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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03F
管理番号 1387472
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-27 
確定日 2022-06-06 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6783041号発明「カラーフィルター用感光性樹脂組成物、その硬化膜、及び当該硬化膜を構成成分とするカラーフィルター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6783041号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。 特許第6783041号の請求項1〜2、4〜5に係る特許を維持する。 特許第6783041号の請求項3に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6783041号の請求項1〜請求項5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2015−137663号)は、平成27年7月9日を出願日とする特許出願であって、令和2年10月23日に特許権の設定の登録がされたものである。
その後、本件特許について、令和2年11月11日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和3年4月27日に、本件特許のうち全請求項に係る特許に対して、特許異議申立人 阿井 清悦(以下「特許異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
その後の手続等の概要は、以下のとおりである。

令和3年 8月 4日付け:取消理由通知書
令和3年10月15日付け:訂正請求書
令和3年10月15日付け:意見書(特許権者)
令和3年11月12日付け:手続補正指令書(方式)
令和3年11月24日付け:手続補正書(特許権者)

なお、令和3年12月24日付でした特許法120条の5第5項の規定による意見書の提出の求めに対して、特許異議申立人は意見を提出しなかった。


第2 本件訂正請求について
令和3年10月15日にされた訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6783041号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求める、というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
訂正事項1による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を反応させて得られたアルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)光重合開始剤、及び(D)有機顔料を含有するカラーフィルター用感光性樹脂組成物であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(B)光重合性モノマーが10〜60質量部であり、(A)アルカリ可溶性樹脂と(B)光重合性モノマーの合計量100質量部に対して、(C)光重合開始剤が2〜40質量部であり、光硬化後に固形分となる成分の全質量に対して、(D)有機顔料が30〜55質量%であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を5〜80質量部含有することを特徴とするカラーフィルター用感光性樹脂組成物。」と記載されているのを、
「(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を反応させて得られたアルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)光重合開始剤、及び(D)BET法による比表面積が50m2/g以上の有機顔料(黒色有機顔料、および混合して疑似黒色化させた混色有機顔料を除く。)を含有するカラーフィルター用感光性樹脂組成物であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(B)光重合性モノマーが10〜60質量部であり、(A)アルカリ可溶性樹脂と(B)光重合性モノマーの合計量100質量部に対して、(C)光重合開始剤が2〜40質量部であり、光硬化後に固形分となる成分の全質量に対して、(D)有機顔料が30〜55質量%であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を5〜80質量部含有することを特徴とするカラーフィルター用感光性樹脂組成物。」へと訂正するものである。
また、請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4及び5も同様に訂正するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正である。

(3)訂正事項3
訂正事項3による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1〜3いずれか1項に記載の」と記載されているのを、
「請求項1または2に記載の」へと訂正するものである。

(4)一群の請求項及び別の訂正単位とする求めについて
本件訂正前の請求項1〜5は、請求項2〜5が、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法120条の5第4項の規定に適合する。

3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「(D)有機顔料」について、その比表面積を特定の数値範囲内(50m2/g以上)のものに限定するとともに、その種類を特定の顔料(黒色有機顔料、および混合して疑似黒色化させた混色有機顔料)を除外することにより限定するものである。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。

イ 新規事項
訂正事項1による訂正のうち、比表面積についての訂正は、本件特許明細書の【0026】等の記載に基づくものであり、種類についての訂正は、令和3年8月4日付け取消理由通知書にて提示された甲1(特開2014−145821号公報)に記載された発明との相違点を明確にするためにしたものである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

ウ 拡張又は変更
前記アで述べた訂正の内容からみて、訂正事項1による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 上記ア〜ウの判断は、請求項1を引用する請求項2、請求項4〜5についても同様である。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2の訂正内容は、上記「2(2)」のとおりである。
そうしてみると、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しないことは明らかである。特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
さらに、訂正事項2による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
本件訂正請求による訂正前の請求項4が請求項1〜3を引用して記載されていたところ、訂正事項2の訂正によって、訂正前の請求項3が削除されたことにともなって、引用先の請求項をこれに整合させるためにした訂正である。
そうしてみると、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しないことは明らかである。

4 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。また、上記「2(3)」に示したとおり、訂正後の一群の請求項は、〔1〜5〕である。
したがって、結論に記載のとおり、特許第6783041号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
そうしてみると、特許異議の申立ての対象となっている、請求項1〜請求項2、請求項4〜5に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などという。また、全ての請求項に係る発明を「本件特許発明」と総称することがある。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜2、4〜5に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
なお、本件訂正請求により、請求項3は削除されている。

「【請求項1】
(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を反応させて得られたアルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)光重合開始剤、及び(D)BET法による比表面積が50m2/g以上の有機顔料(黒色有機顔料、および混合して疑似黒色化させた混色有機顔料を除く。)を含有するカラーフィルター用感光性樹脂組成物であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(B)光重合性モノマーが10〜60質量部であり、(A)アルカリ可溶性樹脂と(B)光重合性モノマーの合計量100質量部に対して、(C)光重合開始剤が2〜40質量部であり、光硬化後に固形分となる成分の全質量に対して、(D)有機顔料が30〜55質量%であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を5〜80質量部含有することを特徴とするカラーフィルター用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物に、さらに、(F)染料を含有することを特徴とし、(D)有機顔料と(F)染料の合計量が、光硬化後に固形分となる成分の全質量に対して、30〜60質量%であるカラーフィルター用感光性樹脂組成物。」
「【請求項4】
請求項1または2のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物を用いて製造された硬化膜。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化膜を含むカラーフィルター。」


第4 令和3年8月4日付け取消理由通知書における取消しの理由及び証拠
1 取消しの理由
●理由1:(進歩性)本件特許の請求項1〜5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1〜5に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
●理由2:(サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1〜5に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
●理由3:(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本件特許の請求項1〜20に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1〜5に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠について
(1)令和3年8月4日付け取消理由通知書において引用された証拠
甲1:特開2014−145821号公報
甲3−1:特開2015−69098号公報
(特に、請求項1を引用する請求項3及び4、【0007】等)
甲4:特開2005−316449号公報
(特に、請求項1を引用する請求項4及び5、【0043】及び実施例1〜13のカラーフィルター用感光性樹脂組成物等)
甲5:特開2014−152256号公報
甲6:特開2002−156753号公報
甲7:特開2008−15200号公報
甲8:国際公開第2013/069789号
甲9:特開2007−2076号公報
(当合議体注:甲1は、主引用例である。甲3−1〜甲3−3及び甲4〜甲9は、いずれも本件出願時の技術常識を示すための文献である。)

(2)特許異議申立人が提出した上記(1)以外の証拠
甲2:特開2012−145699号公報
甲3−2:特開2011−227467号公報
甲3−3:特開2013−33221号公報


第5 取消しの理由に対する当合議体の判断(進歩性
1 甲1の記載
甲1は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグルシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を、(a)/(b)のモル比が0.1〜10となる範囲で反応させて得られたアルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)エポキシ基を有する化合物、(D)光重合開始剤、及び(E)遮光材を含有するタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物であり、(A)100質量部に対して、(B)が10〜60質量部、(C)が10〜80質量部であり、また、(D)が、(A)と(B)の合計量100質量部に対して2〜40質量部であり、さらに固形分中(E)が40〜60質量%であることを特徴とするタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物。
【請求項2】
上記(C)が、1分子中に少なくとも3個のエポキシ基を持つことを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性に優れ、所望のパターン形成が可能で、高遮光性を有するタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物に関する。詳しくは、タッチパネル用黒色感光性樹脂組成物、及びこれを用いたタッチパネルに関する。
・・・中略・・・
【0004】
このようなタッチパネル用の基板においても、カラーフィルターと同様の黒色膜が遮光や配線の目隠し等に適用されるが、基板の構成によっては、黒色膜を形成した後に電極や金属配線等を形成する必要があるため、これら加工プロセスにおける温度に対する耐熱性、加工プロセスに使用する薬品に対する高い耐薬品性等が要求される。例えば、黒色膜形成後に金属配線を形成する場合、パターン形成にアルカリ性または酸性のエッチング液やアルカリ性のレジスト剥離液等の処理液を用いるが、特に強いアルカリ性の処理液を使用する場合、膜中に含まれるアルカリ可溶性樹脂との親和性から、膜が溶解して剥がれる問題や十分な密着性を担保出来ないといった問題が生じる。そのため、カーボンブラック、酸窒化チタンやチタンブラック等の遮光材の比率を増やすことにより、黒色膜中のアルカリ可溶性樹脂の比率を少なくすることで、耐薬品性が改善されるが、光硬化性やパターン形成能が著しく低下し、現像特性と十分な耐薬品性を両立することが困難になる等の問題が生じた。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、従来技術における上記諸問題を解決し、十分な耐薬品性を有した上で現像特性に優れるタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物、及びこれを用いたタッチパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の問題点を解決すべく鋭意研究を進めた結果、アルカリ可溶性樹脂、光重合性モノマー、光重合開始剤、遮光材等を含む黒色感光性樹脂組成物中に、エポキシ基を有する化合物を共存させることにより、耐薬品性を改善することができ、しかも、パターン形成能の低下も無いタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物が得られることを見出した。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
・・・中略・・・
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
・・・中略・・・
【0027】
本発明のタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物における(E)遮光材としては、黒色有機顔料、混色有機顔料又は無機系顔料等を特に制限なく用いることができる。黒色有機顔料としては、例えばペリレンブラック、シアニンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。混色有機顔料としては、赤、青、緑、紫、黄色、シアニン、マゼンタ等から選ばれる少なくとも2種以上の顔料を混合して擬似黒色化されたものが挙げられる。無機系顔料としては、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、チタンブラック、酸窒化チタン、チタン窒化物等を挙げることができる。これらの遮光材は、1種類単独でも2種以上を適宜選択して用いることもできるが、特にカーボンブラックが、遮光性、表面平滑性、分散安定性、樹脂との親和性が良好な点で好ましい。」

(3)「【実施例】
【0039】
(黒色感光性樹脂組成物の調製)
表1に示す組成によって配合を行い、実施例1〜15および比較例1の黒色感光性樹脂組成物を調製した。配合に使用した各成分は、
(A)アルカリ可溶性樹脂:フルオレン骨格を有するエポキシアクリレート酸付加物のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液(樹脂固形分濃度56.5%、新日鉄住金化学(株)製 商品名V259ME)
(B)光重合性モノマー:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合物(日本化薬(株)製 商品名DPHA)
(C)エポキシ化合物:
(C)−1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製JER828、エポキシ当量190、1分子中の平均官能基数2.0)
(C)−2:3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)メチル((株)ダイセル製 セロキサイド2021P、エポキシ当量135、1分子中の平均官能基数2.0)
(C)−3:ジシクロペンタジエン骨格を有する多官能エポキシ化合物(DIC社製HP7200L、エポキシ当量247、1分子中の平均官能基数2.2)
(C)−4:ジシクロペンタジエン骨格を有する多官能エポキシ化合物(DIC社製HP7200H、エポキシ当量276、1分子中の平均官能基数3.0)
(C)−5:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製 JER154、エポキシ当量178、1分子中の平均官能基数3.0)
(D)光重合開始剤:1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル]エタノン=O−アセチルオキシム(BASF社製 商品名イルガキュアOXE02)
(E)遮光材:カーボンブラック濃度25w%、分散樹脂(アルカリ可溶性樹脂(A)を使用)8w%、高分子分散剤2w%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶剤のカーボンブラック分散体
(F)溶剤:
(F)−1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
(F)−2:シクロヘキサノン
(F)−3:エチルエトキシプロピオネート
(G)界面活性剤
(H)シランカップリング剤(1%シクロヘキサノン溶液)
【0040】
【表1】




2 甲1発明
上記1によれば、甲1の請求項1を引用する請求項2には、次の「タッチパネル用黒色感光性樹脂組成物」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグルシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を、(a)/(b)のモル比が0.1〜10となる範囲で反応させて得られたアルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)エポキシ基を有する化合物、(D)光重合開始剤、及び(E)遮光材を含有するタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物であり、(A)100質量部に対して、(B)が10〜60質量部、(C)が10〜80質量部であり、また、(D)が、(A)と(B)の合計量100質量部に対して2〜40質量部であり、さらに固形分中(E)が40〜60質量%であり、
上記(C)が、1分子中に少なくとも3個のエポキシ基を持つ、
タッチパネル用黒色感光性樹脂組成物。」

3 対比
(1)アルカリ可溶性樹脂
甲1発明の「(A)」「アルカリ可溶性樹脂」は、「(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグルシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を、(a)/(b)のモル比が0.1〜10となる範囲で反応させて得られた」ものである。
そうすると、甲1発明の「(A)」「アルカリ可溶性樹脂」は、本件特許発明1の「(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を反応させて得られた」とされる、「アルカリ可溶性樹脂」に相当する。

(2)光重合性モノマー
甲1発明の「(B)」「光重合性モノマー」は、「(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する」。
そうすると、甲1発明の「(B)」「光重合性モノマー」は、本件特許発明1の「(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する」とされる、「光重合性モノマー」に相当する。

(3)光重合開始剤
甲1発明の「(D)光重合開始剤」は、その文言が意味するとおり、本件特許発明1の「光重合開始剤」に相当する。

(4)有機顔料
甲1には、「(E)遮光材としては、黒色有機顔料、混色有機顔料又は無機系顔料等を特に制限なく用いることができる。黒色有機顔料としては、例えばペリレンブラック、シアニンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。混色有機顔料としては、赤、青、緑、紫、黄色、シアニン、マゼンタ等から選ばれる少なくとも2種以上の顔料を混合して擬似黒色化されたものが挙げられる。無機系顔料としては、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、チタンブラック、酸窒化チタン、チタン窒化物等を挙げることができる。これらの遮光材は、1種類単独でも2種以上を適宜選択して用いることもできるが、特にカーボンブラックが、遮光性、表面平滑性、分散安定性、樹脂との親和性が良好な点で好ましい。」(下線は、当合議体で付与した。)と記載されている。
甲1の上記記載から、甲1発明の「(E)遮光材」は、本件特許発明1の「有機顔料」に対応するものであることが理解される。

(5)エポキシ基を有する化合物
甲1発明の「(C)エポキシ基を有する化合物」は、「1分子中に少なくとも3個のエポキシ基を持つ」

そうすると、甲1発明の「(C)エポキシ基を有する化合物」は、本件特許発明1の「(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物」に相当する。

(6)感光性樹脂組成物
甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、「(A)」「アルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)エポキシ基を有する化合物、(D)光重合開始剤、及び(E)遮光材を含有するタッチパネル用黒色感光性組成物であり、(A)100質量部に対して、(B)が10〜60質量部、(C)が10〜80質量部であり、また、(D)が、(A)と(B)の合計量100質量部に対して2〜40質量部であり、さらに固形分中(E)が40〜60質量%であ」る。
上記組成及び上記(1)〜(5)の対比結果から、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」に相当し、「(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を反応させて得られたアルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)光重合開始剤」「を含有する」との要件及び「(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(B)光重合性モノマーが10〜60質量部であり、(A)アルカリ可溶性樹脂と(B)光重合性モノマーの合計量100質量部に対して、(C)光重合開始剤が2〜40質量部であり」との要件を満たす。
また、その組成比からみて、甲1発明の「感光性樹脂組成物」と本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」とは、「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物」について、「(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を10〜80質量部含有する」という点で共通する。

4 一致点及び相違点
上記3によれば、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で、一致ないし相違する。
(1)一致点
「(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を反応させて得られたアルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(B)光重合性モノマーが10〜60質量部であり、(A)アルカリ可溶性樹脂と(B)光重合性モノマーの合計量100質量部に対して、(C)光重合開始剤が2〜40質量部であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を10〜80質量部含有する、感光性樹脂組成物。」

(2)相違点
ア 相違点1
本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」が、「 (D)BET法による比表面積が50m2/g以上の有機顔料(黒色有機顔料、および混合して疑似黒色化させた混色有機顔料を除く。)を含有するカラーフィルター用感光性樹脂組成物であり、光硬化後に固形分となる成分の全質量に対して、(D)有機顔料が30〜55質量%であ」るのに対して、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、「(E)遮光材を含有」し、その含有量が「固形分中(E)が40〜60質量%であ」る「タッチパネル用黒色感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2
「(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物」の含有量が、本件特許発明1が、「(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を5〜80質量部含有する」のに対して、甲1発明は、「(A)100質量部に対して、」「(C)が10〜80質量部であ」る点。
(当合議体中:上記3(5)に示したとおり、甲1発明の「(C)」成分は、本件特許発明1の「(E)」成分に相当する。)

5 判断
上記相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明の「タッチパネル用黒色感光性樹脂組成物」について、以下の記載がある。
「本発明は、耐薬品性に優れ、所望のパターン形成が可能で、高遮光性を有するタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物に関する。詳しくは、タッチパネル用黒色感光性樹脂組成物、及びこれを用いたタッチパネルに関する。」(【0001】)
「このようなタッチパネル用の基板においても、カラーフィルターと同様の黒色膜が遮光や配線の目隠し等に適用されるが、基板の構成によっては、黒色膜を形成した後に電極や金属配線等を形成する必要があるため、これら加工プロセスにおける温度に対する耐熱性、加工プロセスに使用する薬品に対する高い耐薬品性等が要求される・・・中略・・・そのため、カーボンブラック、酸窒化チタンやチタンブラック等の遮光材の比率を増やすことにより、黒色膜中のアルカリ可溶性樹脂の比率を少なくすることで、耐薬品性が改善されるが、光硬化性やパターン形成能が著しく低下し、現像特性と十分な耐薬品性を両立することが困難になる等の問題が生じた。」(【0004】)
「そこで、本発明の目的は、従来技術における上記諸問題を解決し、十分な耐薬品性を有した上で現像特性に優れるタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物、及びこれを用いたタッチパネルを提供することにある。」(【0007】)
「本発明者らは、前記の問題点を解決すべく鋭意研究を進めた結果、アルカリ可溶性樹脂、光重合性モノマー、光重合開始剤、遮光材等を含む黒色感光性樹脂組成物中に、エポキシ基を有する化合物を共存させることにより、耐薬品性を改善することができ、しかも、パターン形成能の低下も無いタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物が得られることを見出した。」(【0008】)

さらに、甲1には、甲1発明の「(E)遮光材」について、以下の記載がある。
「本発明のタッチパネル用黒色感光性樹脂組成物における(E)遮光材としては、黒色有機顔料、混色有機顔料又は無機系顔料等を特に制限なく用いることができる。黒色有機顔料としては、例えばペリレンブラック、シアニンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。混色有機顔料としては、赤、青、緑、紫、黄色、シアニン、マゼンタ等から選ばれる少なくとも2種以上の顔料を混合して擬似黒色化されたものが挙げられる。無機系顔料としては、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、チタンブラック、酸窒化チタン、チタン窒化物等を挙げることができる。これらの遮光材は、1種類単独でも2種以上を適宜選択して用いることもできるが、特にカーボンブラックが、遮光性、表面平滑性、分散安定性、樹脂との親和性が良好な点で好ましい。」(【0027】)

加えて、甲1には、甲1発明を具体化してなる実施例1〜15に係る「黒色感光性樹脂組成物」について、以下の記載がある。
「(黒色感光性樹脂組成物の調製)
表1に示す組成によって配合を行い、実施例1〜15および比較例1の黒色感光性樹脂組成物を調製した。配合に使用した各成分は、
・・・中略・・・
(E)遮光材:カーボンブラック濃度25w%、分散樹脂(アルカリ可溶性樹脂(A)を使用)8w%、高分子分散剤2w%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶剤のカーボンブラック分散体」(【0039】)






(【0040】【表1】)

甲1の上記記載によれば、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、もっぱら「高遮光性を有するタッチパネル用」に関するものであって、「タッチパネル用の基板においても、カラーフィルターと同様の黒色膜が遮光や配線の目隠し等に適用されるが、基板の構成によっては、黒色膜を形成した後に電極や金属配線等を形成する必要があるため、これら加工プロセスにおける温度に対する耐熱性、加工プロセスに使用する薬品に対する高い耐薬品性等が要求される」という技術的背景のもと、「十分な耐薬品性を有した上で現像性に優れる」「パターン形成能の低下も無い」「タッチパネル用黒色感光性樹脂組成物」「を提供する」ことを目的としたものと認められる。
また、甲1の【0027】の記載から、甲1発明の「(E)遮光材」は、上記「高遮光性」を実現するための組成物成分であって、具体的には、黒色有機顔料、混色有機顔料又は無機系顔料等が想定されていることが理解される。ここで、前記「混色有機顔料」は、甲1の上記記載によれば、「赤、青、緑、紫、黄色、シアニン、マゼンタ等から選ばれる少なくとも2種以上の顔料を混合して擬似黒色化されたもの」を意味し、これが本件特許発明1において、「除く」とされた「混合して疑似黒色化させた混色有機顔料」に相当することは当業者に明らかである。
以上によれば、甲1発明の「感光性樹脂組成物」の上記技術的背景、目的及び「(E)遮光材」の具体例として想定された上記材料(【0027】並びに実施例1〜15及び比較例等)からみて、甲1発明の「(E)遮光材」として、相違点1に係る本件特許発明1の構成である、「黒色有機顔料、および混合して疑似黒色化させた混色有機顔料を除く」とされる、「(D)有機顔料」を敢えて採用することには阻害要因があるというほかない。
そして、上記阻害要因の存在を覆すような、他の証拠(甲1及び甲2以外の他の甲号証を含む。)を発見しない。
したがって、相違点1のその他の構成及び相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び技術常識並びに周知技術(甲3−1〜甲3−3、甲4及び甲5に記載された技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

6 本件特許発明2、4及び5について
本件訂正請求による訂正後の請求項2、請求項4及び請求項5は、本件訂正請求による訂正後の請求項1を直接または間接的に引用するものであるから、本件特許発明2、4及び5は、少なくとも上記相違点1に係る本件特許発明1の構成を包含する。
そして、本件特許発明1は、上記5で示したとおり、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができないのであるから、本件特許発明2、4及び5も、同様の理由により、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

7 甲1の実施例に記載された発明を主引用発明とした場合
甲1の【0039】〜【0040】(【表1−1】及び【表1−2】)に記載された各実施例に係る「黒色感光性樹脂組成物」から主引用発明を認定したとしても、いずれの主引用発明も「遮光材」に係る成分として採用されているものは、「(E)遮光材:カーボンブラック濃度25w%、分散樹脂(アルカリ可溶性樹脂(A)を使用)8w%、高分子分散剤2w%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶剤のカーボンブラック分散体」であって、その技術的背景ないし目的は甲1発明と何ら相違しない。
したがって、甲1発明を主引用発明とした場合と同様の理由により、本件特許発明1は、甲1の各実施例の「黒色感光性樹脂組成物」の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件特許発明2、4及び5についても同様である。

8 小括
本件特許発明1〜2、4〜5は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第6 取消しの理由に対する当合議体の判断(サポート要件)
本件出願の明細書の【0005】等の記載によれば、本件特許発明の課題は、「微粒化された有機顔料を高濃度で微分散させたうえでも高精細なフォトリソグラフィーが可能であり、かつ、色再現領域の拡大に伴う色度調整にも対応できるカラーフィルター用感光性樹脂組成物を提供すること」と認められる。そして、上記課題を解決する手段として、本件明細書等に具体的に開示された感光性樹脂組成物は、特定のエポキシ基を2個有する所定量(0.23質量部)の化合物(テトラメチルビフェニル系エポキシ樹脂(日本化薬社製「YX−400」)及び所定の数値範囲(65m2/g、75m2/g、85m2/g及び90m2/g)のBET法による比表面積を有する有機顔料を含む、感光性樹脂組成物である。
ここで、感光性樹脂組成物に関する技術分野において、有機顔料の比表面積が、樹脂組成物中における分散状態に影響を及ぼすことは技術常識であるところ、本件訂正請求によって、本件特許発明は、「(D)BET法による比表面積が50m2/g以上の有機顔料」を発明を特定する事項に含むこととなった。したがって、本件特許発明は、本件発明の課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものとはもはやいえない。
ところで、令和3年8月4日付け取消理由通知において指摘した、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物の「エポキシ当量」は、本件出願の明細書に開示された実施例及び比較例において、エポキシ当量の多寡が本件発明の効果に及ぼす影響は明らかでないこと、甲1及び甲2の実験結果から理解される影響の程度が明らかでないことから、本件特許発明の課題を解決するための手段として、「エポキシ当量」の重要性は高いものとはいえない。
したがって、本件特許発明において、「(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物」のエポキシ当量が特定されていないことを理由に、本件特許発明が本件出願の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないということもできない。


第7 取消しの理由に対する当合議体の判断(実施可能要件
上記「第6」と同様の理由により、本件出願の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明の「カラーフィルター用感光性樹脂組成物」について、当業者が、これを作ること及び使用することができるように明確かつ十分に記載されたものではないということはできない。


第8 取消しの理由において採用しなかった特許異議申立理由について
令和3年8月4日付け取消理由通知書において採用しなかった、特許異議申立書に記載された取消しの理由について検討する。
新規性(甲1を主引用例とした場合)について
特許異議申立人は、本件特許発明1、4及び5は、甲1に記載された発明であると主張する。
しかしながら、本件特許発明1、4及び5と甲1発明とは、上記「第5」「4(2)」に示した「相違点1」において、少なくとも実質的に相違しているから、本件特許発明1、4及び5は甲1に記載された発明ではない。

新規性及び進歩性(甲2を主引用例とした場合)について
特許異議申立人は、[A]本件特許発明1、4及び5は、甲2に記載された発明であること及び[B]本件特許発明1〜5は、甲2に記載された以下の発明(以下「甲2発明」という。)及び技術常識並びに周知技術(甲3−1〜甲3−3、甲4及び甲5に記載された技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。(特許異議申立書42ページ)。
(甲2発明)




そこで、本件特許発明1〜2、4〜5が、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものかについて検討する。
両発明を対比すると、本件特許発明1〜2、4〜5と甲2発明とは、「有機顔料を」「含有する」点において共通するものの、後者が、「有機顔料(黒色有機顔料、および混合して疑似黒色化させた混色有機顔料を除く)」との事項を有するか特定されていない点で少なくとも実質的に相違する。
したがって、本件特許発明1、4及び5は、甲2に記載された発明ではない。
また、甲2の【0005】〜【0007】に記載された技術的背景及び甲2発明の目的に関する記載及び実施例1〜25の「着色感光性樹脂組成物」で使用されている具体的な着色剤(カーボンブラック)等に照らせば、上記「第5」「5」で示したのと同様の理由により、甲2発明において、上記相違点に係る本件特許発明1〜2、4〜5の構成(上記下線部の事項)を採用することには阻害要因があるといえる。
そして、上記阻害要因の存在を覆すような、他の証拠(甲1及び甲2以外の他の甲号証を含む。)を発見しない。
したがって、本件特許発明1〜2、4〜5は、甲2に記載された発明及び技術常識並びに周知技術(甲3−1〜甲3−3、甲4及び甲5に記載された技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

明確性について
特許異議申立人は、概略、以下の点を主張する。
ア 本件特許発明の「(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物」における、「少なくとも2個」との記載は、エポキシ基の個数の下限だけを示すような数値範囲限定であって、範囲を曖昧にし得るから、本件特許発明は、発明の範囲が不明確である点。
イ 本件特許発明の「有機顔料がBET法による比表面積が50m2/g以上の有機顔料」との記載は、「BET法による比表面積」について下限だけを示すような数値範囲限定であって、範囲を曖昧にし得るから、本件特許発明は、発明の範囲が不明確である点。

上記主張ア及びイについて検討する。
確かに、本件特許発明は、エポキシ基の個数及びBET法による比表面積について、いずれも上限が特定されていない数値範囲を含む発明である。しかしながら、上限又は下限が特定されていない数値範囲は、その文言どおり解釈すれば、その数値範囲自体は明確であるから、数値範囲に上限又は下限が特定されていないことのみを理由として、当該数値範囲を含む発明が第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であるということはできない。
加えて、本件特許発明の「カラーフィルター用感光性樹脂組成物」の目的(課題)が、「有機顔料を高濃度で微分散させたうえでも高精細なフォトリソグラフィーが可能であり、かつ、色再現領域の拡大に伴う色度調整にも対応できるカラーフィルター用感光性樹脂組成物を提供すること」(【0005】)と理解されるところ、同【0055】【表1】及び【0059】【表2】の評価結果(特に、実施例1〜4と比較例1〜4のパターン形成に関する評価結果)によれば、本件特許発明は、パターン形成に関する評価(高精細なリソグラフィーが可能であることの評価)項目で「〇」という評価を得るためには、「アルカリ可溶性樹脂」が特定の構造を具備することが重要なのであって、「BET法による比表面積」及び「エポキシ基の個数」について、何らかの上限を設けることに特段配慮が払われた発明ではないといえる。
以上の事情に照らせば、上限が特定されていない数値範囲を含むことのみを理由に、本件特許発明が第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるということはできない。
そして、このことは、本件出願の明細書の実施例及び比較例並びにその他の箇所を参酌しても、「BET法による比表面積」及び「エポキシ基の個数」が大きすぎるために好ましい評価結果が得られないこと(その結果、「比表面積」及び「エポキシ基の個数」に対して、何らかの上限が設定されるべきこと)をうかがわせる記載が存在しないことからも確認できる事項である。
したがって、上記主張ア及びイには採用すべき理由がない。


第8 まとめ
本件請求項1〜2、4〜5に係る特許は、当合議体が通知した取消しの理由及び特許異議の申立ての理由によっては取り消すことができない。
また、他に請求項1〜2、4〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項3は削除されたから、本件請求項3に係る特許についての特許異議の申立ての対象は存在しないこととなった。 したがって、本件請求項3に係る特許ついての特許異議の申立ては、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビスフェノール類から誘導される2個のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物と不飽和基含有モノカルボン酸との反応物に対して、(a)ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその酸無水物、及び(b)テトラカルボン酸又はその酸二無水物を反応させて得られたアルカリ可溶性樹脂、(B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(C)光重合開始剤、及び(D)BET法による比表面積が50m2/g以上の有機顔料(黒色有機顔料、および混合して疑似黒色化させた混色有機顔料を除く。)を含有するカラーフィルター用感光性樹脂組成物であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(B)光重合性モノマーが10〜60質量部であり、(A)アルカリ可溶性樹脂と(B)光重合性モノマーの合計量100質量部に対して、(C)光重合開始剤が2〜40質量部であり、光硬化後に固形分となる成分の全質量に対して、(D)有機顔料が30〜55質量%であり、(A)アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、(E)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を5〜80質量部含有することを特徴とするカラーフィルター用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物に、さらに、(F)染料を含有することを特徴とし、(D)有機顔料と(F)染料の合計量が、光硬化後に固形分となる成分の全質量に対して、30〜60質量%であるカラーフィルター用感光性樹脂組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
請求項1または2に記載の感光性樹脂組成物を用いて製造された硬化膜。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化膜を含むカラーフィルター。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-26 
出願番号 P2015-137663
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G03F)
P 1 651・ 537- YAA (G03F)
P 1 651・ 536- YAA (G03F)
P 1 651・ 121- YAA (G03F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加々美 一恵
特許庁審判官 里村 利光
植前 充司
登録日 2020-10-23 
登録番号 6783041
権利者 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
発明の名称 カラーフィルター用感光性樹脂組成物、その硬化膜、及び当該硬化膜を構成成分とするカラーフィルター  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  
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