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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1387504
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-30 
確定日 2022-07-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6850942号発明「不燃化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6850942号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6850942号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成27年11月12日の特許出願であって、令和3年3月11日にその特許権の設定登録がされ、同年3月31日に特許掲載公報が発行された。
本件の特許異議の申立ては、本件特許の請求項1〜7に係る特許を対象としたものであって、その手続の経緯は、次のとおりである。
令和3年9月30日 :特許異議申立人遠藤楓実(以下「申立人」という)による本件特許異議の申立て
令和4年2月22日付け :取消理由の通知
同年5月2日 :特許権者による意見書の提出
同年6月16日 :申立人による上申書の提出

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜7にそれぞれ記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれを「本件発明1」〜「本件発明7」という。)。

【請求項1】
無機材料を含む無機基材層と、金属層を含み前記無機基材層の表面に設けられた表面層とを有する基材と、
前記基材の表面層側の面に形成されたシーラー層と、
前記シーラー層の表面に形成された表面接着剤層と、
前記表面接着剤層の表面に形成され、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの前記表面接着剤層とは反対側の面に順に形成された印刷層及び表面保護層と、前記樹脂フィルムの前記表面接着剤層側の面に形成された裏面プライマー層とを有する化粧シートと、
を備え、
前記表面層は、前記金属層と、該金属層の両面に設けられた第1の樹脂層及び第2の樹脂層と、該第1の樹脂層の前記金属層と反対側の面に設けられた第1の紙層及び該第2の樹脂層の前記金属層と反対側の面に設けられた第2の紙層と、を含み、
前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層における、樹脂材料の1平方メートル当たりの質量は、2.0g/m2以上15.0g/m2以下であり、
前記無機基材層は、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含む板状の第1の無機層と、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含み、該第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きい板状の第2の無機層とを、前記第2の無機層が前記表面層側に位置するように積層した積層体である不燃化粧板。
【請求項2】
前記金属層の厚さは、4μm以上50μm以下である
請求項1に記載の不燃化粧板。
【請求項3】
前記表面層は、前記第1の紙層を前記無機基材層と接着する接着層を備え、
前記接着層は、ウレタン系樹脂接着剤及びアクリル系樹脂接着剤から選択される接着剤で形成されており、前記接着剤の1平方メートル当たりの質量が20.0g/m2以上30.0g/m2以下である
請求項1又は2に記載の不燃化粧板。
【請求項4】
前記第1の無機層及び前記第2の無機層は、火山性ガラス質堆積物及び人造鉱物繊維保温材を含む
請求項1から3のいずれか1項に記載の不燃化粧板。
【請求項5】
前記基材の無機基材層側の面に設けられた防湿シートを備える
請求項1から4のいずれか1項に記載の不燃化粧板。
【請求項6】
前記防湿シートは、樹脂層と、該樹脂層の両面に設けられた第1の紙基材及び第2の紙基材とを有する
請求項5に記載の不燃化粧板。
【請求項7】
ISO5660−1に準拠したコーンカロリーメーターを用いた不燃試験において、(1)加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、(2)加熱開始後20分間の最大発熱速度が10秒を超えて連続して200kW/m2を超えず、(3)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がない、という条件を満たす不燃性を有する請求項1から6のいずれか1項に記載の不燃化粧板。

第3 当審の判断
1 特許権者に通知した取消理由の概要
当審が令和4年2月22日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
・ (新規性) 本件特許の請求項1〜7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
・ (進歩性) 本件特許の請求項1〜7に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


引用文献1(申立人が本件特許異議申立書に添付して提出した甲第2号証):“不燃・準不燃材料認定番号一覧表”,[online],2014年(平成26年)4月1日,パナソニック株式会社,[令和3年1月21日検索],インターネット<URL:https://www2.panasonic.biz/ls/sumai/law/nintei/data/FUNEN_DOOR_KOUREISYAHIKIDO.pdf>

2 引用文献
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証(特開2015−54455号公報)の記載事項
申立人が提出した甲第1号証(以下、各甲号証を「甲1」等のようにいう。)には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性基材の一方の面に、接着剤層と化粧シート層とが順に積層された不燃性化粧板であって、
難燃性基材が、火山性ガラス質複層板上に、少なくとも輻射シート層と紙質層とが順に積層されてなり、
接着剤層が、水性エマルジョン系樹脂と架橋剤を含有する水性エマルジョン接着剤組成物を乾燥させることにより形成されてなり、
前記水性エマルジョン接着剤組成物を乾燥させることにより形成された前記接着剤層が加熱された状態で前記化粧シートと積層されることを特徴とする不燃性化粧板。
【請求項2】
前記水性エマルジョン接着剤組成物を乾燥させることにより形成された前記接着剤層の残留水分率が30重量%未満、且つ、水分量が10.0g/m2未満であることを特徴とする請求項1に記載の不燃性化粧板。
【請求項3】
前記難燃性基材の前記紙質層が紙基材にシーラー剤が含浸された樹脂含浸紙であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の不燃性化粧板。
【請求項4】
前記難燃性基材の他方の面に、裏面層を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の不燃性化粧板。
【請求項5】
輻射シート層が、アルミニウム箔で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の不燃性化粧板。
【請求項6】
火山性ガラス質複層板上に、少なくとも輻射シート層と紙質層とが順に積層されてなる難燃性基材の一方の面に、水性エマルジョン系樹脂と架橋剤を含有する水性エマルジョン接着剤組成物で形成された接着剤層を介して化粧シートを貼着する不燃性化粧板の製造方法であって、
前記難燃性基材に前記水性エマルジョン接着剤組成物を塗布する工程と、
前記水性エマルジョン接着剤組成物を乾燥して接着剤層を形成する工程と、
前記難燃性基材に形成された前記接着剤層を介して化粧シートを加熱加圧すると同時に積層する工程と、
を備えた不燃性化粧板の製造方法。」
・「【発明を実施するための形態】
【0016】
上記の本発明について、図面等を用いて以下に詳述する。
図1は本発明に係る不燃性化粧板の第一実施形態を示す断面図、図2は本発明に係る不燃性化粧板のその他の実施形態を示す断面図、図3は本発明に係る不燃性化粧板の製造方法の一例を示す概略図であり、図中の1、1’は不燃性化粧板、2は難燃性基材、21は火山性ガラス質複層板、22は下層、23は輻射シート層、24は紙質層、25はシーラー層、3は接着剤層、31は水性エマルジョン接着剤組成物、4は化粧シート層、41は化粧シート巻取、5は裏面層、6は塗布部、61は塗布ロール、62は計量ロール、7は乾燥部、71は乾燥炉、8は積層部、81はニップロール、9は搬送ロールをそれぞれ示す。
【0017】
図1は本発明に係る不燃性化粧板の第一実施形態を示す断面図であって、本発明の不燃性化粧板1は、難燃性基材2の一方の面に、接着剤層3と化粧シート層4とが順に積層されたものである。難燃性基材2は、火山性ガラス質複層板21上に、紙質からなる下層22、輻射シート層23、紙質層24、シーラー層25が順に積層されたものである。
なお、難燃性基材2は火山性ガラス質複層板21上に、少なくとも輻射シート層23と紙質層24が順に積層されていればよいものであるが、火山性ガラス質複層板21と輻射シート層23との接着性を高めることができるので紙質からなる下層22を備えているほうが好ましいものである。また、図1にはシーラー層25を記載しているが、シーラー層25を形成するシーラー剤が紙質層24に含浸され、紙質層24がシーラー剤を含浸した樹脂含浸紙であってもよく、この場合には図示しないが図1においてシーラー層25がなくなり、紙質層24に合体された状態となる。」
・「【0019】
〔不燃性〕
本発明の不燃性化粧板において、「不燃性」とは、ISO5660−1の規定に基づき、不燃材料の規定に適合するものである。
【0020】
つぎに、本発明の不燃性化粧板1を構成する各層について説明する。
〔難燃性基材2〕
難燃性基材2は、火山性ガラス質複層板21上に、少なくとも輻射シート層23と紙質層24とが順に積層された難燃性基材である。また、必要に応じて下層22が積層される。難燃性基材2は次の各層で構成される。例えば、市販される「ダイライトFAL(商品名)」:大建工業株式会社製、「ダイライトFTL(商品名)」:大建工業株式会社製などを例示することができる。
・・・
【0022】
(輻射シート層23)
輻射シート層23は、本発明の不燃性化粧板1に、不燃性を付与するとともに、適度な強度を付与することで、反りを防止し、寸法安定性を高める目的で、設けられる層である。輻射シート層23の形成に用いられる輻射シートとしては、例えば金属箔、黒鉛シートなどが好ましく挙げられる。金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、銅箔、銀箔、鉄箔、ステンレス鋼箔などが挙げられ、なかでも、加工が容易であり、かつ腐食しにくいという観点から、アルミニウム箔、銅箔、及びステンレス鋼箔が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
【0023】
このような輻射シートとしては、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、測定温度25℃、測定波長領域2.5〜14μmにおいて、理想黒体と試料の全放射エネルギーの測定値から算出した値で示した輻射率を用いて表すと、輻射率が60%以上であるものが好ましく、不燃性の付与の観点から70%以上であることがより好ましい。
【0024】
(紙質層24)
紙質層24は、火山性ガラス質複層板21表面の凹凸を吸収して、化粧シート層4の浮きを防止し、該化粧シート層4との接着性を向上させて、光沢を有する輻射シートを用いた場合は、その光沢を隠蔽するために、設けられる層である。したがって、紙質層24は、不燃性化粧板1の化粧シート層4側からみて、輻射シート層23よりも上に積層されるものである。さらに、紙質層24は紙基材にシーラー剤等が含浸された樹脂含浸紙であることが好ましい。樹脂含浸紙とすることにより、紙基材の繊維間ないしは紙基材に隣接する層との層間強度の強化、及び紙のケバ立ち防止ができると共に難燃性基材2の表面を平滑にして、均質な塗面が得られるという、いわゆる目止め効果も得られる。
【0025】
紙質層24には、通常紙基材を使用することができる。紙基材としては、薄葉紙、クラフト紙、チタン紙などが使用できる。
【0026】
(シーラー層25)
シーラー層25は紙質層24の上に設けられ、接着剤層3の接着剤の含浸を防ぐ目止め効果や紙質層24の紙基材の層間強度の強化を付与するために設けるものである。
シーラー層25のシーラー剤としては、紙基材の層間強度の強化や目止め効果を付与できるものであれば特に制限なく、例えば、ポリエステルポリオール樹脂、アクリルポリオールとイソシアネートとによるアクリルウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルブチラール、エポキシ系樹脂、アミノアルキド系樹脂などの樹脂から選ばれた1種または2種以上の樹脂からなる有機シーラー、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、カオリナイト及び二酸化チタンからなる群から選ばれる一種もしくは2種以上の無機材料と、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリビニルブチラール、アクリルウレタン系樹脂、アミノアルキド系樹脂、ポリエステルポリオール系樹脂等の樹脂材料と、水及び/又は親水性有機溶媒を含有する組成物からなる無機シーラー、及びこれらの混合物、あるいは水系樹脂組成物が挙げられ、水系樹脂組成物が好ましい。」
・「【0031】
(下層22)
下層22は、火山性ガラス質複層板21と輻射シート層23との間に設けられる。下層22には紙質層24と同様の紙基材が用いられる。
なお、難燃性基材2は火山性ガラス質複層板21上に、少なくとも輻射シート層23と紙質層24が順に積層されていればよいものであるが、火山性ガラス質複層板21と輻射シート層23との接着性を高めることができるので紙基材からなる下層22を備えているほうが好ましいものである。
【0032】
〔接着剤層3〕
接着剤層3は、難燃性基材2のシーラー層25または難燃性基材2の紙質層24にシーラー剤が含浸された樹脂含浸紙と化粧シート層4とを接着するために設けられる層であり、水性エマルジョン系樹脂と架橋剤を含有する水性エマルジョン接着剤組成物を乾燥させることにより形成される。水性エマルジョン接着剤組成物は、有機溶剤を用いないので環境汚染への負荷が低いものである。水性エマルジョン接着剤組成物の水性エマルジョン系樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル系等の酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等を挙げることができ、これらを用いた公知のエマルジョンを、用途により適宜選択して使用される。架橋剤は難燃性基材2と化粧シート層4との接着強度を向上させるものであり、含有させる方が好ましい。架橋剤としては例えば分子内にイソシアネート基を有し化学反応により架橋構造を付与することができるものが用いられ、水性エマルジョン接着剤組成物をいわゆる2液硬化型にすることが好ましい。
【0033】
接着剤層3は、水性エマルション接着剤組成物を、グラビアコート、バーコート、スプレーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコート等の公知の方式より塗布し乾燥させることにより形成することができる。水性エマルジョン接着剤組成物の塗布量は、2〜30g/m2(固形分換算)が好ましく、5〜20g/m2(固形物換算)がより好ましい。水性エマルジョン接着剤組成物を乾燥させることにより形成された接着剤層3の残留水分率が30重量%未満、且つ、10.0g/m2未満であることが好ましい。残留水分率が30重量%以上、あるいは水分量が10.0g/m2以上であると十分な初期接着力が得られにくくなり次工程の加工を行うまで養生期間を要することがある。
【0034】
また、接着剤層3を形成する水性エマルジョン接着剤組成物には、増粘剤を配合することが好ましい。水性エマルジョン接着剤組成物に増粘剤を配合することにより、チキソトロピー性が得られ、塗布適性が向上すると共に低塗布量化が図れる。低塗布量化により、後述するが、短時間の乾燥で接着剤層3の残留水分率が30重量%未満、且つ、接着剤層3の水分量が10.0g/m2未満とでき、不燃性化粧板の生産速度の高速化が可能となる。さらに、低塗布量化の実現により、従来、不燃性化粧板に良好な不燃性を付与するために水性エマルジョン接着剤組成物に水酸化アルミニウムが配合されていたが、水酸化アルミニウムが不要もしくは少ない配合量とすることが可能となり、コストダウンが図れる。増粘剤としては、通常増粘剤として使用されるような水溶性樹脂を使用することができるが、なかでもアクリル系増粘剤、セルロース誘導体、ポリエーテル系、ウレタン変性ポリエーテル系のような増粘剤が好ましい。
配合量としては、塗布方式に応じて適した粘度が得られるように配合すればよいものであるが、水性エマルジョン接着剤組成物全体に対して、0.001〜5.0重量%程度である。配合量を多くし過ぎると、高粘度となり、低塗布量化が困難となる。
【0035】
〔化粧シート層4〕
化粧シート層4は、本発明の不燃性化粧板1に意匠性を付与するために設けられる。化粧シート層4に用いられる化粧シートとしては、通常化粧板に用いられる樹脂シートなどを基材とするものを制限なく用いることが可能であり、樹脂シートをなす樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体樹脂、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂;アクリル変性ウレタン系樹脂、ポリエステル変性ウレタン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体変性ウレタン系樹脂等のポリウレタン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂等を挙げることができ、これらのうち1種又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0036】
また、化粧シートとしては、上記の樹脂からなる着色樹脂シートと透明樹脂シートとを模様を挟んで得られるダブリングシートとして用いることもできる。この場合、着色樹脂シート、及び透明樹脂シートに用いられる樹脂は同じでも異なっていてもよく、ポリオレフィン系樹脂を好ましく用いることができ、樹脂の組合せとしては、ポリエチレン−ポリエチレン、ポリエチレン−ポリプロピレン、あるいはポリプロピレン−ポリプロピレンの組合せが好ましい。ダブリングシートは、例えば上記樹脂からなる樹脂シートAの表面にコロナ放電処理などを施してプライマー層を設け、該樹脂シートAにベタ層及び/又は絵柄層を印刷形成した後に、上記樹脂からなる樹脂シートBを押出ラミネーション、ドライラミネーション、ウエットラミネーション、サーマルラミネーションなどのラミネーション法により加圧接着して得られる。
【0037】
また、樹脂シートBの表面には、電離放射線硬化性樹脂からなる表面保護層(図示しない)を形成することが好ましい。電離放射線硬化型樹脂からなる表面保護層を備えた化粧シートとすることにより、図3に示すように、枚葉で供給される難燃性基材2と化粧シート巻取41が積層部8で積層される場合において、枚葉の難燃性基材2は少しの間隔をあけて供給されるのでその間隔部分が段差となり、当該段差では化粧シート層4のみとなるのでニップロール81で圧着時、化粧シート層4が引き伸ばされることとなるが、表面保護層を設けることにより、引き伸ばしが緩和されるので次工程の作業が容易となる。電離放射線硬化性樹脂としては公知のものが使用できる。また、意匠性の観点から、化粧シート層4は、表面にエンボス加工を施すこともできる。
【0038】
図2は本発明に係る不燃性化粧板のその他の実施形態を示す断面図であって、本発明の不燃性化粧板1’は、難燃性基材2の一方の面に、接着剤層3と化粧シート層4とが順に積層され、難燃性基材2の他方の面に裏面層5が積層された構成である。その他は第一実施形態と同じであり、同符号を付して説明を省略する。
裏面層5は、図2に示す通り、難燃性基材2の他方の面に裏面接着剤層(図示しない)を介して、必要により設けられる層である。裏面層5としては、通常の化粧板に使用される紙製シート、樹脂製シート及びこれらのシートを積層したシート等を適用できる。なかでもシートに防湿性を付与した防湿シートが好ましく、裏面層5に防湿シートを適用することで、後工程での加工作業、運搬作業あるいは現場施工作業において異物(難燃性基材の火山性ガラス質複層板に起因する白い粉等)の発生を防止すると共に不燃性化粧板1’の反りの発生の低減化が図れるものである。
【0039】
〔裏面層5〕
裏面層5に用いられる防湿シートとしては、例えば、2つの紙層を密度0.941g/cm3以上の高密度ポリエチレン樹脂(以下、HDPEという。)やポリプロピレン樹脂(以下、PPという。)を介してエクストルージョン法によるサンドイッチラミネーションした紙層/HDPE/紙層、紙層/PP/紙層の3層構造のものが好ましく挙げられる。紙層としては、坪量20〜50g/m2の建材用プリント用紙、純白紙などにラテックスや合成樹脂を含浸したもの、あるいは、合成樹脂を混抄させて層間強度を強化した薄葉紙(いわゆる紙間強化紙)などが好ましく使用される。坪量が20〜50g/m2であれば、柔軟すぎないので、貼合せ加工時に皺が起こりにくく、紙層からの剥がれ及び湿気が浸透しにくいので不具合が生じにくくなる。
【0040】
防湿シートの防湿性としては、透湿度30g/m2・24hr以下、好ましくは透湿度15g/m2・hr以下の性能を有することが望ましく、そのためにHDPEやPPの厚みとしては、15〜30μm程度が好ましい。もちろん、HDPEやPPのかわりに低密度ポリエチレン樹脂(以下、LDPEという。)も使用できるが、同程度の防湿性を得るには厚みを厚くする必要がある。さらに、防湿性を高めるために合成樹脂製基材にアルミニウム等の金属または酸化珪素、酸化アルミニウム等の無機物を蒸着した蒸着層を備えたものを防湿シートとすることもできる。合成樹脂製基材への蒸着層の形成は周知の蒸着方法で形成することができる。この場合、防湿シートと難燃性基材2との接着性を向上させる目的で、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、ニトロセルロース系樹脂の単独または2つ以上混合したものを用いて接着用プライマー層を設けることが好ましい。
【0041】
〔製造方法〕
図3を参照しながら本発明の不燃性化粧板の製造方法の一例について説明する。
図3に示すように本発明の不燃性化粧板1は、塗布部6にて難燃性基材2に水性エマルジョン接着剤組成物31を塗布する工程と、乾燥部7にて難燃性基材2に塗布された水性エマルジョン接着剤組成物31を乾燥して接着剤層3を形成する工程と、積層部8にて難燃性基材2に形成された接着剤層3を介して化粧シート層4を加熱加圧すると同時に積層する工程とを備えている。これらの工程はインラインで行われるので、乾燥部7の乾燥炉71で加熱された接着剤層3の温度低下が抑制でき、加熱された状態のまま積層部8で化粧シート層4と加熱加圧されるので優れた初期接着力が得られ、養生期間を省略することが可能となる。
【0042】
まず、塗布部6において、枚葉で供給された難燃性基材2を搬送ロール9で送りながら難燃性基材2上に水性エマルジョン接着剤組成物31を2〜30g/m2(固形分換算)程度の塗布量で、ロールコート方式で塗布される。塗布部6は塗布ロール61と計量ロール62を近接させてなり、水性エマルジョン接着剤組成物31を当該ロール間の上から供給するトップフィード方式である。塗布ロール61は難燃性基材2の流れる方向(図3の矢印で示す方向)と順方向、すなわち図3においては反時計回り方向に回転し、計量ロール62も同様に反時計回り方向に回転している。塗布量の設定は、近接させた塗布ロール61と計量ロール62とのギャップの設定、当該ロールの回転速度の設定により行われる。もちろん、塗布量は水性エマルジョン接着剤組成物の濃度、粘度等のファクターにより大きな影響を受けることは言うまでもない。塗布部6をこうのような構成とすることにより、塗布ロール61と計量ロール62との近接部分では水性エマルジョン接着剤組成物31を相互に逆方向に引っ張る力が加わり表面が均一化され安定した塗布が可能となる。
【0043】
塗布部6において、難燃性基材2の下流方向にさらに塗布ロール61と計量ロール62を近接させたもう1つの塗布部を備えており、水性エマルジョン接着剤組成物31が2度塗布可能な構成となっている。塗布部は1つでもよいが、塗布部が2つある方が、塗膜の均一性が得られ、低塗布量化が得られやすい。なお、塗布方式はロールコートに限定されるものではなく、グラビアコート、バーコート、スプレーコート、リバースロールコート、コンマコート等も使用できる。
【0044】
水性エマルジョン接着剤組成物31が塗布された難燃性基材2は搬送ロール9により矢印方向に搬送され、乾燥部7に送り込まれ、乾燥炉71内で難燃性基材2は搬送ロール9により搬送されながら乾燥され難燃性基材2上に接着剤層3が形成される。乾燥炉71は、例えば、ガス、蒸気、遠赤外線等の熱源で加熱された熱風吹き出し方式である。炉内温度は、通常、80℃〜300℃で設定可能であり、水性エマルジョン接着剤組成物の固形分濃度、塗布量、難燃性基材を搬送する速度等の条件を勘案して適宜設定されるものであるが、本発明においては、乾燥部7で乾燥されて形成された接着剤層3の残留水分率が30重量%未満、且つ、水分量が10.0g/m2未満になるように乾燥条件をコントロールすることが好ましい。
【0045】
その後、搬送ロール9により積層部8に送られる。積層部8では、供給部に装着された化粧シート巻取41を巻き戻しながら搬送ロール、ガイドロール(図示しない)により連続して積層部8に送られ、搬送ロール9により搬送されながら供給された難燃性基材2上に形成された接着剤層3とがニップロール81にて加熱加圧されながら積層される。加熱温度としては、通常、40℃〜200℃である。このように接着剤層3の残留水分率が30重量%未満、且つ、水分量が10.0g/m2未満になるようにし、加熱することにより接着剤層3にタックが得られるので加熱加圧すると同時に積層することにより、優れた初期接着力が得られ、養生期間を省略することが可能となる。
したがって、例えば、指定寸法への切断カット、建具、家具、収納等の組み立て等の次工程の加工ができるのでリードタイムの短縮が可能となる。
【0046】
また、難燃性基材2は連続して供給されるが、枚葉であるため、難燃性基材2の前後に約100mm以内の間隔が発生する。積層部8より搬送される不燃性化粧板1は化粧シート(化粧シート層4)で繋がっており、難燃性基材2の前後の前記間隔内において化粧シートがカットされ、枚葉の不燃性化粧板1が製造される。なお、積層部8において、前記間隔が段差となり、当該段差では化粧シート層4のみとなるのでニップロール81で圧着時、化粧シート層4が引き伸ばされることとなり、カット作業が劣ることがある。この場合、化粧シート層4の表面に電離放射線硬化性樹脂からなる表面保護層(図示しない)を形成することにより、化粧シート層4の引き伸ばしが緩和されるのでカット作業が容易になる。
【0047】
得られた不燃性化粧板は、建築物の天井、壁材などの内外装用建材や、扉、家具等の用途に使用できる。特に、本発明の不燃材化粧板が有する不燃性をいかして、流し台、ガスコンロ、フード等のキッチン周り建材や、その他の建築基準法上、不燃性を要請される建築物の各所に好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、この例に限るものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範疇のものは、すべて本発明に含まれるものである。
【0049】
(評価方法)
各実施例及び比較例で得られた不燃性化粧板について、以下の方法で評価した。
(1)総発熱量の評価
各実施例及び比較例で製造した不燃性化粧板について、ISO5660−1に準拠したコーンカロリーメーター試験機を用いて、加熱開始後20分間の総発熱量(MJ/m2)を求めた。総発熱量が8MJ/m2以下であれば、合格である。
(2)最大発熱速度の評価
各実施例及び比較例で製造した不燃性化粧板について、ISO5660−1に準拠したコーンカロリーメーター試験機を用いて、加熱開始後20分間の最大発熱速度として、200kW/m2を超える時間を秒単位で求めた。10秒以上継続して200kW/m2を超えなければ合格である。
(3)基材の亀裂の評価
各実施例及び比較例で製造した化粧板について、ISO5660−1に準拠したコーンカロリーメーター試験機を用いて、加熱開始後20分間の試験終了後の基材の亀裂や穴の有無を確認し、以下の基準で評価した。
○ 裏面まで貫通する亀裂や穴は全くなかった。合格である。
× 裏面まで貫通する亀裂や穴が多数あった。不合格である。
(4)総合不燃性評価
総発熱量の評価、最大発熱速度の評価および基材の亀裂の評価において、いずれの評価でも合格したものを○、いずれかの評価で1つでも合格基準に満たなかったものを×として総合不燃性評価を行った。
(5)ピーリング強度の測定
各実施例及び比較例で製造した不燃性化粧板について、テンシロン引張試験機(オリエンテック製)を用いて、引張速度 200mm/min、剥離角度 180°で化粧シートと難燃性基材とを剥がした際の剥離強度を測定し、ピーリング強度とした。
(6)接着剤層の残留水分率および水分量の測定
難燃性基材と難燃性基材に水性エマルジョンをコートしたものの同じ面積を有する2点をサンプルとし恒湿恒温槽を用いて、各乾燥条件にて各サンプルを乾燥後、その重量を測定し、その重量差を接着剤層重量とした。さらに各サンプルについてJAS合板規格に準じて接着剤層の全乾質量(全乾重量)を測定し、次式により残留水分率および水分量を算出した。
W1:各乾燥条件で乾燥後の接着剤層の重量
W2:接着剤層の全乾重量
接着剤層の水分量(g/m2)=W1−W2
接着剤層の残留水分率(%)=〔(W1−W2)/W1〕×100
【0050】
〔実施例1〕
坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)と厚さ20μmのアルミニウム箔と坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)とを2液硬化型ウレタン系接着剤を介してドライラミネーション法で積層し、難燃性基材の中間体を作製した。なお、2液硬化型ウレタン系接着剤の塗布量はそれぞれ4g/m2(固形分基準、有機分量4g/m2)とした。
つぎに、厚さ3mmの火山性ガラス質複層板(商品名:ダイライト、大建工業株式会社製)の一方の面に、2液硬化型ウレタン系接着剤を40g/m2(固形分基準、有機分量35g/m2)の塗布量で塗布した上に、前記中間体の一方の紙間強化紙を貼り合わせて難燃性基材を作製するとともに、火山性ガラス質複層板の他方の面に別途準備した坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)と坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)とを厚さ25μmのポリプロピレン樹脂を用いてエクストルージョン法によりサンドイッチラミネーションした裏面層としての防湿シートを塗布量40g/m2(固形分基準)の2液硬化型ウレタン系接着剤を介して積層した。
【0051】
得られた防湿シートを裏面に積層した難燃性基材の前記中間体の他方の紙間強化紙の上に水溶性アクリル系樹脂(「SA−95(商品名)」:中央理化工業株式会社製,Tg:30℃)と硬化剤(「EX−8(商品名)」:中央理化工業株式会社製,エポキシ系樹脂)とを100:10(質量比)で配合し、これに水55質量部を加えて希釈して得られたシーラー剤を、スプレーコートで3.5g/m2(固形分基準、有機分量:3.5g/m2)の塗布量で塗布し、シーラー剤を他方の紙間強化紙に含浸させながら100℃で30秒間乾燥を行った。なお、このシーラー剤の粘度は10mPas(20℃)であった。
【0052】
難燃性基材の前記中間体のシーラー剤を塗布した他方の紙間強化紙の上に、主剤に水性エマルジョン系のウレタン樹脂・ビニル共重合樹脂系樹脂接着剤(「CVC(商品名)」:コニシ株式会社製、接着剤組成:ウレタン樹脂・ビニル共重合樹脂系樹脂 35質量%/水 65質量%)、架橋剤にポリイソシアネート系化合物(100質量%)、水酸化アルミニウムを100:5:15(質量比)で配合した水性エマルジョン接着剤組成物を塗布量30g/m2(ウエット)で塗布して温度180℃の乾燥炉で15秒間、熱風乾燥させ接着剤層(有機分量:10g/m2)を形成すると共に、熱風乾燥され加熱状態となっている当該接着剤層と、別途準備した厚さ120μmの表面に電離放射線硬化性樹脂からなる表面保護層を備えたポリオレフィン系化粧シート(坪量:135g/m2、有機分量:110g/m2、「WSシリーズ(商品名)」:大日本印刷株式会社製)と、
積層部の90℃に加温されたニップロールでポリオレフィン系化粧シート面から加熱加圧して表面保護層が表出するように貼り合わせて不燃性化粧板を得た。得られた不燃性化粧板の評価結果を表1に示す。
なお、得られた不燃性化粧板のアルミニウム箔上の有機分量は、181.5(35+23+3.5+10+110)g/m2だった。 ・・・」
「【0056】
【表1】


・「【0057】
実施例1〜2および比較例1〜2で得られた不燃性化粧板について、1時間後に次工程として、建具作製のため、製品サイズの切断カット(パネルソーによる切断)を行ったところ、実施例1、2の不燃性化粧板は何ら問題なく、作業ができ、養生工程を省略することができた。比較例1、2の不燃性化粧板は次工程の作業中に不燃性化粧板の端部にて化粧シートの一部に捲れが発生し作業を続けることは困難であった。」
イ 甲1に記載された発明
上記アに摘記した事項、特にその実施例1に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「厚さ3mmの火山性ガラス質複層板(商品名:ダイライト、大建工業株式会社製)と、アルミニウム箔を含み前記火山性ガラス質複層板の表面側に設けられた中間体とを有する難燃性基材と、
前記難燃性基材の中間体の表面側の面に設けられたシーラー層と、
前記シーラー層の上に形成された接着剤層と、
前記接着剤層の上に形成され、表面保護層を備えたポリオレフィン系化粧シートと、を備え、
前記中間体は、坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)と厚さ20μmのアルミニウム箔と坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)とを2液硬化型ウレタン系接着剤(塗布量はそれぞれ4g/m2(固形分基準、有機分量4g/m2))を介してドライラミネーション法で積層したものであり、
前記火山性ガラス質複層板の他方の面に、坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)と坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)とを厚さ25μmのポリプロピレン樹脂を用いてエクストルージョン法によりサンドイッチラミネーションした裏面層としての防湿シートを備え、
ISO5660−1に準拠したコーンカロリーメーターを用いた不燃試験において、(1)加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、(2)加熱開始後20分間の最大発熱速度が10秒を超えて連続して200kW/m2を超えず、(3)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がない、という条件を満たす不燃性を有する、
不燃性化粧板。」

(2) 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
ア 引用文献1の記載事項
申立人が提出した甲第2号証(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。
・「

」(p.1)
・「

」(p.2)
・「

」(p.3)
・「

」(p.4)
・「


」(p.5)
イ 引用文献1に記載された発明
上記アに摘記した事項、特にそのp.5の図1に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「不燃面材扉の扉面材に使用される不燃面材として使用されるウレタン樹脂系塗装ポリプロピレン樹脂系フィルム張/パルプシート裏張/両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板であって、
その断面を見ると、表面側から順に、ウレタン樹脂系塗装ポリプロピレン樹脂系フィルム、接着剤(ウレタン樹脂系)、シーラー(アクリル樹脂系)、両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板、接着剤(酢酸ビニル樹脂系)およびパルプシートが配置されたものであり、
そのうち、ウレタン樹脂系塗装ポリプロピレン樹脂系フィルムは、ウレタン系樹脂と無機質系顔料(シリカ等)を含むウレタン樹脂系塗料、ポリプロピレン系樹脂と有機質系顔料を含むポリプロピレン樹脂系フィルム(クリヤー層)、接着剤(ウレタン樹脂系)、印刷インキ(ウレタン樹脂系)、ポリプロピレン樹脂系フィルム(着色層)、プライマー(ウレタン樹脂系)からなり、
両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板は、薄葉紙と、固形量4g/m2以下のウレタン系樹脂と、厚さ0.012mmのアルミニウムはくと、固形量4g/m2以下のウレタン系樹脂と、薄葉紙と、固形量24g/m2以下のウレタン系樹脂からなる両面薄葉紙張アルミニウムはくと、人造鉱物繊維保温材(ロックウール、グラスウール)、火山性ガラス質堆積物粉体(シラス、白土、軽石等)を含む火山性ガラス質複層板からなる両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板からなり、
パルプシートは、パルプと、ポリエチレン系樹脂と、パルプとからなり、
両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板は、厚さ3.0(±0.3)mm(プレス加工による)、質量3.9(±0.39)kg/m2であって、そのうち、火山性ガラス質複層板は、厚さ3.04mm、質量3.79kg/m2であり、いずれも厚さ1.52mm、質量1.895kg/m2である上層と下層の2層からなるウレタン樹脂系塗装ポリプロピレン樹脂系フィルム張/パルプシート裏張/両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板。」

3 特許権者に通知した取消理由についての判断
まず、令和4年2月22日付けで特許権者に通知した取消理由である、引用文献1(甲2)を主たる証拠とした本件各発明の新規性進歩性について検討する。
(1)本件発明1
ア 本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「不燃面材扉の扉面材に使用される不燃面材として使用されるウレタン樹脂系塗装ポリプロピレン樹脂系フィルム張/パルプシート裏張/両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板」は、本件発明1の「不燃化粧板」に相当する。
引用発明の「人造鉱物繊維保温材(ロックウール、グラスウール)、火山性ガラス質堆積物粉体(シラス、白土、軽石等)を含む火山性ガラス質複層板」は、本件発明1の「無機材料を含む無機基材層」に相当する。
引用発明の「両面薄葉紙張アルミニウムはく」に含まれる「厚さ0.012mmのアルミニウムはく」は、本件発明1の「金属層」に相当し、引用発明の「アルミニウムはく」の「両面」に「張」られる2つの「薄葉紙」は、それぞれ、本件発明1の「第1の紙層」及び「第2の紙層」に相当し、引用発明の「アルミニウムはく」と2つの「薄葉紙」の間に介在する2つの「固形量4g/m2以下のウレタン系樹脂」は、それぞれ、本件発明1の「樹脂材料の1平方メートル当たりの質量は、2.0g/m2以上15.0g/m2以下」である「第1の樹脂層」及び「第2の樹脂層」に相当する。また、引用発明の「両面薄葉紙張アルミニウムはく」は、「固形量24g/m2以下のウレタン系樹脂」を介して「火山性ガラス質複層板」と並べて配置されたものであるから、「厚さ0.012mmのアルミニウムはく」の両面に「固形量4g/m2以下のウレタン系樹脂」を介して「薄葉紙」が張られる構成は、本件発明1の「金属層を含み前記無機基材層の表面に設けられた表面層」に相当する。
引用発明の「両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板」は、本件発明1の「基材」に相当し、また、引用発明は「表面側から順に、ウレタン樹脂系塗装ポリプロピレン樹脂系フィルム、接着剤(ウレタン樹脂系)、シーラー(アクリル樹脂系)、両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板、接着剤(酢酸ビニル樹脂系)およびパルプシートが配置され」たものであるから、引用発明の「シーラー(アクリル樹脂系)」及び「接着剤(ウレタン系樹脂)」は、それぞれ、本件発明1の「前記基材の表面層側の面に形成されたシーラー層」及び「前記シーラー層の表面に形成された表面接着剤層」に相当する。
引用発明の「ウレタン樹脂系塗料ポリプロピレン樹脂系フィルム」のうち、「印刷インキ(ウレタン樹脂系)」、「ポリプロピレン樹脂系フィルム(着色層)」、「プライマー(ウレタン樹脂系)」は、それぞれ、本件発明1の「印刷層」、「樹脂フィルム」及び「裏面プライマー層」に相当する。そうすると、引用発明の「ウレタン樹脂系塗料ポリプロピレン樹脂系フィルム」は、基材の表面に張られ、印刷層を含むフィルム状のものであるから、本件発明1の「化粧シート」に相当する。
引用発明の「ウレタン樹脂系塗料ポリプロピレン樹脂系フィルム」のうち、「ウレタン系樹脂と無機質系顔料(シリカ等)を含むウレタン樹脂系塗料、ポリプロピレン系樹脂と有機質系顔料を含むポリプロピレン樹脂系フィルム(クリヤー層)」と、本件発明1の「表面保護層」とは、“印刷層の表面に設けられた層”という限りで一致する。
また、引用発明の「該火山性ガラス質複層板は、厚さ3.04mm、質量3.79kg/m2であり、いずれも厚さ1.52mm、質量1.895kg/m2 である上層と下層の2層からなる」ことと、本件発明1の「前記無機基材層は、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含む板状の第1の無機層と、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含み、該第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きい板状の第2の無機層とを、前記第2の無機層が前記表面層側に位置するように積層」したことは、“いずれも火山性ガラス質堆積物を含む板状の2層の無機層を積層”したものという限りで一致する。
そうすると、本件発明1と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
無機材料を含む無機基材層と、金属層を含み前記無機基材層の表面に設けられた表面層とを有する基材と、
前記基材の表面層側の面に形成されたシーラー層と、
前記シーラー層の表面に形成された表面接着剤層と、
前記表面接着剤層の表面に形成され、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの前記表面接着剤層とは反対側の面に形成された印刷層及び印刷層の表面に設けられた層と、前記樹脂フィルムの前記表面接着剤層側の面に形成された裏面プライマー層とを有する化粧シートと、
を備え、
前記表面層は、前記金属層と、該金属層の両面に設けられた第1の樹脂層及び第2の樹脂層と、該第1の樹脂層の前記金属層と反対側の面に設けられた第1の紙層及び該第2の樹脂層の前記金属層と反対側の面に設けられた第2の紙層と、を含み、
前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層における、樹脂材料の1平方メートル当たりの質量は、2.0g/m2以上15.0g/m2以下であり、
前記無機基材層は、いずれも火山性ガラス質堆積物を含む板状の2層の無機層を積層した積層体である不燃化粧板。
<相違点2−1>
“印刷層の表面に設けられた層”について、本件発明1は「表面保護層」であるのに対し、引用発明の「ウレタン系樹脂と無機質系顔料(シリカ等)を含むウレタン樹脂系塗料、ポリプロピレン系樹脂と有機質系顔料を含むポリプロピレン樹脂系フィルム(クリヤー層)、接着剤(ウレタン樹脂系)」である点。
<相違点2−2>
“いずれも火山性ガラス質堆積物を含む板状の2層の無機層を積層”したことについて、本件発明1は「前記無機基材層は、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含む板状の第1の無機層と、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含み、該第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きい板状の第2の無機層とを、前記第2の無機層が前記表面層側に位置するように積層」したものであるのに対し、引用発明は「該火山性ガラス質複層板は、厚さ3.04mm、質量3.79kg/m2であり、いずれも厚さ1.52mm、質量1.895kg/m2である上層と下層の2層からなる」ものである点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点2−2から検討を始める。
a.引用発明の両面薄葉紙張アルミニウムはく張/火山性ガラス質複層板は、「厚さ」が「3.0(±0.3)mm(プレス加工による)」、「質量」が「3.9(±0.39)kg/m2」と公差が定められたものである。
そうすると、引用発明とは、プレス加工後の火山性ガラス質複層板は、その厚さ及び質量が当該公差の範囲内でそれぞれ1.52mm、1.895kg/m2とは異っていることがあり得るものと理解できる。
しかし、そうであるからといって、引用発明からは、表面層側に位置する層が他方の層よりも厚くかつ1平方メートル当たりの質量が大きい態様までが明確に読み取れるものではない。
したがって、相違点2−2は、実質的なものである。
b.そして、当業者が、引用発明に基づいて、その表面層側に位置する上層が他方の下層よりも厚くかつ1平方メートル当たりの質量が大きくなるように2つの層の間の関連構成を変えるということを容易に着想し得たといえるものでもない。
よって、引用発明において相違点2−2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者にとって容易になし得たとはいえない。
なお、特許権者は、意見書において「本件特許発明1では「第二の無機層(上層)を、第一の無機層(下層)よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きいもの」とすることで、「2枚の無機層のうち剛性が強い方を不燃化粧板の厚み全体で中央に近い側に位置させることになって、無機基材層を複数の板の積層体としたことによる不燃化粧板全体での強度低下を抑制することができる。」と主張するが、本件の明細書にはもとよりそのような記載は存在していないのだし、また、本件の明細書の記載から自明といえるものでもないから、到底採用し得ないものである。
(イ)以上を踏まえると、相違点2−1について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明ではないし、また、引用発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもないといえる。
(ウ)申立人は令和4年6月16日に上申書を提出して、「・・・上層、下層それぞれの公差により、プレス加工前の時点の厚みが上層の方が下層よりも大きい場合も含めて公差が定められていると解釈する他なく、該第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きい板状の第2の無機層とを、前記第2の無機層が前記表面層側に位置するように積層」する態様も当然にこれに含まれることになり、また引用発明の通常の事業の実施において、この程度の厚みの差異は、現に公差として日常的に生じていたものと考えられます。
従いまして、相違点2(当審注:上記相違点2−2のことである。)を充足する態様も引用発明に含まれることになり、少なくともその設計上、当然に想定される範囲内という他ありません。」(5ページ3〜11行)と主張している。
そこで検討すると、上記(ア)に示したとおり、引用発明において相違点2−2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者にとって容易になし得たとはいえないから、当該上申書での申立人の主張は採用できない。

(2)本件発明2〜7
本件発明2〜7は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2〜7をそれぞれ引用発明と対比すると、本件発明1と引用発明を対比した際の相違点2−1、2−2と同様の相違点が存在することになる。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2〜7は、いずれも、引用発明ではないし、また、引用発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1〜7は、いずれも、特許法第29条第1項第3号に規定された発明には該当しないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。
したがって、本件発明1〜7に係る特許は、いずれも、特許法第113条第2号に該当しない。

4 取消理由の通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)明確性要件について
本件特許の特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1には「前記無機基材層は、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含む板状の第1の無機層と、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含み、該第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きい板状の第2の無機層とを、前記第2の無機層が前記表面層側に位置するように積層した積層体である」という事項が記載されている。
第1、第2の無機層は、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の記載によれば、火山性ガラス質堆積物が有機結合剤等と合わせて調整されて個別に板状に成形されるものであって、本件各発明における第1、第2の無機層は、不燃化粧板においても個別の層として十分認識できるものというべきである。同じく不燃化粧板に関する引用文献1(甲2)、甲3で火山性ガラス質複層板層が上層、下層から構成されていることや、甲7でダイライトが2層で重ね合わせられていることも、そのように認識することが合理的であることの証左といえる。
そうであるから、当業者は、上記事項から、いずれも火山性ガラス質堆積物を含んだ板状の第1、第2の無機層が第2の無機層が表面層側に位置するように積層した積層体及びその第2の無機層が第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きいものであることを明確に認識できるものである。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすから、本件発明1〜7に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではない。

(2)サポート要件について
ア 本件各発明の課題は、「不燃性を有する化粧板を提供すること」(段落【0004】)である。
そして、本件各発明により所与の課題が解決されることは、表1にまとめられた実施例をみれば確認できる。
ここで、たしかに、申立人が主張するように、表1には比較例が含まれてはいないが、実施例毎にその不燃試験、外観評価が開示されていることから、これら各実施例の構成により不燃性が得られたことが理解できる。
イ 本件明細書の記載全体からは、本件各発明は、もっぱら火山性ガラス質堆積物を含む無機基材層と金属層を含む表面層とを積層することで、不燃性を得たものと理解される。
申立人は、無機基材層の構成の特定が十分でない旨や「防湿シート」が必要不可欠である旨を指摘するが、不燃性の獲得には、もっぱら火山性ガラス質堆積物を含む無機基材層と金属層を含む表面層が寄与するものと理解されることから、本件各発明でことさら無機基材層の構成についての火山ガラス堆積物以外に含まれる材料や配合割合といった事項、さらには、防湿シートの存在といった事項までが特定されずとも、当業者は本件各発明により所与の課題を解決できると認識できるものである。
ウ したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすから、本件発明1〜7に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではない。

(3)新規性進歩性について
申立人は、特許異議申立書において、甲1を主たる証拠とした場合での本件各発明の新規性進歩性の欠如も主張しているので、これについての合議体の見解を付しておく。
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「火山性ガラス質複層板(商品名:ダイライト、大建工業株式会社製)」、「アルミニウム箔を含み前記火山性ガラス質複層板の表面側に設けられた中間体」、「難燃性基材」、「前記難燃性基材の中間体の表面側の面に設けられたシーラー層」、「前記シーラー層の上に形成された接着剤層」、「前記中間体は、坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)と厚さ20μmのアルミニウム箔と坪量23g/m2の紙間強化紙(「FIX−30(商品名)」:三興製紙(株)製)とを2液硬化型ウレタン系接着剤(塗布量はそれぞれ4g/m2(固形分基準、有機分量4g/m2))を介してドライラミネーション法で積層したものであり、」は、それぞれ、本件発明1の「無機材料を含む無機基材層」、「金属層を含み前記無機基材層の表面に設けられた表面層」、「基材」、「前記基材の表面層側の面に形成されたシーラー層」、「前記シーラー層の表面に形成された表面接着剤層」、「前記表面層は、前記金属層と、該金属層の両面に設けられた第1の樹脂層及び第2の樹脂層と、該第1の樹脂層の前記金属層と反対側の面に設けられた第1の紙層及び該第2の樹脂層の前記金属層と反対側の面に設けられた第2の紙層と、を含み、」に相当する。
甲1発明の「前記接着剤層の上に形成され、表面保護層を備えたポリオレフィン系化粧シート」と本件発明1の「前記表面接着剤層の表面に形成され、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの前記表面接着剤層とは反対側の面に形成された印刷層及び表面保護層と、前記樹脂フィルムの前記表面接着剤層側の面に形成された裏面プライマー層とを有する化粧シート」は、“前記表面接着剤層の表面に形成され、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの前記表面接着剤層とは反対側の面に順に形成された表面保護層を有する化粧シート”という限りで一致する。
甲1発明の「2液硬化型ウレタン系接着剤」の「塗布量」は、本件発明1の「第1の樹脂層」及び「第2の樹脂層」における「樹脂材料の1平方メートル当たりの質量」に相当するところ、甲1発明でのその値「4g/m2」は、本件発明1でのその値「2.0g/以上15.0g/m2以下」に含まれる。
そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
無機材料を含む無機基材層と、金属層を含み前記無機基材層の表面に設けられた表面層とを有する基材と、
前記基材の表面層側の面に形成されたシーラー層と、
前記シーラー層の表面に形成された表面接着剤層と、
前記表面接着剤層の表面に形成され、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの前記表面接着剤層とは反対側の面に形成された表面保護層とを有する化粧シートと、
を備え、
前記表面層は、前記金属層と、該金属層の両面に設けられた第1の樹脂層及び第2の樹脂層と、該第1の樹脂層の前記金属層と反対側の面に設けられた第1の紙層及び該第2の樹脂層の前記金属層と反対側の面に設けられた第2の紙層と、を含み、
前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層における、樹脂材料の1平方メートル当たりの質量は、2.0g/m2以上15.0g/m2以下である不燃化粧板。
<相違点1−1>
「化粧シート」について、本件発明1では、樹脂フィルムと表面保護層の間に印刷層があり、かつ、当該樹脂フィルムの表面接着剤層側の面に裏面プライマー層が形成されているのに対して、甲1発明では、印刷層及び裏面プライマー層が設けられていない点。
<相違点1−2>
「無機基材層」について、本件発明1では、「前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含む板状の第1の無機層と、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含み、該第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きい板状の第2の無機層とを、前記第2の無機層が前記表面層側に位置するように積層した積層体」であるのに対し、甲1発明の「火山性ガラス質複層板(商品名:ダイライト、大建工業株式会社製)」がそのような層構成を備えるものであるかは明らかではない点。

相違点について検討する。
(ア)事案に鑑み、相違点1−2から検討を始める。
甲1発明に「火山性ガラス質複層板(商品名:ダイライト、大建工業株式会社製)」とあるところ、甲1には、その段落【0020】に「難燃性基材2は、火山性ガラス質複層板21上に、少なくとも輻射シート層23と紙質層24とが順に積層された難燃性基材である。また、必要に応じて下層22が積層される。難燃性基材2は次の各層で構成される。例えば、市販される「ダイライトFAL(商品名)」:大建工業株式会社製、「ダイライトFTL(商品名)」:大建工業株式会社製などを例示することができる。」との説明がある。
申立人が提示した甲7(大建工業株式会社のウェブサイト「ダイライト」)によれば、「ダイライト」には「ダイライトFAL」と「ダイライトFTL」があること、「ダイライトFAL」におけるダイライトは単層であるが、「ダイライトFTL」におけるダイライトは2層であることが理解できる。
このうち、ダイライトが2層である「ダイライトFTL」に関連して何件か証拠が提出されており、ダイライトの各層の厚さについて、そのうちの甲2(引用文献1)、甲3に開示がある。しかし、甲2(引用文献1)については、既に前記「3」で検討したとおりであり、また、甲3により甲2(引用文献1)以上の開示があるものではない。
そうすると、甲1発明からは、無機基材層として2つの層を設けた上で、表面層側に位置する層が他方の層よりも厚くかつ1平方メートル当たりの質量が大きくするという2つの層の間の関連構成を変えるという態様は、到底把握できないから、相違点1−2は、実質的なものである。
そして、甲1発明に基づいて無機基材層を「火山性ガラス質堆積物を含む板状の第1の無機層と、前記無機材料として火山性ガラス質堆積物を含み、該第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きい板状の第2の無機層とを、前記第2の無機層が前記表面層側に位置するように積層した積層体」という構成にすることを当業者が容易に着想し得たといえるものではない。
なお、甲13(実願平3−100866号(実開平6−12009号)のCD−ROM)、甲14(特開2001−301084号公報)には、積層体を構成する層の厚みの差異について記載されるところがあるが、それらは、甲1発明において2つの無機層を設けた際にそれらの層の厚みを違えることについてまで示唆するものではない。
したがって、甲1発明において相違点1−2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。
(イ)以上を踏まえると、相違点1−1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもないといえる。
イ 本件発明2〜7は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2〜7をそれぞれ甲1発明と対比すると、本件発明1と甲1発明を対比した際の相違点1−1、1−2と同様の相違点が存在することになる。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2〜7は、いずれも、甲1発明ではないし、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。
ウ なお、申立人からは令和4年6月16日に上申書が提出され、相違点1−2の判断について、「・・・上層、下層それぞれの公差により、プレス加工前の時点の厚みが上層の方が下層よりも大きい場合も含めて公差が定められていると解釈する他なく、該第1の無機層よりも厚く且つ1平方メートル当たりの質量が大きい板状の第2の無機層とを、前記第2の無機層が前記表面層側に位置するように積層」する態様も当然にこれに含まれることになり、また引用発明の通常の事業の実施において、この程度の厚みの差異は、現に公差として日常的に生じていたものと考えられます。従いまして、相違点2を充足する態様も引用発明に含まれることになり、・・・」(上記上申書5ページ3〜10行)と、主張する。
そこで検討すると、相違点1−2については、上記アの(ア)で検討したとおりであるから、当該申立人の主張は採用できない。
エ 以上のとおりであるから、本件発明1〜7は、いずれも、特許法第29条第1項第2号又は第3号に規定された発明には該当しないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。
したがって、本件発明1〜7に係る特許は、いずれも、特許法第113条第2号に該当しない。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明1〜7に係る特許は、特許権者に通知した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-06 
出願番号 P2015-222265
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 久保 克彦
藤井 眞吾
登録日 2021-03-11 
登録番号 6850942
権利者 大建工業株式会社 凸版印刷株式会社
発明の名称 不燃化粧板  
代理人 廣瀬 一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 廣瀬 一  
代理人 宮坂 徹  
代理人 宮坂 徹  
代理人 田中 秀▲てつ▼  

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