• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1387752
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-22 
確定日 2022-08-12 
事件の表示 特願2019−230644「フルオロポリマー組成物、成形品および射出成形品」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月 2日出願公開、特開2020−100823〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
本願は、令和1年12月20日(優先権主張 平成30年12月21日 (JP)日本)を出願日とする出願であって、その出願の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 2年 3月11日付け:拒絶理由通知
同年 5月15日受付:手続補正書及び意見書の提出
同年 7月31日付け:拒絶査定
同年10月22日受付:審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和3年10月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年10月22日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1〜9の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位とフルオロアルキルビニルエーテル単位とを含有する共重合体、および、導電性炭素化合物を含有するフルオロポリマー組成物であって、
前記フルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、前記共重合体を構成する全単量体単位に対して、5.5〜7.0質量%であり、
前記フルオロポリマー組成物の体積抵抗率が、104〜109Ω・cmであり、
前記フルオロポリマー組成物のメルトフローレートが、1〜100g/10分であるフルオロポリマー組成物。
【請求項2】
前記共重合体が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位のみからなる共重合体、ならびに、テトラフルオロエチレンおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10質量%であり、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位が合計で90〜99.9質量%である共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項3】
前記導電性炭素化合物が、導電性カーボンブラックおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項4】
前記導電性炭素化合物の含有量が、前記フルオロポリマー組成物に対して、0.02〜15質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフルオロポリマー組成物を成形することにより得られる成形品。
【請求項6】
最大の投影面積が1000cm2以上である請求項5に記載の成形品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のフルオロポリマー組成物を射出成形することにより得られる射出成形品。
【請求項8】
射出方向の投影面積が1000cm2以上である請求項7に記載の射出成形品。
【請求項9】
請求項5または6に記載の成形品、もしくは請求項7または8に記載の射出成形品からなるウェハーカップ。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1〜8の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位とフルオロアルキルビニルエーテル単位とを含有する共重合体、および、導電性炭素化合物を含有するフルオロポリマー組成物であって、
前記共重合体が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位のみからなる共重合体、ならびに、テトラフルオロエチレンおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10質量%であり、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位が合計で90〜99.9質量%である共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記フルオロアルキルビニルエーテル単位が、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記フルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、前記共重合体を構成する全単量体単位に対して、5.5〜7.0質量%であり、
前記フルオロポリマー組成物の体積抵抗率が、104〜109Ω・cmであり、
前記フルオロポリマー組成物のメルトフローレートが、1〜100g/10分であるフルオロポリマー組成物。
【請求項2】
前記導電性炭素化合物が、導電性カーボンブラックおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項3】
前記導電性炭素化合物の含有量が、前記フルオロポリマー組成物に対して、0.02〜15質量%である請求項1または2に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフルオロポリマー組成物を成形することにより得られる成形品。
【請求項5】
最大の投影面積が1000cm2以上である請求項4に記載の成形品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のフルオロポリマー組成物を射出成形することにより得られる射出成形品。
【請求項7】
射出方向の投影面積が1000cm2以上である請求項6に記載の射出成形品。
【請求項8】
請求項4または5に記載の成形品、もしくは請求項6または7に記載の射出成形品からなるウェハーカップ。」

以下、本願の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明を、「本願補正発明1」等という。

(3) 本件補正の内容
本件補正のうち、本願補正発明1に係る補正について、
「前記共重合体が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位のみからなる共重合体、ならびに、テトラフルオロエチレンおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10質量%であり、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位が合計で90〜99.9質量%である共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、」
との補正事項は、補正前の請求項2に記載されていた事項を新たな請求項1に追加したものであり、また、
「前記フルオロアルキルビニルエーテル単位が、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位からなる群より選択される少なくとも1種であり、」との補正事項は、「フルオロアルキルビニルエーテル単位」について、本願明細書の段落【0019】の記載に基づいて限定したものであり、これらの補正事項は、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、同一であるから、これらの補正事項に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、同条第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。
また、本願補正発明2〜8に係る補正事項は、補正前の請求項2に係る発明が削除されたことによって生じた引用する請求項数の不整合を補正により整合を図ったものであるから、これらの補正事項に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、同条第5項第4号(明りょうでない記載の釈明)を目的とするものである。
ここで、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を含むので、本件補正後の本願補正発明1が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、検討する。

2 独立特許要件についての判断
合議体は、以下に記載するように、本願補正発明1は、引用文献1(特開平2−60954号公報(拒絶査定に用いた引用文献1と同じ))に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではないと判断する。

(1) 引用文献の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前の平成26年6月26日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開平2−60954号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

摘記(ア) 「(1)フルオロ(アルキルビニルエーテル)を4重量%以上含有するテトラフルオロエチレン/フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体と、
導電性物質とから成ることを特徴とする非帯電性高分子材料。
・・・
(3)前記テトラフルオロエチレン/フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体がフルオロ(アルキルビニルエーテル)を4重量%〜10重量%含有していることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の非帯電性高分子材料。
(4)導電性物質がアセチレンブラツクであることを特徴とする特許請求の範囲第1項〜第3項記載の非帯電性高分子材料。」(特許請求の範囲の請求項1、3、4)

摘記(イ) 「3.発明の詳細な説明
産業上の利用分野
本発明は、たとえば半導体基板を保持する治具などに好適に使用される非帯電性高分子材料に関する。
従来の技術
半導体装置を製造するに当つては、ウエハをエツチング治具やキャリア治具などに保持してウェハのエツチング、洗浄などの一連の作業が行われる。ウエハを保持する治具の材料としては、耐薬品性や耐熱性を有するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)や、PFA(パーフルオロアルキルビニルエーテルおよびテトラフルオロエチレンの共重合体)などのフツ素樹脂が従来から用いられる。このようなPTFEやPFAは電気絶縁性に優れ、しかも電気抵抗値も室温で1018〜1019Ω・cmときわめて高く、容易に摩擦によって帯電性を有する性質を有している。
したがつてたとえばキャリア治具を遠心力の利用によって乾燥する場合などにおいて、高速回転時に空気との摩擦によってキャリア治具に静電気が帯電し、このため周囲のごみなどの異物が引寄せられてウエハの表面に固着し、半導体チツプの歩留まりの低下をきたす原因となる。
このような問題点を解決するための先行技術は、特開昭58−207651に開示されている。すなわちPFAにカーボン繊維またはカーボンブラツクなどの導電体を含有した複合材料で構成することによって、フツ素樹脂の耐薬品性と耐熱性とを保持させつつ、非帯電性の特性を備えることを可能にしたものである。
発明が解決しようとする課題
現在一般に使用されているPFAとしては、パーフルオロアルキルビニルエーテルを3.0〜3.8重量%含有するテトラフルオロエチレン共重合体が用いられる。このようなPFAにおいては、メルトインデツクスが1.5〜18g/10分であり、カーボンブラツクなどの導電体を添加してゆくと機械的強度が低下し、さらに溶融粘度が上昇する。たとえば非汚染性に優れ、不純物がきわめて少ない導電性カーボンであるアセチレンブラツクを組成物全量の8重量%添加した場合には、メルトインデツクスはアセチレンブラツク添加前のPFAに比較して40〜50%の値となる。通常射出成形を行うためには、メルトインデツクスが10g/10分程度以上でなければならず、このためにはアセチレンブラツク充填前のPFAのメルトインデツクスを20g/10分以上にしなければならない。
・・・
また類似の物質においては、物質の分子量が小さいほど、その物質のメルトインデツクスは大きくなる相関関係がある。このため分子量の比較的小さい構成物質から成り、メルトインデツクスが20g/10分以上であるPFAを用いることもできる。しかしながら、この場合には、成形性は向上されるけれども導電性カーボン添加後の組成物の機械的特性が著しく悪化し、たとえば成形後にクラツクを生じるなどの問題がある。
本発明の目的は、上記技術的課題を解決し、優れた成形性を有し、なおかつ機械的特性の優れた非帯電性高分子材料を提供することである。」(第1頁右欄最下行〜第2頁右下欄第3行)

摘記(ウ) 「本発明に従う非帯電性高分子材料においては、フルオロ(アルキルビニルエーテル)は、具体的には通常一般式、

で示される。特に第2式

で示されるパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、
また第3式

で示されるパーフルオロ(エチルビニルエーテル)、
さらに第4式

で示されるパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、あるいは下記の第5式〜第10式で示されるものが特に望ましい。
・・・
また本発明においては、フルオロ(アルキルビニルエーテル)のPFAにおける含有量は4重量%以上である。フルオロ(アルキルビニルエーテル)の含有量を4重量%〜15重量%、より好ましくは4重量%〜10重量%とすれば、経済性の問題や、重合速度の低下など製法上の問題を引起こさず、耐熱性および機械的強度に優れた非帯電性高分子材料を製造することができる。
さらに本発明においては、PFAのメルトインデツクスが向上され成形性が良好であるので、導電性物質として非汚染性に優れ、不純物がきわめて少ないが、流動低下性が大きいアセチレンブラツクを好適に使用することができる。」(第3頁右上欄第1行〜右下欄第3行)

摘記(エ) 「実施例
PFAの製造
・・・
このようにして製造されたパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)含有のPFAと、導電性物質であるアセチレンブラツクとをヘンシエルミキサーで混合し、溶融押出法でペレツト状にし、これを射出成形機でシリンダー温度270〜360℃、金型温度180℃、射出圧力360kgf/cm2、保持圧力450kgf/cm2、サイクルタイム100secにてたとえば第1図に示される円筒状の成形品として製造した。第2表には実施例1〜5と比較例1,2との結果が対比して示されている。
(以下余白)

射出成形品は圧縮押出成形とは異なり、成形品が層状になつてしまうために、体積固有抵抗値ρvが悪化じてしまう、このためアセチレンブラツクを6重量%程度添加した場合には、圧縮成形品ならば体積固有抵抗値ρvは、109Ω・cm程度になるけれども、射出成形品にすると体積固有抵抗値ρvは第4図に示されるように1013Ω・cm程度と大きくなり過ぎて、非帯電性が悪化してしまう。第4図に示されるアセチレンブラツクの含有量が7重量%付近で体積固有抵抗値ρvは急激に低下する。
また、第5図ラインlb、lcで示されるように本発明に従うPFAを使用した場合には、アセチレンブラツク含有量が8重量%程度以下でなければメルトインデツクスの値を射出成形が可能な10g/10分以上とすることができない。なおラインlaは従来のPFAの場合を示す、したがってアセチレンブラツクは8重量%程度添加することが望ましい。アセチレンブラツク含有量が8重量%程度であれば、濾紙表面(合議体注:原文は「濾」ではなく慣用字体)にこすりつけてカーボンの転写を測定するチヨーキング試験においても良好な結果が得られる。」(第4頁左上欄第8行〜第5頁右上欄第2行)

摘記(オ) 「第2表に示される各測定値は、以下に示す測定方法に従って測定された。
○1(合議体注:○中に1。以下も同様。) パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)含有量
パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)を含むテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体を溶融させて、F19核磁気共鳴装置(19F−NMR)によって測定を行つた。実施例1〜5および比較例1.2における測定結果は第1表に示されるとおりである。
○2 メルトインデツクス
ASTM D−3307に記載されるように、温度372±1℃において5000gの荷重下で直径2.0955±0.0051mm、長さ8.000±0.025mmのオリフイスからの押出速度(g/10分)をメルトインデツクスとして測定した。
○3 クラツク発生率
射出成形機によって第1図に示される成形品6を10個製造し、クラツクの発生した個数を求めた。成形品6は外径l1、高さl2、肉厚l3の円筒部と、外径l5、高さl4の台座部とから構成される。
成形品6の外径l1および高さl2はたとえば44mmであり、肉厚l3は3mmである。また外径l5はたとえば77mmであり、高さl4は12mmである。
○4 引張り強度および引張り伸度の測定
・・・
○5 体積抵抗率ρv
第3図に示されるように、射出成形によつてたとえば厚さ2mmの平板5を製造し、この平板5の第3図上面に直径l6の円板状の主電極1を接触させ、また平板5の第3図下面に直径l6の円板状の対電極2を接触させる。この状態で主電極1と対電極2との間の抵抗を超絶縁抵抗計4を使用して測定した。なお内径l7の孔の形成された外径l8のガード電慢3は平板5の表面を伝導する電流を遮断するために平板5の第3図上面に設けられている。直径l6はたとえば20mmであり、直径および外径l8はたとえば48mmであり、内径l7はたとえば22mmである。
第2表に示されるように、比較例1においては引張り伸度が103%と低く、また10個中2個の成形品においてクラツクが発生し、半導体装置のウエハを保持する治具の材料としては不適当であることが判る。また比較例2においてはアセチレンブラツクを添加した後のメルトインデツクスが6.5g/l0分と小さく、射出成形の材料としては不適当である。
実施例1〜5においては、引張り強度および引張り伸度ともに良好な値であり、成形品においてクラツクは発生しなかつた。体積固有抵抗値ρvも非帯電性を有するに充分な値が得られた。
このように本実施例において、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)を4重量%以上含有するテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体とアセチレンブラツクとを混合することによって、PFAの有する耐薬品性および耐熱性の特性を保持させつつ、優れた射出成形性を達成することが可能となり、ウエハの保持治具に好適な非帯電性高分子材料が得られる。
本発明に従う非帯電性高分子材料は、前述のようなウエハ保持治具に限定されず、たとえば半導体装置のエツチング層、配管、バルブおよび輸送用容器など、その他の広範囲な技術分野に亘つて成形品として実施されることができる。」(第5頁右上欄第3行〜第6頁左上欄第19行)

摘記(カ) 「発明の効果
以上説明したように本発明によれば、高分子材料の有する特性を保持させつつ、その成形性を向上し、なおかつ成形品の帯電防止効果および機械的特性を格段に向上することができる。」
(第6頁左上欄下から第1行〜右上欄第4行)

摘記(キ) 「第4図



イ 引用発明
摘記(ア)〜(キ)、特に摘記(ア)の請求項1、3、4の記載から、以下の発明が記載されていると認められる。

「フルオロ(アルキルビニルエーテル)を4〜10重量%含有するテトラフルオロエチレン/フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体と、アセチレンブラックである導電性物質とから成る非帯電性高分子材料。」(以下、「引用発明」という。

(2) 対比
本願補正発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「テトラフルオロエチレン/フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体」は、本願補正発明1の「テトラフルオロエチレン単位とフルオロアルキルビニルエーテル単位とを含有する共重合体」であって「テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位のみからなる共重合体」に相当するから、本願補正発明1の「テトラフルオロエチレン単位とフルオロアルキルビニルエーテル単位とを含有する共重合体」が「テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位のみからなる共重合体、ならびに、テトラフルオロエチレンおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10質量%であり、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位が合計で90〜99.9質量%である共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であ」るとの条件も満たすものである。
引用発明の「導電性物質」である「アセチレンブラック」は、本願補正発明1の「導電性炭素化合物」に相当する。
引用発明の「非帯電性高分子材料」は、テトラフルオロエチレン/フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体と、導電性物質であるアセチレンブラックとから成る高分子組成物であるから、本願補正発明1の「フルオロポリマー組成物」に相当する。
そうすると、本願補正発明1と引用発明とは、
「テトラフルオロエチレン単位とフルオロアルキルビニルエーテル単位とを含有する共重合体、および、導電性炭素化合物を含有するフルオロポリマー組成物であって、
前記共重合体が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位のみからなる共重合体、ならびに、テトラフルオロエチレンおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10質量%であり、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位が合計で90〜99.9質量%である共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
フルオロポリマー組成物。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明1は、フルオロアルキルビニルエーテル単位が、「パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位からなる群より選択される少なくとも1種であ」ることが特定されるのに対し、引用発明ではこのような特定がない点。

<相違点2>
フルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量について、本願補正発明1では共重合体を構成する全単量体単位に対して「5.5〜7.0質量%」と特定するのに対し、引用発明では共重合体の「4重量%〜10重量%」と特定し、重量%と質量%は同義であるとしても本願補正発明1の特定する範囲とは異なる点。

<相違点3>
本願補正発明1は、「フルオロポリマー組成物の体積抵抗率が、104〜109Ω・cmであ」ることが特定されるのに対し、引用発明ではこのような特定がない点。

<相違点4>
本願補正発明1では、「フルオロポリマー組成物のメルトフローレートが、1〜100g/10分である」ことが特定されるのに対し、引用発明ではこのような特定がない点。

(3) 判断
ア 上記相違点1について検討する。
フルオロアルキルビニルエーテル単位について、引用文献1には、具体的なパーフルオロアルキルビニルエーテルとして、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が例示され(摘記(ウ))、実施例においてパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が用いられているから(摘記(エ))、引用発明において、フルオロアルキルビニルエーテル単位を本願補正発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 上記相違点2について検討する。
まず、共重合体の全単量体単位に対するフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量について、本願補正発明1で特定する範囲(5.5〜7質量%)は、引用発明の範囲(4重量%〜10重量%)に包含されるものである。
そして、引用文献1には、実施例1〜5として、アセチレンブラックを共に配合した共重合体において、そのパーフルオロアルキルビニルエーテル単位(フルオロアルキルビニルエーテル単位に包含される)の含有量が4.1重量%、4.9重量%、5.0重量%、8.3重量%、8.5重量%の例があり、これらの結果から、引用発明の4〜10重量%の範囲であれば同様の結果を示すことが推認できる。
一方、本願明細書に記載された実施例では、共重合体の全単量体単位におけるフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量は、5.5重量%の一例のみであって、本願補正発明1で特定する範囲(5.5〜7質量%)の内外での比較もなく、引用発明に対して、本願補正発明1で特定する範囲としたことよる意義や格別顕著な効果を奏することなどが示されているわけではない。
そうであるから、引用発明で特定する範囲において、本願補正発明1の相違点2に係る範囲程度の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

ウ 上記相違点3について検討する。
本願補正発明1では体積抵抗率として、104〜109Ω・cmと特定されており、一方、引例文献1では、アセチレンブラックを8重量%で含有する場合に、108Ω・cm程度より低いの体積固有抵抗値ρvであることが記載されており(摘記(キ) 第4図)、第2表(摘記(エ))においてもアセチレンブラック含有量が8重量%の場合に同程度の数値が記載されていると認められる 。
また、引例文献1には、「体積固有抵抗値ρv」との用語とともに、「体積抵抗率ρv」との用語も用いられ(摘記(オ))、これらの単位はともに「Ω・cm」であるから、「体積固有抵抗値」と「体積抵抗率」は同義で用いられていると解される。
そうすると、上記引用文献1の第2表及び第4図のアセチレンブラック8重量%を含有した場合の体積固有抵抗値の数値、並びに、発明の効果として帯電防止効果を向上すること(摘記(カ))の記載からみて、引用発明において、相違点3に係る本願補正発明1の範囲程度の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことと認められる。
また、仮に、相違点3に係る本願補正発明1の「体積抵抗率」が、引用文献1に記載された「体積固有抵抗値」と同義とはいえないとしても、同様に、引用文献1の第2表及び第4図のアセチレンブラック8重量%を含有した場合の体積固有抵抗値の数値、発明の効果として帯電防止効果を向上する こと(摘記(カ))が記載されていることからみて、引用発明において、体積抵抗率を、相違点3に係る本願補正発明1の範囲程度の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことと認められる。

エ 上記相違点4について検討する。
引例文献1には、
「不純物がきわめて少ない導電性カーボンであるアセチレンブラツクを組成物全量の8重量%添加した場合には、メルトインデツクスはアセチレンブラツク添加前のPFAに比較して40〜50%の値となる。通常射出成形を行うためには、メルトインデツクスが10g/10分程度以上でなければならず、このためにはアセチレンブラツク充填前のPFAのメルトインデツクスを20g/10分以上にしなければならない。」
との記載があり(摘記(イ))、実施例において、第2表の実施例1〜5の帯電性高分子材料(合議体注:「非帯電性高分子材料」の誤記と認める。)のメルトインデックスの数値が12.0〜20.1g/10分程度であることが記載されている。
ここで、本願明細書には、段落【0070】にメルトフローレートの測定方法として、
「(MFR)
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)を求めた。」
と記載され、一方、引用文献1の摘記(オ)には、メルトインデックスの測定方法として
「○2 メルトインデツクス
ASTM D−3307に記載されるように、温度372±1℃において5000gの荷重下で直径2.0955±0.0051mm、長さ8.000±0.025mmのオリフイスからの押出速度(g/10分)をメルトインデツクスとして測定した。」
と記載されており、両者の測定条件(温度、荷重、ノズル又はオリフィスの内径・長さ)がほぼ同じであるから、本願補正発明1のメルトフローレートと引用文献1の上記記載におけるメルトインデックスは、ほぼ同義であり、その範囲において重複一致するものと認められる。
そうすると、引用発明において、メルトフローレートを、相違点4に係る本願補正発明1の範囲程度の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

オ 本願補正発明1の効果について
本願補正発明1の効果は、段落【0004】の発明が解決しようとする課題の記載や、段落【0044】、【0054】の記載、実施例において表1でフルオロポリマー組成物の体積抵抗率とMFR(メルトフローレート)のみが測定されていることからみて、フルオロポリマー組成物が帯電防止性及び成形性に優れ、得られる成形品の帯電防止性が優れることと認められる。
そして、本願明細書には、他の効果として、「本開示によれば帯電しにくい大型のフルオロポリマー成形品を得ることができるフルオロポリマー組成物を提供できる。」(【0004】)との記載や、「本開示の成形品が、大型であった場合でも耐クラック性に優れて」いること(【0054】)、フルオロポリマー組成物を射出成形して得られる射出成形品が提供できること(【0008】)なども記載されてはいるが、本願明細書の実施例の結果は、圧縮成形して製造された厚さ0.35〜0.33mmのフィルムを用いて測定されたものであって(【0074】)、大型の成形品の結果ではない上に、測定されているのは体積抵抗率とMFR(メルトフローレート)のみであり、耐クラック性について測定されておらず(表1)、上記の他の効果については具体的な裏付けはない。
また、フルオロポリマーのフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量について、本願の実施例で用いた含有量は5.5重量%のみであって、当該単位の含有量が本願補正発明1の範囲外のものとの比較はない。
一方、引用文献1の実施例には、パーフルオロビニルエーテルの含有量について、引用発明で特定する4〜10重量%との範囲のうち、4.1重量%、4.9重量%の実施例2、5と、5.0重量%、8.5重量%、8.9重量%の実施例1、3、4があり、射出成形された成形品のクラック発生率がないこと(つまり、耐クラック性に優れること)、帯電防止効果に優れることが開示されているから(摘記(エ)第2表)、具体的な実施例のない5.0を超えて8.3重量%未満のパーフルオロビニルエーテルの含有量範囲においても、同様に、帯電防止性に優れ、成形性、耐クラック性に優れるとの効果を奏するものと推認される。
そうすると、本願補正発明1のフルオロポリマーが、引用発明よりも限定されたフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量を有するものであることによって、本願補正発明1が、引用発明に比して、格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。

カ 審判請求人の主張について検討する。
本願補正発明1の効果について、審判請求人は、審判請求書において、「このような補正により、当業者であれば、本願明細書の記載を参酌すれば、補正後請求項1に係る発明全体において、成形性に優れ、これにより耐クラック性を向上させ、大型の成形品とした場合でも十分な耐クラック性を示し、かつ、帯電しにくいものとすることができるという本願発明の効果が得られることが理解できるものとなったと思料いたします。」と主張している。
しかしながら、上記オのとおり、本願補正発明1のフルオロポリマーが、引用発明よりも限定されたフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量を有するものであることによって、本願補正発明1が、引用発明に比して、格別顕著な効果が奏されるものとは認められないから、審判請求人の主張は採用できない。

キ 小括
よって、本願補正発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
本願補正発明1に係る補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件補正前の請求項1に係る発明について
1 本件補正前の請求項1に係る発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1〜9に係る発明は、令和2年5月15日提出の手続補正書により補正された上記第2 2(1)に記載したとおりものであり、そのうち請求項1に係る発明は、以下に記載されたとおりのものである。
「【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位とフルオロアルキルビニルエーテル単位とを含有する共重合体、および、導電性炭素化合物を含有するフルオロポリマー組成物であって、
前記フルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、前記共重合体を構成する全単量体単位に対して、5.5〜7.0質量%であり、
前記フルオロポリマー組成物の体積抵抗率が、104〜109Ω・cmであり、
前記フルオロポリマー組成物のメルトフローレートが、1〜100g/10分であるフルオロポリマー組成物。」(以下「本願発明1」という。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、引用文献1を主引例とする理由は、以下のとおりである。
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1〜9
・引用文献等 1
<引用文献等一覧>
1.特開平2−60954号公報」

3 引用文献1の記載及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、上記第2 2(1)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
(1) 対比
本願発明1は、本願補正発明1から、共重合体の種類及びフルオロアルキルビニルエーテル単位の種類に係る特定を除いたものであるから、本願発明1と引用発明は、
「テトラフルオロエチレン単位とフルオロアルキルビニルエーテル単位とを含有する共重合体、および、導電性炭素化合物を含有するフルオロポリマー組成物であり、
前記フルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、前記共重合体を構成する全単量体単位に対して、5.5〜7.0質量%である、フルオロポリマー組成物。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点A>
フルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量について、本願発明1では共重合体を構成する全単量体単位に対して「5.5〜7.0質量%」と特定するのに対し、引用発明では共重合体の「4重量%〜10重量%」と特定し、重量%と質量%は同義であるとしても本願発明1と特定する範囲が異なる点。

<相違点B>
本願発明1は、「フルオロポリマー組成物の体積抵抗率が、104〜109Ω・cmであ」ることが特定されるのに対し、引用発明ではこのような特定がない点。

<相違点C>
本願発明1では、「フルオロポリマー組成物のメルトフローレートが、1〜100g/10分である」ことが特定されるのに対し、引用発明ではこのような特定がない点。

(2) 判断
相違点A〜Cは、第2 2(2)に記載した相違点2〜4と同じであり、相違点2〜4を有する本願補正発明1が、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから(第2 2(3))、同様に、本願発明1も、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-06-09 
結審通知日 2022-06-14 
審決日 2022-06-29 
出願番号 P2019-230644
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 藤原 浩子
岡崎 美穂
発明の名称 フルオロポリマー組成物、成形品および射出成形品  
代理人 とこしえ特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ