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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01F
管理番号 1387469
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-15 
確定日 2022-05-24 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6759327号発明「酸化カルシウム粉末及び吸着剤並びに酸化カルシウム粉末の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6759327号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。 特許第6759327号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6759327号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)2月27日(優先権主張 平成28年2月29日 日本国)を国際出願日として出願され、令和2年9月4日にその特許権の設定登録がされ、同年9月23日に特許掲載公報の発行がされた。
その後、その請求項1〜5に係る特許に対して、令和3年3月15日に特許異議申立人横川将也(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立てがされた。その後の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和3年 7月 6日付け 取消理由通知
同年 9月13日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年10月12日 特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年11月10日 特許権者との面接
同年12月 9日 特許権者による上申書の提出
同年12月20日 特許権者による上申書の提出
令和4年 1月 4日付け 申立人に対する訂正請求があった旨の通知
同年 2月 3日 申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年10月12日提出の手続補正書(方式)により補正された、同年9月13日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1〜5を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「平均粒子径が10μm以下であり、」、「水蒸気吸着量が200ml/g以上である」と記載されているのを、それぞれ「平均粒子径が10nm以上10μm以下であり、」、「水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下である」に訂正する。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
・訂正事項1について
訂正事項1は、願書に添付された明細書の段落【0018】及び【0021】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「平均粒子径」及び「水蒸気吸着量」の数値範囲を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に併せて「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
平均粒子径が10nm以上10μm以下であり、BET比表面積10〜30m2/gの範囲内であり、塩基度が25〜100μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧100Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下であることを特徴とする酸化カルシウム粉末。
【請求項2】
粒度分布(D90)が1〜8μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の酸化カルシウム粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化カルシウム粉末を含有することを特徴とする吸着剤。
【請求項4】
請求項1に記載の酸化カルシウム粉末の製造方法であって、
500〜700℃の範囲内の条件下で水酸化カルシウムを大気中で焼成して酸化カルシウムを生成する焼成工程と、
前記酸化カルシウムを粉末状に粉砕する粉砕工程と、を備えることを特徴とする酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記粉末状の前記酸化カルシウムを分級する分級工程をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の酸化カルシウム粉末の製造方法。」

第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和3年7月6日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1、2の酸化カルシウムの製造方法は記載されているものの、酸化カルシウムの平均粒子径、BET比表面積、塩基度、及び、水蒸気吸着量の調整方法が明らかでなく、設定登録時の請求項1に係る発明のうち、実施例1、2以外の酸化カルシウムの製造方法を当業者が理解できないから、発明の詳細な説明は、設定登録時の請求項1〜5に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないし、また、出願時の技術常識に照らしても、当該請求項1〜5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
したがって、設定登録時の請求項1〜5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2
設定登録時の請求項1に記載された「塩基度」及び「水蒸気吸着量」は、どのような吸着条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着温度、吸着時間)に基づく数値であるのかが明らかでないため、設定登録時の請求項1〜5に係る発明は明確でないし、また、当該請求項1に記載された「塩基度」及び「水蒸気吸着量」の各値は一義的に定まらず、設定登録時の請求項1〜5に係る発明を満たしていることを確認できないため、当業者が当該請求項1〜5に係る発明の物を製造することができないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当該請求項1〜5に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
したがって、設定登録時の請求項1〜5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由1について
ア 取消理由1についての検討
特許権者の主張をふまえて、取消理由1について再度検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0039】には、実施例1として、水酸化カルシウム微粉末(CH−2N 宇部マテリアルズ株式会社製)を大気中で600℃、10時間焼成し、窒素雰囲気下ジェットミル(STJ−200 株式会社セイシン企業製)を用いて供給量5kg/h、圧力0.7MPaの条件で粉砕することで、BET比表面積が17.0m2/g、塩基度が45.9μmol/m2、水蒸気圧100Paでの水蒸気吸着量が265ml/g、平均粒子径が1.8μm、D90が3.1μmである酸化カルシウム粉末が得られること、及び、段落【0040】には、実施例2として、水酸化カルシウム微粉末(CH−2N 宇部マテリアルズ株式会社製)を大気中で600℃、10時間焼成し、窒素雰囲気下ジェットミル(STJ−200 株式会社セイシン企業製)を用いて供給量2kg/h、圧力0.7MPaの条件で粉砕することで、BET比表面積が16.8m2/g、塩基度が36.5μmol/m2、水蒸気圧100Paでの水蒸気吸着量が232ml/g、平均粒子径が1.8μm、D90が3.2μmである酸化カルシウム粉末が得られることが具体的に記載されている。
加えて、発明の詳細な説明には、焼成温度が酸化カルシウムの結晶性やBET比表面積に影響すること(段落【0029】)、焼成雰囲気が酸化カルシウムの結晶性に影響すること(段落【0030】)、酸化カルシウムの結晶性が、水分や酸性ガスの吸着性に影響すること(段落【0029】、【0030】)、酸化カルシウムのBET比表面積が水分や酸性ガスの吸着性に影響すること(段落【0029】)、及び、粉砕工程により酸化カルシウムの粒子径を小さく、BET比表面積を高くできること(段落【0031】)が記載されている。
そうしてみると、これら記載や出願時の技術常識を併せ考えれば、当業者であれば、上記実施例1、2の具体的な製造方法を参考にしつつ、焼成工程における焼成温度などの焼成条件や粉砕工程における粉砕条件を調整することによって、本件発明1の酸化カルシウムを製造することを理解できるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを引用する本件発明2〜5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
さらに、当業者が、発明の詳細な説明や出願時の技術常識に基づき、本件発明1の酸化カルシウムを製造することを理解できることからして、発明の詳細な説明に開示された内容を本件発明1〜5の範囲まで拡張ないし一般化できることも理解できる。
イ 申立人の主張についての検討
申立人は、(i)本件特許明細書の段落【0029】〜【0033】の記載は具体的に立証されたものでないこと、及び、(ii)酸化カルシウムから水酸化カルシウムに変化する際の水分量と水酸化カルシウムの水分吸着量の合計量が最大586ml/gであることを論拠にして、水蒸気吸着量を200〜1000ml/gの範囲とすることができることが依然として不明であることを主張している(令和4年2月3日提出の意見書第1頁(1)の項目、第3頁(2)の項目参照)。
そこで、これらの点について検討すると、本件特許明細書の上記記載箇所には、本件発明1〜5に係る諸物性の影響因子について説明されており、当該説明により、おおよその諸物性の調整が可能であることは、前記アのとおりであり、当該記載が技術常識に反していることを示す証拠もないし、また、本件発明1の酸化カルシウムの水蒸気吸着量が、申立人の前提とするような吸着経路で進むことを示す証拠もないため、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 取消理由1についての結論
以上のとおりであるから、取消理由1に理由はない。
(2)取消理由2について
ア 取消理由2についての検討
(ア)「塩基度」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、塩基度の測定方法について、次のとおりに記載されている。
「【0036】
[塩基度の測定方法]
二酸化炭素の吸着量は昇温式脱離吸着過程測定(CO2−TPD)法を測定して1gあたりの二酸化炭素吸着量を算出し、下記の式により、塩基度を換算した。二酸化炭素の昇温式脱離吸着過程測定(CO2−TPD)は、BELCAT−B(日本ベル株式会社製)を用いて測定した。
塩基度(μmol/m2)= 1gあたりの二酸化炭素吸着量(μmol/g)/比表面積(m2/g) ・・・式」
そこで、BELCAT−B(日本ベル株式会社製)を用いた二酸化炭素の昇温式脱離吸着過程測定(CO2−TPD)法における吸着条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着温度、吸着時間)について検討すると、多和田尚吾、「昇温脱離・反応スペクトル分析」、Journal of the Japan Society of Colour Material、2013年、第86巻、第1号、第20〜25頁(以下、「参考文献」という。)には、次の事項が記載されている。
「4.2 二酸化炭素TPD
・・・
代表的測定条件はアンモニアTPDに近く,50mgの試料をセットし,50cm3/min[S.T.P]のヘリウム流通下10℃/minで500℃まで昇温する。そのまま60min維持し,100℃まで冷却する。30min二酸化炭素を流通させて飽和吸着させた後,ヘリウムを15min流通し,そこから10℃/minで600℃まで昇温して脱離する二酸化炭素を測定する。試料によって前処理温度や昇温測定の目標温度を変更する必要がある。」(第23頁右欄)
前記参考文献は、日本ベル株式会社所属の多和田による論文であることをふまえると、日本ベル株式会社製測定装置を用いたCO2−TPD法では、吸着温度を100℃とし、100℃で二酸化炭素が飽和吸着できるような条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着時間)で実施することが一般的な測定条件であるといえる。
そうしてみると、本件発明1の「塩基度」は、BELCAT−B(日本ベル株式会社製)を用いたCO2−TPD法により、吸着温度を100℃とし、100℃で二酸化炭素が飽和吸着できるような条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着時間)で測定された二酸化炭素吸着量から算出された値であると解することが自然である。
(イ)「水蒸気吸着量」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、水蒸気吸着量の測定方法について、次のとおりに記載されている。
「【0037】
[水蒸気吸着量の測定方法]
水蒸気吸着量は、高精度全自動ガス吸着装置 BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いて水蒸気吸着等温線を測定し、水蒸気圧100Paでの酸化カルシウム1gあたりの水分吸着量(ml/g)を測定した。水分吸着量は、標準状態(0℃、1気圧)における気体の体積に換算した値である。」
そこで、BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いた水蒸気吸着量測定の吸着条件(吸着ガス濃度、吸着ガス流量、吸着温度、吸着時間)について検討すると、例えば、特開平11−116236号公報の段落【0014】の記載、特開2004−168885号公報の段落【0051】の記載、さらには、申立人が令和4年2月3日提出の意見書に添付して提出した甲第10号証(「ガス/蒸気吸着測定のための試料前処理」、Technical Sheet、大阪産業技術研究所、2020年2月13日、No.19−13)の第2頁右欄第9〜10行の記載からみて、水蒸気吸着量は、25℃における値を示すことが一般的であるし、前記(ア)での検討と同様に、その他の測定条件については、当該温度で水蒸気が飽和吸着できるような条件で実施することが一般的であるといえる。
そうしてみると、本件発明1の「水蒸気吸着量」は、BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いて、水蒸気圧100Pa、吸着温度25℃とし、水蒸気が飽和吸着できるような条件で測定された値であると解するのが自然である。
(ウ)小括
前記(ア)及び(イ)で検討したとおり、本件発明1の「塩基度」及び「水蒸気吸着量」の値は一義的に決まるものであるから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2〜5は明確であるし、また、製造された酸化カルシウムが本件発明1〜5を満たすかどうかを確認できるから、前記(1)アで検討したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
イ 申立人の主張についての検討
申立人は、水蒸気吸着量測定における前処理条件が明らかでないことを論拠にして、本件発明1の「水蒸気吸着量」の値が明確でない旨を主張している(令和4年2月3日提出の意見書第6頁(3−3)の項目参照)。
そこで、この点について検討すると、水蒸気吸着量を測定することからして、当該水蒸気の吸着に影響のある分子の全てをあらかじめ除去できるように前処理していることは明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 取消理由2についての結論
以上のとおりであるから、取消理由2に理由はない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第4の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:株式会社MCエバテック、分析報告書、2020年11月9

甲第2号証:特許第3417490号公報
甲第3号証:松田応作他、「消石灰の炭酸化について」、Gypsum & Lime
、1968年、第97号、第245〜252頁
甲第4号証:山添昇他、「酸化カルシウム−アルミナ系触媒の塩基性およ
びガス吸着特性」、石油学会誌 Journal of the Japan Petr
oleum Institute、1980年、第23巻、第6号、第39
7〜402頁
甲第5号証:特開2018−2574号公報
甲第6号証:(有)坂本石灰工業所「キングドライ」ウエブページ、[2
020年11月24日検索]、インターネット、<URL:http
s://sakamoto-lime.com/new/archives/product/%E3%82%AD%E
3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4>、及び、
「製品安全データシート」、[2020年11月24日検索
]、インターネット、<URL:https://sakamoto-lime.com/ne
w/wp-content/uploads/2017/07/%E4%B9%BE%E7%87%A5%E5%89%
A4IC-MSDS.pdf>
甲第7号証:特開2006−21945号公報
甲第8号証:木本潤一他、「生石灰の微粉砕について」、石灰、昭和61
年4月25日、第364号、第15〜23頁
甲第9号証:株式会社UBE科学分析センター「アルミナビーズの水蒸気
吸着等温線測定」ウエブページ、インターネット、<URL:ht
tps://www.ube-ind.co.jp/usal/documents/i138_145.htm>
甲第10号証:「ガス/蒸気吸着測定のための試料前処理」、Technical
Sheet、大阪産業技術研究所、2020年2月13日、N
o.19−13
(1)申立理由1(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1〜5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が後記3(1)アの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1〜5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(甲第7号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜5に係る発明は、甲第7号証に記載された発明、及び、甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 甲号証の記載事項
(1)甲第7号証の記載事項(下線は当審が付した。)
ア 「【0007】
本発明の目的は、上記した発明者らが得た新しい知見を利用し、既知の高反応性生石灰を超える高い反応性や吸湿性を発揮する生石灰と、それを安定的に製造する方法を提供することにある。」
イ 「【実施例】
【0018】
BET比表面積が40m2/gまたは15m2/gの消石灰を原料として使用し、高反応性の生石灰を製造した。比表面積40m2/gの消石灰は、水和遅延剤を利用することにより製造したものである。脱炭酸反応のための加熱条件と、それぞれの場合のプロセス関数を、下記の表に示す。対比のため、前記した特許文献1の実施例について推定した反応条件の加熱(参考例1)と、従来の常圧雰囲気における加熱の場合(参考例2)とを、比表面積が40m2/gの原料を対象に、あわせて実施した。
【0019】
得られたサンプルについて、強熱減量、BET比表面積、総細孔容積、平均粒径およびASTM活性度(t45、すなわちサンプル投入から温度が45℃に到達するまでの時間)を測定した。それらの結果を、あわせて表に示す。・・・
【0020】
表のデータから、プロセス関数を選択する意義がわかる。比較例1はプロセス関数が過小であって、強熱減量およびt45が過大であり、一方、比較例2および3はプロセス関数が過大であって、強熱減量は少ないが、比表面積および総細孔容積が減少しているうえ、t45が若干大きい。これに対し本発明の実施例が与えた製品は、目標とする物性値
強熱減量:10重量%以下
BET比表面積:30m2/g以上
総細孔容積:1.0×10−4dm3/g以上
平均粒径:5μm以上
t45(修正ASTM):10秒以下
の条件を満たした、高反応性でハンドリング性の高い生石灰である。参考例1(特許文献1)の製品は、本発明の観点からするとプロセス関数が低く、比表面積は高い値を示したものの、細孔容積がやや低く、かつ強熱減量が大きい。参考例2(従来技術)により得られる生石灰は、比表面積、細孔容積とも、高活性な生石灰に必要な物性値を満たしていない。
【0021】
【表1】


3 申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1(実施可能要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由1は、要するに、(i)本件特許明細書には、酸性ガスの吸着性の評価方法や酸性ガスの種類が記載されていないため、塩基度が25〜100μmol/m2の範囲内で酸性ガスの吸着性が優れることを確認できないこと、及び、(ii)市販されている粒状生石灰(ライスガード、宇部マテリアルズ株式会社製)に対する塩基度について、本件特許明細書の比較例3と甲第12号証の比較例2の結果が異なっているため、当該塩基度の測定方法が理解できないことを論拠にして、発明の詳細な説明は、設定登録時の請求項1〜5に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえない、というものである(特許異議申立書第22頁(3−5)の項目、第23頁(3−8)の項目参照)。
イ 申立理由1についての検討
(ア)前記(i)について
「塩基度」は、二酸化炭素を酸性ガスとする、酸性ガスの吸着性能を示す指標であることから、当該数値範囲によって、酸性ガスの吸着性の優劣は確認できる。
(イ)前記(ii)について
前記第4の2(2)アで検討したとおり、本件発明1の「塩基度」の測定方法は明確であり、本件特許明細書の実施例1、2に基づき、当業者が本件発明1〜5を実施できることは明らかであるから、比較例3の記載に関わらず、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満足しているといえる。
ウ 申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4に理由はない。
(2)申立理由2(サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由2は、要するに、(i)発明の詳細な説明には、酸性ガスの吸着性についての具体的なデータがないこと、及び、(ii)発明の詳細な説明の実施例1(塩基度が45.9μmol/m2、水蒸気吸着量が265ml/g)及び実施例2(塩基度が36.5μmol/m2、水蒸気吸着量が232ml/g)から、塩基度が25μmol/m2付近又は100μmol/m2付近、あるいは、水蒸気吸着量が200ml/g付近又は5000ml/g付近においても、酸性ガス及び水分の吸着性が優れるかどうかは不明であることを論拠にして、設定登録時の請求項1〜5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない(特許異議申立書第22頁(3−5)の項目〜第23頁(3−6)の項目参照)、並びに、(iii)発明の詳細な説明の実施例1、2に記載されたジェットミル粉砕以外の粉砕手段を用いた場合に、設定登録時の請求項1に係る発明の酸化カルシウム粉末を製造できることが不明であることを論拠にして、設定登録時の請求項4及び5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない(特許異議申立書第24頁(3−9)の項目参照)、というものである。
イ 申立理由2についての検討
(ア)前記(i)及び(ii)について
前記(1)イ(ア)で検討したとおり、「塩基度」は、二酸化炭素を酸性ガスとする、酸性ガスの吸着性能を示す指標であって、当該数値範囲によって、酸性ガスの吸着性の優劣は確認できるし、また、「水蒸気吸着量」は、水分の吸着性能を示す指標であって、当該数値範囲によって、水分の吸着性の優劣は確認できるから、「塩基度が25〜100μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧100Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下」であることを特定する本件発明1は、酸性ガス及び水分の吸着性が優れることは明らかであって、当業者において、「粒子が微小であり、水分及び酸性ガスの吸着性が優れた酸化カルシウム粉末を提供する」(本件特許明細書段落【0016】)という課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
(イ)前記(iii)について
本件特許明細書の段落【0031】に「粉砕工程は、焼成工程で得られた酸化カルシウムを粉末状に粉砕する工程である。焼成後に粉砕を行うことにより、粒子径が小さく、かつBET比表面積が高い酸化カルシウム粉末を製造することができる。」と記載されているように、粉砕工程は、酸化カルシウムの粒子径を小さくできれば、粉砕手段が限定されるものではないから、ジェットミル粉砕以外の粉砕手段を用いても、前記第4の2(1)アで検討したとおり、当業者であれば、上記実施例1、2の具体的な製造方法を参考にしつつ、本件発明1の酸化カルシウムを製造することを理解できるから、本件発明4及び5は、サポート要件を満足しているといえる。
ウ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3)申立理由3(甲第7号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第7号証に記載された発明
甲第7号証の前記2(1)イの記載を参考例2の「生石灰」に注目して整理すると、甲第7号証には、以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
・甲7発明
「強熱減量が4.33重量%、BET比表面積が13.8m2/g、総細孔容積が0.06×10−4dm3/g、平均粒径が6.2μmである生石灰。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲7発明との対比
甲7発明の「平均粒径が6.2μm」、「BET比表面積が13.8m2/g」、「生石灰」は、それぞれ、本件発明1の「平均粒子径が10nm以上10μm以下」、「BET比表面積が10〜30m2/gの範囲内」、「酸化カルシウム粉末」に相当する。
したがって、本件発明1と甲7発明との一致点と相違点は、次のとおりであるといえる。
・一致点
「平均粒子径が10nm以上10μm以下であり、BET比表面積10〜30m2/gの範囲内である、酸化カルシウム粉末。」
・相違点
本件発明1では、「塩基度が25〜100μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧100Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下である」のに対して、甲7発明では、その点が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
甲第7号証には、高い反応性や吸湿性を発揮する生石灰を提供することを目的(前記2(1)ア)とし、「生石灰」の強熱減量、BET比表面積、総細孔容積及び平均粒径を特定することは記載されているものの、「生石灰」の塩基度及び水蒸気吸着量を特定することについての記載も示唆もない。加えて、甲第8号証には、生石灰の微粉砕に関することは記載されているものの、生石灰の塩基度及び水蒸気吸着量に関することは記載も示唆もされていない。
したがって、甲第7号証及び甲第8号証の記載を参酌しても、甲7発明において、塩基度を25〜100μmol/m2の範囲内とし、水蒸気圧100Paの条件下における水蒸気吸着量を200ml/g以上1000ml/g以下とすることは、当業者にとって容易想到な事項であるといえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、甲7発明が、消石灰を常圧雰囲気で973K(600℃)の加熱温度にて焼成することで製造されていること(前記2(1)イの【0018】及び【表1】参照)、及び、当該製造方法に、甲第8号証に記載された、生石灰の粉砕工程を組み合わせることを論拠にして、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易に想到できる旨を主張している(特許異議申立書第25頁(3−11)の項目参照)。
そこで、この点について検討すると、前記第(イ)で検討したとおり、甲第7号証及び甲第8号証には、生石灰の塩基度及び水蒸気吸着量を調整する動機付けとなる記載も示唆もないから、甲第7号証及び甲第8号証に記載された製造工程を組み合わせることのみで、本件発明1の塩基度や水蒸気吸着量を満足する酸化カルシウムを得られるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2〜5は、甲第7号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由、並びに、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10nm以上10μm以下であり、BET比表面積10〜30m2/gの範囲内であり、塩基度が25〜100μmol/m2の範囲内であり、水蒸気圧100Paの条件下における水蒸気吸着量が200ml/g以上1000ml/g以下であることを特徴とする酸化カルシウム粉末。
【請求項2】
粒度分布(D90)が1〜8μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の酸化カルシウム粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化カルシウム粉末を含有することを特徴とする吸着剤。
【請求項4】
請求項1に記載の酸化カルシウム粉末の製造方法であって、
500〜700℃の範囲内の条件下で水酸化カルシウムを大気中で焼成して酸化カルシウムを生成する焼成工程と、
前記酸化カルシウムを粉末状に粉砕する粉砕工程と、を備えることを特徴とする酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記粉末状の前記酸化カルシウムを分級する分級工程をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の酸化カルシウム粉末の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-12 
出願番号 P2018-503280
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C01F)
P 1 651・ 121- YAA (C01F)
P 1 651・ 537- YAA (C01F)
P 1 651・ 851- YAA (C01F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
後藤 政博
登録日 2020-09-04 
登録番号 6759327
権利者 宇部マテリアルズ株式会社
発明の名称 酸化カルシウム粉末及び吸着剤並びに酸化カルシウム粉末の製造方法  
代理人 きさらぎ国際特許業務法人  
代理人 弁理士法人きさらぎ国際特許事務所  

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