好適である。…布帛とは、通常、不織布、織布または編物である。…前記布帛の繊維(の材質)は、通常、レーヨン、ポリエステル、アクリル等である。」との記載があるものの、甲第13号証には、アクリル系織布又はアクリル系不織布そのものを接着性を示す材料で作ることについて、示唆を含めて記載がなく、甲第1〜12及び14号証にも、アクリル系織布又はアクリル系不織布そのものを接着性を示す材料で作ることについて、示唆を含めて記載がないので、相違点(3δ)に関する構成を具備させることが、当業者にとって容易に想到し得るとは認められない。
さらに、本件特許明細書の段落0105及び0109〜0110において、アクリル系不織布を含む接着層を用いた例3のものが、基材破壊を起こさずに良好な接着安定性を示すことが具体的な試験結果とともに示されているので、本6発明は、本件特許明細書等に裏付けられるとおりの格別の効果を有するものである。
なお、令和3年9月27日付けの意見書(特許異議申立人)、及び令和4年4月7日付けの意見書(特許異議申立人)の主張を精査しても、本6発明が、甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすべき理由は見当たらない。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本6発明は、甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するともいえない。

(エ)本12〜本13発明について
本12〜本13発明は、本6発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものである。
してみると、本6発明の進歩性が甲第1号証によって否定できない以上、本12〜本13発明が、甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するともいえない。

オ 甲第2号証を主引用例とする新規性進歩性について
(ア)本4〜本5発明及び本10〜本11発明について
甲第2号証(引用例1)を主引用例とする本4〜本5発明及び本10〜本11発明の新規性進歩性の申立理由について、そのうちの進歩性の検討は、上記第4〔理由2〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。
次に、新規性について、上記1.(3)に示したように、本4発明と引1発明とは、相違点(1α)及び(1δ)の相違点を有し、これらの相違点が実質的な相違点ではないといえる合理的な理由は見当たらず、また、本4発明を直接又は間接的に引用する本5及び本10及び本11発明についても実質的な相違点がないといえる合理的な理由は見当たらないから、甲第2号証を主引用例とする新規性の申立理由について、理由があるとはいえない。

(イ)本6及び本12〜本13発明について
本6発明は、本4発明の「前記接着層が連続気泡アクリル系フォームで形成され、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有し、前記連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である、グラフィックシート。」という構成を「前記接着層が、接着性を示す材料で作られるアクリル系織布又はアクリル系不織布で形成され、前記接着層が複数の繊維から構成された微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する、グラフィックシート。」という構成に置き換えた以外は、本4発明に一致する構成を有するものである。
してみると、上記1.(3)の対比に示した理由と同様の理由により、本6発明と引1発明とは、少なくとも次の(4α)〜(4δ)の点において相違する。

(4α)グラフィックシートが貼られる基材の種類が、本6発明は「プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174」であるのに対して、引1発明は、単なる「石膏ボード又は一般塩化ビニルクロス」であって、その製品名などの詳細が不明である点。

(4β)初期接着力の値が、本6発明は「前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値」であるのに対して、引1発明は「幅3cm、剥離長さ15cmの試験片を、石膏ボードへ貼り、(I)1時間後に測定した剥離強度」の値である点。

(4γ)常態接着力の値が、本6発明は「前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値」であるのに対して、引1発明は「幅3cm、剥離長さ15cmの試験片を、石膏ボードへ貼り、…(II)3週間後に測定した剥離強度」の値である点。

(4δ)接着層が、本6発明は「接着性を示す材料で作られるアクリル系織布又はアクリル系不織布で形成され、前記接着層が複数の繊維から構成された微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する」であるのに対して、引1発明は「アクリル系粘着剤からなる吸着層を塗布・発泡して形成した」である点。

そして、相違点(4δ)について、甲第13号証の段落0036(摘記13a)には「通気性粘着層は、粘着剤が含浸された布帛からなる層が好適である。…布帛とは、通常、不織布、織布または編物である。…前記布帛の繊維(の材質)は、通常、レーヨン、ポリエステル、アクリル等である。」との記載があるものの、甲第13号証には、アクリル系織布又はアクリル系不織布そのものを接着性を示す材料で作ることについて、示唆を含めて記載がなく、甲第1〜12及び14号証にも、アクリル系織布又はアクリル系不織布そのものを接着性を示す材料で作ることについて、示唆を含めて記載がないので、相違点(4δ)に関する構成を具備させることが、当業者にとって容易に想到し得るとは認められない。
さらに、上記(4)ウ(ウ)に示した理由と同様の理由により、本6発明は、本件特許明細書等に裏付けられるとおりの格別の効果を有するものである。
なお、令和3年9月27日付けの意見書(特許異議申立人)、及び令和4年4月7日付けの意見書(特許異議申立人)の主張を精査しても、本6発明が、甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすべき理由は見当たらない。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本6発明が、甲第2号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

次に、本6発明の新規性進歩性が甲第2号証によって否定できない以上、本12〜本13発明が、甲第2号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するともいえない。

第6 まとめ
以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本4〜6及び本10〜13発明に係る特許を取り消すことはできず、他に本4〜6及び本10〜13発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、訂正前の請求項1〜3及び7〜9は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項1〜3及び7〜9に係る発明についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
基材に対して貼り剥がしが可能なグラフィックシートであって、
第1面及び前記第1面に対向する第2面を有するベースフィルム層と、
前記ベースフィルム層の第2面上に配置された接着層と
を含み、
前記基材が、プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174であり、
前記接着層の前記石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり、前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下であり、前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり、前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり、
前記接着層が連続気泡アクリル系フォームで形成され、前記接着層が微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有し、前記連続気泡アクリル系フォームの密度が0.5g/cm3〜0.7g/cm3である、グラフィックシート。
【請求項5】
前記連続気泡アクリル系フォームが、複数の球状セルと、隣接し合う球状セル間の貫通孔とを有する連続気泡構造を有する、請求項4に記載のグラフィックシート。
【請求項6】
基材に対して貼り剥がしが可能なグラフィックシートであって、
第1面及び前記第1面に対向する第2面を有するベースフィルム層と、
前記ベースフィルム層の第2面上に配置された接着層と
を含み、
前記基材が、プライマーDP−900N3で処理された石膏ボードGB−R、又は表面層がポリ塩化ビニルシートからなる壁紙フィルムME−1174であり、
前記接着層の前記石膏ボードに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で7N/25mm以下であり、前記接着層の前記ポリ塩化ビニルシートに対する初期接着力が20℃で0.5N/25mm以上であり、常態接着力が20℃で5N/25mm以下であり、前記初期接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから20分後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり、前記常態接着力が、長さ150mm、幅25mmに切断されたグラフィックシートを前記石膏ボード又は前記ポリ塩化ビニルシートに20℃の環境下でJIS Z 0237に準拠して貼り付け、貼り付けてから24時間経過後に、温度20℃、速度300mm/分で90度剥離を行ったときの値であり、
前記接着層が、接着性を示す材料で作られるアクリル系織布又はアクリル系不織布で形成され、前記接着層が複数の繊維から構成された微細構造化表面を有し、前記接着層の微細構造化表面が空気を前記接着層に取り込む開口を有する、グラフィックシート。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】
基材と、前記基材の表面に配置された請求項4又は5のいずれかに記載のグラフィックシートとを含む建築構造物。
【請求項11】
前記基材が、石膏ボード、又はポリ塩化ビニルシートである請求項10に記載の建築構造物。
【請求項12】
基材と、前記基材の表面に配置された請求項6に記載のグラフィックシートとを含む建築構造物。
【請求項13】
前記基材が、石膏ボード、又はポリ塩化ビニルシートである請求項12に記載の建築構造物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-31 
出願番号 P2016-116488
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
木村 敏康
登録日 2020-07-06 
登録番号 6730101
権利者 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
発明の名称 グラフィックシート及び建築構造物  
代理人 古賀 哲次  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 出野 知  
代理人 胡田 尚則  
代理人 高橋 正俊  
代理人 青木 篤  
代理人 高橋 正俊  
代理人 石田 敬  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  
代理人 青木 篤  

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