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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1387516
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-05 
確定日 2022-08-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6898170号発明「吸血性害虫の行動停止方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6898170号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6898170号は、平成29年8月7日に出願され、令和3年6月14日に特許権の設定登録がなされ、同年7月7日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、請求項1〜4に係る発明の特許に対して、令和4年1月5日に特許異議申立人 栃尾 賢治(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされ、当審は同年3月25日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、同年5月27日に意見書を提出した。

第2 本件発明
本件請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
シロキサン化合物を有効成分として含有し、且つガラス面に対する接触角が31度以下に調整された組成物を、シラミ又はシラミが寄生している場所に施用することを特徴とするシラミの動きを2分以内に停止させるシラミの行動停止方法。
【請求項2】
前記組成物が、さらに脂肪酸エステルを含有することを特徴とする請求項1に記載のシラミの行動停止方法。
【請求項3】
前記シロキサン化合物が、ジメチルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーンからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシラミの行動停止方法。
【請求項4】
前記シロキサン化合物が、ジメチルポリシロキサンを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシラミの行動停止方法。」

第3 取消理由の概要及びこれに対する当審の判断
1 取消理由の概要
本件発明1〜4に対して、当審が令和4年3月25日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。

理由1:(新規性)本件発明1〜4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:Ira RICHLING, Wolfgang BOCKELER(当審注:BOCKELERの「O」はウムラウト付きのO)、Lethal Effects of Treatment with a Special Dimeticone Formula on Head Lice and House Crickets (Orthoptera, Ensifera:Acheta domestica and Anoplura, Phthiraptera: Pediculus humanus), Arzneimittel-Forschung (Drug Research)、2008、Vol.58、No.5、p.248-254
甲第4号証:「NYDA Lot.126643」の接触角測定の報告書、令和3年12月24日、地方独立行政法人大阪産業技術研究所理事長
(甲第4号証は参考資料であり、以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。)

2 当審の判断
(1)甲1の記載事項(甲1は英文なので、記載事項は訳文にて示し、以下、「・・・」は記載の省略を表す。)
ア「本研究は、医薬品であるNYDA(R)(当審注:(R)は○の中にR、以下同様。)の作用機序について初となる有力な説明を提示するものである。本医薬品は粘度の異なる2つのジメチコンを92%含む特別なジメチコン(CAS 9006-65-9)配合剤であり、寄生したアタマジラミを窒息させる物理的な治療薬として特別にデザインされている。シラミ(Pediculus humanus)及びイエコオロギ(Acheta domestica)をこの抗アタマジラミ製品で処理すると、いずれも1分未満で「主要なバイタルサインなし」の状態に陥り、その結果、不可逆的に死亡に至る。走査型電子顕微鏡での調査により、外殻がジメチコン配合剤の薄く密な層に覆われ、気門へと入り込んでいることが明らかとなった。・・・Pediculus humanusにおける同様のin vivo観察で、主要バイタルサインの消失と頭部気管系でのジメチコン配合剤による空気遮断が相関していることが確認された。」(抄録)

イ「2.対象及び方法
2.1 試験対象物質
ジメチコン含有抗アタマジラミ製品の例として、2つのジメチコン(1つは低粘度で室温で揮発し、もう1つはより高い粘度と沸点を有する)の特有の92%混合物と、中鎖長のトリグリセリド、ホホバワックス及び香料からなるジメチコン配合剤を選択した。添加物の未知の殺虫作用が実験に影響する可能性を排除するため、その医薬品に含まれる2つのジメチコンの純粋な混合物(他の添加物なし、本文書中では「純粋ジメチコン」と呼称する)を用いて補足実験を実施した。
・・・
2.4 「イエコオロギモデル」を用いた実験
特定のジメチコン配合剤及び添加剤なしの純粋ジメチコンをAcheta domesticaの各身体部位(頭部口器領域、胸部側板、腹部側板)に付着させ、イエコオロギの生命活動への作用を記録した。コオロギの明白な死亡又はその後10分の時点で観察を終了した(口内への適用を除く)。身体の両側に付着させる溶液量はそれぞれ合計で約5μL(シリンジの約1滴分)としたが、身体表面でのジメチコン溶液の急速な広がり(ジメチコン配合剤及び純粋ジメチコンのいずれでも)及び昆虫が動くことによって、最終的な実効量から逸脱していたことは明らかで、隣接する身体部位を汚染した可能性もある。胸部への付着では、以下の時系列的な手順による分析を統計学的に有意な試料数で行った:(1)仰向けに倒れて体部と脚部が痙攣する、(2)動かない(主要バイタルサインが欠如)、(3〜4)各触角気管がジメチコン溶液で閉塞するまでの時間。昆虫の死亡の観察と触角の実体顕微鏡による観察を並行して行うのは現実には難しいことから、後者の観察は不動が記録された時間から2秒以内に開始するものとした。そのため、都合上、触角気管の最も早い閉塞時間は不動の観察時間に等しくなるが、これは実際の閉塞時間よりも遅い可能性がある。
死亡した昆虫及び断頭した昆虫は解剖し、気管の内容物を確認した。

2.5 In vivo観察
Acheta domestica: 染色したジメチコン配合剤を胸部の側板に付着させ、身体表面の半透明領域(例:腹部腹側気管、足の主気管、頭部の腹側及び背側気管)の外部観察によって、気管系への溶液の拡散を追跡し、昆虫の生命状態との関連を調べた。外部観察の結果を確認するため、死亡個体はすべて断頭し、頭部気管の内容物を調べた。
Pediculus humanus: 実体顕微鏡下での気管の外部観察という同様の手法を採用したが、シラミを未染色のジメチコン配合剤に完全に浸すことと、最適な光環境を組み合わせることで、視覚化することができた。空気が満ちた気管系は、全反射によって銀色の線として視認できた。気管が液体で完全に閉塞すると、周囲の組織と識別できなくなる。処理後のシラミにおける時系列的な反応の解析には、コオロギで用いた手順をシラミで明確に確認できる状態に合わせてわずかに改変して使用した。:(1)主要バイタルサインの消失、(2〜3)頭部気管の異常、及び最終的に(4)頭部気管の完全な閉塞に至るまでの時間。」(第249頁右欄第1行〜第250頁左欄第42行)

ウ「3.3 In vivo観察
ジメチコン配合剤に色素を加えることで昆虫の生命活動への効果に影響が生じることはなかった。Acheta domestica及びPediculus humanusにおけるノックアウト時間は、ジメチコン溶液(添加物あり又は純粋)の頭部気管への流入時間と強く相関していた(図3〜5)。死亡したAcheta domestica試料すべての頭部内検査で、ジメチコン配合剤の存在が確認された。
短時間の処理を行った後、シラミは激しく動き、その後動きが遅くなって時折痙攀が見られた。最後には、消化系の蠕動運動以外の動きが見られなくなった。シラミ頭部の最初の気管主幹は通常1分未満でジメチコンによって閉塞し、その後間もなく対側への影響が現れた(図5a〜d、表2)。頭部の片側に溶液が達した後、大脳横連合を介した交差連絡によって、頭部気管系の最終的な閉塞に至ることが繰り返し観察された。平均すると、最も微細な気管支まで通じている頭部気管系全体が完全に閉塞するまでの時間は3.5分以内であり、最短で0.75分、最長で5.5分であった。処理したシラミ(40例)をさらに24時間観察したが、未処理の対照群(20例)とは対照的に、回復した個体はなかった。ジメチコン配合剤による気管系の閉塞は不可逆的であった。

(合議体注:黄色のマーカーは申立人による。)

4. 考察
顕微鏡的及び超微細構造的なレベルでの疑問は依然として残されてはいるものの、SEM評価とin vivo観察に基づく本研究により、実験に使用したジメチコン配合剤で昆虫(シラミ及びコオロギ)を処理すると速やかに死亡に至る原因について、初めてとなる有力な説明が得られた。粘度が高く移動度が低い物質とは異なり、その抗アタマジラミ製品は気門から気管系の最も微細な気管支の深くまで速やかに入り込み、昆虫のすべての酸素供給を妨げる。主要バイタルサインの消失に至るノックアウトと、頭部気管へのジメチコン到達の間には密接な相関関係が認められることから、ジメチコンの層又は気管の閉塞によって効果的及び速やかに(平均すると、Acheta domesticaでは30〜60秒以内、アタマジラミでは0.9〜3.5分以内)中枢神経系の酸素供給を遮断していることが強く示唆される。ジメチコンがイエコオロギの腹部気管系に入り込んだ後、様々な障害の段階を経て死亡に至るのは、酸素欠乏の段階を反映したものである。
・・・
ジメチコン配合剤と添加物なしの純粋ジメチコンで同様の結果が得られていること、及びこれらの溶液を経口で与えても効果がないことから、本医薬品中の添加物は昆虫の死亡に関与していないことが明白に示されている。」(第252頁右欄第13行〜第254頁左欄第33行)

(2)甲4の記載事項
ア「



イ「



(3)甲1に記載された発明
上記(1)イによると、「ジメチコン含有抗アタマジラミ製品」である「2つのジメチコン(1つは低粘度で室温で揮発し、もう1つはより高い粘度と沸点を有する)の特有の92%混合物と、中鎖長のトリグリセリド、ホホバワックス及び香料からなるジメチコン配合剤」又は「純粋ジメチコン」を用いて実験を行うことが記載されている。そして、上記(1)ア〜ウによると、当該「ジメチコン配合剤」に、シラミを完全に浸すことにより、シラミを1分未満で「主要なバイタルサインなし」の状態に陥らせることが記載されている。
そうすると、甲1には、次に示す発明が記載されていると認められる。
「2つのジメチコン(1つは低粘度で室温で揮発し、もう1つはより高い粘度と沸点を有する)の特有の92%混合物と、中鎖長のトリグリセリド、ホホバワックス及び香料からなるジメチコン配合剤に、シラミを完全に浸すことにより、シラミを1分未満で「主要なバイタルサインなし」の状態に陥らせる方法。」(以下、「甲1発明」という。)

(4)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「ジメチコン」は、別名ジメチルポリシロキサンであるから、本件発明1の「シロキサン化合物」に相当する。
また、甲1発明の「ジメチコン配合剤」は、本件発明1の「組成物」に相当し、甲1発明の「ジメチコン配合剤に、シラミを完全に浸すこと」は、本件発明1の「組成物を、シラミに施用すること」に該当する。
上記(1)イ、特に「2.4 「イエコオロギモデル」を用いた実験」の項には、「(2)動かない(主要バイタルサインが欠如)」と記載され、「2.5 In vivo観察」の項には、「処理後のシラミにおける時系列的な反応の解析には、コオロギで用いた手順をシラミで明確に確認できる状態に合わせてわずかに改変して使用した。」と記載されているから、甲1発明の「「主要なバイタルサインなし」の状態」とは「「動かない」状態」であると理解される。
そうすると、甲1発明の「シラミを1分未満で「主要なバイタルサインなし」の状態に陥らせる方法」は、本件発明1の「シラミの動きを2分以内に停止させるシラミの行動停止方法」を意味するものといえる。

したがって、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致する。
「シロキサン化合物を含有する組成物を、シラミ又はシラミが寄生している場所に施用することを特徴とするシラミの動きを2分以内に停止させるシラミの行動停止方法。」
そして、両者は以下の相違点1及び2で相違する。

相違点1:組成物に含有されるシロキサン化合物が、本件発明1では「有効成分」であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がされていない点。

相違点2:本件発明1のシロキサン化合物を含有する組成物は、「ガラス面に対する接触角が31度以下に調整された」ものであるのに対し、甲1発明の「2つのジメチコン(1つは低粘度で室温で揮発し、もう1つはより高い粘度と沸点を有する)の特有の92%混合物と、中鎖長のトリグリセリド、ホホバワックス及び香料からなるジメチコン配合剤」は、その接触角が不明である点。

イ 検討
相違点1について検討する。
上記(1)ウには、「ジメチコン配合剤と添加物なしの純粋ジメチコンで同様の結果が得られていること、及びこれらの溶液を経口で与えても効果がないことから、本医薬品中の添加物は 昆虫の死亡に関与していないことが明白に示されている。」と記載されており、「ジメチコン配合剤と添加物なしの純粋ジメチコンで同様の結果が得られている」ことから、ジメチコンが昆虫の死亡に関与すること、すなわち、ジメチコンが有効成分であると理解される。
そうすると、甲1発明の「ジメチコン配合剤」は、シロキサン化合物であるジメチコンを有効成分として含有するといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点でない。

次に、相違点2について検討する。
上記(1)イ及びウには、「2つのジメチコン(1つは低粘度で室温で揮発し、もう1つはより高い粘度と沸点を有する)の特有の92%混合物と、中鎖長のトリグリセリド、ホホバワックス及び香料からなるジメチコン配合剤」(以下、「甲1配合剤」という。)の「ガラス面に対する接触角」に関する記載はなく、2つのジメチコンの総量が92%であることの開示があるのみで、2つのジメチコンの詳細と配合比だけでなく、トリグリセリドとホホバワックスの詳細と配合比も不明である。
そうすると、これらの材料や配合比によって、接触角が変化することは明らかであるから、 甲1配合剤の「ガラス面に対する接触角」を特定することはできない。
さらに、上記(1)イ及びウには、試験対象物質として使用された甲1配合剤が「NYDA(R)」そのものであるという記載はない。そして、「純粋ジメチコン」という参照実験の存在も考慮すると(上記イの「2.1 試験対象物質」及びウの表2を参照。)、甲1に記載の各種実験は、「NYDA(R)」の主な成分である「2つのジメチコン(1つは低粘度で室温で揮発し、もう1つはより高い粘度と沸点を有する)の92%混合物」の有効性を検討したものであって、「NYDA(R)」そのものを実験対象として使用して、その有効性を検討したものとまではいえない。
そうすると、甲1配合剤が「NYDA(R)」であるとはいえず、「NYDA(R)」の接触角を測定した結果を示す甲4を参照しても、甲1配合剤の「ガラス面に対する接触角」を特定することはできない。

よって、当該相違点2は、実質的な相違点である。

ここで、仮に、上記(1)イ及びウにおいて実際に実験・観察で使用している甲1配合剤が、甲1発行当時の市販医薬品である「NYDA(R)」であった場合について、念のため以下に検討する。

上記(2)アには、依頼者の申出により「NYDA Lot.126643」と呼称される、提出試料の接触角を測定したことが記載されており、上記(2)イには、ラベルに「NYDA(R)」、「eradicates lice and nits」及び「92% Dimethicone」と記載された提出試料の画像が掲載されている。
また、上記(2)イには、試料としてNYDA Lot.126643溶液を用い、スライドガラスに対する接触角測定を行ったこと、5回の測定の平均は8.3であり、標準偏差は0.3であったことが記載されている。
上記(2)イ、特に提出試料の画像のラベルから、「NYDA Lot.126643」は、「NYDA(R)」との商品名を有するものであることが理解される。また、「92% Dimethicone」とは、「NYDA Lot.126643」が92%のジメチコンを含むことを意味すると認められ、「eradicates lice and nits」とは、「シラミと卵を根絶する」と訳される。
そうすると、甲4の「NYDA Lot.126643」は、商品名が甲1発明の「NYDA(R)」と一致しており、92%のジメチコンを含む点、及びシラミを処置するために用いられるという用途の点でも相違するところはない。
しかしながら、甲4の作成時期は、甲1の公知日(2008年)より後である令和3年(2021年)であるところ、甲4の「NYDA Lot.126643」の入手時期や製造時期が不明であるから、甲4の「NYDA Lot.126643」の製造時期が甲1の公知日である2008年以前であって、甲1発明の「NYDA(R)」であるとはいえない。
また、商品名が等しくとも、改善・改良を重ねることで、期間経過とともに添加成分を変更することは一般的であり、「2つのジメチコン」の分子量(又は粘度)や組成比は多様に選択でき、「中鎖長のトリグリセリド及びホホバワックス」もそれぞれ分子量(又は粘度)や組成比を多様にでき、これらの成分変更は組成物の親水性・撥水性に大きな変化を与えるから、結果として、親水性であるガラス面に対する接触角に多大な影響を与え得るものといえる。
そうすると、甲4で測定している「NYDA Lot.126643」は、甲1発明の「NYDA(R)」と成分が等しいとはいえず、その結果、甲4の「NYDA Lot.126643」の測定結果に基づいて、甲1発明の「NYDA(R)」が「ガラス面に対する接触角が31度以下に調整された」ものであるということはできない。

よって、甲1配合剤が、甲1発行当時に市販の医薬品である「NYDA(R)」であっても、そうでなくとも、相違点2は実質的な相違点である。

したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。

(5)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を更に限定するものである。
したがって、本件発明1が甲1発明であるとはいえないことに鑑みると、本件発明2〜4も甲1発明であるとはいえない。

3 まとめ
よって、本件発明1〜4は、甲1に記載された発明とはいえず、当審が令和4年3月25日付け取消理由通知で示した取消理由には、理由がない。

第4 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由について
1 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由の概要
取消理由通知で採用しなかった異議申立理由の概要以下のとおりである。
(1)申立理由2(特許法第29条第2項
本件発明1〜4は、甲1に記載された発明及び甲5〜11に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許が特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当する。
(2)申立理由3(特許法第36条第6項第2号
本件発明1〜4は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、その特許が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。
(3)申立理由4(特許法第36条第6項第1号
本件発明1〜4は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、その特許が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。

2 証拠方法
甲5:特開2006−248894号公報
甲6:再公表特許WO2011/108220号
甲7:特表2012−526788号公報
甲8:「BELSIL(R) Dimethicone Seriesのカタログ」 (http://www.aws-silicone.com/dcms_media/other/belsil_01.pdf)、平成25年2月20日
甲9:荻野圭三著、ポピュラー・サイエンス 表面の世界、株式会社裳華房、平成10年10月10日、p.33-35
甲10:中島章著、化学の要点シリーズ12 固体表面の濡れ性−超親水性から超撥水性まで、共立出版株式会社、平成22年12月10日、p12-15, 55-59
甲11:前野昌弘著、図解 やさしくわかる界面化学入門、日刊工業新聞社、平成22年9月25日、p32-35

3 判断
(1)申立理由2について
ア 本件発明1について
(ア)甲5の記載事項
(5a)「【請求項1】
1種または2種以上の界面活性剤を有効成分として、1種または2種以上の、引火点70℃以上の水溶性有機溶剤、及び1種または2種以上の消泡剤又は破泡剤を含有することを特徴とする非水系農薬用展着剤組成物。」

(5b)「【0002】
通常、農薬製剤である乳剤、水和剤、フロアブル剤、粒状水和剤等を水で希釈して散布するとき、植物や害虫の表面など水をはじき易い表面に農薬を効率よく付着させるため、展着剤組成物を加用するのが一般的である。」

(5c)「【0007】
展着剤組成物に求められる効果として最も重要なのは、それが加用された散布液を植物や害虫の表面に付着し易くさせること、即ち濡れ性を向上させることであるが、それに加え該散布液の泡立ちを抑える効果もあればより使い易くなるので有利である。さらに、人畜、環境に対する負荷軽減のためにも、低濃度で用いられるものが望ましく、又、当然のことながら、引火点が高く安全性に優れることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題に対し、散布液の濡れ性を向上させる、即ち散布液の表面張力及び接触角を小さくさせる効果を有し、さらに、散布液の泡の生成を抑制させる効果を有し、しかもこれらの効果を、従来の展着剤組成物と比較して低濃度になるような高希釈度としても発現させうる展着剤組成物について鋭意研究した結果、引火点の高い有機溶剤に主成分である界面活性剤及び消泡剤又は破泡剤を溶解し、実質的に水を含まない非水系のものとすることで、展着剤組成物中の界面活性剤及び消泡剤又は破泡剤の濃度を共に高めうるため、従来の展着剤組成物より低濃度まで希釈しても所期の効果を発現させられ、しかもその効果を長期保存後も維持できることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。」

(イ)甲6の記載事項
(6a)「【請求項1】
HLBが5以下であり、且つ常温で液体のポリグリセリン脂肪酸エステル及びノニオン界面活性剤を含有する有害生物防除組成物。」

(6b)「【0012】
本発明有害生物防除組成物は、農園芸作物に対する有害生物、特に、ハダニ類及びアブラムシ類等の微小有害生物に対して、優れた防除効果を示すと共に、その有効成分は、食品添加物として使用実績があり、人体に対する安全性が保証されているポリグリセリン脂肪酸エステルであるため、本発明有害生物防除組成物の安全性は極めて高い。」

(6c)「【0027】
・・・ノニオン界面活性剤は水溶液の表面張力を低くする性質を有する。このためこれを含む水溶液が他の物質表面に付着した時、該表面での「ぬれ性」が向上する。その結果、該ノニオン界面活性剤を含む本発明組成物の希釈液を、対象有害生物表面や散布対象農作物の表面に付着し易くする。」

(ウ)甲7の記載事項
(7a)「【請求項1】
担体と活性剤の混合物を乳化剤と共に含む外部寄生虫駆除剤組成物であって、前記担体は、非揮発性の低粘度シロキサンを含み、そして、前記活性剤は、非揮発性の高粘度シロキサンを含み、前記低粘度シロキサンおよび前記高粘度シロキサンの両方は、少なくとも100℃の密閉式引火点を有する組成物。」

(7b)「【0001】
本発明は、外部寄生虫駆除剤組成物および外部寄生虫、特にアタマジラミとその卵を防除する方法に関する。」

(7c)「【0004】
米国特許第6,683,065号は、ポリジメチルシロキサンの少なくとも約40%から成るシラミ駆除剤として使用するための組成物を記載しており、そこでは、組成物の表面張力が20℃で約25ダイン/センチメートルより下であり、そして、その組成物の粘度が20℃で約200センチストークスより上である。この組成物は、ジメチコンの有効性を利用するが、特定の高粘度のため、髪の表面を通り中にまで組成物が浸透することができない。さらに、このような高粘度のシロキサンは、使用後に十分に髪を洗うのが困難であることが発見された。このことは、それらを使用することを難しくし、そして不快にしている。」

(7d)「【0024】
いくつかの先行技術の組成物において、展着剤は、皮膚や毛髪上に組成物の延展性を補助するために使用される。これら展着剤は、組成物の表面張力を減少させる。しかし、本発明では、展着剤の使用を不必要にする表面張力を有するシロキサン類を使用することができるので、展着剤は必要ではない。したがって、有利には、組成物のシロキサン類は、約20mN/mより大きい表面張力を有する。」

(7e)「【0070】
シロキサン類を含む外部寄生虫駆除剤製剤は、シラミの気門をブロックすることによって作用し、それによって水分喪失を防止することが知られている。本発明による組成物は、同じメカニズムによって作用する。しかし、本明細書に添付された画像と分光写真は、従来の組成物と比較して、はるかに多くのシリコンが、気門およびシラミの表面(洗浄後)に沈積し、残存することを示している。図1では、シラミの表面の厚いコーティングを、気門をブロックする物理的なプラグと共に見ることができる。図2は、プラグが主にシリコンであることを明らかにしている。気門をカバーするそのようなプラグは、非揮発性シロキサン類がシラミの表皮に十分に接着性であるため、本製剤で使用される非揮発性シロキサン類によってのみ達成することができる。同様に、気門を通る断面を示す図3は、気管よりずっと下にある気門に、組成物が浸透することを明らかにしている。図4は、気門内に存在するシリコンのかなりの量を明らかにする。これらの画像と分光写真は、本発明の組成物の優れた性能を説明する。対照的に、従来のシロキサン組成物は、シラミの表皮上に薄く広がる非常に低粘度で非常に低い表面張力のシロキサン製剤に依存している。」

(エ)甲8の記載事項
(8a)「【特徴】
・ BELSIL(R)DM 5〜1000000は直鎖状の非反応性ポリジメチルシロキサンで、低い表面張力と高い拡張係数を特徴とします。
・・・
【用途】
・・・
・ スキンケア用途には、表面張力が低く伸展性と感触に優れるBELSIL(R)DM 5〜1000が有効です。
・・・
【技術資料】
■表面張力
ジメチコンの表面張力は非常に低く(水:72mN/m)、処方の伸展性を大幅に向上させます。」(第1頁第1〜3、12行、第2頁第1〜3行)

(オ)判断
本件発明1と甲1発明との一致点・相違点は第3の2(4)アに示したとおりである。

上記摘記(ア)及び(イ)によると、甲5及び6には、それぞれ、界面活性剤を含有する非水系農薬用展着剤組成物及び有害生物防除組成物が記載されているが、これらの組成物はシロキサン化合物を含有しないし、甲5及び甲6には、シラミの行動停止することについては記載も示唆もされていない。
また、上記摘記(ウ)(7a)及び(7b)によると、甲7には、担体と活性剤の混合物を乳化剤と共に含む外部寄生虫駆除剤組成物について、シロキサンを含有させること、及びシラミ駆除を目的とすることは記載されている。しかしながら、上記摘記(ウ)(7c)によると、先行技術である米国特許第6,683,065号について、組成物の表面張力が20℃で約25ダイン/センチメートルより下であり、髪の表面を通り中にまで組成物が浸透することができないことが記載され、上記摘記(ウ)(7e)によると、対照的な例の説明として、シロキサン組成物は、シラミの表皮上に薄く広がる非常に低粘度で非常に低い表面張力のシロキサン製剤に依存することが記載されており、低い表面張力が有利であることは把握できない。そして、上記摘記(ウ)(7d)では、有利には、組成物のシロキサン類は、約20mN/mより大きい表面張力を有するとされ、低い表面張力に対応するといえる低い接触角を採用する動機付けになる記載はない。そうすると、甲7には、組成物を具体的に「ガラス面に対する接触角が31度以下に調整」することや、当該事項に対応する表面張力に調整することに関する動機付けがあるとはいえない。
そして、上記摘記(エ)によると、甲8には、ジメチコン商品に関する表面張力等の一般的な特性が記載されているにすぎず、シラミの行動停止に関する記載はない。
さらに、甲9〜11には、表面張力と接触角に関するヤングの式に関する技術常識が記載されるにとどまるものである。

ここで、第3の2(4)イに示したとおり、相違点2は実質的な相違点であるところ、甲8のジメチコン商品に関する記載や甲9〜11に記載のヤングの式に関する技術常識を考慮しても、甲5〜7には、「組成物」を用いた「シラミの行動停止方法」に関し、ガラス面に対する接触角を31度以下に調整した組成物とすることの動機付けがあるとはいえない。

よって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲5〜11に記載された周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を更に限定するものである。したがって、本件発明1が甲1に記載された発明及び甲5〜11に記載された周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2〜4も甲1に記載された発明及び甲5〜11に記載された周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
以上のことから、申立理由2には理由がない。

(2)申立理由3について
ア 申立人は、本件発明1〜4が明確ではない理由を次のように主張する。
本件発明の「ガラス面に対する接触角が31度以下に調整された組成物」について、つるつるした面とざらざらした面では液体の濡れ性が異なることは日常生活でも経験するところ、液体の接触角を測定するときにどのような表面の粗さの固体表面に液体を滴下するかによってその結果は大きく変動する(例えば、甲10)。
本件特許の明細書では、単に所定の寸法のスライドガラスを使用したことしか記載されておらず、スライドガラスのメーカー名や型番でさえ開示されていないことから、やはりどのような表面粗さを有するスライドガラスを用いて測定しているかは読み取ることが出来ない。
したがって、本件発明の「ガラス面に対する接触角が31度以下に調整された組成物」について、ガラス面の表面構造により接触角は大きく変化することから、同じ組成物の液体であってもガラスの表面粗さを調整することにより技術的範囲に含まれるように特許権者にとって都合の良い結果を出すことも可能となり、接触角という数値による特定事項であるものの、その31度という境界値は極めてあいまいであって、第三者に不測の不利益を与えるほどのものである。

イ 以下、上記主張について検討する。
本件発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0042】
スライドガラス(26mm×76mm)に、各検体組成物をスポイトで1滴(0.4〜3.0μL)滴下し、滴下直後の接触角をFACE接触角計CA−X型(商品名、協和界面科学株式会社製)にて測定した。以上は全て室温25℃にて実施した。」
当該発明の詳細な説明の記載を考慮すると、ガラス面として「ざらざらした面」ではなく、標準的なスライドガラスを用いることが理解できる。一方、液体の「ガラス面に対する接触角」を測定する手法は、本件出願時において周知慣用の手法であって、標準的なスライドガラスを用いれば、メーカーや型番の変更により、測定結果に大きな変動が生じるとはいえない。そして、そのことを否定するような技術常識はないし、申立人もそのような根拠を示していない。
そうすると、本件発明の「ガラス面に対する接触角が31度以下に調整された組成物」との特定は、本件の発明の詳細な説明及び技術常識を考慮すれば、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確とはいえない。

ウ まとめ
以上のことから、本件発明1〜4は明確であるといえる。
よって、申立理由3には理由がない。

(3)申立理由4について
ア サポート要件の考え方
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 本件発明の詳細な説明の記載
本件発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア)「【0009】
しかしながら、従来の駆除用組成物は吸血性害虫に対する殺虫効果は期待できるものの、特にシラミは動きが素早いため、駆除用組成物中の有効成分が十分量作用する前に吸血されたり、逃げられてしまってその効果が得られない等の問題が発生することがあった。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、吸血性害虫の駆除効果を高めるために該害虫の動きを速やかに停止する方法を提供するものである。」

(イ)「【0017】
本発明の吸血性害虫の行動停止方法に用いる組成物(以下、「駆除用組成物」ともいう。)は、上記したように、シロキサン化合物を有効成分として含有する。
シロキサン化合物は、主鎖にSi−O結合を有し、側鎖にアルキル基などの有機基を有するものである。シロキサン化合物により吸血性害虫の行動を停止できる理由は定かではないが、シロキサン化合物は吸血性害虫に対して体表及び体節に速やかに浸透し、動きを封じる作用や体表全体に膜を生成し、動きを封じる作用を持つと考えられ、その結果、吸血性害虫の歩行や吸血行為等の行動を停止させるものと考えられる。
【0018】
シロキサン化合物としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン;オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状ポリシロキサン;アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン等の変性シリコーン;シロキサン化合物共重合体等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。中でも、ジメチルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーンからなる群から選択される少なくとも1つを用いることが好ましく、特にジメチルポリシロキサンを含んで構成されることが好ましい。
【0019】
駆除用組成物中のシロキサン化合物の含有量は、40質量%以上であることが好ましい。シロキサン化合物の含有量が40質量%以上であると、吸血性害虫に対する行動停止の効果が得られるため好ましい。シロキサン化合物の含有量は、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。また、シロキサン化合物の含有量の上限は特に限定されず、駆除用組成物の接触角が31度以下となればシロキサン化合物のみ(すなわち、含有量が100質量%)から構成されていてもよく、95質量%以下であることが好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましい。」

(ウ)「【0041】
(実施例1〜5、比較例1〜5)
下記の表1に示す処方に基づき、各成分を加え、常温で10分程均一になるまで混合撹拌し、実施例1〜5、比較例1〜5の検体組成物を作製した。
【0042】
スライドガラス(26mm×76mm)に、各検体組成物をスポイトで1滴(0.4〜3.0μL)滴下し、滴下直後の接触角をFACE接触角計CA−X型(商品名、協和界面科学株式会社製)にて測定した。以上は全て室温25℃にて実施した。結果を表1に併せて示す。
【0043】
【表1】

【0044】
<試験例1:行動停止までの時間の測定>
各例に対し、直径9cmのシャーレに同寸のガーゼを入れたものをそれぞれ準備し、実施例1〜5、比較例1〜5の検体組成物をそれぞれのガーゼに1.6mL滴下し、全体に広げた。
続いて、コロモジラミ雌成虫1頭をガーゼの上に放ち、歩行が停止し、動きが無くなるまでの時間(行動停止までの時間)を計測した。なお、計測はコロモジラミを供試後10分まで行った。
試験は、全て室温25℃で3回行い、その平均を求め、平均が60秒以内に行動停止したものを高い効果ありとして「◎」で評価し、60秒を超えて2分以内に行動停止したものを効果ありとして「○」で評価し、2分を超えたものは効果なしとして「×」と評価した。結果を表2に示す。
なお、行動停止までの時間が60秒以内であると、より速やかに吸血性害虫の行動を停止させることができるので高い駆除効果が得られると評価できる。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果より、実施例1〜5では全ての試験でコロモジラミが60秒以内に行動停止し、平均で行動停止までの時間が60秒以内であった。これに対し、シロキサン化合物を含むが接触角が31度より大きい比較例1〜4、接触角は31度以下であるがシロキサン化合物を含有しない比較例5は、いずれも行動停止までに時間がかかり、特に比較例2、3、5については10分以上歩行したコロモジラミがあった。これらの結果より、シロキサン化合物を含有し、且つ接触角が31度以下の組成物を施用することで、シラミ成虫に対する浸透がし易く、優れた行動停止効果が得られることがわかった。」

ウ 判断
上記イ(ア)によると、本件発明の課題は、「動きが素早いシラミといった吸血性害虫の駆除効果を高めるために該害虫の動きを速やかに停止する方法を提供するもの」である。
そして、上記イ(イ)によると、シロキサン化合物が吸血性害虫に対して体表及び体節に速やかに浸透し、動きを封じる作用や体表全体に膜を生成し、動きを封じる作用を持つと考えられることが記載され、実施例において、「シロキサン化合物を有効成分として含有し、且つガラス面に対する接触角が31度以下に調整された組成物」がシラミの動きを2分以内に停止させることが示されているから、本件発明は、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

エ 申立人がサポート要件違反とする主張について
申立人は、概ね以下の主張をする。

本件発明1において、「シロキサン化合物」を特定しているところ、発明の課題を解決するための手段として実施例1から5には、デカメチルシクロペンタンシロキサンが必須の成分として含有されているが、明細書段落0018に記載されているようなデカメチルシクロペンタンシロキサン以外の「シロキサン化合物」のみからなる配合剤も含まれる内容となっている。
しかしながら、そのようなデカメチルシクロペンタンシロキサンを含まない配合剤が、発明の課題を解決する手段であることにつき実施例に一切示されていない。
このように、本件発明1において、出願時の技術常識に照らしても、デカメチルシクロペンタンシロキサンを含まない「シロキサン化合物」まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
本件発明2〜4は、本件発明1に従属する発明であり、同様にサポート要件に違背するものである。

しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、シロキサン化合物として、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン;オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状ポリシロキサン;アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン等の変性シリコーン;シロキサン化合物共重合体等のシロキサンが使用できることが記載され(上記イ(イ)【0018】)、上記イ(ウ)の実施例・比較例の記載をみても、「デカメチルシクロペンタンシロサン」以外のシロキサン化合物を含有し、かつ、ガラス面に対して31度以下の接触角を示す組成物を用いた場合、シロキサン化合物がシラミの体表及び体節に浸透しないで、シラミの動きを封じる膜を体表面に生成しないとする客観的な理由はない。
したがって、「デカメチルシクロペンタンシロキサン」が含まれない本件発明の場合でも、当業者であれば、本件発明の課題を解決できると認識できるものといえるから、本件発明がサポート要件に違背するという申立人の主張は採用できない。

オ まとめ
以上のことから、本件発明1〜4は本件発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
よって、申立理由4には理由がない。

4 まとめ
したがって、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立ての理由によっては本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、ほかに当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-22 
出願番号 P2017-152433
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A01N)
P 1 651・ 121- Y (A01N)
P 1 651・ 113- Y (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 野田 定文
冨永 保
登録日 2021-06-14 
登録番号 6898170
権利者 アース製薬株式会社
発明の名称 吸血性害虫の行動停止方法  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
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