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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1387479
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-21 
確定日 2022-05-13 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6791335号発明「熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セル、熱収縮性フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6791335号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−13]について訂正することを認める。 特許第6791335号の請求項3ないし10に係る特許を維持する。 特許第6791335号の請求項1、2及び11ないし13に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6791335号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、令和1年10月10日の出願であって、令和2年11月9日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和3年5月21日に特許異議申立人 藤下 万実(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされるとともに、同年同月25日に特許異議申立人 早川 いづみ(以下、「特許異議申立人B」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年10月25日付で取消理由が通知され、同年12月24日に特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)より意見書の提出及び訂正の請求がされ、特許異議申立人A及びBに対し令和4年1月20日付けで特許法第120条の5第5項に基づく通知を行ったところ、同年2月18日に特許異議申立人Aより意見書の提出がされ、同年同月22日に特許異議申立人Bより意見書が提出されたものである。

第2 訂正の許否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記熱収縮フィルムが二軸延伸フィルムであり、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上である請求項1または2記載の熱収縮フィルム。」と記載されているのを、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下であり、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)〜d)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む
b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下
c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下
d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」
に訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記熱収縮フィルムが二軸延伸フィルムであり、主収縮方向の延伸倍率が3.0倍以上、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上である請求項1または2記載の熱収縮性フィルム。」と記載されているのを、
「主収縮方向の延伸倍率が3.0倍以上であり、
得られた熱収縮性フィルムが下記e)〜g)を満たす請求項3記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
e)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(ΔHm)が20J/g以下
f)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1−FT2)の絶対値が20℃以下
g)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が5.0%以下」
に訂正する。
請求項4の記載を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「JIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際、試験片表面の1000回転当たりの摩耗質量が25mg以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。」と記載されているのを、
「得られた熱収縮性フィルムがJIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際、試験片表面の1000回転当たりの摩耗質量が25mg以下である、請求項3または4記載の熱収縮性フィルムの製造方法。」
に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし10についても同様に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「体積固有抵抗が1×1014Ω・cm以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。」と記載されているのを、
「得られた熱収縮性フィルムの体積固有抵抗が1×1014Ω・cm以上である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。」
に訂正する。
請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7ないし10についても同様に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「絶縁破壊電圧が8kV以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。」と記載されているのを、
「得られた熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧が8kV以上である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。」
に訂正する。
請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8ないし10についても同様に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、
「絶縁被覆用である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。」と記載されているのを、
「絶縁被覆用である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。」
に訂正する。
請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項9及び10についても同様に訂正する。

(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、
「電池セル被覆用である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。」と記載されているのを、
「電池セル被覆用である、請求項3〜8のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。」
に訂正する。
請求項9の記載を引用する請求項10についても同様に訂正する。

(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に、
「箱状包装資材展開体に裁断されてなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。」と記載されているのを、
「箱状包装資材展開体に裁断されてなる、請求項3〜9のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。」
に訂正する。

(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(12) 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(13) 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

なお、訂正前の請求項1〜13は、一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 訂正事項1に係る請求項1の訂正について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(2) 訂正事項2に係る請求項2の訂正について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(3) 訂正事項3に係る請求項3の訂正について
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改めるとともに、主収縮方向の延伸倍率の上限を特定するとともに、製造方法により物を特定することによる発明の明確性の問題を解消するために「熱収縮フィルムの製造方法」として発明を特定することを目的とするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項1及び3、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】、【0038】の記載からみて、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正後の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項3に係る請求項3の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4ないし10についても同様である。

(4) 訂正事項4に係る請求項4の訂正について
訂正事項4に係る請求項4の訂正は、製造方法により物を特定することによる発明の明確性の問題を解消するために「熱収縮フィルムの製造方法」として発明を特定することを目的とするものであって、さらに、得られた熱収縮フィルムの「結晶融解熱量」、「融着温度差」、「ネックイン率」を特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る請求項4の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】、【0038】、【0046】の記載からみて、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正後の請求項4に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項4に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項4に係る請求項4の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5ないし10についても同様である。

(5) 訂正事項5に係る請求項5の訂正について
訂正事項5に係る請求項5の訂正は、製造方法により物を特定することによる発明の明確性の問題を解消するために「熱収縮フィルムの製造方法」として発明を特定することを目的とするものであるとともに、引用先請求項を請求項3または4に減縮するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5に係る請求項5の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】、【0038】の記載からみて、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正後の請求項5に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項5に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項5に係る請求項5の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6) 訂正事項6に係る請求項6の訂正について
訂正事項6に係る請求項6の訂正は、製造方法により物を特定することによる発明の明確性の問題を解消するために「熱収縮フィルムの製造方法」として発明を特定することを目的とするものであるとともに、引用先請求項を請求項3〜5に減縮するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6に係る請求項6の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】、【0038】の記載からみて、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正後の請求項6に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項6に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項6に係る請求項6の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7ないし10についても同様である。

(7) 訂正事項7に係る請求項7の訂正について
訂正事項7に係る請求項7の訂正は、製造方法により物を特定することによる発明の明確性の問題を解消するために「熱収縮フィルムの製造方法」として発明を特定することを目的とするものであるとともに、引用先請求項を請求項3〜6に減縮するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項7に係る請求項7の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】、【0038】の記載からみて、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正後の請求項7に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項7に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項7に係る請求項7の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8ないし10についても同様である。

(8) 訂正事項8に係る請求項8の訂正について
訂正事項8に係る請求項8の訂正は、製造方法により物を特定することによる発明の明確性の問題を解消するために「熱収縮フィルムの製造方法」として発明を特定することを目的とするものであるとともに、引用先請求項を請求項3〜7に減縮するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項8に係る請求項8の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】、【0038】の記載からみて、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正後の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項8に係る請求項8の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9及び10についても同様である。

(9) 訂正事項9に係る請求項9の訂正について
訂正事項9に係る請求項9の訂正は、製造方法により物を特定することによる発明の明確性の問題を解消するために「熱収縮フィルムの製造方法」として発明を特定することを目的とするものであるとともに、引用先請求項を請求項3〜8に減縮するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項9に係る請求項9の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】、【0038】の記載からみて、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正後の請求項9に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項9に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項9に係る請求項9の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項9の記載を引用する請求項10についても同様である。

(10) 訂正事項10に係る請求項10の訂正について
訂正事項10に係る請求項10の訂正は、製造方法により物を特定することによる発明の明確性の問題を解消するために「熱収縮フィルムの製造方法」として発明を特定することを目的とするものであるとともに、引用先請求項を請求項3〜9に減縮するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項10に係る請求項10の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】、【0038】の記載からみて、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正後の請求項10に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項10に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項10に係る請求項10の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11) 訂正事項11に係る請求項11の訂正について
訂正事項11に係る請求項11の訂正は、請求項11を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(12) 訂正事項12に係る請求項12の訂正について
訂正事項12に係る請求項12の訂正は、請求項12を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(13) 訂正事項13に係る請求項13の訂正について
訂正事項13に係る請求項13の訂正は、請求項13を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

3 小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−13]について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2のとおり、訂正後の請求項[1−13]について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明13」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和3年12月24日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下であり、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)〜d)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む
b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下
c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下
d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下
【請求項4】
主収縮方向の延伸倍率が3.0倍以上であり、
得られた熱収縮性フィルムが下記e)〜g)を満たす請求項3に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
e)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(ΔHm)が20J/g以下
f)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1−FT2)の絶対値が20℃以下
g)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が5.0%以下
【請求項5】
得られた熱収縮性フィルムがJIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際、試験片表面の1000回転当たりの摩耗質量が25mg以下である、請求項3または4記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項6】
得られた熱収縮性フィルムの体積固有抵抗が1×1014Ω・cm以上である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項7】
得られた熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧が8kV以上である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項8】
絶縁被覆用である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項9】
電池セル被覆用である、請求項3〜8のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項10】
箱状包装資材展開体に裁断されてなる、請求項3〜9のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)」


第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について

特許異議申立人A及び特許異議申立人Bが特許異議申立書において、請求項1ないし12に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、それぞれ次のとおりである。

1 特許異議申立人Aが申し立てた特許異議申立理由の要旨

特許異議申立人Aが申し立てた請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)〜(9))及び証拠方法(同(10))は、次のとおりである。

(1) 申立理由A1−1(新規性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 申立理由A1−2(新規性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 申立理由A1−3(新規性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4) 申立理由A2−1(進歩性) 本件特許の請求項2及び5ないし12に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5) 申立理由A2−2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6) 申立理由A2−3(進歩性) 本件特許の請求項1、2及び5ないし12に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(7) 申立理由A2−4(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(8) 申立理由A3(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由A3は、概略次のとおりである。
「本件特許明細書実施例では、樹脂層の樹脂として、「ジカルボン酸成分がテレフタル酸98モル%及びイソフタル酸2モル%、ジオール成分がエチレングリコール55モル%、1,4−シクロヘキサンジメタノール30モル%及び1,4−ブタンジオール15モル%である共重合成分を共重合させて得られた共重合ポリエステル樹脂」の1種類しか用いていない。共重合ポリエステル樹脂のモノマー組成が変化すれば、熱収縮率等フィルムの性質も変化する。従って、当業者は、施例で用いた共重合ポリエステル樹脂以外の樹脂を用いて、本件特許発明の熱収縮フィルムを製造するのに、過度の試行錯誤を要し、実施可能要件を満たしていない。」

(9) 申立理由A4(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由A4は、概略次のとおりである。
「本件特許発明の樹脂層を形成する成分は広範囲である。具体的には、構成要件Aによれば、樹脂層の主成分がポリエステル樹脂である。ここで「主成分」とは、本件特許明細書段落0015によれば、樹脂の構成成分の50質量%以上を占める成分である。即ち、ポリエステル樹脂以外の成分を最大50質量%含むことができる。
さらに、構成要件Dによれば、ポリエステル樹脂は所定の共重合ポリエステル樹脂を含み、本件特許明細書段落0027によれば、他の任意のポリエステル樹脂も任意の量で含むことができる。
尚、本件特許明細書実施例では、樹脂層の100質量%がポリエステル樹脂であり、ポリエステル樹脂の100質量%が共重合ポリエステル樹脂である。
そして、構成要件Dの共重合ポリエステル樹脂においても、エチレングリコール以外のジオール成分を、ジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含むことができる。これは15モル%以上100モル%未満と読める。
上述したように、本件特許発明の樹脂層を構成し得る成分は多様である。これに対し、本件特許明細書実施例では、樹脂層は1種類の樹脂しか用いてなく、実施例から請求項1〜13に記載の広い範囲まで発明を拡張ないし一般化できない。」

(10) 証拠方法
甲A1号証:特開2017−213682号公報
甲A2号証:特開2009−161625号公報
甲A3号証:特開2005−171127号公報
甲A4号証:国際公開第2018/003994号
甲A5号証:特開平5−185510号公報
甲A6号証:令和2年6月16日(起案日)付け拒絶理由通知書
甲A7号証:令和2年8月18日付け意見書
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。

2 特許異議申立人Bが申し立てた特許異議申立理由の要旨

特許異議申立人Bが申し立てた請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)〜(14))及び証拠方法(同(15))は、次のとおりである。

(1) 申立理由B1−1(新規性) 本件特許の請求項1、3、4及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 申立理由B1−2(新規性) 本件特許の請求項1、3、4及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 申立理由B1−3(新規性) 本件特許の請求項1、3、4及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4) 申立理由B1−4(新規性) 本件特許の請求項1、3、4及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5) 申立理由B1−5(新規性) 本件特許の請求項1、3、4及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B8号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6) 申立理由B2−1(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(7) 申立理由B2−2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(8) 申立理由B2−3(進歩性) 本件特許の請求項13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(9) 申立理由B2−4(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(10) 申立理由B2−5(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(11) 申立理由B2−6(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(12) 申立理由B3(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由B3は、概略次のとおりである。
「本件特許の請求項1〜13に係る発明において、本件特許の実施例に記載されている実施の形態以外の部分を実施することができない。特に、[A][B][C][D][E](合議体注:[A]ないし[E]をあわせると、本件特許発明1の全ての特定事項を指す)を全て満足することについて、本件特許の実施例(1〜3)に記載のフィルム組成は、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸98モル%とイソフタル酸2モル%を含有し、ジオール成分として、エチレングリコール55モル%、1,4−シクロヘキサンジメタノール30モル%、及び1,4−ブタンジオール15モル%を含有する組成の1種類のみである。実施例より組成を若干変更した比較例2及び5のフィルムは、[A][B][C][D][E]の全てを満足しておらず、特に[C][D][E](合議体注:[C]、[D]、[E]は、本件特許発明1で特定されているところのb)、c)、d)にあたる。)について上記各成分の種類あるいは含有量を変更した際の影響を読み取ることもできない。したがって、本件特許の実施例に記載されている実施の形態以外の組成を実施することができない、あるいは過度の試行錯誤を要するものである。」

(13) 申立理由B4(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由B4は、概略次のとおりである。
「実施例1には1種類の組成のフィルムのみが具体例として記載されているところ、組成についての限定事項は請求項1の[B](合議体注:[B]は、本件特許発明1で特定されるところのa)にあたる。)のみであり、本件特許の請求項1〜13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えたものである。」

(14) 申立理由B5(明確性要件) 本件特許の請求項3ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由B5は、概略次のとおりである。
「本願の請求項3及び4に係る発明は、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲に、その物の製造方法が記載されている、いわゆるプロダクトバイプロセスクレームであるが、「当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する」根拠は見出せず、請求の範囲が不明確である。請求項3及び4を引用する請求項5〜13に係る発明についても同様である。」

(15) 証拠方法
甲B1号証:特許第6337774号公報
甲B2号証:特許第6572907号公報
甲B3号証:特許第6471833号公報
甲B4号証:特開2008−274174号公報
甲B5号証:特開2007−196679号公報
甲B6号証:特開2003−170498号公報
甲B7号証:特開2007−145956号公報
甲B8号証:特開2019−51727号公報
甲B9号証:国際公開第2016/067658号
甲B10号証:特開2009−73145号公報
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。

第5 令和3年10月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要

請求項1ないし13に係る特許に対して、当審が令和3年10月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。(なお、特許異議申立理由のうち、申立理由A1−1ないしA1−3、A2−1ないしA2−4、B1−1、B1−3ないしB1−5、B2−1、B2−3ないしB2−6、B5はいずれも、取消理由に包含される。)

取消理由1−1(新規性) 本件特許の請求項1、2及び5ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由1−2(新規性) 本件特許の請求項1、2及び5ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由1−3(新規性) 本件特許の請求項1、2及び5ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由1−4(新規性) 本件特許の請求項1ないし7及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由1−5(新規性) 本件特許の請求項1ないし7及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由1−6(新規性) 本件特許の請求項1、2、及び5ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由1−7(新規性) 本件特許の請求項1ないし7及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B8号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2−1(進歩性) 本件特許の請求項1、2及び5ないし12に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2−2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2−3(進歩性) 本件特許の請求項1、2及び5ないし12に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2−4(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2−5(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2−6(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2−7(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由2−8(進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由3(明確性要件) 本件特許の請求項3ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由3は、概略次のとおりである。

本件特許発明3は、「熱収縮フィルム」(物の発明)であるが、当該請求項には、「主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上」という、その物の製造方法が記載されているものと認められる。
また、本件特許発明4は、「熱収縮性フィルム」(物の発明)であるが、当該請求項には、「主収縮方向の延伸倍率が3.0倍以上、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上」という、その物の製造方法が記載されているものと認められる。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号、同2658号)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人(特許権者)から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
請求項3、請求項4を直接又は間接的に引用する本件特許発明5ないし13についても同様である。
(合議体注:上記取消理由3の対象となる請求項は「3ないし12」の誤りであった。)

第6 当審の判断

1 取消理由について

(1) 取消理由1−1(甲A1号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−1(甲A1号証を主引例とする進歩性)について

ア 甲A1号証の記載事項及び甲A1号証に記載された発明
(ア) 甲A1号証の記載事項
甲A1号証には、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルム及び包装体に関するものであり、詳しくは、ラベル用途や弁当容器等を結束するバンディング用途に好適で、加熱収縮時に収縮応力の減衰が小さいために被包装体へタルミが少なく仕上げることができる熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。」

「【0009】
本発明の目的は、長手方向である主収縮方向に十分な熱収縮特性を有し、前記主収縮方向と直交する幅方向においては熱収縮率が低く、主収縮方向の収縮応力が高すぎず、かつ、収縮応力の減衰が小さいことにより、収縮時に被包装体である容器への追従性が高く、弛みが生じにくい熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することにある。」

「【0063】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。実施例、比較例で使用した原料の組成を表1に、各層に用いた混合原料の比率を表2に、実施例、比較例におけるフィルムの製造条件および評価結果を、表3に示す。
【0064】
【表1】

・・・
【0075】
<ポリエステル原料の調製>
合成例1
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、280℃で26.7Paの減圧条件のもとで重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル1を得た。組成を表1に示す。
合成例2〜7
合成例1と同様の方法により、表1に示すポリエステル2〜4を得た。ポリエステル2の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266;平均粒径1.5μm)をポリエステルに対して7200ppmの割合で添加した。なお、表中、NPGはネオペンチルグリコール、BDは1,4−ブタンジオール、DEGは副生成物のジエチレングリコールである。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、2:0.75dl/g,3:1.20dl/g,4:1.20dl/gであった。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0076】
〔実施例1〕
上記したポリエステル1、ポリエステル2およびポリエステル3を質量比45:5:50で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが42μmの未延伸フィルムを得た。未延伸フィルムのTgは75℃であった。当該未延伸フィルムを複数のロール群が連続的に配置した縦延伸機に導き、予熱ロール状でフィルム温度80℃になるまで加熱した後に、ロール延伸法によって長手方向の延伸倍率を3.5倍、延伸後のフィルムの厚さが12μmになるように縦延伸した。縦延伸後は表面温度25℃に設定された冷却ロールで冷却し、次いでロール状に巻き取った。得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。評価結果を表3に示す。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0077】
【表3】



(イ) 甲A1号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲A1号証には次の発明(以下、「甲A1実施例1発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリエステル1、ポリエステル2およびポリエステル3を質量比45:5:50で混合して押出機に投入し、しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが42μmの未延伸フィルムを得て、
当該未延伸フィルムを複数のロール群が連続的に配置した縦延伸機に導き、予熱ロール状でフィルム温度80℃になるまで加熱した後に、ロール延伸法によって長手方向の延伸倍率を3.5倍、延伸後のフィルムの厚さが12μmになるように縦延伸し、その後、表面温度25℃に設定された冷却ロールで冷却し、次いでロール状に巻き取って得られた熱収縮性ポリエステルフィルムの製造方法であって、
ポリエステル1は、酸成分であるテレフタル酸と、多価アルコール成分としてEG(エチレングリコール)99モル%およびDEG(ジエチレングリコール)1モル%を含むポリエステルであり、
ポリエステル2は、酸成分であるテレフタル酸と、多価アルコール成分としてEG(エチレングリコール)99モル%およびDEG(ジエチレングリコール)1モル%、滑剤としてSiO2をポリエステルに対して7200ppmを含むポリエステルであり、
ポリエステル3は、酸成分であるテレフタル酸と、多価アルコール成分としてEG(エチレングリコール)68モル%、NPG(ネオペンチルグリコール)30モル%およびDEG(ジエチレングリコール)2モル%を含むポリエステルであり、
フィルムを98℃±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの寸法を測定し求められた、長手方向における熱収縮率が50%、横方向における熱収縮率が6%である
熱収縮性ポリエステルフィルムの製造方法。」

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲A1実施例1発明とを対比する。
甲A1実施例1発明の「熱収縮性ポリエステルフィルム」は単層であることが明らかであるから、本件特許発明1の「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」である、「熱収縮性フィルム」に相当する。
また、甲A1実施例1発明の「熱収縮性ポリエステルフィルム」は、ポリエステル1、ポリエステル2、ポリエステル3が質量比45:5:50で混合されているものであって、かつ、ポリエステル1はテレフタル酸と、多価アルコール成分としてエチレングリコールが99モル%、ジエチレングリコールが1モル%、ポリエステル2はテレフタル酸と、多価アルコール成分としてエチレングリコールが99モル%、ジエチレングリコールが1モル%、ポリエステル3はテレフタル酸と、多価アルコール成分としてエチレングリコールが68モル%、ネオペンチルグリコールが30モル%、ジエチレングリコールが2モル%を含むものであるから、エチレングリコール以外の多価アルコール(ジオール成分に相当)は、多価アルコール成分総量100モル%に対して、1×0.45+1×0.05+(30+2)×0.5=16.5モル%含む物と算出できる。してみると、甲A1実施例1発明の「熱収縮性ポリエステルフィルム」は、本件特許発明1の「前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」
との点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A1
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、「フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲A1実施例1発明には、そのような特定がない点。

上記相違点A1について検討する。
甲A1実施例1発明は、「当該未延伸フィルムを複数のロール群が連続的に配置した縦延伸機に導き、予熱ロール状でフィルム温度80℃になるまで加熱した後に、ロール延伸法によって長手方向の延伸倍率を3.5倍、延伸後のフィルムの厚さが12μmになるように縦延伸し、その後、表面温度25℃に設定された冷却ロールで冷却し、次いでロール状に巻き取って」熱収縮性ポリエステルフィルムを得るものであるから、二軸延伸するものとはいえない。
よって、相違点A1は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明3は、甲A1実施例1発明ではない。

また、甲A1号証には、二軸延伸することについて何ら記載されていないし、他の証拠を見ても、甲A1実施例1発明の熱収縮性ポリエステルフィルムの製造方法において、特定の延伸倍率で二軸延伸することを動機づける記載もない。
してみれば、本件特許発明3は、甲A1実施例1発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

なお、上記検討では、甲A1実施例1発明と対比検討したが、甲A1号証の実施例2、5、9ないし11、13、18、比較例1、5の記載を根拠とする発明においても、甲A1実施例1発明と同様に判断される。
以下、甲A1実施例1発明と、実施例2、5,9ないし11、13、18、比較例1、5の記載を根拠とする発明をあわせたもの(以下、「甲A1発明」と総称する。)として検討を進める。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲A1発明ではなく、また、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲A1発明ではなく、また、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由1−1及び取消理由2−1についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、取消理由1−1及び取消理由2−1によって、取り消すことはできない。

(2) 取消理由1−2(甲A2号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−2(甲A2号証を主引例とする進歩性)について

ア 甲A2号証の記載事項及び甲A2号証に記載された発明
(ア) 甲A2号証の記載事項
甲A2号証には、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、ペットボトルのリサイクルに役立つポリエステル系樹脂を主成分とした収縮性フィルムに関するものであり、具体的には輸送包装、集合包装などや、特に、製品包装などの修飾ラベル(以後、ラベルとも記載する)に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。」

「【0009】
本発明においては、PETボトルリサイクル原料を40質量%以上用いても、優れた機械的強度と溶剤接着性を有する単層の熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを課題とするものである。」

「【0042】
また、フィルムの延伸の方法としては、テンターでの横1軸延伸ばかりでなく、縦方向に1.0倍〜4.0倍、好ましくは1.1倍〜2.0倍の延伸を施してもよい。このように2軸延伸を行う場合は、逐次2軸延伸、同時2軸延伸のいずれでもよく、必要に応じて、再延伸を行ってもよい。また、逐次2軸延伸においては、延伸の順序として、縦横、横縦、縦横縦、横縦横等のいずれの方式でもよい。これらの縦延伸工程あるいは2軸延伸工程を採用する場合においても、横延伸と同様に、予備加熱工程、延伸工程等において、フィルム表面温度の変動をできるだけ小さくすることが好ましい。なお、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るためのより好ましい製造方法については後述する。」

「【0051】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施する場合は、本発明に含まれる。実施例および比較例で得られたフィルムの物性の測定方法は、以下の通りである。
・・・
【0060】
調製例1
<ポリエステル系樹脂A(PET:ポリエチレンテレフタレート)>
テレフタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)をエステル化反応釜に仕込み、圧力0.25MPa、温度220〜240℃の条件下で120分間エステル化反応を行った後、反応釜内を常圧にして、重合触媒であるチタニウムテトラブトキシドを加えて、撹拌しながら反応系内を徐々に減圧し、75分間で0.5hPaとすると共に、温度を280℃に昇温して、280℃で溶融粘度が所定の値となるまで撹拌を続けて重合反応を行い、その後、水中に吐出して冷却し、ポリエステル系樹脂Aを得た。
【0061】
調製例2
<ポリエステル系樹脂B・C(PET:ポリエチレンテレフタレート)>
使用済みPETボトルを洗浄後に粉砕し、275〜280℃に設定した押出し機から水中に吐出して冷却し、ポリエステル系樹脂を得た。このポリエステル系樹脂で極限粘度[η]の高い部分のものを樹脂B、極限粘度[η]の低い部分のものを樹脂Cとした。
【0062】
調製例3
<ポリエステル系樹脂D(PBT:ポリブチレンテレフタレート)>
テレフタル酸ジメチル(DMT)と、1,4−ブタンジオール(BD)をエステル化反応釜に仕込み、常圧、170〜210℃で180分間、エステル交換反応を行った以外は、調製例1と同様にして、ポリエステル系樹脂Dを得た。
【0063】
調製例4
<ポリエステル系樹脂E1〜E4>
テレフタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)、ネオペンチルグリコール(NPG)をそれぞれ表1に記載の所定のmol比になるようにエステル化反応釜に仕込み、調製例1と同様にして、ポリエステル系樹脂E1〜E4を得た。なお、上記の各樹脂を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例1〜9、比較例1〜4
充分に乾燥(水分率50ppm以下)したポリエステル系樹脂A、B、C、D、E1〜E4を表2に示した配合で均一に混合した。これを二軸押出し機(池貝製PCM45)を用いて、表2のように押出温度と滞留時間を変更して混練押出し、極限粘度の異なる厚さ180μmの未延伸フィルムを成形し、この未延伸フィルムを一軸延伸装置内で約10秒間の予熱ゾーン(約90℃)で予熱し、延伸ゾーン(約70℃)で延伸速度1,500%/分で実倍率約4.0倍に延伸した後、約10秒間の固定ゾーン(約80℃)で熱処理を施すことで、所定の極限粘度[η]および面配向度AOの厚さ40μmの熱収縮性フィルムを得た。なお、得られた試料に関する物性などを表2、表3に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】



(イ) 甲A2号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に実施例9の記載を中心に整理すると、甲A2号証には次の発明(以下、「甲A2発明」という。)が記載されていると認める。

「充分に乾燥(水分率50ppm以下)した【表1】に示すポリエステル系樹脂A、C、D及びE3をそれぞれ、5質量%、50質量%、10質量%及び35質量%の配合で均一に混合し、これを二軸押出し機(池貝製PCM45)を用いて、混練押出し、厚さ180μmの未延伸フィルムを成形し、この未延伸フィルムを一軸延伸装置内で約10秒間の予熱ゾーン(約90℃)で予熱し、延伸ゾーン(約70℃)で延伸速度1,500%/分で実倍率約4.0倍に延伸した後、約10秒間の固定ゾーン(約80℃)で熱処理を施すことで得られた、所定の極限粘度[η]および面配向度AOの厚さ40μmの熱収縮性フィルムの製造方法であって、
上記フィルムを98±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25±0.5℃の水中に10秒浸漬し、その後、試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従って求めた得られた、試料の最も収縮率の大きい方向である主収縮方向の熱収縮率が62%及び直交方向の熱収縮率が8%である熱収縮性フィルムの製造方法。
熱収縮率(%)=100×(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)
【表1】



イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲A2発明とを対比する。
甲A2発明の「熱収縮性フィルム」はポリエステル系樹脂からなるものであって、かつ、単層であることも明らかであるから、本件特許発明1の「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」である、「熱収縮性フィルム」に相当する。
また、甲A2発明の「熱収縮性フィルム」は、ポリエステル系樹脂A、ポリエステル系樹脂C、ポリエステル系樹脂D及びポリエステル系樹脂E3をそれぞれ、5質量%、50質量%、10質量%及び35質量%の配合で均一に混合したものであって、ポリエステル系樹脂Aはテレフタル酸と、グリコール成分としてエチレングリコールが100モル%、ポリエステル系樹脂Cはテレフタル酸と、グリコール成分としてエチレングリコールが100モル%、ポリエステル系樹脂Dはテレフタル酸と、グリコール成分として1,4−ブタンジオールが100モル%、ポリエステル系樹脂E3はテレフタル酸と、グリコール成分としてエチレングリコールが50モル%、ネオペンチルグリコール50モル%を含むものであるから、エチレングリコール以外のグリコール成分(ジオール成分に相当)は、グリコール成分総量(ジオール成分総量に相当)100モル%に対して、5×0+50×0+10×1+35×0.5=27.5モル%含むものと算出できる。してみると、甲A2発明の「熱収縮性フィルム」は、本件特許発明1の「前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」
との点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A2
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、「フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲A2発明には、そのような特定がない点。

上記相違点A2について検討する。
甲A2発明は、「未延伸フィルムを一軸延伸装置内で約10秒間の予熱ゾーン(約90℃)で予熱し、延伸ゾーン(約70℃)で延伸速度1,500%/分で実倍率約4.0倍に延伸した後、約10秒間の固定ゾーン(約80℃)で熱処理を施す」ことで熱収縮性ポリエステルフィルムを得るものであるから、二軸延伸するものとはいえない。
よって、相違点A2は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明3は、甲A2発明ではない。

次いで進歩性について検討するに、甲A2号証には、二軸延伸を施してよい旨の記載(【0042】)がある。しかし、甲A2発明において延伸条件を一軸延伸から二軸延伸に変更した場合、得られる「熱収縮性フィルム」の性状は変化することとなり、甲A2発明、すなわち、甲A2号証の実施例9で測定された熱収縮率とは異なるものとなることになる。
また、甲A2号証及び他の証拠を見ても、甲A2発明において、相違点A2に係る本件特許発明3の特定事項を満たすものとする動機付けもない。

(特許異議申立人Aの意見書における主張について)
特許異議申立人Aは意見書において、「本件訂正発明3の課題を解決するのは、本件明細書段落0010に記載されるように、得られる熱収縮性フィルムの熱収縮特性であって、製造過程の延伸倍率ではない。・・・甲A2発明は本件訂正発明3の熱収縮性フィルムと同じ熱収縮特性を有するので、本件明細書段落0010によれば、本件訂正発明の課題を解決しているはずである。」(意見書第3頁)と主張する。
しかしながら、上記検討のとおり、甲A2発明において延伸条件を変化させると、得られる熱収縮性ポリエステルフィルムの性状は変化する、すなわち、熱収縮特性が異なるものとなるから、特許異議申立人Aの当該主張は採用できない。

よって、本件特許発明3は、甲A2発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲A2発明ではなく、また、甲A2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲A2発明ではなく、また、甲A2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由1−2及び取消理由2−2についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、取消理由1−2及び取消理由2−2によって、取り消すことはできない。

(3) 取消理由1−3(甲A3号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−3(甲A3号証を主引例とする進歩性)について

ア 甲A3号証の記載事項及び甲A3号証に記載された発明
(ア) 甲A3号証の記載事項
甲A3号証には、次の記載がある。

「【0001】
本発明は熱収縮性ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関するものである。さらに詳細には、乾電池等の胴巻きラベル、タンパープルーフ、蓋材等に好適に使用でき、不均一収縮による図柄の歪みやシワなどが発生しにくい熱収縮性ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関するものである。」

「【0005】
本発明は前記従来技術の欠点を解消することを目的とするものである。即ち、高速でポリエステル溶融樹脂膜を冷却固化した場合、ロールと接触するフィルム表面に50μmを超える凹みが発生しにくいため、印刷性および収縮特性が優れた熱収縮性ポリエステルフィルム、その製造方法を提供するものである。」

「【0022】
以下実施例をもとに本発明を説明する。
・・・
[実施例・比較例に用いたポリエステル、オレフィン系ポリマーの略号と内容]
(1)PES−1:ポリエチレンテレフタレート(IV:0.75dl/g、平均粒径1.5μmの凝集シリカを2000ppm配合)。
(2)PES−2:テレフタル酸とエチレングリコール/ネオペンチルグリコール(70/30モル%)との共重合ポリエステル(IV:0.72)。
(3)PES−3:テレフタル酸とエチレングリコール/シクロヘキサンジメタノール(70/30モル%)との共重合ポリエステル(IV:0.72)。
(4)PES−4:ポリブチレンテレフタレート(IV:1.20dl/g)。
【0030】
[実施例1]
PES−1/PES−2/PES−4=35/65/10(重量%)を混合したポリエステルを真空乾燥させた後、単軸押出機を用いて275℃で溶融させた後、Tダイを用いて、表面粗さ(Ra)が1μmの梨地状の冷却ロール(周速70m/分)へ層状にキャストし、Tダイと冷却ロールとの間隔2cm、中央部と両端部は別々の装置で静電密着させ(中央部:4.5kV、両端部:6kVの直流電源を印加)冷却固化させた後、予熱温度80℃、延伸温度85℃で縦方向に3.0倍延伸し、クリップ把持方式のセッターを用いて、90℃で3秒間熱処理した後、両端部を切断除去して熱収縮性ポリエステル系フィルム(厚み:25μm)を得た。
本実施例の方法は、収縮仕上り性と表面平滑性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であるといえる。
【0031】
[実施例2]
表面粗さ(Ra)が0.5μmの梨地状の冷却ロールを用いた以外は実施例1と同様にして熱収縮性ポリエステル系フィルム(厚み:25μm)を得た。
本実施例の方法は、収縮仕上り性と表面平滑性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であるといえる。
【0032】
[実施例3]
表面粗さ(Ra)が3.3μmの梨地状の冷却ロールを用いた以外は実施例1と同様にして熱収縮性ポリエステル系フィルム(厚み:25μm)を得た。
本実施例の方法は、収縮仕上り性と表面平滑性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であるといえる。
【0033】
[実施例4]
実施例1と同様に冷却固化させた後、予熱温度80℃、延伸温度85℃で縦方向に2.5倍延伸し、ついで予熱温度100℃、延伸温度85℃で横方向に4.0倍延伸し、クリップ把持方式のセッターを用い90℃で3秒間熱処理した後、両端部を切断除去して熱収縮性ポリエステル系フィルム(厚み:25μm)を得た。
本実施例の方法は、収縮仕上り性と表面平滑性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であるといえる。
【0034】
[実施例5]
PES−1/PES−3/PES−4=35/65/10(重量%)を混合したポリエステルを用いた以外は実施例1と同様にして熱収縮性ポリエステル系フィルム(厚み:25μm)を得た。
本実施例の方法は、収縮仕上り性と表面平滑性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であるといえる。
【0035】
[比較例1]
表面粗さ(Ra)が0.05μm以下の鏡面状の冷却ロールを用いた以外は実施例1と同様にして熱収縮性ポリエステル系フィルム(厚み:25μm)を得た。
この方法は、熱収縮性ポリエステル系フィルム表面に50μmを超える凹部が無数に発生し、熱収縮工程でフィルムに斑状の外観不良となるため、熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法として好ましくない。
【0036】
[比較例2]
表面粗さ(Ra)が11μmの梨地状の冷却ロールを用いた以外は実施例1と同様にして熱収縮性ポリエステル系フィルム(厚み:25μm)を得た。
この方法は、熱収縮性ポリエステル系フィルム表面に梨地の跡型に起因したゾウリ状の斑が発生し、熱収縮工程でフィルムに斑状の外観不良が発生し、熱収縮工程でフィルムに斑状の外観不良となるため、熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法として好ましくない。
【0037】
[比較例3]
縦延伸後の熱処理条件を120℃、3秒とした以外は実施例1と同様にして熱収縮性ポリエステル系フィルム(厚み:25μm)を得た。
この方法は、熱収縮工程で収縮不足によるシワが発生するため、熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法として好ましくない。
【0038】
上記結果を表1に示す。
【0039】
【表1】



(イ) 甲A3号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲A3号証には次の発明(以下、「甲A3実施例1発明」という。)が記載されていると認める。

「下記に示すPES−1、PES−2、PES−4を、PES−1/PES−2/PES−4=35/65/10(重量%)で混合したポリエステルを真空乾燥させた後、単軸押出機を用いて275℃で溶融させた後、Tダイを用いて、表面粗さ(Ra)が1μmの梨地状の冷却ロール(周速70m/分)へ層状にキャストし、Tダイと冷却ロールとの間隔2cm、中央部と両端部は別々の装置で静電密着させ(中央部:4.5kV、両端部:6kVの直流電源を印加)冷却固化させた後、予熱温度80℃、延伸温度85℃で縦方向に3.0倍延伸し、クリップ把持方式のセッターを用いて、90℃で3秒間熱処理した後、両端部を切断除去する熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムを、95℃±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記式を用いて求めた熱収縮率が、横方向の収縮率が42%、縦方向の収縮率が6%である熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
・熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
・PES−1:ポリエチレンテレフタレート(IV:0.75dl/g、平均粒径1.5μmの凝集シリカを2000ppm配合)。
・PES−2:テレフタル酸とエチレングリコール/ネオペンチルグリコール(70/30モル%)との共重合ポリエステル(IV:0.72)。
・PES−4:ポリブチレンテレフタレート(IV:1.20dl/g)。」

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲A3実施例1発明とを対比する。
甲A3実施例1発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は単層であることが明らかであるから、本件特許発明1の「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」である、「熱収縮性フィルム」に相当する。
また、甲A3実施例1発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、PES−1、PES−2、PES−4をそれぞれ、35質量%、65質量%、10質量%の配合で均一に混合したものであって、PES−1はポリエチレンテレフタレートと凝集シリカ、PES−2はテレフタル酸とエチレングリコール/ネオペンチルグリコール(70/30モル%)、PES−4はポリブチレンテレフタレートを含むものであるから、エチレングリコール以外のグリコール成分であるネオペンチルグリコール(ジオール成分に相当)は、グリコール成分総量(ジオール成分総量に相当)100モル%に対して、65×0.3/65×(0.7+0.3)=30モル%含むものと算出できる。
してみると、甲A3実施例1発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件特許発明1の「前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」
との点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A3
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、「フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲A3実施例1発明には、そのような特定がない点。

上記相違点A3について検討する。
甲A3実施例1発明は、「予熱温度80℃、延伸温度85℃で縦方向に3.0倍延伸」することで熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るものであるから、二軸延伸するものとはいえない。
よって、相違点A3は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明3は、甲A3実施例1発明ではない。

また、甲A3号証には、二軸延伸することについて何ら記載されていないし、他の証拠を見ても、甲A3実施例1発明の熱収縮性ポリエステルフィルムの製造方法において、特定の延伸倍率で二軸延伸することを動機づける記載もない。
してみれば、本件特許発明3は、甲A3実施例1発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

なお、上記検討では、甲A3実施例1発明と対比検討したが、甲A3号証の実施例2、3、5及び比較例1、2の記載を根拠とする発明においても、甲A1実施例1発明と同様に判断される。
以下、甲A3実施例1発明と、実施例2、3、5及び比較例1、2の記載を根拠とする発明をあわせたもの(以下、「甲A3発明」と総称する。)として検討を進める。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲A3発明ではなく、また、甲A3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲A3発明ではなく、また、甲A3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由1−3及び取消理由2−3についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、取消理由1−3及び取消理由2−3によって、取り消すことはできない。

(4) 取消理由2−4(甲A4号証(甲B3号証の国際公開公報)を主引例とする進歩性)について

ア 甲A4号証の記載事項及び甲A4号証に記載された発明
(ア) 甲A4号証の記載事項
甲A4号証には、次の記載がある。

「[0001] 本発明は、熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セルに関し、詳しくは、被覆後の耐久性及び被覆保持性に優れた熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セルに関する。」

「[0008] 本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、被覆後の耐久性及び被覆保持性に優れた熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セルを提供することを目的とする。」

「[0025] (共重合ポリエステル)
共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、かつ、ジオール成分の主成分がエチレングリコールである共重合ポリエステルであるものが好ましい。共重合ポリエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
[0026] ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジカルボン酸としては、熱収縮性フィルムのヒートシール部の穴あき及び接着不良を防ぐ観点、被覆後の耐久性及び被覆保持性の観点から、テレフタル酸及びイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸を主成分とすることがより好ましい。
[0027] 共重合ポリエステルにおけるテレフタル酸の配合量は、熱収縮性フィルムのヒートシール部の穴あき及び接着不良を防ぐ観点、被覆後の耐久性及び被覆保持性の観点から、ジカルボン酸成分の総量100モル%に対し、75モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、85モル%以上が更に好ましく、また100モル%以下が好ましい。
[0028] ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,3−プロパンジオールが挙げられる。これらのジオール成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジオール成分としては、熱収縮性フィルムのヒートシール部の穴あき及び接着不良を防ぐ観点、被覆後の耐久性及び被覆保持性の観点から、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、エチレングリコールを主成分とすることがより好ましい。
[0029] 共重合ポリエステルにおけるエチレングリコールの配合量は、ジオール成分総量100モル%に対して、熱収縮性フィルムのヒートシール部の穴あき及び接着不良を防ぐ観点、被覆後の耐久性及び被覆保持性の観点から、40モル%以上が好ましく、45モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましく、また80モル%以下が好ましく、75モル%以下がより好ましく、70モル%以下が更に好ましい。」

「[0048] 製造された熱収縮性フィルムは、冷却ロール、空気、水などで冷却された後、熱風、温水、赤外線などで再加熱され、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラ延伸法、長間隔延伸法などにより、同時又は逐次に一軸又は二軸延伸される。二軸延伸は、MDとTDの延伸は同時に行われてもよいが、いずれか一方を先に行う逐次二軸延伸が効果的である。逐次二軸延伸では、MD及びTDのどちらが先に延伸してもよい。延伸温度は、熱収縮性フィルムを構成する樹脂の軟化温度及び熱収縮性フィルムの用途によって適宜変更される。延伸温度は、ネックイン率を低減する観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、85℃以上が更に好ましく、90℃以上がより更に好ましく、また130℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。主収縮方向の延伸倍率は、熱収縮性フィルムの構成成分、延伸手段、延伸温度、製品形態に応じて適宜決定される。主収縮方向の延伸倍率は、1.5倍以上であり、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、4倍以上が更に好ましく、また7倍以下であり、6倍以下が好ましい。」

「[請求項1] 共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の主面に備えた単層又は複層の熱収縮性フィルムであって、
下記a)〜d)を満たすことを特徴とする熱収縮性フィルム。
a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下
b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1−FT2)の絶対値が20℃以下
c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上50%以下
d)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」

(イ) 甲A4号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に請求項1、[0026]、[0029]及び[0048]の記載を中心に整理すると、甲A4号証には次の発明(以下、「甲A4発明」という。)が記載されていると認める。

「共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の主面に備えた単層又は複層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
上記共重合ポリエステルのジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、かつ、ジオール成分の主成分がエチレングリコールであり、
共重合ポリエステルにおけるエチレングリコールの配合量は、ジオール成分総量100モル%に対して、40モル%以上である
下記a)〜d)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下
b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1−FT2)の絶対値が20℃以下
c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上50%以下
d)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲A4発明とを対比すると、両者は、「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A4
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、「フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲A4発明には、そのような特定がない点。

上記相違点A4について検討する。
甲A4号証には、「一軸又は二軸延伸される」([0048])と、甲A4発明において、二軸延伸を採用できるものの、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率について何ら記載されておらず、また、他の証拠を見ても、甲A4発明において、相違点A4に係る本件特許発明3の特定事項を満たすものとする動機付けもない。

(特許異議申立人Aの意見書における主張について)
特許異議申立人Aは意見書において、要するに、「二軸延伸で熱収縮性フィルムを製造すること自体は周知であり、その際、延伸倍率を好適値に調整することは当業者の通常の能力の範囲内」(意見書第5頁)などと主張する。
しかしながら、甲A4号証や他の証拠をみても、二軸延伸の延伸倍率条件、熱収縮率に関する本件特許発明3のb)〜d)の条件について何ら記載も示唆もされるものでないことからすると、そもそも、本件特許発明3のb)〜d)の条件とする必然性はないし、また、甲A4発明においてこれらの熱収縮条件を満たすものとする動機付けがあるともいえない。
よって、特許異議申立人Aの上記主張は採用しない。

以上のとおりであるから、本件特許発明3は、甲A4発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由2−4についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、取消理由2−4によって、取り消すことはできない。

(5) 取消理由1−4(甲B1号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−5(甲B1号証を主引例とする進歩性)について

ア 甲B1号証の記載事項及び甲B1号証に記載された発明
(ア) 甲B1号証の記載事項
甲B1号証には、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、熱収縮性ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム、およびラベルを用いた包装体に関する。」

「【0011】
本発明は、上記問題点を解消して、エージング中の性能低下に伴う収縮仕上がり性の悪化を抑制し、かつ、ラベルとして用いた後も、弛みを起こさないような熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを課題としている。」

「【0071】
以下、上記した各手段について順次説明する。
(1)縦延伸条件の制御
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、実質的に未配向のフィルムを、Tg以上Tg+30℃以下とし、3.0倍以上4.5倍以下となるように縦延伸するのが必要である。縦延伸は一段延伸でも二段以上の多段延伸でも、どちらも用いることができる。
【0072】
縦方向に延伸する際に、トータルの縦延伸倍率が大きくなると、長手方向の収縮率が大きくなってしまう傾向にあるが、縦延伸後の中間熱処理や長手方向へのリラックスにより長手方向の分子配向のコントロールは可能である。しかし、縦延伸倍率が大きすぎると、縦延伸後フィルムの配向結晶化が進み、横延伸工程で破断が生じ易くなり好ましくない。縦延伸倍率の上限は4.5倍がより好ましく、4.4倍がさらに好ましい。一方、縦延伸倍率が小さすぎると、長手方向の収縮率は小さくなるが、長手方向の分子配向度合いも小さくなって、長手方向の直角引裂き強度が大きくなり、引張破壊強さが小さくなるため好ましくない。縦延伸倍率の下限は3.3倍がより好ましく、3.4倍がさらに好ましい。上記範囲の倍率で長手方向に延伸することにより、縦延伸後のフィルム長手方向の吸光度比が0.40以上0.80以下となる。」

「【0081】
(5)横延伸条件の制御
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、縦延伸、中間熱処理、自然冷却、急冷後のフィルムを所定の条件で横延伸することが必要である。横延伸は、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg+10℃以上Tg+30℃以下の温度で3倍以上6倍以下の倍率となるように行う。かかる所定条件での横延伸を施すことによって、縦延伸および中間熱処理によって形成された“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”を保持したまま、幅方向へ分子を配向させて幅方向の収縮力を発現させることが可能となり、長手方向の強度も良好なフィルムを得ることが可能となる。なお、横延伸の温度は、Tg+12℃以上がより好ましく、Tg+14℃以上がさらに好ましく、Tg+28℃以下がより好ましく、Tg+26℃以下がさらに好ましい。一方、横延伸の倍率は、3.5倍以上がより好ましく、3.7倍以上がさらに好ましく、5.5倍以下がより好ましく、5倍以下がさらに好ましい。」

「【0115】
<ポリエステル原料の調製>
合成例1
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、280℃で26.7Paの減圧条件のもとで重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステルAを得た。組成を表1に示す。
【0116】
合成例2〜7
合成例1と同様の方法により、表1に示すポリエステルB〜Gを得た。ポリエステルFの製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266;平均粒径1.5μm)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。なお、表中、IPAはイソフタル酸、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノール、BDは1,4−ブタンジオール、ε−CLはε−カプロラクトン、DEGは副生成物のジエチレングリコールである。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、B:0.72dl/g,C:0.80dl/g,D:1.20dl/g,E:0.77dl/g,F:0.75dl/g、G:0.78dl/gであった。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0117】
【表1】

【0118】
実施例1
上記したポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルEおよびポリエステルFを質量比5:75:15:5で混合して押出機に投入した。この混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ400μmの未延伸フィルムを得た。未延伸フィルムのTgは60℃であった。
【0119】
得られた未延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロールでフィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後、表面温度86℃に設定された低速回転ロールと、表面温度86℃に設定された高速回転ロールとの間で、回転速度差を利用して、縦方向に4.1倍延伸した。
【0120】
縦延伸直後のフィルムを、加熱炉へ通した。加熱炉内は熱風ヒータで加熱されており、設定温度は95℃であった。加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に45%リラックス処理を行った。リラックスの時間は0.6秒であった。
【0121】
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導き、123℃で中間熱処理を行った。中間熱処理後のフィルムを第1中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させて自然冷却を行った。なお、テンターの第1中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、中間熱処理ゾーンからの熱風、冷却ゾーンからの冷却風を遮断した。フィルムの走行時には、フィルムの走行に伴う随伴流の大部分が、中間熱処理ゾーンと第1中間ゾーンとの間に設けられた遮蔽板によって遮断されるように、フィルムと遮蔽板との距離を調整した。加えて、フィルムの走行時には、第1中間ゾーンと冷却ゾーンとの境界において、フィルムの走行に伴う随伴流の大部分が遮蔽板によって遮断されるようにフィルムと遮蔽板との距離を調整した。
【0122】
続いて、自然冷却後のフィルムを冷却ゾーンに導き、フィルムの表面温度が87℃になるまで、低温の風を吹き付けることによって積極的に急冷した。このフィルムを第2中間ゾーンを1.0秒で通過させて再度自然冷却した。その後、横延伸ゾーンで、フィルムの表面温度が86℃になるまで予備加熱した後、86℃で幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。
【0123】
その横延伸後のフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、最終熱処理ゾーンにおいて、86℃で熱処理した後、冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。なお、この例では、中間熱処理時および最終熱処理時のリラックス率は0%とした。得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
・・・
【0131】
実施例9
実施例1と同じポリエステル原料を実施例1と同様に溶融押し出しし、実施例1と同じ方法で縦延伸およびリラックス処理を行った。続いて、縦延伸後のリラックス処理後のフィルムを、横延伸倍率を3.0倍、横延伸温度を90℃、最終熱処理温度を90℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、横延伸を行い、幅500mm、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
【0132】
実施例10
実施例1と同じポリエステル原料を実施例1と同様に溶融押し出しし、縦延伸倍率を3.5倍とした以外は、実施例1と同じ方法で縦延伸およびリラックス処理を行った。続いて、縦延伸後のリラックス処理後のフィルムを、横延伸温度と最終熱処理温度を83℃にした以外は実施例9と同様にして横延伸を行い、幅500mm、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
【0133】
比較例1
実施例6と同じポリエステル原料を実施例6と同様に溶融押し出しする際に、未延伸フィルムの厚みが180μmとなるように、押出機の吐出量を調整した。それ以外は、実施例6と同様にして未延伸フィルムを得た。その後、縦延伸を行わず、テンター内で76℃に予熱した後、67℃で4.0倍延伸し、76℃で最終熱処理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ40μmの一軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。また、収縮応力曲線を図2に示した。
【0134】
比較例2
ポリエステルAとポリエステルBとポリエステルDとポリエステルFとを質量比10:75:10:5に変更した以外は実施例1と同様の方法で未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、縦延伸後のリラックス処理温度105℃、リラックス率40%、中間熱処理温度130℃、冷却後のフィルム表面温度103℃、横延伸温度100℃、最終熱処理温度を95℃とした以外は、実施例1と同様にして、幅500mm、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。なお、未延伸フィルムのTgは70℃であった。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。・・・
【0137】
【表2】

【0138】
【表3】



(イ) 甲B1号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に実施例9の記載を中心に整理すると、甲B1号証には次の発明(以下、「甲B1実施例9発明」という。)が記載されていると認める。

「下記【表1】に示すポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルEおよびポリエステルFを、質量比5:75:15:5で混合して溶融押出し、得られた未延伸フィルムを、縦方向に4.1倍延伸し、次いでリラックス処理を行った後、横方向に4.0倍延伸する二軸延伸熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性ポリエステルフィルムの98℃での温湯熱収縮率が幅方向で57.4%及び長手方向で8.9%である熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
【表1】



イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲B1実施例9発明とを対比する。
甲B1実施例9発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、単層であることも明らかであるから、本件特許発明1の「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」である、「熱収縮性フィルム」に相当する。
また、甲B1実施例9発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルEおよびポリエステルFをそれぞれ、質量比5:75:15:5の配合で混合したものであって、ポリエステルAはテレフタル酸と、多価アルコール成分としてエチレングリコールが99モル%、ジエチレングリコールが1モル%、ポリエステルBはテレフタル酸と、多価アルコール成分としてエチレングリコールが68モル%、ネオペンチルグリコールが30モル%、ジエチレングリコールが2モル%、ポリエステルEはテレフタル酸と、多価アルコール成分として1,4−ブタンジオールが100モル%、ポリエステルFはテレフタル酸と、多価アルコール成分としてエチレングリコールが99モル%、ジエチレングリコールが1モル%を含むものであるから、エチレングリコール以外の多価アルコール成分(ジオール成分に相当)は、多価アルコール成分総量(ジオール成分総量に相当)100モル%に対して、おおよそ34.7モル%(ポリエステルEには、エステル成分も含まれるために、多価アルコール成分の総量が100モル%となるように換算した)含むものと算出できる。
してみると、甲B1実施例9発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件特許発明1の「前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」
との点で一致し、次の点で相違する。

・相違点B1
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、「フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲B1実施例9発明には、そのような特定がない点。

上記相違点B1について検討する。
甲B1実施例9発明は、「縦方向に4.1倍延伸し、次いでリラックス処理を行った後、横方向に4.0倍延伸する」することで熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るものであるから、「主収縮方向に対して直交方向」が縦方向、横方向いずれであっても、「延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」との条件を満たさない。
よって、相違点B1は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明3は、甲B1実施例9発明ではない。
また、甲B1号証の明細書の発明の詳細な説明の【0071】や【0081】には、縦延伸、横延伸ともに延伸倍率を3倍以上とすることを要するものであるから、甲B1実施例9発明における、延伸倍率を小さくし、相違点B1に係る本件特許発明3の特定事項を満たすものとすることはできない。
してみれば、本件特許発明3は、甲B1実施例9発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

なお、上記検討では、甲B1実施例9発明と対比検討したが、甲B1号証の実施例10及び比較例2、3の記載を根拠とする発明においても、甲B1実施例9発明と同様に判断される。
以下、甲B1実施例9発明と、甲B1号証の実施例10及び比較例2、3の記載を根拠とする発明をあわせたもの(以下、「甲B1発明」と総称する。)として検討を進める。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲B1発明ではなく、また、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲B1発明ではなく、また、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由1−4及び取消理由2−5についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、取消理由1−4及び取消理由2−5によって、取り消すことはできない。

(6) 取消理由1−5(甲B6号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−6(甲B6号証を主引例とする進歩性)について

ア 甲B6号証の記載事項及び甲B6号証に記載された発明
(ア) 甲B6号証の記載事項
甲B6号証には、次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は熱収縮性ポリエステル系フィルムを巻き取ってなるフィルムロールに関し、さらに詳しくは熱収縮性フィルムロール内での熱収縮率の変動により発生する後加工の工程での収縮不足、収縮斑、シワ、歪み、タテヒケ等の不良の発生が極めて少ない熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関するものである。」

「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のようなフィルムロール内での熱収縮率の変動に起因する熱収縮工程での不良、特に約90〜95℃程度の高い温度で熱収縮させて被包装物を収縮包装したときのタテヒケのばらつきを低減でき、しかも収縮包装された被包装物の生産性を高め得た熱収縮性ポリエステル系フィルムロールおよびその製造方法を提供することを課題とするものである。」

「【0071】縦方向の延伸倍率は横延伸のものよりも小さく、例えば、1.05〜1.5倍程度、好ましくは1.07倍〜1.5倍程度である。延伸倍率を大きくし過ぎると、縦方向(最大収縮方向と直交する方向)の熱収縮率が大きくなり過ぎる。」

「【0087】
【実施例】以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施する場合は、本発明に含まれる。なお、実施例および比較例で得られたフィルムロールの物性の測定方法は、以下の通りである。
・・・
【0105】合成例1(ポリエステルの合成)
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、ジオール成分として、エチレングリコール(EG)68モル%とネオペンチルグリコール(NPG)32モル%を、多価アルコールがモル比でメチルエステルの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)と、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.025モル%(酸成分に対して)添加し、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、280℃で26.7Paの減圧条件下で重縮合反応を行った。得られたポリエステルを溶融状態で重合装置からストランド状で取り出し、直ちに水冷し、その後、ストランドカッターでカットして、原料チップAを得た。またカット条件を変えて、比較例用の少し小さいチップを作成した。これを原料チップBとした。チップAおよびチップBの極限粘度は、0.70dl/gであった。
・・・
【0111】合成例2
合成例1と同様な方法により、表1に示す仕込み組成で、ポリエステル原料チップC〜Dを得た。表中、BDは1,4−ブタンジオールの略記である。各ポリエステルチップの極限粘度は、チップCが1.20dl/g、チップDが1.20dl/gであった。
【0112】比較例1
原料チップが400kg入る容量を有しており、ホッパの傾斜角が60゜である同一の形状のホッパを4個直列に並べた。一方、上記合成例で得られた各チップを別個に予備乾燥した。チップB,C,Dを表1に示す割合(チップB=60質量%、チップC=25質量%、チップE=15質量%)で一番上流のホッパに供給し、2個目、3個目、4個目(最終ホッパ;押出機直上のホッパ)の各ホッパへと移動させた。280℃で単軸式押出機(吐出量=450kg/時間)で溶融押出しし、その後急冷して、厚さ180μmの未延伸フィルムを得た。
【0113】上記未延伸フィルムを温度105℃で10秒間予熱した後、テンターで横方向に78℃(Tg+13℃)で4.0倍延伸し、続いて80℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを1000m以上に亘って連続的に製膜した。なおフィルム表面温度の変動幅は、予熱工程で平均温度±1.0℃、延伸工程で平均温度±2.5℃、熱処理工程で平均温度±2.0℃の範囲内であった。
【0114】得られた各フィルムを幅0.4m、長さ1000mにスリットして、3インチ紙管に巻き取り、熱収縮性フィルムロールを得た。なおフィルムの表面温度は、赤外式の非接触表面温度計を用いて測定した(以下の実施例、比較例でも同じ)。
【0115】比較例2〜3
上記合成例で得られた各チップを別個に予備乾燥した。表1に示した割合(チップA=60質量%、チップD=25質量%、チップE=15質量%)で各チップを、押出機直上のホッパに、定量スクリューフィーダーで連続的に別々に供給しながら、このホッパ内で混合し、280℃で単軸式押出機で溶融押出しし、その後急冷して、厚さ180μmの未延伸フィルムを得た。ホッパは、原料チップが150kg入る容量を有しており、押出機の吐出量は、1時間あたり450kgであった。また、ホッパの傾斜角は70゜であった。
【0116】上記未延伸フィルムを長さ方向に2等分することで、2本の未延伸フィルムロールを得た。各未延伸フィルムについて、105℃で10秒間予熱した後、テンターで横方向に78℃で4.0倍延伸し、続いて80℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムをそれぞれ1000m以上に亘って連続的に製膜した。ここで、比較例2においては、フィルムを連続製造したときのフィルム表面温度の変動幅は、予熱工程で平均温度±1.0℃、延伸工程で平均温度±2.5℃、熱処理工程で平均温度±2.0℃の範囲内であった。また、比較例3においては、フィルム表面温度の変動幅を、予熱工程で平均温度±0.5℃、延伸工程で平均温度±0.4℃、熱処理工程で平均温度±0.5℃の範囲内に制御した。
【0117】得られた各フィルムを幅0.4m、長さ1000mにスリットして、3インチ紙管に巻き取り、熱収縮性フィルムロールを得た。
【0118】実施例1
前記比較例3と同様にして、未延伸フィルムロールを得た。
【0119】該未延伸フィルムを縦延伸機内でロール加熱によって温度85℃(下記縦延伸温度よりも55℃低い温度)に予備加熱した後、集光型赤外線ヒーターを用いてさらにフィルム温度140℃(Tg+75℃)まで加熱した。この加熱フィルムを縦方向に延伸倍率1.2、延伸速度90倍/分で延伸し、直ちに加熱ロール上でフィルム温度150℃で2秒間熱処理しながら5%緩和させ、さらに冷却ロール上でフィルム温度30℃まで冷却した。なお集光型赤外線ヒーターで加熱する際にフィルムと接触しているロールとしてシリコンゴムロールを使用し、延伸後の熱処理ロールとしてセラミックスロールを使用し、冷却ロールとしてクロムメッキロールを使用した。延伸前後のニップロールは使用しなかった。
【0120】次いで比較例3と同様にして横延伸及び熱処理を行うことにより、厚さ45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを1000m以上に亘って連続的に製膜した。横延伸時のフィルム表面温度の変動幅も比較例3と同様である。
【0121】得られたフィルムを幅0.4m、長さ1000mにスリットして、3インチ紙管に巻き取り、熱収縮性フィルムロールを得た。
【0122】各実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムロールの物性を下記表2〜10に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】

【0125】
【表3】

【0126】
【表4】

【0127】
【表5】

【0128】
【表6】

【0129】
【表7】

【0130】
【表8】

【0131】
【表9】

【0132】
【表10】



(イ) 甲B6号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲B6号証には次の発明(以下、「甲B6実施例1発明」という。)が記載されていると認める。

「下記に示すチップA、C、Dをそれぞれ60質量%、25質量%、15質量%の割合でホッパに供給し、単軸式押出機で溶融押出しし、得られた未延伸フィルムを縦方向に延伸倍率1.2で延伸し、次いで4.0倍に横延伸を行うこと、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムが、95℃における最大収縮方向の熱収縮率の平均値が60.2%、95℃における直交方向の熱収縮率の平均値が7.5%である熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
・チップA:ジオール成分としてエチレングリコールが68モル%、ネオペンチルグリコールが32モル%
・チップC:ジオール成分としてエチレングリコールが100モル%
・チップD:ジオール成分として1,4−ブタンジオールが100モル%」

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲B6実施例1発明とを対比する。
甲B6実施例1発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、単層であることが明らかであるから、本件特許発明1の「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」である、「熱収縮性フィルム」に相当する。
また、甲B6実施例1発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、チップA、C、Dをそれぞれ60質量%、25質量%、15質量%の割合で混合したものであって、チップAはジオール成分としてエチレングリコールが68モル%、ネオペンチルグリコールが32モル%、チップCはジオール成分としてエチレングリコールが100モル%、チップDはジオール成分として1,4−ブタンジオールが100モル%であるから、エチレングリコール以外のジオール成分は、ジオール成分総量100モル%に対して、34.2モル%含むものと算出できる。
してみると、甲B6実施例1発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件特許発明1の「前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」
との点で一致し、次の点で相違する。

・相違点B6
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、「フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲B6実施例1発明には、そのような特定がない点。

上記相違点B6について検討する。
甲B6実施例1発明は、「縦方向に延伸倍率1.2で延伸し、次いで4.0倍に横延伸を行う」することで熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るものであるから、「主収縮方向に対して直交方向」が縦方向、横方向のいずれであっても、「延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」との条件を満たさない。
よって、相違点B6は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明3は、甲B6実施例1発明ではない。

次いで進歩性について検討するに、甲B6号証には、縦方向の延伸倍率を「1.05〜1.5倍程度」である旨の記載(【0071】)がある。しかし、甲B6実施例1発明において延伸条件を変更した場合、得られる「熱収縮性ポリエステル系フィルム」の性状は変化することとなり、甲B6実施例1発明、すなわち、甲B6号証の実施例1で測定された熱収縮率とは異なるものとなることになる。
また、甲B6号証及び他の証拠を見ても、甲B6実施例1発明において、相違点B6−2に係る本件特許発明3の特定事項を満たすものとする動機付けもない。

(特許異議申立人Bの意見書における主張について)
特許異議申立人Bは意見書において、要するに、「甲B6実施例1発明において、フィルムの縦方向の熱収縮率が大きくなりすぎないように、例えば1.3倍〜1.4倍程度の縦方向延伸倍率に変更して製造することは、当業者が容易に想到可能な事項である」(意見書第4頁)旨主張する。
しかしながら、上記検討のとおり、甲B6実施例1発明において延伸条件を変化させると、得られる「熱収縮性ポリエステル系フィルム」の性状は変化する、すなわち、熱収縮特性が異なるものとなるから、特許異議申立人Bの当該主張は採用できない。

よって、本件特許発明3は、甲B6実施例1発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

なお、上記検討では、甲B6実施例1発明と対比検討したが、甲B6号証の比較例1ないし3の記載を根拠とする発明においても、甲B6実施例1発明と同様に判断される。
以下、甲B6実施例1発明と、比較例1〜3の記載を根拠とする発明をあわせたもの(以下、「甲B6発明」と総称する。)として検討を進める。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲B6発明ではなく、また、甲B6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲B6発明ではなく、また、甲B6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由1−5及び取消理由2−6についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、取消理由1−5及び取消理由2−6によって、取り消すことはできない。

(7) 取消理由1−6(甲B7号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−7(甲B7号証を主引例とする進歩性)について

ア 甲B7号証の記載事項及び甲B7号証に記載された発明
(ア) 甲B7号証の記載事項
甲B7号証には、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂に関し、さらに詳しくは熱収縮性ポリエステルフィルムに適したポリエステル樹脂、および熱収縮性ポリエステルフィルムに関する。」

「【0005】
従って、本発明の目的は、熱収縮性ポリエステルフィルムとした時に、収縮特性に優れ、具体的には、被装着体に装着する際に、白化、収縮斑、しわ、歪み等の発生が少なく、また、センターシール等の溶剤接着性に優れると共に、アルカリ水溶液によるインク剥離性が良好である熱収縮性ポリエステルフィルムを提供することにあり、該熱収縮性ポリエステルフィルムを得るのに適したポリエステル樹脂を提供することにある。」

「【0021】
延伸倍率は、特に制限されないが、一方向(以下、主収縮方向という)に2〜7倍、好ましくは2.5〜6倍、より好ましくは3〜5倍に延伸し、該方向の直交する方向に1〜2倍、好ましくは1〜1.8倍延伸することが好ましい。前者は熱収縮性を付与するための延伸であり、この範囲で延伸することにより、フィルムに十分な熱収縮性を付与することができる。後者は最初の一方向に延伸されたフィルムの耐衝撃性や引裂抵抗性を改善するのに極めて有効である。しかしながら、2倍を超えて延伸すると、直交方向にも熱収縮が起こり、仕上がりが悪くなる傾向にある。
延伸方法としては、特に制限されないが、例えば、ロール延伸法、長間隙延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等の公知の方法を用いることができる。これらの方法のいずれにおいても、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、一軸延伸、およびこれらの組み合わせで延伸を行えばよい。上記二軸延伸では、縦横方向の延伸は同時に行われてもよく、どちらか一方を先に行ってもよい。」

「【実施例】
【0031】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
・・・
【0034】
実施例1
攪拌機、温度計および精留塔を備えた反応容器に、酸成分としてテレフタル酸226kg、アルコール成分としてエチレングリコール118kgを仕込んだ。これを窒素加圧下で、攪拌しながら、260℃まで徐々に昇温し、生成する水を留去しながら、エステル化を行った。次いで、アジピン酸19.7kgと、エチレングリコール16.7kgと、1,4−シクロヘキサンジメタノール28.1kgのスラリーを添加して、エステル化を行った。次いで、重縮合触媒として、トリエチルフォスフェート0.6kg(13質量%エチレングリコール溶液として)、三酸化アンチモン12kg(1.5質量%エチレングリコール溶液として)添加し、次いで、滑剤として、シリカ0.15kg(富士シリシア化学社製サイリシア310Pを7質量%エチレングリコール分散液として)を添加し、減圧を開始して、最終的には0.04kPa absで、エチレングリコールを反応系外に留去しながら285℃で重縮合を行い、所定の攪拌トルクに達したところで、重縮合反応を停止した。次いで、反応容器の底部に設けた吐出口よりストランド状に取り出し、水で冷却して、ストランドカッターでチップ状に切断し、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の固有粘度[η]は0.75であった。
【0035】
得られたポリエステル樹脂を、フィルム製造用の二軸押出機に供給し、2カ所のベント孔から真空吸引しつつ、260℃で溶融押出し、T型ダイからシート状に押出し、これを冷却ロール(表面温度20℃)に巻き付けて、冷却固化し、厚さ約200μmのシートを得た。このシートを80℃に予熱した後、長手方向に1.05倍延伸し、冷却し、これをテンター式横延伸機に送り込んで、温度90℃で予熱し、温度75℃で幅方向に4.2倍延伸し、温度75℃で熱固定した。熱処理部では、幅方向に約3%の弛緩を付与し、テンターから出てきたフィルムを均一冷却し、厚さ50μmの収縮フィルムを得た。
・・・
【0037】
実施例3
テレフタル酸を239.4kg、エチレングリコールを125.4kg、アジピン酸を6.5kgと、エチレングリコールを5.5kgと、1,4−シクロヘキサンジメタノール27.9kgのスラリーを加えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の固有粘度[η]は0.71であった。
得られたポリエステル樹脂を、実施例1と同様にして、厚さ50μmの収縮フィルムを得た。・・・
【0040】
実施例6
実施例3と同様にして得られたポリエステル樹脂を、フィルム製造用の二軸押出機に供給し、2カ所のベント孔から真空吸引しつつ、260℃で溶融押出し、T型ダイからシート状に押出し、これを冷却ロール(表面温度20℃)に巻き付けて、冷却固化し、厚さ約200μmのシートを得た。このシートを80℃に予熱した後、長手方向に1.05倍延伸し、冷却し、これをテンター式横延伸機に送り込んで、温度90℃で予熱し、温度75℃で幅方向に3.0倍延伸し、温度75℃で熱固定した。熱処理部では、幅方向に約3%の弛緩を付与し、テンターから出てきたフィルムを均一冷却し、厚さ50μmの収縮フィルムを得た。
・・・
【0042】
実施例8
実施例3と同様にして得られたポリエステル樹脂を、フィルム製造用の二軸押出機に供給し、2カ所のベント孔から真空吸引しつつ、260℃で溶融押出し、T型ダイからシート状に押出し、これを冷却ロール(表面温度20℃)に巻き付けて、冷却固化し、厚さ約200μmのシートを得た。このシートを80℃に予熱した後、長手方向に1.05倍延伸し、冷却し、これをテンター式横延伸機に送り込んで、温度100℃で予熱し、温度100℃で幅方向に4.2倍延伸し、温度100℃で熱固定した。熱処理部では、幅方向に約3%の弛緩を付与し、テンターから出てきたフィルムを均一冷却し、厚さ50μmの収縮フィルムを得た。
【0043】
比較例1
テレフタル酸を243.9kg、エチレングリコールを127.9kg、アジピン酸を2.2kgと、エチレングリコールを1.8kgと、1,4−シクロヘキサンジメタノール27.8kgのスラリーを加えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の固有粘度[η]は0.69であった。
得られたポリエステル樹脂を、実施例1と同様にして、厚さ50μmの収縮フィルムを得た。・・・
【0049】
【表1】

【表2】

表1、2から明らかなように、本発明のポリエステル樹脂およびポリエステルフィルムは、PETボトル等に被覆収縮させるに良好な収縮特性を有し、また優れた溶剤接着性を示した。」

(イ) 甲B7号証に記載された発明
甲B7号証の記載、特に実施例3の記載を中心に整理すると、甲B7号証には次の発明(以下、「甲B7実施例3発明」という。)が記載されていると認める。

「攪拌機、温度計および精留塔を備えた反応容器に、酸成分としてテレフタル酸226kg、アルコール成分としてエチレングリコール118kgを仕込み、これを窒素加圧下で、攪拌しながら、260℃まで徐々に昇温し、生成する水を留去しながら、エステル化を行い、次いで、アジピン酸19.7kgと、エチレングリコール16.7kgと、1,4−シクロヘキサンジメタノール28.1kgのスラリーを添加して、エステル化を行い、次いで、重縮合触媒として、トリエチルフォスフェート0.6kg(13質量%エチレングリコール溶液として)、三酸化アンチモン12kg(1.5質量%エチレングリコール溶液として)添加し、次いで、滑剤として、シリカ0.15kg(富士シリシア化学社製サイリシア310Pを7質量%エチレングリコール分散液として)を添加し、減圧を開始して、最終的には0.04kPa absで、エチレングリコールを反応系外に留去しながら285℃で重縮合を行い、所定の攪拌トルクに達したところで、重縮合反応を停止し、次いで、反応容器の底部に設けた吐出口よりストランド状に取り出し、水で冷却して、ストランドカッターでチップ状に切断し、ポリエステル樹脂を得、
得られたポリエステル樹脂を、フィルム製造用の二軸押出機に供給し、2カ所のベント孔から真空吸引しつつ、260℃で溶融押出し、T型ダイからシート状に押出し、これを冷却ロール(表面温度20℃)に巻き付けて、冷却固化し、厚さ約200μmのシートを得た。このシートを80℃に予熱した後、長手方向に1.05倍延伸し、冷却し、これをテンター式横延伸機に送り込んで、温度90℃で予熱し、温度75℃で幅方向に4.2倍延伸し、温度75℃で熱固定し、熱処理部では、幅方向に約3%の弛緩を付与し、テンターから出てきたフィルムを均一冷却した、熱収縮性ポリエステルフィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性ポリエステルフィルムは、アルコール成分として、エチレングリコールを85モル%、シクロヘキサンジメタノールを13モル%、ジエチレングリコールを2モル%含み、
100℃における温水収縮率が主収縮方向で62%、直交する方向で7.9%である、
熱収縮性ポリエステルフィルムの製造方法。」

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲B7実施例3発明とを対比する。
甲B7実施例3発明の「熱収縮性ポリエステルフィルム」は、単層であることが明らかであるから、本件特許発明1の「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」である、「熱収縮性フィルム」に相当する。
また、甲B7実施例3発明の「熱収縮性ポリエステルフィルム」は、アルコール成分として、エチレングリコールを85モル%、シクロヘキサンジメタノールを13モル%、ジエチレングリコールを2モル%含むものであるから、エチレングリコール以外の成分であるシクロヘキサンジメタノールとジエチレングリコール(エチレングリコール以外の「ジオール成分」に相当)は、アルコール成分総量(甲B7実施例3発明のアルコール成分から見て、「ジオール成分総量」に相当)100モル%に対して、15モル%含むものと算出できる。
してみると、甲B7実施例3発明の「熱収縮性ポリエステルフィルム」は、本件特許発明1の「前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」
との点で一致し、次の点で相違する。

・相違点B7
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、「フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲B7実施例3発明には、そのような特定がない点。

上記相違点B7について検討する。
甲B7実施例3発明は、「縦方向に延伸倍率1.2で延伸し、次いで4.0倍に横延伸を行う」することで熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るものであるから、「主収縮方向に対して直交方向」が縦方向、横方向のいずれであっても、「延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」との条件を満たさない。
よって、相違点B7は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明3は、甲B7実施例3発明ではない。

次いで進歩性について検討するに、甲B7号証には、「一方向(以下、主収縮方向という)」の「直交する方向に1〜2倍」延伸する旨の記載(【0021】)がある。しかし、甲B7実施例3発明において延伸条件を変更した場合、得られる「熱収縮性ポリエステルフィルム」の性状は変化することとなり、甲B7実施例3発明、すなわち、甲B7号証の実施例3で測定された熱収縮率とは異なるものとなることになる。
また、甲B7号証及び他の証拠を見ても、甲B7実施例3発明において、相違点B7に係る本件特許発明3の特定事項を満たすものとする動機付けもない。

(特許異議申立人Bの意見書における主張について)
特許異議申立人Bは意見書において、要するに、「甲B7実施例3発明において、フィルムの耐衝撃性や引裂抵抗性を改善しつつ、フィルムの主収縮方向と直交する方向である縦方向の熱収縮率が大きくなり過ぎないような長手方向延伸倍率に変更して製造して相違点1の範囲内の製造条件とすることは、当業者が容易に想到可能な事項である」(意見書第6頁)旨主張する。
しかしながら、上記検討のとおり、甲B7実施例3発明において延伸条件を変化させると、得られる熱収縮性ポリエステルフィルムの性状は変化する、すなわち、熱収縮特性が異なるものとなるから、特許異議申立人Bの当該主張は採用できない。

よって、本件特許発明3は、甲B7実施例3発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

なお、上記検討では、甲B7実施例3発明と対比検討したが、甲B7号証の実施例6、8及び比較例1の記載を根拠とする発明においても、甲B7実施例3発明と同様に判断される。
以下、甲B7実施例3発明と、実施例6、8及び比較例1の記載を根拠とする発明をあわせたもの(以下、「甲B7発明」と総称する。)として検討を進める。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲B7発明ではなく、また、甲B7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲B7発明ではなく、また、甲B7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由1−6及び取消理由2−7についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、取消理由1−6及び取消理由2−7によって、取り消すことはできない。

(8) 取消理由1−7(甲B8号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−8(甲B8号証を主引例とする進歩性)について

ア 甲B8号証の記載事項及び甲B8号証に記載された発明
(ア) 甲B8号証の記載事項
甲B8号証には、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、熱収縮性ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム、およびラベルを用いた包装体に関する。」

「【0008】
本発明は、幅方向に高い熱収縮率を有し、長手方向は小さい熱収縮率を示し、長手方向の機械的強度が大きく、ミシン目開封性も良好で、収縮仕上がり性も優れたものとなる熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを課題としている。」

「【0054】
(1)縦延伸条件の制御
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、延伸温度をTg以上Tg+30℃以下とし、3.3倍以上4.6倍以下となるように縦延伸する必要がある。縦延伸は一段延伸でも二段以上の多段延伸でも、どちらも用いることができる。」

「【0063】
(5)横延伸条件の制御
横延伸は、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg+10℃以上Tg+40℃以下の温度で3倍以上7倍以下の倍率となるように行う必要がある。かかる所定条件での横延伸を施すことによって、幅方向へ分子を配向させて幅方向の高い収縮力を発現させることが可能となり、ラベルとした際のミシン目開封性が良好なフィルムを得ることが可能となる。なお、横延伸の温度は、Tg+13℃以上がより好ましく、Tg+16℃以上がさらに好ましく、Tg+37℃以下がより好ましく、Tg+34℃以下がさらに好ましい。一方、横延伸の倍率は、3.5倍以上がより好ましく、4倍以上がさらに好ましく、6.5倍以下がより好ましく、6倍以下がさらに好ましい。」

「【実施例】
【0083】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
・・・
【0094】
<ポリエステル原料の調製>
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、二塩基酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.025モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.6Pa(0.2トール)の減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.70dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステルはポリエチレンテレフタレートである。なお、上記ポリエステル(A)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して8,000ppmの割合で添加した。また、上記と同様な方法により、表1に示すポリエステル(A,B,C,D,E,F)を合成した。なお、表中、IPAはイソフタル酸、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノール、BDは1,4−ブタンジオールである。ポリエステルA,B,C,D,E,Fの固有粘度は、それぞれ、0.70dl/g,0.70dl/g,0.73dl/g,0.73dl/g,0.70dl/g,0.80dl/gであった。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0095】
実施例、比較例で使用したポリエステル原料の組成、実施例、比較例におけるフィルムの樹脂組成と製造条件を、それぞれ表1、表2に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

・・・
【0113】
比較例2
未延伸フィルムの厚みを224μmとし、縦延伸後の加熱炉での長手方向へのリラックス率を20%とし、中間熱処理工程でリラックスを行わず、中間熱処理ゾーンの温度を140℃とし、横延伸倍率を4倍とし、最終熱処理ゾーンでのリラックス率を12.5%とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。評価結果を表3に示す。
・・・
【0116】
【表3】



(イ) 甲B8号証に記載された発明
甲B8号証の記載、特に比較例2の記載を中心に整理すると、甲B8号証には次の発明(以下、「甲B8発明」という。)が記載されていると認める。

「下記【表1】で示されるポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCおよびポリエステルFを質量比5:5:80:10で混合し、溶融させてTダイから押出し、得られた未延伸フィルムを、縦方向に4倍延伸し、リラックス処理を行った後、幅方向(横方向)に4倍延伸するた二軸延伸熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムの98℃における温湯熱収縮率が、幅方向で54%、長手方向で8%である、
熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
【表1】




イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明1と甲B8発明とを対比する。
甲B8発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、単層であることが明らかであるから、本件特許発明1の「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」である、「熱収縮性フィルム」に相当する。
また、甲B8発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCおよびポリエステルFを質量比5:5:80:10で混合したものであって、ポリエステルAは多価アルコール成分としてエチレングリコールが100モル%、ポリエステルBは多価アルコール成分としてエチレングリコールが100モル%、ポリエステルCは多価アルコール成分としてエチレングリコールが70モル%、ネオペンチルグリコールが30モル%、ポリエステルFは多価アルコール成分として1,4−ブタンジオールが100モル%であるから、エチレングリコール以外の多価アルコール成分(「ジオール成分」に相当)は、多価アルコール成分総量(「ジオール成分総量」に相当)100モル%に対して、34モル%含むものと算出できる。
してみると、甲B8発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件特許発明の「前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」
との点で一致し、次の点で相違する。

・相違点B8
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、「フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲B8発明には、そのような特定がない点。

上記相違点B8について検討する。
甲B8発明は、「未延伸フィルムを、縦方向に4倍延伸し、リラックス処理を行った後、幅方向(横方向)に4倍延伸する」するものであるから、「主収縮方向に対して直交方向」が縦方向、横方向のいずれであっても、「延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」との条件を満たさない。
よって、相違点B8は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明3は、甲B8発明ではない。

次いで進歩性について検討するに、甲B8号証には、縦延伸条件について「3.3倍以上4.6倍以下」(【0054】)、横延伸条件として「3.5倍以上がより好ましく・・・6.5倍以下がより好ましく・・・」(【0063】)と縦延伸、横延伸ともに延伸倍率を3.3(3.5)倍以上とすることを要するものであるから、甲B8発明において、延伸倍率を小さくし、相違点B8に係る本件特許発明3の特定事項を満たすものとすることはできない。
してみれば、本件特許発明3は、甲B8発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲B8発明ではなく、また、甲B8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲B8発明ではなく、また、甲B8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由1−7及び取消理由2−8についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、取消理由1−6及び取消理由2−7によって、取り消すことはできない。

(9) 取消理由3(明確性要件)について

第2のとおり、「製造方法」の発明に訂正されたため、取消理由3は解消した。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

(1) 申立理由A3(実施可能要件)及び申立理由B3(実施可能要件)について
申立理由A3及び申立理由B3はいずれも、要するに、本件特許の実施例に記載されている実施の形態以外の組成を実施することができない、あるいは過度の試行錯誤を要するものであるから、本件特許発明のうち、実施例以外の部分については、その実施にあたり過度の試行錯誤を要するものである、というものである。
しかしながら、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、熱収縮性フィルムの樹脂層に用いられるポリエステル樹脂の成分についての記載(【0017】ないし【0027】)、熱収縮性フィルムの製造方法についての記載(【0031】ないし【0041】)があり、特に、熱収縮性フィルムを構成する延伸倍率と熱収縮率に関して、次の記載がある。
「【0038】
直交方向に延伸する場合の延伸温度は、典型的には60℃以上100℃以下の範囲である。延伸方法はロール延伸法が好ましく、かかる温度範囲であればロールへのフィルムの貼り付きがなく均一な延伸が可能である。また延伸倍率については、大きくなるほど耐破断性は向上するが、それに伴い熱収縮率が上昇し、被覆性に影響を及ぼすことがあるため、1.3倍以上であり、1.4倍以上が好ましく、また2.0倍以下であり、1.8倍以下が好ましい。
【0039】
また、熱収縮性フィルムは、延伸後に延伸フィルムの分子配向が緩和しない時間内に速やかに、熱収縮性フィルムの冷却を行うことにより、収縮性を付与して保持することができる。」
これらの記載と実施例・比較例の記載に接した当業者であれば、本件特許発明3ないし10に係る発明について、その実施にあたり過度の試行錯誤を要するものということはできない。
よって、申立理由A3及び申立理由B3によっては、本件特許発明3ないし10に係る特許を取り消すことはできない。

(2) 申立理由A4(サポート要件)及び申立理由B4(サポート要件)について
申立理由A4及び申立理由B4はいずれも、要するに、本件特許明細書実施例では、樹脂層は1種類の樹脂しか用いてないから、本件特許発明のうち実施例以外の部分にまで拡張・一般化することはできない、というものである。
しかしながら、本件特許発明は、【0009】の記載によると、被覆後の耐久性及び被覆保持性に優れた熱収縮性フィルムの製造方法を提供することを課題とするものであって、その課題解決のために、「ポリエステル樹脂のフィルムにおいて、主収縮方向における熱収縮率、主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率、上記主収縮方向における熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との差を特定範囲とする」(【0010】)ものであり、その具体的条件及びその技術的意味についても記載(【0041】ないし【0045】)されている。
そして、本件特許発明3ないし10は、ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層または積層の熱収縮性フィルムの製造方法において、主収縮方向における熱収縮率、主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率、上記主収縮方向における熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との差について、明細書の発明の詳細な説明で具体的に特定する条件(【0041】)を有するものであるから、本件特許発明の課題を解決するものであると認識できる。
よって、申立理由A4及び申立理由B4によっては、本件特許発明3ないし10に係る特許を取り消すことはできない。

(3) 申立理由B1−2(甲B2号証を根拠とする新規性)及び申立理由B2−2(甲B2号証を主引例とする進歩性)について

ア 甲B2号証に記載された発明
甲B2号証の記載、特に実施例10の記載を中心に整理すると、甲B2号証には次の発明(以下、「甲B2実施例10発明」という。)が記載されていると認める。

「下記表1に示されるポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCを質量比で5:45:50で混合して押出機に投入し、この混合樹脂を260℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより未延伸フィルムを得、
得られた未延伸フィルムをテンターに導き、予備加熱した後、横延伸ゾーンで横方向にTg+10℃で4倍に延伸し、中間熱処理ゾーンで熱処理し、
横延伸したフィルムを縦延伸機へ導き、予備加熱した後、フィルム温度がTg+23℃になるまで昇温し3.5倍延伸した後、冷却ロールによって強制的に冷却し、
冷却後のフィルムをテンターに導き、熱処理を施す、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムの98℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯収縮率が、フィルムの主収縮方向で62%、98℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルムの主収縮方向に直交する方向で6%である、
熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
【表1】



イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲B2実施例10発明とを対比する。
甲B2実施例10発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、単層であることも明らかであるから、本件特許発明1の「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」である、「熱収縮性フィルム」に相当する。
また、甲B2実施例10発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCをそれぞれ、質量比5:45:50の配合で混合したものであって、ポリエステルAはジメチルテレフタレートと、多価アルコール成分としてエチレングリコールが60モル%、ジエチレングリコールが40モル%、ポリエステルBはジメチルテレフタレートと、多価アルコール成分としてエチレングリコールが60モル%、ジエチレングリコールが40モル%、ポリエステルCはジメチルテレフタレートと、多価アルコール成分としてエチレングリコールが60モル%、ジエチレングリコールが3モル%、ネオペンチルグリコールが37モル%含むものであるから、エチレングリコール以外の多価アルコール成分(ジオール成分に相当)は、多価アルコール成分総量(ジオール成分総量に相当)100モル%に対して、40モル%)含むものと算出できる。
すると、甲B2実施例10発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件特許発明1の「前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」との特定事項を満たす。

してみると、両者は、
「ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む」
との点で一致し、次の点で相違する。

・相違点B2
熱収縮性フィルムの製造方法に関し、本件特許発明3は、フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」で製造するものであって、得られる熱収縮性フィルムが、「b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下 c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下 d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下」であると特定されるのに対し、甲B2実施例10発明には、そのような特定がない点。

上記相違点B2について検討する。
甲B2実施例10発明は、横方向に「4倍」、縦方向に「3.5倍」延伸することで熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るものであるから、「延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下」との条件を満たさない。
よって、相違点B2は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明3は、甲B2実施例10発明ではない。
また、甲B2号証の明細書の発明の詳細な説明には、縦延伸として3.3倍以上(【0070】)、横延伸として3倍以上(【0077】)とすることを要するものであるから、甲B2実施例10発明において、延伸倍率を小さくし、相違点B2に係る本件特許発明3の特定事項を満たすものとすることはできない。
してみれば、本件特許発明3は、甲B2実施例10発明及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

なお、上記検討では、甲B2実施例10発明と対比検討したが、甲B2号証の実施例12及び比較例4の記載を根拠とする発明においても、甲B2実施例10発明と同様に判断される。
以下、甲B2実施例10発明と、甲B1号証の実施例12及び比較例4の記載を根拠とする発明をあわせたもの(以下、「甲B2発明」と総称する。)として検討を進める。

(イ) 本件特許発明4ないし10について
本件特許発明4ないし10はいずれも、直接又は間接的に請求項3を引用する発明であり、本件特許発明3の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲B2発明ではなく、また、甲B2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4ないし10も同様に、甲B2発明ではなく、また、甲B2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由B1−2及び申立理由B2−2についてのまとめ
上記イのとおりであるから、本件特許発明3ないし10に係る特許は、申立理由B1−2及び申立理由B2−2によって、取り消すことはできない。

第7 結語

上記第6のとおり、本件特許の請求項3ないし10に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立の理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項3ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項1、2及び11ないし13に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1、2及び11ないし13に係る特許異議の申立ては、いずれも、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
ポリエステル樹脂を主成分として含む樹脂層をフィルムの少なくとも一方の面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
フィルムを二軸延伸する工程を備え、主収縮方向に対して直交方向の延伸倍率が1.3倍以上2.0倍以下であり、
得られた熱収縮性フィルムが下記a)〜d)を満たす熱収縮性フィルムの製造方法。
a)前記ポリエステル樹脂が共重合ポリエステル樹脂を含み、前記共重合ポリエステル樹脂が、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、更に1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、エチレングリコール以外のジオール成分をジオール成分総量100モル%に対して、15モル%以上含む
b)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が40%以上65%以下
c)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率が4%以上15%以下
d)99℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率と主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率との熱収縮率差(主収縮方向における熱収縮率−主収縮方向に対して直交方向における熱収縮率)が30%以上55%以下
【請求項4】
主収縮方向の延伸倍率が3.0倍以上であり、
得られた熱収縮性フィルムが下記e)〜g)を満たす請求項3記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
e)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(ΔHm)が20J/g以下
f)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1−FT2)の絶対値が20℃以下
g)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が5.0%以下
【請求項5】
得られた熱収縮性フィルムがJIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際、試験片表面の1000回転当たりの摩耗質量が25mg以下である、請求項3または4記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項6】
得られた熱収縮性フィルムの体積固有抵抗が1×1014Ω・cm以上である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項7】
得られた熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧が8kV以上である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項8】
絶縁被覆用である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項9】
電池セル被覆用である、請求項3〜8のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項10】
箱状包装資材展開体に裁断されてなる、請求項3〜9のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム法の製造方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-04-28 
出願番号 P2019-186852
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 植前 充司
加藤 友也
登録日 2020-11-09 
登録番号 6791335
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セル、熱収縮性フィルムの製造方法  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 征彦  
代理人 西藤 征彦  
代理人 西藤 優子  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 寺尾 茂泰  
代理人 西藤 優子  
代理人 寺尾 茂泰  

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