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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1387493
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-02 
確定日 2022-05-19 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6826680号発明「全固体リチウムイオン電池用正極活物質、電極及び全固体リチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6826680号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3−15〕について訂正することを認める。 特許第6826680号の請求項1〜6、8〜15に係る特許を維持する。 特許第6826680号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6826680号の請求項1〜15に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年1月17日の出願であって、令和3年1月19日にその特許権の設定登録がなされ、同年2月3日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月2日付けで特許異議申立人金澤毅(以下、「申立人」という。)より請求項1〜15(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、同年10月25日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年12月14日に特許権者より意見書が提出され、令和4年1月28日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、同年3月30日に特許権者より意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、実質的に請求項を削除する訂正のみであるため、本件訂正について、申立人に対して意見を求めなかった。


第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6826680号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3〜15について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項3について、
「45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度Aと、リチウム金属複合酸化物の粉末のタップ密度Bとの比(A/B)が、1.80以上である、請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。」との記載を、
「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記リチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超え、
45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上であり、
45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度Aと、リチウム金属複合酸化物の粉末のタップ密度Bとの比(A/B)が、1.80以上である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。」と訂正する。
請求項3を引用する請求項4〜6、8〜15についても、同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項7を削除する。

(3)訂正事項3
請求項4について、本件訂正前の「請求項1〜3のいずれか1項」を「請求項3」と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項8について、本件訂正前の「請求項1〜7」を「請求項3〜6」と訂正する。

(5)訂正事項5
請求項9について、本件訂正前の「請求項1〜8」を「請求項3〜6、8」と訂正する。

(6)訂正事項6
請求項11について、本件訂正前の「請求項1〜8」を「請求項3〜6、8」と訂正する。

2 当審の判断
2−1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件訂正前の請求項3について、請求項1または2を引用していたものを、請求項2を引用する部分について削除するとともに、請求項1を引用する部分について、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項7を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件訂正前の請求項4について、引用する請求項を「請求項1〜3のいずれか1項」から請求項1、2を省き「請求項3」に変更するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、本件訂正前の請求項8について、引用する請求項を「請求項1〜7のいずれか1項」から請求項1、2を省いた上で、さらに、訂正事項2において訂正前の請求項7を削除することに伴い請求項7を省き、「請求項3〜6のいずれか1項」に変更するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、本件訂正前の請求項9について、引用する請求項を「請求項1〜8のいずれか1項」から請求項1、2を省いた上で、さらに、訂正事項2において訂正前の請求項7を削除することに伴い請求項7を省き、「請求項3〜6、8のいずれか1項」に変更するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、本件訂正前の請求項11について、引用する請求項を「請求項1〜8のいずれか1項」から請求項1、2を省いた上で、さらに、訂正事項2において訂正前の請求項7を削除することに伴い請求項7を省き、「請求項3〜6、8のいずれか1項」に変更するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

2−2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項4〜15は、請求項3を引用するものであって、請求項3の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項3〜15は、一群の請求項である。
そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔3〜15〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2−3 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和4年3月30日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔3〜15〕についての訂正を認める。


第3 特許異議申立てについて
1 本件発明
令和4年3月30日に特許権者が行った請求項3〜15についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜15に係る発明(以下、請求項1〜15に係る発明を、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明15」という。また、請求項1〜15に係る発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記リチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超え、
45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられる請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記リチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超え、
45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上であり、
45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度Aと、リチウム金属複合酸化物の粉末のタップ密度Bとの比(A/B)が、1.80以上である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
前記遷移金属が、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、V及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム金属複合酸化物は、下記に示す組成式(A)で表される請求項4に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
Li[Lix(Ni(1−y−z−w)CoyMnzMw)1−x]O2 組成式(A)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、−0.10≦x≦0.30、0<y≦0.40、0≦z≦0.40、及び0≦w≦0.10を満たす。)
【請求項6】
前記組成式(A)において1−y−z−w≧0.50、かつy≦0.30を満たす請求項5に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記粒子は、前記粒子の表面に金属複合酸化物からなる被覆層を有する請求項3〜6のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項3〜6、8のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を含む電極。
【請求項10】
固体電解質をさらに含む請求項9に記載の電極。
【請求項11】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された固体電解質層と、を有し、
前記固体電解質層は、第1の固体電解質を含み、
前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、
前記正極活物質層は、請求項3〜6、8のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質又は請求項9もしくは10に記載の電極を含む全固体リチウムイオン電池。
【請求項12】
前記正極活物質層は、前記全固体リチウムイオン電池用正極活物質と、第2の固体電解質とを含む請求項11に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項13】
前記第1の固体電解質と、前記第2の固体電解質とが同じ物質である請求項12に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項14】
前記第1の固体電解質は、非晶質構造を有する請求項11〜13のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項15】
前記第1の固体電解質は、酸化物固体電解質である請求項11〜14のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。」

2 令和4年1月28日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要
(1)特許法第36条第6項第1号について
請求項1には、「45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度Aと、リチウム金属複合酸化物の粉末のタップ密度Bとの比(A/B)が、1.80以上である」事項が特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第51頁第20行〜第52頁最後から4行)。

(2)特許法第36条第6項第2号について
請求項7の「粒子は、一次粒子と、前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記一次粒子及び前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である」との記載は、「単粒子の含有率」の定義が不明であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第53頁第23行〜第56頁第9行の一部)。

3 令和3年10月25日付けで通知された取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第1号について
上記2の(1)と同じ

(2)特許法第36条第6項第2号について
上記2の(2)と同じ

4 上記2、3以外の特許異議申立理由
申立人は、次の証拠方法により、上記2、3以外に以下の理由を申し立てている。

(証拠方法)
甲1:特開2018−172257号公報(以下、「甲1」という。)
甲2:特開2015−92454号公報(以下、「甲2」という。)
甲3:特開2015−76397号公報(以下、「甲3」という。)
甲4:国際公開第2019/244956号(以下、「甲4」という。)
甲5:特開2019−160571号公報(以下、「甲5」という。)
甲6:国際公開第2013/136488号(以下、「甲6」という。)
甲7:特開2016−27563号公報(以下、「甲7」という。)
甲8:特開2020−9596号公報(以下、「甲8」という。)
甲9:特開2019−192338号公報(以下、「甲9」という。)

(1)特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項(特許異議申立書第30頁第13行〜第47頁第9行)
ア 本件特許の請求項1、2、4〜6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

イ 本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、及び、周知技術または甲4に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

ウ 本件特許の請求項7〜9、11に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、甲4に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

エ 本件特許の請求項10、12〜15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、甲4に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 請求項1には、「遷移金属が、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、V及びWからなる群から選ばれる」事項が特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第47頁第12行〜第49頁最後から5行)。

イ 請求項1には、具体的な組成、回折ピークの積分強度比の上限値、プレス密度の上限値が特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第49頁最後から4行〜第51頁第19行)。

ウ 請求項1には、単粒子を所定の割合以上で含有する事項が特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第52頁最後から3行〜第53頁第21行)。

(3)特許法第36条第6項第2号について
請求項7の「粒子は、一次粒子と、前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記一次粒子及び前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である」との記載は、「単粒子の含有率」の測定方法が不明であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第53頁第23行〜第56頁第9行の一部)。

(4)特許法第36条第4項第1号について
本件明細書には、請求項1に係る発明を製造する具体的な方法が記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第56頁第11行〜第58頁第15行)。

5 本件明細書の記載事項
本件明細書には、次の記載がある。
「【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、正極活物質の利用率を向上させることができる全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供することを目的とする。また、このような全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極及び全固体リチウムイオン電池を提供することを併せて目的とする。
「正極活物質の利用率」とは、全固体電池の初期放電容量を、液系リチウム二次電池の初期放電容量で除した値を意味する。
「正極活物質の利用率の値が高い」とは、充電と放電に寄与できる正極材の割合が、液系リチウムイオン二次電池と同等又は近しいことを意味する。」
「【0016】
本実施形態の正極活物質は、以下の要件を満たす。
(要件1)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含む。
【0017】
(要件2)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超える。
【0018】
(要件3)45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上である。」
「【0082】
まず、本実施形態の正極活物質においては、要件1を満たすことで、リチウムイオンの挿入及び脱離を良好に行うことができる。
【0083】
また、本実施形態の正極活物質は、要件2〜3を満たす。全固体リチウムイオン二次電池の正極において、正極活物質は、正極活物質と固体電解質との間で、リチウムイオンの授受が行われる。
【0084】
要件2を満たす正極活物質は、リチウム金属複合酸化物結晶の層状構造が、積層方向に異方成長した結晶である。このような結晶は、結晶の側面から中心までの距離が要件2を満たさない結晶よりも短くなる。そのため、充電と放電に伴うリチウムの脱離と挿入が容易となる。
【0085】
これにより、本実施形態の正極活物質を全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合、正極活物質と固体電解質との間の界面形成が不十分であっても、正極活物質と固体電解質との間でリチウムイオンの授受が行われやすい。このため、充電と放電に寄与できる正極活物質の割合が増加すると考えられる。
【0086】
要件3を満たす正極活物質を用いると、正極活物質を高密度で充填した電極を得ることができる。この場合、電極内において、固体電解質と正極活物質との接触面積と、正極活物質同士の接触面積が増大する。接触面積が増大することは、液系リチウムイオン二次電池における、正極活物質と電解液との接触状態に近づくことを意味する。
【0087】
以上の理由から、要件1〜3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、正極活物質の利用率を液系リチウムイオン二次電池と同等又は近しい値にできる。これは、充電と放電に寄与できる正極材の割合が、液系リチウムイオン二次電池と同等又は近しいことを意味する。」
「【0182】
本実施形態において、焼成によって得たリチウム金属複合酸化物に適正な外力を加えて粉砕し、粒子の分散状態を調整することにより、前記要件(3)を本実施形態の範囲内に制御したリチウム金属複合酸化物を得ることができる。」
「【0185】
本実施形態においては、金属複合酸化物とリチウム化合物と混合する前に、不活性溶融剤を構成する化合物を粉砕することが好ましい。不活性溶融剤を構成する化合物を粉砕することにより、焼成工程における不活性溶融剤の液化ムラを低減でき、リチウム金属複合酸化物の粒子を均一に成長させることができる。均一に粒子成長したリチウム金属複合酸化物は粒子の形状が揃っているため、45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上である正極活物質が得られやすくなる。」
「【0216】
例えば、被覆原料にアルミニウムを用いる場合、600℃以上800℃以下の温度範囲で、4時間以上10時間以下焼成することが好ましい。この高温長時間の焼成条件で焼成することにより、上記要件2の範囲に制御できる。焼成温度が800℃よりも高い温度であると、被覆材原料がリチウム金属複合酸化物と固溶し、被覆層が形成されない場合がある。焼成時間が4時間よりも短いと被覆原料の拡散が不十分で、被覆層が均一に形成されない場合がある。」
「【実施例】
【0352】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0353】
<正極活物質の組成分析>
後述の方法で製造される正極活物質の組成分析は、得られた正極活物質の粒子を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0354】
<I003/I104の測定>
粉末X線回折測定は、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用いて行った。リチウム金属複合酸化物粉末を専用の基板に充填し、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード4°/minの条件にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。
統合粉末X線解析ソフトウェアJADEを用い、得られた粉末X線回折図形から、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003とを求め、その比(I003/I104)を算出した。
【0355】
<プレス密度の測定>
プレス密度は、図3に示すプレス密度測定装置40を用いて測定した。
【0356】
まず、治具41に治具42を嵌合させ、治具41にフランジ部422が接触した状態で、内部空間41aに測定対象の粉末Xを3g充填した。次いで、治具41に治具43を嵌合させ、栓部431の先端を粉末Xに接触させた。
【0357】
次いで、プレス機を用いて治具43に荷重Fを加え、治具43を介して内部空間41aの粉末Xに圧力を加えた。
【0358】
治具43が粉末Xに接触する接触面43Aの面積は177mm2であり、荷重Fは8kNとした。荷重Fは1分間かけた。
【0359】
荷重を停止し解放した後、治具43と、治具41との隙間Lxの長さを測定した。粉末Xの厚みを下記式(P1)により算出した。
粉末Xの厚み(mm)=LB+Lx−LA−LC ・・・(P1)
【0360】
式(P1)中、LBは、円筒状の治具41の高さである。LXは、治具41と、治具43との隙間の長さである。LAは、治具43の栓部431の高さである。LCは、治具42の栓部421の高さである。
【0361】
得られた粉末Xの厚みの厚みから、プレス密度Aを下記の式(P2)により算出した。
プレス密度A=粉末質量÷粉末体積 ・・・(P2)
【0362】
式(P2)中、粉末重量とは、図3に示す密度測定装置40に充填した粉末Xの質量(g)である。
式(P2)中、粉末体積とは、上記の式(P1)により算出した粉末Xの厚み(mm)と、治具43が粉末Xに接触する接触面43Aの面積との積である。
【0363】
<実施例1>
(正極活物質1の製造)
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0364】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.88:0.08:0.04となるように混合して、混合原料液1を調製した。
【0365】
次に、反応槽内に、攪拌下、混合原料液1と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが12.4(水溶液の液温が40℃のとき)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0366】
次に、硫酸カリウムを、ヤマト科学のユニバーサルボールミル(型式UB32)を用いて粉砕し、硫酸カリウムの粉砕物1を得た。
粉砕条件は、5Lポリタンクに硫酸カリウムを2kg仕込み、φ15mmのアルミナボールを5kg挿入して、ボールミル回転数を93rpmとして6時間粉砕した。
【0367】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1と、水酸化リチウム粉末と、硫酸カリウムの粉砕物1とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05、K2SO4/(LiOH+K2SO4)=0.1(mol/mol)となる割合で秤量して混合した後、酸素雰囲気下800℃で10時間焼成して、リチウム金属複合酸化物を含む混合物1を得た。
【0368】
混合物1と水温5℃の純水とを、混合物1と純水との合計量に対する混合物1の割合が30質量%となるように混合し、得られたスラリーを10分間撹拌した。
スラリーを脱水し、得られた固形物を、上記スラリーの調整に用いた混合物1の2倍の質量の水温5℃の純水ですすぐ、リンス工程を実施した。固形物を再度脱水し、80℃で15時間真空乾燥させた後、150℃で8時間真空乾燥させることで、正極活物質1を得た。
【0369】
(正極活物質1の評価)
正極活物質1の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であった。
【0370】
正極活物質1のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
【0371】
正極活物質1のプレス密度は2.96MPaであり、比I003/I104は1.29であった。
【0372】
<実施例2>
(正極活物質2の製造)
・・・(略)・・・
【0378】
(正極活物質2の評価)
正極活物質2の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.02、y=0.07、z=0.02、w=0であった。」
「【0381】
<比較例1>
(正極活物質E2の製造)
・・・(略)・・・
【0383】
(正極活物質E2の評価)
正極活物質E2の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.02、y=0.07、z=0.02、w=0であった。」
「【0386】
<比較例2>
(正極活物質4の製造)
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0387】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.55:0.20:0.25となる割合で混合して、混合原料液を調製した。
【0388】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが12.0(水溶液の液温が40℃のとき)となるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4を得た。
【0389】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子4と水酸化リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.02となる割合で秤量して混合した後、酸素雰囲気下で650℃で5時間焼成し、さらに大気雰囲気下970℃で4時間焼成し、さらに大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、得られた粉末を、超音波篩別することで、正極活物質4を得た。篩別条件は下記の通りとした。
【0390】
(篩別条件)
ARTECH ULTRASONIC SYSTEMS社製超音波発生器(型番:PNS35−50−S)により超音波振動(出力50W)を200mmステンレス製篩(目開き45μm)に与え手で濾しながら篩別した。
【0391】
(正極活物質4の評価)
正極活物質4の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.55、y=0.20、z=0.25、w=0であった。
【0392】
正極活物質4のSEM観察の結果、一次粒子と二次粒子とが含まれ、単粒子は含まれていなかった。
【0393】
正極活物質4のプレス密度は2.97MPaであり、比I003/I104は1.23であった。
【0394】
<全固体リチウムイオン二次電池の製造>
(正極活物質シートの製造)
前述した製造方法で得られる正極活物質と、Li3BO3とを正極活物質:Li3BO3=80:20(モル比)の組成になるように混合し、混合粉を得た。得られた混合粉に、樹脂バインダー(エチルセルロース)と、可塑剤(フタル酸ジオクチル)と、溶媒(アセトン)とを、混合粉:樹脂バインダー:可塑剤:溶媒=100:10:10:100(質量比)の組成となるように加え、遊星式攪拌・脱泡装置を用いて混合した。
【0395】
得られたスラリーを遊星式攪拌・脱泡装置を用いて脱泡し、正極合剤スラリーを得た。
【0396】
ドクターブレードを用い、得られた正極合剤スラリーをPETフィルム上に塗布して、塗膜を乾燥させて、厚さ50μmの正極膜を形成した。
【0397】
正極膜をPETフィルムから剥離して、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工し、さらに、正極膜の厚さ方向に20MPa、1分間一軸プレスすることで、厚さ40μmの正極活物質シートが得られた。正極活物質シートに含まれるLi3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質と接する固体電解質として機能する。また、Li3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質をつなぎとめるバインダーとして機能する。
【0398】
(全固体リチウムイオン電池の製造)
正極活物質シートと、Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12の固体電解質ペレット(株式会社豊島製作所製)とを積層し、積層方向と平行に一軸プレスして積層体を得た。用いた固体電解質ペレットは、直径15.0mm、厚み0.5mmであった。
【0399】
得られた積層体の正極活物質シートに、さらに正極集電体(金箔、厚さ500μm)を重ね、100gfで加圧した状態で、300℃で1時間加熱して有機分を焼失させた。さらに5℃/分で800℃まで昇温した後、800℃で1時間焼結して、固体電解質層と正極との積層体を得た。
【0400】
次いで、以下の操作をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0401】
固体電解質層と正極との積層体の固体電解質層に、さらに、負極(Li箔、厚さ300μm)、負極集電体(ステンレス板、厚さ50μm)、ウェーブワッシャー(ステンレス製)を重ねた。
【0402】
正極からウェーブワッシャーまで重ねた積層体について、正極をコイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋に置き、ウェーブワッシャーに重ねて上蓋をして、かしめ機でかしめることで、全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0403】
<初期放電容量>
上記の方法で作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施し、1サイクル目の放電容量を、初期放電容量として算出した。
・試験条件
試験温度25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流0.01CA、カットオフ電流0.002CA 定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流0.01CA、定電流放電
【0404】
<液系リチウム二次電池の製造>
(リチウム二次電池用正極の作製)
後述する製造方法で得られる正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0405】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm2とした。
【0406】
(リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製)
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0407】
(リチウム二次電池用正極の作製)で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置いた。
【0408】
ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPF6を1.0mol/lとなるように溶解したものを用いた。
【0409】
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
【0410】
<初期放電容量>
上記の方法で作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施し、1サイクル目の放電容量を、初期放電容量として算出した。
・サイクル試験条件
試験温度25℃
充電最大電圧4.2V、充電電流0.2CA、カットオフ電流0.05CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流0.2CA、定電流放電
【0411】
<正極材の利用率の算出>
全固体電池の初期放電容量を、液系リチウム二次電池の初期放電容量で除した値を「正極材利用率」として算出した。
【0412】
<評価結果>
評価結果を表1に示す。
【0413】
【表1】


【0414】
評価の結果、実施例1〜2の正極活物質を用いた全固体リチウムイオン電池は、いずれも高い正極材利用率を示した。
【0415】
以上より、本発明が有用であることが分かった。」

6 各甲号証の記載事項、及び、各甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、甲1に記載された発明の認定に関する箇所には、当審で下線を付した。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属複合酸化物の製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
・・・(略)・・・
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、水分を除去し、かつ、高い電力容量維持率を有するリチウム複合金属酸化物の製造方法を提供することを目的とする。」
「【0040】
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物粉末は下記組成式(I)で表されるα−NaFeO2型の結晶構造を有するものが好ましい。
Li[Lix(Ni(1−y−z−w)CoyMnzMw)1−x]O2 ・・・(I)
(式(I)中、0<x≦0.2、0<y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦w≦0.1、y+z+w<1、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」
「【0051】
(層状構造)
リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。」
「【0108】
<粉末X線回折測定>
粉末X線回折測定は、X線回折装置(PANalytical社製、X‘Pert PRO)を用いて行った。リチウム金属複合酸化物粉末を専用の基板に充填し、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、該粉末X線回折図形から2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅A及び、2θ=44.4±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Bを求め、A/Bを算出した。
半値幅Aの回折ピーク: 2θ=18.7±1°
半値幅Bの回折ピーク: 2θ=44.4±1°」
「【0100】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P2S5、Li2S−B2S3、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4、Li2S−GeS2−P2S5などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0101】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。」
「【0108】
<粉末X線回折測定>
粉末X線回折測定は、X線回折装置(PANalytical社製、X‘Pert PRO)を用いて行った。リチウム金属複合酸化物粉末を専用の基板に充填し、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、該粉末X線回折図形から2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅A及び、2θ=44.4±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Bを求め、A/Bを算出した。
半値幅Aの回折ピーク: 2θ=18.7±1°
半値幅Bの回折ピーク: 2θ=44.4±1°」
「【0110】
<リチウム二次電池用正極の作製>
後述する製造方法で得られるリチウム金属複合酸化物を正極活物質とし、該正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、リチウム二次電池用正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0111】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm2とした。
【0112】
<リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
「リチウム二次電池用正極の作製」で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層(厚み16μm))を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネート(以下、ECと称することがある。)とジメチルカーボネート(以下、DMCと称することがある。)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCと称することがある。)の30:35:35(体積比)混合液にLiPF6を1mol/lとなるように溶解したもの(以下、LiPF6/EC+DMC+EMCと表すことがある。)を用いた。
【0113】
負極としてリチウム金属を用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型電池R2032。以下、「コイン型ハーフセル」と称することがある。)を作製した。」
「【0140】
(実施例4)
リチウム複合金属酸化物4の製造
[ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物製造工程]
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0141】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液と硫酸アルミニウム水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とアルミニウム原子の原子比が90:7:2:1となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0142】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが12.0になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物4を得た。
【0143】
[混合工程]
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物4と水酸化リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn+Al)=1.07となるように秤量して混合した。
【0144】
[焼成工程]
その後、上記混合工程で得られた混合物を酸素雰囲気下820℃で6時間焼成し、焼成物4を得た。
【0145】
[洗浄工程]
その後、得られた焼成物4を水で洗浄した。洗浄工程は、焼成物4を、純水に加えて得られるスラリー状の液を10分間撹拌し、脱水することにより行った。
【0146】
[乾燥工程]
その後、乾燥工程で得られたウエットケーキを105℃で時間乾燥させ、リチウム複合金属酸化物洗浄乾燥粉4を得た。
【0147】
[熱処理工程]
上記乾燥工程後、リチウム複合金属酸化物洗浄乾燥粉4を、室温から、昇温速度170℃/時間で740℃まで昇温し、5時間熱処理し、リチウム複合金属酸化物4を得た。
【0148】
リチウム複合金属酸化物4の評価
得られたリチウム複合金属酸化物4の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.04、y=0.07、z=0.02、w=0.01であった。」
「【0156】
表2に、実施例1〜5、比較例1〜4の積分強度A、B、積分強度比(A/B)、BET比表面積をまとめて記載する。
【0157】
【表2】




(2)甲1に記載された発明
甲1の実施例4の正極活物質に注目すると、甲1(特に、【0040】、【0108】、【0110】、【0112】、【0143】、【0148】、【0157】参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「電解液を用いたリチウム二次電池用リチウム金属複合酸化物正極活物質であって、
下記組成式(I)式で表されるα−NaFeO2型の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物であり、
X線回折装置(PANalytical社製、X‘Pert PRO)を用いて行った粉末X線回折測定において、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて測定を行うことで得た粉末X線回折図形から、2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅A及び、2θ=44.4±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Bを求めて算出したA/Bが1.289である、正極活物質。
Li[Lix(Ni(1−y−z−w)CoyMnzMw)1−x]O2 ・・・(I)
(式(I)中、x=0.04、y=0.07、z=0.02、w=0.01、MはAlである。)」

(3)甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
「【0036】
また、充填密度は、正極活物質層を形成する際の活物質の充填性を評価するための指標である。充填密度が大きいほど活物質の充填性が向上しているため好適である。ある加圧力における充填密度は、正極活物質の単位体積当たりの質量である。1MPa加圧時の充填密度は、3.0g/cm3以上3.7g/cm3以下であることが好ましい。また、5MPa加圧時の充填密度が3.5g/cm3以上4.2g/cm3以下であることが好ましい。また、10MPa加圧時の充填密度が3.8g/cm3以上4.5g/cm3以下であることが好ましい。また、20MPa加圧時の充填密度が4.0g/cm3以上4.7g/cm3以下であることが好ましい。各加圧力において、上記下限値未満であると、正極活物質層における活物質の充填性が低く、エネルギー密度の低下、導電性の低下、及び活物質の滑落等の可能性がある。また、上記上限値より大きいと、正極活物質層における空隙が少なくなり、非水電解液を介したイオン拡散が困難になる場合がある。」
「【0072】
【表2】




(4)甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。
「【0059】
正極活物質は、1.0kgf/cm2の圧力で一軸プレスした際のプレス密度が、3.0〜3.5g/ccであることが好ましく、より好ましくは3.2〜3.4g/ccである。このような範囲のプレス密度は、電極形成した際に高密度であることを意味するため、体積エネルギー密度が高い正極活物質をもたらす。このプレス密度は、直径20mmの円筒ダイスに正極活物質を1.5g秤量し、1.0kgf/cm2の荷重で一軸プレスした後、(粉末重量)/(プレス後の粉末の嵩体積)を算出することによって決定することができる。」
「【0106】
【表1】


【0107】
【表2】




(5)甲4の記載事項
甲4には、次の記載がある。
「[0031]<リチウム遷移金属複合酸化物の組成>
本発明の一実施形態において、組成式Li1+αMe1−αO2(α>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物は、(1+α)/(1−α)で表される遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが、1より大きい、いわゆる「リチウム過剰型」である。前記Li/Meは、1.05以上が好ましく、1.10以上がより好ましい。また、1.40未満が好ましく、1.30以下がより好ましい。この範囲であると、正極活物質の放電容量が向上する。また、上記モル比Li/Meは、電位変化が平坦な領域における充電電気量をより大きくできる点で、1.15以上がより好ましく、1.20以上がさらに好ましい。」
「[0047]<リチウム遷移金属複合酸化物のプレス密度>
第一の実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、さらに、40MPaの圧力でプレスした際の密度(以下、「プレス密度」という。)が2.7g/cm3以上であることが好ましい。
プレス密度が2.7g/cm3以上であり、上記の組成を満たすことにより、電位変化が平坦な領域が終了するまでの充電過程を一度も経ないで製造し、且つ、電位変化が平坦な領域が終了するまでの充電を行わずに使用した場合の放電容量を大きくすることができるので好ましい。
なお、後述の比較例2−5に示すように、Li/Meが1.1でも、Mn/Meが0.4より小さい場合、及び比較例2−4に示すように、Li/Meが1.0である場合は、比較的低い電位範囲の放電容量は大きいものの、電位変化が平坦な領域が観察されない。」
「[0132]
[表2]




(6)甲5の記載事項
甲5には、次の記載がある。
「【0023】
≪単粒子数aと二次粒子数bとの存在割合≫
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、単粒子数aと、二次粒子数bが下記の要件(II)を満たす。
0.5<[a/(a+b)]<1.0 ・・・(II)
【0024】
本実施形態において、[a/(a+b)]は0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8を超えることが特に好ましい。[a/(a+b)]の上限値は特に限定されない。一例としては、0.99以下、0.95以下、0.9以下であってもよい。
本実施形態において、[a/(a+b)]が上記下限値以上であることにより、リチウム金属複合酸化物粉末全体に対して、単粒子の存在比率が多いリチウム金属複合酸化物粉末となる。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、粒界が少なく、正極材成形時の粒子割れが生じにくい。このためリチウム二次電池用正極活物質として用いた場合に、加圧に対する強度が高く、電極密度を高めることが可能となる。これにより、電池エネルギー密度を向上させることができる。
また、充放電時の膨張収縮による割れが生じにくい。このため、リチウム二次電池用正極活物質として用いた場合に、サイクル特性を向上させることができる。
【0025】
本実施形態において、[a/(a+b)]が上記上限値以下であることにより、二次粒子が存在し、電極作製時の充填量を増やすことができる。」
「【0118】
図2に、正極活物質1をSEM観察した結果を示す。図2に示すSEM写真には、一次粒子が凝集して形成された二次粒子が確認できた。また、この二次粒子とは独立に存在し、外観上粒界を有さない単粒子が確認できた。」

(7)甲6の記載事項
甲6には、次の記載がある。
「[請求項1]
活物質粒子と、前記活物質粒子の表面近傍に存在する第1の固体電解質粒子と、前記活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子とを含む固体電解質二次電池用電極であって、
前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である固体電解質二次電池用電極。」
「[0018]1)正極
正極は、集電体と、この集電体の少なくとも一方の表面に形成され、前述した活物質粒子、第1、第2の固体電解質粒子を含む正極層とを備える。第1の固体電解質粒子は、活物質粒子の表面近傍に存在し、第2の固体電解質粒子は活物質粒子間の間隙に存在する。第1の固体電解質粒子の粒径をD1、第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、粒径D1に対する粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である。」
「[0025]第1、第2の固体電解質は、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質が挙げられる。」
「[0056]3)固体電解質層
固体電解質は、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質が挙げられる。」

(8)甲7の記載事項
甲7には、次の記載がある。
「【0041】
[リチウム電池]
本形態のリチウム電池1は、図1の断面図で示されるリチウム電池1であり、正極2,負極3及び固体電解質層4を、電池ケース5に収容してなる。
【0042】
(正極)
正極2は、正極集電体20と、正極集電体20の表面に配された正極活物質を含む正極活物質層21と、を有する。正極活物質層21は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、導電材,固体電解質及び結着材のそれぞれも含有していても良い。
正極活物質層21は、正極活物質と導電材と結着材とを混合して得られた正極合材を正極集電体20の表面に塗布して形成される。
【0043】
正極2の正極活物質は、リチウムを吸蔵放出可能な活物質である。正極活物質は、従来のリチウム電池(リチウムイオン二次電池)の正極活物質を選択できる。正極活物質は、例えば、種々の酸化物、硫化物、リチウム含有酸化物、導電性高分子などを用いることができる。正極活物質は、リチウム−遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
【0044】
リチウム−遷移金属複合酸化物は、ポリアニオン構造のリチウム金属化合物(LiαM0βXηO4−γZγ)であることがより好ましい。(なお、M0:Mn,Co,Ni,Fe,Cu,Cr,Mg,Ca,Zn,Tiより選ばれる1種以上、X:P,As,Si,Mo,Geより選ばれる1種以上、Z:Al,Mg,Ca,Zn,Tiより選ばれる1種以上を任意で含有可能、0≦α≦2.0、0≦β≦1.5、1≦η≦1.5、0≦γ≦1.5)
【0045】
リチウム−遷移金属複合酸化物は、オリビン構造のリチウム−遷移金属複合酸化物であることが好ましい。このオリビン構造のリチウム−遷移金属複合酸化物としては、LiFePO4,LiFexMn1−xPO4(0≦x<1)を例示できる。
【0046】
正極活物質層21は、更に固体電解質を含有していても良い。固体電解質の添加により、正極活物質層21のLiイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物固体電解質及び硫化物固体電解質等をあげることができる。」
「【0076】
(固体電解質層)
固体電解質層74は、正極72及び負極73の間に介在し、上記した固体電解質を含む固体電解質層74を有する。固体電解質層74は、上記した固体電解質を含有するものであり、上記した固体電解質のみからなるものであっても、他の固体電解質を更に含有するものであっても、いずれでも良い。」

(9)甲8の記載事項
甲8には、次の記載がある。
「【0030】
(2)固体電解質
本実施形態における固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、硫化物固体電解質および酸化物固体電解質が挙げられる。
【0031】
酸化物固体電解質は、例えば、LiLaZrO(例えばLi7La3Zr2O12)、LiLaTiO(例えばLi0.34La0.51TiO3)、LiPON(Li2.9PO3.3N0.46)等を挙げることができる。
【0032】
硫化物固体電解質は、Li元素、P元素およびS元素を含有するイオン伝導体を含有することが好ましい。さらに、イオン伝導体は、PS43−をアニオン構造の主体として含有することが好ましい。「PS43−をアニオン構造の主体とする」とは、PS43−の割合が、イオン伝導体における全アニオン構造の中で最も多いことをいう。全アニオン構造におけるPS43−の割合は、例えば60mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、80mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。PS43−の割合は、例えば、ラマン分光法、NMR、XPSにより決定することができる。また、イオン伝導体のS元素の一部は、O元素に置換されていてもよい。
【0033】
硫化物固体電解質は、上記イオン伝導体に加えて、LiX(Xは、Cl、BrおよびIの少なくとも一種である)を含有することが好ましい。また、LiXの少なくとも一部は、LiXとしてイオン伝導体の構造中に取り込まれた状態で存在することが好ましい。硫化物固体電解質におけるLiXの割合は、例えば1mol%以上であり、10mol%以上であってもよい。一方、上記LiXの割合は、例えば50mol%以下であり、35mol%以下であってもよい。
【0034】
固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶質であってもよい。前者の一例としては、硫化物ガラスが挙げられ、後者の一例としては、結晶化硫化物ガラス(ガラスセラミックス)が挙げられる。」

(10)甲9の記載事項
甲9には、次の記載がある。
「【0033】
正極層中の固体電解質は、結晶性材料であっても良く、非晶性材料であっても良く、全固体電池に使用できるものであれば、特に制限はないが、Liイオンの伝導度が高い酸化物系非晶質固体電解質、硫化物系非晶質固体電解質、結晶質酸化物・窒化物等が好ましく用いられる。固体電解質は、例えばガラスであっても良く、結晶化ガラス(ガラスセラミックス)であっても良い。
酸化物系非晶質固体電解質としては、例えばLi2O−B2O3−P2O3、Li2O−SiO2等が挙げられ、硫化物系非晶質固体電解質としては、例えば、Li2S−SiS2、LiI−Li2S−SiS2、LiI−Li2S−P2S5、LiI−Li2S−P2O5、LiI−Li3PO4−P2S5、Li2S−P2S5、LiI−LiBr−Li2S−P2S5等が挙げられる。また、結晶質酸化物・窒化物等としては、LiI、Li3N、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3PO(4−3/2w)Nw(w<1)、Li3.6Si0.6P0.4O4等が挙げられる。」
「【0042】
2.固体電解質層
固体電解質層は、全固体電池の固体電解質層として機能するものであれば、特に制限はないが、通常、固体電解質を含み、必要に応じ、結着剤等の他の成分を含む。
固体電解質、結着剤の原料としては、正極層及び/又は合金系負極層で使用する材料と同様のものを用いることができる。
固体電解質層の平均厚さは、0.1μm〜300μmであることが好ましく、0.1μm〜100μmであることがより好ましい。」

7 当審の判断
(1)上記2の(1)及び上記3の(1)について(特許法第36条第6項第1号
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「正極活物質の利用率を向上させることができる全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供すること」、「また、このような全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極及び全固体リチウムイオン電池を提供すること」(【0009】)であると認められる。そして、「「正極活物質の利用率」とは、全固体電池の初期放電容量を、液系リチウム二次電池の初期放電容量で除した値を意味する。」(【0009】)

イ また、本件明細書には、「正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超える」(【0017】)との要件(以下、「要件2」という。)を満たす「正極活物質は、リチウム金属複合酸化物結晶の層状構造が、積層方向に異方成長した結晶である。このような結晶は、結晶の側面から中心までの距離が要件2を満たさない結晶よりも短くなる。そのため、充電と放電に伴うリチウムの脱離と挿入が容易となる。これにより、本実施形態の正極活物質を全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合、正極活物質と固体電解質との間の界面形成が不十分であっても、正極活物質と固体電解質との間でリチウムイオンの授受が行われやすい。このため、充電と放電に寄与できる正極活物質の割合が増加すると考えられる」(【0084】〜【0085】)と記載されている。

ウ さらに、本件明細書には、「45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上である」(【0018】)との要件(以下、「要件3」という。)を満たす「正極活物質を用いると、正極活物質を高密度で充填した電極を得ることができる。この場合、電極内において、固体電解質と正極活物質との接触面積と、正極活物質同士の接触面積が増大する。接触面積が増大することは、液系リチウムイオン二次電池における、正極活物質と電解液との接触状態に近づくことを意味する」(【0086】)と記載されている。

エ そして、本件明細書【0352】〜【0415】の実施例の記載において、要件2及び要件3を満たす実施例1、2の正極活物質は、上記アの課題を解決しており、要件2または要件3のいずれか一方しか満たさない比較例1、2の正極活物質は、上記アの課題を解決していない。

オ ここで、要件2及び3が、上記アの課題を解決するものであるか否かを、以下検討するに、まず要件2について検討する。

カ 特許権者は、令和4年3月30日付けの意見書において、次のとおり主張している。
「正極活物質表面における界面欠陥が生じる割合が要件2を満たす場合と満たさない場合とで同じとすれば、図1に示すように、要件2を満たす異方成長した正極活物質の方がLi+イオンの活物質への挿入可能な場所が多く存在しており、比較的スムーズにLi+イオンを固体電解質から挿入でき、Li+イオンを内部拡散させることができる。一方で要件2を満たさない正極活物質は、Li+イオンの挿入可能な場所が極端に少なくなり、正極活物質内の結晶中心への距離の長さも相まって、正極活物質内部のLi+イオンの拡散抵抗が大きくなるだけでなく、固体電解質から正極活物質へのLi+イオンの挿入の抵抗も大きくなる。



図1

よって、要件2の効果(「積層方向に異方成長した結晶である」ため「結晶の側面から中心までの距離が要件2を満たさない結晶よりも短くなり」、「充電と放電にともなうリチウムの脱離と挿入が容易となる」)は、界面欠陥が発生しやすい全固体電池において、液系電池に近い放電容量を維持するために重要な要素である。
したがって、要件2は、正極材利用率(=全固体電池容量÷液系電池容量)の向上に大きく寄与するものである。」(第8頁第25行〜第9頁第6行)

キ 確かに、全固体リチウムイオン電池の場合、正極活物質と固体電解質との間の界面形成が不十分であるところ、要件2を満たす異方成長した正極活物質は、Li+イオンの活物質への挿入可能な場所が多く存在しており、比較的スムーズにLi+イオンを固体電解質から挿入でき、Li+イオンを内部拡散させることができる一方で、要件2を満たさない正極活物質は、Li+イオンの挿入可能な場所が極端に少なくなり、正極活物質内の結晶中心への距離の長さも相まって、正極活物質内部のLi+イオンの拡散抵抗が大きくなるだけでなく、固体電解質から正極活物質へのLi+イオンの挿入の抵抗も大きくなる。

ク そうすると、要件2は、上記アの課題解決に寄与するものであるといえる。

ケ 次に、要件3について検討する。

コ 本件明細書の記載によれば、「要件3を満たす正極活物質を用いると、正極活物質を高密度で充填した電極を得ることができ」、「電極内において、固体電解質と正極活物質との接触面積」が「増大」し、「液系リチウムイオン二次電池における、正極活物質と電解液との接触状態に近づくことを意味する。」(【0086】)

サ 上記コによれば、要件3を満たすことにより、固体電解質と正極活物質との接触面積が増大し、液系リチウムイオン二次電池における、正極活物質と電解液との接触状態に近づくから、要件3は、上記アの課題解決に寄与するものであるといえる。

シ そして、本件明細書の実施例(【0352】〜【0415】)の記載によれば、要件2、3を満たす実施例1、2の正極活物質は、正極材利用率がそれぞれ81.9%、59.16%であって、上記アの課題を解決するものである一方で、要件2を満たすものの要件3を満たさない比較例1、及び、要件3を満たすものの要件2を満たさない比較例2の正極活物質は、正極材利用率がそれぞれ19.15%、6.35%であって、上記アの課題を解決するものとはいえない。

ス そうすると、要件2及び要件3を含む、本件発明1は、上記アの課題を解決するものであるといえるから、「45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度Aと、リチウム金属複合酸化物の粉末のタップ密度Bとの比(A/B)が、1.80以上である」事項が特定されていなくても、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

セ また、本件発明3は、要件2及び要件3に加えて、「45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度Aと、リチウム金属複合酸化物の粉末のタップ密度Bとの比(A/B)が、1.80以上である」事項も特定されているから、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

ソ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2、並びに、請求項3及びそれを引用する請求項4〜6、8〜15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(2)上記2の(2)及び上記3の(2)について(特許法第36条第6項第2号
ア 本件訂正前の請求項7には、「粒子は、一次粒子と、前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記一次粒子および前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である」と記載されていた。

イ そして、上記アの「単粒子の含有率」について、どのような算出法に基づく含有率を採用するのかが、本件明細書の記載や、本件出願時の技術常識を考慮しても、不明であった。

ウ しかしながら、本件訂正により、請求項7は削除され、同時に上記アの「単粒子の含有率」との記載もなくなった。

エ よって、本取消理由及び特許異議申立理由は、解消された。

(3)上記4の(1)のア〜エついて(特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項)
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。

イ 甲1発明の「下記組成式(1)で表される下記組成式(I)式で表されるα−NaFeO2型の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物であ」る事項は、本件発明1の「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる」「リチウムイオン電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有」する事項に相当する。
「 Li[Lix(Ni(1−y−z−w)CoyMnzMw)1−x]O2 ・・・(I)
(式(I)中、x=0.04、y=0.07、z=0.02、w=0.01、MはAlである。)」

ウ 甲1発明の「X線回折装置(PANalytical社製、X‘Pert PRO)を用いて行った粉末X線回折測定において、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて測定を行うことで得た粉末X線回折図形から、2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅A及び、2θ=44.4±1°の範囲内の回折ピークの半値幅Bを求めて算出したA/Bが1.289である」事項は、本件発明1の「リチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超え」る事項に相当する。

エ そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなるリチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記リチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超える、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「全固体」電池用であるのに対し、甲1発明は、「電解液を用いた」電池用である点。

(相違点2)
「45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度」が、本件発明1は、「2.90g/cm3以上である」の対し、甲1発明は、当該プレス密度が不明である点。

オ まず、相違点1について、検討する。

カ 本件発明1は、上記(1)でも検討したように、本件発明1は、「正極活物質の利用率を向上させることができる」(【0009】)という効果、すなわち、「全固体電池の初期放電容量を、液系リチウム二次電池の初期放電容量で除した値」(【0009】)を向上させることができるという効果を奏するものであって、「全固体」電池用であるか、「電解液を用いた」電池用であるかは、当該効果からみて重要かつ大きな相違であるといえる。

キ そうすると、相違点1は、実質的な相違点である。

ク 次に、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことか否かを検討する。

ケ 甲1には、「上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい」(【0100】)と記載されている。

コ そうすると、「電解液を用いた」甲1発明において、その「電解液」に代えて、「固体電解質」を用いる動機があるといえる。

サ しかしながら、本件発明1は、上記カの効果を奏するものであって、上記カの効果は、甲1発明及び甲1に記載された事項から予測することができないし、また、申立人が提出した甲2〜甲9、及び、周知技術を参酌してもこの結論に変わりはない。

シ したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ス よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2〜甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

セ また、本件発明2〜6、8〜15は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであって、本件発明2〜6、8〜15と甲1発明とは、少なくとも相違点1で相違する。

ソ そうすると、上記ア〜スで検討した理由と同様の理由により、本件発明2、4〜6、8、9、11は、甲1発明ではないし、本件発明2〜6、8〜15は、甲1発明及び甲2〜甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)上記4の(2)のア〜ウについて(特許法第36条第6項第1号
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)のアのとおりである。

イ そして、上記(1)で検討したとおり、要件2及び要件3は上記(1)のアの課題解決に寄与するものであるから、本件発明1及び3は、いずれも要件2及び要件3を備えることにより、上記(1)のアの課題を解決するものである。

ウ そうすると、本件発明1及び3に、「遷移金属が、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、V及びWからなる群から選ばれる」事項、具体的な組成、回折ピークの強度比の上限値、プレス密度の上限値、単粒子を所定の割合以上で含有する事項が特定されていなくても、本件発明1及び3は、要件2及び要件3を備えるから、上記(1)のアの課題を解決するものである。

エ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2、並びに、請求項3及びそれを引用する請求項4〜6、8〜15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

オ なお、申立人は、特許異議申立書において、「回折ピークの積分強度比や、プレス密度については上限値が特定されていないために、課題を解決できない範囲や、現実的に取り得ない値までをも包含している」(第51頁第4〜6行)と主張している。

カ しかしながら、上記(1)で検討したとおり、本件発明1及び3は、要件2及び要件3を備えることにより、「正極活物質の利用率を向上させる」(当審注:下線は当審で付した。)という本件発明の課題を解決するものであるし、また、「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」の発明であるから、「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」として、現実的に取り得ない態様が排除されていることも明らかである。

キ よって、申立人の主張には理由がない。

(5)上記4の(3)について(特許法第36条第6項第2号
ア 本件訂正前の請求項7には、「粒子は、一次粒子と、前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記一次粒子及び前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である」との記載があった。

イ そして、本件明細書の記載を参酌しても、「単粒子の含有率」の測定方法が不明であるというのが本特許異議申立理由である。

ウ しかしながら、本件訂正により請求項7は削除され、同時に上記アの「単粒子の含有率」との記載もなくなった。

エ よって、本特許異議申立理由は解消された。

(6)上記4の(4)について(特許法第36条第4項第1号
ア 本件発明1及び3は、「リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有」する事項(以下、「要件1」という。)、要件2及び要件3を含むものである。

イ そして、本件明細書には、「例えば、被覆原料にアルミニウムを用いる場合、600℃以上800℃以下の温度範囲で、4時間以上10時間以下焼成することが好ましい。この高温長時間の焼成条件で焼成することにより、上記要件2の範囲に制御できる」(【0216】)と、要件2の範囲に制御できる条件が記載されている。

ウ また、本件明細書の実施例1は、当該焼成を「酸素雰囲気下800℃で10時間焼成し」(【0367】)、実施例2は、「酸素雰囲気下790℃で10時間焼成し」(【0374】)て、要件2を備えた正極活物質を得ている。

エ さらに、本件明細書には、「焼成によって得たリチウム金属複合酸化物に適正な外力を加えて粉砕し、粒子の分散状態を調整することにより、前記要件(3)を本実施形態の範囲内に制御したリチウム金属複合酸化物を得ることができる」(【0182】)と記載され、また、「金属複合酸化物とリチウム化合物と混合する前に、不活性溶融剤を構成する化合物を粉砕することが好ましい。不活性溶融剤を構成する化合物を粉砕することにより、焼成工程における不活性溶融剤の液化ムラを低減でき、リチウム金属複合酸化物の粒子を均一に成長させることができる。均一に粒子成長したリチウム金属複合酸化物は粒子の形状が揃っているため、45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上である正極活物質が得られやすくなる」(【0185】)、すなわち、要件3を満たす正極活物質が得られやすくなることが記載されている。

オ また、要件1は、リチウム金属複合酸化物の組成を調整することにより得られることが明らかである。

カ そうすると、要件1、要件2及び要件3を得る条件は、上記ア〜エのとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1及び3について、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

キ また、同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2、4〜6、8〜15について、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

8 むすび
以上のとおり、本件の請求項1〜6、8〜15に係る特許は、令和4年1月28日付けで通知された取消理由に記載した取消理由(決定の予告)、令和3年10月25日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1〜6、8〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項7は、本件訂正により削除されたから、本件の請求項7に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記リチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超え、
45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられる請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記リチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.4±1°の範囲の回折ピークの積分強度I104と、2θ=18.5±1°の範囲内の回折ピークの積分強度I003との比I003/I104が1.23を超え、
45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度が2.90g/cm3以上であり、
45MPaの圧力で全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮したときのプレス密度Aと、リチウム金属複合酸化物の粉末のタップ密度Bとの比(A/B)が、1.80以上である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
前記遷移金属が、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、V及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム金属複合酸化物は、下記に示す組成式(A)で表される請求項4に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
Li[Lix(Ni(1−y−z−w)CoyMnzMw)1−x]O2 組成式(A)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、−0.10≦x≦0.30、0<y≦0.40、0≦z≦0.40、及び0≦w≦0.10を満たす。)
【請求項6】
前記組成式(A)において1−y−z−w≧0.50、かつy≦0.30を満たす請求項5に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記粒子は、前記粒子の表面に金属複合酸化物からなる被覆層を有する請求項3〜6のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項3〜6、8のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を含む電極。
【請求項10】
固体電解質をさらに含む請求項9に記載の電極。
【請求項11】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された固体電解質層と、を有し、
前記固体電解質層は、第1の固体電解質を含み、
前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、
前記正極活物質層は、請求項3〜6、8のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質又は請求項9もしくは10に記載の電極を含む全固体リチウムイオン電池。
【請求項12】
前記正極活物質層は、前記全固体リチウムイオン電池用正極活物質と、第2の固体電解質とを含む請求項11に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項13】
前記第1の固体電解質と、前記第2の固体電解質とが同じ物質である請求項12に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項14】
前記第1の固体電解質は、非晶質構造を有する請求項11〜13のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項15】
前記第1の固体電解質は、酸化物固体電解質である請求項11〜14のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-09 
出願番号 P2020-006338
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 土屋 知久
市川 篤
登録日 2021-01-19 
登録番号 6826680
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 全固体リチウムイオン電池用正極活物質、電極及び全固体リチウムイオン電池  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 加藤 広之  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 加藤 広之  
代理人 佐藤 彰雄  

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