ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 H02P |
---|---|
管理番号 | 1387514 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-27 |
確定日 | 2022-07-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6899897号発明「状態監視装置、並びに機器システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6899897号の請求項1〜5、7〜11に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6899897号の請求項1〜13に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)5月31日を国際出願日とする出願であって、令和3年6月17日にその特許権の設定登録がされ、令和3年7月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年12月27日に特許異議申立人角田朗により本件特許の請求項1〜5、7〜11に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年3月25日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、令和4年5月26日に意見書を提出した。 2 本件発明 本件特許の請求項1〜5、7〜11に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜5、7〜11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。以下、本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などという。 「【請求項1】 モータ制御手段によって制御されるモータによって駆動される機器を備える機器システムの状態監視装置において、 モータ電流の電流センサ情報に基づいて、前記モータ制御手段における状態変数であるモータ制御内部値を作成するモータ制御内部値作成手段と、 前記モータ制御内部値作成手段によって作成される前記モータ制御内部値から所定の時間区間における特徴量を算出し、統計的モデルを用いて前記特徴量の少なくとも1つから前記機器システムの状態を示す状態量を推定する状態推定手段と、 前記機器システムの状態に関する過去のデータを取得する状態量取得手段と、 前記状態量取得手段によって取得される前記データに基づいて、前記状態推定手段が用いる前記統計的モデルを更新する状態推定手段更新手段と、 を備えることを特徴とする状態監視装置。 【請求項2】 請求項1に記載の状態監視装置において、 前記機器システムの前記状態は、前記機器の状態あるいは前記機器による製造物の状態であることを特徴とする状態監視装置。 【請求項3】 請求項1乃至2のいずれか1項に記載の状態監視装置において、 前記モータ制御内部値は、速度指令、速度フィードバック値、d軸電流指令、q軸電流指令、d軸電流フィードバック値、q軸電流フィードバック値、d軸電圧指令、q軸電圧指令、フィードバック値と指令値との偏差、比例器の出力、積分器の出力、微分器の出力、オブザーバーによる推定値の内のいずれかを含むことを特徴とする状態監視装置。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の状態監視装置において、 前記電流センサ情報は、モータ電流フィードバック値を含むことを特徴とする状態監視装置。 【請求項5】 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の状態監視装置において、 前記モータ制御内部値作成手段は前記モータ制御手段の逆モデルによって構成されることを特徴とする状態監視装置。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれか1項に記載の状態監視装置において、 さらに、前記状態推定手段によって推定される前記機器システムの前記状態に関わる情報を表示する情報伝達手段を備えることを特徴とする状態監視装置。 【請求項8】 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の状態監視装置において、 さらに、前記状態推定手段によって推定される前記機器システムの前記状態に応じて、 前記モータ制御手段を更新するモータ制御手段更新手段を備えることを特徴とする状態監視装置。 【請求項9】 請求項1に記載の状態監視装置において、 前記データは、前記機器のメンテナンス結果または前記機器による製造物の品質検査結果であることを特徴とする状態監視装置。 【請求項10】 請求項1乃至9のいずれか1項に記載の状態監視装置において、 前記モータ制御内部値作成手段は、前記モータ制御手段に含まれ、かつ前記モータ制御手段から前記状態変数を出力する手段であることを特徴とする状態監視装置。 【請求項11】 モータによって駆動される機器を備える機器システムにおいて、 前記モータの駆動力によって操作されるアクチュエータと、 前記モータを制御するモータ制御手段と、 モータ電流の電流センサ情報に基づいて、前記モータ制御手段における状態変数であるモータ制御内部値を作成するモータ制御内部値作成手段と、 前記モータ制御内部値作成手段によって作成される前記モータ制御内部値から所定の時間区間における特徴量を算出し、統計的モデルを用いて前記特徴量の少なくとも1つから前記機器システムの状態を推定する状態推定手段と、 前記状態推定手段によって推定される前記機器システムの前記状態に関わる情報を表示する情報伝達手段と、 前記機器システムの状態に関する過去のデータを取得する前記状態量取得手段と、 前記状態量取得手段によって取得される前記データに基づいて、前記状態推定手段が用いる前記統計的モデルを更新する状態推定手段更新手段と、 を備えることを特徴とする機器システム。」 3 証拠方法 特許異議申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 (証拠方法) 甲第1号証:特開2008−38912号公報 甲第2号証:特開2015−35118号公報 甲第3号証:特開2004−232968号公報 甲第4号証:特開2011−13440号公報 甲第5号証:特開2009−3561号公報 甲第6号証:特開2014−114469号公報 甲第7号証:特開2006−309279号公報 甲第8号証:特開平9−6432号公報 甲第9号証:特開2000−181521号公報 甲第10号証:特開2014−48929号公報 甲第11号証:国際公開第2016/092871号 甲第12号証:特開平6−43904号公報 甲第13号証:特開2007−265361号公報 甲第14号証:特開2008−116317号公報 甲第15号証:特開2016−220270号公報 甲第16号証:特開2008−211904号公報 甲第17号証:特開2006−166677号公報 (以下、証拠の番号に従って「甲1」などという。) 4 取消理由の概要 当審において、請求項1〜5、7〜11に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件発明1〜5、7〜11は、甲1〜甲6に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5、7〜11に係る本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 5 甲各号証の記載 (1) 甲1について ア 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。 ・「【0001】 この発明は、圧縮機内部状態推定装置及び空気調和装置に関するものである。」 ・「【0005】 この発明は、上記従来の欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、圧縮機の内部状態を高精度に推定することができて、圧縮機の異常運転による事故を防止すると共に、圧縮機等に対する過剰な保護を抑制して、高効率での運転状態を維持することを可能とした圧縮機内部状態推定装置及び空気調和装置を提供することにある。」 ・「【0059】 次に、この発明の圧縮機内部状態推定装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1はこの圧縮機内部状態推定装置(圧縮機内部状態推定手段)28を備えた圧縮機駆動装置40の簡略図を示す。この圧縮機内部状態推定装置28を備えた圧縮機駆動装置40は、図2に示すように空気調和装置に使用される。この空気調和装置は、圧縮機1に、室外熱交換器2、膨張弁(電動膨張弁)3、室内熱交換器4等を順次接続して、冷媒循環回路(冷媒システム)を形成している。そして、四路切換弁5を切換えることによって、冷房運転と暖房運転とが可能とされる。また、室外熱交換器2及び室内熱交換器4にはそれぞれ温度検出手段22、23が設けられ、各熱交換器2、4の温度を検出することができる。なお、各温度検出手段22、23は温度サーミスタ等の温度センサから構成することができる。 【0060】 そして、圧縮機1は、図1に示すように、U相7とV相8とW相9の3相のコイル10と、インバータ11を有するブラシレスDCモータ6を備える。この場合のインバータ11は正弦波PWM制御方式である。すなわち、インバータ11は、交流入力電源をAC−DC変換回路部12にて直流に変換し、平滑回路部13にて平滑にし、DC−AC変換回路部(インバータ部)14にて任意の周波数の交流電源に変換するものである。インバータ11はインバータ制御手段(図示省略)からのインバータ信号にて、インバータ部14のトランジスタのON・OFFのパターンを変えることによって、周波数と電圧を制御することができる。 【0061】 また、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流は電流検出器(電流センサ)16にて検出することができ、モータ3相コイル10に加わる瞬時電圧は電圧検出器(電圧センサ)17にて検出される。この場合、電流検出器16と電圧検出器17は、AC−DC変換回路部12と平滑回路部13の間に介設される。電圧は、トランジスタのON/OFF比とDC電圧からの演算で求められ、電流は、トランジスタのスイッチパターンとDC電流から求めることができる。」 ・「【0065】 すなわち、図1に示す圧縮機内部状態推定装置28は、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流及び/又は瞬時電圧を検出して、この検出値から圧縮機の内部状態(具体的にはモータ駆動トルク等)を推定するものであって、上記検出器16、17と、演算装置(演算手段)20と、記憶装置(記憶手段)21等を備える。なお、演算手段20及び記憶手段21等はマイクロコンピュータ等にて構成することができる。 【0066】 ブラシレスDCモータにおけるモータ駆動トルクの演算は、インダクタンスと電流値とからなる演算式を用いる場合と、磁束と電流値とからなる演算式を用いる場合等がある。インダクタンスと電流値とからなる演算式は、次の数1から数4を用いて数5のように表すことができる。すなわち、瞬時電圧Vは数1で表すことができ、また、磁束φは数2で表すことができ、磁束のベクトルの向きは、数3、数4で表すことができる。」 ・「【0071】 そして、この数1〜数4からθ、つまり検出した瞬時電流I、瞬時電圧Vに基づいてモータ位置(ロータ位置)θを推定することができるが、このときに使用した検出値や定数をそのまま用いて、さらには、圧縮機1の入力電流iu、iv、iwを座標変換した電流値id、iqを求め、これらによって、数5のように、モータ駆動トルクTmが求まる。 【0072】 【数5】 Tm=P*(φa+(Ld−Lq)*id)*iq P:極対数 Id、Iq:圧縮機入力電流を座標変換した電流値 φa:永久磁石による鎖交磁束 Ld:d軸インダクタンス Lq:q軸インダクタンス」 ・「【0079】 また、冷媒システムの所定の温度条件及び/又は圧力条件毎にモータ駆動トルクと吸込過熱度との関係を把握しておき、検出したモータ駆動トルクとそのときの温度情報及び/又は圧力情報に基づいて、運転中の圧縮機1の吸入過熱度を推定することができる。すなわち、例えば所定の凝縮圧力Pc及び蒸発圧力Pe毎に、モータ駆動トルクTmと吸込過熱度の関係を把握して、トルク−SH線図を予め作成しおく。そして、検出した凝縮圧力Pc及び蒸発圧力Peから図4に示すような特定の関係線図を選択し、把握(算出)したモータ駆動トルクTmからそのときの吸入過熱度を推定する。 【0080】 従って、この図4のトルク−SH線図は、横軸を吸入過熱度とし、縦軸をモータ駆動トルクとしているので、例えばトルクが図4のTmotであれば、このTmotの吸入過熱度を表す軸(横軸)の値から吸入過熱度を推定することができる。これにより、推定した吸入過熱度が不適切であれば、適切な吸入過熱度に調整して過度の過熱運転や湿り運転を回避することができる。」 ・「【0086】 次に、図10は他の空気調和装置を示している。この場合、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流及び/又は瞬時電圧を検出して、この検出値から圧縮機1の内部状態が推定され、この推定された内部状態に基づいて、圧縮機1を駆動するためのインバータ制御手段26のインバータ信号を変化させる圧縮機保護運転を行うことができる。ここで、圧縮機保護運転とは、故障回避運転であり、潤滑不良や液圧縮等が生じないような運転をいう。 【0087】 具体的には、圧縮機1として、モータ6と、インバータ11と、モータ6に加わる瞬時電流及び/又は瞬時電圧を検出する検出手段としてのセンシング25と、インバータ制御手段26とを備える。また、装置の制御部27としては、圧縮機内部推定手段28と、この圧縮機内部推定手段28からの指令を受ける故障回避制御手段29等を備える。圧縮機内部推定手段28は、上記図1の演算手段20(この場合、図示を省略している)と記憶手段21等からなる。なお、他の構成は、図1に示す空気調和装置を同様であるので、同一部分を同一符合にて示してその説明を省略する。 【0088】 このように、図10に示す空気調和装置においても、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流及び/又は瞬時電圧を検出して、この検出値から圧縮機の内部状態(潤滑不良や液圧縮等)を推定することができ、この圧縮機の内部状態の情報を故障回避制御手段29に入力される。また、この故障回避制御手段29には、予め設定された冷媒システムモデルからのデータが記憶されており、この冷媒システム運転制御を行う冷媒システム制御手段30からの指令信号が入力される。 【0089】 従って、この図10の空気調和装置では、圧縮機1の内部状態が推定され、この推定が例えば潤滑不良であれば、潤滑不良とならないように、故障回避制御手段29から圧縮機1の制御手段26に制御信号を発信することになる。このため、例えば、モータ6の回転数を変更する制御や、冷媒システム制御手段30のシステム制御指令値(運転制御パラメータ)を変更する制御を行って、異常運転を回避することになる。 【0090】 ところで、この装置を運転する場合、冷媒システム制御手段30にて各種機器の制御を行うものであるが、圧縮機1の内部状態が推定されて、潤滑不良等の異常運転が行われていると推定された際には、この冷媒システム制御手段30の運転制御よりも優先して、インバータ制御手段26の制御(圧縮機保護運転)が優先する。これにより、圧縮機1の故障回避の信頼性を向上させることができる。 【0091】 そして、推定した内部状態が正常状態に戻っていれば、上記圧縮機保護運転から定常運転に回復させる。すなわち、故障回復制御手段29は切換手段(図示省略)を備え、この切換手段にて、潤滑不良等の異常運転が行われると推定された際には、圧縮機保護運転とし、正常状態に戻っていると推定された際には、定常運転とする。これにより、空気調和装置として高効率の運転が可能となる。」 ・「【0096】 以上にこの発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、図1に示す空気調和装置では、高低圧、吸入過熱度、潤滑不良、液圧縮等を推定するものであるが、これら単独種であっても、これらから複数種を任意に組み合わせたものであってもよい。また、図10に示す空気調和装置では、圧縮機保護運転、装置故障診断、装置故障予知が可能であるが、圧縮機保護運転を行って、装置故障診断や装置故障予知を行わないもの、装置故障診断を行って、圧縮機保護運転や装置故障予知を行わないもの、装置故障予知を行って、圧縮機保護運転や装置故障診断を行わないもの、さらには、これらから任意に組み合わせて行うもの等であってもよい。また、内部状態を推定するための瞬時電流の急激な上昇の基準となる所定量、内部状態を推定するためのモータ駆動トルクの急激な上昇の基準となる所定量等の変更は、装置として異常運転とならない範囲で任意に変更することができる。さらに、圧縮機駆動装置として、推定されたモータ駆動トルク、温度、高圧圧力、低圧圧力、軸潤滑状態等の情報を出力する機能を持つものであっても、さらには冷媒システムの情報を入力することで、精度向上やシステム最適運転のための情報を算出するものであってもよい。このように、推定されたモータ駆動トルク等の情報を出力することができれば、圧縮機1の内部状態をユーザ等が確実に把握することができ、精度向上やシステム最適運転のための情報を算出することで、精度向上を達成できると共に、システム最適運転を行うことができる。なお、モータ6として、ブラシレスDCモータに限るものではない。」 ・「【図1】 」 ・「【図2】 」 ・「【図4】 」 ・「【図10】 」 イ(ア) 以上の記載及び図面から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。 (甲1発明1) 「インバータ制御手段26によって制御されるブラシレスDCモータ6によって駆動される圧縮機1を備える空気調和装置の制御部27において、 モータ3相コイル10に加わる瞬時電流を電流検出器16で検出した検出値に基づいて、前記インバータ制御手段26における内部状態である電流値id、iqを作成する演算装置20と、 前記演算装置20によって作成される前記電流値id、iqからモータ駆動トルクTmを算出し、予め作成されたトルク−SH線図を用いて前記モータ駆動トルクTmから前記空気調和装置の吸入過熱度を推定する演算装置20と、 を備える制御部27。」 (イ) また、圧縮機1は、ブラシレスDCモータ6の駆動力によって駆動される被駆動部材を有することは明らかであるから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。 (甲1発明2) 「ブラシレスDCモータ6によって駆動される圧縮機1を備える空気調和装置において、 前記ブラシレスDCモータ6の駆動力によって駆動される被駆動部材と、 前記ブラシレスDCモータ6を制御するインバータ制御手段26と、 モータ3相コイル10に加わる瞬時電流を電流検出器16で検出した検出値に基づいて、前記インバータ制御手段26における内部状態である電流値id、iqを作成する演算装置20と、 前記演算装置20によって作成される前記電流値id、iqからモータ駆動トルクTmを算出し、予め作成されたトルク−SH線図を用いて前記モータ駆動トルクTmから前記空気調和装置の吸入過熱度を推定する演算装置20と、 前記演算装置20によって推定されるモータ駆動トルク、温度、高圧圧力、低圧圧力、軸潤滑状態等の情報を出力する機能と、 を備える空気調和装置。」 (2) 甲2について ・「【請求項1】 診断対象機器に設置されたセンサからのデータであるセンサデータと診断用学習データとに基づいて前記診断対象機器の状態を診断する診断システムにおいて、 前記センサデータと前記診断用学習データとに基づいて前記診断対象機器の状態を診断する診断部と、 前記診断部で正常と診断されたときの前記センサデータを、予め保持している蓄積学習データ群に加え、前記蓄積学習データ群の中心とそれに近いものだけを残して遠いものを蓄積学習データ群から削除して前記蓄積学習データ群を更新し、更新された前記蓄積学習データ群から新たな前記診断用学習データを生成する学習データ更新部とを有することを特徴とする診断システム。」 ・「【0001】 本発明は、診断システムおよびエレベータに関する。」 ・「【0015】 図1に示す診断システム100は、例えばエレベータなどの診断対象機器に設置されたセンサからのデータであるセンサデータS10を入力とし、センサデータS10と診断用学習データS30とに基づいて診断対象機器の状態(例えば正常、異常などの状態)を診断する診断部10と、診断部10で正常と診断されたときのセンサデータS10を用いて蓄積学習データ群および診断用学習データS30を更新する学習データ更新部20とを有し、診断部10の診断結果S20を出力する。 【0016】 診断対象機器がエレベータの場合、センサデータS10は、エレベータを制御するための信号データとエレベータの状態をセンシングするための信号データである。エレベータを制御するための信号データには、例えば、巻上機のモータであれば、電流値やトルク値などであり、エレベータかごであれば、荷重センサ値などであり、ドアであれば、ドア位置や速度指令値などが含まれる。エレベータの状態をセンシングするための信号データには、例えば、音響センサ、加速度センサ、画像センサ、温度センサなどが含まれる。」 ・「【0018】 診断部10では、センサデータS10としてエレベータかごに設置された荷重センサ、音響センサ、または、画像センサを入力し、各データのいずれか、またはそれらの組合せと、診断用学習データS30とを比較することによって、エレベータの状態、例えば乗客の有無や異常の有無を診断する。」 ・「【0020】 また、ドアの異常診断であれば、センサデータS10はドアの加速度信号や音響信号であり、センサデータS10と診断用学習データS30との差が、予め決められた閾値と比較して大きい場合に異常と判定する方法や、センサデータS10と診断用学習データS30を周波数解析し、周波数値をクラスタリングや主成分分析といった統計的手法を用いて異常判定する手法が考えられる。」 ・「【0023】 学習データ更新部20は、診断部10で正常と診断されたときのセンサデータS10を入力とし、蓄積学習データ群の更新を行い、更新された蓄積学習データ群から新たな診断用学習データS30を生成し、次回の診断に用いるために診断部10に出力する。」 ・「【0025】 学習データ更新部20は、センサデータS10を入力とし、蓄積された複数の蓄積学習データS30A、S30M、S30Zで構成される蓄積学習データ群を記憶しておく学習データ記憶部30と、学習データ記憶部30に記憶された蓄積学習データ群を比較して不要な蓄積学習データを削除して更新し、更新された蓄積学習データ群から新たな診断用学習データを生成する比較更新部40とを有し、更新された新たな診断用学習データS30を出力する。」 ・「【0027】 比較更新部40は、センサデータS10が加えられた蓄積学習データ群に対して、必要に応じてデータの並べ換えを行い、蓄積学習データ群の中心を算出し、蓄積学習データ群の中心とそれに近いものだけを残して遠いものを学習データ記憶部30の蓄積学習データ群から削除することにより、蓄積学習データ群の更新を行う。さらに、比較更新部40は、更新された蓄積学習データ群から新たな診断用学習データS30を生成し、診断部10へ出力する。例えば、更新された蓄積学習データ群の中心に対応する蓄積学習データを新たな診断用学習データS30とする。蓄積学習データ群の中心は、例えば蓄積学習データ群のぞれぞれの蓄積学習データの統計的特徴量を求め、それぞれの統計的特徴量の中央値、平均値、または、最頻値を求め、それに対応するセンサデータセットを持つ蓄積学習データを蓄積学習データ群の中心とする。尚、ここでいう「それに対応する」とは、一致するものがある場合は一致するものを「それに対応する」ものとし、一致するものがない場合は最も近いものを「それに対応する」ものとみなす。」 ・「【0030】 次に、比較更新部40は、Step1として、各々のセンサデータセットの統計的特徴量(統計量)を計算する。図3では、蓄積学習データS30Aに対応するのが統計量T1、蓄積学習データS30Mに対応するのが統計量T2、蓄積学習データS30Zに対応するのが統計量TXである。統計的特徴量としては、クラスタリングや主成分分析などが考えられる。 【0031】 次に、比較更新部40は、Step2として、Step1で算出した統計的特徴量を比較し、並べ換えをおこなう。尚、並べ替えは単なる内部処理であるため、必要に応じて行えばよい。図3では、統計量T1と統計量T2の順番が入れ替わっている。比較方法には例えば交差検証を用いる。 【0032】 次に、比較更新部40は、Step3として、蓄積学習データ群の中心を求める。例えば、蓄積学習データ群の中心を求める方法としては、統計的特徴量の中央値、平均値、または、最頻値を求め、それに対応するセンサデータセットを持つ蓄積学習データを蓄積学習データ群の中心とする。そして、蓄積学習データ群の中心とそれに近いものだけを残して遠いものを蓄積学習データ群から削除する。具体的には、蓄積学習データ群の中心から最も遠い統計的特徴量に対応するセンサデータセットを持つ蓄積学習データ(図3の場合は統計量T2に対応する蓄積学習データS30Mと統計量TXに対応する蓄積学習データS30Z)を、学習データ記憶部30から削除する。例えば、中心から遠いものを削除する方法としては、蓄積学習データ群の中心となる統計的特徴量からの距離に適当な閾値を設定し、閾値外の統計的特徴量に対応するセンサデータセットを全て削除する方法や、並ベ変えられた蓄積学習データ群の両端あるいは両端のうち中心からより遠い方に対応するセンサデータセットを削除する方法が考えられる。尚、Step3の説明において「対応する」とは、一致するものがある場合は一致するものを「対応する」ものとし、一致するものがない場合は最も近いものを「対応する」ものとみなす。 【0033】 このように、診断部10で正常と診断されたときのセンサデータS10を、予め保持している蓄積学習データ群に加え、蓄積学習データ群の中心とそれに近いものだけを残して遠いものを蓄積学習データ群から削除して蓄積学習データ群を更新することにより、正常と診断される範囲内で外れ値となるセンサデータS10が入ってきた場合でも、すぐに削除することができ、外れ値によるノイズの影響を抑制することができる。」 (3) 甲3について 甲3には、次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 空調機から出力される運転データを所定のサンプリングタイムで取得するデータ取得部と、前記データ取得部で取得した運転データに基づいて前記空調機の運転状態が正常か否かを推定する運転状態推定部とを備え、 前記運転部状態推定部は、複数種類の運転データを対象とし、各運転データ毎に所定時間内に含まれる複数サンプリングデータを処理して得られるデータを特徴量データとし、これらの特徴量データを纏めて1データセットとすると共に、順次取得した複数データセットから基準空間を構築し、その後取得したデータセットが前記基準空間に対し正常であるか否かをマハラノビスの距離を用いて判定することを特徴とする空調運転監視システム。」 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、空調機或いは監視対象装置の運転データを元に、エネルギー消費面からみて無駄である無駄運転状態や、その他空調機或いは監視対象装置の異常状態を幅広く検出することができる空調運転監視システム、異常検出方法、および異常検出装置に関する。」 ・「【0013】 また、運転状態推定部8は、データ取得部6で取得した運転データをデータセットとして順次蓄積するデータセット記憶部10と、データセット記憶部10の複数のデータセットに基づいて作成された基準空間を記憶する基準空間記憶部11とを備えている。なお、運転状態推定部8では、窓開放状態やフィルタ汚れなどの低効率運転や、その他の空調機異常状態があった場合に、運転状態が正常でないと推定する。 【0014】 また、例えばオフィス用のマルチ型空調機(冷房運転)を対象とした場合、例えば室内機2、3からは、蒸発温度、吸込み温度、蒸発機出口温度、蒸発機入り口温度、膨張弁開度、サーモON/OFF状態などのデータをデータ収集装置6で取得することができる。 また、圧縮機を備えた室外機1からは、外気温度、凝縮温度、圧縮機周波数、吐出温度、凝縮機出口温度などの冷凍サイクルをベースとした物理量のデータをデータ収集装置6で取得することができる。さらに、室内リモコン4からは、人為的に操作される設定温度や発停状態などのデータをデータ収集装置6で取得することができる。」 ・「【0031】 …上記のようにして基準空間を構築後、実際の監視データセットのk個の特徴量を入力し、上記に従ってマハラノビスの距離MD2を演算し、その距離MD2が設定閾値以上かどうかで、正常か否かを判定する。」 ・「【0060】 以下、図21のフローチャートを用いて、具体的な処理の流れを説明する。i(i=1、2、…)はデータセットDiのカウントを示す変数であり、nは設定した基準空間を構成するデータセットの個数である。まず、データ収集装置6は、メンテナンス終了後にデータ収集を開始し(S201)、時間幅T間での特徴量算出を行う(S202)。次に、運転状態推定部8は、変数iとnとの比較を行い(S203)、変数iがn以下の場合には、データ収集装置6で収集したデータを基準データセットとして採用し、データセット記憶部10に蓄積する(S204)。そして、変数iがnになった場合には(S205)、データセット記憶部10に記憶された複数のデータセットを読み出して、これらのデータセットのマハラノビスの距離を算出し、基準空間(A)を作成する(S206)。 【0061】 次に、基準空間(A)の中で最大距離のデータセットを選択し(S207)、このデータセットを排除した基準空間(B)を作成する(S208)。そして、S207で選択した最大距離のデータセットとS208で作成した基準空間(B)とのマハラノビス距離(MD20)を計算し(S209)、異常検知とするマハラノビスの距離の設定閾値(MD2t:一般的には3〜4程度)とS209で算出したマハラノビス距離(MD20)とを比較する(S210)。 【0062】 この比較でマハラノビス距離(MD20)が設定閾値(MD2t)より小さい場合には、そのデータセットがノイズをほとんど受けていないものと判断して、基準空間(A)を採用する(S211)。採用した基準空間(A)は基準空間記憶部11に記憶させる。また、マハラノビス距離(MD20)が設定閾値(MD2t)より大きな場合には、そのデータセットが大きなノイズを受けたものと判断して、基準空間(B)を採用する(S212)。採用した基準空間(B)は基準空間記憶部11に記憶させる。そして、S205の処理で変数iがnでない場合およびS211、S212の処理終了後、S201に処理を戻す。」 ・「【0066】 また基準空間データ作成時と測定データ収集時との測定時間差が大きいと、外気温度の条件の大きな変化により基準空間作成時の外気温度と大きなずれが生じてしまう場合がある。この場合には、なるべくその時間差を狭めると測定精度が向上する。従って、測定データの一個前までのデータで基準空間を構築し、その後に収集したデータセットの距離を測定するようなデータ構成とする。その場合、その一手法としては基準データセット数を固定しておいて、一つデータが更新されるたびに一つデータを削除するなどの方法がある。この際、追加時対象となるデータが、その時点の基準空間からの距離で見て正常範囲であればそれを追加し、その代わりに一番古いデータを削除するようにする。」 (4) 甲4について 甲4には、次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 対象機器の内部情報を用いて該対象機器の状態を示す状態指標値を算出し、算出した状態指標値に基づいて該対象機器の状態を判別する状態判別装置であって、 上記対象機器の内部情報を使用情報と共に収集する情報収集手段と、 回帰モデルを設定する回帰モデル設定手段と、 回帰モデル設定手段が設定した回帰モデル及び該情報収集手段が収集した該対象機器の内部情報を用いて、上記状態指標値を算出する状態指標値算出手段と、 該状態指標値算出手段が状態指標値を算出した時点から故障が発生するまでの予想猶予期間を示す猶予期間指標値を使用情報から算出するための算出式データが記憶された算出式データ記憶手段と、 該情報収集手段が収集した使用情報及び該算出式データ記憶手段に記憶されている算出式データを用いて上記猶予期間指標値を算出する猶予期間指標値算出手段と、 該状態指標値算出手段が算出した状態指標値及び該猶予期間指標値算出手段が算出した猶予期間指標値から故障危険度を算出する故障危険度算出手段と、 該故障危険度算出手段が算出した故障危険度に基づいて、該対象機器の状態を判別する判別手段とを有することを特徴とする状態判別装置。」 ・「【0001】 本発明は、画像形成装置などの対象機器の状態を判別する状態判別装置及びこれを用いた故障予測システムに関するものである。」 ・「【0013】 情報収集部2は、本実施形態では、通信ネットワーク11を通じて各複写機10A、10B、10C、10Dから所定のタイミングで送られてくる内部情報、環境情報、使用情報を故障予測装置1で受信することにより収集するものであるが、これに限らず、可搬型の記録媒体を介して各複写機10A、10B、10C、10Dの内部情報、環境情報、使用情報を故障予測装置1で収集するものであってもよい。また、情報収集部2において、情報の収集効率を良好に保つという観点からすれば、各複写機10A、10B、10C、10Dから定期的に内部情報を環境情報および使用情報と共に収集する方式が好ましい。更に、複写機10A、10B、10C、10Dを特定し、経時的変化を見ながら故障状態を正確に予測するという観点からすれば、情報収集部2は、複写機10A、10B、10C、10Dを特定する処理対象情報及び複写機10A、10B、10C、10Dの内部情報、環境情報、使用情報が収集される情報収集日時情報を併せて収集するものが好ましい。 【0014】 回帰モデル設定部3は、状態指標値が算出可能な回帰モデルMl、M2、M3、M4を、温度・湿度の違いによって区分された環境区分E1、E2、E3、E4ごとに区分されて設定するものであればよい。これらの回帰モデルMl、M2、M3、M4は、例えば、同一機種についての過去の故障事例における内部情報を用いて作成したり、同一機種の過去の事例がないような場合には関連する機種の故障事例における内部情報を用いて作成したりするなどすればよい。本実施形態における状態指標値は、近い将来にどれだけ故障しやすいかを示す指標になるものであればよい。また、本実施形態の回帰モデル設定部3は、予め作成された回帰モデルM1、M2、M3、M4が記憶されているものであるので、環境情報を用いて回帰モデルをいちいち作成する場合に比べて、環境情報が状態指標値の算出誤差に影響しにくい。 【0015】 また、回帰モデル設定部3としては、公知の回帰分析を用いて回帰モデルM1、M2、M3、M4を設定して差し支えない。代表的な手法としては、例えばロジスティック回帰分析を利用して複数の回帰モデルMl、M2、M3、M4を設定することが挙げられる。更に、回帰モデル設定部3において、回帰モデルMl、M2、M3、M4を簡単に構築するという観点からすれば、回帰モデルM1、M2、M3、M4を設定する際に用いる複写機10A、10B、10C、10Dの内部情報として、複写機10A、10B、10C、10Dが故障したときの内部情報と、故障した複写機10A、10B、10C、10Dを修理した後の内部情報とを含むものを利用することが好ましい。更にまた、季節の影響をより正確に反映させるという観点からすれば、回帰モデル設定部3は回帰モデルM1、M2、M3、M4を適宜更新するものであることが好ましい。この場合、更新の時期については定期的でもよいし、ユーザーの指定時期など適宜選定して差し支えない。また、回帰モデル設定部3は少なくとも環境区分El、E2、E3、E4ごとに作成される回帰モデルM1、M2、M3、M4を有していればよいが、故障予測をより細かく行うという観点からすれば、環境区分E1、E2、E3、E4ごとの回帰モデルM1、M2、M3、M4を故障要因で複数に分類するようにしてもよい。」 ・「【0027】 一方で、本実施形態では、図5に示すフローチャートに従って、初期時には回帰式データを作成し、その後は回帰式データの更新を行う(S54)。具体的には、故障して修理依頼のあった複写機10A、10B、10C、10Dの内部情報(以下「故障内部情報」という。)を温度湿度データとともに収集する。その後、修理されて正常に動作している複写機10A、10B、10C、10Dの内部情報(以下「正常内部情報」という。)を温度湿度データとともに収集する。このとき、複数台の複写機から内部情報、温度湿度データを抽出することが好ましい。また、温度湿度データは、通常、温度データなら20℃から65℃の程度、湿度データなら124から135(任意の相対値)の値で分布する。本実施形態では、温度データ領域を2分割、湿度データ領域を2分割し、4つの環境区分E1〜E4に分ける。そして、4つの環境区分E1〜E4に入る故障内部情報と正常内部情報とを使って、環境区分E1〜E4ごとに4通りの回帰式を作成する。ここで、回帰式としては、例えば下記の数1に示すように、ロジスティック回帰分析を利用したものが採用される。作成された回帰式のデータは識別番号が付されて記憶部22に記憶される。」 ・「【0033】 故障予兆判別要求を受け付けた制御部24は、まず、記憶部22内の該当する内部情報、環境情報(温度湿度データ)及び使用情報を抽出する(S56)。そして、環境情報(湿度湿度データ)に基づいて回帰式の選定を行ってその回帰式に内部情報を入力して状態指標値Dを算出するとともに、使用情報から使用ファクタを算出し、算出した状態指標値Dに使用ファクタを乗じて故障危険度を算出する(S57)。算出した故障危険度は、記憶部22に機械番号、データ収集日、選定された回帰式の識別番号とともに記憶され(S58)、表示部25に機械番号、データ収集日とともに故障危険度が表示される(S59)。但し、処理対象となる複写機10A、10B、10C、10Dの機械番号とデータ収集日から既に故障危険度が計算され、記憶部22に記憶されている場合には、記憶部22から故障危険度を読み出し、表示部25に機械番号、データ収集日とともに故障危険度を表示することが可能である。ここで、故障危険度の過去の履歴をグラフ化して表示する場合には、入力部23から機械番号と表示したい日付の範囲を指定すればよく、上述の計算を自動的に繰り返し表示部25に過去の履歴に相当するグラフを表示することが可能である。特に、状態指標値Dの回帰式として、故障要因ごとにカテゴリーを分類した態様にあっては、紙送りトラブルの故障危険度が、画質トラブルの故障危険度より大きな確率であれば、紙送りトラブルでの故障危険度が高いと判断でき、故障危険度の値を算出することができる。この値は、内部情報を与えたときにサービスエンジニアが保守点検が必要か否かの判定基準とすることができる。」 ・「【0036】 次に、回帰式の更新処理について説明する。 複写機10A、10B、10C、10Dで生じるフェイルの数は、使用条件、環境条件によっても変化することが経験的に知られているので、状態指標値Dを算出するための回帰式は、定期的に更新されるのが好ましい。例えばジャムフェイルは、湿度の関係から冬場増加することがわかっているので、季節の影響を反映させることを考えれば、定期的(例えば1ヶ月ごとで)又は不定期的に回帰式を再算出する方法がより好ましい。このとき、上述した判別閾値を変更してフェイルの変化に対応させることも可能であるが、回帰式を更新したほうがより良い。」 ・「【0038】 … また、本実施形態において、情報収集部2は、各複写機10A、10B、10C、10Dの内部情報及び使用情報と共に環境情報である温度湿度データも収集し、回帰モデル設定部3は、環境(温度・湿度)に応じて区分される複数の回帰モデルM1、M2、M3、M4を設定し、情報収集部2が収集した温度湿度データに基づいて回帰モデル設定部3の回帰モデルを選定する回帰モデル選定手段としての回帰モデル選定部4を設け、状態指標値算出部5は、回帰モデル選定部4が選定した回帰モデルを用いて状態指標値Dを算出する。これにより、温度、湿度などの環境の違いによる故障予測結果のブレを少なくし、より正確な故障予測が可能となる。」 (5) 甲5について 甲5には、次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 動作管理上必要な内部情報が記憶可能な診断対象機器の故障予測状態を診断する故障予測診断装置であって、 診断対象機器の前記内部情報を収集する情報収集手段と、 この情報収集手段にて収集された診断対象機器の内部情報に基づき診断対象機器の故障予測状態に対応する故障予測指標が算出可能な回帰モデルを作成する回帰モデル作成手段と、 この回帰モデル作成手段にて作成された回帰モデルを用いて故障予測指標を算出する指標算出手段と、 この指標算出手段にて算出された故障予測指標の経時変化をパラメータとして利用可能に数値化する指標変化数値化手段と、 経時的な故障対処状況をパラメータとして利用可能に数値化する故障対処状況数値化手段と、 前記指標変化数値化手段及び前記故障対処状況数値化手段の各パラメータに基づいて診断対象機器の故障対処の要否を決定する故障対処決定手段とを備えることを特徴とする故障予測診断装置。」 ・「【0001】 本発明は、故障予測診断装置及びこれを用いた故障予測診断システムに関する。」 ・「【0011】 先ず、本発明が適用される実施の形態モデルの概要について説明する。 ◎実施の形態モデルの概要 図1は本発明が適用される故障予測診断システムの実施の形態の概要を示す。 同図において、故障予約診断システムは、動作管理上必要な内部情報が環境情報と共に記憶可能な複数の診断対象機器10(例えば10(1)、10(2)、10(3)……10(n))と、各診断対象機器10と通信可能にネットワーク11接続されて各診断対象機器10の故障予測状態を診断する故障予測診断装置1とを備えた故障予測診断システムであって、前記故障予測診断装置1が、診断対象機器10の前記内部情報を収集する情報収集手段2と、この情報収集手段2にて収集された診断対象機器10の内部情報に基づき診断対象機器10の故障予測状態に対応する故障予測指標が算出可能な回帰モデルを作成する回帰モデル作成手段3と、この回帰モデル作成手段3にて作成された回帰モデルを用いて故障予測指標を算出する指標算出手段4と、この指標算出手段4にて算出された故障予測指標の経時変化をパラメータとして利用可能に数値化する指標変化数値化手段5と、経時的な故障対処状況をパラメータとして利用可能に数値化する故障対処状況数値化手段6と、前記指標変化数値化手段5及び前記故障対処状況数値化手段6の各パラメータに基づいて診断対象機器の故障対処の要否を決定する故障対処決定手段8とを備えるものである。」 ・「【0013】 更にまた、回帰モデル作成手段3としては、故障予測指標が算出可能な回帰モデルが作成されればよく、通常は過去の故障事例における内部情報を用いたり、同一機種の過去の事例がないような場合には関連する機種の故障事例における内部情報を利用するなどすればよい。また、作成される回帰モデルとしては必ずしも一つである必要はなく、複数作成されていてもよい。この場合、いずれかの回帰モデルが選定されるようにすればよい。 更に、故障対処決定手段8は、指標変化及び故障対処状況をパラメータとして、所定のルール(推論エンジン)に従って故障対処の要否を決定するものを広く含む。 ここで、故障対処法としては一つでもよいし複数でもよく、代表的には保守点検専門家(例えばサービスエンジニア)を派遣する方法が挙げられるが、これに限られるものではなく、保守点検専門家にTV会議システム、電話にて相談するなどの方法も含まれる。」 ・「【0016】 また、回帰モデル作成手段3としては公知の回帰分析を用いて回帰モデルを設定して差し支えないが、代表的な手法としては例えばロジスティック回帰分析を利用して回帰モデルを作成することが挙げられる。 更に、回帰モデル作成手段3において、回帰モデルを簡単に構築するという観点からすれば、回帰モデルを作成する際に用いる診断対象機器10の内部情報として、診断対象機器10が故障したときの内部情報と、故障した診断対象機器10を修理した後の内部情報50とを含むものを利用することが好ましい。 更にまた、季節の影響をより正確に反映させるという観点からすれば、回帰モデル作成手段3は回帰モデルを更新するものであることが好ましい。この態様において、更新の時期については定期的でもよいし、顧客の指定時期など適宜選定して差し支えない。 また、回帰モデル作成手段3は少なくとも一つの回帰モデルを有していればよいが、環境依存性の高い画像形成装置などを診断対象機器10とする場合には、環境区分毎に作成される回帰モデルを有することが好ましく、診断予測をより細かく行うという観点からすれば、環境区分毎の回帰モデルを故障要因で複数に分類するようにしてもよい。」 ・「【0026】 (3)故障予測診断処理(図5ステップ55〜ステップ61) これは、例えばサービスエンジニアが診断対象である画像形成装置について故障予測診断を要求するような場合の処理である。 このとき、サービスエンジニアは、診断対象である画像形成装置の機械番号、データ収集日を入力部43から入力するようにすればよく、解析処理/制御部44は、記憶部42にある該当する内部情報、環境情報(温度湿度データ)を抽出し、環境情報(温度湿度データ)に基づいて、故障危険度の回帰式の選定を行い、選定した回帰式に、環境情報と一緒に抽出した内部情報を入力して、環境情報に基づいた故障危険度を算出し、その値を表示部45の画面にて参照可能に表示する。 このとき、記憶部42に格納されている故障危険度の回帰式は、環境区分A〜I毎によって複数作成されており、識別番号とともに記憶部42に格納されている。このため、環境情報がわかれば識別番号に対応でき、回帰式を選定することができる。 【0027】 更に、算出した故障危険度は、記憶部42に機械番号、データ収集日、選定された回帰式の識別番号とともに格納され、表示部45に機械番号、データ収集日とともに故障危険度が表示される。 但し、診断対象となる画像形成装置の機械番号とデータ収集日から既に故障危険度が計算され、記憶部42に格納されている場合には、記憶部42から故障危険度を読み出し、表示部45に機械番号、データ収集日とともに故障危険度を表示することが可能である。 ここで、故障危険度の過去の履歴をグラフ化して表示する場合には、入力部43から機械番号と表示したい日付の範囲を指定すればよく、上述の計算を自動的に繰り返し表示部45に過去の履歴に相当するグラフを表示することが可能である(例えば図14参照)。 特に、故障危険度の回帰式として、故障要因毎にカテゴリーを分類した態様にあっては、紙送りトラブルの故障危険度が、画質トラブルの故障危険度より大きな確率であれば、紙送りトラブルでの故障危険度が高いと判断でき、故障危険度の値を算出することができる。この値は、内部情報を与えたときにサービスエンジニアが保守点検が必要か否かの判定基準とすることができる(例えば図14参照)。」 ・「【0034】 (5)回帰式の更新(ステップ54参照) 画像形成装置で生じるフェイルの数は、使用条件、環境条件によっても変化することが経験的に知られているので、故障危険度算出のための回帰式は、定期的に更新される必要がある。例えばジャムフェイルは、湿度の関係から冬場増加することがわかっているので、季節の影響を反映させることを考えれば、定期的(例えば1ヶ月毎で)又は不定期的に回帰式を再算出する方法がより好ましい。このとき、故障危険度の閾値を変更してフェイルの変化に対応させることも可能であるが、回帰式を更新したほうがより良い。」 (6) 甲6について 甲6には、次の事項が記載されている。 ・「【0001】 本発明は、シャフト炉(縦型スクラップ溶解炉)中で鉄系スクラップを主体とする鉄源をコークスの燃焼熱により溶解して溶銑を製造する際に発生してシャフト炉から排出される排ガス中に含まれるダストを除去するために散水する除塵水の散水量の制御方法および制御装置に関するものである。」 ・「【0021】 すなわち、散水量決定部35は、排ガスへの除塵水の散水前および散水後のダスト濃度の経時変化と散水量との関係を調査し、その調査結果から、散水前のダスト濃度と、散水後のダスト濃度を所定量以下とするための散水量との関係を回帰分析し、その関係を示す回帰式を用いて現在の散水前のダスト濃度から、散水後のダスト濃度を所定量以下とするための必要最小限の除塵水の散水量を決定する。なお、この排ガスへの除塵水の散水前および散水後のダスト濃度と散水量との関係の調査および、散水前のダスト濃度と、散水後のダスト濃度を所定量以下とするための散水量との関係の回帰分析を、一定期間例えば1ヶ月ごとに繰り返し実施して、回帰式を更新してもよく、このようにすれば、除塵水の散水量の決定精度を高めることができる。」 6 当審の判断 (1) 本件発明1について ア 対比 (ア) 本件発明1と甲1発明1とを、その有する機能に照らして対比すると、甲1発明1の「インバータ制御手段26」は、本件発明1の「モータ制御手段」に相当し、以下同様に、「ブラシレスDCモータ6」は「モータ」に、「圧縮機1」は「機器」に、「空気調和装置」は「機器システム」に、「制御部27」は「状態監視装置」に、「モータ3相コイル10に加わる瞬時電流を電流検出器16で検出した検出値」は「モータ電流の電流センサ情報」に、「内部状態」は「状態変数」に、「電流値id、iq」は「モータ制御内部値」に、「モータ駆動トルクTm」は「特徴量」に、「吸入過熱度」は「状態量」に、それぞれ相当する。 (イ) 甲1発明1の「演算装置20」における、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流の電流検出器16で検出した検出値に基づいて、前記インバータ制御手段26における内部状態である電流値id、iqを作成する機能は、本件発明1の「モータ制御内部値作成手段」に相当する。 (ウ) 甲1発明1の「前記演算装置20によって作成される前記電流値id、iqからモータ駆動トルクTmを算出し、予め作成されたトルク−SH線図を用いて前記モータ駆動トルクTmから前記空気調和装置の吸入過熱度を推定する演算装置20」における「演算装置20」と、本件発明1の「状態推定手段」とは、前記モータ制御内部値作成手段によって作成される前記モータ制御内部値から特徴量を算出し、前記特徴量の少なくとも1つから前記機器システムの状態を示す状態量を推定する状態推定手段という限りにおいて一致する。 (エ) したがって、本件発明1と甲1発明1とは、次の点で一致し、相違する。 <一致点> 「モータ制御手段によって制御されるモータによって駆動される機器を備える機器システムの状態監視装置において、 モータ電流の電流センサ情報に基づいて、前記モータ制御手段における状態変数であるモータ制御内部値を作成するモータ制御内部値作成手段と、 前記モータ制御内部値作成手段によって作成される前記モータ制御内部値から特徴量を算出し、前記特徴量の少なくとも1つから前記機器システムの状態を示す状態量を推定する状態推定手段と、 を備える状態監視装置。」 <相違点1> 状態推定手段が、特徴量を算出することに関し、本件発明1においては、モータ制御内部値から「所定の時間区間における」特徴量を算出しているのに対して、甲1発明1は、電流値id、iqからモータ駆動トルクTmを算出しているが、モータ駆動トルクTmが所定の時間区間における値であるのか不明な点。 <相違点2> 状態推定手段が、機器システムの状態を示す状態量を推定することに関し、本件発明1においては、「統計的モデルを用いて」いるのに対して、甲1発明1は、予め作成されたトルク−SH線図を用いている点。 <相違点3> 本件発明1は、「前記機器システムの状態に関する過去のデータを取得する状態量取得手段」と、「前記状態量取得手段によって取得される前記データに基づいて、前記状態推定手段が用いる前記統計的モデルを更新する状態推定手段更新手段」を備えているのに対して、甲1発明1はそのような手段を備えていない点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点3について検討する。 (ア) 甲1発明1は、予め作成されたトルク−SH線図を用いてモータ駆動トルクTmから空気調和装置の吸入過熱度を推定するものであるが、甲1には、このトルク−SH線図の更新に関し、特段記載や示唆はなく、甲1発明1においてトルク−SH線図を更新することの動機付けは特段認められない。 (イ) 甲2には、エレベータの診断システムに関し、センサデータと診断用学習データとに基づいて例えば正常、異常などの機器の状態を診断する技術が記載され(【0015】)、正常と診断されたときのセンサデータを入力とし、蓄積学習データ群の更新を行い、更新された蓄積学習データ群から新たな診断用学習データを生成し、次回の診断に用いる点が記載されているが(【0023】、【0033】)、機器システムの状態に関する過去のデータに基づいて蓄積学習データ群を更新しているものとは解されない。 また、空気調和装置に関する技術ではなく、圧縮機を駆動するモータの駆動トルクから空気調和装置の吸入過熱度を推定することや、トルク−SH線図の更新に関し、特段記載や示唆はない。 (ウ) 甲3には、空調機に関し、複数種類の運転データを対象とし、各運転データ毎に所定時間内に含まれる複数サンプリングデータを処理して得られるデータを特徴量データとし、これらの特徴量データを纏めて1データセットとすると共に、順次取得した複数データセットから基準空間を構築し、その後取得したデータセットが前記基準空間に対し正常であるか否かをマハラノビスの距離を用いて判定する技術が記載され(【請求項1】)、基準空間データ作成時と測定データ収集時との測定時間差が大きいと、外気温度が大きくずれてしまう場合があることから、測定データの一個前までのデータで基準空間を構築する点が記載されている(【0066】)。 この測定データの一個前までのデータで基準空間を構築する点は、測定データの過去のデータで基準空間を構築するといえるとしても、圧縮機を駆動するモータの駆動トルクから空気調和装置の吸入過熱度を推定することや、トルク−SH線図の更新に関し、特段記載や示唆はない。 (エ) 甲4には、画像形成装置などの対象機器に関し、内部情報、環境情報(温度、湿度)を抽出し、環境情報に基づいて回帰式の選定を行って、その回帰式に内部情報を入力し状態指標値を算出し、使用情報から使用ファクタを算出し、状態指標値に使用ファクタを乗じて故障危険度を算出し、故障危険度から対象機器の状態を判別する技術が記載され(【0033】)、回帰モデルは、同一機種についての過去の故障事例における内部情報を用いたり、関連する機種の故障事例における内部情報を用いたりして作成すること(【0014】)、季節の影響を正確に反映させるために、回帰モデルを適宜更新すること(【0015】)、初期時に回帰式データを作成し、その後は回帰式データの更新を行うこと(【0027】)、複写機で生じるフェイルの数は、使用条件、環境条件によっても変化するので、回帰式は、定期的に更新するのが好ましいこと(【0036】)などが記載されている。 回帰モデルの更新時には、初期時と同様に、同一機種についての過去の故障事例における内部情報を用いたり、関連する機種の故障事例における内部情報を用いたりして作成するものと解され、過去のデータに基づいて回帰モデルを更新するといえるとしても、空気調和装置に関する技術ではなく、圧縮機を駆動するモータの駆動トルクから空気調和装置の吸入過熱度を推定することや、トルク−SH線図の更新に関し、特段記載や示唆はない。 (オ) 甲5には、画像形成装置などの対象機器に関し、内部情報、環境情報(温度、湿度)を抽出し、環境情報に基づいて回帰式の選定を行って、その回帰式に環境情報と一緒に抽出した内部情報を入力し故障危険度を算出し、故障危険度から対象機器の状態を判別する技術が記載され(【0026】)、回帰モデルは、同一機種についての過去の故障事例における内部情報を用いたり、関連する機種の故障事例における内部情報を用いたりして作成すること(【0013】)、季節の影響を正確に反映させるために、回帰モデルを適宜更新すること(【0016】)、複写機で生じるフェイルの数は、使用条件、環境条件によっても変化するので、回帰式は、定期的に更新する必要があること(【0034】)などが記載されている。 回帰モデルの更新時には、初期時と同様に、同一機種についての過去の故障事例における内部情報を用いたり、関連する機種の故障事例における内部情報を用いたりして作成するものと解され、過去のデータに基づいて回帰モデルを更新するといえるとしても、空気調和装置に関する技術ではなく、圧縮機を駆動するモータの駆動トルクから空気調和装置の吸入過熱度を推定することや、トルク−SH線図の更新に関し、特段記載や示唆はない。 (カ) 甲6には、シャフト炉に関し、排ガスへの除塵水の散水前後のダスト濃度の経時変化と散水量との関係から、散水前のダスト濃度と散水量との関係を回帰分析し、その関係を示す回帰式を用いて、散水前のダスト濃度から除塵水の散水量を決定する技術が記載され(【0021】)、回帰分析を、一定期間(例えば、1ヶ月)ごとに繰り返して実施して、回帰式の更新をする点が記載されているが(【0021】)、機器システムの状態に関する過去のデータに基づいて回帰式を更新しているものとは解されない。 また、空気調和装置に関する技術ではなく、圧縮機を駆動するモータの駆動トルクから空気調和装置の吸入過熱度を推定することや、トルク−SH線図の更新に関し、特段記載や示唆はない。 (キ) このように、甲2〜甲6に記載された事項が従前から広く知られていたとしても、圧縮機を駆動するモータの駆動トルクから空気調和装置の吸入過熱度を推定することや、トルク−SH線図の更新に関して、特段示唆をするものではなく、甲1発明1においてもトルク−SH線図を更新することの動機付けは特段認められないことからすると、甲1発明1において、空気調和装置の吸入過熱度に関する過去のデータに基づいて、トルク−SH線図を更新すること、すなわち、相違点3に係る構成とすることの動機付けは特段認められない。 (ク) その他の証拠(甲7〜甲17)をみても、圧縮機を駆動するモータの駆動トルクから空気調和装置の吸入過熱度を推定することや、トルク−SH線図の更新に関し、特段記載や示唆はない。 そして、本件発明1は、相違点3に係る構成を有することにより、「モータ制御内部値に基づいて、機器システムの状態を推定することにより、モデル化が難しい機器システムの状態を推定することができる。」(本件特許明細書【0012】)とともに、「時間経過に伴って機器や製造物の状態が変化しても、状態推定の精度を確保することができる。」(同【0100】)といった、格別な効果を奏するものである。 (ケ) 以上のとおり、甲1発明1において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できた事項とは認められない。 よって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲2〜甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (2) 本件発明2〜5、7〜10について すでに述べたとおり、本件発明1は、甲1発明1及び甲2〜甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないから、本件発明1を特定するための事項を全て含む本件発明2〜5、7〜10は、その余の事項を検討するまでもなく、同様に、甲1発明1及び甲2〜甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (3) 本件発明11について ア 対比 (ア) 本件発明11と甲1発明2とを、その有する機能に照らして対比すると、甲1発明2の「ブラシレスDCモータ6」は、本件発明11の「モータ」に相当し、以下同様に、「圧縮機1」は「機器」に、「空気調和装置」は「機器システム」に、「駆動される」は「操作される」に、「被駆動部材」は「アクチュエータ」に、「インバータ制御手段26」は「モータ制御手段」に、「モータ3相コイル10に加わる瞬時電流を電流検出器16で検出した検出値」は「モータ電流の電流センサ情報」に、「内部状態」は「状態変数」に、「電流値id、iq」は「モータ制御内部値」に、「モータ駆動トルクTm」は「特徴量」に、「吸入過熱度」は「状態」に、それぞれ相当する。 (イ) 甲1発明2の「演算装置20」における、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流の電流検出器16で検出した検出値に基づいて、前記インバータ制御手段26における内部状態である電流値id、iqを作成する機能は、本件発明11の「モータ制御内部値作成手段」に相当する。 (ウ) 甲1発明2の「前記演算装置20によって作成される前記電流値id、iqからモータ駆動トルクTmを算出し、予め作成されたトルク−SH線図を用いて前記モータ駆動トルクTmから前記空気調和装置の吸入過熱度を推定する演算装置20」における「演算装置20」と、本件発明11の「状態推定手段」とは、前記モータ制御内部値作成手段によって作成される前記モータ制御内部値から特徴量を算出し、前記特徴量の少なくとも1つから前記機器システムの状態を推定する状態推定手段という限りにおいて一致する。 (エ) 甲1発明2の「前記演算装置20によって推定されるモータ駆動トルク、温度、高圧圧力、低圧圧力、軸潤滑状態等の情報を出力する機能」と、本件発明11の「前記状態推定手段によって推定される前記機器システムの前記状態に関わる情報を表示する情報伝達手段」とは、前記状態推定手段によって推定される情報を表示する情報伝達手段という限りにおいて一致する。 (オ) したがって、本件発明11と甲1発明2とは、次の点で一致し、相違する。 <一致点> 「モータによって駆動される機器を備える機器システムにおいて、 前記モータの駆動力によって操作されるアクチュエータと、 前記モータを制御するモータ制御手段と、 モータ電流の電流センサ情報に基づいて、前記モータ制御手段における状態変数であるモータ制御内部値を作成するモータ制御内部値作成手段と、 前記モータ制御内部値作成手段によって作成される前記モータ制御内部値から特徴量を算出し、前記特徴量の少なくとも1つから前記機器システムの状態を推定する状態推定手段と、 前記状態推定手段によって推定される情報を表示する情報伝達手段と、 を備える機器システム。」 <相違点4> 状態推定手段が、特徴量を算出することに関し、本件発明11においては、モータ制御内部値から「所定の時間区間における」特徴量を算出しているのに対して、甲1発明2は、電流値id、iqからモータ駆動トルクTmを算出しているが、モータ駆動トルクTmが所定の時間区間における値であるのか不明な点。 <相違点5> 状態推定手段が、機器システムの状態を示す状態量を推定することに関し、本件発明11においては、「統計的モデルを用いて」いるのに対して、甲1発明2は、予め作成されたトルク−SH線図を用いている点。 <相違点6> 情報伝達手段に関し、本件発明11においては、前記状態推定手段によって推定される「前記機器システムの前記状態に関わる情報」を表示するのに対し、甲1発明2は、前記演算装置20によって推定されるモータ駆動トルク、温度、高圧圧力、低圧圧力、軸潤滑状態等の情報を出力する点。 <相違点7> 本件発明11は、「前記機器システムの状態に関する過去のデータを取得する前記状態量取得手段」と、「前記状態量取得手段によって取得される前記データに基づいて、前記状態推定手段が用いる前記統計的モデルを更新する状態推定手段更新手段」を備えているのに対して、甲1発明2はそのような手段を備えていない点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点7について検討するに、相違点7は、本件発明1と甲1発明1に係る相違点3と実質的に同じである。 そうすると、同様の理由により(前記(1)イ)、甲1発明2において、相違点7に係る本件発明11の構成とすることは、当業者が容易に想到できた事項とは認められない。 よって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明11は、甲1発明2及び甲2〜甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 7 むすび 以上のとおりであるから、請求項1〜5、7〜11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1〜5、7〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-07-01 |
出願番号 | P2019-521603 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(H02P)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
柿崎 拓 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 田合 弘幸 |
登録日 | 2021-06-17 |
登録番号 | 6899897 |
権利者 | 株式会社日立製作所 |
発明の名称 | 状態監視装置、並びに機器システム |
代理人 | ポレール弁理士法人 |