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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1387937
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-02 
確定日 2022-08-17 
事件の表示 特願2019−127733「光学多層フィルム、これを含む光学部品および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月16日出願公開、特開2020− 8861〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2019−127733号(以下「本件出願」という。)は、令和元年7月9日(パリ条約に基づく優先権主張 2018年(平成30年)7月9日 韓国(KR))に出願された特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 7月14日付け:拒絶理由通知書
令和2年10月21日提出:意見書
令和2年10月21日提出:手続補正書
令和3年 1月26日付け:拒絶査定
令和3年 6月 2日提出:審判請求書
令和3年 6月 2日提出:手続補正書
令和3年 9月17日提出:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月2日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和2年10月21日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 基材層、プライマー層およびハードコート層の順次的な積層体を含む光学多層フィルムであって、
前記基材層は、ポリエステル樹脂を含み、前記基材層の最小面内位相差(Romin)が150nm以下であり、幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)が550nm/3m未満であり、幅方向の変位に対する厚み方向位相差の変化量(|ΔRth|/|Δx|)が700nm/3m未満であり、
前記光学多層フィルムは、最小面内位相差(Romin)が150nm以下であり、幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)が550nm/3m未満であり、
前記基材層、プライマー層およびハードコート層の屈折率をそれぞれn1、n2とn3としたときに、下記式(1)〜(4):
n3<n2<n1 (1)
0.10≦n1−n3≦0.15 (2)
0≦n1−n2≦0.10 (3)
0≦n2−n3≦0.10 (4)
を満足する、光学多層フィルム。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 基材層、プライマー層およびハードコート層の順次的な積層体を含む光学多層フィルムであって、
前記基材層は、ポリエステル樹脂を含み、前記基材層の最小面内位相差(Romin)が85nm以下であり、幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)が550nm/3m未満であり、幅方向の変位に対する厚み方向位相差の変化量(|ΔRth|/|Δx|)が700nm/3m未満であり、
前記光学多層フィルムは、最小面内位相差(Romin)が150nm以下であり、幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)が550nm/3m未満であり、
前記基材層、プライマー層およびハードコート層の屈折率をそれぞれn1、n2とn3としたときに、下記式(1)〜(4):
n3<n2<n1 (1)
0.10≦n1−n3≦0.15 (2)
0≦n1−n2≦0.10 (3)
0≦n2−n3≦0.10 (4)
を満足する、光学多層フィルム。」

(3) 本件補正について
ア 請求項1についてした本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「基材層」の「最小面内位相差(Romin)」が、「150nm以下」であるものから、「85nm以下」であるものに限定する補正である。
また、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0007】〜【0008】。)。

イ してみると、請求項1についてした本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。

ウ そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

2 独立特許要件(進歩性)についての判断
(1) 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由(特許法第29条第2項)において引用文献3として引用された、特開2004−345333号公報(以下、同じく「引用文献3」という。)は、本件出願の優先権主張の日(以下「優先日」)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。なお、引用発明の認定や判断等に活用した箇所に下線を付した。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、干渉斑を防止し、視認性を向上させたプラスチックフイルムに関する。特に、三波長蛍光灯下でも干渉斑がほとんど見えないハードコートフイルム、粘着剤層付きプラスチックフイルム、さらにはこれらのプラスチックフイルムの中間製造物であるプライマー層付きプラスチックフイルム、及び機能性層を積層した機能性プラスチックフイルムに関する。
本発明は、また、本発明のプラスチックフイルムを備えた画像表示装置にも関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、透明プラスチック基材はプラスチック製品、LCDなどのプラスチック表面ディスプレイ、携帯電話や携帯ゲームの表示板、タッチパネル等に貼合し耐擦傷性の付与、ガラス製品やCRT、PDPなどのガラス製ディスプレイ表面の飛散防止、反射防止、防汚性等の機能付与のためのハードコートフイルムや反射防止フイルム等の基材として需要が伸びている。
なかでも、ポリエステル樹脂系フイルム、特にポリエチレンテレフタレート(PET)の二軸延伸フイルムは、優れた機械的性質、耐燃性または耐薬品性等を有するため上記の機能性フイルムの基材フイルムとして、需要の伸びは著しい。
【0003】
これらの透明プラスチック基材を用いて機能性プラスチックフイルムを形成する場合、多くは基材上に直接または薄膜の易接着層等を介して有機化合物樹脂からなる数μmから50μm程度の機能性層、例えば、ハードコート層などの硬化層が形成される。PETフイルムの屈折率(面方向)は約1.65に対し、例えばアクリル樹脂等の有機化合物で形成されるハードコート層の屈折率は通常1.53を中心に1.50〜1.56であり、0.10以上の屈折率差がある。このため、基材がPETの機能性フイルムは、▲1▼界面での反射率が高い、▲2▼界面での反射光と表面での反射光との光の干渉で干渉斑が発生する、▲3▼PET表裏面の反射光の干渉で干渉斑が発生する、と言う問題を有し、この▲1▼▲2▼▲3▼の3つの問題から、貼合した画像表示装置などの物品の視認性を悪化させたり、高級感を損なわせたりする。
・・・略・・・
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上記の状況を鑑み、本発明の目的は、基材上にハードコート層や粘着剤層などの機能性層を設けたプラスチックフイルムにおいて、干渉斑を抑制したプラスチックフイルムを提供することにある。特に、干渉斑が低減された、ハードコートフイルム、低ヘイズの粘着剤層付きプラスチックフイルム、及び機能性プラスチックフイルムの基材として適したプライマー層付きプラスチックフイルムを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記プラスチックフイルムを基材とし、各種機能性を有した機能性プラスチックフイルム、特に反射率の低い反射防止フイルムを提供することにあり、さらに該プラスチックフイルムを備えた画像表示装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討の結果、透明プラスチック基材上の物性を適性化することにより、機械的強度の低下やヘイズ上昇等の性能上の大きな問題を招くことなく、干渉斑をなくすことができることを見出した。
【0015】
具体的には、下記の手段により上記課題を達成できることを見出した。
1.透明プラスチック基材の少なくとも片面にプライマー層及び機能性層をこの順に積層してなり、
透明プラスチック基材の屈折率nS及び機能性層の屈折率nHが
数式(1):0.03≦|nS−nH|
を満足し、かつ
フイルム面に対し垂直入射させた波長540〜550nmの光の機能性層と基材との界面における平均反射率が0.02%以下、
であることを特徴とするプラスチックフイルム。
・・・略・・・
【0017】
4.透明プラスチック基材の少なくとも片面にプライマー層及び機能性層をこの順に積層してなり、
透明プラスチック基材の屈折率nS及び機能性層の屈折率nHが
数式(1):0.03≦|nS−nH|
を満足し、かつ
プライマー層が下記数式(2)及び数式(3)を満足する屈折率nP及び膜厚dPを有すること特徴とするプラスチックフイルム。
数式(2)
【0018】
【数2】

【0019】
数式(3)
dP=(2N−1)×λ/(4nP)
ただし、λは可視光の波長で450nm〜650nmの範囲のいずれかの値、Nは自然数。
【0020】
5.プライマー層が下記数式(7)を満足する屈折率nPを有することを特徴とする上記4に記載のプラスチックフイルム。
数式(7)
【0021】
【数3】

・・・略・・・
【0024】
11.機能性層がハードコート層であることを特徴とする上記1〜10のいずれかに記載のハードコートフイルム。
・・・略・・・
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のプラスチックフイルムは、特に可視域に特定の波長の輝線成分を含む光源、例えば蛍光灯下で観察されやすい干渉斑を抑えたプラスチックフイルムである。具体的にはハードコート層を有するハードコートフイルム、・・・略・・・も本発明の干渉斑を抑えたプラスチックフイルムに相当する。
【0036】
本発明で取り上げている干渉斑は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)に代表される高屈折率基材フイルム上に、ハードコート層や粘着剤層など基材との屈折率差が大きい層を設けた場合に、該層と基材との界面での反射率が高くなり、該界面からの反射光とフイルム表面での反射光との干渉により発生するものである。干渉はハードコート層など基材に設けられる層や基材の微妙な膜厚変化の影響を受け、縞状または斑(まだら)状に観察される斑(むら)を発生させる。
・・・略・・・
【0038】
このような干渉斑の発生する場合は、特開平7−15902号公報に記載されているように、通常、基材上に設けられる層と基材との屈折率差(絶対値)が0.03以上あると発生するとされている。
したがって、以下で説明する本発明は、ハードコート層や粘着剤層の屈折率と基材の屈折率との差が0.03以上である時に干渉斑防止の効果が顕著に現れる。この屈折率差が0.06以上である時により効果は大きく、0.10以上であると更に効果は大きい。
・・・略・・・
【0044】
本発明のプラスチックフイルムでは、透明プラスチック基材上にプライマー層を設け、屈折率や反射率などの物性値を適正化することにより、この界面での反射率を低減させ、干渉斑が生じるのを防ぐものである。
・・・略・・・
【0049】
以下、本発明のプラスチックフイルムについて詳細に説明する。
本発明に用いられる基材は、透明プラスチック基材であり、フイルム状やシート、板状のものが好ましい。本発明で言う「フイルム」とは、基材としてフイルム状のみならず、シート状、板状ものを使用した場合も含むものである。
【0050】
ハードコート層や粘着剤層の屈折率は通常1.53近辺なので、本発明では屈折率の高い(1.56以上の)基材を用いるのが好ましい。この場合、基材の屈折率は、1.56以上1.90未満であることが好ましく、1.60以上1.70未満であることが更に好ましい。屈折率が高いポリマーから形成するプラスチックフイルムであることが好ましく、屈折率が高いポリマーの例には、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート・・・略・・・ポリブチレンテレフタレート)・・・略・・・が挙げられる。
・・・略・・・
【0055】
基材の厚みは、基材がフイルム状の場合、20〜300μmが好ましく、80〜200μmがより好ましい。基材フイルムの厚みが薄すぎると膜強度が弱く、厚いと剛性が大きくなり過ぎる。シート状の場合に基材の厚みは、透明性を損なわない範囲であればよく、300μm以上数mmのものが使用できる。
基材の厚みが1mm以下、特に300μm以下の場合、可視光域に輝線成分を含む光源、例えば三波長蛍光灯下では基材表面と裏面の反射光の干渉で干渉斑が見えることがある。本発明では、プライマー層を両面に設けることによりこの基材表裏面の干渉斑を低減することができる。一般に合成樹脂レンズでは厚みが大きく、表裏面の反射光による干渉斑は発生しない。この点は合成樹脂レンズとフイルムの根本的違いである。
【0056】
本発明は、前記したように、ハードコート層や粘着剤層など機能性層と基材との界面に反射防止プライマー層(プライマー層P、プライマー層Q)を設けることにより該界面での反射率を大幅に減少させ、干渉斑をほとんど見えなくするものである。
【0057】
本発明のハードコートフイルムの場合、プライマー層Pは、基材の屈折率nSとハードコート層の屈折率nHとの差が0.03以上である時に干渉斑が発生し、対策効果が現われる。この屈折率差が0.06以上である時により効果は大きく、0.10以上であると更に効果は大きい。
【0058】
プライマー層Pの屈折率nPは、下記の数式(2)を満足することにより、膜厚dPを特定の値(数式(3))とすることと相俟って、ハードコート層/基材の界面での反射率を大幅に低減することができ、干渉斑を抑えることができる。
数式(2)
【0059】
【数4】

【0060】
更に、ハードコート層/基材の界面での反射率を低減させる上で屈折率nPは、下記数式(7)を満足することが好ましい。
数式(7)
【0061】
【数5】


【0062】
更には、屈折率nPが以下の数式(9)を満たすと、特定の波長の線スペクトルに関してはプライマー層の膜厚dpのコントロールと合わせて計算上反射率をゼロにすることができるので、極めて好ましい。
数式(9)
【0063】
【数6】

【0064】
プライマー層Pの膜厚dPは、以下の数式(3)を満たすことが必要である。
数式(3) dP=(2N−1)×λ/(4nP)
ここで、λは可視光の波長で450nm〜650nmの範囲のいずれかの値、Nは自然数。
・・・略・・・
【0095】
本発明のハードコートフイルムとは、後述する鉛筆硬度試験によりH以上の表面硬度を有するフイルムのことであり、ハードコート層とはこの鉛筆硬度を達成させるための層である。
・・・略・・・
【0125】
また、本発明のプラスチックフイルムを備える画像表示装置としては、CRT、LCD、FED、EL等のディスプレイやタッチパネル、携帯ゲームの表示板等が好ましい。特に破砕防止の観点で基材がPETであることが必要な平面CRTテレビや一部基材がPET化されているPDPが好ましい。」

ウ 「【0126】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0127】
<予備実験>
以下の実験で基材とハードコート層の屈折率差(|nS−nH|)と干渉斑発生の関係を調べた。
【0128】
(ハードコート層塗布液)
・・・略・・・
【0129】
(ハードコート層の塗布)
・・・略・・・
【0130】
【表1】
・・・略・・・
【0131】
ここで、干渉斑は以下の方法により評価した。
干渉斑の評価;裏面をサンドペーパーで擦り、黒マジックを塗り裏面の反射が起こらないようにした試料を机の上におき、30cm上から三波長蛍光灯(ナショナルパナック蛍光灯FL20SS・EX−D/18)でサンプルを照らし、干渉斑を観察し、下記の基準により評価した。
◎ :干渉斑が全く見えない
○ :干渉斑がほとんど見えない
△ :干渉斑が弱く見える
× :干渉斑が強く見える
××:干渉斑が非常に強く見える
【0132】
以上の結果から基材とハードコート層の屈折率差が0.03で干渉斑が見え始め、屈折率差が増加すると共に干渉斑が強く見えることが分かった。
【0133】
<実施例>
(プライマー層付きPETベースの作製−基材1〜6)
厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)の両面をコロナ処理し、屈折率1.53、ガラス転移温度55℃のポリエステル樹脂からなるラテックス(ペスレジンA−520、高松油脂(株)製)と酸化錫・酸化アンチモン複合酸化物(SN−38、石原産業(株)製)を乾燥後の屈折率と膜厚が表2に記載の値になるように混合し、片面(A)または両面(B)に塗布しプライマー層を形成した。
・・・略・・・
【0138】
【表2】


・・・略・・・
【0140】
(ハードコート層塗布液(h−1)の調製)
メチルエチルケトン(MEK)中にグリシジルメタクリレートを溶解させ、熱重合開始剤を滴下しながら80℃で2時間反応させ、得られた反応溶液をヘキサンに滴下し、沈殿物を減圧乾燥して得たポリグリシジルメタクリレート(ポリスチレン換算分子量は12,000)をメチルエチルケトンに50質量%濃度になるように溶解した溶液100質量部に、トリメチロールプロパントリアクリレート(ビスコート#295;大阪有機化学工業(株)製)150質量部と光ラジカル重合開始剤(イルガキュア184、チバガイギー社製)6重量部と光カチオン重合開始剤(ロードシル2074、ローディア社製)6質量部を30質量部のメチルイソブチルケトンに溶解したものを撹拌しながら混合し、ハードコート層塗布液を作製した。なお、硬化後のハードコート層の屈折率は、1.53になるよう調整した。
・・・略・・・
【0142】
(ハードコートフイルムの作製)
上記で作製したプライマー層付きフイルムのプライマー層P上に上記ハードコート層用塗布液を表3に記載の厚みになるように、エクストルージョン方式で塗布、乾燥し、紫外線を照射(700mJ/cm2)してハードコート層を硬化させ、ハードコートフイルムを作製した。
【0143】
得られたハードコートフイルムに対して以下の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。
鉛筆硬度試験;鉛筆引っ掻き試験の硬度は、作製したハードコートフイルムを温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS−K−5400が規定する鉛筆硬度評価方法に従い、9.8Nの荷重にて傷が認められない鉛筆の硬度の値である。
ヘイズの評価;作製したハードコートフイルムのヘイズをヘイズメーターMODEL 1001DP(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
干渉斑については、前記予備実験と同様な方法で評価した。
【0144】
【表3】


【0145】
表3における界面の反射率とは、ハードコート層/基材界面での平均反射率であり、プライマー層上下面の振幅反射率をフレンネルの式より計算し、プライマー層の膜厚と波長から得られる位相差を考慮して2つの反射波を合成し、540〜550nmに対し1nm毎に求めたエネルギー反射率から計算した平均値である。
【0146】
表3に示される結果から以下のことが明らかである。
基材がPETフイルムで屈折率が1.53の有機化合物から形成されたハードコート層を有するハードコートフイルムでは、本発明のプライマー層を設けた実施例1A〜7Aのハードコートフイルムは三波長蛍光灯下で干渉斑が見えないが、プライマー層がなかったり(比較例1と2)、従来のプライマー層(比較例4Bと5B)を設けた場合、干渉斑が非常に強く見える。
・・・略・・・
【0169】
【発明の効果】
本発明によれば、特定の屈折率と膜厚を有するプライマー層を高屈折率基材フイルム上に形成することにより、三波長蛍光灯下でも干渉斑が見えず視認性が良好なプラスチックフイルムを得ることができる。本発明のプラスチックフイルムを用いることにより、三波長蛍光灯下でも干渉斑のない透明機能性フイルムを提供することができる。本発明のプラスチックフイルムは、ガラス飛散防止フイルム、粘着テープ、透明ステッカーの基材、また、上記の透明機能性フイルムはCRT、LCD、PDP、FED等の画像表示装置の表面やタッチパネル、ガラス板やプラスチック板等の保護フイルムとして好適である。」

(2) 引用発明
ア 引用文献3でいう「本発明」は、「干渉斑を防止し、視認性を向上させたプラスチックフイルムに関」し、「特に、三波長蛍光灯下でも干渉斑がほとんど見えないハードコートフイルム」「関する」(【0001】)ところ、引用文献3には、「実施例5B」として、【0133】〜【0145】に記載された製造方法により「作製」された「ハードコートフィルム」が記載されている。

イ 【0143】及び【0144】【表3】によれば、「実施例5B」で「作製」された「ハードコートフィルム」は、「基材」として「基材−1B」を用い、「ハードコート塗布液」として「h−1」を用い、「ハードコート層の膜厚」が「5μm」であり、「界面の反射率(%)」が「0.0001」であり、「鉛筆硬度」が「2H」であり、「ヘイズ」が「0.6%」であり、「干渉斑」が「○」のものであることが分かる。
ここで、「基材−1B」は、【0133】(「プライマー層付きPETベースの作製−基材1〜6」)の記載及び【0138】【表2】から理解されるとおり、「厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)」の「両面」に「形成」された「プライマー層P」及び「プライマー層Q」の「乾燥後の屈折率」及び「膜厚」が「1.59」及び「86nm」となるものである。
また、「ハードコート塗布液」「h−1」は、【0140】(「ハードコート層塗布液(h−1)の調製」)に記載のとおりのものである。
さらに、【0142】(「ハードコートフイルムの作製」)における「上記で作製したプライマー層付きフイルム」が【0133】で「作製される」「プライマー層付きPETベース」に対応するものであることは、その製造工程から明らかである。
さらに、「鉛筆硬度」、「ヘイズ」及び「干渉斑」の定義は、【0143】及び【0131】に記載のとおりであり、「界面の反射率(%)」の定義は、【0145】に記載のとおりである。

ウ 上記(1)ア〜ウと、上記ア〜イより、引用文献3には、「実施例5B」の「ハードコートフィルム」の発明(以下「引用発明」という。)として、次の発明が記載されているものと認められる。
「 厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)の両面をコロナ処理し、屈折率1.53、ガラス転移温度55℃のポリエステル樹脂からなるラテックス(ペスレジンA−520、高松油脂(株)製)と酸化錫・酸化アンチモン複合酸化物(SN−38、石原産業(株)製)を乾燥後の屈折率と膜厚が、1.59と86nmとなるように混合し、両面に塗布し、プライマー層P及びプライマー層Qを形成して、プライマー層付きフイルムを作製し、
メチルエチルケトン(MEK)中にグリシジルメタクリレートを溶解させ、熱重合開始剤を滴下しながら80℃で2時間反応させ、得られた反応溶液をヘキサンに滴下し、沈殿物を減圧乾燥して得たポリグリシジルメタクリレート(ポリスチレン換算分子量は12,000)をメチルエチルケトンに50質量%濃度になるように溶解した溶液100質量部に、トリメチロールプロパントリアクリレート(ビスコート#295;大阪有機化学工業(株)製)150質量部と光ラジカル重合開始剤(イルガキュア184、チバガイギー社製)6重量部と光カチオン重合開始剤(ロードシル2074、ローディア社製)6質量部を30質量部のメチルイソブチルケトンに溶解したものを撹拌しながら混合し、ハードコート層塗布液を作製し、硬化後のハードコート層の屈折率が1.53になるよう調整し、
作製したプライマー層付きフイルムのプライマー層P上に上記ハードコート層用塗布液を5μmの厚みになるように、エクストルージョン方式で塗布、乾燥し、紫外線を照射(700mJ/cm2)してハードコート層を硬化させ、作製されたハードコートフイルムであって、
下記の定義による、界面の反射率(%)が0.0001であり、鉛筆硬度が2Hであり、ヘイズが0.6%であり、干渉斑が○である、ハードコートフィルム。
(界面の反射率(%))
界面の反射率とは、ハードコート層/基材界面での平均反射率であり、プライマー層上下面の振幅反射率をフレンネルの式より計算し、プライマー層の膜厚と波長から得られる位相差を考慮して2つの反射波を合成し、540〜550nmに対し1nm毎に求めたエネルギー反射率から計算した平均値である。
(鉛筆硬度試験)
鉛筆引っ掻き試験の硬度は、作製したハードコートフイルムを温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS−K−5400が規定する鉛筆硬度評価方法に従い、9.8Nの荷重にて傷が認められない鉛筆の硬度の値である。
(ヘイズ)
ヘイズの評価は、作製したハードコートフイルムのヘイズをヘイズメーターMODEL 1001DP(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
(干渉斑)
干渉斑の評価は、裏面をサンドペーパーで擦り、黒マジックを塗り裏面の反射が起こらないようにした試料を机の上におき、30cm上から三波長蛍光灯(ナショナルパナック蛍光灯FL20SS・EX−D/18)でサンプルを照らし、干渉斑を観察し、下記の基準により評価した。
◎ :干渉斑が全く見えない
○ :干渉斑がほとんど見えない
△ :干渉斑が弱く見える
× :干渉斑が強く見える
××:干渉斑が非常に強く見える」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明の製造工程からみて、引用発明の「ハードコートフィルム」は、「プライマー層Q」、「厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)」、「プライマー層P」及び「ハードコート層」が、この順序で積層した構造(以下「引用発明積層構造」という。)であると理解できる。
また、「厚さ100μmのPET」の屈折率は「1.65」、「プライマー層P」の屈折率は「1.59」、「ハードコート層の屈折率」は「1.53」である。

イ 引用発明の「厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)」は、「ポリエチレンテレフタレート」からなるから、ポリエステル樹脂からなるということができる。
また、引用発明の製造工程からみて、引用発明の「厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)」は、「プライマー層Q」、「プライマー層P」及び「ハードコート層」を形成し、「ハードコートフィルム」を作製するための、基材層ということができる。

ウ 上記アとイより、引用発明の「厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)」は、本件補正後発明の「基材層」に相当する。また、引用発明は、本件補正後発明の、「前記基材層は、ポリエステル樹脂を含み」との要件を具備する。
また、引用発明の「プライマー層P」及び「ハードコート層」は、その文言が意味するとおり、本件補正後発明の「プライマー層」及び「ハードコート層」に相当する。

エ 上記ア〜エより、「厚さ100μmのPET」の屈折率「1.65」、「プライマー層P」の屈折率「1.59」、「ハードコート層の屈折率」「1.53」を、それぞれ、本件補正後発明の、「基材層、プライマー層およびハードコート層の屈折率」である、「n1」、「n2」及び「n3」に対応付けることができる。
引用発明の「厚さ100μmのPET」、「プライマー層P」及び「ハードコート層」については、便宜上それぞれをnPET、nP、nHCとおくと、
[A]nHC(1.53)<nP(1.59)<nPET(1.65)、
[B]0.10≦nPET(1.65)−nHC(1.53)(=0.12)≦0.15、
[C]0≦nPET(1.65)−nP(1.59)(=0.06)≦0.10、
[D]0≦nP(1.59)−nHC(1.53)(=0.06)≦0.10、が成立する。
そうすると、引用発明は、本件補正後発明の、「前記基材層、プライマー層およびハードコート層の屈折率をそれぞれn1、n2とn3としたときに、下記式(1)〜(4):
n3<n2<n1 (1)
0.10≦n1−n3≦0.15 (2)
0≦n1−n2≦0.10 (3)
0≦n2−n3≦0.10 (4)
を満足する」との要件を具備する。

オ 上記ア〜エより、引用発明の「ハードコートフィルム」は、本件補正後発明の「光学多層フィルム」に相当する。
また、上記アとウより、引用発明の「引用発明積層構造」は、本件補正後発明の、「基材層、プライマー層およびハードコート層の順次的な」とされる、「積層体」に相当する。
さらに、引用発明の「ハードコートフィルム」と、本件補正後発明の「光学多層フィルム」は、「基材層、プライマー層およびハードコート層の順次的な積層体を含む」点で一致する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 基材層、プライマー層およびハードコート層の順次的な積層体を含む光学多層フィルムであって、
前記基材層は、ポリエステル樹脂を含み、
前記基材層、プライマー層およびハードコート層の屈折率をそれぞれn1、n2とn3としたときに、下記式(1)〜(4):
n3<n2<n1 (1)
0.10≦n1−n3≦0.15 (2)
0≦n1−n2≦0.10 (3)
0≦n2−n3≦0.10 (4)
を満足する、光学多層フィルム。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違、あるいは一応相違する。
(相違点1)
「基材層」が、本件補正後発明は、「最小面内位相差(Romin)が85nm以下であり、幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)が550nm/3m未満であり、幅方向の変位に対する厚み方向位相差の変化量(|ΔRth|/|Δx|)が700nm/3m未満であ」るのに対して、引用発明は、「厚さ100μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、屈折率1.65)」の「最小面内位相差(Romin)」、「幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)」及び「幅方向の変位に対する厚み方向位相差の変化量(|ΔRth|/|Δx|)」が分からない点。

(相違点2)
「光学多層フィルム」が、本件補正後発明は、「最小面内位相差(Romin)が150nm以下であり、幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)が550nm/3m未満であ」るのに対して、引用発明は、「最小面内位相差(Romin)」及び「幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)」が分からない点。

(5) 判断
事案を鑑み、相違点1と相違点2をまとめて検討する。
ア 原査定の拒絶の理由(特許法第29条第2項)において引用文献2として引用された、国際公開第2017/209473号(以下、同じく「引用文献2」という。)には、
[A]虹ムラが生じない偏光子保護フィルムを提供することを目的とすること([14])、
[B]結晶性、機械的特性の点から、二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを保護フィルムとして使用してもよいこと([58]、[61]〜[63])、
[C]PETは複屈折が非常に高いので、偏光に歪みを、例えば虹ムラを引き起こす可能性があること([64])、
[D]虹ムラを抑制するために、保護フィルムの面内位相差(R0)を350nm以下とすること、面内位相差が小さいほど虹ムラの発生の防止が容易であること、PETに面内位相差を低減するためには、延伸倍率又は厚さを減少しなければならないところ、機械的特性が悪化する可能性があるので、光学特性と機械的特性のバランスをとるため、R0の下限値を10nm以上、好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上としてもよいこと、保護フィルムの幅中央でのR0を200nm以下としてもよいこと([65]〜[74])、
[E]「有効幅」を、保護フィルムを大画面用途の偏光板を適用可能とするために要求される幅を意味するものとして、例示的実施形態では、幅中央から±1,500mm、すなわち約3,000mmとして定義されること、保護フィルムは、250nm/m以下、より詳細には167nm/m以下の有効幅内の面内位相差の変動(R0、max−R0、min)を有してもよく、面内位相差の変動とは、有効幅内でメートル(m)当たりの面内位相差の最大値(R0、max)および最小値(R0、min)間の差であること、面内位相差の変動が小さい場合、たとえ保護フィルムの幅が大きくても、面内位相差(R0)が有意に増加していないので、虹ムラの発生を効果的に防止することができること([76]〜[77])、
[F]保護フィルムは、6,000nm以上の厚さ方向の位相差(Rth)を有してもよいこと、厚さ方向の位相差(Rth)が大きければ、保護フィルム内の分子配向度が大きいため、結晶化が促進され、機械的特性の観点から厚さ方向の位相差(Rth)が大きいことが望ましいこと、厚さ方向の位相差(Rth)が大きいほど、幅中央での面内位相差(R0)に対する厚さ方向の位相差(Rth)の比(Rth/R0)が大きくなるから、虹ムラを効果的に抑制することができること([84])、
[G]面内位相差(R0)と同じ理由で、保護フィルムは、1,500nm/m以下、より好ましくは1,000nm/m以下の有効幅内の厚さ方向の位相差の変動(Rth、max−Rth、min)を有することが望ましいこと([86])、
[H]「(3)2軸延伸」として、所望の光学特性を付与するために、未延伸シートを幅方向(TD)および長手方向(MD)に2軸延伸してもよいこと、
PETから形成された未延伸シートを長手方向(MD)に2.8倍から3.5倍延伸し、幅方向(TD)に2.9倍から3.7倍延伸することによって、保護フィルムを形成してもよいこと、
保護フィルムは、長手方向(MD)および幅方向(TD)で同様の延伸倍率を有してもよく、従って、幅方向(TD)の延伸倍率に対する長手方向(MD)の延伸倍率の比(MD/TD)は0.9〜1.1であってもよいこと、
限定されないが、6.5m/分〜8.5m/分の延伸速度で長手方向(MD)および幅方向(TD)に延伸することによって、保護フィルムを形成してもよいこと、
保護フィルムは、長手方向(MD)および幅方向(TD)に延伸する前に、所定温度に予熱してもよく、特に、予熱温度はTg+5℃〜Tg+50℃の範囲内であってもよい。Tgが低いほど延伸性が良好となるが、破断が起こるおそれがあり、従って、約78℃に予熱した後、延伸を行ってもよいこと、
上記のような条件で延伸することによって形成した保護フィルムは、20μm〜60μmの厚さを有してもよく、また、保護フィルムは、延伸を完了した後、熱処理によって固定してもよく、熱処理は、160℃〜230℃で行ってもよいこと([124]〜[131])、
[I]保護フィルムの材料としてポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(SKC)を使用し、押出機を用いてPET樹脂を約280℃で押出し、キャスティングロールを用いて約30℃でキャストすることによって未延伸シートを作製し、予熱した後、未延伸シートを125℃で以下の表1(下記参照。)に記載した延伸倍率で長手方向(MD)および幅方向(TD)に延伸し、次いで、延伸されたシートを、表1(下記参照)に記載の温度で約30秒間加熱処理することによって実施例1の保護フィルムを作製したこと(表1によれば、実施例1の保護フィルムの「厚さ[μm]」「40」、「MD延伸倍率(SMD)」「3.3倍」、「TD延伸倍率(STD)」「3.5倍」、「SMD/STD」「0.94」、「予備加熱温度[℃]」「78」、「加熱処理温度[℃]」「180」である。)([155]〜[158])、
[J]実施例1において作製した保護フィルムの面内位相差(R0)、厚さ方向の位相差(Rth)、有効幅内の面内位相差(R0、max−R0、min)および有効幅内の厚さ方向の位相差(Rth、max−Rth、min)を測定し、その結果を表2(下記参照)に示すこと([表2]によれば、「面内位相差(R0)」は「98(nm)」、「有効幅」は、幅中央から±1,500mm(約3,000mm)である。)([159]〜[172]、[164])、
[K]実施例1の保護フィルムの有効幅全体にわたって、面内位相差(R0)、厚さ方向の位相差(Rth)を測定した結果を図5及び図6(下記参照)に示すこと([163])、が記載されている。
また、[表1](日本語訳)、[表2](日本語訳)、[図5]及び[図6]は以下に示すとおりのものである。
[表1]

[表2]

[図5a]

[図5b]

[図5c]

[図6a]

[図6b]

[図6c]


さらに、引用文献2には、
[L]保護フィルムの光学特性を向上させることによって虹ムラを防止するための別の実施例として、主成分としてPETを含有し、更に特定量のPENを含有する保護フィルムを提供すること([195])、
PENを添加することにより、保護フィルムの結晶化度が低下し、幅方向の面内位相差の変動(R0、max−R0、min)が大幅に減少し、厚さ方向の位相差(Rth)が大幅に増加するため、虹ムラを防止することが可能となり、また、厚さ方向の位相差(Rth)を増大させるために、保護フィルムの厚さを増大する必要がないので、保護フィルムを様々な用途に使用することができること([196])、
上記保護フィルムは、90〜97重量%のPET及び3〜10重量%のPENを含有してもよく、PENの含有量が3重量%未満では、紫外線を遮断する機能が低下し、厚さ方向の位相差を増大することができず、また、PENの含有量が10重量%を超えると、面内位相差の変動が増加するので、虹ムラなどの光学的な歪みが発生するおそれがあること([197])、
上記保護フィルムは、350nm以下の面内位相差(R0)、7,000nm以上の厚さ方向の位相差(Rth)及び300nm以下の幅方向の面内位相差の変動(R0、max−R0、min)を有すること([202])、
[M]「(3)2軸延伸」として([210])、
所望の光学特性を付与するために、未延伸シートを幅方向(TD)及び長手方向(MD)に2軸延伸してもよいこと([211])、
未延伸シートを、同時2軸延伸法または逐次2軸延伸法により、2軸延伸してもよいこと([212])、
PETから形成された未延伸シートを長手方向(MD)に2.5倍から6倍延伸し、幅方向(TD)に2.5倍から6倍延伸することによって、保護フィルムを形成してもよいこと([213])、
延伸倍率は、保護フィルムの熱収縮率、密度、結晶化挙動、熱挙動及び光学特性に大きな影響を与える要因であり、特に、長手方向(MD)の延伸倍率に対する幅方向(TD)の延伸倍率の比(TD/MD)は0.9〜1.3、好ましくは1.04〜1.1であってもよいこと([214])、
未延伸シートは、長手方向(MD)及び幅方向(TD)に延伸する前に、所定温度に予熱してもよく、特に、予熱温度はTg+5℃〜Tg+50℃の範囲内であってもよく、Tgが低いほど延伸性が良好となるが、破断が起こるおそれがあり、特に、長手方向(MD)に延伸する前の予熱温度は90〜100℃、幅方向(TD)に延伸する前の予熱温度は120〜150℃であってもよいこと([215])、
[N]「(4)加熱処理」として([216])、
保護フィルムに対して加熱処理を行ってもよいこと([217])、
加熱処理を、150℃〜260℃の温度で、または170℃〜230℃の温度で行ってもよいこと、加熱処理を、180℃〜230℃の温度または180℃〜200℃の温度で行ってもよいこと、加熱処理温度が上記範囲内である場合、上記フィルムの厚さ方向の位相差を低減しながら、虹ムラを防止するのにより有利である可能性があること([218])、
加熱処理は、約5秒〜1分間、好ましくは約10秒〜45分間行ってもよいこと([219])、
加熱処理を開始した後、保護フィルムを、長手方向及び/または幅方向に関して緩和してもよいこと([220])、
最終厚さが20μm〜60μmになるように、保護フィルムを延伸および加熱処理してもよく、PETにPENを加えることによって保護フィルムを形成するので、厚さが60μm以下であっても、厚さ方向の位相差(Rth)が大きいため、虹ムラの発生を防止することができること([221])、
上記未延伸シートを表5に示す条件下で延伸および加熱処理することによって、保護フィルムを作製したこと([225])、
実施例と比較例において作製した保護フィルムの面内位相差(R0)、幅方向の面内位相差の変動(R0、max−R0、min)、厚さ方向の位相差(Rth)を測定し、その結果を以下の表6に示すこと([227])、が記載されている。
また、[表5](日本語訳)、[表6](日本語訳)は以下に示すとおりのものである。
[表5]


[表6]


イ 引用発明は、「干渉斑を防止し、視認性を向上させたプラスチックフイルムに関する。特に、三波長蛍光灯下でも干渉斑がほとんど見えないハードコートフイルム」に関する(【0001】)。
引用発明の設計変更、改良を考える当業者であれば、視認性を向上できる点から、上記アで述べた虹ムラの発生を防止できる引用文献2に記載の技術を参考することができる(当業者であれば、引用発明の「2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム」が、「偏光に歪みを、例えば虹ムラを引き起こす可能性がある」ことに気付くといえる。)。また、引用文献3でいう「本発明」の「プラスチックフイルム」としては、「屈折率が高いポリマーから形成するプラスチックフイルム」である「ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート・・・略・・・ポリブチレンテレフタレート)・・・略・・・が挙げられる」(引用文献3の【0054】)。
そして、引用文献2(上記ア[D]、[表1]、[図5a]〜[図5c]等)に接した当業者であれば、虹ムラの発生を防止できる点から、保護フィルムの面内位相差(R0)及びその最小値(R0、min)に関して、実施例1において作製した保護フィルムにおいては、面内位相差(R0)の最小値(幅中央でのR0)として98nmが得られていること、R0が小さいほど虹ムラの発生の防止が容易であるところ、R0の下限値、すなわちR0の最小値(あるいは幅中央でのRo)を、光学特性と機械的特性のバランスがとれる10nm、あるいは30nm、あるいは50nmとしてもよいと理解できる。
同様に、当業者であれば、上記ア[E]、[表1]、[図5a]〜[図5c]等より、虹ムラの発生を防止できる点から、保護フィルムの有効幅内の面内位相差の変動(R0、max−R0、min)を167nm/m以下、引用文献2の有効幅3,000mmを前提とすれば、501nm/3m以下とすればよいと理解できる。
また、当業者であれば、上記ア[D]〜[G]、[図6a]〜[図6c]等より、虹ムラの発生を防止できる点から、保護フィルムの有効幅内の厚さ方向の位相差の変動(Rth、max−Rth、min)を1,000nm/m以下とすればよいこと、「面内位相差(R0)と同じ理由」とのことから、厚さ方向の位相差(Rth)の変動が小さい場合、たとえ保護フィルムの幅が大きくても、厚さ方向の位相差(Rth)及び(上記ア[F]の)(Rth/R0)が有意に増加(変動)しないので、虹ムラの発生を効果的に防止することができると理解できる。
さらに、当業者であれば、上記ア[L]〜[M]、[表5]、[表6]等より、90〜97重量%のPETに3〜10重量%のPENを含有させることにより、保護フィルムの結晶化度が低下し、幅方向の面内位相差の変動(R0、max−R0、min)を大幅に減少させ、厚さ方向の位相差(Rth)を大幅に増加させることができること、[表5]の実施例6の製造条件から、幅方向の面内位相差の変動値として、有効幅±1000mm(2000mm)で191nm/2000mm、有効幅3000mm換算で287nm/3000mm、厚さ方向の位相差(Rth)の変動として、有効幅±1000mm(2000mm)で286nm/2000mm、有効幅3000mm換算で429nm/3000mmが得られると理解できる。

ウ してみると、引用文献2の記載、示唆に基づき、引用発明の「ハードコートフィルム」において、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルムの有効幅を3000mmとし、あるいは、(2軸延伸PETフィルムに替えて)PETにPENを含有させた二軸延伸PET/PENフィルムを採用し、その有効幅を3000mmとして、[1]フイルムの面内位相差(R0)の最小値を、10nm(あるいは20nm、あるいは50nm)、あるいは(面内位相差が小さいほど虹ムラの発生の防止が容易であることから、実施例1(98nm)を参考に、)80nm程度とし、[2]有効幅(3000mm)内の面内位相差の変動(R0、max−R0、min)を501nm/3m、あるいは501nm/3m以下とし、[3]有効幅内の厚さ方向の位相差の変動(Rth、max−Rth、min)を、(厚さ方向の位相差(Rth)の変動が小さいほど虹ムラの発生を効果的に防止することができることから、)例えば429nm/3m程度として、相違点1に係る本件補正後発明の構成とすることは、視認性の向上の点から干渉斑に加え、虹ムラの発生防止を考える当業者が容易になし得たことである。その際、当業者であれば、例えば、引用文献2の[124]〜[131]、[表1]等に記載されているような周知のPETフィルムの二軸延伸処理条件及び加熱処理条件や引用文献2の[195]〜[202]に記載のPETにPENを含有させる技術や[210]〜[225]、[表5]に記載のPET/PENフィルムの二軸延伸技術及び加熱処理条件を参考にして、二軸延伸ポリエステルフィルムの面内位相差及びその最小値、有効幅内の面内位相差の変動、有効幅内の厚さ方向の位相差の変動を制御、設定することができる。上記設計変更を施してなる引用発明は、面内の複屈折(Δn)が非常に小さいため、一致点とした「式(1)〜(4)」「を満足する」との点が相違点となるわけでもない。

そして、通常、易接着層やハードコート層は位相差を発現しない(例えば、原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開第2016/088633号の[0053]、特開2018−36345号公報の【0053】、特開2015−212842号公報の【0064】、特開2015−45718号公報の【0008】等参照。)から、引用発明の「プライマー層P」及び「ハードコート層」は、「ハードコートフィルム」の位相差には影響をほとんど与えないと認められる。そしてみると、上記設計変更を施してなる引用発明の「ハードコートフィルム」は、相違点2に係る「最小面内位相差(Romin)が150nm以下であり、幅方向の変位に対する面内位相差の変化量(|ΔRo|/|Δx|)が550nm/3m未満であ」るとの要件を満足するということができる。

エ 本件補正後発明の効果について
(ア) 本件補正後発明の効果について、本件出願の明細書の【0013】には、【発明の効果】として、「虹ムラが生じないので視認性を害しなく、引張強度、鉛筆硬度などの機械的物性に優れるので耐久性が良い。」との記載がある。

(イ) しかしながら、虹ムラが生じない、視認性を害しい、引張強度、鉛筆硬度などの機械的物性に優れるとのことは、いずれも、相違点1及び相違点2に係る設計変更を施してなる引用発明において、引用文献3及び引用文献2の記載に基づき、当業者が予測可能な効果であって、格別のものではない(例えば、結晶化度、引張弾性率などの機械的特性については、引用文献2の[94]〜[106]【0069】〜【0076】等に記載されている。)。

オ 審判請求書及び上申書について
(ア) 特許権者は、審判請求書「3.本願発明が特許されるべき理由」「(c)引用発明の説明」において、
「引用文献2には、フィルム全体の幅に対する面内位相差が350nm以下の範囲、幅の中心における面内位相差が200nm以下の範囲を開示しており・・・略・・・、基材層の最小面内位相差(Romin)が85nm以下である点については具体的に開示されていないです。実施例を見ると、保護フィルム全体の幅に対する最小面内位相差は約98nmに過ぎないです・・・略・・・。」、
同「(d)本願発明と引用発明との対比」において、
「本願明細書段落[0028]を見ると、フィルムの幅中心において最少面内位相差が表れ得る、本願の表3および表4を見ると、Romin(幅中心におけるRoと類似する)が85nm以下である実施例1〜3が、85nmを超える比較例1〜3より、基材層の視認性が改善されており、虹ムラの発生抑えられ、結晶化度が過度に増加されないことが確認されました。」、「したがって、本願発明は、基材層の最小面内位相差(Romin)を85nm以下に調整することにより、光学的及び機械的特性が顕著に向上されたものであり、前記最小面内位相差の範囲を開示していない引用発明から容易になし得たものとは言えなく、本願発明は進歩性を有すると思料します。」と主張する。

(イ) 特許権者は、上申書「2. 審査官の指摘事項に対する反論」において、
「本願発明の光学多層フィルムは、屈折率の条件と位相差の条件を同時に、満足することにより、視認性が改善され、光学特性及び機械的特性が顕著に向上されることを特徴としています。」、「一方、引用文献2および3は、屈折率の条件または位相差の条件の中、いずれか一つを開示しており、上記のような本願発明の特徴を示唆していないです。」、「審判請求書にも記載されている通り、引用文献2には、フィルム全体の幅に対する面内位相差が350nm以下の範囲、幅の中心における面内位相差が200nm以下の範囲である点のみが開示されており・・・略・・・、基材層の最小面内位相差(Romin)が85nm以下である点については具体的に開示されていないです。実施例を見ると、保護フィルム全体の幅に対する最小面内位相差は約98nmに過ぎないです・・・略・・・。」、「それに対して、本願明細書段落【0028】を見ると、フィルムの幅中心において最少面内位相差が表れ得る、本願の表3および表4を見ると、Romin(幅中心におけるRoと類似する)が85nm以下である実施例1〜3が、85nmを超える比較例1〜3より、基材層の視認性が改善されており、虹ムラの発生抑えられたことが確認されました。」、「したがって、本願請求項1は、引用文献2及び3から当業者が容易になし得たものとは言えなく、引用文献2及び3に対して進歩性を有すると思料します。」と主張する。
(当合議体注:請求人が挙げる本件出願の明細書に記載の表3及び表4は、以下のとおりである。
【表3】

【表4】



(ウ) しかしながら、上記ア〜ウで述べたとおり、引用文献2の記載に接した当業者であれば、R0の下限値、すなわちR0の最小値(幅中央でのRo)を、光学特性と機械的特性のバランスがとれる10nm、30nm、50nm等としてもよいと理解できる。あるいは、引用文献2の実施例1の幅中央でのRo(R0の最小値)98nmを参考に、R0の最小値(幅中央でのRo)を98nmより小さくすればするほど虹ムラの発生をより防止できると理解できる。してみると、引用発明において、相違点1及び相違点2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであり、また、このようにしてなる引用発明は「屈折率の条件と位相差の条件を同時に」「満足する」ものとなる。
また、引用文献2の記載([73]〜[74]等)から、面内位相差R0あるいは最小面内位相差が小さければ小さいほど虹ムラ抑制効果が得られやすいことが理解できる。また、基材層の結晶化度や引張弾性率等の機械的特性は、最小面内位相差のみに依存するものではないこと、又、最小面内位相差85nmを境界としてその前後で基材層の機械的特性の値や振る舞いが大きく(顕著に)変わるものでもないことは、技術常識から明らかなことである。さらに、機械的特性に関して、実施例1〜3と比較例1〜3を比較しても、【表3】及び【表4】からは、両者の間で結晶化度や引張弾性率について格別の差異は認められない(一方、Roが大きい比較例2、3やRthが大きくない比較例1が視認性(虹ムラ)に優れないことは理解できる。)。そうすると、屈折率の条件と位相差の条件を同時に満足することにより、視認性が改善され、光学特性及び機械的特性が「顕著」に向上される、ということはできない。
以上のとおりであるから、審判請求書及び上申書の請求人の主張を採用することはできない。

カ 小括
以上のとおりであるから、本件補正後発明は、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 上記(1)〜(5)においては、引用文献3の【0133】〜【0145】に記載された製造方法により「作製」された「実施例5B」の「ハードコートフィルム」に基づき、引用発明を認定し、対比、判断を行ったが、これに替えて、同【0133】〜【0145】に記載された製造方法により「作製」された「実施例6A」の「ハードコートフィルム」に基づき引用発明を認定し、対比、判断を行っても同様である。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、理由2(進歩性)本願発明は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含む。
(引用文献等一覧)
引用文献2:国際公開第2017/209473号
引用文献3:特開2004−345333号公報
(当合議体注:引用文献3が主引用例、引用文献2が副引用例である。)

3 理由2(進歩性)について
(1) 引用文献3及び引用発明
引用文献3の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

(2) 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、同1(3)で述べた限定事項を除いたものである。また、本願発明の構成を全て具備し、これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]2(5)で述べたとおり、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明は、前記「第2」[理由]2(5)で述べた理由と同様の理由により、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
してみると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 榎本 吉孝
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-14 
結審通知日 2022-03-15 
審決日 2022-03-30 
出願番号 P2019-127733
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 関根 洋之
河原 正
発明の名称 光学多層フィルム、これを含む光学部品および表示装置  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 奥野 彰彦  

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