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審決分類 |
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12N 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 C12N 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) C12N 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12N 審判 全部無効 2項進歩性 C12N |
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管理番号 | 1387805 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2020-10-09 |
確定日 | 2022-06-20 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第6718561号発明「活性型GcMAFの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第6718561号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕について訂正することを認める。 特許第6718561号の請求項1及び3に記載された発明についての審判請求は成り立たない。 特許第6718561号の請求項2に記載された発明についての審判請求を却下する。 審判費用は請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件の特許は、平成30年12月14日(優先権主張 平成29年12月15日)を国際出願日とする特願2019ー559230号について、令和2年6月16日に特許第6718561号(請求項の数は3。)として特許権の設定登録がされたものである(以下「本件特許」という。)。同年10月9日に請求人 医療法人 再生未来により、本件特許の請求項1〜3に記載された発明についての特許を無効とすることを求める無効審判が請求された。手続の経緯及び提出された書面は、概略、以下のとおりである。 令和2年10月 9日 審判請求書、及び甲第1〜8号証の提出 (同年10月12日受付) 同 年11月12日 甲第1〜8号証に係る証拠説明書の提出 (同年11月16日受付) 令和3年 1月29日 上申書の提出(被請求人) (同年2月1日受付) 同 年 3月19日 審判事件答弁書、訂正請求書、及び乙第1〜7号証の提出 (同年3月22日受付) 同 年 4月30日 弁駁書の提出、及び甲第6号証の再提出 (同年5月6日受付) 同 年 7月15日付け 審理事項通知書(請求人、被請求人) 同 年 同月30日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) (同年8月2日受付) 同 年 8月12日付け 口頭審理中止通知書(請求人、被請求人) 同 年 同月17日 口頭審理陳述要領書(請求人)、及び甲第9〜11号証の提出 (同年8月19日受付) 同 年 同月24日 口頭審尋 同 年 同月27日付け 書面審理通知書(請求人、被請求人) 同 年 同月30日 上申書(被請求人)、及び乙第1〜7号証に係る証拠説明書の提出 (同年8月31日受付) 同 年 9月24日 上申書(請求人)、及び甲第12号証の提出 (同年9月27日受付) 同 年10月13日 上申書(被請求人)、及び乙第8号証の提出 (同年10月14日受付) 第2 訂正請求について 1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容 被請求人は、令和3年3月19日付け訂正請求書により、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜3について訂正することを求めた(以下、令和3年3月19日付け訂正請求及び訂正特許請求の範囲を、それぞれ「本件訂正」、「本件訂正特許請求の範囲」ともいう。) 本件訂正の内容は以下のとおりである。下線は訂正箇所である。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「Vitamin D Binding Protein発現ベクターを導入したCHO細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程 を含む、活性型のGc protein−derived macrophage activating factor(GcMAF)の製造方法。」 とあるのを、 「Vitamin D Binding Protein発現ベクターを導入したCHO細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程を含み、 糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、 活性型のGc protein−derived macrophage activating factor(GcMAF)の製造方法。」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含む、請求項1又は2に記載の活性型GcMAFの製造方法。」 とあるのを、 「ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含む、請求項1に記載の活性型GcMAFの製造方法。」 に訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、本件訂正前の請求項2の「糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、請求項1に記載の活性型GcMAFの製造方法。」との記載、本件特許の明細書における【0012】の「本発明の活性型GcMAFの製造方法は、VDBP発現ベクターを導入した細胞を、無血清培地中で培養する工程を含み、不活性型VDBPの糖鎖切断のための酵素処理工程を必要としないことを特徴とする。」との記載、【0021】の「本発明の活性型GcMAFの製造方法は、糖鎖切断のための酵素処理工程を必要としないことが大きな特徴のひとつである。」との記載、及び、【0045】の「以上のとおり、本発明の宿主細胞/無血清培地/浮遊系培養システムを用いた活性型GcMAFの製造方法によると、糖鎖切断のための酵素処理工程を要することなくOne−stepで活性型GcMAFを効率よく合成できることが明らかとなった。」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載の製造方法で含まれる工程を特定し、限定を加えるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 前記アのとおり、訂正事項1は、本件特許の明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無 前記アのとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の製造方法で含まれる工程を特定し、限定を加えるものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載を削除するものである。 したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無 訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載を削除するのみであるから、これらの訂正は、訂正前の請求項2について、発明のカテゴリーを変更するものでもなく、かつ、発明の対象や目的を変更するものとはならない。 したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3は、請求項2の削除に伴い、訂正前の請求項3で引用している請求項を「請求項1又は2に記載の活性型GcMAFの製造方法。」から、「請求項1に記載の活性型GcMAFの製造方法。」にするものであり、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 前記アのとおり、訂正事項3は、請求項2の削除に伴い、訂正前の請求項3で引用している引用請求項を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無 前記アのとおり、訂正事項3は、訂正前の請求項3で引用している引用請求項を削減するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (4)一群の請求項について 訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1〜3は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。 3 小括 以上のとおり、本件訂正は、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕について訂正することを認める。 第3 本件特許の発明 上記のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の発明は、以下に示す本件訂正特許請求の範囲のとおりのものと認められる(以下、請求項の番号によって、訂正前の請求項を「請求項1」、本件訂正後の請求項を「訂正請求項1」などといい、訂正後の請求項1に記載された発明を「訂正発明1」などという。また、訂正後の発明をまとめて「訂正発明」ということがある。)。 【請求項1】 Vitamin D Binding Protein発現ベクターを導入したCHO細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程を含み、 糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、 活性型のGc protein−derived macrophage activating factor(GcMAF)の製造方法。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含む、請求項1に記載の活性型GcMAFの製造方法。 第4 請求人の主張及び証拠方法 請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された発明についての特許を無効とする、請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求めた。請求人は、無効理由として、以下の1に記載する無効理由1〜4(当審注:無効理由の1〜4の各番号は、審判請求書6〜7頁における「理由の要点」に記載された1〜4(数字は丸付き)に従って整理した。)を主張し、それらの主張を裏付ける証拠として、以下の2に示す甲第1〜12号証を提出した(以下、本件特許の登録時の特許請求の範囲に記載された発明を請求項の番号によって、「特許発明1」などといい、これらをまとめて「特許発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「特許明細書」という。)。 1 請求人の主張する無効理由の概要 無効理由1(新規性欠如): 特許発明1〜3は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。したがって、特許発明1〜3についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 無効理由2(進歩性欠如): 特許発明1〜3についての特許は、以下のa〜e(当審注:a〜eの記号は、便宜のために当審が付した。)に示す理由で、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、特許発明1〜3についての特許は、同許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 a 特許発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 b 特許発明1及び2は、甲第2号証及び甲第1、4〜8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 c 特許発明3は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 d 特許発明3は、甲第2号証及び甲第1、3〜8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 e 特許発明1及び3は、甲第3号証及び甲第1、4〜8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (以下、これらのa〜eに示した理由ついて、それぞれ「無効理由2a」などという。) 無効理由3(実施可能要件違反):特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が特許発明1〜3に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項1号に規定された要件を満たしていない。したがって、特許発明1〜3に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 無効理由4(サポート要件違反):特許明細書の記載および本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、特許発明1〜3の全範囲にわたって、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えず、特許法第36条第6項1号に規定された要件を満たしていない。したがって、特許発明1〜3についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 2 請求人が提出した証拠(証拠方法) 甲第1号証: 特表2013−530146号公報 甲第2号証: Journal of Clinical Laboratory Analysis 29: 451-461 (2015) 甲第3号証: 特表平11−511962号公報 甲第4号証: 特表2016−520646号公報 甲第5号証: 「Table 1 日本で承認された組換え医薬品・細胞培養医薬品(バイオ後続品を除く)」(国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部 2018年2月12日) 甲第6号証: Glycobiology, vol.19 no.9 pp.936-949, 2009 甲第7号証: 化学と生物 Vol.31, No.3, pp.201-205, 1993 「5.動物細胞工学と糖鎖工学 動物細胞で生産する糖タンパク質の糖鎖構造」 甲第8号証: 「ExpiCHO Expression System USER GUIDE」(Thermo Fisher Scientific 2016年12月21日) <以上、審判請求書とともに提出。> 甲第9号証: 2020年3月10日(発送日)付の拒絶理由通知書 甲第10号証: 2020年4月21日付の手続補正書 甲第11号証: 2020年4月21日付の意見書 <以上、令和3年8月17日に提出の口頭審理陳述要領書とともに提出。> 甲第12号証: 2021年8月24日の口頭審尋で用いた説明資料(作成日:2021年8月24日、作成者:請求人代理人) <以上、令和3年9月24日に提出の上申書とともに提出。> (以下、甲号証は、号証番号に応じて、「甲1」などという。) 第5 被請求人の主張及び証拠方法 被請求人は、本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張し、主張を裏付ける証拠として、乙第1〜8号証を提出した。 乙第1号証: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 8539-8543 (1991) 乙第2号証: Anticancer Research, 25, 3689-3696 (2005) 乙第3号証: Clin. Chem. 56, 202-211 (2010) 乙第4号証: Biochemistry 18, 1611-1617 (1979) 乙第5号証: Mol Immunol. 33, 1157-1164 (1996) 乙第6号証: J. Immunol. 152, 5100-5107 (1994) 乙第7号証: Biochim. Biophys. Acta 1804, 909-917 (2010) <以上、審判事件答弁書とともに提出。> 乙第8号証: 2021年8月24日の口頭審尋で用いた説明資料(作成日:2021年8月24日、作成者:被請求人代理人) <以上、令和3年10月13日に提出の上申書とともに提出。> (以下、乙号証は、号証番号に応じて、「乙1」などという。) 第6 証拠の記載事項 請求人が提出した証拠のうちの甲1〜4には、それぞれ以下の事項が記載されている。なお、下線は、甲3の項目名について付されているもの以外は、当審が付したものである。 1 甲1の記載事項 発明の名称を「二重特異的融合タンパク質」とした特許文献である甲1には、以下の事項が記載されている。 甲1ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (a)組織の損傷細胞に関する標的分子に結合特異性を有する標的化ドメインであって、該分子は生存細胞の細胞内にあり、損傷細胞の細胞外空間に露出されている;および (b)組織の細胞表面に関する増殖因子受容体に結合特異性を有する活性化ドメインであって、該活性化ドメインが増殖因子受容体にさらされると、組織の再生または生存を調節するように活性化ドメインが増殖因子受容体に結合する: を含む二重特異的融合タンパク質。 【請求項2】 さらにペプチド半減期モジュレータを含む、請求項1に記載の融合タンパク質。 ・・・ 【請求項17】 半減期モジュレータが非免疫原性のタンパク質である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の融合タンパク質。 【請求項18】 半減期モジュレータがヒト血清アルブミン、アルファ−フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、トランスサイレチン、単一鎖の抗体Fcドメイン、プロリン−、アラニン−、および/または、セリン−豊富な配列、アルブミン結合ドメイン抗体、それらの変異体、それらの断片、およびそれらの組合せのうちの一からの配列を含む、請求項17に記載の融合タンパク質。 ・・・ 【0015】 いくつかの実施例において、半減期モジュレータは非免疫原性のタンパク質である。半減期モジュレータはヒト血清アルブミン、ヒト血清アルブミンのドメインIII、アルファ−フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、トランスサイレチン抗体Fcドメイン、抗体Fcドメインの単一鎖版、プロリン−、アラニン−、および/または、セリン−豊富な配列、それらの変異体、それらの断片、およびそれらの組合せのうちの一からの配列を含むことができる。例えば、半減期モジュレータは血清アルブミンアミノ酸配列と少なくとも80%同一である少なくとも100個の連続したアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、半減期モジュレータは配列番号10、12、14−29、45−49、65−71または105のいずれか一つに記載されるアミノ酸配列を有する。」 甲1イ 「【0309】 いくつかの実施形態において、半減期モジュレータに存在する1個以上のグリコシル化部位のグリコシル化で半減期モジュレータを改質できる。例えば、以下のアミノ酸:アスパラギン、セリン、トレオニンを半減期モジュレータのグリコシル化を改質するために加えるか、または除くことができる。いくつかの実施形態において、二重特異的タンパク質の半減期モジュレータのグリコシル化は二重特異的タンパク質の半減期を調節できる。いくつかの実施形態において、半減期モジュレータ配列は、グリコシル化を減少させるように改質される。そのような改質は、Asn(N)のGln(Q)またはAla(A)による置換、および/または、Ser(S)のThr(T)またはAla(A)による置換を含む。 ・・・ 【0312】 いくつかの実施形態において、半減期モジュレータは、ビタミンD結合タンパク質(VDBP)アミノ酸配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%同一の少なくとも100個の連続したアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、VDBPのN−結合型グリコシル化部位はN288QまたはN288T置換で除去される。いくつかの実施形態において、半減期モジュレータは配列番号66に記載された配列を含む。いくつかの実施形態において、半減期モジュレータ核酸配列は配列番号219に記載された配列を含む。」 甲1ウ 「【0373】 他の場合では、タンパク質は、Selexis/CHOクローン系を使用することで精製された。例示的な発現ベクターはpMP20K(SELEXIS)であり、例示的細胞株はCHO−kl−S(SELEXIS)である。pMP20Kは一般的に使用された遺伝要素を使用する。発現はヒトのGAPDプロモーターによって駆動される。Matrix Attachment RegionまたはMAR要素といわれる遺伝要素は、染色質の動的組織化を制御し、周囲の染色質の効果から隣接する遺伝子を隔離し、その結果、コピー数依存、位置依存の遺伝子発現を増加させる。MAR要素は、組換えタンパクの所望のレベルの発現を示すクローンの分離の確率を改善し、生産の安定性を増加させることを示した。発現プラスミドに加えて、抗生物質耐性プラスミド(pSV2−neo、SELEXISなど)もまた、安定した形質転換体の選択のために、使用された。発現プラスミドは直線化され(例えば、Pvulで)、その後QIAQUICK精製(QIAGEN)が続いた。Lipofectamine LTX(Invitrogen)は、OptiMemI(Gibco)におけるCHO細胞へのトランスフェクションのために使用された。トランスフェクトされた細胞は、10%FBS含有F12Hams培地で2日間選択圧なし、その後4日間の選択圧で回復され、次いで、選択圧ありの無血清培地に変更された。HyClone登録商標(Thermo Scientific)は、HT補完剤(GIBCO)と共に、HSA−融合BBAに使用される。」 甲1エ 「【0335】 二重特異的融合タンパク質の調製 二重特異的タンパク質は液相および固相ペプチド合成および組換えDNA技術を含む標準的な技術を用いて合成し得る。固相合成のため、配列のC−末端アミノ酸は不溶性担体に取り付けられ、残余のアミノ酸は順に結合される。約50アミノ酸より長いポリペプチドに関しては、より短い領域がこの方法で合成され、続いてより長いポリペプチドを形成するため濃縮され得る。カルボキシル末端の活性化による(例えば、カップリング試薬N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドの使用による)ペプチド結合を形成する方法は当分野で周知である。 ・・・ 【0337】 いったん二重特異的融合タンパク質をコードするDNAを得ると、DNAは原核生物または真核宿主細胞における発現のためにベクターにクローニングされ得る。そのようなベクターにDNAを組込むための技術は当業者に周知である。そのような発現ベクターの中では、二重特異的融合タンパク質をコードするDNAは、発現に必要なヌクレオチド配列(例えば、適当なプロモーターと必要なら終結シグナル)に動作可能に連結される。プロモーターは、(典型的には5’からコード配列に位置する)、隣接して連結されるコード配列の転写を指示するヌクレオチド配列である。終結シグナルは、翻訳を停止する終止コドンおよび/または転写の終止シグナルであり得る。また、追加の調節要素(例えば、エンハンサー要素)も発現ベクターの中に存在し得る。そのようなベクターは、好ましくは核外遺伝子またはウイルス・ベクターである。好ましくは、発現ベクターはさらに選択への抵抗を与える選択可能なマーカーを含む。これによって、細胞がベクターをその染色体に安定して統合することができ、(順にクローニングされ、細胞株に拡張できる増殖巣を形成できる。さまざまな選択可能なマーカーは当分野で既知であり、例えば、アンピシリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、アミノグルコシドG−418、ハイグロマイシン、およびプロマイシンへの耐性遺伝子を含む。当業者は、大腸菌、他の細菌性宿主、酵母およびCOS、CHO、HeLaおよび骨髄腫細胞株などの様々な高等真核細胞を含む、タンパク質の発現のために利用可能は多数の発現系に詳しい。 【0338】 宿主細胞は、標準方法を使用することで二重特異的融合タンパク質をコードするDNAを含むベクターで形質転換されるか、またはトランスフェクトされる。宿主細胞における発現はDNAの対応するmRNAへの転写、続いて二重特異的融合タンパク質を生成するmRNAの翻訳をもたらす。 【0339】 いったん発現されると、二重特異的融合タンパク質は、例えば、硫安沈殿またはアフィニティーカラムクロマトグラフィーなどを含む標準的な手順に従って精製できる。医薬用途において、少なくとも約90〜95%の同一性の実質的に純粋な構造が好ましく、98から99%以上の同一性が最も好ましい。部分的にまたは望ましい同一性までいったん精製されると、治療上使用されるには、ポリペプチドは実質的にエンドトキシンを含まないものであるべきである。」 甲1オ 「【0382】 Selexis/CHO発現系におけるタンパク質の発現とクロマトグラフィーによるその後の精製。 興味のあるタンパク質を発現する安定したSelexis CHO細胞株は、振盪培養器で5〜8%のCO2、37℃にて無血清培地で培養された。成長に使用される培地は:1LのEx−Cell登録商標 CD CHO Fusion培地(Sigma、14365C−1000ML)、40mLの200mM L−グルタミン(Invitrogen、25030−081)、10mLの100X HT補完剤(Invitrogen、11067−030)であった。細胞の播種密度は0.3〜0.5×106細胞/mLであった。いったん2〜4×106細胞/mLに達すると、希望の培養液量(6L)に達するまで、培養物が希釈された。Cell Boost溶液(1LのddH2O、35gのCell Boost5(HyClone、30865.01)、20gのD−グルコース、NaOHでpHを7.0に調整)は、最終的な大きい培養物に、播種した3〜5日後に(Cell Boostの量=培養物の7−12%)加えられた。興味のある分泌タンパク質を含む細胞上清が、培養物生存率が90%より下に下降すると(培養物をその最終容量に希釈した後〜1週間)、すぐに採取された。細胞上清が遠心分離によって採取され、滅菌ろ過された。精製が1週間以内に実施される場合は、上清は4℃で保存され、そうでなければ、上清は−80℃で保存された。」 2 甲2の記載事項 「総25−ヒドロキシビタミンDの自動競合型タンパク質結合測定法、多施設評価と実用性」との標題の学術文献である甲2には、以下の事項が記載されている。甲2は英文で記載されているため、当審による訳文で記載する。 甲2ア 「ElecsysビタミンD Totalアッセイは、 25-OHD3と25-OHD2の両方を捕捉する組換えVDBP (recVDBP) を用いた競合的タンパク質結合アッセイであり、合計25-OHDを定量的に測定することができる。recVDBPはヒトのアミノ酸配列に基づき、化学的に調整した培地で増殖させた、浮遊培養のヒト胚性腎臓細胞(HEK 293細胞株)で発現される。シグナル生成は電気化学ルミネセンス技術に基づいており、高感度である(20)。この方法の原理を補足図1に示す。必要な試料容量は15μlであり、アッセイに要する時間は27分である。」(452頁右欄MATERIALS AND METHODSの第1段落) 3 甲3の記載事項 発明の名称を「クローン化したビタミンD結合タンパク質由来の大食細胞活性化因子」とした特許文献である甲3には、以下の事項が記載されている。 甲3ア 「【特許請求の範囲】 1.ビタミンD3結合タンパク質Gcタンパク質(Gcタンパク質)をクローン化するためのバキュロウイルスベクターを選択および使用して、ビタミンD3結合タンパク質Gcタンパク質(Gcタンパク質)をクローン化することから成るビタミンD3結合タンパク質(Gcタンパク質)をバキュロウイルスヘクローニングする方法において、該方法が、 (a)免疫スクリーニング法の使用によりヒト肝臓λgt11ライブラリーより全長のGcタンパク質cDNAを単離し、融合していないバキュロウイルスベクターへ挿入し; (b)ベクターDNAおよび野生型バキュロウイルスDNAで昆虫細胞(SF9)を共形質転換することにより、全長のGcタンパク質cDNAを持つ組換えバキュロウイルスの単離し;および (c)昆虫細胞において組換えバキュロウイルスを増殖し、更にクローン化したGcタンパク質を精製する、各工程から成る方法。 2.固定したβガラクトシダーゼおよびシアリダーゼとin vitroにおいてクローン化したGcタンパク質を接触し、およびクローン化したマクロファージ活性化因子(GcMAFc)を得ることから成る、の入手を含むクローン化したマクロファージ活性化因子(GcMAFc)の作製方法。」(2頁1行〜18行) 甲3イ 「用語表 Gcタンパク質 ビタミンD3結合タンパク質 MAF 大食細胞(マクロファージ)活性化因子 GcMAF Gcタンパク質由来大食細胞活性化因子 GcMAFc クローン化されたGcタンパク質由来大食細胞活性化因子 GcドメインIII Gcタンパク質のドメインIII領域 CdMAF クローン化されたGcドメインIII由来大食細胞活性化因子 NagAg 抗原としてのα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ 発明の概要 ビタミンD結合タンパク質(Gcタンパク質)およびその小ドメイン(Gcペプチドの約18%の長さで、ドメインIIIとしても知られる)が、バキュロウィルスベクターによってクローン化された。大食細胞活性化因子、GcMAFcおよびCdMAFをそれぞれ産生するために、クローン化されたGcタンパク質およびクローン化されたドメイン(Cd)ペプチドは固定化されたβ-ガラクトシダーゼおよびシアリダーゼで処理された。これらのクローン化された大食細胞活性化因子およびGcMAFは癌、HIV感染および骨粗鬆症治療のために用いられ、さらに免疫化および種痘のアジュバントとして用いられ得る。癌およびHIV感染患者における血清または血漿中のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼを検出するための、方法および抗体仲介ELISAキットが開発され、診断および予後指示薬として用いられた。」(6頁11行〜7頁1行) 甲3ウ 「大食細胞活性化因子の遺伝子クローニング法の説明 A.Gcタンパク質のcDNAの昆虫ウィルス中へのクローン化 ヒトGcタンパク質をコードする全長cDNAが、λgtll中のヒト肝臓cDNAライブラリー(Clontech,Palo Alto,CA)から、Stratagene,La Jolla,CAから入手可能なpico BlueTM immunoscreening kitを用いて単離された。昆虫細胞によるバキュロウィルス発現系は、多角体タンパク質に関するいくつかの事柄の長所を用いている。すなわち、(a)昆虫細胞中でタンパク質は非常に高レベルに発現され、感染サイクルの後期には総細胞タンパク質の半分以上を構成する;(b)タンパク質はウィルスの感染または複製には必要でなく、組み換えベクターはいかなる補助機能も必要としない;(c)多角体遺伝子を持たないウィルスはクローン化された遺伝子を含むウィルスとは異なるプラーク形態を有する;(d)細菌細胞とは異なり、昆虫細胞はクローン化された遺伝子産物を効率的にグリコシル化する。」(12頁5行〜17行) 甲3エ 「2)クローン化プラスミドDNAおよび野生型ウィルスDNAの昆虫細胞への感染 Spodoptera frugiperda(Sf9)細胞の一様な層(25cm2の各フラスコ内に2.5×106)が、950μlの感染緩衝液中のクローン化プラスミド(ベクター)DNA(2μg)および野生型(Ac-MNPV)バキュロウィルスDNA(10μg)で共感染された。細胞が4から5日培養された場合、感染上清は組み換えウィルスを含んでいた。 3)組み換えバキュロウィルスの同定 共感染溶解液は104、105または106に希釈され、Sf9細胞上に蒔かれ、4から6日培養された。プラークが良く形成されてから、閉鎖体陰性の細胞が1.3%の割合で同定された。いくつかの組み換えウィルスだと考えられるプラークが単離され、生成のために2回再プラーク化された。純粋な組み換えウィルスプラーククローンが単離された。 B.組み換えバキュロウィルス由来の目的のタンパク質の解析 1)組み換えウィルス溶解液の調製 昆虫細胞Sf9の単層(25cm2のフラスコ内に2.5×106)が組み換えウィルスクローンに感染させられ、5mlのGIBCO serum-free medium(GIBCO Biochemicals,Rockville,MD)または血清ウシビタミンD結合タンパク質の混入を防ぐために0.1%卵アルブミンを加えた培地中で培養された。培地のフラスコは27℃で保温され、感染の兆候を毎日検査された。4から5日後、フラスコから静かに押し出すことによって細胞は回収され、細胞および培地は遠心管に移され、10分間1000×g、4℃で遠心された。組み換えタンパク質産生のために感染を最大にするために、Sf9細胞は100mlのスピナー溶液培養フラスコ中で50ml完全培地で約2×106細胞/mlまで培養された。細胞は回収され、1000×gで10分間遠心され、10の乗数の感染数(MOI)の組み換えウィルスを含む10から20mlの非血清培地に懸濁された。室温で1時間インキュベートした後、感染細胞は100mlの非血清培地を含む200mlのスピナーフラスコに移され、40時間保温された。分泌されたタンパク質の40%以上が目的のタンパク質であった。上清中のタンパク質が単離された。 2)目的のタンパク質の定量化 1レーン当たり20から40μgの総細胞タンパク質を載せたSDSポリアクリルアミドゲルのクマジーブルー染色が、発現されたタンパク質の量を見積もるために使用された。試料には細胞タンパク質が含まれるため、組み換えタンパク質は非感染細胞タンパク質と比較することで容易に検出された。 3)クローン化されたGcタンパク質の、大食細胞活性化因子(GcMAF)への酵素による転換 分子量52000および458アミノ酸残基(図2)を有するクローン化されたGcタンパク質(2μg)は、ビタミンD親和性カラム(Linket al.Anal.Biochem.157:262,1986)によって単離され、固定化したβガラクトシダーゼおよびシアリダーゼで処理された。生じたクローン化大食細胞活性化因子(GcMAFc)は、ネズミおよびヒト大食細胞に加えられ、食作用および過酸化物産生能について試験された。大食細胞を10pg GcMAFc/mlで3時間保温することにより、大食細胞の食作用が5倍に増加し、過酸化物産生能は15倍に増加した。」(14頁3行〜15頁15行) 4 甲4の記載事項 発明の名称を「Gc−マクロファージ活性化因子を含む組成物およびその使用」とした特許文献である甲4には、以下の事項が記載されている。 甲4ア 「【0037】 Gcタンパク質およびGcMAF ビタミンD結合タンパク質(DBP)とも命名されたGcタンパク質は、見かけの分子量が52kDaで、特定のオリゴ糖が結合している血漿タンパク質である。Gcタンパク質は、当業者に公知の任意の方法により血清または血漿から精製できる。高純度のGcタンパク質は、25−ヒドロキシビタミンD3−セファロースアフィニティークロマトグラフィーにより血清または血漿から単離できる。Gcタンパク質はまた、アクチンに対するGcタンパク質の結合特異性を利用するアクチン−アガロースアフィニティークロマトグラフィーによっても精製できる。 【0038】 あるいは、Gcタンパク質は、Gcタンパク質またはGcタンパク質小ドメイン(ドメインIII)をコードする単離されたcDNAから取得できる。Gcタンパク質およびGcドメインIIIのクローニングならびに発現は、本明細書に完全に記載されるように参照により組み込まれる米国特許第6,410,269号に記載された。そこに記載された方法では、ヒトGcタンパク質をコードする全長cDNAを単離するためにはバクテリオファージλgt11(クロンテック社、カリフォルニア州パロアルト)中のヒト肝臓cDNAライブラリーを使用し、タンパク質発現には昆虫細胞におけるバキュロウイルス発現系を使用している。しかし、Gcタンパク質またはその活性断片をコードするcDNAを発現させるには、哺乳動物細胞系が好ましい。好ましくは、発現は、Gcタンパク質またはその活性ドメインが正しくグリコシル化されるように真核細胞中で行われる。当技術分野で公知の任意のこのような細胞系、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、BHK細胞、ヒト胎児腎臓HEK293細胞および出芽酵母が使用されてもよい。したがって、任意の真核生物発現ベクターが使用でき、それらにはpCI−NEO、pWE3、pcDNA3.1およびpCM182が含まれるが、これらに限定されない。選択された細胞系へのベクターの挿入は、増幅の有無に関わらず、例えば、エレクトロポレーションによって、TransFectinなどの脂質トランスフェクションにより、または当業者に公知の任意の化学的方法によって行うことができる。トランスフェクションは一過性のまたは安定な発現をもたらすことができ、両方の形態は所望のGcタンパク質またはその断片を得るのに適切である。活性MAFの前駆体である発現タンパク質は、その後、細胞から抽出するか、または当技術分野で公知の任意の方法によって増殖培地から収集することができる。」 第7 当審の判断 本件訂正により、請求項2は削除されたので、以下、訂正発明1及び3について検討する。 1 甲第1〜3号証に記載された発明 (1) 甲1号証に記載された発明 摘記甲1オのとおり、CHO細胞は振盪培養器を用いて培養されていることから、甲1において細胞は「浮遊培養」で培養されることが把握できる。そうすると、摘記甲1ア〜オの記載からみて、甲1には以下の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。 「組織の損傷細胞に関する標的分子に結合特異性を有する標的化ドメイン、組織の細胞表面に関する増殖因子受容体に結合特異性を有する活性化ドメイン、及び、ペプチド半減期モジュレータを含む二重特異的融合タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターでトランスフェクトしたCHO細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程、及び、CHO細胞により産生された二重特異的融合タンパク質のアフィニティーカラムクロマトグラフィーによる精製工程を含む、前記二重特異的融合タンパク質の製造方法。」 (2) 甲2号証に記載された発明 摘記甲2アの記載からみて、甲2には以下の発明が記載されている(以下「甲2発明」という。)。 「組換えビタミンD結合タンパク質(recVDBP)を発現するヒト胚性腎臓細胞(HEK293細胞株)を、化学的に調整した培地中で浮遊培養で増殖させる工程を含む、recVDBPの製造方法。」 (3) 甲3号証に記載された発明 摘記甲3ア〜エの記載からみて、甲3には以下の発明が記載されている(以下「甲3発明」という。)。 「ヒトのGcタンパク質(ビタミンD3結合タンパク質)をコードする全長cDNAをバキュロウイルスベクターに導入し、得られた組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞Sf9を、無血清培地中で単層培養し、前記ヒトGcタンパク質を上清中に分泌させ、前記ヒトGcタンパク質をビタミンD親和性カラムを用いて単離した後、固定化したβガラクトシダーゼ及びシアリダーゼで処理することを含む、大食細胞の食作用を増加させる作用を有する、クローン化されたGcタンパク質由来大食細胞活性化因子(GcMAFc)の作成方法。」 2 無効理由1(新規性欠如)及び無効理由2(無効理由2a〜2e)(進歩性欠如)について (1) 甲1発明に対して ア 訂正発明1について (ア) 訂正発明1と甲1発明との対比 甲1発明における「二重特異的融合タンパク質」と、訂正発明1における「Vitamin D Binding Protein」(VDBP)及び「Gc protein−derived macrophage activating factor(GcMAF)」は、いずれもタンパク質の一種である限りにおいて一致する。そして、甲1発明の製造方法は、二重特異的融合タンパク質を酵素で処理することで糖鎖の切断を行う工程を含むものではない。 そうすると、訂正発明1と甲1発明は、「タンパク質発現ベクターを導入したCHO細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程を含み、糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、タンパク質の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 訂正発明1では、CHO細胞に導入される発現ベクターに係るタンパク質は、「VDBP」であるのに対し、甲1発明では、「組織の損傷細胞に関する標的分子に結合特異性を有する標的化ドメイン、組織の細胞表面に関する増殖因子受容体に結合特異性を有する活性化ドメイン、及び、ペプチド半減期モジュレータを含む二重特異的融合タンパク質」である点。 <相違点2> 訂正発明1の製造方法で得られるタンパク質は、「GcMAF」であるのに対し、訂正発明1の製造方法で得られるタンパク質は、上記「二重特異的融合タンパク質」である点。 <相違点3> 訂正発明1の製造方法で得られる上記GcMAFは、「活性型」のもの、すなわちマクロファージ活性化作用を有しているものであるのに対し、甲1発明ではマクロファージ活性化作用を有するものを製造することについて特定がない点。 (イ) 無効理由1(新規性欠如)について a 判断 上記のように、訂正発明1と甲1発明には相違点1〜3が存在するから、訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。 b 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、甲1の【0312】にはペプチド半減期モジュレータとしてVDBPが記載されており、そして、活性型のGcMAFを製造することは明示されていないものの、甲1には、CHO細胞/無血清培地/浮遊系培養システムを用いてVDBPを発現することが開示されており、活性型のGcMAFを製造することも実質的に開示されている、と主張している(審判請求書19頁末行〜20頁14行)。 しかしながら、摘記甲1アのとおり、甲1において、VDBPは、二重特異的融合タンパク質に含まれることが可能なペプチド半減期モジュレータの選択肢の一つとして列挙されているものの1つにすぎず、ペプチド半減期モジュレータとしてVDBPを実際に使用して、二重特異的融合タンパク質を製造した具体例は記載されてない。さらに、甲1には、VDBP発現ベクターを用いるとGcMAFが製造できることについての説明はなされていないし、当該GcMAFとして活性型のものが得られることについての記載もない。 したがって、甲1における記載に基づいて甲1に記載された発明と認定できるものは、上記1(1)に記載した甲1発明のとおりの二重特異的融合タンパク質の製造方法であって、甲1において活性型のGcMAFの製造方法が実質的に記載されているとはいえないから、請求人の上記主張を採用することはできない。 また、請求人は、弁駁書において、甲1には本件の特許発明1及び3における工程上の特徴が全て開示されているから、甲1において取得されるVDBPは、特許明細書の実施例1、3と同じく、活性型GcMAFと認められ、「活性型GcMAF」であることは甲1に対する相違点ではない、とも主張している(弁駁書2頁末行〜3頁15行)。しかし、上記のとおり、甲1には、VDBP発現ベクターを用いることや活性型のGcMAFを得ることの記載がないから、甲1に特許発明1及び3の工程上の特徴が全て開示されているとはいえず、請求人の上記主張は、その前提を欠くものであり採用することはできない。 (ウ) 無効理由2a(進歩性欠如)について a 判断 事案に鑑み、相違点2及び3の検討を優先する。上記のとおり、甲1には、ペプチド半減期モジュレータの1つとしてVDBPが例示されているにすぎず、VDBP発現ベクターを用いてGcMAFを製造することについての説明はなく、まして、当該GcMAFとして活性型のものが得られることについての記載もないから、甲1発明の製造方法において、甲1の記載から、相違点2、3として挙げた訂正発明1の発明特定事項を採用することが当業者に動機付けられるとは認められない。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲1発明及び甲1における記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 訂正発明3について (ア) 訂正発明3と甲1発明との対比 訂正発明1を引用する訂正発明3は、訂正発明1の製造方法について、さらに、ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含むものであり、当該ビタミンDアフィニティカラムにおける「アフィニティカラム」は、甲1発明における「アフィニティーカラムクロマトグラフィー」に相当する。そうすると、訂正発明3と甲1発明は、「タンパク質発現ベクターを導入したCHO細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程、及び、アフィニティカラムによる精製工程を含み、糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、タンパク質の製造方法。」である点で一致し、上記ア(ア)に記載した相違点1〜3に加え、以下の点で相違する。 <相違点4> 訂正発明3では、精製工程で用いるアフィニティカラムは、「ビタミンDアフィニティカラム」であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。 (イ) 無効理由1(新規性欠如)について a 判断 上記のように、訂正発明3と甲1発明は相違点1〜4が存在するから、訂正発明3は、甲1に記載された発明ではない。 b 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、相違点4に関し、甲1の【0373】には発現された融合タンパク質をアフィニティーカラムクロマトグラフィーによって精製することが記載されており、甲1記載のVDBPを精製するときに、ビタミンDアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いることは当業者には明らかであるため、ビタミンDアフィニティーカラムクロマトグラフィーも実質的に開示されている、と主張している(審判請求書20頁17行〜22行)。 しかしながら、上記1(1)のとおり、甲1発明の製造方法においてCHO細胞が産生するのは、標的化ドメイン、活性化ドメイン及びペプチド半減期モジュレータを含む二重特異的融合タンパク質であってVDBPではないから、甲1発明の精製工程において「ビタミンDアフィニティカラム」を用いることが当業者にとって明らかとはいえない。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 (ウ) 無効理由2c(進歩性欠如)について a 判断 甲1発明において、相違点2及び3として挙げた発明特定事項を採用することが当業者に動機付けられるとは認められないので、相違点1及び4について検討するまでもなく、訂正発明3は、甲1発明及び甲1における記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2) 甲2発明に対して ア 訂正発明1について (ア) 訂正発明1と甲2発明との対比 甲2発明の「組換えビタミンD結合タンパク質(recVDBP)」は、訂正発明1における「Vitamin D Binding Protein」(VDBP)の1種であり、VDBPは「GcMAF」とも称することが当業者には知られている。また、甲2発明の「化学的に調整した培地」は、化学物質を用いて調整された培地であって血清を含んでいないものと理解され、訂正発明1の「無血清培地」に相当する。そして、甲2発明の製造方法は、recVDBPを酵素で処理することで糖鎖の切断を行う工程を含むものではない。そうすると、訂正発明1と甲2発明は、「Vitamin D Binding Protein(VDBP)発現ベクターを導入した細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程を含み、糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、GcMAFの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点5> 訂正発明1では、発現ベクターを導入した細胞が「CHO細胞」であるのに対し、甲2発明では「ヒト胚性腎臓細胞(HEK293細胞株)」である点。 <相違点6> 訂正発明1は、「活性型のGcMAF」の製造方法であるのに対し、甲2発明は「GcMAF」の製造方法である点。 (イ) 無効理由2b(進歩性欠如)について a 判断 標題を「総25−ヒドロキシビタミンDの自動競合型タンパク質結合測定法、多施設評価と実用性」とする学術文献である甲2は、組換えビタミンD結合タンパク質(recVDBP)を用いた25−ヒドロキシビタミンDの測定方法について記載するものである。 甲2には、recVDBPの製造に使用する細胞として、HEK293細胞株の代わりにCHO細胞を用いることについての記載や示唆は何らない。また、摘記甲2アのとおり、HEK293細胞株を用いて製造されるrecVDBPがマクロファージ活性化作用を有すること、すなわち活性型でGcMAFであることについても何ら記載されていない。そして、甲5〜8の記載を参照しても、甲2発明のrecVDBPは25−ヒドロキシビタミンDの測定方法において使用されるものであることから、recVDBPがマクロファージ活性化作用を有することは一般的には確認されないといえる。 してみると、甲2の記載からは、本件特許の優先日前における周知技術をふまえても、当業者は、甲2発明においてHEK293細胞株に替えてCHO細胞を採用することを動機付けられるとはいえないし、甲2発明の製造方法により、活性型のGcMAFが製造されることを当業者が容易に認識できるものとも認められない。 したがって、訂正発明1は、甲2発明、甲1及び甲4における記載、並びに、甲5〜8によって示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 b 請求人の主張について 請求人は、審判請求書及び弁駁書において、甲2発明との相違点であるCHO細胞に関し、甲1及び甲4には、VDBP、あるいはこれと同義であるGcタンパク質をCHO細胞により生産することが記載されており、また、そもそも、医薬品として使用するための組換えタンパク質を製造する際にCHO細胞を用いることは、甲5〜8における記載のとおり周知の技術であるから、甲2発明において、宿主細胞としてCHO細胞を用いることは、当業者であれば容易に想到できることである、と主張している(審判請求書21頁下から2行〜23頁6行、弁駁書7頁5行〜12行)。 しかしながら、甲1及び甲4はいずれも、25−ヒドロキシビタミンDなどの測定や検出に用いられるVDBPを、CHO細胞を用いて製造することについて具体的に開示するものではないし、また、上記のとおり、甲2には、HEK293細胞株の代わりにCHO細胞を用いることについての記載や示唆は何らないから、二重特異的融合タンパク質をCHO細胞で産生させることについての説明のある甲1や、Gcタンパク質(VDBP)がCHO細胞等の細胞系で産生可能なことの説明のある甲4を参照しても、甲2発明においてHEK293細胞株に替えてCHO細胞を採用することが、甲1及び甲4の記載から当業者にとって容易に想到できたとはいえない。 また、甲5〜8によって示される周知技術とは、医薬品として使用するための組換えタンパク質の製造についてのものであるところ、甲2発明の製造方法で得られるVDBPは、25−ヒドロキシビタミンDの測定方法で用いられるものであり、これを医薬品として用いることについては、甲2には何ら記載がない。さらに、甲5〜8にはVDBPに関する記載も一切ないので、甲5〜8に記載された医薬品の製造に係る周知技術を甲2発明の製造方法に適用することが、当業者にとって容易に想到できたともいえない。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 イ 訂正発明3について (ア) 訂正発明3と甲2発明との対比 訂正発明1を引用する訂正発明3は、訂正発明1の製造方法について、さらに、ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含むものであるから、訂正発明3と甲2発明は、「Vitamin D Binding Protein(VDBP)発現ベクターを導入した細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程を含み、糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、GcMAFの製造方法。」である点で一致し、上記ア(ア)に記載した相違点5及び6に加え、以下の点で相違する。 <相違点7> 訂正発明3では、「ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程」を含むのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点。 (イ) 無効理由2d(進歩性欠如)について a 判断 訂正発明3が引用する訂正発明1について、甲2発明、甲1及び甲4における記載、並びに、甲5〜8によって示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、上記ア(イ)aに記載したとおりであるから、相違点7について検討するまでもなく、訂正発明3についても、訂正発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) 甲3発明に対して ア 訂正発明1について (ア) 訂正発明1と甲3発明との対比 甲3発明の「ヒトのGcタンパク質(ビタミンD3結合タンパク質)」及び「クローン化されたGcタンパク質由来大食細胞活性化因子(GcMAFc)」は、訂正発明1における、GcMAFとも称される「Vitamin D Binding Protein」(VDBP)の1種である。また、甲3発明の「大食細胞」は、訂正発明1における「マクロファージ」に相当し、甲3発明におけるGcMAFcが有する「大食細胞の食作用を増加させる作用」とは、マクロファージを活性化する作用と理解される。そうすると、訂正発明1と甲3発明は、「Vitamin D Binding Protein(VDBP)発現ベクターを導入した細胞を、無血清培地中で培養する工程を含む、活性型のGcMAFの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点8> 訂正発明1では、発現ベクターを導入した細胞が「CHO細胞」であるのに対し、甲3発明では「昆虫細胞Sf9」である点。 <相違点9> 訂正発明1の製造方法は、糖鎖切断のための酵素処理工程を含まないものであるのに対し、甲3発明の製造方法は、糖鎖切断のための酵素処理工程である「固定化したβガラクトシダーゼ及びシアリダーゼで処理すること」を含むものである点。 (イ) 無効理由2e(進歩性欠如)について a 判断 甲3には、VDBP発現ベクターを導入する細胞として、昆虫細胞と同様にCHO細胞が使用できることは記載も示唆もされてない。また、CHO細胞を用いてVDBPを産生させる場合に、βガラクトシダーゼ及びシアリダーゼのような酵素による糖鎖切断処理を行わずとも活性型のGcMAFが得られることについても、記載も示唆もなされていない。 一方、摘記事項甲1ア〜オのとおり、甲1には二重特異的融合タンパク質をCHO細胞で産生させることについての説明が、また、摘記事項甲4アのとおり、甲4にはVDBPはCHO細胞等の細胞系を用いて産生可能なことについての説明がそれぞれ記載されているものの、甲1及び甲4のいずれにも、糖鎖切断のための酵素処理工程を要することなく活性型のGcMAFが得られることや活性型のGcMAFを製造することについての記載や示唆は何らない。 また、甲5〜8によって示されるように、医薬品として使用するための組換えタンパク質を製造する際にCHO細胞を用いることが、本件特許の優先日前における周知技術であったとしても、甲3発明において昆虫細胞Sf9に替えてCHO細胞を採用した場合に、βガラクトシダーゼ及びシアリダーゼのような酵素による糖鎖切断処理を行わずとも活性型のGcMAFを得られることが、当業者にとって自明であったとはいえない。 したがって、訂正発明1は、甲3発明、甲1及び甲4における記載、並びに、甲5〜8によって示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 b 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、甲6における942頁左欄「Cell line」の第2段落には、CHO細胞が、シアル酸転移酵素とガラクトース転移酵素を欠損していることが記載されており、よって、CHO細胞内でビタミンD結合タンパク質にシアル酸とガラクトースが付加されず、その結果としてGalNACのみが結合した活性型GcMAFが産生されることは、当業者が容易に予想できることである、と主張している(審判請求書23頁下から6行〜下から2行)。 しかしながら、甲3にはCHO細胞に関する記載がないことから、甲3の記載に接した当業者が甲6の上記記載に着目するとはいえないし、上記記載から直ちにCHO細胞の使用により糖鎖切断のための処理工程が不要であることを当業者が認識し得るとも認められない。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 イ 訂正発明3について (ア) 訂正発明3と甲3発明との対比 訂正発明1を引用する訂正発明3は、訂正発明1の製造方法について、さらに、ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含むものであり、甲3発明においてヒトGcタンパク質の単離に用いている「ビタミンD親和性カラム」は、訂正発明3における「ビタミンDアフィニティカラム」に相当する。そうすると、訂正発明3と甲3発明は、「Vitamin D Binding Protein(VDBP)発現ベクターを導入した細胞を、無血清培地中で培養する工程、及び、ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含む、活性型のGcMAFの製造方法。」である点で一致し、上記ア(ア)に記載した相違点8及び9で相違する。 (イ) 無効理由2e(進歩性欠如)について a 判断 訂正発明3が引用する訂正発明1について、甲3発明、甲1及び甲4における記載、並びに、甲5〜8によって示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、上記ア(イ)aに記載したとおりであるから、訂正発明3についても、訂正発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4) 小括 以上に述べたとおりであるから、訂正発明1及び3についての無効理由1及び2は、理由がない。 3 無効理由3(実施可能要件違反)及び無効理由4(サポート要件違反)について (1) 特許明細書の記載事項 特許明細書には、以下の記載がある。なお、下線は、実施例における4.の見出しについて付されているもの以外は、当審が付したものである。 ア 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 このような状況の中、本発明は、より簡便、かつ収率の高い活性型GcMAFの製造方法を提供することを目的とする。」 イ 「【0012】 <活性型GcMAFの製造方法> 本発明の活性型GcMAFの製造方法は、VDBP発現ベクターを導入した細胞を、無血清培地中で培養する工程を含み、不活性型VDBPの糖鎖切断のための酵素処理工程を必要としないことを特徴とする。 【0013】 本発明の活性型GcMAFの製造方法は、血漿や血清からGcグロブリンを精製して活性型GcMAFを製造するのではなく、VDBP発現ベクターを導入した細胞を無血清培地中で培養することにより、複数の工程を要することなく簡便に活性型GcMAFを製造できるという方法である。 【0014】 本発明においてVDBPは、ビタミンD結合タンパク質(VDBP;Vitamin D Binding Protein)のことであり、Gcグロブリン、Gcタンパク質ともよばれ、糖鎖構造の異なる3種類のサブタイプ(1f、1s、2)を含む。VDBPにおけるいずれのサブタイプにおいても、糖鎖の中心であるN−アセチルガラクトサミンにガラクトースがO−グリコシド結合している共通の構造を有する。1f型サブタイプでは、GalNAcにGalactoseとSialic acidが結合した3糖がO型linkで結合しており(図1参照)、1s型サブタイプでは、GalNAcにGalactoseとα−Mannoseが結合した3糖がO型linkで結合しており、2型サブタイプでは、GalNAcにGalactoseが結合した2糖がO型linkで結合しているVDBPが本発明に含まれる。また、本発明におけるVDBPは、動物由来であり、好ましくは哺乳類由来であり、例えば、ヒト、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラビット、マウス、ラット等由来のものが挙げられ、中でもヒト由来のものがより好ましい。 【0015】 本発明におけるVDBP発現ベクターは、遺伝子組換え技術を用いて人工的にVDBPをコードする核酸を、適切な発現ベクターに組込んだものである。本発明の活性型GcMAFの製造方法によると、上記発現ベクターを、適切な宿主細胞に発現させ、適切な培養条件で培養することにより、不活性型であるVDBPの糖鎖切断のための酵素処理をすることなく、活性型GcMAFを効率よく製造することができる。なお、VDBPのアミノ酸配列、核酸配列は公知であり、GenBank等のデータベースに登録されている配列情報を利用することができる。 【0016】 本発明におけるVDBP発現ベクターとしては、VDBP1f、VDBP1s、VDBP2のいずれのサブタイプをコードする核酸を組み込んだ発現ベクターであってもよいが、中でもVDBP1fをコードする核酸を組み込んだVDBP1f発現ベクター及びVDBP1sをコードする核酸を組み込んだVDBP1s発現ベクターが好ましく、VDBP1f発現ベクターがより好ましい。VDBP1f、VDBP1s、VDBP2をコードする核酸の配列を、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3として配列表に記載した。また、VDBP1f、VDBP1s、VDBP2のそれぞれのアミノ酸配列を、配列番号4、配列番号5、配列番号6として記載した。さらに、VDBP発現ベクターに組込む核酸配列としては、翻訳活性を最適化した配列が好ましく、VDBP1fの最適化核酸配列を配列番号7、この配列に対応するアミノ酸配列を配列番号8として記載した。VDBP1sの最適化核酸配列を配列番号10、この配列に対応するアミノ酸配列を配列番号11として記載した。VDBP2の最適化核酸配列を配列番号12、この配列に対応するアミノ酸配列を配列番号13として記載した。また、Hisタグを付与したVDBP1fの最適化核酸配列を配列番号9、Hisタグを付与したVDBP1sの最適化核酸配列を配列番号14、Hisタグを付与したVDBP2の最適化核酸配列を配列番号15として記載した。として記載した。」 ウ 「【実施例】 【0025】 以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。 ・・・ 【0040】 4.CHO細胞/無血清培地/浮遊系培養システムを用いた活性型GcMAFサブタイプ(1f、1s、2型)のOne−step合成方法 ExpiCHO(商標)(Gibco(商標))細胞にHuman VDBP1f、VDBP1sまたはVDBP2発現ベクターを導入し、無血清培地(ExpiCHO(商標) Expression Medium、Gibco(商標))を用いて浮遊系で培養した。培養方法はGibco(商標) ExpiCHO(商標) Expression systemのProcotolに従い、Hs GcMAF−Gc1sまたはHs GcMAF−Gc2−Histagは15μg用いた。 【0041】 8日間の培養後、細胞上清をHis−Trap column(GE healthcare社製)にかけ、トラップされたタンパク質を分離し、50mM Sodium phosphate(pH7.0)緩衝液を用いて透析した。透析後のサンプルをSDSPAGEにより分離した。5μgのVDBPに、1mUシアリダーゼ(Neuraminidase)及び1mUガラクトシダーゼ(β−D−Galactosidase)処理(37℃,3h)を行った。上記酵素処理サンプルと酵素未処理サンプルに分け、SDS−PAGEにかけ、抗VDBP抗体、GalNAcに反応するレクチンブロット(ビオチン標識HPAレクチン;Biotin conjugated HPA lectin)で糖鎖構造を解析した。なお、1f型は「2.CHO細胞/無血清培地/浮遊系培養システムを用いた活性型GcMAFのOne−step合成方法」に記載の方法で合成し、Vit.Dアフィ二ティーカラム(25(OH)D3 sepharose CL−6B)処理したサンプルを用いた。その結果、1s型、1f型では酵素処理していないサンプルもHPAレクチンに反応することから、本発明の無血清培地/浮遊系培養システムを用いると、上記酵素処理をしなくても、活性型GcMAFが得られることが示された。さらに、酵素処理してもHPAレクチンに反応するVDBP量が増加しないことから、本発明の無血清培地/浮遊系培養システムを用いると、ほぼ全てのVDBPが活性型GcMAFとして得られることが示された(図6)。 【0042】 また、上記透析後のVDBPサンプルをHiPrep Sephacryl S300columnにかけ、得られたサンプルをVit.Dアフィ二ティーカラム(25(OH)D3 sepharose CL−6B)にかけてVDBPを精製した。結合バッファーとして50mM Tris−HCl、15mM EDTA、150mM NaCl、0.1% Triton(登録商標)X−100(pH7.4)、溶出バッファーとして、6M Guanidine HClを用いた。得られたサンプルを10mM Sodium phosphateで透析後にSDS−PAGE、CBB染色を行った。Vit.Dアフィ二ティーカラム精製により、VDBPが単一バンドとして精製されること、すなわち、60kDa付近のバンドと分離できることが示された(図8)。」 エ 「【図6】 ![]() 」 (2) 請求人の主張の具体的内容 請求人は、無効理由3及び4について、以下のとおり主張している(審判請求書26頁下から7行〜27頁17行)。 特許発明は、Vitamin D Binding Protein(VDBP)として任意のサブタイプを用いる方法を包含しており、VDBPのサブタイプとして、特許明細書【0014】にはVDBP1f、VDBP1s、およびVDBP2が挙げられている。そして、特許明細書【0006】によれば、特許発明が解決しようとする課題は、より簡便、かつ収率の高い活性化GcMAFの製造方法を提供することである。 しかしながら、以下のとおり、特許発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、特許発明はサポート要件を充足しない。また、特許明細書及び本願出願時の技術常識からみて、発明の詳細な説明は、特許発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許発明は実施可能要件を充足しない。 (主張1) 特許明細書【0040】〜【0042】及び図6では、VDBP2は、CHO細胞により無血清培地を用いた浮遊系培養システムで発現されてもHPAレクチンに反応せず、活性型GcMAFが得られていないことが示されており、VDBP2を用いた場合には上記課題を解決できているとはいえない。 (主張2) 特許明細書【0031】には、VDBP1fを発現させたときに、活性型GcMAFの発現レベルが高いと記載されているが、VDBP1s、VDBP2の発現レベルは示されておらず、そして、組換えタンパク質の発現量が、そのサブタイプのアミノ酸配列や三次元構造の影響を受けることは当業者の技術常識であるから、VDBP1s、VDBP2において、VDBP1fと同様の発現量を達成できることは自明とはいえない。 (3) 当審の判断 ア 主張1について 摘記アのとおり特許明細書の【0006】に「このような状況の中、本発明は、より簡便、かつ収率の高い活性型GcMAFの製造方法を提供することを目的とする。」と記載されていることから、訂正発明が解決しようとする課題は、「より簡便、かつ収率の高い活性型GcMAFの製造方法を提供すること」であると認められる。 摘記イのとおり特許明細書の【0014】には、本件の特許発明においてVDBPは、糖鎖構造の異なる3種類のサブタイプ(1f、1s、2)を含み、いずれのサブタイプも、糖鎖の中心であるN−アセチルガラクトサミンにガラクトースがO−グリコシド結合している共通の構造を有しており、1f型サブタイプでは、GalNAcにGalactoseとSialic acidが結合した3糖がO型linkで結合しており、1s型サブタイプでは、GalNAcにGalactoseとα−Mannoseが結合した3糖がO型linkで結合しており、2型サブタイプでは、GalNAcにGalactoseが結合した2糖がO型linkで結合している、との説明が記載されている。 また、摘記イのとおり特許明細書の【0016】及び配列表には、VDBP発現ベクターに含まれるVDBP1f、VDBP1s、VDBP2をコードする核酸の配列が、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3として、また、VDBP1f、VDBP1s、VDBP2のそれぞれのアミノ酸配列が、それぞれ配列番号4、配列番号5、配列番号6として記載されている。 そして、摘記ウ及びエのとおり特許明細書の実施例において、ExpiCHO細胞にHuman VDBP1f、VDBP1s又はVDBP2発現ベクターを導入し、無血清培地を用いて浮遊系で培養して得られた細胞上清からタンパク質を分離した後、GalNAcに反応するレクチンブロット(ビオチン標識HPAレクチン;Biotin conjugated HPA lectin)で糖鎖構造を解析した結果について、 「その結果、1s型、1f型では酵素処理していないサンプルもHPAレクチンに反応することから、本発明の無血清培地/浮遊系培養システムを用いると、上記酵素処理をしなくても、活性型GcMAFが得られることが示された。さらに、酵素処理してもHPAレクチンに反応するVDBP量が増加しないことから、本発明の無血清培地/浮遊系培養システムを用いると、ほぼ全てのVDBPが活性型GcMAFとして得られることが示された(図6)。」 と記載されている(【0040】、【0041】、図6)。 ここで、実施例におけるGalNAcに反応するHPAレクチンを用いたレクチンブロットの結果は、タンパク質にHPAレクチンと反応できるGalNAcが存在するか否かを示しているにすぎず、HPAレクチンと反応できるGalNAcが検出されなかったからといって、活性型GalNAcが得られていないと断定することはできない。 そして、特許明細書においても、VDBP2を使用した場合には活性型のGcMAFが得られないということを結論づけてはいないし、請求人もVDBP2を使用した場合にはマクロファージ活性化作用が得られないことを具体的に示しているわけでもない。なお、付言すると、被請求人が提出した審判事件答弁書においても、実際に、CHO細胞から得られたVDBP2はマクロファージ活性化能を示し、活性型のGcMAFであることが示されており(審判事件答弁書24頁3行〜末行)、また、実際に、特許明細書の【0031】と同様の方法で調製したVDBP1s及びVDBP2の発現量はそれぞれ1.45、1.60(mg/20mL culture)となることが示されているところである(審判事件答弁書25頁9行〜27頁9行)。 また、上記のとおり、特許明細書の実施例において、CHO細胞にVDBP2発現ベクターを導入し、無血清培地を用いて浮遊系で培養して得られた細胞上清からVDBP2を得たことが具体的に記載されており、特許明細書の発明の詳細な説明の記載をふまえて、当業者が、当該VDBP2がマクロファージ活性化作用を有することを試験して、活性型のGcMAFであることを確認するのに格別の困難はない。したがって、本願出願時の技術常識をふまえると、特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、VDBP2の場合についてもVDBP1f及びVDBP11sの場合と同様に、当業者は訂正発明の製造方法を過度の試行錯誤を要することなく実施することができたといえる。 イ 主張2について 上記アでも記載したとおり、特許明細書より認識できる特許発明が解決しようとする課題は、「より簡便、かつ収率の高い活性型GcMAFの製造方法を提供すること」であって、活性型GcMAFの発現レベルを高めることは、特許発明が解決しようとする課題ではない。 そして、細胞から回収したタンパク質について、従前行っていた酵素処理工程を要しなければ、酵素処理工程を採用しない分、製造方法は簡便なものとなり、また、酵素処理工程による収率の低減が回避される結果、収率が高まることは、当業者にとって自明の技術的事項である。してみると、特許明細書の記載は、VDBP1s及びVDBP2の場合についても上記の課題を解決できることを、当業者が認識できたものといえる。 また、上記のとおり、特許明細書の実施例において、CHO細胞にVDBP1s発現ベクター又はVDBP2発現ベクターを導入し、無血清培地を用いて浮遊系で培養して得られた細胞上清からVDBP1s、VDBP2を得たことが具体的に記載されている。そうすると、発明の詳細な説明は、VDBP1s及びVDBP2の場合についてもVDBP1fの場合と同様に、訂正発明の製造方法を過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 (4) 小括 以上に述べたとおりであるから、訂正発明1及び3についての無効理由3及び4は、理由がない。 第8 むすび 以上のとおり、本件訂正後の請求項1、3に記載された発明の特許は、請求人が主張する理由のいずれによっても無効とすることはできない。 本件特許の請求項2は、訂正により削除され、当該請求項に対して請求人がした審判の請求はその対象が存在しないものになったため、特許法第135条の規定により、却下する。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。 よって、結論のとおり、審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 Vitamin D Binding Protein発現ベクターを導入したCHO細胞を、無血清培地中で浮遊培養する工程を含み、 糖鎖切断のための酵素処理工程を含まない、 活性型のGc protein−derived macrophage activating factor(GcMAF)の製造方法。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 ビタミンDアフィニティカラムによる精製工程を含む、請求項1に記載の活性型GcMAFの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照 |
審理終結日 | 2022-04-19 |
結審通知日 | 2022-04-22 |
審決日 | 2022-05-10 |
出願番号 | P2019-559230 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
YAA
(C12N)
P 1 113・ 832- YAA (C12N) P 1 113・ 536- YAA (C12N) P 1 113・ 113- YAA (C12N) P 1 113・ 537- YAA (C12N) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
福井 悟 |
特許庁審判官 |
伊藤 良子 森井 隆信 |
登録日 | 2020-06-16 |
登録番号 | 6718561 |
発明の名称 | 活性型GcMAFの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 津国 |
代理人 | 弁護士法人 北浜法律事務所 |
代理人 | 特許業務法人 津国 |