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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1387480
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-08 
確定日 2022-05-30 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6797129号発明「1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく親水性ポリイソシアネート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6797129号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−15〕について訂正することを認める。 特許第6797129号の請求項5、8に係る特許に対する申立てを却下する。 特許第6797129号の請求項1−4、6、9、12−15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6797129号(請求項の数15。以下、「本件特許」という。)は、2016年(平成28年)3月14日(優先権主張 2015年(平成27年)3月16日、欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願(特願2017−548448号、以下「本願」という。)に係るものであって、令和2年11月19日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、同年12月9日である。)

その後、令和3年6月8日に、本件特許の請求項1〜6、8〜9、12〜15に係る特許に対して、特許異議申立人である松本聡子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立がされたものである。
なお、審理対象の請求項は、1〜6、8〜9、12〜15であり、請求項7、10〜11は審理対象外となる。

(1)特許異議申立より後の経緯
令和3年 9月27日付け 取消理由通知
同年12月27日 訂正請求、意見書(特許権者)の提出
令和4年 1月13日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
なお、当該通知に対し、申立人からの応答はなかった。

(2)証拠方法
申立人が、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証:国際公開2012/121291号


第2 訂正の適否についての判断
令和3年12月27日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。
(以下、「本件訂正」という。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。以下、下線は当審で付与した。)

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも一つのポリイソシアネートを含む、前記組成物。」と記載されているのを「少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)がノニオン系乳化剤を含む場合、前記乳化剤成分B)は、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む、前記組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「請求項5に記載のポリイソシアネート組成物」と記載されているものを、「請求項1から4のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に「前記反応生成物が」及び「請求項5及び6のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物」と記載されているものを、「ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物が」及び「、ポリイソシアネート組成物」に訂正する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「前記乳化剤成分B)が」及び「請求項1から4のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物」と記載されているものを、「ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が」及び「、ポリイソシアネート組成物」に訂正する。

(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11に「前記乳化剤成分B)が」及び「請求項1から4のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物」と記載されているものを、「ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が」及び「、ポリイソシアネート組成物」に訂正する。

(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12に「請求項1から11のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物」と記載されているものを、「請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物」に訂正する。

(9)訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に「請求項1から11のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物」と記載されているものを、「請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物」に訂正する。

(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項14に「請求項1から11のいずれか1項に記載の少なくとも一つのポリイソシアネート組成物」と記載されているものを、「請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載の少なくとも一つのポリイソシアネート組成物」に訂正する。

(11)一群の請求項
本件訂正前の請求項2〜15は、それぞれ訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正前の請求項1〜15は一群の請求項である。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による請求項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし」の「前記乳化剤成分B)」が「ノニオン系乳化剤を含む」場合において、その「前記乳化剤成分B)」について「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」と特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1の訂正前の請求項1の「前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし」の「前記乳化剤成分B)」が「ノニオン系乳化剤を含む」場合において、その「前記乳化剤成分B)」について「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」と特定する訂正は、訂正前の請求項5の「前記乳化剤成分B)が、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含む」との記載、訂正前の請求項7の「前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」との記載からみて、新規事項の追加に当たらないことは明らかであり、また、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことも明らかである。

(2)訂正事項2、5について
ア 訂正の目的
訂正事項2、5による訂正は、訂正前の請求項5、8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2、5は、訂正前の請求項5、8を削除するものであるから、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(3)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項7が訂正前の請求項5を引用し、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1を引用していたのを、訂正前の請求項1、5を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項4は、単に訂正前の請求項7について訂正前の請求項1、5を引用しないものとするものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(4)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項9が訂正前の請求項1を引用していたのを、訂正前の請求項1を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項6は、単に訂正前の請求項9が訂正前の請求項1を引用していたのを、訂正前の請求項1を引用しないものとするものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(5)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7による訂正は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1を引用していたのを、訂正前の請求項1を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項7は、単に訂正前の請求項11が訂正前の請求項1を引用していたのを、訂正前の請求項1を引用しないものとするものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(6)訂正事項3、8〜10について
ア 訂正の目的
訂正事項3、8〜10による訂正は、上記の訂正事項2、5による訂正前の請求項5、8の削除に合わせて、引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項3、8〜10は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(7)独立特許要件の判断について
訂正事項4、6、7による本件特許異議の申立ての対象外である訂正前の請求項7、10〜11に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、同法同条第9項において準用する同法第126条第7項の規定の独立特許要件の判断対象とはならない。

(8)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1〜10による請求項1ないし15に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 本件発明
上記「第2 訂正の適否についての判断」のとおり、本件訂正は適法であるので、特許第6797129号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜15のとおりのものである(以下、請求項1〜15に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明15」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)がノニオン系乳化剤を含む場合、前記乳化剤成分B)は、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む、前記組成物。
【請求項2】
前記組成物が、平均イソシアネート官能性1.8から8.0を有し、及び/又はイソシアネート基含有率5.0から26.0重量%を有する請求項1に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項3】
前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びイソシアヌレート及び/又はアロファネート構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含む請求項1又は2に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項4】
前記ポリイソシアネート成分A)が、平均NCO官能性2.3から5.0及び/又はイソシアネート基含有率11.0から26.0重量%を有する少なくとも一つのポリイソシアヌレートからなる請求項3に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記親水性ポリエーテルアルコールが、平均で5から50エチレンオキサイド単位を含むポリエチレングリコールモノメチルエーテルアルコールである請求項1から4のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項7】
ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む、ポリイソシアネート組成物。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートのアミノスルホン酸との少なくとも一つの反応生成物を含む、ポリイソシアネート組成物。
【請求項10】
前記アミノスルホン酸が2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸、3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸及び4−(シクロヘキシルアミノ)ブタンスルホン酸からなる群から選択される請求項9に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項11】
ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が、アルキルフェノールポリグリコールエーテルホスフェート、アルキルフェノールポリグリコールエーテルホスホネート、脂肪アルコールポリグリコールエーテルホスフェート、脂肪アルコールポリグリコールエーテルホスホネート、アルキルフェノールポリグリコールエーテルサルフェート及び/又は脂肪アルコールポリグリコールエーテルサルフェートの少なくとも一つのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩を含む、ポリイソシアネート組成物。
【請求項12】
前記ポリイソシアネート成分A)を前記乳化剤成分B)と混合し、又はポリイソシアネート成分A)のポリイソシアネートの、イソシアネート基に対して反応性である基を有するイオン系及び/又はノニオン系化合物との比例反応によってポリイソシアネート成分A)中で前記乳化剤成分B)を形成する、請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物の製造方法。
【請求項13】
ポリウレタンプラスチックを製造するための請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物の使用。
【請求項14】
請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載の少なくとも一つのポリイソシアネート組成物及びイソシアネート基に対して反応性である少なくとも一つの化合物、及び適宜に、さらなる補助剤及びアジュバントを含むコーティング組成物。
【請求項15】
請求項14に記載のコーティング組成物を用いることで得ることができるコーティング。」


第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が令和3年9月27日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)取消理由A(新規性
本件訂正前の請求項1〜6、8、13〜15に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由B(進歩性
本件訂正前の請求項1〜6、8、12〜15に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立て理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)申立理由1(新規性
本件訂正前の請求項1〜4、6、8、13〜15に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
本件訂正前の請求項1〜6、8〜9、12〜15に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項
1 本件明細書に記載された事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。

(本a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5−ジイソシアナトペンタンに基づくポリイソシアネート組成物、それの製造方法、及びポリウレタンプラスチック製造のためのそれの使用に関する。さらなる主題は、ポリイソシアネート組成物を含むコーティング組成物、及び当該コーティング組成物から得ることができるコーティングである。
・・・
【0004】
親水性HDIポリイソシアネートは、高剪断力を用いなくとも水性塗料結合剤分散液に微細及び均一に組み込むことができ、これは得られたコーティングの塗布信頼性及び光学特性、特には光沢及び透明性にとって有利である。しかしながら同時に、水溶媒がフィルム内でより長期間保持されることから、架橋剤成分の親水性のために塗料乾燥が大幅に遅れる。しかしながら、木材/家具の光沢仕上げ又は自動車塗り換え及び大型車両塗装などの一連の利用分野のためには、急速乾燥が特に必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水系ポリマー分散液用の架橋剤として役立つと考えられる水乳化性PDI誘導体は、これまで知られていなかった。
【0006】
PDIについては、ポリイソシアネートの親水化に関する一連の刊行物での、例えば多くの中からWO2014/048634、EP−A0953585、JP11100426、JP2000178335、JP2004010777又はJP2007332193で、ポリイソシアネートの調製に好適な出発原料のジイソシアネートとして言及されているが、現在のところ、全てのPDIに基づく親水変性水分散性ポリイソシアネート混合物についての具体的な記載はない。
【0007】
従って、本発明の目的は、水分散性ポリイソシアネートの全ての利用分野に好適であり、特に通例の水性塗料結合剤と組み合わせて、先行技術の公知の親水性HDIポリイソシアネートを用いて製造されるものよりかなり急速に乾燥し、同時に、他の塗料特性に関してこれら先行技術のコーティングに全く劣ることのないコーティングを製造する、新規な親水変性ポリイソシアネートを提供することにあった。」

(本b)「【0011】
本発明の親水性ポリイソシアネート組成物の製造のためのポリイソシアネート成分A)(下記で、出発ポリイソシアネートA)とも称される)は、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、ウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造、又はそのようなPDIポリイソシアネートのいずれか所望の混合物を有する所望のオリゴマーポリイソシアネートである。・・・好ましいポリイソシアネートは、イソシアヌレート及び/又はアロファネート構造を有する、より好ましくはイソシアヌレート構造を有するものである。
【0012】
ポリイソシアネート成分A)の調製に用いられる1,5−ジイソシアナトペンタンは、例えば液相若しくは気相でのホスゲン処理による、又は、例えば好ましくは天然アミノ酸リジンの脱炭酸のバイオテクノロジー経路によって得られる1,5−ジアミノペンタンから出発してウレタンの熱開裂などのホスゲンを使わない経路によるなどの各種方法で得ることができる。
・・・
【0015】
従って、本発明の主題は、組成物が平均イソシアネート官能性1.8から8.0、好ましくは2.0から7.0、より好ましくは2.3から6.0を有し、及び/又はイソシアネート基含有率5.0から26.0重量%、好ましくは6.0から24.0重量%、より好ましくは10.0から23.0重量%を有するポリイソシアネート組成物である。
【0016】
好ましいポリイソシアネート組成物は、平均NCO官能性2.3から5.0及び/又はイソシアネート基含有率11.0から26.0重量%を有する少なくとも一つのポリイソシアヌレートのポリイソシアネート成分A)を含む。」

(本c)「【0019】
1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく本発明の親水変性ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート成分A)だけでなく、少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤B)も含む。
【0020】
これらは、分子構造のために、好ましくは8時間までの長期間にわたり、水系乳濁液中でポリイソシアネート又はポリイソシアネート組成物を安定化させることができる所望の表面活性物質である。
【0021】
同様に、本発明の主題は、ポリイソシアネート組成物の製造方法であって、ポリイソシアネート成分A)を乳化剤成分B)と混合する、又はポリイソシアネート成分A)のポリイソシアネートのイソシアネート基に対して反応性である基を有するイオン系及び/又はノニオン系化合物との比例反応によりポリイソシアネート成分A)中で乳化剤成分B)を形成する方法である。
【0022】
好ましい種類のノニオン系乳化剤B)は、例えば、ポリイソシアネート成分A)の親水性ポリエーテルアルコールとの反応生成物B1)によって表される。
【0023】
好適な親水性ポリエーテルアルコールは、平均で分子当たり5から50エチレン単位を有し、好適な出発分子のアルコキシル化によって従来法で得られる種類のものである1価若しくは多価ポリアルキレンオキサイドポリエーテルアルコール類である・・・。・・・
【0024】
アルコキシル化反応に好適なアルキレンオキサイドは、特に、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドであり、それらはアルコキシル化反応において、いずれかの順序で、又は混合物で用いることができる。好適なポリエーテルアルコールは、純粋なポリエチレンオキサイドポリエーテルアルコール類又はアルキレンオキサイド単位が少なくとも70mol%、好ましくは少なくとも80mol%の程度までのエチレンオキサイド単位からなる混合ポリアルキレンオキサイドポリエーテル類のいずれかである。
【0025】
好ましいポリアルキレンオキサイドポリエーテルアルコール類は、出発分子としての分子量範囲32から150の前記1価アルコールを用いて調製されたものである。特に好ましいポリエーテルアルコール類は、平均で5から50、非常に好ましくは5から25のエチレンオキサイド単位を有する純粋なポリエーテルグリコール・モノメチルエーテルアルコール類である。
【0026】
そのような好ましいノニオン系乳化剤B1)の調製は、基本的に公知であり、例えばEP−B0206059及びEP−B0540985に記載されている。
【0027】
その調製は、ポリイソシアネート成分A)の所定のポリエーテルアルコールとの反応により、別個の反応段階で、得られた乳化剤B1)を次段階でポリイソシアネート成分A)と混和して親水型に変換して、或いはポリイソシアネート成分A)を相当する量のポリエーテルアルコールと混合して、本発明の親水性ポリイソシアネート混合物(未反応のポリイソシアネートA)だけでなくポリエーテルアルコール及び成分A)の一部からイン・サイツで生成する乳化剤B)を含む)を自然形成させることで行うことができる。
【0028】
この種類のノニオン系乳化剤B1)は、40から180℃、好ましくは50から150℃の温度で、NCO/OH当量比2:1から400:1、好ましくは4:1から140:1を守って調製される。
【0029】
ノニオン系乳化剤B1)の別個調製の最初に言及した形態では、それらは、好ましくはNCO/OH当量比2:1から6:1を守って調製される。乳化剤B1)のイン・サイツでの調製の場合、当然のことながら、上記で記述の広い範囲内の大過剰のイソシアネート基を用いることが可能である。
【0030】
ポリイソシアネート成分A)の所定の親水性ポリエーテルアルコールとの反応によるノニオン系乳化剤B1)の形成は、EP−B0959087に記載の方法に従って、主としてNCO/OH反応によって形成されるウレタン基をさらに、ウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて、少なくとも比例して、好ましくは少なくとも60mol%程度まで反応させてアロファネート基を形成するように行うこともできる。この場合、反応物は、上記のNCO/OH当量比で、40から180℃、好ましくは50から150℃で、通常は触媒の存在下に反応させ、その触媒は、引用の特許に記載されており、アロファネート化反応を加速させるのに好適な触媒、詳細には亜鉛化合物、例えばn−オクタン酸亜鉛(II)、2−エチル−1−ヘキサン酸亜鉛(II)又はステアリン酸亜鉛(II)である。
【0031】
さらなる好ましい種類の好適なノニオン系乳化剤B)は、例えば、モノマージイソシアネート又はジイソシアネート混合物の上記の1価若しくは多価の親水性ポリエーテルアルコールとのOH/NCO当量比0.6:1から1.2:1での反応生成物によって表される。特別に好ましいのは、モニマージイソシアネート又はジイソシアネート混合物の平均で5から50、好ましくは5から25エチレンオキサイド単位を有する純粋なポリエチレングリコールモノメチルエーテルアルコールとの反応である。そのような乳化剤B2)の調製も同様に公知であり、例えばEP−B0486881に記載されている。
【0032】
しかしながら、適宜に、上記の割合での成分の混合後に、乳化剤B2)を、好適な触媒の存在下にアロファネート化工程でポリイソシアネートA)と反応させても良い。この場合、やはり、未反応ポリイソシアネートA)だけではない、乳化剤B2)及び成分A)の一部からイン・サイツで形成されるアロファネート構造を有するさらなるノニオン系乳化剤型B3)を含む本発明の親水性ポリイソシアネート組成物が形成される。そのような乳化剤B3)のイン・サイツでの調製もすでに公知であり、例えばWO2005/047357に記載されている。」

(本d)「【0033】
1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく本発明の親水変性ポリイソシアネート組成物は、例えばノニオン系乳化剤に代えて、イオン性基、詳細にはアニオン性基を有する乳化剤を含むことができる。
【0034】
本発明のさらなる主題は、乳化剤成分B)がポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートのアミノスルホン酸との少なくとも一つの反応生成物を含むポリイソシアネート組成物である。
【0035】
そのようなイオン系乳化剤B)は好ましくは、例えば、WO01/88006の方法により、ポリイソシアネート成分A)の2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸との及び/又は3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸又は4−(シクロヘキシルアミノ)ブタンスルホン酸との反応によって得ることができる種類のスルホネート基含有乳化剤B4)を構成する。この反応は、40から150℃、好ましくは50から130℃の温度で、NCO基のアミノ基に対する当量比2:1から400:1、好ましくは4:1から250:1を守って行い、スルホン酸基を中和するために、三級アミンをさらに、好ましくはアミノスルホン酸の量に対して等モル量で用いる。好適な中和アミンは、例えば、三級モノアミン類、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N−メチルピペリジン、又はN−エチルピペリジン、三級ジアミン類、例えば1,3−ビス(ジメチルアミノ)プロパン、1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタン又はN,N′−ジメチルピペラジン、又は、好ましさは劣るが、アルカノールアミン類、例えばジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン又はトリエタノールアミンである。
【0036】
ノニオン系乳化剤B1)についてすでに記載した、ポリイソシアネート成分A)の所定のアミノスルホン酸との反応は、別個の反応段階で、得られたイオン系乳化剤B4)を次段階でポリイソシアネート成分A)と混和して親水型に変換して、或いはこれらのポリイソシアネート成分でイン・サイツで(その場合、本発明の親水性ポリイソシアネート混合物が直接形成され、この混合物は未反応ポリイソシアネートA)だけでなく、イン・サイツでアミノスルホン酸類、中和性アミン及び成分A)の一部から生成する乳化剤B4)も含む。)行うこともできる。」

(本e)「【0062】
実施例
全てのパーセントは、異なる形で記載されていない限り、重量基準である。
【0063】
NCO含有量は、DIN EN ISO11909に準拠した滴定法によって求めた。
【0064】
残留モノマー含有量は、DIN EN ISO 10283に準拠した内部標準を用いるガスクロマトグラフィーによって測定した。
【0065】
粘度測定はいずれも、DIN EN ISO3219に準拠してAnton Paar Germany GmbH(DE)からのPhysica MCR 51 Rheometerを用いて行った。
【0066】
水分散液の平均粒径は、Malvern Instruments GmbH(DE)からのZetasizer、DTS5100型を用いて求めた。
【0067】
ハーゼン色数は、Lange, DEからのLICO400分光光度計を用い、DIN EN 1557に準拠して分光光度的に測定した。
【0068】
ポリイソシアネート成分A)
ポリイソシアネート成分A1)
ペンタメチレン1,5−ジイソシアネート(PDI)1000g(6.49mol)を撹拌機、還流冷却器、N2導入管及び内部温度系を取り付けた四頸フラスコに入れ、約50mbarの減圧を加えることで室温で3回脱気し、窒素で覆った。次に、そのバッチを加熱して60℃とし、触媒溶液(1.5%強度水酸化N,N,N−トリメチル−N−ベンジルアンモニウムのメタノール及び2−エチル−1−ヘキサノールの1:1混合物中溶液)を、三量化反応が発熱的に開始するにも拘わらず、反応混合物の温度が上昇して80℃以下となるような速度で計量投入した。NCO含有量47.8重量%に到達したら、リン酸ジブチル(使用した水酸化トリメチルベンジルアンモニウムに基づいて等モル量)で反応停止し、未反応モノマーPDIを、温度140℃及び圧力0.5mbarで薄膜エバポレータで分離除去した。これによって、下記の特性データを有する実質的に無色のポリイソシアヌレートポリイソシアネートを得た。
【0069】
NCO含有量:24.2%
NCO官能性(計算値):約3.3
粘度(23℃):2200mPas
モノマーPDI:0.06%
色数(APHA):30ハーゼン。
【0070】
ポリイソシアネート成分A2)
ポリイソシアネート成分A1)について記載の方法により、及びそこに記載の触媒溶液を用いて、PDI 1000g(6.49mol)を反応させて、NCO含有量36.7%とした。触媒の失活及びそれに続く140℃及び0.5mbarでの薄膜エバポレータによる未反応モノマーPDIの蒸留除去によって、下記の特性データを有する実質的に無色のポリイソシアヌレートポリイソシアネートを得た。
【0071】
NCO含有量:21.7%
NCO官能性(計算値):約3.5
粘度(23℃):9850mPas
モノマーPDI:0.05%
色数(APHA):34ハーゼン。
【0072】
実施例1)
(本発明、乳化剤B1型)
ポリイソシアネート成分A2)870g(4.50当量)を乾燥窒素下及び撹拌下に100℃で導入し、平均分子量350を有するメタノール開始単官能性ポリエチレンオキサイドポリエーテル130g(0.37当量)と30分かけて混合し、約2時間後に、混合物のNCO含有量が数値17.3%まで低下するまでこの温度でさらに撹拌した。室温まで冷却することで、下記の特性データを有する無色透明のポリイソシアネート混合物を得た。
【0073】
NCO含有量:17.3%
NCO官能性:3.2
粘度(23℃):9600mPas
色数(APHA):28ハーゼン。
【0074】
実施例2)
(比較、EP−B0540985による親水性HDIポリイソシアネート、乳化剤B1型)
NCO含有量21.7%、平均NCO官能性3.5(GPCによる)、モノマーHDI含有量0.1%、及び粘度3000mPas(23℃)を有するイソシアヌレート基を含みHDI系ポリイソシアネート870g(4.50当量)を乾燥窒素下及び撹拌下に100℃で導入し、平均分子量350を有するメタノール開始単官能性ポリエチレンオキサイドポリエーテル130g(0.37当量)と30分かけて混合し、約2時間後に、混合物のNCO含有量が数値17.4%まで低下するまでこの温度でさらに撹拌した。室温まで冷却することで、下記の特性データを有する無色透明のポリイソシアネート混合物を得た。
【0075】
NCO含有量:17.4%
NCO官能性:3.2
粘度(23℃):2800mPas
色数:40APHA。
【0076】
実施例3)
(本発明、乳化剤B1型)
ポリイソシアネート成分A2)850g(4.39当量)を乾燥窒素下及び撹拌下に100℃で導入し、平均分子量500を有するメタノール開始単官能性ポリエチレンオキサイドポリエーテル150g(0.30当量)と30分かけて混合し、約2時間後に、混合物のNCO含有量が、完全ウレタン化に相当する数値17.2%まで低下するまでこの温度でさらに撹拌した。次に、2−エチル−1−ヘキサン酸亜鉛(II)0.01gをアロファネート化触媒として加えた。この場合、放出される反応熱のために、反応混合物の温度は107℃まで上昇した。触媒添加から約30分後にその発熱反応が停止した時点で、塩化ベンゾイル0.01gを加えることで反応を中止し、反応混合物を冷却して室温とした。これによって、下記の特性データを有する本発明の実質的に無色透明のポリイソシアネート混合物を得た。
【0077】
固体含有量:100%
NCO含有量:16.4%
NCO官能性:4.0
粘度(23℃):16400mPas
色数:50APHA。
【0078】
実施例4)
(比較、EP−B0959087による親水性HDIポリイソシアネート、乳化剤B1型)
イソシアヌレート基を含み比較ポリイソシアネートA2)の製造関連で記載されたHDI系ポリイソシアネート850g(4.39当量)を乾燥窒素下及び撹拌下に100℃で導入し、平均分子量500を有するメタノール開始単官能性ポリエチレンオキサイドポリエーテル150g(0.30当量)と30分かけて混合し、約2時間後に、混合物のNCO含有量が、完全ウレタン化に相当する数値17.2%まで低下するまでこの温度でさらに撹拌した。次に、2−エチル−1−ヘキサン酸亜鉛(II)0.01gをアロファネート化触媒として加えた。この場合、放出される反応熱のために、反応混合物の温度は102℃まで上昇した。触媒添加から約30分後にその発熱反応が停止した時点で、塩化ベンゾイル0.01gを加えることで反応を中止し、反応混合物を冷却して室温とした。これによって、下記の特性データを有する本発明の実質的に無色透明のポリイソシアネート混合物を得た。
【0079】
NCO含有量:16.4%
NCO官能性:4.0
粘度(23℃):7100mPas
色数:38APHA。
【0080】
実施例5)
(本発明、乳化剤B4型)
ポリイソシアネート成分A1)980g(5.65当量)の混合物を、乾燥窒素下80℃で3時間にわたり、3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)20g(0.09当量)及びジメチルシクロヘキシルアミン11g(0.09mol)とともに撹拌した。室温まで冷却することで、下記の特性データを有する本発明の実質的に無色透明のポリイソシアネート混合物を得た。
【0081】
NCO含有量:23.1%
NCO官能性:3.2
粘度(23℃):2800mPas
色数:45APHA。
【0082】
実施例6)
(比較、WO01/88006による親水性HDIポリイソシアネート、乳化剤B4型)
イソシアヌレート基を含みNCO含有量23.0%、平均NCO官能性3.3(GPCによる)、モノマーHDI含有量0.1%、及び粘度1200mPas(23℃)を有するHDI系ポリイソシアネート980g(5.37当量)を、乾燥窒素下80℃で3時間にわたり、3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)20g(0.09当量)及びジメチルシクロヘキシルアミン11g(0.09mol)とともに撹拌した。室温まで冷却することで、下記の特性データを有する本発明の実質的に無色透明のポリイソシアネート混合物を得た。
【0083】
NCO含有量:21.9%
NCO官能性:3.2
粘度(23℃):1700mPas
色数:41APHA。
【0084】
実施例7)
(本発明、乳化剤B5型)
ポリイソシアネート成分A2)890g(4.60当量)を、80℃で12時間にわたり、エトキシル化トリデシルアルコールホスフェート(Rhodafac(登録商標)RS−710、Rhodia)97g及び中和性アミンとしてのジメチルシクロヘキシルアミン13gからなる乳化剤混合物110gとともに撹拌した。室温まで冷却した後、得られた無色透明のポリイソシアネート混合物は、下記の特性データを有している。
【0085】
NCO含有量:19.3%
NCO官能性:3.5
粘度(23℃):9200mPas
色数:33APHA。
【0086】
実施例8)
(比較、WO97/31960による親水性HDIポリイソシアネート、乳化剤B4型)
イソシアヌレート基を含みポリイソシアネートA1)の製造関連で記載されたHDI系ポリイソシアネート890g(4.60当量)を、80℃で12時間にわたり、エトキシル化トリデシルアルコールホスフェート(Rhodafac(登録商標)RS−710、Rhodia)97g及び中和性アミンとしてのジメチルシクロヘキシルアミン13gからなる乳化剤混合物110gとともに撹拌する。室温まで冷却した後、得られた無色透明のポリイソシアネート混合物は、下記の特性データを有している。
【0087】
NCO含有量:19.3%
NCO官能性:3.5
粘度(23℃):2900mPas
色数:26APHA。
【0088】
実施例9
(乳濁液の調製)
実施例1、3、5及び7からのそれぞれの本発明のポリイソシアネート組成物(ポリイ
ソシアネート混合物)及び実施例2、4、6及び8からの比較ポリイソシアネート28gを、共溶媒なしの形態と、酢酸1−メトキシプロパ−2−イル(MPA)それぞれ12gでの両方で希釈し、三角フラスコ中脱イオン水100gと混合し、次にそれぞれ磁気撹拌器によって900rpmで1分間撹拌した。異なるポリイソシアネート混合物の分散性の尺度としての得られた乳濁液の平均粒径を、Malvern Instrumentsからの「Zetasizer」装置によって求めた。下記の表に、得られた値を示している。
【表1】


【0089】
当該比較は、実施例1、3、5及び7からのPDIに基づく本発明の親水変性ポリイソシアネート混合物の方が、各場合で同じ種類の乳化剤B)型の等しい量的割合を用いて調製される実施例2、4、6及び8からの水分散性HDIポリイソシアネートよりかなり良好な分散性を有することを示している。
【0090】
実施例10(使用)
Bayhydrol(登録商標)A2470(Bayer MaterialScience AG, Leverkusen)の名称下で入手可能な樹脂固体に基づく固体含有量45%及びOH含有量3.9%を有する市販の水性ヒドロキシ官能性ポリアクリレート分散液100重量部を、市販の消泡剤(Surfynol 104BC, Air Products GmbH)1.2重量部と混合した。このバッチを実施例1からの本発明のポリイソシアネート37.7重量部(イソシアネート基に対するアルコール性ヒドロキシル基の当量比1.5:1に相当)と混合し、その混合物を1000rpmで5分間撹拌することで均一化した。その後、水を加えることで、固体含有量を45%に調節した。
【0091】
比較のため、同じ方法を用いて、各場合で、Bayhydrol(登録商標)A2470及び実施例2から8のポリイソシアネート100重量部(各場合でイソシアネート基アルコール性ヒドロキシル基に対する当量比1.5:1に相当)から、透明ワニスを調製した。
【0092】
即時塗布混合物の作業時間はいずれの場合も、ほぼ4時間であった。ワニスを湿フィルム厚150μm(乾燥厚約65μm)でガラス板に塗布し、各1回室温で(約25℃)、そして、各場合で、強い条件(30分/60℃)下に15分間フラッシング(flashing)した後に乾燥させた。下記の表は、得られたコーティングの技術的塗料特性を示している。
【表2】


【0093】
実施例1、3及び5からの本発明の親水変性ポリイソシアネート組成物によって、技術的塗料特性に関して、実施例2、4及び6からの同様に構築された親水性HDIポリイソシアネートを用いて製造されたものと少なくとも同等であり、特にはかなり急速に乾燥することで後者と区別されるコーティングが得られることが、この比較によって明らかである。」

2 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「[請求項1] 生化学的手法により得られるペンタメチレンジアミンまたはその塩をホスゲン化することにより得られ、
下記一般式(1)で示される化合物、および、下記一般式(2)で示される化合物の総含有量が、5〜400ppmであることを特徴とする、ペンタメチレンジイソシアネート。


・・・
[請求項6] 生化学的手法により得られるペンタメチレンジアミンまたはその塩をホスゲン化することにより得られ、下記一般式(1)で示される化合物、および、下記一般式(2)で示される化合物の総含有量が、5〜400ppmであるペンタメチレンジイソシアネートを、変性することにより得られ、
下記(a)〜(e)の官能基を少なくとも1種含有することを特徴とする、ポリイソシアネート組成物。
(a)イソシアヌレート基
(b)アロファネート基
(c)ビウレット基
(d)ウレタン基
(e)ウレア基


[請求項7] 生化学的手法により得られるペンタメチレンジアミンまたはその塩をホスゲン化することにより得られ、下記一般式(1)で示される化合物、および、下記一般式(2)で示される化合物の総含有量が、5〜400ppmであるペンタメチレンジイソシアネート、および/または、前記ペンタメチレンジイソシアネートを変性することにより得られ、
下記(a)〜(e)の官能基を少なくとも1種含有するポリイソシアネート組成物と、活性水素化合物とを反応させることにより得られることを特徴とする、ポリウレタン樹脂。
(a)イソシアヌレート基
(b)アロファネート基
(c)ビウレット基
(d)ウレタン基
(e)ウレア基


[請求項8] 前記活性水素化合物が植物由来であることを特徴とする、請求項7に記載のポリウレタン樹脂。」

(甲1b)「技術分野
[0001] 本発明は、ペンタメチレンジイソシアネートおよびその製造方法、ポリイソシアネート組成物およびポリウレタン樹脂、詳しくは、ペンタメチレンジイソシアネートおよびその製造方法、そのペンタメチレンジイソシアネートから得られるポリイソシアネート組成物、ペンタメチレンジイソシアネートまたはポリイソシアネート組成物から得られるポリウレタン樹脂、および、そのペンタメチレンジイソシアネートから得られるポリウレア樹脂に関する。
・・・
[0010] 本発明の目的は、貯蔵安定性に優れるポリイソシアネート組成物、および、各種物性に優れるポリウレタン樹脂を、低コストで製造することのできるペンタメチレンジイソシアネートおよびその製造方法、そのペンタメチレンジイソシアネートから得られるポリイソシアネート組成物、ペンタメチレンジイソシアネートまたはポリイソシアネート組成物から得られるポリウレタン樹脂、および、そのペンタメチレンジイソシアネートから得られるポリウレア樹脂を提供することにある。
・・・
発明の効果
[0021] 本発明のペンタメチレンジイソシアネートによれば、貯蔵安定性に優れるポリイソシアネート組成物、および、各種物性に優れるポリウレタン樹脂を、低コストで製造することができる。
[0022] そのため、本発明のペンタメチレンジイソシアネートを用いて得られるポリイソシアネート組成物は、貯蔵安定性に優れ、また、ペンタメチレンジイソシアネートやポリイソシアネート組成物を用いて得られるポリウレタン樹脂およびポリウレア樹脂は、各種物性に優れる。
[0023] そのため、このようなポリウレタン樹脂およびポリウレア樹脂は、各種産業分野において、広範に用いることができる。」

(甲1c)「[0230] また、ペンタメチレンジイソシアネートには、例えば、安定剤などを添加することができる。
[0231] 安定剤としては、例えば、酸化防止剤、酸性化合物、スルホンアミド基を含有する化合物、有機亜リン酸エステルなどが挙げられる。
・・・
[0236] スルホンアミド基を含有する化合物としては、例えば、芳香族スルホンアミド類、脂肪族スルホンアミド類などが挙げられる。
[0237] 芳香族スルホンアミド類としては、例えば、ベンゼンスルホンアミド、ジメチルベンゼンスルホンアミド、スルファニルアミド、o−およびp−トルエンスルホンアミド、ヒドロキシナフタレンスルホンアミド、ナフタレン−1−スルホンアミド、ナフタレン−2−スルホンアミド、m−ニトロベンゼンスルホンアミド、p−クロロベンゼンスルホンアミドなどが挙げられる。
[0238] 脂肪族スルホンアミド類としては、例えば、メタンスルホンアミド、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジメチルエタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド、N−メトキシメタンスルホンアミド、N−ドデシルメタンスルホンアミド、N−シクロヘキシル−1−ブタンスルホンアミド、2−アミノエタンスルホンアミドなどが挙げられる。
[0239] これらスルホンアミド基を含有する化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
・・・
[0242] 安定剤として、好ましくは、酸化防止剤、酸性化合物、スルホンアミド基を含有する化合物が挙げられる。より好ましくは、ペンタメチレンジイソシアネートに、酸化防止剤と、酸性化合物および/またはスルホンアミド基を含有する化合物とを配合し、含有させる。
[0243] これら安定剤を添加することにより、そのペンタメチレンジイソシアネートの貯蔵安定性、活性水素化合物(後述)との反応性、および、ペンタメチレンジイソシアネートを用いてイソシアネート変性体(後述)を製造する場合の反応性、さらには、得られるイソシアネート変性体(後述)の貯蔵安定性を向上させることができる。
[0244] なお、安定剤の配合割合は、特に制限されず、必要および用途に応じて、適宜設定される。
・・・
[0246] また、酸性化合物および/またはスルホンアンド基を含有する化合物の配合割合(併用される場合には、それらの総量)は、ペンタメチレンジイソシアネート100質量部に対して、例えば、0.0005〜0.02質量部である。
[0247] そして、このようなペンタメチレンジイソシアネートによれば、上記したように、上記一般式(1)および上記一般式(2)で示される化合物の含有量が低減されているため、貯蔵安定性に優れるポリイソシアネート組成物、および、各種物性に優れるポリウレタン樹脂を、低コストで製造することができる。」

(甲1d)「[0248] 本発明において、ポリイソシアネート組成物は、より具体的には、ペンタメチレンジイソシアネートを変性することにより得られ、下記(a)〜(e)の官能基を少なくとも1種含有している。
(a)イソシアヌレート基
(b)アロファネート基
(c)ビウレット基
(d)ウレタン基
(e)ウレア基
上記(a)の官能基(イソシアヌレート基)を含有するポリイソシアネート組成物は、ペンタメチレンジイソシアネートのトリマー(三量体)であって、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートを公知のイソシアヌレート化触媒の存在下において反応させ、三量化することにより、得ることができる。
[0249] 上記(b)の官能基(アロファネート基)を含有するポリイソシアネート組成物は、ペンタメチレンジイソシアネートのアロファネート変性体であって、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートとモノアルコールとを反応させた後、公知のアロファネート化触媒の存在下でさらに反応させることにより、得ることができる。
[0250] 上記(c)の官能基(ビウレット基)を含有するポリイソシアネート組成物は、ペンタメチレンジイソシアネートのビウレット変性体であって、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートと、例えば、水、第三級アルコール(例えば、t−ブチルアルコールなど)、第二級アミン(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンなど)などとを反応させた後、公知のビウレット化触媒の存在下でさらに反応させることにより、得ることができる。
[0251] 上記(b)の官能基(ウレタン基)を含有するポリイソシアネート組成物は、ペンタメチレンジイソシアネートのポリオール変性体であって、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートとポリオール成分(例えば、トリメチロールプロパンなど。詳しくは後述)との反応により、得ることができる。
[0252] 上記(e)の官能基(ウレア基)を含有するポリイソシアネート組成物は、ペンタメチレンジイソシアネートのポリアミン変性体であって、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートと水、ポリアミン成分(後述)などとの反応により、得ることができる。
[0253] なお、ポリイソシアネート組成物は、上記(a)〜(e)の官能基を少なくとも1種含有していればよく、2種以上含有することもできる。そのようなポリイソシアネート組成物は、上記の反応を適宜併用することにより、生成される。
[0254] ポリイソシアネート組成物として、好ましくは、ペンタメチレンジイソシアネートのトリマー(イソシアヌレート基を含有するポリイソシアネート組成物)が挙げられる。
[0255] なお、ペンタメチレンジイソシアネートのトリマーは、イソシアヌレート基の他、さらに、イミノオキサジアジンジオン基などを有するポリイソシアネートを、含んでいる。
[0256] ペンタメチレンジイソシアネートをトリマー化する方法を詳述すると、ペンタメチレンジイソシアネートとアルコール類とを反応させ、次いでトリマー化触媒の存在下にトリマー化反応させた後、未反応のペンタメチレンジイソシアネートを除去する方法、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートのみをトリマー化反応させた後、未反応のペンタメチレンジイソシアネートを除去し、得られたトリマーとアルコール類とを反応させる方法などが挙げられる。
[0257] 好ましくは、ペンタメチレンジイソシアネートとアルコールとを反応させ、次いでトリマー化触媒の存在下にトリマー化反応させた後、未反応のペンタメチレンジイソシアネートを除去する方法により、ポリイソシアネート組成物(トリマー変性体)を得る。
[0258] 本発明において、アルコール類としては、例えば、1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、4価以上のアルコールなどが挙げられる。
・・・
[0265] また、これらアルコール類は、分子中に1つ以上のヒドロキシ基を有していれば、それ以外の分子構造は、本発明の優れた効果を阻害しない限り、特に制限されず、例えば、分子中に、エステル基、エーテル基、シクロヘキサン環、芳香環などを有することもできる。このようなアルコール類としては、例えば、上記1価アルコールとアルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなど)との付加重合物(2種類以上のアルキレンオキサイドのランダムおよび/またはブロック重合物)であるエーテル基含有1価アルコール、上記1価アルコールとラクトン(例えば、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトンなど)との付加重合物であるエステル基含有1価アルコールなどが挙げられる。
・・・
[0269] また、ペンタメチレンジイソシアネートのトリマー化反応においては、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、必要に応じて、上記したアルコール類と、例えば、チオール類、オキシム類、ラクタム類、フェノール類、βジケトン類などの活性水素化合物とを併用することができる。
[0270] そして、本発明においては、ペンタメチレンジイソシアネートとアルコール類とを、得られるポリイソシアネート組成物において、そのイソシアネート基濃度が、例えば、10〜28質量%となるように反応させる。
[0271] イソシアネート基濃度が上記範囲となるように、ペンタメチレンジイソシアネートとアルコール類とを反応させるには、ペンタメチレンジイソシアネートとアルコール類とを反応させた後、トリマー化触媒の存在下において、所定の反応条件でトリマー化反応させる。
[0272] かかるトリマー化触媒としては、トリマー化に有効な触媒であれば、特に限定されず、例えば、・・・などが挙げられる。
・・・
[0275] トリマー化触媒として、好ましくは、N−(2−ヒドロキシプロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウム−2−エチルヘキサノエートが挙げられる。
[0276] トリマー化触媒の添加割合は、ペンタメチレンジイソシアネート100質量部に対して、例えば、0.0005〜0.3質量部、好ましくは、0.001〜0.1質量部、より好ましくは、0.001〜0.05質量部である。
[0277] また、トリマー化を調節するために、例えば、特開昭61−129173号公報に記載されているような有機亜リン酸エステルなどを、助触媒として使用することもできる。
[0278] 有機亜リン酸エステルとしては、例えば、有機亜リン酸ジエステル、有機亜リン酸トリエステルなどが挙げられ、より具体的には、例えば、・・・、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、・・・などが挙げられる。
[0270] また、この反応では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、例えば、2,6−ジ(tert−ブチル)−4−メチルフェノール、イルガノックス1010、イルガノックス1076、イルガノックス1135、イルガノックス245(以上、チバ・ジャパン社製、商品名)などの安定剤を添加することもできる。
・・・
[0282] 所定のイソシアネート基濃度に到達した後、上記したトリマー化触媒を添加して、トリマー化反応させる。
・・・
[0286] また、この反応では、必要により、公知の反応溶媒を配合してもよく、さらに、任意のタイミングで公知の触媒失活剤(例えば、リン酸、モノクロル酢酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゾイルクロリドなど)を添加することもできる。
[0287] そして、反応終了後、未反応のペンタメチレンジイソシアネートは、必要により、蒸留などの公知の除去方法により、除去する。
[0288] また、ポリイソシアネート組成物を得る方法として、ペンタメチレンジイソシアネートのみをトリマー化した後、未反応のペンタメチレンジイソシアネートを除去し、得られたトリマーとアルコール類とを反応させる方法(上記の後者の方法)を採用する場合においては、トリマーとアルコール類との反応は、一般的なウレタン化反応である。このようなウレタン化反応の反応条件は、例えば、室温〜100℃、好ましくは、40〜90℃である。」

(甲1e)「[0295] また、上記のポリイソシアネート組成物には、例えば、スルホンアミド基を含有する化合物を含有させることもできる。
[0296] 本発明において、スルホンアミド基を含有する化合物としては、例えば、芳香族スルホンアミド類、脂肪族スルホンアミド類などが挙げられる。
[0297] 芳香族スルホンアミド類としては、例えば、ベンゼンスルホンアミド、ジメチルベンゼンスルホンアミド、スルファニルアミド、o−およびp−トルエンスルホンアミド、ヒドロキシナフタレンスルホンアミド、ナフタレン−1−スルホンアミド、ナフタレン−2−スルホンアミド、m−ニトロベンゼンスルホンアミド、p−クロロベンゼンスルホンアミドなどが挙げられる。
[0298] 脂肪族スルホンアミド類としては、例えば、メタンスルホンアミド、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジメチルエタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド、N−メトキシメタンスルホンアミド、N−ドデシルメタンスルホンアミド、N−シクロヘキシル−1−ブタンスルホンアミド、2−アミノエタンスルホンアミドなどが挙げられる。
[0299] これらスルホンアミド基を含有する化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
[0300] スルホンアミド基を含有する化合物として、好ましくは、芳香族スルホンアミド類が挙げられ、より好ましくは、o−またはp−トルエンスルホンアミドが挙げられる。
[0301] また、ポリイソシアネート組成物に、スルホンアミド基を含有する化合物を含有させる場合には、スルホンアミド基を含有する化合物を、ポリイソシアネート組成物に対して、例えば、10〜5000ppm、好ましくは、50〜4000ppm、より好ましくは、100〜3000ppm含有させる。
[0302] スルホンアミド基を含有する化合物の含有量が5000ppmより多いと、ポリイソシアネート組成物の貯蔵工程、および、ポリウレタン樹脂の製造工程において、イソシアネート基濃度が変化する場合がある。一方、スルホンアミド基を含有する化合物の含有量が10ppm未満であると、ポリイソシアネート組成物の貯蔵工程、および、ポリウレタン樹脂の製造工程において、粘度、色相が大きく変化する場合がある。
[0303] スルホンアミド基を含有する化合物を、ポリイソシアネート組成物に含有させる方法としては、特に制限されず、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートのトリマー化反応において、ペンタメチレンジイソシアネートおよびアルコール類とともに、スルホンアミド基を含有する化合物を添加する方法、ペンタメチレンジイソシアネートのトリマー化反応により得られるポリイソシアネート組成物に、スルホンアミド基を含有する化合物を添する方法などが挙げられる。」

(甲1f)「[0305] また、このようにして得られるポリイソシアネート組成物(トリマー変性体)においては、イソシアネート3量体(イソシアヌレート基(および、場合によりイミノオキサジアジンジオン基)を有し、分子量がイソシアネートモノマーの3倍であるイソシアネート変性体)の濃度(未反応のペンタメチレンジイソシアネートなど、不純物を除く濃度)が、例えば、35〜95質量%、好ましくは、40〜85質量%、より好ましくは、50〜75質量%である。
[0306] イソシアネート3量体の濃度が35質量%未満であると、ポリイソシアネート組成物の粘土が増加し、架橋性が低下するなどの不具合を生じる場合がある。
[0307] また、このようにして得られるポリイソシアネート組成物においては、イソシアネートモノマー濃度(未反応のペンタメチレンジイソシアネートの濃度)が、例えば、3質量%以下、好ましくは、1.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
[0308] また、このようにして得られるポリイソシアネート組成物は、イソシアヌレート結合および/またはイミノオキサジアジンジオン結合の他、アロファネート結合を含有する場合がある。このような場合において、ポリイソシアネート組成物中のイソシアヌレート基およびイミノオキサジアジンジオン基と、アロファネート基とのモル比((イソシアヌレート基(モル数)+イミノオキサジアジンジオン基(モル数))/アロファネート基(モル数))は、例えば、1〜3500、好ましくは、1〜3000、より好ましくは、1〜1000である。
[0309] なお、ポリイソシアネート組成物中のイソシアヌレート基およびイミノオキサジアジンジオン基と、アロファネート基とのモル比は、公知の方法により測定することができ、より具体的には、例えば、示差屈折率検出器(RID)を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)のクロマトグラム(チャート)において、ピークの比率(面積比率)を求める方法、NMR法などにより、算出することができる。」

(甲1g)「[0336] また、本発明のポリイソシアネート組成物は、分子中に含有する遊離のイソシアネート基がブロック剤によりブロックされるとともに、水に分散または溶解された水性ブロックイソシアネートとして用いることもできる。
[0337] 水性ブロックイソシアネートを製造する方法としては、特に制限されないが、例えば、まず、ポリイソシアネート組成物における遊離のイソシアネート基の一部がブロック剤によりブロックされたポリイソシアネート組成物(以下、部分ブロックイソシアネート)を製造し、その後、部分ブロックイソシアネートの遊離のイソシアネート基(ブロック剤によりブロックされずに残るイソシアネート基)と、親水基および活性水素基を併有する化合物(以下、親水基含有活性水素化合物)とを反応させる方法が挙げられる。
・・・
[0341] 次いで、この方法では、部分ブロックイソシアネートの遊離のイソシアネート基(イソシアネート基の残部)と、親水基含有活性水素化合物とを反応させる。
・・・
[0343] 親水基含有活性水素化合物として、より具体的には、カルボン酸基含有活性水素化合物、スルホン酸基含有活性水素化合物、水酸基含有活性水素化合物、親水基含有多塩基酸、ポリオキシエチレン基含有活性水素化合物などが挙げられる。
・・・
[0345] スルホン酸基含有活性水素化合物としては、例えば、エポキシ基含有化合物と酸性亜硫酸塩との合成反応から得られる、ジヒドロキシブタンスルホン酸、ジヒドロキシプロパンスルホン酸が挙げられる。また、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノブタンスルホン酸、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、ジアミノブタンスルホン酸、ジアミノプロパンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、2,4−ジアミノ−5−トルエンスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノブタンスルホン酸、または、それらスルホン酸の金属塩類やアンモニウム塩類などが挙げられる。」

(甲1h)「[0356] そして、本発明のポリウレタン樹脂は、上記のペンタメチレンジイソシアネート、および/または、上記のポリイソシアネート組成物(以下、ポリイソシアネート成分と総称する場合がある。)と、活性水素化合物とを反応させることにより得ることができる。
・・・
[0455] また、ポリウレタン樹脂を得る方法としては、上記に限定されず、その他の方法により、ポリウレタン樹脂を、例えば、コーティング剤、接着剤、シーラント、エラストマー、あるいは軟質、硬質、半硬質フォームなどとしても得ることができる。具体的には、ラミネート用接着剤、水系ポリウレタンディスパージョン(PUD)、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーなどの低硬度エラストマー、さらには弾性繊維や皮革材料として好適に用いうるポリウレタン溶液の形態などが挙げられる。
・・・
[0458] また、ポリイソシアネート成分と活性水素化合物とには、必要に応じて、そのいずれか一方または、その両方に、例えば、エポキシ樹脂、硬化触媒、塗工改良剤、レベリング剤、消泡剤、酸価防止剤や、紫外線吸収剤などの安定剤、可塑剤、界面活性剤、顔料、充填剤、有機または無機微粒子、防黴剤、シランカップリング剤などの添加剤を配合してもよい。これらの添加剤の配合割合は、その目的および用途により適宜決定される。」

(甲1i)「実施例
[0508] 以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に言及がない限り、「部」および「%」は質量基準である。また、製造例などに用いられる測定方法を、以下に示す。
・・・
[0640] 実施例13(ポリイソシアネート組成物(J)の製造)
攪拌機、温度計、還流管、および、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ペンタメチレンジイソシアネート(a)を500質量部、イソブタノールを19質量部、2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノールを0.3質量部、トリス(トリデシル)ホスファイトを0.3質量部装入し、85℃に昇温し、3時間ウレタン化反応を行った。次いで、アロファネート化触媒としてオクチル酸鉛を0.02質量部添加し、イソシアネート基濃度が計算値に達するまで反応を行った後、o−トルエンスルホンアミドを0.02質量部添加した。得られた反応液を薄膜蒸留装置(真空度0.093KPa、温度150℃)に通液して未反応のペンタメチレンジイソシアネートを除去し、さらに、得られた組成物100質量部に対し、o−トルエンスルホンアミドを0.02質量部添加し、ポリイソシアネート組成物(J)を得た。
[0641] このポリイソシアネート組成物(J)のペンタメチレンジイソシアネート濃度は0.2質量%、イソシアネート基濃度1は20.5質量%、25℃における粘度1は190mPa・s、色相1はAPHA20であった。これらの測定値を、加熱促進試験前の測定値とし、表4に示す。
[0642] 次いで、金属製容器にポリイソシアネート組成物(J)を移し、窒素パージ後、40℃のオーブン中に14日間静置し、加熱促進試験を実施した。試験後のポリイソシアネート組成物の、イソシアネート基濃度2は20.1質量%であり、25℃における粘度2は210mPa・sであり、色相2はAPHA20であった。これらの測定値を、加熱促進試験後の測定値とし、表4に示す。
・・・
[0659] 実施例16(ポリイソシアネート組成物(P)の製造)
攪拌機、温度計、還流管、および、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ペンタメチレンジイソシアネート(a)を500質量部、2,6−ジ(tert−ブチル)−4−メチルフェノールを0.3質量部、トリス(トリデシル)ホスファイトを0.3質量部、平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコールを105質量部装入し、窒素雰囲気下85℃で3時間反応させた。
[0660] 次いで、トリマー化触媒としてN−(2−ヒドロキシプロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウム−2−エチルヘキサノエートを0.1質量部添加した。1時間反応させた後、o−トルエンスルホンアミドを0.12質量部添加した(イソシアネート基の転化率:10質量%)。得られた反応液を薄膜蒸留装置(真空度0.093KPa、温度150℃)に通液して未反応のペンタメチレンジイソシアネートを除去し、さらに、得られた組成物100質量部に対し、o−トルエンスルホンアミドを0.02質量部添加し、ポリイソシアネート組成物(P)を得た。
[0661] このポリイソシアネート組成物(P)のペンタメチレンジイソシアネート濃度は0.1質量%、イソシアネート基濃度1は13.3質量%、25℃における粘度1は270mPa・s、色相1はAPHA20であった。これらの測定値を、加熱促進試験前の測定値とし、表4に示す。
[0662] 次いで、金属製容器にポリイソシアネート組成物(P)を移し、窒素パージ後、40℃のオーブン中に14日間静置し、加熱促進試験を実施した。試験後のポリイソシアネート組成物の、イソシアネート基濃度2は12.9質量%であり、25℃における粘度2は310mPa・sであり、色相2はAPHA20であった。これらの測定値を、加熱促進試験後の測定値とし、表4に示す。」


第6 当審の判断
特許異議の申立ての審理対象である請求項1〜6、8〜9、12〜15のうち、上記「第2 訂正の適否についての判断」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項5,8は、本件訂正により削除されているので、請求項5、8についての申立てを却下する。

当審は、当審が通知した取消理由A〜B及び申立人がした申立理由1〜2によっては、いずれも、本件発明1〜4、6、9、12〜15に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 取消理由A(新規性)及び取消理由B(進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の(甲1i)の段落[0659]〜[0662]の実施例16に着目すると、
「攪拌機、温度計、還流管、および、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ペンタメチレンジイソシアネート(a)を500質量部、2,6−ジ(tert−ブチル)−4−メチルフェノールを0.3質量部、トリス(トリデシル)ホスファイトを0.3質量部、平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコールを105質量部装入し、窒素雰囲気下85℃で3時間反応させ、
次いで、トリマー化触媒としてN−(2−ヒドロキシプロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウム−2−エチルヘキサノエートを0.1質量部添加し、1時間反応させた後、o−トルエンスルホンアミドを0.12質量部添加し(イソシアネート基の転化率:10質量%)、
得られた反応液を薄膜蒸留装置(真空度0.093KPa、温度150℃)に通液して未反応のペンタメチレンジイソシアネートを除去し、さらに、得られた組成物100質量部に対し、o−トルエンスルホンアミドを0.02質量部添加して得た、
イソシアネート基濃度1は13.3質量%である、ポリイソシアネート組成物(P)」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明1について
ア 対比
まず、本件発明1と甲1発明とを対比・判断する前に、本件発明1の「ポリイソシアネート成分A)」及び「乳化剤成分B)」について、及び、甲1発明の「ポリイソシアネート組成物(P)」の組成について検討する。

(ア)本件発明1の「ポリイソシアネート成分A)」及び「乳化剤成分B)」について
本件発明1の「ポリイソシアネート成分A)」について、本件発明1には「前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり」、「ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含む」と特定されている。
また、本件明細書の(本b)の段落【0011】には「本発明の親水性ポリイソシアネート組成物の製造のためのポリイソシアネート成分A)(下記で、出発ポリイソシアネートA)とも称される)は、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、ウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造、又はそのようなPDIポリイソシアネートのいずれか所望の混合物を有する所望のオリゴマーポリイソシアネートである。これらのポリイソシアネートは、・・・に記載の種類の自体公知のイソシアネートオリゴマー化法により、PDIのイソシアネート基の一部の反応による少なくとも二つのジイソシアネート分子からなるポリイソシアネート分子の形成により、そしてそれに続く未反応のモノマーPDIの蒸留除去もしくは抽出除去により調製される」と記載されている。以上の記載から、本件発明1の「ポリイソシアネート成分A)」は、「1,5−ジイソシアナトペンタン」の変性によって得られる「オリゴマーポリイソシアネート」であると理解できる。

次に、本件発明1の「乳化剤成分B)」について、本件発明1には、「前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし」と特定され、「乳化剤成分B)」として、「イオン系乳化剤」、「ノニオン系乳化剤」あるいは、それらの両者とも含む態様を包含しているといえる。
このうち、「前記乳化剤成分B)」が「ノニオン系乳化剤を含む場合」について、本件発明1は、「前記乳化剤成分B)が、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」と特定されている。
以上のことから、本件発明1の「乳化剤成分B)」は、「前記乳化剤成分B)がノニオン系乳化剤を含む場合」には、「ポリイソシアネート成分A)」と「親水性ポリエーテルアルコール」との反応生成物であって、かつ、「反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」態様になるといえる。

さらに、上記「ポリイソシアネート成分A)」及び「乳化剤成分B)」の具体的態様(実施例3)について、確認する。
本件明細書の(本e)の段落【0068】〜【0071】の「ポリイソシアネート成分A)」の合成例、段落【0076】〜【0077】の実施例3をみると、「ペンタメチレン1,5−ジイソシアネート(PDI)」を「三量化反応」をして「ポリイソシアヌレートポリイソシアネート」を得た後、「ポリイソシアネート成分」である「ポリイソシアヌレートポリイソシアネート」と「メタノール開始単官能性ポリエチレンオキサイドポリエーテル」とを、「ポリイソシアネート成分」を過剰量で反応させ、さらに、「2−エチル−1−ヘキサン酸亜鉛(II)0.01gをアロファネート化触媒として加え」ているから、その反応物は、
(A)「ポリイソシアネート成分A)」である「ポリイソシアヌレートポリイソシアネート」(上記の「1,5−ジイソシアナトペンタン」の変性によって得られる「オリゴマーポリイソシアネート」に相当する。以下、「本件発明の(A)成分」という。)と、
(B)「乳化剤成分B)」となる「ポリイソシアヌレートポリイソシアネート」と「メタノール開始単官能性ポリエチレンオキサイドポリエーテル」との反応生成物(上記の「乳化剤成分B)」である「ポリイソシアネート成分A)」又は「ジイソシアネート」と「親水性ポリエーテルアルコール」との反応生成物であって、「2−エチル−1−ヘキサン酸亜鉛(II)」である「アロファネート化触媒」によって「アロファネート化」されたもの(以下、「本件発明の(B)成分」という。)とを含んでいると解される。

(イ)甲1発明の「ポリイソシアネート組成物(P)」について
甲1発明は、「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」(分子量は168.2)を500質量部(3.0モル)と「平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコール」105質量部(0.26モル)とを、「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」を過剰量で反応させ、その後、「トリマー化触媒」により反応させるものである。なお、「2,6−ジ(tert−ブチル)−4−メチルフェノール」は甲第1号証の(甲1d)の段落[0279]の記載からみて「酸化防止剤」であり、「トリス(トリデシル)ホスファイト」は甲第1号証の段落[0277]〜[0278]の記載からみて「助触媒」であり、「o−トルエンスルホンアミド」は甲第1号証の(甲1c)の段落[0231]、[0236]〜[0237]、(甲1e)の段落[0295]、[0300]、[0302]記載からみて「安定化剤」であり、甲1発明の反応生成物の化学構造に直接影響を与えるものではないと認められる。
よって、甲1発明においては、「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」と「平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコール」との反応により、(C)過剰分の未反応の「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」と、(D)「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」と「平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコール」との反応生成物を含む反応液が得られるといえる。
そして、当該反応液を「トリマー化触媒」により反応させるものであるから、(ウ)過剰分の未反応の「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」は三量化され、甲第1号証の段落[0248]の記載からみて(C−1)「イソシアヌレート基」を有する「ポリイソシアネート」成分(以下「甲1発明の(C−1)成分」という。)になるといえる。
また、(D)「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」と「平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコール」との反応生成物は、「トリマー化触媒」により、当該反応生成物同士、あるいは、当該反応生成物と過剰分の未反応の「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」とが反応して三量化した反応物(以下「甲1発明の(D−1)成分」という。)が得られるといえる。

(ウ)本件明細書の実施例3の反応生成物と、甲1発明の反応生成物との対比
甲1発明の(C−1)成分である「イソシアヌレート基」を有する「ポリイソシアネート」成分も、本件発明の(A)成分である「オリゴマーポリイソシアネート」も、「1,5−ジイソシアナトペンタン」を三量化したものであるから、同じものになるといえる。
次に、甲1発明の(D−1)成分は、「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」と「平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコール」との反応生成物と過剰分の「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」とが反応して、これらが三量化したものも含んでいるから、本件発明の(B)成分である「乳化剤成分B)」となる「ポリイソシアヌレートポリイソシアネート」と「メタノール開始単官能性ポリエチレンオキサイドポリエーテル」との反応生成物であって「2−エチル−1−ヘキサン酸亜鉛(II)」である「アロファネート化触媒」によって「アロファネート化」されたものと、「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物」である限りにおいて一致しているといえる。

(エ)本件発明1と甲1発明との対比・判断
上記(ア)〜(ウ)の検討を踏まえて、本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明における「攪拌機、温度計、還流管、および、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ペンタメチレンジイソシアネート(a)を500質量部、2,6−ジ(tert−ブチル)−4−メチルフェノールを0.3質量部、トリス(トリデシル)ホスファイトを0.3質量部、平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコールを105質量部装入し、窒素雰囲気下85℃で3時間反応させ」て得た反応液中の過剰分の未反応の「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」を「トリマー化触媒としてN−(2−ヒドロキシプロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウム−2−エチルヘキサノエート」により反応させたものは、本件発明1における「ポリイソシアネート成分A)」であって「ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネート」よりなり、「ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート」に相当するといえる。

また、甲1発明における「攪拌機、温度計、還流管、および、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ペンタメチレンジイソシアネート(a)を500質量部、2,6−ジ(tert−ブチル)−4−メチルフェノールを0.3質量部、トリス(トリデシル)ホスファイトを0.3質量部、平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコールを105質量部装入し、窒素雰囲気下85℃で3時間反応させ」て得た反応液中の「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」と「平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコール」の反応生成物を、さらに「トリマー化触媒としてN−(2−ヒドロキシプロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウム−2−エチルヘキサノエート」により反応させたものは、上記ア及びイで検討したとおり本件発明の上記(イ)成分を含んでいると解されるから、本件発明1における「前記乳化剤成分B)がノニオン系乳化剤を含む場合」であって、「前記乳化剤成分B)は、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」ものと、「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物」である限りにおいて一致しているといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)がノニオン系乳化剤を含む場合、前記乳化剤成分B)は、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含む、前記組成物」で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「ポリイソシアネート組成物」について、本件発明1では、「少なくとも一つのイオン系乳化剤を含む」態様を包含しているのに対し、甲1発明では、「イオン系乳化剤」を含んでいない点。

相違点2:「ポリイソシアネート組成物」において、「少なくとも一つのノニオン系乳化剤を含む」態様の場合であって「乳化剤成分B)」が「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物」である場合に、本件発明1では「反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」のに対し、甲1発明では、そのような特定を有しない点。

イ 判断
以下、相違点1〜2についてそれぞれ検討する。

(ア)相違点1について
甲1発明の「ポリイソシアネート組成物(P)」は、「イオン性乳化剤」を含むものではないから、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ということはできない。

次に、相違点1に係る本件発明1の特定事項について、甲1発明及び甲第1号証の他の記載から容易に発明をすることができたか否かを検討する。
甲第1号証の(甲1d)には、「ポリイソシアネート組成物」の製造について、段落[0250]には「上記(c)の官能基(ビウレット基)を含有するポリイソシアネート組成物は、ペンタメチレンジイソシアネートのビウレット変性体であって、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートと、例えば、水、第三級アルコール(例えば、t−ブチルアルコールなど)、第二級アミン(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンなど)などとを反応させた後、公知のビウレット化触媒の存在下でさらに反応させることにより、得ることができる」、段落[0252]には「上記(e)の官能基(ウレア基)を含有するポリイソシアネート組成物は、ペンタメチレンジイソシアネートのポリアミン変性体であって、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートと水、ポリアミン成分(後述)などとの反応により、得ることができる」こと、すなわち、「ペンタメチレンジイソシアネート」とアミン化合物とを反応させることは記載されているものの、甲1発明において、「平均分子量400のメトキシポリエチレンエーテルグリコール」に代えて、これらのアミン化合物を用いる積極的な動機付けとなる記載はないし、また、「ペンタメチレンジイソシアネート」とこれらのアミン化合物との反応生成物を「イオン性乳化剤」として用いることを示唆する記載もない。
さらに、甲第1号証の他の記載をみても、甲1発明の「ポリイソシアネート組成物」に、「イオン性乳化剤」を添加すること、あるいは、甲1発明の「ポリイソシアネート組成物」において、「イオン性乳化剤」となり得る成分を生成させることを動機づける記載もない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の特定事項について、甲1発明及び甲第1号証の他の記載から当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(イ)相違点2について
甲1発明の「ポリイソシアネート組成物(P)」は、「乳化剤成分B)」である「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物」が「ウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」ものとはいえないから、相違点2は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ということはできない。

次に、相違点2に係る本件発明1の特定事項について、甲1発明及び甲第1号証の他の記載から容易に発明をすることができたか否かを検討する。
甲第1号証の(甲1c)の段落[0248]には「本発明において、ポリイソシアネート組成物は、より具体的には、ペンタメチレンジイソシアネートを変性することにより得られ、下記(a)〜(e)の官能基を少なくとも1種含有している。 (a)イソシアヌレート基 (b)アロファネート基 (c)ビウレット基 (d)ウレタン基 (e)ウレア基」と記載され、段落[0249]には「上記(b)の官能基(アロファネート基)を含有するポリイソシアネート組成物は、ペンタメチレンジイソシアネートのアロファネート変性体であって、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートとモノアルコールとを反応させた後、公知のアロファネート化触媒の存在下でさらに反応させることにより、得ることができる」ことも記載され、(甲1i)の段落[0640]には、実施例13として「ペンタメチレンジイソシアネート(a)」について「ウレタン化反応」を行った後、「アロファネート化触媒」を用いて処理することが記載されているものの、「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物」について「ウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基」を含むようにすることは記載されていない。
また、(甲1f)の段落[0318]には「ポリイソシアネート組成物」について、「イソシアヌレート結合および/またはイミノオキサジアジンジオン結合の他、アロファネート結合を含有する場合がある。このような場合において、ポリイソシアネート組成物中のイソシアヌレート基およびイミノオキサジアジンジオン基と、アロファネート基とのモル比((イソシアヌレート基(モル数)+イミノオキサジアジンジオン基(モル数))/アロファネート基(モル数))は、例えば、1〜3500、好ましくは、1〜3000、より好ましくは、1〜1000である」ことが記載されており、この記載を参酌しても、「乳化剤成分B)」である「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物」が「ウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む」ようにすることを動機づけることはできない。
したがって、相違点2に係る本件発明1の特定事項についても、甲1発明及び甲第1号証の他の記載から当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2〜4、6、12〜15について
本件発明2〜4、6、12〜15は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜4、6及び本件発明12〜15の本件発明1を直接的又は間接的に引用する態様については、上記(2)イで示した理由と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)取消理由A(新規性)及び取消理由B(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由A(新規性)及び取消理由B(進歩性)によって、本件発明1〜4、6、12〜15に係る特許を取り消すことはできない。

2 特許異議申立書に記載された申立理由2(進歩性)について
申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)のうち、上述したとおり、請求項5、8は削除され、請求項1〜4、6、12〜15は、上記「1 取消理由A(新規性)及び取消理由B(進歩性)について」において検討したから、特許異議の申立ての対象である請求項9及び請求項9を引用する請求項12〜15に対する申立理由2(進歩性)についてのみ、以下に検討する。

(1)本件発明9について
ア 対比
本件発明9と甲1発明とを、「1 取消理由A(新規性)及び取消理由B(進歩性)について」「(2)本件発明1について」「ア 対比」での検討を踏まえて対比すると、本件発明9と甲1発明とは、
「ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含む、ポリイソシアネート組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:「ポリイソシアネート組成物」の「乳化剤成分B)」について、本件発明9では、「ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートのアミノスルホン酸との少なくとも一つの反応生成物を含む」ものであるのに対し、甲1発明では、そのような「乳化剤成分」を含んでいない点。

イ 判断
上記相違点3について、検討する。

甲第1号証の(甲1g)の段落[0336]には、「本発明のポリイソシアネート組成物は、分子中に含有する遊離のイソシアネート基がブロック剤によりブロックされるとともに、水に分散または溶解された水性ブロックイソシアネートとして用いることもできる」と記載され、段落[0341]には「部分ブロックイソシアネートの遊離のイソシアネート基(イソシアネート基の残部)と、親水基含有活性水素化合物とを反応させる」と記載され、段落[0343]には「親水基含有活性水素化合物として、より具体的には、カルボン酸基含有活性水素化合物、スルホン酸基含有活性水素化合物、水酸基含有活性水素化合物、親水基含有多塩基酸、ポリオキシエチレン基含有活性水素化合物などが挙げられる」と記載され、段落[0345]には、このうちの「スルホン酸基含有活性水素化合物」について「N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノブタンスルホン酸、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、ジアミノブタンスルホン酸、ジアミノプロパンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、2,4−ジアミノ−5−トルエンスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノブタンスルホン酸」等の「アミノスルホン酸」が例示されている。
しかしながら、甲第1号証には、甲1発明の「ポリイソシアネート組成物(P)」について、「分子中に含有する遊離のイソシアネート基がブロック剤によりブロック」させる動機付けとなる記載はなく、また、仮に、「分子中に含有する遊離のイソシアネート基がブロック剤によりブロック」させるものとする場合においても、段落[0343]の多様な「親水基含有活性水素化合物」の中から、「アミノスルホン酸」を選択する動機付けとなる記載もない。
そうすると、相違点3に係る本件発明9の特定事項についても、甲1発明及び甲第1号証の他の記載から当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

ウ 小括
したがって、本件発明9についても、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明12〜15について
本件発明12〜15の本件発明9を引用する態様についても、上記(1)イで示した理由と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)申立理由2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明9及び本件発明9を直接的かつ間接的に引用する請求項12〜15についても、申立理由B(進歩性)によって、それに係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
特許第6797129号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−15〕について訂正することを認める。
本件発明5、8に係る特許に対する申立ては、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下する。
当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1−4、6、9、12−15に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1−4、6、9、12−15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)がノニオン系乳化剤を含む場合、前記乳化剤成分B)は、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む、前記組成物。
【請求項2】
前記組成物が、平均イソシアネート官能性1.8から8.0を有し、及び/又はイソシアネート基含有率5.0から26.0重量%を有する請求項1に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項3】
前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びイソシアヌレート及び/又はアロファネート構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含む請求項1又は2に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項4】
前記ポリイソシアネート成分A)が、平均NCO官能性2.3から5.0及び/又はイソシアネート基含有率11.0から26.0重量%を有する少なくとも一つのポリイソシアヌレートからなる請求項3に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記親水性ポリエーテルアルコールが、平均で5から50エチレンオキサイド単位を含むポリエチレングリコールモノメチルエーテルアルコールである請求項1から4のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項7】
ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウ レトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートの親水性ポリエーテルアルコールとの少なくとも一つの反応生成物を含み、前記反応生成物がウレタン基及びアロファネート基の合計に基づいて≧60mol%のアロファネート基を含む、ポリイソシアネート組成物。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が、ポリイソシアネート成分A)の少なくとも一つのポリイソシアネートのアミノスルホン酸との少なくとも一つの反応生成物を含む、ポリイソシアネート組成物。
【請求項10】
前記アミノスルホン酸が2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸、3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸及び4−(シクロヘキシルアミノ)ブタンスルホン酸からなる群から選択される請求項9に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項11】
ポリイソシアネート成分A)及び乳化剤成分B)を含むポリイソシアネート組成物であって、前記ポリイソシアネート成分A)が1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく少なくとも一つのポリイソシアネートよりなり、前記乳化剤成分B)が少なくとも一つのイオン系及び/又はノニオン系乳化剤を含むことを特徴とし、ここで、前記ポリイソシアネート成分A)が、1,5−ジイソシアナトペンタンの変性によって得ることができ、及びウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオン及び/又はオキサジアジントリオン構造を有する少なくとも一つのポリイソシアネートを含み、前記乳化剤成分B)が、アルキルフェノールポリグリコールエーテルホスフェート、アルキルフェノールポリグリコールエーテルホスホネート、脂肪アルコールポリグリコールエーテルホスフェート、脂肪アルコールポリグリコールエーテルホスホネート、アルキルフェノールポリグリコールエーテルサルフェート及び/又は脂肪アルコールポリグリコールエーテルサルフェートの少なくとも一つのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩を含む、ポリイソシアネート組成物。
【請求項12】
前記ポリイソシアネート成分A)を前記乳化剤成分B)と混合し、又はポリイソシアネート成分A)のポリイソシアネートの、イソシアネート基に対して反応性である基を有するイオン系及び/又はノニオン系化合物との比例反応によってポリイソシアネート成分A)中で前記乳化剤成分B)を形成する、請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物の製造方法。
【請求項13】
ポリウレタンプラスチックを製造するための請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載のポリイソシアネート組成物の使用。
【請求項14】
請求項1から4、6、7及び9から11のいずれか1項に記載の少なくとも一つのポリイソシアネート組成物及びイソシアネート基に対して反応性である少なくとも一つの化合物、及び適宜に、さらなる補助剤及びアジュバントを含むコーティング組成物。
【請求項15】
請求項14に記載のコーティング組成物を用いることで得ることができるコーティング。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-16 
出願番号 P2017-548448
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (C08G)
P 1 652・ 121- YAA (C08G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 橋本 栄和
杉江 渉
登録日 2020-11-19 
登録番号 6797129
権利者 コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 1,5−ジイソシアナトペンタンに基づく親水性ポリイソシアネート  
代理人 市川 祐輔  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 坪倉 道明  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 小野 誠  
代理人 飯野 陽一  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 森山 正浩  
代理人 市川 英彦  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 飯野 陽一  
代理人 重森 一輝  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 安藤 健司  
代理人 市川 英彦  
代理人 坪倉 道明  
代理人 城山 康文  
代理人 安藤 健司  
代理人 重森 一輝  
代理人 森山 正浩  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 市川 祐輔  
代理人 金山 賢教  
代理人 城山 康文  

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