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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1387764
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-06 
確定日 2022-08-24 
事件の表示 特願2017−115734「発光デバイスおよびその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日出願公開、特開2017−195396〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年(平成18年)6月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年6月1日、米国)を国際出願日とする出願である特願2008−514810号の一部を平成27年2月10日に新たな特許出願とした特願2015−23903号の一部を平成29年6月13日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 6月12日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月 8日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 6月25日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年12月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 6月22日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定
同年11月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1〜17に係る発明は、令和2年11月6日付けの手続補正により補正された請求項1〜17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「レーザーデバイスとして構成された発光デバイスであって、
発光デバイス構造を含む半極性III族窒化物薄膜を備え、
前記発光デバイス構造は、窒化ガリウム基板の表面上または上方に成長される半極性III族窒化物活性領域を含み、該表面は前記窒化ガリウム基板のc面から結晶角θで方位づけられる表面であり、該結晶角θは75°≦θ<90°であり、
前記半極性III族窒化物活性領域はInGaNを備え、
前記窒化ガリウム基板は異種基板上の厚さ10μmの窒化ガリウムテンプレートを少なくとも含むか、または前記窒化ガリウム基板はバルク窒化ガリウム基板から切り出され、
前記レーザーデバイスは、端面発光レーザダイオードまたは垂直共振器面発光レーザダイオードを備えることを特徴とするデバイス。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由1は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.国際公開第98/19375号
2.特開2003−158297号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第98/19375号(以下、「引用文献1」という。)及び特開2003−158297号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。

1 引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
ア 「即ち、本発明の第4の目的は、青色系、青−青紫色系、および紫色系の発光を有し且つ閾値電流密度の低い半導体発光装置を提供するものである。」(第7頁第13行〜14行)

イ 「本発明の半導体発光装置の第2の型は、化合物半導体材料を有して構成される半導体発光装置の活性層領域を構成する六方晶系を有する化合物半導体結晶領域の面方位を(0001)面から傾斜した面としたものである。この傾斜角度は70度乃至90度である。
また、この傾斜角度の結晶面は5度以内のずれ、裕度が許される。この傾斜角度のずれ、裕度はこの結晶面の傾斜方向のずれに限定されない。結晶面そのもののずれ、裕度である。」(第8頁第1行〜第7行)

ウ 「上記第1の型の半導体発光装置の構成又は第2の型の半導体発光装置の構成を単独に実施しても、或いは必要に応じて2種類の半導体発光装置の構成を組み合わせて実施してもよい。これらの本発明のいずれの実施態様によっても、例えば半導体レーザ装置に適用する場合、程度の差こそあれ、レーザ発振に必要なキャリア密度を低減することが出きる。」(第8頁第16行〜第20行)

エ 「第8図より、「無歪み」の場合、傾角70〜90度のとき、有効質量は頃角が0度、すなわち(0001)面の場合の2/3となることを確認した。」(第15頁第26行〜27行)

オ 「そして、この知見と上述のエネルギの等方性の知見に基づき、上述の角度範囲を満たしていれば、いかなる方向の面方位に成長方向を傾斜させても上述の効果、即ちキャリアの有効質量低減によるしきい値キャリア密度の低減が図れることを見出した。」(第16頁第19行〜22行)

カ 「2−3:第2の型の半導体発光装置
本発明の第2の型半導体発光装置について説明する。以下の説明における発光領域の定義及びこれが量子井戸構造で構成される例もあることは、上述の本発明の第1の半導体発光装置の説明で述べ事実と同様である。
本発明の第2の型の半導体発光装置に係わる第1の形態は、少なくとも化合物半導体材料を有して構成され、第一導電型クラッド層及び第二導電型クラッド層と、前記クラッド層に挟まれ且つ井戸層と該井戸層より禁制帯幅の大きい障壁層を有する量子井戸構造を有する活性層領域を少なくとも有する半導体発光装置であって、上記量子井戸活性領域の面方位が(0001)面から70度〜90度傾斜した面あるいはこれと等価な面であることを特徴とする半導体発光装置である。この場合、前述した通り、この傾斜角度は5度以内のずれ、裕度を許される。尚、このずれ、裕度が(0001)面からの傾斜方向とは別の傾斜の場合も含まれることも前述した通りである。
この構成を実現する一形態として、発光素子を構成する半導体層をオフ基板上(上部)でエピタキシャル成長する場合がある。オフ基板とは、例えば六方晶型の結晶構造を有するサファイア基板において通常(0001)面を主面(エピタキシャル成長が行われる面)とするのに対し、主面の結晶面を(0001)面から所定の角度傾けた結晶面とする基板を指す。オフ基板を用いたエピタキシャル成長は、成長した結晶の質(結晶性)や成長時における不純物導入(ドーピング)の点で優れるが、これを本発明に適用する場合は上述の傾斜角度範囲に更に5度の余裕を持たせることができる。この5度の余裕は、活性層のエピタキシャル成長面の角度としきい値キャリア密度の関係を考慮し、求められる動作電流の低減の程度次第ではオフ基板を使用しない場合にも適用できる。」(第19頁第1行〜第23行)

キ 「なお、本発明の第1から第3の型の半導体発光装置に適用される窒化ガリウム系半導体結晶を以下に追加説明する。この半導体材料は、III−V族化合物半導体であり、構成元素として窒素(N)を必ず含むものである。」(第21頁第23行〜第25行)

ク 「量子井戸構造を構成する半導体材料は、ウルツ鉱型の半導体材料を用い得るが、その代表例は窒化ガリウム系半導体である。代表例をより具体的に示せば、一般式InxAlyGa1-x-yN1-a-bAsaPb、但し、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦a<1、0≦b<1、x+y≦1、a+b<1と表わし得る。活性層にたいしては、GaN,InGaN,InGaAlN,GaNP,GaNAs,InGaNP,InGaNAs,GaAlNP、あるいはGaAlNAsなどがその具体例である。井戸層にはGaNあるいはInGaNなどが好ましい。」(第22頁第4行〜第10行)

ケ 「こうした半導体積層体形成の為の基板は結晶成長によってその上部にウルツ鉱結晶が得られる基板、例えば、サファイア、GaN、スピネル、SiC、ZnO、MgO、MnO、SiO2、AlNなどが挙げられる。わけてもサファイア基板やGaN基板が代表例である。
半導体発光装置を製造するに際して、その他の構成は一般に行われている手段を用いて良い。例えば、結晶成長用の基板と量子井戸構造の半導体積層との間に結晶性改善のためのバッファ層を設けることは通常行われている方法に従ってよい。サファイア基板は絶縁性のため、この基板側の電極を取り出す方策、また、半導体積層構造の上部より取り出すもう一方の電極形成のため、いわゆるコンタクト層を設けること、更に結晶性改善のために任意に挿入される層なども通例に従ってよい。このような種々の付加構成、変形構成の適用も本発明の範囲なることは言うまでもない。」(第22頁第21行〜第23頁第3行)

コ 「なお、本発明は、上述の各実施例に示した装置構造に限らず、さまざまな半導体レーザ装置、例えば分布帰還型レーザ、ブラッグ反射型レーザ、波長可変レーザ、外部共振器付きレーザ、面発光レーザにも適用できる。」(第39頁第5行〜第7行)

サ 「13.少なくとも化合物半導体で構成され、六方晶構造をもつ第一の結晶上に第一導電型及び第二導電型の二層のクラッド層と、上記クラッド層に挟まれ且つ井戸層と該井戸層より禁制帯幅の大きい障壁層を有する量子井戸活性領域をエピタキシャル成長してなる半導体発光装置であって、上記量子井戸活性領域の面方位が(0001)面から70度〜90度傾斜した面から5度以内のずれを有する面、あるいはこれと等価な面であることを特徴とする半導体発光装置。」(請求項13、第42頁第1行〜6行)

シ 第8図は次のとおりのものである。
「第8図


(2)引用文献1に記載された技術的な事項
ア 上記(1)コより、列記される半導体レーザ装置の一つが「面発光レーザ」であることを踏まえれば、他の半導体レーザ装置は「端面発光レーザ」と理解できるから、引用文献1には、半導体レーザ装置は端面発光レーザ或いは面発光レーザとして構成し得ることが記載されていると認められる。
イ 第8図より、次のことがみてとれる。
無歪み及び歪みにおいて、(0001)からの傾度(Θ)が「70度〜90度」の範囲における正孔の有効質量は、(0001)の場合の有効質量と比較して「小さくなる」こと。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)より、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。

<引用発明>
「少なくとも化合物半導体で構成され、六方晶構造をもつ第一の結晶上に第一導電型及び第二導電型の二層のクラッド層と、上記クラッド層に挟まれ且つ井戸層と該井戸層より禁制帯幅の大きい障壁層を有する量子井戸活性領域をエピタキシャル成長してなる半導体発光装置であって、(上記(1)サ)
更に、バッファ層及びコンタクト層を備え、(上記(1)ケ)
半導体発光装置には、窒化ガリウム系半導体結晶が適用され、(上記(1)キ)
上記量子井戸活性領域の面方位が(0001)面から70度〜90度傾斜した面から5度以内のずれを有する面、あるいはこれと等価な面であり、(上記(1)カ及びサ)
半導体発光装置は、半導体レーザ装置であり、(上記(1)ウ及びコ)
半導体レーザ装置は、端面発光レーザ或いは面発光レーザとして構成され、(上記(2)ア)
半導体積層体形成の為の基板は、結晶成長によってその上部にウルツ鉱結晶が得られるGaN基板であり、(上記(1)ケ)
発光素子を構成する半導体層は、オフ基板上(上部)でエピタキシャル成長され、(上記(1)カ)
量子井戸構造を構成する半導体材料は、InGaNである(上記(1)ク)
半導体発光装置。」

2 引用文献2
(1)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
求められているのは、内部の圧電界及び自然発生的電界に関連した課題を克服したIII族窒化物発光デバイスである。」
「【0009】
1つの実施の形態において、量子井戸層は、ウルツ鉱型結晶構造の{0001}方向から少なくとも1°だけ、好ましくは少なくとも10°だけ傾けられた、選択されたファセット配向をもつように、ウルツ鉱型結晶構造の形で成長させられる。例えば、選択されたファセット配向は、{0001}に対して、約30°から約50°の範囲、約80°から約100°の範囲、又は約130°から約150°の範囲内で傾けることが有利である。」

(2)引用文献2に記載された技術的な事項
上記(1)より、「量子井戸層」を成長させるに際して、ウルツ鉱型結晶構造の{0001}方向から傾ける有利な角度の範囲の一つが、「約80°から約100°の範囲」であること。

第5 対比、判断
1 本願発明と引用発明とを、以下に対比する。
(1)引用発明の「半導体発光装置」は、「半導体レーザ装置」であるから、本願発明の「レーザーデバイスとして構成された発光デバイス」に相当する。

(2)引用発明の「量子井戸活性領域」の面方位は、「(0001)面から70度〜90度傾斜した面から5度以内のずれを有する面、あるいはこれと等価な面」であり、(0001)面及び(0001)面から90度傾斜した面を、それぞれ極性面及び無極性面と呼称し、極性面と無極性面の間の面を半極性面と呼称することから、引用発明の「量子井戸活性領域」は、半極性面を含むものと理解できる。そして、引用発明の「量子井戸構造」を構成する半導体材料は「InGaN」であるから、3族窒化物半導体である。
したがって、引用発明の「量子井戸活性領域」は、本願発明の「半極性III族窒化物活性領域」に相当し、「前記半極性III族窒化物活性領域はInGaNを備え」との構成を備えているといえる。

(3)引用発明は、「第一導電型及び第二導電型の二層のクラッド層と、上記クラッド層に挟まれ且つ井戸層と該井戸層より禁制帯幅の大きい障壁層を有する量子井戸活性領域」(以下「発光構造」という。)を備えているところ、半導体発光装置におけるこのような構成は、いわゆる「ダブルへテロ構造」と呼ばれ、キャリアの発光再結合を促進する構造であることは技術常識である。
したがって、当該技術常識を踏まえると、引用発明の「発光構造」は、本願発明の「発光デバイス構造」に相当するといえる。

(4)引用発明の「発光構造」は、「六方晶構造をもつ第一の結晶上に」「エピタキシャル成長してなる」ものであり、引用発明の「半導体積層体形成の為の基板」は、「結晶成長によってその上部にウルツ鉱結晶が得られるGaN基板」であるから、引用発明の「六方晶構造をもつ第一の結晶」は「GaN基板」であると解される。
したがって、引用発明の「発光構造」は、「GaN基板」上に成長してなるものといえ、「量子井戸活性領域」を含むものであるから、上記(2)も踏まえると、引用発明は、本願発明の「前記発光デバイス構造は、窒化ガリウム基板の表面上または上方に成長される半極性III族窒化物活性領域を含み」との構成を満たしているといえる。

(5)引用発明の「量子井戸活性領域の面方位」は、「(0001)面から70度〜90度傾斜した面から5度以内のずれを有する面、あるいはこれと等価な面」である。
ここで、成長基板と成長基板上にエピタキシャル成長した半導体層とが同じ半導体材料系の場合は、成長基板の面方位が半導体層に引き継がれることが技術常識であるから、当該技術常識及び上記(4)を踏まえると、引用発明の「GaN基板」の表面の面方位は、「量子井戸活性領域の面方位」と同じ、「(0001)面から70度〜90度傾斜した面から5度以内のずれを有する面、あるいはこれと等価な面」であると解することが自然である。
したがって、引用発明は、本願発明の「該表面は前記窒化ガリウム基板のc面から結晶角θで方位づけられる表面であり、該結晶角θは75°≦θ<90°であり」との構成と、「該表面は前記窒化ガリウム基板のc面から結晶角θで方位づけられる表面であり、該結晶角θは所定角度であり」との点で一致するといえる。

(6)引用発明の「半導体レーザ装置」は、「端面発光レーザ或いは面発光レーザとして構成され」るものである。
したがって、引用発明は、本願発明の「前記レーザーデバイスは、端面発光レーザダイオードまたは垂直共振器面発光レーザダイオードを備える」との構成を満たしているといえる。

(7)引用発明では、「半導体積層体形成の為の基板は、結晶成長によってその上部にウルツ鉱結晶が得られるGaN基板であり」と特定されているから、引用発明は、「基板」と「半導体積層体」とより構成されるものと理解できる。また、引用発明の「六方晶構造をもつ第一の結晶上に第一導電型及び第二導電型の二層のクラッド層と、上記クラッド層に挟まれ且つ井戸層と該井戸層より禁制帯幅の大きい障壁層を有する量子井戸活性領域をエピタキシャル成長してなる」との構成を踏まえれば、引用発明の「半導体積層体」は「発光構造」を含むものと理解できる。
そして、引用発明の「半導体発光装置」には「窒化ガリウム系半導体結晶」が適用されており、更に、上記(2)及び(5)を踏まえると、引用発明の「発光構造の面方位」も「(0001)面から70度〜90度傾斜した面から5度以内のずれを有する面、あるいはこれと等価な面」と解することが自然であって、その「発光構造」は「窒化ガリウム系半導体結晶」である。
以上より、引用発明の「半導体積層体」は、本願発明の「III族窒化物薄膜」に相当し、引用発明は、本願発明の「発光デバイス構造を含む半極性III族窒化物薄膜を備え」との構成を備えているといえる。

(8)以上(1)〜(7)より、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「レーザーデバイスとして構成された発光デバイスであって、
発光デバイス構造を含む半極性III族窒化物薄膜を備え、
前記発光デバイス構造は、窒化ガリウム基板の表面上または上方に成長される半極性III族窒化物活性領域を含み、
該表面は前記窒化ガリウム基板のc面から結晶角θで方位づけられる表面であり、該結晶角θは所定角度であり、
前記半極性III族窒化物活性領域はInGaNを備え、
前記レーザーデバイスは、端面発光レーザダイオードまたは垂直共振器面発光レーザダイオードを備えることを特徴とするデバイス。」

<相違点>
・相違点1
「結晶角θ」について、本願発明は「75°≦θ<90°」であるのに対して、引用発明は「70±5度〜90±5度」である点。
・相違点2
「窒化ガリウム基板」について、本願発明は「前記窒化ガリウム基板は異種基板上の厚さ10μmの窒化ガリウムテンプレートを少なくとも含むか、または前記窒化ガリウム基板はバルク窒化ガリウム基板から切り出され」たものであるのに対して、引用発明は、そのようなものであるか否か不明である点。

2 判断
(1)相違点1について
引用発明では、「量子井戸活性領域の面方位」が「(0001)面から70度〜90度傾斜した面から5度以内のずれを有する面、あるいはこれと等価な面各層」と特定されているところ、上記第4の1(1)アに摘記のとおり、引用発明は「閾値電流密度の低い半導体発光装置」の提供を課題とし、その課題解決手段は、上記の特定事項であると解されるものである。
ここで、引用発明の「70度〜90度」の範囲について、引用文献1において当該角度範囲を満たす実施例は、実施例1(具体例3)及び実施例5の「90度」のみであるが、上記第4の1(2)イ及び(1)オを踏まえれば、(0001)からの傾度(Θ)が「70度〜90度」の範囲における正孔の有効質量が、(0001)の場合の有効質量と比較して「小さくなる」ということは、半導体レーザ装置の「閾値電流密度」が低くなることと理解できるから、当業者であれば、引用発明に特定される「70度〜90度」の全ての数値範囲で、引用発明の課題が解決できることを認識することができる。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違ではない。
なお、本願の発明の詳細な説明には、本願発明の「75°≦θ<90°」の範囲に含まれる面として、「{20−21}面(75.0°)」(【0022】)が記載されているものの、その記載は、半極性面の一つが例示されるものと解することが自然である。また、【0042】に記載された実験的に示された例には、「75°≦θ<90°」の範囲に含まれる面は記載されておらず、他の段落に数値範囲の臨界的意義についての記載も認められないことから、本願発明の「75°≦θ<90°」の範囲について、その上限及び下限値に臨界的意義を認めることはできない。

仮に、相違点1が実質的な相違であるとしても、上記のとおり、引用文献1には、「70度〜90度」の範囲内において、正孔の有効質量が小さくなることが開示されており、上記第4の2(2)のとおり、引用文献2には、「量子井戸層」を成長させるに際して、ウルツ鉱型結晶構造の{0001}方向から傾ける有利な角度の範囲の一つとして、「約80°から約100°の範囲」が開示され、その下限値として「80度」が示されていることを踏まえると、引用発明において、正孔の有効質量が小さくなる角度として、量子井戸活性領域の面方位が(0001)面から70度〜90度傾斜した面の内、例えば80度傾斜した面を採択して構成することは、当業者であれば容易に想起し得るものといえる。
したがって、上記相違点1が実施的な相違であるとしも、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

(2)相違点2について
「(成長)基板」として、「テンプレート基板」或いは「バルクから切り出した基板」は、例を挙げるまでもなく周知であり、窒化ガリウム系の材料においても、サファイア基板上に成膜された厚さ10μm程度の「テンプレート基板」や「窒化ガリウム基板」を「バルクの窒化ガリウム」から所定の面方位をもって切り出すことは、例えば、テンプレート基板については「特開2005−136418号公報(【0039】参照)」及び「国際公開第2005/024952号(第17頁第6行〜第14行、図7A参照)」、バルクから切り出すことについては「特開2003−112999号公報(【0061】〜【0068】参照)」に開示のとおり、当業者には周知な事項であり、どのような基板を用いて結晶成長を行うかは、当業者が適宜採択し得るものである。
したがって、引用発明の「GaN基板」を、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

(3)本願発明の効果について
上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書にて、以下のことを主張している。
ア 本願発明は、窒化ガリウム基板の表面の結晶角θが75°≦θ<90°であるのに対して、引用文献1に記載された半導体レーザ装置においては、基板の表面が(0001)面から70〜90°傾斜したものとなっていること(第7頁第14行〜第17行)。
イ 引用文献1に記載された半導体レーザ装置は、すべて、0.05μm以下の低温バッファ層及び3μm以下の高温バッファ層の上で成長したものであり、二軸歪みは層の厚さ及び構成に依存するから、厚さ10μmのテンプレートを形成するようなことは、当業者が容易になし得ないこと(第7頁第22行〜第8頁第4行)。
ウ 引用文献9及び10には、サファイア基板上に形成された厚さ10μm以上のGaNを含むテンプレートが記載されているが、極性のc面の方位に関するものであること。
エ 引用文献8には、請求項1に係る発明における結晶角θの角度でスライスするようなことは、何ら記載されていないこと。

しかしながら、下記のとおりであるから、審判請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。
上記アに対して、上記2(1)に説示のとおりである。
上記イに対して、引用文献1に、半導体レーザ装置の実施例として、厚さ10μmより薄いバッファ層を備えるものが記載されていることは事実であるとしても、引用発明として認定したのは、「GaN基板」を備える「半導体発光装置」であるから、上記イで主張する内容は、本願が容易か否かの判断とは関係しないものである。
上記ウ及びエに対して、引用文献8〜10(上記(2)に示される「特開2003−112999号公報」、「特開2005−136418号公報」及び「国際公開第2005/024952号」に対応)は、「テンプレート基板」或いは「バルクから切り出した基板」が周知であることを示す文献であり、引用発明において「GaN基板」の面方位は既に特定されているのであるから、「テンプレート基板」或いは「バルクから切り出した基板」の適用に際して、当該特定された面方位として形成されることが自然といえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術、或いは引用発明、引用文献2の記載事項及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 瀬川 勝久
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-28 
結審通知日 2022-03-29 
審決日 2022-04-11 
出願番号 P2017-115734
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 吉野 三寛
松川 直樹
発明の名称 発光デバイスおよびその作製方法  
代理人 青木 俊明  
代理人 青木 俊明  
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