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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05K
管理番号 1387512
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-20 
確定日 2022-07-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6901630号発明「電波吸収体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6901630号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6901630号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)12月25日(優先権主張 平成30年12月25日、日本)を国際出願日とする出願であって、令和3年6月21日にその特許権が設定登録され、令和3年7月14日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年12月20日 :特許異議申立人石井良和(以下、「申立人」という。)により請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 3月15日付け:取消理由通知
令和4年 5月18日 :特許権者による意見書の提出

第2 本件発明
特許第6901630号の請求項1ないし11の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有し、支持体の厚みが5μm以上500μm以下であり、且つ45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、電波吸収体。
【請求項2】
前記抵抗膜の抵抗値が250〜520Ω/□である、請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
式(1):950≦d×√ε≦1500(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たす、請求項1又は2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記誘電体層の比誘電率が1〜10である、請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項5】
前記抵抗膜がバリア層を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項6】
前記抵抗膜がモリブデンを含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項7】
前記抵抗膜がさらにニッケル及びクロムを含有する、請求項6に記載の電波吸収体。
【請求項8】
前記反射層の誘電体層側の表面における表面粗さ(Rz)が1μm以上10μm以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項9】
電波吸収体の支持体側最表面の表面張力が35dyn/cm以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項10】
前記支持体の全光線透過率が30%以下である、請求項1〜9のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項11】
支持体、抵抗膜及び誘電体層を有し、支持体の厚みが5μm以上500μm以下であり、且つ、厚さ10μmのアルミニウム板を誘電体層の他方の面に積層した際の45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上となる、λ/4型電波吸収体用部材。」

第3 令和4年3月15日付け取消理由通知に記載した取消理由について
令和4年3月15日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
1 下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


●理由1(新規性)について
・請求項1、2、4、9、11について引用文献1

●理由2(進歩性)について
・請求項5について引用文献1
請求項6および7について引用文献1、3
請求項8について引用文献1、4および5(または、引用文献1、3ないし5)
請求項10について引用文献1(または、引用文献1、3ないし5)

引 用 例 等 一 覧
引用文献1:特開2018−98367号公報(甲第1号証)
引用文献2:渡辺正、“表面張力のしくみ”、p.600−603、[online]、1999、化学と教育、47巻9号、[令和3年12月1日検索]、インターネット、<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/47/9/47_KJ00003521008/_pdf>(甲第16号証)
引用文献3:特開2018−56562号公報(甲第2号証)
引用文献4:特開2018−172695号公報(甲第14号証)
引用文献5:特開2018−198298号公報(甲第15号証)

第4 引用文献1の記載、引用発明
1 取消理由通知において引用した特開2018−98367号公報(甲第1号証)(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
「【0021】
上記λ/4型電磁波吸収体である本発明の電磁波吸収体としては、例えば、図1に示すように、抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cとをこの順で有し、上記抵抗層Aの外側と、導電層Cの外側に、それぞれ樹脂層D1,D2が設けられているものがあげられる。なお、図1において、各部分は模式的に示したものであり、実際の厚み、大きさ等とは異なっている(以下の図においても同じ)。また、抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cの構成で充分に効果を奏することができるため、樹脂層D1,D2は、任意に設けられた構成である。」

「【0023】
また、抵抗層Aのシート抵抗は320〜500Ω/□の範囲に設定されることが好ましく、より好ましくは360〜450Ω/□の範囲である。抵抗層Aのシート抵抗が上記範囲内であると、ミリ波レーダや準ミリ波レーダとして汎用される波長(周波)の電磁波を選択的に吸収しやすくなるためである。」

「【0027】
誘電体層Bの比誘電率は、1〜10の範囲にあることが好ましく、1〜5の範囲にあることがより好ましく、1〜3の範囲にあることがさらに好ましい。比誘電率が上記範囲内であると、誘電体層を制御しやすい厚みに設定することができ、かつ電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅をより広いものに設定することが可能となり、吸収能をより均一に有する電磁波吸収体を得ることができる。
【0028】
なお、上記誘電体層Bの比誘電率は、アジレント・テクノロジー社製 ネットワークアナライザーN5230C、関東電子応用開発社製 空洞共振器CP531等を用い、10GHzにおける比誘電率を空洞共振器摂動法により測定することができる。
【0029】
誘電体層Bの厚みは、50〜2000μmであることが好ましく、100〜1500μmであることがより好ましく、100〜1000μmであることがさらに好ましい。薄すぎると厚み寸法精度の確保が困難となり、吸収性能の精度が低下する恐れがあり、厚すぎると重量も増すこともあり扱いにくくなったり、材料コストが高くなる傾向がある。
【0030】
上記導電層Cは、対象とする電磁波を電磁波吸収体の裏面近傍で反射させるために配置されるものであり、そのシート抵抗は、抵抗層Aのシート抵抗より充分に低く設定されている。これらのことから、導電層Cの材料としては、例えば、ITO、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、およびこれらの金属の合金があげられる。なかでも、導電層CにITOを用いることで、透明な電磁波吸収体を供することができ、透明性が必要とされる部位への適用が可能となるだけでなく、施工性の改善を図ることができるため、とりわけ5〜15重量%のSnO2を含有するITOが好ましく用いられる。導電層CにITOを用いた場合の厚みは、20〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがより好ましい。厚みが厚すぎると導電層Cに応力によりクラックが入り易くなる傾向がみられ、薄すぎると所望の低い抵抗値が得られ難くなる傾向がみられるためである。一方、シート抵抗値をより容易に下げることができ、ノイズをより低減することができる点から、Alまたはその合金が好ましく用いられる。Alまたはその金属合金を用いた場合の導電層Cの厚みは、20nm〜100μmであることが好ましく、50nm〜50μmであることがより好ましい。厚みが厚すぎると電磁波吸収体が剛直となり扱いづらくなる傾向がみられ、薄すぎると所望の低い抵抗値が得られがたくなる傾向がみられるためである。また、導電層Cのシート抵抗は、1.0×10-7Ω〜100Ωであることが好ましく、1.0×10-7Ω〜20Ωであることが好ましい。
【0031】
上記樹脂層D1,D2は、抵抗層Aまたは導電層Cをスパッタ等により形成する際の基板となるものであり、電磁波吸収体に形成された後に、抵抗層Aおよび導電層Cを外部からの衝撃等から保護する等の役割を果たすものである。このような樹脂層D1,D2の材料としては、抵抗層Aまたは導電層Cの形成に用いる蒸着やスパッタ等の高温に耐えうるものであることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)等があげられる。なかでも、耐熱性に優れ、寸法安定性とコストとのバランスがよいことからPETが好ましく用いられる。なお、樹脂層D1,D2は、互いに同じ材料からなっていてもよいし、それぞれ異なる材料からなっていてもよい。また、単層にかぎらず複層であってもよいし、樹脂層D1,D2を設けなくてもよい。」

「【0032】
樹脂層D1,D2の厚みは、それぞれ10〜125μmであることが好ましく、20〜50μmであることがより好ましい。薄すぎると、抵抗層Aを形成する際にシワや変形が起こりやすい傾向がみられるためであり、厚すぎると、電磁波吸収体としての屈曲性が低下する傾向がみられるためである。また、樹脂層D1,D2は互いに同じ厚みであってもよいし、それぞれ異なる厚みであってもよい。」



2 引用文献1の上記記載から次のことがいえる。
(1)【0021】によれば、λ/4型電磁波吸収体は抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cとをこの順で有し、上記抵抗層Aの外側と、導電層Cの外側に、それぞれ樹脂層D1,D2が設けられている。

(2)【0023】によれば、抵抗層Aのシート抵抗は320〜500Ω/□の範囲である。

(3)【0027】、【0029】によれば、誘電体層Bの比誘電率は1〜3の範囲、厚みは100〜1000μmである。

(4)【0030】によれば、導電層Cの材料としては、ITO、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)である。

(5)【0031】、【0032】によれば、樹脂層D1,D2は、抵抗層Aまたは導電層Cをスパッタ等により形成する際の基板となるものであり、樹脂層D1,D2の厚みは、それぞれ20〜50μmである。よって、「樹脂層D1は、抵抗層Aをスパッタにより形成する際の基板」、「樹脂層D2は、導電層Cをスパッタにより形成する際の基板」を含み、「樹脂層D1,D2の厚みは、それぞれ20〜50μm」である。

3 上記2(1)ないし(5)によれば、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cとをこの順で有し、上記抵抗層Aの外側と、導電層Cの外側に、それぞれ樹脂層D1,D2が設けられているλ/4型電磁波吸収体であって、
抵抗層Aのシート抵抗は320〜500Ω/□の範囲であり、
誘電体層Bの比誘電率は1〜3の範囲、厚みは100〜1000μmであり、
導電層Cの材料としては、ITO、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)であり、
樹脂層D1は、抵抗層Aをスパッタにより形成する際の基板、樹脂層D2は、導電層Cをスパッタにより形成する際の基板であり、樹脂層D1,D2の厚みは、それぞれ20〜50μmである
λ/4型電磁波吸収体。」

第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)本件発明1、2、4、9、11の新規性について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明とを対比する。
a 本件明細書の段落【0079】に「本発明の電波吸収体が抵抗膜を有する場合、さらに支持体を有することが好ましい。」と記載され、段落【0122】ないし【0123】に支持体であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に抵抗値360Ω/□の抵抗膜をDCパルススパッタリングにより成膜することが記載されていることを考慮すれば、本件発明1の「支持体」はその表面にスパッタリングにより抵抗膜が形成されるものである。
してみると、引用発明の「抵抗層Aをスパッタにより形成する際の基板」である「樹脂層D1」は、本件発明1の「支持体」に相当する。また、引用発明の「抵抗層A」は、本件発明1の「抵抗膜」に相当する。

b 引用発明の「誘電体層B」は「λ/4型電磁波吸収体」を構成するものであるから、本件発明1の「誘電体層」に相当する。

c 本件明細書の段落【0070】に「反射層は、電波吸収体において電波の反射層として機能し得るものである限り、特に制限されない・・・例えば金属膜が挙げられる。」、段落【0072】に「金属としては、特に制限されず、例えばアルミニウム、銅、鉄、銀、金、クロム、ニッケル、モリブデン、ガリウム、亜鉛、スズ、ニオブ、インジウム等が挙げられる。また、金属化合物、例えばITO等も、金属膜の素材として使用することができる。」と記載され、ていることを考慮すれば、本件発明1の「反射層」の材料は、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、モリブデン、ITOを含むものである。
してみると、引用発明の「材料としては、ITO、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)」の「導電層C」は、本件発明1の「反射層」に相当する。

d 引用発明の「樹脂層D1の厚み」が「20〜50μmである」ことは、本件発明1の「支持体の厚みが5μm以上500μm以下」であることに含まれる。

e 本件発明1は「45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である」のに対して、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。

f 引用発明の「λ/4型電磁波吸収体」は、本件発明1の「支持体」、「抵抗膜」、「誘電体層」、「反射層」に相当する構成を有するものであるから、本件発明1の「電波吸収体」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明1と引用発明とは、次の点で一致ないし相違する。
〈一致点〉
「支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有し、支持体の厚みが5μm以上500μm以下である、
電波吸収体。」

〈相違点〉
本件発明1は「45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である」のに対して、引用発明はその旨特定されていない点。

(ウ)相違点についての判断
a 本件明細書には、以下のとおりの記載がある。
段落【0033】「抵抗膜の抵抗値を調節することにより、本発明の特性における吸収範囲を調節することが可能である。抵抗膜の抵抗値は、例えば200〜600Ω/□である。」
段落【0044】「抵抗層の抵抗値を調節することにより、本発明の特性における吸収範囲を調節することが可能である。抵抗層の抵抗値は、例えば200〜600Ω/□である。」
段落【0063】「誘電体層の比誘電率を調節することにより(特に、それにより後述の式(1)の値を調節することにより)、本発明の特性における吸収範囲を調節することが可能である。誘電体層の比誘電率は、例えば1〜20・・・である。」
段落【0064】「誘電体層の厚みを調節することにより(特に、それにより後述の式(1)の値を調節することにより)、本発明の特性における吸収範囲を調節することが可能である。誘電体層の厚みは、例えば300〜1500μm・・・である。」
段落【0065】「誘電体層については、本発明の特性における吸収範囲を調節する一手段として、式(1):950≦d×√ε≦1500(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たすことが、好ましい。」
また、段落【0121】ないし【0145】には、実施例1ないし16、比較例1ないし4が記載されている。

b これらの記載によれば、本件発明1の「45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上」という構成は、次の(a)及び(b)の条件を満たすものと認められる。
(a)抵抗膜の抵抗値が200〜600Ω/□
(b)誘電体層の比誘電率を1〜20、厚みを300〜1500μmとし、式(1):950≦d×√ε≦1500(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たす

c まず、(a)の条件について検討する。
引用発明の抵抗層は表面抵抗が320〜500Ω/□であるから、(a)の条件を満たすものである。

d 次に、(b)の条件について検討する。
引用発明の誘電体層は比誘電率は1〜3、厚みは100〜1000μmであるから、d×√ε=100×√1〜1000×√3=100〜1732.05となり、比誘電率は満たすものの、厚み及び式(1)を必ず満たすものではない。

e 小括
以上のとおり、引用発明の誘電体層は(b)の条件を必ず満たすものではないから、引用発明は「45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上」という構成を有するとはいえず、上記相違点は実質的な相違であるから、本件発明1は引用発明であるとはいえない。

(エ)まとめ
よって、本件の請求項1に係る発明は引用文献1に記載された発明であるとはいえないから特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2、4、9について
本件発明2、4、9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。
してみると、上記「ア」で検討したことと同じ理由により、本件の請求項2、4、9に係る発明は引用文献1に記載された発明であるとはいえないから特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、請求項2、4、9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

ウ 本件発明11について
本件発明11は、本件発明1に係る構成と実質的に差異はない。
したがって、上記「ア」で検討したことと同じ理由により、本件の請求項11に係る発明は引用文献1に記載された発明であるとはいえないから特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、請求項11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

(2)本件発明5ないし8、10の進歩性について
ア まず、事案に鑑みて本件発明1の進歩性について検討する。
(ア)上記「(1)ア(ウ)b」で検討したように、本件発明1の相違点に係る構成は上記(a)の条件を満たす抵抗膜及び(b)の条件を満たす誘電体層により得られるものと認められるところ、上記「(1)ア(ウ)」で判断したように、引用発明の誘電体層は(b)の条件を必ず満たすものではない。

(イ)そして、引用文献1には、誘電体層は厚みが300μm以上1500μm以下の範囲に含まれる実施例や比較例が記載されているものの、d×√εの値が950以上1500以下の範囲の実施例や比較例は記載されていない。
また、引用文献1の【0029】に記載されるように、引用発明の誘電体層の厚みは、寸法精度、重量、材料コストを考慮して設定されるものである。
してみると、引用発明において、誘電体層の厚みを300μm以上1500μm以下の範囲に限定するとともにd×√εの値を950以上1500以下の範囲に限定するように誘電体層の誘電率と厚みの関係を調整する動機があるものとは認められない。
したがって、引用発明において、誘電体層Bを(b)の条件の式(1)を満たすものとすることが当業者が容易になし得たこととはいえず、引用発明を「45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上」であるものとすることが、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ)また、引用文献2ないし5のいずれにも、「45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上」とすることは記載されておらず、また、上記「(1)ア(ウ)b」で検討した(a)、(b)の条件を満たす抵抗膜や誘電体層とする記載もない。
してみると、引用文献2ないし5のいずれにも、「45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上」とすることは記載も示唆もされていない。

(エ)小括
したがって、本件の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明および引用文献2ないし5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明5ないし8、10について
本件発明5ないし8、10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。
したがって、上記「ア」で検討したことと同じ理由により、本件の請求項5ないし8、10に係る発明は、引用文献1に記載された発明および引用文献2ないし5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、請求項5ないし8、10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)本件発明1について
ア 申立人は、証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第17号証を提示し、特許異議申立書において、上記「1(1)ア(イ)」に記載した相違点に関して概略以下のように主張している。

「相違点の検討にあたっては、甲1発明(甲第1号証に記載された発明)の電波吸収体において周波数帯域55〜65GHzの円偏波の電磁波が45°で入射する条件で吸収性能を好適化することは当業者の容易に着想し得る設計事項であることを述べ、かつλ/4型電波吸収体の吸収量に関する周知の論理計算により、前記入射条件の下で吸収性能が15dB以上の吸収範囲が4GHz以上の電波吸収体を格別困難なく設計することができることを説明する。」(第19頁第4ないし9行)

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開2018−98367号公報
甲第2号証:特開2018−56562号公報
甲第3号証:“「60GHz帯の周波数の電波を利用する無線設備の高度化に係る技術的条件」の検討状況について 資料17−2”、p.1−12、[online]、平成27年2月3日、陸上無線通信委員会60GHz帯無線設備作業班、[令和3年12月1日検索]、インターネット<URL:https://www.soumu.go.jp/main_content/000341594.pdf>
甲第4号証:“55−65GHz Single Band Mixer”、p.1−6、[online]、20 Oct 11、United Monolithic Semiconductors、CHM1298−99F、[令和3年12月1日検索]、インターネット<URL:https://datasheetspdf.com/pdf-file/971174/UnitedMonolithicSemiconductors/CHM1289-99F/1>
甲第5号証:特許第3756791号公報
甲第6号証:米山努、“高性能・高機能ミリ波アンテナを目指して”、p.610−613、[online]、1998、J.IEE Japan、Vol.118、No.10、[令和3年12月1日検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1994/118/10/118_10_610/_pdf>
甲第7号証:江林達矢 外2名、“レイトレーシングによる円偏波を用いた直交偏波60GHz帯MINO伝送方式の特性評価”、p.101、[online]、2011、平成22年度電子情報通信学会東京支部学生会研究発表会、[令和3年12月1日検索]、インターネット<URL:https://www.ieice.org/tokyo/gakusei/activity/kenkyuu-happyoukai/happyou-ronbun/16/pdf/101.pdf>
甲第8号証:総合通信基盤局電波政策課、“ミリ波帯ワイヤレスアクセスネットワーク構築のための周波数高度利用技術の研究開発”、p.1−8、[online]、平成28年、平成28年度事後事業評価書、[令和3年12月1日検索]、インターネット<URL:https://www.soumu.go.jp/main_content/000435178.pdf>
甲第9号証:特開2003−198179号公報
甲第10号証:橋本修 外3名、“94GHz帯における斜入射用抵抗皮膜型電波吸収体の検討”、信学技報、電子情報通信学会、1997年12月、MW97−129、p.13−19
甲第11号証:橋本修著、「電波吸収体入門」、第1版第1刷、森北出版、1997年10月16日、p.58−62,p.128−134
甲第12号証:「比誘電率表」、は行 “ポリエチレンテレフタレート 2.9〜3.0”の欄、[online]、掲載日不詳、株式会社Y.E.Iホームページ、[令和3年12月1日検索]、インターネット<URL:http://www.yei-jp.com/tech-infor/dielectric/dielectric.html>
甲第13号証:Ralph Jacobi 外1名、“Choosing 60−GHz mmWave sensors over 24−GHz to enable smarter industrial applications”、p.1−7、[online]、November 2018、Texas Instruments、[令和3年12月1日検索]、インターネット<URL:https://www.ti.com/lit/wp/spry328/spry328.pdf?HQS=epd-pro-rap-60GHzLaunch-asset-whip-ElectronicSpecifier-eu&ts=1636805658766>
甲第14号証:特開2018−172695号公報
甲第15号証:特開2018−198298号公報
甲第16号証:渡辺正、“表面張力のしくみ”、p.600−603、[online]、1999、化学と教育、47巻9号、[令和3年12月1日検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/47/9/47_KJ00003521008/_pdf>
甲第17号証:特開2003−324300号公報

イ 申立人の主張についての検討
(ア)上記「ア」の申立人の主張は、「周波数帯域55〜65GHzの円偏波の電磁波が45°で入射する条件で吸収性能を好適化することは当業者の容易に着想し得る設計事項であること」および「λ/4型電波吸収体の吸収量に関する周知の論理計算により、前記入射条件の下で吸収性能が15dB以上の吸収範囲が4GHz以上の電波吸収体を格別困難なく設計することができること」より、本件発明1の相違点に係る構成(上記「1(1)ア(イ)」を参照)を得ることが当業者が容易に想到し得るといえる旨の主張と認められる。
しかしながら、上記相違点は、「45°入射の円偏波測定において、周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である」という構成であるから、当該構成が当業者が容易に想到し得るというには、申立人のいう入射の条件(周波数帯域55〜65GHzの円偏波の電磁波が45°で入射する条件)(以下、「本件発明1の入射条件」という。)における吸収性能を15dB以上の吸収範囲が4GHz以上とすることが容易であるといえなければならない。

(イ)そこで、甲第1、3ないし13号証より本件発明1の入射条件における吸収性能を15dB以上の吸収範囲が4GHz以上とすることが容易であるとすることができるか検討する。
請求人が特許異議申立書第19ないし20頁の(ア−1)で述べるように、甲第1号証(引用文献1)の電波吸収体を用いる周波数帯域(60〜90GHz)は本件発明1の電波吸収体の周波数帯域(55〜65GHz)と共通し、また、55〜65GHzの周波数帯域が規格や実用製品の利用帯域であることは甲第3、4号証に記載されるように周知のことと認められるが、本件発明1の入射条件における吸収性能を最適化すること、最適化にあたり本件発明の入射条件での吸収性能を15dB以上の吸収範囲が4GHz以上とすることは、甲第1、3、4号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
また、請求人が特許異議申立書第19ないし20頁の(ア−1)で述べるように、甲第5号証には円偏波の電磁波が様々な用途に用いられること、電磁波吸収体に入射する電磁波の入射角度は電磁波の経路や電波吸収体の設置位置に依存すること、電波吸収体に円偏波を入射角45°で反射減衰量を測定する例、TEモード、TMモード両電磁波に対する有効な設計事項が円偏波に対しても有効であることが開示され、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証には60GHz帯の円偏波が用いることが開示され、甲第9号証には斜め入射する電磁波に関し入射角度の広い領域にわたって機能するように電波吸収体を設計すること、TEモード、TMモードの両電磁波に対し40°や50°の入射角度で反射減衰量を測定する例が開示され、甲第10号証にはある入射角度に対して反射減衰量を最大となるように設計すること、TEモード、TMモードに対し入射角45°で反射減衰量を測定する例が開示されているものの、これらの各甲号証には、本件発明1の入射条件における吸収性能を最適化すること、最適化にあたり本件発明の入射条件での吸収性能を15dB以上の吸収範囲が4GHz以上とすることは記載も示唆もされていない。
そして、請求人が特許異議申立書第20ないし26頁の(ア−2)で述べるように、甲第11号証に記載されるように、λ/4型電波吸収体の電気的等価回路や電磁波の入射角度θの場合におけるTE波とTM波の反射係数、吸収量を計算する関係式は周知であるものと認められ、甲第12号証は、PETの比誘電率が2.9〜3.0であることが示され、甲第13号証には、周波数60GHz、帯域幅4GHzのセンサーが示されているが、これらの各甲号証にも、本件発明1の入射条件における吸収性能を最適化すること、最適化にあたり本件発明の入射条件での吸収性能を15dB以上の吸収範囲が4GHz以上とすることは記載も示唆もされていない。

(ウ)小括
よって、甲第3ないし13号証より、甲第1号証に記載された発明において「45°入射の円偏波測定において周波数帯域55〜65GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上」とすることは当業者が容易になし得たこととはいえず、申立人の主張は採用できない。

ウ その他の証拠について
甲第2号証には電波吸収体の抵抗膜としてモリブデン、ニッケル、クロムを含有するものが示され、甲第14号証、甲第15号証に開示されるように、密着度を高めるべく一方の層の接触面に1〜10μm程度の表面粗さを設けて他方の層の部材が表面凹凸に入り込むことによるアンカー効果を利用することは周知であり、甲第16号証にはポリエチレンテレフタレートやアクリルの表面張力は35dyn/cm以上であることが開示され、甲第17号証には電波吸収体の外面に撥水性や親水性を持たせることが開示されているが、これらの各甲号証にも、本件発明1の入射条件における吸収性能を最適化すること、最適化にあたり本件発明の入射条件での吸収性能を15dB以上の吸収範囲が4GHz以上とすることは記載も示唆もされていない。

エ まとめ
したがって、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明および甲第2ないし17号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえず、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、上記「(1)」で検討したことと同じ理由により、甲第1号証に記載された発明および甲第2ないし17号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえず、請求項2ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(3)本件発明11について
本件発明11は、本件発明1に係る構成と実質的に差異はない。
したがって、本件発明11は、上記「(1)」で検討したことと同じ理由により、甲第1号証に記載された発明および甲第2ないし17号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえず、請求項11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-08 
出願番号 P2020-514633
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H05K)
P 1 651・ 113- Y (H05K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 畑中 博幸
山田 正文
登録日 2021-06-21 
登録番号 6901630
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 電波吸収体  
代理人 小林 均  
代理人 林 司  
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