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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1387520
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-10 
確定日 2022-08-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6916350号発明「塗料組成物及び塗膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6916350号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6916350号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、令和2年6月18日に出願され、令和3年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年8月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許の請求項1〜5に対し、令和4年2月10日に特許異議申立人 森久雄(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6916350号の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂と、鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレークと、アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料とを含有する塗料組成物であって、前記鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレークが平均粒子径20〜60μmのノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料又はステンレスフレークであり、前記アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料が平均粒子径5〜50μm、アスペクト比10〜100であり、前記鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレーク(A)と前記アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料(B)との質量比(A/B)が1/2〜1/18であり、前記アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料がタルク及びマイカから選択される少なくとも一種であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記塗料組成物の不揮発分中における前記鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレークの量が2.0〜12.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
防錆顔料をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗料組成物から得られる塗膜。
【請求項5】
乾燥膜厚が30〜200μmであることを特徴とする請求項4に記載の塗膜。」

第3 申立理由の概要
異議申立人は、本件特許発明に係る全請求項の発明は、本件特許発明の出願日以前に頒布された甲第2号証発明(甲第2号証の実施例12)及び本件特許出願日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきであると主張する。

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証(以下、順に「甲1」等ともいう。):特許第6916350号公報
甲1は、本件特許の特許掲載公報である。

2 甲2:特許第6242318号公報
本件特許の出願日前である平成29年12月6日に公開された上記公報には次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄所、化学プラント、海洋構造物等の過酷な環境下にある普通鋼材または耐候性鋼材からなる鋼構造物や鋼製配管等の維持補修に用いられる弱溶剤形高耐食性塗料に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる目的を達成するために、鋼材の深さ方向に進行する錆を抑制する手段について鋭意検討を重ねた結果、塗料組成物中に特定量の二価のスズイオン(硫酸第一スズ)の存在が重要であり、さらに塗料組成物中の弱溶剤可溶形エポキシ樹脂に対する変性樹脂の割合、及び形成される塗膜中の顔料体積濃度が重要であることを見い出した。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、普通鋼材または耐候性鋼材からなる鋼構造物または鋼製配管等の表面の深さ方向に進行する錆を抑制するための弱溶剤形高耐食性塗料組成物、及びそれを使用した塗装方法を提供することにある。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の弱溶剤形高耐食性塗料組成物は、普通鋼材または耐候性鋼材からなる鋼構造物または鋼製配管等の表面に使用されるものであり、(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する弱溶剤可溶形エポキシ樹脂、(B)変性樹脂、(C)アミン系硬化剤、(D)硫酸第一スズ、(E)カルシウム系防錆顔料、(F)体質顔料、(G)着色顔料、及び所望により(H)アルミニウム顔料を含有する。
・・・
【0021】
(F)体質顔料は、塗料の性状を調整するために用いられる。一般に防食用途のエポキシ樹脂系塗料においては、硫酸バリウム、カオリン、マイカ、クレー系、セリサイト系、二酸化ケイ素系、含水ケイ酸マグネシウム系などの体質顔料が用いられるが、本発明の塗料組成物はセリサイト系顔料、二酸化ケイ素系顔料、含水ケイ酸マグネシウム系顔料、炭酸カルシウム系から選ばれる少なくとも1種の体質顔料が使用される。これらの体質顔料は、塗料組成物中の体質顔料の全重量の50重量%以上であることが好ましい。50重量%より少ない場合には十分な充填効果が得られず、塗膜強度が得られない。
・・・
【0023】
(H)アルミニウム顔料は、腐食性物質の浸透を抑制したい場合に用いられる。(H)アルミニウム顔料は、従来公知のものを使用することができ、特にリーフィングタイプとノンリーフィングタイプを併用することが好ましく、この場合、両者の重量比は2/8〜4/6であることが好ましい。(H)アルミニウム顔料の配合量は、(A)弱溶剤可溶形エポキシ樹脂、(B)変性樹脂、及び(C)アミン系硬化剤の合計固形分100重量部に対して10〜25重量部であることが好ましい。
・・・
【実施例】
【0031】
表1に示す材料及び配合の弱溶剤可溶形エポキシ樹脂、変性樹脂、アミン系硬化剤、硫酸第一スズ、縮合リン酸アルミニウム系防錆顔料、体質顔料、着色顔料、及び所望によりアルミニウム顔料等に粘度30〜70dPa・Sになるように適量の溶剤を加えて、均一な状態となるように攪拌することにより下塗り塗料を作成した。表中の各成分の含有量は重量部を表わす。
・・・
【0035】
【表1】


【0036】・・・実施例12〜15は、(H)アルミニウム顔料を含有させると共にその含有量を変化させた例である。・・・
【0037】・・・また、実施例12〜15から、(H)アルミニウム顔料を含有させることによってz、ブラスト鋼板および錆鋼板の両方において、最大腐食深さおよび剥離面積率を一層小さくすることができること、そして、この効果は、(H)アルミニウム顔料の含有率が特定の範囲である実施例12、13において一層顕著であることがわかる。」

3 甲3:異議申立人作成、甲2の実施例まとめ表
甲3には、前記甲2の実施例12の不揮発分のうち、アルペースト1900−Sが2.2、シルクエースが4.5、タルクPK−50が4.5であるから、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料又はステンレスフレーク(A)/タルク及びマイカ(B)の質量比が、1/4.1であることが記載されている。




4 甲4:東洋アルミニウム株式会社、ノンリーフィングタイプのアルペースト
(URL:https://www.toyal.co.jp/products/pw_pt/product/non_leafing.html)、
プリントアウト日(出力日)令和4年2月4日
甲4には、以下の記載がある。




以上の記載によれば、甲4には、出力日において、「ノンリーフィングタイプのアルペーストが、アルミフレーク(鱗片状)であること。」及び「品名:1950Mの平均粒子径は50μmであること。」が認められる。

5 甲5:本田道夫、「塗料用アルミニウム顔料の概要」、色材、39[10]、昭和41年10月30日発行、第24〜29頁
甲5第25頁右欄第7行〜第26頁左欄8行には、以下の記載がある。





以上の記載によれば、甲5には、「アルミニウム顔料の粉砕粒子径が325mesh以下であること」、及び「粒子の形状がりん片状もしくは球状であること」が認められる。

6 甲6:株式会社ヤマグチマイカ、汎用マイカパウダー
(URL:https://yamaguchi-mica.com/product/general_mica.html)、プリントアウト日(出力日)令和4年2月4日
甲6には、以下の記載がある。



以上の記載によれば、甲6には、出力日において、「汎用マイカの平均粒径が23〜35μmであること。」及び「汎用マイカのアスペクト比が70〜80であること。」が認められる。

7 甲7:株式会社ヤマグチマイカ、<技術情報>マイカとは
(URL:https://yamaguchi-mica.com/tech_info/about_mica_2.html)
プリントアウト日(出力日)は、令和4年2月5日
甲7には、以下の記載がある。



以上の記載によれば、甲7には、出力日において、「セリサイト=絹雲母であり、マイカの一種であること。」が認められる。

8 甲8:粉体工学研究会・日本粉体工業会編、「粉体物性図説」、株式会社産業技術センター刊、昭和50年11月15日2刷発行、第261頁
甲8の第261頁には、以下の記載がある。




以上の記載によれば、甲8には、「タルクの粒子形状が一般的にリン片状であり、一般品の粒子径が7μm程度であること」が認められる。

9 甲9:特許第5702503号公報
本件特許の出願日前である平成27年4月15日に公開された上記公報には次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚不足を抑制しつつ簡便に厚膜の乾燥塗膜を形成することができる塗膜形成方法、及びそれに用いる塗料に関するものである。
・・・
【0047】
(3)鱗片状顔料
着色塗料は、平均粒子径が10〜300μm、平均厚みが2〜50μm、平均粒子径/平均厚みとして定義されるアスペクト比が2〜100である鱗片状(扁平状)顔料(以下、単に「鱗片状顔料」ともいう。)を含む〔条件(a)〕。平均粒子径、平均厚み及びアスペクト比の定義及び測定方法は、実施例の項に記載のとおりである。
【0048】
上記鱗片状顔料を含有させることの意義は次のとおりである。塗料(防食塗料等)において、塗膜強度を高めるために、あるいは防食塗料であれば耐食性を高めるために体質顔料を含有させること自体は慣用の技術であり、体質顔料及び着色顔料の双方を含む膜厚判定塗料も知られている(上記特許文献1及び2)。しかしながら、従来の膜厚判定塗料においては、上述のとおり、厚膜の塗膜を1回塗りで形成する方法に適用すると、目標の膜厚(目標とする乾燥塗膜厚の設定値T)にかなり近づきつつある塗膜と目標の膜厚に達した塗膜との色差を十分に大きくすることが難しく、ウェット塗膜が目標の膜厚に達したか、あるいは未だ膜厚不足であるかを判定することが容易でないという問題があった。
・・・
【0101】
表1及び表2に示される略号は下記のとおりである。
・・・
〔i〕マイカ1:株式会社キララ製の「白雲母200M」(平均粒子径:78μm、平均厚み:8μm、アスペクト比:9.8、屈折率:1.6、不揮発分:100質量%、比重:2.7)、
〔j〕マイカ2:Mintech International社製の「MT−MICA D325W」(平均粒子径:39μm、平均厚み:7μm、アスペクト比:5.6、屈折率:1.6、不揮発分:100質量%、比重:2.8)、
〔k〕タルク1:富士タルク株式会社製の「タルク DS34−N」(平均粒子径:17μm、平均厚み:4μm、アスペクト比:4.3、屈折率:1.6、不揮発分:100質量%、比重:2.7)、
〔l〕タルク2:富士タルク株式会社製の「タルク SP42」(平均粒子径:14μm、平均厚み:4μm、アスペクト比:3.5、屈折率:1.6、不揮発分:100質量%、比重:2.7)、
〔m〕タルク3:富士タルク株式会社製の「タルク TPA−25」(平均粒子径:8μm、平均厚み:3μm、アスペクト比:2.7、屈折率:1.6、不揮発分:100質量%、比重:2.7)、
・・・」

第5 甲2に記載された発明
甲2の【0035】の【表1】の実施例12には、ハリポールEP−450(加熱残分60%のエポキシ樹脂)38.0重量部、ハイレノールPL−1000S(加熱残分100%の炭化水素樹脂)3.0重量部、ミネラルスピリット(溶剤)9.4重量部、タイピュアーR706(二酸化チタン)19.0重量部、カーボンMA−100パウダー(カーボンブラック)0.1重量部、硫酸スズ(II)(硫酸第一錫)5.0重量部、Kホワイト#105(縮合リン酸アルミニウム)5.0重量部、アルペースト54−111(加熱残分65%のリーフィングタイプのアルミニウム顔料)1.5重量部、アルペースト1900−S(加熱残分70%のノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料)3.5重量部、シルクエース(セリサイト)5.0重量部、アエロジールR−972(二酸化ケイ素)0.5重量部、タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)5.0重量部及びMS−100M(炭酸カルシウム)5.0重量部からなる主材と、ニューマイド#3510(加熱残分65%の変性ポリアミドアミン)64重量部及びミネラルスピリット(溶剤)36重量部からなる硬化剤とを90:10の割合で混合した高耐食性塗料組成物が記載されている。
してみると、甲2には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「ハリポールEP−450(加熱残分60%のエポキシ樹脂)38.0重量部、ハイレノールPL−1000S(加熱残分100%の炭化水素樹脂)3.0重量部、ミネラルスピリット(溶剤)9.4重量部、タイピュアーR706(二酸化チタン)19.0重量部、カーボンMA−100パウダー(カーボンブラック)0.1重量部、硫酸スズ(II)(硫酸第一錫)5.0重量部、Kホワイト#105(縮合リン酸アルミニウム)5.0重量部、アルペースト54−111(加熱残分65%のリーフィングタイプのアルミニウム顔料)1.5重量部、アルペースト1900−S(加熱残分70%のノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料)3.5重量部、シルクエース(セリサイト)5.0重量部、アエロジールR−972(二酸化ケイ素)0.5重量部、タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)5.0重量部及びMS−100M(炭酸カルシウム)5.0重量部からなる主材と、ニューマイド#3510(加熱残分65%の変性ポリアミドアミン)64重量部及びミネラルスピリット(溶剤)36重量部からなる硬化剤とを90:10の割合で混合した高耐食性塗料組成物。」

第6 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
引用発明の「ハリポールEP−450」、「ハイレノールPL−1000S」及び「ニューマイド#3510」は、塗料組成物中で樹脂成分を構成するものであるから、本件発明1の「樹脂」に相当する。
引用発明の「アルペースト1900−S」は、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料であって、製造元の東洋アルミニウム株式会社のホームページ等の情報からみて、いずれも鱗片状のアルミニウム顔料であるから、本件発明1の「鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレーク」及び「ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料又はステンレスフレーク」に相当する。
引用発明におけるアルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の顔料としては、「タイピュアーR706(二酸化チタン)」、「カーボンMA−100パウダー(カーボンブラック)」、「Kホワイト#105(縮合リン酸アルミニウム)」、「シルクエース(セリサイト)」、「アエロジールR−972(二酸化ケイ素)」、「タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)」及び「MS−100M(炭酸カルシウム)」が挙げられるが、鱗片状顔料がタルク及びマイカであるのは、「シルクエース(セリサイト)」及び「タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)」であるから、引用発明の「シルクエース(セリサイト)」及び「タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)」が、本件発明1の「アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料」及び「アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料がタルク及びマイカから選択される少なくとも一種である」に相当する。
引用発明の「高耐食性塗料組成物」は、本件発明1の「塗料組成物」に相当する。
引用発明の「高耐食性塗料組成物」中の「アルペースト1900−S」と、「シルクエース」+「タルクPK−50」の質量比は、3.5×0.70と5.0×1.0+5.0×1.0の比となるから、2.45/10.0≒1/4.1となる。
そうすると、引用発明の「アルペースト1900−S」と、「シルクエース」+「タルクPK−50」の質量比が1/4.1と、本件発明1の「鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレーク(A)とアルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料(B)との質量比(A/B)が1/2〜1/18」とは、「鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレーク(A)とアルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料(B)との質量比(A/B)が1/4.1」である点で共通する。
してみると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「樹脂と、鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレークと、アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料とを含有する塗料組成物であって、前記鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレークがノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料又はステンレスフレークであり、前記鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレーク(A)と前記アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料(B)との質量比(A/B)が1/4.1であり、前記アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料がタルク及びマイカから選択される少なくとも一種であることを特徴とする塗料組成物。」

<相違点1>
鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレークが、本件発明1は「平均粒子径20〜60μm」であると特定されているのに対し、引用発明は、平均粒子径が明らかでない点。

<相違点2>
アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料が、本件発明1は「平均粒子径5〜50μm、アスペクト比10〜100」であると特定されているのに対し、引用発明は、平均粒子径やアスペクト比が明らかでない点。

(2)判断
まず、相違点1について検討する。
アルミニウム顔料の平均粒子径について、甲4(上記第4の4参照。)には、アルペースト1950Mの平均粒子径が50μmであることが記載され、甲5(上記第4の5参照。)には、アルミニウム顔料の粉砕粒子径が325mesh以下であること、及び粒子の形状がりん片状もしくは球状であることが記載されているものの、甲4及び甲5のいずれにも、引用発明の「アルペースト1900−S」の平均粒子径が20〜60μmであることを示す記載はないから、引用発明のアルミニウム顔料の平均粒子径が20〜60μmであるとはいえない。また、甲2に記載された事項全体を参酌しても、引用発明のアルミニウム顔料の平均粒子径を、20〜60μmの範囲にしようとする動機付けは見当たらないから、引用発明のアルミニウム顔料の平均粒子径を、20〜60μmの範囲とすることは、引用発明、甲4及び甲5に記載された技術事項から当業者が容易になし得たことでもない。

次に、相違点2について検討する。マイカの平均粒子径及びアスペクト比について、甲6(上記第4の6参照。)には、白雲母(マスコバイト)を原料に使用した汎用マイカの平均粒径が23〜35μm、アスペクト比が70〜80であることが記載され、甲7(上記第4の7参照。)には、セリサイトがマイカの一種である絹雲母であることが記載されているものの、引用発明の「シルクエース(セリサイト)」が、平均粒子径5〜50μm、アスペクト比10〜100であることを示す記載はないから、引用発明の「シルクエース(セリサイト)」が、平均粒子径5〜50μm、アスペクト比10〜100であるとはいえない。
また、タルクの平均粒子径及びアスペクト比について、甲8(上記第4の8参照。)には、タルクの粒子形状が一般的にリン片状であり、一般品の粒子径が7μm程度であることが記載されているものの、引用発明の「タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)」が、平均粒子径5〜50μm、アスペクト比10〜100であることを示す記載はないから、引用発明の「タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)」が、平均粒子径5〜50μm、アスペクト比10〜100であるとはいえない。
さらに、マイカやタルクの平均粒子径及びアスペクト比について、甲9(上記第4の9参照。)の【0047】には、着色塗料が、平均粒子径が10〜300μm、平均厚みが2〜50μm、平均粒子径/平均厚みとして定義されるアスペクト比が2〜100である鱗片状顔料を含むことが記載されているものの、引用発明の「シルクエース(セリサイト)」及び「タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)」が、平均粒子径5〜50μm、アスペクト比10〜100であることを示すものではないから、引用発明の「シルクエース(セリサイト)」や「タルクPK−50(含水ケイ酸マグネシウム)」が、平均粒子径5〜50μm、アスペクト比10〜100であるとはいえない。
そして、アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料の平均粒子径及びアスペクト比がさまざまであり(例えば、甲9の【0101】には、実施例で用いたマイカのアスペクト比が「2.7〜9.8」であることが記載されている。)、かつ、甲2に記載された事項全体を参酌しても、引用発明のアルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料の平均粒子径を5〜50μmとし、アスペクト比を10〜100の範囲にしようとする動機付けは見当たらないから、引用発明のアルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料の平均粒子径を5〜50μmとし、アスペクト比を10〜100の範囲にしようとすることは、引用発明、甲6〜甲9に記載された技術事項から当業者が容易になし得たことでもない。

加えて、本件発明1の「環境遮断性に優れ、良好な防食性を示す塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することができる。」という効果(明細書の段落【0021】参照。)は、鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレークの平均粒子径や、アルミニウム顔料又はステンレスフレーク以外の鱗片状顔料の平均粒子径及びアスペクト比を特定の範囲内のものとすることで実現されるものであるのに対し、引用発明は、甲2の段落【0009】に「本発明者らは、かかる目的を達成するために、鋼材の深さ方向に進行する錆を抑制する手段について鋭意検討を重ねた結果、塗料組成物中に特定量の二価のスズイオン(硫酸第一スズ)の存在が重要であり、さらに塗料組成物中の弱溶剤可溶形エポキシ樹脂に対する変性樹脂の割合、及び形成される塗膜中の顔料体積濃度が重要であることを見い出した。」と記載されるとおり、「二価のスズイオン(硫酸第一スズ)」を必須成分とし、顔料体積濃度を所定範囲とすることで、同【0008】の「普通鋼材または耐候性鋼材からなる鋼構造物または鋼製配管等の表面の深さ方向に進行する錆を抑制する」という作用を得るものであるから、両者の効果に類似した面はあるものの、効果を得るためのアプローチは異なるものである。そうすると、本件発明1の効果は、引用発明の構成から予測し得たものとはいえない。

(3)小括
したがって、本件発明1は、引用発明及び甲2〜9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

2 本件発明2〜5について
本件発明2は、本件発明1に対して「塗料組成物の不揮発分中における前記鱗片状アルミニウム顔料又はステンレスフレークの量が2.0〜12.5質量%である」という技術事項を追加したものであり、本件発明3は「錆顔料をさらに含む」という技術事項を追加したものである。また、本件発明4は、本件発明1の「塗料組成物から得られる塗膜」の発明であり、本件発明5は、本件発明1の「塗料組成物から得られる塗膜」において、「乾燥膜厚が30〜200μmである」という技術事項を追加したものである。よって、本件発明2〜5は、上記1に示した理由と同様の理由により、引用発明及び甲2〜9に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、異議申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-08-03 
出願番号 P2020-105168
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 関根 裕
門前 浩一
登録日 2021-07-19 
登録番号 6916350
権利者 大日本塗料株式会社
発明の名称 塗料組成物及び塗膜  
代理人 飯野 陽一  
代理人 小野 誠  

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