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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1387483
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-05 
確定日 2022-05-20 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6808334号発明「香味改善方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6808334号の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 特許第6808334号の請求項1〜2及び4〜9に係る特許を維持する。 特許第6808334号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6808334号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願は、平成28年3月10日に出願され、令和2年12月11日に特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行され、その請求項1〜9に係る発明の特許に対し、令和3年7月5日に田中眞喜子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和3年10月11日付け 取消理由通知
同年12月13日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年12月20日付け 訂正請求があった旨の通知

なお、申立人は、令和3年12月20日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に応答しなかった。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年12月13日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6808334号の明細書、特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1の1〜訂正事項3からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。また、請求項2及び4〜9に係る訂正の適否を検討するため、訂正事項1に枝番を付して請求項1の1〜1の8とした。)。

(1)訂正事項1の1〜訂正事項1の8
ア 訂正事項1の1
訂正前の請求項1の「タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を用いることを特徴とする、飲食品、医薬品、医薬部外品または化粧料の香味改善方法。」との記載を、
訂正後の請求項1の「タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下の酵素処理イソクエルシトリンを用いることを特徴とする、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法。」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2〜9も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項1の2
訂正前の請求項2の「請求項1記載の香味改善方法」との記載部分を、
訂正後の請求項2の「請求項1記載のエグ味減少方法」との記載に訂正する。

ウ 訂正事項1の3
訂正前の請求項4の「請求項2又は3記載の香味改善方法」との記載部分を、
訂正後の請求項4の「請求項2記載のエグ味減少方法」との記載に訂正する。

エ 訂正事項1の4
訂正前の請求項5の「請求項2又は3記載の香味改善方法」との記載部分を、
訂正後の請求項5の「請求項2記載のエグ味減少方法」との記載に訂正する。

オ 訂正事項1の5
訂正前の請求項6の「請求項2又は3記載の香味改善方法」との記載部分を、
訂正後の請求項6の「請求項2記載のエグ味減少方法」との記載に訂正する。

カ 訂正事項1の6
訂正前の請求項7の「請求項2又は3記載の香味改善方法」との記載部分を、
訂正後の請求項7の「請求項2記載のエグ味減少方法」との記載に訂正する。

キ 訂正事項1の7
訂正前の請求項8の「請求項2又は3記載の香味改善方法」との記載部分を、
訂正後の請求項8の「請求項2記載のエグ味減少方法」との記載に訂正する。

ク 訂正事項1の8
訂正前の請求項9の「請求項2又は3記載の香味改善方法」との記載部分を、
訂正後の請求項9の「請求項2記載のエグ味減少方法」との記載に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の明細書の段落0022の「この明細書において、香味改善方法とは、ルチン酵素処理物の不快臭やエグ味をなくす方法を示している。」との記載部分を削除する。

2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1の1について
ア 訂正事項1の1のうち、訂正前の請求項1の「ルチン酵素処理物」との記載部分を「酵素処理イソクエルシトリン」との記載に改める訂正は、訂正前の請求項3の「ルチン酵素処理物が、酵素処理ルチン、イソクエルシトリンまたは酵素処理イソクエルシトリンであることを特徴とする請求項1または2記載の香味改善方法。」との記載にある「ルチン酵素処理物」の択一的な選択肢のうちの「酵素処理イソクエルシトリン」に限定して減縮するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。

イ 訂正事項1の1のうち、訂正前の請求項1の「飲食品、医薬品、医薬部外品または化粧料」との記載部分を「飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品」との記載に改める訂正は、訂正前の択一的な選択肢のうちの「化粧料」を削除して減縮するとともに、本件特許明細書の段落0008の「食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料に添加する」等の記載を根拠に、訂正前の「医薬品」及び「医薬部外品」の各々を「経口用医薬品」及び「経口用医薬部外品」の各々に限定して減縮するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。

ウ 訂正事項1の1のうち、訂正前の請求項1の「香味改善方法」との記載部分を「エグ味減少方法」との記載に改める訂正は、本件特許明細書の段落0021の「この明細書において、香味改善方法とは、ルチン酵素処理物の不快臭やエグ味をなくして、ルチン酵素処理物を高濃度含有する食品等の香味を改善する方法を示している。」等の記載における下線部を付した「や」が「及び/又は」を意味すると解されるところ、訂正前の「香味改善」に「不快臭改善」及び/又は「エグ味改善」が含まれることが明らかであり、同段落0038の「エグ味が少ない。…エグ味がやや少ない。」との記載からみて、前記「エグ味改善」とは具体的には「エグ味減少」を意味すると解されることから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当するといえる。

エ そして、訂正事項1の1の訂正事項の各々は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであり、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

オ したがって、訂正事項1の1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項2は請求項3を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項1の2〜訂正事項1の8について
ア 訂正事項1の2は、訂正前の請求項2の「香味改善方法」との記載部分を「エグ味減少方法」との記載に改める訂正からなるものであって、上記(1)ウ及びエに示した理由と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項1の3〜訂正事項1の8は、訂正前の請求項4〜9の「香味改善方法」との記載部分を「エグ味減少方法」との記載に改めるとともに、訂正事項2の請求項3の削除にともなって、訂正前の請求項4〜9の「請求項2または3記載の」との記載部分を「請求項2記載の」との記載に改めるものであって、上記(1)ウ及びエ、並びに(2)に示した理由と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、訂正事項1の1〜訂正事項1の8に係る訂正にともない、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るために訂正前の記載に対応していた明細書の記載を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ そして、訂正事項3は、訂正前の明細書の段落0022の「この明細書において、香味改善方法とは、ルチン酵素処理物の不快臭やエグ味をなくす方法を示している。」との記載部分を削除するだけのものであって、当該記載部分の削除によって新たな技術的事項が導入されないことは明らかであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ また、訂正事項3は、明細書の記載を訂正するものであり、特許請求の範囲に記載された用語の定義や発明特定事項の技術的範囲を間接的に変更するものではないから、実質上特許請求の範囲の記載を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5)一群の請求項、及び明細書の訂正と関連する請求項について
訂正事項1の1〜訂正事項2に係る訂正前の請求項1〜9について、その請求項2〜9はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1〜9に対応する訂正後の請求項1〜9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項3による明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1〜9であって、訂正事項1の1〜訂正事項2と関係する一群の請求項が請求の対象とされているから、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
したがって、訂正事項1の1〜訂正事項3による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1の1〜訂正事項3による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜9に係る発明(以下「本1発明」〜「本9発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下の酵素処理イソクエルシトリンを用いることを特徴とする、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法。
【請求項2】さらに、高甘味度甘味料、アミノ酸類、糖類、糖アルコール、環状デキストリンおよびビタミン類から選ばれる1種以上を用いることを特徴とする請求項1記載のエグ味減少方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】高甘味度甘味料が、ステビア(ステビオサイド、レヴァウディオサイド)、甘草(グリチルリチン、グリチルリチン酸二ナトリウム)、ラカンカ(モグロシド)、タウマチン(ソーマチン)、モネリン、モナチン、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、ズルチン、チクロ(シクラミン酸ナトリウム)、シクラミン酸カルシウム、アリテームおよびアドバンテームの1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項5】アミノ酸類が、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、メチルアラニン、プロリン、システイン、リジン、スレオニン、アスパラギン、フェニルアラニン、セリン、メチオニン、グリシン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、シスチン、テアニン、サルコシン、ε-アミノカプロン酸、γ−アミノ酪酸、グリシルグリシン、クレアチン、トレオニン、ヒドロキシプロリン、オルニチンおよびヒドロキシリジンの1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項6】糖類が、砂糖(ショ糖、スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、麦芽糖(マルトース)、果糖、水飴、異性化糖(ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、高果糖液糖)、乳糖(ラクトース)、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖(ネオシュガー、イヌリン)、ガラクトオリゴ糖(大豆オリゴ糖)、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)、ラフィノース、トレハロースおよび異性化乳糖(ラクチュロース、ミルクオリゴ糖)の1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項7】糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、マルチトール(還元麦芽糖水飴)、還元水飴、還元パラチノース、キシリトール、エリスリトール(ブドウ糖発酵甘味料)およびラクチトール(還元乳糖)の1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項8】環状デキストリンが、α−シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、β−シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース)、γ−シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)および高度分岐環状デキストリンの1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項9】ビタミン類が、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸、リポ酸、イノシトール、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEまたはビタミンKの1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。」

第4 取消理由通知の概要
令和3年10月11日付けの取消理由通知で通知された取消理由は、次の理由1からなるものである。
「理由1:(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1〜9の記載が、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。…
(2)不快臭について…ルチン酵素処理物を含有する飲食品、医薬品、医薬部外品および化粧料において、不快臭の問題を生じない(一定程度減少させる)ルチン酵素処理物を提供することができたことは、発明の詳細な説明において実施例などにより具体的に記載されていない。…
(3)ルチン酵素処理物について…酵素処理イソクエルシトリン以外のルチン酵素処理物を含有する飲料に対して本件特許発明1〜9のいずれかを適用したものについては、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載及び単なる羅列記載以外に、発明の詳細な説明において実施例などにより具体的に記載されていない。」

第5 当審の判断
1.理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

(2)本件特許の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3に示したとおりである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

摘示a:背景技術
「【0002】…ルチン酵素処理物は、エンジュ等の植物に含まれるルチンを原料として酵素処理して製造されることが多いが、現在市販されているルチンは、純度が異なるものや、タンパク質等の不純物を含有したものが広く流通している。これらのルチンをそのまま用いてルチン酵素処理物を調製すると、不純物由来の臭いやエグみが生じる等の問題点があった。特に近年、ルチン酵素処理物を含むサプリメントが流通するようになり、高濃度でルチン酵素処理物を使用されるようになったことからこれらの問題を解決することが必要となった。」

摘示b:発明が解決しようとする課題
「【0004】上述の従来のルチン酵素処理物の問題点に鑑み、ルチン酵素処理物を食品等に高濃度用いても、不快臭やエグ味が生じない、ルチン酵素処理物を提供することを目的とする。」

摘示c:酵素処理イソクエルシトリンの構造式
「【0013】…【化4】



摘示d:実施例
「【0032】…特に記載のない限り「%」は、「質量%」、「部」は「質量部」を意味するものとする。…
【0034】【表1】

【0035】…試料1、試料2及び試料3はエンジュの花蕾であるカイカからルチンをメタノールで抽出し、それぞれ3回、2回、1回結晶化させ精製したものを原料に上記の方法に従い酵素処理イソクエルシトリンを調製した。試料4は試料1をダイヤイオンHP−20に吸着させ、30%エタノールで脱着させ精製した。試料5、6はそれぞれ試料3をメタノール、イオン交換水にて脱脂、洗浄した。試料7は試料1と試料2を均等に混合した。
【0036】
(モデル飲料の処方)
酵素処理イソクエルシトリン(試料1〜7) 1.0 (%)
果糖ブドウ糖液糖 13.0
クエン酸 0.2
クエン酸ナトリウム pH3.0に調整
水にて100%とする。
【0037】
(評価方法)
一般品(コントロール)と比較して、エグ味の評価を専門パネル4名による飲料試験を行い、その平均値をもって評価値とした。飲料試験では、ブランクの水溶液を標準とする相対評価とし、下記の基準にしたがって行った。
【0038】
(評価基準)
1:コントロールの飲料と比較してエグ味が多い。
2:コントロールの飲料と比較してエグ味がやや多い。
3:コントロールの飲料と比較してエグ味が少ない。
4:コントロールの飲料と比較してエグ味がやや少ない。
5:コントロールの飲料と比較してエグ味が少ない。
【0039】【表2】

【0040】タンパク質の含量が2質量%以下および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物はエグ味が少ないことが判った。」

(3)本件発明の解決しようとする課題
本件特許の請求項1〜2及び4〜9に係る発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0004(摘示b)の記載を含む発明の詳細な説明の記載からみて『酵素処理イソクエルシトリンを食品等に高濃度用いても、エグ味が生じない、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法の提供』にあるものと認められる。

(4)対比
ア 上記第4(2)不快臭について
理由1(サポート要件)の(2)に指摘する不備は「不快臭の問題を生じない(一定程度減少させる)ルチン酵素処理物を提供することができたことは、発明の詳細な説明において実施例などにより具体的に記載されていない。」というものである。
これに対して、本件訂正により、訂正前の「香味改善方法」は、訂正後の「エグ味減少方法」に改められたところ、不快臭の問題を生じるか否かは、上記『酵素処理イソクエルシトリンを食品等に高濃度用いても、エグ味が生じない、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法の提供』という課題解決の成否に関係がない。
したがって、当該(2)に指摘する不備によっては、本件特許の特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明において開示されている技術的事項の範囲を超えているとはいえない。

イ 上記第4(3)ルチン酵素処理物について
理由1(サポート要件)の(3)に指摘する不備は「酵素処理イソクエルシトリン以外のルチン酵素処理物を含有する飲料」が「発明の詳細な説明において実施例などにより具体的に記載されていない。」というものである。
これに対して、本件訂正により、訂正前の「ルチン酵素処理物」は、訂正後の「酵素処理イソクエルシトリン」に改められた。
したがって、当該(3)に指摘する不備によっては、本件特許の特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明において開示されている技術的事項の範囲を超えているとはいえない。

ウ 理由1(サポート要件)のまとめ
以上総括するに、本件特許の請求項1及びその従属項の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないので、本件特許の請求項1〜4の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえず、本件訂正によって、取消理由で指摘した理由1(サポート要件)は理由がないものとなった。

2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(サポート要件)について
ア 特許異議申立人が主張する不備について
特許異議申立人が主張する申立理由1(サポート要件)は、本件特許請求の範囲の記載は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、本件特許発明1〜9は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(特許法第113条第4号)というものであって、その不備として次の点を主張している(申立書の第43〜47及び52頁)。

<不備1:不快臭の課題>
原料となるルチンには、タンパク質や脂質以外に等などの不純物が存在することが知られており(甲第1号証)、多種ある不純物のうち、タンパク質及び脂質が不快臭と関係するという技術常識は存在せず、これを示すデータも本件明細書中に開示されていないので、本件特許発明1〜9はサポート要件を欠く。

<不備2:エグ味の課題>
一般品(コントロール)と比較してエグ味が改善されたのは試料1及び試料4のみであり、タンパク質0.0%、脂質0.0〜0.1%という極めて低濃度の例が示されているのみで、本件特許発明1で規定する「タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下」の上限値付近では所望の課題を解決できるとはいえない。

<不備3:ルチン酵素処理物について>
本件明細書の実施例において香味改善が確認されたのは、酵素処理イソクエルシトリンを用いた場合だけであり、酵素処理でないイソクエルシトリンの水への溶解性は極めて低く(甲第2〜3号証)、他のルチン酵素処理物においても同様に効果が示されるという技術常識は存在しないことから、本件特許発明1で規定する範囲の全体に渡って課題が解決できることが理解できない。

<不備4:香味改善の対象について>
本件明細書で開示する内容(タンパク質や脂質が少ない方がエグ味を低減できる)とは真逆の技術常識(甲第4号証には、タンパク質であるコラーゲンやホエイプロテインを用いることでエグ味等が改善されることが示されている)がある中で、たまたま本件実施例のモデル飲料においてエグ味が低減できたからといって、他の飲食品等においてまで同様の効果が奏されるとは理解できない。

イ 不備1:不快臭の課題について
上記1.(4)アに示したように、本件訂正により、訂正前の「香味改善方法」は、訂正後の「エグ味減少方法」に改められたので、不快臭の課題は、本件発明の課題解決の成否に関係がない。
したがって、不備1(不快臭の課題)の理由によっては、本件特許がサポート要件に違反してなされたものであるとはいえない。

ウ 不備2:エグ味の課題について
本件特許明細書の段落0032〜0040(摘示d)には、酵素処理イソクエルシトリンを1.0質量%の濃度で用いたモデル飲料処方(試料1〜7)の試験結果が示され、試料3(タンパク質11.2質量%、脂質2.8質量%)等の官能評価結果が「1:コントロール飲料と比較してエグ味が多い。」の評価であるのに対して、タンパク質と脂質の含量を減じた試料7(タンパク質2.0質量%、脂質1.5質量%)等の官能評価結果が「2:コントロールの飲料と比較してエグ味がやや多い。」の評価になり、試料1(タンパク質0.0質量%、脂質0.1質量%)の官能評価結果が「4:コントロールの飲料と比較してエグ味がやや少ない。」の評価になり、試料4(タンパク質0.0質量%、脂質0.0質量%)の官能評価結果が「5:コントロールの引用と比較してエグ味が少ない。」の評価になることが、具体的に示されているので、酵素処理イソクエルシトリンに含まれるタンパク質と脂質の含量が少なければ少ないほど、モデル飲料の「エグ味」が減少するという傾向があることを理解できる。
そして、上記試験結果において、試料4(エグ味が少ない)に比して、試料1(エグ味がやや少ない)は、若干の「エグ味」が知覚されていると解されるものの、上記1.(3)に示した『酵素処理イソクエルシトリンを食品等に高濃度用いても、エグ味が生じない、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法の提供』という課題における下線を付した「エグ味が生じない」の解釈について、エグ味が全く感じられないと解するのではなく、エグ味が一定程度「減少」していれば、その課題を解決できたものとするというレベルでの課題の設定であると解するのが自然であり、タンパク質及び脂質の含量の上限値を一定以下としたものが課題を解決できると認識できる範囲にあると解せるものである。また、このようなレベルでの課題の設定が技術常識などに照らして不当であるとすべき合理的な理由は見当たらない。
してみると、特許異議申立人の「本件特許発明1で規定する「タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下」の上限値付近では所望の課題を解決できるとはいえない。」との主張に合理な根拠があるとはいえない。
したがって、不備2(エグ味の課題)の理由によっては、本件特許がサポート要件に違反してなされたものであるとはいえない。

ウ 不備3:ルチン酵素処理物について
上記1.(4)イに示したように、本件訂正により、訂正前の「ルチン酵素処理物」は、訂正後の「酵素処理イソクエルシトリン」に改められたところ、不備3(ルチン酵素処理物)の理由については、上記第4の理由1において実質的に採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

エ 不備4:香味改善の対象について
例えば、特開2009−159990号公報(参考例A)の段落0021の「タンパク質及びタンパク質分解物は、…各原料に由来した特有の臭みやエグ味を有し」との記載や、同段落0022の「脂質は…含量が高くなると脂臭さ(酸化臭)、エグ味を生じ」との記載にあるように、タンパク質や脂質がエグ味の原因物質となり得ることが普通に知られているので、本件特許明細書で開示する内容(タンパク質や脂質が少ない方がエグ味を低減できる)が技術常識と真逆であるという特許異議申立人の主張は採用できない。
そして、本1発明において「2質量%以下」の含量とする「タンパク質」とは、酵素処理イソクエルシトリンに夾雑物として含まれているタンパク質を意図したものであって、当該「タンパク質」が、甲第4号証(特開2015−208241号公報)の実施例8や38などで用いられている「コラーゲン」や実施例44や50などで用いられている「ホエイプロテイン」のような特殊なタンパク質を意図しているとは解せないので、甲第4号証に記載の技術事項に依拠した特許異議申立人の主張は採用できない。
さらに、訂正後の「飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品」は、いずれも口内で味覚を知覚するものに限られているので、モデル飲料で「エグ味」の減少が確認できたのであれば、これを「飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品」にまで拡張ないし一般化できると解するのが合理的である。
したがって、不備4(香味改善の対象)の理由によっては、本件特許がサポート要件に違反してなされたものであるとはいえない。

オ 申立理由1(サポート要件)のまとめ
以上総括するに、本件特許の請求項1及びその従属項の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないので、特許異議申立人が提示する理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜4の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。

(2)申立理由2(進歩性)について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人が主張する申立理由2(進歩性)は、本件特許発明1〜9は、甲第5号証に記載された発明に基づき、出願時の技術常識を参酌すれば、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する(特許法第113条第2号)というものであって、甲第5号証として「国際公開第2015/083554号」を提示している(申立書の第27、48〜52頁)。

イ 甲号証の記載事項
甲第5号証(国際公開第2015/083554号)には、次の記載がある。

摘記5a:4G−α−グルコシルルチンの用途等の記載
「[0001]本発明は、4G−O−α−D−グルコピラノシルルチンの新規な結晶と当該結晶を含む結晶含有粉末及びその用途に関する。…
[0003]…下記化学式1に示す構造を有する4G−O−α−D−グルコピラノシルルチン[以下、「4G−α−グルコシルルチン」と略称する。)を創製し、…それらの用途を特許文献3に開示した。…
[0004]化学式1:

…[0036] 本発明の4G−α−グルコシルルチンを生成せしめた反応液の精製方法は、…反応液中の蛋白性物質などを吸着除去…するなどの精製方法を組み合せて、利用することも随意である。…
[0037]…結晶を製造するための原料としての4G−α−グルコシルルチン純度は、通常、95%以上、望ましくは、98%以上、より望ましくは99%以上の4G−α−グルコシルルチン純度を有するものが好適である。…
[0061]…本発明の4G−α−グルコシルルチン結晶含有粉末は、…食品素材として用いることができる。」

摘記5b:参考例及び実施例の記載
「[0067]<参考例1:4G−α−グルコシルルチン非晶質粉末の調製>
ルチン(試薬特級、和光純薬工業株式会社販売)5質量部を6Nの水酸化ナトリウム溶液に溶解し、これにデキストリン(商品名『パインデックス#1』、松谷化学工業株式会社販売、水分7.7%)を15質量部添加し、濃度が15%(w/v)となるように、それぞれを2mMのCaCl2水溶液に添加し、50℃に加温し、撹拌することにより完全に溶解した。塩酸を用いて溶液のpHを9.0に調整した後、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター 受託番号FERM BP−11273)由来のCGTaseをデキストリン1g当たり100単位添加し、50℃で24時間酵素反応を行った。次いで、100℃で10分間熱処理して酵素を失活させた後、6N塩酸を用いてpH4.0に調整し、これにグルコアミラーゼ(商品名『XL−4』、ナガセケムテックス社販売)を、デキストリンの固形分1g当たり20単位加え50℃で24時間反応させた。反応後、100℃で10分間処理することにより酵素反応を停止させた。この反応液に活性炭を加え60℃で1時間処理した後に珪藻土濾過した。得られた濾液を、吸着用樹脂(『HP−20』、三菱化学製)を充填したカラムに供し、ルチンおよびルチングルコシドを樹脂に吸着させた後、水洗し、次いで、50%(v/v)エタノール水溶液を用いてルチンおよびルチングルコシドを溶出させた。この溶出液を濃縮し、活性炭およびイオン交換樹脂を用いて精製した後、噴霧乾燥することにより4G−α−グルコシルルチン含有非晶質粉末を300g調製した。本品は、4G−α−グルコシルルチンを約88%含有していた。
[0068]<参考例2:高純度4G−α−グルコシルルチン結晶性粉末の調製>
参考例1で調製した4G−α−グルコシルルチン含有非晶質粉末(4G−α−グルコシルルチン純度88%)100gに80%(v/v)エタノール水溶液を150g加え、加熱溶解した後、25℃で二日間保存した。生成した結晶は結晶懸濁液を濾過することにより回収し、室温で2時間真空乾燥して結晶性粉末を70g調製した。このような結晶化の工程を数回繰り返して、高純度4G−α−グルコシルルチン結晶性粉末(純度97.4%)を約21g調製した。
実施例1
[0069]<4G−α−グルコシルルチン結晶の調製>
参考例2で調製した4G−α−グルコシルルチン結晶性粉末10gに、60%(v/v)エタノール水溶液を70g加え溶解した後、4℃で一週間静置し、結晶化を行なった。晶出した結晶はガラスフィルターにて濾集し、少量の75%エタノール水溶液で洗浄した後、室温で2時間真空乾燥した。この一連の操作により、純度99.6%の4G−α−グルコシルルチン結晶を5.2g、原料に対し52%の収率で得た。得られた結晶を被験試料1とした。
実施例2
[0070]<4G−α−グルコシルルチン結晶含有粉末の調製>
参考例1で調製した4G−α−グルコシルルチン含有非晶質粉末(4G−α−グルコシルルチン純度88%)100gに、70%(v/v)エタノール水溶液を150g加え、加熱溶解した後、さらに種晶として、実施例1で調整した被験試料1を1.0g添加、混合した後25℃で48時間静置し、結晶化を行った。晶出した結晶は結晶懸濁液を濾過することにより回収し、少量の75%エタノール水溶液で洗浄した後に、室温で2時間真空乾燥して4G−α−グルコシルルチン結晶含有粉末(純度93.4%)を62g調製した。得られた結晶含有粉末を被験試料2とした。…
実施例4
[0074]<4G−α−グルコシルルチン単結晶の調製>
実施例1で調製した4G−α−グルコシルルチン結晶(被験試料1)2gに11gの55.0%(v/v)エタノール水溶液を添加、攪拌・溶解し、これを4℃で20日間保持することにより晶析した。
[0075] デジタルマイクロスコープ(『GBX100』、株式会社ナカデン製)を接続した実体顕微鏡下で、晶出した4G−α−グルコシルルチン結晶から適切な大きさの結晶を採取し、直ちにパラトンオイルにてコーティングした後、試料ホルダーに搭載し、X線結晶構造解析用試料(被験試料3)とした。
[0076] X線結晶構造解析用の結晶を採取した残りの結晶懸濁液から、ガラスフィルターにて濾集した結晶を乾燥させたところ、4G−α−グルコシルルチン結晶約0.45gを得た。当該結晶の4G−α−グルコシルルチン純度は100%であった。これにより、被験試料3が極めて高純度な単結晶である事が予測される。また、当該結晶の粉末X線回折を行ったところ、X線回折パターンは被験試料1と同一の回折パターンを示した。…
実施例9
[0099]<錠剤>
アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原 登録商標『AA2G』)20質量部に結晶性β−マルトース13質量部、コーンスターチ4質量部および実施例1の方法で調製した4G−α−グルコシルルチン結晶3質量部を均一に混合した後、打錠して錠剤を得た。
[0100] 本品は、4G−α−グルコシルルチンとアスコルビン酸2−グルコシドとの複合ビタミン剤で、アスコルビン酸の安定性もよく、飲み易い錠剤である。…
実施例21
[0124]<健康食品>
脱脂乳85質量部、脱脂粉乳3質量部、トレハロース(株式会社林原 登録商標『トレハ』)6質量部、寒天0.1質量部、糖転移ビタミンP類として実施例2の方法で得た4G−α−グルコシルルチン結晶含有粉末3質量部、粉末糖転移ヘスペリジン4質量部、ブルーベリーエキス1質量部、及び精製水2質量部を調合タンクに入れ、撹拌しながら55℃に加熱して完全に溶解した。次いで、常法にしたがって混合物を均質化し、殺菌冷却器により殺菌し、スターターを3%(w/w)接種し、プラスチック容器に充填した後、37℃で5時間発酵させて糖転移ビタミンPを含有するヨーグルトタイプの健康食品を得た。
[0125] 風味、呈味ともに良好な本品は、血行を改善・維持し、肩こり、腰痛、筋肉痛などに伴う筋硬直を緩和したり予防するための健康食品として有用である。また、本品は、ブルーベリー由来天然色素の退色も防止され、乳タンパクの劣化防止機能を有したヨーグルトタイプの健康食品である。」

摘記5c:請求項1及び6〜8の記載
「[請求項1] 4G−α−グルコシルルチン1分子とエタノール1分子及び水8分子の比率で構成される4G−α−グルコシルルチン結晶。…
[請求項6] 請求項1乃至5のいずれかに記載の4G−α−グルコシルルチン結晶含有粉末。
[請求項7] 請求項1乃至5のいずれかに記載の4G−α−グルコシルルチン結晶を含有する医薬品素材。
[請求項8] 請求項6記載の4G−α−グルコシルルチン結晶含有粉末を含有する化粧品又は食品素材。」

ウ 甲第5号証に記載された発明
摘記5bの「参考例2:…参考例1で調製した4G−α−グルコシルルチン含有非晶質粉末(4G−α−グルコシルルチン純度88%)…結晶化の工程を数回繰り返して、高純度4G−α−グルコシルルチン結晶性粉末(純度97.4%)を約21g調製した。 実施例1…参考例2で調製した4G−α−グルコシルルチン結晶性粉末…一連の操作により、純度99.6%の4G−α−グルコシルルチン結晶を…得た。…実施例9…<錠剤>…実施例1の方法で調製した4G−α−グルコシルルチン結晶3質量部を均一に混合した後、打錠して錠剤を得た。…本品は、4G−α−グルコシルルチンとアスコルビン酸2−グルコシドとの複合ビタミン剤で、アスコルビン酸の安定性もよく、飲み易い錠剤である。」との記載からみて、甲第5号証には、参考例1を引用する参考例2を引用する実施例1を引用する実施例9の錠剤の製造方法として、
『参考例1の4G−α−グルコシルルチン含有非晶質粉末(純度88%)を用いた、参考例2の高純度4G−α−グルコシルルチン結晶性粉末(純度97.4%)を用いた、実施例1の方法で調製した4G−α−グルコシルルチン結晶(純度99.6%)を均一に混合した後、打錠した、実施例9の飲み易い錠剤とする方法。』についての発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

エ 対比
本1発明と甲5発明とを対比する。
先ず、甲5発明の「4G−α−グルコシルルチン」は、甲第5号証の段落0034(摘記5a)の化学式1に示されるように、ケルセチンの3位に、グルコース(Glc)とラムノース(Rha)からなる二糖類のルチノースが付加したルチン(本件特許明細書の【化1】に示されるルチンの構造式のもの)に、更にグルコースが結合したもの(本件特許明細書の【化2】に示される酵素処理ルチンの構造式においてn=1のもの)に該当するのであって、本件特許明細書の段落0013(摘示c)の【化4】に示される「酵素処理イソクエルシトリン」と異なるものの、甲5発明の「4G−α−グルコシルルチン」と本1発明の「酵素処理イソクエルシトリン」とは、上位概念としての「ルチン酵素処理物」という点において共通する。
次に、甲5発明の「4G−α−グルコシルルチン結晶(純度99.6%)」は、不純物の濃度が100−99.6=0.04%と計算され、甲5発明のルチン酵素処理物に、不純物としての「タンパク質」や「脂質」が、0.04%を超える量で存在し得ないことから、本1発明の「タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下」に相当する。
更に、甲5発明の「飲み易い錠剤とする方法」は、当該「飲み易い錠剤」が「飲む」ことを前提としているという点において、本1発明の「経口用医薬品」に相当することが明らかであるから、甲5発明の「飲み易い錠剤とする方法」と本1発明の「飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法」とは、両者とも「食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品に関連する方法」という点において共通する。
してみると、本1発明と甲5発明は「タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を用いる、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品に関連する方法。」という点において一致し、次の(α)及び(β)の点において相違する。

(α)ルチン酵素処理物が、本1発明においては「酵素処理イソクエルシトリン」であるのに対して、甲5発明においては「4G−α−グルコシルルチン」である点(本件特許明細書の段落0011の「酵素処理ルチン」に相当するものである点)

(β)方法が、本1発明においては「エグ味減少方法」に関するものであるのに対して、甲5発明においては「飲み易い錠剤とする方法」に関するものである点

オ 判断
(ア)相違点(α)について
甲第5号証には、本1発明の「酵素処理イソクエルシトリン」について示唆を含めて記載がなく、甲5発明の「4G−α−グルコシルルチン」を「酵素処理イソクエルシトリン」に置き換えるべき動機付けも見当たらない。
してみると、上記(α)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易であるとはいえない。

(イ)相違点(β)について
甲第5号証の段落0070及び0124〜0125(摘記5b)には、参考例1で調製した純度88%の4G−α−グルコシルルチン含有非結晶質粉末を、実施例2の方法で純度93.4%の4G−α−グルコシルルチン結晶含有粉末としたものを用いて「風味、呈味ともに良好」なヨーグルトタイプの健康食品が得られたことが記載され、同段落0036(摘記5a)には、4G−α−グルコシルルチンの精製方法として「蛋白性物質」などを吸着除去することが記載されているものの、タンパク質と脂質の含量を一定以下にすることで「エグ味」を減少できることについては示唆を含めて記載がなく、甲5発明の「飲み易い錠剤とする方法」を「エグ味減少方法」に関するものとすべき動機付けも見当たらない。
してみると、上記(β)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易であるとはいえない。

(ウ)本1発明の効果について
本件特許明細書の段落0032〜0040(摘示d)には、酵素処理イソクエルシトリンを1.0質量%の濃度で用いたモデル飲料処方(試料1〜7)の試験結果が示され、試料3(タンパク質11.2質量%、脂質2.8質量%)等の官能評価結果が「1:コントロール飲料と比較してエグ味が多い。」の評価であるのに対して、タンパク質と脂質の含量を減じた試料4(タンパク質0.0質量%、脂質0.0質量%)の官能評価結果が「5:コントロールの引用と比較してエグ味が少ない。」の評価になるという効果が示されているところ、甲第5号証に記載の技術事項の全てを考慮しても、本1発明の「エグ味減少」の効果を当業者が容易に予測できるといえる理由は見当たらず、本1発明の効果は当業者の予測を超える顕著なものと認められる。

(エ)小括
したがって、本1発明は、甲第5号証に記載された発明に基づき、出願時の技術常識を参酌すれば、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

カ 本2発明及び本4発明〜本9発明について
本2発明及び本4発明〜本9発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、上記オに示したように、本1発明の進歩性が甲第5号証及び出願時の技術常識によって否定できない以上、本2発明及び本4発明〜本9発明が、甲第5号証に記載された発明に基づき、出願時の技術常識を参酌すれば、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1〜2及び4〜9に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の請求項1〜2及び4〜9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項3は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】 香味改善方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タンパク質および脂質の含量の少ないルチン酵素処理物を用いることを特徴とする香味改善方法に関し、このルチン酵素処理物を用いることによって、ルチン酵素処理物を含有する食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料の香味を有意に改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルチン酵素処理物は、例えば特許文献1〜8の方法で調製されることが知られている。
ルチン酵素処理物は、エンジュ等の植物に含まれるルチンを原料として酵素処理して製造されることが多いが、現在市販されているルチンは、純度が異なるものや、タンパク質等の不純物を含有したものが広く流通している。これらのルチンをそのまま用いてルチン酵素処理物を調製すると、不純物由来の臭いやエグみが生じる等の問題点があった。特に近年、ルチン酵素処理物を含むサプリメントが流通するようになり、高濃度でルチン酵素処理物を使用されるようになったことからこれらの問題を解決することが必要となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−027293号公報
【特許文献2】特開平03−058790号公報
【特許文献3】特開平04−066096号公報
【特許文献4】特開平04−066098号公報
【特許文献5】特開平05−199891号公報
【特許文献6】特開平09−025288号公報
【特許文献7】国際公開WO2005/030975号
【特許文献8】国際公開WO2006/070883号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来のルチン酵素処理物の問題点に鑑み、ルチン酵素処理物を食品等に高濃度用いても、不快臭やエグ味が生じない、ルチン酵素処理物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行なった結果、タンパク質の含量が少なく、また脂質の含量も少ないルチン酵素処理物を食品に使用すると、ルチン酵素処理物含有食品の香味が優れていることを見出し、この発明を完成するに至った。この発明によると、タンパク質の含量を2質量%以下および脂質の含量を1質量%以下のルチン酵素処理物を食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料に添加することにより、これらルチン酵素処理含有物の香味を有意に改善できる。
この発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
【0006】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
項1.タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を用いることを特徴とする香味改善方法。
項2.さらに、高甘味度甘味料、アミノ酸類、糖類、糖アルコール、環状デキストリンおよびビタミン類から選ばれる1種以上を用いることを特徴とする項1記載の香味改善方法。
項3. ルチン酵素処理物が、酵素処理ルチン、イソクエルシトリンまたは酵素処理イソクエルシトリンであることを特徴とする項1または2記載の香味改善方法。
項4.高甘味度甘味料が、ステビア(ステビオサイド、レヴァウディオサイド)、甘草(グリチルリチン、グリチルリチン酸二ナトリウム)、ラカンカ(モグロシド)、タウマチン(ソーマチン)、モネリン、モナチン、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、ズルチン、チクロ(シクラミン酸ナトリウム)、シクラミン酸カルシウム、アリテームおよびアドバンテームの1種以上である項2または3記載の香味改善方法。
項5.アミノ酸類が、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、メチルアラニン、プロリン、システイン、リジン、スレオニン、アスパラギン、フェニルアラニン、セリン、メチオニン、グリシン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、シスチン、テアニン、サルコシン、ε−アミノカプロン酸、γ−アミノ酪酸、グリシルグリシン、クレアチン、トレオニン、ヒドロキシプロリン、オルニチンおよびヒドロキシリジンの1種以上である項2または3記載の香味改善方法。
項6.糖類が、砂糖(ショ糖、スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、麦芽糖(マルトース)、果糖、水飴、異性化糖(ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、高果糖液糖)、乳糖(ラクトース)、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖(ネオシュガー、イヌリン)、ガラクトオリゴ糖(大豆オリゴ糖)、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)、ラフィノース、トレハロースおよび異性化乳糖(ラクチュロース、ミルクオリゴ糖)の1種以上である項2または3記載の香味改善方法。
項7.糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、マルチトール(還元麦芽糖水飴)、還元水飴、還元パラチノース、キシリトール、エリスリトール(ブドウ糖発酵甘味料)およびラクチトール(還元乳糖)の1種以上である項2または3記載の香味改善方法。
項8.環状デキストリンが、α−シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、β−シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース)、γ−シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)および高度分岐環状デキストリンの1種以上である項2または3記載の香味改善方法。
項9.ビタミン類が、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸、リポ酸、イノシトール、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEまたはビタミンKの1種以上である項2または3記載の香味改善方法。
項10.タンパク質の含量が2質量%以下および脂質の含量が1質量%以下であるルチン酵素処理物。
項11.項10記載のルチン酵素処理物を含有する飲食品(健康食品を含む)。
項12.項10記載のルチン酵素処理物を含有する医薬品または医薬部外品。
項13.項10記載のルチン酵素処理物を含有する化粧料。
【発明の効果】
【0007】
この発明によると、タンパク質の含量が2質量%以下および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料に添加することにより、ルチン酵素処理物を含有する食品等の香味を有意に改善する香味改善方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
この発明の香味改善方法は、タンパク質の含量が2質量%以下および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料に添加することにより、ルチン酵素処理物を含有する食品等の香味を有意に改善することを特徴とするものである。
【0009】
この発明のルチン酵素処理物とは、ルチンを酵素によって処理して得られたものであり、例えば、デキストリンの存在下で糖転移酵素を作用させ、酵素処理ルチンとしてもよく、また、加水分解酵素でイソクエルシトリンとしたものや、イソクエルシトリンをさらにデキストリンの存在下で糖転移酵素を作用させ、酵素処理イソクエルシトリンとしたものでもよい。
【0010】
ルチンとは、天然に広く存在するフラボン配糖体の1つである。ミカン科の植物ヘンルーダの全草から見出されたが、後にエンジュのつぼみ、ソバの全草、タバコの葉、サンシキスミレの花、イチジク、アオギリの葉からも単離された。ケルセチンとルチノースからなるケルセチン配糖体である。
ルチンの構造式
【化1】

【0011】
この発明の酵素処理ルチンとは、上述のルチンをデキストリンの存在下で糖転移酵素を作用させたものである。この発明で好適なのは、グルコースを付加したものであり、ルチンに1〜8個グルコースがα−1,4結合したルチン配糖体の混合物である。これは酵素処理ルチンとして既存添加物名簿に収載されており、飲料をはじめ、各種食品に広く使用されている食品素材である。
酵素処理ルチンの構造式
【化2】

【0012】
この発明のイソクエルシトリンとは、マンゴーおよびヒマラヤ原産の巨大な草本植物セイタカダイオウ(Rheum nobile)から単離することができるが、一般には上述のルチンを加水分解して得ることができる。ケルセチンの3位にグルコースが1つ結合したものである。
イソクエルシトリンの構造式
【化3】

【0013】
この発明の酵素処理イソクエルシトリンは、ルチンを加水分解酵素でイソクエルシトリンとした後に、デキストリンの存在下で糖転移酵素を作用させたものである。この発明で好適なのは、グルコースを付加したものであり、イソクエルシトリンおよびイソクエルシトリンに1〜7個グルコースがα−1,4結合したケルセチン−3−O−グリコシドの混合物である。これは酵素処理イソクエルシトリンとして既存添加物名簿に収載されており、飲料をはじめ、各種食品に広く使用されている食品素材である。
酵素処理イソクエルシトリンの構造式
【化4】

【0014】
この発明では、上記従来のルチン酵素処理物の製造時に、ダイヤイオンHP−20を始めとする合成吸着樹脂を用いた樹脂処理により、タンパク質の含量を2質量%以下および脂質の含量を1質量%以下に調整する方法や、従来の方法により得られたルチン酵素処理物、あるいは原料のルチンをメタノールといった有機溶剤を用いた脱脂等といった方法等が挙げられるが、タンパク質の含量を2質量%以下および脂質の含量を1質量%以下になれば特に方法は問わない。
【0015】
より具体的には、酵素処理ルチンや酵素処理イソクエルシトリン水溶液を、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂(例えばダイヤイオンHP−20(三菱化学工業社製))等の合成吸着樹脂のカラムに付着させ、水で洗浄した後に、カラムに50容量%のエタノール水溶液を通液して、脱着させて得る方法がある。得られた溶出液を減圧濃縮した後、凍結乾燥して、ルチンの酵素処理物を得る方法が挙げられる。
また、脱脂方法としては原料のルチンやイソクエルシトリンをメタノールに溶解し、不溶物を遠心分離等で取り除く方法が挙げられる。
【0016】
この発明の高甘味度甘味料は、ステビア(ステビオサイド、レヴァウディオサイド)、甘草(グリチルリチン、グリチルリチン酸二ナトリウム)、ラカンカ(モグロシド)、タウマチン(ソーマチン)、モネリン、モナチン、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム(N−(L−α−アスパルチル)−L−フェニルアラニン1−メチルエステル)、アセスルファムカリウム(カリウム6−メチル−2,2−ジオキソ−オキサチアジン−4−オラート)、スクラロース(1,6−ジクロロ−1,6−ジデオキシ−β−D−フルクトフラノシル−4−クロロ−4−デオキシ−α−D−ガラクトピラノシド;1’,4,6’−トリクロロガラクトスクロース)、ネオテーム(N−[N−(3,3−ジメチルブチル)−L−α−アスパルチル]−L−フェニルアラニン1−メチルエステル)、ズルチン(4−エトキシフェニル尿素)、チクロ(シクラミン酸ナトリウム)、シクラミン酸カルシウム、アリテーム((3S)−3−アミノ−4−[[(1R)−1−メチル−2−オキソ−2−[(2,2,4,4−テトラメチル−3−チエタニル)アミノ]エチル]アミノ]−4−オキソ酪酸;L−α−アスパラチル−N−(2,2,4,4−テトラメチル−3−トリエタニル)−D−アラニンアミド)、アドバンテームの1種以上である。
【0017】
この発明のアミノ酸類は、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、メチルアラニン、プロリン、システイン、リジン、スレオニン、アスパラギン、フェニルアラニン、セリン、メチオニン、グリシン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、シスチン、テアニン、サルコシン、ε−アミノカプロン酸、γ−アミノ酪酸、グリシルグリシン、クレアチン、トレオニン、ヒドロキシプロリン、オルニチン、ヒドロキシリジンの1種以上である。
【0018】
この発明の糖類は、砂糖(ショ糖、スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、麦芽糖(マルトース)、果糖、水飴、異性化糖(ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、高果糖液糖)、乳糖(ラクトース)、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖(ネオシュガー、イヌリン)、ガラクトオリゴ糖(大豆オリゴ糖)、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)、ラフィノース、トレハロース、異性化乳糖(ラクチュロース、ミルクオリゴ糖)の1種以上である。
【0019】
この発明の糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、マルチトール(還元麦芽糖水飴)、還元水飴、還元パラチノース、キシリトール、エリスリトール(ブドウ糖発酵甘味料)、ラクチトール(還元乳糖)の1種以上である。
【0020】
この発明の環状デキストリンは、α−シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、β−シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース)、γ−シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)、高度分岐環状デキストリンの1種以上である。
【0021】
この明細書において、香味改善方法とは、ルチン酵素処理物の不快臭やエグ味をなくして、ルチン酵素処理物を高濃度含有する食品等の香味を改善する方法を示している。
【0022】
この発明の香味改善方法は、タンパク質の含量が2質量%以下および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料に用いることにより、これらルチン処理物を含有する食品等の香味を有意に改善することができる。
【0023】
この発明の香味改善方法を用いる食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料の形態は、水溶液、懸濁液、エマルション等の液状またはペースト状あるいは粉末等の固形物のいずれであってもよい。
【0024】
この発明の香味改善方法を用いる食品は、特に制限は無いが、特に飲料や健康食品に用いるのが好ましい。
【0025】
この発明の香味改善方法は、例えば、グレープフルーツ、オレンジ、レモン等の柑橘類およびこれの果汁を含む食品;ニガウリ、トマト、ピーマン、セロリ、キュウリ、ウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス等の野菜汁を含む食品;ソース、醤油、味噌、うま味調味料および唐辛子等の調味料を含む食品;豆乳、豆乳を初めとする大豆食品;クリーム、ドレッシング、マヨネーズおよびマーガリン等の乳化食品;魚肉、すり身および魚卵等の水産加工食品;ピーナツ等のナッツ類;納豆等の醗酵商品;肉類および食肉加工品;ビール、ウイスキー、コーヒー、ココア、紅茶、緑茶、醗酵茶、半醗酵茶、清涼飲料および機能性飲料等の飲料;漬物類;めん類;粉末スープを含むスープ類;チーズ、牛乳等の乳製品類;パン・ケーキ類;スナック菓子、チューインガム、チョコレート等の菓子類;キャンディ類;煙草;健康食品等に用いることができる。
【0026】
更に、本発明の香味改善方法は、コーヒー、紅茶、緑茶等の嗜好性飲料;ビール、ウイスキー等のアルコール含有飲料;野菜ジュースなどの一部の飲料;山菜等の香味野菜類、根菜類等、苦味を楽しむ食品に用いることができる。また、香味野菜類および根菜類を加工する際に行われる灰汁抜き工程にも用いることができる。
【0027】
この発明の香味改善方法は、辛味成分として、唐辛子(赤、黒、黄)、胡椒、山椒、わさび、玉ねぎ、大根、ねぎ、にんにく、生姜などから抽出されるものを含有する食品に用いることができる。具体的には、唐辛子由来のカプサイシン、胡椒由来のピペリン、シャビシン、山椒由来のα−サンショオール、β−サンショオール、スピラントール、大根、黒辛子、山椒由来のアリールカラシ油、シロカラシ由来のシナルビンカラシ油、アブラナ由来のクロトニルカラシ油、ニオイアラセイトウ由来のヘイロリン、オランダガラシ、モクセイソウ由来のフェニルエチルカラシ油、コショウソウ由来のベンジルカラシ油、エゾスズシロ由来のエリソリン、ねぎ、にんにく由来のジアリルジスルフィド、玉ねぎ、にんにく由来のプロピルアリルジスルフィド、玉ねぎ由来のジアリルスルフィド、玉ねぎ由来のジプロピルジスルフィド、にんにく由来のジアリルトリスルフィド、生姜由来のジンゲロウ、ショウガオール、アフリカ産生姜由来のジンゲロール、パラドール、ヤナギタデ由来のタデオナール等を含有する食品で、からし粉、わさび粉、粉山椒および胡椒などの固体状(乾燥粉砕物)香辛料および練りからし、練りわさび、練り生姜およびにんにくペーストなどのペースト状香辛料、七味唐辛子、カレー粉、タバスコ、塩−コショウ、ラー油、辛子味噌およびトウバンジャン等の調合香辛料に用いることができる。
【0028】
また、上記の辛味成分を含有する食品、例えばスナック菓子、焼き菓子、麺類(インスタント麺類も含む)、粉末スープを含むスープ類、味噌汁、カレーのルー、焼き肉のタレ、焼き肉、明太子、キムチ等の漬物類、塩辛類、飴、チューインガム、チョコレート、キャンディ類、野菜ジュース、コーヒー、ココア、紅茶、緑茶、醗酵茶、半醗酵茶、清涼飲料、機能性飲料、ドレッシング、マヨネーズ等の乳化食品、豆乳、豆腐等の大豆食品、魚肉、すり身、焼き魚等の水産加工品、ソース、味噌、醤油、ケチャップ等の調味料、米飯、食用油、パン、ケーキ類、スパゲッティー等のパスタ類、ピーナッツ等のナッツ類、おでん等の煮物類、醗酵食品、健康食品等に用いることができる。
【0029】
この発明の香味改善方法は、各種の天然果実のような天然素材、またはクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、酢酸、グルコノデルタラクトン、アジピン酸、コハク酸およびリン酸等の天然もしくは合成酸味剤を含有するもの、例えば飲料、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、漬物、調味料、インスタント食品、食パン、蒲鉾、豆腐などの食品に用いることができる。
【0030】
なお、これら苦味、辛味、酸味を呈する製品においては、塩味等の他の味覚成分などを含む添加剤を用いることができる。
【0031】
この発明のルチン酵素処理物は、カプセルや錠剤等でそのまま摂取することもできるため、食品による添加濃度は特に問わない。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、特に記載のない限り「%」は、「質量%」、「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0033】
(酵素処理イソクエルシトリンの調製例)
市販品のルチン20gを水400mLに投入し、pH調整剤を用いてpH4.9に調整した。これにラムノシダーゼを0.1g添加して反応を開始し、これを72℃で24時間保持した。その後、反応液を20℃に冷却し、冷却によって生じた沈殿物を濾別した。得られた沈殿物(固形分)を乾燥し、イソクエルシトリン13.4gを回収した。
上記で得られたイソクエルシトリン10gに、500mLの水を加えコーンスターチ40gを投入した。これにシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ0.1gを添加して反応を開始し、これをpH7.3、60℃の条件下、24時間保持した。得られた溶液を減圧濃縮した後、凍結乾燥して、酵素処理イソクエルシトリン12.8gを取得した 。
【0034】
【表1】

【0035】
試料1〜7はそれぞれ精製度が異なるルチンを用いて、酵素処理イソクエルシトリンを調製した。
試料1、試料2及び試料3はエンジュの花蕾であるカイカからルチンをメタノールで抽出し、それぞれ3回、2回、1回結晶化させ精製したものを原料に上記の方法に従い酵素処理イソクエルシトリンを調製した。試料4は試料1をダイヤイオンHP−20に吸着させ、30%エタノールで脱着させ精製した。試料5、6はそれぞれ試料3をメタノール、イオン交換水にて脱脂、洗浄した。試料7は試料1と試料2を均等に混合した。
【0036】
(モデル飲料の処方)
酵素処理イソクエルシトリン(試料1〜7) 1.0(%)
果糖ブドウ糖液糖 13.0
クエン酸 0.2
クエン酸ナトリウム pH3.0に調整
水にて100%とする。
【0037】
(評価方法)
一般品(コントロール)と比較して、エグ味の評価を専門パネル4名による飲料試験を行い、その平均値をもって評価値とした。飲料試験では、ブランクの水溶液を標準とする相対評価とし、下記の基準にしたがって行った。
【0038】
(評価基準)
1:コントロールの飲料と比較してエグ味が多い。
2:コントロールの飲料と比較してエグ味がやや多い。
3:コントロールの飲料と比較してエグ味が少ない。
4:コントロールの飲料と比較してエグ味がやや少ない。
5:コントロールの飲料と比較してエグ味が少ない。
【0039】
【表2】

【0040】
タンパク質の含量が2質量%以下および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物はエグ味が少ないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明によれば、タンパク質の含量が2質量%以下および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料に添加することにより、ルチン酵素処理物を含有する食品等の香味を有意に改善する香味改善方法を提供することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下の酵素処理イソクエルシトリンを用いることを特徴とする、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法。
【請求項2】
さらに、高甘味度甘味料、アミノ酸類、糖類、糖アルコール、環状デキストリンおよびビタミン類から選ばれる1種以上を用いることを特徴とする請求項1記載のエグ味減少方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
高甘味度甘味料が、ステビア(ステビオサイド、レヴァウディオサイド)、甘草(グリチルリチン、グリチルリチン酸二ナトリウム)、ラカンカ(モグロシド)、タウマチン(ソーマチン)、モネリン、モナチン、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、ズルチン、チクロ(シクラミン酸ナトリウム)、シクラミン酸カルシウム、アリテームおよびアドバンテームの1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項5】
アミノ酸類が、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、メチルアラニン、プロリン、システイン、リジン、スレオニン、アスパラギン、フェニルアラニン、セリン、メチオニン、グリシン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、シスチン、テアニン、サルコシン、ε−アミノカプロン酸、γ−アミノ酪酸、グリシルグリシン、クレアチン、トレオニン、ヒドロキシプロリン、オルニチンおよびヒドロキシリジンの1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項6】
糖類が、砂糖(ショ糖、スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、麦芽糖(マルトース)、果糖、水飴、異性化糖(ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、高果糖液糖)、乳糖(ラクトース)、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖(ネオシュガー、イヌリン)、ガラクトオリゴ糖(大豆オリゴ糖)、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)、ラフィノース、トレハロースおよび異性化乳糖(ラクチュロース、ミルクオリゴ糖)の1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項7】
糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、マルチトール(還元麦芽糖水飴)、還元水飴、還元パラチノース、キシリトール、エリスリトール(ブドウ糖発酵甘味料)およびラクチトール(還元乳糖)の1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項8】
環状デキストリンが、α−シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、β−シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース)、Y−シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)および高度分岐環状デキストリンの1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
【請求項9】
ビタミン類が、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸、リポ酸、イノシトール、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEまたはビタミンKの1種以上である請求項2記載のエグ味減少方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-09 
出願番号 P2016-046845
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 木村 敏康
冨永 保
登録日 2020-12-11 
登録番号 6808334
権利者 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
発明の名称 香味改善方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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