• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1387485
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-12 
確定日 2022-06-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6817022号発明「高耐水熱性チャバザイト型ゼオライトおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6817022号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第6817022号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6817022号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成28年10月20日(優先権主張 平成28年6月7日)に特許出願され、令和2年12月28日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月20日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1、2に係る特許に対して、令和3年7月12日に特許異議申立人小海善史(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月2日付けで取消理由が通知され、同年12月24日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和4年2月14日に申立人により意見書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年12月24日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第3項及び同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、請求項1、2をそれぞれ訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「下記(a)、(b)の工程を備えるチャバザイト型ゼオライトの製造方法。
(a)下記(1)(2)(3)の構成を備え、結晶構造中にPを実質的に含まない前駆体を準備する工程
(1)チャバザイト構造を有する
(2)5≦ケイバン比≦15
(3)100%≦結晶度
(b)前述の前駆体を下記(4)(5)の構成を備える条件で、0.1hr以上、スチーム処理する工程
(4)50%≦水分の含有量
(5)450℃≦処理温度≦800℃」
と記載されているのを、
「下記(a)、(b)の工程を備えるチャバザイト型ゼオライトの製造方法。
(a)下記(1)(2)(3)の構成を備え、アルカリ金属含有量が0ppm〜5000ppmであり、結晶構造中にPを実質的に含まない前駆体を準備する工程
(1)チャバザイト構造を有する
(2)5≦ケイバン比≦15
(3)200%≦結晶度
(b)前述の前駆体を下記(4)(5)の構成を備える条件で、0.1hr以上、スチーム処理する工程
(4)50%≦水分の含有量≦100%
(5)450℃≦処理温度≦800℃」
に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0015】に
「このような場合は、概ね1000ppm以下の含有量であれば、実質的に含んでいないと解してよい。」
と記載されているのを、
「このような場合は、1000ppm以下の含有量であれば、実質的に含んでいないと解してよい。」
に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0027】に
「このような場合は、概ね1000ppm以下の含有量であれば、実質的に含んでいないと解してよい。」
と記載されているのを、
「このような場合は、1000ppm以下の含有量であれば、実質的に含んでいないと解してよい。」
に訂正する。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、願書に添付された明細書の段落【0012】、【0014】及び【0016】の記載に基づき、設定登録時の請求項1に記載された「前駆体」及び「スチーム処理」の「条件」を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、設定登録時の請求項1に係る発明の「Pを実質的に含まない」における「実質的に含まない」の意味を明確にするためのものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、設定登録時の請求項2に係る発明の「Pを実質的に含まず」における「実質的に含まず」の意味を明確にするためのものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 申立人の主張について
申立人は、願書に添付された明細書等には、「1000ppm以下」という明確な境界値が記載されていないことを論拠として、上記訂正事項2及び3は、新規事項を追加する訂正である旨を主張している。
しかしながら、願書に添付された明細書に記載の「概ね1000ppm」が、「1000ppm」という値を含むことは明らかであるし、さらに、その数値を明確にすることで、新たな技術的事項が導入されるわけでもないから、上記訂正事項2及び3は、新規事項を追加する訂正に該当しない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、纏めて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
下記(a)、(b)の工程を備えるチャバザイト型ゼオライトの製造方法。
(a)下記(1)(2)(3)の構成を備え、アルカリ金属含有量が0ppm〜5000ppmであり、結晶構造中にPを実質的に含まない前駆体を準備する工程
(1)チャバザイト構造を有する
(2)5≦ケイバン比≦15
(3)200%≦結晶度
(b)前述の前駆体を下記(4)(5)の構成を備える条件で、0.1hr以上、スチーム処理する工程
(4)50%≦水分の含有量≦100%
(5)450℃≦処理温度≦800℃
【請求項2】
下記(1)〜(4)の構成を備え、結晶構造中にPを実質的に含まず、一次粒子のサイズが0.05μm以上10μm以下のチャバザイト型ゼオライト。
(1)チャバザイト構造を有する
(2)Si及びAlを含み、Siの含有量が80.5質量%以上90質量%以下、Alの含有量が10質量%以上19.5質量%以下
(3)格子定数≦13.74Å
(4)140%≦結晶度」

第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
設定登録時の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和3年11月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件違反)
取消理由1は、要するに、設定登録時の請求項1に係る発明は、前駆体の結晶度が100%以上に特定され、また、前駆体のアルカリ金属含有率、スチーム処理雰囲気の水分含有量の上限値を特定していないため、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載などから、当業者において「結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供する」(段落【0006】)という課題を解決できると認識できる範囲のものといえず、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないことを論拠として、設定登録時の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。
(2)取消理由2(明確性要件違反)
取消理由2は、要するに、設定登録時の請求項1に記載の「前駆体」の「結晶構造中にPを実質的に含まない」、及び、請求項2に記載の「チャバサイト型ゼオライト」の「結晶構造中に実質的に含まず」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載などからみても明確でないことを論拠として、設定登録時の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。

2 取消理由についての当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
イ サポート要件適合性の判断
(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】には、「本発明の課題は、結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供することである。」と記載されている。
ここで、当該記載における「結晶度が高いCHA型ゼオライト」がどの程度の結晶度を指すのかについて考えてみると、段落【0029】には、次の記載がある。
「本発明のゼオライトの結晶度は、下記の範囲にある。
140% ≦ 結晶度
本発明のゼオライトの結晶度が低すぎると、CHA構造が十分に発達していないので、触媒として用いた場合に触媒活性が低くなるため好ましくない。」
この記載からすると、上記の課題に係る「結晶度が高い」とは、結晶度が140%以上のものを指していると理解するのが合理的である。
したがって、本件発明の課題(以下、「本件課題」という。)は、結晶度が140%以上であって、耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供することであると認められる。
(イ)発明の詳細な説明には、実施例1〜7(段落【0035】〜【0058】、【表1】、【表2】)として、ケイバン比が7.9、結晶度236.7%(当審注:【表2】の比較例1の結晶度の値、及び、段落【0009】の後記内容からすると、「271.5%」の誤記と認められる。)、一次粒子のサイズが2μm、アルカリ金属含有量が600ppm、P含有量が100ppmであるCHA型ゼオライトを前駆体(1)として使用し、当該前駆体(1)を水分含有量が100%の空気雰囲気中で500〜800℃の範囲内の処理温度にて0.33時間のスチーム処理することで、結晶度が162.3〜254.5%であって、結晶度維持率が35.04〜75.93%であるCHA型ゼオライトが得られることが具体的に記載されている。そして、実施例1〜7の前記結晶度維持率は、比較例1の結晶度維持率(24.10%)よりも高くなっていることから、当業者において、実施例1〜7の方法であれば、本件課題を解決できると認識できる範囲といえる。
加えて、発明の詳細な説明には、「CHA型ゼオライトをスチーム処理すると、CHA型ゼオライトの結晶構造から、Alの一部が除去される。CHA型ゼオライトの結晶構造からAlの一部が除去されたCHA型ゼオライトは、耐水熱性が高くなる。但し、CHA型ゼオライトの結晶構造からAlの一部が除去されるとき、その結晶構造がダメージを受けるため、得られるCHA型ゼオライトの結晶度が低下する。」(段落【0009】)ことが記載されている。
また、発明の詳細な説明には、「前駆体」に関して、「前駆体がCHA構造を有していないと、それをスチーム処理しても、本発明のゼオライトを得ることができない」こと(段落【0010】)、「前駆体のケイバン比」は「5≦ケイバン比」の範囲であって、「ケイバン比」が「低い場合」には、「スチーム処理して得られる本発明のゼオライトの結晶度が低下」し、「15より大きい場合」には、「スチーム処理しても耐水熱性がそれほど向上しない」こと(段落【0011】)、「前駆体の結晶度」は「200%≦結晶度」が好ましいこと(段落【0012】)、「前駆体の一次粒子のサイズが0.05μmより小さい場合、前述の前駆体の結晶度が100%より低くなる可能性がある」こと(段落【0013】)、及び、「前駆体に含まれる」「アルカリ金属の含有量」は「0ppm≦アルカリ金属≦5000ppm」が好ましく、「前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの骨格中にアルカリ金属が多く含まれる状態でスチーム処理を行うと、理由は定かではないが、スチーム処理の効果が小さい」こと(段落【0014】)が、それぞれ記載されている。
さらに、発明の詳細な説明には、「スチーム処理」に関する、「水分の含有量が、飽和水蒸気量の50%より低い場合、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが除去されにくくなり、得られる本発明のゼオライトの耐水熱性が向上しにくくなるので好ましくない。一方、水分の含有量が飽和水蒸気量より高い場合(すなわち、水分の含有量が100%を超える場合)、加熱温度にもよるが、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが急激に除去されて結晶構造がダメージを受け、得られる本発明のゼオライトの結晶度が低下する可能性があるので好ましくない。」(段落【0016】)、「前述の処理温度が、450℃より低い場合、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが除去されにくくなり、得られる本発明のゼオライトの耐水熱性が向上しにくくなるので好ましくない。一方、前述の処理温度が800℃より高い場合、前述の水分の含有量にもよるが、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが急激に除去されて結晶構造がダメージを受け、得られる本発明のゼオライトの結晶度が低下する可能性があるので好ましくない。」(段落【0017】)、及び、「処理時間が、0.1hrより短い場合、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが十分に除去されず、得られる本発明のゼオライトの耐水熱性が向上しにくくなるので好ましくない。一方、前述の加熱時間が48hrより長くても、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からのAlの除去量は大きく変わらない。」(段落【0018】)との記載もある。
したがって、これらの記載を併せ考えると、5≦ケイバン比≦15、200%≦結晶度、アルカリ金属含有量が0ppm〜5000ppmである、CHA構造を有する前駆体を、50%≦水分の含有量≦100%、450℃≦処理温度≦800℃、0.1hr以上の条件でスチーム処理した場合にも、当業者において、前記実施例1〜7の方法と同様に、本件課題を解決できると認識できる範囲といえる。
(ウ)これに対して、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は、前記第3のとおりであるところ、本件発明1は、「前駆体」について、「アルカリ金属含有量が0ppm〜5000ppm」、「(1)チャバザイト構造を有する」、「(2)5≦ケイバン比≦15」及び「(3)200%≦結晶度」を特定し、また、「スチーム処理」の条件について、「0.1hr以上」、「(4)50%≦水分の含有量≦100%」及び「(5)450℃≦処理温度≦800℃」を特定するものであるから、本件発明1は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件課題を解決できると認識できる範囲といえる。
(エ)したがって、前記アの判断手法に従えば、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
ウ 申立人の主張の検討
申立人は、(i)実施例1〜7のCHA型ゼオライトは、比較例1よりも結晶度が小さくなっており、「結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供する」との課題を解決できないこと、(ii)本件特許明細書の段落【0004】及び【0064】【表2】の記載から、CHA型ゼオライトが水分の存在下で高温に晒されると経時的に結晶構造が壊れていくことが技術常識であるとした上で、本件発明1には、スチーム処理時間の上限値やスチーム流量が特定されていないこと、及び、(iii)本件発明1には、前駆体の結晶度の上限値や一次粒子サイズが特定されていないことを論拠として、本件発明1は、課題を解決するための手段を反映したものといえず、サポート要件を満足していない旨を主張している(特許異議申立書第48頁(イ−1)〜第52頁(イ−5)の項目、令和4年2月14日付け意見書第4頁(3)の項目参照)。
そこでまず、上記(i)について検討すると、本件課題は、前記イ(ア)で検討したとおりであって、比較例1の結晶度よりも高いCHA型ゼオライトの製造方法を提供することを課題とするものでない。
次に、上記(ii)について検討すると、発明の詳細な説明には、スチーム処理により前駆体中のCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが除去されるところ、水分含有量がAlの除去に影響すること(段落【0017】)、加熱時間が48hrより長くてもAlの除去量は大きく変わらないこと(段落【0018】)、及び、Alが除去されることで結晶度が低下すること(段落【0009】)について記載されているものの、CHA型ゼオライトの結晶構造からAlの除去に関係なく、スチーム処理時間やスチーム流量によって結晶度が低下することについては記載も示唆もされていないし、このようなことが技術常識であることを示す証拠もないから、スチーム処理時間の上限値やスチーム流量の特定がなくても、本件課題を解決できると認識できるといえる。
最後に、上記(iii)について検討すると、発明の詳細な説明には、前駆体の結晶度が低い場合には、スチーム処理で得られるゼオライトの結晶度が低下すること(段落【0012】)が記載されていることからして、前駆体の結晶度が200%以上であれば、その上限値の特定がなくても、本件課題を解決できることは明らかであるし、また、発明の詳細な説明には、前駆体の一次粒子のサイズが小さい場合には、その結晶度が小さくなること(段落【0013】)が記載され、結晶度が200%以上の前駆体が特定サイズ以上の一次粒子であることは明らかであるから、当業者であれば、前駆体の一次粒子のサイズの特定がなくても、本件課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小活
以上のとおりであるから、取消理由1に理由はない。
(2)取消理由2(明確性要件違反)について
明確性要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
明確性要件適合性の判断
本件発明1に係る請求項1において「前駆体」について記載した「結晶構造中にPを実質的に含まない」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】に「前述の前駆体は、その結晶構造中にPを実質的に含まないことが好ましい。・・・このような場合は、1000ppm以下の含有量であれば、実質的に含んでいないと解してよい。」と記載されていることからして、前駆体の結晶構造中のPの含有量が1000ppm以下であることを示していると解される。
また、本件発明2に係る請求項2の「チャバザイト型ゼオライト」の「結晶構造中にPを実質的に含まず」との記載に関しても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】に「本発明のゼオライトは、その結晶構造中にPを実質的に含まないことが好ましい。・・・このような場合は、1000ppm以下の含有量であれば、実質的に含んでいないと解してよい。」と記載されていることからして、チャバザイト型ゼオライトの結晶構造中のPの含有量が1000ppm以下であることを示していると同様に理解するのが相当である。
そして、請求項1及び2のその余の記載をみても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な記載は見当たらない。
したがって、前記アの判断手法に従えば、本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載は、明確性要件に適合する。
ウ 申立人の主張の検討
申立人は、(i)本件発明1の「水分の含有量」が、「前駆体」の水分含有量であるのか、「スチーム処理」における雰囲気の水分含有量であるのかが明らかでないこと、及び、(ii)本件発明2の「Siの含有量」及び「Alの含有量」が、「チャバサイト型ゼオライト」に含まれるすべての成分の合計量に対する割合であるのか、SiとAlの合計量に対する割合であるのかが明らかでないことを論拠として、本件発明1及び2は明確性要件を満足しない旨を主張している(特許異議申立書第58頁(ウ−2)の項目、令和4年2月14日付け意見書第10頁(5)の項目参照)。
そこで、これらの点について検討すると、特許請求の範囲の記載は、前記第3のとおりであって、本件発明1における「水分の含有量」が「スチーム処理」の条件であることや、本件発明2における「Siの含有量」及び「Alの含有量」が「チャバサイト型ゼオライト」に含まれるすべての成分の合計量に対する含有量を示していることは明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小活
以上のとおりであるから、取消理由2に理由はない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第4の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:Yuewei Ji et al., Organic-Free Synthesis of CHA-Type Z
eolite Catalysts for the Methanol-to-Olefins Reaction,
ACS Catalysis, 2015年, Vol.5, p.4456-4465
甲第2号証:特開2015−101506号公報
甲第3号証:Dustin W. Fickel et al., Copper Coordination in Cu-SSZ
-13 and Cu-SSZ-16 Investigated by Variable-Temperature
XRD, The Journal of Physical Chemistry C, 2010年, Vol.
114, No.3, p.1633-1640
甲第4号証:ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES, Sixth Revised Editio
n, 2007年, p.96
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1及び2に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が後記3(3)アの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
設定登録時の請求項2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(4)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項(下線は当審が付した。以下、同様である。)
ア 「2.1. CHA Synthesis. CHA-type zeolites were prepared from the hydrothermal conversion of zeolite Y (FAU) following the method of Bourgogne et al. In a typical synthesis, 238 mL of deionized water was mixed with 32.2 mL of 45 wt % aqueous potassium hydroxide solution (Aldrich), to which 30 g of USY (Zeolyst, CBV712, SiO2/Al2O3 = 12) was added. The mixture was shaken for about 30 s and heated in a sealed polypropylene vessel at 100 ℃ for 4 days under static conditions. The solid product was recovered by centrifugation, washed with water and acetone, and dried overnight at 100 ℃. The as-synthesized product, which had potassium as the countercation (designated K-CHA), was ion-exchanged three times with 1 M aqueous ammonium nitrate solution at 90 ℃ for 2 h at a ratio of 100 mL of liquid per gram of solid to obtain the NH4+ form (designated NH4-CHA).
2.2. Steaming and Acid Washing Treatments. Table 1 provides a summary of the steaming and acid washing treatments. Steaming was conducted under atmospheric pressure in an MTI OTF-1200X horizontal tube furnace fitted with a 3 in. ID mullite tube. NH4-CHA samples (approximately 1.2 g in a typical experiment) were loaded in ceramic calcination boats and placed in the center of the tube furnace. The furnace was ramped at 1 ℃/min to the desired steaming temperature, held at temperature for 8 h, and then allowed to cool. The entire process was carried out under a flow of moist air that was created by bubbling zero-grade air at 50 cc/min through a heated water saturator (bubbler) upstream of the furnace. Samples were steamed at temperatures of 500, 600, and 700 ℃ with the bubbler held at 80 ℃ (water saturation pressure of 47.3 kPa) and the resulting materials designated CHA-S500B80, CHA-S600B80 and CHA-S700B80, respectively. The effect of the partial pressure of steam was investigated by two additional steaming experiments at 600 ℃ where the bubbler temperature was changed to 60 and 90 ℃ (water saturation pressures of 19.9 and 70.1 kPa, respectively). For each of the bubbler temperatures tested (60 ℃, 80 and 90 ℃), the air was approximately 50% saturated with water vapor. A dry calcination of NH4-CHA was conducted in the same tube furnace for 8 h at 600 ℃ (1 ℃/min ramp) under 50 cc/min of zero-grade air, and the product was designated CHA-C600. A portion of the CHA steamed at 600 ℃ with the bubbler held at 80 ℃ was additionally acid washed with 0.1 N aqueous hydrochloric acid at a liquid-to-solid ratio of 100:1 (w/w) for 2 h at 100 ℃ in a sealed vessel. The product, designated CHA-S600B80A, was recovered by filtering, washed extensively with water, and dried overnight at 100 ℃.」(第4457頁右欄第4行〜第4458頁左欄第7行)
(当審仮訳:2.1.CHA合成. CHA型ゼオライトは、Bourgogne等の方法に従い、ゼオライトY(FAU)の水熱変換から調製された。典型的な合成では、238mLの脱イオン水を32.2mLの45wt%水酸化カリウム水溶液(Aldrich)と混合し、それに30gのUSY(Zeolyst、CBV712、SiO2/Al2O3=12)を添加した。混合物を約30秒間振とうし、密閉されたポリプロピレン容器内で、4日間100℃で静的条件下で加熱した。固体生成物を遠心分離により回収し、水及びアセトンで洗浄し、100℃で一晩乾燥させた。対カチオンとしてカリウムを有する合成されたままの生成物(K−CHAと表記)を、1M硝酸アンモニウム水溶液を用いて90℃で2時間の条件で、固体1グラムあたり100mLの液体の比率で3回イオン交換し、NH4+フォーム(NH4−CHAと表記)を得た。
2.2.スチーミングと酸洗浄処理. 表1に、スチーミングと酸洗浄処理の概要を示す。スチーミングは、内径3インチのムライト管を備えたMTI OTF−1200X水平管状炉により大気圧下で行った。NH4−CHAサンプル(通常の実験では約1.2g)をセラミックか焼ボートに入れ、管状炉の中央に配置した。炉を1℃/分で希望の蒸気温度まで上昇させ、その温度で8時間保持した後、放冷した。処理全体は、炉の上流にある加熱された水飽和器(バブラー)を通してゼログレードの空気を50cc/分でバブリングすることによって生成された湿った空気の流れの下で実行された。サンプルを500、600、700℃の温度でスチーミングし、バブラーを80℃(飽和水蒸気圧47.3kPa)に保ち、得られた材料をそれぞれCHA−S500B80、CHA−S600B80、CHA−S700B80とした。蒸気の分圧の影響は、バブラー温度を60及び90℃(それぞれ19.9及び70.1kPaの飽和水蒸気圧)に変更した600℃での2つの追加のスチーミング試験によって調査された。テストしたバブラー温度(60℃、80及び90℃)のそれぞれについて、空気は水蒸気で約50%飽和していた。NH4−CHAの乾式焼成は、同じ管状炉で600℃(1℃/分の傾斜)で8時間、50cc/分のゼログレード空気下で行われ、生成物はCHA−C600とした。バブラーを80℃に保持した状態で600℃でスチーミングしたCHAの一部を、密閉容器内において、液体と固体の比率が100:1(w/w)の0.1N塩酸水溶液で100℃で2時間さらに酸洗浄した。CHA−S600B80Aである生成物を濾過により回収し、水で十分に洗浄し、100℃で一晩乾燥させた。)
イ 「

」(第4457頁)
(表題の当審仮訳:表1. 脱アルミニウムCHAサンプルのスチーミング条件、Si/Al比及び酸点濃度の要約)
ウ 「3.1. Sample Characterizations. 3.1.1. Effect of Steaming Temperature and Acid Washing. The powder XRD patterns of the as-synthesized NH4-CHA and the CHA samples steamed at 500-700 ℃ under the same steam partial pressure are shown in Figure 1. The baseline signal increases relative to the peaks for the steamed samples, indicating the presence of amorphous material and a loss of crystallinity upon steaming. Increasing the steaming temperature, and thus the severity of steaming, results in increasingly greater structural degradation, with the 700 ℃-steamed sample showing the greatest loss in crystallinity. Further, the XRD peaks are shifted to lower d-spacings for the steamed samples, which can be attributed to contractions of the unit cell due to extraction of framework aluminum. The bulk Si/Al ratios of the steamed samples (Table 1) are essentially the same as that of the starting CHA (Si/Al = 2.4), accommodating for minor deviations that are within measurement error. Acid washing the 600 ℃-steamed CHA sample results in additional degradation and produces an increase in the bulk Si/Al ratio from 2.4 to 7.8.」(第4458頁右欄第37〜55行)
(当審仮訳:3.1.サンプルの特徴. 3.1.1.スチーミング温度と酸洗浄処理の効果. 合成されたままのNH4−CHAと同じ蒸気分圧下において、500〜700℃でスチーミング処理されたCHAサンプルの粉末XRDパターンを図1に示す。ベースラインの信号は、スチーミングしたサンプルのピークに関して増加する。これは、アモルファス材料の存在とスチーミングしたときの結晶度の低下を示すものである。スチーミング温度を上げると、スチーミングの厳しさが増し、構造の劣化がますます大きくなり、700℃でスチーミングしたサンプルは結晶度の最大の損失を示す。さらに、XRDピークは、スチーミングしたサンプルではより低い面間隔dにシフトする。これは、フレームワークのアルミニウムが取り除かれたことによるユニットセルの収縮に起因する可能性がある。スチーミングしたサンプルのバルクSi/Al比(表1)は、基本的に開始CHAのバルクSi/Al比(Si/Al=2.4)と同じであり、測定誤差の範囲内のわずかな偏差に対応する。600℃でスチーミングしたCHAサンプルを酸洗浄すると、さらに劣化し、バルクSi/Al比が2.4から7.8に増加する。)
(2)甲第2号証の記載事項
ア 「【0053】
[実施例7]
チャバサイト型ゼオライト(7)の合成
NaY型ゼオライト500g、硫酸アンモニウム280gを含む水溶液5000gを80℃に昇温し、撹拌しながら2時間イオン交換した。イオン交換後、濾過洗浄して、NH4イオン交換率70%の0.70(NH4)2O・30Na2O・Al2O3・5SiO2ゼオライト(NH4(70)Yと標記する)を調製した。
ついで、NH4(70)Yに水を加えて50重量%の水分を含むように水分調整した。
水分調整したNH4(70)Yを容器に充填し、600℃に昇温して2時間スチーム処理して超安定性ゼオライト(2)を調製した。
ついで、超安定性ゼオライト(2)を用いた以外は実施例3と同様に脱アルミ処理をしてUSY(5)を調製した。
USY(5)の平均粒子径、組成、格子定数を測定し、結果を表に示す。
【0054】
ついで、USY(5)を用いた以外は実施例3と同様にして微細化した。[工程(a)]
微細化されたUSY(5)について、相対結晶度、平均粒子径を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例3の工程(b)において、微細化されたUSY(5)を用いた以外は同様にして合成用スラリー(7)を調製した。[工程(b)]
合成用スラリー(7)の組成を表に示す。
以下、合成用スラリー(7)を用いた以外は実施例1と同様にして工程(c)を実施してチャバサイト型ゼオライト(7)を得た。
得られたチャバサイト型ゼオライト(7)について、結晶形、相対結晶度、組成分析、平均粒子径を測定し、結果を表に示す。」
イ 「【0060】
【表1】


(3)甲第3号証の記載事項
「Rietveld refinement of the Cu-SSZ-13 patterns was performed using the GSAS package along the EXPGUI graphical interface. Each XRD pattern was analyzed independently during the refinement process. Starting atomic coordinates for the structural models were taken from the International Zeolite Association (IZA) website for the CHA framework. A hexagonal unit cell with the space group R3m was used along with the initial unit cell dimensions of a = 13.675 Å and c = 14.767 Å.」(第1635頁右欄19行〜第1636頁第3行)
(当審仮訳:Cu−SSZ−13パターンのリートベルト解析は、GSASパッケージとEXPGUIグラフィックインターフェースを使用して実行された。各XRDパターンは、精密化プロセス中に個別に分析された。構造モデルの開始原子座標は、国際ゼオライト協会(IZA)のCHAフレームワークのウエブサイトから取得された。空間群R3mを備えるヘキサゴナル単位格子として、a=13.675Å及びc=14.767Åの初期単位格子サイズが使用された。)
(4)甲第4号証の記載事項
「CHA ・・・
Framewrok Type Date ・・・
Idealized cell data: ・・・, a = 13.7Å, c = 14.8Å」(第96頁)
(当審仮訳:CHA ・・・
フレームタイプデータ ・・・
理想格子データ:・・・,a=13.7Å,c=14.8Å)

3 申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記2(1)ア〜ウの記載を、サンプル「CHA−S600B80」のスチーミング処理する方法、及び、スチーミング処理前の「NH4+フォームのCHA型ゼオライト」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
・甲1発明1
「バルクSi/Al比が2.4のNH4+フォームのCHA型ゼオライトを、バブラー温度80℃において水蒸気が約50%飽和している湿った空気の流れの下で、500℃の温度で8時間スチーミング処理する方法。」
・甲1発明2
「バルクSi/Al比が2.4のNH4+フォームのCHA型ゼオライト。」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1の「NH4+フォームのCHA型ゼオライト」は、本件発明1の「チャバザイト構造を有する」「前駆体」に相当するところ、本件発明1の「前駆体」は、「アルカリ金属含有量が0ppm〜5000ppmであり、結晶構造中にPを実質的に含まない」、「5≦ケイバン比≦15」、「200%≦結晶度」であるのに対して、甲1発明1の「NH4+フォームのCHA型ゼオライト」は、「バルクSi/Al比が2.4」であり、アルカリ金属含有量、P含有量、結晶度が明らかでない点で少なくとも相違している。
そこで、上記相違点のうち、結晶度に係る相違点について検討すると、甲第2号証〜甲第4号証のいずれにも、スチーム処理する前駆体として、結晶度が200%以上のCHA型ゼオライトを使用することは記載も示唆もされていないから、甲1発明1において、「NH4+フォームのCHA型ゼオライト」の結晶度を200%以上とすることが、当業者にとって容易想到な事項であるといえない。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証〜甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2の「NH4+フォームのCHA型ゼオライト」は、本件発明2の「チャバザイト構造を有する」「チャバザイト型ゼオライト」に相当するところ、本件発明2は、「結晶構造中にPを実質的に含まず、一次粒子のサイズが0.05μm以上10μm以下」であり、「格子定数≦13.74Å」、「140%≦結晶度」であるのに対して、甲1発明2は、P含有量、格子定数、結晶度が明らかでない点で少なくとも相違している。
そこで、上記相違点のうち、格子定数及び結晶度に係る相違点について検討すると、甲第3号証及び甲第4号証には、前記2(3)及び(4)によれば、CHA型ゼオライトの理想格子におけるa軸の格子定数が、「13.675Å」あるいは「13.7Å」であることが記載されているものの、甲1発明2の「NH4+フォームのCHA型ゼオライト」が理想格子と同じ格子定数であることを示す証拠はない。
加えて、甲第1号証には、前記2(1)ウによれば、スチーミングによってフレームワークからアルミニウムを取り除くことで、結晶度が低下するとともに、面間隔が小さくなることが記載されているし、また、甲第2号証〜甲第4号証のいずれにも、CHA型ゼオライトの格子定数を13.74Å以下とし、かつ、結晶度を140%以上とすることは記載も示唆もされていないから、甲1発明2において、「NH4+フォームのCHA型ゼオライト」の格子定数を13.74Å以下、結晶度を140%以上とすることが、当業者にとって容易想到な事項であるといえない。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証〜甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の前記2(2)ア及びイの記載を、実施例7の「チャバサイト型ゼオライト」に注目して整理すると、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる。
・甲2発明
「SiO2/Al2O3モル比が6.25、平均粒子径が2.0μm、相対結晶度が1.42であるチャバサイト型ゼオライト。」
イ 本件発明2について
本件発明2と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「チャバサイト型ゼオライト」は、本件発明2の「チャバザイト構造を有する」「チャバザイト型ゼオライト」に相当するところ、本件発明2は、「結晶構造中にPを実質的に含まず」、「格子定数≦13.74Å」であるのに対して、甲2発明は、P含有量、格子定数が明らかでない点で少なくとも相違している。
そこで、上記相違点のうち、格子定数に係る相違点について検討すると、前記(1)ウで検討したのと同様の理由により、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載を参酌しても、甲2発明の「チャバサイト型ゼオライト」の格子定数が13.74Å以下であるといえないし、また、甲2発明の「チャバサイト型ゼオライト」の相対結晶度を維持した状態で、その格子定数を13.74Å以下とすることが、当業者にとって容易想到な事項であるといえない。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由3は、要するに、(i)発明の詳細な説明の実施例1〜7のCHA型ゼオライトは、比較例1よりも結晶度が低く、「結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供する」との課題を解決できることの裏付けにならないこと、及び、(ii)設定登録時の請求項2に係る発明は、比表面積を特定しておらず、比表面積が600m2/gを超えるCHA型ゼオライトを包含するところ、発明の詳細な説明には、このようなゼオライトを製造できる程度に記載されていないことを論拠として、設定登録時の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。
イ 申立理由3についての検討
本件課題は、前記第4の2(1)イ(ア)で検討したとおりであって、比較例1の結晶度より高くすることを課題とするものでないし、また、本件発明2は、比表面積を特定していないことからして、技術常識の範囲内で実現可能な比表面積を有していることは明らかであって、本件特許明細書の「比表面積が600m2/gを超える本件発明のゼオライトは、合成が困難である。」(段落【0031】)との記載によれば、製造が困難であるような比表面積のゼオライトを包含していないことも明らかである。
そして、発明の詳細な説明には、本件発明1及び2の具体例としての実施例1〜7が記載されていることからして、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
ウ 小括
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
(4)申立理由4(サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由4は、要するに、(i)設定登録時の請求項2に係る発明は、「スチーム処理」していない前駆体のCHA型ゼオライトや、耐水熱性評価のための「水蒸気処理」後の実施例2〜5のCHA型ゼオライトを包含することを前提にして、このようなCHA型ゼオライトが本件課題を解決できることが裏付けされていないこと、及び、(ii)設定登録時の請求項2に係る発明は、比表面積を特定しておらず、比表面積が600m2/gを超えるCHA型ゼオライトを包含することを前提にして、発明の詳細な説明には、このようなゼオライトが記載されていないことを論拠として、設定登録時の請求項2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。
イ 申立理由4についての検討
「スチーム処理」していない前駆体のCHA型ゼオライトは、比較例1のCHA型ゼオライトであって、その格子定数は13.76Åであるから、本件発明2に包含されるものでない。また、耐水熱性評価のための「水蒸気処理」の前後でケイバン比が変化しないことを示す証拠が無いため、「水蒸気処理」後の実施例2〜5のCHA型ゼオライトが本件発明2に包含されているかも明らかでない。さらに、本件発明2は、前記(3)イで検討したとおり、比表面積が600m2/gを超えるような、製造が困難である比表面積のゼオライトを包含していないことは明らかである。
そうしてみると、前記アの具体的な指摘事項においてサポート要件違反の論拠とされている前提事項は、それ自体が誤っているというほかないから、本件発明2がサポート要件を満たしていないとはいえない。
ウ 申立人の主張の検討
申立人は、本件特許明細書の「格子定数が13.50Åより小さい本発明のゼオライトは・・・結晶度が低くなりやすいので好ましくない」(段落【0025】)との記載及び実施例1のCHA型ゼオライトの格子定数が13.48Å及び結晶度が162.3%であることを根拠にして、本件発明の課題を、少なくとも162.3%超える結晶度を有し、耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供することとした上で、本件発明2では、特定のケイバン比の前駆体をスチーム処理されて得られたものであることが特定されておらず、また、「140%≦結晶度」の特定では、上記課題を解決できることを認識できない旨を主張している(令和4年2月14日付け意見書第2頁(2)の項目、第5頁(4)の項目参照)。
そこで検討するに、本件発明の課題の「結晶度及び耐水熱性が高い」(段落【0008】)ことは相対的なものであって、当該課題に係る「結晶度が高い」とは、前記第4の2(1)イ(ア)で検討したとおり、結晶度が140%以上のものを指していると理解するのが合理的であるし、また、スチーム処理後のCHA型ゼオライトの結晶度は、前駆体の結晶度にも依存する(段落【0009】)ことからして、実施例1のCHA型ゼオライトの格子定数が13.48Åことのみをもって、その結晶度(162.3%)が、段落【0025】の上記記載における結晶度が低い場合に該当するとはといえない。
したがって、本件発明の課題は、前記第4の2(1)イ(ア)で検討したとおり、結晶度が140%以上であって、耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供することといえる。
そして、発明の詳細な説明には、実施例1〜7に加えて、スチーム処理によりCHA型ゼオライトの結晶構造からAlの一部が除去されて耐水熱性が高くなること(段落【0024】)、CHA型ゼオライトの結晶構造からAlの一部が除去されることで、格子定数が13.74Å以下となり、耐水熱性が高くなること(段落【0025】)、及び、Si及びAlの含有量の好ましい範囲が「80.5質量%≦Siの含有量≦90質量%」、「10質量%≦Alの含有量≦19.5質量%」であること(段落【0026】)が記載されていることをふまえると、Si含有量が80.5質量%以上90質量%以下、Alの含有量が10質量%以上19.5質量%以下であって、格子定数が13.74Å以下のCHA型ゼオライトが、高い耐水熱性を有することを理解できるし、また、当該CHA型ゼオライトの結晶度が140%以上であれば、高い結晶度を有することも理解できる。
他方、本件発明2は、前記第3のとおり、「(2)Si及びAlを含み、Siの含有量が80.5質量%以上90質量%以下、Alの含有量が10質量%以上19.5質量%以下」、「(3)格子定数≦13.74Å」、「(4)140%≦結晶度」が特定されているから、特定のケイバン比の前駆体をスチーム処理されて得られたものであることの特定がなくても、当業者において、当該発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件課題を解決できると認識できる範囲といえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由4に理由はない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】高耐水熱性チャバザイト型ゼオライトおよびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャバザイト型ゼオライト(以下、CHA型ゼオライトともいう。)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CHA型ゼオライトは、国際ゼオライト学会(IZA)が規定するCHA構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは、一般的に、特許文献1のような有機構造規定剤(以下、SDAともいう。)を用いる方法で合成される。また、特許文献2のようなSDAを用いない方法でも合成することが可能である。
【0003】
CHA型ゼオライトは、例えば、ガスの分離、自動車の排気ガス中に含まれる窒素酸化物の還元、低級アルコールおよびその他の酸素含有炭化水素の液体燃料への転換、およびジメチルアミンの製造のための触媒として使用することができる。これらの用途では、CHA型ゼオライトの結晶構造に由来する細孔を利用するため、結晶度の高いCHA型ゼオライトが必要とされている。
【0004】
また、CHA型ゼオライトには、水分の存在下で高温に晒されるとその結晶構造が壊れるという課題がある(耐水熱性)。例えば、自動車の排ガス中に含まれる窒素酸化物の還元や工場から排出される排気ガス中の有害成分の除去に用いる場合、耐水熱性が低いCHA型ゼオライトは、使用中に結晶構造が壊れるので、本来の性能を発揮できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−163349
【特許文献2】特開2015−101506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ケイバン比及び結晶度が下記の範囲にあるCHA型ゼオライトを後述する(4)(5)の構成を備える条件の水蒸気雰囲気下において加熱(スチーム処理)することで、結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライトが得られる(以下、本発明の製造方法ともいう。)。
5≦ケイバン比
100%≦結晶度
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、ケイバン比及び結晶度が上記の範囲にあるCHA型ゼオライト(以下ではスチーム処理を施す前のCHA型ゼオライトを、前駆体ともいう。)をスチーム処理して、結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライト(以下では本発明の製造方法によって得られたCHA型ゼオライトを、本発明のゼオライトともいう。)を得る方法である。CHA型ゼオライトをスチーム処理すると、CHA型ゼオライトの結晶構造から、Alの一部が除去される。CHA型ゼオライトの結晶構造からAlの一部が除去されたCHA型ゼオライトは、耐水熱性が高くなる。但し、CHA型ゼオライトの結晶構造からAlの一部が除去されるとき、その結晶構造がダメージを受けるため、得られるCHA型ゼオライトの結晶度が低下する。そこで、ケイバン比と結晶度が一定の範囲にあるCHA型ゼオライトを前駆体として特定の条件でスチーム処理することで、結晶度及び耐水熱性が高いCHA型ゼオライトを得ることができる。以下、本発明の製造方法について、詳述する。
【0010】
前述の前駆体は、CHA構造を有する。前述の前駆体がCHA構造を有していないと、それをスチーム処理しても、本発明のゼオライトを得ることができない。
なお、CHA構造の有無は、前述の前駆体のX線回折パターンから判断できる。具体的には、前述の前駆体のX線回折パターンにCHA構造に由来する回折ピークがある場合、CHA構造を有すると判断できる。詳細な測定条件等は、後述する。
【0011】
前述の前駆体のケイバン比は、下記の範囲にある。
5≦ケイバン比
また、前述の前駆体のケイバン比は、下記の範囲にあることが好ましい。ケイバン比が7より低い場合、スチーム処理して得られる本発明のゼオライトの結晶度が低下するので好ましくない。また、ケイバン比が15より大きい場合、スチーム処理しても耐水熱性がそれほど向上しない。
7≦ケイバン比≦15
更に、前述の前駆体のケイバン比は、下記の範囲にあることが特に好ましい。ケイバン比がこの範囲にある前述の前駆体をスチーム処理すると、耐水熱性がより向上する。
7≦ケイバン比<10
なお、前述の前駆体のケイバン比は、前述の前駆体のSiおよびAlの含有量から算出することができる。具体的には、前駆体のSiおよびAlの質量パーセント濃度をそれぞれSiO2とAl2O3のモル濃度に換算して、SiO2のモル濃度をAl2O3のモル濃度で除して算出される。詳細な測定条件等は、後述する。
【0012】
前述の前駆体の結晶度は、下記の範囲にある。
100%≦結晶度
また、前述の前駆体の結晶度は、下記の範囲にあることが好ましい。
200%≦結晶度
結晶度が100%より低い前駆体をスチーム処理すると、得られる本発明のゼオライトの結晶度が低下するので、好ましくない。結晶度の低い本発明のゼオライトは、CHA構造に由来する細孔が十分に発達していないため、その細孔を利用する触媒反応や吸着反応に用いる場合、それぞれの性能が低下するため好ましくない。具体的には、その細孔を利用する触媒反応に使用する場合は、触媒活性や選択性が低下する。そして、その細孔を利用する吸着反応に使用する場合は、特定の化学物質を選択的に吸着できなかったり、吸着量が低下したりする。一方、結晶度が高い前述の前駆体をスチーム処理すると、得られる本発明のゼオライトの結晶度も高くなるので好ましい。
なお、前述の前駆体の結晶度は、本発明の前駆体と標準試料のX線回折パターンから算出される。具体的には、国際ゼオライト学会のHP(http://www.iza−online.org/synthesis/)又はWERIFIED SYNTHESES OF ZEOLITIC MATERIALS」H.Robson編、K.P.Lillerud XRD図:2001年発行、第2版、第123頁〜第125頁に記載されたChabaziteの合成方法に基づいて合成したCHA型ゼオライトを標準試料として、標準試料と前述の前駆体のX線回折パターンの特定のピークの高さの比から算出される。詳細な測定条件は、後述する。
【0013】
前述の前駆体の一次粒子のサイズは、下記の範囲にあることが好ましい。
0.05μm≦一次粒子のサイズ≦10μm
前述の前駆体の一次粒子のサイズが0.05μmより小さい場合、前述の前駆体の結晶度が100%より低くなる可能性があるため、好ましくない。また、スチーム処理によって前述の前駆体の結晶が破壊されやすくなるので、得られる本発明のゼオライトの結晶度が低下することがあり好ましくない。前述の前駆体の一次粒子サイズが10μmより大きい場合、結晶度が高くなりやすいので好ましい。しかし、一次粒子のサイズが10μmより大きい前述の前駆体は、合成することが困難である。
また、前述の前駆体の一次粒子のサイズは、下記の範囲にあることがより好ましい。
0.1μm≦一次粒子のサイズ≦5μm
一次粒子のサイズが上記の範囲にある前述の前駆体は、スチーム処理を行っても結晶が破壊されにくいので、得られる本発明のゼオライトの結晶度が高くなり好ましい。
なお、前述の一次粒子のサイズは、一次粒子を電子顕微鏡で観察して算出する。具体的には、電子顕微鏡写真から10個の一次粒子をランダムに抽出し、その一次粒子の長径の平均値を一次粒子のサイズとする。詳細な測定条件等は、後述する。
【0014】
前述の前駆体に含まれるナトリウムやカリウム等のアルカリ金属の含有量は、下記の範囲にあることが好ましい。
0ppm≦アルカリ金属≦5000ppm
前述の前駆体に含まれるアルカリ金属は、前述の前駆体の原料に由来するものであって、その多くがCHA型ゼオライトの陽イオンサイトにイオン交換された状態で存在している。前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの骨格中にアルカリ金属が多く含まれる状態でスチーム処理を行うと、理由は定かではないが、スチーム処理の効果が小さい。
これらのアルカリ金属は、前述の前駆体をHやNH3でイオン交換することで除去することができる。具体的には、HClやNH4NO3等が溶解した水溶液に前述の前駆体を浸漬することにより、アルカリ金属を除去できる。本発明の製造方法では、前述の前駆体をNH4NO3が溶解した水溶液でイオン交換することが好ましい。NH4NO3が溶解した水溶液で前述の前駆体をイオン交換すると、前述の前駆体の結晶度を低下させることなく、アルカリ金属を除去できる。
【0015】
前述の前駆体は、その結晶構造中にPを実質的に含まないことが好ましい。したがって、Pを結晶構造に含むCHA型ゼオライトの1種であるSAPO−34などは、前述の前駆体には含まれないことが好ましい。また、合成原料等に含まれるPが、前述の前駆体に残留する場合もある。このような場合は、1000ppm以下の含有量であれば、実質的に含んでいないと解してよい。
【0016】
前述のスチーム処理は、水分の含有量が飽和水蒸気量の50%以上の雰囲気下で前述の前駆体を加熱する工程である。
50%≦水分の含有量
前述の水分の含有量は、下記の範囲にあることが好ましい。
50%≦水分の含有量≦100%
水分の含有量が上記の範囲にある状態でスチーム処理を行うと、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造を過度に破壊せずに、結晶構造からAlの一部を除去できる。水分の含有量が、飽和水蒸気量の50%より低い場合、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが除去されにくくなり、得られる本発明のゼオライトの耐水熱性が向上しにくくなるので好ましくない。一方、水分の含有量が飽和水蒸気量より高い場合(すなわち、水分の含有量が100%を超える場合)、加熱温度にもよるが、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが急激に除去されて結晶構造がダメージを受け、得られる本発明のゼオライトの結晶度が低下する可能性があるので好ましくない。
【0017】
前述のスチーム処理の処理温度は、下記の範囲にある。
450℃≦処理温度≦800℃
前述の処理温度は、下記の範囲にあることが好ましい。
500℃≦処理温度≦675℃
前述の処理温度が上記の範囲にある状態でスチーム処理を行うと、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造を過度に破壊せずに、結晶構造からAlの一部を除去できる。前述の処理温度が、450℃より低い場合、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが除去されにくくなり、得られる本発明のゼオライトの耐水熱性が向上しにくくなるので好ましくない。一方、前述の処理温度が800℃より高い場合、前述の水分の含有量にもよるが、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが急激に除去されて結晶構造がダメージを受け、得られる本発明のゼオライトの結晶度が低下する可能性があるので好ましくない。前述の水分の含有量や、後述の処理時間を適切な範囲にコントロールして、ゆっくりとAlを除去することで、CHA型ゼオライトの結晶度を維持することができる。
【0018】
前述のスチーム処理における処理時間は、下記の範囲にあることが好ましい。
0.1hr≦処理時間≦48hr
前述の処理時間が、0.1hrより短い場合、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からAlが十分に除去されず、得られる本発明のゼオライトの耐水熱性が向上しにくくなるので好ましくない。一方、前述の加熱時間が48hrより長くても、前述の前駆体に含まれるCHA型ゼオライトの結晶構造からのAlの除去量は大きく変わらない。
なお、本発明におけるスチーム処理の処理時間とは、加熱温度に達してからの保持時間を指すものとする。
【0019】
前述のスチーム処理における雰囲気は、大気下で行ってもよく、窒素等の不活性雰囲気下で行ってもよい。また、これらの雰囲気を保つために、密閉容器内でスチーム処理を行ってもよく、大気や不活性ガスの流通下でスチーム処理を行ってもよい。更に、前述の雰囲気に水分を添加する方法は、水を気化してガスと混合する方法、反応容器に事前に水を仕込む方法、前駆体に水分を含ませた状態で仕込む方法等、水分を添加できる方法であればよい。
【0020】
前述のスチーム処理は、マッフル炉、環状炉、キルンといった従来公知の方法で実施することができ、いずれを用いても同様にスチーム処理をすることができる。
【0021】
前述の前駆体は、従来公知の製造方法で得られる。例えば、前述の特許文献1のように、Si原料、Al原料及び有機構造規定剤(SDA)を含む水溶液を水熱処理する方法で得ることができる。また、前述の特許文献2のように、FAU型ゼオライトとカリウム化合物を含む水溶液を水熱処理する方法で得ることもできる。後者の方法は、SDAを用いない点で、経済性に優れる。
【0022】
本発明のゼオライトは、スチーム処理によって結晶構造から除去されたAlが、結晶構造の外側に残留している。Alがどのような状態で存在しているかは不明であるが、Al2O3、Al(OH)3といった化合物の状態で存在しているものと考えられる。このような結晶構造の外側に残留しているAlは、例えば酸処理などの方法によって、必要によって除去することができる。具体的には、本発明のゼオライトを酸溶液に浸漬することで、結晶構造の外側に残留しているAlを除去することができる。
【0023】
[本発明のゼオライト]
本発明のゼオライトは、前述の本発明の製造方法により得られる。以下に、本発明のゼオライトについて、詳述する。
【0024】
本発明のゼオライトは、CHA型ゼオライトを含む。また、本発明のゼオライトは、スチーム処理によりCHA型ゼオライトの結晶構造からAlの一部が除去されているので、耐水熱性が高い。また、本発明のゼオライトは、ケイバン比と結晶度が前述の範囲にある前駆体をスチーム処理して得られるので、結晶度が高い。
【0025】
本発明のゼオライトに含まれるCHA型ゼオライトは、その結晶構造からSiと比較してイオン半径の大きいAlの一部が除去されているので、スチーム処理前と比較して、格子定数が小さくなる。具体的には、本発明のゼオライトの格子定数は、下記の範囲にある。
13.74Å≦格子定数
また、本発明のゼオライトの格子定数は、下記の範囲にあることが好ましい。
13.50Å≦格子定数≦13.72Å
格子定数が13.74Åより大きい本発明のゼオライトは、耐水熱性が低くなる可能性があるので好ましくない。耐水熱性が低いCHA型ゼオライトは、高温・高湿環境下で使用する触媒(例えば、NH3によるNOx除去反応用:NH3−SCR反応ともいう。)に用いた場合、CHA構造が破壊されるので、触媒活性が低下しやすくなる。
一方、格子定数が13.50Åより小さい本発明のゼオライトは、耐水熱性は高くなるものの、結晶度が低くなりやすいので好ましくない。また、格子定数が13.50Åより小さい本発明のゼオライトを吸着剤として使用する場合、結晶がかなり縮んだ状態のため、吸着する化合物が結晶構造内に拡散しにくくなるため好ましくない。更に、本発明のゼオライトは、必要によって、その陽イオンサイトをCuやFeなどの陽イオンで交換する場合があるが、格子定数が13.50Åより小さいと、これらの陽イオンが結晶構造内で拡散しにくくなるため、好ましくない。
なお、本発明のゼオライトの格子定数は、X線回折パターンから算出することができる。具体的には、本発明のゼオライトのX線回折パターンからCHA構造の(2−10)(3−1−1)面に帰属される回折ピークを探し、そのピークの2θの値から算出される。 詳細な測定条件等は、後述する。
【0026】
本発明のゼオライトは、Si及びAlを含む。本発明のゼオライトのSi及びAlの含有量は、酸化物換算(SiはSiO2換算、AlはAl2O3換算)で、下記の範囲にあることが好ましい。
80.5質量%≦Siの含有量≦90質量%
10質量%≦Alの含有量≦19.5質量%
なお、本発明のゼオライトのSi及びAlの含有量は、ICP発光分光分析法で測定することができる。詳細な測定方法は、後述する。
【0027】
本発明のゼオライトは、その結晶構造中にPを実質的に含まないことが好ましい。したがって、Pを結晶構造に含むCHA型ゼオライトの1種であるSAPO−34などは、本発明のゼオライトには含まれないことが好ましい。但し、必要によって、Pを結晶構造外に担持する場合はある。また、合成原料等に含まれるPが、本発明のゼオライトに残留する場合もある。このような場合は、1000ppm以下の含有量であれば、実質的に含んでいないと解してよい。
【0028】
本発明のゼオライトのケイバン比は、下記の範囲にあることが好ましい。
7≦ケイバン比<15
ケイバン比が上記の範囲にある本発明のゼオライトは、NH3−SCR反応に用いた場合、触媒活性と耐久性に優れる。なお、本発明のゼオライトのケイバン比の測定方法は、後述する。
【0029】
本発明のゼオライトの結晶度は、下記の範囲にある。
140% ≦ 結晶度
本発明のゼオライトの結晶度が低すぎると、CHA構造が十分に発達していないので、触媒として用いた場合に触媒活性が低くなるため好ましくない。また、本発明のゼオライトの結晶度は、下記の範囲にあることがより好ましい。
200% ≦ 結晶度 ≦ 300%
本発明のゼオライトの結晶度が上記の範囲にある場合、触媒として用いた場合に触媒活性が特に優れる。
【0030】
本発明のゼオライトの細孔容積(PV)は、下記の範囲にあることが好ましい。
0.2ml/g≦細孔容積≦0.4ml/g
細孔容積が上記の範囲にある本発明のゼオライトは、吸着剤として使用する場合、吸着量が増加するので好ましい。触媒として使用する場合も、触媒活性や選択性に優れる。
なお、細孔容積は、窒素吸着測定により得られる吸着等温線から算出される。詳細な測定条件は、後述する。
【0031】
本発明のゼオライトの比表面積は、下記の範囲にあることが好ましい。
350m2/g≦比表面積≦600m2/g
比表面積が低すぎると、触媒活性が低くなるため好ましくない。比表面積が600m2/gを超える本発明のゼオライトは、合成が困難である。
なお、比表面積は、窒素吸着測定により得られる吸着等温線から算出される。詳細な測定条件は、後述する。
【0032】
本発明のゼオライトは、前述の通り、スチーム処理によって多孔質化しているので、外表面積が高くなる傾向がある。本発明のゼオライトの外表面積は、下記の範囲にあることが好ましい。
7m2/g≦外表面積≦20m2/g
外表面積が大きい本発明のゼオライトは、触媒として用いた場合、触媒活性に優れる。
なお、外表面積は、窒素吸着測定により得られる吸着等温線から算出される。詳細な測定条件は、後述する。
【0033】
本発明のゼオライトの一次粒子のサイズは、下記の範囲にあることが好ましい。
0.05μm≦一次粒子のサイズ≦10μm
本発明のゼオライトの一次粒子のサイズが0.05μmより小さい場合、本発明のゼオライトの結晶度が100%より低くなる可能性があるため、好ましくない。また、一次粒子のサイズが小さいCHA型ゼオライトは、耐水熱性が低くなる傾向があるので、可能な限り一次粒子径の大きいものが好ましい。しかし、一次粒子のサイズが10μmより本発明のゼオライトは、合成することが困難である。
また、本発明のゼオライトの一次粒子のサイズは、下記の範囲にあることがより好ましい。
0.1μm≦一次粒子のサイズ≦5μm
一次粒子のサイズが上記の範囲にある本発明のゼオライトは、結晶度および耐水熱性が高くなるので好ましい。
なお、前述の一次粒子のサイズは、一次粒子を電子顕微鏡で観察して算出する。具体的には、電子顕微鏡写真から10個の一次粒子をランダムに抽出し、その一次粒子の長径の平均値を一次粒子のサイズとする。詳細な測定条件等は、後述する。
【0034】
本発明のゼオライトを吸着剤や触媒等に使用する場合、Sr、Cr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Re、Ir、Pt等の元素(添加元素)を、下記の範囲で含有していてもよい。
2質量%≦添加元素≦10質量%
また、上記の添加元素は、本発明のゼオライトの表面に担持されていてもよく、本発明のゼオライトのイオン交換サイトにイオン交換されていてもよい。上記の添加元素は、本発明のゼオライトの用途によって、前述の添加元素から適切に選択される。例えば、本発明のゼオライトを自動車の排気ガス中に含まれる窒素酸化物の還元のための触媒に用いる場合は、CuやFeを含むことが好ましく、CuやFeは、本発明のゼオライトのイオン交換サイトにイオン交換されていることがより好ましい。イオン交換サイトにCuやFeがイオン交換された本発明のゼオライトは、窒素酸化物の還元活性に優れる。本発明のゼオライトに上記の添加元素を担持する方法としては、従来公知のイオン交換法を用いることができる。また、本発明のゼオライトを上記の添加元素を含む溶液に浸漬したのち、蒸発乾固する方法を用いることもできる。更に、本発明のゼオライトを上記の添加元素を含む溶液に浸漬したのち、噴霧乾燥する方法を用いることもできる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
[前駆体(1)を準備する工程]
Al2O3濃度22質量%、Na2O濃度17質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液0.168kgを、NaOH濃度21.65質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.35kgに撹拌しながら加えて溶解し、30℃まで冷却した。この溶液を撹拌しながら、SiO2濃度24質量%、Na2O濃度7.7質量%の珪酸ナトリウム水溶液1.361kgに添加した。このときの溶液の組成は、酸化物モル比で、
Na2O/Al2O3=16
SiO2/Al2O3=15
H2O/Al2O3=330
であった。ついで、この溶液を30℃で15時間静置してアルミノシリケート溶液を調製した。
【0037】
SiO2濃度24質量%、Na2O濃度7.7質量%の珪酸ナトリウム水溶液22.78kgに水5.66kgとSiO2濃度30質量%シリカゾル(日揮触媒化成製:Cataloid SI−30:平均粒子径10nm)18.97kgと、前記アルミノシリケート溶液2.88kgを加え、攪拌混合した。これに、Al2O3濃度22質量%、Na2O濃度17質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液10.03kgを加え、室温で3時間攪拌熟成して、混合ヒドロゲルスラリーを調製した。このときの混合ヒドロゲルスラリーの組成は、酸化物モル比で、
Na2O/Al2O3=2.80
SiO2/Al2O3=8.70
H2O/Al2O3=108
であった。
【0038】
混合ヒドロゲルスラリー60.3kgを結晶化槽にて、95℃で35時間、水熱処理を行った。その後、70℃まで冷却し、濾過してNa−Y型ゼオライトのケーキ29.5kgを得た。得られたNa−Y型ゼオライトのケーキを、更に洗浄し、濾過し、乾燥してNa−Y型ゼオライトを調製した。
【0039】
Na−Y型ゼオライト500g、硫酸アンモニウム280gを含む水溶液5000gを80℃に昇温し、撹拌しながら2時間イオン交換した後、濾過し、洗浄し、乾燥し、550℃で5時間焼成した。更に、上記の条件でイオン交換、濾過、洗浄、乾燥の操作を2回行い、NH4イオン交換率95%の0.95(NH4)2O・0.05Na2O・Al2O3・5SiO2ゼオライト(NH4(95)Y型ゼオライトともいう。)を調製した。
【0040】
NH4(95)Y型ゼオライトを反応容器に充填し、反応容器内の水分の含有量が飽和水蒸気量の100%となるように水分を添加した。その後、600℃に昇温したのち、2時間保持することで、超安定性FAU型ゼオライトを調製した。
【0041】
この超安定性FAU型ゼオライト500gに、濃度25質量%の硫酸495gを0.5時間で滴下して脱アルミ処理を行い、ケイバン比9.0のFAU型ゼオライトを調製した。
【0042】
このFAU型ゼオライトの濃度が20質量%であるFAU型ゼオライトスラリーを調製し、ビーズミル(アシザワファインテック(株)製:LMZ015)で微細化処理を行った。このときの微細化条件は、ジルコニアビーズ0.5mm、周速10m/s、ビーズ充填量は体積換算で85%であった。微細化されたFAU型ゼオライトスラリー95gと水60gを混合し、ついで濃度95.5質量%のKOH5.5gを混合して、合成スラリーを調製した。合成スラリーを150℃で48時間水熱処理した。その後、水熱処理した合成スラリーを取出し、ろ過、洗浄、乾燥してCHA型ゼオライトを調製した。
【0043】
得られたCHA型ゼオライト100gを、硫酸アンモニウム100gを含む水溶液1000gへ添加し、60℃に昇温し、撹拌しながら1時間イオン交換した後、濾過し、洗浄し、乾燥した。さらに、上記の条件でイオン交換、濾過、洗浄、乾燥の操作を2回行い、NH4イオン交換率99%のCHA型ゼオライトを調製し、これを前駆体(1)とした。
【0044】
得られた前駆体(1)について、CHA構造の有無を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
[CHA構造の有無]
得られた前駆体(1)について、下記の条件でX線回折測定を行い、下記の判断基準からCHA構造の有無を判断した。
<X線回折測定条件>
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=50°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 10.000°/min
<判断基準>
上記測定により得られるX線回折パターンが、(100)、(200)、(20−1)、(21−1)、(211)、(3−1−1)、(310)、(3−1−2)のミラー指数に帰属されるピークをすべて有している場合、CHA構造を有していると判断する。
【0045】
得られた前駆体(1)について、ケイバン比を下記の方法で測定した。また、併せてアルカリ金属及びPの含有量も測定した。結果を表1に示す。
[ケイバン比の測定方法]
下記の条件でSi、Al、アルカリ金属及びPの含有量を測定した。各成分の含有量は、それぞれ酸化物に換算して質量%で算出した(SiはSiO2換算、AlはAl2O3換算、アルカリ金属はM2O換算:M=アルカリ金属、PはP2O5換算)。また、算出したSiO2とAl2O3の含有量をモル比に換算して、ケイバン比(SiO2/Al2O3)を算出した。
<SiO2、Al2O3、アルカリ金属及びPの含有量測定>
測定方法:ICP発光分析
装置 :ICP730−ES(株式会社VARIAN製)
試料溶解:酸溶解
【0046】
得られた前駆体(1)について、結晶度を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
[結晶度の測定方法]
国際ゼオライト学会のHP(http://www.iza−online.org/synthesis/)に記載されたChabaziteの合成方法に基づいて合成を行った。具体的には、198.2mlのイオン交換水と45質量%のKOH溶液を26.8ml混合した溶液に25.0gのケイバン比5.2のHY型ゼオライトを添加し、30秒間撹拌した。このスラリーを95℃で96時間結晶化した。得られたスラリーは500mlの水で2回洗浄した後、乾燥し、標準物質を得た。
上記の方法で得られた前駆体(1)と標準物質について、下記の条件でX線回折測定を行った。
<X線回折測定条件>
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=50°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 10.000°/min
上記のX線回折測定により得られたX線回折パターンから、ミラー指数(100)、(20−1)、(3−1−1)に帰属される各ピークの高さの合計値を求め、下記の式により結晶度を求めた。
結晶度[%]=H/HR ×100
H :前駆体(1)の上記の各ピークの高さの合計
HR:標準物質の上記の各ピーク高さの合計
【0047】
得られた前駆体(1)について、下記の条件で一次粒子サイズの測定を行った。結果を表1に示す。
[一次粒子サイズの測定条件]
得られた前駆体(1)について、下記の条件で電子顕微鏡観察を行った。なお、倍率は、一次粒子のサイズが確認できる倍率であれば、必ずしも下記の条件でなくともよい。得られた画像から、一次粒子のサイズを測定した。
<電子顕微鏡観察条件>
測定装置 日本電子 JEOL JSM−7600
加速電圧 1.0kV
倍率 20,000倍
<一次粒子のサイズの算出方法>
電子顕微鏡の画像から10個の一次粒子をランダムに抽出し、その一次粒子の長径の平均値を一次粒子のサイズとした。
【0048】
[実施例1]
前駆体(1)100gを反応容器に充填し、反応容器内の水分の含有量が飽和水蒸気量の100%となるように水分を添加した。その後、800℃に昇温したのち、20分保持して、CHA型ゼオライトを得た
【0049】
実施例1で得られたCHA型ゼオライトについて、前述の条件で、チャバザイト構造の有無、ケイバン比、一次粒子のサイズ及び結晶度を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
実施例1で得られたCHA型ゼオライトについて、下記の条件で格子定数の測定を測定した。結果を表2に示す。
[格子定数の測定方法]
<X線回折測定>
標準試料 酸化チタン(アナターゼ)
標準試料の混合比 CHA型ゼオライト:酸化チタン=5:1
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=50°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 10.000°/min
<格子定数の算出>
リガク製の統合粉末X線解析ソフトウェアPDXLに上記測定データを読み込ませて、デフォルトの条件でデータ処理を行った。次に、チャバザイト構造に帰属される空間群を指定し、ミラー指数(2−10)(3−1−1)を用いて格子定数(a軸の大きさ)を算出した。なお、前述の格子定数は、酸化チタンを標準試料として、角度を補正して算出した。
【0051】
実施例1で得られたCHA型ゼオライトについて、下記の条件で細孔容積および外表面積測定を行った。結果を表2に示す。
[細孔容積および外表面積測定方法]
測定方法 窒素吸着法
測定装置 BEL SORP−miniII(マイクロトラック・ベル株式会社製)
サンプル量 約0.05g
前処理 300℃、2時間(真空下)
相対圧範囲 0〜1.0
算出方法 全細孔容積:0.990
比表面積、外表面積:t−plot法
【0052】
実施例1で得られたCHA型ゼオライトについて、下記の条件で耐水熱性の評価を実施した。具体的には、実施例1で得られたCHA型ゼオライトを水蒸気処理し、水蒸気処理前と後のX線回折パターンのミラー指数(100)、(20−1)、(3−1−1)に帰属される各ピークの高さの合計値を比較して、結晶度維持率を算出し評価した。結果を表2に示す
[耐水熱性の評価方法]
実施例1で得られたCHA型ゼオライトを、下記の条件で水蒸気処理した。
<水蒸気処理条件>
装置 環状炉
温度 700℃
時間 3時間
ガス H2Oを1ml/minの速度で、環状炉に流通
水蒸気処理後のCHA型ゼオライトについて、前述の結晶度の測定方法と同じ方法で、実施例1で得られたCHA型ゼオライトのミラー指数(100)、(20−1)、(3−1−1)に帰属される各ピークの高さの合計値Hsteamを算出した。
<結晶度維持率の算出方法>
前述の実施例1の結晶度の測定で得られたHと前述の水蒸気処理後のHsteamを用いて、下記の式から算出した。
結晶度維持率[%]=Hsteam/H×100
【0053】
[実施例2]
前駆体(1)100gを反応容器に充填し、反応容器内の水分の含有量が飽和水蒸気量の100%となるように水分を添加した。その後、750℃に昇温したのち、20分保持して、CHA型ゼオライトを得た。また、得られたCHA型ゼオライトについて、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0054】
[実施例3]
前駆体(1)100gを反応容器に充填し、反応容器内の水分の含有量が飽和水蒸気量の100%となるように水分を添加した。その後、700℃に昇温したのち、20分保持して、CHA型ゼオライトを得た。また、得られたCHA型ゼオライトについて、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0055】
[実施例4]
前駆体(1)100gを反応容器に充填し、反応容器内の水分の含有量が飽和水蒸気量の100%となるように水分を添加した。その後、650℃に昇温したのち、20分保持して、CHA型ゼオライトを得た。また、得られたCHA型ゼオライトについて、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0056】
[実施例5]
前駆体(1)100gを反応容器に充填し、反応容器内の水分の含有量が飽和水蒸気量の100%となるように水分を添加した。その後、600℃に昇温したのち、20分保持して、CHA型ゼオライトを得た。また、得られたCHA型ゼオライトについて、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0057】
[実施例6]
前駆体(1)100gを反応容器に充填し、反応容器内の水分の含有量が飽和水蒸気量の100%となるように水分を添加した。その後、550°Cに昇温したのち、20分保持して、CHA型ゼオライトを得た。また、得られたCHA型ゼオライトについて、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0058】
[実施例7]
前駆体(1)100gを反応容器に充填し、反応容器内の水分の含有量が飽和水蒸気量の100%となるように水分を添加した。その後、500℃に昇温したのち、20分保持して、CHA型ゼオライトを得た。
【0059】
[比較例1]
前駆体(1)を比較例として、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0060】
[NH3−SCR反応評価]
本発明のゼオライトを触媒反応に用いた一例として、NH3−SCR反応評価を行った。具体的には、実施例6で得られたCHA型ゼオライトに、下記の条件でCuを担持した。
【0061】
実施例6で得られたCHA型ゼオライト10gを1mol/Lの硝酸銅3水和物溶液100gに懸濁し80℃に昇温し、撹拌しながら1時間イオン交換した後、ろ過、洗浄した。この操作をCu担持量が2質量%になるまで繰り返し、Cu−CHA型ゼオライトを得た。Cu−CHA型ゼオライトを従来公知の押出成形機を用いて、円柱状に押出成型した成型体(ペレット)もしくは顆粒状の触媒成型体を得た。
【0062】
次に、得られた前述の触媒成形体について、下記の条件でNH3−SCR反応評価を行った。結果を表3に示す。
<NH3−SCR反応評価条件>
反応装置 常圧固定床流通式反応管
触媒成形体 10cc
反応ガス NO:500ppm、NH3:500ppm、O2:10%、N2:バランス
反応ガス流量 6000cc/min
反応温度 150℃、200℃、300℃
<NOx除去率算出方法>
各反応温度において、定常状態になった時点における反応管入口のNOx濃度をCin、反応管出口のNOx濃度をCoutとして、下記の式から算出した。
NOx除去率[%]={(Cin−Cout)/Cin}×100
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)の工程を備えるチャバザイト型ゼオライトの製造方法。
(a)下記(1)(2)(3)の構成を備え、アルカリ金属含有量が0ppm〜5000ppmであり、結晶構造中にPを実質的に含まない前駆体を準備する工程
(1)チャバザイト構造を有する
(2)5≦ケイバン比≦15
(3)200%≦結晶度
(b)前述の前駆体を下記(4)(5)の構成を備える条件で、0.1hr以上、スチーム処理する工程
(4)50%≦水分の含有量≦100%
(5)450℃≦処理温度≦800℃
【請求項2】
下記(1)〜(4)の構成を備え、結晶構造中にPを実質的に含まず、一次粒子のサイズが0.05μm以上10μm以下のチャバザイト型ゼオライト。
(1)チャバザイト構造を有する
(2)Si及びAlを含み、Siの含有量が80.5質量%以上90質量%以下、Alの含有量が10質量%以上19.5質量%以下
(3)格子定数≦13.74Å
(4)140%≦結晶度
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-26 
出願番号 P2016-205715
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 851- YAA (C01B)
P 1 651・ 853- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
後藤 政博
登録日 2020-12-28 
登録番号 6817022
権利者 日揮触媒化成株式会社
発明の名称 高耐水熱性チャバザイト型ゼオライトおよびその製造方法  
代理人 右田 俊介  
代理人 高橋 政治  
代理人 右田 俊介  
代理人 高橋 政治  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ