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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
管理番号 1387522
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-21 
確定日 2022-07-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6934368号発明「熱交換器フィン用ブレージングシート及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6934368号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6934368号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成29年8月30日の出願であって、令和 3年 8月25日に特許権の設定登録がされ、同年 9月15日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 4年 2月21日にその請求項1〜8(全請求項)に係る特許に対して特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜8に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。

「【請求項1】
Mn:0.50質量%以上2.0質量%以下、Si:0.050質量%以上0.60質量%以下、Fe:0.050質量%以上0.70質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を備え、繊維状組織を有する心材と、
Si:6.0質量%以上13質量%以下、Fe:0質量%超え0.80質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を備え、前記心材上に積層されたろう材と、を有し、
全伸びが3%以上であり、
局部伸び/全伸びが0.35〜0.95であり、
耐力が100〜200MPaであり、
600℃の温度に3分間保持した場合に、前記心材の金属組織が200μmを超える平均結晶粒径を備えた再結晶組織に変化する特性を有する、
熱交換器フィン用ブレージングシート。

【請求項2】
前記心材は、Zn:0.50質量%以上3.5質量%以下、Cu:0.050質量%超え0.30質量%未満、Mg:0.050質量%以上1.0質量%以下のうち1種または2種以上を更に含有している、請求項1に記載の熱交換器フィン用ブレージングシート。

【請求項3】
前記心材は、Cr:0.30質量%未満、Zr:0.30質量%未満、Ti:0.30質量%未満、V:0.05質量%以上0.10質量%未満のうち1種または2種以上を更に含有しており、Cr、Zr、Ti及びVの含有量の合計が0.30質量%未満である、請求項1または2に記載の熱交換器フィン用ブレージングシート。

【請求項4】
前記ろう材は、Sr:0.0030質量%以上0.050質量%以下、Na:0.0030質量%以上0.050質量%以下、Bi:0.030質量%以上0.15質量%以下のうち1種または2種以上を更に含有している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱交換器フィン用ブレージングシート。

【請求項5】
前記ろう材は、Zn:0.30質量%以上3.0質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.70質量%以下のうち1種または2種を更に含有している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱交換器フィン用ブレージングシート。

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱交換器フィン用ブレージングシートの製造方法であって、
前記心材の化学成分を備えた心材用塊と、前記ろう材の化学成分を備えたろう材用塊とを重ね合わせてクラッド塊を作製し、
前記クラッド塊を作製する前後のいずれかにおいて前記心材用塊を510℃未満の温度に加熱して均質化処理を行い、または、前記クラッド塊を作製する前後のいずれにおいても均質化処理を行わず、
前記クラッド塊を400℃以上500℃以下の温度に加熱して、開始温度が前記温度範囲となる条件で前記クラッド塊に熱間圧延を行うことにより前記心材と前記ろう材とが積層されたクラッド材を作製し、
85%以上の圧下率で前記クラッド材に冷間圧延を行い、
150℃から保持温度に到達するまでの平均昇温速度をr1(℃/時間)、保持温度をT(℃)、保持時間をt(時間)、保持温度から150℃に到達するまでの平均冷却速度をr2(℃/時間)、温度が150℃以上である間の入熱量をQ(℃・時間)とした場合に、下記式(1)〜(3)を満足する条件で前記クラッド材に焼鈍を行う、
熱交換器フィン用ブレージングシートの製造方法。
150≦T≦300・・・(1)
250≦(T−150)2/r1+T・t+(T−150)2/r2≦2500 ・・・(2)
r2≦100 ・・・(3)

【請求項7】
前記焼鈍を行った後、更に、40%以下の圧下率で前記クラッド材に第2冷間圧延を行う、請求項6に記載の熱交換器フィン用ブレージングシートの製造方法。

【請求項8】
前記焼鈍を行った後、更に、60%以下の圧下率で前記クラッド材に第2冷間圧延を行い、保持温度T2(℃)が前記焼鈍における保持温度T(℃)以下となる条件で前記クラッド材に第2焼鈍を行う、請求項6に記載の熱交換器フィン用ブレージングシートの製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、後記する理由により、本件発明1〜8についての特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(実施可能要件
本件発明1〜8についての特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
2 申立理由2(サポート要件)
本件発明1〜8についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。

第4 当審が職権調査により発見した参考資料
当審が職権調査により発見した参考資料として、以下の参考資料1〜3がある。

参考資料1:国際公開第2016/147627号
参考資料2:特開2014−210949号公報
参考資料3:特開2014−114475号公報

第5 参考資料1〜3の記載事項
1 参考資料1の記載事項
参考資料1には以下の記載がある。(下線は当審が付した。また「・・・」は省略を示す。以下同様。)

「[0001] 本発明はろう付加熱後の強度に優れ、更に良好な耐高温座屈性、ろう付性及び自己耐食性を有する熱交換器用のアルミニウム合金製ブレージングシートフィン材及びその製造方法に関する。本発明に係るアルミニウム合金製ブレージングシートフィン材は、特に自動車用熱交換器のフィン材として好適に使用される。」

「[0054] 1−4.クラッド率
次に、ろう材のクラッド率について説明する。ろう材のクラッド率は、ろう流動量に寄与する。ブレージングシートフィン材では、ろう材のクラッド率は、ろう付加熱中のろう流動量への寄与の他、ろう材から芯材へ拡散するSiの量にも寄与する。本発明では、ろう材の片面平均クラッド率を6〜16%とする。このクラッド率が6%未満では、ろう付加熱中にろう材から芯材へ拡散するSiの量が不十分となり、ろう付加熱後において分散強化による十分な強度向上が得られない。また、ろう流動量が不十分となり、ろう付性を確保できない。一方、上記クラッド率が16%を超えると、ろう付加熱中にろう材から芯材へ拡散するSi量が過剰となり芯材中にMn系化合物を形成し、芯材のMn固溶量が減少する。その結果、ろう付加熱後において固溶強化による十分な強度向上が得られない。また、ろう付加熱中のろう材の液相量が過剰となり、自己耐食性を確保できない。ろう材の好ましい片面平均クラッド率は、7〜15%であり、より好ましい片面平均クラッド率は8〜14%である。」

「[請求項1] アルミニウム合金の芯材と、当該芯材の両面にクラッドされたAl−Si系合金ろう材とを備えるアルミニウム合金製ブレージングシートフィン材であって、前記芯材が、Si:0.05〜0.8質量%、Fe:0.05〜0.8質量%、Mn:0.8〜2.0質量%を含有し、かつ、前記Si、Fe、Mnの含有量がSi+Fe≦Mnの条件を満たし、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記ろう材が、Si:6.0〜13.0質量%、Fe:0.05〜0.8質量%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系合金からなり、
ろう付加熱前において、当該フィン材が、6〜16%の片面平均クラッド率、40〜120μmの厚さ及び48〜54%IACSの導電率を有し、前記芯材の金属組織が、円相当径0.05〜0.50μmのMn系化合物が0.05〜0.35μmの平均粒子間距離で存在する分布状態を有し、
ろう付加熱後において、当該フィン材が40〜44%IACSの導電率を有し、前記芯材の金属組織が、円相当径0.50μm以下のMn系化合物が0.45μm以下の平均粒子間距離で存在する分布状態を有することを特徴とする熱交換器用のアルミニウム合金製ブレージングシートフィン材。」

2 参考資料2の記載事項
参考資料2には以下の記載がある。

「【請求項2】
Si 3.0〜7.0%、Fe 0.8〜1.5%、Zn 1.0〜8.0%を含み、Cu 0.1〜0.6%、Mn 0.2〜0.8%、Mg0.05〜0.3%、Ti 0.05〜0.3%、Zr 0.05〜0.3%、Cr 0.05〜0.3%、V 0.05〜0.3%の内1種または2種以上を含み、残部Alと不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるろう材であって、ろう材中に円相当径0.5〜5μmのFe系化合物が1mm2当たり1×103〜2×104個存在することを特徴とするアルミニウム合金ろう材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ろう材を、Cu 0.1〜0.8%、Mn 0.2〜2.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金心材の片面もしくは両面にクラッドしたアルミニウム合金複合材。
・・・
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ろう材あるいはアルミニウム合金複合材を用いてろう付してなることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器。」

「【0015】
・・・
本発明の複合材は、その厚さとして0.1〜1.0mmが好ましい。また、ろう材層のクラッド率は5〜30%であることが好ましい。」

3 参考資料3の記載事項
参考資料3には以下の記載がある。

「【請求項1】
アルミニウム合金の心材と、当該心材の少なくとも一方の面にクラッドされたろう付機能付与犠牲材とを備えるアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記心材が、Si:0.05〜1.2mass%、Fe:0.05〜1.2mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記ろう付機能付与犠牲材が、Si:2.5〜7.0mass%、Zn:0.5〜8.0mass%、Fe:0.05〜1.2mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記ろう付機能付与犠牲材のクラッド率が3〜25%であり、前記心材のろう付加熱前における金属組織が繊維状組織であり、前記ろう付機能付与犠牲材のろう付加熱前における金属組織が再結晶組織であることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。」
・・・
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートを用いた熱交換器であって、ろう付後における前記ろう付機能付与犠牲材の結晶粒径が80μm以上であることを特徴とする熱交換器。」

「【0099】
4−7.クラッド率
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートでは、ろう付機能付与犠牲材のクラッド率(片面)を3〜25%とする。上述のように、製造工程中のクラッド熱間圧延工程において、ろう付機能付与犠牲材にのみ大きなせん断歪が加えられる必要がある。しかしながら、ろう付機能付与犠牲材のクラッド率が25%を超えると、ろう付機能付与犠牲材全体に十分なせん断歪が加わらず、ろう付機能付与犠牲材全体を再結晶組織とすることができない。一方、クラッド率が3%未満では、ろう付機能付与犠牲材が薄過ぎるため、クラッド熱間圧延中において心材全体にわたってろう付機能付与犠牲材を被覆することができない。クラッド率は、好ましくは5〜20%である。」

第5 当審の判断
1 申立理由1について
(1)実施可能要件について
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を製造することができ、かつ、その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要があり、物を生産する方法の発明における発明の実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから、物を生産する方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつ、その方法により生産した物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要があるので、以下に検討する。

(2)検討
ア 本件発明1について
本件発明1は、熱交換器フィン用ブレージングシートに関するものである。
本件明細書等には、まずブレージングシートを構成する心材及びろう材に関して、心材の組成(【0031】〜【0052】)、心材の金属組織(【0053】〜【0058】)、ろう材の組成(【0059】〜【0067】)の各事項について、具体的な説明がなされている。
また、ブレージングシートの機械的特性(【0023】〜【0030】)、製造方法(【0068】〜【0083】)についても、具体的な説明がなされている。
さらに、実施例(【0084】〜【0114】、【表1】〜【表3】)には、試験材C1〜C12として、Si、Fe、Mnが請求項1の規定を満たす組成の心材用塊とSi、Feが請求項1の規定を満たす組成のろう材用塊から作製されたクラッド塊を原料として、上記製造方法に沿う製造方法(【0085】、【表2】)によってブレージングシートを作製し、【0088】〜【0102】に記載の試験方法によって試験することで、請求項1に規定された機械的特性、金属組織を満たすブレージングシートを製造したことが記載されており、特に【0106】〜【0114】の記載によれば、心材及びろう材の組成及び製造条件が請求項1の規定及び上記製造方法の条件を満たす試験材C1〜C12は成形性、耐高温座屈性、ろう付性、自己耐食性のすべてにおいて上記試験で合格と判定されるのに対し、組成または製造条件が請求項1の規定または上記製造方法の条件を満たさずブレージングシートを製造できたC13、C15〜C20、C22、C23、C25〜28は成形性、耐高温座屈性、ろう付性、自己耐食性の少なくともいずれかにおいて不合格と判定されることが示されている。
また、上記実施例に記載された以外のブレージングシートについても、当業者であれば、本件明細書等の記載に基いて、本件特許の請求項1に規定される機械的特性、金属組織を満たすブレージングシートを、上記の製造方法を参照しつつ製造することができる。
さらに、本件明細書等の【0002】、【0003】の記載から、本件発明1に係る熱交換器フィン用ブレージングシートが、熱交換器フィンを製造するのに使用できることは明らかである。
したがって、当業者が、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、本件発明1に係る熱交換器フィン用ブレージングシートを製造し、使用することができるといえる。

イ 本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1の心材やろう材に対して、追加の成分をさらに含むことを特定した熱交換器フィン用ブレージングシートに関するものであるが、これらの追加の成分は、本件発明1の心材やろう材の各種特性をさらに改善する任意成分(【0041】〜【0052】、【0063】〜【0067】)にすぎないから、本件発明1と同様に、当業者が、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、本件発明2〜5に係る熱交換器フィン用ブレージングシートを製造し、使用することができる。

ウ 本件発明6〜8について
本件発明6〜8は、本件発明1〜5のいずれかの熱交換器フィン用ブレージングシートの製造方法に関するものであるが、上記のとおり、本件明細書等には、ブレージングシートの製造方法(【0068】〜【0083】)について、具体的な説明がなされている。
さらに、実施例には、上記のとおり、上記製造方法に沿う製造方法(【0085】、【表2】)によってブレージングシートを製造したことが記載されている。
そうすると、上記で本件発明1〜5について検討したことを踏まえると、当業者が、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、本件発明6〜8に係る熱交換器フィン用ブレージングシートの製造方法を使用することができ、その製造方法により製造した熱交換器フィン用ブレージングシートを使用することができるといえる。

(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の3(4)イ.(ア)において、本件発明1では「耐力が100〜200MPaであり」と規定されているが、ブレージングシートの耐力がクラッド率に大きく影響を受けることはよく知られており、本件発明1でも心材とろう材との間で化学成分が異なっているから、ブレージングシートに占めるろう材の厚さが変われば、耐力も変わるものと考えられるところ、本件特許の発明の詳細な説明には、具体的なクラッド率が記載されておらず、本件発明1のブレージングシートにおいて、いかなるクラッド率を採用すれば上記耐力の要件が充足されるのか不明であるから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨を主張している。
しかしながら、上記第4にて摘記した参考資料1〜3の記載事項によれば、心材にAi−Mn系材料を、ろう材にAl−Si系材料を用いた熱交換器用ブレージングシートにおいては、クラッド率は3〜30%程度の範囲にあることが技術常識であると認められるから、本件発明1〜8に係る熱交換器フィン用ブレージングシートについても、クラッド率を上記範囲内にて適宜調整しつつ、請求項1〜8に規定される耐力を満たすものを製造することができるといえる。したがって、申立人の上記主張は採用することができない。

(4)申立理由1についてのまとめ
よって、本件発明1〜8についての特許が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。そこで、この点について、以下検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
ア 発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「自己耐食性、耐高温座屈性及び成形性の全てに優れた熱交換器フィン用ブレージングシート及びその製造方法を提供」すること(【0011】)である。イ そして、熱交換器フィン用ブレージングシートを構成する心材がMn:0.50質量%以上2.0質量%以下、Si:0.050質量%以上0.60質量%以下、Fe:0.050質量%以上0.70質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を備え、該ブレージングシートを構成するろう材が、Si:6.0質量%以上13質量%以下、Fe:0質量%超え0.80質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を備えるようにすることにより、ろう付後における心材の自己耐食性の向上を図っている(【0014】、【0031】、【0059】)。
ウ また、当該ブレージングシートが3%以上の全伸び、0.35〜0.95の局部伸び/全伸び、100〜200MPaの耐力という機械的特性を有することにより、成形性の向上を図っており、当該機械的特性は、心材を上記イの化学成分とするとともに、繊維状組織を備えるようにすることで実現される(【0015】、【0023】)。
エ さらに、当該ブレージングシートの心材が600℃の温度に3分間保持した場合、即ち、ろう付時に相当する加熱条件で加熱した場合に、心材の金属組織が200μmを超える平均結晶粒径を備えた再結晶組織に変化する特性を有することにより、ろう付中の結晶粒界への溶融ろうの侵食を抑制し、耐高温座屈性の向上を図っている(【0016】、【0056】)。
オ また、実施例として、表1に示される所定の化学成分を有する心材用塊及びろう材用塊を作製し、心材用塊の片面にろう材用塊を重ね合わせてクラッド塊A1〜A17を作製し、クラッド塊に表2のB1〜B19の条件下で均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、第2冷間圧延及び第2焼鈍を行い、ブレージングシートを作製することができた試験材C1〜C13、C15〜C20、C22〜23及びC25〜C28に対して成形性、耐高温座屈性、ろう付性及び自己耐食性を2段階評価(A又はB)で評価したところ、心材用塊及びろう材用塊が上記イの化学成分を満たし、心材の金属組織が繊維状かつ600℃の温度に3分間保持した場合の再結晶粒の平均結晶粒径が200μmを超えており、作製したブレージングシートが上記ウの機械的特性を満たす試験材C1〜C12は成形性、耐高温座屈性、ろう付性及び自己耐食性のいずれもAであったのに対し、上記心材及びろう材の化学成分、心材の金属組織、又はブレージングシートの機械的特性のいずれかを満たさない試験材C13、C15〜C20、C22〜23及びC25〜C28は成形性、耐高温座屈性、ろう付性又は自己耐食性の少なくとも1つがBであったことが示されている(【0084】〜【0114】、【表1】〜【表3】)。

(3)検討
以上によれば、発明の詳細な説明には、本件発明1に特定される熱交換器用ブレージングシートを製造できるとともに、得られたブレージングシートが本件発明1に係る発明特定事項、すなわち、Mn:0.50質量%以上2.0質量%以下、Si:0.050質量%以上0.60質量%以下、Fe:0.050質量%以上0.70質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を備え、繊維状組織を有する心材と、Si:6.0質量%以上13質量%以下、Fe:0質量%超え0.80質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を備え、前記心材上に積層されたろう材とを有し、全伸びが3%以上であり、局部伸び/全伸びが0.35〜0.95であり、耐力が100〜200MPaであり、600℃の温度に3分間保持した場合に、前記心材の金属組織が200μmを超える平均結晶粒径を備えた再結晶組織に変化する特性を有するという事項を備えることにより、成形性、耐高温座屈性、ろう付性及び自己耐食性の全てを向上に優れたブレージングシートが得られ、上記(2)アの課題が解決できることが記載されているといえる。
よって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記(2)アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。また、請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜8についても同様である。
したがって、本件発明1〜8については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

(4)申立人の主張について
ア 本件発明1の「前記心材上に積層されたろう材」に対して
(ア)申立人は、特許異議申立書の3(4)イ.(イ)において、本件発明1では「・・・繊維状組織を有する心材と・・・前記心材上に積層されたろう材と、を有し」と規定されているところ、発明の詳細な説明の【0022】において「ろう材は、心材の片面に積層されていてもよいし、両面に積層されていてもよい。」と記載されているから、本件発明1に係るブレージングシートはろう材が心材の片面に積層されたものと両面に積層されたものの両方を含むと解されるところ、実施例には心材の片面にのみろう材が積層されたブレージングシートが記載されているのみであって、本件発明1に係る心材の片面または両面にろう材を積層されたブレージングシートにまで拡張ないし一般化することはできない旨を主張している。
(イ)しかしながら、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、心材の両面にろう材が積層された場合にブレージングシートの成形性、耐高温座屈性、ろう付性及び自己耐食性に顕著な影響を及ぼすことをうかがわせる具体的な根拠は認められない。また、申立人も心材の両面にろう材が積層された場合に課題が解決できないとする客観的な証拠を何ら提示していない。
(ウ)よって、本件発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜8は、この点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないということはない。

イ 本件発明2、3の心材の元素について
(ア)申立人は、特許異議申立書の3(4)イ.(ウ)において、本件発明2では「前記心材は、Zn:0.50質量%以上3.5質量%以下、Cu:0.050質量%超え0.30質量%未満、Mg:0.050質量%以上1.0質量%以下のうち1種または2種以上を更に含有している」と規定され、また本件発明3では「前記心材は、Cr:0.30質量%未満、Zr:0.30質量%未満、Ti:0.30質量%未満、V:0.05質量%以上0.10質量%未満のうち1種または2種以上を更に含有しており、Cr、Zr、Ti及びVの含有量の合計が0.30質量%未満である」と規定されており、発明の詳細な説明の【0042】〜【0045】、【0047】、【0049】、【0051】にはこれら元素の含有量を特定の範囲とすることにより心材への犠牲防食機能の付与、ブレージングシートの強度、耐高温座屈性、耐食性の向上といった効果を奏することが記載されているものの、実施例にはSi、Fe、Mn、残部Alを含有する心材が記載されているのみであって、本件発明2、3に記載の元素を含む心材にまで拡張ないし一般化することはできない旨を主張している。
(イ)しかしながら、それぞれ所定量のMn、Si、Feを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる心材を有することを含む、本件発明1に係る発明特定事項を備えることにより、上記(2)アの課題が解決できることは、上記(3)のとおりである。そして、発明の詳細な説明の【0042】〜【0045】、【0047】、【0049】、【0051】に記載の元素は任意成分にすぎず、その含有量を特定の範囲とする効果は、いずれも課題解決に資するか少なくとも反しないものであると認められる。そうすると、申立人が主張するように、発明の詳細な説明に実施例としてSi、Fe、Mn、残部Alを含有する心材のみが記載されているとしても、当業者であれば、それぞれ所定量のMn、Si、Feを含有するほか、さらに【0042】〜【0045】、【0047】、【0049】、【0051】に記載の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる心材を有する本件発明2、3によっても、上記(2)アの課題を解決できることが理解できるといえる。
(ウ)よって、本件発明2、3及び請求項2、3を直接又は間接的に引用する本件発明4〜8は、この点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないということはない。

ウ 本件発明4、5のろう材の元素について
(ア)申立人は、特許異議申立書の3(4)イ.(エ)において、本件発明4では「前記ろう材は、Sr:0.0030質量%以上0.050質量%以下、Na:0.0030質量%以上0.050質量%以下、Bi:0.030質量%以上0.15質量%以下のうち1種または2種以上を更に含有している」と規定され、また本件発明5では「前記ろう材は、Zn:0.30質量%以上3.0質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.70質量%以下のうち1種または2種を更に含有している」と規定されており、発明の詳細な説明の【0064】〜【0066】にはこれら元素の含有量を特定の範囲とすることによりろう付性の向上、ろう材への犠牲防食機能の付与、ブレージングシートの強度向上といった効果を奏することが記載されているものの、実施例にはSi、Fe、残部Alを含有する心材が記載されているのみであって、本件発明4、5に記載の元素を含む心材にまで拡張ないし一般化することはできない旨を主張している。
(イ)しかしながら、それぞれ所定量のSi、Feを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるろう材を有することを含む、本件発明1に係る発明特定事項を備えることにより、上記(2)アの課題が解決できることは、上記(3)のとおりである。そして、発明の詳細な説明の【0064】〜【0066】に記載の元素は任意成分にすぎず、その含有量を特定の範囲とする効果は、いずれも課題解決に資するか少なくとも反しないものであると認められる。そうすると、申立人が主張するように、発明の詳細な説明に実施例としてSi、Fe、残部Alを含有するろう材のみが記載されているとしても、当業者であれば、それぞれ所定量のSi、Feを含有するほか、さらに【0064】〜【0066】に記載の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるろう材を有する本件発明4、5によっても、上記(2)アの課題を解決できることが理解できるといえる。
(ウ)よって、本件発明4、5及び請求項4、5を直接又は間接的に引用する本件発明6〜8は、この点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないということはない。

(5)申立理由2についてのまとめ
よって、本件発明1〜8についての特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由によっては、本件発明1〜8についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜8についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-07-04 
出願番号 P2017-164947
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C22C)
P 1 651・ 537- Y (C22C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 市川 篤
境 周一
登録日 2021-08-25 
登録番号 6934368
権利者 株式会社UACJ
発明の名称 熱交換器フィン用ブレージングシート及びその製造方法  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  
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