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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  F01M
管理番号 1387478
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-18 
確定日 2022-06-03 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6812396号発明「PCVバルブの取付構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6812396号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6812396号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6812396号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成30年11月12日に出願したものであって、令和2年12月18日に特許権の設定登録がされ、令和3年1月13日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和3年5月18日:特許異議申立人久世良樹(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和3年11月9日付け:取消理由通知書
令和4年1月12日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年3月14日:申立人による意見書の提出

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和4年1月12日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6812396号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求める。」というものであり、その訂正(以下「本件訂正」 という。)の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り外し不能に取り付ける取付部材を備えることを特徴とするPCVバルブの取付構造。」とあるのを、
「内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに対し取り付ける取付部材を備え、
前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに前記ヘッドカバーに固定されることにより、前記ヘッドカバーに対し前記PCVバルブを取り外し不能とするものであることを特徴とするPCVバルブの取付構造。」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「前記PCVバルブは、前記ブローバイガス通路のガス流通面積を調整するための流量調整部を備えており、
前記取付部材は、前記流量調整部を内燃機関に対し取り外し不能に取り付けるものである請求項1に記載のPCVバルブの取付構造。」とあるのを、
「内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備え、
前記PCVバルブは、前記ブローバイガス通路のガス流通面積を調整するための流量調整部を備えており、
前記取付部材は、前記流量調整部を内燃機関との間に挟み込むように前記PCVバルブに当接するとともに内燃機関に固定されることにより、前記流量調整部を内燃機関に対し取り外し不能とするものであることを特徴とするPCVバルブの取付構造。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「取付部材」について、「同PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに対し取り付ける」ものであること、「前記PCVバルブに当接するとともに前記ヘッドカバーに固定されることにより、前記ヘッドカバーに対し前記PCVバルブを取り外し不能とするものであること」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0019】〜【0020】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用して記載していたものにつき、独立項形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることに該当する。そして、訂正前の請求項2に記載されていた「取付部材」について、「前記流量調整部を内燃機関との間に挟み込むように前記PCVバルブに当接するとともに内燃機関に固定されること」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0019】〜【0020】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1、2は、請求項2が、本件訂正により訂正される請求項1を引用するものであるから、本件訂正は、一群の請求項1、2について請求されている。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項、及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに対し取り付ける取付部材を備え、
前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに前記ヘッドカバーに固定されることにより、前記ヘッドカバーに対し前記PCVバルブを取り外し不能とするものであることを特徴とするPCVバルブの取付構造。
【請求項2】
内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備え、
前記PCVバルブは、前記ブローバイガス通路のガス流通面積を調整するための流量調整部を備えており、
前記取付部材は、前記流量調整部を内燃機関との間に挟み込むように前記PCVバルブに当接するとともに内燃機関に固定されることにより、前記流量調整部を内燃機関に対し取り外し不能とするものであることを特徴とするPCVバルブの取付構造。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 令和3年11月9日付け取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対して通知した令和3年11月9日付け取消理由通知書による取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)取消理由1(明確性
請求項1の「前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機
関に対し取り外し不能に取り付ける取付部材」との記載に関し、「別体」とは、取り付け後に一体となるものも含むのか、「内燃機関に対し取り外し不能」とは、特殊工具を用いれば取り外しできるものも含むのか等、その特定しようとしている構造の範囲が明確でない。
また、請求項2の「前記取付部材は、前記流量調整部を内燃機関に対し取り外し不能に取り付けるものである」との記載についても同様の点で明確でない。
よって、本件の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(新規性
本件の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

(3)取消理由3(進歩性
本件の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証、または甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2015−151864号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開2003−254031号公報(以下、「甲2」という。)

2 令和3年11月9日付け取消理由についての当審の判断
(1)取消理由1(明確性)について
本件訂正によって、「取付部材」が「同PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに対し取り付ける取付部材」、「前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに前記ヘッドカバーに固定されることにより、前記ヘッドカバーに対し前記PCVバルブを取り外し不能とするものであること」と限定されたことにより、取付部材、PCVバルブ、ヘッドカバーの関係が明確となった。そして、発明の詳細な説明の段落【0019】、【0020】等の例示から、対し取り外し不能の具体的態様が理解できる。
したがって、本件訂正により、本件発明1、2は、明確となった。

(2)取消理由2(新規性)、及び甲2に基づく取消理由3(進歩性)について
ア 甲2に記載された事項及び発明
甲2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)
「【0002】【従来の技術】自動車の燃焼室から漏洩するブローバイガスを吸気系に戻して燃焼室内で再燃焼させるための装置として、図7に示すようなサイクロンケース70とPCVバルブ72が用いられている。サイクロンケース70は、燃焼室から漏洩するブローバイガスをガスとオイルに気液分離する装置である。
【0003】PCVバルブ72は、ガスの流量を調整してガスを吸気系に戻すもので、PCVバルブハウジング72A内にバルブがスライド可能に収容されている。
【0004】しかし、サイクロンケース70とPCVバルブ72は別部品であるため、サイクロンケース70とPCVバルブ72とを接続しなければならない。この方法として、サイクロンケースとPCVバルブとをホースでつなぐ方法(図示省略)、サイクロンケース70にボス部74を設けてPCVバルブハウジング72Aを嵌着する方法が採用されている。」

(イ)
「【0015】図1および図2に示すように、気液分離装置10は、サイクロンケース14を備えている。サイクロンケース14は、その中心軸が略鉛直となるように配置されている。サイクロンケース14の上部には、円筒部16が形成されている。円筒部16の側面には、ガス流入管12が設けられ、ガス流入口12Aが円筒部16の接線方向に開口している。」

(ウ)
「【0020】ガス流出管32の上方には、PCVバルブ48が設けられている。図3に示すように、PCVバルブ48は、小筒部50Aと大筒部50Bとから構成されたハウジング50を備えている。小筒部50Aの上端には、上方開口部62が形成され、大筒部50Bの下端には、下方開口部64が形成されている。
大筒部50Bの中には、円柱状の弁体(バルブ)56が設けられている。弁体(バルブ)56の下端部には、テーパー面56Aが形成されており、ガス管40の上方開口部46に形成された誘い面46Aと当接するようになっている。また、 弁体(バルブ)56には、リング57が取り付けられている。リング57と段部61との間には、スプリング58が収容されている。スプリング58は、弁体(バルブ)56をガス管40の上方開口部46方向へ付勢している。これにより、弁体(バルブ)56で上方開口部46を閉塞してブローバイガスの流路を遮断し(図4参照)、また、ガス圧で弁体(バルブ)56が押されてスプリング58が縮むと、弁体(バルブ)56と誘い面46Aとの間に隙間ができ、ガス管40から流出されるガスが、上方に吸引されるようになっている。これにより、ガス圧に応じてガスの流量が調整される。」

(エ)
「【0026】また、弁体(バルブ)56(図1参照)を収容したハウジング50をサイクロンケース14と組み合わせて全体として1部品化することで、実機に搭載する際の部品点数を削減することができる。」

(オ)
「【0030】この構成では、ハウジング50とサイクロンケース14とが、嵌合部30で超音波溶着されるようになっているが、ガス流出管32は、サイクロンケース14とハウジング50との間に挟み込まれているので、ガス流出管32の溶着作業を省くことができる。」

(カ)
「【0032】また、弁体(バルブ)56(図1参照)を収容したハウジング50をサイクロンケース14と組み合わせて全体として1部品化することで、実機に搭載する際の部品点数を削減することができる。」

(キ)
「【0036】ブローバイガスは、旋回によりオイルミスト分が除去されて清浄となる。旋回を終えたブローバイガスは、ガス流出管32のガス管40へ流出し、ガス管40からハウジング50内へ向かう。ハウジング50内では、スプリング58が、弁体(バルブ)56をガス管40の上方開口部46方向へ付勢しているが、ハウジング50内へ向かうブローバイガスのガス圧で弁体(バルブ)56が押されると、スプリング58が縮む。その結果、弁体(バルブ)56と誘い面46Aとの間に隙間ができ、ガス管40から流出されるブローバイガスは、上方に吸引されて吸気系に戻る。これにより、ガス圧に応じてガスの流量が調整される。」

(ク)
「【0038】さらに、上記においては、溶着の方法として超音波溶着を例にとって、本発明の実施の形態を具体的に説明したが、レーザによる溶着でも構わず 、溶着方法はこれに限定されるものではない。」

イ 甲2発明
甲2には、上記記載事項(ア)ないし(ク)及び図面(特に図1ないし6を参照。)の図示内容からみて、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

<甲2発明>
「燃焼室から漏洩するブローバイガスを吸気系に戻し、ガス流量を調整するためのPCVバルブ48に適用され、
PCVバルブ48のハウジング50はガス流量を調整するための弁体(バルブ)56を収容しており、
PCVバルブ48のハウジング50がサイクロンケース14に対し超音波溶着されるPCVバルブ48の取付構造。」

ウ 本件発明1の新規性進歩性について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「燃焼室から漏洩するブローバイガス」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明1の「内燃機関のブローバイガス」に相当する。
次に、甲2発明の「PCVバルブ48」は、燃焼室から漏洩するブローバイガスを吸気系に戻す通路に設けられるものであるから、「吸気系に流すブローバイガス通路」を有していることは明らかである。
また、甲2発明の「PCVバルブ48」は、段落【0020】及び【0036】を参照すると、弁体(バルブ)56と誘い面46Aとの間の隙間によりブローバイガスの流量を調整するものであり、ガス流通面積を調整するといえるから、甲2発明の「ガス流量を調整するためのPCVバルブ48」は、本件発明1の「ガス流通面積を調整するためのPCVバルブ」に相当する。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0024】及び【0025】並びに図3及び4を参照すると、PCVバルブはセパレータに対して取り付けられており、セパレータも内燃機関に含まれると解されることから、甲2発明の「PCVバルブ48のハウジング50がサイクロンケース14に対し超音波溶着されるPCVバルブ48の取付構造」は、本件発明1の「同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造」に相当する。
また、甲2発明のPCVバルブ48は、サイクロンケース14のハウジング50において、超音波溶着されていることから、甲2発明の「サイクロンケース14」は、本件発明1の「内燃機関」及び「取付部材」に相当する。
よって、甲2発明の「ハウジング50がサイクロンケース14に対し超音波溶着される」態様と、本件発明1の「前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備え、前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに、前記PCVバルブを取り外し不能とする」態様とは、PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備え、前記取付部材は前記PCVバルブに当接するとともに、前記PCVバルブを取り外し不能とするという限りにおいて一致している。
したがって、本件発明1と、甲2発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備え、
前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに前記PCVバルブを取り外し不能とするものであるPCVバルブの取付構造。」
<相違点1>
本件発明1は、「前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに対し取り付ける取付部材を備える」のに対して、甲2発明は、「前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関のサイクロンケース14に対し取り付ける取付部材を備える」点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに前記ヘッドカバーに固定されることにより、前記ヘッドカバーに対し前記PCVバルブを取り外し不能とするものである」のに対して、甲2発明は、「前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに前記PCVバルブを取り外し不能とするものである」が、取付部材がヘッドカバーに固定されることにより、ヘッドカバーに対しPCVバルブを取り外し不能とするものではない点。

(イ)当審の判断
上記相違点1、及び2について検討する。
相違点1、及び2は、実質的に、本件発明1では、PCVバルブが内燃機関のヘッドカバーに取り付けられるのに対し、甲2発明では、PCVバルブが内燃機関のサイクロンケースに取り付けられる点で相違する。
そうすると、相違点1、及び2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明ではない。
また、引用発明において、上記相違点1、及び2に係る本件発明1の発明特定事項を、当業者が容易になし得たとする理由はない。
<申立人の主張について>
申立人は、令和4年3月15日の意見書において、PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに取り付けることは、参考資料1(特開2011−236854号公報)にみられるよう周知の技術である旨主張する。
しかし、甲2発明はPCVバルブがサイクロンケース14に取り付けられており、サイクロンケース14と一体で作用するものであるから、甲2発明においいて、PCVバルブをヘッドカバーに取り付ける動機付けはない。

(ウ)小括
よって、本件発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

エ 本件発明2の新規性進歩性について
(ア)対比
本件発明2と、甲2発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備え、
前記PCVバルブは、前記ブローバイガス通路のガス流通面積を調整するための流量調整部を備えており、
前記取付部材は、前記流量調整部を内燃機関に対し取り外し不能とするものであるPCVバルブの取付構造。」
<相違点3>
本件発明2は、取付部材が、「前記流量調整部を内燃機関との間に挟み込むように前記PCVバルブに当接するとともに内燃機関に固定」するのに対して、甲2発明は、PCVバルブ48のハウジング40がサイクロンケース14に固定される点。

(イ)当審の判断
上記相違点について検討する。
<相違点3>について
相違点3は、実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲2発明ではない。
また、申立人が令和4年3月15日の意見書に添付した証拠である参考資料2(特開2009−264275号公報)の段落【0022】、及び図4の記載から、「キャップ19はPCVバルブ16をオイルセパレータユニット5との間に挟み込むようにPCVバルブ16に当接するとともに取付筒部6に装着されること」が把握できる。しかし、甲2発明はハウジング50とサイクロンケース14とガス流出管32とを嵌合部30で超音波溶着するものであり、甲2発明に参考資料2に示されるような上記事項を適用し、相違点3に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。

(ウ)小括
よって、本件発明2は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(3)甲1に基づく取消理由3(進歩性)について
ア 甲1に記載された事項及び発明
甲1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)
「【0002】ブローバイガスなるものが、自動車用エンジンにおけるシリンダとピストンとの間隙よりクランクケースに漏れ出したガスである。このブローバイガスを吸気通路に還元することにより、燃費を向上できる。また、クランクケース内圧を負圧にすることができ、ピストンのポンピングロスを軽減できる。このブローバイガスにはミスト状のエンジンオイルが含まれているため、オイルセパレータにてブローバイガスからオイルを分離している。オイルが分離されたブローバイガスは、PCVバルブにより流量調整されて吸気通路に還元される。」

(イ)
「【0004】 特開2009−150351号公報は、エンジンの熱が効果的にPCVバルブに伝わるようにするために、PCVバルブが取付けられるオイルセパレータ部分を熱伝導率の高い金属製とする技術を開示している。」

(ウ)
「【0013】オイルセパレータ1は、自動車用エンジン(図示略)のクランクケース(図示略)に発生するブローバイガス(オイルミスト混合ガス)からオイルを分離させるために設けられる。分離されたオイルは、クランクケースに戻される。オイルセパレータ1は、アッパ部品1aとロア部品1bを備えている。アッパ部品1aとロア部品1bとは振動溶着、接着等にて互いに固定されている。
【0014】オイルセパレータ1は、図5に示すように、内部スペース2と、内部スペース2にブローバイガスを導入するガス導入部3と、ブローバイガスからオイルを分離するオイル分離部4と、オイル分離部4により分離されたオイルを外部に排出するドレイン部5と、オイル分離部4によりオイルが分離されたブローバイガスを内部スペース2から排出するガス排出部6と、を備える。
【0015】ガス導入部3とドレイン部5とガス排出部6は、1個ずつ設けられている。ガス導入部3とドレイン部5は、管状であり、ロア部品1bに設けられている。ガス排出部6は、管状であり、アッパ部品1aから上方に延びて設けられている。図4に示すように、ガス排出部6のガス流れ方向下流側端部には、ガス排出部6の径方向外側に延びるフランジ部6aが設けられている。」

(エ)
「【0018】PCVバルブ20は、内部スペース2からオイルセパレータ1の外部に排出されるガス量を調整するために設けられる。PCVバルブ20は、図4に示すように、可動バルブ21と、スプリング22と、バルブボディ23を備える。可動バルブ21がバルブボディ23に対して動くことでバルブボディ23の内部流路23aの流路断面積が変わるため、PCVバルブ20はPCVバルブ20を流れるブローバイガスの流量を調整できる。」

(オ)
「【0020】バルブボディ23は、バルブボディ23と接触するブッシュ40を介してオイルセパレータ1のガス排出部6に装着されている。ブッシュ40は、PCVバルブ加温装置10の構成部品である。
【0021】ブッシュ40は、金属製であり、金属は、たとえば、鉄、鋼,銅、アルミニウムである。ブッシュ40は、ガス排出部6に圧入されている。ブッシュ40は、内周面41と、外周面42と、を備える。」

(カ)
「【0023】バルブボディ23(PCVバルブ20)は、ブッシュ40の内周面41の小径部41aにねじ込まれている。ブッシュ40の内周面41の小径部41aは、バルブボディ23の外周面23bの小径部23b1と、面接触している。ブッシュ40の段差部41bは、バルブボディ23の段差部23b2と対向している。ブッシュ40の内周面41の大径部41cは、バルブボディ23の外周面23bの大径部23b3と、面接触している。バルブボディ23の外周面23bの大径部23b3と、ブッシュ40の内周面41の大径部41cとの間は、Oリング43でシールされている。ブッシュ40の内周面41の大径部41c部分におけるブッシュ40の厚みは、バルブボディ23の第2の段差部23b4の段差量と略同じである。」

(キ)
「【0029】樹脂カバー50は、PCVバルブ加温装置10の構成部品である。樹脂カバー50は、ガス排出部6のフランジ部6aに超音波溶着または接着等にて固定されている。樹脂カバー50は、パイプ30のパイプ側延び部32とブッシュ40との、ガス排出部6によって覆われていない部分の、全体を覆っていてもよく一部のみを覆っていてもよい。樹脂カバー50は、パイプ30のパイプ側延び部32に接触していてもよく非接触であってもよい。樹脂カバー50は、ブッシュ40に接触していてもよく非接触であってもよい。」

(ク)
「【0034】ブッシュ40とパイプ30とが樹脂カバー50で覆われているため、ブッシュ40とパイプ30とが樹脂カバー50で覆われていない場合に比べて、ブッシュ40とパイプ30からの放熱を抑制できる。また、樹脂カバー50がオイルセパレータ1に固定されるため、オイルセパレータ1のガス排出部6に圧入されているブッシュ40がオイルセパレータ1から外れることを抑制できる。」

イ 甲1発明
甲1には、上記記載事項(ア)ないし(ク)及び図面(特に図1ないし5を参照。)の図示内容からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

<甲1発明>
「エンジンの吸気通路に還元されるブローバイガスが流れる内部流路23aの流路断面積を変えるためのPCVバルブ20に適用され、PCVバルブ20はブッシュ40を介してオイルセパレータ1に装着され、
PCVバルブ20は内部流路23aの流路断面積を変える可動バルブ21を備えており、
オイルセパレータ1に固定されるため、オイルセパレータ1に圧入されているブッシュ40がオイルセパレータ1から外れることを抑制できる樹脂カバー50を備えるPCVバルブ20の取付構造。」

ウ 本件発明1の進歩性について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「エンジンの吸気通路に還元されるブローバイガス」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明1の「内燃機関のブローバイガス」に相当し、以下同様に、「PCVバルブ20」は「PCVバルブ」に、「オイルセパレータ1」は「内燃機関」に、それぞれ相当する。
次に、甲1発明の「PCVバルブ20」は、エンジンのブローバイガスを吸気通路に還元する通路に設けられるものであるから、「吸気系に流すブローバイガス通路」を有していることは明らかである。
また、甲1発明の「PCVバルブ20はブッシュ40を介してオイルセパレータ1に装着され」る態様は、本件発明1の「PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける」態様に相当する。
さらに、甲1発明の「オイルセパレータ1に固定されるため、オイルセパレータ1に圧入されているブッシュ40がオイルセパレータ1から外れることを抑制できる樹脂カバー50」は、PCVバルブ20とは別体の取付部材と表現できる。
よって、甲1発明の「オイルセパレータ1に固定されるため、オイルセパレータ1に圧入されているブッシュ40がオイルセパレータ1から外れることを抑制できる樹脂カバー50」と、本件発明1の「PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関」、「に対し取り外し不能に取り付ける取付部材」とは、PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材という限りにおいて一致している。
したがって、本件発明1と、甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備えるPCVバルブの取付構造。」

<相違点4>
本件発明1は、「同PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに対し取り付ける」のに対して、甲1発明は、「前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関のオイルセパレータ1に対し取り付ける」点。
<相違点5>
本件発明1は、「前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに前記ヘッドカバーに固定されることにより、前記ヘッドカバーに対し前記PCVバルブを取り外し不能とするものである」のに対して、甲1発明は、「オイルセパレータ1に圧入されているブッシュ40がオイルセパレータ1から外れることを抑制できる」ものである点。

(イ)当審の判断
上記相違点4、及び5について検討する。
<相違点4>について
相違点4は、実質的に、本件発明1では、PCVバルブが内燃機関のヘッドカバーに取り付けられるのに対し、甲1発明では、PCVバルブが内燃機関のオイルセパレータ1に取り付けられる点で相違する。
そして、PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに取り付けることは、上記参考資料1にみられるよう周知の技術であるとしても、甲1発明はPCVバルブがオイルセパレータ1に取り付けられており、オイルセパレータ1と一体で作用するものであるから、甲1発明において、PCVバルブをヘッドカバーに取り付けるよううに変更する動機付けはない。
したがって、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものではない。

<相違点5>について
甲1は、「バルブボディ23(PCVバルブ20)は、ブッシュ40の内周面41の小径部41aにねじ込まれている。」(段落【0023】)と記載されているものの、樹脂カバー50が、PCVバルブ20に当接することが記載されておらず、また、樹脂カバー50がヘッドカバーに固定されることによりヘッドカバーに対しPCVバルブ20を取り外し不能とすることも記載されていない。また、樹脂カバー50はブッシュ40がオイルセパレータ1から外れるのを防止するために設けられるものであるから、樹脂カバー50をPCVバルブ20に直接当接させる積極的な動機付けはない。
したがって、上記相違点5に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものではない。

(ウ)小括
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

エ 本件発明2の進歩性について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「可動バルブ21」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明2の「流量調整部」に相当する。
したがって、本件発明2と、甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備え、
前記PCVバルブは、前記ブローバイガス通路のガス流通面積を調整するための流量調整部を備えているPCVバルブの取付構造。」

<相違点6>
本件発明2は、「前記取付部材は、前記流量調整部を内燃機関との間に挟み込むように前記PCVバルブに当接するとともに内燃機関に固定されることにより、前記流量調整部を内燃機関に対し取り外し不能とするものである」のに対して、甲1発明には、樹脂カバー50が、可動バルブ21をオイルセパレータ1との間に挟み込むようにPCVバルブ20に当接するとともにオイルセパレータ1に固定されるものではなく、また、可動バルブ21をオイルセパレータ1に対し取り外し不能に取り付ける取付部材を有するか否か不明な点。

(イ)当審の判断
上記相違点6について検討する。
上記「相違点5」で検討したとおり、甲1には、「バルブボディ23(PCVバルブ20)は、ブッシュ40の内周面41の小径部41aにねじ込まれている。」(段落【0023】)と記載されているものの、樹脂カバー50が、PCVバルブ20に当接することは記載されていない。また、樹脂カバー50はブッシュ40がオイルセパレータ1から外れるのを防止するために設けられるものであるから、樹脂カバー50を可動バルブ21とオイルセパレータ1との間に挟み込むように、PCVバルブ20に当接させる理由はない。
したがって、甲1発明において、上記相違点6に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたものではない。

(ウ)小括
よって、本件発明2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関のヘッドカバーに対し取り付ける取付部材を備え、
前記取付部材は、前記PCVバルブに当接するとともに前記ヘッドカバーに固定されることにより、前記ヘッドカバーに対し前記PCVバルブを取り外し不能とするものであることを特徴とするPCVバルブの取付構造。
【請求項2】
内燃機関のブローバイガスを同機関の吸気系に流すブローバイガス通路のガス流通面積を調整するためのPCVバルブに適用され、同PCVバルブを内燃機関に対し取り付けるPCVバルブの取付構造において、
前記PCVバルブとは別体であって同PCVバルブを内燃機関に対し取り付ける取付部材を備え、
前記PCVバルブは、前記ブローバイガス通路のガス流通面積を調整するための流量調整部を備えており、
前記取付部材は、前記流量調整部を内燃機関との間に挟み込むように前記PCVバルブに当接するとともに内燃機関に固定されることにより、前記流量調整部を内燃機関に対し取り外し不能とするものであることを特徴とするPCVバルブの取付構造。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-24 
出願番号 P2018-212108
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F01M)
P 1 651・ 113- YAA (F01M)
P 1 651・ 537- YAA (F01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐々木 正章
特許庁審判官 鈴木 充
木村 麻乃
登録日 2020-12-18 
登録番号 6812396
権利者 トヨタ紡織株式会社 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 PCVバルブの取付構造  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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