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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1387892
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-09 
確定日 2022-08-10 
事件の表示 特願2019−140870「コイル電子部品」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月10日出願公開、特開2020−145399〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、令和1年7月31日(パリ条約に基づく優先権主張 平成31年3月6日 韓国(KR))の出願であって、令和2年3月19日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年5月11日に手続補正がなされ、同年9月11日付け最後の拒絶理由通知に対する応答時、同年11月16日に手続補正がなされたが、当該手続補正について同年12月9日付けで補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和3年4月9日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされ、同年10月12日付けの当審による拒絶理由通知に対する応答時、令和4年1月12日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし19に係る発明は、令和4年1月12日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである(なお、下線部は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
互いに向かい合う第1面及び第2面、前記第1面及び前記第2面を連結し且つ互いに向かい合う第3面及び第4面、並びに前記第3面に直交する第5面及び第6面を含む本体と、
前記本体の内部に配置された絶縁基板と、
前記絶縁基板において互いに向かい合う両面における一面および他面にそれぞれ配置された第1及び第2コイル部と、
前記第1コイル部の一端と連結され、前記本体の前記第1面及び前記第3面に露出し、前記絶縁基板の前記一面に形成された第1引き出し部と、
前記第2コイル部の一端と連結され、前記本体の前記第2面及び前記第3面に露出し、前記絶縁基板の前記他面に形成された第2引き出し部と、
前記絶縁基板の前記他面に配置され、前記第5面から前記第6面への方向に前記第1引き出し部と向かい合う面に配置された第1ダミー引き出し部と、
前記絶縁基板の前記一面に配置され、前記第5面から前記第6面への方向に前記第2引き出し部と向かい合う面に配置された第2ダミー引き出し部と、
前記第1及び第2引き出し部をそれぞれカバーする第1及び第2外部電極と、
前記本体の表面に配置された絶縁層と、
を含み、
前記絶縁基板は、前記第1及び第2コイル部を支持する支持部、前記第1引き出し部を支持し、前記本体の前記第1面及び前記第3面に露出した第1末端部、及び前記第2引き出し部を支持し、前記本体の前記第2面及び前記第3面に露出した第2末端部を含み、
前記第1外部電極は、前記第1引き出し部と第1ダミー引き出し部とをカバーする第1層、及び前記第1層をカバーし、前記絶縁基板と接する第2層を含み、
前記第1層において前記絶縁基板をカバーする領域には、前記第3面から前記第4面への方向に窪み前記第3面において前記第1末端部を露出させ、且つ、前記第1面から前記第2面への方向に窪み前記第1面において前記第1末端部を露出させる凹部であって、前記絶縁基板の前記第1末端部における、前記第3面の露出領域および前記第1面の露出領域と接触する前記第2層が配置される凹部が配置され、
前記絶縁層は、前記本体の前記第1面のうち、前記第6面から前記第5面への方向において前記第1外部電極よりも前記第5面側の全体に配置され、前記第5面から前記第6面への方向において前記第1外部電極よりも前記第6面側の全体に配置される、
コイル電子部品。」

3.拒絶の理由の概要
令和3年10月12日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は次のとおりのものである。
本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1、2、6に対して引用文献1、2
・請求項4、11に対して引用文献1ないし3
・請求項5、7ないし10、12、13に対して引用文献[1、2]または[1ないし3]
・請求項14ないし16に対して引用文献[1、2、4、5]または[1ないし5]
・請求項17、18に対して引用文献[1、2]、[1ないし3]、[1、2、4、5]または[1ないし5]

<<引用文献>>
引用文献1:特開2015−79958号公報
引用文献2:特開2018−157189号公報
引用文献3:特開2006−108383号公報
引用文献4:特開2012−235080号公報
引用文献5:国際公開第2018/048135号

4.引用文献の記載および引用発明
(1)引用文献1
上記引用文献1(特開2015−79958号公報)には、「チップ電子部品」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
厚さが幅より大きく、厚さ方向に対向する第1の主面及び第2の主面、幅方向に対向する第1の側面及び第2の側面、及び長さ方向に対向する第1の端面及び第2の端面を有する磁性体本体と、
前記磁性体本体の内部に配置された内部コイルパターン部と、
前記磁性体本体の少なくとも一面に配置された外部電極と、
を含み、
前記内部コイルパターン部が前記磁性体本体の第1の主面及び第2の主面に対して垂直に配置される、チップ電子部品。」

イ.「【0006】
本発明の一実施形態によれば、厚さが幅より大きく、厚さ方向に対向する第1の主面及び第2の主面、幅方向に対向する第1の側面及び第2の側面、及び長さ方向に対向する第1の端面及び第2の端面を有する磁性体本体と、上記磁性体本体の内部に配置された内部コイルパターン部と、上記磁性体本体の少なくとも一面に配置された外部電極と、を含み、上記内部コイルパターン部が上記磁性体本体の第1の主面及び第2の主面に対して垂直に配置されるチップ電子部品が提供される。」

ウ.「【0015】
図1〜図3を参照すると、チップ電子部品の一例として電源供給回路の電源ラインに用いられる薄膜型インダクタ100が示されている。
【0016】
本発明の一実施形態による薄膜型インダクタ100は、磁性体本体50と、上記磁性体本体50の内部に配置された内部コイルパターン部42、44と、上記磁性体本体50の外側に配置された外部電極81、82と、を含む。
【0017】
本発明の一実施形態による薄膜型インダクタ100において、長さ方向は図1のL方向、幅方向はW方向、厚さ方向はT方向である。
【0018】
上記磁性体本体50は、厚さ方向に対向する第1の主面SB及び第2の主面STと、長さ方向に対向する第1の端面SL1及び第2の端面SL2と、幅方向に対向する第1の側面SW1及び第2の側面SW2と、を有する。
【0019】
本発明の一実施形態による薄膜型インダクタ100は、サイズが小型化することにより上記磁性体本体50の厚さ(T)が幅(W)より大きい形態であることを特徴とする。」

エ.「【0032】
上記磁性体本体50の内部に配置された内部コイルパターン部42、44は、絶縁基板23の少なくとも一面に形成されることができる。 ・・・・・(中 略)・・・・・
【0035】
上記絶縁基板23の一面にコイル状のパターンを有する内部コイルパターン部44が形成され、上記絶縁基板23の反対面にもコイル状のパターンを有する内部コイルパターン部42が形成されることができる。」

オ.「【0040】
前述したように、薄膜型インダクタ100が1608以下のサイズに小型化することにより厚さ(T)が幅(W)より大きい磁性体本体50を形成するようになり、上記磁性体本体50のLT方向断面の断面積がLW方向断面の断面積より大きくなる。
【0041】
したがって、内部コイルパターン部42、44が磁性体本体50の第1の主面SB及び第2の主面STに対して垂直に配置されることにより内部コイルパターン部42、44が形成される面積が増加する。」

カ.「【0063】
図6及び図7を参照すると、本発明の他の実施形態による薄膜型インダクタ300は、内部コイルパターン部42、44の両端部が伸びて形成され、磁性体本体50の第1の主面SBに引き出されると共に磁性体本体50の第1の端面SL1及び第2の端面SL2にそれぞれ引き出される第1の引出部62及び第2の引出部64を含む。
【0064】
上記磁性体本体50の第1の主面SBと第1の端面SL1及び第2の端面SL2にそれぞれ引き出された第1及び第2の引出部62、64と接続するように、上記磁性体本体50の第1の主面SBと第1の主面SBに隣接した第1の端面SL1及び第2の端面SL2にそれぞれ第1の外部電極85及び第2の外部電極86が配置される。
【0065】
このように磁性体本体50の第1の主面SBと第1の端面SL1及び第2の端面SL2に第1及び第2の引出部62、64が引き出され、第1及び第2の外部電極85、86が形成されることにより、磁束の流れを妨害する外部電極の影響を減らし、且つ磁性体本体50の第1の端面SL1及び第2の端面SL2まで上記内部コイルパターン部42、44を拡張することができる。したがって、内部コイルパターン部42、44が形成される面積が広くなり、より高いインダクタンス(Ls)を具現することができる。」

キ.「




上記「ア.」ないし「エ.」から以下のことがいえる。
・引用文献1に記載の「チップ電子部品」は、上記「ア.」ないし「ウ.」、「オ.」の記載によれば、厚さ方向に対向する第1の主面及び第2の主面、幅方向に対向する第1の側面及び第2の側面、及び長さ方向に対向する第1の端面及び第2の端面を有する磁性体本体と、前記磁性体本体の内部に配置された内部コイルパターン部と、前記磁性体本体の少なくとも一面に配置された外部電極と、を含み、前記磁性体本体の厚さが幅よりも大きく、前記内部コイルパターン部が前記磁性体本体の第1の主面及び第2の主面に対して垂直に配置されてなるチップ電子部品、具体的には薄膜型インダクタに関するものである。
・上記「エ.」の記載によれば、磁性体本体50の内部には絶縁基板23の一面に形成された内部コイルパターン部44と、絶縁基板23の反対面に形成された内部コイルパターン部42とが配置されてなるものである。
・上記「カ.」の記載、及び上記「キ.」(図6,7)によれば、薄膜型インダクタ300は、内部コイルパターン部44の端部が伸びて形成され、磁性体本体50の第1の主面SBに引き出されるとともに第1の端面SL1に引き出される第1の引出部62と、内部コイルパターン部42の端部が伸びて形成され、磁性体本体50の第1の主面SBに引き出されるとともに第2の端面SL2に引き出される第2の引出部64を含み、第1及び第2の引出部62,64と接続するように、磁性体本体50の第1の主面SBと当該第1の主面SBに隣接した第1の端面SL1及び第2の端面SL2にそれぞれ第1の外部電極85及び第2の外部電極86が配置されてなるものである。
・上記「キ.」(図6,7)によれば、絶縁基板23は、内部コイルパターン部42,44を支持する部分、第1の引出部62を支持し、磁性体本体50の第1の端面及び第1の主面に露出した末端部分、及び第2の引出部64を支持し、磁性体本体50の第2の端面及び第1の主面に露出した末端部分を有することが見て取れる。

以上のことから、特に図6,7に示される実施形態の「薄膜型インダクタ300」に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「厚さ方向に対向する第1の主面及び第2の主面、幅方向に対向する第1の側面及び第2の側面、及び長さ方向に対向する第1の端面及び第2の端面を有する磁性体本体と、
前記磁性体本体の内部に配置され、絶縁基板の一面に形成された内部コイルパターン部44、及び前記絶縁基板の反対面に形成された内部コイルパターン部42と、
前記内部コイルパターン部44の端部が伸びて形成され、前記磁性体本体の第1の主面に引き出されるとともに前記第1の端面に引き出される第1の引出部と、
前記内部コイルパターン部42の端部が伸びて形成され、前記磁性体本体の第1の主面に引き出されるとともに前記第2の端面に引き出される第2の引出部と、
前記第1及び第2の引出部と接続するように、前記磁性体本体の第1の主面と当該第1の主面に隣接した第1の端面及び第2の端面にそれぞれ配置された第1の外部電極及び第2の外部電極と、を含み、
前記絶縁基板は、前記内部コイルパターン部42,44を支持する部分、前記第1の引出部を支持し、前記磁性体本体の第1の端面及び第1の主面に露出した末端部分、及び前記第2の引出部を支持し、前記磁性体本体の第2の端面及び第1の主面に露出した末端部分を含み、
前記磁性体本体の厚さが幅より大きく、前記内部コイルパターン部42、44は、前記磁性体本体の第1の主面及び第2の主面に対して垂直に配置された、薄膜型インダクタ。」

(2)引用文献2
上記引用文献2(特開2018−157189号公報)には、「コイル部品」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
支持部材と、
前記支持部材により支持され、複数のコイルパターンを含む内部コイルと、
前記内部コイルと連結され、前記内部コイルと接触する第1層及び前記第1層上に配置された第2層を含む外部電極と、を含み、
前記第2層は、前記支持部材の第1端部の少なくとも一部及び前記支持部材の第2端部の少なくとも一部と接するように配置される、コイル部品。」

イ.「【請求項8】
支持部材により支持された内部コイルを埋め込む磁性物質を含み、厚さ方向に互いに対向する上面及び下面、長さ方向に互いに対向する第1端面及び第2端面、及び幅方向に互いに対向する第1側面及び第2側面を有して外観を成す本体と、
前記本体の前記第1端面と前記第2端面にそれぞれ配置される第1外部電極及び第2外部電極と、を含み、
前記支持部材の第1端部及び第2端部はそれぞれ前記第1端面と前記第2端面に露出しており、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極はそれぞれ、第1層と、前記第1層上に配置される第2層と、を含み、
前記第1端面上において前記第1層が占める面積は前記第1端面の面積より小さく、
前記第2端面上において前記第2層が占める面積は前記第2端面の面積より小さい、コイル部品。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項13】
前記内部コイルは上部コイル及び下部コイルを含み、前記上部コイルは前記第1端部の上側に配置され、前記下部コイルは前記第2端部の下側に配置されており、前記上部コイル及び前記下部コイルは、前記支持部材を貫通する1つ以上のビアを介して連結される、請求項8から12のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項14】
前記上部コイルが配置される平面上に配置されており、前記第1端面に露出し、前記第1外部電極と連結される第1ダミー電極と、
前記下部コイルが配置される平面上に配置されており、前記第2端面に露出し、前記第2外部電極と連結される第2ダミー電極と、をさらに含み、
前記第1ダミー電極及び前記第2ダミー電極は、上部コイル及び下部コイルと離隔するように配置される、請求項13に記載のコイル部品。」

ウ.「【0005】
本発明が解決しようとする様々な課題のうちの一つは、内部コイルと、それに連結される外部電極との接触性を改善することである。」

エ.「【0012】
図1は本発明の一例によるコイル部品の概略的な斜視図であり、図2は図1のI−I'線に沿って切断した断面図である。
【0013】
図1及び図2を参照すると、コイル電子部品100は、本体1と、上記本体の外部面上に配置される第1外部電極21及び第2外部電極22と、を含む。
【0014】
上記本体1は、コイル電子部品の外観を成すものであって、厚さ(T)方向に互いに対向する上面及び下面、長さ(L)方向に互いに対向する第1端面及び第2端面、及び幅(W)方向に互いに対向する第1側面及び第2側面を含み、実質的に六面体形状を有することができるが、これに制限されない。
【0015】
上記本体1は磁性物質を含み、例えば、フェライトまたは金属系軟磁性材料が充填されて形成されることができる。上記フェライトとしては、Mn−
Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Ni−Zn−Cu系フェライト、Mn−Mg系フェライト、Ba系フェライトまたはLi系フェライトなどの公知のフェライトを含むことができる。上記金属系軟磁性材料としては、Fe、Si、Cr、Al、及びNiからなる群から選択される何れか1つ以上を含む合金が挙げられ、例えば、Fe−Si−B−Cr系非晶質金属粒子を含むことができるが、これに制限されるものではない。上記金属系軟磁性材料の粒径は0.1μm以上20μm以下であることができる。上記金属系軟磁性材料は、エポキシ樹脂またはポリイミドなどの高分子に分散された形態で含まれることができる。
【0016】
上記本体1内には支持部材11が配置されており、上記支持部材は、内部コイルをより容易に形成するとともに、内部コイルを適切に支持する機能を担う。上記支持部材は、絶縁特性を有する板状からなることが好適であり、例えば、PCB基板であることができるが、これに限定されるものではない。上記支持部材11の厚さは、上記内部コイルを適切に支持することができる程度であれば十分であり、例えば、約60μmであることが好ましい。但し、IT用電子部品だけでなく、実際の使用環境が厳しい産業用または電装用製品まで活用分野を拡大させることを考慮すると、約100μmの厚さを有する支持部材を採用することも好ましく、また、250℃以上350℃以下の、相対的に高い温度範囲のTg特性を有する支持部材を採用することが好ましい。
【0017】
次に、上記支持部材により支持される内部コイル12について説明する。上記内部コイル12は、上記支持部材の上面上に配置される上部コイル121と、上記支持部材の下面上に配置される下部コイル122と、を含む。上記上部及び下部コイルのそれぞれは複数のコイルパターンを含み、それぞれのコイルパターンの幅及び厚さは、当業者の必要性や条件に応じて適宜選択することができる。」

オ.「【0022】
上記第1外部電極21は複数の層を含み、最内側に配列される外部電極の層として、上記内部コイルの第1コイル先端と電気的に連結される第1層21aと、上記第1層の表面上に配置される第2層21bと、を含む。この際、上記第2層21bは、金属−エポキシ、例えば、銀−エポキシの複合層で構成される。内部コイルが金属材質を含むため、上記内部コイル上に第2層をすぐに配置する場合、内部コイルと外部電極との適切な接触性の確保が問題となり得る。適切な接触性の確保が保障されないと、接触抵抗が大きくなったり、内部コイルと外部電極との離隔によって電子部品の信頼性が著しく阻害されたりするという問題が発生する恐れがある。さらに、上記接触性確保の問題は、電子部品をIT機器だけでなく、産業及び電子分野に適用する際にさらに重要な課題となる。 ・・・・・(中 略)・・・・・
【0025】
図2を参照すると、上記第1層21aは、支持部材11の一端部11aの全体を被覆しないように配置され、第1層の平均厚さ(T1)は支持部材の厚さ(Ts)の1/2以下となるように制御されることが好ましい。もし、第1層の平均厚さ(T1)が支持部材の厚さ(Ts)の1/2より大きい場合、第1層が支持部材の端部の表面の全体を覆うようになって好ましくない。
【0026】
当然ながら、上記支持部材の一端部の表面のうち上記第1層で覆われない領域は、上記第1層上に形成される第2層21bと接するようになる。このように、上記第1層で覆われない領域は断絶部(disconnected portion)であると理解することができる。この断絶部は第2層で覆われ、上記第2層と直接接触するようになる。」

カ.「【0042】
図4及び図5を参照すると、コイル電子部品200は、上部コイルが配置される平面と同一平面上に第1ダミー電極211と、下部コイルが配置される平面と同一平面上に第2ダミー電極212と、をさらに含む。
【0043】
上記第1ダミー電極211は内部コイルと物理的に離隔するように配置され、上記第2ダミー電極212も内部コイルと物理的に離隔するように配置される。
【0044】
上記第1及び第2ダミー電極211、212は、それぞれ本体の第2端面と第1端面に露出しており、その結果、上記第1ダミー電極211の露出面は第2外部電極の第1層と接し、上記第2ダミー電極212の露出面は第1外部電極の第1層と接する。上記第1及び第2ダミー電極を配置させることで、本体の外部面上に配置される外部電極の接触性を増加させることができ、上部コイルと下部コイルがそれぞれ配置される平面のうち内部コイルを含まない平面の領域内における段差を減少させることができる。」

キ.「




ク.「




上記「ア.」ないし「ク.」から以下のことがいえる。
・引用文献2に記載の「コイル部品」は、上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」の【請求項8】と【請求項13】、「エ.」の記載、及び「キ.」(図1,2)、「ク.」(図4,5)によれば、磁性物質を含む本体と、本体内に配置された板状の支持部材と、支持部材の上面上及び下面上にそれぞれ配置された上部コイル及び下部コイルを含む内部コイルと、本体の両端面にそれぞれ配置され、内部コイルと連結される外部電極とを含むコイル部品に関し、上記「ウ.」の記載によれば、内部コイルと、それに連結される外部電極との接触性を改善することを課題の一つとするものである。
・上記「ア.」、「オ.」の記載、及び「キ.」(図1,2)によれば、外部電極は、内部コイルのコイル先端と電気的に連結される第1層と、第1層の表面上に配置される第2層を含み、第1層は、支持部材の一端部の全体を被覆せず、支持部材の一端部に第1層で覆われていない領域である断絶部が設けられ、当該断絶部は第2層で覆われ第2層と直接接触するようにしてなるものである。
・上記「イ.」の【請求項14】、「カ.」の記載、及び「ク.」(図4,5)によれば、上部コイルが配置される平面であって下部コイルのコイル先端と向かい合う平面に配置され、露出面が一方の外部電極の第1層と接する第1ダミー電極と、下部コイルが配置される平面であって上部コイルのコイル先端と向かい合う平面に配置され、露出面が他方の外部電極の第1層と接する第2ダミー電極とを設けてなるものである。

以上のことから、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術事項が記載されている。
「磁性物質を含む本体と、本体内に配置された板状の支持部材と、支持部材の上面上及び下面上にそれぞれ配置された上部コイル及び下部コイルを含む内部コイルと、本体の両端面にそれぞれ配置され、内部コイルと連結される外部電極とを含むコイル部品において、
内部コイルと、それに連結される外部電極との接触性を改善するために、内部コイルと連結される外部電極として、内部コイルのコイル先端と電気的に連結される第1層と、第1層の表面上に配置される第2層を含み、第1層は、支持部材の一端部の全体を被覆せず、支持部材の一端部に第1層で覆われていない領域である断絶部が設けられ、当該断絶部は第2層で覆われ第2層と直接接触するようにし、
さらに、上部コイルが配置される平面であって下部コイルのコイル先端と向かい合う平面に配置され、露出面が一方の外部電極の第1層と接する第1ダミー電極と、下部コイルが配置される平面であって上部コイルのコイル先端と向かい合う平面に配置され、露出面が他方の外部電極の第1層と接する第2ダミー電極とを設ける技術。」

5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「磁性体本体」は、本願発明でいう「本体」に相当し、そして、引用発明の磁性体本体が有する「第1の主面及び第2の主面」、「第2の端面及び第1の端面」、「第1の側面及び第2の側面」が、それぞれ本願発明でいう互いに向かい合う「第3面及び第4面」、「第1面及び第2面」、「第5面及び第6面」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは「互いに向かい合う第1面及び第2面、前記第1面及び前記第2面を連結し且つ互いに向かい合う第3面及び第4面、並びに前記第3面に直交する第5面及び第6面を含む本体と」を含むものである点で一致する。

(2)引用発明における「絶縁基板」は、その一面と反対面にそれぞれ形成された内部コイルパターン部が磁性体本体の内部に配置されるのであるから、当然、これら内部コイルパターン部とともに磁性体本体の内部に配置されてなるものであり(引用文献1の図6、7も参照)、本願発明における本体の内部に配置された「絶縁基板」に相当し、本願発明と引用発明とは「前記本体の内部に配置された絶縁基板と」を含むものである点で一致する。

(3)引用発明における絶縁基板の反対面に形成された「内部コイルパターン部42」(引用文献1の図6(概略斜視図)で手前側に位置する内部コイルパターン部)が、本願発明でいう絶縁基板の一面に配置された「第1コイル部」(本願の図1(概略斜視図)で手前側に位置するコイル部)に相当するとみると、引用発明における絶縁基板の一面に形成された「内部コイルパターン部44」は、本願発明でいう絶縁基板の他面に配置された「第2コイル部」に相当し、さらに、引用発明の内部コイルパターン部42の端部が伸びて形成され、磁性体本体の第1の主面に引き出されるとともに第2の端面に引き出される「第2の引出部」、内部コイルパターン部44の端部が伸びて形成され、磁性体本体の第1の主面に引き出されるとともに第1の端面に引き出される「第1の引出部」は、それぞれ本願発明でいう第1コイル部の一端と連結され、本体の第1面及び第3面に露出し、絶縁基板の一面に形成された「第1引き出し部」、第2コイル部の一端と連結され、本体の第2面及び第3面に露出し、絶縁基板の他面に形成された「第2引き出し部」に相当するといえる。
したがって、本願発明と引用発明とは「前記絶縁基板において互いに向かい合う両面における一面および他面にそれぞれ配置された第1及び第2コイル部と、前記第1コイル部の一端と連結され、前記本体の前記第1面及び前記第3面に露出し、前記絶縁基板の前記一面に形成された第1引き出し部と、前記第2コイル部の一端と連結され、前記本体の前記第2面及び前記第3面に露出し、前記絶縁基板の前記他面に形成された第2引き出し部と」を含むものである点で一致する。
ただし、本願発明では「前記絶縁基板の前記他面に配置され、前記第5面から前記第6面への方向に前記第1引き出し部と向かい合う面に配置された第1ダミー引き出し部と、前記絶縁基板の前記一面に配置され、前記第5面から前記第6面への方向に前記第2引き出し部と向かい合う面に配置された第2ダミー引き出し部」を含むと特定するのに対し、引用発明ではそのような第1ダミー引き出し部及び第2ダミー引き出し部を有していない点で相違する。

(4)引用発明における第1及び第2の引出部と接続するように、磁性体本体の第1の主面と当該第1の主面に隣接した第1の端面及び第2の端面にそれぞれ配置された「第1の外部電極」及び「第2の外部電極」は、それぞれ本願発明でいう第2引き出し部をカバーする「第2外部電極」、第1引き出し部をカバーする「第1外部電極」に相当し、本願発明と引用発明とは「前記第1及び第2引き出し部をそれぞれカバーする第1及び第2外部電極と」を含むものである点で一致する。
ただし、第1外部電極について、本願発明では「前記第1引き出し部と第1ダミー引き出し部とをカバーする第1層、及び前記第1層をカバーし、前記絶縁基板と接する第2層を含み、前記第1層において前記絶縁基板をカバーする領域には、前記第3面から前記第4面への方向に窪み前記第3面において前記第1末端部を露出させ、且つ、前記第1面から前記第2面への方向に窪み前記第1面において前記第1末端部を露出させる凹部であって、前記絶縁基板の前記第1末端部における、前記第3面の露出領域および前記第1面の露出領域と接触する前記第2層が配置される凹部が配置される」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような第1層及び第2層を有していない点で相違する。

(5)引用発明における「絶縁基板」のうち、「内部コイルパターン部42,44を支持する部分」、「第1の引出部を支持し、磁性体本体の第1の端面及び第1の主面に露出した末端部分」、「第2の引出部を支持し、磁性体本体の第2の端面及び第1の主面に露出した末端部分」は、それぞれ本願発明でいう「第1及び第2コイル部を支持する支持部」、「第2引き出し部を支持し、本体の第2面及び第3面に露出した第2末端部」、「第1引き出し部を支持し、本体の第1面及び第3面に露出した第1末端部」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは「前記絶縁基板は、前記第1及び第2コイル部を支持する支持部、前記第1引き出し部を支持し、前記本体の前記第1面及び前記第3面に露出した第1末端部、及び前記第2引き出し部を支持し、前記本体の前記第2面及び前記第3面に露出した第2末端部」を含むものである点で一致する。

(6)本願発明では「前記本体の表面に配置された絶縁層」を含み、「前記絶縁層は、前記本体の前記第1面のうち、前記第6面から前記第5面への方向において前記第1外部電極よりも前記第5面側の全体に配置され、前記第5面から前記第6面への方向において前記第1外部電極よりも前記第6面側の全体に配置される」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような絶縁層を有していない点で相違する。

(7)そして、引用発明における「薄膜型インダクタ」は、「内部コイルパターン部」を備えるから、本願発明でいう「コイル電子部品」に相当するものである。

よって上記(1)ないし(7)によれば、本願発明と引用発明とは、
「互いに向かい合う第1面及び第2面、前記第1面及び前記第2面を連結し且つ互いに向かい合う第3面及び第4面、並びに前記第3面に直交する第5面及び第6面を含む本体と、
前記本体の内部に配置された絶縁基板と、
前記絶縁基板において互いに向かい合う両面における一面および他面にそれぞれ配置された第1及び第2コイル部と、
前記第1コイル部の一端と連結され、前記本体の前記第1面及び前記第3面に露出し、前記絶縁基板の前記一面に形成された第1引き出し部と、
前記第2コイル部の一端と連結され、前記本体の前記第2面及び前記第3面に露出し、前記絶縁基板の前記他面に形成された第2引き出し部と、
前記第1及び第2引き出し部をそれぞれカバーする第1及び第2外部電極と、
を含み、
前記絶縁基板は、前記第1及び第2コイル部を支持する支持部、前記第1引き出し部を支持し、前記本体の前記第1面及び前記第3面に露出した第1末端部、及び前記第2引き出し部を支持し、前記本体の前記第2面及び前記第3面に露出した第2末端部を含む、
コイル電子部品。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では「前記絶縁基板の前記他面に配置され、前記第5面から前記第6面への方向に前記第1引き出し部と向かい合う面に配置された第1ダミー引き出し部と、前記絶縁基板の前記一面に配置され、前記第5面から前記第6面への方向に前記第2引き出し部と向かい合う面に配置された第2ダミー引き出し部」を含むと特定するのに対し、引用発明ではそのような第1ダミー引き出し部及び第2ダミー引き出し部を有していない点。

[相違点2]
第1外部電極について、本願発明では「前記第1引き出し部と第1ダミー引き出し部とをカバーする第1層、及び前記第1層をカバーし、前記絶縁基板と接する第2層を含み、前記第1層において前記絶縁基板をカバーする領域には、前記第3面から前記第4面への方向に窪み前記第3面において前記第1末端部を露出させ、且つ、前記第1面から前記第2面への方向に窪み前記第1面において前記第1末端部を露出させる凹部であって、前記絶縁基板の前記第1末端部における、前記第3面の露出領域および前記第1面の露出領域と接触する前記第2層が配置される凹部が配置される」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような第1層及び第2層を有していない点。

[相違点3]
本願発明では「前記本体の表面に配置された絶縁層」を含み、「前記絶縁層は、前記本体の前記第1面のうち、前記第6面から前記第5面への方向において前記第1外部電極よりも前記第5面側の全体に配置され、前記第5面から前記第6面への方向において前記第1外部電極よりも前記第6面側の全体に配置される」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような絶縁層を有していない点。

6.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]及び[相違点2]について
当審の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、支持部材の上面上及び下面上にそれぞれ配置される上部コイル及び下部コイルを含む内部コイルと、それに連結される外部電極との接触性を改善するために、内部コイルと連結される外部電極として、内部コイルのコイル先端と電気的に連結される第1層と、第1層の表面上に配置される第2層を含み、第1層は、支持部材の一端部の全体を被覆せず、支持部材の一端部に第1層で覆われていない領域である断絶部が設けられ、当該断絶部は第2層で覆われ第2層と直接接触するようにし、さらに、上部コイルが配置される平面であって下部コイルのコイル先端と向かい合う平面に配置され、露出面が一方の外部電極の第1層と接する第1ダミー電極と、下部コイルが配置される平面であって上部コイルのコイル先端と向かい合う平面に配置され、露出面が他方の外部電極の第1層と接する第2ダミー電極とを設ける技術事項が記載されている(上記「4.(2)」を参照)。
ここで、引用文献2に記載の技術事項における外部電極に関して、「第1層」、「第2層」、「断絶部」は、それぞれ本願発明でいう「第1層」、「第2層」、「凹部」に相当するものである。
そして、引用発明にあっても、内部コイルパターン部とそれに連結される外部電極との接触性の改善(向上)は当然に望まれることであるから、引用発明において、引用文献2に記載された上記2つの技術事項をともに採用し、相違点1及び相違点2に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点3]について
引用文献1の段落【0065】に記載されているように、引用発明は「磁束の流れを妨害する外部電極の影響を減ら」すように外部電極が形成されてなるものであるところ、例えば当審の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(特開2006−108383号公報)には、コイル状導体に発生するフラックスが端子電極により阻害されて積層型インダクタの特性(Q値)が低下することを防止するために、端子電極の幅を積層体(本体)の幅よりも狭くしてなるものが記載されており(特に段落【0023】、【0049】〜【0051】、図24(b)を参照)、引用発明においても、外部電極の影響をさらに減らしてインダクタの特性の低下を防止するために、第2の外部電極の幅を磁性体本体の幅よりも狭い幅とすることは当業者であれば容易になし得たことである。ここで、例えば当審の拒絶の理由に引用された上記引用文献4(特開2012−235080号公報、特に【請求項5】、段落【0052】〜【0055】、図5を参照)や上記引用文献5(国際公開第2018/048135号、特に[請求項8]〜[請求項9]、段落[71]〜[72]、図1,2を参照)に記載されているように、本体の保護等のために、本体の表面のうち外部電極が形成されない領域に絶縁層を形成することは周知といえる技術事項であり、引用発明においてかかる周知の技術事項を採用することも当業者が適宜なし得たことである。そして、上述したように、引用発明において、第2の外部電極の幅を磁性体本体の幅よりも狭い幅とした際にあっては、絶縁層は磁性体本体の表面のうち外部電極が形成されていない領域に形成されるのであるから、当然、絶縁層は、磁性体本体の第2の端面のうち、第2の側面から第1の側面への方向において第2の外部電極よりも第1の側面側の全体に配置され、第1の側面から第2の側面への方向において第2の外部電極よりも第2の側面側の全体に配置される構成となる。
よって、引用発明において相違点3に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

そして、上記各相違点を総合勘案しても、本願発明が奏する効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 山田 正文
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-01 
結審通知日 2022-03-08 
審決日 2022-03-24 
出願番号 P2019-140870
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 畑中 博幸
井上 信一
発明の名称 コイル電子部品  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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