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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A46B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A46B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A46B
管理番号 1387477
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-18 
確定日 2022-07-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6787751号発明「歯間ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6787751号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6787751号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年10月26日に特許出願され、令和2年11月2日に特許権の設定登録がされ、同月18日にその特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年5月18日に、特許異議申立人森田弘潤(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての、その後の手続等の概要は以下のとおりである。
令和3年 8月25日付け:取消理由通知書
同年11月 1日 :意見書(特許権者)の提出
同年12月 3日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年12月13日 :上申書(異議申立人)の提出
令和4年 2月 4日 :意見書(特許権者)の提出
同年 4月 4日 :上申書(異議申立人)の提出

第2 本件発明について
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」などという。また、本件発明1ないし8を総称して「本件発明」という。)。
「【請求項1】
樹脂材料により構成されたハンドル部と、
歯間を清掃できるように前記ハンドル部と接合されたブラシ部とを備え、
前記ブラシ部は、芯材、および、前記芯材に植毛されたフィラメント束を含み、
前記芯材は、前記ハンドル部に被覆された被覆部を含み、
前記被覆部は、塑性加工が施されていない第1部分、および、塑性加工が施された扁平形状の第2部分を含み、
前記芯材は、前記被覆部に含まれる端部である被覆端部を含み、
前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる
歯間ブラシ。
【請求項2】
前記第2部分は、前記被覆端部を含む範囲に設けられる
請求項1に記載の歯間ブラシ。
【請求項3】
前記第1部分の太さは、前記芯材の最大の太さであり、
前記第1部分の太さに対する前記第2部分の幅の割合である第1変形率は、130〜150%の範囲に含まれる
請求項1または2に記載の歯間ブラシ。
【請求項4】
前記第1部分の太さは、前記芯材の最大の太さであり、
前記第2部分の厚さに対する前記第1部分の太さの割合である第2変形率は、200〜260%の範囲に含まれる
請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯間ブラシ。
【請求項5】
前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、51.8%以下の範囲に含まれる
請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯間ブラシ。
【請求項6】
前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、13.9%以下の範囲に含まれる
請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項7】
前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、9.1%以下の範囲に含まれる
請求項6に記載の歯間ブラシ。
【請求項8】
前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、7% 以下の範囲に含まれる
請求項7に記載の歯間ブラシ。」

第3 特許異議申立書に記載した申立理由及び取消理由通知の概要
1 特許異議申立書に記載した申立理由の概要
令和3年5月18日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「異議申立書」という。)に記載した申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(特許法第36条第6項第2号明確性要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3(特許法第29条第1項第3号又は第2項:甲1に基づく新規性進歩性
本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明及び技術常識等に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由4(特許法第29条第1項第3号又は第2項:甲2に基づく新規性進歩性
本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明及び技術常識等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(5)申立理由5(特許法第29条第1項第3号又は第2項:甲3に基づく新規性進歩性
本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明及び技術常識等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審が令和3年12月3日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由2(新規性進歩性
ア 取消理由2−1(甲1を主引用例とする進歩性
本件発明1、2、5ないし8は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、容易に発明することができたものである。よって、本件発明1、2、5ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

イ 取消理由2−2(甲2を主引用例とする新規性進歩性
本件発明1、5は、甲2に記載された発明である、又は、本件発明1、5は、甲2に記載された発明に基いて、容易に発明することができたものである。よって、本件発明1、5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである、又は、本件発明1、5に係る特許は、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件発明2は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された発明に基いて、容易に発明することができたものである。よって、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件発明6ないし8は、甲2に記載された発明に基いて、容易に発明することができたものである。よって、本件発明6ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

ウ 取消理由2−3(甲3を主引用例とする新規性進歩性
本件発明1、5は、甲3に記載された発明である、又は、本件発明1、5は、甲3に記載された発明に基いて、容易に発明することができたものである。よって、本件発明1、5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである、又は、本件発明1、5に係る特許は、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件発明2は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された発明に基いて、容易に発明することができたものである。よって、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件発明6ないし8は、甲3に記載された発明に基いて、容易に発明することができたものである。よって、本件発明6ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

<証拠一覧>
甲1:特開2007−260406号公報
甲2:特開平10−94429号公報
甲3:特開平9−117324号公報

第4 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)サポート要件(取消理由1及び申立理由2)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 本件発明の課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ということもある。)の段落0004の記載から、「フィラメント束が歯間に挿入されているときにハンドル部に対して捻る力が加えられた場合に、ハンドル部と芯材との接合が外れ、芯材がハンドル部から抜けるおそれがある」ことであり、そのため、「ハンドル部と芯材との接合が外れにくい歯間ブラシを提供すること」である。

ウ 本件発明について
(ア)請求項1の記載
本件発明1は、「前記芯材は、前記ハンドル部に被覆された被覆部を含み、前記被覆部は、塑性加工が施されていない第1部分、および、塑性加工が施された扁平形状の第2部分を含み、前記芯材は、前記被覆部に含まれる端部である被覆端部を含み、前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる」との事項を備えたものである。

(イ)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
a 発明の詳細な説明の段落0046に「被覆部130は、ハンドル部10に被覆された部分であり、第1部分131および第2部分132を含む。第1部分131は、塑性加工が施されていない部分である。第2部分132は、塑性加工が施された部分である。第2部分132に施された塑性加工の一例は、プレス加工である。第1折返部110Aと第2折返部110Bとが捻られた芯材110の一部がプレス加工されることにより第2部分132が形成される。第2部分132の形状は扁平の略長方形である。第2部分132の形状は任意に変更可能である。第2部分132の形状に関する他の例は、扁平の略正方形、扁平の略円形、扁平の略楕円形、または、扁平の略三角形である。第2部分132は、芯材110の被覆部130の任意の位置に設けられる。好ましい一例では、第2部分132は、芯材110の被覆端部110Dを含む範囲に設けられる。被覆部130の一部(以下「被視認部133」)は、開口部50を介して視認可能である。一例では、被視認部133は、第1部分131に含まれる。」との記載から、被覆部の第2部分は、塑性加工が施された扁平形状であることが理解できる。
b また、発明の詳細な説明の段落0056〜0058には、「第1変形率PAおよび第2変形率PBとは別の因子も、捻りに対するハンドル部10と被覆部130との接合強度に関連する。その一例は、離間率PCおよび被覆率PDである。離間率PCおよび被覆率PDは、個々に接合強度に影響し、さらに第1変形率PAおよび第2変形率PBからも独立して接合強度に影響する。離間率PCは、図6および図7に示される被覆部130の長さHXに対する第2部分132の離間距離HYの割合である。被覆部130の長さHXは、歯間ブラシ1の軸方向における被覆部130の寸法である。第2部分132の離間距離HYは、芯材110の被覆端部110Dと第2部分132の中心点132Aとの距離である。離間率PCを求める式は「PC=HY/HX×100(%)」である。離間率PCに関する好ましい範囲の一例は、55%以下である。離間率PCに関するより好ましい範囲の一例は、30%以下である。好ましい離間率PCの一例は、7%である。離間率PCが55%以下の範囲に含まれる場合、ハンドル部10および突出部120を捻る力が歯間ブラシ1に加えられた場合にハンドル部10と被覆部130との接合が外れにくい。」と記載され、更に、段落0100〜0101に「第4試験について説明する。第4試験では、被覆部130の軸方向における第2部分132の位置と捻りに対するハンドル部10と被覆部130との接合強度との関係について実施例13〜20の試料および比較例3、4の試料を用いて確認した。実施例13〜20の試料は実施形態の歯間ブラシ1に関する試料である。比較例3、4の試料は、比較例1の試料と同様に直線形状の芯材110を含む。試験条件は、樹脂材料の種類、樹脂材料の密度、樹脂材料の融点、樹脂材料の弾性率、芯材110の素材の直径、芯材110の長さZA、被覆部130の長さHX、第1変形率PA、第2変形率PB、および、離間率PCである。図21に具体的な試験条件を示す。実施例13〜15の試料および実施例17〜19の試料に関する測定結果に示されるように、離間率PCが小さいほど最大トルクが高くなることが確認された。これは、芯材110の清掃部140に加えられたトルクが第2部分132に伝達されるまでの力の伝達距離が長く、芯材110に加えられたトルクが芯材110のより広い範囲で受けられることが影響していると考えられる。」と記載されている。また、本件特許の図21には、次の表が記載されている。

そして、これら記載及び第4試験の結果(図21)を合わせてみると、本件発明の実施例13〜20は、比較例3、4に比べて最大トルクが高くなること、すなわち、離間率が55%以下の範囲で第2部分を有したものは第2部分がないものに比べ、最大トルクが高くなることが分かり、離間率が55%以下の範囲で第2部分を有したものは第2部分がないものに比べ、ハンドル部と芯材との接合が外れにくくなることが理解できる。

(ウ)以上によれば、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づき、請求項1に記載のとおり、「前記芯材は、前記ハンドル部に被覆された被覆部を含み、前記被覆部は、塑性加工が施されていない第1部分、および、塑性加工が施された扁平形状の第2部分を含み、前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる」との事項を備えることによって、本件発明の課題を解決できると認識することができる。

そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明に当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができ、本件発明1についてサポート要件の違反はない。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2ないし8についてサポート要件の違反はない。

(エ)異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書において、以下a〜cに示した旨主張する。
a 本件発明の「前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる」という事項に関し、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。(23頁2行〜26頁13行)
b 本件発明において被覆率はその技術的課題の解決に不可欠であると考える他ないが、この点、本件発明では全く規定が存在しない。従って、本件発明は、被覆率が低く本件発明の課題を解決し得ない態様を多分にその権利範囲に含んでいることが明らかであり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。(26頁14行〜27頁16行)
c 樹脂材料の種類や、密度、融点、弾性率といった物性は、本件発明の課題解決に不可欠な要素であることは明らかであり、この点に関して「樹脂材料により構成された」という以上の規定が全く存在しない本件発明は、本件発明の課題を解決し得ない態様を多分にその権利範囲に含んでいることが明らかである。(27頁17行〜30頁21行)
しかしながら、前記ア〜ウで検討したように、本件発明は、「前記芯材は、前記ハンドル部に被覆された被覆部を含み、前記被覆部は、塑性加工が施されていない第1部分、および、塑性加工が施された扁平形状の第2部分を含み、前記芯材は、前記被覆部に含まれる端部である被覆端部を含み、前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる」という事項により課題を解決するものであるから、前記異議申立人の主張は採用できない。

(オ)まとめ
以上によれば、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことができない。

3 甲1ないし甲3に記載事項
(1)甲1について
ア 甲1には、「歯間ブラシ」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、歯間ブラシに係り、特に、柔軟性が好適で、曲げ易く、使用の際に快適でかつ固定性も良く、ブラシ毛の柄部が支持具の取付穴から引き出し難い、口の中をクリーンにするための器具を指す。」
(イ)「【0005】
本発明の主な目的は、柔軟性が好適で、曲げ易く、使用の際に快適でかつ固定性も良く、ブラシ毛の柄部が支持具の取付穴から引き出し難い歯間ブラシを提供する。
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、一端に取付穴が設けられ、前記取付穴が内部に延びた支持具と、柄部および前記柄部に植設されたブラシ毛部を含み、前記柄部が前記支持具の取付穴内に差し込まれたブラシ毛と、前記支持具内に設置されるとともに前記ブラシ毛の柄部に固定された固定部材と、前記支持具および前記固定部材を覆う被覆部材とを備えることを特徴とする歯間ブラシを提供する。」
(ウ)「【0007】
本発明によれば、柔軟性が好適で、曲げ易く、使用の際に快適でかつ固定性も良く、ブラシ毛の柄部が支持具の取付穴から引き出し難い歯間ブラシを提供することができる。」
(エ)「【0009】
図2〜図4を参照すると、本発明は、支持具1と、ブラシ毛2と、固定部材3と、被覆部材4とを含む歯間ブラシ100を提供し、支持具1は、プラスチック材からなり、プラスチック射出成形で形成されている。前記支持具1は長尺状または他の形状からなり、把持し易いように形成されている。支持具1は、その一端(先端)に取付穴11が設けられ、前記取付穴11が軸方向を沿って支持具1の内部に延びている。支持具1の内部には、固定部材3および被覆部材4を収容できるように収容空間12が形成され、収容空間12の内壁に凸部13 形成されている。前記凸部13は、収容空間12の内壁に突出し、ブラシ毛2を当接する機能を提供でき、ブラシ毛2を支持具1上に一時的に固定させる。」
(オ)「【0010】
前記ブラシ毛2は、柄部21およびブラシ毛部22を含み、前記柄部21は一般にステンレスなどで長尺状の棒に捻り、ブラシ毛部22は柄部21の前部に植設されている。ブラシ毛2は、図2に示すように、前から後に向かって支持具1の取付穴11内に差し込まれ、かつ、柄部21の後端を収容空間12内に伸び入れ、凸部13がブラシ毛2の柄部21に当接し、ブラシ毛2を支持具1上に一時的に固定させる。」
(カ)「【0011】
図3および図4に示すように、前記固定部材3は、被覆部材4とは別の独立部材で、その材質及び構造は限られない。本実施例では、固定部材3は金属部材で、図3に示すように、支持具1の収容空間12内に設置され、かつ係止の方式でブラシ毛2の柄部21に固定される。図3Aに示すように、前記固定部材3にはスリット31が開設されており、前記固定部材3が前記スリット31で柄部21に係止固定されている。」
(キ)「【0012】
図4に示すように、前記被覆部材4は、支持具1および固定部材3を覆い、前記被覆部材4はプラスチック射出成形で形成され、軟質なプラスチック材からなる。前記被覆部材4は支持具1と色が異なり(又は同じ)、前記被覆部材4が支持具1の一部を覆い(図4に示すように)支持具1の一部を露出させ、歯間ブラシの外見が二つの色に形成され、外見がより綺麗になるように構成されている。前記被覆部材4は、ブラシ毛2の柄部21および固定部材3を覆い固定でき、このようにして本発明の歯間ブラシを形成した。」
(ク)「【0013】
また、図5〜図8は、本発明の他の実施例であり、第一実施例との違いは、固定部材3の変化だけである。図5に示すように、本実施例では、固定部材3は金属部材で、押し付けでブラシ毛2の柄部21に固定されている。図6に示すように、本実施例では、固定部材3はプラスチック材で、射出成形の方式でブラシ毛2の柄部21に固定されている。図7に示すように、本実施例では、固定部材3は金属部材で、プレスの方式でブラシ毛2の柄部21に固定されている。図8に示すように、本実施例では、固定部材3はプラスチック材で、超音波接合の方式でブラシ毛2の柄部21に固定されている。」
(ケ)「【0015】
本発明は、主に固定部材3でブラシ毛2の柄部21を固定し、外見的な被覆部材4のみでブラシ毛2の柄部21を固定するではないため、前記被覆部材4は、軟質なプラスチック材を採用でき、歯間ブラシ100の柔軟性が好適で、曲げ易く、使用の際に快適になり、かつ固定部材3がブラシ毛2の柄部21を支持具1内に安定的に固定できる。また、歯間ブラシ100では、その固定性も良く、引張力を抵抗でき、ブラシ毛2の柄部21が支持具1の取付穴11から引き出されることを防止できる。」
(コ)図4及び図7の記載から、柄部21には支持具1及び被覆部材4に被覆される被覆部があること、また、柄部21の被覆部に固定部材3が固定されていることが看取される。そして、前記(ク)の記載と図4及び図7の記載をあわせみれば、被覆部には、固定部材3が固定されていない第1の部分と、プレス方式で柄部21に固定部材3が固定される第2の部分が含まれることは明らかである。
(サ)図7の記載から、柄部21の被覆部の端部に固定部材3が固定されていることが看取される。

イ 甲1に記載された発明
(ア)前記アの(ア)〜(サ)及び図2〜4、7の記載を総合して、本件発明1の表現に倣って整理すると甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「プラスチック材により構成された支持具1と、
歯間を清掃できるように前記支持具1と固定されたブラシ毛2とを備え、
前記ブラシ毛2は、柄部21、および、前記柄部21に植設されたブラシ毛部22を含み、
前記柄部21は、前記支持具1及び被覆部材4に被覆された被覆部を含み、
前記被覆部は、固定部材3が固定されない第1の部分、および、プレス方式で柄部21に固定部材3が固定された第2の部分を含み、
前記柄部21は、前記被覆部に含まれる端部を含む、
歯間ブラシ。」

(2)甲2について
ア 甲2には、「歯間ブラシ」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、歯の隙間などを清掃するための歯間ブラシに関するもので、特にブラシ部が柄から脱落しないようにすると共に、フィラメントがワイヤから抜け落ちないなど、耐久性に優れた構成の歯間ブラシを提供するものである。」
(イ)「【0002】【発明が解決しようとする課題】従来から歯間ブラシは公知であり、その基本的な構成としては、ステンレスやアルミ等の金属材料からなるワイヤを捻ってフィラメントをブラシ状に保持し、このワイヤを柄に埋め込む構成が一般的である。
【0003】ところで、上述した従来の歯間ブラシを製造するに際しては、柄とブラシを接合する場合、合成樹脂で成型した柄に対してブラシを形成したワイヤの埋め込み部を高周波で加熱して挿入する方法がある。これによると、ワイヤの熱によって柄を構成する合成樹脂を溶解して挿入固定することになる。しかし、ワイヤはフィラメントを保持するために捻ってあるので、合成樹脂が固まればあたかも雌ネジのようになり、ワイヤ(ブラシ)を一方方向に廻せば簡単にブラシが外れてしまうという致命的な欠陥があった。
【0004】本発明ではこのような欠陥を回避するために、ワイヤの埋め込み部の溶着をより強固なものとすると共に必要に応じて該部にさらに加工を施し、製品完成後もワイヤが簡単に外れない構成の歯間ブラシとすることとした。」
(ウ)「【0010】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明では歯間ブラシ自体の構成として、フィラメントをワイヤに挟んだ後にこのワイヤを捻ったブラシ部と、合成樹脂製の柄からなる歯間ブラシであって、ワイヤは絶縁性素材で被覆してなり、柄には上記ブラシ部のワイヤ挿通孔を設け、ワイヤを上記挿通孔に加熱によって溶着固定するという手段を用いることとした。又、ワイヤの挿通孔への埋め込み部の一部にさらにカシメ部を設けるという手段および上記フィラメントをワイヤの絶縁性素材と溶着するという手段も採用した。」
(エ)「【0013】【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を図面に従って説明する。図1は本発明にかかる歯間ブラシを、柄1とブラシ部2を分離した状態で示している。柄1は合成樹脂で成型したもので、一端に挿通孔1aを設けている。ブラシ部2は、ワイヤ3を半分に曲げてその間の先端側に寄せてフィラメント4を挟みワイヤ3を捻って構成したものである。このワイヤ3は図2に示すように、予め全体をビニール等の絶縁性素材5で被覆している。そして、フィラメント4の保持部分を例えば高周波によって加熱し、フィラメント4と絶縁性素材5を互いに溶着させている(図3参照)。このためフィラメントが不用意に抜け落ちることがなく、人体との間にガルヴァーニ電流が生ずることも防止できる。
【0014】続いて、ワイヤ3の基端の埋め込み部を高周波加熱し、柄1の挿通孔1aに挿入する。ワイヤ3を先に柄1の挿通孔1aに挿入し、その後に該部を加熱してもよい。いずれにしても、柄1は合成樹脂で成型されているので、加熱したワイヤ3によって挿通孔1aの周壁が溶解し、一方ワイヤ3の埋め込み部の絶縁性素材5も溶解しており、互いに溶融してワイヤ3の捻れた埋め込み部分を包み込んで硬化し、該部を密に固定することになる。従って、埋め込み部が螺旋状であってもワイヤ3がネジのように回って外れるおそれはなく、ブラシ部自体の抜けを確実に防止できる。」
(オ)「【0016】尚、ワイヤ3の基端部であって柄1に埋め込まれる部分の任意の箇所に、図4の拡大図のようにカシメ部3aを形成することもある。このカシメ部3aはワイヤ3を捻ってブラシ部2を成形した後に、金属あるいは硬質の工具等で挟み込んで螺旋状に捻れたワイヤ3の一部を変形させて形成したものである。この場合、高周波加熱による溶融でワイヤ3の埋め込み部をカシメ部3aを含めて周囲から密に固定するので、カシメ部3aによって螺旋の一部を変形させて規則性がなくなっており、ワイヤ3はさらに確実に固定される。
【0017】又、カシメ部3aの形状は特定する必要はなく、ワイヤ3を捻って規則的に螺旋状になっているものを、この規則性を乱すような構造であればよい。例えば、ワイヤを完全に押しつぶす構造であっても、ワイヤの一部に傷をつける構造であっても目的は十分達成することができる。」
(カ)「【0025】【発明の効果】本発明に係る歯間ブラシは、上述した通りの構成としたので、ワイヤが柄の挿通孔内に確実に溶着固定され不用意に脱落することがない。ワイヤの埋め込み部にさらにカシメ部を設けたものにあっては、より確実にブラシ部の脱落を防止で得きるものである。」
(キ)図1、4及び前記(オ)の記載から、ワイヤ3の埋め込み部には、ワイヤ3が押しつぶされた構造のカシメ部3aとワイヤ3が押しつぶされていない部分とで構成されることは、明らかである。

イ 甲2に記載された発明
前記アの(ア)〜(キ)及び図1〜4の記載を総合して、本件発明1の表現に倣って整理すると甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「合成樹脂により構成された柄1と、
歯間を清掃できるように前記柄1と接合されたブラシ部2とを備え、
前記ブラシ部2は、ワイヤ3、および、前記ワイヤ3を半分に曲げてその間の先端側に寄せてフィラメント4を挟みワイヤ3を捻って構成されるためのフィラメント4を含み、
前記ワイヤ3は、前記柄1の挿入孔1aに挿入される埋め込み部を含み、
前記埋め込み部は、ワイヤ3が押しつぶされていない部分及びワイヤ3が押しつぶされた構造のカシメ部3aを含み、
前記ワイヤ3は、前記埋め込み部に含まれる端部を含む、
歯間ブラシ。」

(3)甲3について
ア 甲3には、「歯間ブラシ」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、歯の隙間などを清掃するための歯間ブラシ、およびその製造装置に関するものである。特に、ブラシが柄から抜けにくい構成を提供すると同時に、効率よく歯間ブラシを製造する装置を提供するものである。」
(イ)「【0002】【発明が解決しようとする課題】従来から歯間ブラシは公知であり、その基本的な構成としては、ワイヤを捻ってフィラメントをブラシ状に保持し、このワイヤを柄に埋め込む構成が一般的である。
【0003】ところで上述した従来の歯間ブラシを製造するに際しては、柄を合成樹脂で成型し、この柄に対してブラシを形成したワイヤの埋め込み部を高周波で加熱して挿入する方法がある。これによると、ワイヤの熱によって柄を構成する合成樹脂を溶解して挿入固定することになる。しかしワイヤはフィラメントを保持するために捻ってあるので、合成樹脂が固まればあたかも雌ネジのようになり、ワイヤを一方方向に廻せば簡単にブラシが外れてしまうという致命的な欠陥がある。
【0004】本発明ではこのような欠陥を回避するために、高周波加熱に先立ってワイヤの先端に加工を施し、製品完成後もワイヤが簡単に外れない構成の歯間ブラシとすることとした。」
(ウ)「【0007】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明では歯間ブラシ自体の構造として、フィラメントをワイヤに挟んだ後にこのワイヤを捻ったブラシと、合成樹脂製の柄からなる歯間ブラシであって、上記柄には上記ブラシのワイヤ挿通孔を有する一方、上記ワイヤの挿通孔に埋没する部分の一部にカシメ部を設け、上記ワイヤを上記挿通孔に高周波加熱によって挿通固定するという手段を用いることとした。
【0008】また、歯間ブラシの製造装置としては、複数本のフィラメントを巻回したフィラメント供給用のドラムと、このドラムから供給されるフィラメントを一定長さに切断する手段と、この切断したフィラメント群を半折ワイヤに挟んでワイヤを捻り、ブラシを構成する手段と、このブラシのワイヤ部分の一部にカシメ部を設ける手段と、このカシメ部を含んだワイヤを高周波加熱する手段と、高周波加熱した状態で合成樹脂製の柄に設けた挿通孔にブラシのワイヤを挿通する手段とからなる装置を提供することとした。また、ワイヤを先に挿通孔に挿通しておき、この状態で高周波加熱する手段も用いた。」
(エ)「【0010】【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施態様を、図面に従って説明する。図1は本発明の歯間ブラシをブラシ1と柄2を分離した状態で示している。ブラシ1はワイヤ3を半分に曲げてその間にフィラメント4を挟みワイヤ3を捻ったものである。そして、ワイヤ3の基端部であって柄1に埋め込まれる部分の任意の箇所には図2の拡大図のようにカシメ部3aを形成している。カシメ部3aはワイヤ3を捻ってブラシ1を成形した後に金属あるいは硬質の工具で挟み込んで螺旋状にねじれたワイヤ3の一部を変形させたものである。本実施例ではこの変形をカシメ部3aとしている。続いて、ワイヤ3の柄1に対する埋没部を高周波加熱し、柄1の挿通孔1aに挿通する。柄1は合成樹脂で成型されているので、加熱したワイヤ3によって挿通孔1aの周壁が溶解し、ワイヤ3を周囲から密に固定する。この場合、カシメ部3aが設けられていないときにはワイヤ全体が規則的な螺旋状なので一方方向にワイヤ3を廻せば簡単に外れてしまうが、カシメ部3aによって螺旋の一部を変形させているため規則性がなくなっており、ワイヤ3は廻らず、外れることがない。
【0011】尚、カシメ部3aの形状は特定する必要はなく、ワイヤ3を捻って規則的に螺旋状になっているものを、この規則性を乱すような構造であればよい。例えば、ワイヤを完全に押しつぶす構造であっても、ワイヤの一部に傷をつける構造であっても本実施例の目的は十分達成することができる。」
(オ)「【0015】続いてカシメ部を構成する手段について説明する。図5はカシメ部の製造装置を上から見たところ、図6は横から見たところを示す。図中、21は無端状に連続したブラシ部フィーダであって、実施例ではループ状に繋いだチェーン22でフィーダ21を構成している。そして、各鳩目23にブラシ部16のワイヤを挿通した状態で、間欠的にチェーンを駆動している。この場合、ワイヤはチェーン22よりも下方に突出している必要がある。24はチェーンの進路の下方に突出し、かつワイヤに近接して設けられたカシメ台、25はピストンであり、カシメ台24とピストン25の間にワイヤを挟んだ状態でピストン25を作動させてワイヤに打ちつけ、カシメ部を形成するものである。その動作としては、フィーダ21がチェーン1個分の距離だけ間欠移送するので、これに同期してピストン25を駆動する。ピストン25の動きとしては、緩慢な動作ではなくカシメ台24に対して、ピストン25を打ちつける程度に動作することが好ましく、例えばプランジャを採用することによって、好ましいピストンの作動を実現することができる。なお、フィーダ21の進路上でピストンの直前に光センサなどを設けておき、ブラシの欠落があったときにはピストン25を作動させないようにすれば、ピストン25がカシメ台24に直撃することがなく、機器の余分な消耗を回避することができる。
【0016】続いて、ワイヤ部分にカシメ部を形成したブラシは更に搬送されて高周波加熱部に到達する。ここでは図7の一実施態様に示したように、先ずブラシ部16を適当なチャック手段によって固定すると同時に、柄17をブラシ部16の下方近傍に位置決めする。そして、矢印A方向から一定時間だけ高周波加熱を行う。そうするとカシメ部16aを含んでワイヤが灼熱するので、即座にブラシ部16を矢印B方向に移動し、柄17の挿通孔18に挿通して一定時間だけ保持する。反対に、ブラシ部16は固定したままで柄17を矢印Bと反対方向に移動させてもよい。これらの関係は、高周波加熱手段の構造によって任意に選択できる事項である。これによって灼熱したワイヤが挿通孔18の内壁周縁をいったん溶解し、続いてワイヤを保持しながら硬化することになるので、カシメ部16aの影響によってブラシ部16は柄17に確実に挿通保持することができる。なお、ワイヤを加熱する場合には長時間高周波を投射すればフィラメントが溶解してしまうので、投射時間は厳密に限定する必要があることはいうまでもない。」
(カ)「【0019】【発明の効果】本発明では、上述した通りの構成としたので、歯間ブラシ自体の構成にあってはカシメ部が規則的な捻れを阻害している結果、従来のように完成後にブラシが脱落することはない。」
(キ)図1、2及び6並びに前記(エ)及び(オ)の記載から、ワイヤ3の埋没部には、ワイヤ3が押しつぶされていない部分とワイヤ3が押しつぶされた構造のカシメ部3aとで構成されることは、明らかである。

イ 甲3に記載された発明
前記アの(ア)〜(キ)及び図1、2、5〜7の記載を総合して、本件発明1の表現に倣って整理すると甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「合成樹脂により構成された柄2と、
歯間を清掃できるように前記柄2と挿入固定されたブラシ1とを備え、
前記ブラシ1は、ワイヤ3、および、前記ワイヤ3を半分に曲げてその間にフィラメント4を挟みワイヤ3を捻って構成されるためのフィラメント4を含み、
前記ワイヤ3は、前記柄1の挿入孔1aに挿入される埋没部を含み、
前記埋没部は、ワイヤ3が押しつぶされていない部分及びワイヤ3が押しつぶされた構造のカシメ部3aを含み、
前記ワイヤ3は、前記埋没部に含まれる端部を含む、
歯間ブラシ。」

4 対比・判断
(1)取消理由2−1及び申立理由3(甲1に基づく新規性進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを、その有する機能に照らして対比すると、甲1発明の「プラスチック材料」は本件発明1の「樹脂材料」に相当し、同様に、「支持具1」は「ハンドル部」に、「支持具1と固定」は「ハンドル部と接合」に、「ブラシ毛2」は「ブラシ部」に、「柄部21」は「芯材」に、「植設」は「植毛」に、「ブラシ毛部22」は「フィラメント束」に、「被覆部に含まれる端部」は「被覆部に含まれる端部である被覆端部」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の被覆部の「固定部材が固定されない第1の部分」には、何ら塑性加工が施されていないから、本件発明1の「塑性加工が施されていない第1部分」に相当する。
さらに、甲1発明の「プレス方式で柄部21に固定部材3が固定された第2の部分」と本件発明1の「塑性加工が施された扁平形状の第2部分」とは、「固定要素を備えた第2部分」という点で共通するものである。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点1−1]
「樹脂材料により構成されたハンドル部と、
歯間を清掃できるように前記ハンドル部と接合されたブラシ部とを備え、
前記ブラシ部は、芯材、および、前記芯材に植毛されたフィラメント束を含み、
前記芯材は、前記ハンドル部に被覆された被覆部を含み、
前記被覆部は、塑性加工が施されていない第1部分、および、固定要素を備えた第2部分を含み、
前記芯材は、前記被覆部に含まれる端部である被覆端部を含む、
歯間ブラシ。」

[相違点1−1]
固定要素を備えた第2部分に関して、本件発明1は、「塑性加工が施された扁平形状」の第2部分であるのに対し、甲1発明では、プレス方式で柄部21に固定部材3が固定された第2部分である点。

[相違点1−2]
本件発明1は、「前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がされていない点。

(イ)判断
相違点1−1について
相違点1−1に関して、本件発明1の「第2部分」は、固定要素として芯材の一部分に塑性加工が施された部分であるところ、甲1発明の「第2部分」は固定要素として柄部21とは別体の固定部材3をプレス方式で柄部21に固定したものであるから、両者は、第2部分の構成が実質的に異なるといえる。
したがって、前記相違点1−1は、実質的な相違点であるといえる。
よって、前記相違点1−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
また、甲2及び甲3には、歯間ブラシにおいて、芯材にプレス加工等の塑性加工を施し、被覆部の第2部分に対応するカシメ部を形成することが記載されている(例えば、甲2の段落0014、0016−0017、図1、4を、また、甲3の段落0010−0011、図1−2を参照。)。しかしながら、甲2及び甲3に示されるカシメ部は、ワイヤを捻って規則的に螺旋状になっているものについて規則を乱すような構造とし、ワイヤが螺旋状であってもネジのように回って外れるおそれをなくしたもの(甲2の段落0003、0004、甲3の段落0003、0004を参照。)である。そして、甲2の段落0017には、「又、カシメ部3aの形状は特定する必要はなく、ワイヤ3を捻って規則的に螺旋状になっているものを、この規則性を乱すような構造であればよい。例えば、ワイヤを完全に押しつぶす構造であっても、ワイヤの一部に傷をつける構造であっても目的は十分達成することができる。」との記載がされ、甲3の段落0011には、「尚、カシメ部3aの形状は特定する必要はなく、ワイヤ3を捻って規則的に螺旋状になっているものを、この規則性を乱すような構造であればよい。例えば、ワイヤを完全に押しつぶす構造であっても、ワイヤの一部に傷をつける構造であっても本実施例の目的は十分達成することができる。」と記載されているが、甲2及び甲3には、カシメ部を扁平形状にすることは記載されていない。さらに、甲2の図4や甲3の図2を参酌しても、カシメ部は、ワイヤに対して小さく押しつぶされたものであることは看取されるものの、その押しつぶされた形状が扁平形状とされたものであることまでは看取できない。
また、歯間ブラシにおいて、芯材に塑性加工が施された扁平形状の部分を備えて抜け止めとすることが、周知の技術であったと認めうる証拠も見あたらない。
そうすると、甲1発明において、甲2又は甲3に記載された技術を適用し得たとしても、本件発明1の相違点1−1に係る構成には至らない。
したがって、甲1発明において、甲2又は甲3に記載された技術を適用したとしても、相違点1−1に係る本件発明1の構成は想到し得ない。

(ウ)異議申立人の主張に対して
異議申立人は、令和4年4月4日提出の上申書において、「歯間ブラシにおいて、芯材にプレス加工等の塑性加工を施し、扁平形状に形成し、被覆部の第2部分を形成することは、例えば甲第2号証や甲第3号証にも記載された当業者にとって従来周知の技術であ」ると主張する。(6頁23〜25行)
しかしながら、前記(イ)で検討したように、甲2及び甲3に、「芯材にプレス加工等の塑性加工を施し、扁平形状に形成し、被覆部の第2部分を形成すること」が記載されているとはいえず、また、ほかにそのことが周知の技術であるとする証拠もないから、前記異議申立人の主張は、採用できない。

(エ)まとめ
以上によれば、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、相違点1−2を検討するまでもなく、甲1発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、さらに、本件発明1は、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2ないし8について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明2ないし8は、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

(2)取消理由2−2及び申立理由4(甲2に基づく新規性進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを、その有する機能に照らして対比すると、甲2発明の「合成樹脂」は本件発明1の「樹脂材料」に相当し、同様に、「柄1」は「ハンドル部」に、「ブラシ部2」は「ブラシ部」に、「ワイヤ3」は「芯材」に、「フィラメント4」は「フィラメント束」に、「柄1の挿入孔1aに挿入される」は「ハンドル部に被覆された」に、「埋め込み部」は「被覆部」に、「ワイヤ3が押しつぶされていない部分」は「塑性加工が施されていない第1部分」に、「カシメ部3a」は「第2部分」に、「埋め込み部に含まれる端部」は「被覆部に含まれる端部である被覆端部」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明の「ワイヤ3を半分に曲げてその間の先端側に寄せてフィラメント4を挟みワイヤ3を捻って構成されるための」は、フィラメント4がワイヤ3に捻り植毛されたことをいうものであるから、本願発明1の「芯材に植毛された」に相当する。
また、本件発明1の「塑性加工が施された扁平形状の」と甲2発明の「ワイヤ3が押しつぶされた構造の」とは、「塑性加工が施された構造」という概念で共通する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点2]
「樹脂材料により構成されたハンドル部と、
歯間を清掃できるように前記ハンドル部と接合されたブラシ部とを備え、
前記ブラシ部は、芯材、および、前記芯材に植毛されたフィラメント束を含み、
前記芯材は、前記ハンドル部に被覆された被覆部を含み、
前記被覆部は、塑性加工が施されていない第1部分、および、塑性加工が施された構造の第2部分を含み、
前記芯材は、前記被覆部に含まれる端部である被覆端部を含む、
歯間ブラシ。」

[相違点2−1]
塑性加工が施された第2部分の構造について、本件発明1は、「塑性加工が施された扁平形状」であるのに対し、甲2発明は、ワイヤ3が押しつぶされた構造である点。

[相違点2−2]
本件発明1は、「前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる」ものであるのに対し、甲2発明ではそのような特定がされていない点。

(イ)判断
相違点2−1について
甲2の段落0014の「柄1は合成樹脂で成形されているので、加熱したワイヤ3によって挿通孔1aの周壁が溶解し、一方ワイヤ3の埋め込み部の絶縁性素材5も溶解しており、互いに溶融してワイヤ3の捻れた埋め込み部分を包み込んで硬化し、該部を密に固定することになる。従って、埋め込み部が螺旋状であってもワイヤ3がネジのように回って外れるおそれはなく、ブラシ部自体の抜けを確実に防止できる。」との記載によれば、甲2発明は、螺旋状のワイヤがネジのように回って外れるおそれをなくすことも課題とするものであると理解できるところ、螺旋状のワイヤを確実に固定する例として、段落0016に「ワイヤ3の基端部であって柄1に埋め込まれる部分の任意の箇所に、図4の拡大図のようにカシメ部3aを形成することもある。このカシメ部3aはワイヤ3を捻ってブラシ部2を成形した後に、金属あるいは硬質の工具等で挟み込んで螺旋状に捻れたワイヤ3の一部を変形させて形成したものである。この場合、高周波加熱による溶融でワイヤ3の埋め込み部をカシメ部3aを含めて周囲から密に固定するので、カシメ部3aによって螺旋の一部を変形させて規則性がなくなっており、ワイヤ3はさらに確実に固定される。」とカシメ部3aについて記載されている。さらに、カシメ部3aについて、段落0017に「又、カシメ部3aの形状は特定する必要はなく、ワイヤ3を捻って規則的に螺旋状になっているものを、この規則性を乱すような構造であればよい。例えば、ワイヤを完全に押しつぶす構造であっても、ワイヤの一部に傷をつける構造であっても目的は十分達成することができる。」と記載されているが、カシメ部を扁平形状にすることは記載されていない。
また、甲2の図4にはカシメ部を示す部分拡大図が示されているところ、図4から、カシメ部3aがワイヤ3に比べて小さく押しつぶされた構成が看取されるものの、カシメ部3aを扁平形状にすることについてまで看取できない。
したがって、前記相違点2−1は、実質的な相違点であるといえる。
よって、前記相違点2−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。

また、甲1及び甲3についてみても、甲1には、前記(1)アで検討したように、少なくとも、第2部分について「塑性加工が施された扁平形状」である点について開示されていない。また、甲3には、後述の(2)ア(イ)で示すように、甲2と同程度の記載があるのみで、塑性加工が施された第2部分の構造について、「扁平形状」とすることは、記載も示唆もされていない。
さらに、歯間ブラシにおいて、芯材に塑性加工が施された扁平形状の部分を備えて抜け止めとすることが、周知の技術であったと認めうる証拠も見あたらない。
そうすると、甲2発明において、甲1又は甲3に記載された技術を適用し得たとしても、本件発明1の相違点2−1に係る構成には至らない。
したがって、相違点2−2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲1又は甲3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)異議申立人の主張に対して
異議申立人は、令和4年4月4日提出の上申書において、「ワイヤを工具で挟み込んで押しつぶし変形させれば、幅が狭くなった方向と直交する方向には幅が広がるのは自明なことですので、本件発明1に規定するような扁平構造が得られることは、技術常識から明らかです(現に、甲第2号証の図1、図4、図5などにおいてもそのような扁平構造が開示されております)。」と主張する。(8頁26行〜第9頁第4行)
しかしながら、甲2の、特に、カシメ部を示す部分拡大図である図4を参酌すると、複数の線材を撚って形成されたワイヤ3に対してカシメ部3aの上下方向の長さが狭まっていることが看取されるところ、前記(イ)で示したように、図4からは、カシメ部3aがワイヤ3に比べて小さく押しつぶされた構成が看取されるものの、カシメ部3aを扁平形状にすることについてまで看取できないから、図4に、カシメ部の扁平構造が開示されていると解することはできない。また、図4から複数の線材を撚って形成されたワイヤ3において、押しつぶしにより、線材間の隙間が埋められて密度が高まりサイズ的には小さくなったと理解できることから、「ワイヤを工具で挟み込んで押しつぶし変形させれば、幅が狭くなった方向と直交する方向には幅が広がるのは自明なこと」であるとはいえず、また、必ずしも扁平構造が得られるとはいえない。結局、図1、4、5には、図4から看取されるカシメ部3aがワイヤ3に比べて小さく押しつぶされた構成が示されているに過ぎず、扁平構造は看取できない。
したがって、前記異議申立人の主張は、採用できない。

(エ)まとめ
以上によれば、本件発明1は、甲2発明であるとはいえず、また、相違点2−2を検討するまでもなく、甲2発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、さらに、本件発明1は、甲2発明及び甲1又は甲3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2ないし8について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明2ないし8は、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲2発明及び甲1又は甲3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

(3)取消理由2−3及び申立理由5(甲3に基づく新規性進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを、その有する機能に照らして対比すると、甲3発明の「合成樹脂」は本件発明1の「樹脂材料」に相当し、同様に、「柄2」は「ハンドル部」に、「ブラシ1」は「ブラシ部」に、「ワイヤ3」は「芯材」に、「フィラメント4」は「フィラメント束」に、「柄1の挿入孔1aに挿入される」は「ハンドル部に被覆された」に、「埋没部」は「被覆部」に、「ワイヤ3が押しつぶされていない部分」は「塑性加工が施されていない第1部分」に、「カシメ部3a」は「第2部分」に、「埋没部に含まれる端部」は「被覆部に含まれる端部である被覆端部」に、それぞれ相当する。
また、甲3発明の「ワイヤ3を半分に曲げてその間にフィラメント4を挟みワイヤ3を捻って構成されるための」は、フィラメント4がワイヤ3に捻り植毛されたことをいうものであるから、本願発明1の「芯材に植毛された」に相当する。
また、本件発明1の「塑性加工が施された扁平形状の」と甲3発明の「ワイヤ3が押しつぶされた構造の」とは、「塑性加工が施された構造」という概念で共通する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点3]
「樹脂材料により構成されたハンドル部と、
歯間を清掃できるように前記ハンドル部と接合されたブラシ部とを備え、
前記ブラシ部は、芯材、および、前記芯材に植毛されたフィラメント束を含み、
前記芯材は、前記ハンドル部に被覆された被覆部を含み、
前記被覆部は、塑性加工が施されていない第1部分、および、塑性加工が施された構造の第2部分を含み、
前記芯材は、前記被覆部に含まれる端部である被覆端部を含む、
歯間ブラシ。」

[相違点3−1]
塑性加工が施された第2部分の構造について、本件発明1は、「塑性加工が施された扁平形状」であるのに対し、甲3発明は、ワイヤ3が押しつぶされた構造である点。

[相違点3−2]
本件発明1は、「前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる」ものであるのに対し、甲3発明ではそのような特定がされていない点。

(イ)判断
相違点3−1について
甲3の段落0010に「柄1は合成樹脂で成型されているので、加熱したワイヤ3によって挿通孔1aの周壁が溶解し、ワイヤ3を周囲から密に固定する。この場合、カシメ部3aが設けられていないときにはワイヤ全体が規則的な螺旋状なので一方方向にワイヤ3を廻せば簡単に外れてしまうが、カシメ部3aによって螺旋の一部を変形させているため規則性がなくなっており、ワイヤ3は廻らず、外れることがない。」とカシメ部3aについて記載されている。さらに、カシメ部3aについて、段落0011に「カシメ部3aの形状は特定する必要はなく、ワイヤ3を捻って規則的に螺旋状になっているものを、この規則性を乱すような構造であればよい。例えば、ワイヤを完全に押しつぶす構造であっても、ワイヤの一部に傷をつける構造であっても本実施例の目的は十分達成することができる。」と記載されているところ、カシメ部を扁平形状にすることは記載されていない。
また、甲3の図2にはカシメ部の拡大斜視図が示されているところ、図2から、カシメ部3aがワイヤ3に比べて小さく押しつぶされた構成が看取されるものの、カシメ部3aを扁平形状にすることについてまで看取できない。
したがって、前記相違点3−1は、実質的な相違点であるといえる。
よって、前記相違点3−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。

また、甲1及び甲2についてみても、甲1には、前記(1)アで検討したように、少なくとも、第2部分について「塑性加工が施された扁平形状」である点について開示されていない。また、甲2には、前記(2)ア(イ)で示したように、甲3と同程度の記載があるのみで、塑性加工が施された第2部分の構造について、「扁平形状」とすることは、記載も示唆もされていない。
さらに、歯間ブラシにおいて、芯材に塑性加工が施された扁平形状の部分を備えて抜け止めとすることが、周知の技術であったと認めうる証拠も見あたらない。
そうすると、甲3発明において、甲1又は甲2に記載された技術を適用し得たとしても、本件発明1の相違点3−1に係る構成には至らない。
したがって、相違点3−2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲1又は甲2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)まとめ
以上によれば、本件発明1は、甲3発明であるとはいえず、また、相違点3−2を検討するまでもなく、甲3発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、さらに、本件発明1は、甲3発明及び甲1又は甲2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2ないし8について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明2ないし8は、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲3発明及び甲1又は甲2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(明確性要件)について
ア 本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合は、55%以下の範囲に含まれる」という事項が記載されているところ、前記事項について、「前記被覆部の長さ」及び「前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離」は、発明の詳細な説明の段落0057の記載から明らかであるところ、「前記被覆部の長さに対する前記被覆端部と前記第2部分の中心点との距離の割合」について、被覆部の長さに対する被覆端部と第2部分の中心点との距離の割合の数値範囲を規定しているにすぎないから、文言上曖昧な表現が用いられているわけでもなく、発明が明確に把握できる。
異議申立人は異議申立書で、「塑性加工が施された扁平形状の部分が2個所以上の場合、どの点を前記第2部分の中心点とみなすべきか、本件明細書の記載からも不明確」(21頁10〜11行)であるから前記事項が不明確である旨主張するところ、前記したとおり、文言に曖昧な表現がないから発明は明確に把握できる。したがって、異議申立人の前記主張は採用できない。

イ また、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「塑性加工が施された扁平形状の第2部分」という事項が記載されているところ、「塑性加工が施された」という状態を示すことにより、第2部分が芯材と一体に形成された構造を特定しているものと理解できるから、前記事項は明確であるといえる。
異議申立人は異議申立書で、前記事項が製造方法により特定された物であるから不明である旨主張するが、前記事項は、前記のとおり理解でき明確であるから、異議申立人の前記主張は採用できない。

ウ 以上によれば、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許1ないし8は、異議申立書に記載された特許異議申立の理由及び当審が通知した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1ないし8を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-07-06 
出願番号 P2016-210001
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A46B)
P 1 651・ 113- Y (A46B)
P 1 651・ 121- Y (A46B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 関口 哲生
長馬 望
登録日 2020-11-02 
登録番号 6787751
権利者 サンスター株式会社
発明の名称 歯間ブラシ  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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