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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1387519
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-07 
確定日 2022-08-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6946258号発明「漬け込み用調味液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6946258号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第6946258号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成30年12月6日の出願(国内優先権主張 平成29年12月21日、以下、「優先日」という。)であって、令和3年9月17日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年10月6日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和4年2月7日に特許異議申立人 金山 愼一(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされるとともに、同年4月1日に特許異議申立人 佐藤 武史(以下、「特許異議申立人B」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
食品素材の漬け込みに用いる調味液であって、果実ファイバーを調味液全体に対して0.03〜2.0%(W/W)含有し、粘度が200cp〜1500cpであることを特徴とする漬け込み用調味液。
【請求項2】
前記果実ファイバーが、シトラスファイバーまたはアップルファイバーである、請求項1に記載の漬け込み用調味液。
【請求項3】
衣をつけてから揚げにする前に前記食品素材を漬け込むための、請求項1または2に記載の漬け込み用調味液。
【請求項4】
前記食品素材が鶏肉である、請求項1ないし3のいずれに記載の漬け込み用調味液。
【請求項5】
食品素材と請求項1ないし4のいずれかに記載の漬け込み用調味液とを、重量比が1:0.05以上となるように混合した後、5分から30分間漬け込むことを特徴とする漬け込み食品素材の製造方法。
【請求項6】
前記食品素材が鶏肉である、請求項5に記載の漬け込み食品素材の製造方法。
【請求項7】
重量比で1:0.05以上の請求項1ないし4のいずれかに記載の漬け込み用調味液に、5分から30分間漬け込まれた食品素材。
【請求項8】
前記食品素材が鶏肉である、請求項7に記載の食品素材。


第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
特許異議申立人A及び特許異議申立人Bが特許異議申立書において、請求項1〜8に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、それぞれ次のとおりである。

1 特許異議申立人Aが申し立てた特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人Aが申し立てた請求項1〜8に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)〜(5))及び証拠方法(同(6))は、次のとおりである。

(1) 申立理由A1(甲A1に基づく新規性進歩性
本件発明1は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件発明1〜8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2) 申立理由A2(サポート要件)
本件特許の請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 申立理由A3(実施可能要件
本件特許の請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4) 申立理由A4(明確性要件)
本件特許の請求項1〜4、7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(5) 証拠方法
甲A1号証:特開2001−148号公報
甲A2号証:印南 敏、桐山 修八編、改訂新版「食物繊維」、第一出版株式会社刊、1995年5月20日 初版発行、表紙、第343頁、及び奥付き
甲A3号証:国際公開第2011/004893号
甲A4号証:特開2017−131217号公報
甲A5号証:日本唐揚協会のインターネット情報、「唐揚げの定義」、https://karaage.ne.jp/whats/2011/01/karaage-teigi.html
甲A6号証:片山 喜美子、斉藤 貴美子、高木 和男、食品の浸透圧の測定結果について、栄養学雑誌、第31巻、第5号、第214〜215頁(1973年9月25日発行)
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、「甲A1」等という。

2 特許異議申立人Bが申し立てた特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人Bが申し立てた請求項1〜8に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)〜(2))及び証拠方法(同(3))は、次のとおりである。

(1) 申立理由B1(甲B1に基づく進歩性
本件発明1〜8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B1号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2) 申立理由B2(甲B2に基づく進歩性
本件発明1〜8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B2号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3) 証拠方法
甲B1号証:"Limited Edition Brazilian BBQ Sauce",記録番号(ID#)3113333, Mintel GNPD, 2015年4月,製品情報掲載画面(第1、2頁),製品正面画像(第3頁),製品 背面画像(第4頁),[検索日2022年2月28日],インターネット
甲B2号証:"Moroccan Marinade",記録番号(ID#)1841280, Mintel GNPD, 2012年7月,製品情報掲載画面(第1、2頁),製品正面画像(第3頁),製品背面画像(第4頁),[検索日2022年2月28日],インターネット
甲B3号証:特開2004−187594号公報
甲B4号証:特開2006−67998号公報
甲B5号証:特開2014−150730号公報
甲B6号証:特開2011−177151号公報
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、「甲B1」等という。


第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由A1〜A4、B1〜B2にはいずれも理由がないと判断する。

1 申立理由A1について
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲A1の記載
甲A1には以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下同様。
・「【請求項1】 膨張剤と食物繊維及び/又はグルコン酸塩とを有効成分として含有することを特徴とする畜肉用品質改良剤。」
・「【0018】本発明畜肉用品質改良剤において、上記膨張剤と共に用いられる食物繊維は、ヒトの消化酵素によっては加水分解されない難消化性の物質をいう。該食物繊維としては、従来より食品分野において知られている各種の水溶性又は水不溶性の植物性食物繊維、動物性食物繊維及び合成食物繊維を挙げることができる。植物性食物繊維には、穀類、野菜類、果物類、海藻類、キノコ類、芋類、微生物等に由来する多糖類や粘質物等、例えば、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、コンニャクマンナン、カードラン、寒天、難消化性デキストリン、水溶性ヘミセルロース等が包含される。動物性食物繊維の代表例としてはキチン、キトサンを例示できる。また合成食物繊維は、上記各植物及び動物由来の多糖類等を化学修飾した誘導体や、ポリデキストロース、ポリアクリル酸ナトリウム等を例示できる。之等の内では、水溶性のものが好ましく、その例としては例えばグアーガム酵素分解物、水溶性大豆繊維、難消化性デキストリン、水溶性ヘミセルロース等を例示できる。之等は勿論その1種を単独で用いることもでき、また2種以上を併用することもできる。
【0019】上記食物繊維は、通常入手できる各種の形態のいずれでもよく、一般には微粉末形態で用いられるのが適当である。その配合量は、特に限定されるものではないが、一般には本発明畜肉用品質改良剤全重量の5〜50重量%程度、好ましくは10〜30重量%程度の範囲とされるのが望ましい。」
・「【0034】


・「【0048】・・・
実施例3
製造例6及び7で調製した本発明畜肉用品質改良剤を用いて、以下の通り、焼き肉(牛カルビ及び豚カタロース)製品を調製した。即ち、原料スライス肉(牛カルビ及び豚カタロース)の100部を、袋中に並べ、これに市販焼き肉用たれ55部に本発明畜肉用品質改良剤0.6部を添加して調製したピックル用たれ(全55.6部)を合わせて真空パック後、冷凍した(−25℃、30時間)。次いで、冷凍品を冷蔵庫(5℃)内で解凍し、オーブンで焼成(250℃、14分)して、本発明焼き肉製品試料を得た。
比較例3
実施例3において、本発明畜肉用品質改良剤に代えて、ポリリン酸ナトリウム0.6部を用いて同様にして比較焼き肉製品試料を得た。
試験例5(歩留まり向上効果)
実施例3及び比較例3のそれぞれで得た製品試料並びに対照として実施例3において、本発明改良剤無添加のピックル液(市販焼き肉用たれ55.6部)を用いて同様に製造した対照製品試料について、それらの各製造工程における重量測定結果を、最初の肉重量を100とする相対値で求めた(歩留まり)。」

イ 甲A1に記載された発明
アの摘記事項、特に製造例7の畜肉用品質改良材を用いた実施例3について整理すると、甲A1には以下の発明(以下、「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲A1発明>
市販焼き肉用たれ55部に畜肉用品質改良剤0.6部を添加して調製したピックル用たれであって、前記畜肉用品質改良剤は、その100重量部中に水溶性大豆繊維を24重量部含有する、ピックル用たれ。

(2)本件発明1について
ア 対比
甲A1発明の「ピックル用たれ」には、原料スライス肉が漬け込まれているといえるから、甲A1発明の「ピックル用たれ」は、本件発明1の「食品素材の漬け込みに用いる調味液」に相当する。
また、甲A1発明の「水溶性大豆繊維」は、本件発明1の「果実ファイバー」と、食物繊維である限りにおいて一致するとともに、その含有量は「ピックル用たれ」に対して略0.26%(W/W)(0.6/55.6×24/100=0.00259)であるから、本件発明1の規定する果実ファイバーの含有量範囲に含まれている。

してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
・一致点
「食品素材の漬け込みに用いる調味液であって、食物繊維を調味液全体に対して0.03〜2.0%(W/W)含有する漬け込み用調味液。」

・相違点A1−1
食物繊維について、本件発明1が「果実ファイバー」と特定するのに対し、甲A1発明は「水溶性大豆繊維」である点。

・相違点A1−2
調味液の粘度について、本件発明1が、「200cp〜1500cp」と特定するのに対し、甲A1発明はそのような特定を有しない点。

イ 判断
まず相違点A1−1について検討すると、甲A1発明は水溶性大豆繊維を用いたものであるから、相違点A1−1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲A1発明ではない。
そして、甲A1【0018】には、食物繊維として利用可能な植物性食物繊維が多数列挙されており、その中には果物類も含まれているものの、甲A1発明において、水溶性大豆繊維に代えて果実ファイバーを用いる動機となる記載は見当たらない。また、他の証拠を見ても、甲A1発明において相違点A1−1に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜8について
上記第2のとおり、本件発明2〜8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)のとおり、本件発明1が甲A1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2〜8も、甲A1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、申立人Aの主張する申立理由A1には理由がない。

2 申立理由A2(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
・「【0008】
本発明は、焼肉やから揚げの調理の際に食品素材を漬け込む調味液として、短い漬け込み時間で、かつ、もみ込みをしなくても素材への味の付着や染み込みがよく、しかも、油揚調理後の衣の食感がサクサクとなる食品素材の漬け込み用調味液を提供することを課題とする。また、その漬け込み用調味液による漬け込み食品素材の製造方法、および漬け込まれた食品素材を提供することを課題とする。」
・「【0014】
一方、穀物ファイバー、果実ファイバーのように、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維からなる複合型食物繊維は、水に対して完全に溶解はしないものの、膨潤により多量の水分を保持することで増粘させることが可能である。
本発明の果実ファイバーは、このような複合型食物繊維である果実由来の食物繊維であり、具体的には、シトラスファイバー、アップルファイバー、そのほか柿、イチジク、パイナップル、アボガド、バナナ、ブドウ、梨、スイカ、いちご等のファイバーを挙げることができ、これら果実ファイバーは、単独でも2種以上を適宜組合せて用いてもよい。」
・「【0016】
シトラスファイバーは、他の複合型食物繊維と比較して保水力が高いという特徴があり、特に、ヘルバセルAQプラスは、オレンジなどの柑橘類(シトラスフルーツ)を圧搾後、絞り液からジュースを除き乾燥したピールを特殊粉砕して製造したもので、このシトラスファイバーは、原料フルーツ由来の細胞構造を保持してスポンジ状の多孔質の構造を有するため、吸水力が著しく向上して水との結合性が高まり、結果的に取り込まれた水の保水力を向上させる。具体的には、1g当たりの保水量が20mL以上という高い保水力を示し、他の複合型食物繊維より高い保水力を示す一般的なシトラスファイバーの1g当たりの保水量である10mL以下と比較しても、2倍以上の保水力がある。
【0017】
また、アップルファイバーは、リンゴ果実由来のパルプ(リンゴ果汁搾汁残渣、または果汁を含むパルプ)を乾燥、粉末化したものであり、シトラスファイバーと同様に、他の複合型食物繊維と比較して保水力が高いという特徴がある。本発明に用いられるアップルファイバーとしては、市販のアップルファイバーであればどれも好適に用いられる。
【0018】
果実ファイバーとして特に保水力の高いシトラスファイバーであるヘルバセルAQプラスを用いる場合、調味液全体に対して0.03〜2.0%(w/w)を配合することが好ましく、より好ましくは、0.05〜1.5%(w/w)、さらに好ましくは0.1〜0.7%(w/w)を配合するとよい。0.03%未満の場合、肉類等の食品素材への漬け込み用調味液の付量が少なくなり、から揚げにした際の衣のサクサク感が減少する。また、2.0%を超えると、調味液が素材に絡めづらくなり、食材への味の染み込みに時間がかかる。また、素材への漬け込み用調味液の付着量が過剰となり、から揚げの衣が硬くなったり、表面が焦げ付いたりすることにより、から揚げの味や食感が劣る。シトラスファイバーは、他の食物繊維と比較すると高価なため、2.0%を超えて漬け込み用調味液に配合することは、製品単価が高くなる等の問題がある。」
・「【0020】
また、本発明の漬け込み調味液の粘度は、200〜1500cpであることが好ましく、300〜900cpであることがより好ましい。1500cpを超えると、調味料が少量の場合に調味料が素材に均一にいきわたりにくい、あるいは、素材への味の染み込みに時間がかかり、一方、200cp未満の場合、味の染み込みはよいものの素材への付着性が悪くなり、片栗粉等の衣の付着が十分でなく、から揚げの衣のサクサク感が不足する。
【0021】
本発明の肉等の食品素材を漬け込むための調味液において、特にシトラスファイバーやアップルファイバーを0.03〜2.0%(w/w)の範囲で配合する際には、調味液の粘度を200〜1500cpに調整すると、調味液が素材の表面によりよく付着するとともに、3分以下という短時間で素材へ味が染み込み、この漬け込んだ素材に衣をつけて揚げ調理すると、よりサクサクとした食感の衣を持つから揚げとなる。」
・「【0022】
本発明における漬け込み用調味液は、畜肉、水産物を含む様々な食品素材に用いることができるが、鶏肉、豚肉、あるいは牛肉等の畜肉類をから揚げ調理する前に漬け込むための調味液として使用することが好適である。調味液の物性や風味を調整するために、調味液に様々な調味成分が配合されるが、本発明の漬け込み用調味液においては、漬け込み調味液としての粘度を適切な範囲に、好ましくは200〜1500cpの範囲に調整されていれば、漬け込み用調味液に配合する調味液成分に特に限定はない。」
・「【0024】
漬け込み用調味液に粘性を付与することは、食物繊維を調味液中に均等に分散するためにも必要である。液状調味料の粘度は、澱粉類あるいは増粘多糖類等を用いて付与することが一般的に行われている。本発明の漬け込み用調味液においても、とうもろこし、タピオカ、馬鈴薯等から由来する澱粉、及びそれらのアルファ化澱粉や加工澱粉から選ばれた1種又は2種以上の澱粉類、あるいはキサンタンガム、ウエランガム、グアガム、カラギーナン等の増粘多糖類等から選ばれた1種又は2種以上の増粘多糖類、さらには、澱粉類と増粘多糖類を組み合わせることで付与することができる。」
・「【0025】
肉等の食品素材を焼肉やから揚げ等に調理する際には、食品素材の味付けのために、下ごしらえ用の調理バッドに並べた食品素材や、調理・保存用ポリエチレン袋等に入れた食品素材に、漬け込み用調味液を絡めて静置して味を染み込ませた後、次の調理工程に進むことが一般的である。この場合、調理バッドや調理用袋内の全ての食品素材に、均一に調味液を付着させ味を染み込ませるためには、食品素材の重量に対する漬け込み用調味液の重量比が重要となる。本発明の漬け込み用調味液は、食品素材1部に対して漬け込み用調味液を重量比で0.05部以上となるように漬け込むことができ、0.1部以上を用いて漬け込むことが好ましい。」

(3)判断
本件発明の課題は、「焼肉やから揚げの調理の際に食品素材を漬け込む調味液として、短い漬け込み時間で、かつ、もみ込みをしなくても素材への味の付着や染み込みがよく、しかも、油揚調理後の衣の食感がサクサクとなる食品素材の漬け込み用調味液を提供すること」及び「その漬け込み用調味液による漬け込み食品素材の製造方法、および漬け込まれた食品素材を提供すること」(明細書【0008】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「水溶性食物繊維と不溶性食物繊維からなる複合型食物繊維は、水に対して完全に溶解はしないものの、膨潤により多量の水分を保持することで増粘させることが可能」(同【0014】)であること、シトラスファイバーやアップルファイバーが「他の複合型食物繊維と比較して保水力が高いという特徴がある」(同【0016】、【0017】)こと、及び、「特にシトラスファイバーやアップルファイバーを0.03〜2.0%(w/w)の範囲で配合する際には、調味液の粘度を200〜1500cpに調整すると、調味液が素材の表面によりよく付着するとともに、3分以下という短時間で素材へ味が染み込み、この漬け込んだ素材に衣をつけて揚げ調理すると、よりサクサクとした食感の衣を持つから揚げとなる」(同【0021】)ことが記載されており、かつ、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、これらの要件を満たす実施例も記載されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「食品素材の漬け込みに用いる調味料」において、「果実ファイバーを調味液全体に対して0.03〜2.0%(W/W)含有」するとともに、「粘度が200cp〜1500cp」の範囲内という特定事項を満たすことにより、本件発明の課題を解決するものと認識する。
そして、本件発明1は、これら本件発明の課題を解決すると認識できる特定事項を全て有するものであるから、本件発明1は、本件発明の課題を解決するものといえる。本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2〜8も同様である。

なお、特許異議申立書において申立人Aは、以下の(a)〜(d)について、それぞれ次のように主張している。
(a)漬け込み用調味液
油揚調理を行わない食品(例えば、漬物等)のための調味液を含む本件発明1は、本件発明の課題を解決するものではない。
(b)食品素材
本件発明1は、「焼肉や唐揚げの調理」に用いられ、「油揚調理後の衣の食感がサクサクと」なる食品素材以外の食品素材(例えば、野菜等)を含んでいるため、本件発明の課題を解決するものではない。
(c)0.03〜2.0%(W/W)
本件特許明細書の実施例で試験が成されたシトラスファイバーとアップルファイバーとは、その構成成分の含有量が大きく異なる他の全ての果実ファイバーを用いても、同様の効果を奏することは考えられないから、本件発明1における「果実ファイバー」に含まれる全ての果実ファイバーを用いた場合に、0.03〜2.0%(W/W)の全域で本件発明の課題を解決できるかは明らかではない。
(d)200cp〜1500cp
本件特許明細書の実施例で本件発明の課題を解決することを示した調味液の粘度は、350cp〜762.5cpであり、この範囲外の粘度(200cp〜350cp及び762.5cp〜1500cp)でも本件発明の効果を奏するかは明らかではない。

申立人Aの主張について検討する。
(a)、(b)について、申立人Aは特定の調理法、特定の食品素材に用いる場合でなければ本件発明の課題を解決しないと主張するが、上記本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に鑑みれば、漬け込んだ後の調理法や漬け込まれる食品素材に関わらず、本件発明の特定事項を有する調味液は、それらを有しない調味液よりも、少なくとも「素材への味の付着や染み込みがよ」くなるとの効果を奏することは認識できる。
(c)、(d)について、申立人Aは果実ファイバーの含有量及び調味液の粘度の数値範囲について、実施例で確認された数値範囲外でも本件発明の効果を奏するかが明らかでないと主張するが、上記本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載や技術常識に鑑みれば、実施例で確認された範囲から一定程度外れている範囲であっても効果を奏することは推認できるし、本件発明の数値範囲を満たす調味液は、それらを満たさない調味液よりも優れた効果を奏することは認識できる。
したがって、上記申立人Aの主張はいずれも採用できない。

(4)小括
したがって、本件発明1〜8は、サポート要件を満たすと判断されるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるとする申立理由A2には、理由がない。

3 申立理由A3(実施可能要件)について
(1)判断基準
本件発明1〜4及び7〜8は、それぞれ、「調味液」及び「食品素材」という物の発明である。また、本件発明5〜6は「漬け込み食品素材の製造方法」という物を生産する方法の発明である。
物の発明において、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、物を生産する方法の発明において、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物を使用することができる程度の記載があることを要する。
これらを踏まえ、以下検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
上記2(2)のとおりである。

(3)判断
本件特許の明細書【0015】〜【0019】には、本件発明1〜8に係る調味液で用いられる果実ファイバーについて記載されており、【0022】には「調味液の物性や風味を調整するために、調味液に様々な調味成分が配合されるが、本発明の漬け込み用調味液においては、漬け込み調味液としての粘度を適切な範囲に、好ましくは200〜1500cpの範囲に調整されていれば、漬け込み用調味液に配合する調味液成分に特に限定はない」ことが記載され、【0024】には粘度の調整方法も記載されている。さらに、本件特許の明細書には実施例の記載もある。
してみると、当業者は、発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に基づき、本件発明1〜4及び7〜8を生産し、使用することができるということができるものであり、また、本件発明5〜6を使用し、それにより生産した物を使用することができるということができるものであり、当業者がその実施にあたり、過度の試行錯誤を要するものともいえない。
よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合するものといえる。

なお、特許異議申立書において申立人Aは、上記2(3)で示した主張と同様の主張を行っているが、いずれも実施可能要件とは関係がなく、採用できない。

(4)小括
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たすと判断されるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるとする申立理由A3には、理由がない。

4 申立理由A4について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)判断
申立人Aは、本件発明7について、「重量比で1:0.05以上」との記載は、何と何の重量比であるかが明確でない旨主張しているので、検討する。
上記第2のとおり、本件特許の請求項7には、「重量比で1:0.05以上の請求項1ないし4のいずれかに記載の漬け込み用調味液に、5分から30分間漬け込まれた食品素材。」と記載されているのであるから、「重量比」とは「漬け込み用調味液」と「食品素材」との重量比を意味することは明らかである。また、当該重量比の数値がそれぞれ「漬け込み用調味液」と「食品素材」のいずれを指すのかについても、本件特許の明細書【0025】の「本発明の漬け込み用調味液は、食品素材1部に対して漬け込み用調味液を重量比で0.05部以上となるように漬け込むことができ、0.1部以上を用いて漬け込むことが好ましい。」との記載に鑑みれば明らかであり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項7の記載は、明確性要件に適合する。

なお、特許異議申立書において申立人Aは、以下の点についても主張しているが、「調味液」の発明である本件発明1〜4が明確であるか否かとは関係がなく、採用できない。
・本件発明1〜4の「食品素材の漬け込みに用いる調味液」の漬け込み時間が特定されていないから、明確でない。

(3)小括
したがって、本件発明1〜4、7は、明確性要件を満たすと判断されるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるとする申立理由A4には、理由がない。

5 申立理由B1について
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲B1の記載
甲B1には以下の記載がある。
・「


・「



イ 甲B1に記載された発明
アの摘記事項、特に製品名、製品使用方法、及び成分について整理すると、甲B1には以下の発明(以下、「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲B1発明>
肉用のマリネードであって、シトラスファイバーを含有する、マリネード。

(2)本件発明1について
ア 対比
甲B1発明の「肉」は食品素材であり、「マリネード」はマリネ用の漬け汁を指すから、甲B1発明の「肉用のマリネード」は本件発明1の「食品素材の漬け込みに用いる調味液」に相当する。また、甲B1発明の「シトラスファイバー」は本件発明1の「果実ファイバー」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
・一致点
「食品素材の漬け込みに用いる調味液であって、果実ファイバーを含有する漬け込み用調味液。」

・相違点B1−1
果実ファイバーの含有量について、本件発明1が「調味液全体に対して0.03〜2.0%」と特定するのに対し、甲B1発明はそのような特定を有しない点。

・相違点1−2
調味液の粘度について、本件発明1が「200cp〜1500cp」と特定するのに対し、甲B1発明はそのような特定を有しない点。

イ 判断
まず相違点B1−1について検討すると、甲B1にはシトラスファイバーの具体的含有量が記載されていないところ、シトラスファイバーの含有量に着目し、それを相違点B1−1に係る本件発明1の構成のように調整する動機付けとなる記載もない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜8について
上記第2のとおり、本件発明2〜8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)のとおり、本件発明1が甲B1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2〜8も、甲B1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、申立人Bの主張する申立理由B1には理由がない。

6 申立理由B2について
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲B2の記載
甲B2には以下の記載がある。
・「


・「



イ 甲B2に記載された発明
アの摘記事項、特に製品名、製品使用方法、及び成分について整理すると、甲B2には以下の発明(以下、「甲B2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲B2発明>
肉用のマリネードであって、シトラスファイバーを含有する、マリネード。

(2)本件発明1について
ア 対比
上記5(2)アと同様にして本件発明1と甲B2発明とを対比すると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
・一致点
「食品素材の漬け込みに用いる調味液であって、果実ファイバーを含有する漬け込み用調味液。」

・相違点B2−1
果実ファイバーの含有量について、本件発明1が「調味液全体に対して0.03〜2.0%」と特定するのに対し、甲B2発明はそのような特定を有しない点。

・相違点B2−2
調味液の粘度について、本件発明1が「200cp〜1500cp」と特定するのに対し、甲B2発明はそのような特定を有しない点。

イ 判断
まず相違点B2−1について検討すると、甲B2にはシトラスファイバーの具体的含有量が記載されていないところ、シトラスファイバーの含有量に着目し、それを相違点B2−1に係る本件発明1の構成のように調整する動機付けとなる記載もない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜8について
上記第2のとおり、本件発明2〜8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)のとおり、本件発明1が甲B2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2〜8も、甲B2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、申立人Bの主張する申立理由B2には理由がない。

7 まとめ
したがって、申立理由A1〜A4、B1〜B2はいずれも理由がない。


第5 むすび
したがって、申立人A及び申立人Bの主張する申立理由によっては、請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。また、他にこれらの特許が特許法第113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
よって、結論のとおり決定する。




 
異議決定日 2022-07-28 
出願番号 P2018-228662
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 加藤 友也
奥田 雄介
登録日 2021-09-17 
登録番号 6946258
権利者 キッコーマン株式会社
発明の名称 漬け込み用調味液  
代理人 榛葉 貴宏  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 須藤 晃伸  
代理人 鈴木 恵理子  

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