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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B23K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B23K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B23K |
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管理番号 | 1387494 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-08-04 |
確定日 | 2022-05-13 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6829699号発明「耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ及びこれによって得られる溶着金属」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6829699号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。 特許第6829699号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6829699号(請求項の数10。以下,「本件特許」という。)は,平成30年2月21日(パリ条約による優先権主張:2017年10月27日,韓国(KR))を出願日とする特許出願(特願2018−28765号)に係るものであって,令和3年1月26日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和3年2月10日である。)。 その後,令和3年8月4日に,本件特許の請求項1〜10に係る特許に対して,特許異議申立人である後藤麻衣子(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。 本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。 令和3年 8月 4日提出 特許異議申立書 10月25日付け 取消理由通知書 令和4年 1月25日提出 意見書,訂正請求書 1月31日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知) なお,令和4年1月31日付けの通知書(訂正請求があった旨の通知)に対して,申立人から意見書は提出されなかった。 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 令和4年1月25日提出の訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1〜5について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「Si:0.001〜0.1%,」と記載されているのを,「Si:0.001〜0.04%,」に訂正する。 (2)一群の請求項について 訂正前の請求項1〜5について,請求項2〜5は,請求項1を直接引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1〜5は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における「Si」の含有量について,「Si:0.001〜0.1%,」を「Si:0.001〜0.04%,」とするものである。 この訂正は,溶接用ワイヤにおける「Si」の含有量について,「0.001〜0.1%」を「0.001〜0.04%」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「訂正前明細書等」という。)には,溶接用ワイヤの具体例として,Siを0.04%含有するもの(表3の発明例11)が記載されており,訂正前明細書等には,Siの含有量が0.001〜0.04%であることが記載されているといえるから,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2)独立特許要件について 本件においては,訂正前の全ての請求項1〜10について特許異議の申立てがされているので,特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。 3 まとめ 上記2のとおり,訂正事項1に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。 第3 本件発明 前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1〜10に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 【請求項1】 重量%で,C:0.001〜0.30%,Si:0.001〜0.04%,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Ni:0.001〜0.900%,Cr:0.001〜0.100%,Mo:0.001〜0.500%,及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上をさらに含み,残部Fe及び不可避不純物からなる,耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項2】 前記溶接用ワイヤは,Si2/Mnの含有量比が0.015以下を満たす,請求項1に記載の耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項3】 前記溶接用ワイヤは,Ti:0.50%以下,Al:0.50%以下,Nb:0.50%以下,V:0.10%以下,及びZr:0.10%以下のうち選択された1種以上をさらに含む,請求項1に記載の耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項4】 前記溶接用ワイヤは,B:0.01%以下またはREM:0.50%以下をさらに含む,請求項1に記載の耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項5】 前記溶接用ワイヤは,ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤである,請求項1に記載の耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項6】 溶接母材を,重量%で,C:0.001〜0.30%,Si:0.001〜0.1%,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Ni:0.001〜0.900%,Cr:0.001〜0.100%,Mo:0.001〜0.500%,及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上をさらに含み,残部Fe及び不可避不純物からなる溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる溶着金属であって, 前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており, 前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である,電着塗装性に優れた溶着金属。 【請求項7】 前記溶接用ワイヤは,Si2/Mnの含有量比が0.015以下を満たす,請求項6に記載の電着塗装性に優れた溶着金属。 【請求項8】 前記溶接用ワイヤは,Ti:0.50%以下,Al:0.50%以下,Nb:0.50%以下,V:0.10%以下,及びZr:0.10%以下のうち選択された1種以上をさらに含む,請求項6に記載の電着塗装性に優れた溶着金属。 【請求項9】 前記溶接用ワイヤは,B:0.01%以下またはREM:0.50%以下をさらに含む,請求項6に記載の電着塗装性に優れた溶着金属。 【請求項10】 前記溶接用ワイヤは,ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤである,請求項6に記載の電着塗装性に優れた溶着金属。 第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要 1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由 本件特許の請求項1〜10に係る特許は,下記(1)〜(9)のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,甲第1号証〜甲第5号証(以下,単に「甲1」等という。下記(10)を参照。)である。 (1)申立理由1−1(新規性) 本件訂正前の請求項1,2及び5に係る発明は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,2及び5に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (2)申立理由1−2(新規性) 本件訂正前の請求項1,2及び5に係る発明は,甲2に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,2及び5に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (3)申立理由1−3(新規性) 本件訂正前の請求項1〜5に係る発明は,甲3に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1〜5に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (4)申立理由1−4(新規性) 本件訂正前の請求項3に係る発明は,甲4に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (5)申立理由2−1(進歩性) 本件訂正前の請求項1,2,4及び5に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,2,4及び5に係る特許は,同法113条2号に該当する。 本件訂正前の請求項6,7,9及び10に係る発明は,甲1に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項6,7,9及び10に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (6)申立理由2−2(進歩性) 本件訂正前の請求項1,2,4及び5に係る発明は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,2,4及び5に係る特許は,同法113条2号に該当する。 本件訂正前の請求項6,7,9及び10に係る発明は,甲2に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項6,7,9及び10に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (7)申立理由2−3(進歩性) 本件訂正前の請求項1〜5に係る発明は,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1〜5に係る特許は,同法113条2号に該当する。 本件訂正前の請求項6〜10に係る発明は,甲3に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項6〜10に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (8)申立理由2−4(進歩性) 本件訂正前の請求項3に係る発明は,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。 本件訂正前の請求項8に係る発明は,甲4に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項8に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (9)申立理由3(サポート要件) 本件訂正前の請求項1〜10に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1〜10に係る特許は,同法113条4号に該当する。 (10)証拠方法 ・甲1 特開2015−100813号公報 ・甲2 特開平7−232294号公報 ・甲3 特開平8−25080号公報 ・甲4 特開2008−207211号公報 ・甲5 特開平8−33997号公報 2 取消理由通知書に記載した取消理由 (1)取消理由1(新規性) 上記1(1)の申立理由1−1(新規性)と同旨。 (2)取消理由2(新規性) 上記1(3)の申立理由1−3(新規性)(うち,本件訂正前の請求項1〜3及び5に対するもの。)と同旨。 第5 当審の判断 以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 1 取消理由1(新規性),申立理由1−1(新規性),申立理由2−1(進歩性) (1)甲1に記載された発明 甲1の記載(請求項1,【0004】,【0009】,【0011】,【0014】,【0024】〜【0030】,表1〜3,図1)によれば,特に,請求項1,【0024】,表1〜3,図1の記載のほか,比較例W13(表1,3)に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「溶融プールとコンタクトチップ間でワイヤの送給および通電制御をする溶接に用いる薄鋼板のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいて,ワイヤ全質量に対する質量%で, C:0.12%, Si:0.08%, Mn:2.00%, Cu:0.28%を含有し, P:0.013%, S:0.007%で, 残部Feおよび不可避的不純物からなり,下記式に示すAの値が33.8である,薄鋼板のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。 A=(Mn+S×102)/Si・・・式 (但し,それぞれの成分は,ワイヤ全質量に対する質量%を示す。)」(以下,「甲1発明1」という。) 「JIS G3131 SPCCの板厚0.5mm,長さ200mmの鋼板(上板)と,同板厚0.8mm,長さ200mmの鋼板(下板)を,ワイヤ径1.0mmのガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを用いて,ガス成分が80%Ar+20%CO2,チップ母材間距離が12mm,トーチ角度が60°,溶接速度が20〜80cm/min,平均溶接電流が60〜150A,アーク電圧が12〜16Vで,CMT溶接法により溶接した横向重ね継手であって, ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤが,ワイヤ全質量に対する質量%で, C:0.12%, Si:0.08%, Mn:2.00%, Cu:0.28%を含有し, P:0.013%, S:0.007%で, 残部Feおよび不可避的不純物からなり,下記式に示すAの値が33.8である,ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤである,横向重ね継手。 A=(Mn+S×102)/Si・・・式 (但し,それぞれの成分は,ワイヤ全質量に対する質量%を示す。)」(以下,「甲1発明2」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明1とを対比する。 (ア)甲1発明1における「薄鋼板のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ」は,本件発明1における「溶接用ワイヤ」に相当する。 (イ)本件発明1における溶接用ワイヤの組成と,甲1発明1における薄鋼板のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの組成とは,C,Si,Mn,P,S,Cuを含み,残部Fe及び不可避不純物からなる点で共通し,また,前者における「重量%」と後者における「質量%」は同視できるから,Si以外の,C,Mn,P,S,Cuの各成分の含有量も重複一致する。 (ウ)以上によれば,本件発明1と甲1発明1とは, 「重量%で,C:0.001〜0.30%,Si,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Ni:0.001〜0.900%,Cr:0.001〜0.100%,Mo:0.001〜0.500%,及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上をさらに含み,残部Fe及び不可避不純物からなる,溶接用ワイヤ。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点1−1 Siの含有量が,本件発明1では,「0.001〜0.04%」であるのに対して,甲1発明1では,「0.08%」である点。 ・相違点1−2 溶接用ワイヤが,本件発明1では,「極低シリコン」であるのに対して,甲1発明1では,「極低シリコン」であるかどうか不明である点。 ・相違点1−3 溶接用ワイヤが,本件発明1では,「耐気孔性及び電着塗装性に優れた」ものであるのに対して,甲1発明1では,「耐気孔性及び電着塗装性に優れた」ものであるかどうか不明である点。 イ 相違点1−1の検討 (ア)まず,相違点1−1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 甲1発明1は,甲1における比較例W13に着目して認定したものであるところ,Siの含有量は「0.08%」であり,本件発明1における「0.001〜0.04%」とは異なるものである。 以上によれば,相違点1−1は実質的な相違点である。 したがって,相違点1−2,1−3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。 (イ)次に,相違点1−1の容易想到性について検討する。 a 甲1には,薄鋼板のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいて,Siの含有量を「0.1〜0.3%」とすることは記載されているものの(請求項1,【0017】),Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることは記載されていない。甲1には,甲1発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることを動機付ける記載は見当たらない。むしろ,甲1には,「Siが0.1%未満」では,「低電流域のアークが不安定になりアーク切れが発生する」ことが記載されており(【0017】),当該記載は,甲1発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることを阻害するものといえる。 b 甲3には,溶接用ソリッドワイヤにおいて,Siの含有量を「0.05乃至2.00重量%」とすることが記載されているが(請求項1,【0018】),当該記載から,甲1発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることが動機付けられるとはいえない。 また,甲3の表2には,Siの含有量が「0.002」(重量%)であるソリッドワイヤHが記載されているが,当該ソリッドワイヤHを用いた具体例は比較例(比較例36(表4))とされており,各種の特性が劣る旨記載されていることから(【0059】),このような各種の特性が劣る比較例の記載から,甲1発明1において,Siの含有量を「0.002」(重量%)とすることが動機付けられるとはいえない。 c そして,本件発明1は,溶接用ワイヤにおいて,請求項1に記載されるとおりの,Siの含有量が「0.001〜0.04%」であることを含む所定の組成とすることにより,当該溶接用ワイヤを用いて母材を溶接することで得られる溶接部(溶着金属)が,電着塗装性,電着塗装後の塗装付着性及び耐気孔性に優れたものとなるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0025】〜【0028】,【0042】,【0063】〜【0079】,表3〜6,図4〜11)。 d 以上によれば,甲1発明1において,Siの含有量を「0.08%」に代えて,「0.001〜0.04%」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって,相違点1−2,1−3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明6について ア 対比 本件発明6と甲1発明2とを対比する。 (ア)甲1発明2における「ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ」は,本件発明6における「溶接用ワイヤ」に相当する。 (イ)本件発明6における溶接用ワイヤの組成と,甲1発明2におけるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの組成とは,C,Si,Mn,P,S,Cuを含み,残部Fe及び不可避不純物からなる点で共通し,また,前者における「重量%」と後者における「質量%」は同視できるから,これら各成分の含有量も重複一致する。 (ウ)甲1発明2における「JIS G3131 SPCCの板厚0.5mm,長さ200mmの鋼板(上板)と,同板厚0.8mm,長さ200mmの鋼板(下板)」は,本件発明6における「溶接母材」に相当する。 そして,甲1発明2において,所定の鋼板(上板)と鋼板(下板)を,所定のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを用いて,所定の条件で溶接した横向重ね継手に形成される「溶接部(溶着金属)」は,本件発明6において,溶接母材を所定の溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる「溶着金属」に相当するといえる。 (エ)以上によれば,本件発明6と甲1発明2とは, 「溶接母材を,重量%で,C:0.001〜0.30%,Si:0.001〜0.1%,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Ni:0.001〜0.900%,Cr:0.001〜0.100%,Mo:0.001〜0.500%,及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上をさらに含み,残部Fe及び不可避不純物からなる溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる溶着金属。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点1−4 本件発明6では,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」のに対して,甲1発明2では,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」かどうか不明である点。 ・相違点1−5 溶着金属が,本件発明6では,「電着塗装性に優れた」ものであるのに対して,甲1発明2では,「電着塗装性に優れた」ものであるかどうか不明である点。 イ 相違点1−4の検討 (ア)甲1には,甲1発明2に係る横向重ね継手において,その溶接部(溶着金属)の「表面にスラグが付着されて」いることや,その溶接部(溶着金属)の「全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率」がどの程度であるかについては,何ら記載されていない。 また,甲3には,母材どうしを重ね,隅肉溶接して継手を形成することについて記載されているが(【0012】,【0049】,図1),甲1と同様,上記の各事項については,何ら記載されていない。 そうすると,甲1及び甲3の記載から,甲1発明2において,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することが動機付けられるとはいえない。 (イ)一方,甲5には,溶接ビード(溶着金属)上に生じるスラグ(Si,Mn,Feを含有する酸化物)は電着塗装されず,塗装後も塗装欠陥として残り,塗装後の腐食の原因になることから,塗装後耐食性を改善するために,母材と溶接ワイヤの合計Si量を低減することにより,スラグの発生量を低減し,しかも,発生したスラグも塗装性への影響が少ないものとなる結果,塗装欠陥の発生が防止されることが記載されている(【0003】,【0006】,【0011】,【0012】,【0022】,【0023】)。 甲5の上記記載から,甲1発明2に係る横向重ね継手においても,その溶接部(溶着金属)の「表面にスラグが付着されて」いることが認識できると解する余地がある。 しかしながら,甲5の上記記載を考慮したとしても,そのスラグの組成は不明であり,溶接部(溶着金属)の「全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率」がどの程度になっているかは,不明である。 また,甲5には,「前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率」を「5%以下」とすることについては,記載されていない。 以上によれば,甲5の記載からは,少なくとも,甲1発明2において,「前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することが動機付けられるとはいえない。 (ウ)そして,本件発明6は,上記(2)イ(イ)cで本件発明1について述べたのと同様に,電着塗装性,電着塗装後の塗装付着性及び耐気孔性に優れた溶着金属が得られるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 (エ)以上によれば,甲1発明2において,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 ウ 小括 したがって,相違点1−5について検討するまでもなく,本件発明6は,甲1に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明2〜5及び7〜10について 本件発明2〜5は,本件発明1を直接引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2〜5についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 本件発明7〜10は,本件発明6を直接引用するものであるが,上記(3)で述べたとおり,本件発明6が,甲1に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明7〜10についても同様に,甲1に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり,本件発明1,2及び5は,甲1に記載された発明であるとはいえない。 また,本件発明1,2,4及び5は,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 さらに,本件発明6,7,9及び10は,甲1に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって,取消理由1(新規性),申立理由1−1(新規性),申立理由2−1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2,4〜7,9及び10に係る特許を取り消すことはできない。 2 取消理由2(新規性),申立理由1−3(新規性),申立理由2−3(進歩性) (1)甲3に記載された発明 甲3の記載(請求項1,2,【0004】,【0011】,【0014】,【0015】,【0049】〜【0064】,表2〜5,図1〜5)によれば,特に,請求項1,2,【0049】,表2〜4のほか,ソリッドワイヤG(表2)と当該ソリッドワイヤGを用いた比較例35(表4)に着目すると,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。 「C;0.020重量%,Si;0.070重量%,Mn;0.66重量%,Al;0.001重量%,Ti;0.005重量%,Cu;0.005重量%,Cr;0.018重量%,Mo;0.003重量%,Ni;0.022重量%を含有し,P含有量を0.009重量%,S含有量を0.015重量%に規制し,残部が鉄及び不可避的不純物からなり,且つ,下記数式で示す炭素当量Weqが0.138である,溶接用ソリッドワイヤ。 Weq=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/60+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14+[Nb]+[Ti]/14 但し,[M]はワイヤ中の成分Mの含有量(重量%)」(以下,「甲3発明1」という。) 「板厚2.3mmのHT70(冷延ハイテン材)である鋼板を,ワイヤ径1.2mmの溶接用ソリッドワイヤを使用して,シールドガスがAr(80体積%)+CO2(20体積%),ガス流量が25リットル/分,開先形状がLAP代20mmのLAP(重ね隅肉溶接),溶接電圧Vaが25.0V,VLが23.2V,VHが27.9V,溶接電流が260A,溶接速度が100cm/minで,重ね隅肉溶接した継手であって, 溶接用ソリッドワイヤが,C;0.020重量%,Si;0.070重量%,Mn;0.66重量%,Al;0.001重量%,Ti;0.005重量%,Cu;0.005重量%,Cr;0.018重量%,Mo;0.003重量%,Ni;0.022重量%を含有し,P含有量を0.009重量%,S含有量を0.015重量%に規制し,残部が鉄及び不可避的不純物からなり,且つ,下記数式で示す炭素当量Weqが0.138である,溶接用ソリッドワイヤである,継手。 Weq=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/60+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14+[Nb]+[Ti]/14 但し,[M]はワイヤ中の成分Mの含有量(重量%)」(以下,「甲3発明2」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲3発明1とを対比する。 (ア)甲3発明1における「溶接用ソリッドワイヤ」は,本件発明1における「溶接用ワイヤ」に相当する。 (イ)本件発明1における溶接用ワイヤの組成と,甲3発明1における溶接用ソリッドワイヤの組成とは,少なくとも,C,Si,Mn,P,S,Ni,Cr,Mo,Cuを含む点で共通し,Si以外の,C,Mn,P,S,Ni,Cr,Mo,Cuの各成分の含有量も重複一致する。 また,甲3発明1における溶接用ソリッドワイヤは,さらに,「Al;0.001重量%」,「Ti;0.005重量%」を含有するが,甲3の記載(【0023】,【0027】)によれば,上記のAl,Tiは,いずれも,不可避的不純物と認められるから,本件発明1における「不可避不純物」に相当する。 そうすると,本件発明1における溶接用ワイヤの組成と,甲3発明1における溶接用ソリッドワイヤの組成とは,C,Si,Mn,P,S,Ni,Cr,Mo,Cuを含み,残部Fe及び不可避不純物からなる点で共通し,Si以外の,C,Mn,P,S,Ni,Cr,Mo,Cuの各成分の含有量も重複一致するといえる。 (ウ)以上によれば,本件発明1と甲3発明1とは, 「重量%で,C:0.001〜0.30%,Si,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Ni:0.001〜0.900%,Cr:0.001〜0.100%,Mo:0.001〜0.500%,及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上をさらに含み,残部Fe及び不可避不純物からなる,溶接用ワイヤ。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点3−1 Siの含有量が,本件発明1では,「0.001〜0.04%」であるのに対して,甲3発明1では,「0.07%」である点。 ・相違点3−2 溶接用ワイヤが,本件発明1では,「極低シリコン」であるのに対して,甲3発明1では,「極低シリコン」であるかどうか不明である点。 ・相違点3−3 溶接用ワイヤが,本件発明1では,「耐気孔性及び電着塗装性に優れた」ものであるのに対して,甲3発明1では,「耐気孔性及び電着塗装性に優れた」ものであるかどうか不明である点。 イ 相違点3−1の検討 (ア)まず,相違点3−1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 甲3発明1は,甲3におけるソリッドワイヤGに着目して認定したものであるところ,Siの含有量は「0.07%」であり,本件発明1における「0.001〜0.04%」とは異なるものである。 以上によれば,相違点3−1は実質的な相違点である。 したがって,相違点3−2,3−3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明であるとはいえない。 (イ)次に,相違点3−1の容易想到性について検討する。 a 甲3には,溶接用ソリッドワイヤにおいて,Siの含有量を「0.05乃至2.00重量%」とすることが記載されているが(請求項1,【0018】),当該記載から,甲3発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることが動機付けられるとはいえない。むしろ,甲3には,「Si含有量が0.05重量%未満」の場合は,「強度上昇」の効果,「強力な脱酸効果」,「気泡の発生及び溶接金属の酸化を防止することができる」との効果を得ることができないことが記載されており(【0018】),当該記載は,甲3発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることを阻害するものといえる。 また,甲3の表2には,Siの含有量が「0.002」(重量%)であるソリッドワイヤHが記載されているが,当該ソリッドワイヤHを用いた具体例は比較例(比較例36(表4))とされており,各種の特性が劣る旨記載されていることから(【0059】),このような各種の特性が劣る比較例の記載から,甲3発明1において,Siの含有量を「0.002」(重量%)とすることが動機付けられるとはいえない。 b そして,本件発明1は,上記1(2)イ(イ)cで述べたとおり,所定の組成の溶接用ワイヤを用いて母材を溶接することで得られる溶接部(溶着金属)が,電着塗装性,電着塗装後の塗装付着性及び耐気孔性に優れたものとなるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 c 以上によれば,甲3発明1において,Siの含有量を「0.07%」に代えて,「0.001〜0.04%」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって,相違点3−2,3−3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明6について ア 対比 本件発明6と甲3発明2とを対比する。 (ア)甲3発明2における「溶接用ソリッドワイヤ」は,本件発明6における「溶接用ワイヤ」に相当する。 (イ)本件発明6における溶接用ワイヤの組成と,甲3発明2における溶接用ソリッドワイヤの組成とは,上記(2)ア(イ)で本件発明1と甲3発明1について述べたのと同様の理由により,C,Si,Mn,P,S,Ni,Cr,Mo,Cuを含み,残部Fe及び不可避不純物からなる点で共通し,これら各成分の含有量も重複一致するといえる。 (ウ)甲3発明2における「板厚2.3mmのHT70(冷延ハイテン材)である鋼板」は,本件発明6における「溶接母材」に相当する。 そして,甲3発明2において,所定の鋼板を,所定の溶接用ソリッドワイヤを用いて,所定の条件で重ね隅肉溶接した継手に形成される「溶接部(溶着金属)」は,本件発明6において,溶接母材を所定の溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる「溶着金属」に相当するといえる。 (エ)以上によれば,本件発明6と甲3発明2とは, 「溶接母材を,重量%で,C:0.001〜0.30%,Si:0.001〜0.1%,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Ni:0.001〜0.900%,Cr:0.001〜0.100%,Mo:0.001〜0.500%,及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上をさらに含み,残部Fe及び不可避不純物からなる溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる溶着金属。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点3−4 本件発明6では,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」のに対して,甲3発明2では,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」かどうか不明である点。 ・相違点3−5 溶着金属が,本件発明6では,「電着塗装性に優れた」ものであるのに対して,甲3発明2では,「電着塗装性に優れた」ものであるかどうか不明である点。 イ 相違点3−4の検討 (ア)甲3には,甲3発明2に係る継手において,その溶接部(溶着金属)の「表面にスラグが付着されて」いることや,その溶接部(溶着金属)の「全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率」がどの程度であるかについては,何ら記載されていない。 そうすると,甲3の記載から,甲3発明2において,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することが動機付けられるとはいえない。 (イ)一方,甲5については,上記1(3)イ(イ)で述べたとおりであり,甲5の記載からは,少なくとも,甲3発明2において,「前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することが動機付けられるとはいえない。この点,甲3に,甲3発明2に係る継手の溶接部(溶着金属)自体の組成が記載されている(【0062】,表5のG)としても,変わるものではない。 (ウ)そして,本件発明6は,上記1(3)イ(ウ)で述べたとおり,電着塗装性,電着塗装後の塗装付着性及び耐気孔性に優れた溶着金属が得られるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 (エ)以上によれば,甲3発明2において,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 ウ 小括 したがって,相違点3−5について検討するまでもなく,本件発明6は,甲3に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明2〜5及び7〜10について 本件発明2〜5は,本件発明1を直接引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲3に記載された発明であるとはいえず,また,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2〜5についても同様に,甲3に記載された発明であるとはいえず,また,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 本件発明7〜10は,本件発明6を直接引用するものであるが,上記(3)で述べたとおり,本件発明6が,甲3に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明7〜10についても同様に,甲3に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり,本件発明1〜5は,甲3に記載された発明であるとはいえない。 また,本件発明1〜5は,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 さらに,本件発明6〜10は,甲3に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって,取消理由2(新規性),申立理由1−3(新規性),申立理由2−3(進歩性)によっては,本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由1−2(新規性),申立理由2−2(進歩性) (1)甲2に記載された発明 甲2の記載(請求項2,3,【0002】,【0003】,【0009】〜【0012】,【0037】〜【0059】,表1〜3,図1,2)によれば,特に,請求項2,【0038】〜【0043】,表1,3,図1の記載のほか,ソリッドワイヤK(表1)と当該ソリッドワイヤKを用いた試験番号22(表3)に着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。 「亜鉛めっき鋼板のガスシールドメタルアーク溶接に使用されるソリッドワイヤであって,重量%で,C:0.08%,Si:0.12%,Mn:2.55%,P:0.009%,S:0.005%,Mo:0.25%,Cr:0.25%を含み,残部がFeおよび不可避不純物からなる亜鉛めっき鋼板用溶接ソリッドワイヤ。」(以下,「甲2発明1」という。) 「厚さが2.3mmで,母材強度が440MPa級である,片面あたりの目付け量が45g/m2 の両面合金化溶融亜鉛めっき鋼板である亜鉛めっき鋼板を,直径が1.2mmの溶接ソリッドワイヤを用いて,重ね部の隙間が0mm,シールドガスがAr+20%CO2,電源がインバータ制御(パルス)電源,平均電流が約200〜230A(パルス時:ピーク電流410A,パルス幅1.5msec),溶接速度が100cm/min,電圧が22〜22V,溶接長が250mmで,パルスマグ溶接法によるガスシールドメタルアーク溶接により重ね隅肉溶接した継手であって, 溶接ソリッドワイヤが,重量%で,C:0.08%,Si:0.12%,Mn:2.55%,P:0.009%,S:0.005%,Mo:0.25%,Cr:0.25%を含み,残部がFeおよび不可避不純物からなる溶接ソリッドワイヤである,継手。」(以下,「甲2発明2」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2発明1とを対比する。 (ア)甲2発明1における「亜鉛めっき鋼板のガスシールドメタルアーク溶接に使用されるソリッドワイヤ」である「亜鉛めっき鋼板用溶接ソリッドワイヤ」は,本件発明1における「溶接用ワイヤ」に相当する。 (イ)本件発明1における溶接用ワイヤの組成と,甲2発明1における溶接ソリッドワイヤの組成とは,C,Si,Mn,P,S,Cr,Moを含み,残部Fe及び不可避不純物からなる点で共通し,Si,Cr以外の,C,Mn,P,S,Moの各成分の含有量も重複一致する。 (ウ)以上によれば,本件発明1と甲2発明1とは, 「重量%で,C:0.001〜0.30%,Si,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Cr,Mo:0.001〜0.500%をさらに含み,残部Fe及び不可避不純物からなる,溶接用ワイヤ。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点2−1 Si及びCrの含有量が,本件発明1では,「0.001〜0.04%」,「0.001〜0.100%」であるのに対して,甲2発明1では,「0.12%」,「0.25%」である点。 ・相違点2−2 溶接用ワイヤが,本件発明1では,「極低シリコン」であるのに対して,甲2発明1では,「極低シリコン」であるかどうか不明である点。 ・相違点2−3 溶接用ワイヤが,本件発明1では,「耐気孔性及び電着塗装性に優れた」ものであるのに対して,甲2発明1では,「耐気孔性及び電着塗装性に優れた」ものであるかどうか不明である点。 イ 相違点2−1の検討 (ア)まず,相違点2−1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 甲2発明1は,甲2におけるソリッドワイヤKに着目して認定したものであるところ,Si及びCrの含有量は「0.12%」,「0.25%」であり,本件発明1における「0.001〜0.04%」,「0.001〜0.100%」とは異なるものである。 以上によれば,相違点2−1は実質的な相違点である。 したがって,相違点2−2,2−3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえない。 (イ)次に,相違点2−1の容易想到性について検討する。 a(a)甲2には,亜鉛めっき鋼板のガスシールドメタルアーク溶接に使用されるソリッドワイヤにおいて,Siの含有量を「X%以上0.4%以下」,「X=(シールドガス中のCO2とO2の合計体積%)/2000」とすることが記載されている(請求項2,【0019】〜【0022】)。 ここで,甲2発明1の認定の基礎としたソリッドワイヤKを用いた試験番号22では,シールドガスが「Ar+20%CO2」(表3)であることから,Siの含有量の下限値Xは「0.01」(【0052】)となる。 そうすると,甲2の上記記載によれば,甲2発明1において,Siの含有量を,「0.01%」まで低減することが可能であることは理解できるものの,本件発明1の「0.001〜0.04%」を満たす範囲が特に好ましい旨の記載は見当たらない。 (b)また,甲2には,亜鉛めっき鋼板のガスシールドメタルアーク溶接に使用されるソリッドワイヤにおいて,「更に,Cr,Mo,V,Nb,Taの1種以上を合計で0.1%以上1.0%以下含」むことが記載されている(請求項2,【0025】〜【0027】)。 甲2の上記記載によれば,Crの含有量は,上記元素の合計が「0.1%以上1.0%以下」となる範囲で変更することが可能であることは理解できるものの,本件発明1の「0.001〜0.100%」を満たす範囲が特に好ましい旨の記載は見当たらない(甲2の表1には,Crの含有量が「0.25wt%」であるソリッドワイヤKのほかには,「0.50wt%」であるソリッドワイヤRが記載されているだけである。)。 (c)以上のとおり,甲2には,甲2発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とするとともに,Crの含有量を「0.001〜0.100%」とすることを動機付ける記載は見当たらない。 b(a)一方,甲3には,溶接用ソリッドワイヤにおいて,Siの含有量を「0.05乃至2.00重量%」とすることが記載されているが(請求項1,【0018】),当該記載から,甲2発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることが動機付けられるとはいえない。 また,甲3の表2には,Siの含有量が「0.002」(重量%)であるソリッドワイヤHが記載されているが,当該ソリッドワイヤHを用いた具体例は比較例(比較例36(表4))とされており,各種の特性が劣る旨記載されていることから(【0059】),このような各種の特性が劣る比較例の記載から,甲2発明1において,Siの含有量を「0.002」(重量%)とすることが動機付けられるとはいえない。 (b)さらに,甲3には,溶接用ソリッドワイヤにおいて,Crの含有量を「0.005乃至3.00重量%」とすることが記載されているが(請求項1,【0025】),本件発明1の「0.001〜0.100%」を満たす範囲が特に好ましい旨の記載は見当たらない。 (c)以上のとおり,甲3には,甲2発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とするとともに,Crの含有量を「0.001〜0.100%」とすることを動機付ける記載は見当たらない。 c また,甲3に記載された発明(請求項1)は,疲労強度が優れた溶接継手を得ることができ,高張力鋼板本来の疲労強度を十分に生かすことができる溶接用ソリッドワイヤを提供することを課題とするものである(【0004】)のに対して,甲2に記載された発明(請求項1,2)は,優れた耐ピット性及び耐ブローホール性を示し,経済的で強度確保も容易な亜鉛めっき鋼板用溶接ワイヤを提供することを課題とするものであり,両者の課題は異なるものである。 そうすると,このように互いに課題が異なる甲2と甲3とを組み合わせる動機付けがあるとはいえない。 d そして,本件発明1は,上記1(2)イ(イ)cで述べたとおり,溶接用ワイヤにおいて,請求項1に記載されるとおりの,Siの含有量が「0.001〜0.04%」であり,Crの含有量が「0.001〜0.100%」であることを含む所定の組成とすることにより,当該溶接用ワイヤを用いて母材を溶接することで得られる溶接部(溶着金属)が,電着塗装性,電着塗装後の塗装付着性及び耐気孔性に優れたものとなるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 e そうすると,甲2発明1において,Siの含有量を「0.12%」に代えて,「0.001〜0.04%」とするとともに,Crの含有量を「0.25%」に代えて,「0.001〜0.100%」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって,相違点2−2,2−3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明6について ア 対比 本件発明6と甲2発明2とを対比する。 (ア)甲2発明2における「溶接ソリッドワイヤ」は,本件発明6における「溶接用ワイヤ」に相当する。 (イ)本件発明6における溶接用ワイヤの組成と,甲2発明2における溶接ソリッドワイヤの組成とは,C,Si,Mn,P,S,Cr,Moを含み,残部Fe及び不可避不純物からなる点で共通し,Si,Cr以外の,C,Mn,P,S,Moの各成分の含有量も重複一致する。 (ウ)甲2発明2における「厚さが2.3mmで,母材強度が440MPa級である,片面あたりの目付け量が45g/m2の両面合金化溶融亜鉛めっき鋼板である亜鉛めっき鋼板」は,本件発明6における「溶接母材」に相当する。 そして,甲2発明2において,所定の亜鉛めっき鋼板を,所定の溶接ソリッドワイヤを用いて,所定の条件で重ね隅肉溶接した継手に形成される「溶接部(溶着金属)」は,本件発明6において,溶接母材を所定の溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる「溶着金属」に相当するといえる。 (エ)以上によれば,本件発明6と甲2発明2とは, 「溶接母材を,重量%で,C:0.001〜0.30%,Si,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Cr,Mo:0.001〜0.500%をさらに含み,残部Fe及び不可避不純物からなる溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる溶着金属。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点2−4 本件発明6では,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」のに対して,甲2発明2では,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」かどうか不明である点。 ・相違点2−5 溶着金属が,本件発明6では,「電着塗装性に優れた」ものであるのに対して,甲2発明2では,「電着塗装性に優れた」ものであるかどうか不明である点。 ・相違点2−6 Si及びCrの含有量が,本件発明6では,「0.001〜0.1%」,「0.001〜0.100%」であるのに対して,甲2発明2では,「0.12%」,「0.25%」である点。 イ 相違点2−4の検討 (ア)甲2には,甲2発明2に係る継手において,その溶接部(溶着金属)の「表面にスラグが付着されて」いることや,その溶接部(溶着金属)の「全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率」がどの程度であるかについては,何ら記載されていない。 また,甲3には,母材どうしを重ね,隅肉溶接して継手を形成することについて記載されているが(【0012】,【0049】,図1),甲2と同様,上記の各事項については,何ら記載されていない。 そうすると,甲2及び甲3の記載から,甲2発明2において,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することが動機付けられるとはいえない。 (イ)一方,甲5については,上記1(3)イ(イ)で述べたとおりであり,甲5の記載からは,少なくとも,甲2発明2において,「前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することが動機付けられるとはいえない。 (ウ)そして,本件発明6は,上記1(3)イ(ウ)で述べたとおり,電着塗装性,電着塗装後の塗装付着性及び耐気孔性に優れた溶着金属が得られるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 (エ)以上によれば,甲2発明2において,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 ウ 相違点2−6の検討 相違点2−6は,上記(2)で検討した相違点2−1と同様の相違点であり,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,甲2発明2において,Siの含有量を「0.12%」に代えて,「0.001〜0.1%」とするとともに,Crの含有量を「0.25%」に代えて,「0.001〜0.100%」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 エ 小括 したがって,相違点2−5について検討するまでもなく,本件発明6は,甲2に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明2〜5及び7〜10について 本件発明2〜5は,本件発明1を直接引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2〜5についても同様に,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 本件発明7〜10は,本件発明6を直接引用するものであるが,上記(3)で述べたとおり,本件発明6が,甲2に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明7〜10についても同様に,甲2に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり,本件発明1,2及び5は,甲2に記載された発明であるとはいえない。 また,本件発明1,2,4及び5は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 さらに,本件発明6,7,9及び10は,甲2に記載された発明並びに甲3及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって,申立理由1−2(新規性),申立理由2−2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2,4〜7,9及び10に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由1−4(新規性),申立理由2−4(進歩性) (1)甲4に記載された発明 甲4の記載(請求項1,2,【0008】,【0012】,【0024】〜【0034】,表1〜3,図1〜3)によれば,特に,請求項1,2,【0024】,【0027】,表1〜3,図2の記載のほか,ソリッドワイヤW12(表1,2)に着目すると,甲4には,以下の発明が記載されていると認められる。 「パルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤにおいて,C:0.05質量%,Si:0.11質量%,Mn:1.48質量%,Al:0.005質量%,Ti:0.17質量%を含有し,銅めっきを厚さ:0.59μm有し,ワイヤ表面にワイヤ10kg当たりの分量で,エステル系合成油を0.59gおよびカリウムを0.115g有し,その他は,P:0.008質量%,S:0.008質量%,O:0.0037質量%および不可避不純物からなる,パルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤ。」(以下,「甲4発明1」という。) 「JIS G3131 SPHCの板厚2.6mm,長さ500mmの鋼板を後板と前板として,テーパ型スペーサを挟んでギャップ長さG1=2mm,G2=4mmのテーパギャップを形成して,ワイヤ径1.2mmの銅めっきソリッドワイヤを用いて,シールドガスがAr−20%CO2,チップ母材間距離が15mm,パルス設定が,ピーク電流:500A,ベース電流:50A,ピーク時間:0.8〜1.6msec,立ち上がり時間:0.5msec,立下がり時間:0.5msec,ワイヤ送給量が8m/min,平均電圧が24.5V,溶接速度が1.5m/minで,パルスMAG溶接した横向重ね継手であって, 銅めっきソリッドワイヤが,C:0.05質量%,Si:0.11質量%,Mn:1.48質量%,Al:0.005質量%,Ti:0.17質量%を含有し,銅めっきを厚さ:0.59μm有し,ワイヤ表面にワイヤ10kg当たりの分量で,エステル系合成油を0.59gおよびカリウムを0.115g有し,その他は,P:0.008質量%,S:0.008質量%,O:0.0037質量%および不可避不純物からなる,銅めっきソリッドワイヤである,横向重ね継手。」(以下,「甲4発明2」という。) (2)本件発明3について ア 対比 本件発明3と甲4発明1とを対比する。 (ア)甲4発明1における「パルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤ」は,本件発明3における「溶接用ワイヤ」に相当する。 (イ)本件発明3における溶接用ワイヤの組成と,甲4発明1におけるパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤの組成とは,少なくとも,C,Si,Mn,P,S,Cu,Ti,Alを含む点で共通し,また,前者における「重量%」と後者における「質量%」は同視できるから,Si,Cu以外の,C,Mn,P,S,Ti,Alの各成分の含有量も重複一致する。 (ウ)以上によれば,本件発明3と甲4発明1とは, 「重量%で,C:0.001〜0.30%,Si,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Cuをさらに含み,Ti:0.50%以下,Al:0.50%以下をさらに含む,溶接用ワイヤ。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点4−1 Siの含有量が,本件発明3では,「0.001〜0.04%」であるのに対して,甲4発明1では,「0.11質量%」である点。 ・相違点4−2 本件発明3では,Cuの含有量が「0.50%以下」であり,「残部Fe及び不可避不純物からなる」のに対して,甲4発明1では,Cuの含有量が「0.50%以下」であるかどうか不明であり,「その他は」「O:0.0037質量%および不可避不純物からなる」点。 ・相違点4−3 溶接用ワイヤが,本件発明3では,「極低シリコン」であるのに対して,甲4発明1では,「極低シリコン」であるかどうか不明である点。 ・相違点4−4 溶接用ワイヤが,本件発明3では,「耐気孔性及び電着塗装性に優れた」ものであるのに対して,甲4発明1では,「耐気孔性及び電着塗装性に優れた」ものであるかどうか不明である点。 イ 相違点4−1の検討 (ア)まず,相違点4−1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 甲4発明1は,甲4におけるソリッドワイヤW12に着目して認定したものであるところ,Siの含有量は「0.11質量%」であり,本件発明3における「0.001〜0.04%」とは異なるものである。 以上によれば,相違点4−1は実質的な相違点である。 したがって,相違点4−2〜4−4について検討するまでもなく,本件発明3は,甲4に記載された発明であるとはいえない。 (イ)次に,相違点4−1の容易想到性について検討する。 a 甲4には,パルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤにおいて,Siの含有量を「0.15〜1.0質量%」とすることは記載されているものの(請求項1,【0014】),Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることは記載されていない。甲4には,甲4発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることを動機付ける記載は見当たらない。むしろ,甲4には,Siの含有量が「0.15%未満」では,「溶接金属の主脱酸剤」としての効果,「ワイヤの電気抵抗を増大させてワイヤの溶融量を増加させ」る効果,「溶融金属の粘度および表面張力を増大させる効果」が得られないことが記載されており(【0014】),当該記載は,甲4発明1において,Siの含有量を「0.001〜0.04%」とすることを阻害するものといえる。 b そして,本件発明3は,上記1(2)イ(イ)cで本件発明1について述べたのと同様に,所定の組成の溶接用ワイヤを用いて母材を溶接することで得られる溶接部(溶着金属)が,電着塗装性,電着塗装後の塗装付着性及び耐気孔性に優れたものとなるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 c 以上によれば,甲4発明1において,Siの含有量を「0.11質量%」に代えて,「0.001〜0.04%」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって,相違点4−2〜4−4について検討するまでもなく,本件発明3は,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり,本件発明3は,甲4に記載された発明であるとはいえず,また,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明8について ア 対比 本件発明8と甲4発明2とを対比する。 (ア)甲4発明2における「銅めっきソリッドワイヤ」は,本件発明8における「溶接用ワイヤ」に相当する。 (イ)本件発明8における溶接用ワイヤの組成と,甲4発明2における銅めっきソリッドワイヤの組成とは,少なくとも,C,Si,Mn,P,S,Cu,Ti,Alを含む点で共通し,また,前者における「重量%」と後者における「質量%」は同視できるから,Si,Cu以外の,C,Mn,P,S,Ti,Alの各成分の含有量も重複一致する。 (ウ)甲4発明2における「JIS G3131 SPHCの板厚2.6mm,長さ500mmの鋼板」である「後板」と「前板」は,本件発明8における「溶接母材」に相当する。 そして,甲4発明2において,所定の鋼板を後板と前板として,テーパ型スペーサを挟んで所定のテーパギャップを形成して,所定の銅めっきソリッドワイヤを用いて,所定の条件でパルスMAG溶接した横向重ね継手に形成される「溶接部(溶着金属)」は,本件発明8において,溶接母材を所定の溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる「溶着金属」に相当するといえる。 (エ)以上によれば,本件発明8と甲4発明2とは, 「溶接母材を,重量%で,C:0.001〜0.30%,Si,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み,Cuをさらに含み,Ti:0.50%以下,Al:0.50%以下をさらに含む溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる溶着金属。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点4−5 本件発明8では,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」のに対して,甲4発明2では,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」かどうか不明である点。 ・相違点4−6 溶着金属が,本件発明8では,「電着塗装性に優れた」ものであるのに対して,甲4発明2では,「電着塗装性に優れた」ものであるかどうか不明である点。 ・相違点4−7 Siの含有量が,本件発明8では,「0.001〜0.1%」であるのに対して,甲4発明2では,「0.11質量%」である点。 ・相違点4−8 本件発明8では,Cuの含有量が「0.50%以下」であり,「残部Fe及び不可避不純物からなる」のに対して,甲4発明2では,Cuの含有量が「0.50%以下」であるかどうか不明であり,「その他は」「O:0.0037質量%および不可避不純物からなる」点。 イ 相違点4−5の検討 (ア)甲4には,甲4発明2に係る継手において,その溶接部(溶着金属)の「表面にスラグが付着されて」いることや,その溶接部(溶着金属)の「全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率」がどの程度であるかについては,何ら記載されていない。 そうすると,甲4の記載から,甲4発明2において,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することが動機付けられるとはいえない。 (イ)一方,甲5については,上記1(3)イ(イ)で述べたとおりであり,甲5の記載からは,少なくとも,甲4発明2において,「前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することが動機付けられるとはいえない。 (ウ)そして,本件発明8は,上記1(3)イ(ウ)で述べたとおり,電着塗装性,電着塗装後の塗装付着性及び耐気孔性に優れた溶着金属が得られるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 (エ)以上によれば,甲4発明2において,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 ウ 相違点4−7の検討 相違点4−7は,上記(2)で検討した相違点4−1と同様の相違点であり,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,甲4発明2において,Siの含有量を「0.11質量%」に代えて,「0.001〜0.1%」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 エ 小括 したがって,相違点4−6,4−8について検討するまでもなく,本件発明8は,甲4に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり,本件発明3は,甲4に記載された発明であるとはいえない。 また,本件発明3は,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 さらに,本件発明8は,甲4に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって,申立理由1−4(新規性),申立理由2−4(進歩性)によっては,本件特許の請求項3及び8に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立理由3(サポート要件) (1)本件発明1〜5について ア 本件明細書の記載(【0002】〜【0008】)によれば,本件発明1の課題は,溶接部の耐気孔性及び電着塗装性を向上させることができる極低シリコン溶接材を提供することであると認められる。 イ(ア)このような課題に対して,本件明細書には,以下の記載がある。 「本発明者らは,極低シリコン溶接材を用いて溶接する場合,溶着金属に従来のガラス質のシリコン系スラグが発生することを減らすとともに,スラグ剥離が比較的難しく電着塗装時の通電が容易なマンガン系スラグをビード表面に形成することにより,耐気孔性及び電着塗装性を向上させることができる点を確認して本発明を提示する。」(【0030】) 「上記のことを考えると,溶接時の溶着金属に付着されるスラグがシリコン系スラグであれば,溶着金属の付着性が悪くなるだけでなく,通電性が悪いため溶着金属の電着塗装性が悪くなることが分かる。」(【0035】) 「これにより,溶接用ワイヤを用いて溶接を行う際に,溶着金属のスラグのうち,シリコン系酸化物の分率を積極的に減らす一方で,マンガン系スラグを積極的に形成することにより,溶着金属の電着塗装性が効果的に改善されることを確認した。」(【0036】) 「このため,本発明は,溶接用ワイヤの成分元素のうちSiの含有量を0.15%以下に積極的に減少させることを特徴とする。Siの含有量が減少するほど亜鉛めっき鋼板の溶接時の耐気孔性も改善されることができる。」(【0037】) 「・シリコン(Si):0.15%以下 シリコン(Si,ケイ素)は,通常,炭素鋼溶接材のケイ素の含有量が0.4〜1.15%の範囲にあり,脱酸剤として用いられ,SiO2またはケイ酸介在物を形成する。また,鋼の硬度,弾性限界,引張強さを増加させる一方で,伸び率及び衝撃値は減少させる。なお,結晶粒の大きさを増大させることで可鍛性,展性を減少させる。 しかし,シリコン含有量が0.15%を超えると,シリコン系スラグの発生量が増加して,形成される優れた電着塗装性を有する溶着金属を製造することができなくなる。 そこで,電着塗装性及び耐気孔性を確保するために,より好ましくは,シリコン(Si)の含有量を0.10%以下に制御する。 さらに,溶接部の引張強さを確保することも考えると,シリコン(Si)の含有量は,0.001〜0.10%の範囲にあることがより好ましい。」(【0042】) (イ)本件明細書には,実施例1,2(【0063】〜【0076】,表3〜6)において,それぞれ,表3の組成を有するソリッドワイヤ,表5の組成を有するフラックス入りワイヤを用意し,所定の亜鉛めっき鋼板母材に所定の条件で溶接を行い,得られた溶着金属のシリコン系スラグ量,耐気孔性等を評価したこと,また,発明例では優れた耐気孔性を有することが記載されている。 また,本件明細書には,実施例3(【0077】〜【0079】)において,実施例1の発明例13のソリッドワイヤを用意し,所定の亜鉛めっき鋼板母材に所定の条件で溶接を行い,得られた溶着金属の電着塗装性,スラグ組成を評価したこと,また,発明例では,マンガン系スラグが生成され,電着塗装性に優れることが記載されている。 (ウ)上記(ア),(イ)の記載を含む本件明細書の記載(【0010】〜【0028】,【0030】〜【0037】,【0041】〜【0079】,表1〜6,図1〜10)によれば,本件発明1の課題は,「重量%で,C:0.001〜0.30%,Si:0.001〜0.04%,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み」,「残部Fe及び不可避不純物からなる」,「極低シリコン溶接用ワイヤ」によって,解決できることが理解できる。 ここで,本件発明1は,上記のC,Si,Mn,P,S,Fe,不可避不純物のほかに,さらに,「Ni:0.001〜0.900%,Cr:0.001〜0.100%,Mo:0.001〜0.500%,及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上」を含むものであるところ,これらの各成分については,耐気孔性や電着塗装性以外の各種特性をさらに改善するものにすぎないから(本件明細書【0046】〜【0050】,【0067】,【0068】,【0074】,【0075】),請求項1に記載されるとおり,上記のC,Si,Mn,P,S,Fe,不可避不純物のほかに,さらに,それぞれ所定量のNi,Cr,Mo,Cuの1種以上を含む本件発明1によっても,本件発明1の課題が解決できることが理解できる。 ウ 以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 したがって,本件発明1については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。また,本件発明1を引用する本件発明2〜5についても同様である。 (2)本件発明6〜10について 本件明細書の記載(【0002】〜【0008】)によれば,本件発明6の課題は,溶接部の耐気孔性及び電着塗装性を向上させることができる極低シリコン溶接材を用いて得られる溶着金属を提供することであると認められる。 上記(1)で本件発明1について述べたのと同様に,本件明細書の記載によれば,本件発明6の課題は,「溶接母材を,重量%で,C:0.001〜0.30%,Si:0.001〜0.1%,Mn:0.50〜3.00%,P:0.030%以下,S:0.030%以下を含み」,「残部Fe及び不可避不純物からなる溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる溶着金属」であって,「前記溶着金属は,その表面にスラグが付着されており,前記溶着金属の全体表面積に対して,前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である」,「溶着金属」によって,解決できることが理解できる。 ここで,本件発明6は,上記のC,Si,Mn,P,S,Fe,不可避不純物のほかに,さらに,「Ni:0.001〜0.900%,Cr:0.001〜0.100%,Mo:0.001〜0.500%,及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上」を含むものであるところ,上記(1)で本件発明1について述べたのと同様の理由により,請求項6に記載されるとおり,上記のC,Si,Mn,P,S,Fe,不可避不純物のほかに,さらに,それぞれ所定量のNi,Cr,Mo,Cuの1種以上を含む本件発明6によっても,本件発明6の課題が解決できることが理解できる。 以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明6は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明6の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 したがって,本件発明6については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。また,本件発明6を引用する本件発明7〜10についても同様である。 (3)申立人の主張について 申立人は,本件発明1及び6のうち,具体例として本件明細書の実施例に記載されているのは,Ni,Cr及びMoのいずれかを含むもののみであり,Cuを含む実施例は存在していないところ,本件発明1及び6では,Cuの含有量の下限値が設定されておらず,Cuの含有量が極めて微量である場合も含まれることや,ワイヤの成分組成が異なれば,ワイヤの特性が相違すると考えるのが本技術分野における出願時の技術常識であること等を鑑みると,本件発明1及び6の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。また,本件発明2〜5,7〜10についても同様に主張する。 さらに,申立人は,本件発明3及び8におけるAl,Nb及びZr,本件発明4及び9におけるREMについても,同様に主張する。 しかしながら,Cu,Al,Nb,Zr及びREMは,いずれも,耐気孔性や電着塗装性以外の各種特性をさらに改善するものにすぎないから(本件明細書【0050】,【0054】〜【0056】,【0059】),本件明細書にCuを含む実施例が記載されていないとしても,請求項1及び6に記載されるとおり,C,Si,Mn,P,S,Fe,不可避不純物のほかに,さらに,所定量のCuを含む本件発明1及び6によっても,本件発明1及び6の課題が解決できることが理解できることは,上記(1),(2)で述べたとおりである。また,本件発明2〜5,7〜10についても同様である。 さらに,本件発明3及び8におけるAl,Nb及びZr,本件発明4及び9におけるREMについても,同様である。 これに対して,本件発明1〜10のうちCuを含む場合,本件発明3及び8のうちAl,Nb及びZrを含む場合,本件発明4及び9のうちREMを含む場合について,本件各発明の課題が解決できないことを具体的に裏付ける証拠はない。 よって,申立人の主張は採用できない。 (4)まとめ したがって,申立理由3(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 重量%で、C:0.001〜0.30%、Si:0.001〜0.04%、Mn:0.50〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下を含み、Ni:0.001〜0.900%、Cr:0.001〜0.100%、Mo:0.001〜0.500%、及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上をさらに含み、残部Fe及び不可避不純物からなる、耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項2】 前記溶接用ワイヤは、Si2/Mnの含有量比が0.015以下を満たす、請求項1に記載の耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項3】 前記溶接用ワイヤは、Ti:0.50%以下、Al:0.50%以下、Nb:0.50%以下、V:0.10%以下、及びZr:0.10%以下のうち選択された1種以上をさらに含む、請求項1に記載の耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項4】 前記溶接用ワイヤは、B:0.01%以下またはREM:0.50%以下をさらに含む、請求項1に記載の耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項5】 前記溶接用ワイヤは、ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤである、請求項1に記載の耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ。 【請求項6】 溶接母材を、重量%で、C:0.001〜0.30%、Si:0.001〜0.1%、Mn:0.50〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下を含み、Ni:0.001〜0.900%、Cr:0.001〜0.100%、Mo:0.001〜0.500%、及びCu:0.50%以下のうち選択された1種以上をさらに含み、残部Fe及び不可避不純物からなる溶接用ワイヤを用いて溶接することにより得られる溶着金属であって、 前記溶着金属は、その表面にスラグが付着されており、 前記溶着金属の全体表面積に対して、前記スラグのうちシリコン系酸化物スラグが占める面積分率が5%以下である、電着塗装性に優れた溶着金属。 【請求項7】 前記溶接用ワイヤは、Si2/Mnの含有量比が0.015以下を満たす、請求項6に記載の電着塗装性に優れた溶着金属。 【請求項8】 前記溶接用ワイヤは、Ti:0.50%以下、A1:0.50%以下、Nb:0.50%以下、V:0.10%以下、及びZr:0.10%以下のうち選択された1種以上をさらに含む、請求項6に記載の電着塗装性に優れた溶着金属。 【請求項9】 前記溶接用ワイヤは、B:0.01%以下またはREM:0.50%以下をさらに含む、請求項6に記載の電着塗装性に優れた溶着金属。 【請求項10】 前記溶接用ワイヤは、ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤである、請求項6に記載の電着塗装性に優れた溶着金属。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-04-28 |
出願番号 | P2018-028765 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B23K)
P 1 651・ 113- YAA (B23K) P 1 651・ 121- YAA (B23K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
粟野 正明 |
特許庁審判官 |
井上 猛 境 周一 |
登録日 | 2021-01-26 |
登録番号 | 6829699 |
権利者 | ヒュンダイ ウェルディング カンパニー リミテッド |
発明の名称 | 耐気孔性及び電着塗装性に優れた極低シリコン溶接用ワイヤ及びこれによって得られる溶着金属 |
代理人 | 小林 俊弘 |
代理人 | 好宮 幹夫 |
代理人 | 好宮 幹夫 |
代理人 | 小林 俊弘 |