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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1387463 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-29 |
確定日 | 2022-05-19 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6738938号発明「樹脂成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6738938号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし18]について訂正することを認める。 特許第6738938号の請求項1、2、4ないし18に係る特許を維持する。 特許第6738393号の請求項3に係る特許異議の申し立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6738938号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし18に係る特許についての出願は、令和1年5月27日を出願日とする特許出願であって、令和2年7月22日にその特許権の設定登録(請求項の数18)がされ、同年8月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年1月29日に特許異議申立人 枝木 幸二(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年2月10日に特許異議申立人 笠原 佳代子(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9、14ないし16及び18)がされ、同年6月4日付けで取消理由が通知され、同年8月6日に特許権者 古河電気工業株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月26日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年9月29日に申立人Aより意見書の提出がされ、同年同月30日に申立人Bより意見書が提出され、同年12月16日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、令和4年3月4日に特許権者より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされたものである。 なお、令和3年8月6日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、すでに特許異議申立人らに意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和4年3月4日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6及び7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したことから、特許法第120条の5第5項に定める特別な事情に該当し、特許異議申立人らに再度の意見書の提出の機会は与えない。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正事項1ないし16は、請求項1ないし18という一群の請求項に係る訂正である。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材を成形してなる樹脂成形体であって、 該樹脂成形体は肉厚が0.1mm以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、該凝集物の少なくとも一部が、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物である樹脂成形体。」 と記載されているのを、 「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材を成形してなる樹脂成形体であって、 該樹脂成形体は肉厚が0.1mm以上であり、 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、及びポリ乳酸樹脂の1種又は2種以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、該凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物であり、該凝集物の少なくとも一部が、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物であり、 観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.01〜1.0%であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、下記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満である、樹脂成形体。 <測定方法> セルロース繊維分散樹脂複合材の試料を、窒素雰囲気下において+10℃/分の昇温速度で熱重量分析(TGA)に付し、下記[式1]によりセルロース繊維の含有量を算出する。 [式1] (セルロース繊維の含有量[質量%])=(200〜380℃の間における試料の質量減少量[mg])×100/(熱重量分析に付す前の試料の質量[mg]) (ただし、前記セルロース繊維分散樹脂複合材が下記[形態1]及び[形態2]である場合を除く。 [形態1] 前記熱可塑性樹脂が高密度ポリエチレン樹脂であり、下記〔セルロース繊維の凝集物の面積算出方法〕に従ってセルロース繊維の凝集物の面積を算出した場合に、セルロース繊維の凝集物の面積の最大値が144,374μm2であり、最小値が504μm2である、国際公開第2018/180469号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材、及び国際公開第2019/088140号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材: 〔セルロース繊維の凝集物の面積算出方法〕 前記セルロース繊維分散樹脂複合材を、縦3.3mm×横4.3mm×厚さ3.6mmの直方体のペレットとする。このペレットを、プレス装置を用いて160℃で5分間予熱後、さらに160℃で20MPaの圧力下で5分間加圧して厚み0.1mmの測定用シートを作製する。 ニコン社製工業用顕微鏡「ECLIPSE LV100ND(商品名)」を用いて、倍率50倍、視野を1.3mm×1.7mmとし、作製した測定用シートを平面視観察してランダムに9視野を撮影する。得られた画像をニコン社製「NIS−Elemenets D(商品名)」により下記画像処理条件で画像処理し、0〜80の輝度でカウントされた部分の各々の面積を算出する。その中で、面積が最大・最小のものを、セルロース繊維の凝集物の面積の最大値・最小値とする。ただし、面積が500μm2未満のものは、測定対象から除外する。 −画像処理条件− ・スムーズ off オブジェクトの端の形状に作用して、形状を滑らかにする機能。 ・クリーン on 小さなオブジェクトが見えなくなる機能。小オブジェクトが消えるだけで、その他の画像は影響を受けない。面積が500μm2未満のものを排除するため、500μm2未満のオブジェクトをクリーン機能で除去する。 ・閉領域を埋める off オブジェクト内の閉領域を埋める機能。 ・分割 off 結合された単一のオブジェクトを検出し、分離する機能。 [形態2] 前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂及び酸変性ポリプロピレン樹脂であり、下記〔成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2)の測定〕に従ってセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を測定した場合に、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が13、5、1、又は9である、特開2010−89483号公報に実施例1ないし3及び5として記載されているセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物: 〔成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2)の測定〕 前記セルロース繊維分散樹脂複合材を、射出成形機を用いて190℃のシリンダー温度にて縦50mm×横100mm×厚さ3mmの測定用シートを10枚作製する。これら10枚の測定用シートについて、片一方の面を5倍以上の拡大境にて観察し、10枚の測定用シートの片一方の面の合計500cm2中に存在する、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を数える。)」 に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4〜18も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1〜3のいずれか1項」とあるのを「請求項1又は2」に訂正する。 請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5〜18も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4のいずれか1項」に訂正する。 請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6〜18も同様に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2、4及び5のいずれか1項」に訂正する。 請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7〜18も同様に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に 「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、下記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 <測定方法> セルロース繊維分散樹脂複合材の試料を、窒素雰囲気下において+10℃/分の昇温速度で熱重量分析(TGA)に付し、下記[式1]によりセルロース繊維の含有量を算出する。 [式1] (セルロース繊維の含有量[質量%])=(200〜380℃の間における試料の質量減少量[mg])×100/(熱重量分析に付す前の試料の質量[mg])」 と記載されているのを、 「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、前記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が5質量%以上70質量%未満であり、 前記の観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.018%以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、平面視において、1.0×103〜1.0×106μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s2に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s1の割合が20%以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中に含まれるセルロース繊維の凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物である、 請求項1、2及び4〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形体」 に訂正する。 請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8〜18も同様に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8に 「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、前記セルロース繊維の含有量が5質量%以上50質量%未満である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂成形体。」 と記載されているのを、 「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、前記セルロース繊維の含有量が7質量%以上50質量%未満である、請求項1、2及び4〜7のいずれか1項に記載の樹脂成形体。」 に訂正する。 請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項9〜18も同様に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜8のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜8のいずれか1項」に訂正する。 請求項9の記載を直接又は間接的に引用する請求項10〜18も同様に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1〜9のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜9のいずれか1項」に訂正する。 請求項10の記載を直接又は間接的に引用する請求項11〜18も同様に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1〜10のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜10のいずれか1項」に訂正する。 請求項11の記載を直接又は間接的に引用する請求項12〜18も同様に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項13に「請求項1〜11のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜11のいずれか1項」に訂正する。 請求項13の記載を直接又は間接的に引用する請求項14〜18も同様に訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項14に「請求項1〜13のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜13のいずれか1項」に訂正する。 請求項14の記載を直接又は間接的に引用する請求項15〜18も同様に訂正する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項15に「請求項1〜14のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜14のいずれか1項」に訂正する。 請求項15の記載を直接又は間接的に引用する請求項16〜18も同様に訂正する。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項16に「請求項1〜15のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜15のいずれか1項」に訂正する。 請求項16の記載を直接又は間接的に引用する請求項17及び18も同様に訂正する。 (15)訂正事項15 特許請求の範囲の請求項17に「請求項1〜16のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜16のいずれか1項」に訂正する。 請求項17の記載を引用する請求項18も同様に訂正する。 (16)訂正事項16 特許請求の範囲の請求項18に「請求項1〜17のいずれか1項」とあるのを「請求項1、2及び4〜17のいずれか1項」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1の樹脂成形体を形成するセルロース繊維分散樹脂複合材中の「熱可塑性樹脂」を、訂正後の請求項1では「前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、及びポリ乳酸樹脂の1種又は2種以上であ」ることを特定し、訂正前の請求項1では、セルロース繊維分散樹脂複合材が含有する「3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物」についてその含有量が特定されていないのを、訂正後の請求項1は、「観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.01〜1.0%であ」るとともに「該凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物であ」ることを特定し、訂正前の請求項1では、セルロース繊維分散樹脂複合材中の「セルロース繊維」についてその含有量が特定されていないのを、訂正後の請求項1は、「セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満」であることをその測定方法とともに特定し、訂正前の請求項1の「樹脂成形体」について、訂正後の請求項1では、「ただし、前記セルロース繊維分散樹脂複合材が下記[形態1]及び[形態2]である場合を除く。 [形態1] 前記熱可塑性樹脂が高密度ポリエチレン樹脂であり、下記〔セルロース繊維の凝集物の面積算出方法〕に従ってセルロース繊維の凝集物の面積を算出した場合に、セルロース繊維の凝集物の面積の最大値が144,374μm2であり、最小値が504μm2である、国際公開第2018/180469号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材、及び国際公開第2019/088140号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材: 〔セルロース繊維の凝集物の面積算出方法〕 前記セルロース繊維分散樹脂複合材を、縦3.3mm×横4.3mm×厚さ3.6mmの直方体のペレットとする。このペレットを、プレス装置を用いて160℃で5分間予熱後、さらに160℃で20MPaの圧力下で5分間加圧して厚み0.1mmの測定用シートを作製する。 ニコン社製工業用顕微鏡「ECLIPSE LV100ND(商品名)」を用いて、倍率50倍、視野を1.3mm×1.7mmとし、作製した測定用シートを平面視観察してランダムに9視野を撮影する。得られた画像をニコン社製「NIS−Elemenets D(商品名)」により下記画像処理条件で画像処理し、0〜80の輝度でカウントされた部分の各々の面積を算出する。その中で、面積が最大・最小のものを、セルロース繊維の凝集物の面積の最大値・最小値とする。ただし、面積が500μm2未満のものは、測定対象から除外する。 −画像処理条件− ・スムーズ off オブジェクトの端の形状に作用して、形状を滑らかにする機能。 ・クリーン on 小さなオブジェクトが見えなくなる機能。小オブジェクトが消えるだけで、その他の画像は影響を受けない。面積が500μm2未満のものを排除するため、500μm2未満のオブジェクトをクリーン機能で除去する。 ・閉領域を埋める off オブジェクト内の閉領域を埋める機能。 ・分割 off 結合された単一のオブジェクトを検出し、分離する機能。 [形態2] 前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂及び酸変性ポリプロピレン樹脂であり、下記〔成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2)の測定〕に従ってセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を測定した場合に、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が13、5、1、又は9である、特開2010−89483号公報に実施例1ないし3及び5として記載されているセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物: 〔成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2)の測定〕 前記セルロース繊維分散樹脂複合材を、射出成形機を用いて190℃のシリンダー温度にて縦50mm×横100mm×厚さ3mmの測定用シートを10枚作製する。これら10枚の測定用シートについて、片一方の面を5倍以上の拡大境にて観察し、10枚の測定用シートの片一方の面の合計500cm2中に存在する、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を数える。)」ものであることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書の段落【0018】、【0025】、【0026】及び【0027】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び4ないし18の訂正についても同様である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2に係る請求項3の訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2に係る請求項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3に係る請求項4の訂正は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1〜3を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1又は2を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3に係る請求項4の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5ないし18の訂正についても同様である。 (4)訂正事項4について 訂正事項4に係る請求項5の訂正は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項1〜4を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4に係る請求項5の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし18の訂正についても同様である。 (5)訂正事項5について 訂正事項5に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項6の記載が訂正前の請求項1〜5を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2、4及び5を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項5に係る請求項6の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7ないし18の訂正についても同様である。 (6)訂正事項6について 訂正事項6に係る請求項7の訂正は、訂正前の請求項7における「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、下記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満」との発明特定事項を、訂正後の請求項7では「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、上記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が5質量%以上70質量%未満」に減縮し、さらに、訂正後の請求項7では、セルロース繊維の含有量の測定方法に係る記載を訂正後の請求項1の記載を引用する形式にしていて、また、訂正前の請求項7では、「観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合」が特定されていないのを、訂正後の請求項7は、訂正後の請求項1を引用して、「前記の観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.018%以上であ」ることを特定し、加えて、訂正前の請求項7では、「セルロース繊維分散樹脂複合材中、平面視において、1.0×103〜1.0×106μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s2に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s1の割合」が特定されていなかったのを、訂正後の請求項7は、「セルロース繊維分散樹脂複合材中、平面視において、1.0×103〜1.0×106μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s2に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s1の割合が20%以上」であることを特定し、さらに、訂正前の請求項7では、セルロース繊維分散樹脂複合材に含まれる「セルロース繊維の凝集物」の最大面積については特定されていなかったのを、訂正後の請求項7は、「セルロース繊維分散樹脂複合材中に含まれるセルロース繊維の凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物である」ことを特定し、セルロース繊維の凝集物のサイズを限定することにより減縮しているから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項6に係る請求項7の訂正は、本件特許明細書の段落【0018】、【0021】、【0022】及び【0025】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8ないし18の訂正についても同様である。 (7)訂正事項7について 訂正事項7に係る請求項8の訂正は、訂正前の請求項8では「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、前記セルロース繊維の含有量が5質量%以上50質量%未満である」との特定により、請求項8に係る樹脂成形体の発明を特定していたのを、訂正後の請求項8では、上記セルロース繊維の含有量を「7質量%以上50質量%未満である」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項7に係る請求項8の訂正は、本件特許明細書の段落【0025】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項9ないし18の訂正についても同様である。 (8)訂正事項8について 訂正事項8に係る請求項9の訂正は、訂正前の請求項9の記載が訂正前の請求項1〜8を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜8を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項8に係る請求項9の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項9の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし18の訂正についても同様である。 (9)訂正事項9について 訂正事項9に係る請求項10の訂正は、訂正前の請求項10の記載が訂正前の請求項1〜9を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜9を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項9に係る請求項10の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項10の記載を直接又は間接的に引用する請求項11ないし18の訂正についても同様である。 (10)訂正事項10について 訂正事項10に係る請求項11の訂正は、訂正前の請求項11の記載が訂正前の請求項1〜10を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜10を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項10に係る請求項11の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項11の記載を直接又は間接的に引用する請求項12ないし18の訂正についても同様である。 (11)訂正事項11について 訂正事項11に係る請求項13の訂正は、訂正前の請求項13の記載が訂正前の請求項1〜11を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜11を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項11に係る請求項13の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項13の記載を直接又は間接的に引用する請求項14ないし18の訂正についても同様である。 (12)訂正事項12について 訂正事項12に係る請求項14の訂正は、訂正前の請求項14の記載が訂正前の請求項1〜13を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜13を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項12に係る請求項14の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項14の記載を直接又は間接的に引用する請求項15ないし18の訂正についても同様である。 (13)訂正事項13について 訂正事項13に係る請求項15の訂正は、訂正前の請求項15の記載が訂正前の請求項1〜14を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜14を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項13に係る請求項15の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項15の記載を直接又は間接的に引用する請求項16ないし18の訂正についても同様である。 (14)訂正事項14について 訂正事項14に係る請求項16の訂正は、訂正前の請求項16の記載が訂正前の請求項1〜15を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜15を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項14に係る請求項16の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項16の記載を直接又は間接的に引用する請求項17及び18の訂正についても同様である。 (15)訂正事項15について 訂正事項15に係る請求項17の訂正は、訂正前の請求項17の記載が訂正前の請求項1〜16を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜16を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項15に係る請求項17の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 請求項17の記載を引用する請求項18の訂正についても同様である。 (16)訂正事項16について 訂正事項16に係る請求項18の訂正は、訂正前の請求項18の記載が訂正前の請求項1〜17を引用する記載であったものを、引用する請求項3を削除して請求項1、2及び4〜17を引用する記載とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項16に係る請求項18の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−18]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし18に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明18」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材を成形してなる樹脂成形体であって、 該樹脂成形体は肉厚が0.1mm以上であり、 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、及びポリ乳酸樹脂の1種又は2種以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、該凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物であり、該凝集物の少なくとも一部が、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物であり、 観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.01〜1.0%であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、下記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満である、樹脂成形体。 <測定方法> セルロース繊維分散樹脂複合材の試料を、窒素雰囲気下において+10℃/分の昇温速度で熱重量分析(TGA)に付し、下記[式1]によりセルロース繊維の含有量を算出する。 [式1] (セルロース繊維の含有量[質量%])=(200〜380℃の間における試料の質量減少量[mg])×100/(熱重量分析に付す前の試料の質量[mg]) (ただし、前記セルロース繊維分散樹脂複合材が下記[形態1]及び[形態2]である場合を除く。 [形態1] 前記熱可塑性樹脂が高密度ポリエチレン樹脂であり、下記〔セルロース繊維の凝集物の面積算出方法〕に従ってセルロース繊維の凝集物の面積を算出した場合に、セルロース繊維の凝集物の面積の最大値が144,374μm2であり、最小値が504μm2である、国際公開第2018/180469号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材、及び国際公開第2019/088140号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材: 〔セルロース繊維の凝集物の面積算出方法〕 前記セルロース繊維分散樹脂複合材を、縦3.3mm×横4.3mm×厚さ3.6mmの直方体のペレットとする。このペレットを、プレス装置を用いて160℃で5分間予熱後、さらに160℃で20MPaの圧力下で5分間加圧して厚み0.1mmの測定用シートを作製する。 ニコン社製工業用顕微鏡「ECLIPSE LV100ND(商品名)」を用いて、倍率50倍、視野を1.3mm×1.7mmとし、作製した測定用シートを平面視観察してランダムに9視野を撮影する。得られた画像をニコン社製「NIS−Elemenets D(商品名)」により下記画像処理条件で画像処理し、0〜80の輝度でカウントされた部分の各々の面積を算出する。その中で、面積が最大・最小のものを、セルロース繊維の凝集物の面積の最大値・最小値とする。ただし、面積が500μm2未満のものは、測定対象から除外する。 −画像処理条件− ・スムーズ off オブジェクトの端の形状に作用して、形状を滑らかにする機能。 ・クリーン on 小さなオブジェクトが見えなくなる機能。小オブジェクトが消えるだけで、その他の画像は影響を受けない。面積が500μm2未満のものを排除するため、500μm2未満のオブジェクトをクリーン機能で除去する。 ・閉領域を埋める off オブジェクト内の閉領域を埋める機能。 ・分割 off 結合された単一のオブジェクトを検出し、分離する機能。 [形態2] 前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂及び酸変性ポリプロピレン樹脂であり、下記〔成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2)の測定〕に従ってセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を測定した場合に、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が13、5、1、又は9である、特開2010−89483号公報に実施例1ないし3及び5として記載されているセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物: 〔成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2)の測定〕 前記セルロース繊維分散樹脂複合材を、射出成形機を用いて190℃のシリンダー温度にて縦50mm×横100mm×厚さ3mmの測定用シートを10枚作製する。これら10枚の測定用シートについて、片一方の面を5倍以上の拡大境にて観察し、10枚の測定用シートの片一方の面の合計500cm2中に存在する、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を数える。) 【請求項2】 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、1.0×103〜1.0×106μm2の面積の凝集物の当該面積の総和s2に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和s1の割合が20%以上である、請求項1に記載の樹脂成形体。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 肉厚1mm以下の部位を少なくとも有する請求項1又は2に記載の樹脂成形体。 【請求項5】 繊維長0.3mm以上のセルロース繊維を含む、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項6】 繊維長0.8mm以上のセルロース繊維を含む、請求項1、2、4及び5のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項7】 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、前記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が5質量%以上70質量%未満であり、 前記の観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.018%以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、平面視において、1.0×103〜1.0×106μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s2に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s1の割合が20%以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中に含まれるセルロース繊維の凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物である、 請求項1、2及び4〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項8】 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、前記セルロース繊維の含有量が7質量%以上50質量%未満である、請求項1、2及び4〜7のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項9】 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、及び3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂のいずれか1つ以上である、請求項1、2及び4〜8のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項10】 前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である、請求項1、2及び4〜9のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項11】 アルミニウムを含む、請求項1、2及び4〜10のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項12】 前記ポリオレフィン樹脂が、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、及びポリプロピレン樹脂の1つ以上を含む、請求項10に記載の樹脂成形体。 【請求項13】 前記複合材が、カーボンブラック、光安定剤、及び屈折率が2以上の無機質粉体のいずれか1つ以上を含むポリオレフィン樹脂組成物である、請求項1、2及び4〜11のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項14】 前記樹脂成形体が、環状構造を有するもの、又は環構造を有するものの多分割体である、請求項1、2及び4〜13のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項15】 前記樹脂成形体が、長手方向に波形状が付与された波付管用の、接手部材又は端部材である、請求項1、2及び4〜14のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項16】 前記樹脂成形体が射出成形体である、請求項1、2及び4〜15のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項17】 構成材料の少なくとも一部が再生材に由来する、請求項1、2及び4〜16のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項18】 土木用、建材用、又は自動車用の部材である、請求項1、2及び4〜17のいずれか1項に記載の樹脂成形体。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 1 令和3年1月29日に申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由A1(甲A1に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし4、7ないし10及び12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に比較例として記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由A2(甲A1に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし18に係る発明は、下記の甲第1号証に比較例として記載された発明に基づいて、その出願前にこの発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由A3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・以下の点で請求項1の記載は、本件発明の課題を解決できる適切な技術的範囲として記載されていない。 ア 連続的な生産性 イ 熱可塑性樹脂の種類 ウ セルロース繊維のサイズ エ セルロース繊維の凝集物における「少なくとも一部」の範囲 ・請求項2ないし18についても、いずれの請求項においても成形体中における3〜13万μm2のセルロース凝集物の有効な割合が特定されていないから、請求項2ないし18も同様である。 (4)申立理由A4(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし18係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・合成樹脂の種類によって、合成樹脂とセルロース繊維との混練のし易さには違いがあり、発明の詳細な説明には、親水性の樹脂においてどのような条件で溶融混練すればセルロース繊維の凝集物面積を制御できるのかの指針の記載がないから、当業者といえども、実施例で利用されている疎水性のポリエチレン系樹脂以外の樹脂を用いた場合に、所定の面積を持つセルロース繊維の凝集物を作成するために、過度の試行錯誤を要する。 (5)証拠方法 甲第1号証 :国際公開第2018/180469号 甲第2号証 :日本ゴム協会誌、高分子分散剤による木材由来ナノセルロースの界面機能制御と樹脂複合材料への応用2015年、第88巻、第11号、p.443−446 証拠の表記については、おおむね特許異議申立書Aの記載にしたがった。以下、「甲A1」のようにいう。 2 令和3年2月10日に申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由B1(甲B1に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし4及び7ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に比較例として記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由B2(甲B2に基づく新規性) 本件特許の請求項1、3、5ないし9及び16に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第2号証に実施例として記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由B3(甲B2に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし9、14ないし16及び18に係る発明は、下記の甲第2号証に実施例として記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由B4(サポート要件) 本件特許の請求項1、3ないし9、14ないし16及び18に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件発明は、無数の凝集物のうちの少数(たとえば1個〜数個)の凝集物だけがこの面積を満足するものを包含しているが、無数の凝集物のうちの少数(たとえば1個〜数個)の凝集物だけがこの面積を満足することによって「連続的な生産性」や「耐衝撃性」を優れたものとすることができるはずがない。 (5)申立理由B5(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし9、14ないし16及び18に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・視野数や視野の大きさについての説明がなく、請求項の記載は、それらに影響を受けるため、請求項の記載は明確でない。 (6)申立理由B6(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし9、14ないし16及び18に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・実施例の記載において、混練時間、混練速度、温度条件について記載されていない。 (7)証拠方法 甲第1号証の1 :国際公開第2019/088140号 甲第1号証の2 :特願2017−210331の優先権書類 甲第1号証の3 :申立人Bが、甲第1号証の2における図3の(a)の画像を拡大したうえで、凝集体の面積の計算上の結果を書き加えて作成したもの(注釈付きの拡大図) 甲第2号証 :特開2010−89483号公報 甲第3号証 :特開2018−187917号公報 証拠の表記については、おおむね特許異議申立書Bに添付された証拠説明書の記載にしたがった。以下、「甲B1の1」のようにいう。 第5 取消理由<決定の予告>の概要 当審が令和3年12月16日付けの取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由は、令和3年6月4日付けの取消理由通知に記載した取消理由2(サポート要件)の5は、解消していないこと、及び、令和3年8月6日提出の訂正請求が認められた結果、下記2の新たな取消理由7(明確性要件)が生じたというものである。 1 取消理由2の5 取消理由2の5は、要するに、発明の詳細な説明には、本件発明におけるセルロース繊維の凝集物における「少なくとも一部」の範囲全てについて、課題を解決することができるといえる一般的な説明も記載もされておらず、また、実施例や一般的な説明をみても認識できる記載はなく、記載されていなくてもその課題を解決することができるといえる技術常識もないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである、というものである。 2 取消理由7 本件特許は、下記のとおり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (1)請求項1には「(ただし、前記セルロース繊維分散樹脂複合材を厚み0.1mmのシート状にした場合に、該シート中に含まれるセルロース繊維の凝集物の面積の最大値が144,374μm2であり、最小値が504μm2である形態、及び、前記セルロース繊維分散樹脂複合材を50mm×100mm×3mmのシート状とした場合に、該シートの片一方の面を観察し、合計500cm2中の最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数が13、5、1、又は9である形態を除く)」と特定されているが、「前記セルロース繊維分散樹脂複合材を厚み0.1mmのシート状にした場合に、該シート中に含まれるセルロース繊維の凝集物の面積の最大値が144,374μm2であり、最小値が504μm2である形態」とは、いかなる形態であるのか、観察されるシートの大きさや、観察するための手段等が規定されておらず、当業者といえども、何を除こうとしているのか理解できないから明確でない。 (2)請求項1には「(ただし、前記セルロース繊維分散樹脂複合材を厚み0.1mmのシート状にした場合に、該シート中に含まれるセルロース繊維の凝集物の面積の最大値が144,374μm2であり、最小値が504μm2である形態、及び、前記セルロース繊維分散樹脂複合材を50mm×100mm×3mmのシート状とした場合に、該シートの片一方の面を観察し、合計500cm2中の最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数が13、5、1、又は9である形態を除く)」と特定されているが、「前記セルロース繊維分散樹脂複合材を50mm×100mm×3mmのシート状とした場合に、該シートの片一方の面を観察し、合計500cm2中の最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数が13、5、1、又は9である形態」とは、いかなる形態であるのか、観察されるシートの大きさや、観察するための手段等が規定されておらずわからず、当業者といえども、何を除こうとしているのか理解できない。 第6 取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由についての当審の判断 以下に述べるように、当審が令和3年12月16日付けで特許権者に通知した取消理由通知<決定の予告>における取消理由2の5及び取消理由7には理由がないと判断する。 1 取消理由7(明確性)について 本件訂正請求により、指摘した請求項1において何を除こうとしているのか不明である旨の記載不備は解消したので、取消理由7は、理由がない。 2 取消理由2の5(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は、当審による。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、熱可塑性樹脂中にセルロース繊維が分散してなる樹脂成形体に関する。 【背景技術】 ・・・ また、特許文献3には、熱可塑性合成樹脂とセルロースとイオン化合物とを特定の量比として混練し、微細化された植物繊維が熱可塑性樹脂中に均一分散した複合樹脂であるセルロース強化熱可塑性樹脂を得たことが記載されている。特許文献3の実施例には、熱可塑性樹脂中のセルロース凝集体の面積を所定面積である19121μm2以下へと微細化できたことが記載されている。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 セルロース繊維を使用した繊維強化樹脂を用いて、様々な形状を有する樹脂成形体が成形されている。しかし、セルロース繊維強化樹脂を用いた樹脂成形体を、複雑な形状にしたり、薄肉部(例えば肉厚1mm以下の部位)を有する形状にしたりすると、成形性ないしは生産性(歩留り)が十分でない場合があることが分かってきた。 例えば、薄肉部を有する成形体の当該薄肉部に穴空きが生じたりする場合がある。また、セルロース繊維強化樹脂を用いた樹脂成形体を射出成形する場合には、スプール(溶融樹脂材料が流れ込む通路)等において溶融樹脂材料が破断する場合があり、破断が生ずると、上流側(固定金型側)で固化した残留物の除去が必要となり、目的の成形体の連続的な生産が困難となる。 さらに、セルロース繊維を用いた繊維強化樹脂成形体は、必ずしも十分な機械的物性を示すには至っておらず、衝撃特性等の機械特性のさらなる向上が望まれている。 本発明は、熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなる樹脂成形体であって、肉厚0.1mm以上の部位を有し、薄肉部を有する形態とした場合にも、連続的な生産性に優れ、また優れた耐衝撃特性を示す樹脂成形体を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 上記特許文献3に記載されるように、セルロース繊維は樹脂中において少なからず凝集物を形成する。本発明者らは上記課題に鑑み、この凝集物の状態と上記の成形性ないし生産性の問題との関連性について検討を行った。その結果、樹脂成形体の構成材料とするセルロース繊維分散樹脂複合材において、当該複合材中のセルロース繊維の凝集物の大きさを特許文献3に記載されるように単に微細化するのではなく、特定の大きさの凝集物を含むように制御することにより、樹脂組成物の流動性を効果的に高めることができること、その結果、これを成形して得られる樹脂成形体に欠陥のない肉厚0.1mm以上の部位をより確実に付与できること、また、この樹脂成形体が連続的生産性にも優れることを見出した。さらに本発明者らは、当該樹脂成形体が耐衝撃特性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。」 ・「【0010】 【図1】図1は、複合材の一実施形態において、複合材に含まれるセルロース繊維の凝集物の面積分布を示すグラフである。」 ・「【発明を実施するための形態】 【0011】 本発明の好ましい実施の形態について説明する。 【0012】 本発明の樹脂成形体(以下、単に「本発明の成形体」とも称す。)は、熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材を構成材料とし、この複合材を成形してなる繊維強化樹脂成形体である。本発明の成形体は、肉厚が0.1mm以上である。前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、該凝集物の少なくとも一部は平面視において2.0×104〜2.0×105μm2の面積の凝集物である。 このような構成により、本発明の成形体は優れた耐衝撃特性(衝撃強度)を発現する。また、本発明の成形体はその製造において形成性に優れ、また、例えば射出成形により得る場合はスプール(射出成形機から射出注入された複合材が流れ込む通路)やランナー(型間を結ぶ、複合材が流れ込む通路)等で成形材料の破断が生じにくい。すなわち、本発明の成形体は連続的生産性に優れ、歩留りが高い。本発明の成形体は、薄肉部を有する場合であっても上記の特性を示す。 【0013】 まず、樹脂成形体を構成するセルロース繊維分散樹脂複合材について説明する。なお、下記において、複合材を構成するセルロース繊維の凝集物の大きさの説明は、成形体を構成するセルロース繊維の凝集物の大きさにそのまま適用される。つまり、複合材を成形して得られる成形体(射出成形体、プレス成形体等)において、そのセルロース繊維の凝集物の大きさは、複合材のセルロース繊維の凝集物の大きさと事実上同じである。」 ・「【0017】 より詳細には、複合材中に含まれるセルロース繊維の凝集物の面積は、複合材を薄膜シート(例えば厚さ0.1mm)とし、反射光又は透過光にて顕微鏡画像をとり、これを解析することにより決定することができる。また、複合材中のセルロース繊維量が多い場合には、そのままでは樹脂中に分散したセルロース繊維同士の重なりが著しく、セルロース繊維同士の重なりと凝集物とを判別して観察するのが簡単でない場合も想定される。この場合でも、複合材を、複合材を構成する樹脂と相溶性を有する樹脂(好ましくは複合材を構成する樹脂と同種の樹脂)と混合し、混練することにより希釈して、希釈物を薄膜シート(例えば厚さ0.1mm)とし、このシートを顕微鏡観察して顕微鏡画像をとり、凝集物の面積をより確実に決定することができる。 上記薄膜シートは複合材をスライスしたり、プレスしたりして調製することができる。なお、1.0×107μm2以上の大きな凝集物の有無については、薄膜シートにしなくても、また複合材を希釈しなくても、複合材の表面観察によって判定することができる。 【0018】 本発明において、凝集物の観察は、例えば、セルロース繊維の濃度をある範囲に希釈して観察した方が、見やすい場合がある。複合材を希釈してセルロース繊維の濃度を3〜7%とした場合について、平面視観察において、観察面積に占める、3.0×104〜1.3×105の面積の凝集物の当該面積の総和の割合s1が、0.01〜1.0%が好ましい。この場合s1は、0.015〜0.8%がより好ましく、0.015〜0.7%がさらに好ましく、0.018〜0.6%とすることも好ましい。この観察面積や、観察面積に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合は、後述する実施例に記載の方法(s1の測定方法)により決定される。 複合材の希釈により観察面積に占める凝集物の総和の面積は変わる。例えば、実際の観察において、観察面積に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合s1’を、セルロース繊維の含有量が5%となるように複合材を希釈して得た試料(薄膜シート)の観察結果に換算した値(5%換算値)sr1は、下記式により算出することができる。 sr1[%]=s1’[%]×5[質量%]/(観察対象とした試料のセルロース繊維の含有量[質量%]) 上記sr1は、0.01〜1.0%が好ましく、0.015〜0.8%がより好ましく、0.015〜0.7%がさらに好ましく、0.018〜0.6%とすることも好ましい。 【0019】 また、複合材を希釈してセルロース繊維の濃度を3〜7%とした場合について、平面視観察において、観察面積に占める、1.0×103〜1.0×106μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合s2が、0.015〜1.5%が好ましく、0.02〜1.2%がより好ましく、0.02〜1.0%がさらに好ましく、0.03〜1.0%とすることも好ましい。この観察面積や、観察面積に占める、1.0×103〜1.0×106μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合は、後述する実施例に記載の方法(s2の測定方法)により決定される。 例えば、実際の観察において、観察面積に占める、1.0×103〜1.0×106μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合s2’を、セルロース繊維の含有量が5%となるように複合材を希釈して得た試料(薄膜シート)の観察結果に換算した値(5%換算値)sr2は、下記式により算出することができる。 sr2[%]=s2’[%]×5[質量%]/(観察対象とした試料のセルロース繊維の含有量[質量%]) 上記sr2は、0.015〜1.5%が好ましく、0.02〜1.2%がより好ましく、0.02〜1.0%がさらに好ましく、0.03〜1.0%とすることも好ましい。」 ・「【0025】 複合材は、複合材中のセルロース繊維の含有量が1質量%以上であることが好ましい。複合材中のセルロース繊維の含有量を1質量%以上とすることにより、機械強度を向上させることができる。この観点からは、複合材中のセルロース繊維の含有量は3質量%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、特に好ましくは9質量%以上である。また、曲げ強度をより向上させる点も考慮すれば、複合材中のセルロース繊維の含有量は25質量%以上であることが好ましい。 複合材は、セルロース繊維の含有量が70質量%未満であることが好ましい。複合材中のセルロース繊維の含有量を70質量%未満とすることにより、溶融混練によりセルロース繊維が均一に分散した複合材が得られやすくなる。吸水性をより抑える観点から、複合材中のセルロース繊維の含有量は、好ましくは50質量%未満であり、40質量%未満であることも好ましい。 複合材は、セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であることが好ましく、3質量%以上70質量%未満であることがより好ましく、5質量%以上50質量%未満であることがさらに好ましく、7質量%以上40質量%未満であることがさらに好ましく、9質量%以上40質量%未満であることが特に好ましい。」 ・「【0027】 −熱可塑性樹脂− 本発明のセルロース繊維分散樹脂複合材を構成する熱可塑性樹脂に特に制限はなく、射出成形等が可能なものであれば広く適用することができる。一例として、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン)、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂(PHBH樹脂)、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリ乳酸樹脂等の熱可塑性の生分解性の樹脂等があげられる。熱可塑性樹脂は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。」 ・「【0045】 [複合材の製造方法] 本発明に用いる複合材は、熱可塑性樹脂とセルロース繊維を混練することにより得ることができる。 複合材は、以下のように調製することが好ましい。 熱可塑性樹脂と、セルロース繊維又はその供給源(以下、これらをまとめて「セルロース材」とも称す。詳細は後述する。)とを混練する。この際の混練条件を調整したり、混練時に添加剤を添加したりすることにより、特定サイズのセルロース凝集物を含む複合材を得ることができる。例えば、熱可塑性樹脂とセルロース材とを混練するに当たり、セルロース繊維との親和性の高い極性溶媒を添加して混練することにより、複合材を得ることができる。極性溶媒は、複合材を構成する樹脂との親和性がある程度低いものが好ましい。混練時に添加する極性溶媒として、水が好適である。 混練の際の、極性溶媒の添加量、添加タイミング、混練時間、混練速度、温度等をコントロールすることにより、得られる複合材中のセルロース繊維の凝集物の量と大きさを調整することができる。例えば、水の添加量が多いと、凝集物の量は多くなる傾向にあり、凝集物の大きさは大きくなる傾向にある。凝集物の量と大きさの制御には、特に極性溶媒の存在下における混錬時間が大きく影響する。本発明で規定する凝集物を形成させるためには、水の存在下の混錬を長時間行うことが好ましい。例えば、長時間の混練において水を分割して添加することにより、水の存在下における混練時間を十分に確保することができる。この混練により生じたセルロース繊維の凝集物は、水の非存在下における混練においてはその量と大きさはあまり変化しない傾向にある。従って、水の存在下の混錬条件が重要となる一方、得られた複合材は、その後の加工や樹脂とのブレンド(希釈)等においてもセルロースの凝集状態を保持でき、衝撃強度等の所望の特性を発現することができる。 混練において、極性溶媒の添加を複数回に分けて行うことが好ましい。例えば、まず、熱可塑性樹脂とセルロース繊維とを、極性溶媒の全量の一部の存在下で混練し、その後、極性溶媒の全量の残部の存在下で、さらに混練することが好ましい。 混練装置としては、ニーダや二軸押出機等、通常の混練装置を適用することができる。 上記の混練は溶融混練が好ましい。 ここで「溶融混練」は、原料中の熱可塑性樹脂が溶融する温度で混練することを意味する。好ましくは、セルロース繊維が変質しない温度と処理時間で溶融混練する。「セルロース繊維が変質しない」とは、セルロース繊維が著しい変色や燃焼、炭化を生じないことを意味する。 上記溶融混練における温度(溶融混練物の温度)は、例えばポリエチレン樹脂を用いる場合を例にとると、110〜280℃とすることが好ましく、130〜220℃とすることがより好ましい。 また、複合材の熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂を主体とし、さらにポリエチレンテレフタレート及び/又はナイロンとを含む場合も、例えばポリオレフィン樹脂100質量部に対し、ポリエチレンテレフタレート及び/又はナイロンの総量が10質量部以下である場合は、溶融混練は上記と同様の温度とすることができる。 【0046】 上記溶融混練に当たり、セルロース材の使用量は、得られる複合材中のセルロース繊維の含有量が上述した好ましい範囲となるように調整することが好ましい。 【0047】 セルロース材としては、セルロースを主体とするものがあげられ、より具体的には、紙、古紙、紙粉、再生パルプ、ペーパースラッジ、ラミネート加工紙、ラミネート加工紙の損紙等があげられる。なかでもコストと資源の有効活用の点から古紙及び/又はペーパースラッジを使用することが好ましく、ペーパースラッジを使用することがより好ましい。 このペーパースラッジは、セルロース繊維以外に無機質材を含んでいてもよい。複合材の弾性率を高める観点からは、無機質材を含むペーパースラッジが好ましい。 ここで、ラミネート加工紙の損紙とは、飲料パック等を製造する際に、その製造工程において発生するラミネート加工紙の幅方向や長手方向の余長を切り落とした材料をいう。また、複合材の衝撃強度を重視する場合は、ペーパースラッジは無機質材を含まないか、無機質材を含むとしてもその含有量の少ないものが好ましい。 古紙等の紙を混合する場合は、溶融混練の前に紙は予め水で湿潤されていることが好ましい。水で湿潤された紙を使用することにより、セルロース繊維が樹脂中に均一に分散した複合材が得られやすくなる。 【0048】 上記溶融混練を、水の存在下で行う場合には、溶融混練の最中に、水を蒸気として除去し、複合材の含水率を1質量%未満とすることが好ましい。このようにすると、水分を含むセルロース繊維付着ポリオレフィン薄膜片を原料とした場合には、水分の除去と溶融混練とを別のプロセスで行う場合に比べて、水分除去にかかるエネルギー使用量(消費電力等)を大幅に抑えることができる。」 ・「【0052】 本発明の成形体は、面積が特定範囲にあるセルロース繊維の凝集物、即ち面積が2.0×104〜2.0×105μm2の凝集物を含有することにより耐衝撃特性に優れる。したがって、衝撃強度が要求される成形品(樹脂製品)として好適である。本発明の成形体が衝撃強度に優れる理由は定かではないが、セルロース繊維の少なくとも一部が上記特定のサイズ、好ましくは面積が3.0×104〜1.3×105μm2のセルロース繊維の凝集物として存在することにより、高速の変形に対するセルロース繊維による補強作用と、セルロース繊維の凝集物による衝撃の吸収緩和作用等が複合的に働き、衝撃強度が効果的に高められるものと推定される。 また、面積が特定範囲にあるセルロース繊維の凝集物、即ち面積が2.0×104〜2.0×105μm2の凝集物を含有することにより複合材の流動性に優れる。即ち、成形体が薄肉部を有する場合でも、連続生産性ないし歩留りも効果的に高めることができる。この理由は定かではないが、流動性の要求される熱可塑性樹脂の軟化溶融した状態においては、セルロース繊維の少なくとも一部が特定のサイズ、好ましくは面積が3.0×104〜1.3×105μm2のセルロース繊維の凝集物として存在することにより、マトリックスである樹脂の流動性が確保されることと、このセルロース繊維の凝集物自体が、例えば無機質粉体の凝集物と異なり変形性を高度に有すること等が総合的に働き、流動性が高められていると推定される。」 ・「【実施例】 ・・・ [凝集物] <セルロース繊維の凝集物の評価−1> 複合材を樹脂で希釈し、0.1mm厚のシートを作製した。このシートを透過光により顕微鏡撮影し、暗色部(セルロース繊維の凝集物)の大きさ(面積)と分布を解析した。上記の希釈は、複合材と樹脂とをロールにより混練することにより行った。また、シートの作製にはプレス加工(プレス圧:4.2MPa)を、顕微鏡撮影と解析には、実体顕微鏡と解析ソフト(画像解析ソフトPixs2000 Pro、inotec社製)を使用した。上記の樹脂による複合材の希釈は、希釈後のセルロース繊維の濃度で3〜7質量%の範囲となるようにして行った。ただし、樹脂で希釈せずとも0.1mm厚のシートにて、凝集物の観察が行いうる場合は、希釈せず行った。 上記のように解析したセルロース繊維の凝集物の平面視面積について、下記評価基準により評価した。 「凝集物1の有無」: 面積が2.0×104〜2.0×105μm2の凝集物が有るものを「有」、無いものを「無」とした。 「凝集物1bの有無」: 面積が3.0×104〜1.3×105μm2の凝集物が有るものを「有」、無いものを「無」とした。 「凝集物1cの有無」: 面積が5.0×104〜1.0×105μm2の凝集物が有るものを「有」、無いものを「無」とした。 【0059】 <セルロース繊維の凝集物の評価−2> 面積が1.0×107μm2以上の凝集物の有無は、射出成形により試験片(厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm)を作製し、得られた試験片10個について両面の表面を観察して判定した。 「凝集物2の有無」: 面積が1.0×107μm2以上の凝集物が有るものを「有」、無いものを「無」とした。 ・・・ 【0064】 [成形性1] 複合材を用いて、肉厚1mm、肉厚0.7mm、及び肉厚0.5mmの3箇所の薄肉部を有するワイヤーハーネスプロテクタ用模擬部品(図2)を射出成形により成形し、成形体の成形性を評価した。 各実施例と各比較例との成形条件は同じとした。具体的には、成形条件は、シリンダー温度200℃、金型温度40℃、射出速度150mm/secとした。 模擬部品の形状は、全体的な形状は、内部が直方形状の空洞となっている直方体の一面を取って開口部を設けた箱状で、1つの底面と4つの側面を有している。この箱の側面の外側には突起部が複数設けられる。箱状部11の外寸は、高さ30mm×幅80mm×奥行25mmであり、壁厚は2mmである。 上記複数の突起部のうち突起部12は、突起部12を有する側面(80mm×25mm、面A)を平面視したときにコの字状の屋根と、面Aから垂直方向に延びる3つの壁を有し、3つの壁の肉厚は1mmの薄肉である(図(c)参照)。また、この突起部12の、面Aから垂直方向の高さは5mmである。 上記複数の突起部のうち突起部13は、高さ5mm×幅10mm×長さ10mmの中空の直方体で(この中空部は箱状部の空洞と繋がっている)、突起部12が設けられた側面Aと隣接する側面(30mm×80mm、面B)に設けられる。突起部13は、薄肉の壁及び屋根(面Bから垂直方向に延びる4面の壁の肉厚1mm、屋根の肉厚0.5mm)を有する。 上記複数の突起部のうち突起部14は、突起部12が設けられた側面と対向する側面(80mm×25mm、面A’)に設けられる。この側面の平面視において短辺方向に平行に長さ7mmで厚さ1mm、かつ、この側面から垂直方向に高さ4mmの形状の突起を、10mmの間隔で離間して設け、これらを2つの壁として、この2つ壁の端部同士を屋根状に繋いだ厚さ0.7mmの薄肉の面(屋根)を有する角筒状の構造である。 上記模擬部品形成用の金型のゲートは、面A’の、面Bと接合するのと反対側にあり、ゲート出口は6mm×1.5mmm、金型のランナーとスプールはT字状のランナー両端にゲートを配して2個の成形体部を配し、ランナーのサイズは直径4mm、長さ35mmであり、スプールのサイズは、長さ130mmで下流側に向かって拡径形状のもので、下流側(ランナー側)が直径7mmであり、上流側が直径3mmである。 厚みを記載した薄肉の箇所を含め成形体の形状が所望のサイズに問題なく成形できるとともに、スプール、及びランナーでの材料破断の無いものを〇とし、成形体の形状が問題なく成形できたがスプール、ランナーでの材料破断が生じるときがあったものを△、成形体の薄肉部が設計の形状サイズに成形できない等の問題あるものを×とした。 【0065】 [成形性2] 複合材を用いて、肉厚0.9mm、肉厚0.4mm及び肉厚0.2mm厚の薄肉部を有する、波付管用の端部部材(図3(a)、(b))を射出成形により成形し、成形体の成形性を評価した。 各実施例と各比較例との成形条件は同じとした。具体的には、成形条件は、シリンダー温度200℃、金型温度40℃、射出速度150mm/secとした。 上記波付管用の端部部材は、具体的には、中空の円柱部21と、円柱部21の長さ方向の片側の端部に連なる、小径部が円柱部21と同径で端部に向かってラッパ状に広がった中空の円柱状の拡径部22とを有する。円柱部21は、内径が25.5mm、厚さが1.5mmであり、拡径部22は、端部(最大径部)の外径が50mm、厚さが1.2mmである。円柱部21と拡径部22を合わせた全長は40mmである。さらに円柱部21と拡径部22との境となる内側に、円柱部21の中空を塞ぐ形で円盤状の蓋部23を有し、この蓋部23は、円柱部21と繋がる箇所に幅1mmで全周に渡り、厚さ0.4mmと特に薄肉の部位24を有しており、蓋部23のこの箇所を除く中央部の厚さは0.9mmと薄肉である。蓋部23は、さらに蓋部23の拡径部22側面の円周よりに直径3mm、蓋部23からの高さ14mmの円柱状の突起25を有し、かつこの突起25の立ち上がりの外周部となる蓋部23の部分に幅1mmで厚さ0.2mmとなった極端に薄肉の部位26を有する。さらに、蓋部23は、蓋部23の拡径部22側面の中央部に長さ10mm、幅1mm、蓋部23からの高さ10mmの突起27を有する。さらに、円柱部21の側面の外周には螺旋状の山の突起部、即ち、波付管(螺旋波付け管)の内面にねじ込むことにより勘合可能とする部位を有する。 上記端部部材形成用の金型のゲートは、拡径部22の端部にあり、ゲート出口は6mm×1.5mmm、金型のランナーとスプールはT字状のランナー両端にゲートを配して2個の成形体部を配し、ランナーのサイズは直径4mm、長さ35mmであり、スプールのサイズは、長さ130mmで下流側に向かって拡径形状のもので、下流側(ランナー側)が直径7mmであり、上流側が直径3mmである。 薄肉の箇所を含め成形体の形状が所望のサイズに穴を生じる等の問題なく成形できるとともに、スプール、及びランナーでの材料破断の無いものを〇とし、成形体の薄肉部に穴を生じる等の成形に問題あるものを×とした。 【0066】 [成形性3] 複合材を用いて、管用の接手部材(図4)であって、半円筒構造31の両側に設けた接合面32に雄ねじ構造33を有するものを射出成形により成形した。この接手部材は、肉厚1mm以下の部分を雄ねじ構造部に有している。この成形体を成形したときの成形性を評価した。 各実施例と各比較例との成形条件は同じとした。具体的には、成形条件は、シリンダー温度200℃、金型温度40℃、射出速度150mm/secとした。 接手部材の形状は、具体的には、内面に波付け管と接合するための螺旋状の溝が形成された半円筒構造31の両側に、半円筒構造31同士の接合のための接合面32を有する形状であり、この接合面32の4角に雄ねじ構造33が設けられている。この接手部材は、平面視において矩形状(幅60mm×長さ85mm)であり、その長さ方向の中央部には、外径50mm、肉厚3mmの円筒を略半割りした半円筒構造31が幅方向(60mm)全体に亘り設けられている。当該平面視矩形の4角には雄ねじ構造33を有している。雄ねじ構造33のサイズは、それぞれ、最大径9.2mm、最小径8mm、ピッチ1.2mm、及び長さ16mm(接合面からの高さ)であるものである。雄ねじ構造33は、ねじ山の先端付近は1mm厚以下となるとともにねじ山の先端へ向かった減厚構造である。 上記接手部材形成用の金型のゲートは、長さ方向の側面にあり、ゲート出口は6mm×1.5mmm、金型のランナーとスプールはT字状のランナー両端にゲートを配して2個の成形体部を配し、ランナーのサイズは直径4mm、長さ35mmであり、スプールのサイズは、長さ130mmで下流側に向かって拡径形状のもので、下流側(ランナー側)が直径7mmであり、上流側が直径3mmである。 雄ねじ構造を含めた成形体の形状が所望のサイズに問題なく成形できるとともにスプール、ランナーでの材料破断の無いものを〇とし、成形体の形状が問題なく成形できたがスプール、ランナーでの材料破断が生じるときがあったものを△、成形体の成形(雄ねじ構造を含む成形)に問題あるものを×とした。 【0067】 [試験例1] 試験例1では、樹脂として低密度ポリエチレン樹脂とエチレン−アクリル酸共重合体樹脂を用い、またセルロース材としてパルプを用いて複合材を調製した。詳細を下記実施例1及び2、比較例1及び2として説明する。 【0068】 (実施例1、2) 実施例1、2では、低密度ポリエチレン1(LDPE1:ノバテックLC600A(商品名)、日本ポリエチレン(株)製)、エチレン−アクリル酸共重合体1(EAA1:ニュークレル(商品名)、三井・デュポンポリケミカル社製)、及びパルプ1又は2を、表1の上段に示す配合比で混合し、ニーダを用いて溶融混練して複合材を得た。溶融混練においては、樹脂とセルロース繊維の合計100質量部に対して、最初に水20質量部を添加し、さらに混練途中で水20質量部を添加した。こうして、パルプの種類の異なる実施例1、2のセルロース繊維分散樹脂複合材を得た。 こうして得られた複合材について、成形性1〜3に記載のように射出成形を行うことにより実施例1の、薄肉部を有する成形体を得た。 また、以降の各実施例及び各比較例においても、得られた複合材について上記射出成形を行うことにより薄肉部を有する成形体を得た。 【0069】 (比較例1、2) 低密度ポリエチレン1(ノバテックLC600A(商品名)、日本ポリエチレン(株)製)、エチレン−アクリル酸共重合体1(ニュークレル(商品名)、三井・デュポンポリケミカル社製)、及びパルプ1又は2を、表1の上段に示す配合比で混合し、ニーダを用いて溶融混練して複合材を得た。こうしてパルプの種類の異なる比較例1、2のセルロース繊維分散樹脂複合材を作製した。 【0070】 各複合材のセルロース繊維の含有量を表1中段に、評価結果等を表1下段に示す。 凝集物1、1b、1cの有無については、得られた複合材と低密度ポリエチレン1とを、複合材:低密度ポリエチレン1=6:44の質量比で混合することにより、複合材を樹脂で希釈し、これを用いて得たシートにて評価した。なお、希釈して得たシートのセルロース繊維の含有量は、3.5〜4.2質量%となった。シートの縦7mm×横8mmの範囲を1か所として、無作為に5カ所を観察面積とした。 観察面積に占める、面積が3.0×104〜1.3×105μm2(面積範囲r1)である凝集物の面積の総和の割合をs1とし、また、観察面積に占める、面積が1.0×103〜1.0×106μm2(面積範囲r2)である凝集物の面積の総和の割合をs2とし表1に示す。また、s2に占めるs1の割合も表1に示す。また、実施例1の複合材中の凝集物の面積の分布を図1に示す。 なお、下表中、(s1/s2)×100は、「セルロース繊維分散樹脂複合材中に含まれるセルロース繊維の凝集物のうち、平面視において1.0×103〜1.0×106μm2の面積の凝集物の当該面積の総和に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合」を意味する。 【0071】 実施例1、2の複合材は、本発明で規定する面積のセルロース繊維の凝集物が形成されていたのに対し、比較例1、2の複合材は、面積が2.0×104〜1.0×105μm2の凝集物は観察されなかった。実施例1、2と比較例1、2との間で、同じパルプを配合したもので比較すると、実施例1、2の複合材が、衝撃強度が高いことがわかる。また、実施例1、2の複合材はMFRの値も高く成形加工時の流動性に優れることもわかる。 また、前記の特定の大きさの凝集物を有する実施例1、2の複合材をみると、s2に占めるs1の割合が大きいものが特に衝撃強度が高いことがわかる。この複合材の衝撃強度は、当該複合材を成形してなる成形体の衝撃強度の指標となる。 実施例1、2の複合材は、繊維長が0.3mm以上のセルロース繊維を有し、繊維長が0.8mm以上のセルロース繊維を有し、長さ加重平均繊維長も0.3mm以上のものであった。 凝集物1を有するが凝集物2を有さない、実施例1、2を用いた成形体は、成形性に優れるものであった。凝集物1を有さない比較例1、2の複合材を用いた成形体は、薄肉部に欠陥を生じ、成形性に劣るものであった。 【0072】 【表1】 【0073】 [試験例2] 試験例2では、ラミネート加工紙の損紙と低密度ポリエチレン樹脂を使用して複合材を作製した。詳細を下記実施例3〜5として説明する。 【0074】 (実施例3、4) ポリエチレンラミネート加工紙(紙、ポリエチレン薄膜層及びアルミニウム薄膜層を有する)の損紙を、回転刃式の粉砕機(ホーライ社製)を使用して粉砕したものと、低密度ポリエチレン1(LDPE1:ノバテックLC600A(商品名)、日本ポリエチレン(株)製)とを、表2の上段に示す配合比で混合した。ポリエチレンラミネート加工紙の損紙の粉砕の際には、粉砕機のメッシュの孔径を表2上段に示した2種を使用した。この混合物を、ニーダに投入し、溶融混練した。溶融混練においては最初に樹脂とセルロース繊維の合計100質量部に対して水20質量部を添加し、さらに混練途中で水20質量部を添加した。こうして、実施例3、4のセルロース繊維分散樹脂複合材を得た。 【0075】 (実施例5) ポリエチレンラミネート加工紙(紙、ポリエチレン薄膜層及びアルミニウム薄膜層を有する)の損紙を、回転刃式の粉砕機(ホーライ社製)を使用して粉砕したものと、低密度ポリエチレン1(LDPE1:ノバテックLC600A(商品名)、日本ポリエチレン(株)製)とを、表2の上段に示す配合比で水の添加を行わずに混合した。ポリエチレンラミネート加工紙の損紙の粉砕の際には、粉砕機のメッシュの孔径を表2上段に示したものを使用した。この混合物を、ニーダに投入し、溶融混練した。こうしてセルロース繊維分散樹脂複合材(実施例5)を作製した。 【0076】 各複合材のセルロース繊維の含有量を表2中段に、評価結果等を表2下段に示す。 凝集物1、1b、1cの有無については、得られた複合材と低密度ポリエチレン1とを、複合材:低密度ポリエチレン1=8:42の質量比で混合することにより、複合材を樹脂で希釈し、これを用いて得たシートにて行った。なお、希釈して得たシート中のセルロース繊維量は、3.1質量%となった。シートの縦7mm×横8mmの範囲を1か所として、無作為に5カ所を観察面積とした。 なお、損紙に由来するアルミニウムも透過光では暗色で観察されるが、透過光では、アルミニウムよりセルロース繊維の凝集物の方が明度が高いため、セルロース繊維の凝集物を判別できる。 観察面積に占める、面積が3.0×104〜1.3×105μm2(面積範囲r1)である凝集物の面積の総和の割合をs1とし、また、観察面積に占める、面積が1.0×103〜1.0×106μm2(面積範囲r2)である凝集物の面積の総和の割合をs2とし表2に示す。また、s2に占めるs1の割合も表2に示す。 【0077】 実施例3〜5の複合材を用いた成形体はいずれも、衝撃強度に優れていた。凝集物2を有しない実施例3、4の複合材を用いた成形体において、衝撃強度がより優れていた。また、実施例5の複合材を用いた成形体は、射出成形の際、ランナー、スプールで、材料が切れて材料が成形機側に残ってしまう傾向があるのに対し、実施例3、4の複合材を用いた成形体はそのような不具合を生じず成形性にも優れていた。また、実施例4の複合材にについて、成形性1に加えて、成形性1の評価に用いた模擬部品の突起部12の、肉厚1mmの壁の厚さを0.05mmとした以外は成形性1と同様の模擬部品にて、成形性1と同様にして成形性を評価したところ、突起部12において穴あきを生じ成形性が悪いものであった。 【0078】 【表2】 【0079】 [試験例3] 試験例3では、各種材料を使用して、複合材を作製した。詳細を下記実施例6〜11、参考例1として説明する。 【0080】 (実施例6、8〜10) 各材料を表3の上段に示す配合比で混合した。ポリエチレンラミネート加工紙の損紙については予め粉砕して使用し、粉砕の際には、粉砕機のメッシュの孔径を表3上段に示したものを使用した。この混合物を、ニーダに投入し、溶融混練した。溶融混練においては最初に樹脂とセルロース繊維の合計100質量部に対して水20質量部を添加し、さらに混練途中で水20質量部を添加した。こうして、実施例6、8〜10のセルロース繊維分散樹脂複合材を得た。 LDPE1:低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、ノバテックLC600A(商品名)) HDPE1:高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、ノバテックHJ490(商品名)) EVA1:エチレン−酢酸ビニル共重合体 酸変性PE1:マレイン酸変性ポリエチレン(デュポン社製、フサボンド(商品名)) CB−MB1:カーボンブラックマスターバッチ(ベース樹脂;ポリエチレン) 【0081】 (実施例11) 表3の上段に示す配合比で混合した。ポリエチレンラミネート加工紙の損紙については予め粉砕して使用し、粉砕の際には、粉砕機のメッシュの孔径を表3上段に示したものを使用した。この混合物を、ニーダに投入し、溶融混練した。溶融混練において水は添加しなかった。 【0082】 (参考例1) 表3の上段に示すHDPE1をそのまま用いた。 【0083】 (実施例7) 紙、ポリエチレン薄膜層及びアルミニウム薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料容器の回収物からパルパーによって紙部分を剥ぎ取り除去してセルロース繊維アルミニウム付着ポリエチレン薄膜片(セルロース・アルミ付着PE薄膜片)を得た。この薄膜片は、数cm2〜100cm2程度のさまざまな形状、大きさの小片に切断されており、紙部分の剥ぎ取り工程において水に浸漬されたことで濡れた状態であった(含水率30%)。このセルロース・アルミ付着PE薄膜片を構成するポリエチレンは低密度ポリエチレンである。次に、セルロース・アルミ付着PE薄膜片と他の材料を表3上段に示す配合比(乾燥質量を基準とした質量部)でニーダに投入し溶融混練し、樹脂複合材(含水率1質量%以下)を得た。溶融混練においては混練途中で、樹脂とセルロース繊維の合計100質量部に対して水20質量部を添加した。 【0084】 各複合材のセルロース繊維の含有量を表3中段に、評価結果等を表3下段に示す。 凝集物1については、得られた複合材を樹脂で希釈し、これを用いて得たシートにて行った。なお、希釈樹脂には実施例6〜9は低密度ポリエチレン、実施例10、11は高密度ポリエチレンを使用し、希釈して得たシート中のセルロース繊維量は、3.5〜4.5質量%となるようにした。シートの縦7mm×横8mmの範囲を1か所として、無作為に5カ所を観察面積とした。 【0085】 実施例の複合材を用いた成形体はいずれも、衝撃強度に優れていた。また、同じ材料を使用したものである実施例10、11の両者を比べると、実施例11の複合材を用いた成形体は、射出成形の際、ランナー、スプールで、材料が切れて材料が成形機側に残ってしまう傾向があるのに対し、凝集物2を有しない実施例10の複合材はそのような不具合を生じず成形性にも優れていた。」 (3)本件発明が解決しようとする課題 本件発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、発明の詳細な説明の特に段落【0005】の記載に基づいて、「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなる樹脂成形体であって、肉厚0.1mm以上の部位を有し、薄肉部を有する形態とした場合にも、連続的な生産性に優れ、また優れた耐衝撃特性を示す樹脂成形体を提供すること」であると認められる。 (4)サポート要件の判断 発明の詳細な説明には、「樹脂成形体の構成材料とするセルロース繊維分散樹脂複合材において、当該複合材中のセルロース繊維の凝集物の大きさを特許文献3に記載されるように単に微細化するのではなく、特定の大きさの凝集物を含むように制御することにより、樹脂組成物の流動性を効果的に高めることができること、その結果、これを成形して得られる樹脂成形体に欠陥のない肉厚0.1mm以上の部位をより確実に付与できること、また、この樹脂成形体が連続的生産性にも優れることを見出した。さらに本発明者らは、当該樹脂成形体が耐衝撃特性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。」(段落【0006】)こと、「本発明の成形体は、肉厚が0.1mm以上である。前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、該凝集物の少なくとも一部は平面視において2.0×104〜2.0×105μm2の面積の凝集物である。このような構成により、本発明の成形体は優れた耐衝撃特性(衝撃強度)を発現する。また、本発明の成形体はその製造において形成性に優れ、また、例えば射出成形により得る場合はスプール(射出成形機から射出注入された複合材が流れ込む通路)やランナー(型間を結ぶ、複合材が流れ込む通路)等で成形材料の破断が生じにくい。すなわち、本発明の成形体は連続的生産性に優れ、歩留りが高い。本発明の成形体は、薄肉部を有する場合であっても上記の特性を示す。」(段落【0012】)こと、そして、その作用機序に関する記載として「本発明の成形体は、面積が特定範囲にあるセルロース繊維の凝集物、即ち面積が2.0×104〜2.0×105μm2の凝集物を含有することにより耐衝撃特性に優れる。したがって、衝撃強度が要求される成形品(樹脂製品)として好適である。本発明の成形体が衝撃強度に優れる理由は定かではないが、セルロース繊維の少なくとも一部が上記特定のサイズ、好ましくは面積が3.0×104〜1.3×105μm2のセルロース繊維の凝集物として存在することにより、高速の変形に対するセルロース繊維による補強作用と、セルロース繊維の凝集物による衝撃の吸収緩和作用等が複合的に働き、衝撃強度が効果的に高められるものと推定される。また、面積が特定範囲にあるセルロース繊維の凝集物、即ち面積が2.0×104〜2.0×105μm2の凝集物を含有することにより複合材の流動性に優れる。即ち、成形体が薄肉部を有する場合でも、連続生産性ないし歩留りも効果的に高めることができる。この理由は定かではないが、流動性の要求される熱可塑性樹脂の軟化溶融した状態においては、セルロース繊維の少なくとも一部が特定のサイズ、好ましくは面積が3.0×104〜1.3×105μm2のセルロース繊維の凝集物として存在することにより、マトリックスである樹脂の流動性が確保されることと、このセルロース繊維の凝集物自体が、例えば無機質粉体の凝集物と異なり変形性を高度に有すること等が総合的に働き、流動性が高められていると推定される。」(段落【0052】)とされていて、具体的な実施例及び比較例において、当該特定の凝集物が所定量存在する実施例では、衝撃強度が高く、成形性がよいが、当該特定の凝集物がない比較例では、衝撃強度が実施例より弱く、成形性が悪いことが確認されている。 そうすると、「セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、該凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物であり、該凝集物の少なくとも一部が、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物であり、観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.01〜1.0%」である発明特定事項を備えることにより、「薄肉部を有する形態とした場合にも、連続的な生産性に優れ、また優れた耐衝撃特性を示す樹脂成形体を提供する」こと、すなわち、発明の課題を解決できることを発明の詳細な説明から当業者は理解する。 そして、本件発明1は当該発明特定事項を有しているから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 したがって、本件発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件を適合する。 また、本件発明2、4ないし18に関しても、同様に特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (5)取消理由2の5についてのむすび したがって、取消理由2の5は、理由がない。 第7 取消理由<決定の予告>において採用しなかった特許異議の申立ての理由について 取消理由<決定の予告>において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、申立理由A1(甲A1に基づく新規性)、申立理由A2(甲A1に基づく進歩性)、申立理由A3のうちのア、イ、ウ、申立理由A4(実施可能要件)、申立理由B1(甲B1に基づく新規性)、申立理由B2(甲B2に基づく新規性)、申立理由B3(甲B2に基づく進歩性)、申立理由B5(明確性)、申立理由B6(実施可能要件)であるので、以下、検討する。 1 申立理由A1及びA2(甲A1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲A1に記載された事項及び甲A1に記載された発明 ア 甲A1に記載された事項 甲A1には、「ポリオレフィン樹脂複合材及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「請求の範囲 [請求項1] ポリオレフィン樹脂と、該ポリオレフィン樹脂100質量部に対して10〜150質量部のセルロース繊維とを含有し、前記セルロース繊維の凝集体の面積が20,000μm2未満である、ポリオレフィン樹脂複合材。」 ・「[0005] セルロース繊維は親水性が高く、それゆえ親水性の高い樹脂と混合した場合には馴染みやすく、樹脂中にセルロース繊維が均一分散した複合材を調製しやすいとされる。 他方、ポリオレフィン樹脂のような疎水性の高い樹脂に対するセルロース繊維の親和性は乏しく、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維とを溶融混練しても比較的大きなセルロース繊維の凝集体(セルロース凝集体ともいう。)が生じてしまう。すなわち、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維とを溶融混練しても、セルロース繊維の樹脂改質作用を十分に引き出した、セルロース繊維が均一分散した樹脂複合材を得ることは難しい。・・・」 ・「[0037] −その他の成分− 本発明のポリオレフィン樹脂複合材には、上記以外に、酸化防止剤、光安定剤、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、着色剤(染料、有機顔料、無機顔料)、充填剤、滑剤、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、発泡剤、パラフィンワックス等の潤滑剤、表面処理剤、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤等の他の成分を、上記目的を損なわない範囲で適宜含有することができる。」 ・「[0055] (実施例1) 以下の工程で、ポリオレフィン樹脂複合材を調製した。 二軸押出機〔テクノベル社製 KZW15TW−45MG−NH(商品名)〕に、ポリオレフィン樹脂を、出口温度190℃、1000g/時間の速度でフィードしつつ、2台目のフィーダーにより、セルロースAを110g/時間の速度でフィードし、液添ポンプにより水を98g/時間でフィードし、下記表1の組成を満たす混合物を200℃で溶融混練した。その後、混練物を押出して、ポリオレフィン樹脂複合材を得た。溶融混練におけるスクリュー回転数は100rpmとした。得られたポリオレフィン樹脂複合材の含水率は0.9質量%であった。 [0056] (実施例2〜14、比較例1〜4) 下記表1の組成を採用したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2〜14及び比較例1〜4のポリオレフィン樹脂複合材を得た。 なお、比較例3は、水の配合量が多すぎて、押出機の吐出量が不安定になり、ポリオレフィン樹脂複合材が得られなかった。」 ・「[0062] [表1] 」 ・「 」(図1) イ 甲A1に記載された発明 甲A1の比較例1として記載されているポリエチレン樹脂複合材について、上記アの記載を踏まえて整理すると、甲A1には次の発明(以下、「甲A1比較例1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲A1比較例1発明> 「二軸押出機に、ポリオレフィン樹脂を、出口温度190℃、1000g/時間の速度でフィードしつつ、2台目のフィーダーにより、セルロースAを110g/時間の速度でフィードし、 高密度ポリエチレン100質量部、セルロースA10質量部、水は入れずに混練し、得られたポリエチレン樹脂複合材のペレットを用いた、厚み0.1mmの測定用シートであって、 凝集体の面積の最大値が、144,374μm2であり、最小値が504μm2である、 測定用のシート。」 (2)本件発明1について 本件発明1と甲A1比較例1発明を対比する。 甲A1比較例1発明の「高密度ポリエチレン」、「セルロースA」は、それぞれ、本件発明1における「熱可塑性樹脂であるポリプロピレン樹脂」、「セルロース繊維」に相当し、「二軸押出機に、ポリオレフィン樹脂を、出口温度190℃、1000g/時間の速度でフィードしつつ、2台目のフィーダーにより、セルロースAを110g/時間の速度でフィードし、高密度ポリエチレン100質量部、セルロースA10質量部、水は入れずに混練し、得られたポリエチレン樹脂複合材」は、混練により分散することは自明であるから、本件発明1における「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材」に相当する。 そして、甲A1比較例1発明の前記「測定用のシート」は、厚みが0.1mmであるから、本件発明1の「肉厚が0.1mm以上であ」る「樹脂成形体」に相当する。 また、甲A1比較例1発明は、「面積の最大値が、144,374μm2であり、最小値が504μm2である」「凝集体」を有しているから、本件発明1と同様に「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれている」といえる。 そうすると、本件発明1と甲A1比較例1発明とは、 「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材を成形してなる樹脂成形体であって、 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、及びポリ乳酸樹脂の1種又は2種以上であり、 該樹脂成形体は肉厚が0.1mm以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、下記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満である、 樹脂成形体。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点A1−1> セルロース繊維分散樹脂複合材中のセルロース繊維の凝集物に関し、本件発明1は、「該凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物であり、該凝集物の少なくとも一部が、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物であり、観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.01〜1.0%であり」と特定するのに対し、甲A1比較例1発明は、「面積の最大値が、144,374μm2であり、最小値が504μm2である」「凝集体」との特定である点 <相違点A1−2> セルロース繊維分散樹脂複合材に関し、本件発明1は、ただし書として、国際公開第2018/180469号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材、国際公開第2019/088140号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材及び特開2010−89483号公報に実施例1ないし3及び5として記載されているセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物を除いている点 まず、新規性について検討する。 相違点A1−1及び相違点A1−2は、共に実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲A1比較例1発明であるとはいえない。 次に、進歩性について検討する。 相違点A1−1について 甲A1には、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の配合比に着目する記載はなく、特許異議申立人らの提出したいずれの証拠にも、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の配合比に着目したものはない。 そして、本件特許の出願時において、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の配合比を調整することが技術常識であったといえる証拠もない。 そうすると、甲A1比較例1発明において、相違点A1−1とする動機はなく、甲A1比較例1発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A1−1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲A1比較例1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、4ないし18について 本件発明2、4ないし18は、請求項1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有した上で、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲A1比較例1発明とはいえないし、また、甲A1比較例1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)まとめ したがって、申立理由A1及びA2は、理由がない。 2 申立理由A3(サポート要件)について 上記第6 2で検討のとおり、本件特許の請求の範囲の記載はサポート要件に適合している。以下、特許異議申立人の主張について述べる。 (1)申立理由A3のうちのアについて 本件特許の連続的な生産性について、発明の詳細な説明に記載の実施例5において改善していないからサポート要件違反であるとの主張は、本件特許の発明の詳細な説明においては、連続的な生産性の評価を絶対値で評価するものではなく相対的に評価しているものであって、実施例5は比較例よりは改善しているといえるから、当該主張は失当であって採用できない。 (2)申立理由A3のイ及びウについて 上記第6 2で検討のとおり、本件特許の発明の課題の解決するための手段に、熱可塑性樹脂の種類及びセルロース繊維のサイズは関係がないから、当該主張は失当であって、採用できない。 (3)まとめ したがって申立理由A3のア、イ、ウには、理由がない。 3 申立理由A4(実施可能要件)及び申立理由B6(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、上記第6 2(2)のとおりの記載がある。 (3)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の段落【0045】には、複合材の具体的な製造方法についての記載があり、本件発明を実際に生産している実施例も記載されている。 そうすると、これらの記載等及び当業者の凝集物に関する技術常識を参酌すれば、当業者は、発明の詳細な説明には、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1及び2、4ないし18を生産し、使用することができる程度の記載がされているものと認められる。 (4)特許異議申立人の主張の検討 申立人Aの熱可塑性樹脂が親水性の樹脂の場合には、発明の実施には過度の試行錯誤を要するとの主張については、本件訂正請求により熱可塑性樹脂として親水性樹脂は除外されたことから、失当であって採用できない。 申立人Bの実施例の記載において、混練時間、混練速度、温度条件について記載がないから過度の試行錯誤を要する旨の主張については、発明の詳細な説明の段落【0045】等の記載と本件出願時の当業者の技術常識を勘案すれば、過度の試行錯誤を要するものとまではいえないから、失当であって採用できない。 (5)まとめ したがって、申立理由A4及び申立理由B6は、理由がない。 4 申立理由B1(甲B1に基づく新規性)について (1)甲B1に記載された事項及び甲B1に記載された発明 ア 甲B1に記載された事項 甲B1の1には、「成形品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「請求の範囲 [請求項1] ポリオレフィン樹脂と、該ポリオレフィン樹脂100質量部に対して10〜150質量部のセルロースとを含有し、前記セルロースの凝集体の面積が20,000μm2未満であるポリオレフィン樹脂複合材で形成された樹脂部を備える成形品。」 ・「[0010] セルロースは親水性が高く、それゆえ親水性の高い樹脂と混合した場合には馴染みやすく、樹脂中にセルロースが均一分散した複合材を調製しやすいとされる。他方、ポリオレフィン樹脂のような疎水性の高い樹脂に対するセルロースの親和性は乏しく、ポリオレフィン樹脂とセルロースとを溶融混練しても比較的大きなセルロースの凝集体が生じてしまう。そのため、ポリオレフィン樹脂とセルロースとを溶融混練しても、セルロースの樹脂改質作用を十分に引き出した、均一分散の樹脂複合材を得ることは困難であった。 [0011] また、上記の方法を用いても、セルロースの補強効果により、成形体の機械的強度は向上するが、さらなる機械的強度の向上が望まれている。 ・・・ [0013] 本発明は、セルロースの凝集体のサイズが十分に小さく、疎水性の高いポリオレフィン樹脂とセルロースとが高度な均一性で一体化されたポリオレフィン樹脂複合材を用いて形成され、さらには機械的強度が向上した樹脂部を備える成形品を提供することを目的とする。」 ・「[0018] ・・・ [図10]実施例に記載の「セルロースの凝集体の面積測定方法」において、(a)比較例1で得たポリオレフィン樹脂複合材のペレットを後述のセルロースの凝集体の面積算出方法内に記載の手順にしたがって撮影した画像と、(b)画像処理を行って面積を測定した画像である。(c)実施例1で得たポリオレフィン樹脂複合材のペレットを後述のセルロースの凝集体の面積算出方法内に記載の手順にしたがって撮影した画像と、(d)画像処理を行って面積を測定した画像である。」 ・「[0041] −セルロース− 本発明で使用するセルロースは、工業的な利用方法が確立されており、入手しやすい、植物由来の繊維状のセルロースが好ましく、特に、微細な植物由来の繊維状のセルロースが好ましい。本発明の成形品、例えば、灯具のランプボディ、スピーカユニット、接続箱、コネクタ、プーリ、ハウス用フィルム等には、樹脂部の配合材料としてセルロースが用いられているため、軽量化、高強度化を図ることができる。また、成形品のリサイクル性を向上させることもできる。さらに、例えば、成形品がフィルムのような形態である場合、成形品としてのハウス用フィルムがこのような繊維状のセルロースが複合された上記ポリオレフィン樹脂の層を含むことによって、向上した表面平滑性を備えることができ、これにより、優れた光線透過性を備えたハウス用フィルムを得ることができる。また、セルロースは−OH基を有する極性分子であるため、分子間の親和性が高い。そのため、ハウス用フィルムの界面接着力が向上しており、接着性能に優れたハウス用フィルムを得ることができる。これにより、例えば、ハウス用フィルムが破れた場合に、接着テープ等で簡便に補修することができるなどの利点が得られる。」 ・「[0096] (実施例1) 以下の工程で、ポリオレフィン樹脂複合材を調製した。 [0097] 1)ポリオレフィン樹脂複合材の調製工程 二軸押出機〔テクノベル社製 KZW15TW−45MG−NH(商品名)〕に、ポリオレフィン樹脂を、出口温度190℃、1000g/時間の速度でフィードしつつ、2台目のフィーダーにより、セルロースAを110g/時間の速度でフィードし、液添ポンプにより水を98g/時間でフィードし、下記表1の組成を満たす混合物を200℃で溶融混練した後、押出を行い、ポリオレフィン樹脂複合材を調製した。スクリュー回転数は100rpmとした。 ・・・ [0099] (実施例2〜14、比較例1〜3) 下記表1の組成を採用したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2〜14及び比較例1〜3のポリオレフィン樹脂複合材を調製した。次に、このポリオレフィン樹脂複合材を使用して、実施例1と同様の方法で樹脂部を備えるランプボディを作製した。なお、比較例3は、水の配合量が多すぎて、押出機の吐出量が不安定になった。」 ・「[0110] 6)ハウス用フィルムの製造工程 上記で調製したポリオレフィン樹脂複合材を、Tダイキャストフィルム製造装置を用いて、押出温度200℃にて、フィルム成形することにより、厚さ100μmの単層のフィルムを作製し、ハウス用フィルムを得た。 [0111] (実施例58〜70、比較例13〜15) 実施例2〜14、比較例1〜3で製造したポリオレフィン樹脂複合材をそれぞれ使用して、実施例57と同様の方法で樹脂部を備えるハウス用フィルムをそれぞれ作製した。 ・・・ [0113] (セルロースの凝集体の面積算出方法) 得られたポリオレフィン樹脂複合材を、縦3.3mm×横4.3mm×厚さ3.6mmの直方体のペレットとした。このペレットを用いて、厚み0.1mmの測定用シートを作製した。具体的には、プレス装置を用いてペレットを160℃で5分間予熱後、さらに160℃で20MPaの圧力下で5分間加圧して測定用シートを作製した。作製したシートを、ニコン社製工業用顕微鏡「ECLIPSE LV100ND(商品名)」により倍率50倍で平面視観察し、この観察面を撮影して画像処理し、0〜80の輝度でカウントされた部分をセルロースの凝集体として、面積を算出した。具体的には、視野を1.3mm×1.7mmとし、ランダムに9視野を撮影した。得られた画像をニコン社製「NIS−Elemenets D(商品名)」により下記条件で画像処理し、0〜80の輝度でカウントされた部分の各々の面積を算出した。その中で、面積が最大・最小のものを、セルロースの凝集体の面積の最大値・最小値とした。ただし、面積の最小値が500μm2未満のものは、測定対象から除外した。なぜならば、原材料として使用している凝集していないセルロースを上記と同様の方法で測定した際、その面積が約500μm2であり、これ以下のものは、セルロースが凝集して形成されたものとは認められないためである。 [0114] −画像処理条件− ・スムーズ off オブジェクトの端の形状に作用して、形状を滑らかにする機能。 ・クリーン on 小さなオブジェクトが見えなくなる機能。小さなオブジェクトが消えるだけで、その他の画像は影響を受けない。本測定では、面積が500μm2未満を排除するため、500μm2未満のオブジェクトをクリーン機能で除去した。 ・閉領域を埋める off オブジェクト内の閉領域を埋める機能。 ・分割 off 結合された単一のオブジェクトを検出し、分離する機能。 [0115] 得られた結果を、まとめて下記表1〜5に示す。 [0116] また、代表して、比較例1及び実施例1で得られたポリオレフィン樹脂複合材のペレットについて、上記の方法にしたがって撮影した画像と画像処理を行って面積を測定した画像をそれぞれ図10に示す。」 ・「[0119] [表1] 」 ・「[0126] これに対して、比較例1、4、7、10、13のポリオレフィン樹脂複合材は、混練時に水を用いなかったため、セルロースの凝集体の面積が20,000μm2を大きく超えた。また、比較例2、5、8、11、14のポリオレフィン樹脂複合材は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、セルロースが200質量部と過剰であったため、凝集体の面積が20,000μm2を超えた。そのため、比較例1〜2、4〜5、7〜8、10〜11、13〜14では、ポリオレフィン樹脂とセルロースとが高度な均一性で一体化されたポリオレフィン樹脂複合材を得ることができなかった。また、比較例3、6、9、12、15のポリオレフィン樹脂複合材は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、水の量が250質量部と過剰であったため、セルロースとポリオレフィン樹脂が一体化したポリオレフィン樹脂複合材が得られなかった。」 ・「 」(図10) イ 甲B1の1に記載された発明 甲B1の1の比較例1として記載されているポリエチレン樹脂複合材の測定用シートについて、上記アの記載を踏まえて整理すると、甲B1の1には次の発明(以下、「甲B1の1比較例1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲B1の1比較例1発明> 「二軸押出機に、ポリオレフィン樹脂を、出口温度190℃、1000g/時間の速度でフィードしつつ、2台目のフィーダーにより、セルロースAを110g/時間の速度でフィードし、 高密度ポリエチレン100質量部、セルロースA10質量部、水は入れずに混練し、得られたポリエチレン樹脂複合材のペレットを用いた、厚み0.1mmの測定用シートであって、 凝集体の面積の最大値が、144,374μm2であり、最小値が504μm2である、 測定用のシート。」 (2)本件発明1について 本件発明1と甲B1の1比較例1発明を対比する。 甲B1の1比較例1発明の「高密度ポリエチレン」、「セルロースA」は、それぞれ、本件発明1における「熱可塑性樹脂であるポリオレフィン樹脂」、「セルロース繊維」に相当し、「二軸押出機に、ポリオレフィン樹脂を、出口温度190℃、1000g/時間の速度でフィードしつつ、2台目のフィーダーにより、セルロースAを110g/時間の速度でフィードし、高密度ポリエチレン100質量部、セルロースA10質量部、水は入れずに混練し、得られたポリエチレン樹脂複合材」は、混練により分散することは自明であるから、本件発明1における「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材」に相当する。 そして、甲B1の1比較例1発明の前記「測定用のシート」は、厚みが0.1mmであるから、本件発明1の「肉厚が0.1mm以上であ」る「樹脂成形体」に相当する。 また、甲B1の1比較例1発明は、「面積の最大値が、144,374μm2であり、最小値が504μm2である」「凝集体」を有しているから、本件発明1と同様に「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれている」といえる。 そうすると、本件発明1と甲B1の1比較例1発明とは、 「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材を成形してなる樹脂成形体であって、 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、及びポリ乳酸樹脂の1種又は2種以上であり、 該樹脂成形体は肉厚が0.1mm以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、下記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満である、 樹脂成形体。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点B1−1> セルロース繊維分散樹脂複合材中のセルロース繊維の凝集物に関し、本件発明1は、「該凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物であり、該凝集物の少なくとも一部が、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物であり、観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.01〜1.0%であり」と特定するのに対し、甲B1比較例1発明は、「面積の最大値が、144,374μm2であり、最小値が504μm2である」「凝集体」との特定である点 <相違点B1−2> セルロース繊維分散樹脂複合材に関し、本件発明1は、ただし書として、国際公開第2018/180469号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材、国際公開第2019/088140号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材及び特開2010−89483号公報に実施例1ないし3及び5として記載されているセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物を除いている点 以下、相違点について検討する。 相違点B1−1及び相違点B1−2は、共に実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲B1比較例1発明であるとはいえない。 よって、本件発明1は甲B1比較例1発明と同一でない。 (3)本件発明2及び4、7ないし9について 本件発明2及び4、7ないし9は、請求項1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有した上で、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲B1比較例1発明とはいえない。 (4)まとめ したがって、申立理由B1は、理由がない。 5 申立理由B2及びB3(甲B2に基づく新規性・進歩性)について (1)甲B2に記載された事項及び甲B2に記載された発明 ア 甲B2に記載された事項 甲B2には、「セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0008】 本発明は、セルロース繊維集合体を解繊して、セルロース繊維と熱可塑性樹脂が均一に混合されたセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物を得る製造方法を提供するものであり、製造時に要するエネルギー量を低減することができ、生産効率も高く、更にセルロース繊維の分散性をより高めることで、より美しい外観を有する成形体が得られる製造方法を提供することを課題とする。」 ・「【実施例】 【0090】 実施例1 (第1a工程) ヒーターミキサー(上羽根:混練用タイプ、下羽根:高循環・高負荷用,ヒーター及び温度計付き,容量20L,品名ヘンシェルミキサーFM20C/I,三井鉱山(株)製)を140℃に加温し、下記のセルロースシートを投入し、平均周速50m/秒で攪拌した。約2分経過時点において、セルロース繊維品が綿状に変化した。 (セルロースシート) 日本製紙(株)製のパルプNDP−T,平均繊維径25μm,平均繊維長さ1.8mm,αセルロース含有量90%からなる、幅60cm、長さ80cm、厚み1.1mmのシートを、幅10cm、長さ20cmに切断したもの。 【0091】 (第2a工程) 引き続き、ヒーターミキサー内にポリプロピレン(サンアロマー(株)製のJ139)を投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPP(酸変性ポリプロピレン、三洋化成工業(株)製 ユーメックス1010)を投入し攪拌を続けた。 約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、動力は4kWに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。 【0092】 (第3工程) 低速回転開始1分30秒後、電流値が12Aに達したので(この時ミキサー内の温度は、175℃であった。)、ミキサーの排出口を開け、溶融状態の塊状混練物を、185℃、50rpmに設定したフィーダールーダー(モリヤマ製のMS式2軸テーパースクリューとスクリュー押出機を組み合わせた押出機)に投入し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット1.8kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は15分10秒であった。 【0093】 実施例2 (第1b工程) ヒーターミキサー(上羽根:混練用タイプ、下羽根:高循環・高負荷用,ヒーター及び温度計付き,容量20L,品名ヘンシェルミキサーFM20C/I,三井鉱山(株)製)を140℃に加温し、下記棒状のパルプシートを所定角度αにてミキサーに投入し、(図3参照)、平均周速50m/秒で攪拌した。約2分経過時点において、セルロース繊維品が綿状に変化した。 (棒状のパルプシート) フェニックス社製の竹パルプ(平均繊維長さ1.7mm、αセルロース含有量90%、破裂強さ3.9kPa)からなる、幅5cm、長さ20cm、厚み1mmのシートを図1で示すようにして巻いて(但し、1回巻き)筒状にしたもの。 【0094】 (第2a工程) 引き続き、ヒーターミキサー内にポリプロピレン(サンアロマー(株)製のJ139)を投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの電流値は30Aであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPPを投入し攪拌を続けた。 約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、動力は4KWに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。 【0095】 (第3工程) 低速回転開始1分30秒後、電流値が12Aに達したので(この時のミキサー内の温度は、180℃であった。)、ミキサーの排出口を開け、2軸スクリューによる喰い込み式の30φ2軸押出機にて、180℃のシリンダー温度設定で押出し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット1.8kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は、15分30秒であった。 【0096】 実施例3 (第1c工程) 解繊機(ターボ工業株式会社;ターボミル T−250)内に実施例1と同じセルロースシートを投入し、解繊した。目視上は、きれいに完全に解繊されていることを確認した。運転条件は8300rpm、処理能力は約20kg/hであった。 【0097】 (第2a工程) 引き続き、ヒーターミキサー内に解繊したセルロースとポリプロピレン(サンアロマー(株)製のJ139)を投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPPを投入し攪拌を続けた。 約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、動力は4kWに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。 【0098】 (第3工程) 低速回転開始1分30秒後、電流値が12Aに達したので(この時、ミキサー内の温度は、178℃であった。)、ミキサーの排出口を開け、2軸スクリューによる喰い込み式の30φ2軸押出機にて、180℃のシリンダー温度設定でメッシュを入れずに押出し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット1.8kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は、15分20秒であった。 【0099】 実施例4 実施例3の第2工程後、低速回転開始1分30秒後、電流値が12Aに達したので、ミキサーの排出口をあけ、2軸スクリューによる喰い込み式の30φ2軸押出機にて、180℃のシリンダー温度設定で60メッシュと20メッシュの金網を入れ、押出し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット1.8kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は、15分30秒であった。 【0100】 実施例5 (第1d工程及び第2b工程) 実施例1の第1a工程と同じセルロースシートを容量5Lの加圧型ニーダー(温度180℃に設定)に投入し、更に水200gを加えてシートを湿潤させた状態で、50rpmで5分間ブレードを回転させて解繊した。その後、引き続き50rpmでブレードを回転させながら、ポリプロピレン(サンアロマー(株)製のJ139)を投入した。 【0101】 (第3工程) その後、加圧型ニーダーの排出口を開け、2軸スクリューによる喰い込み式の30φ2軸押出機にて、180℃のシリンダー温度設定で押し出し、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレット2.3kgを得た。第1a工程の開始から第3工程の終了までに要した時間は、15分55秒であった。」 ・「【0105】 実施例と比較例で得られた組成物を用いて成形体を製造し、下記の各試験を行った。結果を表1に示す。 【0106】 (1)要件(a):成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2) 実施例及び比較例の組成物を用い、射出成形機にて190℃のシリンダー温度にてカラープレート(50mm×100mm×3mm)を10枚成形した。そのカラープレート10枚の片一方の面を5倍以上の拡大境にて観察し、合計500cm2中の最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を数えた。」 ・「【0110】 【表1】 」 イ 甲B2に記載された発明 上記アに摘記した事項からみて、甲B2の実施例1ないし3及び5の組成物を用い、射出成形機にて190℃のシリンダー温度にて成形した50mm×100mm×3mmのカラープレートとして、甲B2には次の発明(以下、「甲B2実施例1ないし3及び5発明」という。)が記載されていると認める。 <甲B2実施例1ないし3及び5発明> 「PP及びMPPとセルロースシート(NDP−T)又はセルロースシート(竹パルプ)(棒状)を表1の配合割合でヘンシェルミキサーで攪拌して得られた塊状混練物をフィーダールーダーに投入してスクリュー押出機で得た実施例1ないし3及び5のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレットを用い、射出成形機にて190℃のシリンダー温度にて成形した50mm×100mm×3mmのカラープレートであって、このカラープレートの片一方の面を5倍以上の拡大境にて観察し、合計500cm2中の最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数が、13、5、1、9であるカラープレート。」 (2)本件発明1について 本件発明1と甲B2実施例1ないし3及び5発明を対比する。 甲B2実施例1ないし3及び5発明の「PP及びMPP」、「セルロースシート(NDP−T)又はセルロースシート(竹パルプ)(棒状)をヘンシェルミキサーで攪拌し」たものは、それぞれ、本件発明1における「熱可塑性樹脂であるポリオレフィン樹脂」、「セルロース繊維」に相当し、「攪拌して得られた塊状混練物をフィーダールーダーに投入してスクリュー押出機で得た実施例1ないし5のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物ペレットを用い、射出成形機にて190℃のシリンダー温度にて成形したカラープレート」は、セルロース繊維が混練により分散されていることは自明であるから、本件発明1における「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材」に相当する。 そして、甲B2実施例1ないし3及び5発明の前記「カラープレート」は、厚みが3mmであるから、本件発明1の「肉厚が0.1mm以上であ」る「樹脂成形体」に相当する。 また、甲B2実施例1ないし3及び5発明は、「合計500cm2中の最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数が、13、5、1、9」であるから、本件発明1と同様に「前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれている」といえる。 そうすると、本件発明1と甲B2実施例1ないし3及び5発明とは、 「熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材を成形してなる樹脂成形体であって、 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、及びポリ乳酸樹脂の1種又は2種以上であり、 該樹脂成形体は肉厚が0.1mm以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、下記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満である、 樹脂成形体。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点B2−1> セルロース繊維分散樹脂複合材中のセルロース繊維の凝集物に関し、本件発明1は、「該凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物であり、該凝集物の少なくとも一部が、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物であり、観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.01〜1.0%であり」と特定するのに対し、甲B2実施例1ないし3及び5発明は、このような特定がない点 <相違点B2−2> セルロース繊維分散樹脂複合材に関し、本件発明1は、ただし書として、国際公開第2018/180469号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材、国際公開第2019/088140号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材及び特開2010−89483号公報に実施例1ないし3及び5として記載されているセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物を除いている点 まず、新規性について検討する。 相違点B2−1及び相違点B2−2は、ともに実質的な相違点である。 よって、本件発明1はB2実施例1ないし3及び5発明と同一でない。 次に、進歩性について検討する。 相違点B2−1について 甲B2には、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の配合比に着目する記載はなく、特許異議申立人らの提出したいずれの証拠にも、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の配合比に着目したものはない。 そして、本件特許の出願時において、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の配合比を調整することが技術常識であったといえる証拠もない。 そうすると、甲B2実施例1ないし3及び5発明において、相違点B2−1とする動機はなく、甲B2実施例1ないし3及び5発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B2−1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲B2実施例1ないし3及び5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をするができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、4ないし9、14ないし16及び18について 本件発明5ないし9、16は、請求項1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有した上で、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲B2実施例1ないし3及び5発明ではないし、本件発明2、4ないし9、14ないし16及び18は、甲B2実施例1ないし3及び5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)まとめ したがって、申立理由B2及びB3は、理由がない。 6 申立理由B5(明確性)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)明確性要件についての判断 本件発明の記載、特に本件発明1で特定する発明は、本件訂正請求による訂正の結果、本件発明1における特定の「凝集物」は、凝集物の面積の総和に対する割合で特定されるものとなったことから、その記載のとおり、当業者が明確に理解できるものであって明確である。 よって、本件発明に関して、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないから、明確性要件を充足する。 (3)まとめ したがって、申立理由B5は、理由がない。 第8 むすび 上記第6、7のとおり、本件特許の請求項1及び2、4ないし18に係る特許は、取消理由通知<決定の予告>及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1及び2、4ないし18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材を成形してなる樹脂成形体であって、 該樹脂成形体は肉厚が0.1mm以上であり、 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、及びポリ乳酸樹脂の1種又は2種以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中には前記セルロース繊維の凝集物が含まれ、該凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物であり、該凝集物の少なくとも一部が、平面視において3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物であり、 観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.01〜1.0%であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、下記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満である、樹脂成形体。 <測定方法> セルロース繊維分散樹脂複合材の試料を、窒素雰囲気下において+10℃/分の昇温速度で熱重量分析(TGA)に付し、下記[式1]によりセルロース繊維の含有量を算出する。 [式1] (セルロース繊維の含有量[質量%])=(200〜380℃の間における試料の質量減少量[mg])×100/(熱重量分析に付す前の試料の質量[mg]) (ただし、前記セルロース繊維分散樹脂複合材が下記[形態1]及び[形態2]である場合を除く。 [形態1] 前記熱可塑性樹脂が高密度ポリエチレン樹脂であり、下記〔セルロース繊維の凝集物の面積算出方法〕に従ってセルロース繊維の凝集物の面積を算出した場合に、セルロース繊維の凝集物の面積の最大値が144,374μm2であり、最小値が504μm2である、国際公開第2018/180469号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材、及び国際公開第2019/088140号に比較例1として記載されているポリオレフィン樹脂複合材: 〔セルロース繊維の凝集物の面積算出方法〕 前記セルロース繊維分散樹脂複合材を、縦3.3mm×横4.3mm×厚さ3.6mmの直方体のペレットとする。このペレットを、プレス装置を用いて160℃で5分間予熱後、さらに160℃で20MPaの圧力下で5分間加圧して厚み0.1mmの測定用シートを作製する。 ニコン社製工業用顕微鏡「ECLIPSE LV100ND(商品名)」を用いて、倍率50倍、視野を1.3mm×1.7mmとし、作製した測定用シートを平面視観察してランダムに9視野を撮影する。得られた画像をニコン社製「NIS−Elemenets D(商品名)」により下記画像処理条件で画像処理し、0〜80の輝度でカウントされた部分の各々の面積を算出する。その中で、面積が最大・最小のものを、セルロース繊維の凝集物の面積の最大値・最小値とする。ただし、面積が500μm2未満のものは、測定対象から除外する。 −画像処理条件− ・スムーズ off オブジェクトの端の形状に作用して、形状を滑らかにする機能。 ・クリーン on 小さなオブジェクトが見えなくなる機能。小オブジェクトが消えるだけで、その他の画像は影響を受けない。面積が500μm2未満のものを排除するため、500μm2未満のオブジェクトをクリーン機能で除去する。 ・閉領域を埋める off オブジェクト内の閉領域を埋める機能。 ・分割 off 結合された単一のオブジェクトを検出し、分離する機能。 [形態2] 前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂及び酸変性ポリプロピレン樹脂であり、下記 〔成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2)の測定〕に従ってセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を測定した場合に、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が13、5、1、又は9である、特開2010−89483号公報に実施例1ないし3及び5として記載されているセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物: 〔成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm2)の測定〕 前記セルロース繊維分散樹脂複合材を、射出成形機を用いて190℃のシリンダー温度にて縦50mm×横100mm×厚さ3mmの測定用シートを10枚作製する。これら10枚の測定用シートについて、片一方の面を5倍以上の拡大境にて観察し、10枚の測定用シートの片一方の面の合計500cm2中に存在する、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を数える。) 【請求項2】 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、1.0×103〜1.0×106μm2の面積の凝集物の当該面積の総和s2に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和s1の割合が20%以上である、請求項1に記載の樹脂成形体。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 肉厚1mm以下の部位を少なくとも有する請求項1又は2に記載の樹脂成形体。 【請求項5】 繊維長0.3mm以上のセルロース繊維を含む、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項6】 繊維長0.8mm以上のセルロース繊維を含む、請求項1、2、4及び5のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項7】 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、前記測定方法により決定される前記セルロース繊維の含有量が5質量%以上70質量%未満であり、 前記の観察面積に占める、前記の3.0×104〜1.3×105μm2の面積の凝集物の当該面積の総和の割合が、セルロース繊維の含有量が5質量%の場合に換算して0.018%以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、平面視において、1.0×103〜1.0×106μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s2に占める、3.0×104〜1.3×105μm2の面積のセルロース繊維の凝集物の当該面積の総和s1の割合が20%以上であり、 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中に含まれるセルロース繊維の凝集物が、平面視において1.0×107μm2未満の面積の凝集物である、 請求項1、2及び4〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項8】 前記セルロース繊維分散樹脂複合材中、前記セルロース繊維の含有量が7質量%以上50質量%未満である、請求項1、2及び4〜7のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項9】 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、及び3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体樹脂のいずれか1つ以上である、請求項1、2及び4〜8のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項10】 前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である、請求項1、2及び4〜9のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項11】 アルミニウムを含む、請求項1、2及び4〜10のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項12】 前記ポリオレフィン樹脂が、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、及びポリプロピレン樹脂の1つ以上を含む、請求項10に記載の樹脂成形体。 【請求項13】 前記複合材が、カーボンブラック、光安定剤、及び屈折率が2以上の無機質粉体のいずれか1つ以上を含むポリオレフィン樹脂組成物である、請求項1、2及び4〜11のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項14】 前記樹脂成形体が、環状構造を有するもの、又は環構造を有するものの多分割体である、請求項1、2及び4〜13のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項15】 前記樹脂成形体が、長手方向に波形状が付与された波付管用の、接手部材又は端部材である、請求項1、2及び4〜14のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項16】 前記樹脂成形体が射出成形体である、請求項1、2及び4〜15のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項17】 構成材料の少なくとも一部が再生材に由来する、請求項1、2及び4〜16のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 【請求項18】 土木用、建材用、又は自動車用の部材である、請求項1、2及び4〜17のいずれか1項に記載の樹脂成形体。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照 |
異議決定日 | 2022-05-09 |
出願番号 | P2019-098908 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J) P 1 651・ 113- YAA (C08J) P 1 651・ 536- YAA (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
奥田 雄介 大島 祥吾 |
登録日 | 2020-07-22 |
登録番号 | 6738938 |
権利者 | 古河電気工業株式会社 |
発明の名称 | 樹脂成形体 |
代理人 | 飯田 敏三 |
代理人 | 赤羽 修一 |
代理人 | 田中 幸恵 |
代理人 | 飯田 敏三 |
代理人 | 田中 幸恵 |
代理人 | 篠田 育男 |
代理人 | 赤羽 修一 |
代理人 | 特許業務法人イイダアンドパートナーズ |
代理人 | 特許業務法人イイダアンドパートナーズ |
代理人 | 篠田 育男 |