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審決分類 |
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B43K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B43K |
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管理番号 | 1387818 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-01-18 |
確定日 | 2022-08-08 |
事件の表示 | 特願2016−125430「水性ボールペン」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月28日出願公開、特開2017−226180〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年6月24日に特許出願としたものであって、令和1年12月12日に刊行物提出書が提出され、令和2年1月16日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年5月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、令和3年1月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年2月26日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 令和3年1月18日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和3年1月18日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲を全文にわたって補正をするものであるところ、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和2年5月20日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至7を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至7へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。) (1)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、前記有機樹脂粒子がオレフィン系樹脂粒子であり、かつ、前記水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110<A/B≦600の関係であることを特徴とする水性ボールペン。 【請求項2】 前記ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量が、20〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の水性ボールペン。 【請求項3】 前記オレフィン系樹脂粒子が、ポリエチレン樹脂粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性ボールペン。 【請求項4】 前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec−1において、500〜5000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 【請求項5】 前記着色剤が顔料粒子であり、前記オレフィン系樹脂粒子の平均粒子径をXμm、前記顔料粒子の平均粒子径をYμmとした場合、Y/X≦1.0であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 【請求項6】 前記水性ボールペン用インキ組成物にリン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸を含んでなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 【請求項7】 請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水性ボールペンを軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とすることを特徴とする出没式水性ボールペン。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、前記有機樹脂粒子が平均粒子径3μm以上のオレフィン系樹脂粒子であり、かつ、前記水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110<A/B≦600の関係であることを特徴とする水性ボールペン。 【請求項2】 前記ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量が、20〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の水性ボールペン。 【請求項3】 前記オレフィン系樹脂粒子が、ポリエチレン樹脂粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性ボールペン。 【請求項4】 前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec−1において、500〜5000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 【請求項5】 前記着色剤が顔料粒子であり、前記オレフィン系樹脂粒子の平均粒子径をXμm、前記顔料粒子の平均粒子径をYμmとした場合、0.07≦Y/X≦0.5であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 【請求項6】 前記水性ボールペン用インキ組成物にリン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸を含んでなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 【請求項7】 請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水性ボールペンを軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とすることを特徴とする出没式水性ボールペン。」 2 補正の適否について (1)補正事項1 本件補正により、本件補正前の請求項1の「水性ボールペン」の発明特定事項である「オレフィン系樹脂粒子」について、「平均粒子径3μm以上の」と補正する(以下「補正事項1」という。)。 補正事項1により、「オレフィン系樹脂粒子」について、その平均粒子径を「平均粒子径3μm以上の」と限定するものである。 そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 そうすると、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また、補正事項1は、本願の願書の最初に添付した明細書の段落【0050】の【表1】には、平均粒子径が4μm又は6μmであって、平均粒子径が3μm以上である実施例1乃至7、12乃至14、16乃至19の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。 (2)補正事項2 本件補正により、本件補正前の請求項5の「水性ボールペン」の発明特定事項である「Y/X」について、「Y/X≦1.0」を「0.07≦Y/X≦0.5」と補正する(以下「補正事項2」という。)。 補正事項2により、「Y/X≦1.0」を「0.07≦Y/X≦0.5」と限定するものである。 そして、補正前の請求項5に記載された発明と補正後の請求項5に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 そうすると、補正事項2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また、補正事項2は、本願の願書の最初に添付した明細書の段落【0050】の【表1】には、Y/Xが0.07以上0.40以下である実施例1乃至20の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。 3 独立特許要件について 上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の請求項1に係る発明(令和3年1月18日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項7】(以下、それぞれ「本件補正発明1」乃至「本件補正発明7」という。))における本件補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (1)本件補正後の請求項1に係る発明 本件補正発明1は、前記1(2)に示した本件補正後の【請求項1】に記載された事項により特定されるものと認められる。 ア 本願の明細書の記載 願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「明細書等」という。)には、以下のとおり記載されている。 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、これらの水性ボールペン用インキを用いて、出没式ボールペンやキャップオフ状態のボールペンとした場合、前記ボールペンが下向きの状態にある場合にチップ先端からのインキ漏れによるインキ垂れ下がりが発生する恐れがあった。 【0005】 ところで、陳列ケースに陳列されているボールペンは、使用者は、陳列ケースからボールペンを取り出し、試し書きやノック操作の確認等して、前記ボールペンを、同陳列ケースに戻している。 【0006】 この時、出没式ボールペンのようなキャップオフ状態のボールペンの場合、ボールペンチップを突出させた状態で陳列ケースに戻された場合には、ボールペンチップのボールの、ボールペン用陳列ケースの底部に当接する。そのように、試し書き等をしたボールペンを、同陳列ケースに戻すことを繰り返すうちに、最初に戻したボールペンの上に、何本ものボールペンが積まれ、その結果、積まれた複数のボールペンの重みによって、ボールペン用陳列ケースの底部に、ボールペンチップ先端が当接した時の衝撃をボールが受けてボール抱持室の底壁方向に移動するため、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間を生じ、その隙間からインキが垂れ下がり、インキ漏れを発生し、陳列ケースを汚してしまい、他のケース内のボールペンも、汚れてしまう問題があった。 【0007】 前記したインキ漏れを解決するために、インキでの対応方法として、インキ粘度を高くすると、インキ消費量が少なくなり、濃い筆跡が得られず、さらに筆記時の書き味も劣ってしまう。また、チップでの対応方法として、チップ本体内にコイルスプリング等で、常時、ボールをチップ先端の内壁面に押圧し、ボールとチップ先端の微小な間隙を閉鎖することで、インキ垂れ下がりを抑制することも可能であるが、製造コストが高騰し、ボールの回転が劣りやすく、書き味にも影響が出やすい問題もあった。 【0008】 本発明は、インキの漏れ出しを抑制し、書き味に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペンを得ることである。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明は、上記課題を解決するために、 「1.インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、前記有機樹脂粒子がオレフィン系樹脂粒子であり、かつ、前記水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110≦A/B≦600の関係であることを特徴とする水性ボールペン。 2.前記ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量が、20〜50μmであることを特徴とする第1項に記載の水性ボールペン。 3.前記オレフィン系樹脂粒子が、ポリエチレン樹脂粒子であることを特徴とする第1項または第2項に記載の水性ボールペン。 4.前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec−1において、500〜5000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 5.前記着色剤が顔料粒子であり、前記オレフィン系樹脂粒子の平均粒子径をXμm、前記顔料粒子の平均粒子径をYμmとした場合、Y/X≦1.0であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 6.前記水性ボールペン用インキ組成物にリン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸を含んでなることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 7.第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の水性ボールペンを軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とすることを特徴とする出没式水性ボールペン。」とする。 【発明の効果】 【0010】 本発明は、ボールペンチップを突出させた状態でボールペンを陳列ケースに戻して、ボールとチップ先端の内壁との隙間が生じても、インキの漏れ出しを抑制するとともに、書き味に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペンを得ることができた。」 「【0047】 次に実施例を示して本発明を説明する。 実施例1 顔料分散体(着色樹脂粒子:平均粒子径0.4μm、固形分量34%) 20.0質量部 水 59.2質量部 オレフィン樹脂粒子(低密度ポリエチレン分散体、平均粒子径6μm、pH値9、固形分40%) 0.5質量部 多価アルコール(グリセリン) 10.0質量部 デキストリン(重量平均分子量:100000) 1.0質量部 尿素 5.0質量部 pH調整剤(トリエタノールアミン) 2.0質量部 エチレンジアミン四酢酸(EDTA) 0.5質量部 潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部 防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部 剪断減粘性付与剤(サクシノグリカン) 0.3質量部 【0048】 顔料分散体、水、オレフィン系樹脂粒子、多価アルコール溶剤、デキストリン、尿素、pH調整剤、エチレンジアミン四酢酸、潤滑剤、防錆剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。 【0049】 その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。 尚、実施例1のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV−II粘度計(CPE−42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec−1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、1600mPa・sであった。 また、実施例1のpH値は、IM−40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃にて測定したところ、pH値=8.5であった。 【0050】 実施例2〜20 インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜20の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。 【表1】 【表2】 【0051】 比較例1〜8 インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で比較例1〜8の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。 【表3】 【0052】 試験および評価 実施例1〜20及び比較例1〜8で作製した水性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端にボール径が0.7mm、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップ(ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量30μm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)1nm)をチップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製)に充填したレフィル(1.0g)を(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G−knock)に装着して、以下の試験および評価を行った。尚、書き味、筆跡の濃さの評価は、筆記試験用紙としてJISP3201筆記用紙Aを用い、以下のような試験方法で評価を行った。 また、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を用いて水性ボールペンとして、らせん筆記試験を行い、100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、A=170(mg)、ボール径をB=0.7(mm)となり、A/B=243であった。 【0053】 インキ漏れ試験:40gの重りをゲルインキボールペンに付けて、ボールペンチップを突出させて下向きにし、ボールペンチップのボールの、ボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、ボールペンチップ先端からのインキ漏れ量を測定した。 インキ漏れ量が5mg未満であるもの・・・◎ インキ漏れ量が5〜15mgであるもの・・・○ インキ漏れ量が15mgを越えて、30mg未満のもの・・・△ インキ漏れ量が30mg以上のもの・・・× 【0054】 筆跡の濃さ:手書きにより筆記した筆跡を観察した。 濃く鮮明な筆跡であるもの・・・◎ 濃い筆跡であるもの・・・○ 実用上問題ない濃さの筆跡であるもの・・・△ 薄い筆跡のもの・・・× 【0055】 書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。 非常に滑らかなもの・・・◎ 滑らかであるもの・・・○ 実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの・・・△ 重いもの・・・× 【0056】 表の結果より、実施例1〜20では、インキ漏れ試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。尚、実施例1〜20の水性ボールペン用インキ組成物を用いて、コイルスプリングなどの弾発部材を具備しないボールペンチップ仕様に変更したゲルインキボールペンで試験したところ、インキ漏れ試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。 【0057】 さらに、実施例5、6、9の水性ボールペン用インキ組成物を用いて、ボール径を1.0mmとしたボールペンチップ仕様に変更したゲルインキボールペンで試験したところ、インキ漏れ試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好の性能が得られ、実施例5、6、9と同等以上の性能が得られた。そのため、ボール径が0.9mm以上のボールを用いて、インキ吐出量を多くする場合では、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間が大きく、インキ漏れの影響が発生しやすいが、本発明の効果は顕著であり、好適に用いられる。 【0058】 表の結果より、比較例1、2、6、7、8では、オレフィン系樹脂粒子を用いなかったため、インキ漏れがひどく、実用上問題となるレベルであった。 【0059】 比較例3、4では、A/B<110となり、100mあたりのインキ消費量とボール径との関係のバランスが悪く、薄い筆跡であり、書き味が悪かった。 【0060】 比較例5では、600<A/Bとなり、インキ漏れがひどかった。 【0061】 一般的に水性ゲルボールペンのボールペンチップは、インキ漏れ抑制するために、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングなどの弾発部材により直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖してあるが、本発明のようにインキの漏れ出しの抑制効果が特段に高いボールペン用インキ組成物を用いると、前記コイルスプリングなどの弾発部材がなくても、インキ漏れを抑制できる。そのため、ボールと弾発部材の抵抗がなくなり、書き味が向上し、インキの流動性も向上することで、インキ追従性も向上し、さらに部品点数の低下に繋がり、コストを抑制することが可能となり、より効果的である。特に、出没式等のボールペンでは、インキ漏れの抑制については、より重要視されているので、好適に用いることが可能である。」 イ 本願が解決しようとする課題 上記アの記載からすると、本件特許出願が解決しようとする課題は、主位的には「インキの漏れ出しを抑制する水性ボールペン」を得ることであって、予備的に「書き味に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペン」を得ることであると認める。 ウ 課題と試験評価との関係の検討 (ア)インキ組成物の有機樹脂粒子としてオレフィン系樹脂粒子を採用した実施例1〜20及び比較例3及び4はいずれも「インキ漏れ量が5mg未満であるもの・・・◎」か「インキ漏れ量が5〜15mgであるもの・・・○」であることから、主位的な課題である「インキの漏れ出しを抑制する水性ボールペン」の解決手段は、「オレフィン系樹脂粒子」を採用することであると認める。 (イ)「A/B」の関係につき、120以上の実施例1〜20及び比較例1、2、5〜8はいずれも「『濃く鮮明な筆跡であるもの・・・◎』か『濃い筆跡であるもの・・・○』」及び「『非常に滑らかなもの・・・◎』か『滑らかであるもの・・・○』」であることから、予備的な課題である「書き味に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペン」の解決手段は、「110<A/B」であると認める。 (ウ)ここで、比較例5は、「オレフィン系樹脂粒子」を採用するものの、「インキ漏れ量が30mg以上のもの・・・×」と評価される。これは、A/B=629であって、ボール径に比べてインク消費量が多量であることから、インキ漏れが多くなることは当然の結果と評価できる。 (2)引用例 ア 引用例1 本願の出願前に頒布された公開公報である特開平5−339534号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、水性ボールペンインクに関する。」 (イ)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかし、顔料粒子は潤滑性を阻害するため、筆感が著しく悪くなったり、不快なキシミ音を発することがあり、実際の使用においては大きな問題であった。そこで、本発明は、上記の問題点を解消し、キシミ音の発生を抑え、優れた筆感の得られる水性ボールペンインクを提供しようとするものである。」 (ウ)「【0011】 【実施例】以下の成分を配合して水性ボールペンインクを作成して筆感テスト及びキシミ音テストを行った。 (実施例1) 顔料分散体WA Color BK 1103(大日精化工業社製)(顔料粒子径0.10μm,顔料分8.0%) 50.0重量% 増粘剤ザンサンガム(大日本製薬社製) 0.8重量% グリセリン 13.0重量% エチレングリコール 12.0重量% オレイン酸カリウム 1.0重量% ベンゾトリアゾール 0.2重量% 安息香酸ナトリウム 1.0重量% 水 20.0重量% ポリオレフィン系球形微粒子ケミパールW−300(三井石油化学社製)(粒子径3μm) 2.0重量%」 (エ)「【0018】(筆感テスト及びキシミ音テスト)上記実施例及び比較例のインクをボールペンにそれぞれつめて筆感テスト及びキシミ音テストを行った。毎日ボールペンを使用する事務員43名に上記のボールペンを使用させて筆感を調べたところ、実施例1のインクについて43名中、41名の事務員が筆感の良さを認め、他の実施例についてもほぼ同様の結果を得た。これに対し、比較例1のインクについて43名全員が筆感の悪さを認め、他の比較例についても同様であった。次に、ゼブラ社製の筆記試験機を用いて、荷重100g、筆記速度4m/min、筆記角度60Oでキシミ音テストを行ったところ、実施例1のインクについては筆記距離500m(充填したインクが全量使い切る距離)を越えるまで、キシミ音は聞こえなかったが、比較例1のインクでは最初からキシミ音が聞こえた。また、他の実施例並びに比較例についてもほぼ同様の結果を得た。 【0019】 【発明の効果】本発明は、上記の構成を採用することにより、顔料粒子がボールとその受座に接触することがなくなり、筆感を改善し、かつ、キシミ音を解消することができ、運筆感の優れた顔料配合の水性ボールペンを提供することが可能となった。」 そうすると、上記記載事項(ア)乃至(エ)より、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「顔料分散体WA Color BK 1103(大日精化工業社製)(顔料粒子径0.10μm,顔料分8.0%)、水、ポリオレフィン系球形微粒子ケミパールW−300(三井石油化学社製)(粒子径3μm)を含む水性ボールペンインクをつめたボールペン。」 イ 引用例2 本願の出願前に頒布された公開公報である特開2011−178973号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、ボールペン用水性インク組成物及びそれを用いたボールペン関し、更に詳しくは、 水性ボールペンのペン先を下向きにして放置した場合において、しばしば発生するインクの自然流出現象(以下、本願においては「直流」という)を防止すると共に、描線割れ、部分的なカスレの発生、及び長時間キャップオフ後のインクの目詰まり(ドライアップ)、短時間キャップオフ後の書き出し不良(初筆性の低下)もなく、筆記性能に優れるボールペン用水性インク組成物及びそれを用いた水性ボールペンに関する。」 (イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、上記従来技術の課題などに鑑み、これを解消しようとするものであり、水性ボールペンのペン先を下向きにして放置した場合においも、直流を防止すると共に、描線割れ、部分的なカスレの発生、及び長時間キャップオフ後のインクの目詰まり(ドライアップ)や、短時間キャップオフ後の書き出し不良(初筆性の低下)もなく、筆記性能に優れるボールペン用水性インク組成物及びそれを用いた水性ボールペンを提供することを目的とする。」 (ウ)「【0042】 〔インク流出量の評価方法〕 筆記前のボールペンの質量(W1)を測定し、下記条件のボールペン筆記試験機を用いて筆記用紙に100m筆記した後のボールペンの質量(W2)を測定し、インク流出量(W1−W2)を算出(評価)した。 筆記条件: ISO規格14145−1に準拠した自動筆記試験機を用い、筆記速度:4.5m/min、筆記角度:60°、筆記荷重:0.98Nの条件で筆記した。 【0043】 【表1】 【0044】 【表2】 【0045】 上記表2の結果から明らかなように、実施例1〜7の水性ボールペンは、ペン先を下向きにして放置した場合において、しばしば発生するインクの自然流出現象である直流を防止できると共に、線割れ、カスレの発生、及び長時間キャップオフ後のインクの目詰まりがなく(ノンドライであり)、短時間キャップオフ後の書き出し不良(初筆性の低下)もなく、筆記性能に優れることが判った。また、実施例1〜7は、インク流出量(消費量)が100mあたり150mg以上となるインク流出量(消費量)が多い水性ボールペンであり、この場合にも十分な筆記性能、直流防止効果が得られることが判った。 これに対して、比較例1〜4の水性ボールペンでは、樹脂粒子を含有しないインク処方、並び従来のポリエチレン粒子を含有したインク処方であるため、本発明の目的の効果を発揮できないことが判った。」 (エ)実施例2、3、5〜7の0-100Mインキ流出量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、A/Bは、それぞれ、560、421、580、408、550である。 そうすると、上記記載事項(ア)乃至(エ)より、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「0-100Mインキ流出量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、A/Bが、それぞれ、560、421、580、408、550である、ボールペン用水性インク組成物を用いたボールペン。」 (3)当審の判断 ア 本件補正発明1と引用発明1との対比 後者の「水」、「顔料分散体WA Color BK 1103(大日精化工業社製)(顔料粒子径0.10μm,顔料分8.0%)」、「ポリオレフィン系球形微粒子ケミパールW−300(三井石油化学社製)(粒子径3μm)」、「水性ボールペンインク」及び「ボールペン」は、それぞれ、前者の「水」、「着色剤」、「『有機樹脂粒子』及び『平均粒子径3μm以上のオレフィン系樹脂粒子』」、「水性ボールペン用インキ組成物」及び「水性ボールペン」に相当する。 イ 本件補正発明1と引用発明1の一致点と相違点について 上記アの対比を踏まえると,本件補正発明1と引用発明1とは,つぎの一致点で一致し,相違点において相違する。 [一致点] 「水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、前記有機樹脂粒子が平均粒子径3μm以上のオレフィン系樹脂粒子である水性ボールペン。」 [相違点1] 本件補正発明1の「水性ボールペン」が、「インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に」水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を「収容してなる」ものであるのに対し、引用発明1の「水性ボールペンインクをつめたボールペン」の構造が明らかでない点。 [相違点2] 本件補正発明1の「水性ボールペン」が、「水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、110<A/B≦600の関係」であるのに対し、引用発明1の「水性ボールペンインクをつめたボールペン」は、「A/B」の数値範囲が不明な点。 ウ 上記各相違点についての検討 (ア)[相違点1]について 水性ボールペンが、インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水性ボールペン用インキ組成物を収容していることは、例を示すまでもなく技術常識といえる事項である。 してみると、引用発明1の「水性ボールペンインクをつめたボールペン」が、上記相違点1に係る構造を備えていることは、明らかといえるか、少なくとも、当業者であれば、インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水性ボールペン用インキ組成物を収容するようにし、上記相違点1の構成とすることに、何ら困難性はないものと認められる。 (イ)[相違点2]について 引用発明2には、「100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、A/B」が、560、421、580、408、550である水性ボールペンが示されている。 そうすると、引用発明2には、「100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、110<A/B≦600の関係」を充足する数値が示されているのであるから、引用発明2には、上記相違点2に係る本件補正発明1の構成が示されているといえる。 ここで、引用発明1は、水性ボールペンインクの技術分野に属し、引用発明2は、ボールペン用水性インク組成物及びそれを用いたボールペンの技術分野に属し、いずれも、水性ボールペンの技術分野に属する点で共通する。 また、引用発明1は、優れた筆感の得られる水性ボールペンインクを提供することを課題とし、引用発明2は、直流を防止すると共に、筆記性能に優れるボールペン用水性インク組成物及びそれを用いた水性ボールペンを提供することを課題とし、いずれも、本来、水性ボールペンに求められる、優れた筆感の得られる水性ボールペンを提供することを課題とする点で共通する。 そうすると、引用発明1に、引用発明2を適用する動機付けがあるといえるところ、上記(1)ウで検討したとおり、「オレフィン系樹脂粒子」を採用することによる効果と、「110<A/B」を採用する効果とは異なる効果を奏するものと理解できることからすれば、「オレフィン系樹脂粒子」を採用し、かつ、「110<A/B」とすることが一体不可分な技術事項とは言えない。 してみると、引用発明1の水性ボールペンインクをつめたボールペンの「100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、A/B」に、引用発明2の「100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、A/B」が、「560、421、580、408、550」との数値関係を適用し、状右記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 エ 小括 上記で検討したとおり,本件補正発明1は,引用発明1に引用発明2を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)独立特許要件についての検討のまとめ 以上検討したように,本件補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって,本件補正発明1は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に違反する。 4 補正の却下の決定のむすび 以上のとおり,本件補正は,上記において検討したように,本件補正事項は特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものであって,本件補正発明1は同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,本件補正は,同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年5月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、前記有機樹脂粒子がオレフィン系樹脂粒子であり、かつ、前記水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110<A/B≦600の関係であることを特徴とする水性ボールペン。」(以下「本願発明」という。) 2 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由は、令和2年1月16日付けの拒絶理由通知書により通知された次に示すものである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項 1−7 ・引用文献等 1−3 <引用文献等一覧> 1.特開2013−103986号公報 2.特開2011−178973号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2014−140982号公報(周知技術を示す文献) 3 引用例 令和2年1月16日付けの拒絶理由通知に引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)」に記載したものに加え、以下のものである。 (1)引用例3 本願の出願前に頒布された公開公報である特開2013−103986号公報(以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ボールペン用インク組成物に関する。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、上記従来技術の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、筆記性能を低下させることなく、直流防止効果と経時安定性を高度に両立したボールペン用インク組成物を提供することを目的とする。」 ウ「【0010】 以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。 本発明のボールペン用インク組成物は、少なくとも結晶セルロースと樹脂粒子とを含有することを特徴とするものである。 … 【0013】 本発明に用いる樹脂粒子は、インク中での結晶セルロースの経時的な沈降を抑制すると共に、直流防止効果を大きくするものである。 用いることができる樹脂粒子としては、例えば、ポリエチレンワックスエマルション、ポリプロピレンワックスエマルションなどのオレフィン系ワックスエマルション、ポリスチレン系粒子、ポリウレタン系粒子、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)粒子、スチレンアクリル樹脂粒子などから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。 これらの樹脂粒子の中でも、インク中での結晶セルロースの経時的な沈降を更に抑制する点から、比重が1以下と小さいオレフィン系ワックスエマルションを用いることが特に好ましいものとなる。 … 【0017】 本発明のボールペン用インク組成物には、上記結晶セルロース、樹脂粒子、カルボキシメチルセルロースの他、着色剤、溶剤、増粘剤、残部として水(精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)を含有することができる。 着色剤としては、例えば、ボールペン用インクに汎用される水に溶解又は分散可能な全ての染料、酸化チタンを始めとする公知の無機系及び有機系顔料、樹脂粒子を染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料を用いることができる。 染料としては、例えば、エオシン、フロキシン、ウォーターイエロー#6−C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF及びニグロシンNB等の酸性染料、ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B及びバイオレットBB等の直接染料、並びに、ローダミン及びメチルバイオレット等の塩基性染料が挙げられる。 無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。また、有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料並びに染料レーキ等が挙げられる。 これらの着色剤の含有量は、インク組成物全量に対して、0.1〜40%の範囲内で、インクの描線濃度により適宜増減することが望ましい。 【0018】 溶剤としては、水に相溶性のある極性基を有する水溶性有機溶剤を使用することができる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ピロリドンなどが挙げられ、これらは単独又は2種以上の混合物として用いることができる。 これらの溶剤の含有量は、インク組成物全量に対して、5〜50%の範囲内で、ボールペンに求められる耐乾燥性レベルにより適宜増減することが望ましい。」 そうすると、上記記載事項ア乃至ウより、引用例3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。 「着色剤、水、樹脂粒子としてオレフィン系ワックスエマルションを含有するボールペン用インク組成物を用いたボールペン。」 4 対比・判断 (1)本願発明と引用発明3との対比 後者の「水」、「着色剤」、「樹脂粒子としてオレフィン系ワックスエマルション」、「ボールペン用インク組成物」及び「ボールペン」は、それぞれ、前者の「水」、「着色剤」、「『有機樹脂粒子』及び『オレフィン系樹脂粒子』」、「水性ボールペン用インキ組成物」及び「水性ボールペン」に相当する。 (2)本願発明と引用発明3の一致点と相違点について 上記(1)の対比を踏まえると,本願発明と引用発明3とは,つぎの一致点で一致し,相違点において相違する。 [一致点] 「水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、前記有機樹脂粒子がオレフィン系樹脂粒子である水性ボールペン。」 [相違点3] 本願発明の「水性ボールペン」が、「インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に」水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を「収容してなる」ものであるのに対し、引用発明3の「ボールペン用インク組成物を用いたボールペン」の構造が明らかでない点。 [相違点4] 本願発明の「水性ボールペン」が、「水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、110<A/B≦600の関係」であるのに対し、引用発明3の「ボールペン用インク組成物を用いたボールペン」は、「A/B」の数値範囲が不明な点。 (3)上記各相違点についての検討 ア [相違点3]について 水性ボールペンが、インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水性ボールペン用インキ組成物を収容していることは、例を示すまでもなく技術常識といえる事項である。 してみると、引用発明3の「水性ボールペンインクをつめたボールペン」が、上記相違点3に係る構造を備えていることは、明らかといえるか、少なくとも、当業者であれば、インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水性ボールペン用インキ組成物を収容するようにし、上記相違点3の構成とすることに、何ら困難性はないものと認められる。 イ [相違点4]について 引用発明2には、「100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、A/B」が、560、421、580、408、550である水性ボールペンが示されている。 そうすると、引用発明2には、「100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、110<A/B≦600の関係」を充足する数値が示されているのであるから、引用発明2には、上記相違点4に係る本願発明の構成が示されているといえる。 ここで、引用発明3は、水性ボールペンインクの技術分野に属し、引用発明2は、ボールペン用水性インク組成物及びそれを用いたボールペンの技術分野に属し、いずれも、水性ボールペンの技術分野に属する点で共通する。 また、引用発明3は、筆記性能を低下させないボールペン用インクを提供することを課題とし、引用発明2は、直流を防止すると共に、筆記性能に優れるボールペン用水性インク組成物及びそれを用いた水性ボールペンを提供することを課題とし、いずれも、本来、水性ボールペンに求められる、優れた筆感の得られる水性ボールペンを提供することを課題とする点で共通する。 そうすると、引用発明3に、引用発明2を適用する動機付けがあるといえるところ、上記第2 3(1)ウで検討したとおり、「オレフィン系樹脂粒子」を採用することによる効果と、「110<A/B」を採用する効果とは異なる効果を奏するものと理解できることからすれば、「オレフィン系樹脂粒子」を採用し、かつ、「110<A/B」とすることが一体不可分な技術事項とは言えない。 してみると、引用発明3のボールペン用インク組成物を用いたボールペンの「100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、A/B」に、引用発明2の「100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、A/B」が、「560、421、580、408、550」との数値関係を適用し、状右記相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 したがって、本願発明は、引用発明3に、引用発明2を適用することにより、当業者が容易に発明できたものである。 そして、本願発明の効果も、引用発明3及び引用発明2から、当業者が予測し得る程度のものといえる。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、本願出願の出願前に出願公開された引用例3に記載された発明(引用発明3)及び引用例2に記載された発明(引用発明2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項 の規定により、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項については検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-06-15 |
結審通知日 | 2022-06-17 |
審決日 | 2022-06-28 |
出願番号 | P2016-125430 |
審決分類 |
P
1
8・
56-
Z
(B43K)
P 1 8・ 575- Z (B43K) P 1 8・ 121- Z (B43K) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
藤田 年彦 |
特許庁審判官 |
藤本 義仁 比嘉 翔一 |
発明の名称 | 水性ボールペン |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 柏 延之 |
代理人 | 宮嶋 学 |
代理人 | 前川 英明 |