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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1387898 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-04-21 |
確定日 | 2022-08-04 |
事件の表示 | 特願2017− 19658「ポリエステルフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月16日出願公開、特開2018−128503〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2017−19658号(以下「本件出願」という。)は、平成29年2月6日を出願日とする出願であって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和2年11月24日付け:拒絶理由通知書 令和3年 1月18日提出:手続補正書、意見書 令和3年 2月 3日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和3年 4月21日提出:審判請求書 令和3年 4月21日提出:手続補正書 令和3年 7月 2日提出:上申書 令和4年 1月 7日付け:拒絶理由通知書(この拒絶理由通知書で指摘した拒絶の理由を、以下「当審拒絶理由」という。) 令和4年 3月 7日提出:手続補正書 (この手続補正書による手続補正を、以下「本件補正」という。) 令和4年 3月 7日提出:意見書 第2 本件発明 本件出願の請求項1〜8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、次のとおりである。 「共重合ポリエステル成分を含有する、2層又は3層からなる積層フィルムであって、 少なくとも片方の表層に、前記共重合ポリエステル成分として、イソソルバイド、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及びテトラメチルシクロブタンジオールからなる群から選ばれる1種以上のジオール単位を有する共重合ポリエステルを含み、前記表層が、前記共重合ポリエステルを構成する前記ジオール単位として、前記表層のジオール成分のうち、少なくともイソソルバイドを25モル%以上含み、 面内リターデーション(Re)が70nm以下であり、MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率が0.3%以下であることを特徴とする一軸または二軸延伸ポリエステルフィルム。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由のうち理由2(進歩性)の概要は、本件出願の請求項1〜請求項8に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献10:特開2016−66079号公報 引用文献11:特開2017−2307号公報 引用文献12:特開2014−19008号公報 (当合議体注:引用文献10〜12は、主引用例である。また、引用文献10〜12は周知技術を示すための文献としても用いている。) 第4 当合議体の判断 1 引用文献の記載事項及び引用発明 (1)引用文献12の記載 当審拒絶理由の理由2(進歩性)において、引用文献12として引用された、特開2014−19008号公報は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、積層ポリエステルフィルムに関するものであり、詳しくは液晶ティスプレイ、タッチパネル等に用いる各種光学用部材や、光学分野の製品の製造工程において使用される保護フィルムや離型フィルム等に用いられるポリエステルフィルムであって、耐熱性に優れる積層ポリエステルフィルムに関するものである。 【背景技術】 ・・・中略・・・ 【0003】 ポリエステルフィルムは、近年、特に各種光学用フィルムに多く使用され、LCDの部材のプリズムシート、光拡散シート、反射板、タッチパネル等のベースフィルムや反射防止用のベースフィルムやディスプレイの防爆用ベースフィルム、PDPフィルター用フィルム、タッチパネル用フィルム等の各種用途に用いられている。 【0004】 これらの光学製品において、明るく鮮明な画像を得るために、光学用フィルムとして用いられているベースフィルムは、その使用形態から透明性が良好で、かつ画像に影響を与える異物やキズ等の欠陥がないことが必要になる。また、近年LCDにおいて光源としてLEDが多く使用され、光学用フィルムにかかる熱量は増加する傾向にあることや、タッチパネル用においては透明導電フィルムの性能向上のため加工温度が上昇傾向にあることから、これらの光学用のベースフィルムにおいては、フィルムの耐熱性が重要な因子である。 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は、上記実状に鑑みなされたものであって、その解決課題は、液晶ディスプレイ、タッチパネル等に用いる各種光学用部材や、光学分野の製品の製造工程において使用される保護フィルムや離型フィルム等に用いられる、耐熱性や光学特性に優れる積層ポリエステルフィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を採用すれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。 【0011】 すなわち、本発明の要旨は、少なくとも3層からなる積層ポリエステルフィルムであって、一方の表層が、ジオール単位中の0.25〜30モル%がイソソルバイド、0.38〜45モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールであるジオール単位とジカルボン酸単位とで構成されたポリエステルであり、内層の少なくとも1層がエチレンテレフタレートであるジオール単位とテレフタル酸であるカルボン酸単位とで構成されたポリエステルを主たる成分とし、当該ポリエステルが触媒由来のチタン化合物をチタン元素量として1〜50ppm含有することを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。 【発明の効果】 【0012】 本発明によれば、液晶ディスプレイ、タッチパネル等に用いる各種光学用部材や、光学分野の製品の製造工程において使用される保護フィルムや離型フィルム等に用いられる、耐熱性や光学特性に優れる積層ポリエステルフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。」 イ 「【発明を実施するための形態】 【0013】 本発明でいうポリエステルフィルムとは、いわゆる押出法に従い押出口金から溶融押出されたシートを延伸したフィルムである。 上記のフィルムを構成するポリエステルは、ジカルボン酸単位とジオール単位を重縮合させて得られるものを指す。 ・・・中略・・・ 【0015】 本発明においては、ジオール単位中の0.25〜30モル%がイソソルバイド、0.38〜45モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールであるジオール単位からなるポリエステルが一方の表層に使われることを必要とし、当該表層のジオール単位中の好ましくは1〜20モル%がイソソルバイド、1.5〜30モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、さらに好ましくはジオール単位中の5〜10モル%がイソソルバイド、7.5〜20モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールである。 ・・・中略・・・ 【0018】 イソソルバイドは以下の構造をもつ1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトールである。 【0019】【化1】 【0020】 かかる成分を含有させる方法としては、フィルムを製造する原料として所定量の共重合成分として含有する共重合ポリエスエルを用いてもよいし、所定量より多い共重合成分を含有する共重合ポリエステルフィルムと、共重合成分が少ない含有量の共重合ポリエステルまたはホモポリエステルをブレンドして得られる原料を用いてもよい。 ・・・中略・・・ 【0028】 本発明においては、ポリエステルの溶融押出機を2台または3台以上用いて、いわゆる共押出法により少なくとも3層以上の積層フィルムとすることができる。層の構成としては、A原料とB原料を用いたA/B/A構成、さらにC原料を用いたA/B/C構成またはそれ以外の3層以上の構成のフィルムとすることができる。 【0029】 本発明のポリエステルフィルムの厚さは、25〜250μm、好ましくは25〜188μm、さらに好ましくは25〜125μmである。フィルム厚さが250μmより厚い場合は、耐熱性は十分であるが、軽量化および薄肉化を競っている光学用途の製品設計上、好ましくない。 ・・・中略・・・ 【0034】 なお、塗布剤のフィルムへの塗布性や接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理や放電処理を施してもよい。また、表面特性をさらに改良するため、塗布層形成後に放電処理を施してもよい。」 ウ 「【実施例】 【0036】 以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、種々の諸物性、特性は以下のように測定、または定義されたものである。実施例中、「%」は「重量%」を意味する。 ・・・中略・・・ 【0038】 (2)耐熱性の評価 フィルムを150mmx150mmの大きさに切りだし、熱風循環式オーブンにて100℃x24時間処理後、フィルムの平面性を評価した。△以上を合格とする。 ◎:熱処理前後でフィルムの平面性はほとんど変わらない ○:熱処理前後でフィルムの平面性は若干悪くなるが合格レベルである △:熱処理前後でフィルム平面性は悪化するが合格レベルである △△:熱処理前後でフィルム平面性は一定量悪化するが許容レベルである ×:熱処理前後でフィルムの平面性は大きく悪化し不合格レベルである ・・・中略・・・ 【0040】 実施例1: (ポリエステルチップの製造法) ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール70部、および酢酸カルシウム一水塩0.07部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノール留去させエステル交換反応を行い、反応開始後、約4時間半を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次に燐酸0.04部およびチタン化合物0.003部を添加し、常法に従って重合した。すなわち、反応温度を徐々に上げて、最終的に280℃とし、一方、圧力は徐々に減じて、最終的に0.05mmHgとした。4時間後、反応を終了し、常法に従い、チップ化してポリエステル(A)を得た。得られたポリエステルチップの溶液粘度IVは、0.66であった。 【0041】 また、上記ポリエステル(A)を製造する際、平均粒径2μmの非晶質シリカを1000ppm添加し、ポリエステル(B)を作成した。 【0042】 上記ポリエステル(A)の製造方法において、ジオール成分としてエチレングリコール、イソソルバイド、1,4−シクロヘキサンジメタノールを出発原料とする以外はポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(C)を得た。得られたポリエステル(C)はジオール単位としてイソソルバイド30mol%、1,4−シクロヘキサンジメタノール45mol%を含有していた。 【0043】 (ポリエステルフィルムの製造) 上記ポリエステル(A)、(B)、(C)をそれぞれ88.4%、10.0%、1.6%の割合で混合した混合原料を表層であるA層用の原料とし、ポリエステル(A)を内層であるB層の原料とし、A層およびB層用原料をそれぞれ別個の溶融押出機により溶融押出してA/B/Aの2種3層積層の無定形シートを得た。ついで、冷却したキャスティングドラム上に、シートを共押出し冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、95℃にて縦方向に3.2倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て95℃で横方向に4倍延伸、230℃で10秒間の熱処理を行い、厚さ100μmのポリエステルフィルムを得た。全層の厚さに対する表層A層の厚さの割合(片側)は5%であった。 ・・・中略・・・ 【0049】 実施例7: 表層であるA層用の原料としてポリエステル(B)、(C)をそれぞれ6.7%、93.3%の割合で混合した原料を使用する以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。 ・・・中略・・・ 【0067】 【表1】 【0068】 上記表中、EGはエチレングリコール、IS:イソソルバイド、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノールをそれぞれ意味する。」 (2)引用文献12に記載された発明 引用文献12には、実施例1において、以下の「ポリエステル(A)」、「ポリエステル(B)」及び「ポリエステル(C)」の発明(以下、それぞれ「引用ポリエステル発明(A)」、「引用ポリエステル発明(B)」及び「引用ポリエステル発明(C)」という。)が記載されている。 また、上記「(1)ウ」の【表1】の「ジオール単位(mol%)」の数値は、上記「(1)イ」の【0015】を参照すると、「表層」の値であると認められる。よって、上記「(1)ウ」の【表1】によると、実施例7に係る「ポリエステルフィルム」は、「表層」のポリエステルのジオール単位中の28.00mol%が「イソソルバイド」であると認められる。 さらに、上記「(1)ウ」の【表1】の「耐熱性」が「◎」であるとは、上記「(1)イ」の【0038】によると、「フィルムを150mmx150mmの大きさに切りだし、熱風循環式オーブンにて100℃x24時間処理後、フィルムの平面性を評価」した際に、「熱処理前後でフィルムの平面性はほとんど変わらない」ことを意味すると認められる。 そうしてみると、同文献には、引用ポリエステル発明(A)、引用ポリエステル発明(B)、引用ポリエステル発明(C)の各ポリエステルを用いて、実施例7として、上記「(1)ウ」の【0043】と【0049】から理解される方法で作製された、以下の「ポリエステルフィルム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 ア 引用ポリエステル発明(A) 「ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール70部、および酢酸カルシウム一水塩0.07部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノール留去させエステル交換反応を行い、反応開始後、約4時間半を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了し、次に燐酸0.04部およびチタン化合物0.003部を添加し、常法に従って重合し、4時間後、反応を終了し、常法に従い、チップ化して得た、ポリエステル(A)。」 イ 引用ポリエステル発明(B) 「引用ポリエステル発明(A)を製造する際、平均粒径2μmの非晶質シリカを1000ppm添加し、作成した、ポリエステル(B)。」 ウ 引用ポリエステル発明(C) 「引用ポリエステル発明(A)の製造方法において、ジオール成分としてエチレングリコール、イソソルバイド、1,4−シクロヘキサンジメタノールを出発原料とする以外は引用ポリエステル発明(A)の製造方法と同様の方法を用いて得、ジオール単位としてイソソルバイド30mol%、1,4−シクロヘキサンジメタノール45mol%を含有していた、ポリエステル(C)。」 エ 引用発明 「引用ポリエステル発明(B)、引用ポリエステル発明(C)をそれぞれ6.7%、93.3%の割合で混合した原料を表層であるA層用の原料とし、引用ポリエステル発明(A)を内層であるB層の原料とし、A層およびB層用原料をそれぞれ別個の溶融押出機により溶融押出してA/B/Aの2種3層積層の無定形シートを得、ついで、冷却したキャスティングドラム上に、シートを共押出し冷却固化させて無配向シートを得、次いで、95℃にて縦方向に3.2倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て95℃で横方向に4倍延伸、230℃で10秒間の熱処理を行った、厚さ100μmであるポリエステルフィルムであって、 表層のジオール単位中の28.00mol%がイソソルバイドであり、 耐熱性の評価として、フィルムを150mmx150mmの大きさに切りだし、熱風循環式オーブンにて100℃x24時間処理後、フィルムの平面性を評価した際の評価が、熱処理前後でフィルムの平面性はほとんど変わらないとされた、 ポリエステルフィルム。」 (3)対比 本件発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 共重合ポリエステル成分 引用発明の「引用ポリエステル発明(C)」は、「ジオール単位としてイソソルバイド30mol%、1,4−シクロヘキサンジメタノール45mol%を含有し」ているから、共重合成分を含んだポリエステルであることは技術的に明らかである。 そうしてみると、上記「共重合成分」を含む「引用ポリエステル発明(C)」を含む、引用発明の「ポリエステルフィルム」は、本件発明の「共重合ポリエステル成分」を含有するといえる。 イ 積層フィルム 引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「引用ポリエステル発明(B)、引用ポリエステル発明(C)をそれぞれ6.7%、93.3%の割合で混合した原料を表層であるA層用の原料とし、引用ポリエステル発明(A)を内層であるB層の原料とし、」「A/B/Aの2種3層積層の無定形シートを得、ついで、冷却したキャスティングドラム上に、シートを共押出し冷却固化させて無配向シートを得、次いで、95℃にて縦方向に3.2倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て95℃で横方向に4倍延伸」する工程を経て製造されたものである。 上記ア及び上記製造工程によれば、引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「共重合ポリエステル成分を含有する、2層又は3層からなる積層フィルム」に相当する。 ウ 共重合ポリエステル 引用発明の「引用ポリエステル発明(C)」は、「ジオール単位としてイソソルバイド30mol%、1,4−シクロヘキサンジメタノール45mol%を含有」する、ポリエステル(C)である。 そうすると、引用発明の「引用ポリエステル発明(C)」は、本件発明の「イソソルバイド、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及びテトラメチルシクロブタンジオールからなる群から選ばれる1種以上のジオール単位を有する共重合ポリエステル」に相当する。 エ (片方の)表層 引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「引用ポリエステル発明(B)、引用ポリエステル発明(C)をそれぞれ6.7%、93.3%の割合で混合した混合原料を表層であるA層用の原料とし、引用ポリエステル発明(A)を内層であるB層の原料とし、A層およびB層用原料をそれぞれ別個の溶融押出機により溶融押出してA/B/Aの2種3層積層の無定形シートを得」る工程を経て製造されたものである。 上記「A/B/Aの2種3層積層」構造における、「A層」及び「B層」の位置関係から、引用発明の「A層」は、本件発明の「表層」に相当する。 また、引用発明の「表層であるA層」は、「引用ポリエステル発明(B)、引用ポリエステル発明(C)をそれぞれ6.7%、93.3%の割合で混合した原料を表層であるA層用の原料とし」たものであり、上記ウで述べた「引用ポリエステル(C)」を含む。 以上によれば、引用発明の「表層であるA層」は、本件発明の「前記共重合ポリエステル成分として、イソソルバイド、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及びテトラメチルシクロブタンジオールからなる群から選ばれる1種以上のジオール単位を有する共重合ポリエステルを含み」と特定される、「少なくとも片方の表層」に相当する。 さらに、引用発明の「ポリエステルフィルム」においては、「表層のジオール単位中の28.00mol%がイソソルバイドであ」る。ここで、上記「表層」は、上記イの製造工程からみて、「表層であるA層」を意味していることは明らかである。そうすると、引用発明の「表層であるA層」は、本件発明の「前記表層が、前記共重合ポリエステルを構成する前記ジオール単位として、前記表層のジオール成分のうち、少なくともイソソルバイドを25モル%以上含み」と特定される、「表層」に相当する。 オ ポリエステルフィルム 引用発明の「ポリエステルフィルム」は、本件発明の「ポリエステルフィルム」に相当する。 また、引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「A/B/Aの2種3層積層の無定形シートを得、ついで、冷却したキャスティングドラム上に、シートを共押出し冷却固化させて無配向シートを得、次いで、95℃にて縦方向に3.2倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て95℃で横方向に4倍延伸、230℃で10秒間の熱処理を行っ」て製造されたものである。 上記製造工程並びに上記イ及びエの対比結果を踏まえれば、引用発明の「ポリエステルフィルム」は、本件発明において「共重合ポリエステル成分を含有する、2層又は3層からなる積層フィルムであって、」、「少なくとも片方の表層に、前記共重合ポリエステル成分として、イソソルバイド、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及びテトラメチルシクロブタンジオールからなる群から選ばれる1種以上のジオール単位を有する共重合ポリエステルを含み、前記表層が、前記共重合ポリエステルを構成する前記ジオール単位として、前記表層のジオール成分のうち、少なくともイソソルバイドを25モル%以上含み」及び「一軸または二軸延伸」と特定される、「ポリエステルフィルム」に相当する。 (4)一致点及び相違点 上記(3)によれば、本件発明と引用発明とは、 「共重合ポリエステル成分を含有する、2層又は3層からなる積層フィルムであって、 少なくとも片方の表層に、前記共重合ポリエステル成分として、イソソルバイド、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及びテトラメチルシクロブタンジオールからなる群から選ばれる1種以上のジオール単位を有する共重合ポリエステルを含み、前記表層が、前記共重合ポリエステルを構成する前記ジオール単位として、前記表層のジオール成分のうち、少なくともイソソルバイドを25モル%以上含む、 一軸または二軸延伸ポリエステルフィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 「面内リターデーション(Re)」が、本件発明では、「70nm以下であ」るのに対し、引用発明においてはその値が特定されていない点。 (相違点2) 「MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率」が、本件発明では、「0.3%以下であ」るのに対し、引用発明においてはその値が特定されていない点。 (5)判断 ア 相違点1について (ア)膜厚、延伸温度、延伸倍率に関する引用文献12の記載 上記「第4 1(1)イ」によれば、引用文献12には、「本発明のポリエステルフィルムの厚さは、25〜250μm、好ましくは25〜188μm、さらに好ましくは25〜125μmである。」(【0029】)と記載されている。 また、引用文献12には、「以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。」(【0036】)と記載された上で、「次いで、95℃にて縦方向に3.2倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て95℃で横方向に4倍延伸、230℃で10秒間の熱処理を行い」(【0043】)と記載されている。 (イ)面内リターデーションについての本件出願時の周知技術 偏光子保護フィルム等、タッチパネル用途や液晶ディスプレイ用途の光学フィルムにおいて、ポリエステルフィルムの面内リターデーション(面内位相差ともいう。)を小さなものとすることで干渉色の発生を抑制することは、本件出願時における当業者にとって周知技術であったと認められる(必要であれば、例えば、引用文献10の【0001】、【0002】、【0004】、【0007】、【0100】、引用文献11の【0001】、【0002】、【0004】、【0009】、【0040】、【0085】に加えて、国際公開第2015/093307号の[0001]、[0003]、[0020]等の記載を参照。)。 また、面内リターデーションを低減させるために、厚みを低減させること(必要であれば、例えば、引用文献11の【0024】に加えて、国際公開第2015/093307号の[0048]等の記載を参照。)及び延伸温度を高くすること(必要であれば、例えば、特開2007−171914号公報の【0028】、【0039】及び【0047】(実施例1〜3)、特開2006−241446号公報の【0063】、【0140】及び【0147】(実施例10〜12)、国際公開第2015/093307号の[0021]等の記載を参照。)も、本件出願時における当業者にとって周知技術であったと認められる。 (ウ)引用発明の技術課題及び用途に関する引用文献12の記載 上記「第4 1(1)ア」によれば、引用文献12の【0009】に記載されるとおり、引用発明は、光学特性に優れるポリエステルフィルムを提供するという技術課題を有する。そして、光学特性に優れることの具体的な記載として、引用文献12の【0004】には、「明るく鮮明な画像を得るために、光学用フィルムとして用いられているベースフィルムは、その使用形態から透明性が良好で」と記載されている。さらに、【0012】には、「本発明によれば、液晶ディスプレイ、タッチパネル等に用いる各種光学用部材や、光学分野の製品の製造工程において使用される保護フィルムや離型フィルム等に用いられる、耐熱性や光学特性に優れる積層ポリエステルフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。」と【0003】には、「ポリエステルフィルムは、近年、特に各種光学用フィルムに多く使用され、LCDの部材のプリズムシート、光拡散シート、反射板、タッチパネル等のベースフィルムや反射防止用のベースフィルムやディスプレイの防爆用ベースフィルム、PDPフィルター用フィルム、タッチパネル用フィルム等の各種用途に用いられている。」とそれぞれ記載されている。 (エ)上記(ア)〜(ウ)を踏まえ、相違点1に係る本件発明の構成に当業者が容易に想到し得たといえるかについて、以下検討する。 引用発明の「ポリエステルフィルム」は、上記(ウ)から理解されるとおり、液晶ディスプレイ、タッチパネル等に用いる各種光学用部材として、タッチパネル等のベースフィルムや反射防止用のベースフィルム、タッチパネル用フィルムに用いることができるものである。また、タッチパネル用途や液晶ディスプレイ用途において、ポリエステルフィルムの干渉色を低減させることが好ましいことは、上記(イ)で述べたとおり、本件出願時における当業者にとって周知技術である。 そうすると、引用発明の「ポリエステルフィルム」を、液晶ディスプレイ、タッチパネル等に用いる各種光学用部材として、タッチパネル等のベースフィルムや反射防止用のベースフィルム又はタッチパネル用フィルムという具体的用途に適用する際に、上記干渉色を低減させるために、引用発明の「ポリエステルフィルム」の面内リターデーション(Re)を低減させる動機は十分にあるといえる。ここで、引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「厚さ100μmである」ところ、上記(ア)で述べた、引用文献12の記載(【0029】)及び膜厚を低減させることで面内リターデーションを下げることが、上記(イ)で述べたとおり、本件出願時における当業者にとって周知技術であったことに照らせば引用発明の「ポリエステルフィルム」の面内リターデーションを低減させる手段として、膜厚をさらに小さく設計することは、引用文献12が想定する範囲内の事項である。 また、引用発明の延伸温度は、上記(ア)で述べたとおり、引用文献12には、「以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。」(【0036】)と記載された上で、「次いで、95℃にて縦方向に3.2倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て95℃で横方向に4倍延伸、230℃で10秒間の熱処理を行い」(【0043】)と記載されている。上記記載によれば、引用発明の延伸温度は、必ずしも「95℃」である必要はなく、目的に応じて改良する余地があるといえる。加えて、延伸温度を高めることで面内リターデーションを下げることは、上記(イ)で述べたとおり、本件出願時における当業者にとって周知技術である。そうすると、引用発明において、当業者が採用し得る、面内リターデーションを低減させるための具体的な手段として、延伸温度を高く設計することもまた選択肢の1つといえる。 次に、面内リターデーションの上限値(70nm)について検討する。 本件明細書の【0112】【表1】〜【0114】【表3】に記載される実施例1〜29によると、「視認性評価」が「△」であって面内リターデーションが最も低い実施例は実施例2(面内リターデーションが75nm)であり、「視認性評価」が「〇」であって面内リターデーションが最も高い実施例は実施例12(面内リターデーションが52nm)である。しかしながら、本件明細書の記載からは、「視認性評価」が「〇」となる面内リターデーションの境界が52nmと75nmの間にあることが分かるとしても、その境界が70nmか否かは不明であるし、かつ、面内リターデーションの値がある程度小さい方が「視認性評価」が良いという定性的な事項が読み取れるにとどまるので、70nmを境にして顕著な差があるとまではいえない。そして、上記(5)ア(イ)で述べたとおり、面内リターデーションの低減に応じて視認性が向上することは周知であったことも踏まえると、面内リターデーションの上限の70nmという数値は、上限値としての単なる目安程度の意味に過ぎず、格別な意義を推認するに足りるものではない。 したがって、当業者が、引用発明の膜厚を低減し、又は延伸温度を高めることにより、面内リターデーション(Re)を70nm以下にすることで、相違点1に係る上記事項に想到することに格別の困難性は見いだせない。 イ 相違点2について (ア)引用発明の耐熱性 引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「耐熱性の評価として、フィルムを150mmx150mmの大きさに切りだし、熱風循環式オーブンにて100℃x24時間処理後、フィルムの平面性を評価した際の評価が、熱処理前後でフィルムの平面性はほとんど変わらないとされた」ものである。 (イ)収縮率についての周知技術 ポリエステルフィルムの熱収縮率を低減させてカールやシワの発生を抑制させるために、融点付近の温度などによる熱固定、又は、長手方向や幅方向の弛緩処理を延伸後に行うことや、熱収縮率の評価として、85℃や150℃などの適宜の温度、6時間や30分などの適宜の時間にて熱処理した場合の長手方向及び幅方向の熱収縮率を評価することは、本件出願時における当業者にとって周知技術であったと認められる。(必要であれば、例えば、引用文献11の【0003】、【0005】、【0008】、【0038】、【0060】、【0064】、【0085】【表1】、【0086】【表2】に加えて、特開2010−46816号公報の【0049】、【0061】−【0063】、【0068】−【0070】、【0079】、【0085】、【0096】、【0097】【表1】、【0098】【表2】や、特開2016−141058号公報の【0010】、【0023】、【0025】、【0056】、【0058】、【0069】、【0070】、【0114】【表1】等の記載を参照。)。 (ウ)引用発明の技術課題 上記「第4 1(1)ア」によれば、引用文献12の【0009】に記載されるとおり、引用発明は、耐熱性に優れるポリエステルフィルムを提供するという技術課題を有する。 (エ)引用発明の「ポリエステルフィルム」を作製する際の熱処理条件 引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「無配向シートを得」た後、「次いで、95℃にて縦方向に3.2倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て95℃で横方向に4倍延伸、230℃で10秒間の熱処理を行」って得られるものである。 (オ)引用発明のイソソルバイドの含有量 引用発明は、「表層のジオール単位中の28.00mol%がイソソルバイド」である。 (カ)上記(ア)〜(オ)を踏まえ、相違点2が実質的な相違点か否かについて、以下検討する。 引用発明は、上記(エ)で述べたとおりのものである。 上記(イ)によると、延伸後の熱固定は、熱収縮率を低減させるための処理といえるから、延伸後に「230℃で10秒間の熱処理」を経た、引用発明の「ポリエステル」は、熱収縮率がある程度低減されているといえる。そこで、熱収縮率がどの程度低減されたかについて検討すると、「MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率が0.3%以下」を満たす、本件出願の実施例1(本件出願の明細書の【0084】等)には、その製造工程について「150℃にて横方向に4.0倍延伸した後、180℃で10秒間の熱処理を行い、厚み25μmの一軸延伸ポリエステルフィルムを得た。」と記載されている。 そうしてみると、引用発明の「ポリエステルフィルム」の延伸後の熱処理条件は、本件出願の実施例1と比べて、処理時間こそ同等(10秒)であるものの、処理温度は230℃と高いことから、本件出願の実施例1の熱処理条件よりも、熱収縮率をより低減し得る条件といえる。よって、引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率が0.3%以下」という、相違点2に係る本件発明の条件を満たす蓋然性が高い。なお、この点は、令和4年1月7日付けの当審拒絶理由通知で指摘したものの、請求人からは特段の反論はない。 加えて、引用発明の「ポリエステルフィルム」は、上記(ア)及び上記(ウ)で述べたとおりの耐熱性を備える。そうしてみると、達成した耐熱性の点からも、引用発明の「ポリエステルフィルム」が、相違点2に係る上記条件を満たす蓋然性が高いといえる。 さらにすすんで検討する。 上記(オ)で述べたとおり、引用発明は、「表層のジオール単位中の28.00mol%がイソソルバイド」である。そして、「MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率が0.3%以下」であることを満たす、本件出願の実施例として、本件出願の明細書の【0112】【表1】〜【0114】【表3】に記載される実施例1〜29は、いずれも、表層のジオール単位中のイソソルバイドが25モル%以上である一方で、本件出願の明細書の【0115】【表4】に記載される比較例2〜3、6では、「MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率が0.3%以下」ではなく、かつ、表層のジオール単位中のイソソルバイドが25モル%以上ではない。以上の事情も踏まえると、「表層のジオール単位中の28.00mol%がイソソルバイド」である、引用発明の「ポリエステルフィルム」が、「MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率が0.3%以下」という条件を満たす蓋然性はなおさら高いといえる。 したがって、熱処理条件、耐熱性及び(表層の)材料の観点を総合すると、引用発明の「ポリエステルフィルム」は、「MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率が0.3%以下」という、相違点2に係る要件を満たす蓋然性は高いといえ、相違点2は実質的な相違点ではない。 (キ)また、仮に相違点2が実質的な相違点であったとしても、以下に示すとおり、当該相違点は当業者が容易に想到し得たものである。 引用発明は、上記(ウ)で述べたとおり、耐熱性に優れるポリエステルフィルムを提供することを課題としている。 引用発明の耐熱性は、上記(ア)で述べたとおり、熱収縮率を測定したものではない。しかし、耐熱性の定量的な指標として、85℃や150℃などの適宜の温度、6時間や30分などの適宜の時間にて熱処理した場合の長手方向及び幅方向の両方の熱収縮率を採用することは、上記(イ)で述べたとおり、本件出願時における当業者にとって周知技術である。 そうすると、引用発明の「ポリエステルフィルム」の耐熱性を改善するために、上記周知技術を心得た当業者が、ポリエステルフィルムに適切な熱処理を行い、フィルムの流れ方向(MD)及び横方向(TD)両方の適宜の温度、適宜の時間における熱処理後の収縮率を低減させる動機は十分にあるといえる。 次に、収縮率の上限値(0.3%)について検討する。 本件出願の明細書の【0112】【表1】〜【0114】【表3】に記載される実施例1〜29によると、MD収縮率とTD収縮率は、いずれも、0.1%以下であり、「平面性評価」が「〇」である。上限値(0.3%)の前後の収縮率を有する例としては、本件出願の明細書の【0115】【表4】に記載される比較例1〜6が存在するところ、「平面性評価」が「×」であってMD収縮率が最も低い例は比較例2(MD収縮率が0.6%)であり、「平面性評価」が「〇」であってMD収縮率が最も高い例は比較例5(MD収縮率が0.3%)である。ここで、本件出願の明細書の【0074】によると、平面性評価の判定基準は、「○:カール高さが5mm未満。」、「×:カール高さが10mm以上。」である。しかしながら、本件明細書の記載からは、「平面性評価」が「〇」となるMD収縮率の境界が0.3%と0.6%の間にあることが分かるとしても、その境界が0.3%か否かは不明であるし、かつ、MD収縮率がある程度小さい方が「平面性評価」が良いという定性的な事項が読み取れるにとどまるので、0.3%を境にして顕著な差があるとまではいえない。TD収縮率についても、同様に、本件明細書の記載からは、0.3%を境にして顕著な差があるとまではいえない。そして、上記(5)イ(イ)で述べたとおり、熱収縮率の低減に応じてカールが抑制できることは周知であったことも踏まえると、収縮率の上限の0.3%という数値は、上限値としての単なる目安程度の意味に過ぎず、格別な意義を推認するに足りるものではない。 また、収縮率の定義に関して、温度を100℃、時間を3分間、方向をMD及びTDの両方とすることについても、上記(5)イ(イ)で述べた周知技術を心得ている当業者であれば、格別なものではない。 よって、低減させた収縮率の定量的な指標として、温度を100℃、時間を3分間、MD及びTD両方の収縮率を0.3%以下とすることは、当業者が適宜に設定し得たことである。 したがって、当業者が、引用発明のポリエステルフィルムに対して、熱固定や弛緩処理を延伸後に行い、MD及びTD両方の100℃、3分間熱処理後の収縮率が0.3%以下のポリエステルフィルムを得ることで、相違点2に係る上記事項に想到することに格別の困難性は見いだせない。 (当合議体注:上記熱固定や弛緩処理手段は、延伸後に行うものであるから、上記(5)ア(エ)に示した改良である、延伸温度の向上や膜厚の低減とは矛盾しない。よって、熱固定や弛緩処理した後の引用発明が、相違点1に係る本件発明の構成を具備しなくなるとは考えがたい。) (6)請求人の主張について 令和4年3月7日に提出された意見書2頁〜4頁において、請求人は、概略、次の点を主張する。 ア 面内リターデーション(Re) 「引用文献12には、合議体ご認定のとおり、実施例7に、3層からなる積層ポリエステルフィルムにおいて、表層がジオール単位中の28モル%がイソソルバイドであるポリエステルであることが示されます(以下、「引用発明12」ともいう)。しかしながら、引用文献12では、面内リターデーション(Re)について一切記載されず、積層ポリエステルフィルムの面内リターデーション(Re)が70nm以下であることは開示も示唆もされません。 一方で、引用文献11には、偏光板保護フィルムとして液晶ディスプレイに実装した際に干渉色をなくすために、面内リターデーション(Re)を200nm以下とすることが最も好ましいと示されます(段落[0009]参照)。また、引用文献10でも、干渉色を示さない偏光子保護用ポリエステルフィルムを提供するために、リターデーション(Re)を400nm以下とすることが開示されます(段落[0006]、[0007]参照)。さらに、引用文献10、11では、上記のとおり、実施例において、面内リターデーション(Re)が70nm以下であるものも示されます。 しかしながら、引用文献10、11において、面内リターデーション(Re)が70nm以下となるのは、上記のとおり超多層のものに限られ、2層又は3層の積層フィルムにおいて、面内リターデーション(Re)が70nm以下となる構成は実現できておりません。 それに対して、本願発明は、2層又は3層のフィルムにおいて、引用文献10、11では実現できない、極めて低いリターデーション(70nm以下)を実現できたものです。 したがって、引用文献10、11の記載を参酌しても、引用発明12において、「2層又は3層の積層フィルム」における「面内リターデーション(Re)を70nm以下とする」構成を容易に想到することはできないことが明らかです。 よって、本願発明は、引用文献12を主引例とし、引用文献10、11に記載される事項を参酌しても容易に発明できたものとは到底言えません。」 イ 本件発明の効果 「本願発明は、液晶ディスプレイ、タッチパネル、OLED等に用いる各種光学用部材として、例えば、偏光下において、光干渉に伴う干渉色を発生させることなく、特に50μm以下の薄膜化対応も可能であり、連続生産性が良好なポリエステルフィルムを提供する、という課題を解決するものです(段落[0008]参照)。 特に、本願発明は、2層又は3層の積層フィルムにおいて、極めて低いリターデーション(Re)(70nm以下)を実現できたものであり、それにより、接着性、連続生産性、平面性などを良好にしつつも、視認性を優れたものにでき、例えば偏光子保護フィルムとして用いた場合、偏光板の視認性に優れたポリエステルフィルムを提供できるものです(段落[0058]、実施例9、10、19、20、25参照)。」 上記主張について検討する。 [主張アについて] 請求人の上記主張アは、面内リターデーション(Re)が70nm以下となる構成を具体的に達成した、引用文献10、11の実施例の記載を根拠にしたものである。 しかし、当審拒絶理由における「例えば引用文献10(【0004】、【0007】、【0100】等参照。)、引用文献11(【0009】、【0085】等参照。)には、ポリエステルフィルムの面内位相差を小さなものとすることで干渉色の発生を抑制する周知技術が開示されている。」という記載は、「ポリエステルフィルムの面内位相差を小さなものとすることで干渉色の発生を抑制する周知技術」の存在を指摘したものであって、これは、特定の引用文献における特定の実施例の記載を根拠としたものではない。そして、引用文献11の【0024】には、「本発明のポリエステルフィルムは、フィルム厚みが40μm以下であることが好ましい。位相差は、厚みと複屈折Δnの積で表されるためである。フィルム厚みは5〜30μmであればより好ましく、7〜25μmであれば更に好ましく、10〜20μmであれば特に好ましい。」(当合議体注:「積で表されるためでる。」は、「積で表されるためである。」の誤記である。)と記載されている。上記記載は、リターデーションを低減させるための手段として、フィルム厚みを低減させること示唆しているのであって、当該手段が必ずしも超多層構造のものに限定されるものでないことは、「位相差は、厚みと複屈折Δnの積で表されるため」との記載からみて明らかである。さらに、このことは、超多層構造に該当しない、3層構造において面内リターデーションが70nm以下との要件を満たすものが、特開2009−160830の【0067】、【0071】【表1】(実施例2)に例示されるとおり、本件出願時において、普通に知られていたことからも理解できる事項である。 したがって、上記主張アは理由がない。 [主張イについて] 請求人は、偏光下において、光干渉に伴う干渉色を発生させることがないという効果、及び、視認性が優れるという効果を主張する。しかし、上記(5)ア(イ)で述べたとおり、「ポリエステルフィルムの面内位相差を小さなものとすることで干渉色の発生を抑制する」技術は、本件出願時の周知技術である。そうしてみると、この周知技術を心得ている当業者であれば、面内リターデーションを低減させることで、偏光下において光干渉に伴う干渉色を発生させることがないという効果は、予測できた範囲内のものである。そして、干渉色を発生させることがないという効果が予測できた範囲内のものであるならば、視認性が優れるという効果も、当業者が予測できた範囲内のものである。 また、請求人は、偏光子保護フィルムとして用いた場合、偏光板の視認性に優れたポリエステルフィルムを提供できるものであるという効果も主張する。偏光子保護フィルムとして用いることや偏光板の視認性については引用文献12に記載されていないものの、「第4 1(1)ア」によれば、引用文献12の【0001】に、「液晶ティスプレイ、タッチパネル等に用いる各種光学用部材」に用いることができると記載されている。上記(5)ア(イ)で述べたとおり、タッチパネル用途や液晶ティスプレイ用途の光学フィルムとして偏光子保護フィルムは本件出願時の当業者にとって周知であるから、偏光子保護フィルムは、引用文献12が想定する範囲内の用途である。干渉色を発生させることがなく視認性が優れるという効果は前述の通り当業者が予測できた範囲内のものであるので、引用発明を偏光子保護フィルムに適用した際に、偏光板の視認性に優れたポリエステルフィルムを適用できるという効果も、当業者が予測できた範囲内のものである。 また、請求人は、特に50μm以下の薄膜化対応も可能であるという効果を主張する。しかし、「第4 1(1)イ」によれば、引用文献12の【0029】には、「本発明のポリエステルフィルムの厚さは、25〜250μm、好ましくは25〜188μm、さらに好ましくは25〜125μmである。」と記載されている。そうしてみると、50μm以下の薄膜化対応も可能という効果は、当業者が予測できた範囲内のものである。 さらにまた、請求人は、接着性、連続生産性、平面性に優れるという効果も主張する。接着性、平面性については、「第4 1(1)イ」によれば、引用文献12の【0034】、【0038】、【0067】【表1】に記載されており、この記載から当業者が予測し得た範囲内のものである。連続生産性については、本件出願の明細書の実施例と比較例とで顕著な差異が生じているわけではないし、ポリエステルフィルムを工業生産する際に生産性を考慮することは技術上の常識であるから(必要であれば、例えば、引用文献10の【0048】等を参照。)、当業者が予測できた範囲内のものであり、格別なものでもない。 したがって、上記主張イは理由がない。 以上のとおり、上記主張ア〜イは、いずれも採用の限りでない。 (7)本件発明の効果 上記(6)の主張イで説示したとおりである。 (8)小括 本件発明は、引用文献12に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本件発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-05-19 |
結審通知日 | 2022-05-24 |
審決日 | 2022-06-17 |
出願番号 | P2017-019658 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
石附 直弥 関根 洋之 |
発明の名称 | ポリエステルフィルム |
代理人 | 田口 昌浩 |