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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1387782
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-08 
確定日 2022-08-18 
事件の表示 特願2015−250946号「積層体、及びチューブ容器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日出願公開、特開2017−114507号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る出願は、平成27年12月24日の出願であって、令和元年7月19日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、令和2年1月29日付けで最後の拒絶理由通知がされ、同年4月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、当該手続補正は、同年8月31日付けで補正の却下の決定がされるとともに同日付で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。
これに対し、同年12月8日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正がされたが、当審から令和3年12月2日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、令和4年2月2日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1〜6に係る発明は、令和2年12月8日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
チューブ容器の胴部を構成する積層体であって、
前記積層体は、外層から順に少なくとも、
シーラント層と、
印刷基材層と、
該印刷基材層側の外表面に蒸発された金属が付着した金属蒸着膜を有するバリア性を有する金属蒸着層と、
中間層と、
該中間層側の外表面に蒸発された無機物シリカ又はアルミナ又はそれらの混合物が付着した蒸着膜を有するバリア層と、
シーラント層と
を含むことを特徴とする
積層体。」

第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知の概要は、以下のとおりのものである。

本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平4−201332号公報
引用文献2:特開2014−87952号公報

第4 引用文献に記載された事項及び引用発明
1.引用文献1に記載された事項及び引用発明
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(1)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、積層材に係り、特に流動性乃至半流動性物質を収容するチューブ容器に用いられる積層材に関する。
〔従来の技術〕
練ハミガキ、化粧品、練食品等の流動性乃至半流動性物質を収容するチューブ容器は、適度の腰の強さ、耐水性、ガスバリアー性等の物性を有する積層材で成形されている筒状の胴部と、肩部と首部とを有し胴部の上部開口端に係合されている閉塞部材と、この閉塞部材の首部に着脱可能に装着されているキャップとを備えている。そして、耐水性の付与と成形の容易化を図るために、近年、構成中に紙層が存在しない積層材が開発されている。このような積層材の一例として、外側から熱可塑性樹脂層/2軸延伸樹脂フィルム層/印刷層/隠蔽樹脂層/バリアー層/熱可塑性樹脂層の積層構成を有する積層材を挙げることができる。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、上述のような積層材では印刷層として使用されているインキの色と隠蔽樹脂層の色とにより積層材の地色が決まり、例えば白色、乳白色、クリーム色等の地色であり、金属製の押出しチューブをイメージさせるような金属光沢を有する積層材はなかった。また、隠蔽樹脂層を用いることなくバリアー層としてのアルミニウム箔の金属光沢を地色とした場合、製造段階でアルミニウム箔に生じた微小凹凸、しわにより金属光沢面の平面性が悪化し、逆に押出しチューブのイメージを低下させてしまうという問題があった。
本発明は、上述のような事情に鑑みて創案されたものであり、金属光沢の地色を有し、かつ、その金属光沢面が凹凸のない良好な表面状態である積層材を提供することを目的とする。」(第1ページ右下欄第4行〜第2ページ左上欄第18行)

(2)「 第1図は本発明の積層材の一実施例を示す概略断面図である。第1図において、本発明の積層材1は中間支持層2と、この中間支持層2の外側(図面上方)にアンカーコート層9を介して積層されている最外層である熱可塑性樹脂層8と、アンカーコート層10および低密度ポリエチレン樹脂層11を介して中間支持層2の内側(図面下方)に積層されている腰調整フィルム層12と、この腰調整フィルム層12にアンカーコート層13およびオレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体(酸コポリマー)層14を介して積層されているバリアー層15と、このバリアー層15に酸コポリマー層16を介して積層されている最内層としての熱可塑性樹脂層17とを有している。」(第2ページ左下欄第2行〜第15行)

(3)「 中間支持層2は、内側に裏刷りされた印刷層4を有する2軸延伸樹脂フィルム層3と、接着剤層5を介して2軸延伸樹脂フィルム層3に積層されている2軸延伸樹脂フィルム層6とから構成されている。そして、2軸延伸樹脂フィルム層6は、その少なくとも一方の面(図示例では外側の接着剤層5と接触する面)に金属薄膜7が設けられている。
中間支持層2に用いられる2軸延伸樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の透明フィルムあるいは半透明フィルムを挙げることができる。・・・
印刷層4はグラビア印刷、オフセット印刷等の公知の印刷方式により形成されたものであり、印刷層4が形成される2軸延伸樹脂フィルム層3の表面に予めコロナ処理を施してもよい。
2軸延伸樹脂フィルム層6に設けられている金属薄膜7は、真空蒸着法、メッキ法、スパッタ法、転写法等の公知の手段により形成することができる。そして、金属薄膜7はアルミニウム等の金属光沢をそのまま有するものでもよく、また、マット調、ヘアーライン調(微細線を有するもの)等としてもよい。」(第2ページ左下欄第16行〜第3ページ左上欄第4行)

(4)「 最外層である熱可塑性樹脂層8は、積層材1を筒状にして押出しチューブの胴部を形成する際に、最内層である熱可塑性樹脂層17と熱融着されるものであり、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、中密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール等の熱可塑性樹脂からなる。」(第3ページ左上欄第5行〜第12行)

(5)「 低密度ポリエチレン樹脂層11は、アンカーコート層10が設けられた中間支持層2に腰調整フィルムをラミネートするためのものであり、厚さは10〜50μm程度が好ましい。そして、低密度ポリエチレン樹脂層11を介して中間支持層2に設けられた腰調整フィルム層12は、積層材1の腰の強さを調整するためのものであり、積層材1の用途に応じて材料、厚さ等を適宜変更することができる。すなわち、直鎖低密度ポリエチレン樹脂フィルム、低密度ポリエチレン樹脂フィルム、中密度ポリエチレン樹脂フィルム、未延伸ポリプロピレンフィルム等の厚さ20〜100μm程度の樹脂フィルムを用いることができる。」(第3ページ右上欄第7行〜第19行)

(6)「 酸コポリマー層14は、アンカーコート層13が設けられた腰調整フィルム層12にバリアー層15を積層するためのものである。・・・
そして、酸コポリマー層14を介して積層されるバリアー層15としては、アルミニウム箔層、あるいはポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂フィルムを用いることができる。このバリアー層15の厚さは6〜50μm程度が好ましい。」(第3ページ左下欄第6行〜第18行)

(7)「 酸コポリマー層16は、バリアー層15に最内層としての熱可塑性樹脂層17を積層するためのものであり、上記の酸コポリマー層14と同様の材料を用いることができる。
最内層としての熱可塑性樹脂層17は、熱可塑性樹脂層8と同質の熱可塑性樹脂からなっていてよく、その厚さは50μm以上であることが好ましい。この熱可塑性樹脂層17は単層あってもよく、また熱可塑性樹脂フィルムの片面に熱可塑性樹脂を押出しラミネートしたような積層構造であっもよい。」(第3ページ左下欄第19行〜右下欄第9行)

(8)「 上述のような積層材1は、中間支持層2を構成する2軸延伸樹脂フィルム層6に形成された金属薄膜7が最外層としての熱可塑性樹脂層8側から認識されるため、金属光沢、マット調の金属光沢あるいはヘアーライン調の金属光沢の地色を有する積層材となる。そして、金属薄膜7は2軸延伸樹脂フィルムに形成されているので、製造段階における金属薄膜7への凹凸、しわの発生は、金属箔を用いる場合に比べて大幅に少なく、このため表面性が良好で綺麗な金属光沢地色を得ることができる。」(第3ページ右下欄第10行〜第20行)

(9)「 次に、上記直鎖低密度ポリエチレン樹脂フィルム(SR−X)のコロナ処理面側に上記ポリエチレンイミン系アンカーコート剤(エポミンP−1000)を用いてアンカーコート層を形成し、このアンカーコート層上に20μmの厚さで押出したエチレン−メタクリル酸共重合体(三井石油化学(株)製AN4205)を介して、バリアー層用の厚さ10μmのアルミニウム箔(日本製箔(株)製)をサンドラミネートした。
更に、上記アルミニウム箔上に上記のエチレン−メタクリル酸共重合体(AN4205)を30μmの厚さで押出しラミネートし、その後、低密度ポリエチレン樹脂(M11P)を60μmの厚さで押出しラミネートして積層材を作成した。」(第5ページ左上欄第1行〜第14行)

(10)「

」(第5ページ右下欄第1図)

(11)(3)に摘記した「2軸延伸樹脂フィルム層6に設けられている金属薄膜7」は、「真空蒸着法、メッキ法、スパッタ法、転写法等の公知の手段により形成」される「アルミニウム等」の金属であることから、ガスバリア性を備えるものと認められる。

以上の事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「チューブ容器の筒状の胴部に用いられる積層材1であって、
積層材1は、最外層としての熱可塑性樹脂層8と、
内側に裏刷りされた印刷層4を有する2軸延伸樹脂フィルム層3と、
2軸延伸樹脂フィルム層3に接着剤層5を介して積層され、接着剤層5と接触する面に、真空蒸着法、メッキ法、スパッタ法、転写法等の公知の手段により形成され、アルミニウム等の金属光沢をそのまま有しガスバリア性を備える金属薄膜7を有する2軸延伸樹脂フィルム層6と、
低密度ポリエチレン樹脂層11及び腰調整フィルム層12と、
腰調整フィルム層12に酸コポリマー層14を介して積層されるアルミニウム箔層からなるバリアー層15と、
バリアー層15に酸コポリマー層16を介して積層される最内層としての熱可塑性樹脂層17と
を含む積層材1。」

2.引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の樹脂層を有するラミネートチューブ用積層体に関し、詳しくは、金属蒸着層を含むラミネートチューブ用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
隠蔽性と水蒸気バリア性を備える金属蒸着層を含むラミネートチューブ用積層体として、表層樹脂層と最内層樹脂層との間に、金属蒸着樹脂層と、金属蒸着樹脂層に積層された白色系顔料を含むポリオレフィン樹脂層と、白色系顔料を含むポリオレフィン樹脂層に積層された無機化合物蒸着樹脂層とを含む積層体が知られている(特許文献1)。
また、金属又は無機化合物を蒸着したバリア層を有する積層体を紙と張り合わせて形成する液体用紙容器において、紙容器を形成する際に蒸着層で発生するクラックを防止するため、蒸着層に延伸プラスチックフィルムを積層する技術が知られている(特許文献2)。」

(2)「【0010】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明のラミネートチューブ用積層体は、図1に示すように、表層樹脂層1と最内層樹脂層5との間に、金属蒸着樹脂層2と、金属蒸着樹脂層2の内側に配置された隠蔽層3と、隠蔽層3の内側に配置された無機化合物蒸着樹脂層4とを含み、表層樹脂層1の厚みH1は、隠蔽層3の厚みH2以上、かつ最内層樹脂層5の厚みH3以上であることを特徴とする。
なお、本明細書において、内側とは、各層の位置関係を示すものであり、最内層樹脂層5側の位置を意味する。
【0011】
表層樹脂層1、最内層樹脂層5、金属蒸着樹脂層2、隠蔽層3及び無機化合物蒸着樹脂層4に用いられる樹脂は、ポリオレフィン樹脂である。
表層樹脂層1、最内層樹脂層5及び隠蔽層3に用いられるポリオレフィン樹脂は、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることができる。
【0012】
表層樹脂層1は、金属蒸着樹脂層2の保護層としての機能を果たすほか、チューブ等における印刷面及び継ぎ目のシーラントとしての機能が要求されるため、上述したポリオレフィンのシーラント性を備えるフィルム又は無延伸のポリオレフィン樹脂層とする。また、単層であってもよく、異種の樹脂からなる複層構造としてもよい。複層とする場合には、例えば、低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの組み合わせが挙げられる。・・・
【0013】
金属蒸着樹脂層2は、蒸着基材の表面に、金属化合物を真空蒸着法により形成された金属蒸着薄膜21が積層されている。
蒸着基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン、ポリビニルアルコール(PVA)等を延伸してフィルム化したものが好ましい。
金属化合物としては、アルミニウム、錫、インジュウム、ニッケル、チタン、クロム等の金属や金属酸化物を用いることができる。
金属蒸着樹脂層2はガスバリア性や水蒸気バリア性を備えており、金属蒸着樹脂層2の厚みは、12μm以上25μm以下が好ましい。
なお、金属蒸着樹脂層2に設けられた金属蒸着薄膜21は、表層樹脂層1とは接しない面、すなわち、隠蔽層3側に配置するのが好ましい。表層樹脂層1に接しない面に設けることで、金属蒸着樹脂層2の厚み分が表層樹脂層1に加わることになり、折り曲げに対する剛性が増すので、黒い筋状の線の発生が抑えられること(詳しくは、後述する)及び金属蒸着樹脂層2上に、表層樹脂層1を押し出して積層する場合、金属蒸着膜21が熱により劣化することを防止するためである。
【0014】
隠蔽層3は、白色系顔料を含む白色の樹脂からなる層である。白色系顔料は、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の白色系の顔料を意味する。
隠蔽層3の機能は、金属蒸着樹脂層2の金属光沢性を与えること及びラミネートチューブ用積層体の変形に対する復元性を効果的に発揮させることである。特許文献2には、ラミネートチューブ用積層体において、隠蔽層3の層厚を最も厚くすることが望ましいことが開示されているが、後述するように、この層の層厚だけを厚くしても、黒い筋状の線の発生を抑えることはできない。
隠蔽層3は、延伸したフィルムであってもよく、無延伸の樹脂層であってもよいが、延伸してフィルム化したものが好ましい。・・・
【0015】
無機化合物蒸着樹脂層4は蒸着基材の表面に、無機化合物を真空蒸着法により形成された無機化合物蒸着薄膜41が積層されている。無機化合物としてはケイ素や酸化ケイ素を用いることができる。蒸着基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン、ポリビニルアルコール(PVA)等を延伸してフィルム化したものが好ましい。
・・・
無機化合物蒸着薄膜41は無機化合物蒸着樹脂層4のうち、最内層樹脂層5とは接しない面、すなわち、隠蔽層3側に配置するのが好ましい。無機化合物蒸着樹脂層4に最内層樹脂層5を押出して積層する場合、無機化合物蒸着薄膜41が熱により劣化することを防止するためである。
【0016】
最内層樹脂層5は、チューブ等におけるシーラントとして機能するため、表層樹脂層1と同様に、シーラント性を備えるフィルム又は無延伸のポリオレフィン樹脂層とする。また、表層樹脂層1と同様、単層であってもよく、異種の樹脂からなる複層構造としてもよい。最内層樹脂層の厚みは、80μm以上170μmの範囲である。」

(3)「【実施例1】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。 表層樹脂層の厚みを30μm〜200μm、隠蔽層の厚みを60μm〜120μm、最内層樹脂層の厚みを80μm〜170μmに調整したラミネートチューブ用積層体を作製して、積層体を揉んだときの黒い筋状の線が発生するか否かを調べた。
表層樹脂層及び最内層樹脂層として、上記厚みを有するLLDPEフィルムを用いた。隠蔽層は、乳白LDPEフィルム(酸化チタン着色、厚さ60μm又は80μm)を用い、さらに厚みを補充するため、LDPE樹脂を積層した。金属蒸着層には、東レフィルム加工のVM−PET(アルミ蒸着PET、厚み12μm)、無機化合物蒸着樹脂層として、三菱樹脂のテックバリア(シリカ蒸着PET、厚み12μm)を使用した。
表層樹脂層と金属樹脂層とを接着剤を介して積層し(積層体a)、さらに隠蔽層と無機化合物蒸着樹脂層とを接着剤を介して積層し(積層体b)、積層体aと積層体bと最内層とをそれぞれアンカー剤を介して積層した。
接着剤には三井化学のA310:A−3:酢酸エチル=10:1:9.54の比率のものを用いた。各層を接着した後40℃、72hの雰囲気下でエージングしサンプルを作製した。アンカー剤は東洋モートンのTM−569とCAT−R37を使用した。なお、ラミネートチューブ用積層体の厚みは、実用化に適した200μm〜450μmとした。」

(4)「【図1】



第5 当審の判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「チューブ容器」、「筒状の胴部」、「積層材1」は、それぞれ、本願発明の「チューブ容器」、「胴部」、「積層体」に相当する。
引用発明の「最外層としての熱可塑性樹脂層8」は、本願発明の2つあるシーラント層のうち外層の「シーラント層」に相当する。
引用発明の「内側に裏刷りされた印刷層4を有する2軸延伸樹脂フィルム層3」は、本願発明の「印刷基材層」に相当する。
引用発明の「真空蒸着法、メッキ法、スパッタ法、転写法等の公知の手段により形成され、アルミニウム等の金属光沢をそのまま有しガスバリア性を備える金属薄膜7を有する2軸延伸樹脂フィルム層6」は、「2軸延伸樹脂フィルム層3に接着剤層5を介して積層され」るものであって、当該金属薄膜7が2軸延伸樹脂フィルム6に対して「接着剤層5と接触する面」側に設けられているのであるから、本願発明の「印刷基材層側の外表面に金属が付着した金属蒸着膜を有するバリア性を有する金属蒸着層」に相当する。
引用発明の「低密度ポリエチレン樹脂層11及び腰調整フィルム層12」は、本願発明の「中間層」に相当する。
引用発明の「アルミニウム箔層からなるバリアー層15」は、「バリア層」の限りにおいて本願発明の「該中間層側の外表面に蒸発された無機物シリカ又はアルミナ又はそれらの混合物が付着した蒸着膜を有するバリア層」と一致する。
そして、引用発明の「最内層としての熱可塑性樹脂層17」は、本願発明の2つあるシーラント層のうち外層でない「シーラント層」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
チューブ容器の胴部を構成する積層体であって、
前記積層体は、外層から順に少なくとも、
シーラント層と、
印刷基材層と、
該印刷基材層側の外表面に蒸発された金属が付着した金属蒸着膜を有するバリア性を有する金属蒸着層と、
中間層と、
バリア層と
シーラント層と
を含む積層体。

(相違点)
バリア層について、本願発明では、「該中間層側の外表面に蒸発された無機物シリカ又はアルミナ又はそれらの混合物が付着した蒸着膜を有するバリア層」であるのに対して、引用発明では、「アルミニウム箔層からなるバリアー層15」であって、「腰調整フィルム層12に酸コポリマー層14を介して積層され」るとともに、「最内層としての熱可塑性樹脂層17」に「酸コポリマー層16を介して積層される」点。

2.判断
上記相違点について検討すると、引用文献2には、「蒸着基材の表面に、無機化合物を真空蒸着法により形成された無機化合物蒸着薄膜41が積層され」ている「無機化合物蒸着薄膜41」であって、「無機化合物としてはケイ素や酸化ケイ素を用いること」及び「無機化合物蒸着薄膜41は無機化合物蒸着樹脂層4のうち、最内層樹脂層5とは接しない面、すなわち、隠蔽層3側に配置する」ことが記載されている(段落【0015】)。
また、引用文献2には、「表層樹脂層と金属樹脂層とを接着剤を介して積層し(積層体a)、さらに隠蔽層と無機化合物蒸着樹脂層とを接着剤を介して積層し(積層体b)、積層体aと積層体bと最内層とをそれぞれアンカー剤を介して積層」することも記載されている(段落【0023】)。
そして、引用文献2の「無機化合物蒸着樹脂層4」は、バリア層として機能するものであって、引用発明のバリア層と作用・機能が共通する層であるから、引用発明の「アルミニウム箔層からなるバリアー層15」に代替して、引用文献2のケイ素や酸化ケイ素を真空蒸着した無機化合物蒸着膜を隠蔽層側に配置した無機化合物蒸着樹脂層をアンカー剤を介して積層することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

3.審判請求人の主張について
審判請求人は、令和4年2月2日提出の意見書(2−3)において「引用文献2の審判官殿が引用された技術は、無機化合物薄膜は押出等の熱に弱いので熱が加わらない側に適用すべしとしているところ、引用文献1に開示されている製法では、上記のようにアルミニウム箔(バリア層と審判官が認定)の両側において押出ラミネートが行われているため、アルミニウム箔(バリア層)の両側において押出による熱が加わることとなります。」、「引用文献1において熱が加わる側に、熱による劣化を防ぐための技術を用いることは、通常考えられないことであり、引用文献1を主引用発明、引用文献2のこの部分の技術を副引用発明とすることについて、明確に阻害要因があるものと思科します。」と主張する。

しかしながら、引用発明の「バリアー層15」は、上記第4の1.(9)に摘記したとおり、予め押出した「エチレン−メタクリル酸共重合体(三井石油化学(株)製AN4205)」を介して「バリアー層用の厚さ10μmのアルミニウム箔(日本製箔(株)製)をサンドラミネート」したものであるから、既に押出しにより積層された「エチレン−メタクリル酸共重合体」の上に「アルミニウム箔」をラミネートしたものと解されるから、「アルミニウム箔(バリア層)の両側において押出による熱が加わる」ものとは解されない。

また、上記第4の2.(2)に摘記したとおり、引用文献2には、「・・・無機化合物蒸着薄膜41は無機化合物蒸着樹脂層4のうち、最内層樹脂層5とは接しない面、すなわち、隠蔽層3側に配置するのが好ましい。無機化合物蒸着樹脂層4に最内層樹脂層5を押出して積層する場合、無機化合物蒸着薄膜41が熱により劣化することを防止するためである。」(段落【0015】)と記載されているから、引用文献2の「無機化合物蒸着樹脂層4」は、既に積層されている「隠蔽層3側」に「無機化合物蒸着薄膜41」を配置して積層することで、「無機化合物蒸着樹脂層4に最内層樹脂層5を押出して積層」しても「無機化合物蒸着薄膜41が熱により劣化することを防止する」ものであるから、バリアー層の上に最内層を押出し成形することを否定するものではない。

してみると、引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用することを阻害する要因はないから、審判請求人の主張を採用することはできない。

4.小括
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 まとめ
以上のとおり、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-06-15 
結審通知日 2022-06-21 
審決日 2022-07-05 
出願番号 P2015-250946
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 間中 耕治
芦原 康裕
発明の名称 積層体、及びチューブ容器  
代理人 渡邊 敏  

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