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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1387911
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-06 
確定日 2022-08-12 
事件の表示 特願2016− 34807「固体の状態変化検知センサ及び固体の状態変化検知方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日出願公開、特開2017−150996〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月25日の出願であって、令和元年11月19日付けで拒絶理由が通知され、令和2年1月21日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月2日付けで拒絶理由が通知され、同年8月19日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年2月4日付けで拒絶査定されたところ、同年5月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和3年5月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和3年5月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は補正箇所である。分説記号は当審において付与した。)。

「 【請求項1】
構成A コンクリート、カーボンファイバー、メタンハイドレード、及びベントナイトから選択される固体中の全体に亘って配設される、
相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極からなる励起電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極からなる計測電極とを有するワイヤメッシュセンサと、
構成B 前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に励起信号を入力する入力手段と、
構成C 前記第1のワイヤ電極の何れか1本への励起信号の入力により、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから前記第2のワイヤ電極から出力されたキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号をそれぞれ検出する複数のA/D変換器を含む検出手段と、
構成D 前記キャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した前記計測信号を演算処理して前記複数の計測点のいずれかにおいて前記固体の状態変化を検知する演算処理手段と
を有し、
構成E 前記演算処理手段は、前記固体中の前記複数の計測点のいずれかにおいて流動体が生成、衝突又は混在することによる当該固体の前記複数の計測点のいずれかにおける状態変化を検知する
構成F ことを特徴とする固体の状態変化検知センサ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年8月19日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「 【請求項1】
コンクリート、カーボンファイバー、メタンハイドレード、及びベントナイトから選択される固体中の全体に亘って配設される、
相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極からなる励起電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極からなる計測電極とを有するワイヤメッシュセンサと、
前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に励起信号を入力する入力手段と、
前記第1のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから同時に前記第2のワイヤ電極から出力されたキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号を検出する検出手段と、
前記キャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した前記計測信号を演算処理して前記複数の計測点のいずれかにおいて前記固体の状態変化を検知する演算処理手段と
を有し、
前記演算処理手段は、前記固体中の前記複数の計測点のいずれかにおいて流動体が生成、衝突又は混在することによる当該固体の前記複数の計測点のいずれかにおける状態変化を検知する
ことを特徴とする固体の状態変化検知センサ。」

2 補正の適否

(1)本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「検出手段」について、「前記第1のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから同時に前記第2のワイヤ電極から出力され」を、「前記第1のワイヤ電極の何れか1本への励起信号の入力により、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから前記第2のワイヤ電極から出力され」とする補正(以下「補正1」という。)と、「計測信号を検出する」を、「計測信号をそれぞれ検出する複数のA/D変換器を含む」とする補正(以下「補正2」という。)を含むものである。
そして、補正1は、本件補正前の請求項1に記載の「前記第1のワイヤ電極との交点」が「前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点」であることを明瞭にするとともに、「同時に」が意味するタイミングの曖昧さを解消するための補正であると理解できるから、特許法第17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、補正2は、本件補正前の請求項1に記載の「検出手段」において、計測信号の検出の仕方を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)上記(1)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むので、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(3)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(4)引用文献の記載事項

ア 引用文献1

(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2005−17246号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下、同様。)。

(引1ア)
「【0007】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照して本発明の一実施の形態を説明すると、図において示される符号1は、被計測材料Pの両面間に係わる例えば金属疲労・材料の変質・傷・変形・破損・温度・圧力・応力等の物理的特性を当該被計測材料Pの両面の位置座標に対応させて検出するための座標付き物理量計測装置である。尚、被計測材料Pとしては、例えばコンクリート材・金属材・誘電体材・半導体材・木材・ガラス材・プラスチックス材等の個体(当審注:「固体」の誤記と認める。)材料、液体、気体等であってもよく、これら両面が平行細線で挟まれて存在している殆どの被計測材料Pの上記したような種々の物理量を座標付きで容易に計測できるものとしてある。
【0008】
物理量計測装置1は、図1に示すように、例えば航空機の翼等の不図示の構造体における板状構造もしくは層状構造の被計測材料Pの表裏等の両面にそれぞれ付設される一対の計測電極部2A,2Bと、被計測材料Pの表裏両面における座標を特定して計測点とする座標位置決定装置3と、計測電極部2A,2Bの細線に流れる電流、または計測電極部2A,2B間の電位等により、計測点の位置座標に対応する被計測材料Pの表裏両面間に係わる物理的特性を計測する計測装置4と、計測電極部2A,2Bの計測点の全てにわたって計測する座標走査装置5と、その計測結果を面上に表現して二次元的あるいは三次元的に表示する表示装置6とを備えて成る。
【0009】
計測電極部2A,2Bは、例えば格子状に平行に配列した導電性の細線(リード細線材)で形成され、しかも細線相互間の間隔は例えばミリ間隔の単位で均一の距離を保つように形成されている。そして被計測材料Pを両測電極部2A,2Bで挟み込むと共に、細線の方向が被計測材料Pを介して互いに直交するように設置して成る。具体的には、例えば航空機の翼等の構造体の最終加工工程で、当該構造体の所定の箇所における被計測材料Pの両面に、初めから平行配列の細線をそれぞれが当該被計測材料Pを挟んで間接的に交差するように一体化して埋め込むものとし、その交差点を計測点として、被計測材料Pの物理量を計測することができるようにしてある。また被計測材料Pが金属である場合には、面上に加工した平行配列の細線を製造し、それを目的の被計測材料Pの両面に直接貼り付けることで、その交差点を計測点として、被計測材料Pの物理量を計測することができるようにしてある。また、この交差点は二次元座標を意味し、外部から二次元座標を走査することで、任意の地点の情報を指定し、全面についても計測し、それを二次元に表示することができるものとしてある。
・・・
【0011】
また、板状でない厚みのある例えばコンクリートブロック等の被計測材料Pの場合は、計測電極部2A,2Bを被計測材料Pの表面と共に被計測材料Pの中にも層状に埋め込み、且つ各計測電極部2A,2Bの細線の方向が互いに直交するように設置することで、被計測材料Pの三次元的な計測ができるようにしても良い。
【0012】
計測装置4は、計測点の位置座標に対応する被計測材料Pの両面間に係わる物理的特性を、計測電極部2A,2Bの細線に送る電気信号と被計測材料Pとの間に生じる電気相互作用で発生する電気信号により計測するものとしてある。例えば計測時に、各計測点、すなわち計測電極部2A,2Bの細線同士が被計測材料Pを介して間接的に交差した2点間のインピーダンスを単数または複数の周波数で計測することで目的の物理量の変化等を計測させるために、高周波電圧または直流電圧の発生器、インピーダンスまたは直流抵抗の計測器を備えたものとしてある。そしてこの計測装置4は、低インピーダンスのリード線8を介して計測電極部2A,2Bの細線毎に電気的に接続されており、選択された位置座標に対応する被計測材料Pの両面間に係わる物理的特性を、計測電極部2A,2Bの各細線に電気信号を送り、このとき被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号を各細線で受信させることにより計測するものとしてある。しかも計測時に各交差する2点間と共に、それと隣り合うラインとの間、例えば細線間同士でも計測可能としてある。このように被計測材料Pによって電磁誘導的に発生する電気信号の中に被計測材料Pの物理的特性の様々な情報が含まれているのである。
・・・
【0015】
座標位置決定装置3は、被計測材料Pの表面側に付設されている計測電極部2Aの細線の一つと、裏面側に付設されている計測電極部2Bの細線の一つとが作る交差点、あるいは最も接近した点の座標を特定して計測点とするように計測装置4を制御するものである。すなわち、一方の計測電極部2AをX面、他方の計測電極部2BをY面とすれば、X面の各細線は各X座標に相当し、Y面の各細線は各Y座標に相当するものとなって、通電中のXとYとの交点座標が計測点となるように計測装置4を制御する。
【0016】
座標走査装置5は、計測電極部2A,2Bの計測点をすべての交差点にわたって順次移動拡張してすべての交差点を計測するものである。すなわち、図2に示すような、例えばスイッチのタイミングを決める信号発生器とスイッチの役割を果たすトランジスタとの配列から構成された電子スイッチ装置7による座標走査装置5の電子的切替動作によって座標位置決定装置3を制御する。具体的には、電子スイッチ装置7に配列されたトランジスタ列に順番にON/OFF信号を送ることにより、計測電極部2Aの一つである例えばX面側の各細線うち一つの細線を計測装置4に導通させた状態としておき、一方、計測電極部2Bの他の一つであるY面側の各細線の計測装置4への導通状態を端から順にスウイープさせることで、XYステージの1ライン(X1,Yn)が決定して計測され、この動作をX面の各細線(Xn)毎に順次行うことで、(Xn,Yn)座標全体、すなわち全交点に係る被計測材料Pの物理量が二次元データとして計測されるものとしてある。」

(引1イ)
「【0019】
次に、本実施の形態に係る構成の使用方法、動作原理の一例について説明する。先ず、計測装置4と計測電極部2A,2Bとを電気的に接続した状態にしておく。被計測材料Pの計測に際し、被計測材料Pの両面に設置される細線のそれぞれが計測電極部2A,2Bのステージ面となって、高周波電圧または直流電圧の発生器、インピーダンスまたは直流抵抗の計測器を備えた計測装置4による送受信号の解析データに基づき被計測材料Pの物理的特性およびその変化等を検知する。
【0020】
このとき両面の細線は互いに直交しているが、直接交差接触しておらず被計測材料Pを介して間接的に交差することで電磁誘導的には結合した状態となり、この交差点に対応する座標位置での被計測材料Pのインピーダンス、容量成分、リアクタンス成分、抵抗成分等を計測してデータ解析する。また解析データは、被計測材料Pの正常値である基礎データを計測装置4に予め記憶しておき、この基礎データとの比較によって物理的特性およびその変化等を解析する。また、計測電極部2A,2B自体を熱電対として作用させることで被計測材料P全体の二次元的、三次元的な温度分布の計測も可能となる。」

(引1ウ)
「【0026】
計測電極部2A,2Bを被計測材料Pの表面と共に被計測材料Pの中に層状に埋め込み、且つ各計測電極部2A,2Bの細線の方向が互いに直交するように設置したので、材料内部や表面の亀裂、疲労等については、各交差点をデジタルで走査し、各交差点のインピーダンスを高速で測定することで、座標と共にその三次元的な特性を一気に容易に取得することができる。具体的には、コンクリートブロック中に各計測電極部2A,2Bを埋め込むことで、例えばクラックの発生状況等の計測精度が向上する。」

(引1エ)図1


(引1オ)図2


(イ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「被計測材料Pの材料の変質・傷・変形・破損等の物理的特性およびその変化を検出するための物理量計測装置1であって、
被計測材料Pとしては、コンクリート材等の固体材料であり、
物理量計測装置1は、一対の計測電極部2A,2B、座標位置決定装置3、計測装置4、座標走査装置5を備え、
計測電極部2A,2Bは、格子状に平行に配列した導電性の細線で形成され、被計測材料Pを両計測電極部2A,2Bで挟み込むと共に、細線の方向が被計測材料Pを介して互いに直交するように設置し、
座標位置決定装置3は、一方の計測電極部2AをX面、他方の計測電極部2BをY面とすれば、X面の各細線は各X座標に相当し、Y面の各細線は各Y座標に相当するものとなって、通電中のXとYとの交点座標が計測点となるように計測装置4を制御し、
計測装置4は、低インピーダンスのリード線8を介して計測電極部2A,2Bの細線毎に電気的に接続されており、選択された位置座標に対応する被計測材料Pの両面間に係わる物理的特性およびその変化を、計測電極部2A,2Bの各細線に電気信号を送り、このとき被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号を各細線で受信させることにより計測するものであり、
被計測材料Pの計測に際し、高周波電圧または直流電圧の発生器、インピーダンスまたは直流抵抗の計測器を備えた計測装置4による送受信号(電気信号)の解析データに基づき被計測材料Pの物理的特性およびその変化を検知するものであって、交差点に対応する座標位置での被計測材料Pのインピーダンス、容量成分、リアクタンス成分、抵抗成分等を計測してデータ解析し、被計測材料Pの物理的特性およびその変化を解析するものであり、
座標走査装置5は、電子スイッチ装置7の電子的切替動作によって座標位置決定装置3を制御するものであって、計測電極部2Aの一つであるX面側の各細線のうち一つの細線を計測装置4に導通させた状態としておき、一方、計測電極部2Bの他の一つであるY面側の各細線の計測装置4への導通状態を端から順にスウイープさせることで、XYステージの1ライン(X1,Yn)が決定して計測され、この動作をX面の各細線(Xn)毎に順次行うことで、(Xn,Yn)座標全体が二次元データとして計測され、
板状でない厚みのあるコンクリートブロック等の被計測材料Pの場合は、計測電極部2A,2Bを被計測材料Pの表面と共に被計測材料Pの中にも層状に埋め込み、且つ各計測電極部2A,2Bの細線の方向が互いに直交するように設置することで、被計測材料Pの三次元的な計測ができ、クラックの発生状況等の計測精度が向上する、
物理量計測装置1。」

イ 引用文献2

(ア)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2012−127875号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引2ア)
「【0043】
本形態においては、第1のワイヤ電極9の他に第2のワイヤ電極10も有している。ここで、第2のワイヤ電極10は、ロッド状部材2の軸方向に関し第1のワイヤ電極9から所定の距離離隔させるとともに、第1のワイヤ電極9に交差するように正方格子状にロッド状部材2の間に配設してある。したがって、本形態では、第1のワイヤ電極9と第2のワイヤ電極10との交点、第1のワイヤ電極9とロッド状部材2との間、第2のワイヤ電極10とロッド状部材2との間等も流体に基づくインピーダンスの計測点として選定し得る。
・・・
【0046】
なお、本形態に係るインピーダンス計測センサは多点電極センサ1の他に第1および第2のワイヤ電極9、10とロッド状部材2とを有しているので、インピーダンス計測装置のセンサとして次のような3種類のモードの使用態様も考えられる。第1のワイヤ電極9を励起電極、第2のワイヤ電極10を計測電極、ロッド状部材12をグランド電極として機能させる第1のモード、ロッド状部材12を励起電極、第1および第2のワイヤ電極9,10を計測電極として機能させる第2のモード、第1の場合と第2の場合とを選択的に切替えて使用する第3のモードの3種類である。
【0047】
図2は本形態に係るインピーダンス計測センサの主に第1の電極対に関する模式図、図3は図2の各部の波形を示す波形図である。なお、図2中、図1と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
図2に示すように、励起電極4および計測電極5で形成される多数の第1の電極対3は図中の垂直方向に伸びる信号線26(右側の数字は各列に対応する番号である。)と図中の水平方向に伸びる信号線27(上側の数字は各行に対応する番号である。)とが交差する部分に配設してある。ここで、各励起電極4が信号線26に、また各計測電極5が信号線27にそれぞれ接続されている。また、本形態においては特定の行(図では第4行)に属する励起電極4が第2の電極対8の一方の電極として構成してある。したがって、第2の電極対8を構成する励起電極4は第1のワイヤ電極9を計測電極とする信号を検出する。ここで、励起電極4を第2の電極対8の一方の電極として機能させる場合には、計測電極5は電極としての機能を停止させておく。なお、図2に示す場合は、4行目に属する第1の電極対3における計測電極5は使用しないので、図中の表示を省略しているが、4行目の第1の電極対3も他の行の第1の電極対3と同様に構成してある。したがって、信号線27に励起信号、信号線26に出力信号が入出力されるように外部回路(スイッチ、電源、A/D変喚器、PC等)を入れ替え、第1のワイヤ電極9を励起電極として機能させることも可能である。
【0049】
かくして、多点電極センサ1の表面に導電性の流体(例えば水)の液膜が形成された状態または多点電極センサ1と第1のワイヤ電極9との間を液体が流通している状態で、図3に示すパルス信号でオン・オフされるスイッチS1,S2,S3,S4により一列目から順次信号線26の何れかが選択されると、選択された列に接続されている励起電極4に、電源25から所定の励起信号SIが供給される。この励起信号SIは本形態の場合、スイッチSPの切換で極性が反転するバイポーラパルス信号である。
【0050】
パルス信号で選択された列に励起信号SIが供給された場合、計測電極5との間の状態または第1のワイヤ電極9との間の状態に応じた計測信号SOが各行の信号線27から得られ、各A/D変換器30を介して演算処理部として機能するパーソナルコンピュータ(パソコン;以下同じ)31に供給される。ここで、計測電極5との間の状態とは、多点電極センサ1の表面に形成された流体の膜等の状態であり、この状態は液膜厚等で変化する。また、第1のワイヤ電極9との間の状態とは、第1のワイヤ電極9と多点電極センサ1との間の流体中の気液二相流等の状態であり、この状態は気液二相流中の気体と液体の存在比で変化する。すなわち、本形態によれば、第1の電極対3で多点電極センサ1の表面方向の流体の情報を、また第2の電極対8で多点電極センサ1と第1のワイヤ電極9との間の流体の情報を検出することができる。なお、図3に各部の波形を示す。」

(引2イ)図1

(引2ウ)図2


(引2エ)図3


(イ)引用文献2に記載された技術的事項

a 第1のワイヤ電極9を励起電極、第2のワイヤ電極10を計測電極として機能させる場合(【0046】)、【0048】の第1のワイヤ電極9を励起電極として機能させることに係る記載を踏まえると、「パルス信号でオン・オフされるスイッチS1,S2,S3,S4により一列目から順次信号線26の何れかが選択されると、選択された列に接続されている励起電極4に、電源25から所定の励起信号SIが供給され」(【0049】)、「パルス信号で選択された列に励起信号SIが供給された場合、計測電極5との間の状態または第1のワイヤ電極9との間の状態に応じた計測信号SOが各行の信号線27から得られ、各A/D変換器30を介して演算処理部として機能するパーソナルコンピュータ(パソコン;以下同じ)31に供給される」(【0050】)という記載は、「パルス信号でオン・オフされるスイッチS1,S2,S3,S4により一列目から順次第1のワイヤ電極9の何れかが選択されると、選択された列に接続されている励起電極に、電源25から所定の励起信号SIが供給され」、「パルス信号で選択された列に励起信号SIが供給された場合、計測電極との間の状態に応じた計測信号SOが各行の第2のワイヤ電極10から得られ、各A/D変換器30を介して演算処理部として機能するパーソナルコンピュータ(パソコン;以下同じ)31に供給される」という記載に読み替えられる(ただし、第1のワイヤ電極9は各列の信号線26に接続されているものとした。)。
また、(引2ウ)の図2には、計測信号SOが出力される各行を選択するスイッチがないことから、引用文献2のインピーダンス計測センサは、パルス信号で選択された列に励起信号SIが供給された場合、計測電極との間の状態に応じた計測信号SOは、各行の第2のワイヤ電極10からほぼ同時に得られることが理解できる。

b 上記aを含め上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「第2のワイヤ電極10は、第1のワイヤ電極9から所定の距離離隔させるとともに、第1のワイヤ電極9に交差するように正方格子状に配設し、第1のワイヤ電極9と第2のワイヤ電極10との交点を流体に基づくインピーダンスの計測点として選定するインピーダンス計測センサであって、
第1のワイヤ電極9を励起電極、第2のワイヤ電極10を計測電極として機能させ、
パルス信号でオン・オフされるスイッチS1,S2,S3,S4により一列目から順次第1のワイヤ電極9の何れかが選択されると、選択された列に接続されている励起電極に、電源25から所定の励起信号SIが供給され、
パルス信号で選択された列に励起信号SIが供給された場合、計測電極との間の状態に応じた計測信号SOが各行の第2のワイヤ電極10からほぼ同時に得られ、各A/D変換器30を介して演算処理部として機能するパーソナルコンピュータ31に供給される、
インピーダンス計測センサ。」

ウ 引用文献3

(ア)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015−210187号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引3ア)
「【0031】
図1は、本発明の実施の形態に係るインピーダンス計測装置の回路系を示す概略構成図である。同図に示すように本形態に係るインピーダンス計測装置は、例えば原子炉の燃料棒被覆管の間を流れる冷却水の状況を把握するためのもので、前記冷却水の状態(気液の存在率等)や挙動(流速、流れ方向)を的確に把握すべく、原子炉を模擬した管路1を流れる流体の断面内の多点における気液二相流中の液体と気体の存在量の時系列情報を得るためのセンサとしてのWMSを有している。WMSは、管路1の軸方向において所定の距離を隔てて交差させるとともに、管路1の断面内で正方格子状に配設された第1のワイヤ電極2および第2のワイヤ電極3を有しており、第1のワイヤ電極2を励起電極および第2のワイヤ電極3を計測電極とするインピーダンスセンサである。ここで、第1のワイヤ電極2で形成する入力線にはスイッチS1,S2,S3により一列目から順に励起信号PIが印加される。ここで、励起信号PIは電源4から切替スイッチSPを介して供給される。
【0032】
インピーダンス計測センサにおいて、励起電極である第1のワイヤ電極2にはスイッチS1、S2,S3により一列目から順に励起信号PIが印加される。ここで、励起信号PIは電源4から切替スイッチSPを介して供給される。
【0033】
上述の如き励起信号PIの印加に伴い、第1のワイヤ電極2および計測電極である第2のワイヤ電極3の交点([1.1],[2.1],[3.1])・・・([1.3],[2.3],[3.3])におけるインピーダンスは、各交点([1.1],[2.1],[3.1])・・・([1.3],[2.3],[3.3])を短絡する流体の状態に応じて変化する。この結果、第2のワイヤ電極3には各交点([1.1],[2.1],[3.1])・・・([1.3],[2.3],[3.3])のインピーダンスを反映した計測信号PO1,PO2,PO3が各行毎に出力される。
【0034】
いま、スイッチS2を閉にすることによってスイッチS2に接続された第1のワイヤ電極2に励起信号PIが印加された場合を考える。この場合において、交点[2.3]に気泡5が存在する一方、他の交点[2.1],[2.2]近傍が液体で満たされていると、交点[2.3]におけるインピーダンスが、他の交点[2.1],[2.2]におけるインピーダンスよりも大きくなるので、この交点[2.3]に対応する第2のワイヤ電極3を介して得られる計測信号PO3は他の計測信号PO1,PO2よりも低い強度で検出される。すなわち、計測信号PO1、PO2の平均レベルは交点([1.1],[2.1],[3.1])・・・([1.3],[2.3],[3.3])における気液二相流における液体(例えば水)と気体(気泡5)の存在量を反映したものとなる。この結果、計測信号PO1?PO3を演算処理部(図示せず)で処理することにより各交点([1.1],[2.1],[3.1])・・・([1.3],[2.3],[3.3])における、例えば気液二相流における気液の割合等、所望の物質の存在量を演算により計測することができる。」

(引3イ)図1


(イ)引用文献3に記載された技術的事項

a (引3イ)の図1には、計測信号PO1,PO2,PO3が出力される各行を選択するスイッチがないことから、引用文献3のインピーダンスセンサは、励起信号PIの印加に伴い、計測信号PO1,PO2,PO3が各行毎にほぼ同時に出力されることが理解できる。

b 上記aを含め上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「管路1の軸方向において所定の距離を隔てて交差させるとともに、管路1の断面内で正方格子状に配設された第1のワイヤ電極2および第2のワイヤ電極3を有し、第1のワイヤ電極2を励起電極および第2のワイヤ電極3を計測電極とするインピーダンスセンサであって、
励起電極である第1のワイヤ電極2にはスイッチS1、S2,S3により一列目から順に励起信号PIが印加され、
励起信号PIの印加に伴い、第1のワイヤ電極2および計測電極である第2のワイヤ電極3の交点([1.1],[2.1],[3.1])・・・([1.3],[2.3],[3.3])におけるインピーダンスは、各交点([1.1],[2.1],[3.1])・・・([1.3],[2.3],[3.3])を短絡する流体の状態に応じて変化し、この結果、第2のワイヤ電極3には各交点([1.1],[2.1],[3.1])・・・([1.3],[2.3],[3.3])のインピーダンスを反映した計測信号PO1,PO2,PO3が各行毎にほぼ同時に出力される、
インピーダンスセンサ。」

エ 引用文献4

(ア)引用文献4の記載
本願出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、Heiko Pietruske et al.,Wire-mesh sensors for high-resolving two-phase flow studies at high pressures and temperatures,Flow Measurement and Instrumentation,2007年,Vol.18,pp.87−94(以下「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(原文に続けて当審訳を記載する。)。

(引4ア)
「2. Wire-mesh sensors
2.1. Basic function
Function and construction of wire-mesh sensors developed in Rossendorf were published by Prasser et al. [4]. The signal acquisition scheme is patented [10]. The sensor is sensible to the electrical conductivity of the fluid. In case of a two-phase flow, the water phase is slightly conducting, while the gas phase is practically an ideal insulator. The sensor consists of two grids of parallel wires which span over the measuring cross-section (Fig. 1). The wires of both planes cross under an angle of 90 deg.
During the signal acquisition, one plane of electrode wires is used as transmitter, the other as receiver plane. The transmitter electrodes are activated by supplying them with voltage pulses in a successive order (Fig. 2). The excitation is done by DC-free symmetrical rectangular pulses, which is essential for avoiding electrolysis and anodic corrosion at the electrodes.
The current at a receiver wire resulting from the activation of a given transmitter wire is a measure of the conductivity of the fluid in the corresponding control volume close to the crossing point of the two wires. The currents from all receiver wires are sampled simultaneously after the transient caused by the capacitance of the connecting wires and the ion layers at the electrode surface has settled. In this way, the influence of the imaginary part of the impedance is suppressed. The activation procedure is repeated for all transmitter electrodes. After activating the last transmitter wire, a complete matrix of measured values is stored in the computer, which represents the complete two-dimensional conductivity distribution in the sensor cross section at the time of measurement.」(第88頁左欄〜右欄)
「2.ワイヤメッシュセンサ
2.1.基本機能
ロッセンドルフで開発されたワイヤメッシュセンサの機能と構造は、Prasserらによって発表された[4]。信号取得方式は特許を取得している[10]。このセンサは流体の電気伝導率に感応する。二相流の場合、水相はわずかに伝導し、気相は実質的に理想的な絶縁体である。センサは、測定断面にわたって平行に配置された2つの格子状のワイヤで構成されている(図1)。両面のワイヤは90°の角度で交差している。
信号の取得時には、一方の電極面が送信面、他方の電極面が受信面として使用される。送信側電極に電圧パルスを順次印加することにより、送信電極を活性化する(図2)。電極の電気分解や陽極腐食を防ぐために、DCフリーの対称的な矩形パルスで励磁する。
ある送信ワイヤの作動によって生じる受信ワイヤの電流は、2本のワイヤの交点に近い、対応する制御体積の流体の導電性を示す指標となる。すべての受信ワイヤからの電流は、接続線の静電容量と電極表面のイオン層による過渡現象が収まった後に、同時にサンプリングされる。こうすることで、インピーダンスの虚数部の影響を抑制することができる。この起動手順をすべての送信電極について繰り返す。最後の発信電極を活性化すると、測定値の完全なマトリックスがコンピュータに保存され、測定時のセンサ断面における完全な二次元導電率分布を示す。」

(引4イ)図1.4×4電極のワイヤメッシュセンサの簡略図


(引4ウ)図2.信号収集エレクトロニクスの最も重要な制御信号のパルス図


(イ)引用文献4に記載された技術的事項

a (引4イ)の図1から、すべての受信電極は、各々、順に、オペアンプ、サンプル・ホールド回路、A/D変換器に接続され、A/D変換器からの出力データはコンピュータに入力されることが見て取れる。

b 上記aを含め上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「測定断面にわたって平行に配置された2つの格子状のワイヤで構成され、両面のワイヤは90°の角度で交差しているワイヤメッシュセンサであって、
信号の取得時には、一方の電極面が送信面、他方の電極面が受信面として使用され、送信電極に電圧パルスを順次印加することにより、送信電極を活性化し、
すべての受信電極は、各々、順に、オペアンプ、サンプル・ホールド回路、A/D変換器に接続され、A/D変換器からの出力データはコンピュータに入力され、
ある送信ワイヤの作動によって生じる受信ワイヤの電流は、2本のワイヤの交点に近い、対応する制御体積の流体の導電性を示す指標となり、すべての受信ワイヤからの電流は、接続線の静電容量と電極表面のイオン層による過渡現象が収まった後に、同時にサンプリングされ、
この起動手順をすべての送信電極について繰り返し、最後の送信電極を活性化すると、測定値の完全なマトリックスがコンピュータに保存され、測定時のセンサ断面における完全な二次元導電率分布を示す、
ワイヤメッシュセンサ。」

オ 引用文献5

(ア)引用文献5の記載
本願出願前に頒布された刊行物である特許第4090077号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。

(引5ア)
「【請求項1】
流れ方向に対して垂直に配置されていて、2つ又は3つの平面内で互いに平行に配置されていて、そして支持部材に対して絶縁されかつ互いに絶縁されて配置されている、電気伝導性の格子棒つまり針金の形をした複数の電極から構成される流れ媒体中の伝導率分布を、1つのインパルス発生器と1つの電子分析装置を使用しつつ測定する格子センサにおいて、2つ又は3つの平面内のこれらの電極が、互いに90°の角度をなして配置されていること、この中央の平面が、励振平面としてインパルス発生器に接続されていて、かつ、その他の平面が、検出器平面として電子分析装置に接続されていること、及び
−励振平面の複数の電極は、対称で両極性の1つの矩形インパルスによって順々に作動され、この場合、作動されなかった全ての電極が、零電位に接続されていて、
−1つの励振電極と1つの検出器電極それぞれの交差点のすぐ近辺の局所の伝導率は、この励振電極を電気的に起動させた時にこの検出器電極に入力する電流を測定することによって測定され、
−この入力電流は、1つの励振電極と全ての検出器電極それぞれの間の全ての交差点のすぐ近辺の局所の伝導率の目安として同時に測定され、
−これら個々の励振電極は、時系列順に起動され、そして全ての交差点で測定された複数の入力電流が、捕捉された流れ断面を介して1つの伝導率分布に組合わされることを特徴とする格子センサ。」

(引5イ)
「この測定工程は、励振電極の本数に一致する等間隔の測定周期の回数分だけ分割され、制御回路、特にASICによって制御される。
外部からこのASICに供給され、このASICの周波数でプログラミング可能な1つのサイクルは、1つの測定周期の期間を決定する。さらに、この測定周期がn個の部分に分割される。そして、これらの信号の経時変化が、測定機能と分析機能とを制御するためにそれらn個の部分によってプログラミングされ得る。
個々の励振電極に対するこれらの測定周期が、カウンタによって時系列順にカウントされる。この測定工程は、測定周期を任意にカウントした後に中断され、そして新たに開始され得る。
各測定周期に対して、対称で両極性の1つの励振矩形インパルス(|+UAnst|=|-UAnst|)は、アナログ回路又は+入力端子にオフセット電圧が現れる演算増幅器を用いて線間電圧から取出され、そして電流負帰還増幅器を経由して複数の励振電極に時間をずらして順々に入力される。この場合、作動されなかった全ての励振電極は、零電位に接続されている。その励振矩形電圧の時間的な平均値は零である。したがって、格子電極の作動部には、電界による影響を回避するために直流電圧が存在しない。
センサ基体は零電位に接続されるので、そのセンサは電位的に一義的に規定されている。
検出器表面の電極に入力した電流は、低い入力抵抗を有する電流/電圧変換器によって電圧に変換される。
検出器の複数の電極に入力した電流は、その検出器表面の全ての電極に対する過度現象的な振動過程が減衰した後になって初めて同時に分析される。この目的のために、全ての分析チャネルの電圧信号は、その分析の終了まで信号生成部の出力部でサンプル・ホールド回路によって保持される。3つの電極平面を有する複数のセンサでは、その中央の平面が、励振器として切替わられ、かつ検出器の隣接する両平面上で作用する。
電圧の形で得られる測定信号の分析は、別の方法で実行される。2つの可能性を以下に説明する:
1.接続しているサンプル・ホールド回路に適合した信号生成部により、信号電圧がデジタル化される。サンプル状態からホールド状態への移行は、全てのサンプル・ホールド回路に対して同時に起きる。次いで、それらの受取ったデジタル化した信号電圧が、マイクロプロセッサによって予備圧縮され中間記憶され得る。この予備圧縮では、それらの測定結果が、貫流する媒体の個々の相の測定値と参照され規格化され分析される。この目的のために、まず第一に、算出した測定値MWer=MW/MW-MW/MWが生成されることによって、個々の相(MW1,MW2)の伝導率が較正しつつ測定され、引続きこれらの伝導率にしたがって測定値MWが参照される。
この分析では、場所に依存する測定値の評価結果(センサの周辺領域内の影響の調整)が考慮され得る。」(第3頁第48行〜第4頁第32行)

(イ)引用文献5に記載された技術的事項

a 【請求項1】に記載の「2つ又は3つの平面内のこれらの電極が、互いに90°の角度をなして配置されていること、この中央の平面が、励振平面としてインパルス発生器に接続されていて、かつ、その他の平面が、検出器平面として電子分析装置に接続されていること」は、「2つ・・・の平面内のこれらの電極が、互いに90°の角度をなして配置されている」場合、一方「の平面が、励振平面としてインパルス発生器に接続されていて、かつ、」他方「の平面が、検出器平面として電子分析装置に接続されていること」に読み替えられる。
また、「接続しているサンプル・ホールド回路に適合した信号生成部により、信号電圧がデジタル化される」(第4頁第23〜24行)に記載された「信号生成部」は、「A/D変換器」であることは明らかである。

b 上記aを含め上記(ア)の記載事項を総合勘案すると、引用文献5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「流れ方向に対して垂直に2つの平面内で互いに平行に配置されていて、針金の形をした複数の電極から構成される流れ媒体中の伝導率分布を測定する格子センサにおいて、
2つの平面内のこれらの電極が、互いに90°の角度をなして配置されていること、一方の平面が、励振平面としてインパルス発生器に接続されていて、かつ、他方の平面が、検出器平面として電子分析装置に接続されていること、及び
励振平面の複数の電極は、1つの矩形インパルスによって順々に作動され、
1つの励振電極と1つの検出器電極それぞれの交差点のすぐ近辺の局所の伝導率は、この励振電極を電気的に起動させた時にこの検出器電極に入力される電流を測定することによって測定され、
この入力電流は、1つの励振電極と全ての検出器電極それぞれの間の全ての交差点のすぐ近辺の局所の伝導率の目安として同時に測定され、
これら個々の励振電極は、時系列順に起動され、そして全ての交差点で測定された複数の入力電流が、捕捉された流れ断面を介して1つの伝導率分布に組合わされる、
格子センサであって、
1つの励振電極に1つの励振矩形インパルスを入力した時、検出器の複数の電極に入力された電流は、電流/電圧変換器によって電圧に変換され、全ての分析チャネル(全ての検出器電極)の電圧信号は、その分析の終了までサンプル・ホールド回路によって保持され、サンプル・ホールド回路に接続しているA/D変換器により、信号電圧がデジタル化され、
サンプル状態からホールド状態への移行は、全てのサンプル・ホールド回路に対して同時に起き、次いで、それらの受取ったデジタル化した信号電圧が、マイクロプロセッサによって記憶される、
格子センサ。」

(5)当審の判断
本件補正発明の「相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極からなる励起電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極からなる計測電極とを有するワイヤメッシュセンサ」は、第1のワイヤ電極を励起電極かつ計測電極、第2のワイヤ電極を計測電極かつ励起電極とすることを排除していないので、本件補正発明の「ワイヤメッシュセンサ」には、第1、第2のワイヤ電極のいずれも、励起電極かつ計測電極とする態様と、第1のワイヤ電極を励起電極のみ、第2のワイヤ電極を計測電極のみとする態様が含まれる。
独立特許要件(進歩性)について、以下の「(5−1)進歩性1」では、本件補正発明の「ワイヤメッシュセンサ」が、第1、第2のワイヤ電極のいずれも、励起電極かつ計測電極とする場合のアプローチにより、以下の「(5−2)進歩性2」では、第1のワイヤ電極を励起電極のみ、第2のワイヤ電極を計測電極のみとする場合のアプローチにより、それぞれ判断する。

(5−1)進歩性

(5−1−1)対比1
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 構成A
(ア)引用発明では、「計測電極部2A,2Bの各細線に電気信号を送り、このとき被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号を各細線で受信させる」ことから、引用発明の「格子状に平行に配列した導電性の細線で形成され」る「一対の計測電極部2A,2B」は、本件補正発明の「ワイヤメッシュセンサ」に相当するといえるところ、引用発明の「コンクリート材等の固体材料であ」る「被計測材料Pを」「挟み込む」、又は、「板状でない厚みのあるコンクリートブロック等の被計測材料Pの場合は」、「被計測材料Pの表面と共に被計測材料Pの中にも層状に埋め込」む、「格子状に平行に配列した導電性の細線で形成され」る「一対の計測電極部2A,2B」は、「被計測材料P」をその「厚み」に応じて「二次元」又は「三次元」的に全体をカバーするように「設置」されることが明らかであるから、本件補正発明の「コンクリート、カーボンファイバー、メタンハイドレード、及びベントナイトから選択される固体中の全体に亘って配設される」「ワイヤメッシュセンサ」に相当する。

(イ)また、引用発明では、「計測電極部2A,2Bの各細線に電気信号を送り、このとき被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号を各細線で受信させる」ことから、引用発明の「計測電極部2A」及び「計測電極部2B」は、機能的にみて、いずれも、「被計測材料P」に「電気信号」を「送」「信」するための「電極」でもあり、「被計測材料P」からの「電気信号」を「受信」するための「電極」でもある。
すると、引用発明の「計測電極部2A」は、「被計測材料P」に「電気信号」を「送」「信」するための「電極」でもあるから、本件補正発明の「励起電極」に相当し、引用発明の「計測電極部2B」は、「被計測材料P」からの「電気信号」を「受信」するための「電極」でもあるから、本件補正発明の「計測電極」に相当するところ、引用発明の「計測電極部2A」の「各細線」は、本件補正発明の「第1のワイヤ電極」に相当し、引用発明の「計測電極部2B」の「各細線」は、本件補正発明の「第2のワイヤ電極」に相当する。
よって、引用発明の「平行に配列した導電性の細線で形成され」た「計測電極部2A」は、本件補正発明の「相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極からなる励起電極」に相当し、引用発明の「平行に配列した導電性の細線で形成され」、「細線の方向が」「計測電極部2A」の「細線の方向」に「直交する」「計測電極部2B」は、本件補正発明の「相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極からなる計測電極」に相当する。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、
引用発明の「コンクリート材等の固体材料であ」る「被計測材料Pを」「挟み込む」、又は、「板状でない厚みのあるコンクリートブロック等の被計測材料Pの場合は」、「被計測材料Pの表面と共に被計測材料Pの中にも層状に埋め込」む、
「平行に配列した導電性の細線で形成され」た「計測電極部2A」と、「平行に配列した導電性の細線で形成され」、「細線の方向」が「計測電極部2A」の「細線の方向」に「直交する」「計測電極部2B」とを有する「一対の計測電極部2A,2B」は、
本件補正発明の「コンクリート、カーボンファイバー、メタンハイドレード、及びベントナイトから選択される固体中の全体に亘って配設される、
相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極からなる励起電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極からなる計測電極とを有するワイヤメッシュセンサ」に相当する。

イ 構成B
(ア)引用発明の「計測電極部2A」「の各細線に」「送」る「電気信号」は、本件補正発明の「前記第1のワイヤ電極のそれぞれに」「入力する」「励起信号」に相当する。

(イ)また、引用発明では、「計測電極部2Aの一つであるX面側の各細線のうち一つの細線を計測装置4に導通させた状態としておき、一方、計測電極部2Bの他の一つであるY面側の各細線の計測装置4への導通状態を端から順にスウイープさせることで、XYステージの1ライン(X1,Yn)が決定して計測され、この動作をX面の各細線(Xn)毎に順次行うこと」から、引用発明は、「計測電極部2A」の「各細線(Xn)毎に順次」「電気信号を送」るものである。

(ウ)そして、引用発明では、「計測装置4」の「高周波電圧または直流電圧の発生器」により「計測電極部2A」の「各細線(Xn)毎に順次」「電気信号を送」るために、「座標走査装置5は、電子スイッチ装置7の電子的切替動作によって座標位置決定装置3を制御」し、「座標位置決定装置3」は、「通電中のXとYとの交点座標が計測点となるように計測装置4を制御」することから、上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明の「計測電極部2A」の「各細線(Xn)毎に順次」「電気信号を送」るための「座標位置決定装置3、計測装置4、座標走査装置5」は、本件補正発明の「前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に励起信号を入力する入力手段」に相当する。

ウ 構成C
(ア)引用発明の「計測電極部2B」の「各細線で受信」された「計測点となる」「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」は、「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」により「計測」された「被計測材料Pのインピーダンス、容量成分、リアクタンス成分、抵抗成分等」であるから、本件補正発明の「前記第2のワイヤ電極から出力されたキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号」に相当する。

(イ)また、引用発明では、「計測電極部2A,2Bの各細線に電気信号を送り、このとき被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号を各細線で受信させることにより計測するものであり」、「計測電極部2Aの一つであるX面側の各細線のうち一つの細線を計測装置4に導通させた状態としておき、一方、計測電極部2Bの他の一つであるY面側の各細線の計測装置4への導通状態を端から順にスウイープさせることで、XYステージの1ライン(X1,Yn)が決定して計測され」ることから、引用発明は、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」に「電気信号」を「送」り、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」を「導通させた状態としておき」、「電子スイッチ装置7の電子的切替動作によって」、「計測電極部2Bの」「各細線の」「導通状態を端から順にスウイープさせること」により、「計測電極部2B」の「各細線」から、「計測点となる」「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」が「順に」「受信」されるものである。

(ウ)そして、引用発明では、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」に「電気信号」を「送」り、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」を「導通させた状態としておき」、「電子スイッチ装置7の電子的切替動作によって」、「計測電極部2Bの」「各細線の」「導通状態を端から順にスウイープさせること」により、「計測電極部2B」の「各細線」から、「順に」「受信」された「計測点となる」「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」を、「計測装置4」の「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」で「順に」「計測」するために、「座標走査装置5は、電子スイッチ装置7の電子的切替動作によって座標位置決定装置3を制御」し、「座標位置決定装置3」は、「通電中のXとYとの交点座標が計測点となるように計測装置4を制御」することから、上記(ア)及び(イ)を踏まえると、
引用発明の「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」に「電気信号」を「送」り、「計測電極部2B」の「各細線」から、「順に」「受信」された「計測点となる」「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」を、「計測装置4」の「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」で「順に」「計測」するための「座標位置決定装置3、計測装置4、座標走査装置5」と、
本件補正発明の「前記第1のワイヤ電極の何れか1本への励起信号の入力により、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから前記第2のワイヤ電極から出力されたキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号をそれぞれ検出する複数のA/D変換器を含む検出手段」とは、
「前記第1のワイヤ電極の何れか1本へ励起信号を入力し、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから前記第2のワイヤ電極から出力されたキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号をそれぞれ検出する検出手段」である点で共通する。

エ 構成D
引用発明の「被計測材料Pの材料の変質・傷・変形・破損等の物理的特性」「の変化」は、本件補正発明の「前記固体の状態変化」に相当するところ、引用発明の「計測点となる」「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」を「データ解析し、被計測材料Pの物理的特性」「の変化を検知する」「計測装置4」は、本件補正発明の「前記キャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した前記計測信号を演算処理して前記複数の計測点のいずれかにおいて前記固体の状態変化を検知する演算処理手段」に相当する。

オ 構成E
引用発明の「被計測材料Pの材料の変質・傷・変形・破損等の物理的特性」「の変化」には、「コンクリートブロック」の「クラックの発生」が含まれるところ、この場合、引用発明の「計測装置4」は、「コンクリートブロック」の「クラックの発生」を、「クラック」に空気や水分などの流動体が混入したことによる「コンクリートブロック」の「物理的特性の変化」として「検知する」ものと解されることから、引用発明の「計測装置4」が、「計測点となる」「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」を「データ解析し」、「コンクリートブロック」の「亀裂の発生」を含む「被計測材料Pの物理的特性」「の変化を検知する」ことは、本件補正発明の「前記演算処理手段は、前記固体中の前記複数の計測点のいずれかにおいて流動体が生成、衝突又は混在することによる当該固体の前記複数の計測点のいずれかにおける状態変化を検知する」ことに相当する。

カ 構成F
引用発明の「固体材料であ」る「被計測材料Pの物理的特性」「の変化を検出するための物理量計測装置1」は、本件補正発明の「固体の状態変化検知センサ」に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、次の(一致点1)で一致し、次の(相違点1)で相違する。

(一致点1)
「コンクリート、カーボンファイバー、メタンハイドレード、及びベントナイトから選択される固体中の全体に亘って配設される、
相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極からなる励起電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極からなる計測電極とを有するワイヤメッシュセンサと、
前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に励起信号を入力する入力手段と、
前記第1のワイヤ電極の何れか1本へ励起信号を入力し、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから前記第2のワイヤ電極から出力されたキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号をそれぞれ検出する検出手段と、
前記キャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した前記計測信号を演算処理して前記複数の計測点のいずれかにおいて前記固体の状態変化を検知する演算処理手段と
を有し、
前記演算処理手段は、前記固体中の前記複数の計測点のいずれかにおいて流動体が生成、衝突又は混在することによる当該固体の前記複数の計測点のいずれかにおける状態変化を検知する
固体の状態変化検知センサ。」

(相違点1)
本件補正発明では、検出手段が、「前記第1のワイヤ電極の何れか1本への励起信号の入力により」、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから前記第2のワイヤ電極から出力された計測信号をそれぞれ検出する「複数のA/D変換器を含む」のに対し、引用発明では、計測装置4が、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」に「電気信号」を「送」り、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」を「導通させた状態としておき」、「電子スイッチ装置7の電子的切替動作によって」「計測電極部2Bの」「各細線の」「導通状態を端から順にスウイープさせること」により、「計測点となる」各「交差点」がある「計測電極部2A,2Bの」「各細線で」「順に」「受信」された「電気信号」を、「順に」「計測」する「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」を含む点。

(5−1−2)判断1
上記相違点1について検討する。

本件補正発明は、「第1のワイヤ電極の何れか1本への励起信号の入力により」、第1のワイヤ電極と第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから第2のワイヤ電極から出力された計測信号をそれぞれ検出する「複数のA/D変換器を含む」検出手段を有するところ、
複数の第1のワイヤ電極からなる「励起電極」と、複数の第2のワイヤ電極からなる「計測電極」とを有する「ワイヤメッシュセンサ」と、
「前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に励起信号を入力する入力手段」と、
「前記第1のワイヤ電極の何れか1本への励起信号の入力により」、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれからの計測信号であって、複数の「前記第2のワイヤ電極から」同時に「出力された」計測信号を、それぞれ検出する「複数のA/D変換器を含む」検出手段と、
を有する「ワイヤメッシュセンサ装置」は、例えば、引用文献2(上記(4)イ(イ)参照。)、引用文献4(上記(4)エ(イ)参照。)、引用文献5(上記(4)オ(イ)参照。)に記載されているように本願出願時における周知技術である。
そして、当該周知技術によれば、複数の第2のワイヤ電極から同時に出力された計測信号を並列的にそれぞれ検出することで、高速測定を実現していることが理解できる。

一方、引用発明の「計測装置4」の「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」は、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」に「電気信号」を「送」り、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」を「導通させた状態としておき」、「電子スイッチ装置7の電子的切替動作によって」「計測電極部2Bの」「各細線の」「導通状態を端から順にスウイープさせること」により、「計測点となる」各「交差点」がある「計測電極部2A,2Bの」「各細線で」「順に」「受信」された「電気信号」を、直列的に「順に」「計測」するものであって、「データ解析」に先立ち、「計測」された「電気信号」を「A/D変換器」でデジタル変換しておくことは、常套手段であるところ、引用文献1には、【0026】に「各交差点をデジタルで走査し、各交差点のインピーダンスを高速で測定することで、座標と共にその三次元的な特性を一気に容易に取得することができる。」と記載されていることを踏まえると、引用発明において、さらなる高速測定のために、上記周知技術を適用する動機付けは存在するといえる。

すると、引用発明において、上記周知技術を適用し、「計測装置4」が、「電子スイッチ装置7の電子的切替動作によって」、「計測電極部2Bの」「各細線の」「導通状態を端から順にスウイープさせること」を廃止し、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」と「計測電極部2B」の「各細線」とに「電気信号を送」ることにより、「計測点となる」各「交差点」がある「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」と「計測電極部2B」の「各細線」とから同時に「受信」された「電気信号」を、「計測電極部2B」の「各細線」の各々に対応して設けた「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」で、並列的にそれぞれ「計測」し、「データ解析」するに先立ち、並列的にそれぞれ計測された電気信号を、それぞれの「A/D変換器」で、並列的にそれぞれデジタル変換させることは、当業者が容易に想到し得ることである。

この結果、上記周知技術を適用した引用発明では、「データ解析」に先立つ「A/D変換」処理までを「計測」処理と捉えると、「計測装置4」が、「計測電極部2A」の「各細線のうち一つの細線」に「電気信号を送」ることにより、「計測点となる」各「交差点」がある「計測電極部2B」の「各細線」から同時に「受信」された「電気信号」を、並列的に「計測」する、複数の「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」と複数の「A/D変換器」を含むことになるから、上記相違点1に係る本件補正発明の構成は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(5−2)進歩性

(5−2−1)対比2
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 構成A
引用発明の「コンクリート材等の固体材料であ」る「被計測材料Pを」「挟み込む」、又は、「板状でない厚みのあるコンクリートブロック等の被計測材料Pの場合は」、「被計測材料Pの表面と共に被計測材料Pの中にも層状に埋め込」む、
「平行に配列した導電性の細線で形成され」た「計測電極部2A」と、「平行に配列した導電性の細線で形成され」、「細線の方向」が「計測電極部2A」の「細線の方向」に「直交する」「計測電極部2B」とを有する「一対の計測電極部2A,2B」と、
本件補正発明の「コンクリート、カーボンファイバー、メタンハイドレード、及びベントナイトから選択される固体中の全体に亘って配設される、
相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極からなる励起電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極からなる計測電極とを有するワイヤメッシュセンサ」とは、
「コンクリート、カーボンファイバー、メタンハイドレード、及びベントナイトから選択される固体中の全体に亘って配設される、
相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極とを有するセンサ」である点で共通する。

イ 構成B
引用発明の「計測電極部2Aの一つであるX面側の各細線のうち一つの細線を計測装置4に導通させた状態としておき、一方、計測電極部2Bの他の一つであるY面側の各細線の計測装置4への導通状態を端から順にスウイープさせる」ものであって「この動作をX面の各細線(Xn)毎に順次行う」「座標走査装置5」と、「通電中のXとYとの交点座標が計測点となるように」「座標位置」を「決定」する「座標位置決定装置3」と、「座標位置決定装置3」により「決定」された「座標位置」がある「計測電極部2A,2Bの各細線に電気信号を」、「高周波電圧または直流電圧の発生器」で「送」る「計測装置4」の部分とを併せたものと、
本件補正発明の「前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に励起信号を入力する入力手段」とは、
「前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に信号を入力する入力手段」で共通する。

ウ 構成C
引用発明の「座標位置決定装置3」により「決定」された「計測電極部2A,2Bの各細線」の「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」を、「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」で「順に」「計測」する「計測装置4」の部分と、
本件補正発明の「前記第1のワイヤ電極の何れか1本への励起信号の入力により、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから前記第2のワイヤ電極から出力されたキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号をそれぞれ検出する複数のA/D変換器を含む検出手段」とは、
「前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれからキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号をそれぞれ検出する検出手段」である点で共通する。

エ 構成D
引用発明の「計測点となる」「計測電極部2A,2Bの各細線」の「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」を「データ解析し、被計測材料Pの物理的特性」「の変化を検知する」「計測装置4」は、本件補正発明の「前記キャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した前記計測信号を演算処理して前記複数の計測点のいずれかにおいて前記固体の状態変化を検知する演算処理手段」に相当する。

オ 構成E
引用発明の「計測装置4」が、「計測点となる」「計測電極部2A,2Bの各細線」の「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」を「データ解析し」、「コンクリートブロック」の「亀裂の発生」を含む「被計測材料Pの物理的特性」「の変化を検知する」ことは、本件補正発明の「前記演算処理手段は、前記固体中の前記複数の計測点のいずれかにおいて流動体が生成、衝突又は混在することによる当該固体の前記複数の計測点のいずれかにおける状態変化を検知する」ことに相当する。

カ 構成F
引用発明の「固体材料であ」る「被計測材料Pの物理的特性」「の変化を検知するための物理量計測装置1」は、本件補正発明の「固体の状態変化検知センサ」に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、次の(一致点2)で一致し、次の(相違点2)で相違する。

(一致点2)
「コンクリート、カーボンファイバー、メタンハイドレード、及びベントナイトから選択される固体中の全体に亘って配設される、
相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極とを有するセンサと、
前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に信号を入力する入力手段と、
前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれからキャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した計測信号をそれぞれ検出する検出手段と、
前記キャパシタンス、インダクタンス又はコンダクタンスを反映した前記計測信号を演算処理して前記複数の計測点のいずれかにおいて前記固体の状態変化を検知する演算処理手段と
を有し、
前記演算処理手段は、前記固体中の前記複数の計測点のいずれかにおいて流動体が生成、衝突又は混在することによる当該固体の前記複数の計測点のいずれかにおける状態変化を検知する
固体の状態変化検知センサ。」

(相違点2)
相互に間隔をあけて配設された複数の第1のワイヤ電極と、相互に間隔をあけて配設され且つ前記複数の第1のワイヤ電極と交差して設けられた複数の第2のワイヤ電極とを有するセンサは、本件補正発明では、複数の第1のワイヤ電極及び複数の第2のワイヤ電極が、それぞれ「励起電極」及び「計測電極」となる「ワイヤメッシュセンサ」であって、それに伴い、
入力手段が、「前記第1のワイヤ電極のそれぞれに順に励起信号を入力する入力手段」であり、
検出手段が、「前記第1のワイヤ電極の何れか1本への励起信号の入力により」、前記第1のワイヤ電極と前記第2のワイヤ電極との交点である複数の計測点のそれぞれから「前記第2のワイヤ電極から出力された」計測信号をそれぞれ検出する「複数のA/D変換器を含む」検出手段であるのに対し、
引用発明では、複数の第1のワイヤ電極及び複数の第2のワイヤ電極が、ともに「計測電極部」であり、「一対の計測電極部2A,2B」を構成するものであって、それに伴い、
入力手段が、「計測電極部2Aの一つであるX面側の各細線のうち一つの細線を計測装置4に導通させた状態としておき、一方、計測電極部2Bの他の一つであるY面側の各細線の計測装置4への導通状態を端から順にスウイープさせる」ものであって「この動作をX面の各細線(Xn)毎に順次行う」「座標走査装置5」と、「通電中のXとYとの交点座標が計測点となるように」「座標位置」を「決定」する「座標位置決定装置3」と、「座標位置決定装置3」により「決定」された「座標位置」がある「計測電極部2A,2Bの各細線に電気信号を」、「高周波電圧または直流電圧の発生器」で「送」る「計測装置4」の部分とを併せたものであり、
検出手段が、「座標位置決定装置3」により「決定」された「計測電極部2A,2Bの各細線」の「交差点に対応する座標位置での」「被計測材料Pから電磁誘導的に発生する電気信号」を、「インピーダンスまたは直流抵抗の計測器」で「順に」「計測」する「計測装置4」の部分である点。

(5−2−2)判断2
上記相違点2について検討する。

上記相違点2は、本件補正発明が、1本の励起電極を選択し、それと交差する複数の計測電極から同時に出力される計測信号を並列的に処理する、いわゆる「ワイヤメッシュセンサ法」であるのに対し、引用発明が、交差する計測電極を1本ずつ選択し、1つの交点に対応する計測信号を順次処理する、いわゆる「配置法」であることに基づく測定原理の違いから生じる相違点である。
そして、「ワイヤメッシュセンサ法」、「配置法」はいずれも、平行に配列した細線で形成された第一電極と、平行に配列した細線で形成され、細線の方向が第一電極の細線の方向に交差する第二電極とからなる電極対を用いて、測定対象のインピーダンスなどの電気的特性を計測する技術であって、引用文献1には、【0026】に「各交差点をデジタルで走査し、各交差点のインピーダンスを高速で測定することで、座標と共にその三次元的な特性を一気に容易に取得することができる。」と記載されていることを踏まえると、引用発明において、さらなる高速測定のために、「配置法」に代えて「ワイヤメッシュセンサ法」についての上記周知技術を適用する動機付けは存在するといえる。
すると、引用発明において、上記周知技術を適用することにより、「配置法」に基づく構成は、「ワイヤメッシュセンサ法」に基づく構成に変更され、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(6)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
令和3年5月6日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、令和2年8月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1及び2に係る発明は、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2005−17246号公報
引用文献2:特開2012−127875号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2015−210187号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3の記載事項は、上記「第2の2(4)アないしウ」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、実質的に、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「検出手段」の補正2に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(5)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-06-08 
結審通知日 2022-06-15 
審決日 2022-06-28 
出願番号 P2016-034807
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
渡戸 正義
発明の名称 固体の状態変化検知センサ及び固体の状態変化検知方法  
代理人 栗原 浩之  
代理人 山▲崎▼ 雄一郎  

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