• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1387466
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-17 
確定日 2022-05-20 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6745005号発明「分散性に優れたシリカ粉末およびそれを用いた樹脂組成物、ならびにその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6745005号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6745005号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6745005号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)8月7日を国際出願日とする出願であり、令和2年8月4日にその特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行され、その後、令和3年2月17日に、その請求項1〜4に係る特許を対象として特許異議申立人星正美(以下、「異議申立人1」という。)により、同年同月18日に、その請求項1〜6に係る特許を対象として特許異議申立人丹羽良子(以下、「異議申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがなされ、同年5月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月12日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年9月15日に異議申立人1より、同年同月21日に異議申立人2より、それぞれ意見書の提出がなされ、同年10月26日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年12月15日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、異議申立人1及び異議申立人2からは意見書の提出がなかったものである。
なお、令和3年7月12日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「先の訂正」ということがある。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正事項
上記令和3年12月15日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜4について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「・・・であることを特徴とするシリカ粉末。」とあるのを、「・・・であり、レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下であり、シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であることを特徴とするシリカ粉末。」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2、4についても同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であること、
レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下であること、および
(水またはメチルエチルケトンに分散する前の平均粒径/分散後の平均粒径)の値が1.50以下であること のうちの一種以上を満たすことを特徴とする・・・」とあるのを、「(水またはメチルエチルケトンに分散する前の平均粒径/分散後の平均粒径)の値が1.50以下であることを特徴とする・・・」に訂正する。
(請求項2を引用する請求項4についても同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が0.5個/nm2以上、3個/nm2以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリカ粉末。」とあるのを、「25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下であり、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が0.5個/nm2以上、3個/nm2以下であり、シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であることを特徴とするシリカ粉末。」に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4についても同様に訂正する。)

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、シリカ粉末に対して、「レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下であり、シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下である」との限定をさらに付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1は、請求項2に記載されていた選択肢の二種を請求項1に加えるものであると共に、本件明細書の【0025】の「シリカ粉末のBET比表面積値は、3〜50m2/gが好ましい。」、同【0026】の「シリカ粉末の体積平均粒径は0.05〜2.0μmであるのが好ましい。」及び同【0027】の「シリカ粉末の体積平均粒径は、レーザー回折光散乱法による粒度測定に基づく値であり」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項1は、シリカ粉末に対する限定をさらに付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、上記訂正事項1に伴い、請求項2に記載されていた三種の選択肢のうちの二種を削除するものであり、その結果、訂正前の請求項1を引用する請求項2において、(i)「シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であること」、(ii)「レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下であること」、および(iii)「(水またはメチルエチルケトンに分散する前の平均粒径/分散後の平均粒径)の値が1.50以下であること」のうちの一種以上を満たす、とされていたものが、訂正後の請求項1を引用する請求項2においては、実質的に、上記「(i)、(ii)及び(ii)」を満たすものに限定されることになるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記アのとおり、訂正後の請求項1を引用する請求項2における上記三種の選択肢の組合せは、訂正前の請求項2で「・・・のうちの1種以上」とされていた組合せに含まれていたものであると共に、当該三種の選択肢はそれぞれ、シリカ粉末に対して好ましい性状であることが、本件明細書の【0017】、【0025】及び【0026】に記載されているから、それら好ましい性状である三種の選択肢の任意の組合せも本件明細書に記載されていたといえる。
そうすると、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項2は、上記イのとおり、単にもともと記載されていた組合せを限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、訂正前の請求項1または請求項2を引用するものとされていた訂正前の請求項3の記載を、訂正前の請求項1を引用する部分のみ独立形式に書き下すと共に、シリカ粉末に対して、「シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下である」との限定をさらに付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮、かつ、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ 訂正事項3の、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項3の記載を、独立形式に書き下す訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
また、シリカ粉末に対して、「シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下である」との限定をさらに付加する訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記(1)イ及びウで述べたとおりである。

なお、訂正事項3に係る請求項3については、他の請求項とは別の訂正単位とする求めがなされているが、訂正後の請求項4は、請求項1、2に加え請求項3も引用しており、訂正後の請求項1〜4で一群の請求項を形成しているので、訂正後の請求項3を、他の請求項とは別の訂正単位として扱うことはしない。

3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし4〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、訂正事項1〜3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし6に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下であり、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下であり、レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下であり、シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であることを特徴とするシリカ粉末。
【請求項2】
(水またはメチルエチルケトンに分散する前の平均粒径/分散後の平均粒径)の値が1.5以下であることを特徴とする請求項1記載のシリカ粉末。
【請求項3】
25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下であり、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が0.5個/nm2以上、3個/nm2以下であり、シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であることを特徴とするシリカ粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリカ粉末を含んだ樹脂組成物。
【請求項5】
金属シリコンを加熱して反応させることにより、雰囲気の露点および水の沸点より高温の状態にある球状シリカ粉末を得る工程と、
前記球状シリカ粉末を、雰囲気の露点および水の沸点より高温の状態で回収して、水が実質的に存在しない雰囲気下で、雰囲気の露点および水の沸点より低温の状態になるよう冷却する工程と、
冷却された前記球状シリカ粉末の含むシリカ粒子表面の、25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出されるH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下、かつ、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下であるようにして、防湿環境中に保存する工程と
を含むことを特徴とする、シリカ粉末の製造方法。
【請求項6】
金属シリコンを加熱して反応させることにより、雰囲気の露点および水の沸点より高温の状態にある球状シリカ粉末を得る工程と、
前記球状シリカ粉末を、雰囲気の露点および水の沸点より高温の状態で回収して、温度40℃以下且つ絶対湿度40g/m3以下の雰囲気下において、170時間よりも短い期間で冷却する工程と、
冷却された前記球状シリカ粉末の含むシリカ粒子表面の、25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出されるH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下、かつ、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下であるようにして、防湿環境中に保存する工程と
を含むことを特徴とする、シリカ粉末の製造方法。」

第4 令和3年10月26日付けで通知した取消理由(決定の予告)及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人1、2による特許異議の申立理由の概要

1 令和3年10月20日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
・特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(取消理由1)
先の訂正後の請求項1〜4に係る発明は、下記引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。(引用例2〜7を参考として引用)

2 取消理由(決定の予告)において採用しなかった異議申立人1による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(申立理由1)
設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、下記引用例2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(申立理由2)
設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、下記引用例2に記載された発明及び下記引用例2、1、8〜10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(申立理由3)
設定登録時の請求項2に係る発明の「水またはメチルエチルケトンに分散する前の平均粒径/分散後の平均粒径」(以下、「分散粒径比」という。)について、本件明細書には、分散粒径比を達成するための手段についての記載はなく、単に実施例、比較例において、分散粒径比を満足するか否かを評価しているのみで、本件明細書の実施例は、すべて分散粒径比を満足し、比較例は満足しないという結果が示されているに過ぎない。
したがって、分散粒径比は、同請求項1に係る発明の構成を有していれば、必然的に達成されるパラメータに過ぎないと判断できるが、そうでないのであれば、同請求項2に係る発明の「分散粒径比」については実施可能要件を欠くといえる。

(4)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(申立理由4)
設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、水や溶剤や樹脂中に容易に一次粒子まで分散することができるシリカ粉末を提供することを発明の課題とし(【0007】)、この課題は、シリカ粉末の表面H2O密度および水素結合OH基密度を所定範囲とすることで解決できるとされている。
しかしながら、シリカ粉末の凝集性や分散性は、単に水分量によってのみ制御されるものではなく、例えば、引用例8の【0019】には、「さらに一旦シリカが水分を吸着してしまうと、これを乾燥させ・・・たとしても、乾燥に伴う水分蒸発時にシリカ粒子同士の距離が狭くなるため、かえって凝集が促進、凝集が強固になり、いっそうその物性が低下するという問題を生じる。」と記載されるように、一旦吸水したシリカ粉末を乾燥しても、シリカ粉末の凝集性や分散性は改善されず、むしろいっそう物性が低下することが知られ、同請求項1に係る発明で特定されるシリカの表面H2O密度及び水素結合OH基密度を満足しても、それが一旦吸水したものを乾燥したものであれば、本件発明の課題を解決することはできない。
そうすると、同請求項1〜4に係る発明は、発明の課題を解決できないものを含むことが明らかであり、サポート要件を満足するものとはいえない。

3 取消理由(決定の予告)において採用しなかった異議申立人2による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(申立理由5)
ア 設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、下記引用例11〜19それぞれに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
イ 設定登録時の請求項5、6に係る発明(本件発明5、6と同じ)は、下記引用例17、20、21それぞれに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(申立理由6)
ア 設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、下記引用例11〜19それぞれに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 設定登録時の請求項5、6に係る発明(本件発明5、6と同じ)は、下記引用例11〜21に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用例1:須川忠昭 他、「フュームドシリカ」、資源処理技術、1991年、38巻3号、131−137頁(異議申立人1が特許異議申立書に添付して提出した甲第3号証)
引用例2:特開2005−139295号公報(同甲第1号証)
引用例3:特開2012−116072号公報(異議申立人1が意見書に添付して提出した第8号証)
引用例4:特開2014−54832号公報(同第9号証)
引用例5:日本アエロジル株式会社 平成28年度「ナノマテリアル情報提供シート」(同第6号証)
引用例6:特開2012−131108号公報(同第10号証)
引用例7:株式会社トクヤマ 平成28年度「ナノマテリアル情報提供シート」(同第7号証)
引用例8:特開2010−163303号公報(異議申立人1が特許異議申立書に添付して提出した甲第2号証)
引用例9;特開平11−49512号公報(同第4号証)
引用例10:永田員也、「●特集 エラストマーにおけるフィラーの最近の技術動向 シランカップリング剤によるフィラー表面処理の考え方」、日本ゴム協会誌、2005年、第78巻第6号、231−236頁(同第5号証)
引用例11:特開2004−277726号公報(異議申立人2が特許異議申立書に添付して提出した甲第1号証)
引用例12:特開2006−267964号公報(同第2号証)
引用例13:特開2004−149577号公報(同第3号証)
引用例14:特開平10−86298号公報(同第4号証)
引用例15:特開2016−47811号公報(同第5号証)
引用例16:国際公開第2011/108524号(同第6号証)
引用例17:特開2005−68330号公報(同第7号証)
引用例18:特表2003−502484号公報(同第8号証)
引用例19:特開2001−64365号公報(同第9号証)
引用例20:2020年11月18日付けで株式会社アドマテックスから異議申立人2宛ての、品名SO−E1、ロットJCA304、製造日2018年1月30日、数量20kg×1、平均粒径:0.3μm、表面処理:未処理のサンプル送付案内(同第10号証)
引用例21:インターネットアーカイブWayback Machineによる、株式会社アドマテックスのホームページの「アドマファインとは」、「VMC法」及び「製品一覧」の頁の出力物、2009年2月28日、
https://web.archive.org/web/20090228093813/http://www.admatechs.co.jp/product/adnafine.html、https://web.archive.org/web/20090228093834/http://www.admatechs.co.jp/product/vmc.html、https://web.archive.org/web/20090228093824/http://www.admatechs.co.jp/product/newproduct.html(同第11号証)

第5 当審の判断

1 引用例1〜21に記載の事項
(1)引用例1の記載事項
ア 「2.2 表面
フュームドシリカの表面には親水性のシラノール基(Si−OH)と疎水性のシロキサン(Si−O−Si)が存在している。特に応用上重要であるシラノール基の特徴について紹介する。
まず,フュームドシリカの示差熱分析の結果を図1に示す4)。最初にある大きな吸熱帯で吸着水分の放出される温度範囲がわかる。シラノール基の縮合は100℃近辺ではじまっている。引き続く弱い吸熱帯は,シラノール基の縮合によるものとみられる。」(131頁右欄16行〜132頁左欄4行)

イ 「

」(132頁左欄)

ウ 「表面シラノール基を定量する方法はいくつかあるが,精度的に,シリカを圧力15mmHg以下,温度120℃で3時間乾燥した後,LiAlH4と反応させる方法が良いと言われいる6)。
4≡SiOH+LiAlH4→ ≡Si−O−Li+(≡Si−O)3Al+4H2
この方法によるシラノール基密度は以下の通りである。
アエロジル130,200(130、200m2/g):25〜35Å2/SiOH
アエロジル300、380(300、380m2/g):30〜50Å2/SiOH
(測定精度:±2Å2/SiOH)
即ち,フュームドシリカのSiOH密度は,2〜4個/nm2であり、各々のSiOHの活性が高く,シラノール基間で水素結合することにより,液体中で網目構造を形成し,系の粘度が上昇する。
フュームドシリカのシラノール基の内,独立したシラノール基は,2.4×1014/cm2,隣接したシラノール基は,0.8×1014個/cm2あるとの報告がなされている7)。一方,最近の報告によると,雰囲気中の水がフュームドシリカ表面に存在するとシロキサンの開裂がおこりやすくなり,孤立シラノール基が見かけ上減少し,その結果隣接したシラノール基が増加するとしている8)。・・・また,図2にはこのメカニズムを示した。」(132頁右欄10〜32行)

エ 「

」(133頁左欄)

オ 「フュームドシリカは製造直後はほとんど吸着水分を持たないが,放置される雰囲気の相対湿度および温度により水分吸着量は異なってくる。図4には,1.2gのフュームドシリカを3日ないしはそれ以上放置し,何回も試料をかきまぜて水分を測定した結果を示す。水分の吸着量はフュームドシリカの比表面積に比例していることがわかる。水分吸着が応用特性に与える影響は用途により異なるが,その一例を図5に示す。」(133頁右欄4〜12行)

カ 「

」(133頁右欄)

(2) 引用例2の記載事項
ア 「【請求項1】
平均粒径が0.1〜2μm、BET比表面積が2〜20m2/gであり、以下の方法で測定された粒子表面の孤立OH基の濃度が3〜8個/nm2であることを特徴とする金属酸化物粉末。
[測定方法]
水分気化装置に試料を入れ、加熱昇温しながら発生した水分をカールフィッシャー電量滴定法にて測定したときに、温度200℃までに発生した水分を「物理的吸着水」、200℃をこえ550℃までに発生した水分を「水素結合OH基由来の水分」、550℃をこえ900℃にまでに発生した水分を「孤立OH基由来の水分」、と定義し、測定された水分量とBET比表面積値とから、それぞれ「水素結合OH基」と「孤立OH基」の濃度を算出する。
【請求項2】
水素結合OH基の濃度が、0〜4個/nm2、孤立OH基の濃度が3〜8個/nm2であり、両者の合計に対する孤立OH基の比率が、50〜80%であることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物粉末。
【請求項3】
金属酸化物粉末が、球状シリカ粉末及び/又は球状アルミナ粉末であることを特徴とする請求項1又は2記載の金属酸化物粉末。」

イ 「【0007】
これらの方法の中でも、球状金属酸化物粉末を少量添加する方法は、金属酸化物粉末の高充填域においても封止材料の流動性や成形性が飛躍的に改善できるため、最近注目を浴びている。この様な球状の金属酸化物粉末は、金属粉末の粉塵雲を形成し爆燃を起こさせ酸化物超微粒子を合成する方法(特許文献1)、シリカ粉末と金属シリコン又は炭素粉末と水とを含む混合原料を還元雰囲気下で熱処理しその後冷却する超微粉シリカの製造方法(特許文献2)が提案されている。しかしながら、このような球状金属酸化物粉末添加による流動性、成形性改善効果は認められるものの、樹脂への分散性、密着性に問題があり、金属酸化物粉末の高充填域において樹脂組成物の十分な信頼性や機械的強度が得られていなかった。・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、半導体封止材料の流動性と成形性改善効果に優れ、機械的強度およびはんだ耐熱性を高めることができる金属酸化物粉末とその製造方法、およびそれを用いた樹脂組成物、特に半導体封止材料を提供することである。」

ウ 「【0015】
本発明の金属酸化物粉末は、その平均粒径が0.1〜2μm、BET比表面積が2〜20m2/gであり、粒子表面の孤立OH基の濃度が3〜8個/nm2である。平均粒径が0.1μm未満又は比表面積が20m2/gを超えるか、又は平均粒径が2μmを超え、比表面積が2m2/g未満であると、樹脂組成物の流動性、成形性改善効果が不十分となる。特に好ましい平均粒径は0.4〜1.6μmであり、比表面積は3〜10m2/gである。また、孤立OH基の濃度が3個/nm2未満では樹脂と金属酸化物粉末との分散性、密着性を向上させるシランカップリング剤の反応サイトが少なくなり、8個/nm2より多いとシランカップリング剤の反応サイトよりも余剰のOH基を有することになり、逆に吸湿性が増大し樹脂組成物の信頼性が低下する。好ましい孤立OH基の濃度は3〜7個/nm2であり、特に好ましくは、4〜6個/nm2である。
【0016】
本発明の金属酸化物粉末の水素結合OH基の濃度は、0〜4個/nm2、特に0〜3個/nm2であることが好ましい。更に好ましくは、「水素結合OH基の濃度」と「孤立OH基の濃度」との合計に対する「孤立OH基の濃度」の比率が50〜80%、特に60〜70%とすることである。この比率が50%未満だと、樹脂と金属酸化物粉末との分散性、密着性を向上させるシランカップリング剤の反応サイトが少なく、逆にカップリング剤との反応に直接寄与しない吸湿性の強い水素結合OH基の割合が多くなることを意味し、樹脂組成物、特に半導体封止材料では、機械的強度とはんだ耐熱性が低下する。一方、上記比率が80%を超えると、シランカップリング剤のインテグラル添加の際、加水分解に必要な水分の供給源である水素結合OH基の割合が少なく、シランカップリング剤の加水分解が不十分となり金属酸化物粉末との反応性が悪くなる。
・・・
【0018】
本発明の金属酸化物粉末の粒度分布は、レーザー回折光散乱法による粒度測定に基づく値であり、粒度分布測定機としては、例えば「モデルLS−230」(ベックマンコールター社製)にて測定することができる。測定に際しては、溶媒には水を用い、前処理として、1分間、ホモジナイザーを用いて200Wの出力をかけて分散処理させる。また、PIDS(Polarization Intensity Differential Scattering)濃度を45〜55質量%になるように調製した。なお、水の屈折率には1.33を用い、粉末の屈折率については粉末の材質の屈折率を考慮した。たとえば、非晶質シリカについては屈折率を1.50として測定した。なお、測定した粒度分布は、粒子径チャンネルがlog(μm)=0.04の幅になるよう変換した。また、比表面積はBET法に基づく値であり、比表面積測定機としては、例えば「モデル4−SORB U2」(湯浅アイオニクス社製)を用いて測定することができる。」

エ 「【0033】
本発明の金属酸化物粉末の製造方法は、金属粉末を反応容器内で可燃性ガスと助燃性ガスとからなる高温火炎中に供給し、該火炎中で該金属粉末を酸化させることにより、金属酸化物粉末を合成する金属酸化物粉末の製造方法において、反応容器内の水蒸気量A(Nm3/Hr)と該金属粉末の供給量B(kg/Hr)との比、A/Bを13〜20(Nm3/kg)に制御するものであって、これによって金属酸化物粉末の表面性状を(表面OH基濃度、すなわち上記方法で測定される水分量)をコントロールすることができる。すなわち、該比を大きくすると孤立OH基濃度が高くなり、小さくすると孤立OH基濃度が低くなる。
【0034】
本発明の金属酸化物粉末の製造方法の特徴は、水蒸気を発生しうる可燃性ガスを反応容器内に大量に供給し燃焼させることにより、金属粉末の酸化燃焼時に水蒸気を適度に反応させ、金属粉末の燃焼により生成した金属酸化物粉末の表面OH基量・種類をコントロールすることである。この水蒸気発生量Aと金属粉末の供給量Bとの比A/Bが13未満だと、微小金属酸化物表面の孤立OH基が少なくなるため好ましくない。一方、A/Bが20を超えると余剰な孤立OH基が生成してしまうため好ましくない。好適なA/Bは14〜18である。」

(3)引用例3の記載事項
ア 「【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に設けられるとともに無機粒子の少なくとも2種および樹脂を含み、前記無機粒子は細孔径が200nm以上である第1の無機粒子および体積平均粒子径が200nm以下である第2の無機粒子を含有し、前記第1の無機粒子の含有率が前記無機粒子の総量中の50質量%を超える、第1のインク受容層と、
前記第1のインク受容層上に設けられるとともに気相法シリカおよび水溶性樹脂を含む第2のインク受容層と、を有するインクジェット記録媒体。」

イ 「【0028】
前記第2の無機粒子の体積平均粒子径は200nm以下であるが、インク吸収性と光沢性の観点から、10nm以上180nm以下であることが好ましく、20nm以上140nm以下であることがより好ましい。
第2の無機粒子の体積平均粒子径が200nmを超えると、十分なインク吸収性が達成できない場合がある。
尚、第2の無機粒子の体積平均粒子径は、LA−920(HORIBA社製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される。」

ウ 「【0148】
(実施例2〜6)
実施例1において、第1の無機粒子および第2の無機粒子の種類および含有比を下記表2に示すように変更したこと以外は上記と同様にしてインクジェット記録媒体を作製し、上記と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
尚、第1の無機粒子と第2の無機粒子の総量が35部となるようにした。また表2中、A300は「Aerosil300」を、A200は「Aerosil200」(気相法シリカ、日本アエロジル(株)製、体積平均粒子径140nm)を・・・それぞれ意味する。」

(4)引用例4の記載事項
ア 「【請求項1】
原紙の少なくとも一方の面に2層以上の塗工層を有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙であって、原紙と接する下層が、有機顔料、カチオン性化合物、バインダーおよび短径0.1μm以上0.5μm以下且つ長径0.5μm以上2.5μm以下である犬牙状軽質炭酸カルシウムを含有し、下層と接する上層が、アルミナ水和物、気相法シリカ、粉砕湿式法シリカ、コロイダルシリカから選ばれる少なくとも1種の平均粒子径が330nm以下である無機超微粒子を含有し、且つ、JAPAN TAPPI No.49−2:2000に準じて、上層表面にpH測定用指示薬溶液を滴下し、溶液を薄く塗り広げて呈色させ、pH標準変色表の色相と指示薬が呈する色相とを対比して測定される紙面pHが5.0以上7.5以下であり、上層塗工面のJIS Z8741で規定する75度光沢度が45%以上であることを特徴とする産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙。」

イ 「【0049】
本発明において、無機超微粒子の平均一次粒子径は、分散された微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の粒子径とした平均から求めることができる。無機超微粒子の平均二次粒子径は、微粒子の希薄分散液をレーザー回折・散乱法を用いた粒度分布計により体積基準の測定により求めることができる。」

ウ 「【0073】
・・・
(無機超微粒子または無機粒子)
・・・
O:気相法シリカ(平均二次粒子径0.1μm、アエロジル200、日本アエロジル社製)」

(5)引用例5の記載事項
ア 「凝集状態/分散状態
一次粒子ではなく、一次粒子(ほぼ球状)が融着した数珠状の凝集粒子として存在。通常は凝集粒子が絡み合った集塊粒子として存在するが、使用時の分散方法によって集塊粒子の大きさは異なり、一次粒子まで分散できない。」(表紙含め2頁目)

イ 「3.2.1 粒度と構造
AEROSIL(R)(当審注:原文は丸囲みのR、以下同じ。)の一次粒子は非常に小さく、数nmのオーダーであるのでその大きさを想像しにくい。・・・
粒子が小さいため、その粒子の形状と大きさを確認するためには電子顕微鏡観察が唯一の直接的方法となっている。」(添付資料「フュームドシリカAEROSILの基本特性」21頁1行〜22頁3行)

ウ 「これらの透過電子顕微鏡写真から次のような重要な情報を引き出すことができる。
・AEROSIL(R)は多数のほぼ球形の一次粒子でできている。
・一次粒子はふわふわした網目構造を形成し、実際には孤立した状態では存在しない。・・・
・一次粒子が小さければ小さいほど、凝集粒子・集塊粒子の形成がより顕著になる。とくに図20から判るように、AEROSIL(R)の一次粒子は鎖状につながり合うことが多い。」(添付資料「フュームドシリカAEROSILの基本特性」23頁1〜11行)

(6)引用例6の記載事項
ア 「【請求項1】
無機微粒子(A)と、水溶性バインダー(B)と、水(C)と、酸化ポリオレフィン粒子(D)とを含むことを特徴とするインク受容層形成用組成物。」
イ 「【0081】
<実施例9〜14>
「無機微粒子(a1)13部」、「顔料固着剤(e1)1.6部」、「脂肪族アルコール(k1)14部」を表2に記載した物質及び使用量に変更したこと以外、実施例1と同様にして、本発明のインク受容層形成用組成物(9)〜(14)を得た。」

ウ 「【0087】
a1;アエロジル200{シリカ微粒子、日本アエロジル(株)製、気相法シリカ、一次粒径12nm、BET比表面積200m2/g}」

(7)引用例7の記載事項
ア 「

」(添付資料−2)

(8)引用例8の記載事項
ア 「【請求項1】
BET比表面積が20〜55m2/gの親水性乾式シリカであり、下記式(1)
w ≦ 0.01×S ・・・(1)
(上記式中、wは130℃での乾燥減量法により測定される親水性乾式シリカの水分量(wt%)であり、Sは親水性乾式シリカのBET比表面積(m2/g)である。)
を満足するように製造された親水性乾式シリカを、上記式(1)を満足する状態を維持したまま使用時まで保存することを特徴とする親水性乾式シリカの保存方法。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のBET比表面積20〜55m2/gの親水性乾式シリカには、シリカの保存期間が長くなるほど、これを充填剤として添加した樹脂組成物の粘度が高くなる傾向があり、長期間保存した該シリカを使用すると半導体の封止、成形、実装が困難になるという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、保存期間が長くなっても、樹脂に添加したときの粘度上昇を抑制する、BET比表面積20〜55m2/gの親水性乾式シリカの保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、BET比表面積20〜55m2/gの親水性乾式シリカにおいては、その保存期間中に、該シリカの表面に吸着した水分が、該シリカの粒子間凝集を促進かつ強固にし、その凝集が樹脂組成物の粘度を上昇させていることに気付いた。そこで、製造から使用時までの該シリカの水分量をある値以下に維持するよう保存することで、該シリカを使用した場合の樹脂組成物の粘度上昇を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(9)引用例9の記載事項
ア 「【請求項1】 シリカフュームに対し5〜50%の液態アルコールを加え十分に攪拌浸透させたのち空気を透過しない軟質プラスチック性袋に入れ、減圧下で空気を吸引除去圧縮してシールすることによりシリカフュームの凝集化に伴う活性度の低下を抑制しつつ容積減少をはかることを特長とするシリカフュームの凝集抑制減容化技術。」

イ 「【0007】
【課題を解決するための手段】シリカフュームは、セメント系建材用混合材、コンクリート及びグラウト用混和材、不定形耐火物(キャスタブル)用混和材、肥料コーティング材、セラミックス製品用混和材、塗料用混和材など、性状向上目的の混和材として用いられるが、それはシリカフュームがシリコンやフェロシリコンの製造時に発生する煙霧状の溶融シリカを捕集したものであり、構成粒子の平均直径は0.1μmと極めて微細であるため表面活性が著しく高く、これが混和材として母材に添加混合された場合に母材粒子の橋渡し役を果たしその性状向上をもたらすものと考えられている。しかしこの特性は、シリカフュームの構成粒子が相互接触状態にあり、かつ若干の湿分が存在すれば、凝集化による塊粒化を引き起こし、一旦生成した凝集塊粒は容易に元の超微細粒に戻り得ないため表面活性の低下をきたすという根本問題の発生原因ともなっている。したがって、まずこの問題解決が第一の課題である。」

(10)引用例10の記載事項
ア 「シリカ表面には隣同士が水素結合した水酸基と孤立した水酸基が存在しているといわれている。シリカのTG−DTAの測定では,100℃までの重量減は吸着水,そこから500℃までの重量減は水素結合した水酸基の脱水,それ以上の温度での重量減は孤立水酸基の脱水であり,水素結合した水酸基は孤立水酸基よりも反応しやすいと考えられている。水酸基の存在によりフィラーの凝集や水分吸着が進行したり,エラストマー中での分散不良を起こしたりする。」(232頁左欄5〜13行)

(11)引用例11の記載事項
ア 「【請求項1】
環状オレフィン系樹脂(A)、800nm以下の平均粒径を有する無機フィラー(B)、及び該環状オレフィン系樹脂(A)が可溶な溶媒(C)を含んでなる樹脂組成物において、予め、前記無機フィラー(B)を、前記樹脂組成物に含む環状オレフィン系樹脂(A)が可溶な溶媒(C)を含む溶媒中で分散させて得られることを特徴とする樹脂組成物。
・・・
【請求項6】
前記無機フィラー(B)が、シリカフィラーである請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、半導体チップを搭載する多層配線板用の層間絶縁材料などにおける、このような現状の問題点に鑑み、成されたものであって、電気特性、機械特性に優れる、特に低誘電率および低熱膨張係数を両立できる樹脂組成物を提供することを目的とする。」

ウ 「【0033】
(実施例1)
[樹脂組成物1の作製]
US特許5,468,819号に記載されている公知の公知の方法によって得られたn−ブチルノルボルネン90mol%とトリエトシキシランノルボルネン10mol%からなるポリノルボルネン18gを1,3,5−トリメチルベンゼン72gに溶解した環状オレフィン系樹脂溶液(プロメラス社製、商品名アバトレル)と、予め、気相法により合成されたシリカフィラー2g(平均粒径20〜30nm、シーアイ化成(株)社製)と、1,3,5−トリメチルベンゼン18gとを、高速せん断分散方式の混合機((株)奈良機械製作所社製、マイクロスMICROS−0型)により混合分散したシリカフィラー溶液とを、前記と同じ混合機で混合し樹脂組成物1を得た。
・・・
【0044】
(実施例6)
[樹脂組成物6の作製]
実施例1において、n−ブチルノルボルネン90mol%とトリエトシキシランノルボルネン10mol%からなる付加重合型の環状オレフィン系樹脂18gに替えて、n−デシルノルボルネン70mol%とメチルグリシジルエーテルノルボルネン30mol%からなる付加重合型の環状オレフィン系樹脂18gを用い、、シリカフィラー2g(平均粒径20〜30nm、シーアイ化成(株)社製)に替えて、平均粒径200nmのシリカフィラー((株)アドマテックス社製、商品名SO−C1)2gを用い、さらに、光開始剤(ローディアジャパン(株)社製、Rhodosil Photoinitiator2074)0.36g添加した以外は、実施例1と同様な方法で樹脂組成物6を得た。」

(12)引用例12の記載事項
ア 「【請求項1】
熱硬化性樹脂、熱硬化剤及び/又は熱重合開始剤、並びに、紫外線吸収剤を含有することを特徴とする液晶表示素子用シール剤。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、紫外線照射により発生した熱を利用して熱硬化を行い、液晶汚染を防止した液晶表示素子用シール剤、上下導通材料、液晶表示素子及び液晶表示素子の製造方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【0068】
(実施例1)
(1a)で製造したエポキシアクリレート20重量部、(1b)で製造した部分変性樹脂80重量部、紫外線吸収剤としてSEESORB 701(シプロ化成社製)3重量部、熱硬化性樹脂としてアミキュアVDH(味の素ファインテクノ社製)16重量部、及び、パーブチルO(日本油脂社製)0.5重量部、充填剤としてSO−C1(アドマテックス社製)30重量部、及び、シランカップリング剤としてKBM−403(信越化学工業社製)2重量部を遊星式攪拌機(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて混合後、更に3本ロールを用いて混合させることにより液晶表示素子用シール剤を製造した。
次に、ブラックマトリックス及び透明電極付き基板に、得られた液晶表示素子用シール剤を長方形の枠を描くようにディスペンサーで塗布した。
続いて、液晶(チッソ社製;JC−5004LA)の微小滴を透明基板の枠内全面に滴下塗布し、すぐに別の透明電極付き基板(ブラックマトリックス無し)を重ね合わせて、マトリックス付き基板側からシール部に高圧水銀ランプを用い紫外線を100mW/cm2で30秒照射した。このとき、押しつぶされた液晶表示素子用シール剤の線幅は約1.2mmであり、そのうちの0.3mmはブラックマトリックスと重なる様に描画した。その後、液晶アニールを120℃で1時間行うことにより、液晶表示素子を得た。」

(13)引用例13の記載事項
ア 「【請求項1】
ガラスクロスに対して偏平加工と開繊加工のうちの少なくとも一方の処理を施すことにより通気度を2〜4cm3/cm2/secとした基材に、樹脂成分の総量100質量部に対して240質量部以下の無機充填材を含有し、且つこの無機充填材の平均粒径が0.2〜3.0μmである熱硬化性樹脂組成物を含浸し、この熱硬化性樹脂組成物をBステージ状態として成ることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】無機充填材として、粒子形状が略球形状であるシリカを用いること特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。」

イ 「【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、小径孔あけ加工を行う場合に、ドリル加工の際にドリルの折損や摩耗を低減し、且つ内壁粗さを低減してCAF等の不良発生を抑制できる積層板を形成することができ、更に無機充填材を配合した樹脂ワニスを基材に含浸するにあたって優れた含浸性を有し成形不良が抑制されたプリプレグ、及びこのプリプレグを用いて形成される積層板を提供することを目的とするものである。」

ウ 「【0040】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって詳述する。
【0041】(実施例1〜6、比較例1〜7)表1に示す組成を有する熱硬化性樹脂組成物100質量部をトルエン90質量部に分散・溶解させて樹脂ワニスを調製した。
・・・
【0047】
また表中の球形状シリカの詳細は次の通りである。
・球形状シリカ(平均粒径0.5μm):粒径形状がほぼ球形の合成シリカ(株式会社アドマテックス製、品番「SO−C2」)
・球形状シリカ(平均粒径1.0μm):粒径形状がほぼ球形の合成シリカ(株式会社アドマテックス製、品番「SO−C3」)
・球形状シリカ(平均粒径2.0μm):粒径形状がほぼ球形の合成シリカ、株式会社アドマテックス製、品番「SO−C5」)
・球形状シリカ(平均粒径5.0μm):粒径形状がほぼ球形の合成シリカ、(龍森製、品番「ヒューズレックスWX」)」

(14)引用例14の記載事項
ア 「【請求項1】シンジオタクティックペンタッド分率が0.6以上であるプロピレンの単独重合体あるいはプロピレンと少量の他のオレフィンとの共重合体である結晶性ポリプロピレン100重量部とエチレン−オクテン共重合体25〜100重量部、帯電防止剤0.05〜0.5重量部からなるポリプロピレン樹脂組成物(A)を基材層とし、両表面にアイソタクティックポリプロピレン100重量部と平均粒子径1〜10μmの球形の無機不活性粒子0.4〜1.5重量部からなるポリプロピレン樹脂組成物(B)を積層してなるポリプロピレン積層フィルムであって、全体層の厚みに対して基材層の厚みが50〜95%である繊維包装用ポリプロピレン積層フィルム。
【請求項2】球形の無機不活性粒子がシリカ、ゼオライト系の球形の無機不活性粒子である請求項1に記載の繊維包装用ポリプロピレン積層フィルム。」

イ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】・・・
【0011】本発明の課題は、上記問題点を解決し、比較的安価でなお且つ製膜性、透明性、柔軟性、アンチブロッキング性の良好なフィルムであり、製膜後、良好な経時の帯電防止性を有し、かつ、コロナ放電処理後の臭気も良好で、特に、繊維包装用途で好適なポリプロピレン積層フィルムを提供することにある。」

ウ 「【0049】一方、別の40mmφ押出機でエチレン−プロピレン共重合体(MI=7.3、エチレン含有率=4.2wt%、Mw/Mn=5.3、以下、IPPと略記する)100重量部、リン系酸化防止剤0.08重量部、フェノール系酸化防止剤0.11重量部、アンチブロッキング剤として球形シリカ(アドマテックス(株)社製、SO−C5、平均粒径1.8μm、BET法比表面積2〜4m2/g、吸油量16ml/100g)0.5重量部を含むペレット(以下、IPP−Pと略記する。)を溶融し、樹脂温度240℃で前記ダイに供給した。」

(15)引用例15の記載事項
ア 「【請求項7】
一般式(1)で示されるアリーロキシシランオリゴマーを含むエポキシ樹脂硬化剤。
【化6】

(式中、R1はそれぞれ同一または異なる炭素数1〜12の炭化水素基、Xは2官能フェノール化合物残基、Yはアミノフェノール化合物残基、Zはビスマレイミド化合物残基、nは1〜20の整数、およびmは1〜20の整数である。)
・・・
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とを含むエポキシ樹脂組成物。・・・
【請求項12】
さらに無機充填材を含む請求項10または11に記載のエポキシ樹脂組成物。」

イ 「【0007】
本発明は、低誘電損失(低誘電率および低誘電正接)および高耐熱性(高ガラス転移温度)の両方を有するエポキシ樹脂硬化物、前記エポキシ樹脂硬化物を形成することが可能なエポキシ樹脂硬化剤、前記エポキシ樹脂硬化剤からなる組成物、および前記エポキシ組成物からなる層間絶縁材料を提供するものである。また本発明は、前記エポキシ樹脂硬化剤として有用なアリーロキシシランオリゴマー、およびその製法を提供するものである。」

ウ 「【0074】
(実施例7、および比較例8)
フェノキシシランオリゴマー溶液(A−3)、またはナフトールアラルキル樹脂(SN485、新日鉄住金化学社製)(A−7)、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC3000H)、無機充填剤(SC2500−SQ、アドマテックス社製)の固形分75%のメチルエチルケトン(MEK)溶液、および2−エチル−メチルイミダゾール(硬化促進剤)を加えて攪拌して混合し、樹脂ワニスを調製した。」

(16)引用例16の記載事項
ア 「[請求項1]
エポキシ樹脂(A)、マレイミド化合物(B)、硬化剤(C)、および無機充填剤(D)を含んでなる樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)が、下記式(I)で表されるものである、樹脂組成物:[化1]

(式中、・・・)。」

イ 「[0008] 本発明者らは、今般、エポキシ樹脂とマレイミド化合物と硬化剤と無機充填材とを含む樹脂組成物において、特定のエポキシ樹脂を用いることにより、無機充填材の含有量が従来のプリント配線板用樹脂組成物と同程度であるにもかかわらず、その硬化物の面方向の熱膨張率が低く、耐熱性や難燃性にも優れることを見出した。本発明はかかる知見によるものである。
[0009] したがって、本発明の目的は、無機充填材の含有量を従来の樹脂と同程度に維持しながら、樹脂硬化物の面方向の熱膨張率が低く、かつ耐熱性や難燃性にも優れる樹脂組成物を提供することである。また、本発明の別の目的は、上記樹脂組成物を基材に含浸または塗布して形成されるプレプリグ、およびその積層板を提供することである。」

ウ 「[0056]
実施例6
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂を35質量部、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(KAYAHARD GPH−103、日本化薬株式会社製、水酸基当量:231g/eq.)を10質量部、ビス(3−エチル−5−メチル−4マレイミドフェニル)メタン(BMI−70、ケイアイ化成製)を10質量部、およびポリオキシナフチレン型エポキシ樹脂(EXA−7311,エポキシ当量:277g/eq.、DIC株式会社製)を45質量部混合して、メチルエチルケトンで溶解させた。次いで、この溶液に、湿潤分散剤(disperbyk−161、ビッグケミージャパン株式会社製)を3質量部、球状溶融シリカ(SC2500−SQ、アドマテックス株式会社製)を120質量部、およびオクチル酸亜鉛を0.05質量部、混合することによりワニスを調製した。得られたワニスをメチルエチルケトンで希釈し、厚さ0.1mmのEガラス織布に含浸塗工し、160℃で4分間加熱乾燥することにより、樹脂含有量50質量%のプリプレグを得た。」

(17)引用例17の記載事項
ア 「【請求項1】
熱硬化性樹脂と無機酸化物とを含有する熱硬化性樹脂組成物において、前記無機酸化物が、比表面積が15m2/g以上であり且つ組成物1gに対する合計表面積が2m2以上であるものを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
・・・
【請求項3】
上記無機酸化物が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛から選択される少なくとも一種のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年のフリップチップ実装方式の急速な普及に伴い、より信頼性の高いアンダーフィルを形成することが求められるようになってきた。すなわち、アンダーフィルの熱膨張係数を更に低減すると共に、アンダーフィル−チップもしくはアンダーフィル−プリント配線基板界面での密着性を更に向上することが求められるようになってきている。
【0009】
しかし、アンダーフィルの熱膨張係数を低減するために熱硬化性樹脂組成物中の充填材の充填量を増大すると、形成されるアンダーフィルとチップやプリント配線基板等との密着性を維持することが困難となり、充填材の充填量を増大させることなくアンダーフィルの熱膨脹係数を低減させる手法が求められていた。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、充填材の充填量を過大に増大させることなく、成形体の熱膨張係数を低減すると共に、プリント配線基板やICチップ等の電子部品などとの密着性を向上することができ、特にアンダーフィル形成用途に好適に用いることができる熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。」

ウ 「【0055】
尚、表中の各成分の詳細は、次の通りである。
・脂環式エポキシ樹脂:ダイセル化学工業株式会社製「セロキサイド 2021」
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:東都化成工業株式会社製「YDF−8170」
・水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン株式会社製「エピコートYL6753」
・硬化剤:大日本インキ化学工業株式会社製「エピクロンB−650」
・硬化促進剤:四国化成工業株式会社製「2E4MZ」
・シリカA:比表面積5m2/g、平均粒径500nm、株式会社アドマティクス製「SO−E2」
・シリカB:比表面積17m2/g、平均粒径200nm、株式会社アドマティクス製「SO−E1」
・シリカC:比表面積90m2/g、平均粒径20nm、日本アエロジル株式会社製「AEROSIL 90G」
・シリカD:比表面積380m2/g、平均粒径7nm、日本アエロジル株式会社製「AEROSIL 380」
・シリカE:シリカDをγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東芝シリコーン株式会社製「TSL8350」)で処理したもの」

(18)引用例18の記載事項
ア 「【請求項1】 熱硬化性樹脂組成物であって、その反応生成物が制御可能に分解性であり、前記組成物が、
(a)コア構造から懸垂する少なくとも2個のヘテロ原子含有炭素環式構造を有し、コア構造が、高温条件および/または酸性条件に曝されて分解できる少なくとも1個のエーテル、チオエーテルまたはカーボネート結合を含む硬化性樹脂;少なくともその一部が少なくとも1個の末端エポキシ基に隣接する位置に少なくとも1個のアルキレンオキシド残基を有するエポキシ樹脂;およびエポキシ樹脂と下式によって表される共反応性希釈剤
【化1】

[Xは、ヘテロ原子、酸素またはイオウを表し、Yは存在してもしなくてもよく、存在する場合にはアルキル、アルケニル、およびアリールを表し、Rはアルキル、アルケニルおよびアリールを表す。]
との組合せからなる群から選択される硬化性樹脂成分、および
(b)硬化剤成分
を含む熱硬化性樹脂組成物。
・・・
【請求項3】 さらに無機充填剤成分を含む、請求項1に記載の組成物。
・・・
【請求項24】 無機充填剤成分が、シリカ、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、シリカ被覆窒化アルミニウム、窒化ホウ素およびそれらの組合せからなる群から選択されるメンバーである、請求項3に記載の組成物。」

イ 「【0016】
現況の技術があるにもかかわらず、アンダーフィル封止材料であって、良好な生産性と耐熱衝撃性が得られるばかりでなく、それと共に用いられる基板を簡単に処理し、基板上に残る半導体装置または基板自体の完全性を損なう可能性のある極端すぎる条件を用いずに基板を半導体装置から容易に分離することができる材料が望まれている。」

ウ 「【0076】
無機充填剤成分として、多くの材料が潜在的に有用である。たとえば、その無機充填剤成分としては、融解石英等の補強シリカが大抵は含まれ、表面の化学的性質を改良するための処理をしないものおよび処理したものがある。事実上、補強融解石英はどれも使用することができる。
【0077】
特に望ましいものは、鉄の濃度が低く、比較的粒径が小さい(たとえば、約2〜10ミクロンの範囲で、約2ミクロンといったところ)日本のアドマテックス社から商品名SO−E5のもとで市販されているもの等である。」

(19)引用例19の記載事項
ア 「【請求項1】 (A)液状エポキシ樹脂、(B)液状フェノール樹脂硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機充填剤および(E)プロピレングリコール系溶剤を必須成分とし、
(B)液状フェノール樹脂硬化剤が、25℃における粘度2000〜30000cpの液状ノボラック型フェノール樹脂であることを特徴とする低温硬化型半導体封止用液状樹脂組成物。」

イ 「【0006】本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決して、溶剤型液状樹脂組成物のポッティング封止において、ポッティング作業性に優れ、従来製品と比較してより低温での速硬化が可能であり、かつキャリアテープとして使用されるポリイミドフィルムへの接着強度が高くて、半導体封止に適した低温硬化型液状樹脂組成物を提供することにある。」

ウ 「【0022】実施例2
(A)液状エポキシ樹脂成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のYL983U(油化シェル(株)社製商品名、エポキシ当量170)12%、(B)液状フェノール樹脂硬化剤成分として液状ノボラック型フェノール樹脂MEH8015(明和化成(株)社製商品名、OH基当量134)9.5%、(C)硬化促進剤成分として2フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物の2P4MHZ(四国化成工業社製、商品名)1.3%、(D)無機質充填剤成分として合成シリカのアドマファインSO−E5(アドマテックス社製、商品名)55%、(E)プロピレングリコール系溶剤成分としてプロピレングリコールエチルエーテルアセテート(クラレ社製、商品名)15%を配合した。(A)(B)(D)をニーダで加熱混練して、得られた樹脂組成物に(E)および(C)を混合して液状樹脂組成物を製造した。」

(20)引用例20の記載事項
ア 「



イ 「



(21)引用例21の記載事項
ア 「●アドマファインとは
・・・
アドマファインは金属粉末をVMC法※という独自な手法で酸化させて作り出す真球状微粒子です。」(1/5頁3、4頁)

イ 「●VMC法
VMC法はアドマテックスが独自に開発しました。
金属粉末の爆燃現象を利用して真球状酸化物微粒子を製造する方法です。
金属粉末を酸素の気流中に分散させ、着火することで酸化させ、その反応熱で金属及び酸化物を蒸気または液体にし、冷却することで、微細な酸化物粒子「真球状微粒子アドマファイン」を得る技術です。」(3/5頁1〜6行)

ウ 「

」(4/5頁)

2 各引用例に記載された発明
(1)引用例1に記載された発明
ア 比表面積及び吸着水分について
引用例1の上記1(1)オ及びカの記載によれば、引用例1の図5には、フュームドシリカの具体例であるアエロジル200について、不飽和ポリエステル樹脂/アエロジル200の分散系における吸着水分が増粘性に与える影響が示されており、同図5にはアエロジル吸着H2O(%)の数値は示されていないものの、図5にプロットされた点から、図5には、アエロジル吸着H2O(%)としておおよそ0.1%、0.4%、0.7%、1.4%のものが示されているといえる。ここで、図5で示されるアエロジル200は、上記同ウにおける「アエロジル130、200(130、200m2/g)」との記載から、その比表面積は200m2/gといえる。
また、上記同ア(特に、「最初にある大きな吸熱帯で吸着水分の放出される温度範囲がわかる」との記載)、同イの図1には、フュームドシリカの示差熱分析として、温度が約200℃までの吸熱帯が、吸着水分の放出に伴う温度範囲であることが示されており、この点を考慮すると、上記図5におけるアエロジル吸着H2O(%)は、示差熱分析で約200℃までの温度範囲で放出された吸着水分を測定して得られる数値であると推認できる。
そして、アエロジル200の比表面積と吸着H2O(%)から、例えば吸着H2O(%)が0.1%であれば、吸着水分は0.001(g/g)/200(m2/g)=5μg/m2といえ、同様に、吸着H2O(%)が0.4%、0.7%、1.4%のものでは、それぞれ吸着水分が20μg/m2、35μg/m2、70μg/m2であるといえる。

イ 水素結合OH基密度について
引用例1の上記1(1)ウの記載によれば、フュームドシリカのシラノール基の内、隣接したシラノール基は,0.8×1014個/cm2あることが記載されている。

ウ 上記ア及びイから、引用例1には、アエロジル200等のフュームドシリカとして、以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。

「示差熱分析で約200℃までの温度範囲で放出された吸着水分を測定して得られる吸着水分が5〜70μg/m2であり、隣接したシラノール基は、0.8×1014個/cm2であり、比表面積が200m2/gであるフュームドシリカ。」

(2)引用例2に記載された発明
引用例2の上記1(2)アの記載によれば、【請求項1】を引用する【請求項2】をさらに引用する【請求項3】において、金属酸化物が、「球状シリカ粉末」である場合として、引用例2には、以下の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されているといえる。

「平均粒径が0.1〜2μm、BET比表面積が2〜20m2/gであり、以下の方法で測定された粒子表面の水素結合OH基の濃度が、0〜4個/nm2、孤立OH基の濃度が3〜8個/nm2であり、両者の合計に対する孤立OH基の比率が、50〜80%である球状シリカ粉末。
[測定方法]
水分気化装置に試料を入れ、加熱昇温しながら発生した水分をカールフィッシャー電量滴定法にて測定したときに、温度200℃までに発生した水分を「物理的吸着水」、200℃をこえ550℃までに発生した水分を「水素結合OH基由来の水分」、550℃をこえ900℃にまでに発生した水分を「孤立OH基由来の水分」、と定義し、測定された水分量とBET比表面積値とから、それぞれ「水素結合OH基」と「孤立OH基」の濃度を算出する。」

(3)引用例11、12に記載された発明
引用例11の上記1(11)ウの【0044】には、「平均粒径200nmのシリカフィラー((株)アドマテックス社製、商品名SO−C1)2g」、引用例12の上記1(12)ウには、「充填剤としてSO−C1(アドマテックス社製)30重量部」との記載があるところ、平均粒径200nmのシリカフィラー又は充填剤で用いられるシリカが粉末であることは明らかであるから、引用例11、12には、以下の発明(以下、「引用例11、12発明」という。)が記載されているといえる。

「アドマテックス社製、商品名SO−C1のシリカ粉末。」

(4)引用例13、14に記載された発明
引用例13の上記1(13)ウの【0047】には、「・球形状シリカ(平均粒径2.0μm):粒径形状がほぼ球形の合成シリカ、株式会社アドマテックス製、品番「SO−C5」)」、引用例14の上記1(14)ウには、「アンチブロッキング剤として球形シリカ(アドマテックス(株)社製、SO−C5、平均粒径1.8μm、BET法比表面積2〜4m2/g、吸油量16ml/100g)0.5重量部」との記載があるところ、球形状シリカ又は球形シリカが、粉末であることは明らかであるから、引用例13、14には、以下の発明(以下、「引用例13、14発明」という。)が記載されているといえる。

「アドマテックス社製、品番SO−C5のシリカ粉末。」

(5)引用例15、16に記載された発明
引用例15の上記1(15)ウには、「無機充填剤(SC2500−SQ、アドマテックス社製)」、引用例16の上記1(16)ウには、「球状溶融シリカ(SC2500−SQ、アドマテックス株式会社製)を120質量部」との記載があるところ、無機充填剤又は球状溶融シリカが粉末であることは明らかであるから、引用例15、16には、以下の発明(以下、「引用例15、16発明」という。)が記載されているといえる。

「アドマテックス社製、品番SC2500−SQのシリカ粉末。」

(6)引用例17に記載された発明
引用例17の上記1(17)ウには、「・シリカB:比表面積17m2/g、平均粒径200nm、株式会社アドマティクス製「SO−E1」」の記載があるところ、平均粒径200nmのシリカが、粉末であることは明らかであるから、引用例17には、以下の発明(以下、「引用例17発明」という。)が記載されているといえる。

「アドマテックス社製、品番SO−E1のシリカ粉末。」

(7)引用例18、19に記載された発明
引用例18の上記1(18)ウの【0076】、【0077】には、「その無機充填剤成分としては、融解石英等の補強シリカが大抵は含まれ、表面の化学的性質を改良するための処理をしないものおよび処理したものがある。事実上、補強融解石英はどれも使用することができる。・・・特に望ましいものは、鉄の濃度が低く、比較的粒径が小さい・・・日本のアドマテックス社から商品名SO−E5のもとで市販されているもの等である。」、引用例19の1(19)ウには、「(D)無機質充填剤成分として合成シリカのアドマファインSO−E5(アドマテックス社製、商品名)」との記載があり、粒径が小さいとされるシリカや無機充填剤が、粉末であることは明らかであるから、引用例18、19には、以下の発明(以下、「引用例18、19発明」という。)が記載されているといえる。

「アドマテックス社製、商品名SO−E5のシリカ粉末。」

3 取消理由1について
上記理由は、特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)に関するものであるが、念のため、同法同条第2項の規定違反(進歩性欠如)についても判断する。

(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用例1発明を対比すると、フュームドシリカがシリカ粉末であることは、当業者にとって自明のことであり、引用例1の上記1(1)イの図1に示されるフュームドシリカの示差熱分析では、25℃から200℃を含む範囲で吸着水分の測定が行われていることから、引用例1発明の「示差熱分析で約200℃までの温度範囲で放出された吸着水分が5〜70μg/m2」の「フュームドシリカ」は、本件発明1の「25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下」である「シリカ粉末」に相当する。
そうすると、両発明は、「25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下であるシリカ粉末」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
シリカ粉末について、本件発明1は、「200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下」であるのに対し、引用例1発明は、隣接したシラノール基は、0.8×1014個/cm2である点。

<相違点2>
シリカ粉末について、本件発明1は、「レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下であ」るのに対し、引用例1発明は、レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が明らかでない点。

<相違点3>
シリカ粉末について、本件発明1は、「シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下である」のに対し、引用例1発明は、比表面積が200m2/gである点。
なお、本件発明1では、「シリカ粒子の比表面積」との記載がなされているが、本件明細書の【0025】の「シリカ粉末のBET比表面積値は、3〜50m2/gが好ましい。」との記載等によれば、「シリカ粒子」と「シリカ粉末」の用語は、同じ意味で用いられているといえる。

イ 相違点についての検討
事案にかんがみ上記相違点3について検討する。
本件発明1のシリカ粉末の比表面積と、引用例1発明のフュームドシリカの比表面積が異なるのであるから、上記相違点3は、実質的な相違点である。
次に、引用例1発明において、フュームドシリカの比表面積を、200m2/gから3〜50m2/gの範囲に変更することが、当業者が容易に想到し得るものであるのか否かについて検討する。
上記2(1)アで述べたように、引用例1発明は、フュームドシリカの具体例である比表面積が200m2/gであるといえるアエロジル200に基づくものである。そして、上記同アで述べたように引用例1発明における「示差熱分析で約200℃までの温度範囲で放出された吸着水分を測定して得られる吸着水分」の値は、不飽和ポリエステル樹脂/アエロジル200の分散系における吸着水分が増粘性に与える影響を示している上記1(1)カの図5から読み取ったアエロジル吸着H2O(%)の数値と、上記相違点3に係るアエロジル200の比表面積から算出したものであるから、引用例1発明のフュームドシリカの比表面積を変更すれば、同発明の「吸着水分」の値が変わることになる。
また、上記2(1)イで述べたように、引用例1発明における「隣接したシラノール基」の値についても、引用例1の上記1(1)ウの「この方法によるシラノール基密度は以下の通りである。
アエロジル130,200(130、200m2/g):25〜35Å2/SiOH
アエロジル300、380(300、380m2/g):30〜50Å2/SiOH
(測定精度:±2Å2/SiOH)
即ち,フュームドシリカのSiOH密度は,2〜4個/nm2であり、各々のSiOHの活性が高く,シラノール基間で水素結合することにより,液体中で網目構造を形成し,系の粘度が上昇する。」との記載等によれば、それぞれ表面積の異なるアエロジル130〜380で SiOH密度が違うことが見て取れるから、引用例1発明のフュームドシリカの比表面積を変更すれば、SiOH密度、ひいては、同発明の「隣接したシラノール基」の密度も変わることになる。
そうすると、フュームドシリカの具体例である比表面積が200m2/gであるアエロジル200に基づく引用例1発明において、発明の前提事項である比表面積の値を変更する動機付けはないし、さらには、引用例1発明におけるフュームドシリカの比表面積を変更しようとすれば、それに伴い、同発明における「吸着水分」及び「隣接したシラノール基」の値が変わってしまうのであるから、引用例1発明には、その様な発明の全体を変更することになるフュームドシリカの表面積を変更する動機付けはない。
また、引用例2〜7には、上記1(2)〜(7)に摘記した事項が記載されているが、上述のように、引用例1発明に、フュームドシリカの表面積を変更する動機付けはないのであるから、引用例2〜7の記載事項によって、引用例1発明において、フュームドシリカの表面積を本件発明1の範囲に変更することが容易に想到し得るということにはならない。
よって、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、上記相違点3は、実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1発明ではないし、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2は、引用例1発明ではないし、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3、4について
本件発明3、4は、少なくとも上記(1)アの相違点3に係る本件発明1の構成を、発明特定事項として含むものであるから、同イ及びウで述べたのと同様に、本件発明3、4は、引用例1発明ではないし、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)取消理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1〜4は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではないから、取消理由1には、理由がない。また、本件特許1〜4は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

4 申立理由1及び2について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用例2発明を対比すると、引用例2発明の「球状シリカ粉末」は、本件発明1の「シリカ粉末」に相当する。
そして、引用例2発明の[測定方法]において、測定された「200℃をこえ550℃までに発生した水分」として定義される「水素結合OH基由来の水分」量とBET比表面積値とから算出される「水素結合OH基」は、本件発明1の「200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度」に相当する。
また、引用例2の上記1(2)ウの【0018】の「本発明の金属酸化物粉末の粒度分布は、レーザー回折光散乱法による粒度測定に基づく値であり、粒度分布測定機としては、例えば「モデルLS−230」(ベックマンコールター社製)にて測定することができる。」との記載によれば、引用例2発明の「平均粒径」は、レーザー回折光散乱法による粒度測定に基づく値であるから、本件発明1の「レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径」に相当し、引用例2発明の「0.1〜2μm」の範囲は、本件発明1の「0.05μm以上2.0μm以下」の範囲に含まれている。
さらに、本件発明1の「比表面積」は、本件明細書の【0024】の「シリカ粉末の比表面積は、BET法に基づく値である。比表面積測定機としては、例えば「Macsorb HM model−1208」(MACSORB社製)を用いて測定することができる。」との記載によれば、「BET法に基づく」「比表面積」であるから、引用例2発明の「BET比表面積」は、本件発明1の「比表面積」に相当する。
そうすると、両発明は、「レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下であるシリカ粉末。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点4>
シリカ粉末について、本件発明1では、「25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下」であるのに対し、引用例2発明では、その点が明らかでない点。

<相違点5>
シリカ粉末の「200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度」について、本件発明1は、「3個/nm2以下」であるのに対し、引用例2発明では、「0〜4個/nm2」である点。

<相違点6>
シリカ粉末の「比表面積」について、本件発明1では、「3m2/g以上50m2/g以下」であるのに対し、引用例2発明では、「2〜20m2/g」である点。

イ 相違点についての検討
(ア)まず、上記相違点4について検討する。
引用例2発明では、「水分気化装置に試料を入れ、加熱昇温しながら発生した水分をカールフィッシャー電量滴定法にて測定したときに、温度200℃までに発生した水分」を「物理的吸着水」と定義することが特定され、この「水分」量は、本件発明1の「25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量」に相当するといえるが、引用例2には、この水分量がどの程度であるのか、また、この水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度がどの程度であるのか、何の記載もないのであるから、上記相違点4は、実質的な相違点である。
(イ)次に、引用例2発明において、球状シリカ粉末表面のH2O密度を5μg/m2以上80μg/m2以下の範囲とすることが、当業者が容易に想到し得るものであるのか否かについて検討する。
引用例2発明は、上記1(2)イの【0008】の「本発明の目的は、半導体封止材料の流動性と成形性改善効果に優れ、機械的強度およびはんだ耐熱性を高めることができる金属酸化物粉末とその製造方法、およびそれを用いた樹脂組成物、特に半導体封止材料を提供することである。」との記載によれば、樹脂組成物である半導体封止材料の流動性と成形性改善効果に優れ、機械的強度およびはんだ耐熱性を高めることができる金属酸化物粉末(球状シリカ粉末)を得ることを発明の課題としている。
そして、同ウの【0015】の「本発明の金属酸化物粉末は、その平均粒径が0.1〜2μm、BET比表面積が2〜20m2/gであり、粒子表面の孤立OH基の濃度が3〜8個/nm2である。平均粒径が0.1μm未満又は比表面積が20m2/gを超えるか、又は平均粒径が2μmを超え、比表面積が2m2/g未満であると、樹脂組成物の流動性、成形性改善効果が不十分となる。・・・また、孤立OH基の濃度が3個/nm2未満では樹脂と金属酸化物粉末との分散性、密着性を向上させるシランカップリング剤の反応サイトが少なくなり、8個/nm2より多いとシランカップリング剤の反応サイトよりも余剰のOH基を有することになり、逆に吸湿性が増大し樹脂組成物の信頼性が低下する。」及び同ウの【0016】の「本発明の金属酸化物粉末の水素結合OH基の濃度は、0〜4個/nm2、特に0〜3個/nm2であることが好ましい。更に好ましくは、「水素結合OH基の濃度」と「孤立OH基の濃度」との合計に対する「孤立OH基の濃度」の比率が50〜80%、特に60〜70%とすることである。この比率が50%未満だと、樹脂と金属酸化物粉末との分散性、密着性を向上させるシランカップリング剤の反応サイトが少なく、逆にカップリング剤との反応に直接寄与しない吸湿性の強い水素結合OH基の割合が多くなることを意味し、樹脂組成物、特に半導体封止材料では、機械的強度とはんだ耐熱性が低下する。一方、上記比率が80%を超えると、シランカップリング剤のインテグラル添加の際、加水分解に必要な水分の供給源である水素結合OH基の割合が少なく、シランカップリング剤の加水分解が不十分となり金属酸化物粉末との反応性が悪くなる。」との記載によれば、引用例2発明は、上記の発明の課題を解決するため、球状シリカ粉末の平均粒径及びBET比表面積を所定の範囲とすることで、樹脂組成物の流動性、成形性改善効果を図り、孤立OH基の濃度を所定の範囲とすることで、樹脂と球状シリカ粉末との分散性、密着性を向上させるシランカップリング剤との十分な反応を図り、さらに、「水素結合OH基の濃度」と「孤立OH基の濃度」との合計に対する「孤立OH基の濃度」の比率を所定の範囲にすることで、シランカップリング剤のインテグラル添加の際、加水分解に必要な水分の供給源である水素結合OH基の割合を適切な範囲とし、樹脂組成物、特に半導体封止材料での機械的強度とはんだ耐熱性、シランカップリング剤のインテグラル添加の際のシランカップリング剤の加水分解を十分なものとすることを図っていることが分かる。
以上によれば、引用例2発明は、発明の課題の解決において球状シリカ粉末表面のH2O密度について何ら着目するものではないといえる。また、引用例2の同ウの【0016】の上記の記載によれば、「水素結合OH基」が吸湿性に関連することが記載されているが、この吸湿によってもたらされる水分量には何ら着目していないといわざるを得ない。
そうすると、引用例2発明には、球状シリカ粉末表面のH2O密度を、所定の範囲、さらには本件発明1に特定される所定の範囲とする動機付けはないというべきである。
(ウ)そして、そもそも、引用例2発明には、球状シリカ粉末表面のH2O密度を所定の範囲とする動機付けはないのであるから、この点に関し他の引用例に記載の事項を組み合わせることができるとはいえないが、念のため、引用例8、1、9及び10を検討する。
引用例8には、引用例8の上記1(8)イの記載によれば、BET比表面積20〜55m2/gの親水性乾式シリカには、シリカの保存期間が長くなるほど、これを充填剤として添加した樹脂組成物の粘度が高くなる傾向があり、長期間保存した該シリカを使用すると半導体の封止、成形、実装が困難になるという問題があったのに対し(【0005】)、BET比表面積20〜55m2/gの親水性乾式シリカにおいては、その保存期間中に、該シリカの表面に吸着した水分が、該シリカの粒子間凝集を促進かつ強固にし、その凝集が樹脂組成物の粘度を上昇させているとの知見に基づき、製造から使用時までの該シリカの水分量をある値以下に維持するよう保存することで、該シリカを使用した場合の樹脂組成物の粘度上昇を抑制する(【0007】)ことが記載され、具体的には、同アに、BET比表面積が20〜55m2/gの親水性乾式シリカを、下記式(1)
w ≦ 0.01×S ・・・(1)
(上記式中、wは130℃での乾燥減量法により測定される親水性乾式シリカの水分量(wt%)であり、Sは親水性乾式シリカのBET比表面積(m2/g)である。)を満足するように製造された親水性乾式シリカを、使用時まで保存することが記載されている。
以上によれば、引用例8の記載からは、BET比表面積20〜55m2/gの親水性乾式シリカにおいて、シリカ表面に水分が吸着すると、該シリカの粒子間凝集が促進され、その凝集が樹脂組成物の粘度の上昇を引き起こすため、製造から使用時までの該シリカの水分量をある値以下に維持するよう保存すること、すなわち、該シリカ表面に水分が吸着されていない状態を保つことが記載されているといえる。
しかしながら、引用例8に記載のシリカは、単なるBET比表面積20〜55m2/gの親水性乾式シリカであるのに対し、引用例2発明の球状シリカ粉末は、引用例2の上記1(2)エの【0033】に記載されるように製造時に、火炎中で金属粉末を酸化させる際に、あえて水蒸気を供給し、粉末表面の「孤立OH基濃度」をコントロールして製造された、「粒子表面の水素結合OH基の濃度が、0〜4個/nm2、孤立OH基の濃度が3〜8個/nm2であり、両者の合計に対する孤立OH基の比率が、50〜80%である球状シリカ粉末」である。
そうすると、引用例2発明の球状シリカ粉末は、引用例8に記載のシリカと同じものであるとはいえず、引用例8を参照したとしても、引用例2発明の球状シリカ粉末において、引用例8の上記1(8)イの【0007】に記載される「保存期間中に、該シリカの表面に吸着した水分が、該シリカの粒子間凝集を促進かつ強固にし、その凝集が樹脂組成物の粘度を上昇させている」といった表面吸着水に関する事象が、引用例8に記載のシリカと同様に発生すると理解することができないから、当業者であっても、引用例8に記載される、製造から使用時までのシリカの水分量をある値以下に維持するようシリカを保存すること、すなわち、該シリカ表面に水分が吸着されていない状態を維持することを、引用例2発明の球状シリカ粉末に適用することを着想し得るとはいえない。
また、引用例1の上記1(1)カの図5より、アエロジル200の吸着水分量がおよそ0,4%から2.3%までは吸着水分量の増加とともに共に不飽和ポリエステル樹脂組成物の粘度が上昇していることが見て取れ、引用例9の上記1(9)イの【0007】には、「シリカフームの構成粒子が相互接触状態にあり、かつ若干の湿分が存在すれば、凝集化による塊粒化を引き起こし、一旦生成した凝集塊粒は容易に元の超微細粒に戻り得ないため表面活性の低下をきたすという根本問題の発生原因ともなっている。」と記載され、引用例10の上記1(10)アには、シリカについて、「水酸基の存在によりフィラーの凝集や水分吸着が進行したり、エラストマー中での分散不良を起こしたりする」と記載されているが、上記引用例8に記載のシリカの場合と同様に、引用例2発明の「粒子表面の水素結合OH基の濃度が、0〜4個/nm2、孤立OH基の濃度が3〜8個/nm2であり、両者の合計に対する孤立OH基の比率が、50〜80%である球状シリカ粉末」は、引用例1に記載されるアエロジル200、引用例9及び引用例10に記載されるシリカと異なるものであるから、引用例1、9及び10に記載される事項が、引用例2発明の球状シリカについても当てはまるということはできない。そうである以上、引用例1、9及び10に記載の事項に基づいて、引用例2発明の球状シリカ粉末において、表面に水分が吸着されていない状態を維持することを想到するとはいえない。
(エ)なお、異議申立人1は、特許異議申立書において、本件明細書の【0030】〜【0044】に記載される実施例及び比較例における、本件発明1の吸着水分を達成するための条件が、通常の大気暴露であるといえる「温度25℃、湿度60%の環境」で168時間(一週間)以下であること、そして、実際シリカを製造する場面において、水分の吸着が好ましくないことは技術常識であり、製造したシリカを一週間以上も室内に大気暴露した状態で放置することは考えられず、引用例2発明のシリカにおいても、冷却が終了すれば、容器(袋、瓶等)に収納されるのが当然であることから、引用例2発明のシリカの暴露時間は、本件発明1の実施例における暴露時間と同程度であり、吸着水分量(H2O密度)も同程度となる蓋然性が高いとし、本件発明1は、引用例2発明であることを主張している(18頁7行〜19頁末行)。
しかしながら、異議申立人1の主張の前提である上記技術常識において、その根拠となる引用例8、1、9、10に記載されるシリカは、上述のように引用例2発明の球状シリカ粉末とは異なるものであるから、上記技術常識が、単純に引用例2発明の球形シリカにも当てはまるとすることはできない。
したがって、異議申立人1の上記の主張は、採用することができない。

ウ 小括
以上のとおり、上記相違点4は、実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例2発明ではないし、上記相違点4に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例2発明及び引用例2、1、9及び10に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2は、引用例2発明ではないし、引用例2発明及び引用例2、8、1、9及び10に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3、4について
本件発明3、4は、少なくとも上記(1)アの相違点4に係る本件発明1の構成を、発明特定事項として含むものであるから、同イ及びウで述べたのと同様に、本件発明3、4は、引用例2発明ではないし、引用例2発明及び引用例2、8、1、9及び10に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立理由1及び2に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1〜4は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1及び2には、理由がない。

5 申立理由3について
(1)申立理由3の概要
申立理由3は、要するに、設定登録時の請求項2に係る発明で特定される分散粒径比は、同請求項1に係る発明の構成を有していれば、必然的に達成されるパラメータに過ぎないと判断できるが、そうでないのであれば、本件明細書に、分散粒径比を達成するための手段についての記載はないため、「分散粒径比」に対応する本件明細書の記載は、実施可能要件を満たしていないというものである。

(2)申立理由3に対する判断
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきものであるところ、本件明細書の【0030】〜【0045】には、本件発明の実施例、比較例が記載され、【0031】に、本件発明に係る球状シリカ粉末の具体的な製造方法が記載され、同【0032】には、「温度25℃、湿度60%の環境下に球状シリカ粉末を暴露し、暴露時間を調整」することにより、「シリカ粒子表面のH2O密度および水素結合性OH基密度の調整」を行うことが記載され、【表1】及び【表3】には、本件発明の「シリカ粒子表面のH2O密度」、「水素結合OH基密度」、「体積平均粒径」、「シリカ粒子の比表面積」及び「分散粒径比」が本件発明の範囲を満足する球状シリカ粉末が製造されたことが記載されている。
そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例等の記載及び必要に応じて出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2の「分散粒径比」を満足するシリカ粉末を製造することができるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、「分散粒径比」の条件を含む本件発明2について、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されているものというべきである。
したがって、申立理由3には、理由がない。

6 申立理由4について
(1)申立理由4の概要
申立理由4は、要するに、以下のとおりのものである。
設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、水や溶剤や樹脂中に容易に一次粒子まで分散することができるシリカ粉末を提供することを発明の課題とし、この課題は、シリカ粉末の表面H2O密度および水素結合OH基密度を所定範囲とすることで解決できるとされているが、シリカ粉末の凝集性や分散性は、単に水分量によってのみ制御されるものではなく、一旦吸水したシリカ粉末を乾燥しても、シリカ粉末の凝集性や分散性は改善されず、むしろ物性が低下するから、同請求項1に係る発明で特定されるシリカの表面H2O密度及び水素結合OH基密度を満足しても、それが一旦吸水したものを乾燥したものであれば、本件発明の課題を解決することはできない。
そうすると、同請求項1〜4に係る発明は、発明の課題を解決できないものを含むことが明らかであり、サポート要件を満足するものとはいえない。

(2)申立理由4に対する判断
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきところ、上記申立理由4の概要でも述べられているとおり、本件発明は、水や溶剤や樹脂中に容易に一次粒子まで分散することができるシリカ粉末を提供することを発明の課題とし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、この課題が、シリカ粉末の表面H2O密度および水素結合OH基密度を所定範囲とすることで解決できるとされ、本件発明1(及び本件発明1を引用する本件発明2〜4)には、それらの範囲が特定されているのであるから、本件発明は、サポート要件を満たしているということができる。
そして、上記理由では、一旦吸水したシリカ粉末を乾燥しても、シリカ粉末の凝集性や分散性は改善されず、むしろ物性が低下するから、設定登録時の請求項1に係る発明で特定されるシリカの表面H2O密度及び水素結合OH基密度を満足しても、それが一旦吸水したものを乾燥したものであれば、本件発明の課題を解決することはできない、としているが、その根拠となる引用例8の記載事項は、吸水したシリカ粉末を乾燥してしまうと、引用例8の上記1(8)アの式(1)の条件「w ≦ 0.01×S ・・・(1)
(上記式中、wは130℃での乾燥減量法により測定される親水性乾式シリカの水分量(wt%)であり、Sは親水性乾式シリカのBET比表面積(m2/g)である。)」を満足するようにシリカを維持したとしても、凝集が促進、凝集が強固になり、一層物性が低下することを示しているものであって、一旦吸水したシリカ粉末を乾燥した際に、シリカ粉末表面のH2O密度、及び水素結合OH基密度が本件発明1の範囲となった場合でも、上記の一層の物性の低下が起こることを示すものではないから、このような引用例8の記載事項を基に、本件発明がサポート要件を満たしていないとすることはできない。
そうすると、申立理由4には、理由がない。

7 申立理由5及び6について
(1)本件発明1について
ア 引用例11、12発明に対して
(ア)対比
本件発明1と引用例11、12発明を対比すると、両者は、「シリカ粉末」の点では一致するが、引用例11、12発明におけるシリカ粉末の「シリカ粒子表面のH2O密度」、「水素結合OH基密度」、「体積平均粒径」及び「シリカ粒子の比表面積」が、本件発明1の範囲にあるのか否かが不明な点で相違している。

(イ)相違点についての検討
上記相違点について検討する。
引用例11、12には、アドマテックス社製、商品名SO−C1のシリカ粉末について、上記(ア)における物性値を示す記載はない。また、引用例11の上記1(11)ア及びイの記載によれば、引用例11に記載の事項は、樹脂組成物を対象とし、引用例12の上記1(12)ア及びイの記載によれば、引用例12に記載の事項は、液晶表示素子用シール剤を対象とし、何ら、商品名SO−C1のシリカ粉末自体に着目するものではなく、このシリカ粉末に対して何らかの改良を加えようとするものではないから、引用例11、12発明には、シリカ粉末を、上記(ア)における物性値を備えるものとする動機付けはない。
ここで、異議申立人2による特許異議申立書には、「SO−C1について、株式会社アドマテックスよリサンプルとして取得し、本願特許発明と比較した結果を下記表1に示す。これらの値の算出方法については本願明細書に基づいて行った。以下の表についても同じである。表には、本願発明の構成要素A〜Eが、その範囲と共に記載されておリ、測定値(又は算出値)が対応する構成要素の範囲に含まれるか否かが分かるようになっている。以下の表についても同様である。
・表1:SO−C1について

表より明らかなように、SO−C1は、本願特許発明の構成要素A〜E(A、B、C、D1〜D3、及びE)を充足する。」(第8頁2行〜下から8行)と記載されているから、申立理由5、6は、引用例11、12発明におけるシリカ粉末の「シリカ粒子表面のH2O密度」、「水素結合OH基密度」、「体積平均粒径」及び「シリカ粒子の比表面積」が、本件発明1の範囲を満たすことを前提としていることが分かる。
しかしながら、上記特許異議申立書の記載内容については、例えば、正確な実験を行える者が実験を行っているのか、正確な実験を行う設備を有し客観性の担保が可能な機関で実験を行っているのか等が不明であるため、アドマテックス社製、商品名SO−C1の物性値を正確に表しているものとして受け入れることはできない。この点は、令和3年9月21日に提出された異議申立人2による意見書の記載についても同様である。また、引用例11、12発明におけるSO−C1と、異議申立人2が入手したSO−C1のサンプルは、同じ品番であることから代表的なシリカ粉末の物性値については、それ程の違いはないであろうことは推測できるとしても、物性値として管理されているとはいえない、例えば本件発明1に係るシリカ粉末の「シリカ粒子表面のH2O密度」や、「水素結合OH基密度」までもが一致しているとすることはできない。
さらには、本件明細書の【0041】の【表1】及び【0042】の【表2】の記載には、温度25℃、湿度60%の環境下における暴露(【0032】)の時間が長くなるほど、シリカ粉末の「シリカ粒子表面のH2O密度」や、「水素結合OH基密度」が大きくなっていく傾向が示されている。この結果によれば、SO−C1が防湿環境で保管されているとしても、実際の使用のため、防湿環境を脱し実際に使用されるまでの時間や暴露環境によって、シリカ粉末の「シリカ粒子表面のH2O密度」や、「水素結合OH基密度」は変化することになる。このような経時変化を勘酌すると、引用例11、12発明におけるSO−C1が、仮に防湿環境で保管されていたものであったとしても、防湿環境を脱してから実際に使用(樹脂等に混合)するまでの条件が不明であるから、そもそも、引用例11、12発明におけるSO−C1の「シリカ粒子表面のH2O密度」や、「水素結合OH基密度」を、実験により明らかにすることはできないというほかない。
そうすると、引用例11、12発明のシリカ粉末の「シリカ粒子表面のH2O密度」、「水素結合OH基密度」、「体積平均粒径」及び「シリカ粒子の比表面積」が、特許異議申立書に記載される上記の値であるとすることはできず、引用例11、12発明のシリカ粉末の上記物性値が、本願発明1の範囲にあるとすることはできないから、上記前提には誤認があるといわざるを得ない。

(ウ)小括
本件発明1は、引用例11、12発明ではないし、引用例11、12発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、引用例18、19発明に対して
(ア)対比
本件発明1と、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、引用例18、19発明をそれぞれ対比すると、上記ア(ア)で述べたのと同様に、これらの発明におけるシリカ粉末の「シリカ粒子表面のH2O密度」、「水素結合OH基密度」、「体積平均粒径」及び「シリカ粒子の比表面積」が、本件発明1の範囲にあるのか否かが不明な点で相違している。

(イ)相違点についての検討
上記相違点について検討する。
引用例13、14には、アドマテックス社製、品番SO−C5のシリカ粉末について、引用例15、16には、アドマテックス社製、品番SC2500−SQのシリカ粉末について、引用例17には、アドマテックス社製、品番SO−E1のシリカ粉末について、引用例18、19には、アドマテックス社製、商品名SO−E5のシリカ粉末について、上記アにおける物性値を示す記載はないし、引用例13〜19における上記1(13)〜(19)の記載によれば、引用例13〜19のいずれの記載事項も、上記のそれぞれのシリカ粉末自体に着目するものではなく、これらのシリカ粉末に対して何らかの改良を加えようとするものではないから、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、引用例18、19発明には、それぞれの「シリカ粉末」を、上記(ア)における物性値を備えるものとする動機付けもない。
ここで、異議申立人2による特許異議申立書は、上記ア(イ)で述べた、「SO−C1」の場合と同様に、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、引用例18、19発明における「SO−C5」、「SC2500−SQ」、「SO−E1」、「SO−E5」のサンプルを入手し、それらのサンプルでの測定値(又は算出値)が本件発明1の物性値の範囲に含まれていることを示す結果を示しているが(9頁10行〜15頁1行)、上記ア(イ)で述べたのと同様の理由により、当該結果に基づいて、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、引用例18、19発明のシリカ粉末の「シリカ粒子表面のH2O密度」、「水素結合OH基密度」、「体積平均粒径」及び「シリカ粒子の比表面積」が、本願発明1の範囲にあるとすることはできない。

(ウ)小括
本件発明1は、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、引用例18、19発明ではないし、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

ウ 本件発明1に関するまとめ
本件発明1は、引用例11、12発明、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、及び引用例18、19発明ではないし、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2は、引用例11、12発明、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、及び引用例18、19発明ではないし、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(3)本件発明3、4について
本件発明3、4は、上記(1)において引用例11〜19には記載されていないし当業者が容易に想到し得るものではないとした、本件発明1の「シリカ粒子表面のH2O密度」、「水素結合OH基密度」、「体積平均粒径」及び「シリカ粒子の比表面積」の内、「シリカ粒子表面のH2O密度」、「水素結合OH基密度」及び「シリカ粒子の比表面積」の範囲を、発明特定事項として含むものであるから、上記(1)で述べたのと同様に、本件発明3、4は、引用例11、12発明、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、及び引用例18、19発明ではないし、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明5、6について
本件発明5、6は、「シリカ粉末の製造方法」に係る発明であるところ、本件発明5、6には、「冷却された前記球状シリカ粉末の含むシリカ粒子表面の、25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出されるH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下、かつ、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下であるようにして、防湿環境中に保存する」との特定があるから、本件発明5、6の「シリカ粉末の製造方法」は、「25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下であり、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下であるシリカ粉末」を発明特定事項に実質的に含むことになる。
そして、引用例17発明の「SO−E1」が、これらの物性を備えているとはいえないことは、上記(1)イで述べたとおりである。また、引用例20、21の上記1(20)(21)に摘記した事項を見ても、上記のシリカ粉末の物性に関する何らの記載もないから、上記の物性を備えたシリカ粉末が、引用例20、21に記載されているとはいえない。
そうすると、本件発明5、6は、引用例17発明ではないし、引用例20、21に記載された発明でもない。
また、上記の特定の範囲のシリカ粒子表面のH2O密度及び水素結合OH基密度を有するシリカ粉末が、引用例11、12発明、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、引用例18、19発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではないことは、上記(1)ア及びイで述べたとおりであるし、引用例20、21の上記1(20)(21)に摘記した事項を見ても、上記のシリカ粉末の物性に関する何らの記載もないから、上記の特定の範囲のシリカ粒子表面のH2O密度及び水素結合OH基密度を有するシリカ粉末は、引用例20、21に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。さらに、引用例11〜21に記載の事項を組み合わせたとしても、上記の特定の範囲のシリカ粒子表面のH2O密度及び水素結合OH基密度を有するシリカ粉末の構成には至らない。
そうすると、本件発明5、6は、引用例11、12発明、引用例13、14発明、引用例15、16発明、引用例17発明、及び引用例18、19発明、引用例20、21に記載された発明、さらにはこれらを組み合わせたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)申立理由5及び6に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1〜6は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由5及び6には、理由がない。

第6 むすび

上記第5で検討したとおり、本件特許1〜6は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1及び上記申立理由1〜6では、本件特許1〜6を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1〜6を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下であり、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下であり、レーザー回折式粒度分布測定機により算出される体積平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下であり、シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であることを特徴とするシリカ粉末。
【請求項2】
(水またはメチルエチルケトンに分散する前の平均粒径/分散後の平均粒径)の値が1.50以下であることを特徴とする請求項1記載のシリカ粉末。
【請求項3】
25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出される、シリカ粒子表面のH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下であり、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が0.5個/nm2以上、3個/nm2以下であり、シリカ粒子の比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であることを特徴とするシリカ粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリカ粉末を含んだ樹脂組成物。
【請求項5】
金属シリコンを加熱して反応させることにより、雰囲気の露点および水の沸点より高温の状態にある球状シリカ粉末を得る工程と、
前記球状シリカ粉末を、雰囲気の露点および水の沸点より高温の状態で回収して、水が実質的に存在しない雰囲気下で、雰囲気の露点および水の沸点より低温の状態になるよう冷却する工程と、
冷却された前記球状シリカ粉末の含むシリカ粒子表面の、25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出されるH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下、かつ、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下であるようにして、防湿環境中に保存する工程と
を含むことを特徴とする、シリカ粉末の製造方法。
【請求項6】
金属シリコンを加熱して反応させることにより、雰囲気の露点および水の沸点より高温の状態にある球状シリカ粉末を得る工程と、
前記球状シリカ粉末を、雰囲気の露点および水の沸点より高温の状態で回収して、温度40℃以下且つ絶対湿度40g/m3以下の雰囲気下において、170時間よりも短い期間で冷却する工程と、
冷却された前記球状シリカ粉末の含むシリカ粒子表面の、25℃から200℃に加熱した際に発生する水分量より算出されるH2O密度が5μg/m2以上80μg/m2以下、かつ、200℃から550℃に加熱した際の水分量により算出される水素結合OH基密度が3個/nm2以下であるようにして、防湿環境中に保存する工程と
を含むことを特徴とする、シリカ粉末の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-10 
出願番号 P2019-571087
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 536- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 後藤 政博
原 賢一
登録日 2020-08-04 
登録番号 6745005
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 分散性に優れたシリカ粉末およびそれを用いた樹脂組成物、ならびにその製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ