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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1387722
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-07 
確定日 2022-08-03 
事件の表示 特願2019−526816「符号化装置、復号装置、符号化方法及び復号方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月 3日国際公開、WO2019/003993〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2018年6月19日(パリ条約による優先権主張2017年6月26日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 1年10月31日付け:拒絶理由通知
2年 2月 7日 :手続補正
同年 2月27日付け:最後の拒絶理由通知
同年 5月11日 :意見書提出および手続補正
同年 5月26日付け:補正の却下の決定および拒絶査定
同年 8月7日 :拒絶査定不服審判請求および手続補正
同年 9月7日 :前置報告
3年 9月24日付け:当審拒絶理由通知
同年12月23日 :意見書提出および手続補正

第2 本件補正発明について
特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明(以下、本件補正発明1、2という)は、令和3年12月23日付の手続補正(以下、本件補正という)により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された、以下のとおりのものである。(下線は補正箇所を示す。また、符号A〜Oは請求項の記載を分節するため当審で付したものであり、請求項1、2の記載を、符号A〜Oを用いて、以下、「発明特定事項A」〜「発明特定事項O」と称する。)

【請求項1】
A 回路と、
メモリとを備え、
前記回路は、前記メモリを用いて、
B 差分動きベクトルをストリームに符号化することなく、対象ブロックの周辺の符号化済みブロックから前記対象ブロックの動きベクトルを導出する複数の方式から一つの方式を選択し、選択した方式で導出された前記動きベクトルを用いて、前記対象ブロックを符号化する場合において、
C 前記複数の方式は、第1の方式および前記第1の方式と異なる第2の方式を含み、
D スキップフラグを符号化し、
E’ 前記第1の方式では、
F 前記スキップフラグの値が1であれば第1の情報を符号化し、
G 前記スキップフラグの値が0であれば第2の情報と残差を示す情報とを符号化し、
F1’、G1’ 前記第1の情報および前記第2の情報は、前記第1の方式が用いられるか否かを示すフラグと、前記第1の方式で用いる動きベクトルの導出に係る情報と、を含み、
H’ 前記第2の方式では、
I’ 前記スキップフラグの値が1であれば第3の情報を符号化せず、
J 前記スキップフラグの値が0であれば第4の情報と残差を示す情報とを符号化し、
I1’ 前記第3の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグを含み、
J1’ 前記第4の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグと、前記第2の方式で用いる動きベクトルの導出に係る情報と、を含む
K 符号化装置。

【請求項2】
C’’ 前記複数の方式は、前記第1の方式および前記第2の方式と異なる第3の方式を含み、
L’ 前記第3の方式では、
M 前記スキップフラグの値が1であれば第5の情報を符号化し、
N 前記スキップフラグの値が0であれば第6の情報と残差を示す情報とを符号化し、
M1’ 前記第5の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグを含まず、前記第3の方式で用いる動きベクトルの導出に係る情報を含み、
N1’ 前記第6の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグと、前記第3の方式で用いる動きベクトルの導出に係る情報とを含む
O 請求項1に記載の符号化装置。

第3 当審拒絶理由
令和3年9月24日付けで通知した当審拒絶理由のうち、請求項1、2に記載されている発明に関するものは、概略以下のとおりである。

(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



1.本件発明
令和2年8月7日付け手続補正書により補正された本件出願の特許請求の範囲の請求項1、2は以下のとおりのものである。(下線は審判請求人により付されたものである。また、記号A〜N1は分説するために審判合議体が付した。以下、構成A〜N1等といい、請求項1に記載されている発明を「本件発明1」、請求項2に記載されている発明を「本件発明2」という。)

【請求項1】
A 回路と、
メモリとを備え、
前記回路は、前記メモリを用いて、
B 差分動きベクトルをストリームに符号化することなく、対象ブロックの周辺の符号化済みブロックから前記対象ブロックの動きベクトルを導出する複数の方式から一つの方式を選択し、選択した方式で導出された前記動きベクトルを用いて、前記対象ブロックを符号化する場合において、
C 前記複数の方式は、第1の方式および前記第1の方式と異なる第2の方式を含み、
D スキップフラグを符号化し、
E 前記第1の方式が選択された場合、
F 前記スキップフラグの値が1であれば第1の情報を符号化し、
G 前記スキップフラグの値が0であれば第2の情報と残差を示す情報とを符号化し、
F1、G1 前記第1の情報および前記第2の情報は、前記第1の方式が用いられるか否かを示すフラグと、前記第1の方式で用いる動きベクトルを示す情報と、を含み、
H 前記第2の方式が選択された場合、
I 前記スキップフラグの値が1であれば第3の情報を符号化し、
J 前記スキップフラグの値が0であれば第4の情報と残差を示す情報とを符号化し、
I1 前記第3の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグを含まず、前記第2の方式で用いる動きベクトルを示す情報を含み、
J1 前記第4の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグと、前記第2の方式で用いる動きベクトルを示す情報と、を含む
K 符号化装置。

【請求項2】
C’ 前記複数の方式は、第1の方式および前記第2の方式と異なる第3の方式を含み、
L 前記第3の方式が選択された場合、
M 前記スキップフラグの値が1であれば第5の情報を符号化し、
N 前記スキップフラグの値が0であれば第6の情報と残差を示す情報とを符号化し、
M1 前記第5の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグを含まず、前記第3の方式で用いる動きベクトルを示す情報を含み、
N1 前記第6の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグと、前記第3の方式で用いる動きベクトルとを示す情報を含む
L 請求項1に記載の符号化装置。

2.本件明細書、図面の記載
(1)本件発明1、2は差分動きベクトルをストリームに符号化することなく、対象ブロックの周辺の符号化済みブロックから前記対象ブロックの動きベクトルを導出する複数の方式から一つの方式を選択し、選択した方式で導出された動きベクトルを用いて対象ブロックを符号化するものであり、スキップフラグを符号化した後、上記複数の方式のいずれが選択されたかを判断し、スキップフラグの値に応じて所定の情報を符号化するものである。

(2)ここで、スキップフラグを符号化した後、上記複数の方式のいずれが選択されたかを判断し、スキップフラグの値に応じて所定の情報を符号化するものに関して、第1の例として、本件明細書【0170】〜【0178】及び図11、【0187】〜【0193】及び図13に、第2の例として、本件明細書【0195】〜【0198】及び図14、【0203】〜【0209】及び図16には以下の記載がある。(下線部は合議体が付した。以下同じ。)。

(2−1)第1の例について
「【0170】
[符号化装置のインター予測部の処理の第1の例]
図11は、符号化装置100に含まれるインター予測部126によるインター予測処理の第1の例を示すフローチャートである。図11に示す処理は、画面間予測処理の処理単位である予測ブロック単位で繰り返し行われる。
【0171】
インター予測モード情報は、処理対象の予測ブロックである対象ブロックのインター予測に用いられるインター予測モードを示す。
【0172】
インター予測モードは、複数のモードから選択可能であり、大きく分けて差分動きベクトル(MV)を符号化する方式と、差分動きベクトルを符号化しない方式とを含む。
【0173】
差分動きベクトルを符号化しない方式は、周辺の符号化済みブロックから動きベクトルを選択して取得するマージモードと、符号化済み領域間で探索を行うことで動きベクトルを取得するFRUCモードと、アフィン変換を想定して、対象ブロックを分割したサブブロック毎の動きベクトルを取得するアフィンモードとを含む。
【0174】
具体的には、インター予測モード情報が0を示す場合(S101で0)、インター予測部126は、マージモードにより動きベクトルを導出する(S102)。インター予測モード情報が1を示す場合(S101で1)、インター予測部126は、FRUCモードにより動きベクトルを導出する(S103)。インター予測モード情報が2を示す場合(S101で2)、インター予測部126は、アフィンモードにより動きベクトルを導出する(S104)。インター予測モード情報が3を示す場合(S101で3)、インター予測部126は、差分動きベクトルを符号化する方式により動きベクトルを導出する(S111)。
【0175】
差分動きベクトルを符号化しない方式では、ステップS102、S103、又はS104の後、インター予測部126は、値がゼロでない残差係数があるか否かを判定する(S105)。値がゼロでない残差係数がない場合(S105でNo)、インター予測部126は、スキップモードで対象ブロックを符号化する(S106)。一方、値がゼロでない残差係数がある場合(S105でYes)、インター予測部126は、非スキップモードで対象ブロックを符号化する(S108)。
【0176】
また、スキップモードが用いられる場合、及び非スキップモードが用いられる場合の両方において、インター予測部126は、予測画像の輝度補正処理(LIC処理)を適用するか否かを示す輝度補正処理信号を符号化する(S107又はS109)。また、非スキップモードの場合は必ず残差係数が存在するので、インター予測部126は、残差係数の有無を示す残差係数有無信号を符号化せずに、残差係数を示す残差係数情報を常に符号化する(S110)。
【0177】
一方、差分動きベクトルを符号化する方式が用いられる場合、ステップS111の後、インター予測部126は、常に対象ブロックを非スキップモードで符号化する(S112)。さらに、インター予測部126は、予測画像の輝度補正処理を適用するか否かを示す輝度補正処理信号を符号化する(S113)。また、値がゼロでない残差係数がある場合とない場合とが発生するため、インター予測部126は、残差係数有無信号を符号化する(S114)。また、インター予測部126は、値がゼロでない残差係数がある場合には(S115でYes)、残差係数情報を符号化し(S110)、値がゼロでない残差係数がない場合には(S115でNo)、残差係数情報を符号化しない。
【0178】
なお、スキップモードとは、例えば差分動きベクトルに関する信号(例えば差分動きベクトルを示す信号)及び残差係数に関する信号(例えば残差係数を示す信号)を符号化しないモードである。また、非スキップモードとは、例えば、差分動きベクトルに関する信号及び残差係数に関する信号のうち少なくとも一方を符号化し得るモードである。スキップモードと非スキップモードとのどちらを適用するかは、例えば、「skip_flag」などのシンタックスによって指定されてもよい。」

【図11】には以下の図がある。




「【0187】
[第1の例におけるシンタックス構成]
図13は、図11で説明した符号化装置100によって生成されたストリームのシンタックス構成の第1の例を示すシンタックス表である。
【0188】
まず、「skip_flag」によりスキップモードが用いられるか非スキップモードが用いられるかが指定される。
【0189】
スキップモードが用いられる場合は、さらに「fruc_mode」によりFRUCモードが用いられるか否かが指定される。FRUCモードが用いられない場合は、さらに「affine_flag」によりアフィンモードが用いられるか否かが指定される。アフィンモードが用いられない場合は、マージモードで参照する周辺ブロックを指定するための「merge_idx」が記述される。なお、いずれのモードが用いられる場合も予測画像の輝度補正処理を適用するか否かを示す「lic_flag」が記述される。
【0190】
非スキップモードが用いられる場合は、「merge_flag」により差分動きベクトルを符号化しない方式が用いられるか差分動きベクトルを符号化する方式が用いられるかが指定される。
【0191】
差分動きベクトルを符号化しない方式が用いられる場合は、さらに「fruc_mode」によりFRUCモードが用いられるか否かが指定される。FRUCモードが用いられない場合は、さらに「affine_flag」によりアフィンモードが用いられるか否かが指定される。アフィンモードが用いられない場合は、マージモードで参照する周辺ブロックを指定するための「merge_idx」が記述される。
【0192】
差分動きベクトルを符号化する方式が用いられる場合は、差分動きベクトルに関する情報である「MVD」が記述される。
【0193】
なお、いずれのモードが用いられる場合も予測画像の輝度補正処理を適用するか否かを示す「lic_flag」が記述される。さらに、差分動きベクトルを符号化しない方式が用いられない場合、値がゼロでない残差係数があるか否かを示す「root_cbf」が記述される。また、値がゼロでない残差係数があることが示される場合は残差係数情報である「residual」が記述される。」

【図13】には以下の図がある。




(2−2)第2の例について
「【0195】
[符号化装置のインター予測部の処理の第2の例]
図14は、符号化装置100に含まれるインター予測部126によるインター予測処理の第2の例を示すフローチャートである。
【0196】
差分動きベクトルを符号化しない方式のうちのアフィンモード以外のマージモード又はFRCU(合議体による注:これはFRUCの誤記と考えられる)モードが用いられる場合(S101で0又は1)、図11に示す処理と同様に、インター予測部126は、値がゼロでない残差係数があるか否かを判定し(S105)、値がゼロでない残差係数がない場合(S105でNo)、スキップモードで対象ブロックを符号化し(S106)、値がゼロでない残差係数がある場合(S105でYes)、非スキップモードで対象ブロックを符号化する(S108)。また、スキップモードが用いられる場合、及び非スキップモードが用いられる場合の両方において、インター予測部126は、輝度補正処理信号を符号化する(S107及びS109)。また、非スキップモードの場合は、インター予測部126は、残差係数有無信号を符号化せずに常に残差係数情報を符号化する(S110)。
【0197】
図14に示す処理では、図11に示す処理と異なり、アフィンモードが用いられる場合に、差分動きベクトルを符号化する方式が用いられる場合と同様の動作が行われる。
【0198】
つまり、差分動きベクトルを符号化する方式が用いられる場合と、差分動きベクトルを符号化しない方式のうちのアフィンモードが用いられる場合(S101で2又は3)、インター予測部126は、常に非スキップモードで対象ブロックを符号化し(S112)、輝度補正処理信号を符号化する(S113)。また、インター予測部126は、残差係数有無信号を符号化し(S114)、値がゼロでない残差係数がある場合(S115でYes)には残差係数情報を符号化する(S110)。」

【図14】には以下の図がある。





「【0203】
[第2の例におけるシンタックス構成]
図16は、図14で説明した符号化装置100によって生成されたストリームのシンタックス構成の第2の例を示すシンタックス表である。
【0204】
まず、「skip_flag」によりスキップモードが用いられるか非スキップモードが用いられるかが指定される。
【0205】
スキップモードが用いられる場合は、さらに「fruc_mode」によりFRUCモードが用いられるか否かが指定される。FRUCモードが用いられない場合は、マージモードで参照する周辺ブロックを指定するための「merge_idx」が記述される。なお、いずれのモードが用いられる場合も予測画像の輝度補正処理を適用するか否かを示す「lic_flag」が記述される。
【0206】
非スキップモードが用いられる場合は、「merge_flag」により差分動きベクトルを符号化しない方式が用いられるか差分動きベクトルを符号化する方式が用いられるかが指定される。
【0207】
差分動きベクトルを符号化しない方式が用いられる場合は、さらに「fruc_mode」によりFRUCモードが用いられるか否かが指定される。FRUCモードが用いられない場合は、さらに「affine_flag」によりアフィンモードが用いられるか否かが指定される。アフィンモードが用いられない場合は、マージモードで参照する周辺ブロックを指定するための「merge_idx」が記述される。
【0208】
差分動きベクトルを符号化する方式が用いられる場合は、差分動きベクトルに関する情報である「MVD」が記述される。
【0209】
なお、いずれのモードが用いられる場合も予測画像の輝度補正処理を適用するか否かを示す「lic_flag」が記述される。さらに、差分動きベクトルを符号化しない方式が用いられない場合、又は、差分動きベクトルを符号化しない方式のうちのアフィンモードが用いられる場合、値がゼロでない残差係数があるか否かを示す「root_cbf」が記述される。値がゼロでない残差係数があることが示される場合は残差係数情報である「residual」が記述される。」

【図16】には以下の図がある。




(3)また、上記(2−1)の第1の例に関連して、【0194】には、
「しかし、図11から図13を用いて説明した第1の例の処理を用いた場合、スキップモードが選択された場合に、「fruc_mode」、「affine_flag」、「merge_idx」、及び「lic_flag」の記述が必要である。これにより、例えば低レートの符号化条件等で多数のスキップモードを用いて符号化する際に、ストリームに記述されるシンタックスの個数が多くなることで、符号化効率が劣化してしまう可能性がある。特にアフィンモード、及び予測画像の輝度補正処理では、値がゼロでない残差係数が発生する可能性が高いため、スキップモードで無駄に「affine_flag」及び「lic_flag」を記述しなくてはならい弊害が大きくなりやすい。またシンタックスを制御するための回路が複雑になってしまう弊害も発生する可能性がある。」という記載が、
(4)上記第2の例に関して、【0210】には、
「[第2の例の効果]
第2の例によれば、スキップモードが選択された場合に、「fruc_mode」、「merge_idx」、「lic_flag」の記述が必要となる。よって、例えば低レートの符号化条件等で多数のスキップモードを用いて符号化する際に、ストリームに記述されるシンタックスの個数が図11から図13を用いて説明した第1の例よりも少なくなる。これにより、符号化効率を向上することができる可能性がある。特にアフィンモードでは、値がゼロでない残差係数が発生する可能性が高いため、スキップモードで「affine_flag」を記述しないことによる符号量削減効果が大きくなりやすい。またシンタックスを制御するための回路をより簡略化させることができる可能性がある。」
という記載がある。

3.判断
(1)審判請求人が審判請求書の「4.補正の内容」において、「請求項1及び9の補正は、図14、図16、段落[0103]、[0121]、[0205]−[0207]等に基づきます。請求項2の補正は、図14、図16、段落[0103]、[0121]、[0205]−[0207]等に基づきます。」と説明しており、「5.本願発明が特許されるべき理由」の「5−1.第36条第6項第1号(サポート要件)について」において、本件発明1の「第1の方式」が「FRUCモード」、「第2の方式」が「アフィンモード」に、本件発明2の「第3の方式」が「マージモード」に、それぞれ対応する旨の説明をしている。
そこで、まず本件発明1の構成A〜Kと、上記2.(3)及び(4)の課題を解決するものに関連し、上記請求人が補正の根拠であると主張する図14、図16、【0205】〜【0207】を含む、上記2.(2−2)の第2の例、すなわち、[符号化装置のインター予測部の処理の第2の例]である【0195】〜【0198】及び図14、並びに[第2の例におけるシンタックス構成]である【0203】〜【0209】及び図16、との対応について検討する。

(1−1)審判請求人の、「第2の方式」が「アフィンモード」に対応する旨の説明を踏まえると、本件発明1の構成Dを踏まえた構成H、I、I1は、
スキップフラグを符号化し、アフィンモードが選択された場合、スキップフラグの値が1であれば第3の情報を符号化するものであって、前記第3の情報は、アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグを含まず、アフィンモードで用いる動きベクトルを示す情報を含む、
というものである。

ところが、【0203】〜【0209】及び図16には、スキップフラグを符号化した後、アフィンモードが選択された場合であって、スキップフラグが1の場合(スキップモードが選択された場合)にアフィンモードが選択されることについては何も開示されていない。
また、【0210】に「スキップモードが選択された場合に、「fruc_mode」、「merge_idx」、「lic_flag」の記述が必要となる。」、「アフィンモードでは、値がゼロでない残差係数が発生する可能性が高いため、スキップモードで「affine_flag」を記述しないことによる符号量削減効果が大きくなりやすい。」という記載があるが、これは、スキップフラグを符号化し、スキップフラグの値が1であった場合(スキップモードの場合)、アフィンモードであるかどうかを示すフラグの記述が不要であり符号化されないことを意味するものであり、スキップモードの場合であって、アフィンモードが選択される場合があることを意味するものではない。
さらに、【0195】〜【0198】及び図14の記載では、スキップモードの場合であって、アフィンモードが選択されることはない(S104の場合、S112が行われることから、アフィンモードが選択される場合は必ず非スキップモードになる)。

そして、スキップモードの場合であって、アフィンモードが選択されることは開示されていない以上、第3の情報が符号化されることも開示されていない。

以上のことから、本件発明1の構成Dを踏まえた構成H、I、I1は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではない。

この点について、審判請求人が審判請求書の「5.本願発明が特許されるべき理由」の「5−1.第36条第6項第1号(サポート要件)について」の(1)の最後に、
「そのため、図16のシンタックスにおいて、スキップモードでのアフィンモードは記載されていないことは、上記の請求項1の記載に対応していると思料致します。
以上により、「前記第3の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグを含まず」という記載も実施例の何に対応するのか明確であると思料致します。」
と主張している。
しかしながら、図16からは、スキップモードが選択された場合に(すなわち、スキップモードでの)アフィンモードであるかどうかを示すフラグが存在しないことが読み取れるにすぎない。
すなわち、上記主張は、本件発明1の構成D,H、Iから把握される、スキップモードであって、かつアフィンモードが選択された場合を前提とするものではなく、本件発明1の構成I1の前提となる、構成D、H、Iを無視して、構成I1のみを断片的に切り出して図16と対応付けを行ったことによりなされているものである。
換言すれば、上記主張は本件発明1の構成D、H、Iを前提とした上で、構成I1と図16を対応付けたものではなく、本件発明1全体の記載に基づくものではない。

(中略)

(2)次に、審判請求人の(1)における説明を踏まえ、本件発明2の構成L〜N1と【0203】〜【0209】及び図16、さらには【0195】〜【0198】及び図14(上記2.(2−2)の第2の例)との対応について検討する。

(2−1)審判請求人の、「第3の方式」が「マージモード」に対応する旨の説明を踏まえると、本件発明の構成D1、本件発明2の構成Lを前提とした本件発明2の構成M、M1は、
スキップフラグを符号化し、マージモードが選択された場合、スキップフラグの値が1であれば第5の情報を符号化するものであって、前記第5の情報は、アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグを含まず、マージモードで用いる動きベクトルを示す情報を含む、
というものである。

ここで、【0195】〜【0198】及び図14の記載では、スキップモードの場合であって、マージモードが選択される場合については、S102の場合であって、S105がNOとなる場合、S106が行われるが、これがスキップモードであって、マージモードが選択される場合として、記載されているということができる。
しかしながら、マージモードで用いる動きベクトルが符号化されるかどうかについては何ら記載されていない。

また、【0203】〜【0209】及び図16の記載から、スキップフラグを符号化した後、マージモードが選択された場合であって、スキップフラグが1の場合にマージモードが選択されることについて検討する。
【0205】には「FRUCモードが用いられない場合は、マージモードで参照する周辺ブロックを指定するための「merge_idx」が記述される」、「なお、いずれのモードが用いられる場合も予測画像の輝度補正処理を適用するか否かを示す「lic_flag」が記述される」と記載されており、図16からは、skip_flagが1になってfruc_modeが0になる場合には、merge_idxが符号化されることが読み取れる。
これらを総合すると、スキップフラグが1の場合であって、FRUCモードが用いられない場合は、必然的にマージモードが用いられる場合になり、この場合merge_idxが符号化されるといえる。
この場合、affine_flagは符号化されていないので、「前記第5の情報は」「アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグを含まず」という条件を満たす。
しかしながら、merge_idxはマージモードで参照する周辺ブロックを指定するにとどまり、動きベクトルを示す情報とはいえない。また、他に【0203】〜【0209】及び図16には、マージモードで用いる動きベクトルを示す情報を符号化することに関連する記載は見当たらない。

そうすると、本件発明1の構成Dを踏まえた本件発明2の構成L、M、M1について、特に「前記第5の情報は」「マージモードで用いる動きベクトルを示す情報を含む」ことは、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではない。

(中略)

(3)(1)(2)から、本件発明1の「第1の方式」が「FRUCモード」、「第2の方式」が「アフィンモード」に、本件発明2の「第3の方式」が「マージモード」に、それぞれ対応させた場合、本件発明1、2のいずれも本件明細書の発明の詳細な説明及び図面には記載されていない。

(4)上記2.(3)においても示したが、【0194】、【0210】の記載によれば、スキップモードで符号化する場合、アフィンモードでは残差係数が発生する可能性が高いことから、「affine_flag」を記述しないことによる符号量削減を行いたいというのが、本件発明1が解決すべき課題と考えられ、第2の例では上記2.(3)の課題を解決し(4)の効果を奏するものに関連する実施例が記載されているところではあるが、(1)〜(3)のとおり、本件発明1、2の記載は上記第2の例に関する実施例には裏付けられていない。

(5)次に、上記2.(3)の課題を解決し(4)の効果を奏するものにはつながらない、上記2.(2−1)の第1の例、すなわち、[符号化装置のインター予測部の処理の第1の例]である【0170】〜【0178】及び図11、並びに[第1の例におけるシンタックス構成]である【0187】〜【0193】及び図13と、本件発明1、2との対応について検討する。

(5−1)【0174】のS104でアフィンモードとなり、【0175】のS106でスキップモードとなる場合が、構成Hの「第2の方式が選択された場合」であって、構成Iの「スキップフラグの値が1であ」る場合であり、第3の情報が符号化される。
この場合、構成I1によれば、第2の方式、すなわちアフィンモードが用いられるか否かを示すフラグは符号化されないことになる。
ところが、図13によれば、スキップモードかつアフィンモードになる場合、アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグaffine_flagは必ず符号化される。
以上のことから、本件発明1の構成D、H、Iを踏まえた構成I1は、(1−1)の議論と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではない。

(中略)

(5−3)さらに、【0174】のS102でマージモードとなり、【0176】のS106でスキップモードとなる場合が、本件発明2の構成Lの「第3の方式が選択された場合」であって、構成Mの「スキップフラグの値が1であ」る場合であり、第5の情報が符号化される。
この場合、構成M1によれば、第2の方式、すなわちアフィンモードが用いられるか否かを示すフラグは符号化されないことになる。
ところが、図13によれば、スキップモードかつマージモードになる場合とは、skip_flagが1となり、merge_idxが用いられる場合(すなわちfruc_mode,affine_flagの両者が0になる場合)であるが、このときアフィンモードが用いられるか否かを示すフラグaffine_flagは必ず符号化される。
以上のことから、本件発明1の構成D、本件発明2の構成L、Mを踏まえた構成M1は、(1−1)、(5−1)の議論と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面には記載されていない。

(中略)

(6)さらに、本件明細書及び図面のその他の記載と、本件発明1、2との対応について検討しても、同様に本件発明1、2の構成は、本件明細書及び図面のその他の記載には裏付けられていない、

(7)加えて、(1)の前提となる「第1(2,3)の方式」と各モードを入れ替えて、(中略)本件発明1、2と本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載の事項とを対応させて検討しても、(1)〜(6)の議論と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面には、本件発明1、2のいずれも記載されていない。

第4 当審拒絶理由が解消したか否かの検討及び判断
1.明細書および図面の記載事項
(1)本件補正発明1、2は差分動きベクトルをストリームに符号化することなく、対象ブロックの周辺の符号化済みブロックから前記対象ブロックの動きベクトルを導出する複数の方式から一つの方式を選択し、選択した方式で導出された動きベクトルを用いて対象ブロックを符号化するものであり、スキップフラグを符号化した後、上記複数の方式のいずれが選択されたかを判断し、スキップフラグの値に応じて所定の情報を符号化するものである。

(2)ここで、スキップフラグを符号化した後、上記複数の方式のいずれが選択されたかを判断し、スキップフラグの値に応じて所定の情報を符号化するものに関して、第1の例として、本件明細書【0170】〜【0178】及び図11、【0187】〜【0193】及び図13に、第2の例として、本件明細書【0195】〜【0198】及び図14、【0203】〜【0209】及び図16には、上記第3の2(2−1)、2(2−2)において示したとおりの記載がある。
また、第1の例に関連して、【0194】には上記第3の2(3)において示したとおりの記載が、第2の例に関連して、【0210】には上記第3の2(4)において示したとおりの記載が、それぞれある。

2.判断
(1)審判請求人が令和3年12月23日付け意見書の「2.補正の内容」において、「請求項1、4、8及び9の補正は、段落[0105]、[0114]、[0125]及び[0210]等に基づきます。
請求項2及び5の補正は、段落[0127]及び[0130]等に基づきます。」
と説明している。
さらに、審判請求人が審判請求書の「5.本願発明が特許されるべき理由」の「5−1.第36条第6項第1号(サポート要件)について」において、上記第3の3(1)と同様に、本件発明1の「第1の方式」が「FRUCモード」、「第2の方式」が「アフィンモード」に、本件発明2の「第3の方式」が「マージモード」に、それぞれ対応する旨の説明をしており、本件補正発明の「第1(2、3)の方式」と各種モードの対応付けについては、上記意見書において新たな説明はなされていない。

(1−1)そこで、まず本件補正発明1の発明特定事項A〜Kと、請求人が本件補正の根拠であると主張する【0105】、【0114】、【0125】、【0210】、および上記第3の2(2)において示した、第1の例である、本件明細書【0170】〜【0178】及び図11、【0187】〜【0193】及び図13、ならびに、第2の例である、本件明細書【0195】〜【0198】及び図14、【0203】〜【0209】及び図16、の記載との対応について検討する。

(1−2)審判請求人の、「第2の方式」が「アフィンモード」に対応する旨の説明を踏まえると、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた構成H’、I’、I1’は、
スキップフラグを符号化し、アフィンモードでは、スキップフラグの値が1であれば第3の情報を符号化せず、前記第3の情報は、アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグを含む、
というものである。

ここで、本件明細書【0105】、【0114】、【0125】には以下の記載がある。
「【0105】
そして、選択された候補の動きベクトルに基づいて、カレントブロックのための動きベクトルが導出される。具体的には、例えば、選択された候補の動きベクトル(ベスト候補MV)がそのままカレントブロックのための動きベクトルとして導出される。また例えば、選択された候補の動きベクトルに対応する参照ピクチャ内の位置の周辺領域において、パターンマッチングを行うことにより、カレントブロックのための動きベクトルが導出されてもよい。すなわち、ベスト候補MVの周辺の領域に対して同様の方法で探索を行い、さらに評価値が良い値となるMVがあった場合は、ベスト候補MVを前記MVに更新して、それをカレントブロックの最終的なMVとしてもよい。なお、当該処理を実施しない構成とすることも可能である。」

「【0114】
このようなFRUCモードを適用するか否かを示す情報(例えばFRUCフラグと呼ばれる)は、CUレベルで信号化される。また、FRUCモードが適用される場合(例えばFRUCフラグが真の場合)、パターンマッチングの方法(第1パターンマッチング又は第2パターンマッチング)を示す情報(例えばFRUCモードフラグと呼ばれる)がCUレベルで信号化される。なお、これらの情報の信号化は、CUレベルに限定される必要はなく、他のレベル(例えば、シーケンスレベル、ピクチャレベル、スライスレベル、タイルレベル、CTUレベル又はサブブロックレベル)であってもよい。」

「【0125】
このようなアフィン動き補償予測モードでは、左上及び右上角制御ポイントの動きベクトルの導出方法が異なるいくつかのモードを含んでもよい。このようなアフィン動き補償予測モードを示す情報(例えばアフィンフラグと呼ばれる)は、CUレベルで信号化される。なお、このアフィン動き補償予測モードを示す情報の信号化は、CUレベルに限定される必要はなく、他のレベル(例えば、シーケンスレベル、ピクチャレベル、スライスレベル、タイルレベル、CTUレベル又はサブブロックレベル)であってもよい。」

これらの記載には本件補正発明1、2の第1(2、3)の方式でのスキップフラグに関する記述は存在しない。

次に、【0203】〜【0209】及び図16の記載を踏まえた第2の例では、アフィンモードでは、スキップモードになることはない、すなわち、アフィンモードであって、スキップフラグの値が1になることは何も開示されていない。
また、【0210】に「スキップモードが選択された場合に、「fruc_mode」、「merge_idx」、「lic_flag」の記述が必要となる。」、「アフィンモードでは、値がゼロでない残差係数が発生する可能性が高いため、スキップモードで「affine_flag」を記述しないことによる符号量削減効果が大きくなりやすい。」という記載があるが、これは、スキップフラグを符号化し、スキップフラグの値が1であった場合、アフィンモードであるかどうかを示すフラグaffine_flagの記述が不要であり符号化されないことを意味するものであり、アフィンモードであって、スキップフラグが1になる場合があることを意味するものではない。

さらに、【0195】〜【0198】及び図14の記載を踏まえた第1の例でも、アフィンモードであって、スキップフラグの値が1になることは何も開示されていない(S104の場合、S112が行われることから、アフィンモードが選択される場合は必ず非スキップモードになり、スキップフラグの値は0である)。

以上から、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載からは、アフィンモードであって、スキップフラグの値が1になることはありえない。

そして、アフィンモードでは、スキップフラグが1の値になることはありえない以上、当然にアフィンモードでは、スキップフラグが1である場合の何らの処理も存在しないといえる。

しかしながら、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項H’、I’、I1’は、上記のとおり、
スキップフラグを符号化し、アフィンモードでは、スキップフラグの値が1であれば第3の情報を符号化せず、前記第3の情報は、アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグを含む、
としか特定されていない、すなわち、アフィンモードでは、スキップフラグの値が1であることを前提としており、その上で、アフィンモードでスキップフラグの値が1であれば(アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグを符号化する処理が行われないだけで)、その他何らかの処理を行うことを包含している。

そうすると、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項H’、I’、I1’は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではないといえる。

(2)上記(1)のとおり、審判請求人が審判請求書の「5.本願発明が特許されるべき理由」において説明する、「第1の方式」がFRUCモード、「第2の方式」がアフィンモード、「第3の方式」がマージモードである場合については、本件補正発明1は本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではないことがいえるが、念のため、審判請求人の上記説明とは異なる場合、すなわち「第1(2、3)の方式」と各モードの対応関係を入れ替えて、
本件補正発明1、2の「第1の方式」「第2の方式」「第3の方式」を、それぞれ
(a)「FRUCモード」「マージモード」「アフィンモード」
(b)「アフィンモード」「マージモード」「FRUCモード」
(c)「アフィンモード」「FRUCモード」「マージモード」
(d)「マージモード」「アフィンモード」「FRUCモード」
(e)「マージモード」「FRUCモード」「アフィンモード」
に対応させて、本件補正発明1、2と本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載の事項との対応関係を元に、本件補正発明1、2が本件明細書の発明の詳細及び図面に記載されているかどうかについて検討する。

(2−1)第2の方式が「マージモード」の場合(上記(a)(b)の場合)
この場合、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項H’、I’、I1’は、
スキップフラグを符号化し、マージモードでは、スキップフラグの値が1であれば、マージモードが用いられるか否かを示すフラグを符号化しない
という事項と読み替えることができる。
しかしながら、図13、図16のいずれもスキップフラグを符号化し、スキップフラグの値が0(if(skip_flag)のelse節)の場合、merge_flagを符号化している。
さらに、第1の例である、本件明細書【0170】〜【0178】及び図11、【0187】〜【0193】及び図13、ならびに、第2の例である、本件明細書【0195】〜【0198】及び図14、【0203】〜【0209】及び図16の他の箇所をみても、「スキップフラグを符号化し、マージモードでは、スキップフラグの値が1であれば、マージモードが用いられるか否かを示すフラグを符号化しない」ことを裏付ける記載は見当たらない。
すなわち、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項H’、I’、I1’は本件明細書の発明の詳細な説明及び図面中には裏付けられていない。

(2−2)第1の方式がマージモードの場合(上記(d)(e)の場合)
この場合、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項E’、F1’は、
スキップフラグを符号化し、マージモードでは、スキップフラグの値が1であれば、マージモードが用いられるか否かを示すフラグと、マージモードで用いる動きベクトルの導出に係る情報を符号化する
という事項と読み替えることができる。
しかしながら、図13、図16のいずれもスキップフラグを符号化し、スキップフラグの値が1(if(skip_flag)の節)の場合、merge_flagを符号化していない。
さらに、第1の例である、本件明細書【0170】〜【0178】及び図11、【0187】〜【0193】及び図13、ならびに、第2の例である、本件明細書【0195】〜【0198】及び図14、【0203】〜【0209】及び図16の他の箇所をみても、「スキップフラグを符号化し、マージモードでは、スキップフラグの値が1であれば、マージモードが用いられるか否かを示すフラグを符号化する」ことを裏付ける記載は見当たらない。
すなわち、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項E’、F1’は本件明細書の発明の詳細な説明及び図面中には記載されていない。

(2−3)「第1の方式」が「アフィンモード」、「第2の方式」が「FRUCモード」、「第3の方式」が「マージモード」の場合(上記(c)の場合)
この場合、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項E’、F1’は、
スキップフラグを符号化し、アフィンモードでは、スキップフラグの値が1であれば、アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグと、アフィンモードで用いる動きベクトルの導出に係る情報を符号化する
という事項と読み替えることができる。

(2−3−1)そこで、まず上記第3の2(3)に記載される、「特にアフィンモード、及び予測画像の輝度補正処理では、値がゼロでない残差係数が発生する可能性が高いため、スキップモードで無駄に「affine_flag」及び「lic_flag」を記述しなくてはならない弊害が大きくなりやすい」という課題を解決している、上記第3の2(4)の第2の例について検討する。
第2の例における図16の場合、スキップフラグを符号化し、スキップフラグの値が1(if(skip_flag)の節)の場合、affine_flagを符号化していない。
さらに、第2の例である、本件明細書【0195】〜【0198】及び図14、【0203】〜【0209】及び図16の他の箇所をみても、「スキップフラグを符号化し、アフィンモードでは、スキップフラグの値が1であれば、アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグを符号化する」ことを裏付ける記載は見当たらない。
すなわち、本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項E’、F1’は上記第2の例に関する実施形態には記載されていない。

(2−3−2)次に、上記第3の2(3)に記載されている課題の解決に寄与しない実施形態である、第1の例について検討する。
第1の例における図13の場合、スキップフラグを符号化し、スキップフラグの値が1(if(skip_flag)の節)の場合、fruc_modeというフラグを符号化し、この値が0(if(!fruc_mode)が真)の場合、affine_flagを符号化している。
そうすると、スキップフラグを符号化し、アフィンモードでは、スキップフラグの値が1であれば、アフィンモードが用いられるか否かを示すフラグが符号化されることがあり得るということはでき、本件補正発明1の発明特定事項を踏まえた発明特定事項E’、F1’が裏付けられている場合もあり得るとはいえる。

そこで、この場合について、本件補正発明2の発明特定事項L’、M、M1’について検討する。
第2の方式が「FRUCモード」、第3の方式が「マージモード」の場合、本件補正発明2の発明特定事項L’、M、M1’により特定される事項は、
マージモードでは、スキップフラグの値が1であれば、FRUCモードが用いられるか否かを示すフラグを符号化せず、マージモードで用いる動きベクトルの導出に係る情報を符号化する
というものである。

第1の例における図13の場合、スキップフラグの値が1(if(skip_flag)の節)の場合、fruc_modeというフラグをマージモードであるか否かに関わらず必ず符号化することになる。
さらに、第1の例である、本件明細書【0170】〜【0178】及び図11、【0187】〜【0193】及び図13の他の箇所をみても、「マージモードでは、スキップフラグを符号化し、スキップフラグの値が1であれば、FRUCモードが用いられるか否かを示すフラグを符号化しない」ことを裏付ける記載は見当たらない。
すなわち、本件補正発明2の発明特定事項L’、M、M1’は上記第1の例に関する実施形態には記載されていない。

したがって、(2−3−1)より、本件明細書に記載される課題を解決する手段が裏付けられた第2の例における本件補正発明1の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項E’、F1’は本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されていない。
また、(2−3−2)より、本件明細書に記載される課題の解決に寄与しない場合の実施形態である第1の例を考慮した場合でも、本件補正発明2の発明特定事項L’、M、M1’は本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されていない。

(2−4)小括
(2−1)、(2−2)より、本件補正発明1において、
「第2の方式」として「マージモード」を当てはめた場合(この場合、「第1の方式」として「アフィンモード」、第3の方式として「FRUCモード」をそれぞれ当てはめるか、または、「第1の方式」として「FRUCモード」を、「第3の方式」として「アフィンモード」をそれぞれ当てはめることになる)、
または「第1の方式」として「マージモード」を当てはめた場合(この場合、「第2の方式」として「アフィンモード」、「第3の方式」として「FRUC」モードをそれぞれ当てはめるか、または、「第2の方式」として「FRUCモード」、第3の方式として「アフィンモード」をそれぞれ当てはめることになる)
のいずれの場合においても、上記本件補正発明1は、本件明細書の発明の詳細及び図面に記載されたものではない。

さらに、(2−3)より、本件補正発明1、2における「第1の方式」として「アフィンモード」、「第2の方式」として「FRUCモード」、「第3の方式」として「マージモード」を当てはめた場合について、
(2−3−1)より、本件明細書に記載される課題を解決する実施形態である第2の例について検討すると、本件補正発明1は本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではなく、
(2−3−2)より、本件明細書に記載される課題を解決するものではない第1の例について検討すると、本件補正発明2は本件明細書の発明の詳細に記載されたものではない。
すなわち、本件補正発明1、2における「第1の方式」として「アフィンモード」、「第2の方式」として「FRUCモード」、「第3の方式」として「マージモード」を、それぞれ当てはめた場合において、本件補正発明1または本件補正発明2の少なくとも1つは、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではない。

したがって、本件補正発明1、2における「第1の方式」、「第2の方式」、「第3の方式」として、審判請求人が審判請求書の「5.本願発明が特許されるべき理由」において説明する場合(「第1の方式」がFRUCモード、「第2の方式」がアフィンモード、「第3の方式」がマージモードである場合)以外の場合について、本件補正発明1または本件補正発明2の少なくとも1つは、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されていないといえる。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年12月23日付意見書の「3.本願が特許されるべき理由」の(2−1)において、以下の主張を行っている。

「(2−1)上記1.[第1](1)(1−1)について
補正後の本件発明1では、段落[0210]に記載の「アフィンモードでは、スキップモードで「affine_flag」を記述しない」に基づいて、「前記第2の方式が選択された場合、前記スキップフラグの値が1であれば第3の情報を符号化し、」を、「前記第2の方式では、前記スキップフラグの値が1であれば第3の情報を符号化せず、」に補正しました。
また、補正後の本件発明1では、段落[0125]に記載の「このようなアフィン動き補償予測モードでは、左上及び右上角制御ポイントの動きベクトルの導出方法が異なるいくつかのモードを含んでもよい。このようなアフィン動き補償予測モードを示す情報(例えばアフィンフラグと呼ばれる)は、CUレベルで信号化される」に基づいて、「前記第3の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグを含まず、前記第2の方式で用いる動きベクトルを示す情報を含み」を、「前記第3の情報は、前記第2の方式が用いられるか否かを示すフラグを含み、」に補正しました。
これにより、補正後の本件発明1について、本件発明1の構成Dを踏まえた構成H、I、I1は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではないとのご指摘が解消されたと思料致します。したがって、補正後の本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものであると思料致します。」

そこで、本件明細書について検討するに、本件明細書【0210】には以下の記載がある。
「【0210】
[第2の例の効果]
第2の例によれば、スキップモードが選択された場合に、「fruc_mode」、「merge_idx」、「lic_flag」の記述が必要となる。よって、例えば低レートの符号化条件等で多数のスキップモードを用いて符号化する際に、ストリームに記述されるシンタックスの個数が図11から図13を用いて説明した第1の例よりも少なくなる。これにより、符号化効率を向上することができる可能性がある。特にアフィンモードでは、値がゼロでない残差係数が発生する可能性が高いため、スキップモードで「affine_flag」を記述しないことによる符号量削減効果が大きくなりやすい。またシンタックスを制御するための回路をより簡略化させることができる可能性がある。」
上記【0210】(特に下線部)は、「アフィンモードでは、値がゼロでない残差係数が発生する可能性が高いため、スキップモードで「affine_flag」を記述しないことによる符号量削減効果が大きくなりやすい」という記載があるにすぎない。
この記載は、アフィンモードでは残差係数の値がゼロでない可能性が高いことから、残差係数がゼロになるスキップモードでは(残差係数がゼロでない可能性が高いモードである)アフィンモードになるかどうかをチェックする必要はない(第2の例に関連する図14を見ても、スキップモードになる場合、アフィンモードになることはあり得ない)のだから、アフィンモードであるかどうかを示すaffine_flagをわざわざ記述する必要はないということを説明しているにすぎない。
すなわち、本件明細書【0210】に記載されているのは、審判請求人が主張するような、アフィンモードではスキップフラグの値が1となる(スキップモードとなる)場合があることを前提とした上での「アフィンモードでは、スキップフラグの値が1であれば「affine_flag」を記述しない」という事項とは異なるものである。

以上のことから、本件明細書【0210】は本件補正発明の発明特定事項Dを踏まえた発明特定事項H’、I’、I1’を裏付けるものではなく、審判請求人の上記主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のとおり、(1)より本件補正発明1における「第1の方式」として「FRUCモード」を、「第2の方式」として「アフィンモード」を、「第3の方式」として「マージモード」を、それぞれ当てはめた場合における上記本件補正発明1は、本件明細書の発明の詳細及び図面に記載されたものではない。
また、(2−1)、(2−2)より、本件補正発明1における「第2の方式」として「マージモード」を当てはめた場合(この場合、「第1の方式」として「アフィンモード」、第3の方式として「FRUCモード」をそれぞれ当てはめるか、または、「第1の方式」として「FRUCモード」を、「第3の方式」として「アフィンモード」をそれぞれ当てはめることになる)、
または「第1の方式」として「マージモード」を当てはめた場合(この場合、「第2の方式」として「アフィンモード」、「第3の方式」として「FRUC」モードをそれぞれ当てはめるか、または、「第2の方式」として「FRUCモード」、第3の方式として「アフィンモード」をそれぞれ当てはめることになる)
のいずれの場合においても、上記本件補正発明1は、本件明細書の発明の詳細及び図面に記載されたものではない。
さらに、(2−3)より、本件補正発明1、2における「第1の方式」として「アフィンモード」、「第2の方式」として「FRUCモード」、「第3の方式」として「マージモード」を、それぞれ当てはめた場合における上記本件補正発明1または本件補正発明2のいずれかは、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されたものではない。

すなわち、本件補正発明1、2における「第1の方式」、「第2の方式」、「第3の方式」として、本件明細書に記載される当該方式の候補である「FRUCモード」、「アフィンモード」、「マージモード」の組み合わせをどのように選択しても、本件補正発明1または本件補正発明2の少なくとも1つは、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されていないといえる。

第5 むすび
以上のとおり、本件補正発明1または本件補正発明2のうちの少なくとも1つは、発明の詳細な説明及び図面には記載されておらず、本件出願は特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない。

したがって、本件出願は、拒絶をすべきものである。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 五十嵐 努
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-02-08 
結審通知日 2022-02-15 
審決日 2022-03-08 
出願番号 P2019-526816
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H04N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 川崎 優
樫本 剛
発明の名称 符号化装置、復号装置、符号化方法及び復号方法  
代理人 新居 広守  
代理人 道坂 伸一  
代理人 寺谷 英作  

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