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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1387932
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-27 
確定日 2022-08-24 
事件の表示 特願2015−244698「ガス状物質を検出するための材料及びセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月14日出願公開、特開2016−128803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月16日(パリ条約による優先権主張 2014年12月30日 アメリカ合衆国)の出願であって、令和元年11月28日付けで拒絶理由が通知され、令和2年2月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月31日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年11月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和3年1月7日付けで令和2年11月24日にした手続補正についての却下の決定がされるとともに拒絶査定(原査定)がされたところ、令和3年5月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和3年5月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
ガス状物質を検出するように構成されるセンサ(10,16,32,76)であって、
トランスジューサであって、アンテナ(14,22)を形成する電気共振回路を備える、トランスジューサと、
前記トランスジューサの少なくとも一部分上に配設された検知材料(12,18)とを備え、前記検知材料(12,18)は、金属酸化物半導体、ポリマーマトリクス及び前記金属酸化物半導体上に堆積された貴金属触媒を含み、ガス状物質に暴露されると、キャパシタンス応答及び抵抗応答を同時に示すように構成され、
前記金属酸化物半導体は、In2O3、SnO2、Fe2O3、Ga2O3、及びSb2O3、又は任意の他の金属酸化物半導体、或は、SnO2を有するIn2O3、ZnOを有するIn2O3、ZnOを有するSnO2を含む1つ又は複数の金属の組合せである、
センサ(10,16,32)。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし26に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし8に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、引用文献2は、請求項3、4及び26に対してのみ引用されている。また、引用文献3ないし8は、周知技術を示す文献として引用されている。

引用文献1:特開2012−132901号公報
引用文献2:特表2011−524974号公報
引用文献3:特開2009−229369号公報
引用文献4:米国特許出願公開第2008/0020504号明細書
引用文献5:特開平8−15200号公報
引用文献6:特開昭62−110143号公報
引用文献7:特開昭60−7350号公報
引用文献8:特公昭47−27438号公報

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2012−132901号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審において付加した。以下同様。)。

(引1−ア)「【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する主題は、化学センサー及び生体センサーに関し、より具体的には、選択性の高い温度非依存性化学センサー及び生体センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な蒸気の検出を有用な情報を識別するのに使用することができる、いくつかの用途に、化学センサー及び生体センサーを使用することが多い。例えば、センサー内又はセンサーの周囲のいくつかの環境変数の変化を識別することにより存在する蒸気を測定することは、生物薬剤製品、食料又は飲料の変化を監視すること、化学的又は物理的危険のある工業地域を監視すること、並びに、住居監視、空港内の自国セキュリティ、様々な環境及び医療現場、いくつかの有害蒸気及び/又は毒性のある蒸気の検出が特に有用である可能性がある他の公共の場所等のセキュリティ用途に特に有用である可能性がある。
【0003】
そうした環境変化を検知する1つの技術は、特定の検知用材料で覆われたRFIDセンサー等のセンサーを使用することである。それに加えて、1つ以上の検知用材料で覆われたセンサーを、個々の変換器のアレイ内に配置することができる。多くのセンサーアレイは、いくつかの同じセンサーを含む。しかし、そうしたアレイは、同じセンサーを使用してセンサーアレイの作成を簡単にするが、単一の応答(例えば、抵抗値、電流、静電容量、仕事関数、質量、光学的厚さ、光強度等)のみを検知する能力に限定する可能性がある。いくつかの用途では、複数の応答又は複数の特性変化が起こる可能性がある。そうした用途において、アレイ内の様々な変換器が同じ又は異なる応答(例えば、抵抗値、電流、静電容量、仕事関数、質量、光学的厚さ、光強度等)を使用し、2つ以上の特性を測定することができるように様々な検知用材料で覆われた、センサーアレイを含むことは有益である可能性がある。不利なことには、特定の応答を検知するのに固有に作成された個々のセンサーを有するセンサーアレイを作成することは、アレイの作成を複雑にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0278685号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さらに、多くの実用的用途において、選択性の高い化学センサー及び生体センサーを使用するのは有益である。即ち、他の蒸気及び混合物の存在の下で複数の蒸気及び蒸気混合物を検知することができるセンサーアレイを提供することがしばしば望ましい。存在する可能性がある蒸気及び蒸気混合物の数が多くなるほど、検知する特定の種類の蒸気又は蒸気混合物を正確に検知し、それを識別することがより難しくなる可能性がある。特に、このことは、1つ以上の蒸気が検出用の注目する他の蒸気よりも大きい大きさのレベルで存在するとき、当てはまる可能性がある。例えば、高い湿度環境は、選択された蒸気を検出する従来のセンサーの能力をしばしば妨げる。さらに、センサーを個々のセンサーとして使用し又はセンサーをアレイ状に配置するとき、温度変動は、化学検知及び生体検知の正確度を低減する。
【0006】
本明細書に開示する様々な実施形態は、上述の課題の1つ以上に対処することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によれば、共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)回路と、検知領域上に配置された検知用材料とを備えたセンサーを提供する。検知領域は、LCR回路の少なくとも一部を含む。LCR回路及び検知用材料のインダクタンスL特性、静電容量C特性及び抵抗値R特性の温度依存性応答係数は、互いに約5%以上異なる。LCR回路及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数の差により、センサーは、温度に実質的に依存せずに分析流体混合物から分析物流体を選択的に検出することができる。」

(引1−イ)「【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に開示する実施形態は、単一のセンサーを設け、複数の蒸気及び/又は蒸気混合物を単独又は互いの存在の下で検出することができる、選択的な蒸気検知用の温度非依存性方法及びシステムを提供する。単一のセンサーを使用した蒸気検知用の一般的な方法の例は、「Highly Selective Chemical and biological Sensors」という名称の米国特許出願第12/942,732号に説明され、それは参照により本明細書に組み込まれる。開示するセンサーは、高湿度環境又は1つ以上の蒸気が混合物中の他の成分と比べて大幅に高い濃度(例えば10倍)を有する環境でも、変化する温度の下で様々な蒸気及び混合物を検出することができる。各センサーは、検知用材料で覆われた共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)センサーを含む。LCR回路及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数は、互いに異なる。特性の温度依存性応答係数の差は、開示するセンサーの測定に影響を及ぼす。しかし、特性の温度依存性応答係数の知見及び/又は特性の温度依存性応答係数の差がセンサーにどのように影響を及ぼすかの知見は、温度非依存性選択的蒸気検知及び応答の安定性の改善をもたらすセンサーの測定インピーダンスの多変数分析と共に使用する。例えば、センサーの実験的試験に基づいて係数を含む参照表を生成することができる。センサーの使用中、実験的に決定した係数は、多変数分析において検知中の温度変動を説明するのに使用することができる。本明細書に開示する他の実施形態は、単一のセンサーを設け、液体中の複数の化学種若しくは生体種及び/又は化学種若しくは生体種の混合物を単独又は互いの存在の下で検出することができる、選択的な化学検知及び生体検知用の温度非依存性方法及びシステムを提供する。
【0013】
LCRセンサーの非限定的な例は、集積回路(IC)メモリーチップ付きRFIDセンサー、ICチップ付きRFIDセンサー及びICメモリーチップ無しRFIDセンサー(チップ無しRFIDセンサー)を含む。LCRセンサーは、無線又は有線とすることができる。データを集めるために、LCR回路の共振周波数範囲等の比較的狭い周波数範囲にわたってインピーダンススペクトルを取得する。本技術は、いくつかの蒸気及び/又は蒸気混合物の存在を識別するのに、取得スペクトルから多変数識別特性を計算し、データを処理することをさらに含む。存在する蒸気は、誘電率の変化、寸法、電荷移動及び回路の電子的共振特性の変化を観測し、使用材料の特性の他の変化を測定することによって検出される。さらに以下に示すように、主成分分析(PCA)及びその他の数学的手順を使用することにより、互いの存在及び干渉物質の存在の下で、複数の蒸気及び混合物を検出することができる。本明細書に開示する実施形態は、単一のセンサーを設け、複数の流体及び/又は混合流体を単独又は互いの存在の下で検出することができる、選択的な流体検知用の温度非依存性方法及びシステムを提供する。別の実施形態は、LCR回路を含む変換器を組み立て、変換器の少なくとも一部上に検知用材料を配置することにより、変換器及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数が互いに異なる、そうしたセンサーを製造する方法を開示する。他の実施形態では、蒸気及び流体用の化学センサーに加えて、生体センサーも、温度非依存性検出能力を有することができる。」

(引1−ウ)「【0026】
用語「変換器及びセンサー」は、検知を目的とするRFIDデバイス等の電子デバイスを指すのに使用する。「変換器」は、検知若しくは保護フィルムで覆われる前又は検知用途のために校正する前のデバイスである。変換器は、LCR回路の静電容量C、抵抗値R及びインダクタンスLの温度依存性変化の3つ以上の温度依存性応答係数を含む。「センサー」は、全体的には、検知若しくは保護フィルムで覆われた後及び検知用途のために校正した後のデバイスである。
【0027】
本明細書で使用する用語「RFIDタグ」は、RFIDタグに取り付けることができる物品を識別及び/又は追跡するのに電子タグを使用する、識別及び報告技術を指す。RFIDタグは、全体的には、2つ以上の素子を含み、第1の素子は、情報を記憶及び処理し、無線周波数信号を変調及び復調する集積回路(IC)メモリーチップである。このメモリーチップは、他の専用の機能に使用することもでき、例えば、コンデンサを含むことができる。メモリーチップは、抵抗入力部、静電容量入力部又はインダクタンス入力部等の1つ以上のアナログ信号用入力部を含むこともできる。チップ無しRFIDタグの場合、RFIDタグは、ICメモリーチップを含まない可能性がある。この種類のRFIDタグは、特定のRFIDタグを識別する必要がなく、むしろタグの存在を示すだけの信号が有用な情報を提供する用途(例えば製品管理用途)に有用である可能性がある。RFIDタグの第2の素子は、無線周波数信号を受信し、送信するアンテナである。
【0028】
用語「RFIDセンサー」は、検知機能を追加したRFIDタグであり、例えば、そのとき、RFIDタグのアンテナがそのインピーダンスパラメーターを環境変化に応じて変化させることにより検知機能も行う。共振インピーダンスの分析により、そうしたRFIDセンサーによる環境変化の正確な決定を行う。例えば、RFIDタグは、RFIDタグを検知フィルムで覆うことによりRFIDセンサーに転換することができる。RFIDタグを検知フィルムで覆うことにより、フィルムの電気応答は、インピーダンス応答、共振ピーク位置、ピーク幅、センサーアンテナのインピーダンス応答のピーク高さ及びピーク対称性、インピーダンスの実数部の大きさ、インピーダンスの虚数部の共振周波数、インピーダンスの虚数部の反共振周波数、零リアクタンス周波数、位相角度、インピーダンスの大きさ、並びに用語センサー「スペクトルパラメーター」の定義で説明した他のものへの同時変化に変換される。「RFIDセンサー」は、アンテナに取り付けた集積回路(IC)メモリーチップを有する可能性があり又はICメモリーチップを有しない可能性がある。ICメモリーチップ無しRFIDセンサーは、LCRセンサーである。LCRセンサーは、LCR回路を形成する、1つ以上のインダクタ(L)、1つ以上のコンデンサ(C)及び1つ以上の抵抗器(R)等の既知の素子から構成される。」

(引1−エ)「【0039】
ここで図に目を向け、最初に図1を参照して、その上を覆われる検知用材料14を含むRFIDセンサー12を利用した温度非依存性選択的蒸気検知の原理を説明するために、検知システム10を提供する。検知用材料14は、誘電率特性及び抵抗値特性の2つ以上の温度依存性応答係数を有する。図2を簡単に参照すれば、センサー12は、検知用材料14で覆われたインダクタ−コンデンサ−抵抗器構造(LCR)を含む共振回路である。LCR構造は、LCR回路のインダクタンスL特性、静電容量C特性及び抵抗値R特性の3つ以上の温度依存性応答係数を含む。LCR回路の特性の3つ以上の温度依存性応答係数は、互いに約5%以上異なる。それに加えて、検知用材料14の特性の2つ以上の温度依存性応答係数は、LCR回路の特性の3つ以上の温度依存性応答係数と約5%以上異なる。検知用材料14は、電極間の検知領域上に施され、電極は、共振回路を構成するセンサーアンテナ18を形成する。さらに以下に説明するように、検知用材料14を共振回路上に施すことにより、回路のインピーダンス応答を変える。センサー12は、有線センサー又は無線センサーとすることができる。センサー12は、基板20に結合する共振アンテナ18に結合するメモリーチップ16を含むこともできる。メモリーチップ16は、製造データ、ユーザーデータ、校正データ及び/又はその上に記憶される他のデータを含むことができる。メモリーチップ16は、集積回路デバイスであり、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)プロセスを使用して作成したRF信号変調回路及び不揮発性メモリーを含む。RF信号変調回路素子は、ダイオード整流器、電源電圧制御装置、変調器、復調器、クロック発生器及び他の素子を含む。
・・・
【0043】
アンテナ18内で発生した電磁界により探知される検知用材料14の特性変化の監視を介して、検知を行う(図2)。ピックアップコイル22によりRFIDセンサー12を読むとき、センサーアンテナ18内に発生した電磁界は、センサー12の平面から拡がり、周辺環境の誘電特性により影響を受け、物理的、化学的及び生物学的パラメーターの測定の機会を提供する。」

(引1−オ)「【0052】
有利なことに、分析物による検知用材料フィルムの変化が、材料の抵抗値及び静電容量、変換器と検知用材料との間の接触抵抗値及び静電容量、並びに変換器基板と検知用材料との間の抵抗値及び静電容量の変化により、アンテナLCR回路のインピーダンスに影響を及ぼすので、LCR共振センサーの検知領域に、多様な検知用材料を利用することができる。そうした変化は、個々のRFIDセンサーの応答に多様性をもたらし、従来のセンサーアレイ全体を単一のLCR又はRFIDセンサーに置き換える機会をもたらす。」

(引1−カ)「【0056】
検知用材料は、抵抗値変化、誘電率変化及び膨張率変化等の、LCR又はRFIDセンサーの3つの応答機構の1つ以上により説明することができる、分析物応答を示す。複数の様々な個々の検知用材料を含む複合検知用材料を集合させることができ、複合検知用材料はそれぞれ、主として様々な応答機構により分析物に応答する。そうした複合検知用材料は、多変数応答の多様性を高める。そうした複合検知用材料を、LCR共振器の特定部分にわたって均一又は不均一に混合し又は局所的にパターン化することができる。
【0057】
例えば、広い範囲の金属酸化物半導体材料(例えば、ZnO、TiO2、SrTiO3、LaFeO3等)は、分析物ガスに曝露するとき、抵抗値の変化を示すが、いくつかの混合金属酸化物(例えば、CuO−BaTiO3、ZnO−WO3)は、分析物蒸気に曝露するとき、それらの誘電率/静電容量を変化させる。これらの材料を混合物として結合するか又は同じセンサー上に空間的に別個に堆積させることにより、センサーの周囲の局所環境へのそれらの別個の寄与を使用し、単一の分析物に関する応答機構の多様性を高め、従って、選択性を高める。」

(引1−キ)図1




(引1−ク)図2




(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(引1−ア)の「共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)回路と、検知領域上に配置された検知用材料とを備えたセンサー」(【0007】)との記載を参酌するに、上記(引1−エ)に記載された「その上を覆われる検知用材料14を含むRFIDセンサー12」及び「センサー12は、検知用材料14で覆われたインダクタ−コンデンサ−抵抗器構造(LCR)を含む共振回路である」(【0039】)から、「RFIDセンサー12」は、「インダクタ−コンデンサ−抵抗器構造(LCR)を含む共振回路と、共振回路を覆う検知用材料14とを備えたRFIDセンサー12」であることが読み取れる。

イ 引用文献1の記載において、「センサーアンテナ18」、「共振アンテナ18」及び「アンテナ18」は、同一の構成を表していると解されることから、以下では「共振アンテナ18」に記載を統一する。また、「RFIDセンサー12」及び「センサー12」についても、同一の構成を表していると解されることから、以下では「RFIDセンサー12」に記載を統一する。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、上記(引1−ア)ないし(引1−ク)の記載から、引用文献1には、
「インダクタ−コンデンサ−抵抗器構造(LCR)を含む共振回路と、共振回路を覆う検知用材料14とを備えたRFIDセンサー12であって、
LCR回路は変換器を構成し、
電極は、共振回路を構成する共振アンテナ18を形成し、共振アンテナ18は基板20に結合しており、
検知用材料14は、分析物ガスに曝露するとき、抵抗値の変化を示すZnO、TiO2、SrTiO3、LaFeO3等の金属酸化物半導体材料と、分析物蒸気に曝露するとき、それらの誘電率/静電容量を変化させるCuO−BaTiO3、ZnO−WO3のような混合金属酸化物とを、混合物として結合するか、又は、空間的に別個に堆積させ、単一の分析物に関する応答機構の多様性を高めた、
RFIDセンサー12。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 引用文献3について
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009−229369号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。

(引3−ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス検知素子に関し、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した金属酸化物を備えることにより、常温下で、水素を検知することができるようにした水素ガス検知素子に関する。」

(引3−イ)「【0014】
本発明の一側面は、所定の電気的特性を有する回路素子と、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した金属酸化物とを備える水素ガス検知素子において、前記回路素子の少なくとも一部が、前記金属酸化物によって被覆され、前記金属酸化物の導電性は、前記金属酸化物に水素原子が解離吸着されることにより変化し、前記回路素子の電気的特性は、前記金属酸化物の導電性の変化に応じて変化することを特徴とする水素ガス検知素子である。
【0015】
前記金属酸化物は、水素解離能を有した貴金属触媒を担持した酸化タングステンであり、前記酸化タングステンに解離吸着された水素原子による還元力によりタングステンブロンズが生成されることによって、前記酸化タングステンの導電性が変化するようにすることもできる。」

(引3−ウ)「【0029】
図3に戻り基板11の上面は(即ちアンテナコイル12及び薄膜電極13は)、樹脂材21により覆われている。この樹脂材21には、金属酸化物(この例の場合、酸化タングステン)が混入されており、この酸化タングステンには、白金(Pt)又はパラジウム(Pd)といった水素分子を水素原子に解離させる水素解離能を有する貴金属媒体が担持されている。」

3 引用文献4について
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2008/0020504号明細書(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。

(引4−ア)「[0027] In accordance with an exemplary embodiment of the invention, the barium tungstate film optionally may be doped with a suitable dopant or dopants to enhance the sensitivity and selectivity of the film to particular gases (step 62). For example, the barium tungstate film can be doped with noble metal particles such as platinum (Pt), palladium (Pd) and/or rhodium(Rh) particles to enhance the barium tungstate film's sensitivity to NO and NO2 and reduce sensitivity to CO and O2 gases. The dopants can be impregnated in the barium tungstate film by adding the particles to the mediums described above or otherwise can be dispersed on the surface of the film. In one exemplary embodiment, approximately 1 to 5% dopant may be added to the barium tungstate powder.」
(当審訳:[0027] 本発明の例示的な実施形態によれば、タングステン酸バリウムフィルムは、所望により、適当なドーパントをドープし、特定のガス(ステップ62)に対するフィルムの感度及び選択性を向上させることができる。例えば、タングステン酸バリウムフィルムは、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及び/又はロジウム(Rh)粒子等の貴金属粒子をドープして、NO及びNO2に対するタングステン酸バリウムフィルムの感度を高め、COガス及びO2ガスに対する感度を低下させることができる。ドーパントは、上述した媒体に添加することにより、タングステン酸バリウムフィルム中に含浸させることができるか、あるいは当該フィルムの表面上に分散することができる。1つの例示的な実施形態では、約1〜5%のドーパントを、タングステン酸バリウム粉末に添加することができる。)

4 引用文献5について
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8−15200号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。

(引5−ア)「【0007】したがって、本発明は、電気陰性度が15以上の金属原子を有する金属酸化物を分散してなる酸化亜鉛をセンサ素子材料とし、アセトン応答性を有することを特徴とする食品の品質検知用ガスセンサを提供する。
・・・
【0009】本発明において、電気陰性度が15以上の金属原子を有する金属酸化物(添加成分)の種類に必ずしも限定はないが、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、錫酸化物、アンチモン酸化物及びエルビウム酸化物から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。これにより、アセトン応答特性が極めて良く、スープ類の品質検知に特に有効なセンサを得ることができる。この場合、上記各酸化物としては、例えば酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化錫(SnO2)、酸化アンチモン(Sb2OX)、酸化エルビウム(Er2O3)等を挙げることができる。」

(引5−イ)「【0015】ロ.貴金属の添加
ZnOの粉末(ベース材料)に貴金属を添加して粉末試料を調製した。貴金属の添加はコロイド吸着法で行った。まず、貴金属のコロイド溶液とベース材料粉末とを所定の比率で混合し、室温で5時間攪拌した。静置してから貴金属コロイドがベース材料粉末に完全に吸着したことを確かめた後、濾過、乾燥し、さらに600℃で5時間焼成した。このようにして添加した貴金属は、Ru、Rh、Pd、Ag、Pt、Auである。ベース材料に対する貴金属の添加量[貴金属/(ベース材料+貴金属)]は、いずれの粉末試料でも0.4重量%とした。」

(引5−ウ)「【0021】ZnO単独素子及び種々の添加成分を用いたZnO素子の湿潤空気中20ppmアセトンに対する感度を図4に示す。図4の最上段にZnO単独素子の感度を示すが、その感度はあまり大きくなく、十分な値ではない。また、図4より、MoO3、WO3、SnO2、Sb2OX、Er2O3を添加成分として用いた場合、ZnO素子のアセトンに対する感度が特に大きくなることがわかる。」

5 引用文献6について
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭62−110143号公報(以下「引用文献6」という。)には、以下の記載がある。

(引6−ア)「本発明においては、更に必要に応じて、感応媒体の電気伝導度等を適当な値に調整するために(V2O5)1−X・(MyOz)x・nH2Oと無機高分子材料及び/又は有機高分子材料とを複合化することができる。通常、(V2O5)1−X・(MyOz)x・nH2Oのみからなる感応媒体の電気伝導度は、室温で1〜10−2(Ω・cm)−1と高く、このため水分やガス濃度の変化を電気伝導度の変化として検出し難い場合がある。このような場合には、(V2O5)1−X・(MyOz)x・nH2Oを適当な無機高分子材料及び/又は有機高分子材料と複合化することによって、測定対象に応じた検出し易い電気伝導度に調整することができる。
好ましい高分子材料は、ガスや水分量の変化に対する感応性能を向上させ、感応媒体の電気抵抗値を高める効果のある物質であり、有機高分子材料としては、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、セルロース、酢酸セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸ビニル等を例示でき、これらの共重合体も使用できる。更に必要に応じて架橋剤を併用することもできる。また無機高分子材料としては、コロイダルシリカ、リン酸塩ポリマー、ホスファゼンポリマー等を例示できる。無機高分子材料及び有機高分子材料は、単独で用いてもよく又は適宜併用することもできる。
(V2O5)1−X・(MyOz)x・nH2Oと高分子材料とを複合化した感応媒体を得るには、前記した(V2O5)1−X・(MyOz)xの非晶質体の溶液中に、高分子材料を加えて、溶解又は分散させた後、基板に塗布し、乾燥させればよい。」(第4頁左上欄下から4行〜左下欄10行)

6 引用文献7について
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭60−7350号公報(以下「引用文献7」という。)には、以下の記載がある。

(引7−ア)「金属酸化物をエポキシ樹脂バインダで固めた湿度センサかある」(第2頁3〜4行)

(引7−イ)「本発明の感湿素子は、高分子材料よりなるバインダ中に、絶縁性ないし半導電性ないし導電性の物質の粉末材料と、酸性基と塩基性基の双方を持つ両性電解質とを含有したものである。
実施例の説明
バインダとなる高分子材料には、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)ポリフッ化ビニリデン(PVF2)、ポリ塩化ビニル、エポキシ、ポリスルホン、シリコンゴム、セロファン等、あらゆる高分子材料を用いることかできる。」(第2頁右上欄下から3行〜左下欄9行)

7 引用文献8について
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特公昭47−27438号公報(以下「引用文献8」という。)には、以下の記載がある。

(引8−ア)「本発明は酸化金属又は酸化金属と炭素質物から成る薄膜を金電極を附した基板上に形成して成る感湿素子において、経年変化により電気抵抗が増大するのを防止する様にしたものである。
金属酸化物、例えばCr2O3,Fe2O3,Ni2O3,Al2O3またはZnO等の粉末をつけた基板上に塗布して作つた薄膜の電気抵抗が、空気中の相対湿度の高低に反比例して増減する現象を利用して、酸化物感湿体の得られることは公知である」(第1欄20〜29行)

(引8−イ)「上記における薄膜の粒子間隙をポリ酢酸ビニルの様な吸湿性高分子化合物で充すことによシ感湿素子の経年変化を防止する様にしたものであって、その要旨とするところは金電極を附した基板上に酸化金属又は酸化金属と炭素質物との薄膜を形成した感湿素子をポリ酢酸ビニル、酢酸繊維素等の吸湿性高分子化合物を溶解した溶液に浸し、前記薄膜に該高分子化合物を含む液を浸み込ませた後、これを取出して室温で溶剤を蒸発除去することを特徴とする感湿素子の経年変化防止法に存するものである。」(第2欄24〜34行)

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
ア(ア)引用発明の「分析物ガス」及び「分析物蒸気」は、併せて本願発明の「ガス状物質」に相当する。

(イ)引用発明の「RFIDセンサー12」は、本願発明の「センサ」に相当する。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明の「分析物ガス」及び「分析物蒸気」を検知する「RFIDセンサー12」は、本願発明の「ガス状物質を検出するように構成されるセンサ」に相当する。

イ(ア)引用発明の「変換器」は、本願発明の「トランスジューサ」に相当する。

(イ)引用発明の「共振アンテナ18」は、本願発明の「アンテナ」に相当する。

(ウ)引用発明の「インダクタ−コンデンサ−抵抗器構造(LCR)を含む共振回路」及び「LCR回路」は、ともに本願発明の「電気共振回路」に相当する。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、引用発明の「変換器」であって、「インダクタ−コンデンサ−抵抗器構造(LCR)を含む共振回路」で「構成」され、「電極は、共振回路を構成する共振アンテナ18を形成し」ている「変換器」は、本願発明の「トランスジューサであって、アンテナを形成する電気共振回路を備える、トランスジューサ」に相当する。

ウ(ア)引用発明の「検知用材料14」は、本願発明の「検知材料」に相当する。

(イ)上記(ア)及びイを踏まえると、引用発明の「変換器を構成」する「インダクタ−コンデンサ−抵抗器構造(LCR)を含む」「共振回路を覆う検知用材料14」は、本願発明の「前記トランスジューサの少なくとも一部分上に配設された検知材料」に相当する。

エ(ア)引用発明の「検知用材料14は」「金属酸化物半導体材料と」「混合金属酸化物とを、混合物として結合するか、又は、空間的に別個に堆積させ」たものであることと、本願発明の「前記検知材料は、金属酸化物半導体、ポリマーマトリクス及び前記金属酸化物半導体上に堆積された貴金属触媒を含」むこととは、「前記検知材料は、金属酸化物半導体を含」むことで共通する。

(イ)引用発明の「検知用材料14は、分析物ガスに曝露するとき、抵抗値の変化を示すZnO、TiO2、SrTiO3、LaFeO3等の金属酸化物半導体材料と、分析物蒸気に曝露するとき、それらの誘電率/静電容量を変化させるCuO−BaTiO3、ZnO−WO3のような混合金属酸化物とを」含み、「単一の分析物に関する応答機構の多様性を高めた」ものであることから、引用発明の「検知用材料14」は、「分析物ガス」及び「分析物蒸気」「に曝露するとき」、「抵抗値の変化」と「誘電率/静電容量」の「変化」の双方を示すといえる。

(ウ)引用発明の「誘電率/静電容量」の「変化」及び「抵抗値の変化」は、それぞれ本願発明の「キャパシタンス応答」及び「抵抗応答」に相当する。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、引用発明の「検知用材料14は、分析物ガスに曝露するとき、抵抗値の変化を示すZnO、TiO2、SrTiO3、LaFeO3等の金属酸化物半導体材料と、分析物蒸気に曝露するとき、それらの誘電率/静電容量を変化させるCuO−BaTiO3、ZnO−WO3のような混合金属酸化物とを、混合物として結合するか、又は、空間的に別個に堆積させ、単一の分析物に関する応答機構の多様性を高めた」ことと、本願発明の「前記検知材料は、金属酸化物半導体、ポリマーマトリクス及び前記金属酸化物半導体上に堆積された貴金属触媒を含み、ガス状物質に暴露されると、キャパシタンス応答及び抵抗応答を同時に示すように構成され」たこととは、「前記検知材料は、金属酸化物半導体を含み、ガス状物質に暴露されると、キャパシタンス応答及び抵抗応答を同時に示すように構成され」たことで共通する。

オ(ア)本願発明の特定事項である「前記金属酸化物半導体は、In2O3、SnO2、Fe2O3、Ga2O3、及びSb2O3、又は任意の他の金属酸化物半導体、或は、SnO2を有するIn2O3、ZnOを有するIn2O3、ZnOを有するSnO2を含む1つ又は複数の金属の組合せである」は、「前記金属酸化物半導体は」、「In2O3、SnO2、Fe2O3、Ga2O3、及びSb2O3」のいずれか、「任意の他の金属酸化物半導体」のいずれか、又は、「SnO2を有するIn2O3、ZnOを有するIn2O3、ZnOを有するSnO2」のいずれか「を含む1つ又は複数の金属の組合せである」と解されるから、「前記金属酸化物半導体は」、「任意の他の金属酸化物半導体」のいずれか「を含む1つ又は複数の金属の組合せである」場合を含んでいる。

(イ)上記(ア)を踏まえると、引用発明の「金属酸化物半導体材料」である「ZnO、TiO2、SrTiO3、LaFeO3等」は、「任意の他の金属酸化物半導体」であるといえるから、引用発明の「金属酸化物半導体材料」は「ZnO、TiO2、SrTiO3、LaFeO3等」であることは、本願発明の「前記金属酸化物半導体は、In2O3、SnO2、Fe2O3、Ga2O3、及びSb2O3、又は任意の他の金属酸化物半導体、或は、SnO2を有するIn2O3、ZnOを有するIn2O3、ZnOを有するSnO2を含む1つ又は複数の金属の組合せである」ことを満たす。

2 そうすると、本願発明と引用発明とは、
「ガス状物質を検出するように構成されるセンサであって、
トランスジューサであって、アンテナを形成する電気共振回路を備える、トランスジューサと、
前記トランスジューサの少なくとも一部分上に配設された検知材料とを備え、前記検知材料は、金属酸化物半導体を含み、ガス状物質に暴露されると、キャパシタンス応答及び抵抗応答を同時に示すように構成され、
前記金属酸化物半導体は、In2O3、SnO2、Fe2O3、Ga2O3、及びSb2O3、又は任意の他の金属酸化物半導体、或は、SnO2を有するIn2O3、ZnOを有するIn2O3、ZnOを有するSnO2を含む1つ又は複数の金属の組合せである、
センサ。」
の発明である点で一致し、次の点において相違する。

(相違点)
金属酸化物半導体を含む検知材料が、本願発明においては、更に「ポリマーマトリクス及び前記金属酸化物半導体上に堆積された貴金属触媒」を含むのに対し、引用発明においては、そのような特定はされていない点。

第6 判断
1 相違点について
(1)引用文献6ないし8の記載から把握されるように、ガス状物質を検出するセンサにおいて、ガスを検知する金属酸化物の固定又は特性調整のために金属酸化物を高分子材料に混合して用いることは、従来周知(以下当該周知な構成を「周知技術1」という。)である。

(2)また、引用文献3ないし5の記載から把握されるように、ガス状物質を検出するセンサにおいて、ガスを検知する金属酸化物の特性調整のために、金属酸化物に貴金属触媒を担持させることも従来周知(以下当該周知な構成を「周知技術2」という。)である。

(3)引用発明は、検知用材料14として金属酸化物半導体材料及び混合金属酸化物を用いるものであるから、検知用材料14の固定や特性調整のために、周知技術1及び周知技術2を採用する動機があるといえる。
そして、金属酸化物と高分子材料を混合することによる作用効果と、金属酸化物に貴金属触媒を担持させることに作用効果は、高分子材料及び貴金属触媒それぞれの特性によって独立して生じるものと解されるから、周知技術1及び周知技術2を同時に採用することを阻害する事情があるとは認められない。

(4)したがって、引用発明において、周知技術1及び周知技術2を採用し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を備えたものとすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

2 本願発明の奏する作用効果
本願発明によってもたらされる効果は、引用文献1及び3ないし8の記載事項から当業者が予測し得る程度を超えるものとはいえない。

3 請求人の主張について
(1)請求人は、審判請求書において、「本審判請求書と同日付で提出する手続補正書により、独立請求項1、13、16、21において金属酸化物半導体の候補からZnO、WO3およびTiO2を削除しました。・・・
上記補正により、本願発明において用いられる金属酸化物半導体は、『In2O3、SnO2、Fe2O3、Ga2O3、及びSb2O3、又は任意の他の金属酸化物半導体、或は、SnO2を有するIn2O3、ZnOを有するIn2O3、ZnOを有するSnO2を含む1つ又は複数の金属の組合せ』となりました。
引用文献のいずれにも、本願補正後の独立請求項で規定される金属酸化物半導体については何らの開示も示唆もありません。引用文献3、引用文献4、引用文献5に開示されているのはそれぞれ(WO3)、(Ba-W)、(ZnO)であり、本願補正後の独立請求項で規定されるものではありません。また、引用文献6は湿度センサー、結ぶセンサー、ガスセンサー等として使用し得る感応媒体に関し、一般式(V2O5)1−x・(MyOz)x−nH2O等で表される酸化物を含む感応媒体が開示されています。引用文献6は上記一般式等バナジウム系の酸化物を含むことを前提としており、本願発明とはまったく異なる構成を必須としています。
・・・
したがって、引用文献の記載に接した当業者がこれらの開示内容から本願発明に想到したであろうということはできず、本願補正後の請求項に係る発明は引用文献に対して進歩性を有するものと思料いたします。」と主張する。

(2)しかしながら、独立請求項1、13、16及び21の記載において、金属酸化物半導体の具体的種類に係る記載から、「ZnO、WO3およびTiO2」の表記を削除したとしても、「任意の他の金属酸化物半導体」の表記は削除されていないから、独立請求項1、13、16及び21で特定される「金属酸化物半導体」は、「ZnO、WO3およびTiO2」を排除していない。

(3)「任意の他の金属酸化物半導体」については、令和3年1月7日付け補正の却下の決定において、令和2年11月24日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に対して、「引用文献1には検知用材料14として金属酸化物半導体材料を用いることが記載されており(段落〔0057〕より)、この金属酸化物半導体材料は、それが如何なる組成であっても、『In2O3、ZnO、WO3、SnO2、TiO2、Fe2O3、Ga2O3、及びSb2O3、又は任意の他の金属酸化物半導体』(請求項1)に相当する。」と指摘していた事項である。

(4)したがって、請求人の上記主張は採用できない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 福島 浩司
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-14 
結審通知日 2022-03-16 
審決日 2022-03-30 
出願番号 P2015-244698
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 渡戸 正義
井上 博之
発明の名称 ガス状物質を検出するための材料及びセンサ  
代理人 関口 一哉  

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